説明

イソチアナフテン構造含有高分子及びその製造方法、並びに電荷輸送材料及び有機電子デバイス

【課題】 イソチアナフテンを含有する高分子が、p型の有機半導体材料となり得る、新規な高分子及びその製造方法、また該高分子を有してなる電荷輸送材料、さらに該電荷輸送材料を用いた有機電子デバイスを提供すること。
【解決手段】 下記式で表わされる繰り返し単位を含有することを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソチアナフテン構造を含有する新規な高分子及びその製造方法に関し、更にはこの高分子を含有するp型半導体特性に優れた電荷輸送材料と、この電荷輸送材料を用いた有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、π電子共役系高分子は、各種機能を付与し得る新素材として注目を集めている。この新素材を具体的応用に結びつけるための大きな課題の一つとして、当該新素材を高導電性の金属状態にするためにはドーパントと呼ばれる不純物の注入が必要であり、したがって安定性に乏しいという点にあった。すなわち、ドーパントの存在無しに高導電性を有する「本質的な導電性高分子」の開発が強く期待されてきた。
【0003】
例えば、導電性高分子としてポリチオフェンが知られているが、そのバンドキャップは2.36〜2.54eVと大きく、半導体材料としてさらに高特性の材料が求められていた(非特許文献1)。
また、本質的な導電性高分子の開発を目指して分子設計された物質として、ポリイソチアナフテン(PITN)が知られている。ポリイソチアナフテンの特徴として、(1)π電子共役系の酸化ドーピングにより、深青色(中性状態)〜半透明(酸化状態)間の可逆的エレクトロクロミズムの発現をすること、(2)バンドギャップが低く(約1.0eV)半導体として適していることが挙げられ、物理、化学両面から実用化が望まれてきた(非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、イソチアナフテン(ITN,モノマー体)は非常に不安定であり、取り扱いが非常に困難である。また、その重合体であるポリイソチアナフテンについても、有機溶媒に不溶不融である。そのためポリイソチアナフテンの合成は、イソチアナフテンを不活性ガス雰囲気下で注意深く電解重合して行なわれてきており、工業化に課題を有していた。
【0005】
【非特許文献1】A. J. Heeger等, J. Chem. Phys., 1985, 82, 5717.
【非特許文献2】J.Phys.Chem. 2006,110,13305−13309
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明は、イソチアナフテンを含有する高分子が、p型の有機半導体材料となり得る、新規な高分子及びその製造方法を提供することを、その目的の一つとする。
また、本発明は、該高分子を有してなる電荷輸送材料を提供することを、その目的の一つとする。
更に、本発明は、該電荷輸送材料を用いた有機デバイスを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記の課題に対し、イソチアナフテンの1位及び3位に置換基を導入することで、イソチアナフテンの安定化が可能であることを見出した。具体的には、イソチアナフテンの1位及び3位にチエニル基を導入し、ヘテロサイクルを安定化させた1,3−ジチエニルイソチアナフテン(DITN)を合成した。
【化1】

【0008】
さらに各種構造解析や物性測定の検討のためには、ポリマーの溶解性を向上することが好ましい。溶解性が向上することで、溶媒下においても安定して重合反応が進行することができ、溶液の状態でポリマーを有機電子デバイスの材料等に用いることができる。
そのため、1,3−ジチエニルイソチアナフテンと、溶解性の高いユニットとの鈴木カップリングによる共重合を行うことで、目的とするポリマーを合成し、塗布成膜可能なπ共役高分子型有機半導体材料を得た。
【0009】
具体的には、モノマー体のイソチアナフテン自体の重合、若しくは芳香族ホウ素化合物との共重合を行うことによって、電子供与性に優れており、非常に安定したp型有機半導体材料が得られることを見いだした。更には、該有機半導体が電荷輸送材料等の用途に好適に利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含有することを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子に存する(請求項1)。
【化2】

【0011】
また、本発明の別の要旨は、上記のイソチアナフテン構造含有高分子を製造する方法であって、少なくとも下記式(2)で表わされる化合物を、ホウ素または金属錯体の存在下で重合させることを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子の製造方法に存する(請求項2)。
【化3】

(式(2)中、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表わす。)
【0012】
さらに、本発明の別の要旨は、下記式(3)に表わされる繰り返し単位を含有し、粉末X線法により測定される分子平面間の距離が、4Å以内であることを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子に存する(請求項3)。
【化4】

(式(3)中、Arは、それぞれ独立にπ共役構造を有する2価の有機基を示す。)
【0013】
また、本発明の別の要旨は、上記のイソチアナフテン構造含有高分子を含有することを特徴とする、電荷輸送材料に存する(請求項4)。
【0014】
また、本発明の別の要旨は、上記の電荷輸送材料を用いることを特徴とする、有機電子デバイスに存する(請求項5)。
【0015】
このとき、上記有機電子デバイスが、スイッチング素子であることが好ましい(請求項6)。
【0016】
また、上記有機電子デバイスが、光電変換素子であることが好ましい(請求項7)。
【0017】
また、上記有機電子デバイスが、太陽電池であることが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、バンドギャップが低く、p型半導体としての特性を示す。よって、電荷輸送材料等の用途に好適に利用できる。
また、本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の製造方法によれば、上述の本発明のイソチアナフテン構造含有高分子を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について実施の形態を挙げて詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々に変更して実施することができる。
【0020】
[I.イソチアナフテン構造含有高分子]
本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、下記式(1)で表わされる構造(イソチアナフテン含有構造)を繰り返し単位として含有することを特徴とする化合物(以下、適宜「本発明の高分子」という場合がある。)である。
【0021】
【化5】

【0022】
本発明の高分子は、式(1)の繰り返し単位を有するものであれば、他の制限はない。
例えば、一種類の式(1)の繰り返し単位を有してなる単独重合体であってもよく、二種類以上の式(1)の繰り返し単位を有してなる共重合体であってもよく、更には、一種類又は二種類以上の式(1)の繰り返し単位と、一種類又は二種類以上のその他の繰り返し単位とを有してなる共重合体であってもよい。
【0023】
本発明の高分子中における、式(1)の繰り返し単位の割合は特に制限されない。ただし、高分子に十分な電子供与性を付与し、p型半導体としての性質を発揮させる観点から、ある程度高い割合であることが好ましい。具体的には、高分子製造時の原料モノマー全体に対する、式(1)の繰り返し単位に対応するモノマーの重量比の値で、通常1重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下である。
【0024】
本発明の高分子が、式(1)の繰り返し単位以外に他の繰り返し単位を併有する場合、他の繰り返し単位の構造は特に制限されないが、中でも好ましい構造としては、下記式(2)で表わされるものが好ましい。
【0025】
【化6】

