イオン選択装置および方法
イオン移動度スペクトロメータ又は他のイオン装置は、イオンの流れ経路の横方向に延在した2つ又は3つのグリッド電極51及び52;151から153;106及び107;106’及び107’を有する。dc補償電圧と共に非対称な波形を電極間に印加して、場依存移動度に従ってイオンに異なる影響を及ぼすイオンの流れ経路に平行な場を形成する。これは、イオン検出器11,111,111’へのイオンの移動において、異なるイオンを選択的にふるいにかけたり、遅らせたりして、さもなければ類似の出力を発するイオン間の識別を容易にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経路に沿ってイオンを供与する手段を含む類いのイオン選択装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度スペクトロメータ(IMS)システムは、火薬、薬、ブリスター及び神経剤等の物質を検出するためにしばしば使用されている。IMSシステムは、典型的には検出セルを含み、該検出セルには、被検物質を含む空気のサンプルがガス乃至蒸気として供給される。該セルは、大気圧で又は大気圧の近傍で作動し、また、エネルギーを与えられてセルに沿って電圧勾配を形成する電極を含む。空気のサンプル中の分子は、例えば、放射線源、UV源を用いて、或いは、コロナ放電によってイオン化され、一端の静電ゲートによってセルのドリフト領域中に入ることができる。イオン化された分子は、イオンの大きさに依存した速度で、セルの反対側の端部に流れ着く。セルに沿った飛行時間を測定することによって、イオンを同定することができる。
【0003】
場非対称IMS又はFAIMSにおいて、ゲートにより通過したイオンは、装置の中心軸及びイオンの移動経路と平行に位置合わせされ且つ接近して間隔を置いた2つの電極間の間隙に入ることができる。該間隙と交差して非対称場を印加することによって、イオンが、電極の一方又は他方に交互に、横方向に引き付けられることとなる。イオンの移動度に依存して、イオンは、電極の一方に当って中和されるか、間隙を通過して検出される。非対称場を変えることによって、或いは、これに加えて、dcバイアス電圧を変えることによって、装置が特定のイオンを選択できるように調整することができる。FAIMSシステムには、種々の問題がある。それらは、コロナ放電デバイスのような、単一極性のイオンを主として生成させるイオン源と共に使用するのが難しいことがあり得る。これは、かかるデバイスによって生成するイオンの中には、FAIMSギャップの前の絶縁面に集まり、かかる面上に帯電する傾向があるものがある為である。このことは、ギャップに入る同種極性のイオンの数を減少させ、FAIMS装置が幾つかの物質を検出する能力を低下させ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、代替のイオン選択装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
上記で特定した類いのイオン選択装置であって、
該装置は、前記経路に沿って互いに間隔をあけており且つ該経路を横切って横方向に延在する第1及び第2の平行電極を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記装置は、前記2つの電極を通過するイオンもあれば、該2つの電極を通過しないイオンもあるように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体を含む
ことを特徴とするイオン選択装置が提供される。
【0006】
前記装置は、好ましくは、補償電圧を印加して、イオンの前記電極の通過を制御する配列体を含む。ワイヤー間に隙間を有し、該隙間を前記イオンが通過できるワイヤーグリッドによって、前記電極を準備してもよい。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置であって、
該装置は、前記経路の横方向に延在する電極配列体を含み、
該電極配列体は、選択されたイオンがそれを通過するのを可能とし、
また、前記装置は、第1の所定の値よりも大きく且つ第2の所定の値よりも小さい示差移動度を有するイオンのみが前記電極配列体を通過するように、前記電極配列体を横切って非対称電圧を印加して、該電極配列体中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体と、前記電極配列体に補償電圧を印加する配列体とを含む
ことを特徴とするイオン選択装置が提供される。
【0008】
前記電極配列体は、3つの平行電極を含んでもよく、前記非対称電圧が中央の電極に印加され、その外側の電極に2つの補償電圧が印加される。
【0009】
本発明のその他の態様によれば、
イオンの移動経路に沿った領域中でイオンを選択する方法であって、
該方法は、前記経路と平行に電場を形成することを含み、
該電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように、高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを含む
ことを特徴とする方法が提供される。
【0010】
前記電場は、好ましくは、前記イオンの中で選択したものだけが該電場を通過するように選択されたdc補償場を含む。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、
イオン源と、ドリフト領域と、該ドリフト領域に沿って進むイオンを検出するための検出器とを含むイオン移動度スペクトロメータであって、
該スペクトロメータは、該スペクトロメータの長さに沿って互いに間隔をあけており且つイオンの経路を横切って延在する第1及び第2の平行電極を含むイオン選択用の配列体を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記スペクトロメータは、前記イオンの中で選択したものだけが前記ドリフト領域を通過するように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体を含む
ことを特徴とするイオン移動度スペクトロメータが提供される。
【0012】
前記イオン移動度スペクトロメータは、前記検出器へのイオンのゲート通過のためのゲートを含んでもよく、前記電極によって選択されたイオンだけが前記ゲートに移動するように、前記第1及び第2の平行電極が前記ゲートの上流に設置されている。2つの化学種がスペクトロメータから類似の出力を通常発する場合に、前記電極に印加する電圧は、一方の化学種に由来するイオンの通過を可能とし且つ他方の化学種に由来するイオンの通過を阻害するように選択されていてもよい。前記装置は、前記検出器と前記非対称場印加用配列体との間の領域に低い場を印加するための配列体を含んでもよい。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、
イオン源と、イオン検出器と、該イオン源と検出器の間に延在するイオンの流れ経路とを含む装置であって、
該装置は、前記検出器にイオンが到達するのに要する時間が低い場の移動度と高い場の移動度との間の違いに依存するよう、前記経路に沿って流れるイオンを高い場と低い場とに交互にさらすために、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路と実質平行に非対称電場を印加するための配列体を含む
ことを特徴とする装置が提供される。
【0014】
前記非対称場は、好ましくは、前記イオンの流れ経路に直角に延在し且つ該経路に沿って互いに間隔をあけている2つの平行グリッド電極間に印加される。
【0015】
本発明の第6の態様によれば、
イオン検出器に向かうイオンの流れ経路に沿ってイオンを供給する工程と、
前記経路に沿って流れるイオンが高い場と低い場とに交互にさらされるように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路に実質平行な非対称電場に前記イオンをさらす工程と、
前記検出器にイオンが到達するのに要する時間を測定する工程と、
測定された前記検出器に到達するのに要する時間に従って、イオンに関する情報を提供する工程と
