説明

イチジク果実の生産方法

【課題】イチジクの発芽と果実肥大を促進し、凍害、日焼け、害虫等によるイチジクの損傷を回避する技術を提供する。
【解決手段】イチジクの整枝剪定法およびそれによるイチジク果実の生産方法であって、主幹近傍から発生する当年の1年枝1本に、必要であれば主幹から離れた部位から発生するもう1本の1年枝を加え、合計2本以下の1年枝とその支えを成す枝で次年度の一方向の主枝を構成することとし、これを毎年繰返すことにより主枝全体を発生後3年以内の状態に維持更新し、これにより、全ての1年枝を主枝の2年枝部分から直接発生させるとともに、主枝候補となる1年枝を一時的に凍害を受け難い角度に誘引する手法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチジクの発芽と果実肥大を促進し、凍害、日焼け、害虫等によるイチジクの損傷を回避する技術を提供することを目的とする、イチジクの整枝剪定法によるイチジク果実の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イチジク栽培では、図1の「杯状形整枝」と呼ばれる樹形が古くから採用されてきた。すなわち、樹の根元の部分である主幹(1)から主枝(2)を、主枝から亜主枝(3)を分岐させて、樹の基本的な骨格を形成し、この骨格から派生する1年枝(5)に果実を着生させる。剪定は収穫を終えた後に行い、1年枝を短く切り返したり、1年枝あるいは1年枝を派生させている枝ごと間引するなどの方法で行う。こうして前年の1年枝から次年の1年枝を新たに発生させ、これを繰り返して、毎年の果実生産が成立する。
【0003】
一方、高齢化が進むイチジクの栽培現場では、省力的化が期待できる樹形が求められ、主枝から整った間隔で1年枝を規則正しく派生させる樹形が増えている。これらのうち、最も普及しているのが一文字整枝(図2)で、主幹(1)から発生する枝(2)あるいはその枝から発生する枝(4)を直線的に配した枝により、樹の骨格を成す主枝を形成し、これから規則正しく1年枝(5)を派生させて果実を成らせる。主枝は、主幹を中心に左右2本配置するのが基本で、栽培の都合により、主枝を片側1本のみにする場合もある。
【0004】
図3は「H型整枝」と称し、主幹(1)から発生する2本の枝をさらに2方向に分岐させた枝(2)あるいはそれらの枝から発生する枝(4)を直線的に配置した枝により、樹の骨格を成す主枝を形成し、規則正しく1年枝(5)を派生させて果実を成らせる。主枝の数は4本が基本だが、栽培の都合で数が変動することもある。また、H型整枝の主枝を主幹から放射状配置する場合があり、この樹形を「X型整枝」と呼ぶが、外観が類似するために、「H型整枝」の一形態とも考えられる。さらに、一文字整枝やH型整枝の主枝を高い位置から発生させ、ブドウの棚栽培に類似した樹形に誘導して栽培することも可能である(図4、図5)。
【0005】
これらの樹形における剪定は1年枝を、発生位置から数cmに短く切徐する(切り返す)ことによって行われ、その枝から次年度の1年枝が発生する。しかし、短く切り返した枝ほど、次年度の1年枝の発芽は遅延する傾向があり、それに伴って果実の成熟も遅れるほか、棚栽培においては、果実がわい小化する問題を生ずる。
【0006】
また、剪定で切除されるのが1年枝のみのため、2年枝以降の古い枝が残存して肥大する。そのため、果実生産に関与しない部分の比率が増して、不経済な樹体構造が年々悪化するとともに、骨格となる枝がカミキリ虫などの虫害、寒さによる凍害、日焼けなどによる損傷を受け、樹全体が衰弱枯損する被害を招き易い。特に、近年は凍害の被害が著しいが、これは、温暖化による暖冬傾向が返って春先の耐寒性を弱めているためだと考えられている。また、凍害は水平な枝ほど被害を受けやすいとされ、水平骨格を成す一文字整枝やH型整枝の普及は、イチジクの凍害をさらに助長している。
【0007】
