説明

イオン結合組成物

【課題】より少ない量で体内から選択的にイオンを除去し、患者のコンプライアンス性を高める、安全で高結合容量の結合剤を提供すること。
【解決手段】コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する無機イオン量に比べ、該シェル成分の存在下でより多い量の無機イオンと結合し、該無機イオンは陰イオンである、薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、米国特許出願番号第10/965,274号(2004年10月13日出願)の一部継続であり、同出願は、米国特許出願番号第10/814,527号(2004年3月30日出願)、米国特許出願番号第10/814,749号(2004年3月30日出願)、米国特許出願番号第10/813,872号(2004年3月30日出願)の一部継続である。これらは、参考としてその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(緒言)
イオン選択性吸着剤は、高リン酸血症、高シュウ酸尿症、高カルシウム血症、高カリウム血症のような状態にある、電解質バランスの障害を矯正するためにヒト治療において使用されている。高リン酸血症は腎不全患者で起こり、その患者の腎臓はもはや食事中の外因性リン酸の摂取を補正するために充分なリン酸塩を排出できない。この状態は、血清中リン酸濃度が高くし、リン酸カルシウム生成量を高める。原因は完全には明らかにされていないが、リン酸カルシウム生成量が高いことは、軟組織の石灰化および心臓血管疾患に関与している。心臓血管疾患は、全透析患者の死因の約半分を占める。
【0003】
胃腸管においてリン酸塩吸着を調節するため、および全身のリン酸レベルを正常に戻すために、アルミニウム塩、カルシウム塩、そして最近ではランタン塩が処方されている。しかし、これらの塩は胃腸管においてアルミニウム陽イオンやカルシウム陽イオンを遊離させ、次いで、一部が血流に吸収される。アルミニウムの吸収により、アルミニウム骨疾患や痴呆のような重篤な副作用が引き起こされ得、高いカルシウム摂取は高カルシウム血症を導き、患者に冠状血管の石灰化の危険性を与える。
【0004】
強塩基性イオン交換材料であるDowex樹脂やコレスチラミン樹脂のような金属を含まないリン酸結合剤が、リン酸結合剤としての用途に提案されている。しかしながら結合容量が低いため、患者に十分に許容されない高用量が必要とされる。
【0005】
アミン機能性ポリマーが、リン酸結合剤またはシュウ酸結合剤として記載されている。たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5を参照されたい。架橋ポリアリルアミン樹脂であるRenagelは、リン酸塩封鎖剤であり、金属を含まないリン酸結合剤として販売されている。インビトロでは、Renagelのリン酸結合は、水中では約6mmol/gであり、塩化ナトリウム100mM溶液中で測定した場合は2.5mmol/gである。対象となる患者群に対する推奨用量は、6mg/dL以下のリン酸濃度を維持するため、通常5g/日〜15g/日である。公表されている、健康な志願者に実施されたRenagelフェーズI臨床試験は、15gのRenagelによって尿中排出量がベースラインで25mmolから17mmolに減少し、この差は、遊離リン酸塩およびポリマー結合リン酸塩として便中に排出されていることを示す。これらのデータより、インビボの結合容量範囲は0.5〜1mmol/gと見ることができるが、これは生理食塩水中で測定されたインビトロでの結合容量2.5mmol/gよりもはるかに少ない。生理食塩水中で測定されたインビトロでのRenagelの結合容量だけを考えれば、2.5mmol/gリン酸結合剤15gという用量は、平均的なアメリカ人の食事中に含まれるリンの全量(すなわち、37mmol/日)に結合する量である。インビトロでの結合容量と、文書化されたインビボでの結合容量の低さとの間の相違は、血清のリン酸塩を安全な範囲にするにはより多くの樹脂が必要であるので、この薬剤の治療的利点に悪影響を有する。
【0006】
イオン交換樹脂の結合容量の損失は、複雑なGI管環境中で使用される場合のRenagelだけに限られない。例えば、高カリウム血症の患者には、ナトリウム塩形態またはアンモニア塩形態の陽イオン交換樹脂が投与されている。この樹脂の交換容量を、単離した便から測定し、インビトロでの容量の約20%であることが見出された(非特許文献1)。
【0007】
毒理学の点では一般的に安全ではあるけれども、用量の多さは、何グラムもの樹脂(例えば、Renagelでは最高15g/日であり、ナトリウム結合樹脂の場合にはかなり多量となる)を摂取することに関する不便さから、樹脂結合容量を改善させる必要が議論されている。例として、Renagel結合剤の安全研究報告でも、8週間の処置期間中に1.2〜2.0g/日の低用量であっても患者は胃腸の不調を訴えている。1日あたり5.4gのRenagelを与えられた患者は、8.9%の症例において胃腸の不調などの副作用に起因して、処置が中止されている(非特許文献2;非特許文献3)。よって、インビボでの結合容量の改善(すなわちより少なくよく許容される用量投与用量を少なくするという改善は、樹脂ベースの治療において歓迎される改善となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,985,938号明細書
【特許文献2】米国特許第5,980,881号明細書
【特許文献3】米国特許第6,180,094号明細書
【特許文献4】米国特許第6,423,754号明細書
【特許文献5】国際公開第95/05184号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Agarwal,R.,Gastroenterology,1994,107,548−571
【非特許文献2】Slatapolskyら,Kidney Int.,1999,55:299−307
【非特許文献3】Chertowら,Nephrol Dial Transplant,1999,14:2907−2914
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらを考慮した結果、より少ない量で体内から選択的にイオンを除去し、患者のコンプライアンス性を高める、安全で高結合容量の結合剤に対する大きな需要が今も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、一局面において、コア−シェル組成物およびその薬学的組成物を提供する。本発明のコア−シェル組成物は、コア成分とシェル成分とを含む。好ましい実施形態において、コア−シェル組成物のコアはポリマーであり、例えば、動物の胃腸(GI)管において、1つまたは複数の標的溶質と選択的に結合する。他の好ましい実施形態において、シェル成分の浸透性は、外部環境に基づいて改変される。
【0012】
本発明の別の局面は、本明細書に記載されているコア−シェル組成物を用いて患者を処置するための方法を提供する。好ましい実施形態において、コア−シェル組成物は胃腸管から標的溶質を除去するために使用される。胃腸管から除去され得る標的溶質の例としては、リン酸塩、シュウ酸塩、ナトリウム、塩素イオン、水素イオン、カリウム、鉄、カルシウム、アンモニウム、マグネシウム、尿素、クレアチニンが挙げられるが、これらに限定されない。別の好ましい実施形態において、本明細書に記載される組成物は、高リン酸血症、低カルシウム血症、副甲状腺亢進症、腎臓でのカルシトリオール合成の減少、低カルシウム血症によるテタニー、腎不全、軟組織の異所性石灰化、高血圧、慢性心不全、末期の腎疾患、肝硬変、体液過剰、ナトリウム過剰、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、腎不全、同化代謝の処置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、コア−シェル組成物の一実施形態の概略図である。
【図2】図2は、本発明のいくつかの実施形態について、時間の関数としての溶質結合プロフィールを示す。
【図3】図3は、イオン浸透性を決めるための膜調製物を示す。
【図4】図4は、さまざまな陽イオンに対し、異なるポリエチレンイミンをコーティングしたビーズの結合データを示す。
【図5】図5は、マグネシウムおよびカリウムの結合に対するEudragitRL100シェルの影響を示す。
【図6】図6は、ベンジル化したポリエチレンイミンをコーティングしたDowex(K)ビーズにおける、マグネシウムの結合を示す。
【図7】図7は、胃中の酸性条件を代表する酸性条件下での、Ben(84)−PEIコーティングされたDowex(K)ビーズの安定性を示す。
【図8】図8は、ベンジル化したポリエチレンイミンをコーティングしたDowexビーズによる、カリウム結合とマグネシウム結合を示す。
【図9】図9は、ベンジル化したポリエチレンイミンのシェルを有するフルオロアクリル酸ビーズによるマグネシウム結合を示す。
【図10】図10は、膜の浸透性を決めるためのセットアップを示す。
【図11】図11は、ベンジル化ポリエチレンイミン膜の浸透性を示す。
【図12】図12は、EudragitRL100とEudragitRS100との混合物を含む膜の浸透性および浸透選択性を示す。
【図13】図13は、ポリエチレンイミンをコーティングしたDowex(Li)によるカリウム結合における、胆汁酸の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、コア−シェル組成物を提供する。また、これらの組成物を用いるための方法およびキットが本明細書に記載される。
【0015】
(コア−シェル組成物)
本発明の一局面は、コア成分とシェル成分とを含むコア−シェル組成物である。好ましい実施形態において、コア−シェル組成物はポリマー組成物であり、コア成分は例えば動物の胃腸(GI)管において、1つまたは複数の標的溶質と選択的に結合し得る。用語「動物」および「動物被験体」とは、本明細書中で使用される場合、ヒトおよび他の哺乳動物を包含する。
【0016】
図1に示すように、一実施形態において、コア−シェル組成物は、コア成分2とシェル成分4のコア−シェル粒子とを含む。コア成分は1つまたは複数の標的溶質と選択的に結合することができ、シェル成分は、1つまたは複数の競合する溶質に対する浸透性と比較して、標的溶質に対してより高い浸透性を有する。図1中の矢印の大きさは、溶質の浸透性の度合を表わす。好ましい実施形態において、コア−シェル組成物のシェルは、胃腸管に滞留・通過する間に、本質的に分解されない。
【0017】
ここで用いられている「標的溶質」という語は、コア−シェル組成物のコア成分によって選択的に結合・保持される溶質のことを意味する。この標的溶質は、1つまたは複数の競合する溶質よりも、シェルの浸透性が高いことが望ましい。好ましい実施形態において、シェルは、標的溶質とコアを選択的に接触させる。標的溶質には、イオンと非イオン分子の両方が含まれる。イオンには有機イオンと無機イオンがある。またイオンには、親水性イオン、疎水性イオン、親水性中性分子、疎水性中性分子がある。陰イオン標的溶質の例としては、リン酸塩、塩素イオン、重炭酸イオン、シュウ酸イオンがある。陽イオン標的溶質の例としては、水素イオン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、その他の重金属イオンがある。標的溶質には、尿毒症毒素をはじめとする毒素も含まれる。尿毒症毒素の例としては、尿素やクレアチニン、およびリボ核酸類、グアニジン類、ポリオール類、ペプチド類、プリン類、ピリジン類などの化合物が含まれる。詳しくはVanholderetal.,KidneyInternational,vol.63,(2003),1934−1943を参照のこと。
【0018】
一実施形態において、標的溶質には、タンパク質や多糖類、細胞破片など、分子量が50,000ダルトン以上、好ましくは5000ダルトン以上の高分子量分子は含まれない。標的溶質には、有機・無機の中性分子や、親水性・疎水性の中性分子など、非イオン分子も含まれる。非イオン性分子には例えば、生物毒素、酵素、代謝産物、薬物、体内分泌物、ホルモンなどがある。ここで提供される組成物によって結合される毒素は、通常、約10,000ダルトン未満、好ましくは5000ダルトン未満、更に好ましくは2000ダルトン未満である。ここで適切な特性とともに記載される組成物は、尿毒症や薬物過剰摂取、生物毒や化学汚染物質などの毒物曝露による中毒の治療に用いることができる。
【0019】
一実施形態において、コア−シェル粒子は、胆汁酸を除く標的溶質を選択的に結合する。別の実施形態において、コア−シェル粒子は、胆汁酸を選択的に結合し、さらに胆汁酸以外の標的溶質も選択的に結合する。
【0020】
ここで用いられている「競合する溶質」という語は、コア成分と結合する標的溶質と競合する溶質で、コア成分と接触・結合することが望ましくない溶質のことを意味する。コア−シェル組成物の競合する溶質は通常、コアの結合特性や、シェル成分の浸透性特性によって左右される。競合する溶質は、コア成分の選択的結合特性や、競合する溶質の外部環境からシェル成分への浸透度を低下させることにより、コア−シェル粒子との接触や結合を防ぐことができる。競合する溶質は通常、標的溶質に比べ、外部環境からのシェルへの浸透性が低い。例えば、リン酸塩を選択的に結合するコア成分をもつコア−シェル組成物の場合、競合する溶質は胆汁酸と脂肪酸になる。胆汁酸と脂肪酸は、リン酸塩の方をより浸透しやすいシェル成分によって成る浸透性バリヤーのため、コアに近づかないようにすることができ、コアと結合できないようにできる。
【0021】
一実施形態において、標的溶質は親水性イオンである。親水性イオンを標的溶質とするコア−シェルポリマー組成物は、生理的液体中の親水性イオンを除去するために用いられる。より好ましくは、このコア−シェル組成物には、リン酸陰イオン、シュウ酸陰イオン、塩素陰イオンなどを選択的に除去する機能がある。また別の実施形態において、除去される親水性イオンは、ナトリウムイオンやカリウムイオンである。
【0022】
コア−シェル粒子のコア成分は、少なくとも標的溶質1つと選択的に結合するのが望ましい。ここで「選択的結合」およびこれに類する表現は、コア成分やコア−シェル粒子に、競合する溶質の結合よりも、標的溶質の方が優先的に結合することを記述する表現として用いられる。標的溶質の選択的結合は、競合する溶質よりも標的溶質の方が結合親和力が高いためであることが挙げられる。選択的結合はまた、コア成分による標的溶質の結合量が、競合する溶質との結合に比べて多いという状態も含まれる。好ましい実施形態のいくつかにおいて、コア−シェル粒子は、シェルなしでコアだけの場合よりも、標的溶質を多量に結合する。この結合量の増加は、約5%〜100%になり得る。シェルがない場合の結合量に比較した、シェルがある場合の標的溶質の結合量増加は、約10%以上、より好ましくは約25%以上、さらに好ましくは約50%以上、最も好ましくは約95%以上である。
【0023】
さらにコア−シェル粒子は、結合した標的溶質を大量に保持するのが望ましい。ここで「大量」とは、結合した標的溶質の全量を保持することを意味するものではない。少なくとも、治療や予防の効果が得られる程度に、結合した溶質の一部が保持されることが望ましい。保持される結合標的溶質の望ましい量は、約5%〜約100%である。好ましくは、コア−シェル組成物が結合標的溶質を保持する割合は約50%、より好ましくは約75%、さらに好ましくは95%以上である。結合したナトリウムの保持時間は、コア−シェル組成物が治療や予防目的で使用されている間中であることが望ましい。コア−シェル組成物が胃腸管の標的溶質を結合・除去するのに用いられる実施例において、この保持時間は、この組成物が胃腸管に滞在する時間であることが望ましい。局所用の調製、または局所的な効果のためにコア−シェル組成物を使用する場合は、この保持時間は通常、組成物が局所、または局所的な効果が望まれる場所に滞在する時間となる。
【0024】
一実施形態において、コア成分は、特定の溶質(標的溶質など)に対して特定の結合特性を有する官能基を含むポリマーを含む。この、望ましい結合特性を有する官能基は、ポリマー主鎖に付くこともあれば、主鎖のペンダントとして付くこともある。標的溶質とこの結合コアの官能基との間の結合相互作用としては、酸塩基反応、クーロン力、極性、水素結合、共有結合、P相互作用、これらの組合せなどさまざまであり、これらの他にもある可能性がある。
【0025】
本発明の別の実施形態において、標的溶質と競合する溶質との間の選択的結合の度合は、コア材料内の溶質収着率や、シェル成分の溶質浸透度によって制御することができる。すなわち、コアの結合特性を一定に保ったまま、粒子全体の浸透度を変えることによって、標的溶質に対するコア成分の親和力を変えることができる。また、シェルの浸透性係数の差をつくり出すことにより、所定の結合コアについて、複数の溶質の選択性を逆にすることができる。
【0026】
コア−シェル粒子に溶質が浸透する度合に影響を与える、シェル膜および溶質の特性としては、次のものが挙げられる:
水和した溶質の大きさと形状;
溶質の会合・凝集の度合(ミセルが形成される場合など);
溶質の電荷;
シェルの水和率;
シェルのメッシュサイズ;および
シェルと溶質の間の相互作用。
【0027】
コア−シェル粒子の内部に入り込む溶質の総量に影響を与えるパラメータとしては、他に次のものがある:
固有の表面積(粒子直径など);
シェルの厚さ;および
粒子外部の対流。
【0028】
ポリマー組成物と溶質との間に化学的相互作用がない場合は、拡散移動はFickの第1法則によって記述される:
【0029】
【数1】