上記式(2)中、Arは、π共役構造を有する2価の有機基を表わす。ここで「π共役構造」とは、多重結合が単結合と交互に連なった構造を表わす。高分子中にこのようなπ共役構造を有する有機基が存在することによって、高分子のπ共役平面が広がり、イソチアナフテン骨格の電子供与性がより高くなり、p型半導体としての特性がより向上する。
【0026】
Arの具体例としては、以下の式(I)〜(XII)で表わされる構造が挙げられる。但し、これらはあくまでも例示であり、本発明の高分子に適用可能なArは以下の式(I)〜(XII)の構造に限定されるわけではない。
【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【0038】
【化18】

【0039】
上記式(I)〜(XII)において、各符号の定義はそれぞれ以下の通りである。
【0040】
4〜R70は、各々独立に、H、F、CH3−、CH3(CH2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CH3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)、CF3−、CF3(CF2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CF3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)、フェニル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、又はアルコキシ基を表わす。
【0041】
4〜A18、A20〜A30は、各々独立に、炭素原子又は窒素原子を表わす。窒素原子の場合は、これに結合するR4〜R15、R17〜R18、R20〜R21、R52、R53、R56、R57、及びR65〜R68は存在しないことになる。
【0042】
1〜Q6は、各々独立に、−CR7172−、−NR73−、−S−、−SiR7475−、又は−Se−を表わす(R71〜R75は、各々独立に、水素原子、炭素数1以上23以下の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、そのアルキル基が1又は2以上のフッ素原子で置換されたフッ素置換アルキル基、又は芳香環基を表わす。)。
【0043】
1は、窒素原子又は、
【化19】

を表わす。
【0044】
1は、0以上6以下の整数を表わす。n2は、0以上6以下の整数を表わす。n3及びn4は、各々独立に、1以上8以下の整数を表わす。n5及びn10は、各々独立に、1以上10以下の整数を表わす。n6〜n9及びn11〜n14は、各々独立に、0以上10以下の整数を表わす。
【0045】
その他、好ましいArとしては、チオフェン、チアゾール、ピロール等が挙げられる。なお、これらのArは例示であり、上記の例に限定されるものではない。
【0046】
本発明の高分子が式(1)の繰り返し単位に加えて、式(2)の繰り返し単位(−Ar−)を併有する場合、本発明の高分子中における式(2)の繰り返し単位の含有率は特に制限されない。式(1)の繰り返し単位以外が全て式(2)の繰り返し単位で占められていてもよく、更にその他の繰り返し単位が含有されていてもよい。また、高分子に含有される式(2)の繰り返し単位は、一種類のみでもよく、二種類以上でもよい。
【0047】
また、高分子中における式(1)及び式(2)の繰り返し単位の存在状態も特に制限されない。式(1)及び式(2)の繰り返し単位が交互に存在していても良く、式(1)及び式(2)の繰り返し単位がランダムに存在していても良く、式(1)の繰り返し単位と式(2)の繰り返し単位とが別個に集合してブロック状に存在していてもよい。
但し、本発明の高分子の少なくとも一部において、式(1)及び式(2)の繰り返し単位が交互に存在することが好ましく、具体的には、以下式(3)の繰り返し単位を含有することが好ましい。これは、イソチアナフテン骨格の持つ電子供与性と電子吸引性が分子間に働き、分子間がスタッキングを起こして配向しやすくなるという理由からである。
【0048】
【化20】

(式(3)中、Arは、それぞれ独立にπ共役構造を有する2価の有機基を示す。)
【0049】
(本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の平面性)
一般に、電荷輸送材料中のキャリアの高い移動度を有するためには、固体状態で隣り合う分子間が良好に重なりあう事が望ましい。これは、キャリア、すなわち電子あるいは正孔が分子間を伝達して行く際に、π電子軌道間の相互作用が重要であるためである。
そのためには、本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の平面性は、高いものが望ましい。平面性の尺度としては、分子平面からの各原子のずれを参考にすることができる。分子平面は、すべての原子の中心からの距離の2乗の和が最少になるような平面として定義できる。この平面からの各原子の中心までの距離が4Å以内であれば、高い平面性を有し、移動度が高くなる条件を満たす事ができる。
【0050】
本発明においては、繰り返し単位中のイソチアナフテン構造からπ共役構造を有する2価の有機基Arにおいて、平面性の高い構造であることが好ましい。特に、その分子構造の平面性は、分子平面から各原子の中心までの距離が通常4Å以内、好ましくは3.8Å以内、さらに好ましくは3.7Å以内に配置された分子構造が特に好ましい。
【0051】
平面性の判別法は、J.J.P.Stewartにより開発された半経験的分子軌道法MOPAC Parametric Method 3(MOPACPM3)で、繰り返し単位であるイソチアナフテン−Ar(「T−Ar」と表わす。)の両末端に水素原子を配した「H−T−Ar−H」なる化合物を想定し、その構造を最適化した場合に、算出された分子骨格において分子平面から各原子の中心までの距離によって判断できる。
【0052】
また、他の平面性の尺度としては、粉末X線法により分析した際の分子平面と隣接する分子平面との距離が通常4Å以内、好ましくは3.8Å以内、さらに好ましくは3.7Å以内であることも好ましい。
【0053】
(本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の分子構造の同定法)
本発明の高分子の構造は、核磁気共鳴(以下「NMR」と略す。)スペクトル、赤外(以下「IR」と略す。)スペクトル、元素分析法、質量分析法(以下「MS」と略す。)等の方法で分析し、同定することが可能である。
【0054】
具体例としては、本発明の高分子を含有する有機電子デバイス等から、洗浄等の方法によって本発明の高分子を分離し、更に、熱重量分析−質量分析(以下「TG−MS」と略す。)法で分解物の構造から式(1)のイソチアナフテン構造を同定する、元素分析法で元素の組成比を定量する、NMRスペクトル測定やIRスペクトル測定で結合状態を同定する等の手法によって、式(1)のイソチアナフテン構造を同定することが可能である。
具体例としては、Polymer Journal、Vol. 32、No. 11、2000年、p.991〜994に記載のポリ−ニトロピリジンでの測定と同様の方法で行なうことができる。
【0055】
(本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の分子量)
本発明の高分子の分子量としては、特に制限はなく、その用途に応じて適切な範囲となるように選択すればよい。
例えば、本発明の高分子を、後述する有機電子デバイス等の電荷輸送層として使用する場合には、通常はこれを成膜するために、高分子を溶媒に溶解して塗布する方法を行うが、その際に、高分子の分子量が高いほど、成膜後の膜強度や均一性に優れた膜を得ることができる。
その一方で、高分子の分子量が高過ぎると、溶媒に溶け難くなったりする可能性がある。従って、本発明の高分子の分子量は、その加工性、用途等によって最適値が異なり、それぞれに使い分けることが好ましい。一般的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」と略す。)による分子量測定で得られる重量平均分子量が、通常300以上、中でも1000以上であることが好ましい。上限は特に制限されないが、通常10万以下である。
【0056】
本発明の高分子の分子量の測定方法は、例えばGPC等の液体クロマトグラフィーにより行なうことができる。具体的には、例えば、Polymer Journal, Vol. 32, No. 11, p.991−994, 2000に記載のポリ−ニトロピリジンでの測定と同様に、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、トリフルオロ酢酸等の溶媒に溶解し、GPCにより測定することができる。
【0057】
(本発明のイソチアナフテン構造含有高分子の分子構造の特徴)
ポリチオフェンの構成単位としては、下記式の芳香族型(a)とキノイド型(b)という結合状態が異なる二つの化学構造が考えられる。両者のエネルギー状態は等しくなく、中性状態では(a)の構造が優先していると考えられている。
【化21】

