説明

イオン輸送装置、イオン分析装置、及び、超音速分子ジェット法を用いた分析装置

【課題】大気圧イオン化室で生成されたイオンを後段に輸送する中間真空室内でのイオンの通過効率を向上させることで分析感度を改善する。
【解決手段】イオン化室1から第1中間真空室2へイオンを送る加熱パイプ6の出口孔6aの外側に、通路が円錐形状である整流ノズル20を設ける。整流ノズル20がない場合に出口孔6aから所定距離ML離れた位置に生じるマッハディスク31の直径よりも、整流ノズル20の開口径NDを小さく設定しておく。これにより、超音速自由噴流によるマッハディスクやバレルショックが抑制され、イオン光軸C付近に下流へ向かう強いイオン流が生じ、高周波電場によりイオンを収束させつつ輸送するイオンガイドにイオンが効率良く捕捉され、イオン通過効率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧雰囲気の下で生成されたイオンを後段に輸送するためのイオン輸送装置、該イオン輸送装置を用いた質量分析装置等のイオン分析装置、さらには、超音速分子ジェット法を利用して分光分析や質量分析を行う分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスプレイイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、大気圧光イオン化法(APPI)などの大気圧イオン源を用いた質量分析装置では、イオン化室は略大気圧雰囲気であるのに対し、四重極質量フィルタなどの質量分離器やイオン検出器が配置される分析室は高真空雰囲気に保つ必要がある。そこで一般に、イオン化室と分析室との間に1乃至複数の中間真空室を設けた多段差動排気系の構成が採用されている。こうした多段差動排気系を採用した質量分析装置において、イオン化室の次段の中間真空室内にはイオンレンズやイオンガイドとも呼ばれるイオン輸送光学系が配置されており、該イオン輸送光学系により形成される電場の作用により、イオンを収束したり、場合によっては加速したりしながら、後段へと輸送するようにしている。
【0003】
従来、上記のようなイオン輸送光学系として、種々の構造のものが知られている。特許文献1には、4本又はそれ以上のロッド電極をイオン光軸Cの周りに配設した多重極ロッド型イオンガイド90(図9(a)参照)、リング状電極をイオン光軸Cの方向に複数配列したイオンファンネル91(図9(b)参照)などが開示されている。また、特許文献2には、1本のロッド電極をイオン光軸C方向に配設された複数の電極板から成る仮想ロッド電極としたイオン輸送光学系92(図9(c)参照)が開示されている。こうしたイオン輸送光学系はいずれも、高周波電場によってイオンを捕捉しつつ後段へと輸送するものである。
【0004】
しかしながら、上記従来の質量分析装置では次のような問題がある。即ち、図2(a)に示すように、略大気圧雰囲気であるイオン化室1から中間真空室2内に送られるガスやイオンは、オリフィスやスキマー隔壁孔、加熱パイプ開口端などの微小径の出口孔6aから吐き出される際に超音速自由噴流となる。そのため、超音速自由噴流に特徴的な樽状衝撃波(バレルショック)30及び垂直衝撃波(マッハディスク)31が発生する(非特許文献1参照)。超音速自由噴流は、バレルショック30内で半径方向に大きく拡がり、下流への流れは略円形状のマッハディスク31を避けるようにバレルショック30の縁部から発生する。そのため、高周波電場の中心軸上、つまりイオン光軸Cの近傍には下流へ向かう強い流れは生じない。上述したように、イオン輸送光学系により形成される高周波電場は半径方向に拡がったイオンを捕捉・収束し、且つ後段へと輸送する役割を担うが、超音速自由噴流によって大きな運動エネルギーを付与されたイオンの全てを捕捉することは困難である。これにより、いかにイオン輸送光学系の構造や形状を工夫しても、イオンの通過効率を大幅にアップさせることは困難であり、分析感度の向上にも制約がある。
【0005】
上記大気圧イオン化質量分析装置は意図的に超音速自由噴流を生成しているものではない。これに対し、超音速自由噴流を積極的に分析に利用した分析装置も知られている。例えば非特許文献2、特許文献3などには超音速分子ジェット法により形成した分子流に特定の光を照射し、分子流を通過した光や励起された分子から放出された蛍光を検出してスペクトルを作成する分光分析法が開示されている。また、非特許文献2や特許文献4などには、超音速分子ジェット法と多光子イオン化(共鳴多光子イオン化)法とを組み合わせた質量分析法が開示されている。
【0006】
例えば超音速分子ジェット分光分析法では、分析対象である試料を細孔から真空雰囲気中に噴出させる。すると、断熱膨張により試料分子は絶対零度近くまで冷却された超音速自由噴流となる。この状態では、分子は回転・振動エネルギーを失い、ほぼ基底状態となる。そのため、こうした影響を受けないごく狭い鋭いピークの吸収スペクトルが得られる。また、超音速分子ジェット法を利用した多光子共鳴イオン化質量分析では、特定の試料分子のみを高い選択性をもってイオン化することができるため、鋭いピークの、つまり高い質量分解能のマススペクトルを得ることができる。
【0007】
