説明

イソチオシアネート含量の測定方法

【課題】アブラナ科植物に含まれている複数のイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)由来のイソチオシアネート総和量を迅速かつ簡便に測定する方法を提供すること。
【解決手段】イソチオシアネート総和量既知のアブラナ科植物に1000〜2500nmの波長の近赤外線を照射して得られる近赤外スペクトルデータと前記アブラナ科に含まれるイソチオシアネート総和量との相関に基づき、イソチオシアネート総和量未知のアブラナ科植物の近赤外スペクトルデータからイソチオシアネート総和量を迅速かつ簡便に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外分光分析法によるアブラナ科植物に含まれる種々のイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)由来のイソチオシアネート総和量を迅速かつ簡便に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大和マナ、コマツナ、野沢菜などのアブラナ科アブラナ属(Brassica rapa)植物には、アリールアルキルイソチオシアネート、アルケニルアルキルイソチオシアネート、メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートなど、種々のイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)が含まれており、これらは、ミロシナーゼの作用により、各々イソチオシアネートに変換され、抗菌作用、ガン予防効果、抗炎症作用等様々な生理活性作用を示すことで注目を集めている(非特許文献1)。アブラナ科植物由来の種々のグルコシノレートを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析する方法が報告されているが(非特許文献2)、多種のグルコシノレートが含まれているために、定量には時間と手間がかかる。
【0003】
そのため、ワサビ根茎のシニグリン(アリルグルコシノレート)含量を、近赤外分光光度計を用いて測定する方法が報告されているが、シニグリン単一成分のみの定量方法に関するものである(特許文献1)。しかし、大和マナや小松菜などのアブラナ科アブラナ属植物には、多種のグルコシノレートが含まれており、これらの野菜自体の機能性を考慮する場合、薬効成分である種々のグルコシノレート類由来のイソチオシアネート総和量として測定する必要がある。これらグルコシノレート類は、全てがイソチオシアネート類に変換されるわけでなく、インドールグルコシノレート類のように対応するイソチオシアネートが不安定なため、直ちに別な化合物に変換されるものもある(非特許文献3)。そのためグルコシノレート類から変換されて生成するイソチオシアネート類量を測定するため、生成したイソチオシアネート類を1,3-ベンゾジチオール−2−チオンに導いて測定する方法が採用されている(非特許文献4)。しかし、この方法は、生成する種々のイソチオシアネートの総和量として定量するには良い方法であるが、測定に手間と時間がかかる。特にイソチオシアネート類の総和量を基準として、栽培品種選択に用いる場合、多量の試料を迅速に測定する必要があり、アブラナ科植物に含まれる種々のグルコシノレート由来のイソチオシアネート総和量を、迅速に且つ簡便に測定する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−23890号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y.Zhangら、プロシーディングス・オブ・ザ・ニュートリ ション・ソサイアティ(Proc Nutr Soc.)、第65巻、68−75頁、2006年
【非特許文献2】Q.Tianら、アナリティカル バイオケミストリー(Anal.Biochem.)、343巻、93−99頁、2005年
【非特許文献3】Martin de Vosら、プラント フィジオロジー(Plant Physiol.)、146巻、916−926頁、2008年
【非特許文献4】Y.Zhangら、アナリティカル バイオケミストリー(Anal.Biochem.)、239巻、160−167頁、1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のごとく、大和マナを初めとするアブラナ科野菜には、多種のイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)が含まれており、それらに由来するイソチオシアネート類は種々の薬理作用を示すため、各々のグルコシノレート類を定量することは大切であるが、現実的には、HPLC法は手間と時間がかかる。さらにインドールグルコシノレート類のように対応するイソチオシアネート類が非常に不安定でイソチオシアネートとしての機能性を示さないグルコシノレート類もある。そのような問題を解決する一つの方法として、1,3−ベンゾジチオール−2−チオンに誘導しイソチオシアネート総和量を測定する方法があるが、手間と時間がかかる。