【0058】
しかし、電子アクセプターによるドーピングによって酸化状態となった場合の平衡構造は、基底状態の構造と異なり、分子が酸化されるに要するエネルギーを小さくするようゆがむ。芳香環に比べて、キノイド型環状構造の方がイオン化ポテンシャルが低く、しかも電子親和力が大きいので、バンドギャップが小さくなる。酸化状態にあるポリチオフェンにおいて、分光学的に認められるバイポーラロン構造は、下記式に見られるように、このキノイド構造を規定したものである。
【化22】

【0059】
一方、低分子モデルの理論的、実験的なアプローチから、ポリイソチアナフテンの基底状態は芳香族型よりもキノイド型の構造が優先しているということが知られている(J. Gelan等, Macromolecules., 1995, 28, 4961.等参照。)。
【化23】

【0060】
このことから、ポリイソチアナフテンは低いバンドギャップを有する可能性があると考えられる。実際、ポリイソチアナフテンは不活性ガス雰囲気下で電解重合することによって合成でき、バンドギャップが約1.0eVという低い値を有することが知られている(A. J. Heeger等, J. Chem. Phys., 1985, 82, 5717.等参照。)。
【0061】
しかしながら、イソチアナフテン(モノマー体)が不安定なために、従来の技術では制御された重合を行えず、さらにポリイソチアナフテンは有機溶媒に不溶不融であるために加工性に乏しく、十分な電気的特性が得られていなかった。
【0062】
これらに対して、上記で説明した本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、イソチアナフテン構造をその主鎖に含むものであって、p型半導体としての性質を示す。本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、モノマー体の安定性を増すと同時に、制御された重合と溶解性を上げることに成功し、後述する製造方法により、効率的に製造することが可能である。この製造法により、電子供与性に優れ、p型有機半導体としての性質を示すことが可能となった。
【0063】
なお、本発明の高分子が半導体であることは、電気伝導度測定により確認することができる。具体的には、光学的又は電気化学的に還元された試料の導電性を測定することによって確認できる。また、その他にも、電界効果トランジスタの作動挙動を解析する、ホール効果を測定する、熱起電力を測定する、又は光導電性を測定する等の手法が挙げられる。
【0064】
[II.イソチアナフテン構造含有高分子の製造方法]
本発明のイソチアナフテン構造含有高分子を製造する方法は、特に制限されない。通常は、上記式(1)の繰り返し単位に対応する一種又は二種以上のモノマーを、必要に応じてその他の一種又は二種以上のモノマーとともに、金属錯体の存在下で重合又は共重合させる方法により、製造することができる。
以下、この製造方法(以下、「本発明の高分子の製造方法」という場合がある。)について説明する。
【0065】
<イソチアナフテン構造化合物の合成>
上述したように、イソチアナフテンは、反応性が高く不安定であり取り扱いが困難な化合物である。そこで、イソチアナフテンの1位及び3位に置換基を導入することでイソチアナフテンを安定化した、イソチアナフテン構造化合物を用いることが好ましい。該置換基としては、上述した分子の平面性の観点から、チオフェンである。
【0066】
以下、イソチアナフテンとチオフェンとを有してなる、イソチアナフテン構造化合物の一例として、1,3−ジチエニル−イソチアナフテンを合成する方法を説明する。1,3−ジチエニル−イソチアナフテンの製造法は特に制限されず、公知の各種の手法を任意に選択することができる。以下に、具体例として、ひとつの方法を説明する。
【0067】
(3−チエニルフタライドの合成)
まず、3−チエニルフタライドの合成を、以下の式に表わされる反応原理を用いて行なう。
【化24】

【0068】
上記の式は、金属−ハロゲン交換反応を示している。該交換反応は、炭素−炭素結合を形成するのに用いることができ、有機合成化学において有用な反応である。プロトン供与基(PDGs)を持つアリルハライド上での金属−ハロゲン交換反応は、分子内クエンチを防ぐ目的で通常低温(通常−78℃以下)で行われる。しかし、低温にもかかわらずこの反応はプロトン化された生成物を生じてしまうという課題を有していた。これに対して、プロトン供与基を持つアリルハライド上での金属−ハロゲン交換反応であっても、比較的高温(−20℃以下)で反応を行なう方法が開発されている。本発明では、この方法を用いて3−チエニルフタライド(3−thienylphthalide)の合成を行なうことができる。
【0069】
以下のスキームは、2−ブロモ安息香酸を出発物質として、3−チエニルフタライドを得るまでの反応機構の一部を示したものである。
【化25】

【0070】
上記の反応機構について詳説する。
まず初めに0.5当量のジアルキル金属(上記スキーム中、「R2M」と記す。)と2−ブロモ安息香酸(上記スキーム中、「a」と記す。)とを反応させるとbが得られる。次にbと、

とを反応さえることで、金属−ハロゲン交換反応が起こりcが得られる。−20℃以下の低温においては、cは安定なアート錯体を経由して、c、d、e、f、g間の様な平衡が存在していると推測される。
この反応においては、カルボニル基を酸性プロトンからアルキル金属によって保護することができると推測される。これにより、PDG基によるプロトン化を防ぎ、−20℃以下の比較的温和な条件下で、金属−ハロゲン交換反応を行うことができると考えられる。
【0071】
次に、上記反応で得られた生成物(上記スキーム中、「g」と記す。)と、2−カルボキシチオフェンとを反応させ、3−チエニルフタライドを得ることができる。
【0072】
これらの反応をまとめると、下記式で表わされる。
【化26】

【0073】
反応は−20℃以下の低温で進行し、3−チエニルフタライドを良好な収率で得ることができる。得られた化合物の同定は、1H−NMR、元素分析等によって適宜行なうことができる。
【0074】
(1,3−ジチエニルイソチアナフテンの合成)
以下のスキームは、3−チエニルフタライドを出発物質として、1,3−ジチエニルイソチアナフテンを得るまでの反応機構の一部を示したものである。
【化27】