こうした分析に際して超音速自由分子噴流を生成する場合にも、やはりマッハディスクが発生し、超音速分子流によるごく低温の領域はマッハディスクの位置で制限され、マッハディスクよりも下流側では分子の温度は急激に上昇する。このため、分子流の噴出口からマッハディスクまでの間の限られた領域に、分光分析のための光や光イオン化のための光を照射する必要がある。分子流の温度を下げるには細孔の径を小さくすることが有効であるが、径を小さくするほどマッハディスクの発生位置が細口に近づく。そのため、光を照射可能な領域がますます狭くなり、精度の高い分光分析が難しくなる、或いは、イオン化効率が落ちて感度が下がる、といった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7256395号明細書
【特許文献2】特許第3379485号公報
【特許文献3】特開平6−18409号公報
【特許文献4】特開2003−35699号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ハリー・アシュケナス(Harry Ashkenas)、フレデリック・エス・シェルマン(Frederick S. Sherman)、「ザ・ストラクチャ・アンド・ユーティライゼイション・オブ・スーパーソニック・フリー・ジェッツ・イン・ロー・デンシティ・ウィンド・トンネルズ(The Structure and Utilization of Supersonic Free Jets in Low Density Wind Tunnels)」、レリファイド・ガス・ダイナミックス(Rarefied Gas Dynamics)、1966年2月、p.84−105
【非特許文献2】今坂藤太郎、「超音速分子ジェット分光分析 −基礎からダイオキシン分析への応用まで−」、分析化学、社団法人日本分析化学会、2001年、第50巻、第1号、p.3−30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その第1の目的は、大気圧イオン源から送られて来るイオンを効率よく収集して後段、例えば質量分離器などへと輸送することができるイオン輸送装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第2の目的は、上記のようなイオン輸送装置を利用して高い感度の質量分析やイオンの大きさによる分離を伴う分析を行うことができるイオン分析装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第3の目的は、超音速分子ジェット法を利用した分光分析装置や質量分析装置において、スペクトル取得のためやイオン化のために光を照射すべき領域を拡大することにより、装置構成の自由度を増すとともに分析の精度向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された第1発明は、大気圧イオン化を行うイオン化室で生成されたイオンを該イオン化室の次段の低真空雰囲気である真空室に導入し、該真空室を経てさらに後段に輸送するためのイオン輸送装置において、
前記イオン化室からのイオンを前記真空室内に吐き出す出口孔に円錐形状に拡がる形状のノズルを設け、
前記出口孔から所定距離離れた位置における前記ノズルの円形開口の径を、該ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径よりも小さく設定したことを特徴としている。
【0014】
従来より、超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの位置及び直径と、噴出孔の開口径、噴出孔の直前の高圧側の圧力、及び噴出孔の直後の低圧側の圧力とは、実験的に求まる所定の関係を有することが知られている。第1発明に係るイオン輸送装置において、出口孔の径は構造上決まり、出口孔の直前のイオン化室内の圧力は略大気圧であり、出口孔の直後の真空室内の圧力は該室内を排気する真空ポンプの能力やそのポンプの制御アルゴリズム(例えば圧力目標値)などにより決まる。つまり、こうしたパラメータは装置の設計時に決めることができる。
【0015】
そこで第1発明に係るイオン輸送装置では、ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径及び位置は、出口孔の開口径、イオン化室内の圧力、及び、真空室内の圧力から計算により求めることができ、こうした推算値に基づいて円錐状ノズルの形状(寸法)を決めることができる。
【0016】
第1発明に係るイオン輸送装置では、イオン化室から送られるガスとともにイオンが出口孔から噴出した後に、円錐形状の通路を有するノズルの整流作用により、バレルショックやマッハディスクの発生が抑制される。そのため、ガス流やイオン流の半径方向への拡がりが抑えられ、中心軸及びその近傍に強いガス流やイオン流が生じる。
【0017】
第1発明に係るイオン輸送装置の好ましい一態様として、高周波電場によりイオンを収束させつつ該イオンを輸送するイオン光学系を真空室内に配設した構成とするとよい。
この構成によれば、上述したように円錐形状の通路を有するノズルから噴き出した中心軸付近のイオン流がイオン光学系による高周波電場中に導入されるため、イオンの多くが高周波電場に捕捉されて効率良く後段へと輸送される。その結果、従来のイオン輸送装置に比べてイオンの通過効率が向上する。
【0018】
