説明

イヌおよびヒトエールリヒア症の免疫診断のためのp153およびp156抗原ならびにその使用

2つの免疫反応性糖タンパク質をコードする配列を、エールリヒア・カニス(p153遺伝子)およびエールリヒア・シャフェエンシス(p156遺伝子)からクローニングした。これら2つの糖タンパク質は、サブユニットワクチンとしてならびにE. カニスおよびE. シャフェエンシスの血清学的および分子診断に有用である、種特異的免疫反応性オーソログである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年11月4日に出願し現在は放棄している米国仮特許出願第60/423,573号の利益を主張する。
連邦政府補助金の説明
本発明は、一部、国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)の助成金第AI31431号のもと、連邦政府による補助金を用いてなされたものである。したがって、連邦政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は一般に、分子および免疫診断の分野に関する。より具体的には、本発明は、イヌエールリヒア症およびヒト単球性エールリヒア症の種特異的診断に有用である、エールリヒア・カニス(Ehrlichia canis)およびエールリヒア・シャフェエンシス(Ehrlichia chaffeensis)の種特異的免疫反応性タンパク質オーソログ(約200 kDa)に関する。
【0003】
関連技術の説明
イヌ単球性エールリヒア症は、主としてリケッチア病原体、エールリヒア・カニスに起因する、世界全域に分布する、潜在的に致死性のイヌのダニ媒介疾患である(Huxsoll et al., 1970)。E. カニスは単核およびマクロファージに対する向性を示す偏性細胞内細菌であり(Nyindo et al., 1971)、脊椎動物宿主において持続的感染を確立する(Harrus et al., 1998)。本疾患は、3段階により特徴づけられる:2〜4週間持続する急性期;イヌは数年間一貫して感染したままであり得るが、臨床的徴候を示さない無症状期、その後の、多くのイヌにおいて骨髄形成不全および予後不良により疾患が徐々に悪化する慢性期(Troy et al., 1990)。
【0004】
E. カニスは、イヌ科に属する動物に感染し、エールリヒア症を引き起こす。イヌエールリヒア症は、急性期および慢性期からなる。急性期は、発熱、鼻漏および眼性分泌、食欲不振、抑欝、および体重減少により特徴づけられる。慢性期は、急性期のより重篤な臨床的徴候のほかに、重篤な汎血球減少、鼻出血、血尿、血便により特徴づけられる。疾患の早い段階で治療した場合、イヌはドキシサイクリンに良好に反応する。したがって、イヌエールヒア症を治療するための初期診断が非常に重要である。
【0005】
最良の予後を得るためには、急性期で疾患を治療することが重要である。多くの場合、白血球減少症および血小板減少症等の血液学的異常によりイヌエールリヒア症の有用な証拠が提供されるため、これは初期診断における重要な因子である(Troy et al., 1990)。しかし、イヌエールリヒア症の臨床所見は非特異的であるため、診断は困難である。
【0006】
その簡便性、信頼性、および費用効果から、間接蛍光抗体(IFA)試験等の血清学的方法によるイヌエールリヒア症の診断が標準方法となっている(Troy et al., 1990)。しかし、間接蛍光抗体試験の欠点には、イヌに感染する他の近縁エールリヒア種(E. シャフェエンシス、E. エウィンギ(ewingii)、アナプラズマ・ファゴサイトフィラム(Anaplasma phagocytophilum)、およびA. プラティス(platys))との抗原性交差反応に起因して、種特異的診断ができないことが含まれる。また、主観的解釈により、偽陰性結果、または交差反応性抗原に起因する偽陽性が生じ得る。E. カニスを特異的に検出するためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の他の診断法も開発され、細胞培養単離よりも感度が高いことが報告されたが、この方法は専門的な研修および高価な装置を必要とする(McBride et al., 1996)。生物の単離は時間を要し、わずかな研究所がこの方法で堅実に成功しているにすぎない。さらに、この方法を用いて特定の病因を明確にするには、単離体を特徴づけるさらなる試験法が必要である。
【0007】
