説明

イソシアネートモノアダクトをベースとする汎用湿潤分散剤

湿潤分散剤として好適な付加化合物であって、
A)ポリエポキシドを、
B)一般式Iの少なくとも1種の脂肪族および/またはアラリファチック(araliphatic)一級アミンと反応させ、
2N−R I
[式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルであり、さらにその一級アミンは−OH、三級アミンまたはカルボキシルから選択される官能基を有してもよい]
そして、それに続いて
C)一般式IIaおよび/またはIIbの少なくとも一種の変性イソシアネートと付加反応させて、ウレタンを形成させる反応により得ることができる。


[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、R1およびR2は、互いに独立してH、アルキル、および/またはアリールであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、Yは、アルキレンおよび/またはシクロアルキレンであり、そしてnおよびmは互いに独立していて、n+mの合計が2以上である]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料および充填剤のための湿潤分散剤としてのアミン性ポリマーを得るための、エポキシドと、アミンおよびポリアルキレンオキシド変性および/またはポリエステル変性および/またはポリエーテル−ポリエステル変性のイソシアネートとの反応生成物ならびにそれらの塩、ならびにそれらを製造するためのプロセスに関する。そうして得られるポリマーは櫛状である。本発明はさらに、水系および溶媒系における、有機および無機顔料のための湿潤分散剤、並びに充填剤としてのそれらの反応生成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
より詳しくは、上述の反応生成物は、顔料濃縮物を調製したり、さらにはバインダー、コーティング材料、プラスチック、およびポリマー混合物における固形物を安定化させたりするのに好適である。湿潤分散剤としては、それらはそのような系の粘度を低下させ、貯蔵安定性および流動特性を改良し、色の濃さを向上させることができる。
【0003】
液状媒体の中に固形物を安定に導入するためには、高い機械力が必要である。そのために、それらの分散力を低下させ、それによって系に必要とされるエネルギーの全投入量だけではなく、分散時間も最小化させるためには、通常薬剤が使用される。公知の分散剤(dispersing agent、またはdispersant)は、一般的には、その少量を固形物に直接適用するか、あるいは液状媒体に添加する表面活性物質である。固形物の凝集物を完全に解膠させた後であってさえも、分散操作の後に再凝集ということが起こり、それによって、分散効果が全面的または部分的に無効となってしまう可能性がある。そうなると、望ましくない効果、たとえば、液体系における粘度の上昇、シェードドリフト(shade drift)、またはペイントおよびコーティングにおける光沢の損失などが起きる可能性がある。
【0004】
今日では、多種多様な物質が、顔料および充填剤のための分散剤として知られている。既存の特許文献の一つのレビューは、欧州特許第0 318 999A号明細書に見ることができる。たとえばレシチン、脂肪酸およびそれらの塩、ならびにアルキルフェノールエトキシレートなどの低分子量の単純な化合物と共に、例を挙げれば、錯体構造物も湿潤分散剤として使用されている。
【0005】
公知のそのような分散剤の一つの群は、モノエポキシドまたはポリエポキシドとイミダゾリン残基を含むアミンとの反応生成物をベースとするものである。この群の分散剤についてのレビューは、米国特許第5 128 393号明細書および米国特許第4 710 561号明細書を含めた刊行物に見出すことができる。その他の分散剤の群は、ポリエポキシド/アミン混合物ならびにそれらの塩から形成される。刊行物の独国特許出願公開第36 23 296A号明細書および独国特許出願公開36 23 297A号明細書には、主として有機媒体中での顔料のための分散剤としてそのような混合物の使用が開示されているが、そのポリエポキシドはノボラックであり、使用されたアミンは、低分子量の脂肪族、芳香族および/または複素環式アミンである。
