説明

イグチ科ヌメリイグチ属担子菌培地培養物とその利用法

【課題】イグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌の培養において、美白効果を向上させる培養物の提供。
【解決手段】イグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)、特にハナイグチ、ヌメリイグチ、アミタケ、チチアワタケ、シロヌメリイグチ、ヌメリツバイグチからなる担子菌を、豆乳及び/またはモノテルペンを添加した培地で培養した担子菌培養物。および、イグチ科ヌメリイグチ属培養物を含む、美白効果の高い皮フ外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌培養物に関するものであり、更に詳しくは、イグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌の美白効果を向上させるための培地及びその培地を用いた培養物とその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イグチ科に属するヌメリイグチ属(Suillus)の担子菌は、いくつかの生理活性効果が知られている。イグチ科担子菌のヌメリイグチ属(Suillus)は、ハナイグチ(Suillus grevillei)、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus
bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)等が属する。しかし、その供給源としての天然の子実体は入手の時期が限定され、また入手した後も、子実体の個体差による有用性の変動や量産化等実用面での問題点が多い。そこで近年、イグチ科担子菌を含む外生菌根菌の菌糸体を人工的に培養する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
担子菌類は、胞子が発芽した後、菌糸が成長し、ある特定条件下で子実体が形成される。一般には、この菌糸から分化した子実体が「キノコ」と呼ばれ、市場に出回っているのは菌糸から子実体への栽培が確立したものである。担子菌類においては、菌糸や子実体自体に含まれる成分や二次代謝物は、摂取する有機物の種類や分化の段階によってもその成分や量が変動することが知られており、愛好家の中では、天然物のキノコが有する風味は市販されているものが有するそれと比べて格段に良いと言われている。これは、人工の栽培物が天然に生息・発生した子実体とは成分的にも大きく異なることに起因していると考えられている。
【0004】
上述したように、菌糸は子実体とは形態的にも成分的にも異なっており、加えて培養により得られた菌糸と子実体の構成組織として存在する菌糸も異なっている。さらに、同じ培養物においても培地に添加する組成物により、培養菌糸の成分が異なることが知られている(例えば、特許文献2)。また、イグチ科のヌメリイグチ属(Suillus)担子菌の天然子実体は美白効果を有することが知られている(例えば、特許文献3)が、従来の培養等の方法で得られる菌糸はその効果が十分ではなく、高い効果が得られる培養物の確立が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開2005−27546号公報
【特許文献2】特開2005−27511号公報
【特許文献3】特許3678832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌の培養等の方法で得られる菌糸は、充分な美白効果を有していないことである。
【課題を解決する手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、イグチ科担子菌(Boletaceae)のヌメリイグチ属(Suillus)の培養方法として、液体培養培地に添加剤として豆乳及び/またはモノテルペンを添加した組成分により培養することで、該培養菌糸抽出物の美白効果が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、豆乳及び/またはモノテルペンを添加した培地で培養されたヌメリイグチ属に属する担子菌の培養物を用いるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における豆乳は、水に浸漬処理した大豆を磨砕して絞った絞り汁である。豆乳はタンパク質、脂質、あるいは無機質などの成分を含有するため、担子菌の良い窒素源となる。本発明で使用する液体培養に用いる豆乳は、豆乳あれば特に限定はなく、実施例では、株式会社紀文フードケミファ製の市販品を用いた。また配合量についても有効量配合されていれば特に限定はないが、好ましくは液体培地組成物中0.1〜20重量%
、更に好ましくは0.5〜10重量% である。0.5〜10重量% であれば、より高い美白効果が期待できる。配合量が0.1重量%未満の場合には十分な効果を発揮させることができない為に好ましくなく、20重量%より多い場合には高圧滅菌時または培養時の操作性が低下する為に好ましくない。
【0009】
