説明

イソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法及びイソインドリン誘導体のA型の結晶形

【課題】一定の結晶形を有するイソインドリン誘導体の製造方法、特に、イソインドリン誘導体のA型の結晶形を選択的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】


のA型の結晶形の製造方法であって、(a)上記イソインドリン誘導体の粗体を、炭素数1〜4のアルコール、炭素数2〜6のケトンなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含む溶剤に溶解し、上記イソインドリン誘導体を含有する溶液を調製する工程、および、(b)上記イソインドリン誘導体のA型の種結晶の共存下、上記溶液から、上記イソインドリン誘導体のA型の結晶形を再結晶せしめる工程、を含むことを特徴とするイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法及びイソインドリン誘導体のA型の結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系に作用する薬剤としてこれまでにイソインドリン骨格を有する多くの化合物が知られている。なかでも、水溶性の麻酔薬、特に静脈麻酔薬として使用することができる化合物として、特許文献1に示されている、下記式(1)に示すような、(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オン(以下、イソインドリン誘導体という)、及び、その合成方法が知られている。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−189733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の合成方法で上記式(1)に示すイソインドリン誘導体を合成し、回収することにより得られる物質はアモルファス(非晶質)であった。
そして、得られたアモルファスを再結晶により精製操作すると、A型の結晶形及びB型の結晶形の2通りの結晶形が得られることを、本発明者らは見出した。
すなわち、本発明者らは、上記式(1)に示すイソインドリン誘導体には結晶多形が存在することを見出した。
【0006】
さらに、本発明者らは、特許文献1に記載されているような合成方法により得られたアモルファスを再結晶により精製操作するのみでは、A型の結晶形又はB型の結晶形のどちらかの結晶形がランダムに得られるか、又は、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶が得られることを見出した。すなわち、特許文献1に記載されているような合成方法では得られる結晶形の再現性が得られず、特定の種類の結晶形のみを選択的に製造することは困難であることを見出した。
【0007】
一般的に、結晶多形が存在する物質は、結晶形によって種々の性質、例えば溶解度、溶解速度、安定性、吸収性等、が異なることが知られている。そのため、たとえ同一化合物であっても全く異なる作用効果を示すことがある。
医薬品として用いられる化合物としては常に一定の作用効果が期待できる同一品質の化合物とすることが望まれているため、結晶多形が存在する化合物を医薬品として用いる場合、均一な品質及び一定の作用効果を確保するために、均一の結晶形を有する化合物を安定して提供することが必要となる。
【0008】
本発明者らが見出したように、上記式(1)に示すイソインドリン誘導体には、上記したように少なくとも2種類の異なる結晶形が存在する。そのため、医薬品としての品質を確保するためには、結晶形が一定となるように制御してイソインドリン誘導体を製造する方法を確立する必要があった。
【0009】
本発明は、一定の結晶形を有するイソインドリン誘導体の製造方法、特に、イソインドリン誘導体のA型の結晶形を選択的に製造する方法を提供することを目的とする。またイソインドリン誘導体のA型の結晶形を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、結晶形が一定となるように制御してイソインドリン誘導体を製造する方法について検討した。その結果、結晶形が制御されていないイソインドリン誘導体の粗体を溶剤に溶解させ、イソインドリン誘導体のA型の種結晶の共存下で再結晶を行うことによって、イソインドリン誘導体のA型の結晶形のみを選択的に製造することができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化2】

