説明

イオン解離性機能高分子の製造方法

【課題】本発明は、プロトン伝導体として有用な、イオン解離性機能高分子を、従来よりも収率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体(A)と、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)と、連結分子(C)とを反応させ、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン解離性機能高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体としては、ナフィオン(Nafion(商品名)、DuPont社製、パーフルオロスルホン酸樹脂)が最も広く使用されている。
【0003】
ナフィオンの分子構造は、本質的に特性が異なる二つのサブ構造体、すなわち(1)疎水性の分子骨格をなす、パーフルオロ化された1本鎖の主鎖と、(2)親水性のスルホン酸基を含み、プロトン供与サイトとして機能する、パーフルオロ化された側鎖とからなる。この構造は、不飽和結合を含まずパーフルオロ化された構造であるため、熱的・化学的に安定であるが、乾燥雰囲気下や高温下では、プロトン伝導性を発現するために必要な、樹脂内部に吸蔵された水を失い、プロトン伝導度が低下しやすい。
【0004】
一方、フラーレン等のカーボンクラスターに硫酸水素エステル基(−OSO3H)またはスルホン酸基(−SO3H)のようなプロトン解離性の基を導入したカーボンクラスター誘導体を主成分とする材料が、固体構造内でプロトン伝導できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、プロトン解離性の基を、スペーサー基を介してフラーレンに導入したカーボンクラスター誘導体も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1および2には、フラーレン等のカーボンクラスターへ官能基を導入することにより、プロトン等のイオンを伝導させる材料が得られることが記載されているが、上記材料の有するプロトン伝導機能を燃料電池等の電気化学装置へ応用する際には、その電気化学装置で求められる条件下で、上記材料が化学的、熱的に安定であることが求められる。
【0006】
化学的、熱的に安定なプロトン伝導性フラーレン誘導体として、特許文献2には、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基が結合したイオン解離性機能分子が、連結分子由来の連結鎖を介して結合した構造を有するイオン解離性機能高分子が開示されている。該イオン解離性機能高分子は、化学的、熱的に安定であり、また水不溶性を有しており、固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体として有用であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第01/006519号パンフレット
【特許文献2】特開2003−303513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2に記載のイオン解離性機能高分子は、上述のように化学的、熱的に安定であり、また水不溶性を有しており、固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体として有用であるが、その製造条件についての検討は未だ充分ではなかった。
【0009】
本発明は、プロトン伝導体として有用なイオン解離性機能高分子を、従来よりも収率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、イオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)とを原料として用いることにより、従来よりも収率よくイオン解離性機能高分子を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体(A)と、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)と、連結分子(C)とを反応させ、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とする。
【0012】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および少なくとも一部の化合物(B)を含む混合物と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させる工程を有することが好ましい。
【0013】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物と、少なくとも一部の化合物(B)とを接触させる工程を有することが好ましい。前記配合物と、少なくとも一部の化合物(B)との接触が、前記配合物に化合物(B)を複数回に分割して添加することにより行われることが好ましい。
【0014】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数をa〔mmol/g〕とした際の、前記化合物(B)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数が0a〜0.9a〔mmol/g〕であることが好ましい。
【0015】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)の合計100モル%に対して、前記連結分子(C)を100〜500モル%用いることが好ましい。
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記イオン解離性基の前駆体基が、−SO2F、−SO2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0016】
前記連結分子(C)において前記連結鎖が、下記一般式(1)で表わされる鎖であることが好ましい。
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
【0017】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記スペーサー基が、下記一般式(2)で表わされる構造を有することが好ましい。
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
【0018】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記スペーサー基が、下記一般式(3)で表わされる基であることが好ましい。
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)
【発明の効果】
【0019】
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、化学的、熱的に安定であり、また水不溶性を有しており、固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体として有用なイオン解離性機能高分子を、従来よりも収率よく製造することができる。
【0020】
なお、本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法により得られるイオン解離性機能高分子は、従来のイオン解離性機能高分子と同等の物性を有しており、プロトン伝導体としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体(A)と、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)と、連結分子(C)とを反応させ、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とする。
【0022】
なお、本明細書中で、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体(A)を、イオン解離性機能分子前駆体(A)とも記し、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)を、化合物(B)とも記す。また、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体を、イオン解離性機能分子前駆体(B’)とも記す。
