説明

イクサベピロンの投与方法

イクサベピロンを患者に投与する方法が提供され、その中でイクサベピロンは式(I):


(I)
を有する。本発明の一つの態様には、高いイクサベピロン安定性を提供し、注入時間および/または生成物の調製において優れた柔軟性を与えるYサイト投与技術またはデュアルソース投与技術の使用が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポシロン類縁体、すなわちイクサベピロン(ixabepilone)の投与方法に関する。本発明の一つの態様には、高いイクサベピロン安定性を提供し、注入時間および/または生成物の調製において優れた柔軟性を与えるYサイト(Y-site)投与技術またはデュアルソース(dual source)投与技術の使用が含まれる。
【0002】
(背景技術)
エポシロンAおよびBは、微生物(粘液細菌)から単離されうる天然由来の化合物である。エポシロンBは、パクリタキセル(タキソール(登録商標))に類似する微小管安定化効果を発揮し、癌および他の過剰増殖の細胞性疾患で見られるような急速に増殖する細胞に対する細胞傷害活性を示すことが分かっている(Angew. Chem. Int. Ed. Engl., Vol. 35, No. 13/14 (1996)およびD.M. Bollag, Exp. Opin. Invest. Drugs, 6(7): 867-873 (1997)を参照)。本出願の譲受人は、薬剤としての使用、特に化学療法剤としての使用に有利な活性を有するエポシロン類縁体、すなわち構造:
【化1】

を有する化合物を発見した。この化合物は、化学名[1S−[1R,3R(E),7R,10S,11R,12R,16S]]−7,11−ジヒドロキシ−8,8,10,12,16−ペンタメチル−3−[1−メチル−2−(2−メチル−4−チアゾリル)エテニル]−4−アザ−17−オキサビシクロ[14.1.0]へプタデカン−5,9−ジオンを有し、現在はイクサベピロンとして公知である。イクサベピロンは、1998年5月26日に出願された米国出願番号09/084,542に基づいて米国特許番号6,605,599において特許請求され、2003年4月3日に出願された米国継続出願番号10/405,886において特許請求されており、その両方とも本譲受人に譲渡され、本明細書に引用される。
【0003】
しかしながら、イクサベピロンが患者を治療するのに用いられうる前に、それは患者に投与されうる組成物へ、例えば、経口、経皮、または(より典型的には化学療法剤に適したもの)静脈内(IV)あるいは他の非経口投与に適した製剤へ製剤化されなければならない。しかしながら、イクサベピロンは、ある化学特性のために困難な製剤化の問題を生じる。イクサベピロンは、実質的にタキソール(登録商標)よりも水溶性であり、またエポシロンBおよび他の天然由来のエポシロン並びにその類縁体よりも水溶性でもある。しかしながら、その比較的低い水溶性は医薬開発のためにはなお困難である。また、イクサベピロンは水溶媒中で分解されやすく、pH感受性である。酸性媒質へのこの感受性によって、0.9% 塩化ナトリウム注入液(標準生理食塩水)または5% ブドウ糖注入液のような一般に入手可能な注入液を用いたイクサベピロンの投与が困難となる。なぜなら、これらの希釈剤は、典型的には水性であり、酸性である広範囲のpHを示すからである。例えば、0.9% 塩化ナトリウム注入液は、4.5から7.0のpH範囲を有し、一方、5% ブドウ糖注入液は3.5から6.5のpH範囲を有する。
【0004】
本明細書の出願人は、その安定性および溶解性に関する問題に取り組むため、イクサベピロンの別の投与方法の使用を調査し続けてきた。2004年5月18日に出願された米国特許出願番号60/572,279には、イクサベピロンについてのナノ粒子製剤が記載され、2004年11月18日に出願された米国特許出願番号60/628,970には、イクサベピロンについての腸溶性ビーズ製剤が記載されている。これらの製剤は多くの利点を提供するが、これらには比較的複雑な製剤技術もまた関与する。理解されうるように、酸性環境および/または水環境へのイクサベピロンの感受性の点から見て高い安定性を実現し、および/または非イオン性界面活性剤(例えば、クレモフォール(Cremophor)(登録商標))の使用が関与せず、特に長時間かけて投与されることが意図される注入についての、イクサベピロンを投与するための方法および/または製剤を提供することが有利でありうる。
【0005】
(発明の概要)
本発明は、イクサベピロンの投与方法を対象とする。本発明のある態様によれば、イクサベピロンを第一供給源(first source)から静脈内注入ライン(IV infusion line)に送達し、希釈剤(例えば、注入液)を第二供給源(second source)から静脈ラインに送達する。該希釈剤は、ポンプで注入されるまたは連続フィードされるイクサベピロン(またはイクサベピロン溶液)と共に、患者へ連続フィードすること、または静脈ライン中を液体が流れて患者に送達されることを適宜含んでいてもよい。イクサベピロンおよび希釈剤を、それぞれ第一供給源および第二供給源で物理的に分離した状態を維持する。イクサベピロンは、送達されるうちに投与セットの中で希釈剤と混合されるようになって医薬製剤を形成し、患者に送達される前の「混合時間」(本明細書で定義される)は、該医薬製剤の安定時間内にある。
【0006】
本発明の別の態様によれば、イクサベピロンを、イクサベピロン溶液が得られるように少量の水を有するpH調整(例えば、緩衝化)溶媒系中の第一容器(first receptacle)内に入れる。第一容器は、注入ラインの内容物を患者に送達するために、中央注入ライン(central infusion line)と液体が通じている。イクサベピロン溶液の投与に用いられる希釈剤を、中央注入ラインと液体が通じており、該イクサベピロン溶液を含む第一容器から物理的に分離された状態を維持している第二容器(second receptacle)内に入れる。該イクサベピロン溶液および該希釈剤を中央注入ラインで混合して(例えば、互いに接触して)、該患者に送達するための該医薬製剤を形成する。この投与方法で、イクサベピロン溶液の一部は、患者に送達する前の比較的短時間のみで、例えば、医薬製剤の安定時間内に、希釈剤(例えば、それは主に水または水性でありうる)に露出されうる。