を含む、イオンに関する情報の提供方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここで、本発明に従うIMSシステムを、一例として、添付の図面、即ち、前記システムを概略的に示す図1、図1のシステムのイオンフィルターの一部を拡大して示す図2、前記イオンフィルターに印加する電圧を示すグラフである図3、第1の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンによる移動距離を示すグラフである図4、第2の、即ち、逆の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンによる移動距離を示すグラフである図5、図4及び図5に示す配列の組み合わせを示すグラフである図6、図6に示すグラフトと類似するものの、補償電圧の一方を調整して帯域通過の幅を増加させたグラフである図7、図6及び図7に示す組み合わせ配列の実施を可能とする電極配列体を概略的に示す図8、前記システムの変形例を概略的に示す図9、及び図9の配置の変形例を概略的に示す図10を参照して説明する。
【0017】
まず、図1及び図2を参照するに、当該システムは、入口2を有するIMSドリフトセル1を含み、該入口2によって、分析するサンプル空気を装置に供給する。入口2は、半透膜や、関心対象の分子の通過を可能としつつ他の分子の大部分を排除する任意の他の形態からなるもの等の選択障壁6を介して、セル1の内部の左側末端に開口している。或いは、障壁6は、国際公開第93/01485号に記載されているようなピンホールのように、非選択的であってもよい。障壁の代わりに、欧州特許第596978号に記載されている類いのような他のインターフェースによって、分析するサンプルをセル1に供給してもよい。
【0018】
障壁6は、コロナ放電ニードル7’等のイオン源を含むイオン化領域7に通じており、イオン源は、単一の極性、即ち、正又は負のイオンを主として生成させる。63Ni又は241Amのような放射性同位体や、レーザーのような光子源等の他のイオン源を用い、光電離によってイオンを生成させることもできる。イオン化領域7の右側においては、ブラッドベリー・ニールソン・ゲーティンググリッド8が、一連のドリフト電極10によって形成されるドリフト領域9中へのイオン化された分子の通過を制御する。印加された電場を用いて、或いは左から右へのガスの流れによって、左から右、即ち、イオン化領域7からゲート8に、イオンを移動させる。セル1の右側末端のコレクタ又は検出板11は、ドリフト領域9を通過したイオンを集める。スクリーングリッド12は、コレクタ板11の前に接近して設置され、適切な電位に維持されており、さもなければ入ってくるイオンによって発生するイメージ電荷から該板11を遮蔽する。該板11は、プロセッサ又はコントロールユニット20に出力をもたらし、また、プロセッサ又はコントロールユニット20は、ゲート8及び当該システムの種々の他の機能を制御する。プロセッサ20は、ディスプレイ21、又はサンプルの性質を示す他の利用手段に出力をもたらす。
【0019】
右側末端において、セル1は注入口30を有し、該注入口30によって、再循環され、綺麗になった乾燥ドリフトガスをセルの内部に供給し、該セルの内部において、乾燥ドリフトガスは、右から左に移動し、イオン化領域7中のゲーティンググリッド8の近傍の排気口31を介して、流出する。排気口31に連結された注入口33とモレキュラーシーブ40に連結された排出口34とを有するポンプ32を用いて、注入口30に空気を供給し、ここで、モレキュラーシーブ40がドリフトチャンバー9から排出された空気を綺麗にし且つ乾燥する。また、綺麗な空気源を循環させ、膜を通して拡散する検体の蒸気と混合するために、モレキュラーシーブ40の排出口45は、バルブ41を介して、膜6のまさに下流の注入口42に連結している。
【0020】
当該システムは、配列体50を含み、該配列体50がゲート8の近傍及び上流に位置して、装置に沿うイオンの流れを変えることによって、以前のIMSシステムと異なる。図1及び図2に示す配置において、これは、イオン選択手段又はイオンフィルターとして機能する。
【0021】
イオンフィルター50は、装置の長さ及びイオン60の移動経路Pに対し直角に配列された2つの電極51及び52を具える。2つの電極51及び52は、イオン60の移動経路Pと交差して延びているので、ゲート8を通過した総てのイオンは、該電極をまず通過しなければならない。電極51及び52の構造は、イオンの通過を可能とするようなものであり、即ち、それらは、イオンが通過できる間隙又は開口を含む。本実施例では、各電極51及び52は、接近して間隔を置いた平行ワイヤー53のグリッドによって形成されている。2つの電極51及び52中のワイヤーの角度方向は、重要な意味をもたず、即ち、それらは、平行から直角までの如何なる角度であってもよいが、本実施例では、平行に並べられている。典型的には、各グリッド51及び52中のワイヤー53は、直径が0.02mmであり、互いに0.1mmほど間隔を置いている。2つの電極グリッド51及び52は、平行で、互いに0.5mmほど間隔を置いている。
【0022】
このイオン選択配列体は、イオン移動度スペクトロメータを有する用途に限定されず、他の検出器と共に使用でき、或いはイオンを選択する必要がある他の集成装置中でも使用できる。
【0023】
プロセッサ20は、2つの電極グリッド51及び52間に図3に示す類いの電圧を印加する。該電圧は、非対称であり、比較的高電圧V1の短い期間t1と反対の極性の比較的低電圧V2のより長い間隔t2とからなる。少なくとも1サイクルに渡って積分した正味の場はゼロである。直流補償電圧を非対称場に付加して、イオンの運動を妨害又は促進する。この補償電圧を調整することによって、必要に応じて、示差移動度のカットオフポイントを設定することが可能となる。示差移動度は、低い場での移動度と高い場での移動度との値の差である。必要な最小値よりも大きな示差移動度を有する総てのイオンは、最終的には、通過することとなる。
【0024】
低い場E1での移動度がK1で、高い場E2での移動度がK2で、高電圧V1での時間がt1で低電圧V2での時間がt2であるような非対称波形の場合、非対称波形の周波数は1/(t1+t2)であり、1つの波形サイクルにおいて移動する正味の距離は、
S=K1・E1・t1+K2・E2・t2
である。
【0025】
電極51及び52間のギャップをD、補償電圧をCとすると、
E1=(V1+C)/D、及び、E2=(V2+C)/D
である。
【0026】
N個の波形サイクル後、かかるデバイスを通過するイオンに対しては、
N・S≧D
または、
N{K1・t1((V1+C)/D)+K2・t2((V1+C)/D)}≧D
であり、再整理すると、
N{K1・t1((V1+C)/D2)+K2・t2((V1+C)/D2)}≧1
となる。
【0027】
この単純モデルによって示される挙動を、図4中のグラフに示す。これは、高い場での移動度K2に対してプロットしたあるrfサイクル番号におけるイオンの移動距離Sを示している。低い場での移動度K1を1に設定し、補償電圧Cを印加する。
【0028】
グリッド間のギャップDが1であるデバイスの場合、これらの条件下では、K2が約1.125より大きい総てのイオンがデバイスを通過することとなる。
【0029】
図4のグラフ中の線の傾きは、イオンに許される時間に依存する。理想条件下では、該線は、K2軸に直交するであろう。
【0030】
上記の実施例においては、示差移動度によって生じるイオンの運動を妨害するように補償電圧Cを設定する。或いは、示差移動度の影響がイオンが遠い方のグリッド51を通過するのを止めさせる傾向がでるように、波形の極性を逆にすることもできる。適当な補償電圧Cの印加によって、異なる状況となるであろう。この状況では、ある大きさよりも示差移動度が小さいイオンが通過するであろう。図5に示すグラフは、この状況を図解している。K2が約1.126より小さいイオンが通過することとなる。
【0031】
これら2つの配列を組み合わせて、図6のグラフに示すような、高い場での移動度の通過域を有する複合システムを作ることができる。この状況では、K2が非常に狭い範囲内にあるイオンのみが伝わる。補償電圧Cを変えて、透過用の実際のK2値を設定することができる。補償電圧を走査して、高場スペクトルを作ることができる。これは、イオン抽出の方向が分析場の方向と同じであるので、平行運動スペクトロメータと見なすことができる。
【0032】
加えて、一方又は両方の補償電圧を変更することによって、かかる複合デバイスの分解能を調整してもよい。図7に示す配列においては、例えば、単に一方の補償電圧Cを調整することによって、より広範囲のイオンを選択し、通過域を大きくする。
【0033】
図8は、3つのグリッド電極151、152及び153を有し、外側の電極151及び152に2つの独立した補償電圧(C1及びC2)が印加され、中央の電極153に1つの非対称波形が印加される複合システムを如何にして実施できるかを示している。
【0034】
上記のグリッド構造体を用いつつ、バルクガスがグリッド電極を通過する場合、移動度の選択操作が妨害され得るが、これは、実行上の問題とはならないようである。
【0035】