【0023】
〔イオン解離性機能分子前駆体(A)、化合物(B)〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、前述の工程(1)を有する。該工程(1)では、イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)を用いる。
【0024】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)は前述のように、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体である。すなわち、イオン解離性機能分子前駆体(A)の原料の一種として、フラーレンが用いられる。
【0025】
化合物(B)は前述のように、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物である。すなわち、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の原料の一種として、または化合物(B)自体として、フラーレンが用いられる。
【0026】
前記フラーレンの炭素数としては特に限定はなく、C36、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96、C266等、従来公知のフラーレンを用いることができる。なお、フラーレンは炭素数の異なるフラーレンの混合物であってもよい。前記フラーレンとしては、入手容易なC60やC70またはその混合物を用いることが好ましい。また、イオン解離性機能分子前駆体(A)におけるフラーレンと、化合物(B)におけるフラーレンは、同種のフラーレンでも、異なる種類のフラーレンでもよい。
【0027】
また、前記フラーレンとして、ハロゲン原子、炭化水素基、フッ化炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基、ケトン基等の官能基が付加されたフラーレンであってもよい。
【0028】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)が有する、前記スペーサー基としては特に限定はないが熱的、化学的安定性の観点から、通常はフッ素原子を有する有機基が用いられる。
【0029】
スペーサー基としては、下記(2)式で表わされる構造を有する基であることが好ましい。
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
【0030】
また、スペーサー基としては、エーテル構造を含む有機基が好ましく、具体的には、前記式(2)で表わされる構造を複数有し、かつエーテル構造を含む有機基が好ましく、下記一般式(3)で表わされる基であることがより好ましい。
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)
【0031】
なお、イオン解離性機能分子前駆体(A)が有するスペーサー基と、イオン解離性機能分子前駆体(B’)が有するスペーサー基とは、同一でも異なっていてもよい。
【0032】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)が有する、前記イオン解離性基の前駆体基としては、加水分解等の処理によりイオン解離性基に変換できる基であれば特に限定はない。イオン解離性基の前駆体基は、通常は−SO2F、−SO2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であり、−SO2F、−COFからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0033】
なお、イオン解離性機能分子前駆体(A)が有するイオン解離性基の前駆体基と、イオン解離性機能分子前駆体(B’)が有するイオン解離性基の前駆体基とは、同一でも異なっていてもよい。
【0034】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)は、フラーレンに、スペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなる。スペーサー基をRf、イオン解離性基の前駆体基をYで表すと、イオン解離性機能分子前駆体はフラーレンに−Rf−Yが結合した構造である。フラーレンに結合する−Rf−Yの量としては、特に限定はないが、イオン解離性機能分子前駆体(A)の場合、通常はイオン解離性機能分子前駆体(A)1g当たり、1.0〜5.0mmolであることが好ましく、1.5〜3.0mmolであることがより好ましい。すなわち、イオン解離性機能分子前駆体(A)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数は、1.0〜5.0mmolであることが好ましく、1.5〜3.0mmolであることがより好ましい。
【0035】
また、イオン解離性機能分子前駆体(A)において、フラーレンに結合する−Rf−Yの数は、フラーレン1分子あたり平均3〜10であり、好ましくは平均5〜8である。
また、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の、フラーレンに結合する−Rf−Yの量としては、イオン解離性機能分子前駆体(A)と異なっていれば良く、特に限定はないが、イオン解離性機能分子前駆体(A)よりも少ないことが好ましい。すなわち、イオン解離性機能分子前駆体(B’)は、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数が、イオン解離性機能分子前駆体(A)よりも少ないことが好ましい。
【0036】
化合物(B)は、前述のように、イオン解離性機能分子前駆体(B’)およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物であり、化合物(B)として、イオン解離性機能分子前駆体(B’)を用いても、フラーレンを用いても、イオン解離性機能分子前駆体(B’)およびフラーレンを用いてもよい。
【0037】
化合物(B)は、イオン解離性機能分子前駆体(A)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数をa〔mmol/g〕とした際の、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数が0a〜0.9a〔mmol/g〕であることが好ましい。なお、化合物(B)がフラーレンである場合に、化合物(B)が有する1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数が0a〔mmol/g〕、すなわち0〔mmol/g〕となる。
【0038】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数は、通常、イオン解離性基の前駆体基をプロトン解離性基に変換して求めた酸密度と等しい。これは、イオン解離性基の前駆体基をプロトン解離性基に変換する前後で、分子量の変化が少なく、前記イオン解離性基の前駆体基は、プロトン解離性基に容易に変換することができ、かつその変換効率が、ほぼ100mol%であることに由来する。なお、イオン解離性基の前駆体基が−SO2F基である場合には、プロトン解離性基はスルホン酸基(−SO2OH)であることが好ましい。
【0039】
また、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均の求め方は、通常、イオン解離性基の前駆体基をプロトン解離性基に変換して求めた、酸密度および、一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均をmとした場合の分子量から実施例に記載の方法により求めることができる。
【0040】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)は、通常フラーレンに前記−Rf−Y構造を有する分子を結合させることにより得られる。前記−Rf−Y構造を有する分子としては、分子の末端にヨウ素原子を有するI−Rf−Yで表される分子等が用いられる。
【0041】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の製造方法としては、特に限定は無く、例えば特開2003−303513号公報、特開2006−131517号公報、特開2007−22996号公報等に記載された従来公知の製法で得ることができる。