アブラナ科植物に含まれるグルコシノレート由来のイソチオシアネート総和量を基準とした育種選抜、ならびに生鮮野菜を加工してサプリメント等の健康食品を製造する場合には、多数のサンプルを迅速および簡便に測定する必要があり、また、季節や栽培条件で有効成分含量が大きく変動する植物、特に葉物野菜等については、簡便で迅速なイソチオシアネート類の総量測定方法の確立がのぞまれていた。即ち、HPLC法や1,3−ベンゾジチオール−2−チオンに誘導する方法は、迅速さや簡便さが要求される育種や製造現場における選抜や品質管理等のための測定には適していない場合があり、出来るだけ多くのサンプルのイソチオシアネート類の総和量を迅速且つ簡便に測定する方法の確立が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、アブラナ科植物に含まれている種々のグルコシノレート由来のイソチオシアネート総和量を迅速にかつ簡便に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような目的を達成するために、本発明は、近赤外分光光度計を用いて、イソチオシアネート総和量既知のアブラナ科植物の近赤外スペクトルデータを測定し、この近赤外スペクトルデータと前記アブラナ科植物に含まれているイソチオシアネート総和量との相関に基づき、検量線を作成し、イソチオシアネート総和量未知の近赤外スペクトルデータからイソチオシアネート総和量を算出することを特徴とするものである。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]イソチオシアネート総和量既知のアブラナ科植物に1000〜2500nmの波長の近赤外線を照射して得られる近赤外スペクトルデータと前記アブラナ科植物のイソチオシアネート総和量との相関に基づき、イソチオシアネート総和量未知のアブラナ科植物の近赤外スペクトルデータからイソチオシアネート総和量を算出することを特徴とするアブラナ科植物中のイソチオシアネート総和量の測定方法、
[2]前記イソチオシアネートが、アブラナ科植物由来のアリールアルキルイソチオシアネート、アルケニルアルキルイソチオシアネート、アルキルスルフィニルアルキルイソチオシアネートである[1]記載の測定方法、
[3]前記アブラナ科植物が大和マナ(Brassica rapa L. Oleifera Group)である[1]記載の測定方法、
[4]イソチオシアネート総和量が既知の複数の標準試料に近赤外線を照射し標準試料の近赤外スペクトルを測定する工程と、得られた標準試料の近赤外スペクトルデータを多変量解析し、検量線を作成する工程と、イソチオシアネート総和量未知の対象試料に近赤外線を照射し得られた近赤外スペクトルデータと前記検量線から対象試料のイソチオシアネート総和量を算出する工程、を有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のアブラナ科植物中のイソチオシアネート総和量の測定方法、
[5]前記近赤外線の波長が1000〜2500nmである[4]記載の測定方法、
[6]前記多変量解析がPLS回帰分析である[4]または[5]記載の測定方法、
などを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アブラナ科植物、特に大和マナに近赤外線を照射し、その近赤外スペクトルデータから、アブラナ科植物に含まれるイソチオシアネート総和量を、簡便な操作で、かつ迅速に測定することが可能となる。この方法により、多数のアブラナ科植物試料のイソチオシアネート総和量が迅速かつ簡便に測定することができ、アブラナ科植物の優良品種の選抜が容易になり、さらに、アブラナ科植物を原料とした健康食品の製品規格化ならびに品質管理が容易となり、食品工業用原料として用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】大和マナ各系統種含有のイソチオシアネート総和量を示す。
【図2】大和マナに含有されるイソチオシアネート総和量の実測値とFT−NIR測定結果から求めたイソチオシアネート総和量の予測値との相関性を示した予測モデルを示す。
【図3】予測モデルの評価用サンプルについて、イソチオシアネート総量の予測値と実測値の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明を詳細に説明する。本明細書におけるイソチオシアネート総和量とは、アブラナ科(Brassicaceae)植物に含まれる種々のイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)にミロシナーゼを作用させて生成する種々のイソチオシアネート類の量の総和量をいい、生成するイソチオシアネート類の種類は問わない。
【0013】