・ここでJは溶質の流量(g/cm/s)であり、
・Lは膜の厚さ(cm)であり、
・Pは浸透係数(cm/s)であり、そして
・C−Cは膜の濃度勾配である。
浸透係数は次のように表記される:
【0030】
【数2】


・ここでKは次元のないパラメータ(膜と溶質の間の溶質分配係数に類似)であり、そして
・Dは水溶液中の溶質係数である。
浸透係数Pを表わすには、毛細管穴モデル(Renkinの式)や自由体積モデルなど、いくつかのモデルが知られている。
【0031】
自由体積モデルでは、コアやシェル成分を構成するポリマー組成物が、均一に水和した網状構造であると見なす。溶質の拡散移動は、ポリマー網状構造内の水で満ちた浮動空間を通って起こると考えられる。自由空間の拡散モデルによって、膜内のポリマーの割合j
と水和した溶質の半径rから、Dが予測される。流体学的モデルとして、この改良版が提供されている(Peppasetal.,J.Appl.Polym.Sci.,36,735−747,1988):
【0032】
【数3】


・ここでDは膜中の拡散係数、Dは水溶液の拡散係数であり、そして
・kは、コア−シェル組成物中の溶質の浸透を表わすのに、溶質の物理的形態が重要なパラメータとなる場合のふるい効果因子で、k’とkは未定義の構造因子である。
【0033】
リン酸塩などの標的溶質について、典型的な自己拡散係数の値は10−5cm/sである。特定の拡散移動モデルに基づけば、厚さ1ミクロンのシェル膜を浸透する速度は、樹脂を使用した場合の時間(通常数時間)に比べて非常に速いと見積られる。
【0034】
競合する溶質である胆汁酸や脂肪酸の分子が、リン酸塩と同じコア結合サイトをめぐって競合している場合は、自己拡散係数は溶液中のサイズに反比例する。これは、小さいサイズのイオンの場合とさほど変わりはない。よって、拡散が制約されていない場合には、この自己拡散係数は浸透性バリヤーを築くには不十分である可能性がある。従って、いくつかの実施形態においては、シェル成分の特性を調整して、浸透性の違いが出るようにした。例えば、シェル材料のメッシュサイズが溶質寸法と同じサイズ範囲にある場合、かさばる溶質がジグザグにシェル成分を通り抜ける速度は大幅に遅くなる。例えば、実験研究(Krajewska,B.,ReactiveandFunctionalpolymers47,2001,37−47)では、セルロースエステルまたは架橋キトサンゲル膜におけるイオン溶質・非イオン溶質両方についての浸透係数は、メッシュサイズが溶質寸法に近くなると、かさばる溶質の方が遅くなることが示されている。従って、D値は溶質の分子サイズと、コア−シェル組成物におけるポリマーの体積割合(膨潤した樹脂のポリマーの体積割合が、組成物中のメッシュサイズを示す良い指標となる)によって何桁も減少することがある。例えば、理論研究により、メッシュサイズは通常φ−3/4で、φは溶液中で膨潤したときのシェル成分のポリマー体積割合となる。
【0035】
いくつかの実施形態において、溶質の浸透性は、溶質とシェル材料との間の相互作用の度合によって改変される。強い相互作用があると、溶質がシェル成分内に閉じ込められ、シェル内での移動がほぼ停止する。相互作用の種類には、イオン結合、共有結合、極性結合、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用などが挙げられる。
【0036】
いくつかの実施形態において、使用条件及び溶質の種類によって、シェル中における標的溶質の拡散係数と競合する溶質の拡散係数との比は、約1.1:1〜約10:1であり、好ましくは約2:1〜約10:1である。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明のコア−シェル粒子が使用されているときの、時間に対する溶質結合の状態は、図2のように表わすことができる。好ましい実施形態において、標的溶質はシェル中を素早く移動し、コア材料と素早く結合するため、非競合状態に対応する結合値を達成する。一方、競合する溶質は、浸透速度が低いため、シェル中をゆっくりと進むことになる。遅れてから結合平衡に達し、標的溶質に置き換わるため、標的溶質の結合曲線が下がる。好ましくは、拡散係数の比率を調整して、結合剤の使用が終わる時点(例えば樹脂が胃腸管に滞在する平均時間に対応)において、競合する溶質の約10%以下〜約100%が結合平衡に達しているようにすることができる。好ましくは競合する溶質の約10%未満、より好ましくは競合する溶質の約50%未満、さらに好ましくは競合する溶質の約75%未満が、結合平衡に達する。標的溶質については、非競合モードにおいて、約10%以上〜約100%が結合平衡に達する。好ましくは標的溶質の約25%以上、より好ましくは標的溶質の約50%以上、さらに好ましくは標的溶質の約75%以上が、結合平衡に達する。
【0038】
拡散係数を算出する方法は公知である。(例えば、W.Jost,DiffusioninSolids,LiquidsandGases,Acad.Press,New−York,1960)。例えば、シェルポリマーの拡散係数は、固体の多孔性材料の上にある膜としてキャストし、次に目的の溶質を含んでいる生理的溶液に接触させ、その溶質の安定状態での浸透度を測定することができる。次に膜の特性を最適化することにより、選択性と浸透度の最良の組合せを達成することができる。膜の構造的特性は例えば、ポリマーの体積割合(膨潤した膜中の割合)、ポリマーの化学的性質、ポリマーの混合組成(複数のポリマーが使用されている場合)、加湿剤や可塑剤などの添加剤の配合、製造プロセスなどの変更により、改変することができる。
【0039】
また代わりに、シェル膜を別のコーティングプロセスでコア材料に適用してから、シェルがあるコア粒子とシェルがないコア粒子を使用して標的溶質の結合容量を測定することにより、シェルによる選択性を得ることもできる。選択性の向上度SIは、単純に2つの値の比として、SI=CBcore−shell/CBcoreという式で表わすことができる。ここでCBは結合容量を表わす(例えば粒子の単位重量あたりの溶質モル数)。好ましくは、SIは約1.05〜10であり、より好ましくは約1.1〜10である。
【0040】
いくつかの実施形態において、シェルはフィルム状のポリマーである。別の実施形態において、シェルポリマーは三次元網状構造の架橋ゲルを形成し、架橋鎖は共有結合やイオン結合、その他の結合によって架橋されている。また別の実施形態において、シェル材料は結合コア材料と化学的に同一であるが、架橋密度がコアからシェルへと外側に行くにつれて増大している。また別の実施形態において、シェル材料は「ブラシ」状の構成になっており、ポリマー鎖一本一本の端がコア材料に共有結合でくっついている。この実施形態において、メッシュサイズは、表面にアンカーされたポリマー鎖の密度と、ポリマー鎖の分子量によって決まってくる。さまざまなサイズや重量の溶質に対するポリマーブラシの浸透性をコントロールするためのポリマーブラシの設計変数は、この分野で知られている。例えば、WO0102452(およびその参考文献)を参照。
【0041】
浸透性はまた、溶質とシェルとの相互作用によってもコントロールされる。競合する溶質とシェルの間の相互作用が強く、かつ好ましくは非可逆的である場合は、競合する溶質がシェルの空洞内に閉じ込められ、内側への移動が遅くなる。溶質とシェルとの間の相互作用の度合を定量するひとつの方法は、混合の自由エネルギー(特に混合時の自由エンタルピー)である。これは溶解度パラメータから予測することができる。溶解度パラメータは、材料、特に液体とポリマーの間の相互作用の度合を数値で予測する方法となる。このモデルでは、異なる溶解度パラメータをもつ化合物が共溶解せず、従って、サイズのふるい効果なしで、膜を制約なしに通り抜けることができる。逆に言えば、類似の溶解度パラメータを有する化合物は、分子溶液を形成し、保持される状態にできる。さらに、溶解度パラメータにはイオン相互作用はあまり反映されないが、電荷をもつ溶質は一般に、逆の電荷をもつシェル材料によって保持される。また、疎水性とイオン性の相互作用の組合せを使用することによって、競合する溶質と強く、しばしば不可逆的な相互作用をもたらすことができ、これにより疎水性あるいはイオン性のいずれでもない標的溶質の収着選択性が高くなる。
【0042】
シェル材料は、天然ポリマーまたは合成ポリマーから選択され、必要に応じて架橋させ、単独あるいは小分子の機能性添加物(加湿剤、可塑剤、浸透性強化剤、溶媒、保湿剤、色素、染料など)と組み合わせて使用することができる。
【0043】
天然に存在するポリマーまたは準合成ポリマーとしては、次のものがある:セルロースエーテル(エチルセルロース、メチルセルロース、およびそのコポリマー)、セルロースエステル(酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、フタル酸セルロース、およびそのコポリマー)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、キトサン、脱アセチル酸キトサンなど。他にシェルとして使用できる材料の例を、次の表に示す:
【0044】
【表1】