第1発明に係るイオン輸送装置を用いたイオン分析装置の典型的な一態様は、前記真空室の後段にイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離器とイオン検出器とを備えた大気圧イオン化質量分析装置である。上述したように、第1発明に係るイオン輸送装置によればイオン通過効率が向上するため、これを利用した大気圧イオン化質量分析装置では、質量分析に供されるイオンの量が増加する。それにより、分析感度を向上させることができ、従来では検出することが困難であった微量成分の検出も可能となる。
【0019】
また第1発明に係るイオン輸送装置を用いた別の態様のイオン分析装置は、イオンを減速させる電位勾配を有する直流電場を発生させる電場形成手段を真空室内に配設し、ノズルを通して真空室内に出射されたイオンを直流電場内で移動度に応じて分離するイオン移動度計である。
【0020】
一般的なイオン移動度計は、比較的高いガス圧雰囲気中で直流電場の作用によりイオンを移動させるような構成を採るが、上記態様のイオン移動度計では、イオンを移動させるエネルギーはバレルショックやマッハディスクを伴わないノズルからの噴出により付与され、直流電場はイオンを減速させるのに利用される。価数が等しいイオンは、サイズや移動度に依らず直流電場の影響を同様に受けて減速するが、イオンのサイズや移動度に依って流れの影響は相違し、例えばサイズの大きなイオンほど流れの影響を強く受けて移動速度は相対的に大きくなる。それによって、各種イオンは異なる移動速度を持って分離される。この場合にも、イオンをできるだけ発散させずに移動させるために、電場形成手段は、直流電場にイオンを収束させる高周波電場を重畳するものとすることが好ましい。
【0021】
一般的なイオン移動度計では、イオンを分離するために飛行空間に何らかのガスを導入する必要があり、しかもガスとイオンとが接触し易いように、ガスの流れがイオンの進行方向と対向する方向となるようにガス導入/排気系を構成するようにしている。このように従来のイオン移動度計ではガスの流れを考慮した真空系の設計が必要となるのに対し、第1発明に係るイオン輸送装置を用いたイオン移動度計では、イオン分離のための飛行空間内に意図的にガスを導入する必要はなく、ガスの流れを考慮した真空系の設計も必要ない。
【0022】
なお、上記イオン移動度計はイオン移動度に応じて分離されたイオンを直接、イオン検出器に導入して検出する構成としてもよいが、イオン移動度に応じて分離されたイオンを四重極質量フィルタなどの質量分離器に導入して質量電荷比に応じて分離して検出するイオン移動度計−質量分析装置(IMS−MS)の構成としてもよい。
【0023】
また、第1発明に係るイオン輸送装置を利用した大気圧イオン化質量分析装置やイオン移動度計においてはさらに、ノズルから真空室内に噴出されるガス流に光を照射する光照射手段と、その照射光に応じてガス流を通過して来た光又はガス流中の粒子から放出された光を検出し、その検出信号を用いてスペクトルを求める光検出手段と、をさらに備える構成としてもよい。
【0024】
ノズルから真空室内に噴出されるガス流中には試料成分由来のイオンや試料分子等の粒子が存在し、これらは断熱膨張によりごく低温になっている。しかも、マッハディスクが形成されないためにガス流中の上記粒子の温度は比較的長い距離に亘ってごく低温を維持する。したがって、これら粒子は回転・振動エネルギーが非常に小さく、これらの影響を受けないごく狭い鋭いピークの吸光スペクトルや蛍光スペクトルを、質量分析結果やイオン移動度測定結果と並行して取得することができる。
【0025】
上記課題を解決するために成された第2発明は、試料成分を含むガスを真空雰囲気中に噴出することにより低温の試料分子を生成する超音速分子ジェット法を用いた分析装置において、
前記ガスを真空雰囲気中に吐き出す吐出孔に円錐形状に拡がる形状のノズルを設け、
前記吐出孔から所定距離離れた位置における前記ノズルの円形開口の径を、該ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径よりも小さく設定したことを特徴としている。
【0026】
即ち、この第2発明に係る分析装置では、第1発明に係るイオン輸送装置で採用した特徴的な構成のノズルを、試料成分を含むガスを真空雰囲気中に噴出して超音速分子噴流を形成するために利用する。このため、分子噴流にはマッハディスクが形成されず、ガス流中の試料分子の温度は比較的長い距離に亘ってごく低温を維持する。第2発明に係る分析装置における具体的な分析手法としては分光分析又は質量分析を利用することができる。
【0027】
第2発明に係る分析装置の一態様は、ノズルから真空雰囲気中に噴出されるガス流に光を照射する光照射手段、及び、その照射光に応じてガス流を通過して来た光又はガス流中の試料成分由来の粒子から放出された光を検出し、その検出信号を用いてスペクトルを求める光検出手段、を含む分析手段を備えた構成である。
【0028】
上述したようにノズルから噴出した分子噴流は比較的長い距離に亘って低温状態を維持するため、ノズルが無い場合に比べて光照射手段による光を照射可能な領域が広くなる。それにより、光照射手段や光検出手段の設置位置の自由度が高くなり、装置設計が容易になるとともに、構成の簡素化やコスト削減に有利である。また、確実に低温領域に光を照射することができるので、光検出手段による測定の精度の向上も図ることができる。
【0029】
