説明

イチゴ種子を得る方法。

【課題】商品価値の高いイチゴ種子を容易かつ安価に得る方法を提供すること
【解決手段】
イチゴ果実に酵素を添加し、残渣を除去し、乾燥させてイチゴ種子を得る方法であり、その酵素は、イチゴ果実1kgに対し、0.1g以上5g以下の範囲で添加するものであり、また、その酵素は、セルラーゼ、ペクチナーゼ又は植物組織崩壊酵素の少なくともいずれかを用いる方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易かつ安価に商品価値の高いイチゴ種子を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種子繁殖型イチゴ品種を実用化させるためには、実用的な採種調製技術の開発が不可欠である。同品種の普及には、種子販売を前提とした経済的かつ実用的な採種調製技術が必要である。
【0003】
しかしながら、イチゴはランナーを利用した栄養繁殖で増殖させる方法が主流であったため、これまでにイチゴ果実からイチゴ種子をとる方法については、育種目的で検討された例がわずかにあるのみで、種子販売を前提とした観点から検討された例はない。された例としては、ブレンダーでイチゴ果実を破砕して種子を採る方法、またはイチゴ果実に対し高圧の洗浄液(例えば水)を吹き付けて種子をとるといった高圧洗浄法が開示されるのみである。
【0004】
なお、種子選別方法の他の例として、例えば下記特許文献1には、柑橘類果実の搾汁粕から種子を選別する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−100459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ブレンダーを用いた方法または高圧洗浄法では、種子の破壊、損傷により種子の歩留まりが悪く、また、発芽が低下し、商品価値が著しく低くなる。さらには、図5のように種子に維管束(繊維)、果肉が残り、乾燥後、種子同士が絡まり合い、採種調製後の種子精選が困難であるだけではなく、微生物による汚染の危険、外観が悪いといった課題がある。
【0007】
上記特許文献1に記載の方法は、柑橘類果実から柑橘類の種子を得る方法であって、イチゴ果実に関するものではない。
【0008】
また、工業原料として用いるための種子を柑橘類果実の搾汁粕中から分離する方法であって、種子繁殖(発芽させ栽培すること)を目的とした種子を得るための採種調製方法に関するものではないため、発芽については全く考慮されていないといった課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、イチゴ種子を得るため、商品価値の高いイチゴ種子を容易かつ安価に得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための一手段として、本発明に係るイチゴ種子を得る方法は、イチゴ果実に酵素を添加し、残渣を除去し、乾燥させることとする。
【0011】
また、本手段において、限定されるわけではないが、酵素は、イチゴ果実1kgに対し、0.1g以上5g以下の範囲で添加されることが好ましい態様である。
【0012】
また、本手段において、限定されるわけではないが、酵素は、セルラーゼ、ペクチナーゼ又は植物組織崩壊酵素の少なくともいずれかを用いることが好ましい態様である。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明は、容易かつ安価に商品価値の高い、高品質なイチゴ種子を得る方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書においては同一又は同様の機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施形態1)
本実施形態に係るイチゴ種子を得る方法は、イチゴ果実に酵素を添加し、残渣を除去し、乾燥させることを特徴の一つとする。
【0016】
本実施形態に係るイチゴ種子を得る方法は、限定されることなく様々なイチゴ品種に適用可能である。また、イチゴ果実の成熟度は、着色が開始している限りにおいて限定されず、未熟、適熟又は過熟のものであってもよいが、過熟のものが最も好ましい。
【0017】
本実施形態において用いる酵素は、イチゴ果肉を崩壊させることができる限りにおいて限定されることはないが、セルラーゼ、ペクチナーゼ又は植物組織崩壊酵素の少なくともいずれかであることが好ましい。また、用いる酵素は、限定されるわけではないが、例えばイチゴ果実1kgに対し、0.1g以上5g以下(果実重量に対して0.01%以上0.5%以下)の範囲内で添加されることが好ましく、より好ましくは0.5g以上1g以下の範囲内である。
【0018】
また、イチゴ果実に酵素を添加した後は、所定の温度で所定の時間保持し、イチゴ果肉を溶解させることが好ましい。保持する温度としては、酵素が効率よく機能する温度であれば限定はされないが、例えば35℃以上45℃以下の範囲内であることが好ましい。また、保持する時間としても、上記と同様限定されるわけではないが、例えば1時間以上2時間以内であることが好ましい。
【0019】
その後、本実施形態では、酵素が添加された後のイチゴ果実から溶解しきれなかった残渣を除去し、種子を乾燥させる。
【0020】
本実施形態に係るイチゴ種子を得る方法は、コストおよび手間を大幅に削減できる酵素を用いた処理を行うことで、低コスト化を図ることができる。
【0021】
酵素により選択的にイチゴ果肉を溶解させ、溶解しきれなかった残渣を除去し、浮遊残渣を除去するために水洗を行う際、発芽率の高い沈殿した種子と発芽率の低い浮遊した種子を選別できることから、調整と同時に種子の粗選別を行うことができる利点は大きく、発芽率の高い種子を得ることができる。
【0022】
また、この方法によると、ブレンダーを用いた方法または高圧洗浄法と異なり、図4のように、イチゴ種子には維管束、傷等が殆ど無く、表面がきれいなため、採種調製後の種子精選に有利であり、発芽率、外観も良く商品価値も高い。従って種子の高品質化を図ることができる。また、破損種子も殆ど無いため、歩留まりも良い。
【0023】
即ち、容易かつ安価に商品価値の高い、高品質なイチゴ種子を得る方法を提供することができる。
【実施例】
【0024】
ここで、上記実施形態の効果につき、実際のイチゴ果実からイチゴ種子を採種調製し、効果を確認した。以下に示す。
【0025】
本実施例では、品種‘とちおとめ’から種子を採種調製することとし、イチゴ果実の成熟段階として、未熟状態のもの(採種例1)、適熟状態のもの(採種例2)、過熟状態のもの(採種例3)をそれぞれ10kgずつ用いた。図1に、イチゴ果実の成熟段階についての例を示した。
【0026】
また本実施例では、酵素として「セルラーゼ“オノズカ”3S」、「セルラーゼY−NC」、「ペクチナーゼSS」、「ペクチナーゼ3S」、「植物組織崩壊酵素剤マセロチームA」(いずれもヤクルト薬品工業株式会社製)をイチゴ果実10kgに対し、それぞれ50g(0.5%)添加、適宜撹拌し、40℃で90分間保持した。
【0027】
また本実施例では、この後、目開き1cmのふるいで残渣を除去し(図2)、更に水中の浮遊残渣を除去し、沈殿したイチゴ種子(図3)から、目開き2mmのふるいを通り、目開き850μmのふるいを通らなかった種子のみを回収し、数回水洗を繰り返し、浮遊残渣を完全に除去し、表面を乾燥させ、乾燥したイチゴ種子を得た。
【0028】
なお、ここで比較例として、適熟状態のイチゴ果実500g(25果)に対してブレンダーで種子を採る方法(採種例4)。および、イチゴ果実に対し高圧の水を吹き付けて種子を濾し採る高圧洗浄法(採種例5)を実施したなお、本実施例により得た種子量については、下記表1に示した。
【表1】

