イカ切身食品の製造法
本発明は、アメリカオオアカイカ属に代表されるイカ特有の強い異味及び異臭を十分に、短時間で抑制することができ、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品においても適した、イカ切身食品、その冷凍品等の製造が可能なイカ切身食品の製造法を提供する。該製造法は、脱皮及び所望大きさにカットされたVBN値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、容器内において前記切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、工程(B)後の溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)又は工程(B)後の切身に、pH1.0〜5.0の酸溶液を接触させる工程(C−2)と、最後に切身を水洗する工程(D)とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカオオアカイカ属(Dosidicus)等の生イカ又は解凍イカにおける、特有の強い異味及び異臭の両方を十分に抑制することができ、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品においても適した、イカ切身食品、その冷凍製品等を製造することが可能な工業的にも優れたイカ切身食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
イカは、従来から主要な海産食料資源の1つとして知られており、多種にわたる加工食品等に利用されている。このようなイカの需要は、近年、惣菜や冷凍食品の需要の伸長に伴い、拡大の傾向にある。
一方、日本国のイカの漁獲量は、近年、減少傾向にあり輸入イカに頼らざるを得ないのが実状である。輸入イカといっても種類が多いが、近年、多量入手が可能であり、且つ安価なアメリカオオアカイカが注目され、これを利用した種々のイカ加工食品が市販されるようになってきている。
該アメリカオオアカイカは、深海性のイカで浮力調整のためアンモニア成分等を体内に多く保持している。このため、食した際に独特のえぐ味等の異味や、アンモニア臭等の異臭が感じられる。このような異臭は、揮発性窒素値(以下、VBN値と略す)を測定することにより調査できる。生イカ又は解凍イカの場合、通常、該VBN値が25mg/100gを超えると異臭を感じるヒトが僅かにあり、VBN値が30mg/100g以上では多くのヒトが異臭に加えて異味までも感じる。
このような異味及び異臭を抑制又はマスキングするために、従来はかなり強い呈味成分で味付けするような調理法を採用せざるを得なく、その商品の種類は自ずと制限されていた。
そこで、アメリカオオアカイカ等の異味及び異臭が感じられる生イカ又は解凍イカを原料とした場合であっても、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ、イカのフリッター等の比較的弱い味付けの状態で食する製品の開発が望まれている。
【0003】
従来、アメリカオオアカイカの異味又は異臭を抑制する方法として、例えば、特許文献1には、原料イカを、リン酸塩類を用いた緩衝剤を必須成分とし、浸透剤、保護剤の各々1種以上を溶解し、アルカリ剤にてpHを6〜11とした液中に室温以下の温度で30時間未満浸漬して、原料イカに含有される不快味成分を抽出低減せしめる生鮮イカの処理方法が提案されている。また、特許文献2には、アメリカオオアカイカの肉部を食塩及び有機酸のナトリウム塩混合物の水溶液で処理することを特徴とするアメリカオオアカイカの異味成分の減少方法が提案されている。
しかし、これらの方法により得られるアメリカオオアカイカの切身では、異味又は異臭抑制効果が十分とは言えず、調理においては、ある程度強い味付けが必要な場合が多い。
ところで、特許文献3には、生のイカをアルカリ水溶液で処理し、次いで、処理したイカに付着したアルカリ水溶液を洗浄するか、又は酸で中和することを特徴とするイカの褐変若しくは黒化防止方法が提案されている。
該方法に適用しうるイカとしては、ヒナイカ、ミズイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカ、ホタルイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、スルメイカ、ソデイカ、モンゴウイカ等が挙げられている。しかし、褐変若しくは黒化が生じない脱皮後のアメリカオオアカイカの切身が対象とされることは無く、しかも、アメリカオオアカイカ等の特有の異味や異臭を有する生イカ又は解凍イカにおける異味及び異臭を抑制するための方法については何等開示されていない。
【特許文献1】特許第3383024号公報
【特許文献2】特許第3269896号公報
【特許文献3】特開2002−34519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アメリカオオアカイカ属等の生イカ又は解凍イカにおける特有の強い異味及び異臭の両方を十分に、しかも短時間で抑制することができ、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品においても適した、工業的生産にも有用なイカ切身食品の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した、まず、アメリカオオアカイカ特有の異味の原因成分と考えられる塩化アンモニウム等を除去するために、アルカリ溶液による処理を試みた。その結果、アルカリ剤による溶液のpH調整よりもアルカリ剤の濃度が異味成分の除去促進にかかわっていることがわかった。しかし、アルカリ溶液について更に検討していく過程において、イカ肉部の表面における蛋白質分解等を抑制してアルカリ溶液による処理を、工業的生産に可能な時間において実施した場合、アメリカオオアカイカでは、アンモニア成分等の完全な除去が極めて困難であることがわかった。加えて、異味が感じられない程度にアルカリ処理を調整すると、逆に異臭が強くなり、一方、異臭をある程度抑えるようなアルカリ処理を行った場合には異味が残り、異味と異臭との両方を十分に抑制することが困難であることがわかった。
そこで、異味を十分に抑制した後に残る強い異臭を抑制する方法について更に検討した結果、アルカリ処理した後の水洗処理していない切身に特定な酸処理を施すことにより、そのような課題が解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明によれば、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値(VBN値)が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)と、工程(C−1)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法が提供される。