【0045】
シェル成分に使用できる適切な合成ポリマーとしては、エチレンモノマーのフリーラジカル重合によって生成されたポリマー(アクリルおよびメタクリル、スチレン、ジエン、ビニル)、ポリ縮合物(ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン)、ポリイソシアネート、ポリウレア、エポキシ樹脂などがある。
【0046】
コア材料の上にシェルを沈殿させるには、スプレーやパンコーティング、液化ベッド(Wursterコーティング装置)、液浴、溶媒コアセルベーション、ポリ電解質の相互複合層、一層ごとの封じ込めプロセスなどを用いて実施できる。封じ込めプロセスはその他にも適用できるものがある。例えば、EncapsulationandControlledReleasebyR.A.Stephenson(Editor),DavidR.Karsa(Editor),1993を参照。
【0047】
シェルは、異なる組成物をいくつか層状に重ねたものにすることもできる。胃腸管の特定箇所で分解・溶解する腸内用コーティング(Eudragitアクリルポリマーなど)もその1つである。適切な腸内用コーティングの例については、この分野でよく知られており、例えばRemington:TheScienceandPracticeofPharmacybyA.R.Gennaro(Editor),20thEdition,2000を参照されたい。
【0048】
シェルは、例えば次のような化学的方法で、コア成分上に生成される:
・コアポリマーに固定されているアクティブ箇所からのリビング重合を用いることによって、シェルポリマーをコアに化学的にグラフトする
・界面反応、すなわちコア粒子表面で界面縮重合などの化学反応をさせる
・コア粒子合成中に、ブロックコポリマーを懸濁試薬として使用する。
【0049】
化学的方法を使用する場合は、界面反応とブロックポリマーの使用が好ましい。界面反応経路においては通常、コア界面で小分子または高分子を反応させることによってコア粒子の表面を化学的に変化させておく。例えば、アミンを含むイオン結合コア粒子は、エポキシやイソシアネート、活性化エステル、ハロゲン基などのアミンと反応性の基を含むポリマーと反応させることにより、コア表面に架橋したシェルを形成する。
【0050】
別の実施形態においては、シェルを最初に準備する。すなわち界面重縮合や溶媒コアセルベーションを使用して、カプセルを生成する。次にカプセルの内部にコア生成の前駆物質を充填し、シェルカプセル内でコアを構築する。
【0051】
溶媒コアセルベーションはこの分野において記載されている。例えば、Leach,K.etal.,J.Microencapsulation,1999,16(2),153−167を参照のこと。このプロセスでは、通常、コアポリマーとシェルポリマーの2種類のポリマーを溶媒に溶かし、さらに水相中の液滴として乳化する。液滴の内部は通常、均一な2成分ポリマー溶液である。次に、注意しながら蒸留を行うことにより、溶媒をゆっくりと飛ばす。各液滴内のポリマー溶液は、ポリマーの体積割合が高くなるにつれて、相分離を起こす。一方のポリマーが水と液滴の界面に移動し、ある程度の形をなしたコア−シェル粒子(または二重ミクロスフェア)を形成する。
【0052】
溶媒コアセルベーションは、コア上にシェルポリマーの薄膜を制御しながら沈殿させるのに公的な方法の1つである。一実施形態において、このコアセルベーション技法には、シェル材料を溶解させた連続的な液層中にコアビーズを分散させる手順が含まれる。コアセルベーションプロセスでは、この連続相の溶解力が次第に変化していき、シェル材料の部分に近づくとだんだん不溶性になる。沈殿の始まり部分では、シェル材料の一部がビーズ表面に薄い堆積または薄膜となっている。溶解度の変化は、さまざまな物理化学的手段によって生じさせることができる。例えばpHの変化、イオン強度の変化(浸透度など)、溶媒組成の変化(溶媒の追加や蒸留によって)、温度の変化(LCST(下限臨界溶液温度)でのシェルポリマーが使用されている場合など)、圧力の変化(特に臨界超過液体が使用されている場合)などが挙げられ、これらに限らない。より好ましいのは、pHあるいは溶媒組成により変化を生じさせる場合の、溶媒コアセルベーションプロセスである。通常、pHによって変化を生じさせ、かつポリマーにアミンタイプの材料を選択した場合、シェルポリマーは低pHで最初に溶解する。次の段階として、pHを次第に上げて不溶限界にし、シェルを沈殿させる。pHの変化は通常、激しく攪拌しながら塩基を追加していくことによって行う。他の方法としては、前駆物質の温度加水分解による塩基の生成が挙げられる(例えば尿素を温度処理してアンモニアを発生させるなど)。最も好ましいコアセルベーションプロセスは、シェル材料と、シェル材料の溶媒/非溶媒混合物を含む三元システムを用いた場合である。コアビーズが均一溶液内に分散した状態で、溶媒を蒸留によって次第に除去していく。シェルコーティングの厚さは、連続相のシェルポリマー濃度をライン内またはライン外で調整することができる。一部のシェル材料がコア表面にコロイド状または離散した粒子として沈殿するという状況はよく起こるが、これは、コア−シェル粒子を簡単な濾過およびふるい操作によって簡単に分離することができる。シェル厚さは通常、最初のコア対シェルの重量比と、前述のシェルポリマーのコアセルベーションの度合によってコントロールされる。コア−シェルビーズは外膜の完全性(競合結合によって測定される)を向上させるため、焼き鈍しを行う。
【0053】
いくつかの実施形態では、ブロックコポリマーアプローチを使用して、両親媒性のブロックコポリマーを懸濁試薬として用い、逆懸濁または直接懸濁の粒子形成プロセスでコア粒子を形成する。油中水型の逆懸濁プロセスを使用する場合、ブロックコポリマーが連続的油相に溶ける最初のブロックとなり、別の親水性ブロックにはコアポリマーと反応できる官能基が含まれる。コア形成前駆物質と共に水相に加え、次に油相に加えると、ブロックコポリマーは油中水界面に集まり、懸濁剤として作用する。親水性ブロックはコア物質と反応するか、またはコア形成前駆物質と共反応する。粒子を油相から分離すると、ブロックコポリマーは、共有結合でコア表面に固定された薄いシェルを形成する。ブロックの化学的性質と長さは、目的の溶質に対するシェルの浸透特性を変えるために、変更することができる。
【0054】
プラス電荷と疎水性を組み合わせたシステムでは、好ましいシェルポリマーとしては、上記のアミン機能性ポリマーが挙げられ、これは必要に応じて疎水性物質によりアルキル化することができる。
【0055】
アルキル化には、ポリマーの窒素原子とアルキル化剤(通常、アルキル基やアルキルアリール基を有するアミン反応性の親電子物質)との反応が含まれる。さらに、アルキル化剤と反応する窒素原子は、複数のアルキル化による第四アンモニウムイオン形成を起こしにくく、アルキル化終了時点で、第四アンモニウムイオンを形成する窒素原子は10mol%未満である。
【0056】
好ましいアルキル化剤としては、ハロゲン化物、エポキシド、エステル、無水物、イソシアネート、aβ−不飽和カルボニルなどの官能基を有する化合物のような親電子物質が
挙げられる。これらは化学式RXで表わされる。ここでRはC1〜C20のアルキル基(好ましくはC4〜C20)、C1〜C20のヒドロキシアルキル基(好ましくはC4〜C20のヒドロキシアルキル基)、C6〜C20のアラルキル基、C1〜C20のアルキルアンモニウム基(好ましくはC4〜C20のアルキルアンモニウム基)、C1〜C20のアルキルアミド基(好ましくはC4〜C20のアルキルアミド基)のいずれかであり、Xは1つまたは複数の親電子基を含んでいる。ここで「親電子基」とは、アルキル化反応中にポリマーの窒素原子によって置換または反応する基のことである。好ましい親電子基Xの例としては、ハロゲン基、エポキシ基、トシレート基、メシレート基などが挙げられる。例えばエポキシ基の場合、アルキル化反応によって、3つの部分に分かれているエポキシリングが開く。
【0057】
アルキル化剤の好ましい例としては、C3〜C20のハロゲン化アルキル(例えば、ハロゲン化n−ブチル、ハロゲン化n−ヘキシル、ハロゲン化n−オクチル、ハロゲン化n−デシル、ハロゲン化n−ドデシル、ハロゲン化n−テトラデシル、ハロゲン化n−オクタデシル、およびこれらの組合せ)、C1〜C20のハロゲン化ヒドロキシアルキル(例:11−ハロ−1−ウンデカノール)、C1〜C20のハロゲン化アラルキル(例:ハロゲン化ベンジル)、C1〜C20のハロゲン化アルキルアンモニウム塩(例:(4−ハロブチル)トリメチルアンモニウム塩、(6−ハロヘキシル)トリメチルアンモニウム塩、(8−ハロオクチル)トリメチルアンモニウム塩、(10−ハロデシル)トリメチルアンモニウム塩、(12−ハロドデシル)−トリメチルアンモニウム塩、およびこれらの組合せ)、C1〜C20のアルキルエポキシアンモニウム塩(例:(グリシジルプロピル)−トリメチルアンモニウム塩)、C1〜C20のエポキシアルキルアミド(例:N−(2,3−エポキシプロパン)ブチルアミド、N−(2,3−エポキシプロパン)ヘキサンアミド、およびこれらの組合せ)が挙げられる。この中で、ハロゲン化ベンジルとハロゲン化ドデシルがより好ましい。
【0058】
ポリアミンシェル前駆物質のアルキル化手順は、シェルをコアビーズに付着するより前に、別の反応として実行することができる。また、ポリアミンシェル前駆体をコアビーズに沈殿させてから、アルキル化を行うこともできる。後者の場合、アルキル化は少なくとも2つの親電子基Xを有するアルキル化剤によって行うことが望ましい。これにより、アルキル化でシェル層内の架橋も起こすことができる。好ましい多官能性アルキル剤としては、ジハロアルカン、ジハロポリエチレングリコール、エピクロロヒドリンなどがある。その他の架橋剤としては、塩化アシル、イソシアネート、チオシアネート、クロロスルホニル、活性エステル(N−ヒドロキシスクシンイミド)、カルボジイミド中間生成物なども適している。
【0059】
通常、アルキル化レベルはポリアミン前駆物質の性質やアルキル化に使用するアルキル基の大きさに応じて調整される。アルキル化のレベルには、次のような要素が影響する:
(a)胃腸管の条件下におけるシェルポリマーの不溶性の程度。特に、胃中のような低pHでは、イオン化pHが5以上のアルキル化ポリアミンポリマーは溶解しやすい。このため、アルキル化の度合が高く、鎖の長いアルキルの方が好ましい。また別の方法として、酸性pHからシェル材料を守る腸内用コーティングを使用することもできる。この腸内用コーティングは、コア−シェルビーズが小腸下部に進むと分解する。
【0060】
(b)浸透選択性プロファイル:アルキル化率が低い場合、競合イオン(Mg2+やCa2+など)に対する浸透選択性の持続時間が、大腸の平均滞在時間よりも短くなる可能性がある。逆に、アルキル化率(または疎水性物質の重量分画)が高い場合は、多くの無機陽イオンに対して不浸透性となるため、Kの平衡維持時間が長くなる。
望ましくは、アルキル化の度合は上記2つの変数をモニターしながらの反復アプローチにより選択される。
【0061】
好ましい実施形態において、シェルはEudragit(例えばEudragitRL100またはRS100またはこれらの組合せ)、またはポリエチレンイミン(PEI)と共に形成される。これらのシェルは、溶媒コアセルベーション技法によって適用することができる。PEIは、必要に応じてベンジル化することができ、また架橋することもできる。適切な架橋剤の例としては次のものが挙げられ、これらの他にもあり得る:
【0062】
【化3】



【0063】
いくつかの実施形態において、シェル厚さは0.002〜50ミクロンであり、好ましくは約0.005〜20ミクロンである。好ましくは、シェル厚さは約1ミクロン以上、より好ましくは約10ミクロン以上、さらに好ましくは約20ミクロン以上、最も好ましくは約40ミクロン以上である。好ましくは、シェル厚さは約50ミクロン未満、より好ましくは約40ミクロン未満、さらに好ましくは約20ミクロン未満、最も好ましくは約10ミクロン未満である。
【0064】
別の実施形態において、コアに対するシェルの重量比は約0.01%〜50%であり、好ましくは約0.2%〜10%である。コア−シェル粒子のサイズは通常、約200nm〜約2mmであり、好ましくは約500μmである。好ましくは、コア−シェル粒子のサイズは約1μm以上、より好ましくは約100μm以上、さらに好ましくは約200mm
以上、最も好ましくは約400mm以上である。好ましくは、コア−シェル粒子のサイズ
は約500mm未満、より好ましくは約400mm未満、さらに好ましくは約200mm未
満、最も好ましくは約100mm未満である。
【0065】
コアの結合選択性は、標準的手法によって評価することができる。ある手法では、非阻害性物質の単純モデル溶液における標的溶質の結合容量Cmと、模倣液媒体中の標的溶質の結合容量(Cs)を測定し、選択性指数SI=Cs/Cmを算出する。本発明のコア−シェル粒子は、従来知られている吸収剤樹脂で報告されているよりも、大幅に高い選択性指数SIを有することが予測される。
【0066】
一実施形態において、シェルの浸透性は時間に伴って変化する。特に、インビボで使用された場合に、シェルの浸透性が時間に伴って変化することがある。例えば、特定の応用例においては、胃腸管に滞在中、時間が経つにつれて標的溶質に対する浸透性が減少する、あるいは逆に増加するのが好ましい。例えば、樹脂は胃腸管の特定箇所において、その箇所での溶質濃度と樹脂との平衡によって制御される割合で、親水性イオン溶質と結合する。樹脂が胃腸管を下るにつれて、溶質の希釈化や、胃腸管膜を通って溶質が移動した結果、局所的な標的溶質の濃度が変化する。この実施形態では、シェル材料は胃腸管のこのような濃度変化やその他の生理学的変化に対応するよう作成されている。これにより、浸透性が変わり、具体的にはシェルの浸透性が胃腸管を下るにつれて低下するため、コア−シェル組成物が胃腸管に滞在する時間の最後の頃には、親水性イオンがシェル膜を通り抜けることができなくなる。この実施形態では、胆汁酸などの疎水性溶質に対しても適用される。胆汁酸捕捉剤の場合、インビボでの結合率の悪さは、捕捉した胆汁酸が回腸部分以降で放出されることによる。すると胆汁酸は粘膜からほぼ定量的に再吸収され、結合平衡がずれ、捕捉容量が低下することになる。この実施形態において、コア−シェル樹脂が回腸を通っても全体的な結合容量を保持する場合、シェル成分が、シェルの胆汁酸に対する浸透性を低下させる要因となる。
【0067】
親水性イオンに対する浸透性を失った状態に達するには、シェル膜の浸透の自由体積を減少あるいは排除する必要がある。この膜の浸透の自由体積は、シェルの水和率をコントロールすることによって変えられる。この方法によってシェルを押しつぶし、浸透率をほぼゼロにすることが可能である。このような相変化を起こすにはさまざまな方法があるが、好ましい方法としては、膜材料を次第に疎水性に変え、水和率をほぼゼロまで低下させるというアプローチがある。これは、起動メカニズムの種類によって、いくつかの方法によって行うことができる。例えば、起動メカニズムは、pH変化を利用することができる。胃腸管のpHプロファイルは、時間経過に応じていくつかの区分に分けられる。その不変の部分を次の表に示す(Fallinborgetal.Aliment.Pharm.Therap.(1989),3,605−613):
【0068】
【表2】