【0029】
本実施例では、酵素を用いて一定の温度に維持する程度でイチゴ種子を得ることができ、ブレンダーを用いた方法または高圧洗浄法に比べ非常に容易かつ高い種子回収量となった。また、イチゴ種子の表面も、高圧洗浄法に比べ、非常にきれいなものとなっていた。図4に、本実施例により得たイチゴ種子の表面を示し、図5に、高圧洗浄法により得たイチゴ種子の表図面を示した。
【0030】
また、上記により得たイチゴ種子に対し、発芽試験を行い、発芽率を調査した。なお、発芽試験は、10分間濃硫酸処理を行い、十分に水洗し、アンチホルミン(有効塩素2.5%)で5分間殺菌した後,水洗し,9cmシャーレに50粒の種子を置床し、25℃の連続明条件で、7日間行った。結果を表2に示した。高圧洗浄法によるイチゴ種子(採種例5)は発芽率が79.5%であったのに対し、本実施例によるイチゴ種子はいずれも発芽率が80%を越えており、同程度の成熟段階の果実では82.5%と高く、過熟状態では更に高く94.5%であった。採種例2の沈殿した種子と浮遊した種子の比較では、沈殿した種子の発芽率が82.5%であったのに対し、浮遊した種子は発芽率3.5%と非常に低かった。以上の結果から、酵素処理法は高い発芽率を維持し、有効なイチゴ種子採種調製方法であることが確認できた。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、イチゴ種子の採種方法として、産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】イチゴ果実の成熟段階について説明するための図である。
【図2】ふるいによる残渣除去を示す図である。
【図3】沈殿したイチゴ種子を示す図である。
【図4】実施例により得たイチゴ種子の表面を示す図である。
【図5】高圧洗浄法により得たイチゴ種子の表面を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴ果実に酵素を添加し、残渣を除去し、乾燥させてイチゴ種子を得る方法。
【請求項2】
前記酵素は、イチゴ果実1kgに対し、0.1g以上5g以下の範囲で添加する請求項1記載のイチゴ種子を得る方法。
【請求項3】
前記酵素は、セルラーゼ、ペクチナーゼ又は植物組織崩壊酵素の少なくともいずれかを用いる請求項1記載のイチゴ種子を得る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−51318(P2010−51318A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239887(P2009−239887)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2007−40318(P2007−40318)の分割
【原出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】