【0006】
最近になって、ポリエポキシド/アミン分散剤の分野においてさらなる発展があった。欧州特許出願公開第747 413A号明細書には、乳化剤としての、脂肪族ポリオールと環一つあたり少なくとも2個のエポキシド基を有するエポキシドとの反応生成物が記載されている。したがって、それらの化合物は、それから塩を形成させることが可能な窒素原子を持っておらず、そのために、充填剤および顔料に対して極めて低い親和性を示す。独国特許出願公開第103 26 147A1号には、それとは対照的に、湿潤分散剤として好適な、単官能もしくは多官能芳香族エポキシドとポリオキシアルキレンモノアミンとの付加化合物が記載されている。それらの特定のアミンには、1分子あたり少なくとも4個のエーテル酸素が含まれている。特殊なポリエーテル置換されたアミンのさらなる適用が、国際公開第2005/113677A1号パンフレットに開示されている。そこでは、高い顔料画分を有し、広い適用範囲を有するペイントを製造するための乳化剤として、アミンを使用している。
【0007】
上述の分散剤すべてに共通する特徴は、それらは、それぞれの場合において、狭い限定された使用分野のために開発されたものであって、そのために、顔料/バインダー混合物に対して明確に目標設定されている。しかしながら、極性において顕著な差を有する系においては、それらの有用性には限度がある。
【0008】
ポリエーテル置換されたアミンをベースとする分散剤のさらなる欠点は、アミンの入手性に限界が存在する点にある。たとえば、現時点では、たったの約5個のアミンしか入手できない。それとは対照的に、ポリエーテル−ポリエステル変性一級アミンは、まったく入手不可能である。
【0009】
特に、産業上の適用という情況においては、既存の湿潤分散剤では適用範囲が狭く、入手性にも劣ることが障害となっているが、その理由は、操作の流れを合理化しようということから、容易に変更可能な(modular)成分を使用するのが好ましいからである。構成要素という観点からは、それら容易に変更可能な成分は、たとえばバインダー、助剤、および溶媒などのその他の成分と容易に相溶するべきである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の一つの目的は、一般的なバインダーおよび溶媒系との相溶性が高い湿潤分散剤を提供することである。それと同時に、その湿潤分散剤は容易に入手可能であり、また良好な長期安定性と貯蔵安定性を有している。それに付随する目的は、そのような湿潤分散剤を製造するためのプロセスを規定することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、湿潤分散剤として好適な付加化合物の手段により本発明において達成されるが、その化合物は、
A)ポリエポキシドを、
B)一般式Iの少なくとも一種の脂肪族および/またはアラリファチック(araliphatic)一級アミンと反応させ、
2N−R I
[式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、さらにその一級アミンは−OH、三級アミンまたはカルボキシルから選択される官能基を有してもよい]
そして、それに続いて
C)一般式IIaおよび/またはIIbの少なくとも一種の変性イソシアネートと付加反応させて、ウレタンを形成させることにより得ることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、R1およびR2は、互いに独立してH、アルキル、および/またはアリールであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、Yは、アルキレンおよび/またはシクロアルキレンであり、そしてnおよびmは互いに独立していて、n+mの合計が2以上である]
【0014】
ポリエーテル−、ポリエステル−および/またはポリエーテル−ポリエステル−変性イソシアネートを使用した結果として、本発明の付加化合物は広い利用可能性を有している。さらに、本発明の化合物中にさらにウレタン結合が存在していることによって、一般的なバインダー/溶媒系との広い相溶性が得られるだけではなく、それらが化学的に不活性であることから、有利な長期安定性および貯蔵安定性も得られる。
【0015】