【0069】
これらのpH範囲のいずれかで鎖の崩壊を示すシェルポリマーは、浸透性が変化しやすいことになる。例えば、胃において溶質を選択的に結合し、小腸および大腸へと下がっても粒子コア内に溶質を封じ込めておくのに適したコア−シェル粒子とは、低pHで溶質に対し高い浸透性を有し、中性pHでは非常に低い浸透性を有することになる。これは、疎水基と、pH変化に伴ってイオン化する官能基とを有するシェルポリマーを使用することによって達成できる。例えば、疎水性モノマー(例:長鎖アルコールアクリレート(メタクリレート)、N−アルキルアクリルアミド(メタクリルアミド))と、低pHでイオン化しpKaを超えると電荷中性を維持する基本モノマー(例:ビニルピリジン、ジアルキルアミノエチルアクリルアミド(メタクリルアミド))が使用できる。pHとシェル膨潤率(ひいては浸透性)の間の関係は、疎水性モノマーとイオン化可能モノマーのバランスによってコントロールできる。このようなシステムの例は、文献に報告されている。例えば、Batichetal,Macromolecules,26,4675−4680を参照のこと。
【0070】
pH増加(例えば回腸から大腸へ)に伴い、樹脂の環境変化によって、結合した電解質が放出されるのを防ぐため、浸透性をもっと低下させることが望ましい場合がある。これは、pHがアルカリ性に移行するに従い、シェル材料を水和状態から押しつぶされた不浸透性状態へと切り換えることによって達成される。このような実施形態において、シェルポリマーは通常、疎水性モノマーと酸性モノマーを適切なバランス量で含んでいる。このようなシステムの例は、文献に数多く報告されている。例えば、Kraftetal.Langmuir,2003,19,910−915;Itoetal,Macromolecule,(1992),25,7313−7316を参照のこと。
【0071】
シェル浸透性を変える他の方法としては、受動的吸収作用がある。前述のように、胃腸管にある物質は、それが食事由来であれ消化の代謝生成物であれ分泌物であれ、ある程度非可逆的なかたちでシェル内に吸着され、この吸着作用による膜の押しつぶしによって、浸透性のパターンを変えることができる。胃腸管構成物の大多数はマイナスに荷電しており、さまざまなレベルの疎水性を示す。これらの中には、脂肪酸や胆汁酸、リン脂質、胆汁塩など、親水性と疎水性の両方の性質をもつものがあり、界面活性剤として作用する。界面活性剤は非選択的に、疎水性相互作用やイオン性相互作用、あるいはこれらの組合せにより、表面に吸着することができる。本発明の趣旨においてはこの現象は、樹脂が胃腸管中に滞在している間、これら界面活性剤に結合することによって樹脂の浸透性を変えるのに利用することができる。
【0072】
例えば、脂肪酸と胆汁酸はどちらも、プラス電荷のポリマーと混合することにより、不溶性の錯体を形成する。例えば、Kanekoetal,MacromolecularRapidCommunications,2003,24(13),789−792)を参照のこと。いずれの分子も、合成陰イオン界面活性剤に似た性質を有している。陰イオン界面活性剤とプラス電荷のポリマーとの間に不溶性錯体が形成されることについては、数多くの研究が報告されている。例えば、Chen,L.etal,Macromolecules(1998),31(3),787−794を参照のこと。この実施形態において、シェル材料は疎水基と陽イオン基の両方を有するコポリマーから選ぶことにより、胃腸管に多く見られるマイナス電荷の疎水性物質(例えば胆汁酸、脂肪酸、ビリルビン、その他の関連化合物)とシェルが錯体(好ましくは堅固な錯体)を形成する。また、適切な組成物には、例えばUS5607669、US6294163、US5374422、Figulyetal,Macromolecules,1997,30,6174−6184に報告されているような、胆汁酸捕捉剤として記載されるポリマー材料が含まれる。この錯体の形成により、シェル膜が押しつぶされ、これにより膜の浸透率が低下あるいはゼロになる。
【0073】
シェル浸透性は、酵素変換によって変えることもできる。一実施形態において、シェルは疎水性主鎖と親水性ペンダント基を含み、このペンダント基は腸内の酵素反応によって分解され離れる。酵素反応が進むと、ポリマー膜が次第に疎水性になり、結果として非常に膨潤した高浸透性の材料が、完全に押しつぶされ、浸透性に乏しい低水和性の膜となる。胃腸管で分泌される酵素の中性基質の中から、親水性のものを選ぶことができる。このような物質には、アミノ酸、ペプチド、炭水化物、エステル、リン酸エステル、オキシリン酸ものエステル、O−およびS−ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、チオリン酸塩、アゾ基、その他のものが挙げられる。シェルポリマーを化学的に変化させるのに利用できる腸内酵素の例としては、リパーゼ、ホスホリパーゼ、カルボキシルエステラーゼ、グリコシダーゼ、アゾリダクターゼ、ホスファターゼ、アミダーゼ、プロテアーゼなどがあり、これらに限定されない。
【0074】
いくつかの実施形態において、コア材料は、望ましいイオン結合性質を有するポリマー組成物から選択される。適切なポリマー材料の例としては次のものが挙げられ、これらの他にもあり得る:
1)アミン官能ポリマーなどの陰イオン結合材料、例えば米国特許No.5,985,938、5,980,881、6,180,094、6,423,754、およびPCTpublicationWO95/05184に記載されているもの
2)陽イオン交換ポリマー、例えばカルボン酸基、ホスホン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルファミン酸基、およびこれらの組合せの酸官能基を有するもの。
【0075】
陰イオン結合材料を含むコア−シェル組成物は、胃腸管のリン酸塩、塩素イオン、重炭酸イオン、シュウ酸イオンを結合し、除去するのに役立つ。陽イオン交換ポリマーは、水素イオン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、その他類似物や中毒を引き起こす重金属など、生理学的に重要な陽イオンを結合し除去するのに役立つ。
【0076】
コア組成に適したポリマーとしてはその他に、次の同時係属中の特許出願に記載されている:1)PolyaminePolymers、代理人事件番号:29329−703(2003年11月3日出願、出願番号:10/701,385)、2)CrosslinkedAminePolymers、代理人事件番号:29329−749.201(2004年3月22日出願、出願番号:10/806,495)。
【0077】
さらに、コア成分として使用できる組成物の例としては、次のPCTpublicationにおけるリン酸塩結合剤が含まれる:WO94/19379、WO96/25440、WO01/28527、WO02/85378、WO96/39156、WO98/42355、WO99/22743、WO95/05184、WO96/21454、WO98/17707、米国特許5,698,190、5,851,518、5,496,545、5,667,775、6,083,495、6,509,013、欧州特許出願01200604.5。
【0078】
アルミニウム塩、カルシウム塩、ランタン塩も、リン酸塩結合剤として使用される。リン酸結合剤として使用される無機金属塩の結合剤の例としては、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル(Amphojela)、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム(Pho
sLo)、炭酸ランタン(Fosrenol)などがある。一実施形態において、コア−シェル粒子のコア成分は、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムゲル、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸ランタンなどの金属リン酸塩結合剤を含む。
【0079】
一実施形態では、コア成分がナトリウムイオン結合性を有している。コアのナトリウム結合性を伝達するためにコアに使用される適切なポリマーとしては、クラウンエーテルがある。クラウンエーテルは、クラウンエーテルの穴サイズと金属のサイズに応じ、特定のアルカリ金属に対して選択性を示す。ナトリウムイオン結合のコア成分としては、タイプ15〜18のクラウンエーテルが好ましい。また、ナトリウム結合性を有するその他の組成物については、同時係属中の特許出願“MethodsandCompositionsforTreatmentofIonImbalances,”代理人事件番号29329−714.201(2004年3月30日出願、出願番号:10/814,527)。
【0080】
コア−シェル組成物の使用
本発明は、一局面において、哺乳動物に対し治療目的で有効な量のコア−シェル組成物を投与する手順を含む、哺乳動物における選択的溶質結合の方法を提供する。親水性の陽イオンや陰イオンを結合するコア−シェル組成物は、イオン恒常性をコントロールし、リン酸塩(高リン酸血症)、シュウ酸イオン(シュウ酸カルシウム腎臓結石、高シュウ酸尿症)、ナトリウム(高血圧)、カリウム(高カリウム血症)、塩素イオン(アシドーシス)などの電解質不均衡を治療するために用いることができる。また、中毒時に毒性の金属や酸化性陰イオンを除去するために用いることができる。
【0081】
陰イオン交換樹脂を含むコア−シェル組成物は特に、体内のマイナス電荷イオンを結合・排出するのに役立つ。コア−シェル組成物はまた、金属イオンを結合するのにも使用することができる。これらの組成は経口投与され、胃腸管中のマイナス電荷のさまざまな物質および金属種を結合し、除去することができる。一実施形態において、本発明のコア−シェル組成物は、リン酸塩、シュウ酸イオン、胆汁酸、小分子、タンパク質、金属イオン(周期表において第6群と第11群、および第4周期と第6周期にあるもの。またランタノイドとアクチノイドを含む)を除去するのに用いられる。
【0082】
いくつかの実施形態において、ポリビシナルアミン(例えば同時係属中の米国特許出願No.10/701,385、”PolyaminePolymers”(代理人事件番号:29329−703、2003年11月3日出願)に記載のもの)を含むコア−シェル組成物は、腎臓病や高リン酸血症の治療、および胃腸管から胆汁酸やシュウ酸イオン、鉄を除去するのに役立つ。
【0083】
いくつかの実施形態において、コア−シェル組成物はリン酸塩不均衡の治療に用いられる。ここで「リン酸塩不均衡」とは、体内に存在するリン酸濃度が異常な状態を指す。リン酸塩不均衡のひとつが、高リン酸血症である。ここで「高リン酸血症」とは、体内に存在するリン元素の濃度が高い状態を指す。通常、例えば血液中のリン酸塩レベルが4.5mg/dL以上の場合、あるいは例えば腎糸球体濾過率が約20%に減少している場合、たいていの場合高リン酸血症と診断される。
【0084】
本発明の方法および組成で治療できる病気としては、低カルシウム血症、甲状腺亢進症、腎臓でのカルシトリオール合成の減少、低カルシウム血症によるテタニー、腎不全、軟組織(関節、肺、腎臓、結膜、心筋組織など)の異所性石灰化などが挙げられる。また本発明は、ESRDおよび透析患者の治療に使用することができる。一実施形態において、コア−シェル組成物は疾患の予防的治療に用いられる。
【0085】
本明細書に記載されているコア−シェル組成物はまた、塩の生理学的濃度を下げることが望ましいような疾患の治療に用いることができる。コア−シェル組成物は、コア成分のイオン結合性質によって、ナトリウムなどの陽イオン、あるいは塩素イオンなどの陰イオンを除去するのに使用することができる。
【0086】
一実施形態において、本発明のコア−シェル組成物は、鉄中毒などの金属中毒の治療に用いられる。鉄中毒は通常、子供が鉄分錠剤を誤飲した結果起こるものである。鉄の過剰摂取に対しては、木炭や重炭酸塩、デフェロキサミン、水酸化マグネシウムなどを経口投与して鉄と結合させるのが通常の治療方法である。鉄分錠剤を洗い流すため、腸洗浄や、経口による大量の液体投与が行われる。金属鉄の除去には、鉄キレート化の性質を有する非吸収性コア−シェル組成物を使用することができる。
【0087】
コアやシェルの材料の性質によって、本発明のコア−シェル組成物は、高シュウ酸尿症(尿中のシュウ酸イオン濃度が異常に高い)の患者において食物由来のシュウ酸を結合するのにも利用することができる。尿中のシュウ酸イオン濃度が高いと、カルシウム石形成(腎臓結石など)の原因となる。カルシウム石の多くはシュウ酸カルシウム単独、あるいはリン酸カルシウムや尿酸カルシウムとの組合せによって形成されている。尿中のシュウ酸イオン濃度が高くなる理由としては、食事からのシュウ酸イオン摂取量の過剰(食事由来の高シュウ酸尿症)、胃腸管の異常によるシュウ酸塩の異常吸収(腸由来の高シュウ酸尿症)、または遺伝的な酵素欠乏によるシュウ酸イオンの過剰代謝(原発性高シュウ酸尿症、PH)がある。食事由来および腸由来の高シュウ酸尿症は、シュウ酸イオンを多く含む食物の摂取量を制限する食事療法によって治療することができる。しかしながら、シュウ酸およびプリン誘導体はさまざまな種類の食物にわたっているため、患者のコンプライアンスはしばしば困難である。炭酸カルシウム錠剤(1錠500〜650mgを毎食3錠)を摂取して腸内のシュウ酸イオンを結合・除去する方法もあるが、これも、炭酸カルシウムの必要量が多いため、患者コンプライアンスは困難である。ポリビシナルアミン(例えば同時係属中の米国特許出願No.10/701,385、”PolyaminePolymers”(代理人事件番号:29329−703、2003年11月3日出願)に記載のもの)を含むコア−シェル組成物は、シュウ酸イオンの結合係数が高いため、胃腸管のシュウ酸イオンを除去するのに用いられ、これにより腎臓結石形成のリスクを下げることができる。
【0088】
本発明において、コア−シェル組成物は、治療する症状によって、他の薬学的有効成分と共に投与することができる。共投与の際は、2つの薬剤を同じ投与形態で同時に投与することも、別々の投与形態で同時に投与することも、また別々の投与にすることもできる。例えば、高リン酸血症の治療には、高リン酸血症によって生じた低カルシウム血症の治療のために用いられるカルシウム塩を、コア−シェル組成物と共に投与することができる。カルシウム塩とコア−シェル組成物は同じ投与形態の中に一緒に製剤することができ、同時に投与することができる。また、カルシウム塩とコア−シェル組成物は、両方の薬剤を別々の形態にして、同時に投与することができる。また別の方法として、カルシウム塩の投与後にコア−シェル組成物を投与、またはその逆の順で投与することができる。別の投与プロトコルでは、コア−シェル組成物とカルシウム塩の投与は数分間、数時間、数日間の間をおいて投与することができる。
【0089】
ここで使用される「処置」という語には、治療的利点や予防的利点の達成が含まれる。治療的利点とは、対象疾患の根本的治癒、状態改善、予防を意味する。例えば、高リン酸血症の患者における治療的利点とは、高リン酸血症の根本的治癒または状態改善が含まれる。また治療的利点は、元となっている疾患そのものはまだ残っていても、それに関連する生理学的症状を根本的に治癒、状態改善、または予防し、これにより患者の回復が見られるようにすることである。例えば、コア−シェル組成物を腎不全や高リン酸血症の患者に投与すると、患者の血清リン酸濃度が下がるだけでなく、異所性石灰化や腎性骨形成異常など、併発している他の疾患についても改善が見られる。予防的利点では、高リン酸血症の診断がついていなくとも、高リン酸血症を起こす高リスク患者や、高リン酸血症の生理学的症状が1つまたは複数出ている患者に、コア−シェル組成物を投与することができる。
【0090】
本発明の薬学的組成物は、コア−シェル組成物が効果的な分量、すなわち治療的利点や予防的利点を達成できる分量で存在する組成である。個々の用途に効果的な実際量は、患者(年齢や体重)、病状、投与経路によって異なってくる。有効量の決定は、特に本明細書に記載される情報を踏まえれば、ゆうにこの分野の技能の範囲内である。
【0091】
ヒトに対する有効量は、動物モデルから決定することができる。例えば、ヒトの用量は、動物に効果が見出された循環中濃度や胃腸管濃度を達成するように、処方することができる。
【0092】
動物におけるコア−シェル組成物の用量は、治療する疾患や投与経路、患者の身体的特徴、コア成分およびシェル成分の組成などによって異なる。治療および予防目的のコア−シェル組成物の用量は、約0.5g/日〜約30g/日の範囲となる。ポリマーは、食事と共に投与されるのが好ましい。この組成は1日1回、2回、3回のいずれかで投与できる。最も望ましい容量は、1日当たり約15g以下である。好ましい用量範囲は約5g/日〜約20g/日、より好ましくは約5g/日〜約15g/日、もっと好ましくは約10g/日〜約20g/日、最も好ましくは約10g/日〜約15g/日である。
【0093】
いくつかの実施形態において、コア−シェル粒子は、シェルなしでコア成分だけの場合よりも、標的溶質を多量に結合・保持する。よって、いくつかの実施形態におけるコア成分の用量は、シェルなしで使用されている場合のコアの量に比べ、シェルありで使用されている場合のほうが少なくなっている。よって、コア−シェル薬学的組成物のいくつかの実施形態において、コア−シェル薬学的組成物におけるコア成分の量は、シェル成分なしで動物に投与された場合の量よりも少ない。
【0094】
好ましくは、治療や予防目的で使用されるコア−シェル組成物は、単独で、あるいは薬学的組成物の形で、投与できる。薬学的組成物は、コア−シェル組成物、1つまたは複数の薬学的担体、希釈剤や賦形剤、および必要に応じて追加される他の治療薬を含む。コア−シェル組成物は注射、局所、経口、経皮、直腸を経由して投与することができる。好ましくは、コア−シェル組成物、およびコア−シェル組成物を含む薬学的組成物は経口投与される。コア−シェル組成物を投与する経口剤の形態には、粉末、錠剤、カプセル、溶液、乳剤などがある。治療に効果的な量を1用量で投与することもできれば、適切な時間間隔(例えば数時間)をおいて、用量を何回かに分けて投与することもできる。
【0095】
本発明に従った使用の薬学的組成物は、従来的手法により調剤することができる。すなわち、1つまたは複数の、生理学的に受容できる担体(賦形剤と助剤を含む)を使用し、活性物質のプロセスを促進し、製薬分野で使用可能な調剤にする。適切な調剤は、選択する投与経路によって異なる。コア−シェル組成物の薬学的組成物を調製する適切な技法は、この分野でよく知られている。
【0096】
本明細書に記載されているコア−シェル組成物の胃腸管での使用に加え、これらの組成物は、身体の別の部分において局所的な効果のために使用することもできる。例えば、皮膚の局所的な効果のための局所薬や、肝臓や心臓などの特定臓器に局所的な影響を与えるための全身薬などがある。
【0097】
いくつかの実施形態において、本発明のポリマーは、チュアブル錠剤の形態における薬学的組成物として提供される。有効成分に加え、次のようなタイプの賦形剤が一般的に使用されている:必要な口内感覚を得るための甘味料、および、甘味料が錠剤の硬さのために充分でない場合は結合剤を追加;抜き型の壁の摩擦を抑え、錠剤を外れやすくするための潤滑剤;場合によっては咀嚼を容易にするために少量の錠剤分解物質。一般に、現在使用されているチュアブル錠剤の賦形剤濃度は、有効成分の3〜5倍であり、甘味料が非有効成分の量のうち大半を占めている。
【0098】
本発明は、本発明のポリマーと、チュアブル錠剤の製剤に適した薬学的賦形剤を含む、チュアブル錠剤を提供する。本発明のチュアブル錠剤に使用されているポリマーが、口腔内および食道内を移動する際の膨潤率は、5未満、好ましくは4未満、より好ましくは3未満、さらに好ましくは2.5未満、最も好ましくは2未満である。このポリマーと適切な賦形剤を含む錠剤は、口内触感、味、歯の粘着性などの感覚的特性が許容できる程度であり、同時に、噛んで唾液と接触しても食道を塞ぐ危険性がない。
【0099】
本発明のいくつかの局面において、賦形剤の一般的なはたらきである機械的・熱的特性はポリマーがすでにもっているため、製剤に必要な賦形剤の量を減らすことができる。いくつかの実施形態において、有効成分(例えばポリマー)は、チュアブル錠剤の重量の約30%以上、より好ましくは約40%以上、もっと好ましくは約50%以上、最も好ましくは約60%以上を占め、残りが適切な賦形剤を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーは、約0.6g〜約2.0gの錠剤、好ましくは約0.8g〜約1.6gの錠剤を構成する。いくつかの実施形態において、ポリマーは、錠剤の約0.8g以上、好ましくは約1.2g以上、最も好ましくは約1.6g以上を占める。ポリマーは、適切な強度/脆さと粒子サイズを有するよう製造され、適切な硬さ、良好な口内触感、圧縮性など、従来の賦形剤の使用目的と同じ性質を提供する。本発明のチュアブル錠剤に使用されているポリマーの粒子サイズは、未膨潤状態で、平均直径が約80ミクロン未満、70ミクロン未満、60ミクロン未満、50ミクロン未満、40ミクロン未満、30ミクロン未満、20ミクロン未満である。好ましい実施形態において、未膨潤状態の粒子サイズは約80ミクロン未満、好ましくは約60ミクロン未満、最も好ましくは約40ミクロン未満である。
【0100】
本発明のチュアブル錠剤に有用な薬学的賦形剤としては、結合剤(マイクロクリスタリンセルロース、コロイド状シリカとその組合せ(Prosolv90)、カーボポル、プロビドン、キサンガムなど)、味付け剤(蔗糖、マンニトール、キシリトール、マルトデキストリン、果糖、ソルビトールなど)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、植物性脂肪酸など)、および必要に応じて錠剤分解物質(クロスカルメロースナトリウム、ゲランガム、セルロースの低置換ヒドロキシプロピルエーテル、スターチグリコレートナトリウムなど)がある。その他の添加剤としては、成形剤、色素、タルクなどがある。添加剤およびその他の適切な成分については、この分野でよく知られており、例えばGennaroAR(ed),Remington’sPharmaceuticalSciences,20thEditionを参照されたい。
【0101】
いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載されているポリマーと適切な賦形剤を含むチュアブル錠剤として処方される薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載されているポリマーと増量剤、潤滑剤を含むチュアブル錠剤として処方される薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載されているポリマーと増量剤、潤滑剤を含むチュアブル錠剤として処方される薬学的組成物を提供し、ここで増量剤は蔗糖、マンニトール、キシリトール、マルトデキストリン、果糖、ソルビトールの中から選び、潤滑剤はステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸マグネシウム塩である。
【0102】
錠剤は噛みやすく口内で分解するものであれば、どんな大きさ・形状でもよいが、好ましくは円柱形で直径約10〜40mm、高さ約2〜10mm、最も好ましくは直径約22mm、高さ約6mmである。
【0103】
一実施形態において、ポリマーは高Tg/高融点の低分子量賦形剤(例えばマンニトール、ソルボース、蔗糖など)とあらかじめ配合しておき、ポリマーと賦形剤が完全に混合したソリッドな溶液を生成させる。押出し、スプレー乾燥、冷蔵乾燥、凍結乾燥、湿潤顆粒形成などの混合方法が有用である。混合度の目安は、示差走査熱量計や、動的機械分析などの物理的測定によって得られる。
【0104】
ポリマーをはじめとする薬学的成分が含まれるチュアブル錠剤の製造方法は、当該分野で公知である。例えば、欧州特許出願No.EP373852A2および米国特許No.6,475,510や、Remington’sPharmaceuticalSciencesを参照されたい。これら全体は、参考として本明細書に援用される。
【0105】
いくつかの実施形態において、本発明のポリマーは、液体製剤の形態における薬学的組成物として提供される。いくつかの実施形態において、薬学的組成物は、イオン結合ポリマーが適切な液体賦形剤中に分散した状態で含まれている。適切な液体賦形剤については、この分野でよく知られており、例えばRemington’sPharmaceuticalSciencesを参照されたい。
【実施例】
【0106】
実施例1:
コア−シェル架橋ポリアリルアミン粒子の合成
このプロセスでは、逆懸濁手法によって球状の粒子が形成された。プレポリマー(ポリアリルアミン)はエピクロロヒドリンによって架橋されている。架橋反応中の液滴の物理的な安定性のため、およびシェル膜を化学的にコア粒子に付着させるために、ブロックコポリマーを使用した。
【0107】
ブロックコポリマー合成の一般的手順
ブロックコポリマーを、RAFTリビングフリーラジカル重合手法によって生成した。ここで可逆的連鎖移動剤(CTA)としてジチオカルバジドを使用し、フリーラジカル開始剤としてジアゾニトリル(AMVN)を使用した(下図参照):
【0108】
【化4】



