説明

イソリクイリチゲニンの持続可能な可溶化および均一分散化

【課題】水に難溶性のイソリクイリチゲニンを水性基剤に可溶化および均一分散化する。
【解決手段】本発明の製剤は、(a)イソリクイリチゲニン、(b)トコフェロール、(c)シチジン、および(d)保湿成分および水を含有する水性基剤を含んでなる化粧品または医薬品製剤であって、前記保湿成分は、前記水性基剤に対して5重量%以上20重量%未満の量で含まれることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に難溶性のイソリクイリチゲニンを水性基剤に可溶化および均一分散化した製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、医薬品および化粧品が製品化された場合、製造ロット毎に数年間の保管が義務付けられており、その保管期間において有効成分の分離析出などの視覚的変化があってはならない。そのため、医薬品や化粧品の製造においては、水に溶け難い物質を水性基剤に可溶化し均一分散するために界面活性剤が添加されてきた。しかし、界面活性剤は皮膚への刺激性や毒性などが確認されているため、現在では界面活性剤を医薬品および化粧品に添加しない傾向にある。
【0003】
そこで、界面活性剤を使用する以外の方法で、水に難溶性の物質の水性基剤に対する溶解性を高める工夫がなされてきた。例えば、以下の特許文献1には、水に難溶性のポリフェノールをリン酸化すると水溶性が増大することが記載されている。これは、比較的極性のあるリン酸基を分子に結合させることにより分子全体の極性が増大し、結果として水への溶解性が高まるためであると考えられる。
【0004】
ポリフェノールは多種多様の生理活性を示し、皮膚の治療用の局所製剤として広範に使用されている。しかし、上述したようにポリフェノールの水酸基をリン酸化した場合、その医薬品または化粧品における有効成分としての効能が消失してしまう可能性が高いという問題点を有する。ポリフェノールのリン酸化により、水溶性が増大する一方、イオン性が高くなり、細胞および組織への浸透性が低下するためである。
【0005】
従って、水に難溶性の有効成分について、効能を維持したまま水溶性を高める新規の方法が求められている。また、長期間保存した場合であっても、有効成分の分離析出等の視覚的変化が生じない製剤であることが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−277212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水に難溶性のイソリクイリチゲニンを水性基剤に可溶化および均一分散化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、(a)イソリクイリチゲニン、(b)トコフェロール、(c)シチジン、および(d)保湿成分および水を含有する水性基剤を含んでなる化粧品または医薬品製剤であって、前記保湿成分は、前記水性基剤に対して5重量%以上20重量%未満の量で含まれる製剤が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、5重量%以上20重量%未満の保湿成分および水を含有する水性基剤にシチジンを溶解し、シチジン含有水性基剤を得る工程と、有機溶媒に溶解したイソリクイリチゲニンおよびトコフェロールを前記シチジン含有水性基剤に添加する工程とを含んでなる、イソリクイリチゲニンを含有する化粧品または医薬品製剤の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第3側面によると、水性基剤にシチジンを溶解することを特徴とする、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの溶解性を向上させる方法が提供される。
【0011】
本発明の第4側面によると、イソリクイリチゲニンと共にトコフェロールを添加することを特徴とする、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの分散性を向上させる方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、水に難溶性のイソリクイリチゲニンを水性基剤に可溶化および均一分散化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の結果を示す図。
【図2】実施例2の結果を示す図。
【図3】実施例3の結果を示す図。
【図4】実施例4の結果を示す図。
【図5】実施例5の結果を示す図。
【図6】比較例1の結果を示す図。
【図7】比較例2の結果を示す図。
【図8】比較例3の結果を示す図。
【図9】比較例4の結果を示す図。
【図10】比較例5の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有効成分であるイソリクイリチゲニンは、甘草に含まれる成分であり、抗アレルギー作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)阻害作用等を有する。医薬品および化粧品中に含有させることでこれら作用に基づく効果が期待できるが、イソリクイリチゲニンは水に難溶性であるため、水性基剤を用いて製剤化することが困難であった。本発明は、水に難溶性のイソリクイリチゲニンを水性基剤に可溶化および均一分散化するために、製剤中にトコフェロールおよび/またはシチジンを添加したことを特徴とする。
【0015】
本発明で使用する水性基剤は、保湿成分および水を含有することを特徴とする。医薬品および化粧品の基剤として水性基剤を選択する場合、皮膚にしっとり感を付与することを目的とするのが一般的である。前記保湿成分としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール等が使用されてよい。その他の成分として、医薬品および化粧品の分野で通常使用される成分が前記水性基剤に含まれてもよい。
【0016】
前記保湿成分は、油性成分と水との相溶性を高める性質も有する。従って、これら保湿成分の含有量が多い基剤ほど、イソリクイリチゲニンは溶解しやすくなる。しかし、前記保湿成分は、含有量が多すぎるとべたつくという問題が生じる。基剤に対する前記保湿成分の量が20重量%以上になると、使用感に問題を生じることが多い。そこで、本発明者らは、油性成分と水との相溶性を高める性質を有する保湿成分の量が20重量%未満である水性基剤に対しても、イソリクイリチゲニンを長期間安定に可溶化および均一分散化できる方法を見出した。