成分Aとしては、芳香族含有および/または脂肪族ポリエポキシドを使用することができる。それらのポリエポキシドには、1分子あたり2個以上のエポキシ基を含んでいてよく、そして少なくとも6個の炭素原子を有している。各種ポリエポキシドの混合物を使用することもまた可能である。芳香族含有ポリエポキシドの群からの典型的な例としては、ジフェニロールプロパン(ビスフェノールA)とエピクロロヒドリンとの反応生成物およびそれらの高分子量同族体が挙げられるが、それらは、たとえば、D.E.R.、またはエピコート(Epikote)の商品名で入手することが可能である(それぞれ、ダウ・ケミカル・カンパニー(DOW Chemical Company)またはレゾルーション・パフォーマンス・プロダクツ(Resolution Performance Products)製)。脂肪族ポリエポキシドの例としては、1,6−ヘキサンジグリシジルエーテルおよび1,4−ブタンジグリシジルエーテルが挙げられる。それらの脂肪族ポリエポキシドでは、その鎖の中にさらに酸素を含んでいてもよく、そのようなものとしてはたとえば、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリテトラヒドロフランジグリシジルエーテルなどがある。それらの脂肪族ポリエポキシドは、Ems−ヘミー(Ems−Chemie)から商品名グリロニット(Grilonit)(登録商標)として入手可能である。
【0016】
成分Bの脂肪族および/または芳香脂肪族アミンには3〜28個の炭素原子が含まれているのが好ましい。さらなる官能基としては、ヒドロキシル基または三級アミノ基が特に好ましい。さらなる官能基を有する好適なアミンは、たとえば、エタノールアミン、ブタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどである。2個以上のさらなる官能基を有する好適なアミンは、たとえば、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、または2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールである。たとえば、エタノールアミン、ブタノールアミンおよび/またはジメチルアミノプロピルアミンなどであれば、より好ましい。本発明においては、成分Bのアミンが、アルコキシ官能基をさらなる官能基として有していないのが好ましい。
【0017】
変性イソシアネートCが、式IIcのポリアルキレンオキシド変性イソシアネートであるのが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、R1は、H、メチル、および/またはエチルであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、nは、1〜100である]
n=2〜100のポリアルキレンオキシド変性イソシアネートIIcが特に好ましい。
【0020】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、一般式IIIの少なくとも1種のさらなる一級アミンDが使用される。
2N−R’−Z III
[式中、R’はアルキレンであり、Zは複素環式ラジカルである]
成分Dのアミンは、ヘテロ原子として好ましくはNおよび/またはOを含む5員または6員の環を有する複素環式化合物、たとえば、N−(3−アミノプロピル)イミダゾールまたはN−(2−アミノ−エチル)モルホリンであるのが好ましい。
【0021】
本発明においては、成分AとBと、または成分AとBとDとを、成分Aを化学量論的に過剰の状態で相互に反応させて、エポキシド末端ポリマーを形成させることができる。
【0022】
本発明においては、成分AとBと、または成分AとBとDとを、成分Bおよび/またはDを化学量論的に過剰の状態で相互に反応させて、アミン末端ポリマーを形成させることも同様に可能である。
【0023】
本発明のさらなる好ましい実施態様においては、成分A、B、およびDの付加反応によって生成するOH基の5〜100%、好ましくは20〜100%、特に好ましくは40〜100%が反応されてウレタンが形成されるような量で、成分Cを使用する。
【0024】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、成分Aが一般式IVのジエポキシドである。
【0025】
【化3】