【0109】
ポリ(n−ブチルアクリレート−co−t−ブチルアクリレート)の最初のブロックの合成
n−ブチルアクリレート(25g、195mmol)とt−ブチルアクリレート(25g、195mmol)に、CTA(173:1モノマー:CTA、616mg、2.26mmol))およびAIBN(18.6mg、0.113mmol)を混合した。モノマー対CTAの比を固定し、90%転換時に理論的平均分子量(Mn)が20,000g.molとなるようにした。アルゴンをパージしながら溶液を室温で20分間攪拌した。この後に、アルゴン雰囲気下で3時間65°Cに加熱してから、室温に冷ました。CDCl中のHNMR測定によって、モノマー消失量から、87%が転換されたことが示された。この粗製ポリマーをアセトン50mlに溶かし、メタノール:水が9:1(体積比)の溶液900mlに入れて沈殿させた。数時間後、重合した油分を底に沈め、上澄みを捨てた。重合した油分を減圧下で乾燥させ、非常に濃い黄色の油分44g(収率88%)を得た。HNMR(300MHz、CDCl中):δ=4.15〜3.95(2H、bm)、2.45〜2.05(2H、bm)。1.95〜1.75(1H、bm)、1.60〜1.5(5H、bm)、1.5〜1.3(11H、bm)、0.93(3H、t)。GPC(THF、ポリスチレン標準):Mn=25900、PDI=1.13。GPC(DMF、ポリエチレングリコール標準):Mn=6600、PDI=1.58。
【0110】
この手順の後、4種の異なる最初のブロックを作成した。これを表3に、例1−1〜1−4として示す。
【0111】
【表3】



