説明

イソパラフィン含有エマルジョン組成物

【課題】引火性がなく、エマルジョンとして安定であり、ゴム等の腐食を抑制できるエマルジョン組成物を提供する。
【解決手段】下記の成分(A1)〜(D1)を含有するエマルジョン組成物。
(A1)イソパラフィン:50〜90重量%
(B1)水:8〜28重量%
(C1)HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤:1〜10重量%
(D1)HLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤:1〜20重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソパラフィンを含有するエマルジョン組成物に関する。さらに詳しくは、引火性がなく、安定性がよく、洗浄剤として好適なエマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄剤として、炭化水素系溶剤に界面活性剤を添加した組成物が使用されている。炭化水素系溶剤を単独で使用すると引火の危険性があるため、炭化水素系溶剤の他に各種溶剤を配合した組成物が使用されている。
近年、工業用洗浄剤として、洗浄対象物が金属だけではなく、ポリカーボネイト等のエンジニアリングプラスチック等にも同時に適用できるものが要求されている。
【0003】
洗浄剤組成物として、例えば、特許文献1には非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とが混合した界面活性剤、所定の極性溶剤、有機可溶化助剤、炭化水素系非水溶性溶剤、及び水よりなり、pHが5〜9である中性洗浄剤組成物が開示されている。
また、特許文献2には油性成分、親水性非イオン界面活性剤、親油性両親媒性物質、水溶性溶媒、及び水を含有し、バイコンティニュアス構造である等方性一液相を有する皮膚洗浄剤組成物が開示されている。
その他、洗浄用組成物等として、特許文献3−6にもエマルジョン組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−165499号公報
【特許文献2】特開2004−217640号公報
【特許文献3】特表平09−509362号公報
【特許文献4】特開2007−203288号公報
【特許文献5】特開平10−287900号公報
【特許文献6】特開平10−88196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エマルジョン組成物を洗浄剤に使用する場合には、引火性がなく、エマルジョン(乳液)として安定であることが要求される。また、金属以外の洗浄物に対しても洗浄効果があり、かつ洗浄物を腐食させないことが要求されている。
しかしながら、上記の特許文献1に開示された洗浄剤組成物では、炭化水素系溶剤、水及び界面活性剤の他に、極性溶剤、有機可溶化助剤等を配合する必要があり、洗浄対象にゴム成分が含まれる場合にゴムを腐食するおそれがあった。
特許文献2に開示された洗浄剤組成物はバイコンティニュアス構造である等方性一液相を有する組成物であるためエマルジョンではない。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、引火性がなく、エマルジョンとして安定であり、ゴム等の腐食を抑制できるエマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のエマルジョン組成物が提供される。
1.下記の成分(A1)〜(D1)を含有するエマルジョン組成物。
(A1)イソパラフィン:50〜90重量%
(B1)水:8〜28重量%
(C1)HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤:1〜10重量%
(D1)HLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤:1〜20重量%
2.下記の成分(A2)〜(D2)を含有するエマルション組成物。
(A2)イソパラフィン:20〜70重量%未満
(B2)水:20〜67重量%
(C2)アニオン型界面活性剤:0〜10重量%
(D2)HLB値が8〜14である非イオン型界面活性剤:2〜20重量%
3.上記1又は2に記載のエマルジョン組成物を用いた洗浄剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、引火性がなく、エマルジョンとして安定であり、ゴム等の腐食を抑制できるエマルジョン組成物を提供することができる。本発明のエマルジョン組成物は各種洗浄剤、特に、金属用の洗浄剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のエマルジョン組成物は、炭化水素系溶剤としてイソパラフィンを含有することを特徴とする。所定量のイソパラフィンと水を混合してエマルジョンとすることにより引火の危険のない組成物となる。
