説明

イソシアヌレート化合物

【課題】機械的強度、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐候性、難燃性、電気特性を改善することができる新規なイソシアヌレート化合物を提供する。
【解決手段】化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物。化学式(I):

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソシアヌレート化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソシアヌレート化合物を熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の原料として用いた場合には、同化合物が有するリジッドなトリアジン骨格が、重合体の分子中に取り込まれることにより、樹脂の機械的強度、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐候性(耐光性)、難燃性、電気的特性等を改善することができる。そのため、目的や用途に応じて数多くの種類のイソシアヌレート化合物が開発・検討され、また実用に供されている。
【0003】
本発明に類似する物質として、例えば特許文献1には、化1の化学式(II)で示されるイソシアヌレート化合物が開示され、トリス(β−ビニロキシエチル)イソシアヌレートや、ビス(β−ビニロキシエチル)エチルイソシアヌレート、ジエチル・β−ビニロキシエチルイソシアヌレートが例示されている。
化学式(II):
【0004】
【化1】

(ただし式中R、R’は水素原子、アルキル基、アラルキル基、フェニル基または置換フェニル基のいずれかを示し、Aはアルキレン基、アラルキレン基またはオキシアルキレン基のいずれかを示し、かつR、R’は同一でも別異でもよい。…はあってもなくてもよく、存在する時は三重結合を示しR、R’は存在しない。またXは塩素原子、臭素原子または沃素原子のいずれかを示す。)
【0005】
また、特許文献2には、化2の化学式(III)で示されるイソシアヌレート化合物が開示されている。
化学式(III):
【0006】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−45579号公報
【特許文献2】特開平4−77525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の原料としての用途が期待される、新規なイソシアヌレート化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、化3の化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物を合成し得ることを認め、本発明を完成するに至ったものである。
化学式(I):
【0010】
【化3】

