説明

イソブチレン系重合体の製造方法

【課題】 従来報告されている技術では、塩素成分の遊離を抑制したイソブチレン重合体が簡便に得られていない。イソブチレン系重合体中への塩素原子の導入を容易な操作により阻止できるイソブチレン系重合体の製造方法が待ち望まれていた。
【解決手段】 重合が実質的に終了した後に特定の芳香族系化合物を添加し、重合時に使用した触媒を用いて加熱することなくワンポッドで反応させることにより、上記課題が解決される。上記特定の芳香族系化合物としては、アニソール、2−メチルアニソール、1、3−ジメトキシベンゼンなどが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離塩素の低減したイソブチレン系重合体の簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソブチレン、ビニルエーテル等のビニル化合物はカチオン重合でのみ付加重合しポリマーを与える。これら単量体の重合体、すなわち、ポリイソブチレンやブチルゴム、ポリビニルエーテル等の重合体をカチオン重合を用いて製造する方法は、従来より工業的に広く行なわれている。カチオン重合は、一般に、ブロンステッド酸やルイス酸を重合触媒として、ビニル化合物の連鎖反応を開始、成長させて、重合させるものであって、その成長末端が重合停止や連鎖移動等の副反応を起こしやすいので、古くは、分子量の制御が困難であった。
【0003】
近年、塩素原子を有する化合物、及び、特定の塩基性化合物を、それぞれ開始剤、電子供与体として重合系に添加することにより、重合挙動が改善しリビングカチオン重合体が生成することが見出されて以来、種々の重合体、官能基を有する重合体、さらには、種々のブロック重合体等が合成されている。リビング重合体とは、重合活性を保持した重合体であり、このようなリビング重合体を生成する重合反応はリビング重合と呼ばれている。リビングカチオン重合においては、重合触媒の作用により開始剤の塩素原子が脱離し、また、再結合する化学平衡が生じ、脱離した開始剤に生じたカチオン種から単量体が連鎖重合していくことが知られている。連鎖重合している間も、重合体の成長末端には常に塩素原子の脱離、再結合が生じている。
【0004】
この塩素原子は、重合が終了した後には、重合体末端に再結合する形で重合体分子に残存する。リビングカチオン重合によって製造されたイソブチレン系重合体の場合、塩素原子は重合体末端の構成繰返し単位の3級炭素に結合している。一般的に3級炭素に結合した塩素原子はその化学構造から安定でなく、そのため、例えば、変性反応や加工成型などで得られたイソブチレン系重合体を加熱すると、塩酸を含む塩素成分が遊離し、乾燥装置や成型加工装置を腐食する等の問題があった。
これまでにイソブチレン系重合体からの塩素成分遊離を抑制する様々な方法が報告されている。例えば、非特許文献1や特許文献1では、イソブチレン重合体に特定の化合物及び触媒を添加し、重合体とのフリーデルクラフツ反応により重合体末端の塩素原子を除去した方法が報告されている。しかしながら報告されている方法では、重合終了後の塩素含有イソブチレン系重合体を一度単離し、特定の化合物および重合時とは異なる触媒を添加し、さらに加熱して反応を行っており、塩素成分の低減が簡便に行われているとは言い難い。また、このようにして得られたイソブチレン系重合体について、実際に遊離塩素成分がどれだけ低減したのかについての記載はない。また、特許文献2では、得られた塩素含有イソブチレン系重合体にマグネシウム及びアルミニウムを金属として有する複塩を添加することによって、脱離塩酸を抑制している。しかし、この方法では、複塩を重合体に添加するための新たな設備を必要とし、また、複塩で完全に捕捉されない塩酸による腐蝕という課題があった。このように、従来報告されている技術では、塩素成分の遊離を十分に抑制したイソブチレン重合体が簡便に得られていない。イソブチレン系重合体からの塩素脱離を、容易な反応操作で効果的に抑制できる、イソブチレン系重合体の製造方法が待ち望まれていた。
【特許文献1】特許3092875号
【特許文献2】WO2004/024825
【非特許文献1】Designed Polymers by Carbocationic Macromolecular Engineering Theory and Practice、J.P.Kennedy、B.Ivan、Hanser Publisher、1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、容易な操作により遊離塩素量の抑制されたイソブチレン系重合体の製造方法を提供し、後処理装置の腐食等の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
イソブチレンを主体としてなる単量体を重合させた、イソブチレン系重合体の製造方法であって、重合が実質的に終了した後にアニソール系化合物を添加し、重合時に使用した触媒を用いて加熱することなく反応させることにより、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0007】