また本発明によれば、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、前記工程(A)と、前記工程(B)と、工程(B)終了後の切身に、pH1.0〜5.0の酸溶液を接触させる工程(C−2)と、前記工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造法では、工程(A)〜(D)、特に工程(B)と、工程(C−1)又は工程(C−2)とを組合せてこの順で実施するので、アメリカオオアカイカ属等の生イカ又は解凍イカにおける特有の強い異味及び異臭の両方を十分に、しかも短時間で抑制することができる。従って、得られるイカ切身は、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品に適用することができ、特に冷凍製品等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していないVBN値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)を行なう。
工程(A)において準備するイカの肉部切身は、加熱処理していない特定のVBN値を示すものであれば、生イカであっても、解凍イカであっても良い。
本発明に用いる特定のVBN値を示すイカは、該VBN値がイカの漁獲地、漁獲時期等においても大きく変化するので、イカの種類のみでは限定できないが、通常、アメリカオオアカイカ属、特にアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)はほとんどがVBN値30mg/100g以上であることが多い。
前記アメリカオオアカイカ属(Dosidicus)は、分類学上は軟体動物MOLLUSCA門、頭足類CEPHALOPODA綱、ツツイカ類Teuthoidea目、開眼類Oegopsida亜目、アカイカ科Ommastrephidae科に属するスルメイカ類である。
【0009】
工程(A)に用いるイカ肉部切身のVBN値は、30mg/100g以上であれば良いが、本発明の製造法による効果がより顕著に表れるVBN値50mg/100g以上のイカ肉部切身を好適に用いることができる。VBN値の上限は特に限定されないが、通常300mg/100g程度である。
ここで、イカ肉部切身のVBN値の測定は、例えば、微量拡散法(コンウェイ法)に従って測定することができる。
工程(A)において、脱皮は、公知の方法等で行うことができ、物理的方法、化学的方法のいずれでも良い。また、脱皮処理と所望大きさへのカット処理との順序は特に限定されない。ここで、所望大きさは、その調理目的や処理設備の規模等に応じて適宜選択することができる。
【0010】
本発明の製造法では、所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、特定のpHで、且つ特定のアルカリ剤濃度のアルカリ溶液を接触させる工程(B)を行う。
工程(B)に用いる特定のアルカリ溶液は、pHが8.0〜13.0、好ましくは9.5〜12.0であり、且つアルカリ溶液中のアルカリ剤の濃度が、3.0重量%以上、好ましくは5.0〜30.0重量%、特に好ましくは5.0〜15.0重量%の溶液である。
前記アルカリ溶液のpHが8.0未満では、アルカリ剤の濃度を非常に高くする必要があり、また処理時間が長くなり効率が低下する。pHが13.0を超えるとイカ表面の蛋白質の変成が生じ、イカ本来の食感や風味が低下する。一方、アルカリ剤の濃度が3.0重量%未満では、所望の異味及び異臭の抑制効果が十分でない。
前記アルカリ剤としては、例えば、焼成カルシウム、炭酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等が挙げられ、使用に際しては単独若しくは2種以上の混合物として用いることができる。
前記アルカリ溶液は、前記アルカリ剤を通常、水に溶解して調製することができる。この際、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、且つ前記pH範囲及びアルカリ剤濃度を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいても良い。また、アルカリ溶液の温度は、所望の効果を十分に得るために、通常5〜15℃程度が好ましい。
【0011】
工程(B)において、所望容器は、前記切身に前記アルカリ溶液を接触、例えば、浸漬若しくは混合・接触等させることができるものであれば特に限定されず、例えば、タンブラー、パドルミキサー等に使用する容器が好適に挙げられる。
前記切身に前記アルカリ溶液を接触させる際の条件は、接触方法、容器の大きさ、切身とアルカリ溶液との量、アルカリ溶液のpH及びアルカリ剤濃度等に応じて適宜選択することができる。例えば、工程(B)終了時のアルカリ溶液のpHが8.0以上を示し、且つ工程(B)の最中に切身からアンモニアガスが十分に遊離するように接触条件を選択することが好ましい。タンブラー又はオートニーダーを用いた場合、アルカリ溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍程度とし、且つ処理時間が5分間〜1時間、好ましくは5〜30分間になるようアルカリ溶液のpHやアルカリ剤濃度を決定することが工業的生産においては好ましい。
また、工程(B)は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましく、更に、工程(B)においては、アンモニアガス等のガスが発生するので、真空引き等により発生するガスを廃棄しながら行うことができる。
【0012】
本発明の製造法では、工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)、若しくは工程(B)終了後の切身に、特定pHの酸溶液を接触させる工程(C−2)を行う。
工程(C−1)及び工程(C−2)に用いる酸溶液としては、例えば、クエン酸、酢酸、グルコン酸、アジピン酸、リンゴ酸、塩酸、硫酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の有機酸又はこれらの2種以上を含み、通常、pH1.0〜5.0.好ましくはpH1.0〜3.0の酸溶液が使用できる。