E. カニスおよびE. シャフェエンシスに共有の血清学的交差反応性抗原が報告されている。主要な血清学的交差反応性タンパク質のいくつかは分子量28〜30 kDAを示し(Chen et al., 1997;Rikihisa et al., 1994)、現在ではこれらのタンパク質が、相同的な多重遺伝子族によってコードされていることが周知である(Ohashi et al., 1998a, b)。E. シャフェエンシスおよびE. カニスそれぞれにおいて、同定され配列が決定された、相同的であるが同一ではないp28遺伝子が22個および25個存在する。E. カニスとE. シャフェエンシスのP28タンパク質の間には、類似した種内および種間株相同性が認められ、これらのタンパク質の血清学的交差反応性が説明される(Mcbride et al., 1999)。
【0008】
最近の報告では、E. シャフェエンシスのrP28タンパク質が、ヒト単球性エールリヒア症(HME)を診断する場合に、感度がない手段であることが実証された(Yu et al., 1999a)。根本的な理由は、E. シャフェエンシスの異なる株間におけるP28タンパク質の変異性であるようである(Yu et al., 1999b)。逆に、E. カニスで同定されたP28遺伝子は、地理的に分散した株間で保存されており、E. カニスrP28はイヌエールリヒア症の診断に有用であることが判明した(McBride et al., 1999;Ohashi 1998a)。E. カニス(gp140)およびE. シャフェエンシス(gp120)の糖タンパク質を含む他の相同的免疫反応性タンパク質がクローニングされた(Yu et. al., 1997, 2000)。E. シャフェエンシスのrgp120の反応性は、ヒト単球性エールリヒア症を血清診断するための間接蛍光抗体と十分に相関し、E. カニスのrgp140を用いた予備研究からは、これが感度が高く信頼性のある免疫診断抗原であることが示唆された(Yu et al., 1999a, 2000)。
【0009】
先行技術は、E. カニスおよびE. シャフェエンシスを血清学的および分子診断するための特異的抗原、およびそのような使用の方法の点で不十分である。本発明は、当技術分野における長年の必要性および要望を達成するものである。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
エールリヒア・カニスの免疫反応性の強い43 kDタンパク質(p43)が同定された(米国特許第6,355,777号)。p43は免疫診断抗原として、間接蛍光抗体試験と比較して96%の精度を有し、これによりE. カニス感染の種特異的診断が提供される。さらなる研究から、E. カニスp43は、エールリヒア種において記載されている中で最も大きな免疫反応性タンパク質である、予想分子量153 kDを有するタンパク質のN末端部分を表すことが明らかになった。組換え発現させたp153断片のタンパク質ゲル電気泳動による解析から、予想よりも大きな分子量(約10〜30%)であることおよびN末端およびC末端断片における糖グリカンの存在が実証され、p153が糖タンパク質であることが示された。
【0011】
入手可能なE. シャフェエンシスゲノム配列(95%)においてBLASTn検索を行い、E. シャフェエンシスにおいてp153オーソログをコードする遺伝子が同定された。E. カニスp153(4263-bp)およびE. シャフェエンシスp156(4389-BP)は、相同的な(約87%)デオキシグアノシン三リン酸三リン酸加水分解酵素遺伝子およびオープンリーディングフレームに先行する相同的な(約90%)遺伝子間配列の下流という、同様の染色体位置を有する。糖タンパク質の遺伝子間に核酸配列相同性(50%)が認められ、これによりp43遺伝子断片の遺伝子相違に関する先の知見が支持され、またp153タンパク質およびp156タンパク質は32%のアミノ酸類似性を有した。分子量200 kDを有する天然E. カニスタンパク質はp153のN末端領域(p43)に対して作製された抗血清と反応し、これによりこの天然タンパク質が翻訳後に修飾されたことが示唆される。同様に、E. シャフェエンシスp156のN末端領域を含む組換えタンパク質も予想よりも大きく移動し(約200 kD)、組換えタンパク質において糖が検出された。主要な免疫反応性エピトープは、このN末端断片において同定された。染色体位置、アミノ酸相同性、および生物物理学的特性から、p153およびp156糖タンパク質(gp200と命名)は種特異的免疫反応性オーソログであるという結論が支持される。
【0012】
E. カニスp153のN末端(P43)およびC末端領域ならびにE. シャフェエンシスp156オーソログのN末端領域に、主要な免疫反応性エピトープが同定され、これは血清学的診断およびワクチンに有用となると考えられる。さらに、これらのタンパク質をコードする遺伝子は種特異的であり、分子に基づく診断の開発に有用となると考えられる。
【0013】
本発明の他のおよびさらなる局面、特徴、および利点は、本発明の現段階で好ましい態様の以下の説明から明らかになると考えられる。これらの態様は、開示の目的で提供するものである。
【0014】
発明の詳細な説明