【0007】
本発明のさらに別の態様によれば、本明細書に記載されるデュアルソース法を用いたイクサベピロンの投与方法が提供され、その中で第一供給源または第一容器内のイクサベピロンを、共溶媒、粘性減少剤(VRA)、緩衝剤、および水溶媒の混合物を含むpH調整溶媒系中で混合する。好ましくは、共溶媒はポリエチレングリコール400(PEG400)であり、VRAは無水アルコール(例えば、エタノール)であり、緩衝剤はトロメタミンであり、水溶媒は水であり、該組成は、約30から60% 無水アルコール、30から60% PEG400、1%未満 緩衝剤、および10から30% 水の容積対容積率で与えられる。本発明のこの態様において、凍結乾燥イクサベピロンをpH調整溶媒系中で混合し、第一容器、または第一供給源に入れてもよい。pH調整溶媒系には、凍結乾燥イクサベピロンについての構成ベヒクルが含まれていてもよい。希釈剤(例えば、生理食塩水またはブドウ糖)を第二容器または第二供給源に入れる。本明細書に記載されるデュアルソース法を用いて、イクサベピロン溶液および希釈剤を投与セットの中で混合して医薬製剤を形成し、それを患者に送達する。
【0008】
本発明の他の態様は、以下の記載を読むと当業者にとって明らかでありうる。
【0009】
(発明の詳細な説明)
以下は、本発明を記載するために本明細書で用いられる様々な用語の定義である。これらの定義は、具体例において特に断りがなければ、個別的に、またはより大きな集合の一部として、この明細書を通して用いられるように用語に適用する。
【0010】
「酸」とは、ルイス酸と同様に、水素を含み、水中または溶媒中で解離して、正の水素イオンを生成するいずれの化合物、例えば、これらに限らないが、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリハロ酢酸(例えば、TFA)、臭化水素酸、マレイン酸、スルホン酸(例えばトルエンスルホン酸およびカンファースルホン酸塩(camphorsulfonic acid))、プロピオン酸(例えば(R)−クロロプロピオン酸)、フタルアミド酸(例えばN−[(R)−1−(1−ナフチル)エチル]フタルアミド酸)、酒石酸(例えばL−酒石酸およびジベンジル−L−酒石酸)、乳酸、ショウノウ酸、アスパラギン酸、シトロネル酸(citronellic acid)、BCl、BBrなどの酸をいう。したがって、該用語には、弱酸、例えばエタン酸および硫化水素;強有機酸、例えばメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸;などが含まれる。
【0011】
「投与セット」は、静脈内投与によって薬物または液体を患者に送達するのに用いられる装置の完全なセットを意味する。
【0012】
「混合時間」は、所定の容積のイクサベピロン(典型的には溶媒系中で)が希釈剤と接触して、医薬製剤を形成する間の時間を意味する。
【0013】
「水溶媒」とは、本明細書で用いられる場合、30容積%超の水、より好ましくは40容積%超の水、より好ましくは50容積%超の水を含む液状媒質、溶媒または溶媒系をいうものと意図される。したがって、「水溶媒」は100容積%の水であってもよいが、それはまた、一つ以上の他の溶媒または薬剤と混合した水であってもよい。「非水」溶媒は、この定義に合わない溶媒である。
【0014】
「塩基」には、本明細書で用いられる場合、水酸化物類もしくはアルコキシド類、水素化物類、または水中または溶媒中でプロトンを受け取る化合物、例えばアンモニアが含まれる。したがって、塩基の例には、これらに限らないが、アルカリ金属水酸化物類およびアルカリ金属アルコキシド類(すなわち、MOR
[式中、Mは、アルカリ金属、例えばカリウム、リチウム、またはナトリウムであって、Rは、上記で定義される水素またはアルキル、より好ましくは、Rは、直鎖または分枝鎖のC1−5アルキルである]
であり、したがって、例えば、これらに限らないが、水酸化カリウム、カリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ペントキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキシド、水酸化リチウムなどである);
他の水酸化物類、例えば水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、または水酸化バリウム(Ba(OH));
アルカリ金属水素化物類(すなわち、MH[式中、Mは、上記と同義]であり、したがって、例えば、これらに限らないが、水素化ナトリウム、水素化カリウム、および水素化リチウムである);
アルキル化ジシラジド(alkylated disilazide)類、例えば、カリウムヘキサメチルジシラジドおよびリチウムヘキサメチルジシラジド;
炭酸塩類、例えば炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO);
アルキルアンモニウムヒドロキシド類、例えばn−テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)などが含まれる。
【0015】
「緩衝液」は、酸または塩基単位で加えて、溶媒の有効酸性度または有効アルカリ度における変化を阻止する能力を与える成分を意味する。好ましくは、本発明で用いられる緩衝液は、約7から9の範囲にあるpKa(酸性度定数のlogに負号をつけたもの)を有する。したがって、緩衝液には、例えば、これらに限らないが、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、L−アルギニン、L−リシン、L−ヒスチジン、L−アラニン、グリシン、炭酸ナトリウム、トロメタミン(a/k/a トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタンまたはトリス)、および/またはその混合物が含まれる。
【0016】
「構成ベヒクル(constitution vehicle)」または「再構成ベヒクル(reconstitution vehicle)」は、イクサベピロンが、液体溶媒中で完全に、または少なくとも部分的に、可溶化または溶解されるように、凍結乾燥イクサベピロンを再構成するのに用いられうる溶媒または溶媒系を意味する。
