説明

イソキヌクリジン誘導体およびこれを利用した1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法

【課題】オセルタミビルやその類縁体の合成を容易に行うことができるイソキヌクリジン誘導体を提供する。
【解決手段】式(1)又はこれと鏡像関係の構造で表されるイソキヌクリジン誘導体。
(式(1)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、Xはハロゲンである)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソキヌクリジン誘導体およびこれを利用した1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体、特にオセルタミビル((3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エチルエステル)およびその塩はウイルスノイラミニダーゼの強力な阻害剤であり、インフルエンザの特効薬として注目を浴びている。このオセルタミビルは、例えば特許文献1に記載されているように、(−)−キニン酸や(−)−シキミ酸を出発原料として多段階の工程を経て合成される。また、これとは異なる出発原料を用いてオセルタミビルを合成する方法が非特許文献1,2に開示されている。
【特許文献1】国際特許公開98/07685号
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 2006, vol128, p6310-6311
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 2006, vol128, p6312-6313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されているオセルタミビルの合成方法は、出発原料が容易に入手できない天然物であるため、大量生産に向いているとはいえなかった。また、非特許文献1,2の合成方法は、出発原料として天然物を用いていない点では特許文献1に比べて優れているといえるが、高価な試薬や取り扱いが困難な試薬を使用するため、必ずしも大量生産に向いているとはいえない。また、オセルタミビルに代わる新規な1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体を合成することは、より安全性が高くより活性の高い医薬を開発するうえで重要であるが、それにはそのような新規な医薬を得るのに相応しい合成中間体が安価に提供される環境を整える必要がある。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の合成を容易に行うことができるイソキヌクリジン誘導体を提供することを目的の一つとする。また、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の新規な製法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的の少なくとも一つを達成するために、本発明者は、オセルタミビルの逆合成の手法を用いた合成ルートの探索を行った結果、ある種のイソキヌクリジン誘導体がオセルタミビルやその類縁体の合成に有用であろうと考え、実際にそのイソキヌクリジン誘導体を合成し、それを用いてオセルタミビルが得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明のイソキヌクリジン誘導体は、下記化1の式(1)若しくはこれと鏡像関係の構造で表される化合物、下記化2の式(2)若しくはこれと鏡像関係の構造で表される化合物、又は下記化3の式(3)若しくはこれと鏡像関係の構造で表される化合物である。これらのイソキヌクリジン誘導体は、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(例えばオセルタミビル)を合成するための中間体として利用することができる。また、安価なピリジンを出発原料とすることができるため、大量合成に適している。
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、Xはハロゲンである)
【0009】
【化2】

【0010】
(式(2)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、R7はヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいヒドラジノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいヒドロキシアミノ基であり、Xはハロゲンである)
【0011】
【化3】

【0012】
(式(3)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、R7はヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいヒドラジノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいヒドロキシアミノ基であり、Zは−CH2−又は−C(=O)−である)
【0013】
なお、本明細書では、以下において特に断りのない限り、「式(1)」と表記した場合には式(1)の構造のほか式(1)の鏡像関係の構造も含む意とする。式(2),(3)等についても同様とする。
【0014】
本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、
(a1)式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−OHを保護するか又は脱離基に変換したあと、−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b2)前記工程(a1)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程と、
を含むものとしてもよい。
【0015】
また、本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程を含むものとしてもよい。このとき、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−OH基を保護するか又は脱離基に置換したあと、該イソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断してもよい。
【0016】
更に、本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、
(a2)式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)の−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b2)前記工程(a2)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程と、
を含むものとしてもよい。
【0017】
更にまた、本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、
式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程、
を含むものとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の式(1)〜(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体において、Aは窒素原子の保護基であればよく、例えば、アルコキシカルボニル基が挙げられる。アルコキシカルボニル基の具体例としては、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基、8,9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、t−アミルオキシカルボニル(Aoc)基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、2−クロル−ベンジルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、フェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、アルコキシカルボニル基以外の保護基としては、ベンゼンスルホニル基、メタンスルホニル基、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基およびこれらの基であって置換基を有しているものなどが挙げられる。
【0019】
本発明の式(1)〜(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体において、R1〜R6に採用され得る無置換アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基などの鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状アルキル基などが挙げられる。また、R1〜R6に採用され得る置換アルキル基としては、無置換アルキル基の少なくとも一つの炭素上にアルキル基やシクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などを置換基として有しているものなどが挙げられる。ここで、アルキル基やシクロアルキル基としては、既に例示したものが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられ、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。R1〜R6に採用され得る無置換アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられ、置換アリール基としては、無置換アリール基の少なくとも一つの炭素上にアルキル基やシクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などを置換基として有しているものなどが挙げられる。なお、アルキル基やシクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などを置換基としては、既に例示したものが挙げられる。
【0020】
本発明の式(2)又は式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体において、R7に採用され得る置換アミノ基としては、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基などの1級アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの2級アミノ基などのほか、ヒドロキシアミノ基(HO−NH−)や置換ヒドロキシアミノ基(RO−NH−,Rはアルキル基など)が挙げられる。R7に採用され得る置換ヒドラジノ基としては、例えばモノメチルヒドラジノ基、ジメチルヒドラジノ基などが挙げられる。
【0021】
本発明の式(1)又は式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体において、Xに採用され得るハロゲンとしては、特に限定されるものではないが、例えば塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。このうち、臭素が好ましい。
【0022】
本発明の式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体を製造する方法は、例えば、下記化4の合成ルートに示すように、
式(11)で表される1,2−ジヒドロピリジン誘導体と式(12)で表されるアクロレインとのディールス・アルダー反応を行うことにより式(13)で表されるホルミル基を有するイソキヌクリジン誘導体とする工程と、
前記ホルミル基を酸化して式(14)で表されるカルボキシ基を有するイソキヌクリジン誘導体とする工程と、
該カルボキシ基を利用した分子内ラクトン化反応を行うことにより式(15)で表されるラクトンを有するイソキヌクリジン誘導体とする工程と、
窒素原子の隣のメチレンを酸化して式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体とする工程と、
を含むものとしてもよい。
【0023】
【化4】