【0026】
[式中、W=−CH2−O−または−CH2−、T=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル、そしてu=1〜8である]
【0027】
特に好ましくは、成分Aとして、1分子あたり平均2個のエポキシ官能基を有する芳香族含有ジエポキシド化合物を使用するが、2官能フェノールのジグリシジルエーテルを使用するのが特に好ましい。それらの芳香族含有ジエポキシド化合物は、より高いバインダーとの相溶性を示す点にメリットがある。
【0028】
特に好ましくは、成分Aとして、1分子あたり平均2個のエポキシ官能基を有する脂肪族または脂環族ジエポキシド化合物を使用するが、ジグリシジルエーテルを含むジエポキシド化合物を使用するのが特に好ましい。芳香族含有化合物に比較して、それらの脂肪族および脂環族ジエポキシド化合物のインヘレント粘度が低く、またそれに伴って生成するポリマーの粘度も低い結果として、分子質量がより高い構造が可能となる。
【0029】
成分AとBとC、または成分AとBとCとDとから得られる付加化合物は、幅広い相溶性を有する高価値の湿潤分散剤となる。それらは、2段反応の結果として、それらが得られた形態で使用することができる。しかしながら、それぞれ個々のケースで特定の要求性能に合わせてそれらの性質を適応させるために、いくつかのケースでは、それらにさらに変性を加えるのが望ましい。それらの付加化合物の中に存在するヒドロキシルおよび/またはアミノ基との反応をベースとして、好適な変性を以下において記述する。その変性の過程において、それらの基の一部または全部を反応させてよい。
【0030】
以下の変性反応を、そのまままたは必要に応じて組み合わせることで、変性付加化合物を増やすことができる。2種以上の変性反応を引き続いて実施する場合、その分子中に、その後の1種または複数の反応のための反応性基が十分な量で残されているようにしなければならない。記載された(stated)変性は本発明の有利な実施態様であり、以下のようにして実現させることができる:
1.末端アミノ基を、イソシアネート、ラクトン、環状カーボネートまたはアクリレートと反応させる、
2.末端エポキシド基を二級アミンまたは酸と反応させる、
3.残存ヒドロキシル官能基を、ヒドロキシカルボン酸および/または環状ラクトンと反応させる、
4.残存ヒドロキシル官能基を、Cで列記したものとは異なるイソシアネートと反応させる、
5.残存ヒドロキシル官能基を、リン酸もしくはポリリン酸および/または酸性リン酸エステルおよび/またはカルボン酸と反応させる、および
6.アミノ基をアルキル化または酸化して四級アンモニウム塩または窒素酸化物を形成させる。
【0031】
本発明の付加化合物の中に残存している遊離のヒドロキシル基を、適切であれば、3に示したようにしてエステル化させることができる。そのエステル化は、当業者には公知の方法で行わせる。本発明の付加反応生成物の中に遊離のアミノ基がさらに存在している場合には、十分な反応速度を得るためには、エステル化の前にそれらのアミノ基の塩を形成させておくのがよい。エステル交換反応においては、末端OH基を残留させておき、それによって、多くのペイント系において特に広く相溶性が得られるので、得られる反応生成物を特段に適切なものとすることができる。
【0032】
適切であればヒドロキシル基が残存している、本発明の付加反応において生成する化合物はさらに、4に示したようにしてイソシアネートと反応させてもよい。そのウレタン生成反応は、当業者には公知の方法で実施する。そのペイント系においてヒドロキシル基が邪魔をするような場合には、ヒドロキシル基をウレタン基に変換させることを実施するのが好ましい。その上、そのさらなるウレタン生成反応は、その湿潤分散剤の脱泡にも役立つ。水性配合の中で摩砕するような場合には特に、発泡傾向を抑制することが、湿潤分散剤の重要なさらなる特性を構成する。
【0033】
6に記した残存アミノ基の変性は、適切であるならば、当業者には公知の方法で起こさせる。アミノ窒素原子の四級化は、たとえば、アルキルもしくはアラルキルハライドを使用するか、ハロカルボン酸エステルを使用するか、またはエポキシドを使用して、達成させてもよい。たとえば、その中に顔料ペーストを組み込むバインダー系において、アミノ基が邪魔をするような場合には、このタイプの四級化が好ましい。
【0034】
β−ヒドロキシアミノ基を形成させるための、成分Aのエポキシド官能基と、成分BもしくはBとCのアミノ基との反応は、当業者には公知である方法に従って、溶媒系の中、しかし好ましくはバルクで実施することができる。選択するべき反応温度は、それら反応剤の反応性に依存する。多くのエポキシドは、室温であってさえもアミンと反応する。それとは対照的に、反応性が低いエポキシドの場合には、160℃までの反応温度が必要となることもある。エポキシドをアミンと反応させるための特に好適な反応温度は、50〜120℃である。適切であるならば、当業者には公知の触媒を使用して、エポキシドのアミンとの反応を加速させることもできる。
【0035】
成分Cは、独国特許出願公開第199 19 482A1号明細書に記載されている方法によって製造するのが好ましい。その目的のためには、モノヒドロキシ化合物を過剰のジイソシアネート、好ましくはトリレンジイソシアネートと反応させ、ジイソシアネートの未反応部分をその反応混合物から除去する。
【0036】
本発明の目的は、同様にして、湿潤分散剤として好適な付加化合物を製造するためのプロセスによって達成されるが、その反応は、
A)ポリエポキシドを、
B)一般式Iの少なくとも一種の脂肪族および/またはアラリファチック(araliphatic)一級アミンと反応させ、
2N−R I
[式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルであり、さらにその一級アミンは−OH、三級アミンまたはカルボキシルから選択されるさらなる官能基を有してもよい]
そして、それに続いて
C)一般式IIaおよび/またはIIbの少なくとも一種の変性イソシアネートと付加反応させて、ウレタンを形成させることにより得ることができる。
【0037】
【化4】