第2発明に係る分析装置の別の態様は、ノズルから真空雰囲気中に噴出されるガス流中の試料分子をイオン化するために該ガス流に光を照射する光照射手段と、その照射光に応じて生成された試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析手段と、を備えた構成である。これは、超音速分子ジェット法と多光子イオン化法とを組み合わせたものであるが、上述したようにノズルが無い場合に比べて、イオン化のために光を照射可能な領域が広くなる。それにより、イオン化効率を高めることができ、分析感度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0030】
第1発明に係るイオン輸送装置及びこれを利用したイオン分析装置によれば、イオン輸送効率が向上し、より多くのイオンを分析に供することが可能となるため、分析感度を向上させることができる。また、第2発明に係る超音速分子ジェット法を用いた分析装置によれば、試料由来の分子が低温状態である領域が長くなるために、装置構成の自由度が高くなるとともに、分析精度や分析感度の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例であるイオン輸送装置を採用した大気圧イオン化質量分析装置の概略構成図。
【図2】本実施例のイオン輸送装置の原理構成を従来と比較して示した図。
【図3】本実施例のイオン輸送装置と従来のイオン輸送装置とのガス流及びイオン流のシミュレーション結果を示す図。
【図4】本発明の一実施例であるイオン輸送装置を利用したイオン移動度計のイオン分離部の構成を示す概略図(a)及びイオン光軸上の電位分布を示す図(b)、(c)。
【図5】本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析装置の概略構成図。
【図6】本発明の一実施例である超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析装置の概略構成図。
【図7】本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析/多光子イオン化質量分析装置の概略構成図。
【図8】本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析を併用した大気圧イオン化質量分析装置の概略構成図。
【図9】従来のイオン輸送光学系の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係るイオン輸送装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例のイオン輸送装置を採用した大気圧イオン化質量分析装置の概略構成図、図2は本実施例のイオン輸送装置の原理構成を従来と比較して示した図、図3は本実施例のイオン輸送装置と従来のイオン輸送装置とのガス流及びイオン流のシミュレーション結果を示す図である。
【0033】
図1において、略大気圧雰囲気であるイオン化室1とターボ分子ポンプ15により高真空雰囲気に排気される分析室4との間には、ロータリーポンプ13により低真空雰囲気に排気される第1中間真空室2と、ターボ分子ポンプ14により中真空雰囲気に排気される第2中間真空室3とが設けられ、段階的に真空度が高くなる多段差動排気系の構成となっている。イオン化室1内には、試料成分を含む試料液がエレクトロスプレイノズル5から電荷を付与されながら噴霧される。噴霧された帯電液滴は周囲の大気に接触して微細化され、溶媒が蒸発する過程で試料成分がイオン化される。なお、エレクトロスプレイイオン化(ESI)ではなく、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)など、他の大気圧イオン化法によるイオン化を行う構成としてもよい。
【0034】
イオン化室1と第1中間真空室2とは細径の加熱パイプ6により連通している。イオン化室1内で生成されたイオンは、加熱パイプ6の両開口端の差圧により加熱パイプ6に吸い込まれ、イオン化室1から第1中間真空室2に流れ込むガス流とともに第1中間真空室2内に吐き出される。加熱パイプ6の出口孔6aの外側には、吐き出されるガス流やイオン流を整流する整流ノズル20が設けられている。整流ノズル20は、通常、金属等の導電体から成る。第1中間真空室2内には高周波電場によってイオンを収束させるイオンガイド7が配設され、整流ノズル20から吐き出されたイオンはイオンガイド7により収束されて、スキマーの頂部に形成されたオリフィス8を通して第2中間真空室3へと送り込まれる。この例では、イオンガイド7は図9(c)に示した、4本の仮想ロッド電極から構成されるものである。
【0035】
第2中間真空室3内にはイオン光軸Cの周りに8本のロッド電極が配設されたオクタポール型のイオンガイド9が配設されており、イオンガイド9により形成される高周波電場の作用によりイオンは分析室4に送り込まれる。分析室4内でイオンは四重極質量フィルタ11の長軸方向の空間に導入され、四重極質量フィルタ11に印加されている高周波電圧と直流電圧とにより形成される電場の作用により、特定の質量電荷比(m/z値)を有するイオンのみが四重極質量フィルタ11を通り抜けてイオン検出器12に到達する。四重極質量フィルタ11への印加電圧が所定の電圧範囲で走査されるとき、四重極質量フィルタ11を通り抜けるイオンの質量電荷比も所定範囲で変化するから、このときにイオン検出器12で得られる検出信号に基づいて質量スペクトルを作成することができる。
【0036】