特許文献1は、イチジクの栽培用棚を開示しているが、具体的な栽培法については記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-31号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】株本暉久. 1986. イチジクの整枝法に関する生理生態学的研究,特に新たに考案した一文字整枝法について. 兵庫農総セ特別研究報告: 1-88.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、イチジクの発芽と果実肥大を促進し、凍害、日焼け、害虫等によるイチジクの損傷を回避する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の問題を解決する新たなイチジクの整枝剪定法を考案し、その有効性を検証し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、以下のイチジク整枝剪定法によるイチジク果実の生産方法を提供するものである。
項1.主幹近傍から発生する当年の1年枝1本のみで、次年度の一方向の主枝を構成し、その1年枝の支えを成さない他の枝は剪定時に切除し、これを毎年繰返すことにより主枝を更新し、主枝全体を発生後2年以内の状態に維持するイチジクの整枝剪定法によりイチジクを栽培して果実を収穫することを特徴とするイチジク果実の生産方法。
項2.主幹近傍から発生する当年の1年枝1本に、主幹から離れた部位から発生するもう1本の1年枝を加え、合計2本の1年枝とその支えを成す枝で次年度の一方向の主枝を構成することとし、他の枝を剪定時に切除し、これを毎年繰返すことにより主枝を更新し、主枝全体を発生後3年以内の状態に維持するイチジクの整枝剪定法によりイチジクを栽培して果実を収穫することを特徴とするイチジク果実の生産方法。
項3.樹全体の主枝が3年枝あるいは3年枝より若い枝からなり、全ての1年枝を主枝の2年枝部分から直接発生させる、項1又は項2に記載のイチジク果実の生産方法。
項4.1年枝を次年度の主枝として必要な角度に曲げて誘引する時期を次年度の春以降とし、それまでの冬期間は垂上もしくは垂下させて維持することを特徴とする項1〜3のいずれかに記載のイチジク果実の生産方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イチジク樹の主枝の水平部分に生じやすい凍害などの損傷を防止でき、果実の収穫開始時期を前進でき、特に棚一文字整枝栽培において果実肥大を促進できる。
【0014】
以下、その効果を詳細に述べる。
【0015】
1)従来の整枝剪定法のイチジク樹は、枝の水平部分が凍害を受けやすいが、本発明の整枝剪定法では、枝の大半の部分を垂直に配置でき、凍害の恐れが無くなる時期を待って水平に倒すという操作を行うため、構造的に凍害を回避する効果が得られる。
2)イチジク樹の骨格はカミキリムシや日焼けによっても損傷を受け、数年を経て枯死に至ることもあるが、本整枝剪定法を使えば、損傷部分を毎年更新することができ、実害を回避できる。
【0016】
3)本発明の整枝剪定法では、収穫を終えた1年枝を短く切り返さず、長い状態の結果母枝として2年枝を使用できるため、短い結果母枝を使う従来の整枝剪定法に比べて、発芽が早く果実の成熟開始が早まる。
4)棚一文字整枝のイチジクにおいて本発明を実施すると、従来の一文字整枝のイチジクに比べて大きな果実を生産できる。肥大促進のメカニズムは今のところ不明であるが、本発明によって樹の骨格が常に更新でき、古くて太い材部の蓄積が抑制されるためではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】イチジク栽培における既存の「杯状形整枝」の正面模式図である。
【図2】イチジク栽培における既存の「一文字整枝」の立体模式図である。
【図3】イチジク栽培における既存の「H型整枝」の立体模式図である。