【0017】
「共溶媒」は、イクサベピロンを溶解して、イクサベピロン溶液を形成するのに用いられうる、いずれの医薬的に許容される溶媒(液体)も意味する。本発明の好ましい共溶媒は、イクサベピロンを溶液に溶解するのに用いられうる水混和性共溶媒であり、それはイクサベピロンが水溶媒中に可溶化するように、水溶媒と混合されうる。好ましくは、共溶媒は、イクサベピロン(約20mgまで)が、共溶媒/水の溶液(1mL)に溶解されうるように選択され、その中で該溶液(1mL)には、10〜30容積%の水が含まれうる。共溶媒には、これらに限らないが、エタノール、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、グリセロールおよびポリエチレングリコール類、例えば、ポリエチレングリコール300および/またはポリエチレングリコール400が含まれる。
【0018】
「界面活性剤」は、その表面張力を減少させることによって、化合物の(例えば、イクサベピロンの)拡散特性または湿潤特性を増大させるのに用いられうる、いずれの医薬的に許容される界面活性剤も意味する。好ましい界面活性剤は、イクサベピロンを可溶化するか、または水溶媒中のイクサベピロンの溶解度を約20mg/mLまで増加させる(例えば、イクサベピロン(約20mgまで)を液体溶媒(1mL)に溶解しうる)のに用いられうる界面活性剤である。界面活性剤には、クレモフォール(登録商標)、ソルトール HS 15(Solutol HS 15)(登録商標)、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー、ピロリドン類、例えばN−アルキルピロリドン(例えば、N−メチルピロリドン)および/またはポリビニルピロリドンが含まれる。
【0019】
本明細書で用いられる用語「分解」とは、別の化合物または別の型の化合物(例えば、異性体、代謝産物など)へのイクサベピロンの化学構造における変化をいうものと意図される。「分解」は、イクサベピロン溶液またはイクサベピロン製剤における不純物の形成を測定することによって決定される。したがって、「分解率」とは、イクサベピロン溶液またはイクサベピロン製剤において所定の時間をかけて検出される全不純物の割合をいう。
【0020】
注入液に関して本明細書で用いられる用語「ブドウ糖」は、ブドウ糖注入液、好ましくは5% ブドウ糖注入液(USP)を含む液体を意味する。
【0021】
用語「希釈剤」および「注入液」は、互換的に本明細書で用いられて、非経口投与によって患者に薬物を投与するのに用いられる液体をいう。本発明の好ましい希釈剤は、生理食塩水またはブドウ糖である。しかしながら、本発明の概念が他の注入液に適用されうることは理解されるべきである。
【0022】
本明細書で用いられる用語「長時間」は、4時間超、より好ましくは6時間超の時間、より一層好ましくは10時間超および24時間までの時間、あるいはそれを超える時間を示すものと意図される。
【0023】
溶媒系中の水の量および/または溶媒系に加えられた水の量を示すのに本明細書で用いられる「少量(Insubstantial percentage、insubstantial amount、insubstantial quantity、minor percentage、minor amount、またはminor quantity)」は、この量の水を有する溶媒系が、選択された注入時間(好ましくは10時間まで、より好ましくは24時間まで)の間、所定量のイクサベピロンと接触している場合に、溶媒系中の水が、10%超の所定量のイクサベピロンで分解を引き起こさず、より好ましくは、5%超のイクサベピロンで分解を引き起こさず、より一層好ましくは、3.5%超のイクサベピロンで分解を引き起こさないほど、十分に少ないことを意味する。
【0024】
本発明に関して用いられる「医薬製剤」または「製剤」は、イクサベピロンが希釈剤または注入液と混合されたイクサベピロンの製剤を意味する。典型的には、イクサベピロンを凍結乾燥し、溶媒系中で再構成してイクサベピロン溶液を形成し、該イクサベピロン溶液を、注入液でさらに希釈して医薬製剤を形成する。
【0025】
用語「pH調整成分」は、緩衝液、酸、および/または塩基、あるいはその混合物(好ましくは酸および/または塩基でさらに調整されたpHを有する緩衝液)を示し、それはイクサベピロンを可溶化および/または再構成するのに用いられる溶媒系のpHを調整するために選択される。したがって、「pH調整成分」は、緩衝液、緩衝液の混合物、酸および/または塩基、酸および/または塩基の混合物、および/または、一つ以上の緩衝液、酸、および/または塩基の混合物を示すものと意図される。
【0026】
注入液をいうのに用いられる用語「生理食塩水」は、塩化ナトリウム注入液(USP)、好ましくは約0.9% 塩化ナトリウム注入液(USP)を含む液体を意味する。
【0027】
用語「安定時間」は、所定量のイクサベピロンが、溶媒系中または製剤中、室温で、10%未満、より好ましくは5%未満、より一層好ましくは3.5%未満の分解率となっている時間を意味する。
【0028】
「粘性減少剤(viscosity-reducing agent)」(VRA)は、イクサベピロン溶液のシリンジアビリティ(syringeability)を促進するために、イクサベピロンおよび共溶媒(もしくは可溶化剤)を含むイクサベピロン溶液に加えられうるいずれの非水溶媒または他の薬剤、あるいは非水溶媒および/または他の薬剤の組合せも意味する。
【0029】
本明細書で報告されるすべての数値が近似値として意図され、実験誤差または他のごくわずかなずれが、さらなる実施化の間に起こりうることは理解されるべきである。したがって、本明細書の特許請求の範囲においていずれかの数値が列挙される限りは、特に断りがなければ、これらの数値が近似値であることが意図される。
【0030】
発明の実施態様