この大気圧イオン化質量分析装置において、本発明に係るイオン輸送装置に相当するのは、加熱パイプ6からオリフィス8までの間の部分である。次にこの部分について、図2、図3により詳しく説明する。
【0037】
図2(a)は加熱パイプ6の出口孔6aの外側に整流ノズル20が無い、従来のイオン輸送装置の構成を示す概略図である。既述のように、出口孔6aから第1中間真空室2内に噴出するガス流及びイオン流は超音速自由噴流となり、バレルショック30とマッハディスク31とが生じる。図3(a)はこのときのイオンの流れのシミュレーション結果である。シミュレーションには汎用流体力学計算ソフトウエアであるFLUENT(FLUENT 6.3, ANSYS. Inc., US)を用いた。計算条件は、イオン化室1内のガス圧:105[Pa]、第1中間真空室2内のガス圧:100[Pa]、出口孔6aの直径:0.6[mm]、である。
【0038】
大気圧雰囲気中から取り込まれ低真空雰囲気中で断熱自由膨張したガス流は超音速自由噴流となり、衝撃波を発生させることで不連続的に物理量を変化させる。図3(a)で明らかなように、出口孔6aを出た後に急速に半径方向に拡散した流れはバレルショックを生じ、軸方向にはマッハディスクを生じる。下流への流れはバレルショックの縁から発生し、マッハディスクに堰き止められて中心軸上には強い流れが生じないことが分かる。
【0039】
非特許文献1には、マッハディスクの位置及び大きさに関する実験式が示されている。即ち、出口孔6aからマッハディスク31までの距離をML、マッハディスク31の直径をMDとすると、出口孔6aの直径D、高圧側圧力P0、低圧側圧力P1に対し、次の(1)、(2)の関係式が成り立つことが示されている。
L/D=0.67√(P0/P1) …(1)
D/ML=0.42[P0/P1=20の場合],0.48[P0/P1=1000の場合] …(2)
【0040】
衝撃波面であるバレルショック30及びマッハディスク31の発生の原因は自由膨張にある。そこで、バレルショック30及びマッハディスク31の発生を抑制するには自由膨張を制限することが有効であると考えられる。こうした着想の下に、本発明では、出口孔6aから下流へ向かうに従い断面積が広くなる構造体として整流ノズル20を設けるようにした。整流ノズル20はその開口部が円錐形状であるという点で、いわゆるサンプリングコーンやスキマーなどに類似している。しかしながら、整流ノズル20はサンプリングコーン(又はスキマー)とはその目的が全く相違することから、その形状やサイズの条件も全く異なる。
【0041】
即ち、超音速自由噴流の場合には出口孔6aから所定距離ML離れた位置でイオン光軸Cに直交した面にマッハディスク31が形成されるが、この発生を抑えるには、そのマッハディスク31が形成される面上で整流ノズル20の開口の直径NDをマッハディスク31の直径MDよりも小さくする必要がある。つまり、図2(b)に示すように、整流ノズル20の開口部の形状(テーパの角度)やサイズを設定する必要がある。出口孔6aの直径は装置の構造上決まる値であるから既知であり、イオン化室1内の圧力(高圧側圧力P0)は大気圧であり、第1中間真空室2内の圧力(低圧側圧力P1)も装置の設計上決まる値であって既知である。したがって、上記(1)、(2)式からマッハディスク31の距離ML及び直径MDを推算することができ、この値を用いて上記条件を満たすように整流ノズル20の構造を設計することができる。
【0042】
図3(b)は適切に設計された整流ノズル20を設けた場合のイオンの流れのシミュレーション結果である。図3(b)を見れば明らかなように、バレルショックやマッハディスクは生じておらず、出口孔6a及び整流ノズル20の中心軸、つまりイオン光軸C上及びその近傍に、下流に向かう強く整った流れが発生している。このような流れによって、イオンに対する半径方向つまりイオン光軸Cから遠ざかる方向への運動エネルギーの付与は抑えられる。そのため、後方のイオンガイド7により形成される高周波電場の中にイオンは効率良く入射し、しかも周囲に拡がろうとする運動エネルギーが小さいためにイオンは高周波電場に効率良く捕捉される。その結果、イオンガイド7のイオン通過効率は従来よりも格段に向上する。
【0043】
なお、マッハディスク31が形成される面上で整流ノズル20の開口の直径NDがマッハディスク31の直径MDよりも大きい場合には、外周に膨らむバレルショック30の形成は若干抑制されたとしてもマッハディスク31は生じてしまう。そのため、イオン光軸C付近での下流へのイオンの強い流れはマッハディスク31で堰き止められてしまう。こうしたことから、イオン光軸Cに沿った十分に強い流れを生じさせるには、上述した形状及びサイズの条件が必要である。
【0044】
本実施例のイオン輸送装置では、整流ノズル20の作用によりイオン光軸C付近に下流へ向かう強いイオン流を生成できることから、イオンガイド7の構成は特に限定されるものではなく、図9(a)、(b)に示した多重極ロッド型イオンガイド、イオンファンネルなどでもよく、それ以外のものでもよい。
【0045】
上記実施例のイオン輸送装置を利用することにより、従来のイオン移動度計(IMS=Ion Mobility Spectrometer)とは原理が異なる新規なイオン移動度計を提供することができる。図4はこのイオン移動度計のイオン分離部の構成を示す概略図及びイオン光軸上の電位分布を示す図である。
【0046】