E. カニスp43遺伝子配列は以前に1173-bpとして報告されたが(米国特許第6,355,777号)、さらなる解析から、DNA配列決定の誤りで人工的な終止コドンが生じ、切断型の遺伝子配列が得られたことが明らかになった。プライマー-アダプター遺伝子歩行法により、元のp43クローンの2.4-kbpの下流にあるさらなる4.5-kbp配列を決定した。不完全なp43遺伝子配列を完全にし、予想分子量153 kDを有するタンパク質(p153と命名)をコードする4263-bpのオープンリーディングフレームが明らかになった。153遺伝子の上流には、E. カニスとE. シャフェエンシスとの間に高い核酸相同性(それぞれ87%および90%)を有する、デオキシグアノシン三リン酸三リン酸加水分解酵素をコードするオープンリーディングフレーム、およびp153遺伝子に先行する遺伝子間非コード領域が存在する。
【0015】
2.4-kbp p43クローンを用いてE. シャフェエンシスゲノムのBLASTn検索を行い、相同性の高い核酸配列が同定された。E. カニスp153と大きさのほぼ等しい大きなオープンリーディングフレーム(4389-bp)が、上流の相同的なコード核酸配列および遺伝子間核酸配列に対して同じ染色体位置に認められ、これは予想分子量156 kD(p156)を有するタンパク質をコードしていた。E. カニスp153遺伝子とE. シャフェエンシスp156遺伝子との間には核酸配列相同性(約50%)が認められた。しかし、タンパク質は全体で32%のアミノ酸配列類似性を示した(図1)。
【0016】
E. シャフェエンシスp156タンパク質(nt-125〜1670;nt-1685〜3050;nt-2950〜4315)およびE. カニスp153の4つの組換え断片(nt-1〜1107(p43);nt-1080〜1990;nt-1950〜2950;nt-2940〜4220)を表す、大腸菌で発現される遺伝子構築物を、大腸菌で発現させた(図2)。E. カニスのN末端(nt 1〜1107)およびC末端(nt-2940〜4220)組換え発現タンパク質は、強い免疫反応性を示した(図3A)。しかし、E. シャフェエンシスp156のN末端断片(nt-125〜1670)のみが、免疫反応性であった(図4A)。
【0017】
E. カニス(nt-1〜1107およびnt-2940〜4220)およびE. シャフェエンシスp156組換えタンパク質断片(nt-125〜1670)は、SDS-PAGEで予想よりも大きく移動し、この断片の翻訳後修飾が起こったことが示された。続いて、E. カニスp153およびE. シャフェエンシスp156ペプチド断片において糖が検出された(図3Bおよび4B)。
【0018】
抗p43抗体は、E. カニス全細胞溶解液中の約200 kDの天然タンパク質と反応した。さらに、この200 kDタンパク質はE. カニスに感染したイヌに由来する血清によっても認識された(図5)。p43(p153のN末端部分)として以前に同定された部分遺伝子配列は、GenBankアクセッション番号AF252298に指定された。p153をコードする修正した配列は、GenBankアクセッション番号AY156950に指定された。
【0019】
染色体の位置、アミノ酸相同性、および生物物理学的特性から、p153およびp156糖タンパク質(gp200と命名)は種特異的免疫反応性オーソログである、という結論が支持される。これらのタンパク質はワクチン開発において潜在的用途を有し、エールリヒア感染を診断するための高感度かつ信頼性のある血清診断抗原として使用し得る。このことは、E.カニスp43の免疫反応性および血清診断抗原としての潜在的用途を示した以前の知見からも支持される(米国特許第6,355,777号)。P43に対する抗体との反応性は、間接蛍光抗体(IFA)力価>40を有する試料と100%の相関関係を有し、間接蛍光抗体力価<40を有するいくつかの試料とも反応した。いくつかの間接蛍光抗体陰性試料がp43抗体と弱く反応することから、p43タンパク質がより感度の高い血清診断抗原であることが示唆される。本発明において示す結果から、p43がE.カニスのより大きなp153タンパク質の一部であることが示される。
【0020】
本発明は、エールリヒア・カニス免疫反応性表面タンパク質p153およびエールリヒア・シャフェエンシスp156タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドに関する。単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID No: 1および2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることが好ましい。あるいは、DNAは、遺伝子コードの縮重によりヌクレオチド配列において異なり得る。
【0021】
本発明はまた、これらの単離されたポリヌクレオチドおよび細胞におけるDNA発現に必要な制御要素を含むベクター;単離および精製されたp153およびp156タンパク質;ならびにこれらのタンパク質に対する抗体を包含する。