ある態様によれば、本発明は、イクサベピロンを投与するための少なくともデュアルソース法を対象とする。該薬物を患者に送達するのに用いられる静脈内(「IV」)投与セットにおいて2つ以上のソースが存在しうると意図されるので、用語「少なくともデュアルソース」が用いられる。しかしながら、静脈内投与ラインへの少なくとも2つの供給源が意図される。この方法において、該イクサベピロンを第一供給源から静脈内投与ライン(液体を該患者に送達する静脈内投与ライン)に提供し、該希釈剤を第二供給源から静脈ラインに提供する。(言及したように、用語「第一供給源」および「第二供給源」の使用によっては、投与セットにおける第三、第四などのソースの存在を除外しておらず、用語「第一」および「第二」は、これらの2つのソースを互いに区別するためだけに用いられる。)第一供給源に保持されている間、イクサベピロンが希釈剤の分解因子に露出しないように、第一供給源に保持されているイクサベピロン(またはイクサベピロン溶液)を、第二供給源における希釈剤から分離された状態を保つことは、考慮すべき重要な点である。イクサベピロンを第一供給源から送達し、第二供給源から送達される希釈剤と混合させて、医薬製剤を規定する。したがって、該製剤(すなわち、イクサベピロンもしくはイクサベピロン溶液および希釈剤の混合物)を投与セットの中で形成する。所定量のイクサベピロンおよび希釈剤が、患者に送達される前に接触している時間(「混合時間」)は、該医薬製剤についての安定時間内にある。本来、該「安定時間」は用いられる製剤に依存し、すなわち、それはイクサベピロンを溶解または再構成するのに用いられる溶媒系、静脈内送達に用いられる特定の希釈剤、並びに、特に溶媒系および/または希釈剤におけるpHおよび水の割合にもまた依存する。
【0031】
様々な容器および装置が、第一供給源および第二供給源並びに投与セットの残りの部分を提供するのに用いられうる。該機械構造は柔軟であり、変化してもよい。例えば、イクサベピロンを、第一容器内または第一静脈内投与バッグ(IV administration bag)に入れてもよく、希釈剤を、第二容器内または第二静脈内投与バッグに入れてもよく、各容器はそれ自身のポンプおよび静脈ラインを有する。各容器から流れる別々の静脈ラインを、次いで単一の流路または中央静脈ラインへのYサイトコネクター(Y-site connector)によって連結してもよく、それは次いで静脈ラインの内容物を該患者に送達する。あるいは、患者への連続フィードにポンプで注入されるイクサベピロンと共に、患者へ希釈剤を連続フィードすることを含む中央静脈ラインが用いられうる。一つを超えるソースから患者に薬物を投与するための注入送達システムは周知であり、市販品として入手可能であり、先行技術に記載されてきた。例えば、このような様々なシステムは、バクスターインターナショナル社から入手可能である。本明細書の発明によって、本明細書に列挙されるイクサベピロンおよび該投与方法についての適当ないずれのシステムの使用、並びに以下に展開されるいずれのシステムの使用ももたらされうることが意図される。用いられうるシステムおよび/または弁および/または連結部の例は、以下の米国特許に記載されており、その各々は本明細書に引用される:米国特許番号5,547,471;5,385,547;5,279,557;5,200,090;5,032,112;4,456,105;4,258,712;4,256,104;4,252,116;4,250,879;4,237,880;4,237,879;4,236,515;4,223,695;4,219,022;4,094,318;4,034,754;および3,886,937。
【0032】
第一供給源におけるイクサベピロンは、医薬的に許容される溶媒系中、好ましくは非イオン性界面活性剤を含まない溶媒系中に溶解されうる。出願人は、該非イオン性界面活性剤が、代わりの溶媒系、すなわち粘性減少剤と組み合わせた水混和性可溶化剤または水混和性共溶媒を用いる溶媒系と交換されうることを見出しており、その中でイクサベピロンは、水(典型的には高粘性共溶媒)と比較してより優れた溶解性を有している。本発明の方法を用いて、イクサベピロンが、イクサベピロンを可溶化するのに用いられる共溶媒のみからなる溶液中で構成される場合、シリンジアビリティ(および静脈内による投与)は不可能であり、および/または非常に非現実的である。したがって、医薬的に許容され、共溶媒およびイクサベピロンと適合し、共溶媒のシリンジアビリティの改善並びに凍結乾燥イクサベピロンの溶解および再構成にも効果的な、いずれの非水溶媒または薬剤も含まれうる粘性減少剤が用いられる。デュアルソース投与のための好ましい溶媒系には、典型的には無水アルコール、例えばエタノールが含まれうる粘性減少剤と、一つ以上の共溶媒との組合せが含まれる。
【0033】
本発明の別の態様によれば、プロピレングリコールまたはグリセロールを用いた溶媒系と比較して、ポリエチレングリコール/無水アルコールの溶媒系の場合に、イクサベピロンが高い安定性を維持していることを本出願人は発見した。無水アルコールと、共溶媒 プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール300およびポリエチレングリコール400との50/50混合物(容積比)で、凍結乾燥イクサベピロンを2mg/mLまで構成した。該溶液を、室温で明るくして6〜8時間保管した。各製剤についての安定性データを表1に示す。
表1

表1の結果によって、溶液中のイクサベピロンの安定性を維持することについては、ポリエチレングリコール/無水アルコール混合物を用いた場合がより好ましいという、これらの溶媒系の結果が表わされる。
【0034】
しかしながら、ポリエチレングリコール300/無水アルコールの溶媒系とポリエチレングリコール400/無水アルコールの溶媒系の間では、溶解性の理由で、後者がより好ましいことが決定された。特に、ポリエチレングリコール300/無水アルコールの50/50混合物(容積比)と、ポリエチレングリコール400/無水アルコールの50/50混合物(容積比)を、5% ブドウ糖と0.9% 標準生理食塩水の両方で各々1:5に希釈し、過剰量のイクサベピロンを加えた。これらの溶液(20容積% 希釈剤を含む)を、3時間室温で攪拌し、濾過し、HPLCで分析した。溶解度データを表2に示す。
表2

【0035】
表に示すように、PEG300を用いた場合と比較して、PEG400を用いた場合に、5% ブドウ糖と0.9% 生理食塩水の両方での希釈においてより多くのイクサベピロンが溶解した。(本明細書で用いられる略号「PEG」は、「ポリエチレングリコール」を示す。)
【0036】