このイオン移動度計の基本的な構成は、上記実施例の大気圧イオン化質量分析装置における第1中間真空室2内の構成と類似しており、複数の電極板をイオン光軸Cと同方向に並べた仮想ロッド電極から成るイオンガイド7を用いている。但し、この構成では、制御部46により制御される高周波電圧発生部41及び直流電圧発生部42と、電圧加算部40とにより、イオンガイド7においてイオン光軸C方向に並べられた複数の電極板に印加する直流電圧を段階的に変える。これによって、図4(b)に示すように、入射してくるイオンを減速させつつ、跳ね返さない程度に弱い電位勾配を、電極板で囲まれる空間に形成する。この空間が、移動度に応じてイオンを分離する分離空間となる。当然のことながら、目的とするイオンの極性に応じて電位勾配の傾斜方向は相違する。
【0047】
また、移動度に応じたイオン分離のためには、イオンをパルス状(パケット状)に分離空間に導入する必要がある。そこで、整流ノズル20の出口とイオンガイド7との間に円盤状のシャッタ電極44を配設している。また、制御部46により制御されるシャッタ電圧発生部45は、シャッタ電極44に対し短時間だけイオンを通過させるようなパルス状電圧を所定のタイミングで印加する。
【0048】
イオン化室1内で生成されたイオンは、加熱パイプ6を経て整流ノズル20から第1中間真空室2内に吐き出される。このとき、整流ノズル20の作用により、イオン光軸C付近を下流に向かう強いイオン流とガス流とが生成される。一方、シャッタ電圧発生部45からシャッタ電極44には所定の電圧が印加され、この電圧によって図4(b)に示すようにイオンを堰き止める高い電位障壁がイオンガイド7の手前に形成される。整流ノズル20から噴出するイオン流の勢いは強いから、こうしたイオンを堰き止めて一時的に保持可能であるような高い電位障壁が必要である。イオンは堰き止められるが、電位の影響を受けないガス流はイオン光軸C付近を下流に向かって流れる。
【0049】
制御部46の制御の下に、シャッタ電圧発生部45からシャッタ電極44に印加される電圧がイオンガイド7の中の最も手前の電極板への印加電圧と同程度まで短時間だけ下げられると、その直前まで電位障壁によってシャッタ電極44の手前に保持されていたイオンが強いガス流の流れを受けて一斉にイオンガイド7に向けて移動し始める。即ち、パルス状にイオンが出射されてイオンガイド7(つまり分離空間)に導入される。イオンガイド7における上述した直流電場による電位勾配はイオンに対向するような傾斜を有し、この電位勾配の影響は価数が同一のイオンに対しては同じように作用する。価数が同じであれば各種イオンは同程度に減速作用を受けるが、イオンのサイズや移動度に依ってイオン流やガス流の流れの影響は相違する。例えばイオンのサイズが大きなほど流れの影響を強く受けるため、減速しにくく移動速度は相対的に大きくなる。つまり、図4(c)に示すように、イオンの大きさ等の相違に基づく移動速度の相違によって、イオンは直流電場を通過する間に分離される。
【0050】
上記のように分離空間で分離されたイオンは、直接、イオン検出器に導入して検出することができる。また、イオンを移動速度によって分離した後に上記実施例のように四重極質量フィルタに導入し、質量電荷比に応じて分離してから検出するようにしてもよい。
【0051】
図4(a)の構成では、整流ノズル20とイオンガイド7との間にイオンをパルス化するためのシャッタ電極44を設けたが、例えば整流ノズル20の出口端部にシャッタ電極44を一体化して設けることもできる。一例としては、導電体からなる整流ノズル20の出口端に絶縁体からなるスペーサを挟んでシャッタ電極44を貼り付ける構成とすればよい。或いは、整流ノズル20自体にシャッタ電極の機能を兼ねさせるようにしてもよい。上述したように、シャッタ電極44の機能は連続的なイオン流をパルス化してイオンガイド7による分離空間に導入することであり、これを実現可能な構成でありさえすればよい。そのためには、パルス状の電圧が印加可能な構成であることはもちろんのこと、シャッタが開放状態であるときにイオン流を阻害しないようにすればよい。また、シャッタ電極44を整流ノズル20と一体化する場合と別体とする場合のいずれにおいても、シャッタ電極44が整流ノズル20により整流されたガスの流れを乱したりその流れの向きを変化させたりしないようにすることが好ましい。
【0052】
このように本発明に係るイオン輸送装置は、比較的真空度が悪い(残留ガスが多い)雰囲気の下でイオンを後段の質量分析部に効率良く輸送するほかに、従来とは異なる構成によるイオン移動度計にも利用することができる。
【0053】
次に、上述した整流ノズル20を超音速分子ジェット法に利用した分析装置の実施例を説明する。図5は本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析装置の概略構成図である。
【0054】
この超音速分子ジェット分光分析装置では、試料源50から試料成分を含むガスが細径の導入管51に供給され、導入管51の出口孔51aから試料ガスが真空雰囲気に維持される分析室52に噴出する。この導入管51の出口孔51aには図2(b)に示したものと同様の整流ノズル20が取り付けられている。このため、出口孔51aから噴出する試料ガスの自由膨張は制限され、その分子噴流の前方にはマッハディスクは形成されず、下流まで連続した略一定径の超音速分子流が形成される。これは、図3(b)に示したシミュレーションで示した通りである。
【0055】