工程(C−1)においては、工程(B)によるアルカリ溶液を除去しないか、一部を除去し、該アルカリ溶液のpH及び量に合わせて、酸溶液を添加、混合する。この際、酸溶液のpH及び量は、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となるように決定することができる。酸溶液を添加、混合後の溶液のpHが4.0未満では、得られる切身表面の蛋白質変成が著しく、イカ本来の食感や風味が低下し、一方、該pHが7.9を超える場合には、イカの異臭抑制効果が十分でない。
【0013】
工程(C−1)において、酸溶液の添加、混合は、前記工程(B)で用いた混合・撹拌装置を停止し、酸溶液を添加し、再び混合・撹拌を最終的な溶液のpHが均一に前記範囲となるまで行うことが好ましい。
工程(C−2)においては、工程(B)によるアルカリ溶液を除去し、切身表面にアルカリ溶液が付着した状態で、pH1.0〜5.0、好ましくはpH1.0〜3.0の酸溶液を接触させる。接触は、前記工程(B)と同様に混合・接触させる方法により実施することができる。前記酸溶液を接触させる際の条件は、接触方法、切身と酸溶液との量、酸溶液のpH等に応じて適宜選択することができ、切身表面の蛋白質の変成が進み、イカ本来の食感や風味を損なう条件で無ければ良い。
工程(C−1)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合、酸溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.05〜3倍、好ましくは0.05〜1.5倍程度とし、且つ処理時間が1〜30分間、好ましくは5〜15分間となるように酸溶液のpH等を決定することが工業的生産においては好ましい。また工程(C−2)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合、酸溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍、好ましくは0.5〜1.5倍程度とし、且つ処理時間が1〜30分間、好ましくは5〜15分間となるように酸溶液のpH等を決定することが工業的生産においては好ましい。これらの工程は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましく、更に、これらの工程においては、炭酸ガス等のガスが発生するので、真空引き等により発生するガスを廃棄しながら行うことができる。
【0014】
本発明の製造法では、前記工程(C−1)又は(C−2)の後、得られた切身を水洗する工程(D)を行うことにより、所望のイカの加熱用切身食品を得ることができる。
工程(D)において水洗は、工程(C−1)又は(C−2)で処理した切身表面に付着した溶液を除去する工程であり、切身内部に浸透したアルカリ溶液や酸溶液を除去する必要は無い。水洗は、水の他、食塩水等を用いて行うこともできる。水洗を行うための水等の溶液の温度は、通常25℃以下、好ましくは5〜15℃である。
工程(D)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合には、前記工程(C−1)又は(C−2)において処理した溶液を廃棄した後、水洗のための溶液を、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍量程度投入し、工程(C−1)又は(C−2)において切身表面に付着した溶液が洗い流されるように、通常5分間〜1時間、好ましくは5〜30分間混合・撹拌することにより行うことができる。また、工程(D)は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましい。
本発明の製造法において、前記工程(D)終了後のイカ切身のVBN値は、工程(A)において用いた原料イカのVBN値においても異なるが、少なくともVBN値が30mg/100g未満であり、好ましくは28mg/100g以下、特に好ましくは26mg/100g以下である。
【0015】
本発明の製造法では、前記必須の工程以外に、本発明の所望の効果を損なうことが無ければ、他の工程を含んでいても良い。
他の工程としては、工程(D)の後、得られた切身を公知の方法により冷凍する工程、工程(D)の後、得られた切身に所望の加熱調理法に合わせた味付けや、例えば、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ又はイカのフリッター等に加工調理を行う工程や、このような味付けや加工調理した切身食品を冷凍する工程等が挙げられる。
前記味付けや加工調理は、公知の方法に基づいて行うことができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1〜7及び比較例1〜2
約4.5cm×4.0cm×1.2cmにカットされ、脱皮処理が施された冷凍のアメリカオオアカイカの肉部切身を解凍した。この肉部切身のVBN値をコンウェイ法により測定したところ、平均VBN値は63.1mg/100gであった。この肉部切身100重量部を、タンブリング装置(ヒガシモトキカイ社製、商品名ロータリーマッサージャー、容器の容積850リットル)の容器に投入し、表1に示すアルカリ溶液60重量部(容積基準で肉部切身の0.55倍)を該容器に添加して、3.5rpmの速度で15分間タンブリングを行った。タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。
次いで、タンブリング処理後の容器内に、pH1.7のクエン酸溶液を表1に示す量(重量部及び容積基準で肉部切身に対する倍数)添加し、前記と同じ条件で5分間タンブリングを行った。該タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。尚、ここまでの工程は20〜23℃の雰囲気で行った。
次に、タンブリング容器内の溶液を廃棄した後、15℃の水100重量部(容積基準で肉部切身の1.0倍)を入れて10分間タンブリングし切身を水洗した。得られたイカ切身を、沸騰水中で2分間ボイルし、4人の専門パネルに試食してもらい、味及び臭いについて以下の基準に基づいて評価してもらった。また、イカ切身を、イカフライとするためのパン粉付けを常法に従って行った後、−18℃で10日間冷凍保存した。冷凍状態のイカフライを常法に従って油ちょう処理し、上記と同様の専門パネルに試食してもらい評価を行った。更に、対照として原料の解凍後のイカ切身についても同様な評価を行った。結果を表2に示す。
尚、比較例2は酸溶液処理を行わなかった例である。また、実施例1で調製したボイル前のイカ切身の平均VBN値は25.7mg/100gであり、ボイル後の平均VBN値は21.1mg/100gであった。