【0022】
本発明はさらに、イヌおよびヒトエールリヒア症に対するワクチンの調製におけるp153およびp156タンパク質の使用に関する。さらに、イヌの血清がp153またはp156タンパク質と反応するかどうかを判定することによる、イヌまたはヒトがエールリヒアに感染しているかどうかを判定する方法を提供する。用いるタンパク質は組換え体に由来してよく、ウェスタンブロット解析を用いてタンパク質に対する血清の反応を検出し得る。以前に単離されたE.カニスp28タンパク質との反応もまたE.カニス感染の信頼できるマーカーであるため、診断はエールリヒア・カニスのp153タンパク質、gp140、およびp28抗原との免疫反応性を検出する段階からなってもよい。
【0023】
本発明はまた、イヌまたはヒトがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定するための血清診断キットに関する。キットは、本明細書において開示する固定化タンパク質(p153またはp156)、イヌ血清用の適切な希釈緩衝液、レポーター分子に結合させた抗イヌ血清二次抗体、およびレポーター分子を検出するための適切な試薬を含む。抗原を固定化し得る方法には、膜またはマイクロタイタープレートへの結合が含まれる。レポーター分子は、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、または蛍光標識であってよい。
【0024】
本発明はまた、イヌがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定するPCR増幅法に関する。感染している可能性のあるイヌまたはヒトの血液からDNAを抽出し、E. カニスp153遺伝子またはE. シャフェエンシスp156遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR増幅に供す。得られたPCR増幅産物をゲル電気泳動等の方法により大きさによって分離し、適切な大きさの産物を検出することによりエールリヒア感染が示される。
【0025】
本発明は、p153またはp156遺伝子をPCR検出するためのキットに関する。キットは、血液からDNAを抽出するための試薬、p153またはp156特異的オリゴヌクレオチド、およびPCR増幅のための試薬を含む。
【0026】
本発明にしたがって、当技術分野の技術の範囲内の従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技法を用いることができる。そのような技法は、文献で十分に説明されている。例えば、Maniatis, Fritsch & Sambrook, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1982);“DNA Cloning: A Practical Approach,” Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985);“Oligonucleotide Synthesis” (M.J. Gait ed. 1984);“Nucleic Acid Hybridization” [B.D. Hames & S.J. Higgins eds. (1985)];“Transcription and Translation” [B.D. Hames & S.J. Higgins eds. (1984)];“Animal Cell Culture” [R.I. Freshney, ed. (1986)];“Immobilized Cells And Enzymes” [IRL Press, (1986)];B. Perbal, “A Practical Guide To Molecular Cloning” (1984)を参照されたい。
【0027】
本明細書で用いる「宿主」とは、原核生物ばかりでなく、酵母、植物、および動物細胞等の真核生物も含むことを意図する。組換えDNA分子または本発明のタンパク質をコードする遺伝子を用いて、当業者に一般に周知の技法のいずれかにより宿主を形質転換することができる。原核生物宿主には、大腸菌、S・ティンフィムリウム(S. tymphimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、および枯草菌が含まれる。真核生物宿主には、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、哺乳動物細胞、および昆虫細胞が含まれる。
【0028】
