説明

イチゴの鮮度保持方法

【課題】 収穫されたイチゴを広域流通での追熟を遅らせ、イチゴの鮮度を維持することにより、消費者に品質が維持された適熟果を広く供給する方法を提供する。
【解決手段】 通気性を有する容器内にイチゴ、およびイソチオシアン酸アリルガス発生剤を収納し、該容器内のイソチオシアン酸アリル濃度を0.2ppm〜4ppm(体積比)とし、−1〜10℃で保存するイチゴの鮮度保持方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴの鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴは果肉が軟らかく傷つき易いため鮮度保持が困難で、流通中のイチゴ同士の接触、上下動、擦れなどにより、果皮が傷み、果肉が軟化したりカビ発生を伴い、色褪せ変色、味覚の抜けなどが生じ、商品価値を損なう。このため収穫直後に予冷庫に入れ、品温を下げた後にパック詰作業をして出荷されるが、品質の劣化防止は充分でなく、流通中の鮮度低下を抑える方法が求められている。
また、イチゴは出荷時期が年末に集中し、10日〜2週間もの鮮度保持期間が要望されている。出来るだけ低温で保管しているが、実際には追熟が進み、傷み等の不良発生の割合が多い。
一般に果実の追熟は果実自体の発生するエチレンによるもので、完熟期以降、呼吸増大時期にエチレンの発生量が増えて過熟となるものもあり、風味が低下するとともに、傷みを促進する。イチゴはエチレンの発生は少ないが、過熟時には上昇する。
【0003】
イチゴを含む青果物の鮮度保持のために、イソチオシアン酸アリル(以下、「AIT」と表記する)を適用しようとした試みもあり、イチゴ等青果物のカビ発生の抑制を含む微生物病害の防止に利用したものである(特許文献1)。この方法は、AIT等の精油をゼオライトに吸着させて用い、青果物より蒸散する水分がゼオライトに吸着した際に、同時にAITを放散する仕掛けであり、微量ずつ気散させようとするものである。この方法は、青果物より蒸散する水分と吸着AITとが置換されてAITが気散する為、青果物の水分蒸散性によって、AITの気散量が変動する。青果物の水分蒸散量の多い場合には微生物病害を起こし易いが、この場合AITの気散量も増えるので、微生物病害抑制の目的の為には効果的であるが、イチゴの追熟抑制といった生理調整に使用するには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−63348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、収穫されたイチゴの追熟を遅らせ、その鮮度を保持することにある。なお、本明細書に記載するAIT濃度は、体積比(AITの体積/容器内の体積)で表される濃度とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、イチゴの鮮度低下抑制について鋭意研究を重ねた結果、低温下でイチゴを収納した容器内のAIT濃度を特定の範囲内に制御することにより、イチゴの追熟を抑え鮮度を保持出来ることを見出した。
これまで、AITを抗菌抗カビの目的で種々の食品等物品に使用する提案は数多くなされていたが、抗菌抗カビの為に必要なAIT濃度領域があり、低濃度では効果が認められていなかった。本発明者らは、イチゴの生理調整による鮮度保持の検討を進める中で、追熟の抑制に焦点を当て、AITの利用検討を進めた。その結果、低温下での保存温度設定との組み合わせにおいて、前記抗菌抗カビに適したAIT濃度領域から外れた低濃度領域で、イチゴを保存することにより、その追熟を抑制して鮮度を維持しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち本発明は、通気性を有する容器内にイチゴ、およびAITガス発生剤を収納し、該容器内のAIT濃度を0.2〜4ppm(体積比)とし、−1〜10℃で保存するイチゴの鮮度保持方法に関する。
【0008】
また、本発明の鮮度保持方法においては、AITガス発生剤が、少なくとも、AIT、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物であること、前記ペースト状物が、AITを0.1〜2重量%、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%及び食塩を5〜15重量%含有することが好ましい。
【0009】