アブラナ科植物に含まれるグルコシノレート類由来のイソチオシアネート類としては、特に限定されないが、好ましくは、アリールアルキルイソチオシアネート、アルケニルアルキルイソチオシアネート、メチルスルフィニルアルキルイソチオシアネートが挙げられる。アリールアルキルイソチオシアネートとしては、例えばフェネチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、4−ハイドロキシベンジルイソチオシアネート等が挙げられる。アルケニルアルキルイソチオシアネートとしては、例えばアリルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソチオシアネート等が挙げられる。メチルスルフィニルイソチオシアネートとしては、例えば4−メチルスルフィニルブチルイソチオシアネート、5−メチルスルフィニルペンチルイソチオシアネート、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート等が挙げられる。
【0014】
アブラナ科植物としては、特に限定されないが、例えばブロッコリー、ケール、キャベツ、ハクサイ、大和マナ、小松菜、カリフラワー、チンゲンサイ、ミズナ、野沢菜等の葉物野菜が挙げられる。
【0015】
本発明にて用いられるアブラナ科植物は、採取し一定の大きさに細断し、そのまま近赤外分光光度計で測定することができるが、細断・乾燥後粉末として測定するのが好ましく、特に0.5mm以下、好ましくは0.3mmの篩を通過する程度に粉末化し、粒径をそろえて測定することが好ましい。さらに、粒径をそろえた粉末を、シリンジのプランジャー等を用いて、近赤外分光光度計の測定用バイアル瓶の底面に押し付け圧着させて測定するのが好ましい。
【0016】
アブラナ科植物に含まれる種々のグルコシノレート類にミロシナーゼを作用させて生成する種々のイソチオシアネート類の量の総和量は、例えば、生成したイソチオシアネート類を、1,2-ベンゼンジチオールと反応させて1,3−ベンゾジチオール−2−チオンに導き、その365nmの吸光度を測定して求めることが出来る(Zhangら、Anal.Biochem.239巻、160頁、1996年)。
【0017】
近赤外分光光度計とは、近赤外線(800〜2500nm)を用いる分光光度計をいい、試薬不要、前処理不要、多成分同時分析、定性および定量分析可能である。使用する近赤外分光光度計には、光源からの光を波長ごとに分ける分散子を用いる方式(分散形)と、光の干渉を用いる方式(フーリエ変換近赤外分光光度計:FT−NIR)があり、本発明ではどちらのタイプでもよいが、特にFT−NIRが好ましい。また、近赤外スペクトルの測定に用いる近赤外線の波長は、測定波長範囲において所定の一定波長間隔または可変波長間隔毎の波長とすることができる。例えば、測定に用いる波長範囲が1000〜2500nmである場合において1〜5nm程度の一定間隔毎の波長である。
【0018】
この近赤外スペクトルを用いて定量分析を行うには、目的特性の値(濃度或いは特性値)とスペクトルデータとを関係づける関係式(検量線)が必要となる。通常検量線は、目的特性値が既知の試料のスペクトルを測定し、そのスペクトルデータと目的特性値に基づいて、多変量解析の手法により作成することができる。検量線作成における「検量線」とは、前記近赤外線を照射してアブラナ科植物のスペクトルデータ(y)とイソチオシアネート総和量(x)の相関関係を、多変量解析を用いて、例えば一次方程式(y=ax+b)に表したものである。x軸のイソチオシアネート総和量は、前記Zhangらの方法を用いて予め測定し、算出した値を用いている。検量線の精度は、実測値と予測値の相関係数(R)やステップバリデーションにより求められた予測的決定係数(Q)を用いて評価する。
【0019】
前記多変量解析とは、分光データなどの化学的な特性と物性などの特性値との関係を計量学的な処理によって関係づけ、解析する手法であり、重回帰分析、主成分分析、PLS(partial least squares )分析などが知られている。このうちPLS回帰分析法は、特定の試料に於ける波長などの連続的な因子の変化に対して、吸光度などの変数の出現する分光スペクトルパターンと当該試料のある示性値の間の関係を分析する場合において、各示性値と因子ごとの変数の変化を分析する手技として確立されているものであり、好ましい。このようなPLS回帰分析と言った、多変量解析は、市販されているソフトウェアを使用して行うことができる。この様な多変量解析用のソフトウェアとしては、例えば、Infometrix社製のピロエット(PIROUETTE)、Umetrics社製のSIMCA−P+等のソフトウェアがある。これらのソフトウェアを利用して、近赤外スペクトルを解析し、その結果を本発明の定量法で用いる場合、大凡の処理ステップは次に示す手順による。この時、使用する近赤外スペクトルは測定して得られた原スペクトルでも良いし、前記原スペクトルをデータ加工したものでも良い。
【0020】
即ち、PLS回帰分析の手順としては、例えば、
(1)イソチオシアネート総和量既知の標準試料の近赤外スペクトルデータを所望により、一次または二次微分等データ加工を行い、波長とその波長における拡散反射光強度もしくはその加工データとの行列を作成する。
(2)前記行列と標準試料に含有されるイソチオシアネート総和量との行列を作成し、イソチオシアネート総和量の動きに対して、動きの大きい近赤外スペクトルもしくはその加工データを抽出し、その波長を特定する。