【0024】
この製造方法では、式(11)で表される1,2−ジヒドロピリジン誘導体は、例えばピリジンの水素化反応と窒素原子に保護基Aを導入する反応を行うことにより得られる。また、式(13)で表されるホルミル基を有するイソキヌクリジン誘導体は、式(11)で表される1,2−ジヒドロピリジン誘導体と式(12)で表されるアクロレインとのディールス・アルダー反応を、例えばMacMillan触媒(2,2,3−トリメチル−5−フェニルメチル−4−イミダゾリジノン塩酸塩の5S体又は5R体)の存在下で行うことにより得られる。このディールス・アルダー反応では、式(13)で表されるendo体のほかにexo体も生成するが、式(14)のカルボキシ基を有するイソキヌクリジン誘導体から式(15)のラクトンを有するイソキヌクリジン誘導体に変換する工程において、endo体からのみ生成物(ラクトン)が得られ、exo体はカルボン酸として残るため、分液操作により容易にendo体とexo体を分離することができる。ここで、MacMillan触媒は、安価に市販されているD−又はL−フェニルアラニンから容易に合成することができる。なお、MacMillan触媒が5S体か5R体かによって、式(13)で表される絶対配置及び式(13)と鏡像関係の絶対配置のいずれかに決まる。さらに、式(14)で表されるカルボキシ基を有するイソキヌクリジン誘導体は、式(13)のイソキヌクリジン誘導体のホルミル基を、例えば亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いて酸化することにより得られる。式(15)で表されるイソキヌクリジン誘導体は、式(14)のイソキヌクリジン誘導体を例えばヨードラクトン化反応又はその類似反応(例えばヨウ素の代わりに臭素を用いる反応)で分子内ラクトン化を行うことにより得られる。式(15)で表されるイソキヌクリジン誘導体は、例えば酸化ルテニウム(IV)などを用いて酸化することにより、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体に変換することができる。ここで、酸化ルテニウム(IV)はリサイクル可能なため、これを用いる酸化反応は工業化に適している。
【0025】
また、本発明の式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体を製造する方法は、例えば化4に示すように、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンのカルボニル炭素に求核剤を反応させることにより式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体とする方法を採用してもよい。更に、本発明の式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体を製造する方法は、例えば化4に示すように、式(15)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンのカルボニル炭素に求核剤を反応させることにより式(3)で表されるエポキシを有するイソキヌクリジン誘導体(Zは−CH2−)とし、これを酸化ルテニウム等で酸化することにより式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体(Zは−C(=O)−)とする方法を採用してもよい。
【0026】
本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、
(a1)式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−OHを保護するか又は脱離基に変換したあと、−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b1)前記工程(a1)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程と、
を含むものとしてもよい。
【0027】
ここで、工程(a1)で−OHを保護基で保護した場合には、工程(b1)で不飽和結合を形成したあと、脱保護を行って−OHに戻し、その状態で光延反応(Mitsunobu反応)によりアジリジンを形成するか又は−OHを脱離基に変換しラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アジリジンをアルコール又はアルコキシドにより開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。一方、工程(a1)で−OHを脱離基に変換した場合には、工程(b1)で不飽和結合を形成すると同時に又は形成したあと、ラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アルコール又はアルコキシドによりアジリジンを開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。なお、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体は、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンをなす酸素原子とカルボニル炭素との結合を切断して得るようにしてもよい。
【0028】
例えば、下記化5に示す合成ルートでは、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンをなす酸素原子とカルボニル炭素との結合をアンモニア、ヒドラジン、水、アルコールで切断してそれぞれアミノカルボニル基、ヒドラジノカルボニル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基を持つイソキヌクリジン誘導体(式(2)参照)としたあと、OH基を保護基(例えばアセチル基やベンゾイル基、シリル基(例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基)など)で保護するか脱離基(例えばメシルオキシ基やトシルオキシ基など)に変換する。そして、アミノカルボニル基を有する化合物については、アルコールの存在下でホフマン転位(Hofmann転位)によりアルコキシカルボニルアミノ基に変換し、ヒドラジノカルボニル基やカルボキシ基、アルコキシカルボニル基を有する化合物については、これらの基を一旦−CON3に変換したあとこれをアルコールの存在下でクルチウス転位(Curtius転位)によりアルコキシカルボニルアミノ基に変換する。なお、これらの転位をアルコール非存在下で行い、脱炭酸させることにより無置換のアミノ基に変換してもよい。その後、ラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合をナトリウムエトキシドなどの求核剤によって塩基性条件下で切断すると、切断と共に脱HXが進行し、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。一方、アルコールを用いて酸性条件下で切断した場合には、切断後に改めて塩基で処理して脱HXを進行させることにより、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。このようにして得られる1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エステルは、オセルタミビル又はその類縁体に容易に変換することができる。
【0029】
【化5】

【0030】
あるいは、本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程を含むものとしてもよい。
【0031】
ここで、前記工程では、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−OH基を保護したり他の基に変換したりすることなく、該イソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断してもよいが、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−OH基を保護するか又は脱離基に変換したあと、該イソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断してもよい。そして、−OHを保護基で保護した場合には、前記工程で不飽和結合を形成したあと、脱保護を行って−OHに戻し、その状態で光延反応(Mitsunobu反応)によりアジリジンを形成するか又は−OHを脱離基に変換しラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アジリジンをアルコール又はアルコキシドにより開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。一方、−OHを脱離基に変換した場合には、前記工程で不飽和結合を形成すると同時に又は形成したあと、ラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アルコール又はアルコキシドによりアジリジンを開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。なお、−COR7を無置換又は置換アミノ基に変換したい場合には、ラクタムを開環したあとのいずれかの段階でホフマン転位やクルチウス転位を利用すればよい。また、式(2)で表されるイソキヌクリジン誘導体は、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンをなす酸素原子とカルボニル炭素との結合を切断して得るようにしてもよい。
【0032】
例えば、下記化6に示す合成ルートでは、式(1)で表されるイソキヌクリジン誘導体のラクトンをなす酸素原子とカルボニル炭素との結合をアンモニア、ヒドラジン、水、アルコールで切断してそれぞれアミノカルボニル基、ヒドラジノカルボニル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基を持つイソキヌクリジン誘導体(式(2)参照)としたあと、OH基を保護基(例えばアセチル基やベンゾイル基、シリル基(例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基)など)で保護するか脱離基(例えばメシルオキシ基やトシルオキシ基など)に変換する。但し、OH基をフリーのままとしてもよい。その後、ラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合をナトリウムエトキシドなどの求核剤によって塩基性条件下で切断すると、切断と共に脱HXが進行し、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。一方、アルコールを用いて酸性条件下で切断した場合には、切断後に改めて塩基で処理して脱HXを進行させることにより、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。この時点で−OH基がフリーの場合には、保護基で保護するか脱離基に変換する。そして、アミノカルボニル基を有する化合物については、アルコールの存在下でホフマン転位(Hofmann転位)によりアルコキシカルボニルアミノ基に変換する。一方、ヒドラジノカルボニル基やカルボキシ基、アルコキシカルボニル基を有する化合物については、各基を一旦−CON3に変換し、これをアルコールの存在下でクルチウス転位(Curtius転位)によりアルコキシカルボニルアミノ基に変換する。このようにして得られる1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エステルは、オセルタミビル又はその類縁体に容易に変換することができる。なお、これらの転位をアルコール非存在下で行い、脱炭酸させることにより無置換のアミノ基に変換してもよい。
【0033】
【化6】