【0017】
評価基準
味:点数が低い方が優れた評価である。
1点:えぐ味なし、2点:えぐ味がやや感じられる、3点:えぐ味が感じられる、4点:えぐ味がやや強く感じられる、5点:えぐ味が強く感じられる。
臭い:点数が低い方が優れた評価である。
1点:アンモニア臭がしない、2点:アンモニア臭がやや感じられる、3点:アンモニア臭が感じられる、4点:アンモニア臭がやや強く感じられる、5点:アンモニア臭が強く感じられる。
【0018】
実施例8
実施例1〜7で準備した解凍品の肉部切身100重量部を、タンブリング装置の容器に投入し、表1に示すアルカリ溶液60重量部(容積基準で肉部切身の0.55倍)を該容器に添加して、3.5rpmの速度で15分間タンブリングを行った。タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。
次いで、タンブリング処理後の容器内の溶液を廃棄した後、pH1.7のクエン酸溶液を表1に示す量(重量部及び容積基準で肉部切身に対する倍数)添加し、前記と同じ条件で5分間タンブリングを行った。該タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。尚、ここまでの工程は20〜23℃の雰囲気で行った。
次に、タンブリング容器内の溶液を廃棄した後、15℃の水100重量部(容積基準で肉部切身の1.0倍)を入れて10分間タンブリングすることで切身を水洗した。得られたイカ切身を、実施例1〜7と同様に調理及び冷凍し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0019】
比較例3
特許文献1(特許第33383024号公報)に記載された実施例5に準じてイカ切身を調製した。
即ち、ポリリン酸ナトリウム20重量部、無水ピロリン酸4ナトリウム20重量部、クエン酸3ナトリウム0.2重量部、血清蛋白質30重量部、無水炭酸ナトリウム4重量部、並びに旨味料としてのL−グルタミン酸ナトリウム6.7重量部、酵母エキス0.6重量部、粉末ソルビトール18重量部及び微粉末セルロース0.5重量部を、粉末混合装置により混合し、粉末配合製剤を調製した。得られた製剤の3%溶液(pH9.5、温度13±2℃)中に、実施例1〜7で準備したイカ切身の解凍品を入れて製剤溶液温度を維持するように30分間又は12時間浸漬処理を行った。得られたイカ切身について実施例1〜7と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0020】
比較例4
特許文献2(特許第3269896号)に記載された実施例に準じてイカ切身を調製した。
即ち、水96重量部、食塩2重量部、リンゴ酸ナトリウム2重量部の溶液中に、実施例1〜7で準備したイカ切身の解凍品を入れて、溶液温度を11〜15℃を維持するように、特許文献2に記載された実施例のDと同様の10分間に1回の頻度で10秒間、3回転/秒の間欠撹拌を行い、合計で30分間又は2時間の処理を行った。得られたイカ切身について実施例1〜7と同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例9
タンブリング装置の代わりに、オートニーダー(梶原工業社製、商品名「真空ニーダー」、容器容積750リットル)を用い、回転数を4.5rpmとした以外は実施例2と同様にイカ切身及びイカフライを調製し、同様な測定を行った。その結果、ほぼ実施例2と同様な結果が得られた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカオオアカイカ属(Dosidicus)等の生イカ又は解凍イカにおける、特有の強い異味及び異臭の両方を十分に抑制することができ、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品においても適した、イカ切身食品、その冷凍製品等を製造することが可能な工業的にも優れたイカ切身食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
イカは、従来から主要な海産食料資源の1つとして知られており、多種にわたる加工食品等に利用されている。このようなイカの需要は、近年、惣菜や冷凍食品の需要の伸長に伴い、拡大の傾向にある。
一方、日本国のイカの漁獲量は、近年、減少傾向にあり輸入イカに頼らざるを得ないのが実状である。輸入イカといっても種類が多いが、近年、多量入手が可能であり、且つ安価なアメリカオオアカイカが注目され、これを利用した種々のイカ加工食品が市販されるようになってきている。
該アメリカオオアカイカは、深海性のイカで浮力調整のためアンモニア成分等を体内に多く保持している。このため、食した際に独特のえぐ味等の異味や、アンモニア臭等の異臭が感じられる。このような異臭は、揮発性窒素値(以下、VBN値と略す)を測定することにより調査できる。生イカ又は解凍イカの場合、通常、該VBN値が25mg/100gを超えると異臭を感じるヒトが僅かにあり、VBN値が30mg/100g以上では多くのヒトが異臭に加えて異味までも感じる。
このような異味及び異臭を抑制又はマスキングするために、従来はかなり強い呈味成分で味付けするような調理法を採用せざるを得なく、その商品の種類は自ずと制限されていた。
そこで、アメリカオオアカイカ等の異味及び異臭が感じられる生イカ又は解凍イカを原料とした場合であっても、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ、イカのフリッター等の比較的弱い味付けの状態で食する製品の開発が望まれている。
【0003】
従来、アメリカオオアカイカの異味又は異臭を抑制する方法として、例えば、特許文献1には、原料イカを、リン酸塩類を用いた緩衝剤を必須成分とし、浸透剤、保護剤の各々1種以上を溶解し、アルカリ剤にてpHを6〜11とした液中に室温以下の温度で30時間未満浸漬して、原料イカに含有される不快味成分を抽出低減せしめる生鮮イカの処理方法が提案されている。また、特許文献2には、アメリカオオアカイカの肉部を食塩及び有機酸のナトリウム塩混合物の水溶液で処理することを特徴とするアメリカオオアカイカの異味成分の減少方法が提案されている。
しかし、これらの方法により得られるアメリカオオアカイカの切身では、異味又は異臭抑制効果が十分とは言えず、調理においては、ある程度強い味付けが必要な場合が多い。
ところで、特許文献3には、生のイカをアルカリ水溶液で処理し、次いで、処理したイカに付着したアルカリ水溶液を洗浄するか、又は酸で中和することを特徴とするイカの褐変若しくは黒化防止方法が提案されている。
