説明

イナーシャ制御装置

【課題】回転軸の加速時及び減速時に回転軸を回転させるモータに負担がかからず、回転軸が定速度で回転している際には、前記モータに負担がかからずに、回転軸へ十分な大きさのイナーシャを与えることができるイナーシャ制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】回転軸10の回転中心線10L回りに回転することが可能な、回転軸10と物理的に連結されていない回転部材11と、回転軸10の回転中心線10L回りに回転することが可能な伝達部材12と、伝達部材12に対して回転軸10の方向に付勢力を与える付勢部材13と、を備え、伝達部材12は、回転中心線10L回りの回転によって発生した遠心力によって、付勢部材12による付勢力に逆らって回転部材11の方向へ移動して回転部材11と当接して回転部材11へ回転軸10の回転力を伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転軸に与えるイナーシャの大きさを制御するイナーシャ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転体が安定して回転しない現象が生じることがある。例えば、回転中の回転体において、回転体に振動が生じたり、回転速度が一定に保持されないことがある。
【0003】
このような現象を防止するために、回転体の回転軸と同心状にフライホイールが取り付けられていることが通例である。このようなフライホイールは、回転体の回転軸にイナーシャを与える。このように、回転軸に対してイナーシャが与えられるので、回転体が安定して回転することが可能となる。
【0004】
ところが、回転軸の回転速度が加速及び減速するためには、回転軸にかかる回転力が、回転軸を停止及び回転させ続けようとするイナーシャに逆らう必要がある。このように回転軸にかかる回転力が、回転軸を停止及び回転させ続けようとするイナーシャに逆らう際には、回転体を回転させるモータに大きな負担がかかる。そのため、現実には、フライホイールの直径、質量が、モータの特性(例えばトルク)に応じて決められている。
【0005】
特許文献1乃至5には、モータの特性に規制されずに汎用的に使用されうるフライホイールが提案されている。特許文献1において、回転体の回転軸と同心状にフライホイールが設けられている。そして、回転軸とフライホイールとの間には、ワンウェイクラッチが設けられており、回転軸の回転速度が低下すると、ワンウェイクラッチが、回転軸とフライホイールとの連結を解除して、回転体に与えるイナーシャを小さくする。
【0006】
特許文献2において、軸と同心状に取り付けられたフライホイールの内部において、軸側には電磁石が設けられており、電磁石よりも径方向外側には磁性体が設けられている。このようなフライホイールは、軸の回転が開始された後における加速時、及び、軸の回転が停止するまでの減速時において、電磁石が通電されて磁性体が電磁石側へ移動して、軸に与えられるイナーシャが小さくなる。一方、軸の回転速度が定速度に達した際には、電磁石の通電が解除されて磁性体が遠心力により径方向外側に移動して、軸に与えられるイナーシャが大きくなる。
【0007】
特許文献3乃至5において、回転軸と同心状に設けられたフライホイールの内部において、径方向に移動可能な移動体が設けられている。回転軸の回転速度が加速及び減速している際には、移動体に対して径方向外側にかかる遠心力がさほど大きくないので、移動体が径方向外側に移動していない。その際には、フライホイールの重心は径方向外側にはないため、回転軸に与えられるイナーシャが小さい。一方、回転体が定速度に達した際には、移動体が遠心力によって径方向外側に移動してフライホイールの重心が径方向外側に移動するため、回転軸に与えられるイナーシャが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−196734号公報
【特許文献2】特開平9−42379号公報
【特許文献3】特開平11−231723号公報
【特許文献4】特開2000−291742号公報
【特許文献5】特開2000−310219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記したフライホイールにおいて、以下の問題点が存在する。つまり、特許文献1において、ワンウェイクラッチが、回転軸とフライホイールとの間に設けられていることが要される。そのため、部品点数が上がり、コストアップの要因となりうる。
【0010】