【0042】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)の製造方法の一例を前記−Rf−Yが、-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fである場合を例にして示す。まず、1,2,4−トリクロロベンゼン中、200℃程度の加熱下で、フラーレンおよびI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを反応させる。該反応では、加熱によりI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fのヨウ素原子側の端部でヨウ素原子とラジカル(・CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F)に分解し、該ラジカルがフラーレンに導入される。前記反応で得られた反応混合物を精製することによりフラーレンに-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F結合してなるイオン解離性機能分子前駆体を得ることができる。
【0043】
なお、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)、イオン解離性機能分子前駆体(B’)が有する一分子当たりの−Rf−Yの量、すなわち1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数は、例えば試薬として用いる前記I−Rf−Yで表される分子のフラーレンに対する当量を増減させたり、反応時間を増減させたりする等の製造条件を変えることにより、調節することができる。
【0044】
〔連結分子(C)〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、前述の工程(1)を有する。該工程(1)では、連結分子(C)を用いる。
【0045】
連結分子(C)としては、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)と反応することが可能な分子であり、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得ることができれば特に限定はない。前記連結鎖としては、アルキル基、アリール基、−(CF2)n−(nは5〜10の整数である。)で表されるフッ化アルキル基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる郡から選択される少なくとも1種の基を有することが好ましい。
【0046】
前記連結鎖の具体例としては、下記一般式(1)で表わされる鎖が挙げられる。
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
【0047】
本発明に用いる連結分子(C)は、上記連結鎖を有する化合物であり、例えばX−R−Xで表される化合物(XはCl、BrまたはIであり、Rは連結鎖である)が用いられる。
【0048】
本発明において、連結分子(C)として前記X−R−Xで表される化合物を用いた場合には、工程(1)において、Xが脱離し、Rの端部が、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)のフラーレン由来の構造や、化合物(B)としてイオン解離性機能分子前駆体(B’)を用いた場合には、イオン解離性機能分子前駆体(B’)のフラーレン由来の構造、化合物(B)としてフラーレンを用いた場合には、フラーレンに結合する。Rの端部が、それぞれ異なるフラーレン由来の構造やフラーレンに結合することにより、イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合した高分子量の反応生成物を得ることができる。すなわち、工程(1)において得られる反応性生物は、イオン解離性機能分子前駆体(A)のフラーレン由来の構造と、化合物(B)由来の構造とが、連結鎖を介して複数結合している。
前記X−R−Xで表される化合物としては、X−(CF2)n−Xで表される化合物(但し、nは5〜10の整数である。)が好ましい。
【0049】
〔工程(1)〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法が有する工程(1)は、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、化合物(B)と、連結分子(C)とを反応させ、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得る工程である。
【0050】
なお、本発明において、連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を、反応生成物とも記す。
【0051】
工程(1)は、通常は溶媒中で行われる。溶媒としては特に限定されず、例えば特開2003−303513号公報に記載されたC66およびCS2の混合溶媒や、特願2008−219836号に記載されたハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒を用いることができる。
【0052】
溶媒として、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒を用いると、C66およびCS2の混合溶媒を用いた場合と比べて、温和な条件で工程(1)を行うことができるため、好ましい。
【0053】
本発明において、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒を、沸点が160℃以上の溶媒とも記す。
【0054】
工程(1)は、通常160〜300℃の高温下で行われる。前記工程(1)において、沸点が160℃以上の溶媒を用いると、該溶媒は沸点が160℃以上であるため、イオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させる際に、常圧下で行うことができる。一方、C66およびCS2の混合溶媒中で工程(1)を行う場合には、CS2の沸点は46℃であり、前記混合溶媒は約50℃で沸騰するため、常圧下では工程(1)を160〜300℃で行うことができず、オートクレーブ等を用いて、加圧下で反応を行う必要がある。また、前記混合溶媒を用いる場合には、連結分子(C)を多量に用いる必要があったが、沸点が160℃以上の溶媒を用いることにより、連結分子(C)の使用量を低減することができる。
【0055】
工程(1)は、溶媒として、沸点が160℃以上の溶媒を用い、160〜300℃の、常圧下または10kPa以下の僅かな加圧下で反応を行うことが好ましい。
工程(1)においては、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)と、化合物(B)と、連結分子(C)とを反応させる際の、各原料を接触させる順番としては、特に限定はない。
【0056】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および少なくとも一部の化合物(B)を含む混合物と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させる工程(以下、工程(X)とも記す)を有することが好ましい。また、前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物と、少なくとも一部の化合物(B)とを接触させる工程(以下、工程(Y)とも記す)を有することも好ましい。
【0057】
なお、工程(Y)において、前記配合物と、少なくとも一部の化合物(B)との接触が、前記配合物に化合物(B)を複数回に分割して添加することにより行われることが好ましい。前記分割は、2回以上であればよく、通常は2〜10回に分割して添加される。
【0058】
すなわち、前記反応は、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、少なくとも一部の連結分子(C)との接触が、少なくとも一部の化合物(B)と、少なくとも一部の連結分子(C)との接触よりも早いか、同時であることが好ましい。
【0059】
前記反応が工程(X)を有する場合には、前記反応が以下の態様(X−1)〜(X−4)のいずれかであることが好ましい。