さらに、AITガス発生剤を、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料で包装すること、前記通気性包装材料が外面から耐熱性有孔フィルム、不織布及び低軟化点フィルムの順に積層した包装材料であること、前記耐熱性有孔フィルムの酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下、開孔率が0.1〜10%であり、前記不織布の軟化点が200℃以上、坪量が20〜50g/mであり、前記低軟化点フィルムの酸素透過度が10,000ml/(m・MPa・D)以上、厚みが20〜60μmであることが好ましい。
【0010】
さらにまた、通気性を有する容器が、ガーレ式透過度が100〜500秒/100mlの紙材質からなる容器か、酸素透過度が5,000〜100,000ml/(m・MPa・D)のフィルムからなる容器か、又は、開孔率0.05〜2%の孔または隙間を有する容器であること、蓋部を有さない容器に収納したイチゴを、前記紙材質からなる容器または前記フィルムからなる容器に収納することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イチゴの追熟を遅らせ、押せに伴う果皮の傷みや軟化、ガクの萎れ、果皮果肉の色褪せ変色、味覚の抜けなどの現象を抑制し、イチゴの鮮度を長期に保持することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいうイチゴとは、年間を通じて出荷される贈答用や業務用のイチゴであるが、特に出荷時期が年末に集中する業務用のイチゴが好適な対象であり、10日〜2週間といった流通期間を要望される場合に本発明の技術が好適に適用される。
【0013】
本発明でいうAITガス発生剤とは、気体のAIT(AITガス)を発生させ得る剤の総称であり、化学的または物理的な作用を与えずとも、AITガスを発生させ得るものが好適である。
【0014】
本発明の方法においては、通気性を有する容器内にイチゴと共にAITガス発生剤を収納し、該容器内のAIT濃度を0.2ppm〜4ppm、好ましくは0.2ppm〜2ppmとしてイチゴを保存する。AIT濃度が4ppmより高い場合にはAIT臭がイチゴに残留したり、ガクやイチゴ表面の変色等、過剰のAITに由来する障害が発生したりするために好ましくなく、0.2ppmより低い場合には鮮度維持効果が出ないために好ましくない。
【0015】
本発明の方法においては、イチゴを収納する容器として通気性を有する容器が用いられる。好ましくは、ガーレ式透過度が100〜500秒/100mlの紙材質からなる容器が例示できる。ガーレ式透過度が100秒/100mlを下回ると、蒸散したAITガスが容器内に留まることなく、容器外に散逸し、AITの濃度が過度に低下するため、好ましくない。また、ガーレ式透過度が500秒/100mlを上回ると、AITガスが容器内に残留し、過度にAIT濃度を上昇させてしまうばかりでなく、イチゴの呼吸障害が生じるため、好ましくない。ガーレ式透過度が100〜500秒/100mlの紙材質からなる容器としては、段ボール箱が例示できる。
【0016】
本発明の通気性を有する容器として、ガーレ式透過度が100〜500秒/100mlの紙材質からなる容器を使用した場合に、該容器を2段以上の多段積みにする際は、上段の底を下段の蓋とし、最上段の保護容器のみ紙材質からなる蓋を被せ、全体を通常の包装用テープで固定する方法が好ましい。
【0017】
本発明の通気性を有する容器として、プラスティックフィルムからなる袋等の容器を用いる場合には、酸素透過度が5,000〜100,000ml/(m・MPa・D)のフィルムからなる容器を用いることが好ましい。また、通気性を確保するために、開孔率0.05〜2%の孔または隙間を設けた成形容器を用いることも好ましい。
【0018】
本発明の通気性を有する容器として、酸素透過度が5,000〜100,000ml/(m・MPa・D)のフィルムからなる容器を用いる場合、厚み20〜100μmのポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムが好適に用いられる。酸素透過度が100,000ml/(m・MPa・D)以上のフィルムを用いると、蒸散したAITガスが容器内に留まることなく、容器外に散逸し、AITの濃度が過度に低下するため、好ましくない。また、酸素透過度が5,000ml/(m・MPa・D)以下のフィルム、例えばナイロンやポリエチレンテレフタレート、またはこれらとポリオレフィンとのラミネートフィルム等を用いると、AITガスが容器内に残留し、過度にAIT濃度を上昇させてしまう他、イチゴが呼吸障害を起こし、イチゴの腐敗を促進するため好ましくない。また、フィルムは、ヒートシール、粘着テープ止め、シールテープ止め、ゴムバンド止め、折り畳み等によって包装することが好ましい。