のA型の結晶形の製造方法であって、
(a)上記イソインドリン誘導体の粗体を、炭素数1〜4のアルコール、炭素数2〜6のケトン、炭素数1〜4の脂肪族ニトリル、炭素数1〜4のカルボン酸のエステル、炭素数2〜6の鎖状または環状エーテル、炭素数1〜4のクロロアルカンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含む溶剤に溶解し、上記イソインドリン誘導体を含有する溶液を調製する工程、および、
(b)上記イソインドリン誘導体のA型の種結晶の共存下、上記イソインドリン誘導体を含有する溶液から、上記イソインドリン誘導体のA型の結晶形を再結晶せしめる工程、
を含むことを特徴とする。
【0012】
或いは、本発明は、
(2)上記(1)に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
工程(a)に用いる有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
或いは、本発明は、
(3)上記(1)に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
工程(a)に用いる有機溶媒が、エタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
或いは、本発明は、
(4)上記(3)に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記溶剤が、実質的にエタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる有機溶媒のみからなることを特徴とする。
【0015】
或いは、本発明は、
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記溶剤が、有機溶媒の他に、さらに水を含有することを特徴とする。
【0016】
或いは、本発明は、
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体の粗体100gに対して、0.01〜2gの上記イソインドリン誘導体のA型の種結晶を共存させることを特徴とする。
【0017】
或いは、本発明は、
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
工程(b)の再結晶は、上記イソインドリン誘導体を含有する溶液を、50℃以上又は有機溶媒の沸点以下の温度にまで加熱した後、0〜30℃にまで冷却し、当該冷却中もしくは冷却完了後に、上記イソインドリン誘導体のA型の種結晶を溶液内に投じることによってなされることを特徴とする。
【0018】
或いは、本発明は、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体の粗体の、高速液体クロマトグラフにより算出される化学純度が95%以上であることを特徴とする。
【0019】
或いは、本発明は、
(9)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体の粗体の、高速液体クロマトグラフにより算出される化学純度が98%以上であることを特徴とする。
【0020】
或いは、本発明は、
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
工程(a)を行う前に、前記イソインドリン誘導体の粗体を溶媒を用いて再結晶する工程をさらに行うことを特徴とする。
【0021】
或いは、本発明は、
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体のA型の結晶形は、下記の(i)で表される物性データを有することを特徴とする。
(i):図1で表される粉末X線回折スペクトルデータを有する。
【0022】
或いは、本発明は、
(12)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体のA型の結晶形は5.1、10.2、及び、22.5の回折角(2θ)にピークを有する粉末X線回折スペクトルデータを有することを特徴とする。
【0023】
或いは、本発明は、
(13)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法であって、
上記イソインドリン誘導体の結晶形は、下記表1に示す回折角度及び相対強度を示す粉末X線回折スペクトルデータを有することを特徴とする。
【0024】
【表1】

【0025】
或いは、本発明は、
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法によって得られた、式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化3】

のA型の結晶形である。
【0026】
或いは、本発明は、
(15)式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化4】

のA型の結晶形であって、
下記の(i)で表される物性データを有することを特徴とする。
(i):図1で表される粉末X線回折スペクトルデータを有する。
【0027】
或いは、本発明は、
(16)式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化5】

のA型の結晶形であって、
5.1、10.2、及び、22.5の回折角(2θ)にピークを有する粉末X線回折スペクトルデータを有することを特徴とする。
【0028】
或いは、本発明は、
(17)式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化6】

のA型の結晶形であって、
上記表1に示す回折角度及び相対強度を示す粉末X線回折スペクトルデータを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法によると、結晶形が常に一定となるように制御してイソインドリン誘導体のA型の結晶形を選択的に製造することができる。
また、イソインドリン誘導体のA型の結晶形は、医薬品用途、とくに静脈麻酔薬として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、式(1)に示すイソインドリン誘導体のA型の結晶形の粉末X線回折チャートである。
【図2】図2は、式(1)に示すイソインドリン誘導体のB型の結晶形の粉末X線回折チャートである。
【図3】図3は、実施例2において得られたイソインドリン誘導体の粗体の粉末X線回折チャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
下記式(1)に示すイソインドリン誘導体には、少なくともA型の結晶形、B型の結晶形の2種の結晶形が存在する。
【化7】

