説明

イソプロピル基又はイソブチル基を有するβ−ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体及び当該ストロンチウム錯体を用いた金属含有薄膜の製造法

【課題】昇華特性及び熱に対する安定性に優れたストロンチウム錯体、及び当該ストロンチウム錯体を用いたストロンチウム含有薄膜の製造法を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Rは、アルキル基を示す。nは、0又は1である。)で示されるイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)によりストロンチウム含有薄膜を形成させる際に使用可能なストロンチウム錯体に関する。本発明は、又、当該ストロンチウム錯体を用いたストロンチウム含有薄膜の製造法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストロンチウム錯体に関しては、例えば、半導体、電子部品又は光学部品等の分野の材料として、多くの研究・開発がなされている。ストロンチウム錯体は、例えば、Sr2(Ta1-xNbx)2O7等の強誘電体材料又は超伝導材料として有用であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「the 2005 International Conference on Solid State Devices and Materials」予稿集、P1026〜1035頁
【0003】
特に、CVD法によるストロンチウム薄膜製造用のストロンチウム錯体(原料)としては、例えば、ビス(ジピバロイル)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2)やビス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(dmhd)2)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらのストロンチウム錯体は、昇華特性が悪いために、装置配管の閉塞や気化濃度が一定しない等の問題があった。
【特許文献1】特開2002-212129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、昇華特性及び熱に対する安定性に優れたストロンチウム錯体、及び当該ストロンチウム錯体を用いたストロンチウム含有薄膜の製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは、メトキシ基で置換されていても良い炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐状アルキル基を示す。又、nは、0又は1である。但し、nが0で、且つRがイソプロピル基の場合を除く。)
で示されるイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体によって解決される。
【0008】
本発明の課題は、又、当該ストロンチウム錯体又は当該ストロンチウム錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた、化学気相蒸着法によるストロンチウム含有薄膜の製造法によっても解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、昇華特性及び熱に対する安定性に優れたストロンチウム錯体を提供することが出来る。又、当該ストロンチウム錯体又は当該ストロンチウム錯体の溶媒溶液を用いた金属含有薄膜の製造法も提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体は、前記の一般式(1)において示される。その一般式(1)において、Rは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐状アルキル基を示し、nは、0又は1である。
【0011】
本発明のストロンチウム錯体の配位子となるイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトンは、公知の方法により合成が可能な化合物である(後述の参考例に記載)。
【0012】
本発明のイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体の具体例としては、例えば、式(2)から式(6)で示される。
【0013】
【化2】

【0014】
なお、CVD法においては、薄膜形成のためにストロンチウム錯体を気化させる必要があるが、本発明のイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体を気化させる方法としては、例えば、金属錯体自体を気化室に充填又は搬送して気化させる方法だけでなく、ストロンチウム錯体を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。)に希釈した溶液(ストロンチウム錯体の溶媒溶液)を液体搬送用ポンプで気化室に導入して気化させる方法(溶液法)も使用出来る。
【0015】
基板上へのストロンチウムの蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、ストロンチウム錯体を酸素等の酸化性ガスとともに加熱した基板上に送り込んでストロンチウム酸化膜を蒸着させる方法、ストロンチウム錯体をアンモニアガス等の含窒素塩基性ガスとともに加熱した基板上に送り込んでストロンチウム窒化膜を蒸着させる方法、ストロンチウム錯体を水素等の還元性ガスとともに加熱した基板上にストロンチウム錯体を送り込んでストロンチウム膜を蒸着させる方法が使用出来る。又、プラズマCVD法でストロンチウム含有薄膜を蒸着させる方法も使用出来る。
【0016】
本発明のイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体を用いて金属含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内圧力は、好ましくは1〜200kPa、更に好ましくは10〜110kPa、基板温度は、好ましくは50〜700℃、更に好ましくは100〜500℃、ストロンチウム錯体を気化させる温度は、好ましくは50〜300℃、更に好ましくは90〜270℃である。
【0017】