一般に、宿主とともに、挿入されたDNA断片の効率的な転写を促進するプロモーター配列を含む発現ベクターを使用する。発現ベクターは典型的に、複製起点、プロモーター、ターミネーター、および形質転換した細胞において表現型選択を提供し得る特定の遺伝子を含む。最適な細胞増殖を実現するために、当技術分野において公知の手段に従って形質転換した宿主を発酵および培養することができる。当技術分野において周知の方法を用いて、適切な転写および翻訳調節シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Ed.), Cold Spring Harbor Press, N.Y.に記載されている技法を参照されたい。
【0029】
本明細書で用いる「プライマー」という用語は、精製された制限消化物に見られるように天然であろうとまたは合成で作製されたのであろうと、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下に置かれた場合に、合成の開始部位として働き得るオリゴヌクレオチドを指す。条件には、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼ等の誘導剤の存在、ならびに適切な温度およびpHが含まれる。プライマーは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、誘導剤の存在下で所望の伸長産物の合成をプライミングするのに必要な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの起源、および使用する方法を含む多くの要因に依存することになる。例えば診断用途では、オリゴヌクレオチドプライマーは典型的に、標的配列の複雑度に応じて15〜25またはそれ以上のヌクレオチドを含む。より少ないヌクレオチドを有するプライマーを用いることも可能である。
【0030】
本明細書におけるプライマーは、特定の標的DNA配列の異なる鎖に「実質的に」相補的であるように選択される。これは、プライマーはそれぞれの鎖にハイブリダイズするために十分相補的でなければならないことを意味する。したがって、プライマー配列は鋳型の正確な配列を反映する必要はない。例えば、プライマー配列の残りの部分が鎖に相補的である状態で、非相補的なヌクレオチド断片をプライマーの5'末端に付加してもよい。あるいは、プライマー配列が配列と十分に相補的であるかまたはそれとハイブリダイズして伸長産物の合成のための鋳型を形成するのであれば、非相補的な塩基または長い配列をプライマーに分散させてもよい。
【0031】
以下の実施例は本発明の種々の実施形態を説明する目的で提供するものであり、いずれかの様式で本発明を限定することを意図するものではない。
【0032】
実施例1
E. カニスp153タンパク質およびE. シャフェエンシスp156タンパク質の特徴づけ
以前に記載した通りに(McBride et al., 2001;米国特許第6,355, 777号)、λZap II発現ライブラリーからE. カニスp43タンパク質遺伝子を同定した。元の2.4-kbクローンは、デオキシグアノシン三リン酸三リン酸加水分解酵素遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)および切断されたp43遺伝子断片に先行する下流の229-bp遺伝子間スペースからなった。プライマー-アダプターPCR法により、鋳型としてE.カニスゲノムDNA(Jake, North Carolina株)を用いて、p43オープンリーディングフレームの完全な配列を決定した。増幅に用いたプライマーを用いて単位複製配列を直接配列決定するか、または配列解析のためにTOPO/TAにクローニングした。E.カニスp43クローン(2.4-kb)全体を用いてE. シャフェエンシスゲノム配列のBLASTn検索を行うことにより、E. シャフェエンシスオーソログ(p156遺伝子) が同定された。
【0033】
E. カニスp153遺伝子およびE. シャフェエンシスp156遺伝子を大きな断片(1〜1.5-kbp)に分割し、pUni/V5-His-TOPO Echoドナーベクターにクローニングし、pBAD Thio-EまたはPRSET Echoアクセプター発現ベクターと組換えた。アラビノースまたはIPTGで4時間誘導した後、組換えタンパク質が発現された。糖タンパク質検出のための免疫ブロットキット(Bio-Rad)を用いて、膜標識手順に従い、発現した組換えタンパク質においてグリカン検出を行った。以前に記載した通りに(McBride et al., 2002)E. シャフェエンシス組換えDsbタンパク質を大腸菌で発現させ、糖タンパク質検出研究のエールリヒアの陰性対照タンパク質として使用した。E.カニス全細胞溶解液を勾配ゲル(4〜12% Bis-Tris、Novagen)を用いてゲル電気泳動により分離し、セミドライ転写ユニット(Bio-Rad)を用いて純粋なニトロセルロースに転写した。以前に記載した通りに(McBride et al., 2001)免疫ブロッティングを行った。
【0034】
考察