【0075】
上記の反応機構について詳説する。
まず初めに、3−チエニルフタライドのカルボニル炭素を、求核試薬として働くグリニャール試薬で攻撃させて開環する。続く塩化アンモニウムによる処理により、プロトン化され、ケト−アルコール中間体(上記スキーム中では、「h」で表わす。)が生成する。これにローソン試薬を作用させ、1,3−ジチエニルイソチアナフテンを得ることができる。
【0076】
(1,3−ジチエニル−イソチアナフテンへのハロゲン基の導入)
1,3−ジチエニル−イソチアナフテンは、有機溶媒に不溶不融である。従って、各種構造解析や物性測定の検討のためには、有機溶媒への溶解性の向上が望まれる。斯かる方法としては、1,3−チエニル−イソチアナフテンの2つのチオフェンにハロゲンを導入し、以下式(2)で表わされる化合物にすることが好ましい。
【0077】
【化28】

(式(2)中、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表わす。)
【0078】
式(2)中、Xは、ハロゲン原子を表わす。中でも、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0079】
式(2)の化合物の製造法は特に制限されず、公知の各種の手法を任意に選択することができる。以下に、具体例として、ひとつの方法を説明する。
【0080】
(1,3−ビス(5−ブロモ−2−チエニル)イソチアナフテンの合成)
以下のスキームは、1,3−ジチエニルイソチアナフテンにハロゲン基の一つであるブロモ基を導入して、1,3−ビス(5−ブロモ−2−チエニル)イソチアナフテンを得るまでの反応機構の一部を示したものである。
【化29】