面積が1cm2のグリッドを貫流する240cm3・min-1の典型的なガス流を考えると、ガスの平均速度は約4cm・sec-1となる。従前の飛行時間型IMSでは、とても大きなイオンに対する低い場でのイオン速度は、200V・cm-1の場に対して約500cm・sec-1となるであろう。イオン速度は、約2V・cm-1の場でガス速度と適合している。分析ギャップが約0.5mmのデバイスの場合、2V・cm-1の場は、0.1ボルトの電位差(補償電圧)に相当する。高場デバイスに対する典型的な補償電圧は5ボルト程となるであろうから、ガスの流れが完全に止まったとしても、必要な補償電圧に2%の変化を生じるに過ぎないであろう。
【0036】
本発明の集成装置は、比較的簡単な構造だけを必要とするという利点を有し、該比較的簡単な構造は、容易に構築することができる。デバイスの分解能は、電子的に調整することができる。該集成装置は、飛行時間型イオン移動度スペクトロメータに適合し得るし、また、複合機器中の第1段階を形成することもできる。
【0037】
これらのシステムにおいて、イオンがデバイスを通過するのに要する時間は、とりわけ、示差移動度に依存する。代替となる高場スペクトロメータを製造することができ、該スペクトロメータにおいては、イオンのパルスをスペクトロメータへ入れることが可能であるため、出力がスペクトルとなり、該スペクトルにおいては、イオンの到着時間が示差移動度に反比例する。
【0038】
イオンの流れ経路と実質平行に印加される非対称場は、完全にイオンをフィルターにかけたり除去したりするために使用する必要はないが、イオンが検出器に達するのに要する時間を変えるために使用することができる。図9に示す配置において、ゲート104の右に位置する時間シフト分析器106は、異なる大きさの電場にイオンをさらした場合のイオン移動度における変化を測定するために配置されている。分析器106は、ハウジング101の横方向、即ち、装置に沿って左から右へのイオンの軸方向の流れ経路に対して直角に延びる2つのグリッド電極107及び108を含む。グリッド電極107及び108は、互いに平行に延びて、狭い間隔をあけており、典型的には約0.5mmの距離を置いている。2つの電極107及び108は、ハウジング1の外側において、2つの電極間に非対称電圧を印加するために配置された電気デバイスユニット110と電気的に接続されている。検出板111によって、出力がもたらされる。
【0039】
図3に示す類いの波形を2つの電極107及び108間に印加して、イオンを振動させる。高い場での移動度の違いを無視すると、イオンによる移動距離は、電圧と該電圧を印加する時間間隔との積に左右される。高い場の期間のイオンによる移動距離がより長い低い場の期間の反対方向への移動距離と同じになるように、低電圧期間の時間間隔を高電圧期間の時間間隔よりも長くする。そのため、交番場自体は、場に依存した移動度を有さないイオンの平均位置に変化をもたらさない。しかしながら、場の強さによって移動度が変わる場合には、各サイクルの高場及び低場部分の期間におけるイオンによる移動距離に違いがあり、イオンの平均位置に変化をもたらす。そのため、場依存イオンの平均位置は、高場及び低場の、特定イオンの移動度の場依存変化についての大きさで決まる速度で徐々に変化する。
【0040】
移動度が電場で変化しない場合、即ち、K1=K2の場合、
S=K2(E1・t1+E2・t2)、又は、
S=K2(V1・t1/D+V2・t2/D)=K2(V1・t1+V2・t2)/D
である。そのため、
S=0
となる。
【0041】
しかしながら、移動度が場の大きさに依存する場合、イオンは、Nサイクルの波形で、グリッド7及び8の間のギャップDを横断することとなり、
N・S=D
となる。所要時間Tは、
T=N・(t1+t2)
で与えられる。N=D/Sの場合、
N=D/(K1・E1・t1+K2・E2・t2)
となる。V1・t1=−V2・t2、E1=V1/D、及び、E2=V2/Dであることを考慮すると、
E1・t1=V1・t1/D
そして、
E2・t2=−V1・t1/D
となり、そのため、
N=D/(K1・V1・t1/D−K2・V1・t1/D)
又は、
N=D2/V1・t1(K1−K2)
となる。それ故、所要時間は、
T=D2(t1+t2)/V1・t1(K1−K2)
で与えられる。
【0042】
従って、グリッド107及び108間をイオンが移動するのに要する時間は、グリッドの間隔Dの二乗に比例し、高場移動度と低場移動度と間の差に反比例し、印加した電圧に反比例する。
【0043】
場に依存しないイオンよりも、場に依存するイオンが検出器11に到達するのに要する時間の間により大きな違いをもたらすために、前記装置は、グリッド電極の一連の対で形成され順々に配置された時間シフト分析器を幾つか含んでもよい。幾つかの用途では、一方のグリッド電極の電圧を正にし、他方の電極の電圧を負にするために、高電圧及び低電圧の極性を逆にする必要があるかもしれない。
【0044】
この装置を操作することが可能な種々の方法がある。
【0045】
第1の配置においては、幾つかの異なるイオン種のパルスがゲート104を入って分析器106に行くことができる。個々のイオンの低い場での移動度と高い場での移動度との間の違いに依存した異なる時間で、検出板111において信号が発生する。この単純な配置を利用して移動度の差を測定することができ、プロセッサ112において、既知物質の移動度差の格納データと比較する。この方法では、物質又は混合物の化学組成を決定したり、関心対象の物質の有無を決定したりすることができる。
【0046】
上記に概略を説明した第1の配置の問題は、2種類のイオン、即ち、移動度が電場で変わらないイオンと、場に依存した移動度を有するものの非対称場がそれらをゲート104に向かって逆戻りさせるイオンとの検出ができないことである。第2種類のイオンは、場を単に逆にすることで同定できるが、このことは、場に依存した移動度を有さないイオンの同定を不可能にしてしまう。この問題を解消するために、静電場成分を加えて、総てのイオンが確実に分析器106を通過して検出板111に到達するようにできる。これは、グリッド電極107及び108間に印加する電圧に静電dc成分を加えることによって達成でき、或いは、このdc成分を別の電極を介して加えることもできる。
【0047】
静電場を使用できる種々の異なる方法がある。一つの方法では、非対称場のスイッチを切り、dc場のみを印加して、従前のIMS機器と同様の方式で、イオンが検出板111に移動する。そして、検出板111の出力が、イオンの低い場での移動度の指標をもたらす。次に、非対称場のスイッチをオンにして、イオンの到達時間を測定する。これらの2つの場条件における時間の違いは、電場で移動度がどの程度変化するかを示す。
【0048】
補償電圧Cの付加により、所要時間Tが下記:
T=D2・(t1+t2)/{V1・t1(K1−K2)+C・(K1・t1+K2・t2)}
のように変更される。従って、高場及び低場での移動度が同じ、即ち、K1=K2の場合、K1−K2項が消え、時間Tは、イオンの移動度とdc場の大きさCとで定義される。
【0049】
代替の方法は、dc場成分の値Cの適切な調整に依存する。Cの値は、小さいものの(Ca)、非対称場がオフで関心対象のイオンの総てがデバイスを通過するように、最初に設定する。イオンの到達時間を検出し、プロセッサ112に格納する。次に、デバイスユニット110が非対称場のスイッチをオンにし、引き続き、各イオンタイプに対して、例えば、イオンの到達時間が非対称場のスイッチをオフにしていたときの到達時間に戻るように、Cの値を調整する。このCの新しい値(例えば、Cb)を各イオンに対してプロセッサ112中に格納し、CaとCbとの間の違いを、電場でイオン移動度がどの程度変化するかの尺度とする。再度、プロセッサ112は、これを用いて、異なる物質に対する移動度の変化の格納表と比較することで、イオンの性質を同定することができる。
【0050】
図9に示す装置を単独で用いて、イオンに関する情報を得てもよい。また、より一層の追加情報を提供するために、該装置を他の形態の検出器と組み合わせてもよい。例えば、該装置を、低場条件下でのイオンの移動度を測定するために作動する従前の時間飛行型イオン移動度スペクトロメータと容易に組み合わせることができる。最も好都合には、IMS機能を、図10に示すように、同じハウジング101’中において、時間シフト分析器106’の電極107’及び108’と検出板111’との間で、場依存装置と組み合わせることができる。これは、ハウジング101’に沿って互いに間隔を置いており且つ検出板に向かって徐々に高くなる電圧を電極に印加するために配置された駆動ユニット110’に接続された多数の追加電極114’を準備することで簡単に達成できる。この方法では、漸増dc場を構築して、イオンを検出板111’に向かって推進させる。
【0051】
前記装置には、種々の他の変形が可能である。
【0052】
該装置は、イオン源とゲートとの間にイオン−分子反応領域を含むことができる。この領域において、イオン源で生成した一次イオンを、分析するガスのイオン化されていない分子と混合できる。