本発明のエマルジョン組成物は、乳化の態様によって、水滴が油に分散している油中水滴(W/O型)と、油滴が水に分散している水中油滴(O/W型)の2種に分類される。
【0010】
1.W/O型エマルジョン組成物
本発明の一態様であるW/O型エマルジョン組成物は、下記の成分(A1)〜(D1)を含有することを特徴とする。
(A1)イソパラフィン:50〜90重量%
(B1)水:8〜28重量%
(C1)HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤:1〜10重量%
(D1)HLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤:1〜20重量%
【0011】
上記成分(A1)のイソパラフィンとは、分岐構造の脂肪族飽和炭化水素であり、一般的に常温で液体の物質である。分岐構造や分子量の異なる分子の混合物であり、蒸留温度範囲で特徴付けられる。本発明では、引火の危険性の観点から、消防法危険物第四類第三石油類(引火点:70℃以上200℃未満)が好ましい。尚、引火点が70℃以上のイソパラフィンの炭素数は10〜28程度である。
本発明では、石油化学工業の精留品として市販されているものが問題なく使用できる。例えば、IPソルベント2028、IPソルベント2835、IPクリーン‐HX(出光興産株式会社製);アイソパーL、アイソパーM(エクソンモービルケミカル製);シェルゾールTK、シェルゾールTM(シェルケミカルズ製)等が挙げられる。これらのなかでは、IPソルベント2028、IPクリーン−HX、アイソパーL、シェルゾールTKが好ましい。
これらは単一組成であっても、複数成分の混合物であってよい。また、構成成分として引火点が70℃未満の成分が含まれてもよい。
【0012】
イソパラフィンの配合量は、上記の成分(A1)〜(D1)の合計に対して50〜90重量%であり、70〜90重量%であることが好ましい。50重量%未満では、エマルションの安定性が低くなり、90重量%を超えると組成物が引火性となる場合がある。
【0013】
上記(B1)水については特に限定はなく、イオン交換水等を使用することができる。
【0014】
水の配合量は、上記の成分(A1)〜(D1)の合計に対して8〜28重量%であり、10〜25重量%であることが好ましい。8重量%未満では、組成物が引火性となる場合があり、28重量%を超えるとエマルションの安定性が低くなる。
【0015】
上記(C1)HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤について、非イオン型界面活性剤とは、水に溶解してもイオン性を示さないが、界面活性を呈する界面活性剤を示す。
HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値である。本願において、HLB値はグリフィン式で算出した値である。
HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタンラウレート、ソルビタンオレート)等が挙げられる。市販品としては、ニューコール80(日本乳化剤株式会社製)等が挙げられる。その他、製造、販売会社のカタログ記載のHLB値を参照して適宜選択することができる。
【0016】
HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤の配合量は、上記の成分(A1)〜(D1)の合計に対して1〜10重量%であり、1〜5重量%であることが好ましい。1重量%未満では、充分な乳化安定性が得られなくなる。
【0017】
上記(D1)のHLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化アルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
市販品としては、ニューコールNT−3、NT−5、NT−7、NT−9、NT−12、NT−15、NT−20、NT−30、NT−40、NT−50、2303−Y、2304−YM、2304−Y、2306−Y、2308−Y、2314−Y、2306−HY、2308−LY、2300FC、2300FE、1902−Y、1308FA(90)、1004、1008、1020、1203、1204、1210、1305、1310、1525、1533、1545、1500−S11606、1607、1807、1820、2303−Y、2304−YM、2304−Y、2306−Y、2308Y、2314−Y、2306HY、2308−LY、2300−LY、2300−FC、2300FE、1902−Y、1308FA(90)、610、610(80)、704、707、710、714、714(80)、723、723(60)、740、740(60)、780(60)、2604、2607、2609、2614(いずれも日本乳化剤株式会社製)等が挙げられる。その他、製造、販売会社のカタログ記載のHLB値を参照して適宜選択することができる。