まず、各結晶形について説明する。
【0032】
各結晶形の特定は、粉末X線測定を用いて行うことができる。
本明細書において、各結晶形の特定に用いる粉末X線測定の条件は、以下のとおりとする。
装置:リガク RINT2000
X線: Cu−Kα線
装置制御: 平行法
測定角度: 3〜50deg
電圧: 40kV
電流: 40mA
【0033】
イソインドリン誘導体のA型の結晶形は、粉末X線測定において得られたチャートにおいて、5.1、10.2及び22.5の回折角(2θ)にあるピークにより特徴付けられる結晶形である。
【0034】
また、イソインドリン誘導体のA型の結晶形の粉末X線回折チャートの一例を、図1に示す。
【0035】
また、イソインドリン誘導体のA型の結晶形の粉末X線測定において得られる回折角度及び相対強度の一例を、上記表1に示す。
【0036】
イソインドリン誘導体のB型の結晶形は、例えば図2に示すような粉末X線回折チャートを示す結晶形である。
図1に示す粉末X線回折チャートと図2に示す粉末X線回折チャートを比較すると、各チャートが示すピーク位置がそれぞれ異なることが分かる。そのため、粉末X線回折測定を行うことによって、イソインドリン誘導体の結晶形を特定することが可能である。
【0037】
以下、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法の一実施形態について説明する。
始めに、式(1)に示すイソインドリン誘導体の粗体を得る。イソインドリン誘導体の粗体は、従来公知の方法により式(1)に示すイソインドリン誘導体の誘導体を合成することによって得られる。なお、「粗体」とは、結晶形の制御がされていないものを示し、その形態(結晶形)は特に限定されるものではないが、アモルファスであることが多い。
【0038】
また、上記イソインドリン誘導体の粗体を、溶媒に溶解し、再結晶させることによって精製して、その化学純度(高速液体クロマトグラフにより測定される化学純度)を高めても良い。
得られたイソインドリン誘導体の粗体の化学純度は、95%以上であることが望ましく、98%以上であることがより望ましい。
また、得られたイソインドリン誘導体の粗体の光学純度は、90%e.e.以上であることが望ましく、96%e.e.以上であることがより望ましく、99%e.e.以上であることがさらに望ましい。
【0039】
イソインドリン誘導体の化学純度を高めるために行う再結晶に用いる溶媒の種類は特に限定されるものではないが、エタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる有機溶媒、又は、これらの有機溶媒にさらに水を適量加えた溶媒を好適に用いることができる。
【0040】
イソインドリン誘導体の化学純度を高めるために行う再結晶の好ましい条件としては、例えば、溶媒としてアセトン/水=9/1(体積比)を用い、55〜65℃に加温した溶媒中に、上記イソインドリン誘導体の粗体を溶媒1Lあたり111.0g投入し、攪拌して溶解させ、溶液を10〜20時間かけて0〜10℃まで徐々に冷却する条件が挙げられる。
このような条件とすることによって、不純物を取り除いて化学純度の高いイソインドリン誘導体の粗体を得ることができる。また、イソインドリン誘導体の粗体の収率を60〜70%と高くすることができる。
【0041】
また、得られたイソインドリン誘導体の粗体は、後の工程で有機溶媒を含む溶剤に再度溶解させることとなるため、その結晶形は特に限定されず、A型の結晶形、B型の結晶形のいずれの結晶形でも良い。また、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶であっても良い。また、アモルファスであってもよい。
【0042】
なお、本製造方法において、「再結晶」とは、温度差を利用する狭義の再結晶の他に、イソインドリン誘導体を含む溶液に対して、イソインドリン誘導体の溶解度を低減させる溶媒を添加してイソインドリン誘導体の結晶を析出させる方法(晶析)も含まれる。
【0043】
次に、上記イソインドリン誘導体の粗体を、有機溶媒を含む溶剤に溶解させて、イソインドリン誘導体を含有する溶液を調製する。
有機溶媒としては、炭素数1〜4のアルコール、炭素数2〜6のケトン、炭素数1〜4の脂肪族ニトリル、炭素数1〜4のカルボン酸のエステル、炭素数2〜6の鎖状または環状エーテル、炭素数1〜4のクロロアルカンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0044】
特に、上記有機溶媒がエタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが望ましく、上記有機溶媒が、エタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより望ましい。また、上記溶剤が、実質的にエタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる有機溶媒のみからなるとさらに望ましい。
また、上記溶剤は、上記有機溶媒の他に水を含有していてもよい。
また、溶剤が有機溶媒の他に水を含有していると、溶解度が向上し、使用する溶媒の量を削減することが可能である。
【0045】
次に、イソインドリン誘導体のA型の種結晶の共存下で、上記イソインドリン誘導体を含有する溶液からイソインドリン誘導体のA型の結晶形を再結晶させる。
イソインドリン誘導体のA型の種結晶を共存させて再結晶を行うことにより、イソインドリン誘導体のA型の結晶形が選択的に得られる。
【0046】
ここで用いるイソインドリン誘導体のA型の種結晶は、不純物を取り除いて得たイソインドリン誘導体の結晶のうち、粉末X線回折によって得られたチャートがA型の結晶形の特徴を示しているものを選別することにより得られる。
【0047】