該方法に適用しうるイカとしては、ヒナイカ、ミズイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカ、ホタルイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、スルメイカ、ソデイカ、モンゴウイカ等が挙げられている。しかし、褐変若しくは黒化が生じない脱皮後のアメリカオオアカイカの切身が対象とされることは無く、しかも、アメリカオオアカイカ等の特有の異味や異臭を有する生イカ又は解凍イカにおける異味及び異臭を抑制するための方法については何等開示されていない。
【特許文献1】特許第3383024号公報
【特許文献2】特許第3269896号公報
【特許文献3】特開2002−34519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アメリカオオアカイカ属等の生イカ又は解凍イカにおける特有の強い異味及び異臭の両方を十分に、しかも短時間で抑制することができ、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品においても適した、工業的生産にも有用なイカ切身食品の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した、まず、アメリカオオアカイカ特有の異味の原因成分と考えられる塩化アンモニウム等を除去するために、アルカリ溶液による処理を試みた。その結果、アルカリ剤による溶液のpH調整よりもアルカリ剤の濃度が異味成分の除去促進にかかわっていることがわかった。しかし、アルカリ溶液について更に検討していく過程において、イカ肉部の表面における蛋白質分解等を抑制してアルカリ溶液による処理を、工業的生産に可能な時間において実施した場合、アメリカオオアカイカでは、アンモニア成分等の完全な除去が極めて困難であることがわかった。加えて、異味が感じられない程度にアルカリ処理を調整すると、逆に異臭が強くなり、一方、異臭をある程度抑えるようなアルカリ処理を行った場合には異味が残り、異味と異臭との両方を十分に抑制することが困難であることがわかった。
そこで、異味を十分に抑制した後に残る強い異臭を抑制する方法について更に検討した結果、アルカリ処理した後の水洗処理していない切身に特定な酸処理を施すことにより、そのような課題が解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明によれば、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値(VBN値)が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)と、工程(C−1)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法が提供される。
また本発明によれば、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、前記工程(A)と、前記工程(B)と、工程(B)終了後の切身に、pH1.0〜5.0の酸溶液を接触させる工程(C−2)と、前記工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造法では、工程(A)〜(D)、特に工程(B)と、工程(C−1)又は工程(C−2)とを組合せてこの順で実施するので、アメリカオオアカイカ属等の生イカ又は解凍イカにおける特有の強い異味及び異臭の両方を十分に、しかも短時間で抑制することができる。従って、得られるイカ切身は、味付けや香り付けの薄い種々の加熱調理品に適用することができ、特に冷凍製品等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していないVBN値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)を行なう。
工程(A)において準備するイカの肉部切身は、加熱処理していない特定のVBN値を示すものであれば、生イカであっても、解凍イカであっても良い。
本発明に用いる特定のVBN値を示すイカは、該VBN値がイカの漁獲地、漁獲時期等においても大きく変化するので、イカの種類のみでは限定できないが、通常、アメリカオオアカイカ属、特にアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)はほとんどがVBN値30mg/100g以上であることが多い。
前記アメリカオオアカイカ属(Dosidicus)は、分類学上は軟体動物MOLLUSCA門、頭足類CEPHALOPODA綱、ツツイカ類Teuthoidea目、開眼類Oegopsida亜目、アカイカ科Ommastrephidae科に属するスルメイカ類である。
【0009】
工程(A)に用いるイカ肉部切身のVBN値は、30mg/100g以上であれば良いが、本発明の製造法による効果がより顕著に表れるVBN値50mg/100g以上のイカ肉部切身を好適に用いることができる。VBN値の上限は特に限定されないが、通常300mg/100g程度である。
ここで、イカ肉部切身のVBN値の測定は、例えば、微量拡散法(コンウェイ法)に従って測定することができる。
工程(A)において、脱皮は、公知の方法等で行うことができ、物理的方法、化学的方法のいずれでも良い。また、脱皮処理と所望大きさへのカット処理との順序は特に限定されない。ここで、所望大きさは、その調理目的や処理設備の規模等に応じて適宜選択することができる。
【0010】
本発明の製造法では、所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、特定のpHで、且つ特定のアルカリ剤濃度のアルカリ溶液を接触させる工程(B)を行う。
工程(B)に用いる特定のアルカリ溶液は、pHが8.0〜13.0、好ましくは9.5〜12.0であり、且つアルカリ溶液中のアルカリ剤の濃度が、3.0重量%以上、好ましくは5.0〜30.0重量%、特に好ましくは5.0〜15.0重量%の溶液である。
前記アルカリ溶液のpHが8.0未満では、アルカリ剤の濃度を非常に高くする必要があり、また処理時間が長くなり効率が低下する。pHが13.0を超えるとイカ表面の蛋白質の変成が生じ、イカ本来の食感や風味が低下する。一方、アルカリ剤の濃度が3.0重量%未満では、所望の異味及び異臭の抑制効果が十分でない。
前記アルカリ剤としては、例えば、焼成カルシウム、炭酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等が挙げられ、使用に際しては単独若しくは2種以上の混合物として用いることができる。