イソブチレン系重合体と特定の化合物との反応を、重合時の触媒を用い加熱することなくワンポッドで行うことが出来、これにより、遊離塩素の低減されたイソブチレン系重合体を簡便に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、下記一般式(1)で表わされる化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分を重合させるイソブチレン系重合体の製造方法において、反応容器に下記一般式(2)で表される化合物を添加し、重合開始時に用いた触媒を用い反応溶液を加熱することなく、反応させることを特徴とする、イソブチレン系重合体の製造方法に関するものである。
(CRX) (1)
[式中Xはハロゲン原子、R、Rはそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR、Rは同一であっても異なっていても良く、Rは1価もしくは多価芳香族炭化水素基または1価もしくは多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
−O−R (2)
[式中Rは水素原子または置換有機基を有する1価もしくは多価芳香族基であり、Rは炭素数1〜6の1価炭化水素基である。]
下記一般式(2)で表される芳香族化合物は、本発明の重合系では重合体の末端部分と反応し導入されるものであり、エンドキャップ剤などと呼ばれる。
【0009】
本発明において、重合系に添加するエンドキャップ剤は、例えば、重合性の二重結合を持たない芳香族化合物のことをいう。「非重合性」とは、本発明で用いる重合条件では通常重合が不可能であることを意味する。重合系に添加する芳香族化合物には、例えば、芳香族ビニル化合物は含まれない。本発明のエンドキャップ剤は、重合体の成長末端と反応する化合物ではあるが、共重合して分子鎖を延長するような化合物ではない。具体的には、下記一般式(2)で表される芳香族化合物が挙げられる。一般式(2)で挙げられる化合物は、ある1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
式(2)で表される芳香族化合物におけるRは、水素原子または置換有機基を有する1価もしくは多価芳香族基である。置換有機基の具体例としては、1〜20個、好ましくは、1〜10個、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基、アルコキシ基、または非重合性アルケニル基、6〜20個、好ましくは6〜14個、さらに好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアルキルアリール基、シクロアルキル基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基が挙げられる。Rは水素原子または置換有機基を有する1価もしくは多価芳香族基であり、好ましくは、置換または非置換の1価もしくは多価ベンゼンである。また、Rは炭素数1〜6の1価炭化水素基である。1価炭化水素基の具体例としては、1〜20個、好ましくは、1〜10個、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基、または非重合性アルケニル基、6〜20個、好ましくは6〜14個、さらに好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアルキルアリール基、シクロアルキル基が挙げられる。本発明の利点を損なわない限り、炭化水素基の水素原子の少なくとも一部は、任意の置換基で置換され得る。
【0011】
式(2)で表される芳香族化合物の好ましいものとしては、アニソール、2−メチルアニソール、3−メチルアニソール、1、2−ジメトキシベンゼン、1、3−ジメトキシベンゼン、アリルフェニルエーテル、4−アリル−1、2−ジメトキシベンゼン、アニス酸、グヤコール(o−、m−、p−)、アニシジン(o−、m−、p−)、フェネチジン(o−、m−、p−)、アネトール、4−アリルアニソールが挙げられる。なかでもその入手のし易さ、重合体との反応性の高さから、アニソール、2−メチルアニソール、1、3−ジメトキシベンゼンが好ましい。
【0012】
重合で得られた塩素含有重合体に上記のエンドキャップ剤を添加することにより重合体中の遊離塩素が低減する理由は、次のようなものであると推定される。すなわち、重合体はその重合系中において末端の塩素原子が遊離することにより分子鎖末端に炭素カチオンを形成しているが、ここに芳香族化合物を添加すると、分子鎖末端の炭素カチオンは塩素原子の代わりに芳香族環と反応して結合する。その結果、得られる重合体の塩素量が低減する。重合体の成長末端と一般式(2)で表される芳香族化合物とが反応し、分子鎖末端に芳香族環が共有結合してなる重合体が生成する。
【0013】