【0081】
上記の反応機構について詳説する。
遮光下、−20℃以下の低温で、1,3−ジチエニルイソチアナフテンのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(以下、「DMF溶液」と略す。)と、2当量のN−ブロモスクシンイミド(以下、「NBS」と略す。)とを混合することで、1,3−ビス(5−ブロモ−2−チエニル)イソチアナフテンを合成することができる。
【0082】
生成物は、任意の方法で精製することができる。その一例としては、クロロホルム:n−ヘキサン=1:6の混合溶媒で再結晶する方法が挙げられる。上記の反応で得られる1,3−ビス(5−ブロモ−2−チエニル)イソチアナフテンは、例えば橙色の粉末が得られる場合があるが、これを精製することで、緑色の金属光沢を持つ針状結晶が得られる場合がある。
【0083】
<イソチアナフテン構造含有高分子の製造>
イソチアナフテン構造含有高分子の製造方法は、公知の何れの方法を用いることができる。
通常は、反応容器中において、イソチアナフテン構造含有化合物(モノマー体)を溶媒に溶解又は分散させ、さらに触媒を混合して重合反応を開始する。
以下、これらの方法について、さらに詳述する。
【0084】
(イソチアナフテン構造含有高分子の材料)
イソチアナフテン構造含有高分子の原料(モノマー体)としては、上記式(2)の化合物のうち一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いる。二種以上を併用する場合、その比率は特に制限されず、目的とする高分子の構造に応じて適宜調整すればよい。
【0085】
また、上記式(1)以外の繰り返し単位を含む高分子を製造する場合は、上記式(2)の化合物に加え、上記式(1)以外の繰り返し単位に対応したモノマーを用いる。これら、その他のモノマーとしては、例えば、2つ以上のハロゲン原子を有する芳香族系化合物を用いる。
ここでいう「2つ以上のハロゲン原子を有する芳香族系化合物」とは、芳香環における任意の位置の2つ以上の水素がハロゲン原子に置換されたものであれば、その種類に特に制限はなく、目的とする繰り返し単位の構造に応じて適切なものを選択すればよい。
具体例としては、p−ジブロモベンゼン、2,5−ジブロモチオフェン、2,5−ジブロモピリジン、2,6−ジブロモピリジン等が挙げられる。
【0086】
その他のモノマーについても、一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。また、その使用比率も特に制限されず、目的とする高分子の構造に応じて、適宜調整すればよい。
【0087】
(触媒)
触媒としては、本発明のイソチアナフテン構造含有高分子が製造できれば特に制限はないが、通常、金属錯体が用いられる。
【0088】
金属錯体の種類も特に制限されず、公知の各種の重合用金属錯体の中から、任意に選択して使用することができる。例としては、銅錯体、ニッケル錯体、パラジウム錯体等の還元触媒が挙げられる。中でも、ニッケル錯体、パラジウム錯体が好ましい。
【0089】
ニッケル錯体の具体例としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ジクロロ(2,2’−ビピリジン)ニッケル等が挙げられる。中でも、上記式(3)の繰り返し単位を含有するイソチアナフテン構造含有高分子を製造するにあたり、重合能力が高いという点で、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル等のニッケル(0価)錯体が好ましい。なお、ニッケル錯体は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組成及び組み合わせで用いてもよい。また、ジクロロ(2,2’−ビピリジン)ニッケル(2価)と脱ハロゲン化剤としてマグネシウムや亜鉛を併用することもできる。
【0090】
パラジウム錯体の具体例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ{1,3−ビス(ジフェニルホスフィン)プロパン}パラジウム等が挙げられる。中でも、上記式(3)の繰り返し単位を含有するイソチアナフテン構造含有高分子を製造するにあたり、重合能力が高いという点で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが好ましい。なお、これらのパラジウム錯体は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組成及び組み合わせで用いてもよい。また、一種又は二種以上のパラジウム錯体を、一種又は二種以上のニッケル錯体と任意の組み合わせで併用してもよい。
【0091】
金属錯体の使用量は、触媒として用いる場合には、原料となる全モノマーに対するモル比の値で、通常5×10-3倍以上、5×10-2倍以下の範囲である。また、0価ニッケル錯体のようにそれ自身が反応剤として作用する場合には、原料となる全モノマーに対するモル比で通常1倍以上、2倍以下の範囲である。
【0092】
また、ホウ素化合物との共重合も行うことができ、鈴木カップリングで共重合体を得ることは容易な手段の一つである。
【0093】
(溶媒)
溶媒としては、イソチアナフテン構造含有化合物(モノマー体)を好適に溶解又は分散させることができ、且つ、モノマー体や高分子との間に重合反応を阻害するような副反応を生じないものであれば、その種類は特に制限されない。
具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエンなどが挙げられる。なお、溶媒は一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
【0094】
(重合方法)
重合の方法は特に制限されないが、通常は、反応容器中において、イソチアナフテン構造含有化合物(モノマー体)を溶媒に溶解又は分散させ、さらに触媒を混合して反応を開始する。
【0095】
重合反応時の雰囲気は特に限定されないが、通常は空気中又は不活性雰囲気下、好ましくは不活性雰囲気下で行なう。不活性雰囲気の例としてはアルゴンガス又は窒素ガス雰囲気が挙げられる。
【0096】
重合反応時の温度に特に制限はないが、通常20℃以上、好ましくは40℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下の範囲である。重合反応時の圧力にも特に制限はないが、通常は常圧で行なう。
【0097】
重合反応の時間は、使用するモノマー体や触媒の種類、重合時の温度や圧力等によっても異なるが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、また、通常20時間以下、好ましくは10時間以下の範囲である。
【0098】
重合反応の終了後、得られた高分子を任意の方法で回収し、必要に応じて後処理を行なう。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。また、後処理としては、キレート化剤等を用いた洗浄による金属錯体の除去等が挙げられる。
【0099】
[III.電荷輸送材料]
本発明の電荷輸送材料は、上に説明した本発明の高分子を少なくとも含有することを特徴とする。本発明の高分子のうち、何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせで含有していてもよい。また、本発明の高分子のみからなるものであってもよいが、その他の成分(例えば、その他の高分子やモノマー体、各種の添加剤等)を含有していてもよい。
【0100】
本発明の電荷輸送材料は、その用途の一つとして、後述する有機電子デバイスの電荷輸送層に好適である。その場合、当該電荷輸送材料を成膜して用いることが好ましく、前述した有機溶剤への可溶性、及びその加工性に優れていることが好ましい。有機電子デバイスの電荷輸送層として用いる場合についての詳細は、有機電子デバイスの項にて説明する。
【0101】
本発明の電荷輸送材料は、単独でも有機電子デバイスの電荷輸送層の材料として用いることができるが、他の電荷輸送材料と混合及び/又は積層して使用してもよい。
本発明の電荷輸送材料と併用可能な他の電荷輸送材料としては、トリスアルミニウムキノリノール(以下、「Alq3」と略す。)等のキノリノール誘導体金属錯体;オキサジアジン誘導体、トリアジン誘導体等の既知の電荷輸送材料;等が挙げられるが、これらに限定されることはなく、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の電荷輸送材料を併用することができる。
【0102】
[IV.有機電子デバイス]
本発明の有機電子デバイスは、上述した本発明の電荷輸送材料を含有することを特徴とする。本発明の電荷輸送材料を適用可能なものであれば、有機電子デバイスの種類に特に制限はない。具体例としては、発光素子、スイッチング素子、光電変換素子、光電導性を利用した光センサー、太陽電池等が挙げられる。
【0103】
発光素子としては、表示デバイスに用いられる各種の発光素子が挙げられる。具体例としては、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセント素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。
【0104】
スイッチング素子の具体例としては、ダイオード(pn接合ダイオード、ショットキー・ダイオード、MOSダイオード等)、トランジスタ(バイポーラートランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)等)、サイリスタ、更にはそれらの複合素子(例えばTTL等)等が挙げられる。
【0105】
光電変換素子の具体例としては、電荷結合素子(CCD)、光電子増倍管、フォトカプラ等が挙げられる。また、光電導性を利用した光センサーとしては、これらの光電変換素子を利用したものが挙げられる。
【0106】
本発明の電荷輸送材料を有機電子デバイスのどの部位に用いるかは特に制限されず、バイポーラ型半導体としての特性を生かすことができる部位であれば、任意の部位に用いることが可能である。通常は、有機電子デバイスの電荷輸送層に使用される。
【0107】
<電界効果トランジスタ>
本発明の有機電子デバイスの例として、スイッチング素子の一種である電界効果トランジスタ(FET)を挙げて説明する。
【0108】
(構成)
図1〜3はそれぞれ、本発明の有機電子デバイスの一種である電界効果トランジスタ(以下「本発明の電界効果トランジスタ」あるいは「本発明のFET」と略する場合がある。)の構成例を模式的に示す断面図である。
本発明の電界効果トランジスタの基本的な構造は、図1〜3に示すように、支持基板1上に、絶縁体層3と、この絶縁体層3により隔離されたゲート電極2及び電荷輸送性層4と、この電荷輸送性層4に接するように設けられたソース電極5及びドレイン電極6とを有するものである(各図で同じ部品には同じ符号を付してある。)。各層が積層される順番は特に制限されず、図1〜3の何れの順序で積層されていてもよい。更には、本発明の電界効果トランジスタは何ら図1〜3に示す構造の電界効果トランジスタに限定されず、図1〜3に示される層以外の層が形成されていてもよい。
【0109】
本発明の電荷輸送材料を有機電子デバイスに用いる場合には、基板等の上に成膜して電荷輸送膜として用いることが好ましい。
【0110】
(基板)
成膜対象となる基板の材料は、電界効果トランジスタ及びその上に作製される表示素子、表示パネル等を支持できるものであれば、その種類は特に制限されない。
具体例としては、ガラス等の無機基板やポリマーからなるプラスチック基板が挙げられる。中でも好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、アモルファスポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ビニル系ポリマー、ポリパラバン酸、ポリシルセスキオキサン、及びシロキサンよりなる群から選択されるプラスチック基板が好適である。
更に、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル類やポリカーボネート等の汎用樹脂が強度やコストの点から好ましく、また、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリパラバン酸等の縮合系高分子や、熱処理などにより不溶化が行なえるポリビニルフェノール等の架橋体が耐熱性や耐溶剤性の点から好ましい。
【0111】
基板の構成材料としては、特に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールが好ましく、特に好ましいのはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル及びポリイミドである。
【0112】
基板は、上記の材料のうち1種を単独で用いた部材を用いてもよく、2種以上の材料を任意の割合及び比率で混合して用いた部材を用いてもよい。また、2種類以上の部材を合板にして用いてもよい。
【0113】
(成膜方法)
電荷輸送材料を成膜する方法に制限はなく、公知の方法を用いて成膜することができる。例えば、電荷輸送材料を有機溶媒に溶解させた溶液を用いた塗布プロセスは、簡便に多層構造素子を作製する場合に好適である。
【0114】
塗布の方法としては、溶液をたらして乾燥するだけのキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、更にはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。更に、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入したりする方法等も挙げられる。
塗布の方法は、上記の方法のうち1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0115】
塗布に用いる溶液における、本発明の高分子の含有割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。この範囲を下回ると、成膜が不能になる可能性がある。また、この範囲を上回ると、π−πスタックの構造形成がおこりにくい可能性がある。
【0116】
また、塗布に用いる溶液の粘度は、通常0.5cPs以上、好ましくは0.8cPs以上、さらに好ましくは1cPs以上、また、通常20cPs以下、好ましくは15cPs以下、さらに好ましくは10cP以下である。この範囲を外れると、成膜が不能になる可能性がある。
【0117】
上記の方法で塗布をした後は、乾燥を行なう。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥等が挙げられるが、良好な膜質を得る観点からは、加熱乾燥法が好ましい。これらの乾燥は、これらは1種類を単独で行なってよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、順序、及び比率で行なってもよく、2種類以上の乾燥方法を同時に行なってもよい。
【0118】
乾燥の温度条件は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。この範囲を下回ると、乾燥しない可能性がある。また、この範囲を上回ると、ポリマーが分解する可能性がある。
【0119】
乾燥の気圧条件は、常圧環境下でもよく、減圧環境下でもよい。通常1気圧以下、好ましくは0.8気圧以下、さらに好ましくは0.5気圧以下である。この範囲を下回ると、気泡などが発生し、膜質が低下する可能性がある。なお、乾燥の雰囲気は本発明の高分子と反応しなければ制限はなく、真空下でもよいし、大気雰囲気下でもよいし、窒素や希ガス類等の不活性ガス下でもよい。
【0120】
(膜厚)
電荷輸送膜の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。
先に例示した電界効果トランジスタの場合、素子の特性は必要な膜厚以上であれば膜厚には依存しない。膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多い。従って、好ましい膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上である。また、通常10μm以下、好ましくは500nm以下である。また、本発明の電荷輸送材料は単独で用いてもよいし、他の材料との混合で用いてもよいし、更には他の層との積層構造で用いることもできる。
【0121】
(後処理)
作製された電荷輸送膜は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。更に、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体に曝すことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これにより、例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少を行なうことができる。
【0122】
(配線)
有機電子デバイスを作製する際の電極や配線には、例えば、金、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属;InO2、SnO2、ITO等の導電性の酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、等の導電性高分子;上記の材料に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムカリウム等の金属原子等がドーピングされた材料;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、等の半導体、及びそれらがドーピングされた材料;フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、及び金属粒子を分散した導電性の複合材料;等の、導電性を有する材料が用いられる。
【0123】
配線を形成する方法も、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いることができる。また、そのパターニング方法も、フォトレジストのパターニングとエッチング液や反応性のプラズマでのエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法及びこれらの手法を複数組み合わせた手法を利用することができる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり材料の導電性を変化させたりすることにより、直接パターンを作製することも利用できる。
【0124】
(保護層)
形成した電荷輸送膜や電極、配線等の表面には、外気の影響を最小限にするために、保護膜を形成することができる。これには、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜等が挙げられる。
ポリマー膜の形成方法としては、ポリマー溶液を塗布、乾燥する方法や、モノマー体を塗布あるいは蒸着して重合する方法等が挙げられる。更には、架橋処理を施したり、多層膜を形成したりすることも可能である。無機物の膜の形成には、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
【0125】
(用途)
本発明の有機電子デバイスは、その種類に応じて任意の用途に用いることができる。例えば、本発明の電荷輸送材料を用いた電界効果トランジスタは、ディスプレーのアクティブマトリクスのスイッチング素子として利用することができる。
これは、ゲートに印加される電圧で、ソースとドレインとの間の電流をスイッチング出来ることを利用するものである。これにより、ある表示素子に電圧を印加あるいは電流を供給する時のみスイッチを入れ、その他の時間は回路を切断する事により、高速、高コントラストな表示を行なうことができる。また、従来のアクティブマトリクスの代替としても、省エネルギープロセス、低コストプロセスの可能な素子として有利である。
【実施例】
【0126】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、本明細書において、「部」とは、特に断り書きの無い場合「重量部」を表わし、「wt%」とは、「重量%」を表わすものとする。
【0127】
[製造例]
<3−thienylphthalideの合成>
以下の手順に従って、下記式に表わされる、3−thienylphthalideを合成した。
【化30】