【0053】
装置が分析器へのイオンの進入を制御するためのゲートを有することは、必須ではない。dc電圧Cの大きさを走査することによって、引き続いて、異なる示差移動度を有するイオンが検出板に達することとなる。検出器の信号を微分することで、示差移動度のスペクトルが得られる。dc電圧に加えて、低周波数、低電圧の交番電位を印加した場合、微分する必要なく、検出板で信号中のこの周波数成分の大きさを測定することができるであろう。
【0054】
非対称波形が充分な大きさである場合、英国特許第0508239.1号に記載の手法でイオンの改変が起こるであろう。これによって、追加のイオンがもたらされ、更には、検体物質の確実な同定が容易になる。この改変は、ドーパント付加化合物の除去の結果であっても、イオン自体の分裂と娘種の生成の結果であってもよい。分析器自体を用いて、このイオンの改変を起こさせてもよいし、別のイオン変性領域を時間シフト分析器の前又は後に導入することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】前記システムを概略的に示す。
【図2】図1のシステムのイオンフィルターの一部を拡大して示す。
【図3】前記イオンフィルターに印加する電圧を示すグラフである。
【図4】第1の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンの移動距離を示すグラフである。
【図5】第2の、即ち、逆の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンの移動距離を示すグラフである。
【図6】図4及び図5に示す配列の組み合わせを示すグラフである。
【図7】図6に示すグラフトと類似するものの、補償電圧の一方を調整して帯域通過の幅を増加させたグラフである。
【図8】図6及び図7に示す組み合わせ配列の実施を可能とする電極配列体を概略的に示す。
【図9】前記システムの変形例を概略的に示す。
【図10】図9の集成装置の変形例を概略的に示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、経路に沿ってイオンを供与する手段を含む類いのイオン選択装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度スペクトロメータ(IMS)システムは、火薬、薬、ブリスター及び神経剤等の物質を検出するためにしばしば使用されている。IMSシステムは、典型的には検出セルを含み、該検出セルには、被検物質を含む空気のサンプルがガス乃至蒸気として供給される。該セルは、大気圧で又は大気圧の近傍で作動し、また、エネルギーを与えられてセルに沿って電圧勾配を形成する電極を含む。空気のサンプル中の分子は、例えば、放射線源、UV源を用いて、或いは、コロナ放電によってイオン化され、一端の静電ゲートによってセルのドリフト領域中に入ることができる。イオン化された分子は、イオンの大きさに依存した速度で、セルの反対側の端部に流れ着く。セルに沿った飛行時間を測定することによって、イオンを同定することができる。
【0003】
場非対称IMS又はFAIMSにおいて、ゲートにより通過したイオンは、装置の中心軸及びイオンの移動経路と平行に位置合わせされ且つ接近して間隔を置いた2つの電極間の間隙に入ることができる。該間隙と交差して非対称場を印加することによって、イオンが、電極の一方又は他方に交互に、横方向に引き付けられることとなる。イオンの移動度に依存して、イオンは、電極の一方に当って中和されるか、間隙を通過して検出される。非対称場を変えることによって、或いは、これに加えて、dcバイアス電圧を変えることによって、装置が特定のイオンを選択できるように調整することができる。FAIMSシステムには、種々の問題がある。それらは、コロナ放電デバイスのような、単一極性のイオンを主として生成させるイオン源と共に使用するのが難しいことがあり得る。これは、かかるデバイスによって生成するイオンの中には、FAIMSギャップの前の絶縁面に集まり、かかる面上に帯電する傾向があるものがある為である。このことは、ギャップに入る同種極性のイオンの数を減少させ、FAIMS装置が幾つかの物質を検出する能力を低下させ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、代替のイオン選択装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
上記で特定した類いのイオン選択装置であって、
該装置は、前記経路に沿って互いに間隔をあけており且つ該経路を横切って横方向に延在する第1及び第2の平行電極を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記装置は、前記2つの電極を通過するイオンもあれば、該2つの電極を通過しないイオンもあるように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体を含む
ことを特徴とするイオン選択装置が提供される。
【0006】
前記装置は、好ましくは、補償電圧を印加して、イオンの前記電極の通過を制御する配列体を含む。ワイヤー間に隙間を有し、該隙間を前記イオンが通過できるワイヤーグリッドによって、前記電極を準備してもよい。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置であって、
該装置は、前記経路の横方向に延在する電極配列体を含み、
該電極配列体は、選択されたイオンがそれを通過するのを可能とし、
また、前記装置は、第1の所定の値よりも大きく且つ第2の所定の値よりも小さい示差移動度を有するイオンのみが前記電極配列体を通過するように、前記電極配列体を横切って非対称電圧を印加して、該電極配列体中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体と、前記電極配列体に補償電圧を印加する配列体とを含む
ことを特徴とするイオン選択装置が提供される。
【0008】
前記電極配列体は、3つの平行電極を含んでもよく、前記非対称電圧が中央の電極に印加され、その外側の電極に2つの補償電圧が印加される。
【0009】
本発明のその他の態様によれば、
イオンの移動経路に沿った領域中でイオンを選択する方法であって、
該方法は、前記経路と平行に電場を形成することを含み、
該電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように、高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを含む
ことを特徴とする方法が提供される。
【0010】
前記電場は、好ましくは、前記イオンの中で選択したものだけが該電場を通過するように選択されたdc補償場を含む。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、
イオン源と、ドリフト領域と、該ドリフト領域に沿って進むイオンを検出するための検出器とを含むイオン移動度スペクトロメータであって、
該スペクトロメータは、該スペクトロメータの長さに沿って互いに間隔をあけており且つイオンの経路を横切って延在する第1及び第2の平行電極を含むイオン選択用の配列体を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記スペクトロメータは、前記イオンの中で選択したものだけが前記ドリフト領域を通過するように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続くより長い低い場の期間とを作り出す配列体を含む
ことを特徴とするイオン移動度スペクトロメータが提供される。
【0012】
前記イオン移動度スペクトロメータは、前記検出器へのイオンのゲート通過のためのゲートを含んでもよく、前記電極によって選択されたイオンだけが前記ゲートに移動するように、前記第1及び第2の平行電極が前記ゲートの上流に設置されている。2つの化学種がスペクトロメータから類似の出力を通常発する場合に、前記電極に印加する電圧は、一方の化学種に由来するイオンの通過を可能とし且つ他方の化学種に由来するイオンの通過を阻害するように選択されていてもよい。前記装置は、前記検出器と前記非対称場印加用配列体との間の領域に低い場を印加するための配列体を含んでもよい。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、
イオン源と、イオン検出器と、該イオン源と検出器の間に延在するイオンの流れ経路とを含む装置であって、
該装置は、前記検出器にイオンが到達するのに要する時間が低い場の移動度と高い場の移動度との間の違いに依存するよう、前記経路に沿って流れるイオンを高い場と低い場とに交互にさらすために、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路と実質平行に非対称電場を印加するための配列体を含む