添加した芳香族化合物のモル量が重合体の成長末端数に対して等モル量より少ないと、仮に反応率100%で反応したとしても、末端へのこれら芳香族化合物の導入率は100%には到達せず、発明の効果が十分現れない可能性がある。また、芳香族化合物のモル量が共重合体の成長末端数に対して1000倍モル以上であったとしても、反応への影響は実質的になく、発明の効果を実質的に増大させることにはならない。本発明で用いられる芳香族化合物のモル量は、重合体の成長末端数に対して等モル量以上であれば特に制限は無いが、上で述べた理由により、例えば、成長末端数に対して1〜1000倍モルであり、1〜100倍モルが好ましく、2〜6倍モルがより好ましい。
【0014】
また、芳香族化合物を添加するとき、及びその後の重合体との反応時の反応温度は、重合体の成長末端にカチオンが存在する温度であれば特に制限は無いが、冷凍機等の設備上の問題から−90℃以上が好ましく、また末端のカチオンが安定に存在する必要から、100℃以下が好ましい。反応が進行する実質的な温度として、例えば、−90℃〜100℃であり、−80℃から30℃が好ましく、−70℃〜−30℃がより好ましい。
【0015】
本発明においては、共重合体の分子鎖末端に導入される芳香族環は、添加する芳香族化合物の構造に由来するため、適宜目的に応じた芳香族化合物を使用することによって、任意の芳香族環を導入することができる。例えば、導入された芳香族環に架橋反応性が求められる場合には、ビニル基やアリル基等を有する芳香族化合物が好適に使用される。
【0016】
イソブチレンの重合がまだ進行中に式(2)で表される化合物を添加すると、重合体末端は未反応のイソブチレン単量体もしくは化合物(2)の両方と反応する可能性がある。その場合、化合物(2)と反応した重合体はそれ以上重合が進行せず、結果として得られる重合体の分子量分布は広がってしまう恐れがある。式(2)で表される芳香族化合物は、イソブチレンの重合が実質的に終了してから添加する必要がある。
【0017】
式(2)で表される芳香族化合物は、イソブチレンを主成分とする単量体成分を重合する工程の任意の段階で添加して反応させることができる。すなわち、イソブチレンを主成分とする単量体成分を重合する工程で、イソブチレンを主成分とする単量体成分を添加する前に添加してもよいし、イソブチレンを主成分とする単量体成分と同時に添加してもよいし、イソブチレンを主成分とする単量体成分の添加が終了又は重合が実質的に終了してから添加して反応させてもよい。これらの中で、得られる重合体の特に分子量やその分布に代表される物性の観点から、また、重合上の操作面から、イソブチレンを主成分とする単量体成分の重合が、実質的に終了した段階で添加するのが望ましい。
【0018】
本発明のイソブチレンを主成分とする単量体成分は、イソブチレン以外の単量体を含んでいても含んでいなくても良いが、バランスの取れた物性を有するイソブチレン系重合体とするためには、イソブチレンを60重量%以上含有しているのが好ましく、80重量%以上含有しているのがより好ましい。イソブチレン以外の単量体としてはカチオン重合可能な単量体であれば特に制限はないが、例えば上記の単量体等が挙げられる。
【0019】
本発明のイソブチレンを主成分とする単量体成分中の、イソブチレン以外の単量体は、カチオン重合可能な単量体成分であれば特に限定されないが、脂肪族オレフィン類、芳香族ビニル類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキセン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0021】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0022】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0023】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0024】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
各成分の使用量は目的とする重合体の特性によって適宜設計することが可能である。まずイソブチレン系単量体及びイソブチレンとは別種のカチオン重合性単量体と一般式(1)で表わされる化合物のモル当量関係によって、得られる重合体の分子量が決定できる。イソブチレン系重合体の数平均分子量には特に制限はないが、流動性、加工性、物性等の面から、1000〜500000であることが好ましく、5000〜50000であることが特に好ましい。イソブチレン系重合体の数平均分子量が上記範囲より低い場合には得られた重合体を用いた樹脂組成物の機械的な物性が十分に発現されない傾向にある。一方、上記範囲を超える場合には流動性、加工性の面で不利である。
【0026】
本発明においては、反応溶媒は、反応中の副反応の抑制効果から、上記炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素と脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素を組み合わせた混合溶媒を用いるのが好ましい。混合溶媒中のモノハロゲン化炭化水素の含有量は、特に限定されず、所望の誘電率あるいはブロック共重合体の溶解度が得られるように設定すれば良いが、一般的には10〜98重量%であり、好ましくは20〜90重量%である。