【0019】
本発明の通気性を有する容器として、開孔率0.05〜2%の孔または隙間を設けた成形容器を用いる場合、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、非晶質ポリエチレンテレフタレート(以下、「A−PET」と表記する)、ポリカーボネート、ABS等からなる成形容器に、収納するイチゴよりも小さな孔または隙間を設けることが好ましい。開孔率が0.05%を下回ると、通気性が不充分となる結果、AITガスが容器内に残留し、過度にAIT濃度を上昇させてしまうばかりか、イチゴが呼吸障害を起こし、イチゴの腐敗を促進するため好ましくない。また、開孔率が2%を上回ると、容器の安定性が低下する他、蒸散したAITガスが容器内に留まることなく、容器外に散逸し、AITの濃度が過度に低下するため、好ましくない。
【0020】
また、トレー状成型容器のような蓋部を有さない容器に収納したイチゴを、本発明の通気性を有する容器に収納しても良く、通気性を有する容器が紙材質やフィルムからなる容器である場合、イチゴの流通性を考慮すればこの形態が特に好ましい。蓋部を有さない容器としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、A−PET等プラスティック製のトレー状成型容器が好ましく用いられる。イチゴを収納した蓋部を有さない容器は、ポリプロピレンやスチロール等の透明フィルム等でカバーする事が好ましいが、容器外との通気性を確保するため、通気性を有する材質からなるカバーを用いるか、容器とカバーの間に隙間を設ける必要がある。さらに、蓋部を有さない容器に、発泡スチロールや発泡ポリエチレン等の材質から成るイチゴの移動を制約する収納窪みが成型されたクッション材を敷いて、その上にイチゴを収納することや、通気性を有する容器に前記紙材質からなる容器を選択し、該容器内に1枚ないし2枚の中仕切りの区画を設け、2ないし4区画に分割させた後、イチゴを収納した蓋部を有さない容器を収めることは、イチゴの流通上好ましい形態である。
【0021】
本発明においてイチゴと共に、通気性を有する容器に収納するAITガス発生剤の設置場所は特に限定されず、本願発明の効果を損なわない範囲で任意の場所に設置でき、通気性を有する容器の内側に貼付しても良い。
【0022】
本発明の方法によれば、前記容器内は持続的にAITガスが蒸散し、かつ、容器が通気性を有しているため、蒸散したAITガスはイチゴと接触後、持続的に容器外に散逸する。このため、AITが容器内に過度に蓄積されることはなく、前記の濃度範囲を維持することができる。また、イチゴを収納する容器が通気性を有しているため、容器内に収納したイチゴの呼吸障害も発生しない。
【0023】
本発明のイチゴの鮮度保持方法は、イチゴ、およびAITガス発生剤を収納した通気性を有する容器を、−1〜10℃、好ましくは−1〜5℃の温度範囲内で保存することにより実施される。温度が−1℃を下回ると、イチゴが凍結して鮮度保持出来ず、10℃を上回ると、カビが生えやすくなり、傷みを生じる。
【0024】
本発明の方法において、通気性を有する容器内にイチゴと共に収納する、AITガス発生剤の形態は特に限定されないが、例えばAIT溶液やAIT含有精油を紙やプラスティックに含浸させたシートや、AITを含む粉状物やペースト状物、液状物を、通気性包装材料に充填包装してAITガス発生剤包装体とする方法が例示できる。AITガス発生剤としては、AITを含むペースト状物を使用することが好ましく、少なくともAIT、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物を使用することが特に好ましい。
【0025】
前記ペースト状物の成分としては、AITを0.1〜2重量%、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%、食塩を5〜15重量%含有させることが好ましい。これらの成分調整によって、AITをペースト状物の中に内包させ、包装体とした際に、AITを適正に徐放することが出来る。