前記アルカリ溶液は、前記アルカリ剤を通常、水に溶解して調製することができる。この際、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、且つ前記pH範囲及びアルカリ剤濃度を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいても良い。また、アルカリ溶液の温度は、所望の効果を十分に得るために、通常5〜15℃程度が好ましい。
【0011】
工程(B)において、所望容器は、前記切身に前記アルカリ溶液を接触、例えば、浸漬若しくは混合・接触等させることができるものであれば特に限定されず、例えば、タンブラー、パドルミキサー等に使用する容器が好適に挙げられる。
前記切身に前記アルカリ溶液を接触させる際の条件は、接触方法、容器の大きさ、切身とアルカリ溶液との量、アルカリ溶液のpH及びアルカリ剤濃度等に応じて適宜選択することができる。例えば、工程(B)終了時のアルカリ溶液のpHが8.0以上を示し、且つ工程(B)の最中に切身からアンモニアガスが十分に遊離するように接触条件を選択することが好ましい。タンブラー又はオートニーダーを用いた場合、アルカリ溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍程度とし、且つ処理時間が5分間〜1時間、好ましくは5〜30分間になるようアルカリ溶液のpHやアルカリ剤濃度を決定することが工業的生産においては好ましい。
また、工程(B)は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましく、更に、工程(B)においては、アンモニアガス等のガスが発生するので、真空引き等により発生するガスを廃棄しながら行うことができる。
【0012】
本発明の製造法では、工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)、若しくは工程(B)終了後の切身に、特定pHの酸溶液を接触させる工程(C−2)を行う。
工程(C−1)及び工程(C−2)に用いる酸溶液としては、例えば、クエン酸、酢酸、グルコン酸、アジピン酸、リンゴ酸、塩酸、硫酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の有機酸又はこれらの2種以上を含み、通常、pH1.0〜5.0.好ましくはpH1.0〜3.0の酸溶液が使用できる。
工程(C−1)においては、工程(B)によるアルカリ溶液を除去しないか、一部を除去し、該アルカリ溶液のpH及び量に合わせて、酸溶液を添加、混合する。この際、酸溶液のpH及び量は、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となるように決定することができる。酸溶液を添加、混合後の溶液のpHが4.0未満では、得られる切身表面の蛋白質変成が著しく、イカ本来の食感や風味が低下し、一方、該pHが7.9を超える場合には、イカの異臭抑制効果が十分でない。
【0013】
工程(C−1)において、酸溶液の添加、混合は、前記工程(B)で用いた混合・撹拌装置を停止し、酸溶液を添加し、再び混合・撹拌を最終的な溶液のpHが均一に前記範囲となるまで行うことが好ましい。
工程(C−2)においては、工程(B)によるアルカリ溶液を除去し、切身表面にアルカリ溶液が付着した状態で、pH1.0〜5.0、好ましくはpH1.0〜3.0の酸溶液を接触させる。接触は、前記工程(B)と同様に混合・接触させる方法により実施することができる。前記酸溶液を接触させる際の条件は、接触方法、切身と酸溶液との量、酸溶液のpH等に応じて適宜選択することができ、切身表面の蛋白質の変成が進み、イカ本来の食感や風味を損なう条件で無ければ良い。
工程(C−1)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合、酸溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.05〜3倍、好ましくは0.05〜1.5倍程度とし、且つ処理時間が1〜30分間、好ましくは5〜15分間となるように酸溶液のpH等を決定することが工業的生産においては好ましい。また工程(C−2)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合、酸溶液の使用量は、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍、好ましくは0.5〜1.5倍程度とし、且つ処理時間が1〜30分間、好ましくは5〜15分間となるように酸溶液のpH等を決定することが工業的生産においては好ましい。これらの工程は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましく、更に、これらの工程においては、炭酸ガス等のガスが発生するので、真空引き等により発生するガスを廃棄しながら行うことができる。
【0014】
本発明の製造法では、前記工程(C−1)又は(C−2)の後、得られた切身を水洗する工程(D)を行うことにより、所望のイカの加熱用切身食品を得ることができる。
工程(D)において水洗は、工程(C−1)又は(C−2)で処理した切身表面に付着した溶液を除去する工程であり、切身内部に浸透したアルカリ溶液や酸溶液を除去する必要は無い。水洗は、水の他、食塩水等を用いて行うこともできる。水洗を行うための水等の溶液の温度は、通常25℃以下、好ましくは5〜15℃である。
工程(D)を、例えば、前記混合・撹拌装置を用いて行う場合には、前記工程(C−1)又は(C−2)において処理した溶液を廃棄した後、水洗のための溶液を、容積基準で通常、イカ切身量の0.5〜3倍量程度投入し、工程(C−1)又は(C−2)において切身表面に付着した溶液が洗い流されるように、通常5分間〜1時間、好ましくは5〜30分間混合・撹拌することにより行うことができる。また、工程(D)は、通常、10〜25℃の雰囲気下において行うのが好ましい。
本発明の製造法において、前記工程(D)終了後のイカ切身のVBN値は、工程(A)において用いた原料イカのVBN値においても異なるが、少なくともVBN値が30mg/100g未満であり、好ましくは28mg/100g以下、特に好ましくは26mg/100g以下である。
【0015】
本発明の製造法では、前記必須の工程以外に、本発明の所望の効果を損なうことが無ければ、他の工程を含んでいても良い。