試料ガスが出口孔51aから噴出して断熱膨張する際にガス中の試料分子の温度は急激に下がる。マッハディスクが形成された場合にはその下流で試料分子の温度は急に上がるが、本実施例の構成では、マッハディスクが形成されないので、ごく低温の状態が広い範囲に亘って続く。このごく低温状態の超音速分子流に対して光照射部54からの照射光が当たる。光照射部54は例えば、キセノンランプ、半導体レーザ等の光源とコリメートレンズ等のレンズ系とを含む。上述したように、ごく低温状態の分子は回転・振動エネルギーを失い、基底状態に近い状態となる。そのため、試料分子はこうしたエネルギーの影響を受けない吸収特性を示す。吸光分析部55は分光器、光検出器、信号処理部などを含み、上記のように超音速分子流中で吸収を受けた光を受光し、その検出信号に基づいて吸収スペクトルを作成する。
【0056】
整流ノズル20を設けない場合には、図2(a)に示したのと同様に、出口孔51aから所定距離離れた位置にマッハディスクが形成され、出口孔51aとマッハディスクとの間の範囲の分子噴流に光照射部54からの光を照射する必要がある。これに対し、この実施例の構成では、分子噴流がごく低温である状態が広い範囲に亘るため、光照射部54からの光を照射し得る範囲がかなり広い。そのため、確実に低温領域の吸収スペクトルを取得することができる。また、対向して配置される光照射部54と吸光分析部55の設置の自由度も高くなる。
【0057】
なお、試料分子による吸収を測定する代わりに、分子噴流に所定波長の光を励起光として照射し、それにより励起された試料分子から放出された蛍光を検出して蛍光スペクトルを作成するようにすることもできる。
【0058】
図6は本発明の一実施例である超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析装置の概略構成図である。図1に示した構成要素と同一又は相当する構成要素には同一符号を付してある。
【0059】
この超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析装置では、試料源60から試料成分を含むガスが細径の導入管61に供給され、導入管61の出口孔61aから試料ガスが低真空雰囲気に維持される第1中間真空室2に噴出する。この導入管61の出口孔61aには図2(b)に示したものと同様の整流ノズル20が取り付けられている。このため、出口孔61aから噴出する試料ガスの自由膨張は制限され、その分子噴流の前方にはマッハディスクは形成されず、連続した略一定径の超音速分子流が形成される。
【0060】
この超音速分子流に対し光照射部62から所定波長の光が照射されると、ごく低温状態の試料分子は光子を吸収してイオン化される。多様な試料分子が存在する場合でも、照射光の波長等の条件に応じて特定の試料分子を選択的にイオン化することができる。こうして生成されたイオンをイオンガイド7で収束させて後段へと送り、分析室4内に設けた飛行時間型質量分析計63により質量分析する。もちろん、飛行時間型質量分析計63ではなく、四重極質量フィルタ等の他の質量分析器を用いてもよい。なお、このような超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析装置では、分析対象のイオン以外の不要な試料分子等の中性粒子が後段に送られるのを防止するために、いわゆる軸ずらし型のイオン輸送光学系を用いるとよい。
【0061】
図7は本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析/多光子イオン化質量分析装置の概略構成図である。
【0062】
この装置は図5に示した超音速分子ジェット分光分析装置と図6に示した超音速分子ジェット多光子イオン化質量分析装置とを組み合わせたものであり、光照射部54から超音速分子流に照射した光の透過光により吸収スペクトル(又は蛍光スペクトル)を求めるのと並行して、上記照射光の作用により試料分子をイオン化し、生成されたイオンを質量分析するようにしている。分光分析用の光とイオン化用の光とを兼用することができない場合には、光照射部をそれぞれ専用に設ければよい。こうした構成によれば、質量分析の結果と分光測定結果とを並行して取得できるので、試料に関する情報量が増え、定性や定量が容易に、且つ正確になる。
【0063】
質量分析結果と分光測定結果とを並行して取得するために、図1に示した大気圧イオン化質量分析装置に超音速分子ジェット分光分析を組み込むようにしてもよい。図8は本発明の一実施例である超音速分子ジェット分光分析を併用した大気圧イオン化質量分析装置の概略構成図である。
【0064】
この装置では、第1中間真空室2内で整流ノズル20とイオンガイド7との間の、試料成分由来のイオンを含むガス流に光照射部54から分光分析用の光を照射している。この場合、ガス流中に溶媒が完全には気化していない微小液滴が混じっていると、そうした液滴が光を吸収又は散乱させて分析の精度を落とす要因となる。したがって、整流ノズル20から噴霧されるまでの段階で液滴を十分に除去しておくことが望ましい。
【0065】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例に過ぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0066】
1…イオン化室
2…第1中間真空室
3…第2中間真空室
4…分析室
5…エレクトロスプレイノズル
6…加熱パイプ