【図4】イチジク栽培における既存の「一文字整枝」を改変し主枝位置を高くして棚栽培とした樹形の立体模式図で、「一文字整枝」の一形態である。本発明では「棚一文字整枝」と称する。
【図5】イチジク栽培における既存の「H型整枝」を改変し主枝位置を高くし、「棚栽培」とした樹形の立体模式図で、「H型整枝」の一形態である。本発明では「棚H型整枝」と称する。
【図6】イチジク栽培における「一文字整枝」を例とし、枝の齢と呼称についての定義を示すため、従来形態(上段)と本発明の一部実施形態(下段)との対比を示した模式図である。
【図7a】本発明に関して、想定される様々な実施形態と対照となる従来形態の模式図である。
【図7b】本発明に関して、想定される様々な実施形態と対照となる従来形態の模式図である。
【図7c】本発明に関して、想定される様々な実施形態と対照となる従来形態の模式図である。
【図7d】本発明に関して、想定される様々な実施形態と対照となる従来形態の模式図である。
【図7e】本発明に関して、想定される様々な実施形態と対照となる従来形態の模式図である。
【図8】イチジク栽培における「一文字整枝」を例とし、この発明の一実施例を示すため、その整枝剪定法を従来形態との対比で示した模式図である。
【図9】棚一文字整枝と本発明を組合せて栽培したイチジク‘桝井ドーフィン’(下段)であり、従来形態(上段)に比べて、肥大と着色が促進された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、以下の定義を用いる(図6参照)。
「整枝剪定」:樹の枝を配置して樹形を作る作業を「整枝」とし、枝を人為的に曲げて固定する誘引作業も整枝に含める。また、「剪定」は、その整枝の目的で枝を切る作業を示し、両者を総合して「整枝剪定」と称する。
「1年枝」:発生から1年以内の枝(S)のことを言い、この枝にイチジクの果実(f)が実る。1年枝は植物生理上、基本的には2年枝から発生する。1年枝は枝の成立や役割を示すため、「新梢」、「当年枝」あるいは「結果枝」と称される場合がある。
「2年枝」:前年は1年枝であり、発生から1年以上2年未満の枝(a)をいう。本発明では、剪定後に残される枝の1つである。枝の成立ちや役割を示すため、「前年枝」あるいは「結果母枝」と称される場合がある。
「3年枝」:前年は2年枝であり、発生から2年以上3年未満の枝(b)をいう。本発明では、剪定後に残されるもう1つの枝である。以下、4年枝(c)、5年枝(d)、6年枝・・・・・と続く。
「主幹」:イチジクの樹木の幹の部分(T)である。
「主枝」:主幹から発生する枝あるいはそれらの枝から発生する枝で、樹の骨格を成す枝をいい、前者を主枝とし後者を主枝延長枝と表現する場合がある。従来の一文字整枝の例(図6上段)に示すとおり、主幹(T)から必要な数の方向に伸びる主枝は、それぞれ連続する1本の枝(M)で形成するのが一般的である。しかし、本発明の実施例の中には図6下段に示すように、主枝が2年枝(a)若しくは3年枝(b)から実質的に構成され、主幹(T)に近い2年枝と3年枝が重層する形態もあるが、本発明では何れも一方向の主枝を形成するものとして定義する。なお、ここで言う「実質的」の意味は、厳密には主枝には剪定の都合上4年枝(c)、5年枝(d)・・・・の部分が主幹の近傍にわずかに含まれるが、4年枝以上の部分は極めて短い状態であることを示すものである。
「イチジク」:イチジクの樹木を意味する。
「イチジク果実」:食用に供されるイチジクの部分を、本明細書では「イチジク果実」、あるいは単に「果実」と称する。
【0019】
1つの実施形態において、本発明は、イチジクの整枝剪定法によるイチジク果実の生産方法に関する。すなわち、全ての1年枝を主枝から直接発生させて果実を実らせる手法である。そのため、主幹近傍から発生する2年枝だけで主枝を構成する。あるいは、主幹近傍から発生する2年枝だけで主枝の長さを満たせない場合は、これらの2年枝の先端付近から先に、もう1本の2年枝を確保し、その支えを成す3年枝を含めた枝のみで主枝を構成する。そして、これらの主枝を更新する整枝剪定を毎年繰返すことにより、主枝の齢構成を常に3年以下という若い状態に維持し、果実が実る1年枝を主枝から直接発生させ得る点が本発明の実施形態の特徴である。