【0034】
本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、
(a2)式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)の−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b2)前記工程(a2)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程と、
を含むものとしてもよい。
【0035】
ここで、工程(b2)で不飽和結合を形成したあと、光延反応(Mitsunobu反応)によりアジリジンを形成するか又は−OHを脱離基に変換しラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アジリジンをアルコール又はアルコキシドにより開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。
【0036】
例えば、下記化7の上段に示す合成ルートでは、式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体の−CO2Hを−CON3に変換し、これをアルコールの存在下でクルチウス転位によりアリルオキシカルボニルアミノ基のようなアルコキシカルボニルアミノ基に変換する。その後、ラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合をナトリウムエトキシドなどの求核剤によって塩基性条件下で切断すると、切断と共にエポキシの開環を伴ってラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合が形成されることにより、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。一方、アルコールを用いて酸性条件下で切断した場合には、切断後に改めて塩基で処理してエポキシを開環させると共に不飽和結合を形成させることにより、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体が得られる。このようにして得られる1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エステルは、オセルタミビル又はその類縁体に容易に変換することができる。
【0037】
あるいは、本発明の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法は、式(3)で表されるイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程を含むものとしてもよい。
【0038】
ここで、前記工程で不飽和結合を形成したあと、−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換してもよい。なお、その後、光延反応(Mitsunobu反応)によりアジリジンを形成するか又は−OHを脱離基に変換しラクタムをなしていた窒素原子により脱離基を脱離させてアジリジンを形成し、その後アジリジンをアルコール又はアルコキシドにより開環して1−シクロヘキセンの3位にアルコキシ基を導入してもよい。
【0039】
例えば、下記化7の下段に示す合成ルートでは、先にラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断したあと、クルチウス転位によりカルボキシ基をアミノ基に変換している。
【0040】
【化7】

【実施例1】
【0041】
【化8】

【0042】
化8に基づいて、以下に具体的な実験手順を説明する。アルゴン雰囲気下、ピリジン(10a)(12.1mL,150mmol)をメタノール(500mL)に溶解し、−78℃に冷却した後、水素化ホウ素ナトリウム(6.79g,180mmol)を加えた。クロロギ酸ベンジル(21.4mL,150mmol)を、12分かけて滴下した。その間、白い沈殿が生じた。滴下終了後、さらに−78℃にて12分間撹拌した後、反応液の温度を0℃まで昇温し、塩酸(1M水溶液、500mL)を加えて反応を停止した。減圧下、反応液を約3分の1の体積になるまで濃縮し、酢酸エチル−1M塩酸にて分液した。水層を酢酸エチルで2回抽出した後、合わせた有機層を飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥した後、減圧下濃縮することでジヒドロピリジン(11a)31gが淡黄色の油状物質として得られた。
【0043】
得られたジヒドロピリジン(11a)は精製することなく次の反応に用いた。すなわち、ジヒドロピリジン(11a)(31g,144mmol)をアセトニトリル−水混合溶媒(95:5,370mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、アクロレイン(12a)(30.0mL,449mmol)およびD−フェニルアラニン由来のMacMillan触媒(5R体,3.82g,15.0mmol)を順次加え、アセトニトリル−水混合溶媒(95:5,80mL)をさらに加え、室温にて約10時間撹拌し、Diels−Alder反応を行った。反応液をジエチルエーテルおよび水にて薄め、分液ろうとに移し、水層を取り分けた後、その水層をジエチルエーテルにて抽出した。合わせた有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥した後、減圧下濃縮することで、ホルミル基を持つイソキヌクリジン誘導体(13a)が黄色の油状物質として得られた。この油状物質をt−ブタノール−水混合溶媒(3:1,300mL)に溶解した後、氷浴を用いて反応液を冷却しながら、2−メチル−2−ブテン(80mL,748mmol)、およびリン酸二水素ナトリウム二水和物(34.9g,224mmol)を加えた後、亜塩素酸ナトリウム(33.8g,374mmol)を5回に分けて加えた。氷冷下10分間撹拌した後、氷浴を取り除き、室温にて50分間撹拌した。その後、再び氷浴を用いて反応液を冷却しチオ硫酸ナトリウムを反応溶液に加え、反応を停止した。反応液を酢酸エチル−1M塩酸にて分液した後、水層を酢酸エチルにて抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水にて洗浄した後、減圧下、約5分の1の体積になるまで濃縮した。濃縮した有機層を、飽和重曹水を用いて十分に抽出し、カルボキシ基を持つイソキヌクリジン誘導体(14a)を含むその水溶液が得られた。この水溶液は次の反応にそのまま用いた。すなわち、この水溶液に塩化メチレン(約300mL)を加え、室温下激しく撹拌しながら、臭素をその色が消えなくなるまで滴下していった。その後、亜硫酸ナトリウムを加え、反応を停止した。反応液を酢酸エチルで3回抽出し、合わせた有機層を水および飽和食塩水を用いて洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、減圧下濃縮することによりガム状物質が得られた。セライトろ過した後、カラムクロマトグラフィー(33%酢酸エチル−ヘキサン)によって精製したのち、酢酸エチル−ヘキサンに70℃で飽和させ、室温に冷却した後少量の種を加えることで結晶化した。得られた結晶を氷冷した酢酸エチルで洗浄し、ラクトンを有するイソキヌクリジン誘導体(15a)(3.64g,Y.6.6%)を淡黄色結晶として得た。このイソキヌクリジン誘導体(15a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0044】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 7.38 (s, 5H), 5.20 (m, 2H), 5.01 (t, J = 5.2 Hz, (2/3)1H), 4.91 (t, J = 5.2 Hz, (2/3)1H), 4.86 (m, (1/3)1H), 4.85 (m, (1/3)1H), 4.28 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 4.05(d, J = 11.2 Hz, 1H), 3.33 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 2.86 (m, 1H), 2.50 (br s, (1/3)1H), 2.44 (br s, (2/3)1H), 2.26 (dd, J = 13.5, 11.2 Hz, 1H), 2.03 (d, J = 13.5 Hz, 1H). 得られた化合物はCbz基に由来する回転異性体の混合物(約2:1)として観測された。
【実施例2】
【0045】
【化9】