6a…出口孔
7、9…イオンガイド
8…オリフィス
9…イオンガイド
C…イオン光軸
11…四重極質量フィルタ
12…イオン検出器
13…ロータリーポンプ
14、15…ターボ分子ポンプ
20…整流ノズル
40…電圧加算部
41…高周波電圧発生部
42…直流電圧発生部
44…シャッタ電極
45…シャッタ電圧発生部
46…制御部
50、60…試料源
51、61…導入管
51a、61a…出口孔
52…分析室
54、62…光照射部
55…吸光分析部
63…飛行時間型質量分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧イオン化を行うイオン化室で生成されたイオンを該イオン化室の次段の低真空雰囲気である真空室に導入し、該真空室を経てさらに後段に輸送するためのイオン輸送装置において、
前記イオン化室からのイオンを前記真空室内に吐き出す出口孔に円錐形状に拡がる形状のノズルを設け、
前記出口孔から所定距離離れた位置における前記ノズルの円形開口の径を、該ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径よりも小さく設定したことを特徴とするイオン輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン輸送装置であって、
前記ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径は、前記出口孔の開口径、前記イオン化室内の圧力、及び、前記真空室内の圧力から計算により求まるものとすることを特徴とするイオン輸送装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイオン輸送装置であって、
高周波電場によりイオンを収束させつつ該イオンを輸送するイオン光学系を前記真空室内に配設したことを特徴とするイオン輸送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のイオン輸送装置を用いたイオン分析装置であって、
前記真空室の後段にイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離器とイオン検出器とを備えたことを特徴とする大気圧イオン化質量分析装置であるイオン分析装置。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載のイオン輸送装置を用いたイオン分析装置であって、
イオンを減速させる電位勾配を有する直流電場を発生させる電場形成手段を前記真空室内に配設し、
前記ノズルを通して前記真空室内に出射されたイオンを前記直流電場内で移動度に応じて分離することを特徴とするイオン移動度計であるイオン分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載のイオン分析装置であって、
前記電場形成手段は、前記直流電場にイオンを収束させる高周波電場を重畳することを特徴とするイオン分析装置。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のイオン分析装置であって、
前記ノズルから前記真空室内に噴出されるガス流に光を照射する光照射手段と、
その照射光に応じてガス流を通過して来た光又はガス流中の粒子から放出された光を検出し、その検出信号を用いてスペクトルを求める光検出手段と、
をさらに備えたことを特徴とするイオン分析装置。
【請求項8】
試料成分を含むガスを真空雰囲気中に噴出することにより低温の試料分子を生成する超音速分子ジェット法を用いた分析装置において、
前記ガスを真空雰囲気中に吐き出す吐出孔に円錐形状に拡がる形状のノズルを設け、
前記吐出孔から所定距離離れた位置における前記ノズルの円形開口の径を、該ノズルがないと仮定したときに超音速自由噴流により形成されるマッハディスクの径よりも小さく設定したことを特徴とする、超音速分子ジェット法を用いた分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の、超音速分子ジェット法を用いた分析装置であって、
前記ノズルから真空雰囲気中に噴出されるガス流に光を照射する光照射手段、及び、その照射光に応じてガス流を通過して来た光又はガス流中の試料成分由来の粒子から放出された光を検出し、その検出信号を用いてスペクトルを求める光検出手段、を含む分析手段を備えたことを特徴とする、超音速分子ジェット法を用いた分析装置。
【請求項10】
請求項8に記載の、超音速分子ジェット法を用いた分析装置であって、
前記ノズルから真空雰囲気中に噴出されるガス流中の試料分子をイオン化するために該ガス流に光を照射する光照射手段と、
その照射光に応じて生成された試料成分由来のイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析手段と、
を備えたことを特徴とする、超音速分子ジェット法を用いた分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−157499(P2010−157499A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275299(P2009−275299)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】