本発明におけるモノテルペンは、テルペン一種である。テルペンは、イソプレンを構成単位とする一群の天然有機化合物の総称であり、不飽和炭化水素以外に、これらの酸化還元生成物(アルコール、アルデヒド、ケトン、酸等)や、炭素の脱離した化合物等が多くの植物および動物体内に見出されている。また、これらの化合物は、形式上2つ以上のイソプレン単位(C5)から構成されており、分子骨格のイソプレン単位の数に応じて、それぞれモノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン (C20)、セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)、およびその他のポリテルペンに分類される。また、モノテルペンはモノテルペン合成酵素によってゲラニル二リン酸から生合成され、非環式と環式とに分類される。非環式のものとしては、ゲラニオール(C1018O)、リナロール(C1018O)、シトロネロール(C1020O)、ミルセン(C1016)等が例示され、環式のものとしては、l−メントール(C1020O)、チモール(C1014O)、アネトール(C1012O)、テルピネオール(C1018O)等が例示される。該モノテルペンは試薬特級または一級相当品であれば特に限定はなく、実施例では、和光純薬工業株式会社製の一級品を用いた。また配合量ついても有効量配合されていれば特に限定はないが、好ましくは液体培地組成物中0.0001〜0.02%
、更に好ましくは0.001〜0.01重量% である。0.001〜0.01重量%であれば、より高い美白効果が期待できる。配合量が0.0001重量%未満の場合には十分な効果を発揮させることができない為に好ましくなく、0.02重量%より多い場合には効果が平衡に達する。
【0010】
本発明の液体培養で用いられる基本培地には、イグチ科担子菌を含む外生菌根菌の培養に用いられるポテトデキストロース培地、改変メーリン・ノルクラン(MMN)培地、改変浜田培地が好適に示される。ポテトデキストロース培地は、例えばPotato−Dextrose Broth2.4gを精製水100mLに溶解させることで調製可能である。MMN培地は、例えばグルコース1.0
g 、モルトエキス0.3g、塩化カルシウム2水和物0.0066g、塩化ナトリウム0.0025g、リン酸2水素カリウム0.05g、リン酸水素2アンモニウム0.025g、硫酸マグネシウム7水和物0.015g、塩化鉄(III)1%溶液0.12mL、チアミン塩酸塩0.01mg を精製水100mLの水に溶解させることで調製可能である。改変浜田培地は、例えばグルコース2.0g、乾燥酵母0.5gを精製水100mLに溶解させることで調製可能である。基本培地には炭素源、窒素源などイグチ科担子菌菌糸体を培養する際の生育に必要な栄養素が含まれており、さらにビタミン類やミネラルを添加することも可能である。
【0011】
基本培地の炭素源としては、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース等の単糖類、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等の二糖類、デキストリン、デンプン、セルロース等の多糖類を用いることができる。
【0012】
基本培地の窒素源としては、イーストエキス、モルトエキス、ペプトン、ポリペプトン、カザミノ酸等の有機物、硝酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム等の窒素含有化合物を用いることができる。
【0013】
また、ビタミン類としては、例えばビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等を用いることができる。ミネラルとしては、例えばリン、窒素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、銅、モリブデン、塩素、ナトリウム、ヨウ素、コバルト等が挙げられ、これらの成分は例えば硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、塩化カリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、ホウ酸、硫酸銅、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等の化合物として用いることができる。
【0014】
前記以外の培地組成であっても、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌菌糸培養に適している培地であれば、本発明に適用されるのは勿論である。
【0015】
本発明におけるイグチ科担子菌の液体培養法は、前述の豆乳及び/またはモノテルペンを添加した液体培地にイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の種菌を接種し、室温約20〜30℃ の好気条件下で約10〜20日間培養するのが望ましい。培養は、振とう培養を行なっても良いし、通気培養を行なっても良い。
【0016】
本発明にいう培養物とは菌糸、培養後菌糸をろ過等の方法により分離した培養液、培養したイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の菌糸体を通常の方法により抽出した菌糸体抽出物である。また培養物は通常の方法により精製したものを含む。
【0017】
本発明における培養液は、培養した培養物をろ過し、菌糸体を取り除くことで調製される。ろ過方法は特に限定はされないが、例えば種々の適当なろ紙またはメンブレンを用いて常圧下または吸引下でろ過することができる。ろ紙素材としては、セルロース、ガラス繊維、シリカ繊維、セルロースアセテート、セルロース混合エステル、ポリカーボネート等が例示される。
【0018】