【0046】
化9に示すように、イソキヌクリジン誘導体(15a)(3.91g,10.7mmol)を酢酸エチル(11mL)に分散させ、アルゴン雰囲気下、ジ−t−ブチルジカーボネート(7.01g,32.1mmol)およびパラジウム−炭素(湿式、10%,2.39g)を加えた後、水素雰囲気下、約11時間激しく撹拌した。セライトろ過でパラジウム−炭素を取り除いた後、ろ液を濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(25−30%酢酸エチル−ヘキサン)にて精製した。得られた油状物質を少量の酢酸エチルに溶かした後、しばらく震盪することにより結晶化し、ヘキサンにて薄めた後ろ取し、保護基がCbz基からBoc基に変換されたイソキヌクリジン誘導体(16a)を白色結晶(3.11g,Y.87.4%)として得た。このイソキヌクリジン誘導体(16a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0047】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 4.95 (t, J = 5.3 Hz, (2/3)1H), 4.89 (d, J = 5.3 Hz, (2/3)1H), 4.86 (d, J = 5.1 Hz, (1/3)1H), 4.76 (t, J = 5.1 Hz, (1/3)1H), 4.26 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 3.94 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 3.25 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 2.84 (m, 1H), 2.48 (br s, (1/3)1H), 2.42 (br s, (2/3)1H), 2.26 (dd, J = 14.4, 10.8 Hz, 1H), 2.01 (d, 14.4 Hz, 1H), 1.50 (s, 9H) . 得られた化合物はBoc基に由来する回転異性体の混合物(約2:1)として観測された。
【0048】
なお、クロロギ酸フェニルとピリジン(10a)とを反応させてN−フェニルオキシカルボニルジヒドロピリジンを合成し、その後実施例1に準じてDiels−Alder反応、酸化反応、ラクトン化反応を行うことにより、ラクトンを有するイソキヌクリジン誘導体(化合物(15a)のCbz基の代わりにフェニルオキシカルボニル基を持つもの)を合成し、これとKOt−Buとを反応させて、窒素原子の保護基がt−Bu基に変換されたイソキヌクリジン誘導体(16a)を得ることも可能である。
【実施例3】
【0049】
【化10】

【0050】
化10に示すように、イソキヌクリジン誘導体(16a)(1.56g,4.69mmol)に対し、アルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(24.0mL)、水(12.0mL)を加えたのち、二酸化ルテニウムn水和物(116mg,0.469mmol)、過ヨウ素酸ナトリウム(3.01g,14.07mmol)を加え、80℃に加熱し、1時間40分撹拌した。ここで過ヨウ素酸ナトリウム(1.36g,6.36mmol)を追加し、さらに1時間半80℃にて撹拌した後、室温に冷却し、2−プロパノールを30滴加えて反応を停止した。反応液を酢酸エチルで希釈し、沈殿物をセライトろ過したのち、分液ろうとに移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、窒素原子に隣接するメチレンがカルボニル炭素に変換されたイソキヌクリジン誘導体(17a)の粗生成物(1.83g)を白色の固体物質として得た。このイソキヌクリジン誘導体(17a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0051】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.51 (dd, J = 5.3, 5.0 Hz, 1H), 5.05 (dd, J = 5.3, 0.9 Hz, 1H), 4.26 (dd, J = 3.9, 0.9 Hz, 1H), 3.19 (m, 1H), 2.88 (ddd, J = 10.6, 5.0, 0.7 Hz, 1H), 2.42 (ddd, J = 15.4, 10.6, 2.3 Hz, 1H), 2.25 (ddd, J = 15.4, 2.7, 0.7 Hz, 1H), 1.58 (s, 9H)。:13C NMR (CDCl3):δ(ppm) 174.1, 166.9, 150.1, 85.3, 79.9, 53.6, 47.5, 43.4, 34.8, 27.9, 26.2。
【実施例4】
【0052】
【化11】

【0053】
化11に示すように、イソキヌクリジン誘導体(17a)をTHFに溶解し、アンモニアガスを5時間にわたり吹き込んだ。反応液にアルゴンガスを吹き込んだのち、減圧下濃縮すると、水酸基とアミノカルボニル基を持つイソキヌクリジン誘導体(18a)の粗生成物(1.65g)が白色結晶として得られた。このイソキヌクリジン誘導体(18a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0054】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.20-5.95 (brs, 1H), 5.85-5.60 (brs, 1H), 4.91 (m, 1H), 4.84 (dd, J = 3.2, 2.8 Hz, 1H), 4.39 (m, 1H), 4.08 (t, J = 3.2 Hz, 1H), 3.02 (m, 1H), 2.92 (ddd, J = 11.0, 6.9, 3.2 Hz, 1H), 2.37 (ddd, J = 14.2, 11.0, 4.2 Hz, 1H), 2.29 (ddd, J = 14.2, 6.9, 2.0 Hz, 1H), 1.56 (s, 9H)。:13C NMR (CDCl3):δ(ppm) 175.6, 168.5, 149.8, 84.8, 79.0, 55.6, 50.6, 48.5, 41.8, 28.0, 27.5。
【実施例5】
【0055】
【化12】

【0056】
化12に示すように、イソキヌクリジン誘導体(18a)(1.61g,4.43mmol)をピリジン(30mL)に溶解し、無水酢酸(15mL)、および4−ジメチルアミノピリジン(5.5mg,45mmol)を加え、1時間撹拌した。反応液を減圧下濃縮すると黄色ガム状物質を得た。これをカラムクロマトグラフィー(80−100%酢酸エチル−ヘキサン)によって精製し、水酸基がアセチル基で保護されたイソキヌクリジン誘導体(19a)を白色結晶(1.45g,3.58mmol,Y.80.0%(3段階))として得た。
【0057】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.75-5.60 (brs, 1H), 5.50-5.30 (brs, 1H), 5.35 (dd, J = 3.4, 3.0 Hz, 1H), 5.18 (dd, J = 3.7, 3.2 Hz, 1H), 4.13 (dd, J = 3.0, 2.8 Hz, 1H), 3.05 (m, 1H), 2.85 (m, 1H), 2.65 (ddd, J = 14.9, 6.8, 2.1 Hz, 1H), 2.20 (ddd, J = 14.9, 10.8, 4.3 Hz, 1H), 2.07 (s, 3H), 1.60 (s, 9H)。
【実施例6】
【0058】
【化13】

【0059】
化13に示すように、イソキヌクリジン誘導体(19a)(1.41g,3.48mmol)、ジアセトキシヨードベンゼン(3.35g,10.44mmol)に対し、アルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(70mL)、アリルアルコール(4.73mL,69.6mmol)を加え、80℃に加熱し、2時間撹拌した。ここで室温に冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウムを加えて反応を停止した後、分液ろうとに移し、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、アリルカーバメート基を持つイソキヌクリジン誘導体(20a)の粗生成物(3.65g)が得られた。これをカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル−ヘキサン20−50%)によって精製することで、淡黄色の固体(1.20g,2.60mmol,Y.74.7%)を得た。このイソキヌクリジン誘導体(20a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0060】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.91 (m, 1H), 5.54 (s, 1H), 5.31 (d, J = 17.4 Hz 1H), 5.24 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 5.15 (brd, J = 8.2 Hz, 1H), 4.81 (s, 1H), 4.58 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 4.21 (m, 1H), 4.04 (s, 1H), 2.98 (brs, 1H), 2.74 (ddd, J = 14.7, 10.6, 3.7 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H), 1.70-1.50 (m, 1H), 1.56(s, 9H)。
【実施例7】
【0061】
【化14】