ことを特徴とする装置が提供される。
【0014】
前記非対称場は、好ましくは、前記イオンの流れ経路に直角に延在し且つ該経路に沿って互いに間隔をあけている2つの平行グリッド電極間に印加される。
【0015】
本発明の第6の態様によれば、
イオン検出器に向かうイオンの流れ経路に沿ってイオンを供給する工程と、
前記経路に沿って流れるイオンが高い場と低い場とに交互にさらされるように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路に実質平行な非対称電場に前記イオンをさらす工程と、
前記検出器にイオンが到達するのに要する時間を測定する工程と、
測定された前記検出器に到達するのに要する時間に従って、イオンに関する情報を提供する工程と
を含む、イオンに関する情報の提供方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここで、本発明に従うIMSシステムを、一例として、添付の図面、即ち、前記システムを概略的に示す図1、図1のシステムのイオンフィルターの一部を拡大して示す図2、前記イオンフィルターに印加する電圧を示すグラフである図3、第1の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンによる移動距離を示すグラフである図4、第2の、即ち、逆の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンによる移動距離を示すグラフである図5、図4及び図5に示す配列の組み合わせを示すグラフである図6、図6に示すグラフトと類似するものの、補償電圧の一方を調整して帯域通過の幅を増加させたグラフである図7、図6及び図7に示す組み合わせ配列の実施を可能とする電極配列体を概略的に示す図8、前記システムの変形例を概略的に示す図9、及び図9の配置の変形例を概略的に示す図10を参照して説明する。
【0017】
まず、図1及び図2を参照するに、当該システムは、入口2を有するIMSドリフトセル1を含み、該入口2によって、分析するサンプル空気を装置に供給する。入口2は、半透膜や、関心対象の分子の通過を可能としつつ他の分子の大部分を排除する任意の他の形態からなるもの等の選択障壁6を介して、セル1の内部の左側末端に開口している。或いは、障壁6は、国際公開第93/01485号に記載されているようなピンホールのように、非選択的であってもよい。障壁の代わりに、欧州特許第596978号に記載されている類いのような他のインターフェースによって、分析するサンプルをセル1に供給してもよい。
【0018】
障壁6は、コロナ放電ニードル7’等のイオン源を含むイオン化領域7に通じており、イオン源は、単一の極性、即ち、正又は負のイオンを主として生成させる。63Ni又は241Amのような放射性同位体や、レーザーのような光子源等の他のイオン源を用い、光電離によってイオンを生成させることもできる。イオン化領域7の右側においては、ブラッドベリー・ニールソン・ゲーティンググリッド8が、一連のドリフト電極10によって形成されるドリフト領域9中へのイオン化された分子の通過を制御する。印加された電場を用いて、或いは左から右へのガスの流れによって、左から右、即ち、イオン化領域7からゲート8に、イオンを移動させる。セル1の右側末端のコレクタ又は検出板11は、ドリフト領域9を通過したイオンを集める。スクリーングリッド12は、コレクタ板11の前に接近して設置され、適切な電位に維持されており、さもなければ入ってくるイオンによって発生するイメージ電荷から該板11を遮蔽する。該板11は、プロセッサ又はコントロールユニット20に出力をもたらし、また、プロセッサ又はコントロールユニット20は、ゲート8及び当該システムの種々の他の機能を制御する。プロセッサ20は、ディスプレイ21、又はサンプルの性質を示す他の利用手段に出力をもたらす。
【0019】
右側末端において、セル1は注入口30を有し、該注入口30によって、再循環され、綺麗になった乾燥ドリフトガスをセルの内部に供給し、該セルの内部において、乾燥ドリフトガスは、右から左に移動し、イオン化領域7中のゲーティンググリッド8の近傍の排気口31を介して、流出する。排気口31に連結された注入口33とモレキュラーシーブ40に連結された排出口34とを有するポンプ32を用いて、注入口30に空気を供給し、ここで、モレキュラーシーブ40がドリフトチャンバー9から排出された空気を綺麗にし且つ乾燥する。また、綺麗な空気源を循環させ、膜を通して拡散する検体の蒸気と混合するために、モレキュラーシーブ40の排出口45は、バルブ41を介して、膜6のまさに下流の注入口42に連結している。
【0020】
当該システムは、配列体50を含み、該配列体50がゲート8の近傍及び上流に位置して、装置に沿うイオンの流れを変えることによって、以前のIMSシステムと異なる。図1及び図2に示す配置において、これは、イオン選択手段又はイオンフィルターとして機能する。
【0021】
イオンフィルター50は、装置の長さ及びイオン60の移動経路Pに対し直角に配列された2つの電極51及び52を具える。2つの電極51及び52は、イオン60の移動経路Pと交差して延びているので、ゲート8を通過した総てのイオンは、該電極をまず通過しなければならない。電極51及び52の構造は、イオンの通過を可能とするようなものであり、即ち、それらは、イオンが通過できる間隙又は開口を含む。本実施例では、各電極51及び52は、接近して間隔を置いた平行ワイヤー53のグリッドによって形成されている。2つの電極51及び52中のワイヤーの角度方向は、重要な意味をもたず、即ち、それらは、平行から直角までの如何なる角度であってもよいが、本実施例では、平行に並べられている。典型的には、各グリッド51及び52中のワイヤー53は、直径が0.02mmであり、互いに0.1mmほど間隔を置いている。2つの電極グリッド51及び52は、平行で、互いに0.5mmほど間隔を置いている。
【0022】
このイオン選択配列体は、イオン移動度スペクトロメータを有する用途に限定されず、他の検出器と共に使用でき、或いはイオンを選択する必要がある他の集成装置中でも使用できる。
【0023】
プロセッサ20は、2つの電極グリッド51及び52間に図3に示す類いの電圧を印加する。該電圧は、非対称であり、比較的高電圧V1の短い期間t1と反対の極性の比較的低電圧V2のより長い間隔t2とからなる。少なくとも1サイクルに渡って積分した正味の場はゼロである。直流補償電圧を非対称場に付加して、イオンの運動を妨害又は促進する。この補償電圧を調整することによって、必要に応じて、示差移動度のカットオフポイントを設定することが可能となる。示差移動度は、低い場での移動度と高い場での移動度との値の差である。必要な最小値よりも大きな示差移動度を有する総てのイオンは、最終的には、通過することとなる。
【0024】
低い場E1での移動度がK1で、高い場E2での移動度がK2で、高電圧V1での時間がt1で低電圧V2での時間がt2であるような非対称波形の場合、非対称波形の周波数は1/(t1+t2)であり、1つの波形サイクルにおいて移動する正味の距離は、
S=K1・E1・t1+K2・E2・t2
である。
【0025】
電極51及び52間のギャップをD、補償電圧をCとすると、
E1=(V1+C)/D、及び、E2=(V2+C)/D
である。
【0026】
N個の波形サイクル後、かかるデバイスを通過するイオンに対しては、
N・S≧D
または、
N{K1・t1((V1+C)/D)+K2・t2((V1+C)/D)}≧D
であり、再整理すると、
N{K1・t1((V1+C)/D2)+K2・t2((V1+C)/D2)}≧1
となる。
【0027】
この単純モデルによって示される挙動を、図4中のグラフに示す。これは、高い場での移動度K2に対してプロットしたあるrfサイクル番号におけるイオンの移動距離Sを示している。低い場での移動度K1を1に設定し、補償電圧Cを印加する。
【0028】
グリッド間のギャップDが1であるデバイスの場合、これらの条件下では、K2が約1.125より大きい総てのイオンがデバイスを通過することとなる。
【0029】
図4のグラフ中の線の傾きは、イオンに許される時間に依存する。理想条件下では、該線は、K2軸に直交するであろう。
【0030】
上記の実施例においては、示差移動度によって生じるイオンの運動を妨害するように補償電圧Cを設定する。或いは、示差移動度の影響がイオンが遠い方のグリッド51を通過するのを止めさせる傾向がでるように、波形の極性を逆にすることもできる。適当な補償電圧Cの印加によって、異なる状況となるであろう。この状況では、ある大きさよりも示差移動度が小さいイオンが通過するであろう。図5に示すグラフは、この状況を図解している。K2が約1.126より小さいイオンが通過することとなる。