上記の溶媒系において、PEG/無水アルコールの50/50混合物(容積比)が例示されているが、出願人は、より広範囲の共溶媒およびVRAが効果的に用いられうることを決定した。ある態様において、30容積%から70容積%の共溶媒(または可溶化剤)の各々についての、約30容積%から70容積%の無水アルコールの混合物を用いて溶媒系を調製した場合に有利であることが認められる。例えば、この図1は、生理食塩水またはブドウ糖の注入液で1:5に希釈した場合に、異なった割合のPEG400と無水アルコールを含む溶媒系におけるイクサベピロンの溶解度を分析するために行われた研究結果を表す。混合の3時間後に、イクサベピロンの溶解度を、過剰のイクサベピロンを含む濾過された一定分量の溶液のHPLC分析によって決定した。図に示すように、この図は、この範囲内(30:70対70:30のPEG400:EtOH)で、無水アルコールの量が増加するにつれ、溶解度に小さな増加が現れることを表す。しかしながら、注入の間に患者に投与されるエタノールの量が最小化されて、エタノール投与に不随する副作用を回避することが好ましい。したがって、無水アルコールの増加は溶解度をわずかに増加させるが、それによって不利益も生じる。したがって、PEG400:エタノールの溶媒系が用いられた場合、本発明者は、無水アルコールに対する共溶媒の好ましい範囲が40:60から60:40であり、さらに好ましい比が各々約50:50(容積比)の混合であることを決定した。
【0037】
好ましくは、イクサベピロンについての本発明の溶媒系(それは、より好ましくはクレモフォール(登録商標)を含まない溶媒系か、または実質的にクレモフォール(登録商標)を含まない溶媒系)は、pHが調整されている。「pH調整溶媒系」によって、選択された範囲のpH(イクサベピロンについての目的の範囲内にあるpH)を示す傾向があり、また、イクサベピロン製剤を規定する希釈剤と混合した場合に、最終的な製剤のpHが目的の範囲内に入るように調製されている溶媒系が意図される。例えば、イクサベピロン溶液および/またはイクサベピロン製剤についての最適安定なpHは約7〜9であることが決定されている。有利なことに、イクサベピロンを構成するのに用いられる溶液のpHは、6.0から9.5の範囲内、より好ましくは約6.5から9.0の範囲内、最も好ましくは約7から9の範囲内にある。また、製剤(例えば、混合されたイクサベピロン溶液と希釈剤)のpHは、約6.0から9.5の範囲内、より好ましくは約6.5から9.0の範囲内、最も好ましくは約7から9の範囲内にある。生理食塩水またはブドウ糖が希釈剤として用いられる場合に、これらの範囲にある製剤pHを達成するために、溶媒系のpHは、約6.5から10、より好ましくは約7から9.5の範囲内、最も好ましくは約7〜9の範囲内に入りうることが決定されている。例えば、溶媒系が8.3±1.0の範囲にあるpHを有する場合であれば、0.2から0.6mg/mLでのイクサベピロンの濃度で、医薬製剤のpHは6.1から9.3の範囲にある。
【0038】
溶媒系のpHは、様々な方法で調整されうる。例えば、これは溶媒の選択および/または一つ以上のpH調整成分(例えば一つ以上の緩衝液、酸および/または塩基)の使用によって達成されうる。本発明のある態様は、緩衝液を用いて溶媒系のpHを調整し、次いで少量の酸および/または塩基(その量は目的の範囲のpHに達するように必要に応じて選択される)を用いて、できるだけ目的の範囲まで近づいたpHをさらに調整することを特徴とする。ある態様において、希釈剤は生理食塩水またはブドウ糖注入液であって、該溶媒系にはPEG400および無水アルコールが含まれ、トロメタミンの緩衝液を微量の1N HClおよび/または1N NaOHとともに用いて、溶媒系のpHを8.3±1.0の範囲にあるpHまで調整する。好ましいpH調整成分は、用いられる共溶媒(もしくは可溶化剤)および粘性減少剤の型および量に依存しうる。例えば、PEG400:無水アルコールの50:50混合物が用いられる場合、トロメタミンはこの溶媒系における安定度の点から見て好ましい緩衝液であると考えられる。
【0039】
緩衝液および溶媒系の選択によっては、溶媒系に少量の水を加えるのが有利でありうる。少量の水によって、例えば、溶媒系における濁りを回避し、緩衝液を溶解し、pH調整を可能にし、注入液との適合性を増大し、および/または溶媒系の粘性を減少するという利点が提供される。例えば、PEG400:無水アルコールの溶媒系が用いられる場合、有利なことには約30容積%までの水、より好ましくは約25容積%までの水、より一層好ましくは約20容積%までの水が加えられて、緩衝液を溶解してもよく、この量の水によっては、長時間続く注入の間、イクサベピロンに許容されない量の分解が引き起こされないことを出願人は発見した。例えば、本発明のある態様において、おおよそ等量のPEG400:EtOHを含む緩衝化溶媒系、およびイクサベピロン溶液の全容量の約20容積%までを含む量の水によっては、24時間の注入時間をかけても5%超のイクサベピロンの分解は引き起こされえない。
【0040】
本発明の別の態様によれば、凍結乾燥イクサベピロン(例えば、本明細書に組み込まれた米国特許番号6,670,384を参照)は、少量の水を有するpH調整溶媒系で再構成されて、イクサベピロン溶液を提供する。最初にイクサベピロン溶液を調製し、次いで投与セットの第一容器内に入れてもよいし、または投与セットの中で直接的に調製してもよい。第一容器は、注入ラインの内容物を患者に送達するために、中央注入ラインと液体が通じている。イクサベピロンの投与に用いられる希釈剤を、中央注入ラインと液体が通じており、該イクサベピロン溶液を含む第一容器から分離された状態を維持している第二容器内に入れる。「分離した状態を維持」または「物理的に分離」していることによって、希釈剤(例えば、実質的に水性条件および/または酸性条件)の分解因子がイクサベピロンの分解を引き起こしうる希釈剤に、イクサベピロンが露出されないことが意図される。イクサベピロン溶液および希釈剤を中央注入ライン中で混合して、該製剤を該患者に送達するための医薬製剤を形成する。投与のこの方法を用いて、イクサベピロン溶液は、該患者に送達する前の比較的短い時間だけ、該希釈剤(それは生理食塩水もしくはブドウ糖または他の主な水性ベヒクルでありうる)に露出されうる。
【0041】
本発明のさらなる態様によれば、上記のイクサベピロン溶液を提供するのに有利な溶媒系が、以下の表3に示される。
表3

【0042】