【0062】
化14に示すように、イソキヌクリジン誘導体(20a)(360mg,0.780mmol)をエタノール(2mL)に溶解し、0℃に冷却した後、ナトリウムエトキシド(1Mエタノール溶液、1.56mL,1.56mmol)を加えた。0℃で5分間撹拌した後、室温下30分間さらに撹拌した。ジクロロメタンで反応液を希釈した後、希塩酸にて反応を停止した。酢酸エチルで反応液を抽出し、合わせた抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(20−50%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、3位に水酸基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(21a)を淡黄色泡状物質(178mg、Y.59.4%)として得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(21a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0063】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.80 (s, 1H), 5.90 (m, 1H), 5.31 (br s, 1H), 5.30 (d, J = 17 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 10.6 Hz, 1H), 5.18 (br s, 1H), 4.57 (m, 2H), 4.30 (m, 1H), 4.21 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.82 (m, 1H), 3.57 (dd, J = 19.5, 8.0 Hz, 1H), 2.87 (dd, J = 17.4, 5.2 Hz, 1H), 2.23 (m, 1H), 1.44 (s, 9H), 1.29 (t, J = 7.2 Hz, 3H)。
【実施例8】
【0064】
【化15】

【0065】
化15に示すように、フレームドライした試験管に、アルゴン雰囲気下、トリフェニルホスフィン(205mg,0.780mmol)、テトラヒドロフラン(7.2mL)を加え、0℃に冷却した。これにアゾジカルボン酸ジエチル(2.2Mトルエン溶液,355mL,0.780mmol)を加えたのち、イソキヌクリジン誘導体(21a)(120mg,0.312mmol)のテトラヒドロフラン(3.6mL)溶液を加え、1時間20分撹拌した。ここでトリフェニルホスフィン(85mg)、アゾジカルボン酸ジエチル(2.2Mトルエン溶液,140mL)を加えてさらに30分撹拌したのち、トリフェニルホスフィン(87mg)を加え、さらに40分撹拌し、光延反応を行った。反応液を減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル−ヘキサン20−22%)で精製し、アジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)(67.2mg,0.183mmol,Y.58.7%)を得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0066】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 7.21 (t, J = 3.7 Hz, 1H), 5.90 (m, 1H), 5.30 (d, J = 17.4 Hz, 1H), 5.22 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 4.61 (s, 2H), 4.56 (brd, J = 4.6 Hz, 1H), 4.20 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 3.12 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 2.99 (d, J = 5.5, 4.6 Hz, 1H), 2.73 (d, J = 17.4 Hz, 1H), 2.39 (d, J = 17.4 Hz, 1H), 1.62(m, 1H), 1.45 (s, 9H), 1.29 (t, J = 7.3 Hz, 3H)。
【実施例9】
【0067】
【化16】

【0068】
化16に示すように、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)(66.0mg,180μmol)を、アルゴン雰囲気下、3−ペンタノール(3.6mL)に溶解した後、0℃に冷却し、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(3−ペンタノール溶液、0.1M、2.7mL)を15分間かけて滴下した。1時間撹拌したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止した。反応液を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(83mg)が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10%酢酸エチル−ヘキサン)で精製し、3位に1−エチルプロポキシ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(23a)(37.4mg,82.3μmol,Y.45.7%)を得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(23a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0069】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.80 (s, 1H), 5.89 (m, 1H), 5.64 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 5.28 (brd, J = 16.5 Hz, 1H), 5.28 (d, J = 10.1 Hz, 1H), 4.65-4.45 (m, 1H), 4.54 (brs, 2H), 4.20 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 3.94 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 3.87 (m, 1H), 3.77 (m, 1H), 3.41 (quintet, J = 5.5 Hz, 1H), 2.75 (dd, J = 18.3, 8.3 Hz 1H), 2.34 (dd, J = 18.3, 8.3 Hz, 1H), 1.55 (dq, J = 7.3, 5.5 Hz, 4H), 1.42 (s, 9H), 1.28 (t, J = 7.3, 3H), 0.91 (t, J = 7.3 Hz, 6H)。
【実施例10】
【0070】
【化17】

【0071】
化17に示すように、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(23a)(37.4mg,82.3μmol)を、アルゴン雰囲気下、ジクロロメタン(1.6mL)に溶解し、0℃に冷却した。これにトリフルオロ酢酸(244μL,3.29mmol)を加えたのち1時間30分撹拌した。反応液を減圧下濃縮し、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製し、4位にアミノ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(24a)(30.9mg)を得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(24a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0072】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.83 (s, 1H), 5.92 (m, 2H), 5.45-5.25 (brs, 1H), 5.31 (d, J = 17.2 Hz, 1H), 5.21 (d, J = 10.6 Hz, 1H), 4.57 (brd, J = 4.8 Hz, 1H), 4.21 (q, J = 7.1 Hz, 1H), 3.85 (m, 1H), 3.77 (m, 1H), 3.41 (quintet, J = 5.9 Hz, 1H), 2.91 (dd, J = 9.4, 6.9 Hz, 1H), 2.83 (dd J = 17.9, 4.8 Hz, 1H), 2.27 (dd, J = 17.9, 7.8 Hz, 1H), 1.57 (dq, J = 7.5, 5.9 Hz, 4H), 1.29 (t, J = 7.1 Hz, 3H), 0.93 (t, J = 7.5 Hz, 6H)。
【実施例11】
【0073】
【化18】

【0074】
化18に示すように、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(24a)(30.9mg,87.2μmol)をピリジンに溶解し、無水酢酸を加えた。そののちに4−ジメチルアミノピリジン(0.2mg,1.6μmol)を加え、1時間撹拌し、反応液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(50%酢酸エチル−ヘキサン)によって精製し、4位にアセチルアミノ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(25a)を白色結晶(26.5mg,66.8μmol,Y.76.7%)として得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(25a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0075】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.81 (s, 1H), 5.89 (m, 1H), 5.62 (brd, J = 8.4 Hz, 1H), 5.55 (d, J = 9.3 Hz, 1H), 5.28 (d, J = 17.2 Hz, 1H), 5.20 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 4.54 (m, 2H), 4.21 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 4.11 (q, J = 9.0 Hz, 1H), 3.99 (m, 1H), 3.86 (m, 1H), 3.38 (quintet, J = 5.7 Hz, 1H), 2.77 (dd, J = 18.1, 4.8 Hz, 1H), 2.36 (dd, J = 18.1, 9.0 Hz, 1H), 1.98 (s, 3H), 1.52 (m, 4H), 1.29 (t, J = 7.1 Hz, 3H), 0.90 (dt, J = 8.8, 7.2 Hz, 6H)。
【実施例12】
【0076】
【化19】