また、特許文献2において、電磁石が軸側に設けられていることが要される。さらに、電磁石に対する通電を制御するための部品も要される。そのため、部品点数が上がり、コストアップの要因となりうる。
【0011】
また、特許文献2乃至5において、フライホイールの内部に、イナーシャの大きさを変化させるための移動体が設けられている。このような移動体はそれ自身に質量があるため、回転軸の加速時及び減速時において、たとえ、移動体がフライホイールの径方向外側に移動していなくても、移動体の質量そのものがフライホイール本体の質量に加わった状態となっている。そのため、フライホイール自身が有するイナーシャがさほど小さくはならない。そのため、回転軸の加速時及び減速時において、フライホイール自身が有するイナーシャに逆らうことができる大きさのトルクが必要とされるため、回転軸を回転させるモータにとって負担となる。
【0012】
さらに、特許文献2乃至5において、フライホイールが定速度で回転することによって移動体が径方向外側に位置している場合には、移動体とその隣の移動体との間で周方向に隙間が生じている。そのため、フライホイールの回転速度が定速度に達しても、フライホイールの重心が径方向外側へ移動する移動量が不十分となる。そのため、フライホイールの重心がフライホイールの径方向外側に移動する移動量が不十分となる。従って、回転軸に対して回転軸の回転速度を維持させようとするイナーシャがさほど大きくならない。
【0013】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、回転軸の加速時及び減速時に回転軸を回転させるモータに負担がかからず、回転軸が定速度で回転している際には、前記モータに負担がかからずに、回転軸へ十分な大きさのイナーシャを与えることができるイナーシャ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一局面に係るイナーシャ制御装置は、回転軸へイナーシャを与えるために前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な、前記回転軸と物理的に連結されていない回転部材と、前記回転軸と前記回転部材との間において前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転軸の回転力によって、前記回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な伝達部材と、前記回転軸及び前記伝達部材に取り付けられており、前記伝達部材に対して前記回転軸の方向に付勢力を与える付勢部材と、を備えており、前記伝達部材は、前記回転中心線回りの回転によって発生した遠心力によって、前記付勢部材による付勢力に逆らって前記回転部材の方向へ移動して前記回転部材と当接し、前記回転部材へ、前記回転軸の回転力を伝達することを特徴とする(請求項1)。
【0015】
この構成によれば、回転軸から当該回転軸の径方向の外側に向かって、回転軸の回転力によって回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な伝達部材と、伝達部材が当接した際のみに回転軸の回転力が伝達されて回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な回転部材と、が配設されている。伝達部材には、伝達部材に対して回転軸の方向に付勢力を与える付勢部材が取り付けられている。そして、伝達部材は、回転中心線回りの回転によって発生した遠心力によって、付勢部材による付勢力に逆らって回転部材の方向へ移動して回転部材と当接して、回転部材へ回転力を伝達する。
【0016】
そのため、回転軸の加速時及び減速時には、伝達部材が受ける遠心力の大きさが付勢部材による付勢力を下回りうるので、伝達部材は付勢部材による付勢力に逆らって回転部材の方向に移動しない。従って、回転軸の加速時及び減速時には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結されていない。
【0017】
一方、回転軸が定速度で回転している際には、伝達部材が受ける遠心力の大きさが付勢部材による付勢力を上回りうるので、伝達部材は付勢部材による付勢力に逆らって回転部材の方向に移動して、回転部材と当接する。従って、回転軸が定速度で回転している際には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結される。
【0018】