【0031】
これら2つの配列を組み合わせて、図6のグラフに示すような、高い場での移動度の通過域を有する複合システムを作ることができる。この状況では、K2が非常に狭い範囲内にあるイオンのみが伝わる。補償電圧Cを変えて、透過用の実際のK2値を設定することができる。補償電圧を走査して、高場スペクトルを作ることができる。これは、イオン抽出の方向が分析場の方向と同じであるので、平行運動スペクトロメータと見なすことができる。
【0032】
加えて、一方又は両方の補償電圧を変更することによって、かかる複合デバイスの分解能を調整してもよい。図7に示す配列においては、例えば、単に一方の補償電圧Cを調整することによって、より広範囲のイオンを選択し、通過域を大きくする。
【0033】
図8は、3つのグリッド電極151、152及び153を有し、外側の電極151及び152に2つの独立した補償電圧(C1及びC2)が印加され、中央の電極153に1つの非対称波形が印加される複合システムを如何にして実施できるかを示している。
【0034】
上記のグリッド構造体を用いつつ、バルクガスがグリッド電極を通過する場合、移動度の選択操作が妨害され得るが、これは、実行上の問題とはならないようである。
【0035】
面積が1cm2のグリッドを貫流する240cm3・min-1の典型的なガス流を考えると、ガスの平均速度は約4cm・sec-1となる。従前の飛行時間型IMSでは、とても大きなイオンに対する低い場でのイオン速度は、200V・cm-1の場に対して約500cm・sec-1となるであろう。イオン速度は、約2V・cm-1の場でガス速度と適合している。分析ギャップが約0.5mmのデバイスの場合、2V・cm-1の場は、0.1ボルトの電位差(補償電圧)に相当する。高場デバイスに対する典型的な補償電圧は5ボルト程となるであろうから、ガスの流れが完全に止まったとしても、必要な補償電圧に2%の変化を生じるに過ぎないであろう。
【0036】
本発明の集成装置は、比較的簡単な構造だけを必要とするという利点を有し、該比較的簡単な構造は、容易に構築することができる。デバイスの分解能は、電子的に調整することができる。該集成装置は、飛行時間型イオン移動度スペクトロメータに適合し得るし、また、複合機器中の第1段階を形成することもできる。
【0037】
これらのシステムにおいて、イオンがデバイスを通過するのに要する時間は、とりわけ、示差移動度に依存する。代替となる高場スペクトロメータを製造することができ、該スペクトロメータにおいては、イオンのパルスをスペクトロメータへ入れることが可能であるため、出力がスペクトルとなり、該スペクトルにおいては、イオンの到着時間が示差移動度に反比例する。
【0038】
イオンの流れ経路と実質平行に印加される非対称場は、完全にイオンをフィルターにかけたり除去したりするために使用する必要はないが、イオンが検出器に達するのに要する時間を変えるために使用することができる。図9に示す配置において、ゲート104の右に位置する時間シフト分析器106は、異なる大きさの電場にイオンをさらした場合のイオン移動度における変化を測定するために配置されている。分析器106は、ハウジング101の横方向、即ち、装置に沿って左から右へのイオンの軸方向の流れ経路に対して直角に延びる2つのグリッド電極107及び108を含む。グリッド電極107及び108は、互いに平行に延びて、狭い間隔をあけており、典型的には約0.5mmの距離を置いている。2つの電極107及び108は、ハウジング1の外側において、2つの電極間に非対称電圧を印加するために配置された電気デバイスユニット110と電気的に接続されている。検出板111によって、出力がもたらされる。
【0039】
図3に示す類いの波形を2つの電極107及び108間に印加して、イオンを振動させる。高い場での移動度の違いを無視すると、イオンによる移動距離は、電圧と該電圧を印加する時間間隔との積に左右される。高い場の期間のイオンによる移動距離がより長い低い場の期間の反対方向への移動距離と同じになるように、低電圧期間の時間間隔を高電圧期間の時間間隔よりも長くする。そのため、交番場自体は、場に依存した移動度を有さないイオンの平均位置に変化をもたらさない。しかしながら、場の強さによって移動度が変わる場合には、各サイクルの高場及び低場部分の期間におけるイオンによる移動距離に違いがあり、イオンの平均位置に変化をもたらす。そのため、場依存イオンの平均位置は、高場及び低場の、特定イオンの移動度の場依存変化についての大きさで決まる速度で徐々に変化する。
【0040】
移動度が電場で変化しない場合、即ち、K1=K2の場合、
S=K2(E1・t1+E2・t2)、又は、
S=K2(V1・t1/D+V2・t2/D)=K2(V1・t1+V2・t2)/D
である。そのため、
S=0
となる。
【0041】
しかしながら、移動度が場の大きさに依存する場合、イオンは、Nサイクルの波形で、グリッド7及び8の間のギャップDを横断することとなり、
N・S=D
となる。所要時間Tは、
T=N・(t1+t2)
で与えられる。N=D/Sの場合、
N=D/(K1・E1・t1+K2・E2・t2)
となる。V1・t1=−V2・t2、E1=V1/D、及び、E2=V2/Dであることを考慮すると、
E1・t1=V1・t1/D
そして、
E2・t2=−V1・t1/D
となり、そのため、
N=D/(K1・V1・t1/D−K2・V1・t1/D)
又は、
N=D2/V1・t1(K1−K2)
となる。それ故、所要時間は、
T=D2(t1+t2)/V1・t1(K1−K2)
で与えられる。
【0042】
従って、グリッド107及び108間をイオンが移動するのに要する時間は、グリッドの間隔Dの二乗に比例し、高場移動度と低場移動度と間の差に反比例し、印加した電圧に反比例する。
【0043】
場に依存しないイオンよりも、場に依存するイオンが検出器11に到達するのに要する時間の間により大きな違いをもたらすために、前記装置は、グリッド電極の一連の対で形成され順々に配置された時間シフト分析器を幾つか含んでもよい。幾つかの用途では、一方のグリッド電極の電圧を正にし、他方の電極の電圧を負にするために、高電圧及び低電圧の極性を逆にする必要があるかもしれない。
【0044】
この装置を操作することが可能な種々の方法がある。
【0045】
第1の配置においては、幾つかの異なるイオン種のパルスがゲート104を入って分析器106に行くことができる。個々のイオンの低い場での移動度と高い場での移動度との間の違いに依存した異なる時間で、検出板111において信号が発生する。この単純な配置を利用して移動度の差を測定することができ、プロセッサ112において、既知物質の移動度差の格納データと比較する。この方法では、物質又は混合物の化学組成を決定したり、関心対象の物質の有無を決定したりすることができる。
【0046】
上記に概略を説明した第1の配置の問題は、2種類のイオン、即ち、移動度が電場で変わらないイオンと、場に依存した移動度を有するものの非対称場がそれらをゲート104に向かって逆戻りさせるイオンとの検出ができないことである。第2種類のイオンは、場を単に逆にすることで同定できるが、このことは、場に依存した移動度を有さないイオンの同定を不可能にしてしまう。この問題を解消するために、静電場成分を加えて、総てのイオンが確実に分析器106を通過して検出板111に到達するようにできる。これは、グリッド電極107及び108間に印加する電圧に静電dc成分を加えることによって達成でき、或いは、このdc成分を別の電極を介して加えることもできる。
【0047】
静電場を使用できる種々の異なる方法がある。一つの方法では、非対称場のスイッチを切り、dc場のみを印加して、従前のIMS機器と同様の方式で、イオンが検出板111に移動する。そして、検出板111の出力が、イオンの低い場での移動度の指標をもたらす。次に、非対称場のスイッチをオンにして、イオンの到達時間を測定する。これらの2つの場条件における時間の違いは、電場で移動度がどの程度変化するかを示す。
【0048】
補償電圧Cの付加により、所要時間Tが下記:
T=D2・(t1+t2)/{V1・t1(K1−K2)+C・(K1・t1+K2・t2)}
のように変更される。従って、高場及び低場での移動度が同じ、即ち、K1=K2の場合、K1−K2項が消え、時間Tは、イオンの移動度とdc場の大きさCとで定義される。
【0049】
代替の方法は、dc場成分の値Cの適切な調整に依存する。Cの値は、小さいものの(Ca)、非対称場がオフで関心対象のイオンの総てがデバイスを通過するように、最初に設定する。イオンの到達時間を検出し、プロセッサ112に格納する。次に、デバイスユニット110が非対称場のスイッチをオンにし、引き続き、各イオンタイプに対して、例えば、イオンの到達時間が非対称場のスイッチをオフにしていたときの到達時間に戻るように、Cの値を調整する。このCの新しい値(例えば、Cb)を各イオンに対してプロセッサ112中に格納し、CaとCbとの間の違いを、電場でイオン移動度がどの程度変化するかの尺度とする。再度、プロセッサ112は、これを用いて、異なる物質に対する移動度の変化の格納表と比較することで、イオンの性質を同定することができる。