本発明に用いるハナイグチ培養菌糸抽出物の調製法は、特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて低温下から加温下で抽出することができる。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1
価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1
種または2 種以上を用いることが出来る。そのうち、水、エチルアルコール、1、3−ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適に示される。
【0019】
ヌメリイグチ属担子菌の培養菌糸の抽出は、菌糸をそのままあるいは乾燥したものを重量比で1〜1000倍量、特に5〜100倍量の溶媒を用いることが出来る。常温抽出の場合には、0℃以上、特に20℃〜40℃で1時間以上、特に3〜7日間行うのが好適である。また、60〜100℃で0.5〜24時間、加熱抽出しても良い。
【0020】
以上のような条件で得られるヌメリイグチ属担子菌の培養菌糸抽出物は、ろ過等の処理をして溶液のまま用いても良いが、更に必要により、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0021】
本発明に係る培養物の他に、水性成分、油性成分、植物抽出物、動物抽出物、粉末、賦形剤、界面活性剤、油剤、アルコール、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、香料等を必要に応じて混合して適宜配合することにより調製される。本発明の化粧料の剤型は特に限定されず、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液、洗浄料等種々の剤型とすることができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明に関する実施例を示すと共にその素材を用いた皮膚外用剤への応用処方例等について述べるが、本発明は、ここに記載された実施例に限定されるものではない。
【0023】
<実施例1> メラニン産生抑制効果の測定
皮膚の黒化には色素のメラニンが深く関与していると考えられる。即ち、メラニンが紫外線などの外的刺激を受けて肌の皮膚組織で生産され、その結果、肌の黒化が促進され、シミ・ソバカス・色黒等の症状が引き起こされると考えられている。よって、肌の美白作用の確認法としメラニン産生抑制効果に着目し、マウスメラノーマ細胞によるメラニン産生抑制試験を行った。以下、ハナイグチ培養菌糸抽出 物の美白効果に関するメラニン産生抑制試験について説明する。
【0024】
<液体培養の組成例>
本発明に係る液体培養培地を表1に示した組成にて作製した。グルコース10.0 g 、モルトエキス3.0g、塩化カルシウム2水和物0.066g、塩化ナトリウム0.025g、リン酸2水素カリウム0.5g、リン酸水素2アンモニウム0.25g、硫酸マグネシウム7水和物0.15g、塩化鉄(III)1%溶液1.2mL、チアミン塩酸塩0.1mg を1000mLの水に添加して基本の液体培地を作った。また、添加物として豆乳及び/またはモノテルペンを表1の量を添加して液体培地を調製後、オートクレーブを用いて高圧殺菌した。
【0025】
植え付ける種菌は、天然子実体より分離したハナイグチ菌糸をPotato−Dextrose
Broth(Difco社製)2.4%で振とう培養(24℃、150rpm、2週間)したものを用いた。得られた菌糸をホモジネートしたものを5mLずつ培養瓶に接種した。接種後は24℃の条件下で通気しながら培養を行った。
【0026】
培養を開始して約14日後には液体培地に菌糸体が生育した。そこで、生育した菌糸体を収集し、これを水でよく洗浄したのち凍結乾燥し、ハナイグチ培養菌糸を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
<試料の調製>
ハナイグチ培養菌糸のエタノール抽出物は、ハナイグチ培養菌糸をエタノールで、60℃にて24時間抽出した。溶媒を留去し、1%濃度になるようにエタノールに溶解した。ハナイグチ培養菌糸の水抽出物は、ハナイグチ培養菌糸を精製水で、60℃にて24時間抽出した。溶媒を留去し、1%濃度になるように精製水に溶解した。ハナイグチ培養液は、培養した培養物をADVANTEC 5C定量ろ過を用いて吸引ろ過し調製した。陽性対照として用いたアルブチンは、市販の試薬を用いてPBS(−)溶液に溶解した。試料は全て、0.2μmメンブレンフィルターで除菌ろ過を行った。
【0029】
天然子実体抽出物は、ハナイグチ天然子実体をエタノール溶液または精製水で、60℃にて24時間抽出した。その後、溶媒を留去し、1%濃度になるようにエタノール溶液または水に溶解、調製した。
【0030】
<細胞培養>
培養液は、牛胎児血清5.0%を加えたダルベッコMEM(D−MEM)培地を用いた。細胞は、マウスメラノーマB−16 F−10を12ウェルプレートに植え付けた。植え付け量は5×10/wellとした。植え付けの翌日、抽出物試料を乾燥物濃度にして、エタノール抽出物は25ppm、水抽出物は200ppmの濃度になるよう添加し、添加後3日後に試験を終了した。
【0031】
<評価方法>
12ウェルプレートに増殖した細胞をPBS(−)溶液で洗浄後、2N−NaOH溶液に溶解し、405nmの吸光度を測定した。それぞれ吸光度をコントロールと比較することにより、8段階表示をした。
【0032】
<判定基準>
表2に結果の判定基準を示す。メラニン量はコントロールと比較した吸光度値の割合で示した。なおアルブチンは、メラニン産生抑制の陽性対照物質として示している。