このように、回転軸の加速時及び減速時には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結されず、回転軸が定速度で回転している際には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結される。
【0019】
そのため、回転軸の加速時及び減速時には、回転軸を回転させるモータに負担がかからない。また、回転軸が定速度で回転している際には、回転軸と回転部材とが物理的に連結した状態で同じ方向へ回転するので、回転軸の慣性質量が大きくなる。そのため、回転軸の回転速度を維持させようとする十分な大きさのイナーシャが回転軸に与えられる。従って、前記モータに負担がかからずに、回転軸へ十分な大きさのイナーシャが与えられる。従って、出力が小さな小型のモータが使用されても、回転体が安定して回転する。また、小型のモータが使用されうるので、モータを設置するためのスペースが削減される。
【0020】
上記構成において、前記回転部材は、プラス及びマイナスのいずれか一方の極性を有する永久磁石を備えており、前記伝達部材は、前記回転部材が備える前記永久磁石とは逆極性を有する永久磁石を備えている構成とすることができる(請求項2)。上記構成において、前記回転部材及び前記伝達部材のいずれか一方は、プラス及びマイナスのいずれか一方の極性を有する永久磁石を備えており、前記永久磁石を備えていない前記回転部材及び前記伝達部材のいずれか一方は磁性体で構成されている構成とすることができる(請求項3)。
【0021】
これらの構成(請求項2及び請求項3の構成)によれば、伝達部材と回転部材との物理的な連結が、遠心力だけではなく、永久磁石による磁力によって補強されうる。
【0022】
上記構成において、前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転部材を収容する環状の中空部材をさらに備えている構成とすることができる(請求項4)。
【0023】
この構成によれば、回転部材が、回転軸と同心状に設けられた環状の中空部材に収容されている。そのため、中空部材が、回転部材を回転軸の周方向に沿って移動させるガイドとなりうる。従って、回転部材が、回転軸の回転中心線回りに回転することが可能となる。
【0024】
上記構成において、前記回転軸と同心状に設けられており、前記伝達部材が前記回転軸の周方向に沿って回転するように案内する環状のガイド部材をさらに備えている構成とすることができる(請求項5)。
【0025】
この構成によれば、伝達部材は、環状のガイド部材によって、回転軸の周方向に沿って回転するように案内される。そのため、伝達部材が、スムーズに回転軸の回転中心線回りに回転することができる。
【0026】
上記構成において、前記伝達部材及び前記付勢部材のそれぞれを、複数備えている構成とすることができる(請求項6)。この構成によれば、回転軸が回転した際には、回転部材の複数の部分において伝達部材が当接する。このような伝達部材の各々は、先述されたように、回転軸に取り付けられている。そのため、回転部材と回転軸との物理的な連結が強固となる。
【0027】
上記構成において、前記回転軸の周面から前記回転軸の径方向に沿って回転中心線へ達する、前記付勢部材を収容する中空部を、さらに備えている構成とすることができる(請求項7)。この構成によれば、付勢部材は、回転軸の周面から回転軸の径方向に沿って回転中心線へ達する中空部に収容されている。そのため、付勢部材が、付勢部材そのものが有するイナーシャによって、回転軸に遅れて加速及び減速する現象が極力抑制される。従って、付勢部材に取り付けられた伝達部材が、回転軸の回転力によって安定して回転することができる。
【0028】
上記構成において、前記回転軸の周面から前記回転軸の径方向に沿って回転中心線へ達する、前記付勢部材を収容する複数の中空部を、前記回転軸の周方向に沿って備えており、前記中空部のそれぞれが前記回転中心線上で交わる交点において、前記中空部に収容された前記付勢部材のそれぞれの一端が取り付けられる中心部材を備えている構成とすることができる(請求項8)。
【0029】
この構成によれば、複数の付勢部材が、回転軸の周方向に沿った複数の前記中空部に収容される。そのため、複数の伝達部材が、回転軸の周方向に沿って設けられるので、伝達部材の各々が、回転軸の軸方向にずれることなく、回転軸の回転中心線回りに回転することができる。そして、伝達部材の各々の回転により発生した遠心力が付勢部材による付勢力を上回った際には、伝達部材の各々が回転部材に対して周方向に整列して当接することができる。そのため、伝達部材と回転部材との物理的な連結が強固となる。