【0112】
ポリ[(n−ブチルアクリレート−co−t−ブチルアクリレート)−b−(N,N−ジメチルアクリルアミド−co−グリシジルメタクリレート)]の合成
80%濃度において、理論的Mn=20,000(第1ブロック)、Mn=5000(第2ブロック)。CTA(2.53ml、DMF中40wt%)およびAMVN溶液(48.1μl、0.00736mmol、DMF中4wt%)で終止させたポリ(n−ブチルアクリレート−co−t−ブチルアクリレート)の溶液を手作業で混合した。この混合液に、20分間アルゴンをパージした。室温で攪拌しながら、N,N−ジメチルアクリルアミド(27.5μl、0.267mmol)およびグリシジルメタクリレート溶液(14.3μl、0.0296mmol、DMF中30wt%)を加えた。次に、溶液温度を55°Cに上げ、30分間攪拌した。この時点で、N,N−ジメチルアクリルアミド(10.3μl、0.100mmol)およびグリシジルメタクリレート溶液(5.4μl、0.0111mmol、DMF中30wt%)をロボットにより加えた。この後4時間、アルゴン雰囲気下、55°Cで攪拌しながら、10分おきにN,N−ジメチルアクリルアミド(10.3μl、0.100mmol)およびグリシジルメタクリレート溶液(5.4μl、0.0111mmol、DMF中30wt%)を加えた。すべての追加が完了した後、アルゴン雰囲気下、55°Cで攪拌しながらさらに2時間攪拌し、最後に室温に冷ました。この粗製ポリマーをアセトン2mlに溶かし、30mlの水に入れて沈殿させた。得られた混合物を1000rpmで60分間遠心分離にかけ、上部の水層を捨てた。重合した粉末を10mlの水をさらに加えて洗い、遠心分離にかけ、水層を捨てた。得られた湿った粉末を減圧下30°Cで乾燥させ、粘稠性の液体を得た。次に凍結乾燥し、粘性の固体1.19g(収率92%)を得た。GPC(DMF、ポリエチレングリコール標準):Mn=8500、PDI=2.10。
【0113】
同様の手順を用いてさまざまな長さおよび化学的組成物のブロックコポリマーを作成した。これらを以下の表(表4および表5)に示す。
【0114】
【表4】

【0115】
【表5】



【0116】
コア/シェル架橋ポリアリルアミン粒子の合成の一般的手順
ポリアリルアミン(PAA)溶液の調製:塩酸ポリアリルアミン(Mw15,000)を水に溶かし、NaOHを加えて25mol%の塩酸を中和した。塩酸ポリアリルアミンの溶液中濃度は33wt%であった。
【0117】
ジブロックコポリマー溶液の調製:ジブロックコポリマーをトルエンに溶かし5wt%とした。
【0118】
コア/シェル粒子の調製:15mlのガラス製反応容器にPAA溶液、ジブロックコポリマー溶液、トルエンを入れ、表4〜9に示すいくつかの典型的な溶液組成を加えた。この混合液をUltra−Turraxで30秒間かけて乳化させ、磁気攪拌棒をこの懸濁液に入れた。懸濁液を攪拌しながら、60°Cに30分間加熱して、エピクロロヒドリン(アミン基ベースで10mol%)を加えた。この懸濁液をさらに60°Cで8時間攪拌してから、室温まで冷ました。
【0119】
コア/シェル粒子の精製:上記の反応混合物に、メタノール(10ml)を加え、白い粒子の沈殿を生じさせた。この混合液を30分間振盪し、遠心分離にかけた。白い粒子を上澄み液から分離し、回収した。白い粒子をさらに、メタノール(10ml×2回)および水(10ml×3回)を使って、同じ振盪・遠心分離の手順を繰り返して洗った。最後にこの粒子を3日間凍結乾燥した。
【0120】
実施例2:
1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリン架橋ビーズの合成(本明細書中で、Bead−Pi−4−sと表記)
反応容器には四面バッフル付きの3リットル三口丸底フラスコを使用し、オイルバス、冷水環流凝縮装置、3インチプロペラつきの機械スターラーを装備した。この反応容器に、1,3−ジアミノプロパン(90.2g、1.21モル)を90.2gの水に溶解した溶液を入れ、界面活性剤(分枝ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩6.4gを100gの水に溶解)と1kgのトルエンを加えた。この最初に入れた溶液を600rpmで2分間攪拌し、300rpmに落としてさらに10分間攪拌してから、エピクロロヒドリンを加えた。実験中ずっとこの速度を維持した。この溶液を80℃に加熱し、以降は実験中ずっとこの温度を維持した。
【0121】
別の容器に、エピクロロヒドリンが40wt%のトルエン溶液を調製した。シリンジポンプを使って、エピクロロヒドリン1.2当量(134.7g(1.45モル))を3時間かけて加えた。さらに2時間反応させてから、40wt%溶液で0.75当量の水酸化ナトリウム(36.5g(0.91モル))を加えた。水酸化ナトリウム溶液は、シリンジポンプを用い、2.5時間かけて反応溶液に加えた。この反応をさらに8時間、80℃に保った。生成したビーズからトルエンを除去し、1000mlのアセトンで洗い、次にメタノールで洗い、20%NaOH溶液で洗い(界面活性剤を除去するため)、さらに2回、脱イオン水で洗って精製した。ビーズは3日間凍結乾燥して、160g(収率92%)の白い微粉末を得、平均直径は93μmであった。
【0122】
1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリン架橋ビーズの合成(本明細書中で、Bead−Pi−3−sと表記)
1当量のエピクロロヒドリンを使用して、上記の手順を行った。
【0123】
界面活性剤存在下における1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリンによる水膨潤架橋ビーズの合成(本明細書中で、Bead−Pi−5−sと表記)
上記の、1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリンのビーズの調製手順を、正確に第2段階まで行った。反応フラスコを室温に冷ましてから、攪拌を止めた。ビーズをフラスコの底に沈ませた。透明なトルエン層を捨て、代わりに新しいトルエンを加えて、未反応のエピクロロヒドリンを除去した。この手順を4回繰り返し、合計3000mlのトルエンで洗った。このプロセス中、ビーズは乾かないようにした。トルエンを追加して溶液の合計重量を756gにし、トルエン中の懸濁ビーズを21wt%となるようにした。
【0124】
実施例3:
エチルセルロースシェル/1,3−ジアミノプロパンエピクロロヒドリン架橋コア粒子の調製
Wurster液体ベッドコーター2”〜4”/6”ポータブル装置を使用し、例2で得られたビーズにエチルセルロースポリマーのシェルをスプレーコーティングした。液化ベッド装置を操作して、30wt%の固体水溶乳液(Aquacoat(登録商標)ECD、FMCcorp.)を用い、平均厚さ5ミクロンのコーティングがコア粒子表面に沈着するようにした。
【0125】
実施例4:
消化モデルにおける結合容量
この手順は、リン酸結合剤使用の条件を模倣するために使用されたもので、他の代謝産物(競合する溶質)が存在する中でリン酸塩(標的溶質)に対するポリマーの結合特性を測定するものである。流動食を用意し、ペプシンおよび膵臓ジュースの存在下で人工的に消化した。消化プロセスを空腸レベルまで模倣するよう、酵素の追加の順序とpH条件を調製した。消化模倣液の一部を遠心分離し、上澄みについてリン酸塩量を分析した。
【0126】
重量P(g)の等分した乾燥樹脂を、リン酸濃度Cstart(mM)の一定量V(ml)の消化模倣液に混和し、穏やかにかき混ぜた。樹脂が平衡に達した後、溶液を遠心分離器にかけて上澄みを別容器に移し、上澄み中の残存リン酸濃度Ceq(mM)をイオンクロマトグラフィーで分析した。結合容量はBC(mmol/gr)=V*(Cstart−Ceq)/Pとして計算される。
【0127】
A. コア/シェル架橋ポリアリルアミン粒子
実施例1に記載した手順を4×6反応器のライブラリ形式で実行した。ここでブロックコポリマーの性質は、表6〜9に示すように、ウェルごとに異なっている。数値は、各反応ウェルに使用された化学物質の重量と、消化模倣液で測定されたリン酸結合容量に対応している。コア材料(架橋ポリアリルアミン、Renagelなど)に対するリン酸結合を測定し、選択性指数(SI)を算出した。SIが1より大きい場合、コア−シェル材料に重量ベースで対応する量よりも多くのリン酸塩が結合したことになる。各ポリマーについてのSI値が表6〜9にまとめられている。
【0128】
結果を表6〜9に示す。この一連の実施例においてまとめられた結果から、本発明のコア−シェル粒子は、実際の使用状態を模倣した模倣液において、外殻のない裸の粒子に比べ、より多くのリン酸塩を結合することが示された。性能の良いコア−シェル材料のいくつかについて、ヒトの腸内容物から採取した体外吸引物においてリン酸結合の評価を行った。
【0129】
【表6】

【0130】
【表7】

【0131】
【表8】

【0132】
【表9】



【0133】
B.コア−シェル架橋1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリン粒子
実施例2に記載した手順を4×6反応器のライブラリ形式で実行した。ここでポリマーの性質は、表11〜18に示すように、ウェルごとに異なっている。表の数値は、各反応ウェルに使用された化学物質の重量と、消化模倣液で測定されたリン酸結合容量に対応している。選択性指数(SI)は、上記に従って算出された。各ポリマーについてのSI値が表11〜18にまとめられている。
【0134】
各実施例は、22種のコア−シェル材料と、参照用のコア材料1種のライブラリを含む。コア材料は、実施例2に示すように架橋1,3−ジアミノプロパン/エピクロロヒドリンから調製されたビーズである(ビーズ4−s、ビーズ3−s、ビーズ5−s)。これらは、乾燥粉末(ビーズ4−s、ビーズ3−s)またはトルエン中のスラリー(ビーズ5−s)である。コア−シェル粒子は、4×6のライブラリ形式に配置された準連続反応器で調製された。各反応器は容量が3mlであり、磁気攪拌し、温度制御が行われた。典型的な手順では、ビーズをまず懸濁させ、次に磁気攪拌しながら、選択した溶媒を追加した。反応温度は60°Cに設定した。シェル材料は液体注入ロボットで4時間かけて注入され、24個の反応器をさらに12時間、設定温度に維持した。次にライブラリを周辺温度まで冷まし、反応器の内容物を15mlバイアルに移した。コア−シェルビーズを、シェル結合反応に使用したのと同じ種類の新しい溶媒で繰り返し洗い、次にイソプロパノールで洗い、最後に脱イオン水で洗った。粒子は最後に凍結乾燥した。
【0135】
シェルとして使用できる材料の化学構造を、表10に示す。
【0136】
【表10−1】

【0137】
【表10−2】

【0138】
【表10−3】

【0139】
【表10−4】



【0140】
結果を表11〜18に示す。この一連の実施例においてまとめられた結果から、本発明のコア−シェル粒子は、実際の使用状態を模倣した模倣液において、外殻のない裸の粒子に比べ、より高い割合でリン酸塩を結合することが示された。
【0141】
【表11−1】