【0077】
化19に示すように、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(25a)(25.2mg,63.6μmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(16.8mg,14.5μmol)を、アルゴン雰囲気下、エタノール(1mL)に溶解し、これにピロリジン(12μL,140μmol)を加え、30分撹拌した。反応液を減圧下濃縮したのち、酢酸エチルに溶解し、塩酸(1mol/L)で2回抽出し、得られた水層を重曹で飽和させた後にジクロロメタンで3回抽出した。ここで得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した。水層をジクロロメタンで抽出し、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮することで、5位にフリーのアミノ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(26a)(18.9mg,60.5μmol,Y.95.1%)を得た。この1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(26a)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0078】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.79 (s, 1H), 5.70 (brd, J = 7.3 Hz, 1H), 4.21 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 4.20(m, 1H), 3.55 (m, 1H), 3.34 (quintet, J = 6.0 Hz, 1H), 3.24 (m, 1H), 2.76 (dd, J = 17.4, 4.6 Hz, 1H), 2.16 (m, 1H), 2.05 (s, 3H), 1.51 (m, 4H), 1.29 (t, J = 7.3Hz, 3H), 0.90(dt, J = 7.3, 4.6 Hz, 6H)。
【実施例13】
【0079】
【化20】

【0080】
化20に示すように、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(26a)(18.9mg,60.5μmol)をエタノール(450mL)に溶解し、リン酸(エタノール1M溶液、60.5mL)を加え、減圧下濃縮すると結晶が得られた。これを酢酸エチルで洗浄し、エタノールから再結晶した。得られた結晶をアセトンで2回洗うことで、リン酸塩(27a)(3.3mg,8.0μmol,Y.7.6%)を白色結晶として得た。このリン酸塩(27a)のスペクトルデータは以下のとおりであり、これはオセルタミビルの標品のスペクトルデータと一致した。なお、化合物(25a),(26a)についても、オセルタミビルの標品から誘導したものとスペクトルデータが一致した。また、化合物(25a)の旋光度とオセルタミビルの標品から5位のアミノ基をアリルカーバメート基に誘導した化合物の旋光度とが一致したことから、各化学式で表したとおりの絶対配置をもつことを確認した。
【0081】
1H NMR (D2O):δ(ppm) 6.91 (s, 1H), 4.38 (brd, J = 8.3 Hz, 1H), 4.31 (m, 2H), 4.11 (dd, J = 11.9, 9.5 Hz, 1H), 3.62 (m, 2H),3.02(dd, J = 17.2, 5.8 Hz, 1H), 2.58 (m, 1H), 2.14 (s, 3H), 1.70-1.45 (m, 4H), 1.34 (t, J = 7.0 Hz, 3H), 0.94 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 0.90 (t, J = 7.8 Hz, 3H)。
【0082】
なお、化21に示すように、ラクトンを有するイソキヌクリジン誘導体(17a)を酸で加水分解し、その後、無水酢酸と酢酸ナトリウムの存在下で加熱することによりオキサジンを有するシクロヘキサンジカルボン酸誘導体とし、これをアンモニアで分解して3位にアセトキシ基、4位にアセチルアミノ基、5位にアミノカルボニル基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体に誘導することもできる。
【0083】
【化21】

【実施例14】
【0084】
【化22】

【0085】
化22に示すように、MacMillan触媒としてL−フェニルアラニン由来の5S体を用いてDiels−Alder反応を行った以外は、実施例1〜3に準じて反応を行い、イソキヌクリジン誘導体(17b)を白色結晶として得た。このイソキヌクリジン誘導体(17b)は、前出のイソキヌクリジン誘導体(17a)の鏡像異性体であり、そのスペクトルデータは以下のとおり。
【0086】
1H NMR (CDCl3): δ(ppm) 5.51(dd, J = 5.5, 4.6 Hz, 1H), 5.05(d, J = 5.5 Hz, 1H), 4.26(d, J = 3.6 Hz, 1H), 3.19(dt, J = 3.6, 1.4 Hz, 1H), 2.88(dd, J = 10.1, 4.6 Hz, 1H), 2.42(ddd, J = 14.7, 10.1, 1.4 Hz, 1H), 2.25(dd, J = 14.7, 1.4 Hz, 1H), 1.58(s, 9H)。
【実施例15】
【0087】
【化23】

【0088】
化23に示すように、イソキヌクリジン誘導体(17b)のラクトンを、実施例4に準じて開環させることにより、水酸基とアミノカルボニル基を持つイソキヌクリジン誘導体(18b)とした。このスペクトルデータは以下のとおり。
【0089】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.95(brs, 1H), 5.66 (brs, 1H), 4.89 (ddd, J = 10.1, 3.7, 2.8 Hz, 1H), 4.85 (t, J = 2.8 Hz, 1H), 4.39 (m, 1H), 4.08 (t, J = 2.8 Hz, 1H), 3.02 (dd, J = 1.8, 2.8 Hz, 1H), 2.91 (ddd, J = 8.2, 3.7, 2.8 Hz, 1H), 2.38 (ddd, J = 11.0, 4.6, 3.7 Hz, 1H), 2.29 (ddd, J = 14.7, 4.6, 3.7 Hz, 1H), 1.56 (s, 9H)。
【0090】
続いて、イソキヌクリジン誘導体(18b)(7.0 mg,20μmol)に対し、アルゴン雰囲気下、エタノール(0.2mL)を加えたのち、水素化ナトリウム(1.5mg,38μmol)を加えた。13分間撹拌したのち、酢酸を加え反応を停止し、減圧下濃縮した。これを塩化メチレンで希釈したのち、飽和食塩水、飽和重曹水、食塩を順次加え、有機層を取り分け,無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(5.5mg)が得られた。これをプレパラティブ薄層クロマトグラフィー(7.5%メタノール−塩化メチレン)で精製することで、1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(28b)を(2.2mg,7.1μmol,36%)得た。このカルボン酸誘導体(28b)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0091】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 6.82 (s, 1H), 5.99 (brs, 1H), 5.50 (brs, 1H), 5.10 (d, J = 6.4 Hz, 1H), 4.53 (m, 1H), 4.21 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 3.52 (m, 1H), 3.01 (m, 1H), 2.73 (dd, J = 5.5, 18.4 Hz, 1H), 2.62 (m, 1H), 1.44(s, 1H), 1.29 (t, J = 7.3 Hz, 3H)。
【実施例16】
【0092】
【化24】