【0026】
前記ペースト状物作製時に用いられるAITとしては、人工的に化学合成されたAITや天然物由来のAITが使用できる。また、AITを含有するアリルカラシ油のような精油を使用してもよい。アリルカラシ油としては、天然のわさびやカラシの精油が用いられ、80〜95重量%のAIT成分の他、数種類のイソシアネート成分を含有しているものが好ましく用いられる。ペースト状物作製時に用いられる造粘成分である糖アルコールとしては50〜70重量%のソルビット水溶液が好適に用いられる。植物油は溶解希釈剤として用いられ、サラダ油、菜種油、大豆油、コーン油等が例示されるが、なかでもサラダ油が好適に用いられる。エタノールは揮発促進成分として、食塩は保水成分として用いられる。
【0027】
本発明において、AITガス発生剤包装体に用いる通気性包装材料としては、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料が好ましく用いられるが、なかでも、外面から耐熱性有孔フィルム、不織布、低軟化点フィルムの順に積層した包装材料が特に好ましい。
【0028】
不織布としては、軟化点200℃以上のプラスティック繊維からなり、坪量20〜50g/mのもので、かつ、ガーレ式透気度が20秒以下のものが好ましく用いられる。具体的な材質としては、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。
【0029】
耐熱性有孔フィルムとは、軟化点が200℃以上であり、かつ、直径0.2〜1.5mmの小孔を有するフィルムを意味する。耐熱性有孔フィルムとしては、小孔が均一に分散し、0.1〜10%の開孔率で施孔された、酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下のフィルムであることが好ましい。フィルムとしては、ナイロン6等のポリアミドやポリエチレンテレフタレート等の他、これらの延伸フィルム及びこれらとシーラントがラミネートされたフィルムが好適に用いられる。また、シーラントとしては、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等が好適に用いられる。
【0030】
低軟化点フィルムとは、軟化点150℃以下のフィルムを意味する。低軟化点フィルムとしては、厚み20〜60μmのフィルムが好ましく用いられ、酸素透過度を10,000ml/(m・MPa・D)以上に設定して用いることが好ましい。具体的には、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等が好適に用いられる。
【0031】
前記通気性包装材料において、外面の小孔を付した酸素透過性の低い耐熱性有孔フィルムと、内面の酸素透過度の高い低軟化点フィルムの間に不織布層を設けることにより、両フィルム間に微細な空隙が出来、孔を閉塞することなくラミネートすることが出来る。このため、前記通気性包装材料を使用したAITガス発生剤包装体においては、低軟化点フィルムのAIT透過性が外面の小孔部分のみに制限されず、AITガス発生剤中に内包されたAITがイチゴを収納した容器の中を、持続的に0.2ppm〜4ppmに維持することができる。
【0032】
前記ペースト状物を前記通気性包装材料に充填し、AITガス発生剤包装体として使用することは、イチゴの大きさや容器に入れるイチゴの数量に応じてペースト状物の配合組成を調整し、充填・包装することによりAITガスの発生量調整を容易に達成できるため、より好ましい形態である。
【実施例】
【0033】
次に実施例によって更に詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
70重量%ソルビット水溶液50重量部とサラダ油4重量部の混合物に、AIT含有率93%のアリルカラシ油を0.4重量部、食塩8重量部、エタノール4重量部を混合し、AIT濃度が0.6重量%であるペースト状物Aを得た。三方シール型自動充填包装機を用いて、酸素透過度1,200ml/(m・MPa・D)のポリエチレンテレフタレート(厚み:12μm)へ、直径0.5mmの孔を上下2.5mm間隔で開孔処理した開孔率3%のフィルムに、軟化点260℃、ガーレ式透気度0.2秒のポリエチレンテレフタレート製不織布(坪量:40g/m)と、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)の低密度ポリエチレン(厚み:40μm)をラミネートした包装材料に、上記ペースト状物Aを一包当たり2g充填し、かつ包装して、35mm×45mmの三方シールされたAITガス発生剤包装体Aを得た(包装材料は低密度ポリエチレン面を内面とした)。