【0027】
本発明で使用する炭素数3〜8の1級及び2級のモノハロゲン化炭化水素としては、例えば、1−クロロプロパン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルブタン、1−クロロ−3−メチルブタン、1−クロロ−2,2−ジメチルブタン、1−クロロ−3,3−ジメチルブタン、1−クロロ−2,3−ジメチルブタン、1−クロロペンタン、1−クロロ−2−メチルペンタン、1−クロロ−3−メチルペンタン、1−クロロ−4−メチルペンタン、1−クロロヘキサン、1−クロロ−2−メチルヘキサン、1−クロロ−3−メチルヘキサン、1−クロロ−4−メチルヘキサン、1−クロロ−5−メチルヘキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、2−クロロプロパン、2−クロロブタン、2−クロロペンタン、2−クロロペンタン、2−クロロヘキサン、2−クロロヘプタン、2−クロロオクタン、クロロベンゼン等が使用でき、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも、イソブチレン系重合体の溶解度、分解による無害化の容易さ、コスト等のバランスから、1−クロロプロパン、1−クロロブタンが好ましく、特に1−クロロブタンが好ましい。
【0028】
本発明で使用する脂肪族及び芳香族系炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ブロック共重合体の溶解度、コスト、誘電率等のバランスから、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0029】
上記混合溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定する。
【0030】
上記一般式(1)で表わされる化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0031】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[CC(CHCl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CHCl)-5−(C(CH)C
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C(C(CHCl)]及び1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン〔1,3−(C(CHCl)-5−(C(CH)C〕である[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0032】
イソブチレン系重合体を重合する際に、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としては一般的なカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl、TiBr、BCl、BF、BF・OEt、SnCl、SbCl、SbF、WCl、TaCl、VCl、FeCl、ZnBr、AlCl、AlBr等の金属ハロゲン化物;EtAlCl、EtAlCl等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl、EtAlCl、EtAlClが好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜60モル当量の範囲である。
【0033】
イソブチレン系重合体の重合に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0034】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせた場合、重合反応及び重合体と芳香族化合物(2)との反応の両方が進行する実質的な温度として、例えば、−90℃〜100℃であり、−80℃〜30℃が好ましく、−70℃〜−30℃がより好ましい。
【0035】
本発明では、一般式(2)で表される化合物を添加した後、活性反応溶液を加熱することなく、一般式(2)で表される化合物を反応系内に添加し反応させる。「活性反応溶液を加熱することなく」とは、活性反応溶液に一般式(2)で表される化合物を添加した後で加熱操作や冷却停止を意図的に行わないという意味であり、仮に反応熱等で反応溶液の温度が上昇する場合でも、上昇幅が30℃以内であることをいう。本発明において、一般式(2)で表される化合物を反応させる際の温度は、通常、−90℃〜100℃であり、−80℃〜30℃が好ましく、−70℃〜−30℃がより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法によって製造される、遊離塩素が低減したイソブチレン系重合体の一次構造については、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有する重合体等のいずれも選択可能である。