再結晶を行う際にイソインドリン誘導体のA型の種結晶を共存させる量は、特に限定されるものではないが、溶液中に含まれるイソインドリン誘導体の粗体100gに対して、0.01〜2gのイソインドリン誘導体のA型の種結晶を共存させることが望ましい。
【0048】
なお、再結晶の際にA型の種結晶に代えてB型の種結晶を投入した場合には、得られる結晶形は、A型の結晶形のみ、B型の結晶形のみ、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶のいずれかとなる。すなわち、B型の種結晶を投入した場合には特定の結晶形を選択的に得ることができない。
【0049】
再結晶を行う方法は特に限定されるものではなく、上述したように温度差を利用する方法、晶析等を用いることができる。
望ましい方法としては、イソインドリン誘導体を含有する溶液を、50℃以上又は有機溶媒の沸点以下の温度にまで加熱した後、0〜30℃にまで冷却し、当該冷却中もしくは冷却完了後に、イソインドリン誘導体のA型の種結晶を溶液内に投じる方法が挙げられる。
【0050】
特に、冷却時間を10〜20時間とし、冷却速度を1〜5℃/時間とすることが望ましい。
また、溶液の温度が65〜75℃のときにイソインドリン誘導体のA型の種結晶を溶液内に投じることが望ましい。
このような条件とすることによって、イソインドリン誘導体のA型の結晶形をより安定して得ることができる。
また、有機溶媒の沸点以下の温度まで加熱し、冷却を開始する前にフィルターろ過を実施してもよい。
【0051】
そして、上記再結晶によって析出した結晶を濾過、乾燥させることによって、イソインドリン誘導体のA型の結晶形を得ることができる。
乾燥条件としては、減圧乾燥機を用い、乾燥温度を50〜60℃とし、残留している有機溶媒の含有量が0.5重量%以下となるように乾燥時間を調整することが望ましい。
例えば、市販の減圧乾燥機を用いて真空度20mmHg以下で5〜15時間乾燥する条件とすることができる。
【0052】
以下、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形について説明する。
本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形は、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法によって得られた結晶形である。
また、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形は、5.1、10.2、及び、22.5の回折角(2θ)にピークを有する粉末X線回折スペクトルデータを有する。
【0053】
また、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の一例としては、図1で表される粉末X線回折スペクトルデータを有するもの、及び、上記表1に示す回折角度及び相対強度を示す粉末X線回折スペクトルデータを有するものが挙げられる。
【0054】
このような、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形は、結晶形がA型の結晶形となるように制御されているため、医薬品用途、とくに静脈麻酔薬として好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下に本発明をより具体的に開示した実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンのA型の結晶形の製造
【0057】
(a)工程:(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの粗体351g(901mmol)を、アセトン2.84L、水316mLに加熱溶解した(溶媒比アセトン/水=9/1)。内温60℃で完全溶解し終夜撹拌した。さらに氷冷し、スラリーを濾過、乾燥し(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの粗体227gを白色結晶として得た(収率65%、化学純度99.9%、光学純度100%e.e.)。当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はB型の結晶形であることが確認できた。なお、粉末X線回折の測定条件は、上述した通りである。
続いて、得られたイソインドリン誘導体の粗体10g(25.7mmol、結晶形B型、化学純度99.9%、光学純度100%e.e.)をエタノール70mLに内温70℃で加温溶解し、該イソインドリン誘導体を含有する溶液を調製した。
【0058】
(b)工程:(a)工程で得られた該イソインドリン誘導体を含有する溶液にイソインドリン誘導体のA型の種結晶を0.05g添加し、室温まで降温しながら一晩攪拌した。さらに氷冷して結晶を析出させ、析出結晶を濾過、乾燥した(9g、化学純度100%)。当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はA型の結晶形であることが確認できた。
【0059】
なお、上述した(a)工程において行った再結晶ではイソインドリン誘導体の粗体としてB型の結晶形が得られたが、(a)工程において再結晶を複数回行った場合に得られた結晶形はB型の結晶形に限られず、ロットによってA型の結晶形が得られた場合や、A型の結晶形とB型の結晶形の混合結晶が得られた場合があった。
また、上記(b)工程において使用したイソインドリン誘導体のA型の種結晶は、別ロットの(a)工程においてイソインドリン誘導体の粗体として得られたA型の結晶形を選別することにより得られたものである。
【0060】
(実施例2)
(a)工程:実施例1の(a)工程と同様にしてイソインドリン誘導体の粗体を白色結晶として得た。当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶は主にA型の結晶形からなる、A型の結晶形とB型の結晶形の混合結晶であった。