【0030】
上記構成において、前記付勢部材は、前記回転軸方向に向かう復元力を有する弾性部材である構成とすることができる(請求項9)。この構成によれば、付勢部材が弾性部材であるので、例えば、付勢部材がバネで構成されうる。そのため、付勢部材が安価となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、回転軸の加速時及び減速時には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結されず、回転軸が定速度で回転している際には、回転軸と、当該回転軸の径方向外側に存在する回転部材とが物理的に連結される。
【0032】
そのため、回転軸の加速時及び減速時には、回転軸を回転させるモータに負担がかからない。また、回転軸が定速度で回転している際には、回転軸と回転部材とが物理的に連結した状態で同じ方向へ回転するので、回転軸の慣性質量が大きくなる。そのため、回転軸の回転速度を維持させようとする十分な大きさのイナーシャが回転軸に与えられる。従って、前記モータに負担がかからずに、回転軸へ十分な大きさのイナーシャが与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るイナーシャ制御装置の外観の一例を示した斜視図である。
【図2】イナーシャ制御装置の要部の外観の一例を示した斜視図である。
【図3】イナーシャ制御装置の詳細な構造を説明するための図である。
【図4】イナーシャ制御装置の詳細な構造を説明するための図であり、伝達部材の各々が回転部材の各々と当接した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態に係るイナーシャ制御装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るイナーシャ制御装置の外観の一例を示した斜視図である。図2は、図1のイナーシャ制御装置の要部の外観の一例を示した斜視図である。このようなイナーシャ制御装置1は、例えば、画像形成装置において、回転体(例えば、感光体ドラム、転写ベルトを周回駆動させる駆動ローラ)を安定して回転させるために用いられるものである。
【0035】
このイナーシャ制御装置1は、図1に示されるように、回転体(図示せず)の回転軸10と同心状に設けられており、回転部材11(図2参照)を収容する環状の中空部材110を備える。また、イナーシャ制御装置1は、図2に示されるように、回転軸10と中空部材11との間には、回転軸10と同心状に、回転軸10の回転中心線10L回りに回転することが可能な伝達部材12を備える。
【0036】
このような伝達部材12には、図1及び図2に示されるように、回転軸10に取り付けられたコイルバネ(付勢部材)13が取り付けられている。コイルバネ13の各々は、回転軸10が回転した際には回転軸10の回転力が伝達されて、回転軸10の回転中心線10L回りに回転する。そして、コイルバネ13の各々の回転力は、伝達部材12の各々に伝達されて、伝達部材12の各々が回転軸10の回転中心線10L回りに回転する。従って、回転軸10が回転した際には、回転軸10の回転力が伝達部材12の各々に伝達されて、伝達部材12の各々が回転軸10の回転中心線10L回りに回転することができる。
【0037】
回転部材11に回転軸10の回転力をスムーズに伝達させる観点からは、伝達部材12は、回転部材11の個数と同じ個数設けられることが望ましい。本実施形態では、回転部材11及び伝達部材12の各々の個数は4個とされている。また、伝達部材12は、極力軽量の材質で構成されることが望ましい。伝達部材12固有のイナーシャが小さくなり、伝達部材12の回転が回転軸10の回転に遅れることが極力防止されうるからである。
【0038】
また、伝達部材12の各々の外周面(回転部材11と対向する面)の周方向の長さは、回転部材11の内周面(伝達部材12と対向する面)の周方向の長さと比較して、十分に小さいことが望ましい。このような長さに設定することで、伝達部材12の各々を、回転軸10の回転中心線10L回りに回転させながら、回転部材11の各々の方向へ移動させて、回転部材11のいずれかに当接させることができる。
【0039】