【0038】
[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、R1およびR2は、互いに独立してH、アルキル、および/またはアリールであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、Yは、アルキレンおよび/またはシクロアルキレンであり、そしてnおよびmは互いに独立していて、n+mの合計が2以上である]
【0039】
本発明のプロセスの一つの好ましい実施態様では、式IIcのポリアルキレンオキシド変性イソシアネートをイソシアネートCとして使用する。
【0040】
【化5】

【0041】
[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリール、および/またはアラルキルであり、R1は、H、メチル、および/またはエチルであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、nは、1〜100である]
【0042】
本発明のプロセスのさらなる好ましい実施態様では、一般式IIIの一級アミンDを使用する。
2N−R’−Z III
[式中、R’はアルキレンであり、Zは複素環式ラジカルである]
【0043】
本発明のプロセスの一つの好ましい実施態様においては、成分Aとして、一般式IVのジエポキシドを使用する。
【0044】
【化6】

【0045】
[式中、W=−CH2−O−または−CH2−、T=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル、そしてu=1〜8である]
【0046】
本発明のプロセスのさらなる実施態様においては、成分AとBと、または成分Aと(B+D)とを、(2:3)から(3:2)までのモル比で使用するのが好ましい。
【0047】
成分Cの使用に関しては、使用するこの成分の量を、成分AとBと,またはAとBとDとの付加反応によって生成するOH基の5〜100%、好ましくは20〜100%、特に好ましくは40〜100%が付加反応において反応して、ウレタンを形成するように選択するのが好ましい。
【0048】
このようにすることで、特に水系において、その付加化合物のバインダーに対する特に高い親和性が達成される。
【0049】
本発明の付加化合物は、有機および/または無機顔料または充填剤のための湿潤および/または分散剤として使用される。その分散剤は単独で使用することもできるし、あるいは、バインダーと併用することもできる。特に好ましいことには、本発明の湿潤分散剤は、水系および/または溶媒系のペイントにおいて、安定化および顔料および充填剤を分散させるための、それらの用途を見出した。
【0050】
水系および/または溶媒系分散体、さらに詳しくはペイントにおける湿潤分散剤としての使用に加えて、粉状または繊維状の固形物をコーティングするために本発明の付加化合物を使用することもまた同様に可能である。有機および無機の固形物の上へのこの種のコーティング操作は、公知の、たとえば、欧州特許出願公開第0 270 126A号明細書に記載されているような方法で実施される。具体的に顔料のケースでは、顔料表面のコーティングは、たとえば、本発明の付加化合物を顔料懸濁液に添加することによって、顔料合成の途中または後に実施すればよい。この方法で前処理した顔料は、未処理の顔料に比較して、バインダー系の中に組み込むのが容易であり、粘度および凝集挙動が改良され、良好な光沢を示す。本発明の付加化合物はさらに、たとえば、効果顔料を爪用ワニスの中に分散させるのにも適している。
【0051】
本発明の分散剤は、分散される固形物を基準にして、0.5〜60重量%の量で使用するのが好ましい。しかしながら、特定の固形物においては、その分散操作で実質的にもっと多い量の分散剤が必要となることもあり得る。
【0052】
使用する分散剤の量は、分散させるべき固形物の表面の大きさと性質に実質的に依存する。たとえばカーボンブラックでは、二酸化チタンの場合よりも実質的に多量の分散剤を必要とする。欧州特許出願公開第0 270 126A号明細書には、顔料と充填剤の例が含まれている。さらなる例は、特に有機顔料の分野、たとえばジケトピロロピロールのタイプにおける、新規な開発に基づいている。純粋な鉄または混合酸化物をベースとする磁気顔料もまた、本発明の分散剤を用いることによって分散体の中に組み込むことができる。さらに、たとえば炭酸カルシウムおよび酸化カルシウムの様な鉱物質充填剤、あるいは水酸化アルミニウムもしくは水酸化マグネシウムのような難燃剤もまた分散させることが可能である。さらに、シリカのような艶消剤もまた分散させ、安定化させることができる。
【0053】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明がそれらによって限定される訳ではない。特に記さない限り、部を表示する場合は重量部を指しており、またパーセントを表示する場合は重量パーセントを指している。
【実施例】
【0054】
実施例1
KPG撹拌機、窒素配管、および強力なコンデンサーを取り付けた250mLの四つ口フラスコに、16gの酢酸エチル中13.0gのエピコート(Epikote)828を仕込んだ。その透明な溶液を撹拌しながら加熱して75℃とした。3分かけて、2.73gのエタノールアミンを滴下により加えた。最初透明だった溶液が、3時間後には濁ってきた。合計5時間の反応時間の後に、34.8gのTDI−M350モノアダクトを滴下により加えた。80℃でさらに3時間の反応時間の後に、75.75gのDI水を用いてその反応生成物を希釈した。200mbar、60℃で、ロータリーエバポレーター上で2時間かけて、酢酸エチルを除去した。製造された反応生成物は透明な黄色の溶液で、固形分40%であった。
【0055】
上述の合成法に従い、下記の表に示した反応剤を使用して、さらなる実験を実施した。
【0056】
【表1】