【0050】
図9に示す装置を単独で用いて、イオンに関する情報を得てもよい。また、より一層の追加情報を提供するために、該装置を他の形態の検出器と組み合わせてもよい。例えば、該装置を、低場条件下でのイオンの移動度を測定するために作動する従前の時間飛行型イオン移動度スペクトロメータと容易に組み合わせることができる。最も好都合には、IMS機能を、図10に示すように、同じハウジング101’中において、時間シフト分析器106’の電極107’及び108’と検出板111’との間で、場依存装置と組み合わせることができる。これは、ハウジング101’に沿って互いに間隔を置いており且つ検出板に向かって徐々に高くなる電圧を電極に印加するために配置された駆動ユニット110’に接続された多数の追加電極114’を準備することで簡単に達成できる。この方法では、漸増dc場を構築して、イオンを検出板111’に向かって推進させる。
【0051】
前記装置には、種々の他の変形が可能である。
【0052】
該装置は、イオン源とゲートとの間にイオン−分子反応領域を含むことができる。この領域において、イオン源で生成した一次イオンを、分析するガスのイオン化されていない分子と混合できる。
【0053】
装置が分析器へのイオンの進入を制御するためのゲートを有することは、必須ではない。dc電圧Cの大きさを走査することによって、引き続いて、異なる示差移動度を有するイオンが検出板に達することとなる。検出器の信号を微分することで、示差移動度のスペクトルが得られる。dc電圧に加えて、低周波数、低電圧の交番電位を印加した場合、微分する必要なく、検出板で信号中のこの周波数成分の大きさを測定することができるであろう。
【0054】
非対称波形が充分な大きさである場合、英国特許第0508239.1号に記載の手法でイオンの改変が起こるであろう。これによって、追加のイオンがもたらされ、更には、検体物質の確実な同定が容易になる。この改変は、ドーパント付加化合物の除去の結果であっても、イオン自体の分裂と娘種の生成の結果であってもよい。分析器自体を用いて、このイオンの改変を起こさせてもよいし、別のイオン変性領域を時間シフト分析器の前又は後に導入することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】前記システムを概略的に示す。
【図2】図1のシステムのイオンフィルターの一部を拡大して示す。
【図3】前記イオンフィルターに印加する電圧を示すグラフである。
【図4】第1の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンの移動距離を示すグラフである。
【図5】第2の、即ち、逆の波形極性で、高い場での移動度が異なるイオンの移動距離を示すグラフである。
【図6】図4及び図5に示す配列の組み合わせを示すグラフである。
【図7】図6に示すグラフトと類似するものの、補償電圧の一方を調整して帯域通過の幅を増加させたグラフである。
【図8】図6及び図7に示す組み合わせ配列の実施を可能とする電極配列体を概略的に示す。
【図9】前記システムの変形例を概略的に示す。
【図10】図9の集成装置の変形例を概略的に示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置において、
該装置は、前記経路に沿って互いに間隔をあけており且つ該経路と交差して横方向に延在する第1及び第2の平行電極(51及び52;151及び152)を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記装置は、前記2つの電極(51及び52;151及び152)を通過するイオンもあれば、該2つの電極を通過しないイオンもあるように、前記2つの電極(51及び52;151及び152)間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)を含む
ことを特徴とするイオン選択装置。
【請求項2】
前記イオン選択装置が、補償電圧を印加して、イオンの前記電極(51及び52;151及び152)の通過を制御する配列体(20)を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン選択装置。
【請求項3】
ワイヤー間に隙間を有し、該隙間を前記イオンが通過できるワイヤーグリッド(51及び52;151及び152)によって、前記電極が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン選択装置。
【請求項4】
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置において、
該装置は、前記経路の横方向に延在する電極配列体(50;151から153)を含み、
該電極配列体は、選択されたイオンがそれを通過するのを可能とし、
また、前記装置は、第1の所定の値よりも大きく且つ第2の所定の値よりも小さい示差移動度を有するイオンのみが前記電極配列体を通過するように、前記電極配列体(50;151から153)と交差して非対称電圧を印加して、該電極配列体中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)と、前記電極配列体(50;151から153)に補償電圧を印加する配列体とを含む
ことを特徴とするイオン選択装置。
【請求項5】
前記電極配列体が3つの平行電極(151から153)を含むことを特徴とする請求項4に記載のイオン選択装置。
【請求項6】
前記非対称電圧が中央の電極(153)に印加され、その外側の電極(151及び152)に2つの補償電圧が印加されることを特徴とする請求項5に記載のイオン選択装置。
【請求項7】
イオンの移動経路に沿った領域中でイオンを選択する方法において、
該方法は、前記経路と平行に電場を形成することを含み、
該電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように、高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように選択されたdc補償場を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン源(7’)と、ドリフト領域(9)と、該ドリフト領域に沿って進むイオンを検出するための検出器(11)とを含むイオン移動度スペクトロメータにおいて、
該スペクトロメータは、該スペクトロメータの長さに沿って互いに間隔をあけており且つイオンの経路と交差して延在する第1及び第2の平行電極(51及び52;151及び152)を含むイオン選択用の配列体を含み、
該電極(51及び52;151及び152)は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記スペクトロメータは、前記イオンの中の選択したものだけが前記ドリフト領域(9)を通過するように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)を含む
ことを特徴とするイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項10】
前記検出器(11)へのイオンのゲート通過のためのゲート(8)を含み、
前記電極によって選択されたイオンだけが前記ゲートに移動するように、前記第1及び第2の平行電極(51及び52)が前記ゲート(11)の上流に設置されている
ことを特徴とする請求項9に記載のイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項11】
2つの化学種がスペクトロメータから類似の出力を通常発する場合に、前記電極(51及び52;151及び152)に印加する電圧が、一方の化学種に由来するイオンの通過を可能とし且つ他方の化学種に由来するイオンの通過を阻害するように選択されていることを特徴とする請求項9又は10に記載のイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項12】
前記装置が、前記検出器と前記非対称場印加用配列体との間の領域に低い場を印加するための配列体(10)を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
イオン源と、イオン検出器(111、111’)と、該イオン源と検出器の間に延在するイオンの流れ経路とを含む装置において、