【0033】
【表2】

【0034】
表1に示した培地組成で培養することにより得た培養菌糸のエタノール抽出液、および天然子実体のエタノール抽出液を用いた場合のメラニン産生抑制効果試験の測定結果を表3に示す。表3より明らかなように、本発明に係わる豆乳を添加した実施例1のエタノール抽出液のメラニン産生抑制の判定は2、ゲラニオールを添加した実施例2のエタノール抽出液のメラニン産生抑制の判定は3、豆乳およびゲラニオールを添加した実施例3のエタノール抽出液のメラニン産生抑制の判定は1であり、高いメラニン産生抑制効果が認められた。また、l−メントールを添加した実施例4、リナロールを添加した実施例5のエタノール抽出液のメラニン産生抑制の判定も高いメラニン産生抑制効果が認められた。実施例1、実施例3、実施例4については、メラニン産生抑制効果の高いことで知られているアルブチンの効果(判定2)と同等以上の高い効果であった。一方、添加物無添加の比較例1のエタノール抽出液のメラニン産生抑制の判定は7であり、天然のハナイグチ子実体のエタノール抽出液を用いた比較例2はメラニン産生抑制の判定が6であった。
【0035】
【表3】

【0036】
表1に示した培地組成で培養することにより得た培養菌糸の水抽出液を用いた場合のメラニン産生抑制効果試験の測定結果を表4に示す。表4より明らかなように、本発明に係わる豆乳を添加した実施例6の水抽出液のメラニン産生抑制の判定は3、ゲラニオールを添加した実施例7の水抽出液のメラニン産生抑制の判定は2、豆乳およびゲラニオールを添加した実施例8の水抽出液のメラニン産生抑制の判定は1であり、高いメラニン産生抑制効果が認められた。また、l−メントールを添加した実施例9、リナロールを添加した実施例10の水抽出液のメラニン産生抑制の判定も高いメラニン産生抑制効果が認められ、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10については、アルブチンの効果と同等以上の高い効果を有していた、一方、添加物無添加の比較例3の水抽出液のメラニン産生抑制の判定は7であった。
【0037】
【表4】

【0038】
表1に示した培地組成で培養することにより得た培養液のメラニン産生抑制効果試験の測定結果を表5に示す。表5より明らかなように、本発明に係わる豆乳を添加した実施例11の培養液のメラニン産生抑制の判定は3、ゲラニオールを添加した実施例12の培養液のメラニン産生抑制の判定は3、豆乳およびゲラニオールを添加した実施例13の培養液のメラニン産生抑制の判定は2、l−メントールを添加した実施例14の培養液のメラニン産生抑制の判定は3、リナロールを添加した実施例15の培養液のメラニン産生抑制の判定は3であり、高いメラニン産生抑制効果が認められた。一方、添加物無添加の比較例4の培養液のメラニン産生抑制の判定は8であった。
【0039】
【表5】

【0040】
この様に、豆乳及び/またはモノテルペンを添加した菌糸体抽出物、培養液のメラニン産生抑制効果は、高いメラニン産生抑制効果があるとされているアルブチン及び天然のハナイグチ子実体と比較しても同等以上の高い効果を有することが認められた。実施例に供した豆乳、またはモノテルペン自体のメラニン産生抑制効果は報告されていないことから上記の結果は豆乳またはモノテルペン自体の効果ではなく、豆乳及び/またはモノテルペンを添加して培養することにより、菌糸体のメラニン産生抑制効果が明らかに向上することを示している。
【0041】
実施例と同様に、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus
bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)の培養においても、豆乳及び/またはモノテルペンの添加によって、菌糸水抽出液、菌糸エタノール抽出液、培養液のメラニン産生抑制効果が向上した。
【0042】
次に、本発明の培養処理物を配合した処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものでない。
化粧料の処方例
【0043】
(1)化粧用クリーム (重量%)
a) ミツロウ・・・2.0
b) ステアリルアルコール・・・5.0
c) ステアリン酸・・・8.0
d) スクワラン・・・10.0
e) 自己乳化型グリセリルモノステアレート・・・3.0
f) ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)・・・1.0
g) ハナイグチ菌糸体水抽出物(ゲラニオール0.005%配合培養)・・・2.0
h) 1,3−ブチレングリコール・・・5.0
i) 水酸化カリウム・・・0.3
j) 防腐剤・酸化防止剤・・・適量
k) 精製水・・・残部
製法
a)〜f)までを加熱溶解し、80℃に保つ。h)
〜 k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a) 〜f)に加えて乳化し、40℃まで撹拌しながら冷却する。その後、g)を加え、攪拌し均一に溶解する。
【0044】
(2)乳液 ( 重量% )
a) ミツロウ・・・0.5
b) ワセリン・・・2.0
c) スクワラン・・・8.0
d) ソルビタンセスキオレエート・・・0.8
e) ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O.)・・・1.2
f) ハナイグチ菌糸体エタノール抽出物(ゲラニオール0.005%配合培養)・・・1.0
g) 1,3− ブチレングリコール・・・7.0
h) カルボキシビニルポリマー・・・0.2