(3)抽出した近赤外スペクトルもしくはその加工データと示性値より検量線を作成する。同時に、イソチオシアネート総和量ごとに検量線上へのプロットを作成しておく。
(4)イソチオシアネート総和量未知試料の近赤外スペクトルを測定し、所望により一次または二次微分等のデータ加工する。
(5)(4)のデータより(2)で特定された波長のデータを抽出する。
(6)(5)で抽出されたデータを検量線上への写像を作成する。あるいは、データを検量線上へプロットする。
(7)(3)の示性値ごとのプロットと(6)の写像もしくはプロットとを比較し、測定試料のイソチオシアネート総和量を推測する。
などの手順による。なお、(2)以下の作業はコンピューターソフトウェアを利用することにより行うことができる。
【0021】
このように、近赤外分光光度計にてイソチオシアネート総和量が判明したアブラナ科植物、特に大和マナは、その優良品種選別用に用いられるとともに、サプリメントや種々の健康食品の加工用素材として用いられる。例えばうどん、そば、パン、菓子類などに練り込むことにより、機能性成分を増強した食品を作ることが出来る。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を参考例および実施例に基づいて説明する。本発明は以下の参考例および実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【0023】
イソチオシアネート総和量測定に用いる1,2−ベンゼンジチオールは、試薬会社(和光純薬株式会社、メルク社)より購入した。
【0024】
実施例1(測定用サンプルの調製)
2008年7月に奈良県農業技術センター圃場に大和マナ24系統を播種した。草丈25cmに達したところで各系統9株を8月に収穫し、3株を1ロットとしてまとめ、予備冷凍後、凍結乾燥を行った。24系統はNo.1〜24までラベリングし、予測モデル構築用サンプルとした。凍結乾燥後、ミルミキサーFM−50(サン株式会社製)で粉砕し予測モデル構築用サンプル(各系統3ロット計72サンプル)を得た。
【0025】
実施例2(フーリエ変換型近赤外拡散反射スペクトルの測定)
実施例1で得られた予測モデル構築用サンプルのうち、No.1〜24の各系統全ロットを用いてFT−NIR測定を行った。凍結乾燥粉末100mgを秤量し、1mLシリンジのプランジャーを用いて、測定用2mLバイアル瓶に加えた乾燥粉末を瓶の底面に押し付け圧着させた後、近赤外拡散反射スペクトル測定用バイアルとした。各バイアルは4回測定を行った。FT−NIRの測定条件はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のNicolet6700 FT−IR(近赤外アップドリフト、CaF2ビームスプリッター、冷却InGaAs検出器)を用い、近赤外拡散反射スペクトルを測定した。スペクトルは1000nmから2500nmまでを走査して記録した。可動鏡の移動速度は秒速1.2659cm、分解能は8cm−1、積算64回で測定した。得られた拡散反射スペクトルデータをSPCファイル形式で保存し、統計解析に用いた。
【0026】
実施例3(大和マナイソチオシアネート総量の定量)
ネジ口試験管に大和マナ試料0.05gを入れ、70%メタノール5mLを加えて密栓し、5分ごとに振り混ぜながら、80℃で30分間加温した。1500×g、4℃で20分間遠心分離後、上清を1mL採取して、大和マナ抽出物とした。大和マナ抽出物1mLにリン酸緩衝生理食塩水(塩化ナトリウム8g、塩化カリウム0.2g、リン酸水素二ナトリウム12水和物2.9g、リン酸二水素カリウム0.2gを超純水1Lに溶解して調製)1mLとチオグルコシダーゼ(ミロシナーゼ、1unit/mLとなるようリン酸緩衝生理食塩水に溶解)0.5mLを加え、室温にて30分間放置し、グルコシノレートを加水分解してイソチオシアネートに導いた。酵素反応終了後、酢酸エチル5mLを加え、スターラーで10分間撹拌後、1500×g、4℃で10分間遠心分離を行った。洗浄のため、上層4mLに超純水4mLを加えて振盪後、再び1500×g、4℃で10分間遠心分離を行って、その上層1mLを採取し、メタノール1mLを加えてイソチオシアネート総量測定用試料とした。
【0027】
プラスチック製フタ付き円錐チューブ(1.5mL、エッペンドルフ社製)に50mMホウ酸緩衝液(Na2B4O7−HCl,pH8.5)0.45mL、イソチオシアネート総量測定用試料0.45mL、8mM 1,2−ベンゼンジチオール(メタノール溶液)0.05mLを加え、フタをして振盪し、65℃で1時間加温して誘導体化反応を行うことで、試料中のイソチオシアネートを1,3−ベンゾジチオール−2−チオンに導いた。なお、検量線用試料はフェネチルイソチオシアネートを酢酸エチル−メタノール(1:1)に溶解したものをイソチオシアネート総量測定用試料に代えて誘導体化反応を行って調製した。
【0028】