【0020】
主枝が若い状態で維持できるため、様々なメリットが生ずる。たとえば、若い主枝は容易に曲げられるので、主枝は寒冷期には垂直あるいは垂下させた状態とし、冷え込みの心配がなくなった時点で必要な角度に誘引することで、水平部に生じやすい凍害を回避できる手法を提供することも本発明の特徴である。また仮に、凍害、カミキリ虫などの虫害、日焼けなどを受けた場合でも、主枝が毎年更新されるためにイチジクには実害が及ばない。また、長い2年枝から1年枝を発生させる樹体構造となるため、2年枝を短くする従来にくらべ、1年枝の発芽とともに果実の熟期が前進化し、棚栽培では、果実の肥大促進などの効果が得られる。
【0021】
図7a〜eを用い本発明の実施形態に至る過程を説明する。図7a〜eは、想定される様々な実施形態をパターン化して示したもので、一文字整枝、もしくは棚一文字整枝を基本しているため、主枝は2本で示したが、必要に応じて主枝の数は増減できる。そのため、これらのパターンをH型整枝やX型整枝に当てはめることも可能である。杯状形整枝への当てはめも可能だが、この時の樹形はX型整枝と同等のものとなる。
【0022】
まず、パターン(イ)〜(リ)は、苗の植付から5年目までの整枝剪定の工程を模式化している。イチジク苗は一般に1本枝の形状をなし、定植年(樹齢1年)の苗については、発生する不要な芽を切除しながら、主枝候補として必要な数の1年枝を生長させる。一般には、主枝候補とした枝(s1)を斜めに伸ばし、翌春に水平に誘引して2年目の主枝(M1)とし、これから発生する1年枝(S)に果実を実らせる。また、多くの場合、この主枝だけでは、樹形の骨格として必要な主枝の長さに満たないため、その先端付近から発生する1年枝を主枝延長枝(s2)とし、1年目の主枝候補と同様の管理を行う。また、H型整枝は図示していないが、1年目に伸ばす2本の1年枝を伸長の途上で摘心し、これから発生する副梢を各2本ずつ、計4本伸ばして主枝とするのが一般的で、その後、各主枝については一文字整枝と同じ様式で主枝として必要な長さを確保する。しかるに、ここまでの工程は、既存の一文字整枝やH型整枝の整枝剪定法と共通であり、本発明は関与しない。
【0023】
定植後の苗が順調に生育した場合、本発明の実施は2年目の冬から適応される。このうちパターン(ロ)は最も単純化された実施形態を示し、対照となる従来形態がパターン(イ)であり、いずれも、イチジク樹を大きくせず密植する場面で実施される形態である。従来形態であるパターン(イ)では、果実の収穫を終えた1年枝(S)は短く切除し、それぞれから翌年の1年枝(S)を発生させる操作を毎年繰り返すため、主枝(M1)は更新されずに年々肥大する。これに対してパターン(ロ)は剪定時に主枝近傍の1年枝(s1)だけを残し、これを次年度の主枝として誘引する操作を毎年繰り返すことで、主枝(M1)は2年以下の状態で更新され、結果枝となる全ての1年枝(S)を主枝から直接発生させることができる。なお、パターン(ハ)は主枝を斜立させた場合を示し、それ以外はパターン(ロ)と同様である。
【0024】
パターン(ホ)は、実際場面で最も多用されると思われる実施形態を示す。パターン(ホ)の場合は、パターン(ロ)よりも樹を大きくする必要があるため、主幹近傍から発生する1年枝(s1)だけで次年度主枝の長さを満たせない。そのため、1年枝(s1)が着生する2年枝の先端付近から、もう1本の1年枝(s2)を確保し、1年枝(s1とs2)を水平に誘引して次年度の1方向の主枝を構成する。そのため、次年度は主枝の主幹に近い部分において2年枝と3年枝が重層する形態を成す。収穫後、剪定によって不要な枝を切除して、重層部分の2年枝およびその主幹近傍と先端部分から発生する1年枝(s1,s2)のみを残し、これらを再び次年度の主枝として誘引する操作を毎年繰り返すことで、主枝の齢構成を常に3年以下の状態に維持できる。