【0061】
図3は、実施例2で得られたイソインドリン誘導体の粗体の粉末X線回折チャートである。
図3に示す粉末X線回折チャートは、A型の結晶形の粉末X線回折チャートとB型の結晶形の粉末X線回折チャートを合成したチャートとなっており、A型の結晶形に特徴的なピークがより強く示されている。すなわち、このイソインドリン誘導体の粗体は、主にA型の結晶形からなる、A型の結晶形とB型の結晶形の混合結晶であった。
【0062】
続いて、イソインドリン誘導体の粗体(A型の結晶形及びB型の結晶形の混合結晶)100gを用い、溶剤としてエタノールを700mL用いた他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体を含有する溶液を調製した。
【0063】
(b)工程:実施例1と同様にしてA型の種結晶の添加、再結晶及び粉末X線回折測定を行った。析出した結晶をろ過及び乾燥し(87g、化学純度100%)、当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はA型の結晶形であることが確認できた。
また、本実施例ではA型の種結晶を0.5g添加した。
【0064】
(実施例3)
(a)工程:実施例1の(a)工程と同様にしてイソインドリン誘導体の粗体(B型の結晶形)を得た。
続いて、イソインドリン誘導体を溶解させる溶剤として、エタノール45mL、水45mLの混合溶剤を用いた他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体を含有する溶液を調製した。
【0065】
(b)工程:実施例1と同様にしてA型の種結晶の添加、再結晶及び粉末X線回折測定を行った。析出した結晶をろ過及び乾燥し(8.0g、化学純度100%)、当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はA型の結晶形であることが確認できた。
【0066】
(実施例4)
(a)工程:実施例1の(a)工程と同様にしてイソインドリン誘導体の粗体(B型の結晶形)を得た。なお、この工程において最初に用いるイソインドリン誘導体の粗体及び溶媒としてのアセトン/水の量を増やすことにより、300g以上のイソインドリン誘導体の粗体(B型の結晶形)を得た。
続いて、得られたイソインドリン誘導体の粗体(B型の結晶形)300gを用い、溶剤としてエタノールを2.1L用いた他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体を含有する溶液を調製した。
【0067】
(b)工程:実施例1と同様にしてA型の種結晶の添加、再結晶及び粉末X線回折測定を行った。析出した結晶をろ過及び乾燥し(273g、化学純度100%)、当該結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はA型の結晶形であることが確認できた。
また、本実施例ではA型の種結晶を1.5g添加した。
【0068】
(実施例5〜12)
(a)工程においてイソインドリン誘導体を溶解させる溶剤として、表2に示す各有機溶媒を使用した他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体の製造及び粉末X線回折測定を行った。
各実施例で得られた結晶に対し粉末X線回折測定を行ったところ、得られた結晶はA型の結晶形であることが確認できた。
【0069】
上記各実施例については、同様の操作を別ロットで5回繰り返して行い、再現性を確認した。その結果、各実施例の全てのロットでA型の結晶形が選択的に得られた。
【0070】
(比較例1)
実施例1の(b)工程において添加する種結晶の種類をB型の種結晶に変更した他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体の製造及び粉末X線回折測定を行った。
この操作を5回繰り返して行った結果、A型の結晶形が得られた場合、B型の結晶形が得られた場合、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶が得られた場合がそれぞれ存在し、特定の結晶形を選択的に得ることはできなかった。
【0071】
(比較例2)
実施例1の(b)工程において種結晶を添加せずに再結晶を行った他は、実施例1と同様にしてイソインドリン誘導体の製造及び粉末X線回折測定を行った。
この操作を5回繰り返して行った結果、A型の結晶形が得られた場合、B型の結晶形が得られた場合、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶が得られた場合がそれぞれ存在し、特定の結晶形を選択的に得ることはできなかった。
【0072】
各実施例及び比較例における製造条件及び粉末X線回折測定の分析結果をまとめて表2に示す。なお、表2中の「分析結果」の項目には、5回の繰り返しにおいてA型の結晶形、B型の結晶形、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶がそれぞれ得られた回数を示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示す結果から明らかなように、種結晶としてA型の結晶形を用いた各実施例においては、選択的にA型の結晶形が得られた。一方、種結晶としてB型の結晶形を用いた比較例1及び種結晶を用いなかった比較例2においてはA型の結晶形、B型の結晶形、A型の結晶形とB型の結晶形が混在した結晶が得られた場合がそれぞれ存在し、特定の結晶形を選択的に得ることはできなかった。
このことから、本発明のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法は、選択的にA型の結晶形を得られる点で優れた製造方法であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化1】