【0128】
窒素置換した200mlのシュレンク管に、

を入れ、40mlの脱水テトラヒドロフラン(以下、「脱水THF」と略す。)に溶解させた。溶液を−20℃まで冷却した後、

を1時間かけて滴下し、その温度で1時間攪拌した。反応溶液を−20℃に保ったまま、脱水THF10mlに溶解させた2−Thiophenecarboxyaldehyde(5.5ml, 58.8mmol)を30分かけて滴下し、その温度を保ちながら1時間攪拌した。反応終了後、この反応溶液に塩酸50ml(4M)をゆっくり加え、室温で一晩攪拌した。その後、酢酸エチル40mlを加え、数分攪拌した。反応溶液をエーテルにより抽出し、得られた有機相を水、5%炭酸水素ナトリウム、水、飽和食塩水の順番で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、酢酸エチル:n−ヘキサン=1:3を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離し、3−thienylphthalide(9.36g, 43.3mmol;収率82%)を得た。
【0129】
得られた3−thienylphthalideの1H NMR(300MHz,CDCl3)の結果は以下の通りである。

【0130】
<1,3−dithienylisothianapheteneの合成>
以下の手順に従って、下記式に表わされる、1,3−dithienylisothianapheteneを合成した。
【化31】

【0131】
窒素置換した25mlのシュレンク管に、Mg(0.52g, 21.4mmol)を入れ、15mlの脱水THFを加えた。溶液を0℃まで冷却した後、2−Bromothiophene(1.7ml, 17.7mmol)をゆっくり滴下し、室温で1時間攪拌してグリニャール試薬を発生させた。次に、窒素置換した100mlのシュレンク管に3−thienylphthalide(3.2g, 14.8mmol)を入れ、脱水THF30mlに溶解させた。溶液を0℃まで冷却した後、先に合成したグリニャール試薬を30分かけて滴下し、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を氷冷した塩化アンモニウム溶液に注ぎ込み、塩化メチレン100mlで抽出、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、反応溶液にローソン試薬(3.4g, 8.4mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。得られた反応混合物はヘキサンを展開溶媒に用いた中性アルミナカラムクロマトグラフィーにより分離精製し、1,3−dithienylisothianaphetene(1.76g, 5.9mmol;収率40%)を得た。
【0132】
得られた3−dithienylisothianapheteneの1H NMR(300MHz,CDCl3)及び高速原子衝撃質量分析法(FAB−MS)の結果は以下の通りである。
【0133】
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ 7.11−7.15(m,4H), 7.34(d,2H), 7.36(d,2H), 7.94(dd,2H)
FAB−MS:Calcd for C16103 298.45, Found 298.
【0134】
<1,3−Bis(5−bromo−2−thienyl)isothianaphteneの合成>
以下の手順に従って、下記式に表わされる、1,3−Bis(5−bromo−2−thienyl)isothianaphteneを合成した。
【化32】