【発明の効果】
【0011】
本発明のイソシアヌレート化合物は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の原料としての用途が期待されるが、予めエポキシ化合物やシリコーン化合物で変性することによって、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の耐湿性、接着性、電気的特性、機械的特性等の向上が見込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記の化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物であり、具体的には、
1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレート、
1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレート、
1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレート及び
1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートである。
【0013】
本発明の1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートおよび1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートは、適量の反応溶媒中で、それぞれ1,3−ビス(2−ヒドロキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートまたは1,3−ジメチル−5−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと、塩基およびアリルクロライドを反応させることにより合成することができる。
【0014】
この反応における反応温度については、零度〜室温とすることが好ましく、同反応時間については、3〜6時間とすることが好ましい。前記の反応溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドの如き非プロトン性極性溶媒を好ましく使用することができる。前記の塩基としては、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを好ましく使用することができる。
【0015】
この1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートおよび1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートの合成においては、例えば、反応終了後の反応液に水を添加した後、反応溶媒を留去し、反応溶媒とは別の有機溶剤で抽出し、これを留去して粗製の反応生成物を得る。続いて、この反応生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより目的物を得ることができる。
【0016】
本発明の1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートおよび1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートは、適量の反応溶媒中で、それぞれ前記の1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートまたは1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートを酸化することにより合成することができる。この酸化反応においては、メタクロロ過安息香酸や過酢酸等の酸化剤を好ましく使用することができる。
【0017】
前記の酸化反応における反応温度については、零度〜室温とすることが好ましく、同反応時間については、6〜12時間とすることが好ましい。
【0018】
前記の反応溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素を好ましく使用することができる。
【0019】
本発明の1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートおよび1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートの合成においては、反応終了後の反応液に、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を溶解した水溶液を添加することにより、未反応の酸化剤を不活性化し、次いで、分離した有機層から反応溶媒を留去し、粗製の反応生成物を得る。続いて、この反応生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより目的物を得ることができる。
【0020】
本発明のイソシアヌレート化合物を、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の原料として用いた場合には、同化合物が有するリジッドなトリアジン骨格が、重合体の分子中に取り込まれることにより、樹脂の機械的強度、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐候性(耐光性)、難燃性、電気的特性等を改善することができる。
【0021】
例えば、特開2002−341101号公報には(引用により本明細書に含む)、「(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するケイ素化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、及び(D)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個含有する化合物、を必須成分として含有することを特徴とする光学材料用組成物」が記載されている(請求項1)。
そして、(A)成分として、トリアリルイソシアヌレートが例示され(段落0034)、(D)成分として、モノアリルジベンジルイソシアヌレートやモノアリルジグリシジルイソシアヌレートが例示されており(段落0089)、これらのイソシアヌレート化合物の代替物質として、本願発明の1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートおよび1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートの利用が期待される。
【0022】
また、この公報には、当該光学材料用組成物に、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂として、トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートやジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを添加し得る点が記載されている(段落0107〜0108)が、これらの代替物質として、本願発明の1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートおよび1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートの利用が期待される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に示した合成試験によって具体的に説明する。
なお、原料の1,3−ビス(2−ヒドロキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートについては、「Russian Journal of General Chemistry, 2001, p.1991-1995.」に記載された方法に従って合成した。
また、同1,3−ジメチル−5−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートについては、参考例1に示した方法により合成した。
【0024】
〔参考例1〕
<1,3−ジメチル−5−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの合成>
温度計、攪拌機、加熱用ジャケット、ガス導入管および排出管を備えた1500mlのオートクレーブに、1,3−ジメチルイソシアヌレート100g(0.6mol)と、N,N−ジメチルホルムアミド200gを投入した。容器を密閉後、圧力が1.3MPaになるまで酸化エチレン(0.7mol)を注入した。内温を120℃に設定し2時間撹拌した。
反応液を減圧下で濃縮して得られた粗結晶98gを、イソプロパノール50gで再結晶して、白色結晶61.0g(収率48%、純度97%)を得た。
【0025】
〔実施例1〕
<1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートの合成>
温度計および攪拌機を備えた100mLフラスコに、1,3−ビス(2−ヒドロキシエチル)−5−メチルイソシアヌレート1.16g(5.0mmol)と、N,N−ジメチルホルムアミド20mLを投入し氷冷した。次いで、水素化ナトリウム(60wt%)0.44g(11.0mmol)を投入し30分間攪拌し、続いて、アリルクロライド0.92g(12.0mmol)を投入し室温まで昇温して6時間攪拌した。
この反応液を氷冷し水5mLを加えて、減圧下にて濃縮乾固させた。得られた生成物を水10mL中に分散させた後、クロロホルム30mLと混合・振盪し静置した後、有機層(以下、抽出液と云う)を分離した。このクロロホルム溶解分を抽出する操作を更に2回行った。
これらの抽出液を混合して、硫酸ナトリウムで乾燥した後、揮発分を留去し、得られた生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3、v/v)により精製し、無色液体1.13g(収率83%)を得た。
【0026】
得られた液体のH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR(CDCl3) δ:5.82-5.92(m,2H),5.23(dd,4H),4.14(t,4H),4.01(d,4H),
3.68(t,4H),3.36(s,3H).
また、この液体のIRスペクトルデータは、図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化4の化学式(IV)で示される1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレートであるものと同定した。
化学式(IV):
【0027】
【化4】

【0028】
〔実施例2〕
<1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートの合成>
温度計および攪拌機を備えた100mLフラスコに、1,3−ジメチル−5−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート2.01g(10.0mmol)と、N,N−ジメチルホルムアミド10mLを投入し氷冷した。次いで、水素化ナトリウム(60wt%)0.44g(11.0mmol)を投入し30分間攪拌し、続いて、アリルクロライド1.15g(15.0mmol)を投入し、室温まで昇温して6時間攪拌した。
この反応液を氷冷し水5mLを加えて、減圧下にて濃縮乾固させた。得られた生成物を水10mL中に分散させた後、クロロホルム30mLと混合・振盪し静置した後、有機層(以下、抽出液と云う)を分離した。このクロロホルム溶解分を抽出する操作を更に2回行った。
これらの抽出液を混合して、硫酸ナトリウムで乾燥した後、揮発分を留去し、得られた生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2、v/v)により精製し、無色液体1.81g(収率75%)を得た。
【0029】
得られた液体のH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR(CDCl3) δ:5.82-5.92(m,1H),5.19(dd,2H),4.11(t,2H),4.00(d,2H),
3.68(t,2H),3.36(s,6H).
また、この液体のIRスペクトルデータは、図2に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化5の化学式(V)で示される1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレートであるものと同定した。
化学式(V):
【0030】
【化5】