本明細書の発明者はまた、イクサベピロンの過飽和溶液の形成を回避するためには、イクサベピロン溶液(溶媒系による構成後の溶液)中のイクサベピロンの好ましい濃度が、約2mg/mLまで、またはより好ましくは約1.5±0.1mg/mLまでであることも発見した。例えば、図2は、ブドウ糖注入液と生理食塩水注入液の両方について、ベヒクルの容積パーセントの関数としてのイクサベピロンの溶解度(mg/mL)を示す。図2は、イクサベピロンの過飽和溶液を回避するためには、約2mg/mL以下、より好ましくは約1.5mg/mL以下の濃度まで凍結乾燥イクサベピロンを構成するのが好ましいことを示す。
【0043】
図3は、イクサベピロン溶液およびイクサベピロン製剤の改善された安定性およびより長い使用時間を可能にする、本発明の驚くべき利点を図示する。特に、図3は、以前の方法と比較して、本発明のイクサベピロンの投与の2つのデュアルソース法についての分解率(および安定時間)を示す。図3のイクサベピロン溶液の各々について、約50:50 PEG400:EtOH(それぞれ該溶媒系の約40容積%の量で存在している)、約20%の水、および1%未満の緩衝液を含む緩衝化溶媒系に、イクサベピロンを約1.5mg/mLの濃度まで溶解した。イクサベピロンのこの緩衝化溶媒系を、25mL/時で3時間、0.9% 標準生理食塩水の流れている中に注入し、0.5mL/時で24時間、生理食塩水の流れている中に注入し、および(以前の方法に従って)生理食塩水注入液を含む注入バッグ(infusion bag)に入れた。図に示すように、後者の以前の方法では、全不純物は、約4時間の使用時間(または混合時間)内に約5%のレベルに達しうるが、本発明の方法では、同じ溶媒系における同一または同程度のレベルの不純物は、約24時間の使用時間まで観察されえない。
【0044】
本発明のある態様によって、癌患者の治療用医薬製剤の製造のためのイクサベピロンの使用であって、その中で該イクサベピロンを第一供給源から静脈ラインへ提供し、希釈剤を第二供給源から静脈ラインへ提供し、それによって該イクサベピロンおよび該希釈剤を、それぞれ第一供給源および第二供給源で物理的に分離した状態を維持し、それぞれ第一供給源および第二供給源から静脈ラインへ送達した後に混合して、医薬製剤を形成し、次いで該患者に送達する使用が提供される。該医薬製剤は、長時間患者に送達されうる。好ましくは、該医薬製剤を、連続して、または実質的に連続して10時間を超えて持続する注入時間、より好ましくは連続して約20から24時間持続する注入時間に患者に送達する。第一供給源におけるイクサベピロンは、約65容積%〜約90容積%の共溶媒と粘性減少剤(VRA)の混合物を含む溶媒系の構成要素となる凍結乾燥イクサベピロンであってもよく、その中で該混合物には、約70:30から約30:70(容積比)の共溶媒:VRAが含まれる。該溶媒系には、さらにpH調整成分および少量の水溶媒が含まれる。好ましくは、共溶媒にポリエチレングリコール、例えばポリエチレングリコール300またはポリエチレングリコール400、より好ましくはポリエチレングリコール400が含まれる。好ましくは、粘性減少剤に無水アルコール、より好ましくはエタノールが含まれる。溶媒系には、30容積%まで、例えば、20%±5%の水が含まれうる。好ましいのは、ポリオキシエチル化ヒマシ油が含まれないか、または実質的にポリオキシエチル化ヒマシ油が含まれない溶媒系、例えば、5重量%未満、より好ましくは、1重量%未満、より一層好ましくは0.1重量%未満を含む溶媒系、最も好ましくはポリオキシエチル化ヒマシ油が含まれない溶媒系である。
【0045】
本発明のさらなる態様によって、癌患者の治療用医薬製剤の製造のためのイクサベピロンの使用であって、イクサベピロンが、イクサベピロン溶液を規定している少量の水を有するpH調整溶媒系中の第一容器内に提供され、第一容器が、注入ラインの内容物を患者に送達するために、中央注入ラインと液体が通じており;
希釈剤が、中央注入ラインと液体が通じており、該イクサベピロン溶液を含む第一容器から物理的に分離された状態を維持している第二容器内に提供され;並びに、
該イクサベピロン溶液および該希釈剤が中央注入ラインに送達され、それによって該イクサベピロン溶液および該希釈剤が混合され、中央注入ラインの中に該患者に送達するための該医薬製剤を形成することを特徴とする使用が提供される。pH調整溶媒系には、共溶媒もしくは可溶化剤、粘性減少剤、pH調整成分、および水の混合物が含まれる。好ましい共溶媒には、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール300、および/またはポリエチレングリコール400が含まれる。好ましい粘性減少剤は無水アルコールである。好ましくは、pH調整溶媒系には非イオン性界面活性剤が含まれないか、またはpH調整溶媒系は実質的に非イオン性界面活性剤を含んでいない。
【0046】
別の態様によって、少なくとも第一バイアルおよび第二バイアルを含む、イクサベピロンを患者に投与するための医薬キット(pharmaceutical kit)であって、その中で第一バイアルには多量の凍結乾燥イクサベピロンが含まれ、第二バイアルには約65容積%〜約90容積%の共溶媒と粘性減少剤(VRA)の混合物を含むpH調整溶媒系が含まれ、該混合物には、約70:30から約30:70(容積比)の共溶媒:VRAが含まれ、該溶媒系には、さらに1重量%未満の緩衝液、および10容積%から30容積%の水が含まれる医薬キットが提供される。該医薬キットは、イクサベピロンの静脈内注入を長時間、例えば、連続して、または実質的に連続して10時間を超えて持続する注入時間、あるいは連続して、または実質的に連続して20から24時間持続する注入時間をかけて患者に投与する使用に適合していてもよい。pH調整溶媒系には、pH調整成分および/または水がさらに含まれうる。好ましい共溶媒には、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール300、および/またはポリエチレングリコール400が含まれる。好ましい粘性減少剤は無水アルコールである。好ましくは、pH調整溶媒系には非イオン性界面活性剤が含まれないか、またはpH調整溶媒系は実質的に非イオン性界面活性剤を含んでいない。
【0047】
有用性