【0093】
化24に示すように、イソキヌクリジン誘導体(18b)(87.6mg,241μmol)をアルゴン雰囲気下、塩化メチレン(2.5mL)に溶解し、トリエチルアミン(106μL,759μmol)、メタンスルホニルクロリド(25.7μL,359μmol)を加え、12分間撹拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、分液漏斗に移したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、食塩で飽和させ、少量のメタノールを加えた後、有機層を取り分けた。水層を塩化メチレンで7回抽出し、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(122mg)が得られた。得られた粗生成物を、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(7.5%メタノール−塩化メチレン)を用いて精製することで、メシルオキシ基とアミノカルボニル基を有するイソキヌクリジン誘導体(29b)を白色結晶(84.1mg,76.5%)として得た。このイソキヌクリジン誘導体(29b)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0094】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.82 (brs, 1H), 5.58 (brs, 1H), 5.21 (dd, J = 3.7, 2.8 Hz, 1H), 5.14 (dd, J = 3.7, 3.6 Hz, 1H), 4.25 (dd, J = 3.6, 2.8 Hz, 1H), 3.13 (s, 3H), 3.04 (dd, J = 3.7, 2.8 Hz, 1H), 2.95 (m, 1H), 2.76 (ddd, J = 14.7, 6.4, 2.8 Hz, 1H), 2.17 (ddd, J = 14.7, 11.0, 3.7 Hz, 1H), 1.61 (s, 9H)。
【実施例17】
【0095】
【化25】

【0096】
化25に示すように、イソキヌクリジン誘導体(29b)(17.5mg,39.8μmol)、ジアセトキシヨードベンゼン(39.3mg,119μmol)に対し、アルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(0.8mL)およびアリルアルコール(55μL,796μmol)を加え、80℃に加熱し、1時間30分撹拌した。ここで室温に冷却し、反応液を塩化メチレンで希釈したのち、分液漏斗に移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム5水和物を加えた。有機層を取り分け、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(26.7mg)が得られた。これをシリカゲル薄層クロマトグラフィー(塩化メチレン)によって精製することで、メシルオキシ基とアリルカーバメート基を有するイソキヌクリジン誘導体(30b)を無色油状物質(17.1mg,86%)として得た。このイソキヌクリジン誘導体(30b)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0097】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.91 (m, 1H), 5.34-5.22 (m, 2H), 5.29-5.22 (m, 1H), 4.97 (s, 1H), 4.59 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 4,25 (m, 1H), 4.22 (dd, J = 2.8, 1.4 Hz, 1H), 3.19 (s, 1H), 3.00 (m, 1H), 2.76 (ddd, J = 14.6, 11.0, 4.6 Hz, 1H), 1.64 (ddd, 14.6, 6.4, 1.8 Hz), 1.56(s, 9H)。
【実施例18】
【0098】
【化26】

【0099】
化26に示すように、イソキヌクリジン誘導体(30b)(4.7mg,9.5μmol)に対し、アルゴン雰囲気下、エタノール(0.1mL)を加えたのち、ナトリウムエトキシド(エタノール溶液、0.2M、90.5μL)を6分間にわたって滴下した。1分間撹拌したのち、反応液を酢酸エチルで希釈し、飽和食塩水、1M塩酸、食塩を順次加え、有機層を取り分けた。水層を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(3.0mg)が得られた。これをシリカゲル薄層クロマトグラフィー(20%酢酸エチル−ヘキサン)で精製することで、アジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22b)を油状物質(2.6mg、7.1μmol)として得た。このカルボン酸誘導体(22b)は、前出のカルボン酸誘導体(22a)の鏡像異性体であり、そのスペクトルデータは以下のとおり。
【0100】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 5.51 (dd, J = 5.5, 4.6 Hz, 1H), 5.05 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 4.26 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 3.19 (dt, J = 3.6, 1.4 Hz, 1H), 2.88 (dd, J = 10.1, 4.6 Hz, 1H), 2.42 (ddd, J = 14.7, 10.1, 1.4 Hz, 1H), 2.25 (dd, J = 14.7, 1.4 Hz, 1H), 1.58 (s, 9H)。
【実施例19】
【0101】
【化27】

【0102】
化27に示すように、実施例9〜11に準じて、アジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22b)の3位に1−エチルプロポキシ基を導入し、4位のアミノ基を保護していたBoc基を外してフリーのアミノ基とし、そのフリーのアミノ基をアセチル基で保護することにより、3位に1−エチルプロポキシ基、4位にアセチルアミノ基、5位にアリルオキシカルボニルアミノ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(25b)を油状物質として得た。このカルボン酸誘導体(25b)は、オセルタミビルの標品(authentic sample)より誘導した化合物とプロトンNMRが一致した。
【実施例20】
【0103】
【化28】

【0104】
化28に示すように、イソキヌクリジン誘導体(15b)(14mg,38μmol)をメタノールに溶解し、水酸化ナトリウムの1M水溶液(0.2mL、153μmol)を加え、50℃で4時間撹拌した。その後塩酸で反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。併せた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮することによりエポキシを有するイソキヌクリジン誘導体(31b)(11mg,Y.95%)を得た。このイソキヌクリジン誘導体(31b)のスペクトルデータは以下のとおり。
【0105】
1H NMR (CDCl3):δ(ppm) 7.37 (m, 4H), 5.16 (s, 2H), 5.07 (t, J = 4.1 Hz, 1/2(1H)), 4.96 (t, J = 3.7 Hz, 1/2(1H)), 3.55 (t, J = 4.6 Hz, 1/2(1H)), 3.50 (t, J = 4.6 Hz, 1/2(1H)), 3.40-3.32 (m, 3H), 2.72 (m, 1H), 2.49 (m, 1H), 2.29 (m, 1H), 1.68 (m, 1H)。
【0106】
なお、化29に示す合成ルートにより、イソキヌクリジン誘導体(31b)から、アミノ基がBoc基で保護されたイソキヌクリジン誘導体(32b)、窒素原子に隣接する炭素がカルボニル炭素に酸化されたイソキヌクリジン誘導体(33b)、カルボキシ基が置換アミノ基に変換されたイソキヌクリジン誘導体(34b)を経て、3位にヒドロキシ基、4位にベンジルオキシカルボニルアミノ基、5位にアリルオキシカルボニル基で保護されたアミノ基を持つ1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(35b)を合成することが可能である。
【0107】
【化29】