そして、1年枝は基本的に2年枝からしか発生し得ないので、この場合も全ての1年枝(S)が主枝から直接発生する形態が実現できる。パターン(ニ)はパターン(ホ)の対照となる従来形態であるが、パターン(イ)と同様、主枝(M1,M2)は更新されずに年々肥大する。なお、パターン(ヘ)は主枝候補となる1年枝(s1,s2)を、予め必要な角度に誘引しておく方法を示す。パターン(ホ)に比べ誘引は容易であるが、季節によって枝の誘引角度を変えて凍害を防止するという本発明の一部は実施できない。
【0025】
パターン(チ)は棚一文字整枝での実施形態で、その対照となる形態がパターン(ト)であり、一部を平面図で表記している。棚栽培のため果実を着生させる1年枝(S)は水平に配置するが、剪定法を含めそれ以外の管理はそれぞれパターン(ホ)とパターン(ニ)に順ずる。パターン(リ)も同じ棚栽培であるが、次年度の主枝候補となる1年枝(s1、s2)を、少なくとも寒冷な期間は垂下させて維持する形態で、パターン(チ)に欠落している本発明の一部、すなわち、季節によって枝の誘引角度を変えて凍害を防止するという手法を加えたものである。なお、パターン(リ)の応用として、次年度の主枝候補だけでなく、全ての1年枝を垂下させる形態も想定できる。
【0026】
パターン(ヌ)は従来形態であるパターン(ニ)からパターン(ホ)に変更する構成を示す。図は樹齢4年生での変更例を示すが、さらに樹齢を経た樹でもこの変更は可能である。このように本発明の方法は、栽培直後から適用することもできるが、2年かければ従来形態で整枝剪定されていたイチジク樹を主枝の齢が3年以内である本発明の整枝剪定法で得られるイチジクに誘導可能であることを示す。また、パターン(ル)はアクシデントなどで、本発明の形態に類似した整枝剪定に一時的に移行するもので、本発明の実施には当たらない例として示した。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0028】
実施例1:一文字整枝のイチジクにおける本発明の実施と効果
図7のパターン(ヌ)に従い、既存の一文字整枝イチジク‘桝井ドーフィン’樹を、本発明の整枝剪定法に移行し、移行させない対照樹との間で、凍害の発生、1年枝の生育、果実生産性などを比較した。図8の右側には本発明に移行した後の整枝剪定法を、従来形態(図8左側)との比較で詳細に模式化している。主枝(M)は、主幹近傍から発生する2年枝2本と、主幹から発生する3年枝を介して発生する2年枝2本の、合計4本で構成され、前者と後者が重層する形態をもって成立する。剪定時には、前者から発生した1年枝であって、主幹部に近い1本(s1)とより先端の1本(s2)の計2本(樹あたり計4本)を選び、これらの枝の支えを成さない部分、すなわち前者の不用な1年枝と後者の主枝およびそこから派生する枝(SM)を全て切除する。こうして残した4本の1年枝(3)は水平に曲げて次年の主枝(M)として用い、これらから再び次年の1年枝を発生させる操作を毎年繰り返す。
栽培比較試験の結果は表1のとおりであり、本発明に移行した樹では、凍害の発生が抑制され、1年枝の展葉が促進された。また、果実の成熟が早まり、果実肥大が促進されるなどの効果が得られた。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例2:棚一文字整枝のイチジクにおける本発明の実施と効果
棚一文字整枝、すなわち図7のパターン(ト)で栽培していたイチジク‘桝井ドーフィン’樹において、本発明の整枝剪定法である図7のパターン(チ)に移行した樹と、パターン(ト)のまま移行させない樹との間で、1年枝の生育、果実生産性などを比較した。なおパターン(ト)からパターン(チ)への移行の行程は、図7のパターン(ヌ)に示した方法を、棚一文字整枝に応用して行った。