反応液10μLをマイクロシリンジに採取し、HPLC(カラム:ナカライテスク社コスモシール5C18−MS−II(4.6×150mm)、溶媒:メタノール−水(80:20)、流速:1mL/分)に供した。検出は、365nmの紫外吸収を測定することで行い、試料のピーク面積を検量線にあてはめることでイソチオシアネート総量を求めた。No.1〜24の各系統3ロットについてイソチオシアネート総量を測定した。各ロットは3反復ずつ分析し、平均値および標準偏差を算出した。予測モデル構築用に用いたNo.16〜20を除いた分析結果を図1に示す。
【0029】
実施例4(大和マナイソチオシアネート総量予測モデル)
実施例2で得られたラベルNo.1〜15およびラベルNo.21〜24の19系統の近赤外拡散反射スペクトルデータと実施例3で求めたイソチオシアネート総量をPLS回帰分析し、PLSモデル(イソチオシアネート総量予測モデル)を求めた。データ解析にはInfometrix社製統計解析ソフトPIROUETTEを用いた。全スペクトルデータを標準正規変量に変換し、一次微分を行った後、整列化した。さらにこの変換データを平均中央化し、PLS回帰分析に用いた。検証法として1ロット分のデータをとりのぞいて残りのデータで検証するstep validationを用いた。このようにして求められたPLSモデルの相関係数(R値)は0.94であり、step validationによって求められたQ値は0.87であった。以上のように、モデル構築に十分なレベルの回帰直線が得られたものと考えられる。結果を図2に示す。
【0030】
実施例5(大和マナイソチオシアネート総量予測モデルの評価)
予測モデルの評価用サンプルとしてラベルNo.16〜20の5系統を用いた。実施例1、2と同様に凍結乾燥後粉砕した大和マナ粉末100mgをバイアルに充填してFT−NIR測定を行い、スペクトルデータと実施例4で得られた予測モデルから各サンプル中のイソチオシアネート総量を予測した。一方、実施例3と同様にして、各サンプルのイソチオシアネート総量の実測値を求めた。各サンプルのイソチオシアネート総量の予測値と実測値の結果を図3に示す。この結果から、実施例4で得られたイソチオシアネート総量予測モデルの予測精度が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、アブラナ科植物、特に大和マナに近赤外線を照射し、その近赤外スペクトルデータから、アブラナ科植物に含まれるイソチオシアネート総和量を、迅速かつ簡便に測定することが可能となる。この方法により、多数のアブラナ科植物試料のイソチオシアネート総和量が迅速かつ簡便に測定することができ、アブラナ科植物の優良品種の選抜が容易になり、さらに、アブラナ科植物を原料とした健康食品の製品規格化ならびに品質管理が容易となり、食品工業用原料として用いることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチオシアネート総和量既知のアブラナ科植物に1000〜2500nmの波長の近赤外線を照射して得られる近赤外スペクトルデータと前記アブラナ科植物のイソチオシアネート総和量との相関に基づき、イソチオシアネート総和量未知のアブラナ科植物の近赤外スペクトルデータからイソチオシアネート総和量を算出することを特徴とするアブラナ科植物中のイソチオシアネート総和量の測定方法。
【請求項2】
前記イソチオシアネートが、アブラナ科植物由来のアリールアルキルイソチオシアネート、アルケニルアルキルイソチオシアネート、アルキルスルフィニルアルキルイソチオシアネートである請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
前記アブラナ科植物が大和マナ(Brassica rapa L. Oleifera Group)である請求項1記載の測定方法。
【請求項4】
イソチオシアネート総和量が既知の複数の標準試料に近赤外線を照射し標準試料の近赤外スペクトルを測定する工程と、得られた標準試料の近赤外スペクトルデータを多変量解析し、検量線を作成する工程と、イソチオシアネート総和量未知の対象試料に近赤外線を照射し得られた近赤外スペクトルデータと前記検量線から対象試料のイソチオシアネート総和量を算出する工程、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のアブラナ科植物中のイソチオシアネート総和量の測定方法。
【請求項5】
前記近赤外線の波長が1000〜2500nmである請求項4記載の測定方法。
【請求項6】
前記多変量解析がPLS回帰分析である請求項4または5記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−122950(P2011−122950A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281068(P2009−281068)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(306023336)財団法人奈良県中小企業支援センター (18)
【出願人】(505195384)国立大学法人奈良女子大学 (15)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【Fターム(参考)】