態様(X−1)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および化合物(B)を含む混合物と、連結分子(C)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、化合物(B)の全量とを含む混合物と、連結分子(C)の全量とを接触させる態様である。なお、混合物と、連結分子(C)との接触の際には、連結分子(C)を複数回に分けて、混合物と接触させてもよい。
【0060】
態様(X−2)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および一部の化合物(B)を含む混合物と、連結分子(C)とを接触させ配合物(i)を得た後に、該配合物(i)と、残部の化合物(B)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、化合物(B)の一部とを含む混合物に、連結分子(C)の全量を接触させ、得られた配合物(i)と、残部の化合物(B)とを接触させる態様である。なお、混合物と、連結分子(C)との接触の際には、連結分子(C)を複数回に分けて、混合物と接触させてもよい。また、配合物(i)と、残部の化合物(B)との接触の際には、化合物(B)を複数回に分けて、配合物(i)と接触させてもよい。
【0061】
態様(X−3)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および一部の化合物(B)を含む混合物と、一部の連結分子(C)とを接触させ配合物(i)を得た後に、該配合物(i)と、残部の化合物(B)とを接触させ配合物(ii)を得た後に、該配合物(ii)と、残部の連結分子(C)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、化合物(B)の一部とを含む混合物に、連結分子(C)の一部を接触させ、得られた配合物(i)と、残部の化合物(B)とを接触させ、得られた配合物(ii)と、残部の連結分子(C)とを接触させる態様である。なお、混合物と、連結分子(C)との接触、および配合物(ii)と、連結分子(C)との接触の際には、連結分子(C)を複数回に分けて、混合物や配合物(ii)と接触させてもよい。また、配合物(i)と、残部の化合物(B)との接触の際には、化合物(B)を複数回に分けて、配合物(i)と接触させてもよい。
【0062】
態様(X−4)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および一部の化合物(B)を含む混合物と、一部の連結分子(C)とを接触させ配合物(i)を得た後に、残部の化合物(B)および連結分子(C)を交互に複数回に分けて、前記配合物(i)と接触させることにより行われる態様である。具体的には、前記配合物(i)に、化合物(B)の一部、連結分子(C)の残部、化合物(B)の残部をこの順で接触させる態様、前記配合物(i)に、化合物(B)の一部、連結分子(C)の一部、化合物(B)の残部、連結分子(C)の残部をこの順で接触させる態様、前記配合物(i)に、化合物(B)の一部、連結分子(C)の一部、化合物(B)の一部、連結分子(C)の残部、化合物(B)の残部をこの順で接触させる態様等が挙げられる。
【0063】
前記反応が工程(Y)を有する場合には、前記反応が以下の態様(Y−1)〜(Y−4)のいずれかであることが好ましい。
態様(Y−1)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物(i)と、化合物(B)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、連結分子(C)の全量とを接触させ、得られた配合物(i)と、化合物(B)の全量とを接触させることにより行われる態様である。なお、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、連結分子(C)とを接触させる際には、連結分子(C)を複数回に分けて、イオン解離性機能分子前駆体(A)と接触させてもよい。また、前記配合物(i)と、化合物(B)との接触の際には、化合物(B)を複数回に分けて、配合物(i)と接触させてもよい。
【0064】
態様(Y−2)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物(i)と、化合物(B)とを接触させ、次いで該接触により得られた配合物(ii)と、残部の連結分子(C)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、連結分子(C)の一部とを接触させ、得られた配合物(i)と、化合物(B)の全量とを接触させ、得られた配合物(ii)と、連結分子(C)の残部とを接触させることにより行われる態様である。なお、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、連結分子(C)とを接触、および配合物(ii)と、連結分子(C)とを接触させる際には、連結分子(C)を複数回に分けて、イオン解離性機能分子前駆体(A)や配合物(ii)と接触させてもよい。また、前記配合物(i)と、化合物(B)との接触の際には、化合物(B)を複数回に分けて、配合物(i)と接触させてもよい。
【0065】
態様(Y−3)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物(i)と、一部の化合物(B)とを接触させ、次いで該接触により得られた配合物(ii)と、残部の連結分子(C)とを接触させ、次いで該接触により得られた配合物(iii)と、残部の化合物(B)とを接触させることにより行われる態様である。すなわち、反応に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)の全量と、連結分子(C)の一部とを接触させ、得られた配合物(i)と、化合物(B)の一部とを接触させ、得られた配合物(ii)と、連結分子(C)の残部とを接触させ、得られた配合物(iii)と、化合物(B)の残部とを接触させることにより行われる態様である。なお、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、連結分子(C)とを接触、および配合物(ii)と、連結分子(C)とを接触させる際には、連結分子(C)を複数回に分けて、イオン解離性機能分子前駆体(A)や配合物(ii)と接触させてもよい。また、前記配合物(i)と、化合物(B)との接触、および配合物(iii)と、化合物(B)との接触の際には、化合物(B)を複数回に分けて、配合物(i)や配合物(iii)と接触させてもよい。
【0066】
態様(Y−4)は、前記反応が、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物(i)と、一部の化合物(B)とを接触させ、次いで該接触により得られた配合物(ii)を得た後に、残部の連結分子(C)および化合物(B)を交互に複数回に分けて、前記配合物(ii)と接触させることにより行われる態様である。具体的には、前記配合物(ii)に、連結分子(C)の一部、化合物(B)の残部、連結分子(C)の残部をこの順で接触させる態様、前記配合物(ii)に、連結分子(C)の一部、化合物(B)の一部、連結分子(C)の残部、化合物(B)の残部をこの順で接触させる態様、前記配合物(ii)に、連結分子(C)の一部、化合物(B)の一部、連結分子(C)の一部、化合物(B)の残部、連結分子(C)の残部をこの順で接触させる態様等が挙げられる。
【0067】
また、工程(1)に用いる連結分子(C)の量は、通常イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)の合計100モル%に対して、100〜500モル%であり、好ましくは100〜300モル%である。
【0068】
工程(1)に用いるイオン解離性機能分子前駆体(A)と、化合物(B)との量比は、特に限定はないが、イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)の合計100モル%当たり、通常はイオン解離性機能分子前駆体(A)が15〜99モル%であり、化合物(B)が85〜1モル%であり、好ましくはイオン解離性機能分子前駆体(A)が50〜99モル%であり、化合物(B)が50〜1モル%である。
【0069】