【0135】
反応容器をアルミ箔で覆い遮光した。窒素置換した200mlのシュレンク管に、1,3−dithienylisothianaphetene(1.69g, 5.7mmol)を入れ、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「脱水DMF」と略す。)50mlに溶解させた。溶液を−20℃まで冷却した後、脱水DMF25mlに溶解させたN−ブロモスクシンイミド(以下、「NBS」と略す。)(2.05g, 11.5mmol)を1時間かけて滴下し、−20℃を保ちながら1時間30分攪拌した。その後、室温で一晩攪拌する。反応終了後、反応溶液を水に注ぎ込み、生じた沈殿をろ過、その後クロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後、クロロホルム:n−ヘキサン=1:6で再結晶し、60℃で減圧乾燥させ、1,3−Bis(5−bromo−2−thienyl)isothianaphtene(2.24g, 4.9mmol;収率87%)を光沢のある緑色の針状結晶として得た。
【0136】
得られた3−dithienylisothianapheteneの1H NMR(300MHz,CDCl3)、FAB−MS、及び元素分析(Anal.)の結果は以下の通りである。
【0137】

FAB−MS: Calcd for C168Br23 456.24, Found: 456.
【0138】
Anal.: Calcd for C168Br23:C,42.12;H,1.77;S,21.08;Br,35.03. Found:C,41.83;H,2.03;S,21.09;Br,34.90.
【0139】
[実施例1]

以下の手順に従って、下記式に表わされる、

を合成した。
【化33】

【0140】
窒素置換した25mlシュレンク管に、1,3−Bis(5−bromo−2−thienyl)isothianaphtene(569mg, 1.25mmol)と9,9−Dioctylfluorene−2,7−bis(trimethyleneborate)(698mg, 1.25mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0価(以下、「Pd(PPh34」と略す。)(97mg, 0.09mmol)とAliquat 336(3滴)を入れ、脱水トルエン15mlに溶解させた。そこへ、2Mの炭酸ナトリウム3.6mlをゆっくり加え、反応溶液を100℃で5日間攪拌した。反応終了後、室温まで冷やし、多量のメタノールに注ぎ込んだ。30分攪拌した後、ろ過し、水(100ml)、メタノール(100ml)、アセトン(100ml)の順で洗浄した。得られた物を60℃で減圧乾燥することにより、

を得た。
【0141】
得られた

のIR(KBr)、及びAnal.の結果は以下の通りである。
【0142】
IR (KBr): 3061, 2922, 2851, 1637, 1458, 1420, 1375, 1212, 1153, 1056 cm-1
【0143】
Anal.: Calcd for C45483:C,78.90;H,7.06;S,14.04;Br,0;Cl,0. Found:C,75.02;H,6.63;S,11.96;Br,1.26;Cl,2.53.
【0144】
[実施例2]

以下の手順に従って、下記式に表わされる、

を合成した。
【化34】

【0145】
窒素置換した100mlシュレンク管に、1,3−Bis(5−bromo−2−thienyl)isothianaphtene(410mg, 0.90mmol)、1,4−bis(4,4,5,5−tetramethyl−1,3,2−dioxaborolan−2−yl)−2,5−bis−dodecyloxybenzene(626mg, 0.90mmol)、Pd(Ph34(190mg, 0.18mmol)、Aliquat 336(3滴)を入れ、脱水トルエン40mlに溶解させた。そこへ、2Mの炭酸ナトリウム5.0mlをゆっくり加え、反応溶液を80℃で2日間攪拌した。反応終了後、メタノール300mlに反応溶液を注ぎ込み、1時間攪拌した。得られたポリマーをろ過し、水(200ml×2)、メタノール(200ml×2)、アセトン(200ml×2)で洗浄し、60℃で減圧乾燥した。

を得た。
【0146】
得られた

1H NMR (400 MHz, C64Cl2)、IR(KBr)、及びAnal.の結果は以下の通りである。
【0147】
1H NMR(400MHz,C64Cl2): δ 1.07(m,6H,−CH3), 1.45−2.25(m,40H,−CH2−), 4.43(br,4H,−OCH2−), 7.63−7.65(m,6H,Ar−H,Th−H), 7.93(s,2H,BTh−H), 8.33(s,2H,BTh−H)
【0148】
IR(KBr):3060, 2920, 2850, 1601, 1535, 1465, 1405, 1385, 1325, 1261, 1210, 1025, 780, 732 cm-1
【0149】
Anal.: Calcd for C466023:C,74.54;H,8.16;O,4.32;S,12.98;Br,0. Found:C,71.07;H,7.70;O,4.99;S,12.44;Br,0.24.
【0150】
[評価法]
<酸化還元電位測定>
実施例2の高分子のフィルム状態での酸化還元電位は、サイクリックボルタモンメトリー測定(以下、「CV測定」ということがある。)によって測定した。結果を図4に示す。該測定には、北斗電工製HSV−100を使用した。
【0151】
実施例2のポリマーのCV測定より、p−doping、n−dopingプロセスが観測された。図4を参照すると、還元側のみを走査した場合は−0.87V(vs Ag+/Ag)のピークは現れなかった。このことは−0.87Vのピークが出現するにはp−dopingプロセスが必要であることを示している。つまり、0.24Vのp−dopingに対応するdedopingのピークは−0.04Vと−0.87Vであると考えられる。
また、公知のポリイソチアナフテンやポリジチエニルイソチアナフテンと比較して、実施例2のポリマーは酸化電位がかなり低くなっていることがわかった(A. J. Heeger, J. Chem. Phys. 1985, 82, 5717.を参照。)。これはポリマー中の電子供与性のアルコキシベンゼンユニットが寄与しているものと推測される。低い酸化電位を有することからp型半導体として機能するものと思量される。
【0152】
<分子量測定>
実施例2の高分子のMALDI−TOF−MS法による分子量の測定を行なった。マトリックスにDithranolを用いて、1mlの1,2−ジクロロベンゼンに10mgのDithranolを溶かし、これをマトリックス溶液とした。次に1mlの1,2−ジクロロベンゼンに1mgのPDITN−Pを溶かしこれをポリマー溶液とした。ポリマー溶液:マトリックス溶液=1μl:4μlの比率で混ぜ、MALDIを測定した。測定には、島津製作所製Shimadzu/Kratos:AXIMA−CFR−plusを使用した。
【0153】
下記式は、カップリングによって生成する可能性のあるポリマーを3種類である。末端基が臭素とボロン酸エステルのポリマーAnを基準にすると、アルコキシベンゼンとのカップリングによりポリマーBnが生成し、イソチアナフテンとのカップリングではポリマーCnが生じる。それぞれのポリマーの分子量は次式で一般化できる。
An = (740×n) + end groups (80 + 127), n = 1,2,3…
Bn = (740×n) + end groups (524 + 127), n = 1,2,3…
Cn = (740×n) + end groups (80 + 376), n = 1,2,3
【0154】
【化35】