【0142】
【表11−2】

【0143】
【表12】

【0144】
【表13−1】

【0145】
【表13−2】

【0146】
【表14】

【0147】
【表15】

【0148】
【表16】

【0149】
【表17】

【0150】
【表18】



【0151】
実施例5:
非阻害性緩衝液中の結合容量の測定
重量P(g)の等分した乾燥樹脂を、一定量V(ml)のリン酸塩溶液(濃度Cstart(mM)、pH6.5の緩衝液)に混和し、穏やかにかき混ぜる。樹脂が平衡に達した後、溶液を遠心分離器にかけて上澄みを別容器に移し、上澄み中の残存リン酸濃度Ceq(mM)をイオンクロマトグラフィーで分析する。結合容量はBC(mmol/gr)=V*(Cstart−Ceq)/Pとして計算される。
【0152】
体外吸引物における結合容量
この実施形態においては、健康な患者に、消化模倣液と同じ組成の食事を与え、小腸内に挿管したチューブを使用して、糜粥の一部を採取する。
【0153】
ダブルルーメンのポリビニル製チューブの端に水銀おもりをつけてチューブを動きやすくし、正常な被験者の小腸内に収まるように挿管する。ダブルルーメンチューブの吸引口の一方を胃の中に、もう一方をトライツ靱帯(上部空腸)に置く。配置は、蛍光透視法を用いて行う。
【0154】
正しく挿管した後、液化標準試験食550ml(マーカーとしてポリエチレングリコール(PEG)2g/550mlを添加)を、胃の挿入管を通して22ml/分の速度で胃に注入する。この流動食が全部胃に達するまでに約25分間をかける。これは、通常の食事にかかる時間を模倣している。
【0155】
トライツ靱帯にある挿管から、空腸糜粥を吸引する。この液体は、計2時間半、30分おきに連続的に採取する。これによって得られた5つの検体を混合し、体積を測定し、凍結乾燥する。
【0156】
リン酸結合分析については、液体に体外吸引物(凍結乾燥したサンプルに適切な量の脱イオン水を加えて再生したもの)を使用する他は、上記の非阻害性緩衝液の実験と同様である。体外吸引物(VA)の結合容量は、同様にして算出される。コア−シェル組成物は、対応するコア成分のみよりも多くのリン酸塩を結合する。
【0157】
実施例6:マグネシウムとカルシウムに対しカリウム結合選択性の高い準浸透性膜の選択方法
このプロトコルでは、イオン浸透性に関してポリマー材料を最適化する方法を記述する。これは、カリウム選択性コア−シェルイオン交換粒子を精製するシェル成分として使用することができる。
【0158】
ポリマー合成と膜の調製:
ライブラリ形式の小型反応器を使ってグローブボックス内で、さまざまな組成のポリマー膜材料を、DBA(N,N’−ジブチルアクリルアミド)とDEAEMA(N,N’−ジエチルアミノエチルメタクリレート)とのラジカル重合によって調製した。イニシエーターとしてAIBN、溶媒としてエタノールを用いた。水中の沈殿として分離したポリマーを凍結乾燥し、GPCとH−NMRで測定した。下記のように、ポリマーの組成(DBAmol%)は30%〜70%であり、分子量は200K〜300Kとなっている:
【0159】
【表19】



【0160】
ポリマー膜の調製は、DBA−co−DEAEMAの2wt%トルエン溶液を、再生成したセルロース透析膜の上にキャストすることによって行った(14KのMWCOのRC膜)。トルエンを蒸発させると、ポリマー膜が透析膜の上に形成された。このようにしてポリマー膜とRC膜の複合膜が調製された。
【0161】
陽イオンに関する浸透性
複合膜を、直径13mmのガラス製試験管にクランプで止め、2Lの陽イオン供給溶液中に沈めた。試験管には受容溶液(供給溶液と同じ浸透圧のラクトース溶液(240mM))10mlを入れた。一定時間間隔で受容溶液のサンプルを採取し、イオンクロマトグラフィーで分析を行った。図3を参照。
【0162】
供給溶液は、NaCl、KCl、CaCl・2HO、MgSO・7HOの水溶液を混合して調製した。この溶液は14mMのMES(2−[N−モルホリン]エタンスルホン酸]溶液を使用してpH6の緩衝溶液とした。ICによって測定された各種陽イオンの濃度は、次の通りである:[Na]40.46mM、[K]31.44mM、[Mg2+]33.25mM、[Ca2+]22.324mM。
【0163】
各種陽イオンの浸透係数(P)の決定:測定セットアップで述べたように、受容溶液は一定時間間隔でサンプルを採取し、ICで分析を行った。Fickの拡散第一法則により、G.VandenMooter,C.Samyn,andR.Kinget,InternationalJournalofPharmaceutics,111,127−136(1994)の式1に示されている計算式に従って、Pはデータの線形化からすぐに得られる。各陽イオンの浸透係数は、この直線の傾きから算出される。
【0164】
【数4】


ここでCは供給部分における溶質の最初の濃度、Cは時間t時点での受容部分における濃度、Vaは受容部分の体積、Sは膜の表面積である。
【0165】
浸透選択性:上記のように、各陽イオンについて浸透係数を算出した。Naの浸透係数を1とすると、陽イオンM1およびM2の浸透選択性は次のように算出できる:PM1M2=P(M2)/P(M1) 。
【0166】
さまざまな膜によるさまざまな陽イオンの浸透係数:
表14に、さまざまな膜でのさまざまな陽イオンの浸透係数を示す。ポリマーがより親水性になると(ポリマーD3ではDBA%48.5、ポリマーD4ではDBA%56.1%)、Na、K、Mg2+、Ca2+などの全ての陽イオンが浸透しやすくなり、浸透係数は対照用の透析膜(RC膜)と同等になり、陽イオンの自己拡散率を反映する。しかしながら、ポリマー膜のDBA内容が増加すると(表20のD5とD6を参照)、各陽イオンの浸透係数は対照用膜と比べて減少した。これは、ポリマー膜の疎水性により、疎水バリヤーができ、陽イオンが浸透しにくくなったことを示す。
【0167】
【表20】



【0168】
さまざまな陽イオンの浸透性に関するもうひとつの特性が、浸透選択性である。PNa+の値を1とすると、他の陽イオンの浸透選択性が算出できる。その結果を表21に示す。浸透選択性PMg/PNaおよびPCa/PNaは、ポリマー膜中のDBA量が増加するにつれて減少する。これは、ポリマー膜が疎水性であるほど、さまざまな陽イオンについての選択性が高まっている可能性を意味する。さまざまな陽イオンについて選択性を高めるためには、電荷密度と膜の疎水性という2つの要素を考慮する必要がある。
【0169】
【表21】



【0170】
実施例7:ポリ−2−フルオロアクリル酸ビーズの合成
ビーズの調製は、直接懸濁プロセスによって行われる。2−フルオロアクリルメチルエステル/ジビニルベンゼン/過酸化ベンゾイルを重量比90/9/1で混合し、ポリビニルアルコールを懸濁剤に用いて高剪断ホモジナイザーで水中に分散させる。懸濁液を攪拌しながら、80°Cに加熱して10時間おく。残ったモノマーを蒸気ストリッピングにより除去する。ビーズを濾過し、3MのNaOH水溶液で処理してポリマーを加水分解し、洗ってから、HClで処理し、さらに水洗いし、最後に乾燥させて、目的のポリa−フル
オロアクリル酸粒子を得る。ビーズの平均直径は、MasterSizer(Malvern、イギリス)による測定で、250ミクロンである。
【0171】
実施例8:ポリ−2−フルオロアクリル酸/コア−(DBA−DEAEMA)/シェル粒子の調製
コア−シェル粒子は、実施例5で調製したポリ−2−フルオロアクリル酸ビーズ上に、ポリマーD2をWursterコーターでコーティングして調製される。実施例4で調製したシェルポリマーを、まずトルエンに20wt%となるように溶解して、この溶液を水中に1:4の重量比で分散させる。このとき界面活性剤としてCTAB(ヘキサデシルトリメチル臭化アンモニウム)を有機相に対し2wt%加え、Ultra−Turrax高剪断ホモジナイザーを使用する。次に、減圧下で蒸発させ、トルエンを飛ばす。分散粒子の平均直径は、動的光散乱測定により、0.3マイクロメートルである。Wurster液体ベッドコーター2”〜4”/6”ポータブル装置を使用し、ポリ−2−フルオロアクリル酸ビーズにシェルポリマー分散液をスプレーコーティングする。液化ベッド装置を操作して、平均厚さ5ミクロンのコーティングがコア粒子表面に沈着するようにする。
【0172】
実施例9:Na+およびK+選択結合性を有するスルホン酸ポリスチレン/コア−ポリエチレンイミンシェル粒子の調製
DowexビーズへのPEIコーティングの手順
PEI(ポリ(エチレンイミン)、Mw10,000)とDowexビーズ(H型、X4−200)を一般販売経路から購入した。PEIをナノピュア水に直接溶解し、さまざまな濃度のPEI水溶液を調製した。
【0173】
ライブラリ形式のガラス試験管で、計量した乾燥Dowexビーズを、PEI水溶液に混合した。指定された反応時間経過後、試験管を密封し、1000rpmで15分間遠心分離にかけ、上澄み液を捨てた。各試験管のビーズにナノピュア水を加えて合計体積を10mlにし、全ての試験管を密封し、30分間転倒攪拌する。この転倒攪拌・遠心分離手順を3回繰り返した。ビーズを冷凍乾燥して計量し、重量が一定になるまで行った。
【0174】
反応溶液組成とゲル重量増加の値を、表22に示す。
【0175】
【表22】



【0176】
結合研究方法
NaCl、KCl、MgCl、CaClの混合物をMES緩衝溶液(pH6.0)(MESは2−[N−モルホリン]エタンスルホン酸)に溶かした。各陽イオン濃度をICによって測定した。Naの濃度は26.4mM、Kの濃度は9.75mM、Mg2+の濃度は4.75mM、Ca2+の濃度は4.16mMであった。
【0177】
計量した乾燥PEIコーティング済みビーズを、NaCl、KCl、MgCl、CaClのMES緩衝溶液5mlが入っている試験管に入れた。この試験管を密封し、回転させた。図4に示されている特定時間が経過後、試験管を遠心分離にかけた。上澄み液から溶液100マイクロリットルを取り、IC分析にかけた。さまざまな陽イオンに対するPEIコーティング済みビーズの結合量を、溶液中の濃度変化から算出した。
計算式は次の通り:
ビーズのイオン結合(mmol/g)=[V´(C−C)/{[ビーズ重量]´1000}
:金属イオンの初期濃度(mM)
:特定時間(t時間)経過時点でビーズ結合後の金属イオン濃度(mM)
V:溶液体積(5ml)
ビーズ重量(g)。
【0178】
さまざまな陽イオンに対し、異なるPEIをコーティングしたビーズの結合データを、図4に示す。PEIをコーティングしたDowexビーズは、コーティングのないビーズ(裸ビーズ)に比べ、高いNaおよびK結合性を示している。またコーティングしたビーズは、裸ビーズに比べ、より高い結合選択性を示している。PEIコーティングが厚くなるほど(例:2.5wt%PEI溶液で6時間コーティングされたDowex(2.5wt−6h)など)、さまざまな陽イオンに対する選択性が高くなっている。結合動力学研究によれば、薄いコーティングのビーズや裸のビーズの方が、陽イオン結合が平衡に早く達している。
【0179】
実施例10:Eudragitシェルのスルホン酸ポリスチレンビーズ
シェル材料:陽イオンのアンモニオメタクリル酸単位8.85〜11.96%を含む、アクリル酸およびメタクリル酸エステルのコポリマーであるEudragitRL100(Rohm)を、エタノール中に10wt%とし、トリアセチン10wt%を含む。コア:Lewatit(架橋スルホン酸ポリスチレン・ナトリウム型)、サイズ−300μm。
【0180】
【化5】


シェルを、FluidAirWursterコーターを使用して適用した。
結合を次の条件で測定した:
供給溶液:50mMKClおよび50mMMgCl
ビーズ濃度:4mg/ml
継続時間:6時間。
【0181】
図5は、Mg2+およびKの結合に対するシェルの影響を示したものである。コアに対するシェルの比率が高くなると、Mg2+結合が減少し、K結合が増加した。20wt%シェルコーティングではK結合容量が1.65meq/gで、これはコーティングのないDowexの約3倍である。
【0182】
実施例11:ベンジル化ポリエチレンイミンシェルのスルホン酸ポリスチレンビーズベンジル化ポリエチレンイミン(PEI)の合成
250mlの丸底フラスコに、PEIを15.6g(−NH基が363mmol)とエタノール125mlを入れ、磁気攪拌棒でPEIが完全に溶けるまで攪拌した。次にNaHCOを30g(FW84、256mmol)と、塩化ベンジル40ml(363mmol)を加えた。この混合液を一晩、窒素雰囲気下、55Cで反応させた。ジクロロメタンを反応スラリー混合物に加え、濾過して無機塩を除去した。濾過物の溶媒を減圧下で除去した。ジクロロメタンを再度加えて反応生成物を再び溶かした。無機塩を濾過によってさらに除去した。濾過物の溶媒を再度、減圧下で除去した。最後に、この生成物をヘキサン中ですり潰し、濾過し、ヘキサンで洗い、減圧下で乾燥した。ベンジル化の割合は、HNMRにより84%と測定された。塩化ベンジルとPEIの比率を調整することにより、ベンジル化の度合をさまざまに変えた類似材料(Ben(20)はベンジル化20%、Ben(40)はベンジル化40%)を調製した。
【0183】
ベンジル化ポリエチレンイミン(Ben−PEI)を、Dowexビーズ上にコーティングした。
【0184】
【化6】