また、溶媒の使用量は、特に限定はないが、通常はイオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)の合計100質量部に対して、100〜1000質量部である。
また、工程(1)は、その反応時間を低減するためにラジカル開始剤存在下で行っても良い。
【0070】
ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化カリウム、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジクロミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が好ましく、ジ−t−ブチルパーオキシドがより好ましい。
【0071】
前記ラジカル開始剤の使用量は、特に限定はないが、通常は連結分子(C)1.0当量に対して、0.1当量を超えて10当量以下であり、1〜5等量が好ましい。
工程(1)の反応時間としては、特に限定はないが、ラジカル開始剤存在下で行った場合には通常は0.5〜3日間であり、ラジカル開始剤非存在下で行った場合には通常は3〜10日間である。
【0072】
〔沸点が160℃以上の溶媒〕
前記沸点が160℃以上の溶媒について説明する。沸点が160℃以上の溶媒とは前述のように、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒である。なお、沸点とは1気圧における沸点である。
【0073】
上記沸点が160℃以上の溶媒を用いることにより、工程(1)を常圧または、僅かな加圧下で行うことができる。
ハロゲン化芳香族化合物としては、沸点が160℃以上であれば特に限定はないが、通常は、トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物が用いられる。
【0074】
トリクロロベンゼンとしては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンのいずれを用いてもよいが、価格や入手性の点で、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。
【0075】
また、パーフルオロ脂肪族化合物としては、沸点が160℃以上であれば特に限定はないが、通常は、パーフルオロトリアルキルアミンおよび炭素数12〜30のパーフルオロアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のパーフルオロ脂肪族化合物が用いられる。
【0076】
パーフルオロトリアルキルアミンとしては、例えばパーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリブチルアミン等が用いられ、炭素数12〜30のパーフルオロアルカンとしては、パーフルオロペンタデカン等が用いられる。
【0077】
前記沸点が160℃以上の溶媒としては、パーフルオロトリペンチルアミン、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。
なお、前記沸点が160℃以上の溶媒としては、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物以外の成分を含む混合溶媒であってもよい。
【0078】
〔その他の工程〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法においては、上記工程(1)で得られる反応生成物が有する、イオン解離性基の前駆体基を、イオン解離性基に変換することにより、イオン解離性機能高分子を得る工程を有する。
【0079】
すなわち、本発明の製造方法で得られる、イオン解離性機能高分子は、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基が結合しており、複数のフラーレンが連結鎖を介して結合している。
【0080】
本発明のイオン解離性機能高分子の有するイオン解離性基としては、特に限定はないが、例えばスルホン酸基(−SO2OH)、カルボキシル基(−COOH)、スルホンアミド基(−SO2−NH2)、カルボキサミド基(−CO−NH2)からなる群から選択される少なくとも1種の基が挙げられる。
【0081】
上記イオン解離性基は、イオンとしてプロトンを放出するプロトン解離性基であるが、本発明のイオン解離性機能高分子の有するイオン解離性基としては、上記イオン解離性基の水素原子がアルカリ金属原子で置換された基であってもよい。アルカリ金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子が挙げられる。
【0082】
前記イオン解離性基の前駆体基をイオン解離性基に変換する方法としては、特に限定されないが、例えば、イオン解離性基の前駆体基が−SO2F基であり、イオン解離性基がスルホン酸基(−SO2OH)である場合には、前記反応生成物を、C66やTHF(テトラヒドロフラン)中で、水および水酸化ナトリウムと反応させ加水分解し、−SO2F基を、−SO3Na基に変換する。ついで、−SO2F基を、−SO3Na基に変換した反応混合物をHCl、H2SO4、HClO4、HNO3等の強酸と反応させることにより−SO3Na基を、スルホン酸基(−SO2OH)に変換し、イオン解離性機能高分子とすることができる。
【0083】
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法により得られるイオン解離性機能高分子は、熱的、化学的安定性にすぐれており、イオンを好適に放出することができる。本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、従来よりも収率よくイオン解離性機能高分子を得ることができる。
【0084】
イオン解離性機能高分子が有するイオン解離性基が、プロトン解離性基である場合には、本発明のイオン解離性機能高分子は、プロトン伝導度に優れる。具体的には、イオン解離性機能高分子の温度19℃、相対湿度70%の雰囲気中に1日以上おいた条件で測定したプロトン伝導度が通常は、1.0×10-2S/cm以上である。
【0085】
本発明のイオン解離性機能高分子は、燃料電池に用いるプロトン伝導体、イオン交換樹脂等の様々な用途に用いることができる。
特にイオン解離性基がプロトン解離性基である場合には燃料電池に用いるプロトン伝導体として用いることができる。
【実施例】
【0086】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0087】
〔イオン解離性機能分子前駆体(I)の製造〕
イオン解離性機能分子前駆体(I)を以下の方法で製造した。
滴下ロート、コンデンサー(冷却器)、温度計および攪拌機を装着した500mlのガラス製3つ口フラスコに、窒素気流雰囲気下で、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製 nanom (登録商標) mix ST(C60約60%、C70約25%))3.0gを加え、次いで1,2,4−トリクロロベンゼン300mlを加えた。
【0088】
前記フラーレンおよび1,2,4−トリクロロベンゼンを攪拌しながら、温度を200℃に保持して、スペーサー基およびイオン解離性基の前駆体基を有する分子としてI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを42.6g(フラーレン1当量に対して24当量)を約1日かけて滴下ロートから滴下した。滴下終了後、攪拌しながら200℃にて6日間反応させた。
【0089】
反応終了後、3つ口フラスコから反応混合物を取り出し、反応混合物から1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧留去し、その残渣を150℃で終夜真空乾燥した。乾燥後の残渣にヘキサン200mlを加え、30分加熱還流させた。冷却後、デカンテーションにてヘキサン層を除き、残渣を真空乾燥し、暗茶色の粉末であるイオン解離性機能分子前駆体(I)9.2gを得た。
【0090】
上記の反応では、前記I-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fは、ヨウ素原子側の端部でヨウ素原子とラジカル(・CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F)に熱分解し、この結果生じたラジカルが、ヨウ素原子と結合していた不対電子によってフラーレン分子に付加する。