他の工程としては、工程(D)の後、得られた切身を公知の方法により冷凍する工程、工程(D)の後、得られた切身に所望の加熱調理法に合わせた味付けや、例えば、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ又はイカのフリッター等に加工調理を行う工程や、このような味付けや加工調理した切身食品を冷凍する工程等が挙げられる。
前記味付けや加工調理は、公知の方法に基づいて行うことができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1〜7及び比較例1〜2
約4.5cm×4.0cm×1.2cmにカットされ、脱皮処理が施された冷凍のアメリカオオアカイカの肉部切身を解凍した。この肉部切身のVBN値をコンウェイ法により測定したところ、平均VBN値は63.1mg/100gであった。この肉部切身100重量部を、タンブリング装置(ヒガシモトキカイ社製、商品名ロータリーマッサージャー、容器の容積850リットル)の容器に投入し、表1に示すアルカリ溶液60重量部(容積基準で肉部切身の0.55倍)を該容器に添加して、3.5rpmの速度で15分間タンブリングを行った。タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。
次いで、タンブリング処理後の容器内に、pH1.7のクエン酸溶液を表1に示す量(重量部及び容積基準で肉部切身に対する倍数)添加し、前記と同じ条件で5分間タンブリングを行った。該タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。尚、ここまでの工程は20〜23℃の雰囲気で行った。
次に、タンブリング容器内の溶液を廃棄した後、15℃の水100重量部(容積基準で肉部切身の1.0倍)を入れて10分間タンブリングし切身を水洗した。得られたイカ切身を、沸騰水中で2分間ボイルし、4人の専門パネルに試食してもらい、味及び臭いについて以下の基準に基づいて評価してもらった。また、イカ切身を、イカフライとするためのパン粉付けを常法に従って行った後、−18℃で10日間冷凍保存した。冷凍状態のイカフライを常法に従って油ちょう処理し、上記と同様の専門パネルに試食してもらい評価を行った。更に、対照として原料の解凍後のイカ切身についても同様な評価を行った。結果を表2に示す。
尚、比較例2は酸溶液処理を行わなかった例である。また、実施例1で調製したボイル前のイカ切身の平均VBN値は25.7mg/100gであり、ボイル後の平均VBN値は21.1mg/100gであった。
【0017】
評価基準
味:点数が低い方が優れた評価である。
1点:えぐ味なし、2点:えぐ味がやや感じられる、3点:えぐ味が感じられる、4点:えぐ味がやや強く感じられる、5点:えぐ味が強く感じられる。
臭い:点数が低い方が優れた評価である。
1点:アンモニア臭がしない、2点:アンモニア臭がやや感じられる、3点:アンモニア臭が感じられる、4点:アンモニア臭がやや強く感じられる、5点:アンモニア臭が強く感じられる。
【0018】
実施例8
実施例1〜7で準備した解凍品の肉部切身100重量部を、タンブリング装置の容器に投入し、表1に示すアルカリ溶液60重量部(容積基準で肉部切身の0.55倍)を該容器に添加して、3.5rpmの速度で15分間タンブリングを行った。タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。
次いで、タンブリング処理後の容器内の溶液を廃棄した後、pH1.7のクエン酸溶液を表1に示す量(重量部及び容積基準で肉部切身に対する倍数)添加し、前記と同じ条件で5分間タンブリングを行った。該タンブリング処理後の溶液のpHを測定した。結果を表1に示す。尚、ここまでの工程は20〜23℃の雰囲気で行った。
次に、タンブリング容器内の溶液を廃棄した後、15℃の水100重量部(容積基準で肉部切身の1.0倍)を入れて10分間タンブリングすることで切身を水洗した。得られたイカ切身を、実施例1〜7と同様に調理及び冷凍し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0019】
比較例3
特許文献1(特許第33383024号公報)に記載された実施例5に準じてイカ切身を調製した。
即ち、ポリリン酸ナトリウム20重量部、無水ピロリン酸4ナトリウム20重量部、クエン酸3ナトリウム0.2重量部、血清蛋白質30重量部、無水炭酸ナトリウム4重量部、並びに旨味料としてのL−グルタミン酸ナトリウム6.7重量部、酵母エキス0.6重量部、粉末ソルビトール18重量部及び微粉末セルロース0.5重量部を、粉末混合装置により混合し、粉末配合製剤を調製した。得られた製剤の3%溶液(pH9.5、温度13±2℃)中に、実施例1〜7で準備したイカ切身の解凍品を入れて製剤溶液温度を維持するように30分間又は12時間浸漬処理を行った。得られたイカ切身について実施例1〜7と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0020】
比較例4
特許文献2(特許第3269896号)に記載された実施例に準じてイカ切身を調製した。
即ち、水96重量部、食塩2重量部、リンゴ酸ナトリウム2重量部の溶液中に、実施例1〜7で準備したイカ切身の解凍品を入れて、溶液温度を11〜15℃を維持するように、特許文献2に記載された実施例のDと同様の10分間に1回の頻度で10秒間、3回転/秒の間欠撹拌を行い、合計で30分間又は2時間の処理を行った。得られたイカ切身について実施例1〜7と同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例9
タンブリング装置の代わりに、オートニーダー(梶原工業社製、商品名「真空ニーダー」、容器容積750リットル)を用い、回転数を4.5rpmとした以外は実施例2と同様にイカ切身及びイカフライを調製し、同様な測定を行った。その結果、ほぼ実施例2と同様な結果が得られた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、
脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、
所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、
工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)と、
工程(C−1)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法。
【請求項2】
異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、
脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、