【0035】
収穫したイチゴ(とちおとめ)を直ちに予冷庫にて3時間冷却して、4℃とした後、A−PET製トレーに、20個(300g)を1パックに詰めたイチゴ4パックを、外寸が横350mm×縦250mm×高さ70mmのシングルフルート5mm厚の上蓋付き紙製段ボール箱(ガーレ式透気度:150秒/100ml)に収納し、この上蓋下面内側の中央仕切部上にくる位置に上記AITガス発生剤包装体Aを2包貼りつけ、蓋をして被せ、周囲を粘着テープ止めした。この梱包箱を5℃の冷蔵庫内に入れ、7日後、14日後の箱内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、イチゴの性状を目視および食味にて調べた。その結果を、表1に記載した。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同時に収穫、予冷し、同様にしてトレーにパック詰めしたイチゴ4パックを、実施例1の紙製段ボール箱に入れ、AITガス発生剤包装体Aを貼付せずに梱包し、5℃の冷蔵庫内に貯蔵して、7日後、14日後の箱内AIT濃度とイチゴの性状を調べた。その結果を、表1に記載した。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例2)
収穫したイチゴ(とちおとめ)を直ちに予冷庫にて3時間冷却して、4℃とした後、横200mm×縦150mm×高さ40mmのA−PET製トレーに、40個(600g)を詰めたイチゴパックの中央部に、実施例1と同様の方法で作製したAITガス発生剤包装体Aを1包置き、酸素透過度が50,000ml/(m・MPa・D)の厚み40μmのポリエチレン袋に収納して、開口部を粘着テープ止めした。この包装パックを5℃の冷蔵庫内に入れ、7日後、14日後の袋内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、イチゴの性状を目視および食味にて調べた。その結果を、表2に記載した。
【0039】
(比較例2)
実施例2と同時に収穫、予冷し、同様にしてトレーに詰めたイチゴパックを、実施例2と同様のポリエチレン袋にAITガス発生剤包装体Aを挿入せずに収納し、開口部を粘着テープ止めした。5℃の冷蔵庫内に貯蔵して、7日後、14日後の袋内AIT濃度とイチゴの性状を調べた。その結果を、表2に記載した。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例3)
収穫したイチゴ(とちおとめ)を直ちに予冷庫にて3時間冷却して、4℃とした後、直径8mmの小孔を2個付した横200mm×縦150mm×高さ50mmのポリスチレン製蓋付き成型容器に、40個(600g)を詰め、中央部に実施例1と同様の方法で作製したAITガス発生剤包装体Aを1包置き、蓋をした。
この容器を5℃の冷蔵庫内に入れ、7日後、14日後の容器内AIT濃度をガスクロマトグラフを用いて測定し、イチゴの性状を目視および食味にて調べた。その結果を、表3に記載した。
【0042】
(比較例3)
実施例3と同時に収穫、予冷し、同様の孔を開けた蓋付き容器にイチゴを詰め、AITガス発生剤包装体Aを挿入せずに、蓋をした。5℃の冷蔵庫内に貯蔵して、7日後、14日後の容器内AIT濃度とイチゴの性状を調べた。その結果を、表3に記載した。
【0043】
【表3】

【0044】
(比較例4)
70重量%ソルビット水溶液50重量部とサラダ油4重量部の混合物に、AIT含有率93%のアリルカラシ油を4重量部、食塩8重量部、エタノール4重量部を混合し、AIT濃度が5.3重量%であるペースト状物Bを得た。三方シール型自動充填包装機を用いて、酸素透過度1,200ml/(m・MPa・D)のポリエチレンテレフタレート(厚み:12μm)へ、直径0.5mmの孔を上下2.5mm間隔で開孔処理した開孔率3%のフィルムに、軟化点260℃、ガーレ式透気度0.2秒のポリエチレンテレフタレート製不織布(坪量:40g/m)と、酸素透過度50,000ml/(m・MPa・D)の低密度ポリエチレン(厚み:40μm)をラミネートした包装材料に、上記ペースト状物Bを一包当たり2g充填し、かつ包装して、35mm×45mmの三方シールされたAITガス発生剤包装体Bを得た(包装材料は低密度ポリエチレン面を内面とした)。