シェルを、溶媒コアセルベーションを使用してコーティングした。シェルBen(84)−PEIをpH3でメタノールと水の混合物(3:1)に溶かした。シェルとコアを5分間混合し、ロータリーエバポレーターでメタノールを除去し(40分間)、分離、洗浄、乾燥を行った。
【0185】
結合を次の条件で測定した:
供給溶液:50mMKClおよび50mMMgCl
ビーズ濃度:4mg/ml
継続時間:6時間および24時間。
【0186】
結合測定の結果を図6に示す。Ben(84)−PEIでは、裸のビーズに比べてMg2+結合性が低く、6時間後および24時間後にカリウムの結合選択性を示した。
【0187】
図7は、胃中の酸性環境に対応し、Ben(84)−PEIコーティングされたDowex(K)ビーズの酸性状態における安定性を示したものである。ビーズはpH2のHCl溶液に6時間曝露させ、分離、乾燥した。処理後のビーズについて、結合選択性の試験を行った。結合条件は次の通り:
供給溶液:50mMKClおよび50mMMgCl
ビーズ濃度:4mg/ml
継続時間:6時間および24時間
コーティングは安定であり、結合選択性は6時間および24時間時点で維持されていた。
【0188】
実施例12:ベンジル化ポリエチレンイミンシェルのFAAビーズ
シェルを、溶媒コアセルベーションプロセスにより、FAAコア上に適用した。シェルBen(84)−PEIをpH4.5でメタノールと水の混合物(3:1)に溶かした。シェルとコアを5分間混合し、ロータリーエバポレーターでメタノールを除去し(40分間)、分離、洗浄、乾燥を行った。
【0189】
結合を次の条件で測定した:
供給溶液:50mMKClおよび50mMMgCl
ビーズ濃度:4mg/ml
継続時間:6時間。
【0190】
カリウム結合を、実際のマグネシウム取り込み量と、全体のポリマーの結合容量(5.74meq/g)から算出した。この結果を図8に示す。シェル/コア比率が増加することによりマグネシウム結合が減少し、これはカリウム結合が増加していることを示す。
【0191】
実施例13:pH変化を用いた沈殿コントロールによるコーティング
ベンジル化PEI、Ben(〜20%)、Ben(〜40%)のシェルを、Dowex(K)コア上に用いた。結合を50mMKClおよび50mMMgCl中で測定した。
【0192】
図9に、この結合実験の結果を示す。40%ベンジル化PEIの沈殿コントロール手法でより良いコーティングが得られ、このコーティング手法と材料の組合せにより、より高い結合選択性が得られる。
【0193】
実施例14:シェルポリマーの膜スクリーニング
シェルポリマーを、図10に示すように、溶媒キャスティングを経て平らな膜をコーティングし、コーティングされた膜を分散セル内のバリヤーとして使用することにより、スクリーニングした。供給溶液は、50mMのKおよびMg2+を含む、50mMの2−[N−モルホリノ]エタンスルホン酸(MES)緩衝液(pH6.5)とした。浸透係数を、前述の実施例4に従って算出した。架橋B−PEIをこの手法を使用してテストした。B−PEI(35mol%)は、1,4−ブタンジオールジアクリレートで架橋されたものである。この架橋剤を、乾燥B−PEIの上で4時間反応させた。スクリーニングを、50mMKClおよび50mMMgClを含んだ50mMMES緩衝液中で行った。架橋剤(ジアクリレート)はB−PEI(35mol%)膜と反応した。図11に示すように、架橋剤を追加すると浸透係数が減少し、また選択性も向上した。
【0194】
EudragitRL100およびRS100の混合物についても、図10の手法を用いて評価を行った。この結果を図12に示す。RS100をRL100に追加すると、浸透性が低下し、浸透選択性は同じ範囲にとどまる。RS100が50wt%を超える膜では、選択性が失われた([K]は同じ程度だが、[Mg2+]は他の複合膜に比べずっと高かった)。
【0195】
実施例15:K結合に対する胆汁酸の影響
Dowex(Li)(〜100μm)をまず、PEI水溶液でコーティングした。上澄み液を除去し、このコーティングをさらに1,2−Bis−(2−ヨードエトキシ)エタン(BIEE)で架橋した。結合を50mMKClおよび50mMMgClを含むMES緩衝液(pH6.5)中で測定した。使用した胆汁酸抽出物は、2mg/mlであった(豚の胆汁抽出物で、60%が胆汁酸、40%は不明(例えば遊離脂肪酸、リン脂質など)。時間は6時間および24時間、ビーズ濃度は4mg/mlである。結果を図13に示す。胆汁酸や脂肪酸、脂質の存在下においては、シェルの性能強化が観察された。
【0196】
本明細書中に言及されている公報および特許出願はすべて、あたかも個々の公報または特許出願が参考として援用されると具体的かつ個別に示されていたかのように、参考として本明細書中に援用される。
【0197】
添付の特許請求の範囲の精神あるいは範囲から逸脱することなく、これらに対して多くの変更および改変がなされ得ることは、当業者にとっては明らかである。
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する無機イオン量に比べ、該シェル成分の存在下でより多い量の無機イオンと結合し、該無機イオンは陰イオンである、薬学的組成物。
(項目2)
上記コア成分が、治療的および/または予防的な使用の期間の間、上記結合した無機イオンのうちのかなりの量を保持する、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3)
コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する無機イオン量に比べ、該シェル成分の存在下でより多い量の無機イオンと結合し、治療的および/または予防的な使用の期間の間、該結合した無機イオンのうちのかなりの量を保持し、該無機イオンは陽イオンである、薬学的組成物。
(項目4)
上記コア成分が、上記シェル成分の非存在下で結合する無機イオン量に比べ、上記シェル成分の存在下でより多くの量の無機イオンと結合する、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目5)
上記シェル成分が、上記コア−シェル粒子への上記無機イオンおよび/または競合する溶質の動き、ならびに/あるいは該コア−シェル粒子からの該無機イオンおよび/または該競合する溶質の動きを調節する、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目6)
上記無機イオンがリン酸塩である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目7)
上記無機イオンが塩素イオンである、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目8)
上記無機イオンがナトリウムイオンである、項目3に記載の薬学的組成物。
(項目9)
上記無機イオンがH、カリウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン、またはマグネシウムイオンである、項目3に記載の薬学的組成物。
(項目10)
上記シェル成分が、1つまたは複数の競合する溶質に対する浸透性に比べて、上記無機イオンに対して高い浸透性を有する、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目11)
上記シェル成分の上記浸透性が、胃腸管の環境によって調節される、項目10に記載の薬学的組成物。
(項目12)
上記無機イオンに対する上記シェル成分の上記浸透性が、さまざまな環境で変更される、項目10に記載の薬学的組成物。
(項目13)
上記シェル成分が、上記無機イオンに対して第一の環境で増加される浸透性、および該無機イオンに対して第二の環境で減少される浸透性を有する、項目12に記載の薬学的組成物。
(項目14)
上記無機イオンに対する上記シェル成分の上記浸透性が、上記競合する溶質に対する上記シェル成分の上記浸透性に非依存性である、項目10に記載の薬学的組成物。
(項目15)
上記シェル成分が疎水性である、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目16)
上記シェル成分が、上記無機イオンと比べて、上記競合する溶質と強い相互作用を示す、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目17)
上記シェル成分が上記競合する溶質に反発する、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目18)
上記コア成分が必要に応じて架橋ポリマーを含み、該ポリマーは、
【化1】


からなる群より選択される繰り返し単位を含む、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目19)
上記ポリマーが、
【化2】


からなる群より選択される架橋剤によって架橋されている、項目28に記載の薬学的組成物。
(項目20)
上記シェル成分が、3−(1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、グリシジル4−ノニルフェニルエーテル、グリシジルヘキサデシルエーテル、2−[(4−ニトロフェノキシ)メチル]オキシラン、グリシジル末端がキャップされたポリ(ビスフェノールA−co−エピクロロヒドリン)、およびポリ(o−クレシルグリシジルエーテル)−co−ホルムアルデヒド)からなる群より選択される材料を用いて合成される、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目21)
上記コア成分がアミン含有ポリマーを含み、上記シェルを合成するために使用される上記材料がコア成分中で該アミンと化学反応する、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目22)
上記シェル成分がコーティングプロセスによって析出する、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目23)
上記シェル成分が腸溶コーティングを含む、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目24)
上記コア成分が1,3−ジアミノプロパン/1,3−ジクロロプロパン架橋ポリマーを含み、上記シェル成分が、3−(1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、グリシジル4−ノニルフェニルエーテル、グリシジルヘキサデシルエーテル、2−[(4−ニトロフェノキシ)メチル]オキシラン、グリシジル末端がキャップされたポリ(ビスフェノールA−co−エピクロロヒドリン)、ポリ(o−クレシルグリシジルエーテル)−co−ホルムアルデヒド)からなる群より選択される材料を用いて合成される、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目25)
上記コア成分がエピクロロヒドリン架橋ポリアリルアミンポリマーを含み、上記シェル成分がブロックコポリマーを含み、該ブロックコポリマーが疎水性ブロックとアミン反応性親水性ブロックとを含む、項目1または3に記載の薬学的組成物。
(項目26)
上記疎水性ブロックがポリ(n−ブチルアクリレート−co−t−ブチルアクリレート)またはポリ(N,N−ジ−n−ブチルアクリルアミド−co−t−ブチルアクリレート)の少なくとも1つを含み、上記アミン反応性ブロックがポリ−(N,N−ジメチルアクリルアミド−co−グリシジルメタクリレート)を含む、項目32に記載の薬学的組成物。
(項目27)
動物被験体を処置する方法であって、該方法は、処置を必要とする動物被験体に項目1または3に記載の薬学的組成物の有効量を投与する工程を包含する、方法。
(項目28)
上記薬学的組成物がリン酸塩を胃腸管から除去する、項目27に記載の方法。
(項目29)
上記動物被験体が、高リン酸血症、低カルシウム血症、副甲状腺亢進症、腎臓でのカルシトリオール合成の低下、低カルシウム血症によるテタニー、腎不全、軟組織の異所性石灰化、およびESRDからなる群より選択される疾患を患っている、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記薬学的組成物がナトリウムイオンを胃腸管から除去する、項目27に記載の方法。
(項目31)
上記動物被験体が高血圧、慢性心不全、末期の腎疾患、肝硬変、慢性腎不全、体液過剰、またはナトリウム過剰を患っている、項目30に記載の方法。
(項目32)
上記薬学的組成物がカリウムイオンを胃腸管から除去する、項目27に記載の方法。
(項目33)
上記動物被験体が高カリウム血症、代謝性アシドーシス、腎不全、または同化代謝の少なくとも1つを患っている、項目32に記載の方法。
(項目34)
コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する標的溶質量に比べ、該シェル成分の存在下でより多くの量の標的溶質と結合し、治療的および/または予防的な使用の期間の間、該結合した標的溶質のうちのかなりの量を保持する、薬学的組成物。
(項目35)
上記コア成分が、上記シェル成分の非存在下で結合する標的溶質量に比べ、上記シェル成分の存在下でより多くの量の標的溶質と結合する、項目34に記載の薬学的組成物。
(項目36)
上記標的溶質が胆汁酸でもナトリウムイオンでもない、項目34に記載の薬学的組成物。
(項目37)
上記シェル成分が胆汁酸またはナトリウムイオンを選択的に除外する、項目34に記載の薬学的組成物。
(項目38)
コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する標的溶質量に比べ、該シェル成分の存在下でより多くの量の標的溶質と結合し、該標的溶質は胆汁酸でもナトリウムイオンでもない、薬学的組成物。
(項目39)
コア−シェル粒子を含む薬学的組成物であって、該コア−シェル粒子がコア成分とシェル成分とを含み、該粒子が動物被験体において、該シェル成分の非存在下で結合する標的溶質量に比べ、該シェル成分の存在下でより多くの量の標的溶質と結合し、該標的溶質が胆汁酸である場合には該コア成分はさらなる標的溶質と結合し、該さらなる標的溶質は胆汁酸ではない、薬学的組成物。
(項目40)
上記標的溶質が親水性イオンである、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目41)
上記標的溶質が生物毒素である、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目42)
上記生物毒素が尿素またはクレアチニンである、項目41に記載の薬学的組成物。
(項目43)
上記シェル成分が、上記コア−シェル粒子への上記標的溶質および/または競合する溶質の動き、ならびに/あるいは上記コア−シェル粒子からの上記標的溶質および/または競合する溶質の動きを調節することができる、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目44)
上記コア成分が、治療的および/または予防的な使用の期間の間、上記結合した標的溶質のうちのかなりの量を保持する、項目34、38または39の薬学的組成物。
(項目45)
上記シェル成分が、1つまたは複数の競合する溶質に対する浸透性と比べて、上記標的溶質に対して高い浸透性を有する、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目46)
上記シェル成分の上記浸透性の特性が、胃腸管の環境によって調節される、項目45に記載の薬学的組成物。
(項目47)
上記標的溶質に対する上記シェル成分の上記浸透性が、さまざまな環境で変更される、項目45に記載の薬学的組成物。
(項目48)
上記シェル成分が、上記標的溶質に対して第一の環境で増加される浸透性、および該標的溶質に対して第二の環境で減少される浸透性を有する、項目47に記載の薬学的組成物。
(項目49)
上記標的溶質に対する上記シェル成分の上記浸透性が、上記競合する溶質に対する上記シェル成分の上記浸透性に非依存性である、項目45に記載の薬学的組成物。
(項目50)
上記シェル成分が疎水性である、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目51)
上記シェル成分が、上記標的溶質と比べて、上記競合する溶質と強い相互作用を示す、項目34、38または39の薬学的組成物。
(項目52)
上記シェル成分が上記競合する溶質に反発する、項目34、38または39に記載の薬学的組成物。
(項目53)
動物被験体を処置する方法であって、該方法は、処置を必要とする動物被験体に、項目34、38または39に記載の薬学的組成物の有効量を投与する工程を包含する、方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−31210(P2012−31210A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−246755(P2011−246755)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【分割の表示】特願2007−506518(P2007−506518)の分割
【原出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(508246489)レリプサ, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】