【0017】
本発明の1つの実施形態によると、(a)イソリクイリチゲニン、(b)トコフェロール、(c)シチジン、および(d)保湿成分および水を含有する水性基剤を含んでなる化粧品または医薬品製剤が提供される。
【0018】
本発明のもう1つの実施形態によると、水性基剤にシチジンを溶解させてシチジン含有基剤を調製する工程と、有機溶媒に溶解したイソリクイリチゲニンおよびトコフェロールを前記シチジン含有基剤に添加する工程とを含んでなる、イソリクイリチゲニンを含有する化粧品または医薬品製剤の製造方法が提供される。
【0019】
前記保湿成分は、水性基剤に対して5重量%以上20重量%未満の量で含まれることを特徴とする。
【0020】
シチジンを予め水性基剤に添加しておくことにより、イソリクイリチゲニンの水性基剤に対する溶解性を高めることができる。これは、シチジンが水に対して可溶性であり、シチジンを水に溶解することにより水の疎水性が高くなるため、結果としてイソリクイリチゲニンの溶解性が高まることによると考えられる。シチジンの添加量は、製剤に対して
1〜1000mMであることが好ましい。
【0021】
一方、トコフェロールは、イソリクイリチゲニンと共に予め有機溶媒に溶解した後、水性基剤に配合される。エタノール等の有機溶媒は、配合後すぐに水に分散し拡散するため、トコフェロールを添加しない場合は、水に難溶性のイソリクイリチゲニンがすぐに固体として析出してしまう。それに対して、トコフェロールを添加した場合は、油状液体のトコフェロールに溶け込んだ形でイソリクイリチゲニンを水性基剤に配合することができる。その結果として、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの均一分散化を達成することができると考えられる。本発明においては、α−トコフェロール、β−トコフェロール等のいずれの種類のトコフェロールも使用することが可能である。トコフェロールの添加量は、製剤に対して0.1〜100mMであることが好ましい。
【0022】
イソリクイリチゲニンおよびトコフェロールを予め溶解する有機溶媒としては、医薬品および化粧品材料として通常使用される有機溶媒を使用することができる。例えば、エタノール、フェノキシエタノール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0023】
イソリクイリチゲニンは、0.01mM以上で薬効を発現することが既知である。従って、本発明の製剤中に含まれるイソリクイリチゲニンの量は、0.01mM以上であり、好ましくは0.01mM〜0.5mMである。
【0024】
本発明の化粧品または医薬品製剤は、皮膚外用剤の形態で使用される。皮膚外用剤の例としては、これらに限定されないが、化粧水、美容液、乳液、パック、洗浄料等のスキンケア化粧料、軟膏、外用液剤、クリーム剤等の外用医薬品が挙げられる。また、製剤の形態に応じ、他の任意成分として皮膚外用剤に通常用いられる成分を配合することができる。
【0025】
上述したように、トコフェロールは、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの分散性を向上させる効果を有する。また、シチジンは、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの溶解性を向上させる効果を有する。従って、トコフェロールおよびシチジンを添加することにより、イソリクイリチゲニンの分散性および溶解性の両方が向上し、長期間安定な水中油型(o/w)製剤を調製することが可能となる。
【0026】
また、以下の実施例においても示すように、トコフェロールのみの添加またはシチジンのみの添加によっても、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの分散性または溶解性を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
実施例1
ブチレングリコール(BG)とポリエチレングリコール(PG)をそれぞれ5重量%ずつ含有する水にシチジン(50mM)を溶解させた後、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)およびトコフェロール(5mM)を加えて混合した(シチジン、リチゲニン、およびトコフェロールの濃度は、それぞれ、製剤全体に対する濃度である)。
【0028】
得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図1に示す。イソリクイリチゲニンの分散性および溶解性の両方が向上し、固体のイソリクイリチゲニンは析出しなかった。従って、長期間安定な水中油型(o/w)製剤を調製できたと言える。
【0029】
実施例2
ブチレングリコール(BG)とポリエチレングリコール(PG)をそれぞれ5重量%ずつ含有する水に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)およびトコフェロール(5mM)を加えて混合した。
【0030】
得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図2に示す。図に示すように、固体のイソリクイリチゲニンは析出しなかった。イソリクイリチゲニンがトコフェロール粒子中に溶け込むことにより、イソリクイリチゲニンの分散性が向上したためと考えられる。しかし、上部にわずかに浮遊物が見られる。従って、分散性の向上は認められるが、長期間安定な水中油型(o/w)製剤とするには至らなかった。
【0031】
実施例3
ブチレングリコール(BG)とポリエチレングリコール(PG)をそれぞれ5重量%ずつ含有する水にシチジン(50mM)を溶解した後、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。
【0032】
得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図3に示す。固体のイソリクイリチゲニンが析出したが、シチジンを加えない場合の比較例の結果と比べて軽度であった。基剤にシチジンを添加することにより、イソリクイリチゲニンの溶解性が向上したためであると考えられる。従って、長期間安定な水中油型(o/w)製剤とするには至らないが、溶解性の向上は認められた。