イクサベピロンは微小管安定化剤であり、そのため様々な癌および他の増殖性疾患の治療に有用である。イクサベピロンは、癌腫、例えば乳房、結腸、肺、および膵臓の癌の治療に特に有用であり、難治性の癌の治療にも特に有用である。しかしながら、該薬物は、多くの他の癌、増殖性疾患、神経結合性欠損(neuronal connectivity defect)、中枢神経系障害(例えばアルツハイマー病)、および他の疾患の治療に有用でありうる。米国特許番号6,686,380および米国特許番号6,605,599は引例として引用され、それら各々は本明細書で十分に説明されているように引用され、他の具体的な適応に関してイクサベピロンは治療に有用でありうる。
【0048】
さらに、イクサベピロンは、他の抗癌剤および細胞傷害性薬剤並びに癌または他の増殖性疾患の治療に有益な処置と組み合わせて投与されうる。このような他の薬剤は、本譲受人に譲渡された米国特許公報2003/0073677 A1(本明細書に引用されている)に対応する、2002年3月5日に出願された米国特許出願番号10/091,061において確認される。このような他の薬剤は、3つの部分に分かれたソース法(triparte source method)を用いて、例えば、本発明の概念を用いるが、イクサベピロンと組み合わせた別の化学療法剤も送達し、他の薬剤のための第三の供給源またはさらなる供給源を用いて投与されうる。イクサベピロンの有効量は、当業者によって決定されうる。投与量の例は、2002年1月23日に出願され、本明細書に引用されている米国特許出願番号10/055,653に見られうる。あるいは、約0.05mg/kg/日から約200mg/kg/日の人について、本発明のイクサベピロンは、単一用量で、1回の連続した静脈内注入によって、個々に分割した用量の形で、例えば、1日あたり1回を超えて、または一週間もしくは数週間かけて投与されうる。注入液中で希釈される場合、イクサベピロンの好ましい濃度は、おおよそ約0.01から約2.0mg/mLの範囲内、より好ましくは約0.05から約1.5mg/mLの範囲内、最も好ましくは約0.2から約0.8mg/mLの範囲内である。本発明は、特に長時間持続する注入時間に有利であるが、イクサベピロンは、10時間まで、6時間まで、または1から4時間の注入時間でも投与されてもよく、例えば、薬物投与の計算理論(logistic)の観点から利点が提供される。しかしながら、ある態様において、転移性乳癌は、イクサベピロンの100mg/mまでの用量、より好ましくは約40±20mg/mの用量を、21日毎に1回、24時間までの注入時間で投与することによって治療されうる。しかしながら、投与量は21日毎よりも頻繁に分割投与されてもよく、および/または必要に応じて1回以上繰り返してもよい。
【0049】
いずれの特定の患者についても、特定の服用量および服用の頻度は変化しうるし、それは様々な要因、例えば用いられる特定の化合物の活性、その化合物の代謝的安定性および作用時間、生物種、年齢、体重、除脂肪量(もしくは脂肪組織の割合)、全般の健康状態、患者の性別および食事、投与の方法および時間、排泄速度、混合薬、並びに特定の症状の重症度に依存することが理解される。治療対象には、哺乳類、最も好ましくはヒトが含まれるが、イクサベピロン処置に応答する障害を受けている他の哺乳類種は、同様に対象となる可能性がありうる。
実施例1
【0050】
最初に、最終的なバッチ容積の15容積%に等しい量の水をバッチ容器(batching vessel)に加える。混合しながら、トロメタミンを水に加え、該溶液を最低10分間混合して、トロメタミンを溶解する。最終的なバッチ重量の1.2%に等しい量の1N HClをバッチ容器に加える。定常的に混合しながら、おおよそ等量のポリエチレングリコール400およびエタノール(各々最終的なバッチ容積の約40容積%)をバッチ容器に加える。必要であれば、温度が15〜25℃の範囲に維持されるようにバッチ温度を調整し、該溶液を最低15分間混合する。バッチ溶液のpHを、次いで1N HClおよび/または1N NaOHによって8.3±0.1まで調整する。次いで追加の水を加えて、目的の最終的なバッチ容積に達し、該溶液を最低15分間混合する。生じた溶液を、適当な0.22ミクロンフィルターを通した濾過によって無菌化する。一定分量の該無菌溶液をI型 ガラスバイアルに無菌的に入れ、それを次いで栓をして密封する。完成した溶媒系は、おおよそ以下の表4に示される組成を有し、それを2〜25℃で保管した。
表4

実施例2
【0051】
実施例1の溶媒系(10.7mL)を各バイアルにゆっくり注入することによって、該溶媒系を用いて2つのバイアルの凍結乾燥イクサベピロン(各々のバイアルは16mgのイクサベピロンを含む)を構成する。該凍結乾燥物が完全に溶解するまで、該バイアルを穏やかにかき混ぜる。完全に溶解した場合、イクサベピロンの溶液濃度は1.5mg/mLである。
【0052】
構成されたイクサベピロン溶液(15mL)をシリンジの中に吸引し、2mL以下のプライミング容積を備えた拡張セットを用いて、シリンジの出口を静脈ライン上の最も低いYサイトに接続する。Yサイトを投与セットの遠位末端から12インチ以内に置く。静脈ラインには、0.9% 塩化ナトリウム注入液,USP(標準生理食塩水)が流れている。該標準生理食塩水の速度を少なくとも50mL/時に設定し、流し始める。構成されたイクサベピロンを含むシリンジをシリンジポンプの中に置き、イクサベピロンの0.5mL/時の流速を開始する。シリンジ、シリンジポンプ、およびYサイトを用いて、構成されたイクサベピロン溶液を、このように生理食塩水が流れている中に注入する。
【0053】
イクサベピロンの有効性および全不純物を、24時間の注入時間をかけてHPLC分析を用いてモニターする。その結果、24時間の注入時間をかけて、イクサベピロンについては約3.2%の分解率があり、すなわち、イクサベピロン溶液中で検出される全不純物には、イクサベピロンの始めの量の約3.2%が含まれることが示される。
実施例3
【0054】