なお、酸素等の酸化性ガスによるストロンチウム酸化膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸化性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜90容量%、更に好ましくは20〜70容量%である。一方、水素等の還元性ガスによるストロンチウム薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する還元性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜95容量%、更に好ましくは30〜90容量%である。又、アンモニアガス等の含窒素塩基性ガスによるストロンチウム窒化薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する含窒素塩基性ガスの含有割合としては、好ましくは10〜95容量%、更に好ましくは20〜90容量%である。
【実施例】
【0018】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0019】
参考例1(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン(以下、H-DMODと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積2000mlのフラスコに、ナトリウムアミド34.32g(0.88mol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン600mlを加えた。次いで、水冷下、4-メチル-2-ペンタノン88.32g(0.88mol)をゆるやかに滴下して30分間攪拌した後、イソ酪酸メチル60.0g(0.598mol)を滴下して攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水200mlを加えた後、水層を分液し、酢酸で中和した。水層をヘキサンで抽出した後、抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧下で蒸留(73℃、2kPa)し、無色液体として、2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン 33.36gを得た(単離収率:33%)。
2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン物性値は以下の通りであった。
【0020】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));0.94〜0.96(6H,d)、1.13〜1.16(6H,d)、2.13〜2.16(1H,m)、2.16(2H,d)、2.44〜2.50(1H,m)、3.58(0.18H,s)、5.47(0.91H,s)、15.61(0.91H,s)
IR(neat(cm-1));2964、2935、2874、1707、1612、1468、1368、1333、1219、1089、960、917、782
MS(m/e);170、127、85、43
【0021】
実施例1([式(2)で示される錯体];ビス(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(以下、Sr(dmod)2と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム(II)0.58g(5.5mmol)及びジクロロメタン20mlを加えた後、参考例1で合成した2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン2.0g(11.7mmol)をゆるやかに滴下し、更に、水を少量滴下し、攪拌しながら室温で60分間反応させた。反応終了後、反応液を濾過した後、水で洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧下で昇華精製(250℃、13.3Pa)し、白色固体として、ビス(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)1.63gを得た(単離収率;70%)。
ビス(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0022】
融点;200℃
IR(neat(cm-1));3427(br)、2961、2931、2870、1603、1528、1506、1473、1437、1333、1226、1152、1090、1060、967、919、775、507
(β-ジケトンに特有の1612cm-1のピークが消失していた。)
MS(m/e);683、596、554、512、427、257、170、127、85、43
元素分析(C20H34O4Sr);炭素:56.7%、水素:8.10%、ストロンチウム:20.9%
(理論値;炭素:56.4%、水素:8.04%、ストロンチウム:20.6%)
【0023】
参考例2(7-メチル-3,5-オクタンジオン(以下、H-MODと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積2000mlのフラスコに、ナトリウムアミド44.27g(1.13mol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、トルエン600mlを加えた。次いで、水冷下、4-メチル-2-ペンタノン113.7g(1.13mol)をゆるやかに滴下して30分間攪拌した後、プロピオン酸メチル50.0g(0.567mol)を滴下して攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水200mlを加えた後、水層を分液し、酢酸で中和した。水層をヘキサンで抽出した後、抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧下で蒸留(75℃、1.3kPa)し、無色液体として、7-メチル-3,5-オクタンジオン35.32gを得た(単離収率;40%)。
7-メチル-3,5-オクタンジオン物性値は以下の通りであった。
【0024】
IR(neat(cm-1));2961、2873、1705、1613、1464、1369、1334、1285、1205、1167、1146、1064、958、898、805、774
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));0.94〜0.96(6H,d)、1.11〜1.16(3H,t)、2.09〜2.15(1H,m)、2.12(2H,d)、2.31〜2.36(2H,m)、3.54(0.4H,s)、5.47(0.8H,s)、15.52(0.8H,s)
MS(m/e);156、127、99、57、29
【0025】