また、イナーシャ制御装置1において、図1及び図2に示されるように、先述されたコイルバネ13の各々が、回転軸10と伝達部材12との間に取り付けられている。コイルバネ13の各々は、回転軸10の方向に向かう復元力を有しており、伝達部材12に対して回転軸10の方向に付勢力を与える。そのため、伝達部材12の各々は、回転軸10の方向に向かう付勢力を受ける。
【0040】
尚、コイルバネ13の復元力と、伝達部材12が回転軸10の回転中心線10L回りに回転して生じる遠心力との関係は、以下に示される関係であることが望ましい。つまり、コイルバネ13の復元力は、回転軸10の加速時及び減速時において伝達部材12において生じる遠心力よりも大きく、回転軸10が定速度で回転した際に伝達部材12において生じる遠心力よりも小さいことが望ましい。回転軸10の加速時及び減速時に伝達部材12の各々が回転部材11の各々と当接せずに回転軸10と回転部材11の各々とを物理的に連結せず、回転軸10が定速度で回転したときのみ、伝達部材12の各々が回転部材11の各々と当接して回転軸10と回転部材11の各々とを物理的に連結するためである。
【0041】
コイルバネ13の各々の一端は、図1及び図2に示されるように、伝達部材12の各々に取り付けられている。ここに、コイルバネ13の各々の一端は、伝達部材12の各々の内周面(回転軸10の周面と対向する面)の略中央に取り付けられることが望ましい。伝達部材12の各々が回転軸10の回転中心線10L回りに回転する際に発生する遠心力、及び、伝達部材12の各々がコイルバネ13の各々から受ける付勢力、が、回転軸10の径方向に沿うからである。前記遠心力及び前記付勢力が回転軸10の径方向に沿うと、伝達部材12の各々が、回転軸10や中空部材110の周面に衝突せずに、回転軸10の径方向に沿ってスムーズに移動しうる。
【0042】
一方、コイルバネ13の各々の他端は、図1に示されるように、回転軸10の内部に存在している。そのため、イナーシャ制御装置1は、回転軸10の周面から回転中心線10Lに達する第1中空部(中空部)10a(図1参照)を、コイルバネ13の個数分、回転軸10の周方向に沿って備えている(図3参照)。そして、イナーシャ制御装置1は、それぞれの第1中空部10aが回転中心線10L上で交わる交点において中心部材102を備えている。このような中心部材102に対して、それぞれの第1中空部10aに収容されているコイルバネ13の各々の他端が取り付けられている。
【0043】
ここに、コイルバネ13の各々を収容する第1中空部10aの直径は、コイルバネ13の径方向の長さと略等しいことが望ましい。コイルバネ13の各々が第1中空部10aにおいてしっかりと保持されるため、コイルバネ13の各々の固有のイナーシャによって、コイルバネ13の各々の回転が回転軸10の回転に遅れることが極力防止されうるからである。また、コイルバネ13が第1中空部10aから露出している部分の長さは極力短いことが望ましい。コイルバネ13固有のイナーシャが極力小さくなり、コイルバネ13の回転が回転軸10の回転に遅れることが極力防止されうるからである。
【0044】
イナーシャ制御装置1において、回転軸10の停止時、加速時、及び減速時には、伝達部材12の各々は、回転部材11の各々と当接していない。伝達部材12の各々が回転軸10の径方向外側に受ける遠心力が、コイルバネ13の各々より回転軸10の方向に受ける付勢力よりも小さいからである。
【0045】
一方、回転軸10が定速度で回転している際には、伝達部材12の各々が回転軸10の径方向外側に受ける遠心力が、コイルバネ13の各々から回転軸10の方向に受ける付勢力よりも大きくなる。そのため、伝達部材12の各々は、コイルバネ13の各々による付勢力に逆らって回転部材11の各々の方向へ移動して、回転部材11のいずれかと当接する。その際、回転部材11の各々は、伝達部材12の各々から、回転軸10の回転力が伝達されるため、中空部材110の内部において、回転軸10の回転中心線10L回りに回転することができる。
【0046】
ここに、イナーシャ制御装置1において、いずれかの回転部材11の内周面(伝達部材12と対向する面)、及び、当該回転部材11と対向する伝達部材12の外周面(回転部材11と対向する面)へ、図2に示されるように、永久磁石M1及びM2が設けられていても良い。尚、永久磁石M1及びM2の極性は、互いに逆の極性である。つまり、永久磁石M1の極性がプラスである際には永久磁石M2の極性がマイナスである。一方、永久磁石M1の極性がマイナスである際には永久磁石M2の極性がプラスである。このように永久磁石M1及びM2が設けられると、回転軸10が定速度で回転している際に、伝達部材12と回転部材11との物理的な連結が強固となる。
【0047】