のA型の結晶形の製造方法であって、
(a)前記イソインドリン誘導体の粗体を、炭素数1〜4のアルコール、炭素数2〜6のケトン、炭素数1〜4の脂肪族ニトリル、炭素数1〜4のカルボン酸のエステル、炭素数2〜6の鎖状または環状エーテル、炭素数1〜4のクロロアルカンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含む溶剤に溶解し、前記イソインドリン誘導体を含有する溶液を調製する工程、および、
(b)前記イソインドリン誘導体のA型の種結晶の共存下、前記イソインドリン誘導体を含有する溶液から、前記イソインドリン誘導体のA型の結晶形を再結晶せしめる工程、
を含むことを特徴とする、イソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項2】
工程(a)に用いる有機溶媒が、エタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項3】
工程(a)に用いる有機溶媒が、エタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤が、実質的にエタノール、アセトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる有機溶媒のみからなる、請求項3に記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項5】
前記溶剤が、有機溶媒の他に、さらに水を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項6】
前記イソインドリン誘導体の粗体100gに対して、0.01〜2gの前記イソインドリン誘導体のA型の種結晶を共存させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項7】
工程(b)の再結晶は、前記イソインドリン誘導体を含有する溶液を、50℃以上又は有機溶媒の沸点以下の温度にまで加熱した後、0〜30℃にまで冷却し、当該冷却中もしくは冷却完了後に、前記イソインドリン誘導体のA型の種結晶を溶液内に投じることによってなされる、請求項1〜6のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項8】
前記イソインドリン誘導体の粗体の、高速液体クロマトグラフにより算出される化学純度が95%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項9】
前記イソインドリン誘導体の粗体の、高速液体クロマトグラフにより算出される化学純度が98%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項10】
工程(a)を行う前に、前記イソインドリン誘導体の粗体を溶媒を用いて再結晶する工程をさらに行う、請求項1〜9のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項11】
前記イソインドリン誘導体のA型の結晶形は、下記の(i)で表される物性データを有する請求項1〜10のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
(i):図1で表される粉末X線回折スペクトルデータを有する。
【請求項12】
前記イソインドリン誘導体のA型の結晶形は、5.1、10.2、及び、22.5の回折角(2θ)にピークを有する粉末X線回折スペクトルデータを有する請求項1〜10のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【請求項13】
前記イソインドリン誘導体の結晶形は、下記回折角度及び相対強度を示す粉末X線回折スペクトルデータを有する請求項1〜10のいずれかに記載のイソインドリン誘導体のA型の結晶形の製造方法。
【表1】

【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法によって得られた、式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化2】

のA型の結晶形。
【請求項15】
式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化3】

のA型の結晶形であって、
下記の(i)で表される物性データを有する、該イソインドリン誘導体のA型の結晶形。
(i):図1で表される粉末X線回折スペクトルデータを有する。
【請求項16】
式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化4】

のA型の結晶形であって、
5.1、10.2及び22.5の回折角(2θ)にピークを有する粉末X線回折スペクトルデータを有する、該イソインドリン誘導体のA型の結晶形。
【請求項17】
式(1)で表される(−)−2−(2−フェニル)−3−[2−(4−メチル−1−ピペラジル)−2−オキソエチル]−3,5,6,7−テトラヒドロシクロペンタ[f]イソインドリン−1(2H)−オンの化学構造を有するイソインドリン誘導体
【化5】

のA型の結晶形であって、
下記回折角度及び相対強度を示す粉末X線回折スペクトルデータを有する、該イソインドリン誘導体のA型の結晶形。
【表1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229098(P2010−229098A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79593(P2009−79593)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】