【0091】
なお、イオン解離性機能分子前駆体(I)の19F−NMRを測定したところ、イオン解離性機能分子前駆体(I)は、スペーサー基(−CF2-CF2-O-CF2-CF2−)を介して前駆体基(−SO2F)がフラーレンに付加した化合物であることが示された。
【0092】
〔イオン解離性機能分子前駆体(II)の製造〕
イオン解離性機能分子前駆体(II)を以下の方法で製造した。
コンデンサー(冷却器)、温度計および攪拌機を装着した2lのガラス製3つ口フラスコに、窒素気流雰囲気下で、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製 nanom (登録商標) mix ST(C60約60%、C70約25%))16gを加え、次いでスペーサー基およびイオン解離性基の前駆体基を有する分子としてI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを72g(フラーレン1当量に対して7.1当量)、および1,2,4−トリクロロベンゼン1.5lを加えた。
【0093】
前記の反応溶液を攪拌しながら、温度を200℃に保持して7日間反応させた。
反応終了後、3つ口フラスコから反応混合物を取り出し、反応混合物から1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧留去し、その残渣を150℃で3日間真空乾燥し、暗茶色の粉末であるイオン解離性機能分子前駆体(II)47gを得た。
【0094】
なお、イオン解離性機能分子前駆体(II)の19F−NMRを測定したところ、イオン解離性機能分子前駆体(II)は、スペーサー基(−CF2-CF2-O-CF2-CF2−)を介して前駆体基(−SO2F)がフラーレンに付加した化合物であることが示された。
【0095】
〔イオン解離性機能分子前駆体(III)の製造〕
イオン解離性機能分子前駆体(III)を以下の方法で製造した。
滴下ロート、コンデンサー(冷却器)、温度計および攪拌機を装着した500mlのガラス製3つ口フラスコに、窒素気流雰囲気下で、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製nanom (登録商標)purple ST(C60約99%))3.0gを加え、次いで1,2,4−トリクロロベンゼン300mlを加えた。
【0096】
前記フラーレンおよび1,2,4−トリクロロベンゼンを攪拌しながら、温度を200℃に保持して、スペーサー基およびイオン解離性基の前駆体基を有する分子としてI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを42.6g(フラーレン1当量に対して24当量)を約1日かけて滴下ロートから滴下した。滴下終了後、攪拌しながら200℃にて6日間反応させた。
【0097】
反応終了後、3つ口フラスコから反応混合物を取り出し、反応混合物から1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧留去し、その残渣を150℃で3日間真空乾燥し、暗茶色の粉末であるイオン解離性機能分子前駆体(III)11.2gを得た。
【0098】
なお、イオン解離性機能分子前駆体(III)の19F−NMRを測定したところ、イオン解離性機能分子前駆体(III)は、スペーサー基(−CF2-CF2-O-CF2-CF2−)を介して前駆体基(−SO2F)がフラーレンに付加した化合物であることが示された。
【0099】
〔イオン解離性機能分子前駆体1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数およびイオン解離性機能分子前駆体一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均の算出〕
前記イオン解離性機能分子前駆体が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数およびイオン解離性機能分子前駆体一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均は以下の方法で求めた。
【0100】
前記製造例で得られたイオン解離性機能分子前駆体0.5gを試験管に入れ、そこにテトラヒドロフラン(THF)3mlおよび、1.0MのNaOH水溶液3mlを加えた。50℃で1時間加熱した後、室温で一晩おいた。過剰の水酸化ナトリウムを除去するために、カラム精製(カラム充填剤として、和光純薬工業株式会社製 ワコーゲル(登録商標)C300を3g用い、溶離液として、水:THF(重量比)=1:1の混合物を用いた)を行った。
【0101】
次いで、エバポレーターを用いて減圧濃縮を行った。得られた固形物に蒸留水を適量足した水溶液を、陽イオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース株式会社製アンバーライト (登録商標) IR124Na)のカラムに通し、得られた水溶液を、減圧乾燥した後、乳鉢で粉砕してさらに30℃で1晩真空乾燥し、イオン解離性機能分子前駆体が有するイオン解離性基の前駆体基が、イオン解離性基(−SO3H)に変換された、イオン解離性機能分子0.5gが得られた。
【0102】
前記イオン解離性機能分子の酸密度(a’)〔mmol/g〕を中和滴定により求めた。該酸密度(a’)〔mmol/g〕は、イオン解離性機能分子前駆体が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数(a)〔mmol/g〕と同様であるとみなした。
【0103】
イオン解離性機能分子前駆体の構造は、(フラーレン)−(−CF2-CF2-O-CF2-CF2−SO2F)m、で表わされ、該mの値が、イオン解離性機能分子前駆体が有する、一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均に相当する。
【0104】
フラーレンがC60であると仮定すると、前記イオン解離性機能分子の分子量は、720+297m、で表わされる。
前記酸密度(a’)と、イオン解離性機能分子前駆体が有する一分子当たりのイオン解離性基の数の平均(m)との関係は、下記式(α)で表わされる。
a’〔mmol/g〕=1000m/(720+297m) ・・・(α)
式(α)を変形することにより、下記式(α’)がえられる。
m=720a’/(1000−297a’) ・・・(α’)
【0105】
前記方法により求められた酸密度(a’)〔mmol/g〕および、前記式(α’)より、イオン解離性機能分子前駆体のイオン解離性機能分子前駆体が有する、一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均(m)が求まる。
【0106】
また、イオン解離性機能分子前駆体の平均分子量を、有効数字を2桁として前記mから求めた。
前記イオン解離性機能分子前駆体(I)〜(III)から変換されるイオン解離性機能分子の酸密度(a’)、 前記イオン解離性機能分子前駆体(I)〜(III)の一分子当たりのイオン解離性基の前駆体基の数の平均(m)および分子量を表1に示す。
【0107】
〔イオン解離性機能分子前駆体の元素分析〕
前記イオン解離性機能分子前駆体(I)〜(III)の元素分析を燃焼−イオンクロマト法で行い、フッ素含有率および硫黄含有率を求めた。
【0108】
フッ素含有率および硫黄含有率から、下記式(β)および(γ)に従いイオン解離性機能分子前駆体が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数(a)を算出した。
a〔mmol/g〕(フッ素含有量換算)
=10×フッ素含有率(wt%)/(19×9)・・・(β)
a〔mmol/g〕(硫黄素含有量換算)
=10×硫黄含有率(wt%)/(32)・・・(γ)
【0109】
前記イオン解離性機能分子前駆体(I)〜(III)のフッ素含有率、硫黄含有率、フッ素含有率から求めたaおよび、硫黄含有率から求めたaを表1に示す。
【0110】
【表1】

フラーレンをC60とした際のイオン解離性機能分子前駆体の構造を、下記一般式(4)で表す。
【0111】
【化1】

(上記式(4)において、mは表1中のmと同様である。)
【0112】