【0057】
(本発明のものではない)比較例として用いたのは、国際公開第2005/113677号パンフレット(ハンツマン(Huntsman))の実施例1であった。
【0058】
適用試験
本発明の分散剤の活性を試験するために、バインダーを含まない顔料ペーストを製造し、バインダーの中に組み込んだ。発泡挙動と粘度についての評価を行った。完成された顔料ペイントの適用と硬化をさせた後に、次いでドローダウンを目視で評価し、透明度、色の濃さ、光沢、およびヘイズについての測定を行った。
【0059】
VMA−ゲッツマン・GmbH(VMA−Getzmann GmbH)製のディスパーマット(Dispermat)・CVを用いて10 000rpm、40℃で40分間かけて配合物の成分を分散させた。
配合:
水:30.16g
Byk034:0.40g
イルガリスロット(Irgalithrot)FBN:36.00g
湿潤分散剤:13.50g
ジョンクリル(Joncryl)8052バインダー:186.67g
Byk034:消泡剤(Byk−ヘミー・GmbH(Byk−Chemie GmbH)製)
イルガリスロット(Irgalithrot)FBN:レッドナフトールAS顔料(チバ(Ciba)製)
ジョンクリル(Joncryl)8052:アクリレート分散体(ジョンソン・ポリマーズ(Johnson Polymers)製)
【0060】
【表2】

【0061】
実施例7
KPG撹拌機、窒素配管、および強力なコンデンサーを取り付けた250mLの四つ口フラスコに、69.3gの酢酸メトキシプロピル中13.07gのグリロニット(Grilonit)F713を仕込んだ。その透明な溶液を撹拌しながら加熱して75℃とした。3分間かけて、1.93gのベンジルアミンを滴下により加えた[モル比15:16]。合計5時間の反応時間の後、デカノールを出発物質として製造したカプロラクトンポリエステル(C16CAPA)のTDIモノアダクト54.3gを、滴下により加えた。製造された反応生成物は透明な黄色の溶液で、固形分50%であった。
【0062】
先に実施例7で挙げた合成法に従い、下記の表に示した反応剤を使用して、さらなる実験を実施した。
【0063】
【表3】