【0018】
HLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤の配合量は、上記の成分(A1)〜(D1)の合計に対して1〜20重量%であり、1〜10重量%であることが好ましい。1重量%未満では、充分な乳化安定性が得られなくなり、20重量%を超えると組成中の水分量を減らす必要があり、消防上の危険性が高くなる。
【0019】
2.O/W型エマルジョン組成物
本発明の他の態様であるO/W型エマルジョン組成物は、下記の成分(A2)〜(D2)を含有する。
(A2)イソパラフィン:20〜70重量%未満
(B2)水:20〜67重量%
(C2)アニオン型界面活性剤:0〜10重量%
(D2)HLB値が8〜14である非イオン型界面活性剤:2〜20重量%
【0020】
上記成分(A2)、(B2)及び(D2)については、それぞれ、上述した成分(A1)、(B1)及び(D1)と同様であるため、説明を省略する。
イソパラフィンの配合量は、上記の成分(A2)〜(D2)の合計に対して20〜70重量%未満であり、30〜50重量%であることが好ましい。20重量%未満では、水の比率が高くなりすぎ、洗浄効果や乾燥性が低下する。一方、70重量%以上ではエマルジョンの安定性が低下する。
水の配合量は、上記の成分(A2)〜(D2)の合計に対して20〜67重量%であり、30〜50重量%であることが好ましい。20重量%未満では、エマルジョンの安定性が低下する場合があり、67重量%を超えると水の比率が高くなりすぎ、洗浄効果や乾燥性が低下する場合がある。
【0021】
HLB値が8〜14である非イオン型界面活性剤の配合量は、上記の成分(A2)〜(D2)の合計に対して2〜20重量%であり、2〜10重量%であることが好ましい。2重量%未満では、充分な乳化安定性が得られない場合がある。
【0022】
上記(C2)であるアニオン型界面活性剤について、アニオン型界面活性剤とは、陰イオン性の親水基を持つ界面活性剤を意味する。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンスチレン化アルキルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
市販品としては、ニューコール1020−SN、ニューコール2308−SF、ニューコール2320−SN、ニューコール2360−SN、ニューコール1305−SN、ニューコール1703−SFD、ニューコール1525−SFC、ニューコール707−SF、ニューコール707−SFC、ニューコール707−SN、ニューコール714−SF、ニューコール723−SFC、ニューコール723−SF、ニューコールB4−SN、ニューコールB13−SN(いずれも日本乳化剤株式会社製)等が挙げられる。
【0024】
アニオン型界面活性剤の配合量は、上記の成分(A2)〜(D2)の合計に対して0〜10重量%であり、0.5〜5重量%であることが好ましい。アニオン型界面活性剤を使用しないと高温経時での安定性が悪くなる場合がある。
【0025】
本発明のエマルション組成物は、上述した成分(A1)〜(D1)又は成分(A2)〜(D2)を所定量混合し撹拌することで調製できる。
【0026】
本発明のエマルション組成物は、必要に応じてグリコールエーテル類などの乳化洗浄助剤、アルカノールアミン等の防錆剤、防腐剤、殺菌剤、キレート剤、香料、着色剤、紫外線吸収剤及び酸化防止剤等の公知の添加剤を配合してもよい。但し、本発明の組成物は、カーボネート系やエステル系の極性溶剤を配合する必要がない。これにより、洗浄物のゴム成分の腐食を抑制できる。
尚、本発明のエマルション組成物は、上述した成分(A1)〜(D1)又は成分(A2)〜(D2)のみからなっていてもよい。
【実施例】
【0027】
[W/O型エマルジョン組成物]
実施例1
イソパラフィン(IPソルベント2028、出光興産株式会社製)160gに、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ニューコール2305、日本乳化剤株式会社製:HLB値=10.9)6gを加え、室温にて400rpmで撹拌した。その後、非イオン型界面活性剤(ソルビタンオレート、ニューコール80、日本乳化剤株式会社製:HLB値=6.4)4gとイオン交換水30gを滴下して加え、目的のエマルジョン組成物を調製した。
この組成物について、以下の項目を評価した。組成物の配合及び評価結果を表1に示す。
【0028】
(1)引火性
クリーブランド開放式試験にて評価した。尚、クリーブランド開放式試験における引火点は、5秒以上継続燃焼した温度とした。また、サンプルが完全沸騰した温度で、3分以上継続燃焼しなかった場合は引火点無しと判定した。
【0029】
(2)エマルションの安定性
調製したエマルジョンを0℃、20℃及び40℃にて保管し、目視によりイソパラフィンと水の分離がないかを確認し、分離までの期間を評価した。