栽培比較試験の結果は表2のとおりであり、凍害の発生は対照樹をふくめてほとんどなかったが、本発明に移行した樹では、1年枝の展葉が促進された。また、果実の成熟が早まり、特に基部果実の肥大が促進されるなどの効果が得られた。
【0031】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の整枝剪定法による生産方法では、凍害、日焼け、カミキリ虫の被害など、イチジクの枯死をもたらす多大なリスクを回避することができる。凍害をもたらす気象変動は予測が難しく、農家は全ての樹を保温材で包むなどの防寒処理を毎年行う必要がある。本剪定法は毎年継続して実施する事が可能であり、これにより、寒害防止に費やす労力とコストの大幅な削減が期待できる。
【0033】
本発明の整枝剪定法による生産方法では、短い結果母枝を使う従来の整枝剪定法に比べて、発芽が早く果実の成熟開始が早まるため、市場価格がより有利な時期の出荷を促進するとともに、収穫期間の延長による増収に貢献できる。また、この生産方法は果実肥大を高めて直接的に収量を増やすなど、いずれも農家の収益性の向上に利用できる。また、国内で生産されるイチジクのほとんどは、最も果実が大きい‘桝井ドーフィン’という品種に限られるが、イチジクには他にも数多くの品種があり、‘桝井ドーフィン’よりも食味が優れるものの、果実が小さくて普及していない品種も多い。棚一文字整枝のイチジクにおいて本発明を実施すると、従来の一文字整枝のイチジクに比べて極めて大きな果実を生産できるため棚一文字整枝と本発明の併用により、果実が小さいことで普及していない高食味な品種の発掘にも結びつくと考えられる。
【符号の説明】
【0034】
1 主幹
2 主枝
3 亜主枝
4 主枝延長枝
5 1年枝
T 主幹
M 一方向の主枝
M1 一方向の主枝として主幹近傍から発生する主枝
M2 M1から発生する主枝延長枝
S 一年枝
s1 次年度M1の候補となる1年枝
s2 次年度M2の候補となる1年枝
SM 剪定時に切除する一方向の主枝および1年枝
a 2年枝
b 3年枝
c 4年枝
d 5年枝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主幹近傍から発生する当年の1年枝1本のみで、次年度の一方向の主枝を構成し、その1年枝の支えを成さない他の枝は剪定時に切除し、これを毎年繰返すことにより主枝を更新し、主枝全体を発生後2年以内の状態に維持するイチジクの整枝剪定法によりイチジクを栽培して果実を収穫することを特徴とするイチジク果実の生産方法。
【請求項2】
主幹近傍から発生する当年の1年枝1本に、主幹から離れた部位から発生するもう1本の1年枝を加え、合計2本の1年枝とその支えを成す枝で次年度の一方向の主枝を構成することとし、他の枝を剪定時に切除し、これを毎年繰返すことにより主枝を更新し、主枝全体を発生後3年以内の状態に維持するイチジクの整枝剪定法によりイチジクを栽培して果実を収穫することを特徴とするイチジク果実の生産方法。
【請求項3】
樹全体の主枝が3年枝あるいは3年枝より若い枝からなり、全ての1年枝を主枝の2年枝部分から直接発生させる、請求項1又は請求項2に記載のイチジク果実の生産方法。
【請求項4】
1年枝を次年度の主枝として必要な角度に曲げて誘引する時期を次年度の春以降とし、それまでの冬期間は垂上もしくは垂下させて維持することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイチジク果実の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図7e】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−125213(P2012−125213A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281204(P2010−281204)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】