イナーシャ制御装置1において、回転部材11へ永久磁石M1及びM2のいずれか一方が設けられており、伝達部材12が磁性体で構成されていてもよい。また、伝達部材12へ永久磁石M1及びM2のいずれか一方が設けられており、回転部材11が磁性体で構成されていてもよい。これらの場合でも、回転軸10が定速度で回転している際に、伝達部材12と回転部材11との物理的な連結が強固となる。
【0048】
次に、イナーシャ制御装置1の詳細な構造が以下に説明される。図3は、イナーシャ制御装置1の詳細な構造を説明するための図である。尚、図3(a)は、イナーシャ制御装置1を回転中心線10L方向から見たときの正面断面図を示す。また、図3(b)は、イナーシャ制御装置1の側面断面図を示す。
【0049】
図3(a)及び図3(b)に示されるように、イナーシャ制御装置1において、環状の中空部材110には、回転部材11の各々を中空部材110の周方向に沿って収容する環状の第2中空部110aを備える。このような環状の第2中空部110aに沿って回転部材11の各々が移動する。つまり、回転部材11の各々は、環状の第2中空部110aによって、中空部材110の周方向に沿って移動するように案内される。そのため、回転部材11の各々が、回転軸10の回転中心線10L回りに回転することができる。中空部材110は、先述されたように、回転軸10と同心状に設けられた環状の部材であるからである。
【0050】
また、イナーシャ制御装置1において、中空部材110と回転軸10との間に、回転軸10と同心状に環状のカバー部材111及び112が設けられている。このような環状のカバー部材111及び112は、回転軸10の軸方向に沿って、後述される環状の第3中空部116aを挟んで配設されている。尚、本実施形態において、環状のカバー部材111及び112は樹脂製のカバー部材であるが、この例には限られない。つまり、材料は限定されない。
【0051】
環状のカバー部材111及び112において、回転軸10の軸方向に沿ったカバー部材111とカバー部材112との間には、伝達部材12の各々、伝達部材12に取り付けられたコイルバネ13の各々の一部、及び、伝達部材12が回転軸10の周方向に沿って回転するように案内する環状のガイド部材115、を収容するための環状の第3中空部116aが、回転軸10と同心状に設けられている。
【0052】
環状の第3中空部116aにおいて、環状のガイド部材115は、環状の第1ガイド部材113及び環状の第2ガイド部材114からなり、回転軸10と同心状に設けられている。そして、ガイド部材115において、第1ガイド部材113及び第2ガイド部材114との間には、回転軸10の軸方向に沿った間隔が設けられている。このような間隔は、ガイド部材115が、伝達部材12の各々を、回転軸10の周方向に沿って案内するために必要とされる間隔であるため、回転軸10の軸方向の長さと略同じ長さの間隔であることが望ましい。
【0053】
伝達部材12の各々は、回転軸10の軸方向において、第1ガイド部材113及び第2ガイド部材114との間に介在している。そのため、伝達部材12の各々は、ガイド部材115によって、回転軸10の周方向に沿って回転するように案内される。第1ガイド部材113及び第2ガイド部材114は、先述されたように、回転軸10と同心状に設けられているからである。そのため、伝達部材12の各々は、回転軸10の回転力がコイルバネ13から伝達されて、スムーズに回転軸10の周方向に沿って回転することができる。従って、伝達部材12の各々は、回転軸10の回転力によって、回転軸10の回転中心線10L回りにスムーズに回転することができる。
【0054】
イナーシャ制御装置1において、伝達部材12の各々は、先述されたように、回転軸10の回転中心軸10L上に設けられた中心部材102に他端が取り付けられたコイルバネ13の各々の一端が取り付けられている。尚、中心部材102は、先述されたように、各々の第1中空部10aが回転軸10の回転中心線10L上で交わる交点10cに設けられている。コイルバネ13の各々は、先述されたように、回転軸10の周方向に沿った複数の第1中空部10aの各々に収容されており、回転軸10の方向へ向かう復元力を有する。そのため、伝達部材12の各々は、コイルバネ13の各々によって回転軸10の方向へ付勢されている。
【0055】