実施例2([式(3)で示される錯体];ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(以下、Sr(mod)2と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム(II)0.50g(4.8mmol)及びジクロロメタン20mlを加えた後、参考例2で合成した2-メチル-4,6-オクタンジオン1.58g(10.1mmol)をゆるやかに滴下し、更に、水を少量滴下し、攪拌しながら室温で60分間反応させた。反応終了後、反応液を濾過した後、水で洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧下で昇華精製(230℃、40Pa)し、白色固体として、ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)1.52gを得た(単離収率;57%)。
ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0026】
IR(neat(cm-1));3418(br)、2956、2870、1595、1516、1460、1419、1335、1286、1188、1090、1116、1088、1067、966、892、870、767、528
(β-ジケトンに特有の1613cm-1のピークが消失していた。)
MS(m/e);641、366、554、309、243、99、57
元素分析(C18H30O4Sr);炭素:53.5%、水素:7.55%、ストロンチウム:22.13%
(理論値;炭素:54.3%、水素:7.59%、ストロンチウム:22.01%)
【0027】
参考例3(6-メチル-2,4-ヘプタンジオン(以下、H-MHDと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積1000mlのフラスコに、ナトリウムアミド18.59g(0.477mol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン300mlを加えた。次いで、水冷下、4-メチル-2-ペンタノン47.74g(0.477mol)をゆるやかに滴下して30分間攪拌した後、酢酸エチル20.0g(0.227mol)を滴下して、攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水100mlを加えた後、水層を分液し、酢酸で中和した。水層をヘキサンで抽出した後、抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧下で蒸留(56℃、1.39kPa)し、無色液体として、6-メチル-2,4-ヘプタンジオン15.42gを得た(単離収率;48%)。
6-メチル-2,4-ヘプタンジオン物性値は以下の通りであった。
【0028】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));0.94〜0.96(6H,d)、2.06(3H,s)、2.12〜2.23(1H,m)、2.14(2H,m)、3.55(0.25H,s)、5.47(0.875H,s)、15.54(0.875H,s)
IR(neat(cm-1));2960、2873、1728、1707、1614、1466、1427、1366、1286、1241、1160、1092、957、912、776、527
MS(m/e);143、127、85、58、43、27
【0029】
実施例3([式(4)で示される錯体];ビス(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(以下、Sr(mhd)2と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム(II)1.04g(10.0mmol)及びジクロロメタン20mlを加えた後、参考例3で合成した2-メチル-4,6-ヘプタジオン3.0g(21.0mmol)をゆるやかに滴下し、更に、水を少量滴下し、攪拌しながら室温で60分間反応させた。反応終了後、反応液を濾過した後、水で洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧下で昇華精製(220℃、26.7Pa)し、白色固体として、ビス(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)0.99gを得た(単離収率;27%)。
ビス(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0030】
IR(neat(cm-1));3407(br)、2956、2932、2870、1593、1517、1462、1402、1284、1259、1167、1087、1018、961、916、801、767、533
(β-ジケトンに特有の1614cm-1のピークが消失していた。)
MS(m/e);450、309、143、127、85、43
元素分析(C16H26O4Sr);炭素:51.56%、水素:6.94%、ストロンチウム:23.01%
(理論値;炭素:51.94%、水素:7.08%、ストロンチウム:23.7%)
【0031】
参考例4(2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン(以下、H-MDMODと称する))の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積500mlのフラスコに、カリウムt-ブトキシド20.35g(0.18mol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、メチルシクロヘキサン100mlを加えた。次いで、水冷下、メトキシイソ酪酸メチル12g(0.09mol)をゆるやかに滴下した後、4-メチル-2-ペンタノン14.6g(0.146mol)を滴下して、攪拌しながら3時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水100mlを加えた後、水層を分液し、酢酸で中和した。水層をヘキサンで抽出した後、ヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(86℃、0.8kPa)し、無色液体として、2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン11.05gを得た(単離収率;60%)。
2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオンの物性値は以下の通りであった。