【0037】
本発明の方法によれば、式(2)で表される芳香族化合物をイソブチレン系重合体とワンポッドで加熱することなく反応させることにより、遊離塩素が低減したイソブチレン系重合体を容易に製造することが可能であって、このような重合体のその後の樹脂配合もしくは架橋反応等を経て、種々の有利な物性を有する架橋物や樹脂組成物を得ることが出来る。これらの組成物は、例えば、自動車部品、土木・建築用途、家電部品、スポーツ用品、雑貨品、文房具をはじめとする種々の成形品やその他様々な用途に好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0038】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
尚、実施例に先立ち各種測定法、評価法、実施例について説明する。
【0039】
(分子量)
Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)。数平均分子量はポリスチレン換算で表記。
【0040】
(転化率)
重合溶液を採取して、これをメタノールに滴下することにより樹脂を沈殿させ、得られた樹脂を80℃で24時間乾燥させその重量を測定し、採取した重合溶液の重量、乾燥後の樹脂の重量及び各種原料仕込み量から計算した。
【0041】
(樹脂塩素量)
測定試料として、得られた共重合体をトルエンに溶解しメタノール中に再沈殿し、共重合体分子に結合していない塩素種を除去したものを使用した。
測定装置:三菱化学製TOX−10S
燃焼温度:900℃
検出方法:酸化・電量滴定法
測定方法:同一試料3回測定
(樹脂加熱時の塩酸発生有無試験)
本発明により得られた生成共重合体の塩酸発生の有無は、簡易法、腐食試験の二種類の方法で行った。簡易法では、約2gの生成重合体及びpH試験紙の小片を10ml試験管に入れ、試験管の口を白綿で封した後、試験管を180℃に加熱したオーブン内に30分保持した。30分後試験管を取り出し、試験管内のpH試験紙の変色の有無を見た。pH試験紙の変色が見られない場合は○、黄色変色もしくは赤色変色が見られた場合にはそれぞれ△、×と評価した。腐食試験は、生成重合体の溶液に鉄片を入れてその腐食性を観察することにより行った。得られた共重合体5.0gをトルエン30mLに溶解し、そこに鉄片をひたし、全体を60℃に加温し保つことで行った。実験開始後3日後の鉄片の様子を目視で観察し、腐食性の判断を行った。表面の外観がブランク試験品と変わらない場合は○、表面の一部に変色もしくは錆の発生が生じた場合は△、表面の全体に変色もしくは錆の発生が生じた場合には×と評価した。

(実施例1)[遊離塩素低減ポリイソブチレンの製造]
500mLのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)13.2mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)159.9mLを加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー58.4mL(1041mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p−ジクミルクロライド0.30g(1.30mmol)及びN、N’−ジメチルアセトアミド0.266g(2.86mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン1.42mL(12.98mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から75分撹拌を行った後、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、アニソール1.40g(12.98mmol)を重合容器内に添加し、反応容器の内温−70℃を保ったまま攪拌した。アニソールを添加してから60分後に、大量の水に加えて反応を終了させた。
【0042】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のイソブチレン系重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが66400、Mw/Mnが1.35であった。得られた重合体の含有塩素量は120ppmであった。簡易試験の評価は○、腐食試験の評価は○であった。

(実施例2)[遊離塩素低減ポリイソブチレンの製造]
アニソールの代わりに、同モル量の1、3−ジメトキシベンゼンを用いる以外は、実施例1と同様に実施した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが64600、Mw/Mnが1.30であった。得られた重合体の含有塩素量は145ppmであった。簡易試験の評価は○、腐食試験の評価は○であった。

(実施例3)[遊離塩素低減ポリイソブチレンの製造]