i) 水酸化カリウム・・・0.1
j) 精製水・・・残部
k) 防腐剤・酸化防止剤・・・適量
l) エタノール・・・7.0
製法
a)〜e)までを加熱溶解し、80℃に保つ。g)〜k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜e)に加えて乳化し、50℃
まで撹拌しながら冷却する。50℃ でf)、l)を添加し、40℃まで攪拌、冷却する。
【0045】
(3)化粧水 (重量%)
a) ハナイグチ菌糸体エタノール抽出物(豆乳5%配合培養)・・・1.0
b) グリセリン・・・5.0
c) ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
d) エタノール・・・6.0
e) 香料・・・適量
f) 防腐剤・酸化防止剤・・・適量
g) 精製水・・・残部
製法
a)〜g)までを混合し、均一に溶解する。
【0046】
(4)洗顔料 (重量%)
a) ステアリン酸・・・12 .0
b) ミリスチン酸・・・14 .0
c) ラウリン酸・・・5.0
d) ホホバ油・・・3.0
e) グリセリン・・・10.0
f) ソルビトール・・・15.0
g) 1,3−ブチレングリコール・・・10.0
h) POE(20)グリセロールモノステアリン酸・・・2.0
i) 水酸化カリウム・・・5.0
j) 水・・・残部
k) キレート剤・・・適量
l) 香料・・・適量
m) ハナイグチ菌糸体水抽出物(豆乳5%配合培養)・・・2.0
製法
a)〜h)までを加熱溶解し70℃に保つ。j)にi)を溶解後a)〜h)に加えケン化する。その後k)、l)を入れ攪拌しながら冷却する。50℃でm)を添加し、40℃まで攪拌、冷却する。
【0047】
<効果確認試験>
(1)塗布によるヒトでの効果確認試験
被験者として、20〜50歳の女性15名に1日2回(朝、夜)連続2ヵ月間、本発明品と比較品のそれぞれを使用させ、塗布部位の状態を試験前後で比較し、改善効果を調べた。本試験には、実施例16
として処方例中の(1)化粧用クリームで示した化粧料を用い、比較例5には実施例16からハナイグチ菌糸体水抽出物(ゲラニオール0.005%配合培養)を除き、代わりに添加物無配合で培養したハナイグチ菌糸体水抽出物を配合した化粧料、比較例6には実施例1からハナイグチ菌糸体水抽出物を除いた化粧料を作成し、その使用による効果について調べた。本発明の有効成分を配合した化粧料を毎日使用しながら肌の美白効果及び使用後の肌の感触について塗布開始前及び2ヶ月塗布後におけるアンケートで集計し、効果の確認を行った。
【0048】
<美白効果の評価基準>
著効:しみ・ソバカスが消えた部分がある。
有効:しみ・ソバカスが目立たなくなった。
やや有効:しみ・ソバカスがやや目立たなくなった。
無効:変化が認められなかった。
【0049】
【表6】

【0050】
表6より、比較例6にもやや美白効果が見られるが、ゲラニオール0.005%配合培地で培養したハナイグチ菌糸体抽出物を配合した実施例16は、非常に高い美白効果があることがわかる。実施例16 と比較例6を比較すると、実施例16の方が比較例6よりはるかにこれらの効果が高いことから、これらの効果はゲラニオールの配合に起因していることが明らかになった。
尚、本試験において実施例16を使用して何らかの刺激があったと答えた人はいなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の菌糸体の培養方法によれば、豆乳及び/またはモノテルペンを含有する液体培地の中で培養させることで、天然の子実体及び公知であるアルブチンと比較して、高い美白効果有する培養物を提供することが可能であり、化粧料や医薬品、及び食品の各分野に広く応用が期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳及び/またはモノテルペンを配合した培地にて培養したイグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌培養物。
【請求項2】
豆乳を培地全量の0.5〜10重量%及び/またはモノテルペンを0.001〜0.01重量%配合したことを特徴とする請求項1記載の培地で培養したイグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌培養物。
【請求項3】
イグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌が、ハナイグチ(Suillus grevillei)、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus
bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)であることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の培養物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3記載のイグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)担子菌培養物を配合することを特徴とする皮膚外用剤。

【公開番号】特開2009−240279(P2009−240279A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93863(P2008−93863)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】