【0032】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));0.95〜0.97(6H,d)、1.35(6H,s)、2.01〜2.14(1H,m)、2.16(2H,d)、3.23(3H,s)、3.69(0.188H,s)、5.89(0.906H,s)、15.38(0.906H,s)
IR(neat(cm-1));2960、2936、2873、2830、1707、1616、1466、1361、1336、1288、1221、1181、1112、1075、964、937、893、869、834、801、754
MS(m/e);201、169、141、73、56、43、27
【0033】
実施例4([式(5)で示される錯体];ビス(2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(以下、Sr(mdmod)2と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム(II)0.50g(4.8mmol)及びジクロロメタン20mlを加えた後、参考例2で合成した、2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオン2.02g(10.1mmol)をゆるやかに滴下し、更に、水を少量滴下し、攪拌しながら室温で60分間反応させた。反応終了後、反応液を濾過した後、水で洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧下で蒸留(270℃、26.7Pa)し、淡黄色固体として、ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)1.32gを得た(単離収率;56%)。
ビス(2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0034】
融点;95〜100℃
IR(neat(cm-1));3432(br)、2954、2869、1607、1507、1466、1437、1382、1365、1333、1285、1229、1204、1172、1145、1078、1054、974、933、889、868、791、762、568、515
(β-ジケトンに特有の1616cm-1のピークが消失した。)
MS(m/e);773、725、530、454、381、287、127、73、28
元素分析(C22H38O6Sr);炭素:53.7%、水素:7.81%、ストロンチウム:17.88%
(理論値;炭素:54.3%、水素:7.88%、ストロンチウム:18.02%)
【0035】
参考例5(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン(以下、H-MDMHDと称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積500mlのフラスコに、ナトリウムアミド7.38g(0.19mol)を加え、反応系内をアルゴンで置換した後、トルエン100mlを加えた。次いで、水冷下、3-メチル-2-ブタノン16.36g(0.19mol)をゆるやかに滴下して30分間攪拌した後、メトキシイソ酪酸メチル10.0g(0.08mol)を滴下して、攪拌しながら6時間反応させた。反応終了後、氷冷下、水100mlを加えた後、水層を分液し、酢酸で中和した。水層をヘキサンで抽出した後、ヘキサン抽出液を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(90℃、1.9kPa)し、無色液体として、2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン 4.32gを得た(単離収率:30.6%)。
2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオンの物性値は以下の通りであった。
【0036】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.16〜1.18(6H,d)、1.36(6H,s)、2.44〜2.58(1H,m)、3.24(3H,s)、3.77(0.2H,s)、5.92(0.90H,s)、15.49(0.90H,s)
IR(neat(cm-1));2979、2937、2830、1732、1691、1607、1466、1376、1361、1328、1256、1229、1182、1114、1075、936、897、835、810、763
MS(m/e);187、155、127、73、43、27
【0037】
実施例5([式(6)で示される錯体];(ビス(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(以下、Sr(mdmhd)2と称する)の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム(II)0.5g(4.8mmol)及びジクロロメタン20mlを加えた後、参考例3で合成した、2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン1.9g(10.1mmol)をゆるやかに滴下し、更に、水を少量滴下し、攪拌しながら室温で60分間反応させた。反応終了後、反応液を濾過した後、水で洗浄した。得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧下で蒸留(260℃、26.7Pa)し、淡黄色固体として、ビス(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)1.18gを得た(単離収率;53%)。
ビス(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0038】
融点;185〜190℃
IR(neat(cm-1));3431(br)、2968、2932、2869、1610、1499、1456、1435、1382、1363、1331、1205、1161、1079、1050、966、930、899、832、786、752、515、437
MS(m/e);731、683、481、426、273、73、28
(β-ジケトンに特有の1607cm-1のピークが消失していた。)
元素分析(C16H26O4Sr);炭素:52.51%、水素:7.42%、ストロンチウム:18.95%
(理論値;炭素:52.43%、水素:7.48%、ストロンチウム:19.1%)
【0039】
実施例6(蒸着実験;酸化ストロンチウム薄膜の製造)
実施例1で得られたストロンチウム錯体(Sr(dmod)2)を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