該装置は、前記検出器(111、111’)にイオンが到達するのに要する時間が低い場の移動度と高い場の移動度との間の違いに依存するように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路と実質平行に非対称電場を印加して、前記経路に沿って流れるイオンを高い場と低い場に交互にさらするための配列体(107、108;107’、108’)を含む
ことを特徴とする装置。
【請求項14】
前記非対称場が、前記イオンの流れ経路に直角に延在し且つ該経路に沿って互いに間隔をあけている2つの平行グリッド電極(107、108;107’、108’)間に印加されることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
イオン検出器(111、111’)に向かうイオンの流れ経路に沿ってイオンを供給する工程と、
前記経路に沿って流れるイオンが高い場と低い場とに交互にさらされるように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路に実質平行な非対称電場に前記イオンをさらす工程と、
前記検出器(111、111’)にイオンが到達するのに要する時間を測定する工程と、
測定された前記検出器に到達するのに要する時間に従って、イオンに関する情報を提供する工程と
を含む、イオンに関する情報の提供方法。
【請求項1】
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置において、
該装置は、前記経路に沿って互いに間隔をあけており且つ該経路と交差して横方向に延在する第1及び第2の平行電極(51及び52;151及び152)を含み、
該電極は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記装置は、前記2つの電極(51及び52;151及び152)を通過するイオンもあれば、該2つの電極を通過しないイオンもあるように、前記2つの電極(51及び52;151及び152)間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)を含む
ことを特徴とするイオン選択装置。
【請求項2】
前記イオン選択装置が、補償電圧を印加して、イオンの前記電極(51及び52;151及び152)の通過を制御する配列体(20)を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン選択装置。
【請求項3】
ワイヤー間に隙間を有し、該隙間を前記イオンが通過できるワイヤーグリッド(51及び52;151及び152)によって、前記電極が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン選択装置。
【請求項4】
経路に沿ってイオンを供与する手段を含むイオン選択装置において、
該装置は、前記経路の横方向に延在する電極配列体(50;151から153)を含み、
該電極配列体は、選択されたイオンがそれを通過するのを可能とし、
また、前記装置は、第1の所定の値よりも大きく且つ第2の所定の値よりも小さい示差移動度を有するイオンのみが前記電極配列体を通過するように、前記電極配列体(50;151から153)と交差して非対称電圧を印加して、該電極配列体中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)と、前記電極配列体(50;151から153)に補償電圧を印加する配列体とを含む
ことを特徴とするイオン選択装置。
【請求項5】
前記電極配列体が3つの平行電極(151から153)を含むことを特徴とする請求項4に記載のイオン選択装置。
【請求項6】
前記非対称電圧が中央の電極(153)に印加され、その外側の電極(151及び152)に2つの補償電圧が印加されることを特徴とする請求項5に記載のイオン選択装置。
【請求項7】
イオンの移動経路に沿った領域中でイオンを選択する方法において、
該方法は、前記経路と平行に電場を形成することを含み、
該電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように、高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記電場は、前記イオンの中の選択したものだけが該電場を通過するように選択されたdc補償場を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
イオン源(7’)と、ドリフト領域(9)と、該ドリフト領域に沿って進むイオンを検出するための検出器(11)とを含むイオン移動度スペクトロメータにおいて、
該スペクトロメータは、該スペクトロメータの長さに沿って互いに間隔をあけており且つイオンの経路と交差して延在する第1及び第2の平行電極(51及び52;151及び152)を含むイオン選択用の配列体を含み、
該電極(51及び52;151及び152)は、イオンがそれらを通過できるように配置されており、
また、前記スペクトロメータは、前記イオンの中の選択したものだけが前記ドリフト領域(9)を通過するように、前記2つの電極間に非対称電圧を印加して、該電極間の間隙中に高い場の期間とそれに続く低い場のより長い期間とを作り出す配列体(20)を含む
ことを特徴とするイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項10】
前記検出器(11)へのイオンのゲート通過のためのゲート(8)を含み、
前記電極によって選択されたイオンだけが前記ゲートに移動するように、前記第1及び第2の平行電極(51及び52)が前記ゲート(11)の上流に設置されている
ことを特徴とする請求項9に記載のイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項11】
2つの化学種がスペクトロメータから類似の出力を通常発する場合に、前記電極(51及び52;151及び152)に印加する電圧が、一方の化学種に由来するイオンの通過を可能とし且つ他方の化学種に由来するイオンの通過を阻害するように選択されていることを特徴とする請求項9又は10に記載のイオン移動度スペクトロメータ。
【請求項12】
前記装置が、前記検出器と前記非対称場印加用配列体との間の領域に低い場を印加するための配列体(10)を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
イオン源と、イオン検出器(111、111’)と、該イオン源と検出器の間に延在するイオンの流れ経路とを含む装置において、
該装置は、前記検出器(111、111’)にイオンが到達するのに要する時間が低い場の移動度と高い場の移動度との間の違いに依存するように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路と実質平行に非対称電場を印加して、前記経路に沿って流れるイオンを高い場と低い場に交互にさらするための配列体(107、108;107’、108’)を含む
ことを特徴とする装置。
【請求項14】
前記非対称場が、前記イオンの流れ経路に直角に延在し且つ該経路に沿って互いに間隔をあけている2つの平行グリッド電極(107、108;107’、108’)間に印加されることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
イオン検出器(111、111’)に向かうイオンの流れ経路に沿ってイオンを供給する工程と、
前記経路に沿って流れるイオンが高い場と低い場とに交互にさらされるように、前記イオンの流れ経路の少なくとも一部に沿って、前記イオンの流れ経路に実質平行な非対称電場に前記イオンをさらす工程と、
前記検出器(111、111’)にイオンが到達するのに要する時間を測定する工程と、
測定された前記検出器に到達するのに要する時間に従って、イオンに関する情報を提供する工程と
を含む、イオンに関する情報の提供方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2009−522750(P2009−522750A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549919(P2008−549919)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000021
【国際公開番号】WO2007/080376
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000021
【国際公開番号】WO2007/080376
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】
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