E. カニスp153のN末端(p43)部分を含むクローンの強い免疫反応性により、その最初の同定および特徴づけが導かれた(McBride et al., 2001)。イヌにおけるE. カニスに対する抗体を検出するための間接蛍光抗体試験の結果と比較した場合、p43は優れた感度および特異性を示した。さらに、抗組換えp43ポリクローナル抗体がE. シャフェエンシス感染DH82細胞と反応しなかったため、p43により種特異的検出が提供されると考えられた。遺伝子的に異なり低いアミノ酸相同性を有するE. シャフェエンシスのp153オーソログ(p156)が同定されたことから、p43タンパク質が種特異的抗原であり、ひいては優れた種特異的免疫診断抗原となるという以前の知見が支持される。主要な線状B細胞エピトープがp153タンパク質のN末端領域(p43)およびC末端領域に存在する。
【0035】
p43組換えタンパク質は、初期には認知されなかった、予想よりも大きな分子量(約30%または約10 kD)を示した。以前に報告されたエールリヒアの糖タンパク質gp120およびgp140は、予想よりも60〜100%大きかった。分子量の移行の程度はそれよりもかなり低いが、p43タンパク質は糖タンパク質であり、それは付着したグリカンの糖検出から確認された。p43の知見と一致して、発現されたE. シャフェエンシスp156組換え遺伝子断片も予想よりも大きな分子量を示し、これらの断片においても糖が検出された。さらに、E. カニスp153のC末端断片もまた予想よりも大きな分子量を示した(約10%または6 kD)。
【0036】
p43遺伝子が同定された際には、全細胞溶解液の対応する天然E. カニスタンパク質は抗p43抗血清と反応しなかった。本明細書で示す知見に基づくと、この矛盾はp43遺伝子が不完全なオープンリーディングフレームを表し、43 kDタンパク質をコードしていないという事実に起因し得る。さらに、大きな分子量(>150 kD)のこのタンパク質は、免疫ブロットによりこのタンパク質を一貫して同定するためには、ゲル電気泳動条件に対して特別な注意を必要とする。E. カニス全細胞溶解液中の200 kDタンパク質は、抗p43ポリクローナル抗体と強く免疫反応した。このタンパク質の分子量は、分子量の増大に寄与するいくつかのグリカンを加味したp153の予想分子量と一致する。この知見はまた、ほぼ完全なオープンリーディングフレームを表すE. シャフェエンシスp156組換え断片の分子量とも一致する。
【0037】
エールリヒア種の糖タンパク質は、病原細菌において特徴づけされた最初のタンパク質の数種である。今日までに発見されているエールリヒアの糖タンパク質は、感染患者および動物の抗体によって一貫してかつ強く認識される。これらの独特な表面露出免疫反応性タンパク質はワクチン開発における可能性を有し、これらのタンパク質はサブユニットワクチンの重要な成分となる可能性がある。
【0038】
以下の参考文献を本明細書において引用した:


【0039】
本明細書で言及した特許および出版物はいずれも、本発明が関連する当業者の技術レベルを示す。これらの特許および出版物は、個々の出版物が詳細にかつ個別に参照として組み入れられることが示されるのと同程度に、参照として本明細書に組み入れられる。
【0040】
本発明が、目的を達成するため、および言及した結果および利点ならびにそれ固有のものを得るために十分に適していることを、当業者は容易に理解するであろう。本実施例は、本明細書に記載した方法、手順、処理、分子、および特定の化合物とともに、現段階で好ましい態様を代表するものであって、例示的なものであり、本発明の範囲の限定を意図するものではない。特許請求の範囲によって定義される本発明の精神の範囲内に包含される、その中での変更および他の使用が、当業者に想起されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の上記の特徴、利点、および目的、ならびに明らかとなるであろう他のものが達成され、詳細に理解され得るように、添付の図面に示すその特定の態様を参照することにより、先に概説した本発明をより詳細に説明し得る。これらの図面は本明細書の一部を構成する。しかし、添付の図面は本発明の好ましい態様を示すものであって、その範囲への限定とみなされるべきではないことに留意されたい。
【図1】図1Aおよび図1Bは、E. シャフェエンシスp156(上列)およびE. カニスp153(下列)タンパク質オーソログのリップマン-ピアソンアミノ酸アラインメントを示す。アミノ酸同一性、保存的(:)、および半保存的(.)置換を中央に示す。
【図2】図2Aおよび図2Bは、E. カニスp153(A)およびE. シャフェエンシス(B)の組換えタンパク質断片の発現、および抗V5抗体による検出を示す。E. カニスp153、レーン1、N末端断片(1107-bp、nt-1〜1107)、レーン2、内部断片(910-bp、nt-1080〜1990)、レーン3、内部断片(1000-bp、nt-1950〜2950)、およびレーン4、C末端断片(1280-bp、nt-2940〜4220)。E. シャフェエンシスp156、レーン1、N末端断片(1545-bp、nt-125〜1675)、レーン2、内部断片(1365-bp、nt-1685〜3050)、およびレーン3、C末端1365-bp、nt-2950〜4315)。