尚、本実施形態において、コイルバネ13の各々は、回転軸10の周方向に沿った複数の第1中空部10aの各々に収容されており、コイルバネ13の各々の他端が、第1中空部10aの各々が回転軸10の回転中心線10L上で交わる交点10cに設けられた中心部材102に取り付けられている。しかしながら、この例には限られない。例えば、伝達部材12の各々が一端に取り付けられたコイルバネ13の各々の他端が、回転軸10の周面に直接取り付けられてもよい。要するに、コイルバネ13の各々が回転軸10の回転に伴って回転軸10の回転中心線10L回りに回転すること、及び、コイルバネ13の各々が復元力によって伝達部材12の各々に対して回転軸10の方向へ付勢力を与えること、が実現されればよい。
【0056】
このようなイナーシャ制御装置1において、回転軸10の停止時には、伝達部材12の各々が回転しないので、伝達部材12に対して回転軸10の径方向外側へ遠心力が発生しない。そのため、伝達部材12の各々は、回転軸10の側に位置している。
【0057】
そして、イナーシャ制御装置1において、回転軸10の加速時には、先述したように、伝達部材12の各々において回転軸10の径方向外側へ生じる遠心力が、コイルバネ13の各々から回転軸10の方向に与えられる付勢力よりも小さいので、図3(a)及び図3(b)に示されるように、回転軸10の側に位置する。そのため、回転軸10と回転部材11とが物理的に連結していない。従って、回転軸10の加速時には、回転軸10は、回転部材11から、回転軸10の加速を阻害するイナーシャが与えられないので、加速のために大きなトルクが必要とされない。そのため、回転軸10を回転させるモータにかかる負担が抑制される。
【0058】
また、回転軸10の減速時には、回転軸10の回転力によって回転する伝達部材12の各々において回転軸10の径方向外側へ生じる遠心力が、コイルバネ13の各々から回転軸10の方向へ与えられる付勢力を下回ることになる。その際には、伝達部材12の各々は、コイルバネ13の各々から与えられる付勢力によって回転軸10の方向に移動する。その結果、回転部材11と伝達部材12との物理的な連結が解除される。従って、回転軸10の減速時には、回転軸10は、回転部材11から、回転軸10の減速を阻害するイナーシャが与えられないので、減速のために大きなトルクが必要とされない。そのため、回転軸10を回転させるモータにかかる負担が抑制される。
【0059】
図4は、イナーシャ制御装置1の詳細な構造を説明するための図であり、伝達部材12の各々が回転部材11の各々と当接した状態を示した図である。尚、図4(a)は、イナーシャ制御装置1を回転中心線10L方向から見たときの正面断面図を示す。また、図4(b)は、イナーシャ制御装置1の側面断面図を示す。
【0060】
イナーシャ制御装置1において、回転軸10の回転速度が定速度に達した際には、以下の現象が生ずる。つまり、回転軸10の回転力によって、回転軸10の回転中心線10L回りに回転する伝達部材12の各々において回転軸10の径方向外側へ生じる遠心力が、コイルバネ13の各々から回転軸10の方向へ与えられる付勢力を上回る。すると、伝達部材12の各々は、コイルバネ13の各々から与えられる付勢力に逆らって、回転軸10の径方向外側へ移動する。その結果、伝達部材12の各々は、図4(a)及び図4(b)に示されるように、回転部材11のいずれかと接触する。その際、伝達部材12の各々の外周面(回転部材11の各々と対向する面)と、回転部材11の各々の内周面(伝達部材12の各々と対向する面)とで、接触面14が形成される。
【0061】
このような接触面14の各々において、伝達部材12の各々の回転力が回転部材11の各々に伝達される。そのため、伝達部材12の各々に回転力を与える回転軸10が、接触面14の各々を通じて、回転部材11の各々と物理的に連結される。従って、回転軸10の回転力が回転部材11の各々に伝達されるので、回転部材11が回転軸10の回転中心線10L回りに回転することができる。
【0062】
このように、回転軸10の回転速度が定速度に達した際には、回転軸10と回転軸10の径方向外側に位置する回転部材11とが物理的に連結した状態で同じ方向へ回転するので、回転軸10の慣性質量が大きくなる。そのため、回転軸10の回転速度を維持させようとする十分な大きさのイナーシャが回転軸10に与えられる。従って、回転軸10を回転させるモータに負担がかからずに、回転軸10へ十分な大きさのイナーシャが与えられる。
【0063】
特に、回転部材11が、1枚の環状の部材で構成されている際には、回転部材11そのものが有する慣性質量が大きくなる。そのため、回転部材11が伝達部材12の各々と物理的に連結して回転している状態において、回転軸10の回転速度を維持させようとするイナーシャがより大きくなる。
【0064】