アニソールの代わりに、同モル量の2−メチルアニソールを用いる以外は、実施例1と同様に実施した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが66800、Mw/Mnが1.28であった。得られた重合体の含有塩素量は94ppmであった。簡易試験の評価は○、腐食試験の評価は○であった。

(比較例1)[ポリイソブチレンの製造]
アニソールを添加しない以外は、実施例1と同様に実施した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定したところ、Mwが62400、Mw/Mnが1.26であった。得られた重合体の含有塩素量は1072ppmであった。簡易試験の評価は△、腐食試験の評価は×であった。

実施例1〜3では、溶剤として、n−ブチルクロライド及びヘキサンの混合物、開始剤としてp−ジクミルクロライドを用い、イソブチレンの重合を行い、さらに、重合終了後に、種々のアニソール系化合物をそのまま添加して得られたイソブチレン重合体の製造を挙げている。いずれの場合も、含有塩素量は、比較例で記載されたアニソール系化合物を添加せずに得られたポリイソブチレンの有する含有塩素量に対して、大幅に低減している。また、アニソール化合物で処理されたポリイソブチレンは、加熱時の塩酸発生が大幅に抑制され、鉄試験片の腐食も見られなかったのに対し、比較例のポリイソブチレンは、加熱時の塩酸発生が見られ、鉄試験片の全体に腐食が観測された。
【0043】
これらの実施例から分かるように、重合が終了した後に特定の芳香族系化合物を添加し、重合時に使用した触媒を用いて加熱することなくワンポッドで反応させることにより、イソブチレン系重合体中への塩素原子の導入を容易な操作で抑制できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分を重合させるイソブチレン系重合体の製造方法において、反応容器に下記一般式(2)で表される化合物を添加し、重合開始時に用いた触媒を用い反応溶液を加熱することなく、反応させることを特徴とする、イソブチレン系重合体の製造方法
(CRX) (1)
[式中Xはハロゲン原子、R、Rはそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR、Rは同一であっても異なっていても良く、Rは1価もしくは多価芳香族炭化水素基または1価もしくは多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
−O−R (2)
[式中Rは水素原子または置換有機基を有する1価もしくは多価芳香族基であり、Rは炭素数1〜6の1価炭化水素基である。]
【請求項2】
一般式(2)で表される化合物が、アニソール、2−メチルアニソール、1、3−ジメトキシベンゼンである、請求項1の製造方法
【請求項3】
重合時にルイス酸を存在させることを特徴とする、請求項1〜2記載の製造方法。
【請求項4】
ルイス酸が四塩化チタンである、請求項3の製造方法。
【請求項5】
重合時に電子供与体成分を存在させることを特徴とする、請求項1〜2の製造方法。
【請求項6】
電子供与成分がピコリン、もしくは、N,N’−ジメチルアセトアミドである、請求項5の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)で表わされる化合物が、1−クロル−1−メチルエチルベンゼン[CC(CHCl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CHCl)-5−(C(CH)C]で表わされる化合物群から選ばれたものである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
一般式(1)で表わされる化合物が1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン及び/又は1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンである請求項7の製造方法。
【請求項9】
得られたイソブチレン系重合体と一般式(2)との反応時に、重合に用いた溶剤をそのまま反応溶剤として用いることを特徴とした、請求項1〜8の製造方法。
【請求項10】
反応溶剤が、炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素と脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素を組み合わせた混合溶媒であることを特徴とする、請求項9の製造方法。
【請求項11】
反応溶剤が、n−ブチルクロライドとヘキサンの混合溶剤である、請求項10の製造方法。

【公開番号】特開2008−266447(P2008−266447A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110886(P2007−110886)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】