所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触、混合する工程(B)と、
工程(B)終了後の切身に、pH1.0〜5.0の酸溶液を接触させる工程(C−2)と、
工程(C−2)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法。
【請求項3】
揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカが、アメリカオオアカイカ属である請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
工程(C−1)において用いる酸溶液のpHが1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項5】
工程(B)で用いるアルカリ溶液のアルカリ剤濃度が、5.0〜15.0重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造法。
【請求項6】
工程(B)と、工程(C−1)又は工程(C−2)とを撹拌可能な装置を用いて行う請求項1又は2記載の製造法。
【請求項7】
工程(B)においてアルカリ溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が5分間〜1時間であり、工程(C−1)において酸溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.05〜3倍であり、且つ接触時間が1〜30分間である請求項6記載の製造法。
【請求項8】
工程(B)においてアルカリ溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が5分間〜1時間であり、工程(C−2)において酸溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が1〜30分間である請求項6記載の製造法。
【請求項9】
工程(D)の後、得られた切身を冷凍する工程、若しくは得られた切身を味付け又は加工調理した後、冷凍する工程を行う請求項1又は2記載の製造法。
【請求項10】
切身食品が、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ及びイカのフリッターからなる群より選択される請求項1又は2記載の製造法。
【請求項1】
異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、
脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、
所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触させる工程(B)と、
工程(B)終了後のアルカリ溶液及び切身に、最終的に溶液のpHが4.0〜7.9となる酸溶液を添加、混合する工程(C−1)と、
工程(C−1)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法。
【請求項2】
異味及び異臭が抑制されたイカ切身食品の製造法であって、
脱皮及び所望大きさにカットされた、加熱処理していない揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカの肉部切身を準備する工程(A)と、
所望容器内において、工程(A)で準備した切身に、pH8.0〜13.0で、且つアルカリ剤濃度3.0重量%以上のアルカリ溶液を接触、混合する工程(B)と、
工程(B)終了後の切身に、pH1.0〜5.0の酸溶液を接触させる工程(C−2)と、
工程(C−2)の後、切身を水洗する工程(D)とを含むイカ切身食品の製造法。
【請求項3】
揮発性窒素値が30mg/100g以上のイカが、アメリカオオアカイカ属である請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
工程(C−1)において用いる酸溶液のpHが1.0〜5.0であることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項5】
工程(B)で用いるアルカリ溶液のアルカリ剤濃度が、5.0〜15.0重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造法。
【請求項6】
工程(B)と、工程(C−1)又は工程(C−2)とを撹拌可能な装置を用いて行う請求項1又は2記載の製造法。
【請求項7】
工程(B)においてアルカリ溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が5分間〜1時間であり、工程(C−1)において酸溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.05〜3倍であり、且つ接触時間が1〜30分間である請求項6記載の製造法。
【請求項8】
工程(B)においてアルカリ溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が5分間〜1時間であり、工程(C−2)において酸溶液の使用量が、容積基準で肉部切身量の0.5〜3倍であり、且つ接触時間が1〜30分間である請求項6記載の製造法。
【請求項9】
工程(D)の後、得られた切身を冷凍する工程、若しくは得られた切身を味付け又は加工調理した後、冷凍する工程を行う請求項1又は2記載の製造法。
【請求項10】
切身食品が、イカの天ぷら、イカフライ、焼きイカ及びイカのフリッターからなる群より選択される請求項1又は2記載の製造法。
【国際公開番号】WO2005/013725
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512944(P2005−512944)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011229
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000134970)株式会社ニチレイ (7)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011229
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000134970)株式会社ニチレイ (7)
【Fターム(参考)】
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