〔実施例1〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製2Lの四つ口フラスコに、前記イオン解離性機能分子前駆体(I)50g(19mmol相当) とフラーレン(フロンティアカーボン株式会社製 nanom (登録商標) mix ST(C60約60%、C70約25%))0.7g(1mmol相当)とを取り、1,2,4,−トリクロロベンゼン130mlを加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへ、IC816I 11.5g(17.6mmol)とジ−t−ブチルパーオキシド(以下(t−BuO)2と表すことがある) 3.9g(27mmol)とをトリクロロベンゼン25mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0113】
翌日、IC816I 6.9g(10.6mmol)と(t−BuO)2 2.3g(16mmol)とをトリクロロベンゼン18mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0114】
翌日、(t−BuO)2 3.9g(27mmol)とトリクロロベンゼン5.7mlの混合物を8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
翌日(反応開始日から3日後)に、オイルバスの温度を150℃にして、トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム50mlで5回洗浄して不溶物をろ取し、得られた固形物(不溶物)を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0115】
(加水分解工程)
前記黒色固形物である反応生成物を乳鉢で粉砕して、2L四つ口フラスコに移し、そこへTHF 50mlと1規定NaOH水溶液260mlを加えて室温で30分間混ぜ合わせた。次いで、フラスコにコンデンサー(冷却器)を取り付け、80℃のオイルバスで1時間還流させた。次いでオイルバスの温度を100℃に設定してTHFを常圧蒸留により留去した後、室温まで放冷した。
【0116】
フラスコを氷水浴で冷やしながら、濃塩酸70mlを加え、この液体をHITACHI製冷却遠心機himac CR20B3(設定10℃、7000rpm×15min、以下同様)にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
【0117】
沈殿物に10%塩酸150mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。この操作を合計2回繰り返した。
【0118】
沈殿物に10%塩酸150mlを加えて、フラスコに移し、80℃のオイルバスで1時間加熱した後、氷水浴で充分に冷やし、再び遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
【0119】
沈殿物に10%塩酸150mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
沈殿物に水150mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。この操作を合計5回繰り返した。
【0120】
洗浄後の沈殿物をシャーレに移して、50℃の送風乾燥機内で3日間乾燥した。
乾燥後の沈殿物を乳鉢で粉砕した後、さらに40℃設定のサンプルオーブン中で、1晩真空乾燥を行い、23gのイオン解離性機能高分子(I)を得た。
なお、上記加水分解工程により、スルホニルフルオリド基−SO2Fは、スルホン酸基(−SO2OH)に変換される。
【0121】
〔実施例2〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製2Lの四つ口フラスコに、前記イオン解離性機能分子前駆体(I)50g(19mmol相当) をとり取り、1,2,4,−トリクロロベンゼン130mlを加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへ、IC816I 11.5g(17.6mmol)と(t−BuO)2 3.9g(27mmol)をトリクロロベンゼン25mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加えた。すべて入れ終えてから1時間経過後、さらに前記イオン解離性機能分子前駆体(II)3.0g(1.5mmol相当) を添加し、終夜攪拌した。
【0122】
翌日、IC816I 6.9g(10.6mmol)と(t−BuO)2 2.3g(16mmol)およびトリクロロベンゼン18mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、すべて入れ終えてから1時間経過後、さら前記イオン解離性機能分子前駆体(II)1.0g(0.5mmol相当)を添加し、終夜攪拌した。
【0123】
翌日、(t−BuO)2 3.9g(27mmol)とトリクロロベンゼン5.7mlの混合物を8分割して1時間おきに加え、200℃で終夜攪拌した。
翌日(反応開始日から3日後)に、オイルバスの温度を150℃にして、トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム50mlで5回洗浄して不溶物をろ取し、得られた固形物(不溶物)を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0124】
(加水分解工程)
加水分解工程は、実施例1と同様に行い、29gのイオン解離性機能高分子(II)を得た。
【0125】
〔比較例1〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製2Lの四つ口フラスコに、前記イオン解離性機能分子前駆体(I)10g(3.7mmol相当)を取り、1,2,4,−トリクロロベンゼン26mlを加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへ、IC816I 2.3g(3.5mmol)とジ−t−ブチルパーオキシド(以下(t−BuO)2と表すことがある) 0.8g(5.4mmol)とをトリクロロベンゼン5mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0126】
翌日、IC816I 1.4g(2.1mmol)と(t−BuO)2 0.5g(3.2mmol)とをトリクロロベンゼン3.6mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0127】
翌日、(t−BuO)2 0.8g(5.4mmol)とトリクロロベンゼン1mlの混合物を8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
翌日(反応開始日から3日後)に、オイルバスの温度を150℃にして、トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム10mlで5回洗浄して不溶物をろ取し、得られた固形物(不溶物)を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0128】
(加水分解工程)
加水分解工程は、実施例1と同様に行い、3.7gのイオン解離性機能高分子(C1)を得た。
【0129】
〔実施例3〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製2Lの四つ口フラスコに、前記イオン解離性機能分子前駆体(III)50g(21mmol相当)をとり取り、1,2,4,−トリクロロベンゼン130mlを加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへ、IC816I 11.5g(17.6mmol)と(t−BuO)2 3.9g(27mmol)をトリクロロベンゼン25mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加えた。
【0130】
すべて入れ終えてから1時間経過後、さらにフラーレン(フロンティアカーボン株式会社製 nanom (登録商標) purple ST(C60約99%))0.5g(0.7mmol相当)を添加し、終夜攪拌した。
【0131】
翌日、IC816I 6.9g(10.6mmol)と(t−BuO)2 2.3g(16mmol)およびトリクロロベンゼン18mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、すべて入れ終えてから1時間経過後、さらフラーレン(フロンティアカーボン株式会社製 nanom (登録商標) purple ST(C60約99%))0.2g(0.3mmol相当)を添加し、終夜攪拌した。