【0155】
MALDI−TOF−MSの結果を図5に示す。MALDI−TOF−MSのピークに対応するポリマーの構造式を図中に示す。末端基がそれぞれ異なるポリマーAn、Bn、Dnに対応するピークがモノマー1ユニット分に相当する分子量740の間隔で出現していることが観測された。
【0156】
<XRD測定>
実施例2の固体状態での秩序構造を調べるため、粉末X線回折とフィルムのX線回折を測定(以下、「XRD測定」という場合がある。)した。測定には、理学電機製RINT2100を使用した。
【0157】
図6(a)に実施例2の高分子の粉末X線回折パターンを、図6(b)に実施例2の高分子のキャストフィルムのX線回折パターンをそれぞれ示した。キャストフィルムは白金基板上に熱1,2−ジクロロベンゼン・ポリマー溶液をキャストして作製した。粉末で測定した場合、

に長鎖ドデシロキシ基によって隔てられたポリマー主鎖間の鎖間距離に相当するピークが観測され、

にはポリマー同士のπ−πスタックに由来するものと考えられるピークが確認された(図6(a)参照)。
一方フィルムでは、粉末XRDの時と同様に

にポリマー主鎖間の鎖間距離に相当するピークが観測されたが、粉末の時よりも

が長く、またピークは非常にシャープであり、強度にも大きな違いが見られた。しかし、粉末XRDでみられた様な広角側のπ−πスタックに由来するピークはほとんど観測されなかった(図6(b)参照)。
このことから、白金基板上のキャスト膜が高い秩序構造をもって配向していると思量される。
【0158】
固体状態におけるパッキングについて考察するために、図7に実施例2の高分子の簡単な構造式を示した。ドデシロキシ基の長さは約17.5Åであり、もし固体状態でEnd−to−end型の構造を取るとしたら、アルコキシ基により隔てられたポリマー主鎖間の距離は概算二倍である35Å程度になる。しかし粉末、キャストフィルムのXRD測定の結果からは、係る値にならなかった。
またアルコキシベンゼン間の距離は約15.7Åであり、炭素鎖のヴァンデルワールス半径を考慮してもその距離は15.7−(1.7×2)=12.3Åであり、もう一方のポリマー主鎖のアルコキシ鎖(1.7×2 = 3.4 Å)が入り込むには十分な距離であると思量される。
【0159】
<半導体特性評価>
厚さ300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)500μmのギャップを有する金電極(ソース、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンムニウム液でエッチングし、むき出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
【0160】
実施例2で得られた高分子10mgを1,2−ジクロロベンゼン1gに溶解した。以下の製膜及び電機特性の評価は、酸素や湿度の影響を避けるために、すべて窒素雰囲気下で行った。先に用意した溶液を上記電極を形成した基板上に1000rpmでスピンコートして良好な膜を得た。この基板を、120℃に加熱したホットプレートの上に置き、その後15分ごとに10℃ずつステップ状に180℃まで昇温し加熱した。
【0161】
こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。ソースとドレイン間に印加された電圧Vdに対して流れる電流をId、ソースとゲートに印加される電圧をVg、閾値電圧をVt、絶縁膜の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体層の移動度をμとすると、その動作は、次のように表すことができる。
【0162】
【数1】

【0163】
μは素子の電流電圧特性から求めることができる。μを求めるには式(1)或いは(2)を用いるが、(2)式の飽和電流部分のId1/2−Vgの傾きから求める方法を採用した。このプロットのId=0との切片からスレシホールド電圧Vt、Vd=−30V印加時のVg=30Vと−50VのIdの比をオンオフ比とした。
このようにして得られた移動度は、1.8×10-3cm2/V・s、Vtは10V、オンオフ比は3.3×104であった。
【0164】
[考察]
本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、電子吸引性に優れており、p型有機半導体としての性質を有する。従って、本発明のイソチアナフテン構造含有高分子は、電荷輸送材料として、有機電子デバイスなど各種の用途に好適に用いることができ、極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明は、産業上の任意の分野において使用可能であるが、特に、有機EL素子、有機光導電体電極、有機トランジスタ等の電子輸送層;抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー、太陽電池、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等、及びその他広範な用途として、有機半導体を適用しうる素子に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の有機電子デバイスの一種である電界効果トランジスタの構造例を示す断面図である。
【図2】本発明の有機電子デバイスの一種である電界効果トランジスタの別の構造例を示す断面図である。
【図3】本発明の有機電子デバイスの一種である電界効果トランジスタの更に別の構造例を示す断面図である。
【図4】(a)は、実施例2の高分子のフィルム状態での酸化還元電位測定としての、サイクリックボルタモンメトリー測定の結果を示すグラフである。(b)は、実施例2の高分子のフィルム状態での酸化還元電位測定としての、還元側のみのサイクリックボルタモンメトリー測定の結果を示すグラフである。
【図5】実施例2の高分子のMALDI−TOF−MS法による分子量の測定の結果を示すグラフである。
【図6】(a)は、実施例2の高分子の粉末X線回折パターンを示した図である。(b)は、実施例2の高分子のキャストフィルムのX線回折パターンを示した図である。
【図7】実施例2の高分子の簡単な構造式を示す図である。
【符号の説明】
【0167】
1 支持基板
2 ゲート電極
3 絶縁体層
4 電荷輸送性層
5 ソース電極
6 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる繰り返し単位を含有する
ことを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のイソチアナフテン構造含有高分子を製造する方法であって、
少なくとも下記式(2)で表わされる化合物を、ホウ素または金属錯体の存在下で重合させる
ことを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子の製造方法。
【化2】

(式(2)中、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表わす。)
【請求項3】
下記式(3)に表わされる繰り返し単位を含有し、
粉末X線法により測定される分子平面間の距離が、4Å以内である
ことを特徴とする、イソチアナフテン構造含有高分子。
【化3】

(式(3)中、Arは、それぞれ独立にπ共役構造を有する2価の有機基を示す。)
【請求項4】
請求項1又は請求項3に記載のイソチアナフテン構造含有高分子を含有する
ことを特徴とする、電荷輸送材料。
【請求項5】
請求項4記載の電荷輸送材料を含有する
ことを特徴とする、有機電子デバイス。
【請求項6】
スイッチング素子である
ことを特徴とする、請求項5記載の有機電子デバイス。
【請求項7】
光電変換素子である
ことを特徴とする、請求項5記載の有機電子デバイス。
【請求項8】
太陽電池である
ことを特徴とする、請求項5記載の有機電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40903(P2009−40903A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207878(P2007−207878)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月15日〜17日 国立大学法人 東京工業大学主催の「大学院総合理工学研究科物質電子化学専攻 平成18年度修士論文発表会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月3日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com/cgi−bin/jissue/112770810」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】