【図3A】E. カニスp153組換え断片のウェスタン免疫ブロットを示す。レーン1、N末端断片(1107-bp、nt-1〜1107)、レーン2、内部断片(910-bp、nt-1080〜1990)、レーン3、内部断片(1000-bp、nt-1950〜2950)、およびレーン4、C末端断片(1280-bp、nt-2940〜4220)。
【図3B】pRSET発現ベクターを用いて大腸菌で発現させたE. カニスp153の対応する精製組換え断片における糖の検出を示す。組換えタンパク質に付着しているグリカンを酸化し、ビオチンで標識し、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼで検出した。
【図4A】ヒト(左パネル)およびイヌ(右パネル)血清を用いた、E. シャフェエンシスp156組換え断片のウェスタンブロットを示す(レーン1〜3)。レーン1、E. シャフェエンシスp156 N末端断片(1545-bp、nt-125〜1675)、レーン2、内部断片(1365-bp、nt-1685〜3050)、およびレーン3、C末端断片1365-bp、nt-2950〜4315)。発現された組換えタンパク質は、E. シャフェエンシスp156の約95%を示す。
【図4B】3つの対応する組換えE. シャフェエンシスp156タンパク質の糖検出を示す(レーン1〜3)。
【図5】E. カニスに感染したイヌのポリクローナル抗血清(レーン1)、および抗組換えp43(gp200)(レーン2)および抗組換えgp140(レーン3)ポリクローナルウサギ血清を用いた、E. カニス全細胞溶解液中のタンパク質を実証するウェスタンブロットを示す。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される、エールリヒア・カニス(Ehrlichia canis)免疫反応性表面タンパク質p153をコードするDNA:
(a) SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列を有するp153タンパク質をコードする単離されたDNA;および
(b) 該DNAの配列が遺伝暗号の縮重により(a)に記載の単離されたDNAとはコドン配列が異なる、該タンパク質をコードする単離されたDNA。
【請求項2】
請求項1記載のDNAおよび細胞におけるDNA発現のために必要な制御要素を含むベクター。
【請求項3】
DNAがSEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列を有するp153タンパク質をコードする、請求項2記載のベクター。
【請求項4】
SEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列を有するp153タンパク質をコードする、請求項2記載のベクターで形質転換した宿主細胞。
【請求項5】
細菌細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、および昆虫細胞からなる群より選択される、請求項4記載の宿主細胞。
【請求項6】
以下からなる群より選択されるDNAによってコードされる、単離および精製されたエールリヒア・カニス免疫反応性表面タンパク質p153:
(a) SEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列を有するp153タンパク質をコードする単離されたDNA;および
(b) 遺伝暗号の縮重により(a)に記載の単離されたDNAとはコドン配列が異なる、単離されたDNA。
【請求項7】
以下からなる群より選択される、エールリヒア・シャフェエンシス(Ehrlichia chaffeensis)免疫反応性表面タンパク質p156をコードするDNA:
(a) SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を有するp156タンパク質をコードする単離されたDNA;および
(b) 該DNAの配列が遺伝暗号の縮重により(a)に記載の単離されたDNAとはコドン配列が異なる、該タンパク質をコードする単離されたDNA。
【請求項8】
請求項7記載のDNAおよび細胞におけるDNA発現のために必要な制御要素を含むベクター。
【請求項9】
DNAがSEQ ID NO: 1に示されるアミノ酸配列を有するp156タンパク質をコードする、請求項8記載のベクター。
【請求項10】
SEQ ID NO: 1に示されるアミノ酸配列を有するp156タンパク質をコードする、請求項8記載のベクターで形質転換した宿主細胞。
【請求項11】