実施例1の溶媒系を用いて、1.5mg/mLのイクサベピロン濃度まで凍結乾燥イクサベピロンの量を構成する。構成されたイクサベピロン溶液をシリンジの中に吸引し、1.2ミクロンおよび0.2ミクロンのインラインフィルター、並びにそれぞれ4.3mLおよび1.15mLのプライミング容積を備えたブラウン拡張セット(Braun extension set)を用いて、シリンジの出口を静脈ライン上のYサイトに接続する。静脈ラインには、0.9% 塩化ナトリウム注入液、USP(標準生理食塩水)が流れている。構成されたイクサベピロンを含むシリンジをシリンジポンプの中に置き、イクサベピロンの流速を開始する。構成されたイクサベピロンの速度を2.22mL/時の一定速度に設定する。該生理食塩水の流速を6から96mL/時に変える。あるいは、注入したイクサベピロン溶液を5mL/時および17.8mL/時の速度に設定し、該生理食塩水の注入速度を約15から95mL/時に変える。製剤中のイクサベピロン濃度を約0.4mg/mL未満に維持するため、10mL/時までのイクサベピロンの流速については、該生理食塩水の流速を約30mL/時に設定する。10mL/時を超えるイクサベピロンの流速については、該生理食塩水の流速をイクサベピロンの流速の約3倍に設定する。より速い流速(通常60mL/時を超える流速)については、小さなフィルターよりも1.2ミクロンフィルター/拡張セットを投与セット中で用いる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
添付図面を考慮すると、本発明の利点、性質および様々な特徴が十分に理解されうる。図中:
【図1】図1は、溶媒系中のエタノールのパーセントの関数として、PEG400:EtOHの溶媒系(生理食塩水またはブドウ糖で1:5に希釈)におけるイクサベピロンの溶解度(mg/mL)を示す図である。
【図2】図2は、生理食塩水またはブドウ糖でさらに希釈した場合に、ベヒクルの容積パーセントの関数として、イクサベピロンの溶解度(mg/mL)を示す図である。
【図3】図3は、25mL/時で3時間と0.5mL/時で24時間の両方で、0.9% 生理食塩水が流れている中に注入したイクサベピロン溶液(1.5mg/mL)についての時間の関数としての全不純物を示す図である。注入バッグに入れた場合に、イクサベピロン溶液(0.4mg/mL)についての時間の関数としての全不純物も示す。
【0056】
これらの図が、本発明の概念を説明するためのものであって、実際はそれらに限らないことは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者の治療用医薬製剤の製造のためのイクサベピロンの使用であって、その中で該イクサベピロンを第一供給源から静脈ラインへ提供し、希釈剤を第二供給源から静脈ラインへ提供し、それによって該イクサベピロンおよび該希釈剤を、それぞれ第一供給源および第二供給源で物理的に分離した状態を維持し、それぞれ第一供給源および第二供給源から静脈ラインへ送達した後に混合して、医薬製剤を形成し、次いで該患者に送達する使用。
【請求項2】
医薬製剤を長時間患者に送達する、請求項1の使用。
【請求項3】
医薬製剤を、連続して、または実質的に連続して10時間を超えて持続する注入時間に患者に送達する、請求項2の使用。
【請求項4】
第一供給源におけるイクサベピロンが、約65容積%〜約90容積%の共溶媒と粘性減少剤(VRA)の混合物を含む溶媒系の構成要素となる凍結乾燥イクサベピロンであって、その中で該混合物には、約70:30から約30:70(容積比)の共溶媒:VRAが含まれ、該溶媒系には、さらにpH調整成分および少量の水溶媒が含まれる、請求項1の使用。
【請求項5】
共溶媒にポリエチレングリコール300またはポリエチレングリコール400が含まれ、粘性減少剤に無水アルコールが含まれる、請求項4の使用。
【請求項6】
溶媒系にポリオキシエチル化ヒマシ油が含まれないか、または溶媒系が実質的にポリオキシエチル化ヒマシ油を含んでいない、請求項4の使用。
【請求項7】
癌患者の治療用医薬製剤の製造のためのイクサベピロンの使用であって、イクサベピロンが、イクサベピロン溶液を規定している少量の水を有するpH調整溶媒系中の第一容器内に提供され、第一容器が、注入ラインの内容物を患者に送達するために、中央注入ラインと液体が通じており;
希釈剤が、中央注入ラインと液体が通じており、該イクサベピロン溶液を含む第一容器から物理的に分離された状態を維持している第二容器内に提供され;並びに、
該イクサベピロン溶液および該希釈剤が中央注入ラインに送達され、それによって該イクサベピロン溶液および該希釈剤が混合され、中央注入ラインの中に該患者に送達するための該医薬製剤を形成することを特徴とする使用。
【請求項8】
pH調整溶媒系に、共溶媒もしくは可溶化剤、粘性減少剤、pH調整成分、および少量の水の混合物が含まれる、請求項7の使用。
【請求項9】
共溶媒が、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール300、および/またはポリエチレングリコール400から選択され;並びに
粘性減少剤に、無水アルコールが含まれる、請求項8の使用。
【請求項10】
pH調整溶媒系に非イオン性界面活性剤が含まれないか、またはpH調整溶媒系が実質的に非イオン性界面活性剤を含んでいない、請求項8の使用。
【請求項11】
少なくとも第一バイアルおよび第二バイアルを含む、イクサベピロンを患者に投与するための医薬キットであって、その中で第一バイアルには多量の凍結乾燥イクサベピロンが含まれ、第二バイアルには約65容積%〜約90容積%の共溶媒と粘性減少剤(VRA)の混合物を含むpH調整溶媒系が含まれ、該混合物には、約70:30から約30:70(容積比)の共溶媒:VRAが含まれ、該溶媒系には、さらに1重量%未満の緩衝液、および10容積%から30容積%の水が含まれる医薬キット。
【請求項12】
pH調整溶媒系に非イオン性界面活性剤が含まれないか、またはpH調整溶媒系が実質的に非イオン性界面活性剤を含んでいない、イクサベピロンの静脈内注入を長時間かけて患者に投与する使用に適合した、請求項11のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−534610(P2008−534610A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504420(P2008−504420)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/011920
【国際公開番号】WO2006/105399
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】