ところで、接触面14の各々が、回転部材11にしっかりと当接していなければ、伝達部材12の各々の回転力が回転部材11の各々に与えられる回転力にロスが生じる。そのため、接触面14の各々における摩擦力が大きいことが望ましい。従って、少なくとも、伝達部材12の前記外周面、及び、回転部材11の前記内周面の摩擦係数は大きいことが望ましい。
【0065】
このように、回転軸10が定速度で回転している際には、伝達部材12の各々が、回転部材11の各々と当接し、回転軸10と回転部材11の各々とを物理的に連結する。そのため、伝達部材12の各々は、回転軸10と回転部材11の各々とを物理的に連結する連結部材として機能する。従って、伝達部材12の各々は軽い材質で構成されていてもよい。回転部材11が回転軸10と物理的に連結して回転軸10へイナーシャを与えるからである。
【符号の説明】
【0066】
1 イナーシャ制御装置
10 回転軸
10a 第1中空部
10c 交点
10L 回転中心線
11 回転部材
12 伝達部材
13 付勢部材
102 中心部材
110 中空部材
115 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸へイナーシャを与えるために前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な、前記回転軸と物理的に連結されていない回転部材と、
前記回転軸と前記回転部材との間において前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転軸の回転力によって、前記回転軸の回転中心線回りに回転することが可能な伝達部材と、
前記回転軸及び前記伝達部材に取り付けられており、前記伝達部材に対して前記回転軸の方向に付勢力を与える付勢部材と、
を備えており、
前記伝達部材は、
前記回転中心線回りの回転によって発生した遠心力によって、前記付勢部材による付勢力に逆らって前記回転部材の方向へ移動して前記回転部材と当接し、前記回転部材へ、前記回転軸の回転力を伝達することを特徴とするイナーシャ制御装置。
【請求項2】
前記回転部材は、プラス及びマイナスのいずれか一方の極性を有する永久磁石を備えており、
前記伝達部材は、前記回転部材が備える前記永久磁石とは逆極性を有する永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項3】
前記回転部材及び前記伝達部材のいずれか一方は、プラス及びマイナスのいずれか一方の極性を有する永久磁石を備えており、
前記永久磁石を備えていない前記回転部材及び前記伝達部材のいずれか一方は磁性体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項4】
前記回転軸と同心状に設けられており、前記回転部材を収容する環状の中空部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項5】
前記回転軸と同心状に設けられており、前記伝達部材が前記回転軸の周方向に沿って回転するように案内する環状のガイド部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項6】
前記伝達部材及び前記付勢部材のそれぞれを、複数備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項7】
前記回転軸の周面から前記回転軸の径方向に沿って回転中心線へ達する、前記付勢部材を収容する中空部を、さらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項8】
前記回転軸の周面から前記回転軸の径方向に沿って回転中心線へ達する、前記付勢部材を収容する複数の中空部を、前記回転軸の周方向に沿って備えており、
前記中空部のそれぞれが前記回転中心線上で交わる交点において、前記中空部に収容された前記付勢部材のそれぞれの一端が取り付けられる中心部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。
【請求項9】
前記付勢部材は、前記回転軸方向に向かう復元力を有する弾性部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のイナーシャ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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