【実施例21】
【0108】
【化30】

【0109】
化30に示すように、実施例2で得られたイソキヌクリジン誘導体(16a)から5段階の反応を経てアジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)を合成した。以下にその詳細を説明する。
【0110】
イソキヌクリジン誘導体(16a)(507mg,1.53mmol)、二酸化ルテニウムn水和物(37.8mg,0.153mmol)に対し、アルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(8.0ml)、水(4.0ml)を加えたのち、過ヨウ素酸ナトリウム(1.31g,6.12mmol)を加え、80℃に加熱し、2時間40分撹拌した。ここで0℃に冷却した後、2−プロパノールを30滴加えて反応を停止した。沈殿物をセライトろ過したのち、酢酸エチルで希釈し、分液ろうとに移し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。水層を酢酸エチルで抽出したのち、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、窒素原子に隣接するメチレンがカルボニル炭素に変換されたイソキヌクリジン誘導体(17a)の粗生成物を白色の固体物質として得た。続いて、このイソキヌクリジン誘導体(17a)をTHFに溶解し、アンモニアガスを3時間30分にわたり吹き込んだ。反応液にアルゴンガスを吹き込んだのち、減圧下濃縮すると、水酸基とアミノカルボニル基を持つイソキヌクリジン誘導体(18a)の粗生成物を白色結晶として得た。続いて、このイソキヌクリジン誘導体(18a)をアルゴン雰囲気下、塩化メチレン(16ml)に溶解し、トリエチルアミン(0.700ml,5.02mmol)、メタンスルホニルクロリド (144ml,1.86mmol)を加え、12分間撹拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、分液ろうとに移したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、食塩で飽和させた後、有機層を取り分けた。水層を塩化メチレンで2回抽出し、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、メシルオキシ基とアミノカルボニル基を有するイソキヌクリジン誘導体(29a)の粗生成物を得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(3−10%メタノール−塩化メチレン)によって精製することで、イソキヌクリジン誘導体(29a)の白色結晶(589mg,1.34mmol,3段階87.6%)を得た。
【0111】
このようにして得られたイソキヌクリジン誘導体(29a)(588mg,1.34mmol)に対し、アルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(27ml)、ジアセトキシヨードベンゼン(1.33mg,4.03mmol)、アリルアルコール(1.83mL,26.8mmol)を順次加え、80℃に加熱し、1時間30分撹拌した。ここで室温に冷却し、反応液を塩化メチレンで希釈したのち、分液ろうとに移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた。有機層を取り分け、水層を塩化メチレンで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、水層を塩化メチレンで抽出したのち、合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。これを減圧下濃縮することで、メシルオキシ基とアリルカーバメート基を有するイソキヌクリジン誘導体(30a)の粗生成物(1.33g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー(50%酢酸エチル−ヘキサン)によって精製することで、このイソキヌクリジン誘導体(30a)を泡状白色固体(452mg,0.909mmol,67.8%)として得た。
【0112】
このようにして得られたイソキヌクリジン誘導体(30a)(452mg,0.909mmol)に対し、アルゴン雰囲気下、エタノール(9.0ml)を加えたのち0℃に冷却し、ナトリウムエトキシド(エタノール溶液、1.0M、1.82ml)を3分間にわたって滴下した。10分間撹拌したのち、ナトリウムエトキシド(エタノール溶液、1.0M、0.3ml)を加え、6分間撹拌した。ここで、ナトリウムエトキシド(エタノール溶液、1.0M、0.2ml)を加え、6分間撹拌したのち、さらにナトリウムエトキシド(エタノール溶液、1.0M、0.2ml)を加え、7分間撹拌した。ここでナトリウムエトキシド(エタノール溶液、1.0M、0.16ml)を加え、6分間撹拌した後、反応液を塩化メチレンで希釈し飽和食塩水で洗浄した。水層を塩化メチレンで2回抽出し、得られた有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下濃縮することで、粗生成物(382mg)が得られた。これをカラムクロマトグラフィー(33%酢酸エチル−ヘキサン)で精製することで、アジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)を収量277mg(0.757mmol,83.3%)で得た。なお、実施例18では、後処理に塩酸を用いたが、塩酸を用いるとアジリジンが開環し再現性がよくないことがあったことから、ここでは塩酸を用いないこととした。これにより、再現性も収率も実施例18に比べて改善された。この後、実施例19に準じてアジリジンを有する1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体(22a)をオセルタミビル(25a)(化18参照)に誘導することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)又はこれと鏡像関係の構造で表されるイソキヌクリジン誘導体。
【化1】

(式(1)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、Xはハロゲンである)
【請求項2】
式(2)又はこれと鏡像関係の構造で表されるイソキヌクリジン誘導体。
【化2】

(式(2)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、R7はヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいヒドラジノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいヒドロキシアミノ基であり、Xはハロゲンである)
【請求項3】
式(3)又はこれと鏡像関係の構造で表されるイソキヌクリジン誘導体。
【化3】

(式(3)中、Aは窒素原子の保護基であり、R1〜R6はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は水素原子であり、R7はヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいヒドラジノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいヒドロキシアミノ基であり、Zは−CH2−又は−C(=O)−である)
【請求項4】
1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体を製造するための合成中間体として利用される、請求項1〜3のいずれかに記載のイソキヌクリジン誘導体。
【請求項5】
前記1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体はオセルタミビルである、請求項4に記載のイソキヌクリジン誘導体。
【請求項6】
(a1)請求項2に記載のイソキヌクリジン誘導体の−OHを保護するか又は脱離基に変換したあと、−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b1)前記工程(a1)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程と、
を含む1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項7】
請求項2に記載のイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位の水素原子とβ位のXとを脱離させて不飽和結合を形成する工程、
を含む1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項8】
前記工程において、請求項2に記載のイソキヌクリジン誘導体の−OH基を保護するか又は脱離基に置換したあと、該イソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断する、
請求項7に記載の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項9】
請求項2に記載のイソキヌクリジン誘導体は、請求項1に記載のイソキヌクリジン誘導体のラクトンをなす酸素原子とカルボニル炭素との結合を切断することにより得られたものを使用する、
請求項6〜8のいずれかに記載の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項10】
(a2)請求項3に記載のイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)の−COR7を転位反応により無置換又は置換アミノ基に変換する工程と、
(b2)前記工程(a2)で得られたイソキヌクリジン誘導体のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程と、
を含む1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項11】
請求項3に記載のイソキヌクリジン誘導体(但しZは−C(=O)−である)のラクタムをなす窒素原子とカルボニル炭素との結合を切断し、エポキシの開環を伴って該ラクタムをなしていたカルボニル炭素のα位とβ位に不飽和結合を形成する工程、
を含む1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。
【請求項12】
前記1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体はオセルタミビルである、請求項6〜11のいずれかに記載の1−シクロヘキセン−1−カルボン酸誘導体の製法。

【公開番号】特開2008−50336(P2008−50336A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263743(P2006−263743)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】