【0064】
(本発明のものではない)比較例2として用いたのは、独国特許第10326147号明細書の実施例4であった。
【0065】
適用試験
本発明の分散剤の活性を試験するために、まず顔料ペースト(ミルベース)を製造し、次いで、バインダーの中に組み込んだ(レットダウン)。発泡挙動と粘度についての評価を行った。完成された顔料ペイントの適用と硬化をさせた後に、次いでドローダウンを目視で評価し、透明度、光沢、およびヘイズについての測定を行った。
【0066】
VMA−ゲッツマン・GmbH(VMA−Getzmann GmbH)製のディスパーマット(Dispermat)・CVを用いて10 000rpm、40℃で40分間かけて配合物の成分を分散させた。
配合:
ミルベース
マクリナール(Macrynal)SM516:21.4g
酢酸メトキシプロピル:14g
ヘリオゲンブラウ(Heliogenblau)6975F:7.5g
湿潤分散剤:6.5g
酢酸ブチル:0.6g
レットダウン
ミルベース:50g
酢酸メトキシプロピル:10g
マクリナール(Macrynal)SM516:34.96g
酢酸ブチルグリコール:0.5g
酢酸ブチル:3.49g
DBTL(酢酸ブチル中1%):0.9g
Byk331:0.15g
Byk331:流動調節添加剤(Byk−ヘミー・GmbH(Byk−Chemie GmbH)製)
ヘリオゲンブラウ(Heliogenblau)6975F:青色フタロシアニン顔料(ビー・エー・エス・エフ(BASF)製)
マクリナール(Macrynal)SM516:ポリアクリレート(酢酸ブチル中70%強度)(クラリアント(Clariant)製)
【0067】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤分散剤として好適な付加化合物であって、
A)ポリエポキシドを、
B)一般式Iの少なくとも1種の脂肪族および/またはアラリファチック(araliphatic)一級アミンと反応させ、
2N−R I
[式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルであり、さらにその一級アミンは−OH、三級アミンまたはカルボキシルから選択される官能基を有してもよい]
そして、それに続いて
C)一般式IIaおよび/またはIIbの少なくとも一種の変性イソシアネートと付加反応させて、ウレタンを形成させる反応により得ることが可能な、付加化合物。
【化1】

[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリールおよび/またはアラルキルであり、R1およびR2は、互いに独立してH、アルキル、またはアリールであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、Yは、アルキレンおよび/またはシクロアルキレンであり、そしてnおよびmは互いに独立していて、n+mの合計が2以上である]
【請求項2】
前記イソシアネートCが、式IIcのポリアルキレンオキシド変性イソシアネートであることを特徴とする、請求項1に記載の付加化合物。
【化2】

[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、R1は、H、メチル、および/またはエチルであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、nは、1〜100である]
【請求項3】
nが2〜100であることを特徴とする、請求項2に記載の付加化合物。
【請求項4】
さらに、一般式IIIの少なくとも一種の一級アミンDを使用することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
2N−R’−Z III
[式中、R’はアルキレンであり、Zは複素環式ラジカルである]
【請求項5】
成分Aが一般式IVのジエポキシドであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【化3】