【0030】
(3)洗浄性(手拭洗浄)
SUS板(4cm×8cm)に市販の油性インキ及びクレヨンで線を引き十分乾燥させたもの試験片とした。3cm角の紙製ウェス(キムワイプ)に洗浄液を2g染み込ませ、試験片をふいた。ふき取った後に外観を観察し、線の残り具合について、下記の基準で評価した。
○:50回以内で線が消えた場合。
△:100回以内で線が消えた場合。
×:100回拭いても、ほとんど線が消えない場合。
【0031】
(4)洗浄性(油脂洗浄)及び乾燥性
SUS板(4cm×8cm)に機械用オイル(ハイテンプA、出光興産製)を0.02g塗布し乾燥させて試験片とした。ビーカーに評価対象の組成物を200mL入れ、この中に上記試験片を5分間浸漬させた。浸漬後、取り出した試験片を乾燥させ、オイルの残り具合と乾燥性について、下記の基準で評価した。
(a)洗浄性(油脂洗浄)
○:ほとんど油が落ちた。
△:半分ぐらいの油が落ちた、又は油は落ちたが油シミが残った。
×:ほとんど汚れが落ちなかった。
(b)乾燥性
○:きれいに乾燥した。
△:試験片に水のシミが残った。
×:水滴が残った。
【0032】
(5)ゴムの腐食性
評価対象の組成物に、ニトリルブタジエンゴム(NBR)の加硫ゴムのテストピース(25mm×80mm×2mm)を室温にて2週間浸漬した。浸漬前後の重量変化と体積変化を測定し、下記の基準で評価した。
○:変化がないか、重量及び体積の変化率がともに0.5%未満
×:重量及び体積の変化率がともに0.5%以上
【0033】
【表1】

*1:比較例4の組成は以下のとおりである。
p−メンタン 20wt%
ジエチルカーボネート 15wt%
ブチルカービトール 10wt%
純水 45wt%
非イオン性界面活性剤 7wt%
アニオン性界面活性剤 3wt%
【0034】
比較例1−3
組成物の配合を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にして組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例4
非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルエチルエーテル、EO:平均5mol%)7wt%、アニオン性界面活性剤(ジポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸)3wt%、p−メンタン20wt%、ジエチルカーボネート15wt%、ブチルカービトール10wt%、純水45wt%を混合して、エマルジョン組成物を調製した。
評価結果を表1に示す。
【0036】
[O/W型エマルジョン組成物]
実施例2
イソパラフィン(IPソルベント2028)120gに、非イオン性界面活性剤(ニューコール2305)6gを加え、室温にて400rpmで撹拌した。その後、アニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ニューコール714−SF、日本乳化剤株式会社製)4gとイオン交換水70gを滴下して加え、目的のエマルジョン組成物を調製した。
この組成物を、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例3 比較例5,6
組成物の配合を表2に示すように変更した他は、実施例2と同様にして組成物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のエマルジョン組成物は、自動車部品洗浄用等の金属洗浄剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A1)〜(D1)を含有するエマルジョン組成物。
(A1)イソパラフィン:50〜90重量%
(B1)水:8〜28重量%
(C1)HLB値が3〜8.5未満である非イオン型界面活性剤:1〜10重量%
(D1)HLB値が8.5〜14である非イオン型界面活性剤:1〜20重量%
【請求項2】
下記の成分(A2)〜(D2)を含有するエマルション組成物。
(A2)イソパラフィン:20〜70重量%未満
(B2)水:20〜67重量%
(C2)アニオン型界面活性剤:0〜10重量%
(D2)HLB値が8〜14である非イオン型界面活性剤:2〜20重量%
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエマルジョン組成物を用いた洗浄剤。

【公開番号】特開2012−131949(P2012−131949A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287197(P2010−287197)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000185363)小池化学株式会社 (11)
【出願人】(390014856)日本乳化剤株式会社 (26)
【Fターム(参考)】