【0031】
〔実施例3〕
<1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートの合成>
温度計および攪拌機を備えた50mLフラスコに、実施例1において合成した1,3−ビス(2−アリルオキシエチル)−5−メチルイソシアヌレート0.31g(1.0mmol)と、ジクロロメタン10.0mlを投入し氷冷した。次いで、65%メタクロロ過安息香酸1.06g(4.0mmol)を投入し1時間攪拌し、続いて室温まで昇温して24時間攪拌した。
この反応液に10%亜硫酸ナトリウム水溶液20mlを加えた後、クロロホルム30mLを加えて、混合・振盪し静置した後、有機層(以下、抽出液と云う)を分離した。このクロロホルム溶解分を抽出する操作を更に2回行った。
これらの抽出液を混合して、硫酸ナトリウムで乾燥した後、揮発分を留去し、得られた生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3、v/v)により精製し、無色液体0.30g(収率88%)を得た。
【0032】
得られた液体のH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR (CDCl3) δ:4.07-4.19(m,4H),3.69-3.88(m,6H),3.40(dd,2H),3.35(s,3H),
3.09-3.13(m,2H),2.77(t,2H),2.58-2.60(m,2H).
また、この液体のIRスペクトルデータは、図3に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化6の化学式(VI)で示される1−メチル−3,5−ビス(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートであるものと同定した。
化学式(VI):
【0033】
【化6】

【0034】
〔実施例4〕
<1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートの合成>
温度計および攪拌機を備えた50mLフラスコに、実施例2において合成した1−(2−アリルオキシエチル)−3,5−ジメチルイソシアヌレート1.17g(4.8mmol)と、ジクロロメタン19.2mlを投入し氷冷した。次いで、65%メタクロロ過安息香酸2.55g(9.6mmol)を投入し1時間攪拌し、続いて、室温まで昇温して12時間攪拌した。
この反応液に10%亜硫酸ナトリウム水溶液50mlを加えた後、クロロホルム30mLを加えて、混合・振盪し静置した後、有機層(以下、抽出液と云う)を分離した。
抽出液を減圧下に濃縮し、得られた生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2、v/v)により精製し、無色液体1.11g(収率90%)を得た。
【0035】
得られた液体のH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
1H-NMR (CDCl3) δ:4.08-4.20(m,2H),3.70-3.83(m,3H),3.41(dd,1H),3.36(s,6H),
3.10-3.14(m,1H),2.77(t,1H),2.58-2.60(m,1H).
また、この液体のIRスペクトルデータは、図4に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化7の化学式(VII)で示される1,3−ジメチル−5−(2−オキシラニルメトキシエチル)イソシアヌレートであるものと同定した。
化学式(VII):
【0036】
【化7】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で得られた結晶のIRスペクトルチャートである。
【図2】実施例2で得られた結晶のIRスペクトルチャートである。
【図3】実施例3で得られた結晶のIRスペクトルチャートである。
【図4】実施例4で得られた液体のIRスペクトルチャートである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のイソシアヌレート化合物を原料とする樹脂、とりわけ熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂である場合には、プリント配線板用の成形材料、レジストインク、半導体や発光素子用の封止材料、光学レンズ、その他電子部品用の絶縁材料、接着剤、塗料、コーティング剤等への利用が期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1の化学式(I)で示されるイソシアヌレート化合物。
化学式(I):
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87093(P2013−87093A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229786(P2011−229786)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】