【0033】
実施例4
5重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有するセルマーレ(成分:精製水、1,3−ブチレングリコール、濃グリセリン、コメヌカスフィンゴ糖脂質、アロエエキス、ムコ多糖体液、水溶性コラーゲン液、水素添加卵黄レシチン、カルボキシビニルポリマー、卵黄リゾホスファチジルコリン、水酸化カリウム、フェノキシエタノール;(株)イーエスティージャパン社製)に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)およびトコフェロール(5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図4に示す。イソリクイリチゲニンの析出は見られず、長期間安定な水中油型(o/w)製剤を調製できた。
【0034】
実施例5
5重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有するセルマーレにシチジン(50mM)を溶解した後、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)およびトコフェロール(5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図5に示す。イソリクイリチゲニンの析出は見られず、長期間安定な水中油型(o/w)製剤を調製できた。
【0035】
比較例1
20重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有する水に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図6に示す。油性成分と水との相溶性を高める性質を有するPGの量が多い場合、シチジンおよび/またはトコフェロールを添加しなくてもイソリクイリチゲニンは完全に可溶化した。
【0036】
比較例2
15重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有する水に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図7に示す。イソリクイリチゲニンの一部が析出したため、長期間安定な製剤とすることはできないと言える。
【0037】
比較例3
10重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有する水に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図8に示す。イソリクイリチゲニンの一部が析出し、沈殿した。従って、長期間安定な製剤とすることはできないと言える。
【0038】
比較例4
ブチレングリコール(BG)とポリエチレングリコール(PG)をそれぞれ5重量%ずつ含有する水に、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図9に示す。イソリクイリチゲニンの一部が析出し、沈殿した。従って、長期間安定な製剤とすることはできないと言える。
【0039】
比較例5
5重量%のポリエチレングリコール(PG)を含有するセルマーレに、エタノールに溶解したイソリクイリチゲニン(0.5mM)を加えて混合した。得られた混合物を3ヶ月間放置した後の写真を図10に示す。イソリクイリチゲニンの一部が析出したため、長期間安定な製剤とすることはできないと言える。
【0040】
上記実施例および比較例から分かるように、トコフェロールおよび/またはシチジンを添加することにより、保湿成分であるポリエチレングリコールまたはブチレングリコールの量を減少させても長期間安定な製剤を調製することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イソリクイリチゲニン、
(b)トコフェロール、
(c)シチジン、および
(d)保湿成分および水を含有する水性基剤
を含んでなる化粧品または医薬品製剤であって、前記保湿成分は、前記水性基剤に対して5重量%以上20重量%未満の量で含まれる製剤。
【請求項2】
前記製剤中に含まれるイソリクイリチゲニンの濃度は0.01〜0.5mMである、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤中に含まれるトコフェロールの濃度は0.1〜100mMである、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤中に含まれるシチジンの濃度は1〜1000mMである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
5〜20重量%の保湿成分および水を含有する水性基剤にシチジンを溶解し、シチジン含有水性基剤を得る工程と、
有機溶媒に溶解したイソリクイリチゲニンおよびトコフェロールを前記シチジン含有水性基剤に添加する工程と
を含んでなる、イソリクイリチゲニンを含有する化粧品または医薬品製剤の製造方法。
【請求項6】
前記製剤中に含まれるイソリクイリチゲニンの濃度は0.01〜0.5mMである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水性基剤にシチジンを溶解することを特徴とする、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの溶解性を向上させる方法。
【請求項8】
イソリクイリチゲニンと共にトコフェロールを添加することを特徴とする、水性基剤に対するイソリクイリチゲニンの分散性を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−208960(P2010−208960A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54462(P2009−54462)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(506242588)株式会社イーエスティージャパン (1)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】