【0132】
翌日、(t−BuO)2 3.9g(27mmol)とトリクロロベンゼン5.7mlの混合物を8分割して1時間おきに加え、200℃で終夜攪拌した。
翌日(反応開始日から3日後)に、オイルバスの温度を150℃にして、トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム50mlで5回洗浄して不溶物をろ取し、得られた固形物(不溶物)を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0133】
(加水分解工程)
加水分解工程は、実施例1と同様に行い、45gのイオン解離性機能高分子(III)を得た。
【0134】
〔比較例2〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製2Lの四つ口フラスコに、前記イオン解離性機能分子前駆体(III)50g(21mmol相当)をとり取り、1,2,4,−トリクロロベンゼン130mlを加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへ、IC816I 11.5g(17.6mmol)と(t−BuO)2 3.9g(27mmol)をトリクロロベンゼン25mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0135】
翌日、IC816I 6.9g(10.6mmol)と(t−BuO)2 2.3g(16mmol)およびトリクロロベンゼン18mlに溶解したものを8分割して1時間おきに加え、終夜200℃で加熱・攪拌した。終夜200℃で加熱・攪拌した。
【0136】
翌日、(t−BuO)2 3.9g(27mmol)とトリクロロベンゼン5.7mlの混合物を8分割して1時間おきに加え、200℃で終夜攪拌した。
翌日(反応開始日から3日後)に、オイルバスの温度を150℃にして、トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム50mlで5回洗浄して不溶物をろ取し、得られた固形物(不溶物)を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0137】
(加水分解工程)
加水分解工程は、実施例1と同様に行い、37gのイオン解離性機能高分子(CII)を得た。
【0138】
〔イオン伝導度の測定〕
実施例および比較例で合成したイオン解離性機能高分子を、それぞれ室温下で12時間真空乾燥後、得られた粉末200mgを錠剤成型器で直径1.3cmの円形ペレット状になるようにプレス圧300MPaで加圧成型した。金メッキ電極で上記ペレットを密着できる状態で挟み込み、温度19℃、相対湿度70%の雰囲気中に3日置いた。

このペレット電極接合体について、交流インピーダンスアナライザーを用いて周波数1MHz〜1Hz、印加電圧10mVでインピーダンス測定を行った。
【0139】
測定終了後、ペレットの面積と厚みを測った。分析した測定データから、各イオン解離性機能高分子のプロトン伝導度を算出した。
実施例、比較例に用いた、イオン解離性機能分子前駆体(A)、化合物(B)、得られたイオン解離性機能高分子の収量および収率、並びに上記測定法で求めたイオン伝導度を表2に示す。
【0140】
【表2】

原料としてイオン解離性機能分子前駆体(I)を用いた、本発明の実施例1、2と比較例1とを比較すると、実施例1、2の方が、比較例1よりも明らかに収率が向上していることがわかる。また、実施例1、2で得られたイオン解離性機能高分子のイオン伝導度は、比較例1で得られたイオン解離性機能高分子と同等以上であった。
【0141】
原料としてイオン解離性機能分子前駆体(III)を用いた、本発明の実施例3と比較例2とを比較すると、実施例3の方が、比較例2よりも明らかに収率が向上していることがわかる。また、実施例3で得られたイオン解離性機能高分子のイオン伝導度は、比較例2で得られたイオン解離性機能高分子よりも優れていた。
【0142】
なお、実施例1、2と比較例2とを比べると、比較例2の方が収率に優れるが、これは、原料である、イオン解離性機能分子前駆体(I)とイオン解離性機能分子前駆体(III)との差異に起因すると考えられる。
【0143】
本発明の製造方法は、同様のイオン解離性機能分子前駆体を用いた場合に、従来の製造方法(比較例)と比べて、収率よくイオン解離性機能高分子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体(A)と、
1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数がイオン解離性機能分子前駆体(A)と異なる、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体およびフラーレンから選ばれる少なくとも一種の化合物(B)と、
連結分子(C)とを反応させ、
連結分子(C)由来の連結鎖を介して、前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とするイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項2】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)、および少なくとも一部の化合物(B)を含む混合物と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項3】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体(A)と、少なくとも一部の連結分子(C)とを接触させ、次いで、前記接触により得られた配合物と、少なくとも一部の化合物(B)とを接触させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項4】
前記配合物と、少なくとも一部の化合物(B)との接触が、前記配合物に化合物(B)を複数回に分割して添加することにより行われることを特徴とする請求項3に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項5】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数をa〔mmol/g〕とした際の、前記化合物(B)が有する、1g当たりのイオン解離性基の前駆体基のモル数が0a〜0.9a〔mmol/g〕であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項6】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)の合計100モル%に対して、前記連結分子(C)を100〜500モル%用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項7】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記イオン解離性基の前駆体基が、−SO2F、−SO2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項8】
前記連結分子(C)において前記連結鎖が、下記一般式(1)で表わされる鎖であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
【請求項9】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記スペーサー基が、下記一般式(2)で表わされる構造を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
【請求項10】
前記イオン解離性機能分子前駆体(A)および化合物(B)において前記スペーサー基が、下記一般式(3)で表わされる基であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)

【公開番号】特開2010−270013(P2010−270013A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121100(P2009−121100)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】