評価試験には、図1に示す装置を使用した。気化器3(ガラス製アンプル)にあるストロンチウム錯体20は、ヒーター10Bで加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て予熱器10Aで予熱後導入されたヘリウムガスに同伴し気化器3を出る。気化器3を出たガスは、マスフローコントローラー1B、ストップバルブ2を経て導入された酸素ガスとともに反応器4に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ6の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計5によってモニターされる。ガラス製反応器の中央部はヒーター10Cで加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたストロンチウム錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒータ10Cで所定の温度に加熱された被蒸着基板21の表面上で酸化的に熱分解し、基板21上に酸化ストロンチウム薄膜が析出する。反応器4を出たガスは、トラップ7、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0040】
蒸着条件及び蒸着結果(膜特性)を表1に示す。なお、被蒸着基盤としては、7mm×40mmサイズの矩形のものを使用した。
【0041】
【表1】

【0042】
該結果より、本発明のストロンチウム錯体(Sr(dmod)2)が、優れた成膜性を有することが分かる。
【0043】
実施例7〜11、比較例1〜6(ストロンチウム錯体の昇華特性試験)
本発明のストロンチウム錯体と既存のストロンチウム錯体の昇華特性試験を行った。特性試験は、図2に示す装置を使用した。
以下に示すストロンチウム錯体28(0.5g)を昇華管22に入れ、減圧下で加熱し、ストロンチウム錯体を30分間かけて昇華させ、昇華管受器30に付着したストロンチウム錯体29の量を測定した。その結果を表1に示す。なお、表2において、昇華率(%)とは、付着したストロンチウム錯体を容器内に入れたストロンチウム錯体で割ったものに、100を乗じたものである。
【0044】
式(2);ビス(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(dmod)2
式(3);ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mod)2
式(4);ビス(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mhd)2
式(5);ビス(2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II) (Sr(mdmod)2
式(6);ビス(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II) (Sr(mdmhd)2
式(7);ビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2
式(8);ビス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(dmhd)2
【0045】
【化3】

【0046】
【表2】

【0047】
本結果により、本発明のビス(2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(dmod)2)、ビス(7-メチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mod)2)、ビス(6-メチル-2,4-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mhd)2)、ビス(2-メトキシ-2,7-ジメチル-3,5-オクタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mdmod)2)、ビス(2-メトキシ-2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(Sr(mdmhd)2)が優れた昇華特性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)によりストロンチウム含有薄膜を形成させる際に使用可能なストロンチウム錯体に関する。本発明は、又、当該ストロンチウム錯体を用いたストロンチウム含有薄膜の製造法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】蒸着装置の構成を示す図である。
【図2】昇華特性試験の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
3 気化器
4 反応器
10B 気化器ヒータ
10C 反応器ヒータ
20 原料金属錯体融液
21 基板
22 昇華管
23 冷却水入口
24 冷却水出口
27 加熱浴
28 昇華前ストロンチウム錯体
29 昇華で付着したストロンチウム錯体
30 昇華管受器
32 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、メトキシ基で置換されていても良い炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐状アルキル基を示す。又、nは、0又は1である。但し、nが0で、且つRがイソプロピル基の場合を除く。)
で示されるイソプロピル基又はイソブチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体。
【請求項2】
請求項1に記載のストロンチウム錯体又はストロンチウム錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた、化学気相蒸着法によるストロンチウム含有薄膜の製造法。
【請求項3】
溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類又はエーテル類である請求項2記載の化学気相蒸着法によるストロンチウム含有薄膜の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−290993(P2007−290993A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119362(P2006−119362)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】