[式中、W=−CH2−O−または−CH2−、T=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル、そしてu=1〜8である]
【請求項6】
前記ジエポキシドが、1分子あたり平均2個のエポキシ官能基を有する芳香族含有ジエポキシド化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の付加化合物。
【請求項7】
前記ジエポキシド化合物が、2官能性フェノール誘導体のジグリシジルエーテルであることを特徴とする、請求項6に記載の付加化合物。
【請求項8】
前記ジエポキシドが、1分子あたり平均2個のエポキシ官能基を有する脂肪族および/または脂環族ジエポキシド化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の付加化合物。
【請求項9】
さらなる工程において、存在している各種の末端アミノ基をイソシアネート、ラクトン、環状カーボネート、またはアクリレートと反応させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項10】
さらなる工程において、存在している各種の末端エポキシド基を二級アミンまたは酸と反応させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項11】
さらなる工程において、各種の残存ヒドロキシル官能基をヒドロキシカルボン酸および/または環状ラクトンと反応させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項12】
さらなる工程において、各種の残存ヒドロキシル官能基を、Cに列記されたものとは異なるイソシアネートと反応させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項13】
さらなる工程において、各種の残存ヒドロキシル官能基を、リン酸もしくはポリリン酸および/または酸性リン酸エステルおよび/またはカルボン酸と反応させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項14】
さらなる工程において、適切であれば、残存しているアミノ基にアルキル化または酸化を行わせて、四級アンモニウム塩または窒素酸化物を形成させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の付加化合物。
【請求項15】
湿潤分散剤として好適な付加化合物を製造するためのプロセスであって、
A)ポリエポキシドを、
B)一般式Iの少なくとも1種の脂肪族および/またはアラリファチック(araliphatic)一級アミンと反応させ、
2N−R I
[式中、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、およびアラルキルであり、さらに前記一級アミンは−OH、三級アミンまたはカルボキシルから選択される官能基を有してもよい]
そして、それに続いて
C)一般式IIaおよび/またはIIbの少なくとも一種の変性イソシアネートと反応させて、ウレタンを形成させる反応による、プロセス。
【化4】

[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、R1およびR2は、互いに独立してH、アルキル、および/またはアリールであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、Yは、アルキレンおよび/またはシクロアルキレンであり、そしてnおよびmは互いに独立していて、n+mの合計が2以上である]
【請求項16】
前記イソシアネートCが、式IIcのポリアルキレンオキシド変性イソシアネートであることを特徴とする、請求項15に記載の付加化合物を製造するためのプロセス。
【化5】

[式中、R3は、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、R1は、H、メチル、および/またはエチルであり、Xは、アルキレン、シクロアルキレン、および/またはアラルキレンであり、nは、1〜100である]
【請求項17】
さらに、一般式IIIの少なくとも一種の一級アミンDを使用することを特徴とする、請求項15または16に記載の付加化合物を製造するためのプロセス。
2N−R’−Z III
[式中、R’はアルキレンであり、Zは複素環式ラジカルである]
【請求項18】
成分Aとして、一般式IVのジエポキシドを使用することを特徴とする、請求項15〜17のいずれか1項に記載の付加化合物を製造するためのプロセス。
【化6】

[式中、W=−CH2−O−または−CH2−、T=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル、そしてu=1〜8である]
【請求項19】
成分AとBとを、(2:3)から(3:2)までのモル比で使用することを特徴とする、請求項15および18のいずれかに記載のプロセス。
【請求項20】
成分Aと(B+D)とを、(2:3)から(3:2)までのモル比で使用することを特徴とする、請求項15および18のいずれかに記載のプロセス。
【請求項21】
前記付加反応において、成分AおよびBの付加反応によって生成するOH基の5〜100%、好ましくは20〜100%、特に好ましくは40〜100%が反応されてウレタンが形成されるような量で、成分Cを使用することを特徴とする、請求項15〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記付加反応において、成分A、BおよびDの付加反応によって生成するOH基の5〜100%、好ましくは20〜100%、特に好ましくは40〜100%が反応されてウレタンが形成されるような量で、成分Cを使用することを特徴とする、請求項15〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
有機および/または無機顔料または充填剤のための湿潤および/または分散剤として、請求項1〜14のいずれか1項に記載の付加化合物の使用。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の付加化合物を用いてコーティングされた、粉状または繊維状の固形物。

【公表番号】特表2010−516879(P2010−516879A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547602(P2009−547602)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000765
【国際公開番号】WO2008/092687
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(598067245)ベーイプシロンカー ヘミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング (30)
【Fターム(参考)】