【0045】
AITガス発生剤包装体Aに代えてAITガス発生剤包装体Bを使用した以外は、実施例2と同様にして収穫したイチゴを保存し、実施例2と同様に評価した。その結果を、表4に記載し、実施例2と比較した。
【0046】
【表4】

【0047】
(比較例5)
実施例2と同様に収穫、予冷し、同様にしてトレーに詰めたイチゴパックを、実施例2と同様のポリエチレン袋にAITガス発生剤包装体Aを挿入して収納し、開口部を粘着テープ止めした。15℃の貯蔵庫内に貯蔵して、7日後、14日後の袋内AIT濃度とイチゴの性状を実施例2と同様に評価した。その結果を、表5に記載し、実施例2と比較した。
【0048】
【表5】

【0049】
表1乃至5から明らかなように、通気性を有する容器内にAITガス発生剤を収納し、該容器内のAIT濃度を0.2ppm〜4ppmに保った実施例1乃至3では、保存開始から7日経過後はイチゴの鮮度を充分に維持することができ、14日が経過しても食味可能の状態とすることができた。これに対しAITガス発生剤を収納しなかった比較例1、乃至3では、保存開始から7日が経過した時点で傷みや味の低下が多く見られるようになり、14日が経過した時点では食味が不可能になるほど鮮度が低下した。また、比較例4で示したように、AITの濃度が4ppmを超過すると、7日経過した時点でイチゴ果実やガクに変色が発生し、味はAIT臭が付いてもはや食せない状態となっていた。さらに、比較例5で示したように、AITガス発生剤を収納し、AIT濃度を制御しても、15℃の温度での貯蔵ではイチゴ果実の鮮度保持は不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する容器内にイチゴ、およびイソチオシアン酸アリルガス発生剤を収納し、該容器内のイソチオシアン酸アリル濃度を0.2ppm〜4ppm(体積比)とし、−1〜10℃で保存するイチゴの鮮度保持方法。
【請求項2】
イソチオシアン酸アリルガス発生剤が、少なくとも、イソチオシアン酸アリル、糖アルコール、植物油、エタノール及び食塩を含むペースト状物である、請求項1記載のイチゴの鮮度保持方法
【請求項3】
前記ペースト状物が、イソチオシアン酸アリルを0.1〜2重量%、糖アルコールを20〜60重量%、植物油を2〜10重量%、エタノールを2〜10重量%及び食塩を5〜15重量%含有する、請求項2記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項4】
イソチオシアン酸アリルガス発生剤を、少なくとも一部に不織布を使用した通気性包装材料で包装する、請求項1〜3いずれか一項記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項5】
前記通気性包装材料が外面から耐熱性有孔フィルム、不織布及び低軟化点フィルムの順に積層した包装材料である、請求項4記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項6】
前記耐熱性有孔フィルムの酸素透過度が2,000ml/(m・MPa・D)以下、開孔率が0.1〜10%であり、前記不織布の軟化点が200℃以上、坪量が20〜50g/mであり、前記低軟化点フィルムの酸素透過度が10,000ml/(m・MPa・D)以上、厚みが20〜60μmである、請求項5記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項7】
通気性を有する容器が、ガーレ式透過度が100〜500秒/100mlの紙材質からなる容器である、請求項1〜6いずれか一項記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項8】
通気性を有する容器が、酸素透過度が5,000〜100,000ml/(m・MPa・D)のフィルムからなる容器である、請求項1〜6いずれか一項記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項9】
通気性を有する容器が、開孔率0.05〜2%の孔または隙間を有する容器である、請求項1〜6いずれか一項記載のイチゴの鮮度保持方法。
【請求項10】
蓋部を有さない容器に収納したイチゴを、前記通気性を有する容器に収納する、請求項7または8記載のイチゴの鮮度保持方法。