細菌細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、および昆虫細胞からなる群より選択される、請求項10記載の宿主細胞。
【請求項12】
以下からなる群より選択されるDNAによってコードされる、単離および精製されたエールリヒア・シャフェエンシス免疫反応性表面タンパク質p156:
(a) SEQ ID NO: 1に示されるアミノ酸配列を有するp156タンパク質をコードする単離されたDNA;および
(b) 遺伝暗号の縮重により(a)に記載の単離されたDNAとはコドン配列が異なる、単離されたDNA。
【請求項13】
請求項6記載のp153タンパク質に対する抗体。
【請求項14】
請求項12記載のp156タンパク質に対する抗体。
【請求項15】
請求項6記載のp153タンパク質を含む、イヌエールリヒア症に対するワクチン。
【請求項16】
請求項12記載のp156タンパク質を含む、イヌエールリヒア症に対するワクチン。
【請求項17】
以下の段階を含む、イヌがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定する方法:
該イヌの血清がE. カニスp153タンパク質またはE. シャフェエンシスp156タンパク質と反応するかどうかを判定する段階であって、p153タンパク質またはp156タンパク質との反応により該イヌがそれぞれエールリヒア・カニスおよびエールリヒア・シャフェエンシスに感染していることが示される段階。
【請求項18】
タンパク質が組換えタンパク質である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ウェスタンブロット解析を用いてイヌの血清がタンパク質と反応するかどうかを判定する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
イヌの血清がE. カニスp28タンパク質と反応するかどうかを判定する段階であって、p153タンパク質およびp28タンパク質の両方への免疫反応性によりイヌがエールリヒア・カニスに感染していることが示される段階をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
以下を含む、イヌがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定するための血清診断キット:
(a) p153、p43、p156、およびp28からなる群より選択される、1つまたは複数の固定化エールリヒア抗原;
(b) イヌ血清用の適切な希釈緩衝液;
(c) レポーター分子に結合させた抗イヌ血清二次抗体;および
(d) 該レポーター分子を検出するための適切な試薬。
【請求項22】
エールリヒア抗原が膜またはマイクロタイタープレートに固定化されている、請求項21記載のキット。
【請求項23】
レポーター分子が、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、および蛍光標識からなる群より選択される、請求項21記載のキット。
【請求項24】
以下の段階を含む、イヌがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定する方法:
該イヌの血液からDNAを抽出する段階;および
E. カニスp153遺伝子またはE. シャフェエンシスp156遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、該DNAにおいてPCR増幅を行う段階;
得られたPCR産物を大きさにより分離し、適切な大きさの増幅産物の陽性検出によりE. カニスまたはE. シャフェエンシスによる感染が示される段階。
【請求項25】
PCR産物がゲル電気泳動により検出される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
以下を含む、イヌがエールリヒア種に感染しているかどうかを判定するためのキット:
(a) 血液からDNAを抽出するための試薬;
(b) p153特異的またはp156特異的オリゴヌクレオチド;および
(c) PCR増幅のための試薬。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−505270(P2006−505270A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550409(P2004−550409)
【出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/034916
【国際公開番号】WO2004/042037
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(505098937)リサーチ ディベロップメント ファウンデーション (16)
【Fターム(参考)】