説明

イヌにおける呼吸器疾患管理のための材料および方法

本発明は、イヌ科動物に感染して該イヌ科動物に呼吸器疾患を引き起こすことができる分離されたインフルエンザウイルスに関する。本発明は、本発明のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するための組成物および方法にも関する。本発明は、本発明のウイルスを同定して本発明のウイルスの動物への感染を診断するための組成物および方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、任意の図面(figure)、表、核酸配列、アミノ酸配列および図(drawing)を含めて、全体が参照により本明細書に組み入れられる、2005年4月21日付けで提出された米国特許仮出願第60/673,443号の恩典を主張する。
【0002】
発明の背景
「ケンネルコフ」、つまり感染性気管気管支炎(ITB)は、主として咳を特徴とするイヌの急性伝染性呼吸器感染症である(Fordら、1998年)。イヌITBは世界中で最も蔓延しているイヌの感染性呼吸器疾患の一つと考えられており、イヌが犬舎のような過密集団の環境下で飼育されると大流行が流行割合に達することがある。大半の大流行は、イヌ-イヌ間の直接的な接触または呼吸器分泌物のエアロゾル化に起因する(Fordら、1998年)。臨床徴候は、上下気道の上皮にコロニーを形成する細菌性およびウイルス性物質の一つまたは組み合わせに感染することによって引き起こされる。イヌパラインフルエンザウイルス(CPiV)および気管支敗血症菌(ボルデテラブロンキセプチカ(Bordetella bronchiseptica))は感染したイヌから分離される最も一般的な有機体であるが、イヌジステンパーウイルス(CDV)ならびに1型および2型イヌアデノウイルス(CAV-1、CAV-2)などの複数のその他のウイルス、ならびに連鎖球菌(Streptococcus sp.)、パスツレラムルトシダ(Pasteurella multocoda)および大腸菌(Escherichia coli)などの細菌が臨床上の経過および帰結に影響を及ぼし得る(Fordら、1998年)。過密集団では罹患率の高い大流行が極めて効率的および急速に発生するが、合併症である呼吸器感染症および死亡は稀である。生命の危険性のある二次的細菌性肺炎が発症する可能性があるが、ITB症例の大部分は自己限定的であり、何ら治療することなく回復する(Fordら、1998年)。
【0003】
1992年7月、「ケンネルコフ」と推定される呼吸器感染症がニューイングランド、フロリダ、ウエストバージニ、ウィスコンシン、カンザス、コロラド、オクラホマおよびアリゾナの複数のグレイハウンドトラックで流行した。獣医師によると、感染犬の大部分は軽度の咳をして回復したが、数十頭を超えるグレイハウンドが急性出血性肺炎を発症し、その後、急死した(Greyhound Daily News, 1999)
【0004】
1998年末から1999年初めにかけて、国中のレース用グレイハウンド犬舎において複数の「ケンネルコフ」の大流行が発生し、その結果、米国内のすべてのレース用グレイハウンドのトラックおよび検疫が数週間にわたって強制的に閉鎖された(Greyhound Daily News, 1999)。フロリダの一つのトラック(Palm Beach Kennel Club)では、咳をすることが一日においてイヌ集団の40%近くに記録された(Dr. William Duggarからの私信)。1992年の大流行と同様に、大半のグレイハウンドでは咳は回復したが、フロリダの10頭のイヌは「ケンネルコフ」の特徴ではない出血性肺炎症候群のために死亡した(Putnam, 1999)。
【0005】
2003年の3月〜4月に、もう一つの「ケンネルコフ」の大流行が米国東部のグレイハウンドトラックで発生した。この大流行はフロリダの4つのトラックの犬舎に端を発したと考えられ、ほぼ3週間にわたってイヌのレースおよび検疫が停止された。West Palm Beachのトラックでは25%近いイヌが感染し、St. PetersburgのDerby Laneでは1400頭のイヌのほぼ50%が咳を発症した。この場合も、大半のイヌは回復したが、複数のイヌは呼吸器感染のために死亡していた。Derby Laneトラック単独の呼吸器大流行の推定経済的影響は200万ドルであった。
【0006】
1992年、1998〜1999年、または2003年のレース用グレイハウンド犬舎における「ケンネルコフ」流行の病因論または臨床病理学について実証した既報の報告はない。感染は、ケンエルコフの二大原因であるCPiVおよび/または気管支敗血症菌によるものであると想定されている。ウェブサイトなどの十分な証拠のないコミュニケーションによると、咳をしているイヌの一部で報告された致命的な出血性肺炎はβ溶血性連鎖球菌(Streptococcus equi subspecies zooepidemicus)の感染が原因であり、「イヌ連鎖球菌毒素ショック」である症候群とされる。
【0007】
1つの宿主動物種からもう1つの宿主動物種へのウイルスの伝播は、インフルエンザウイルスの生態学および疫学の重要な特徴である(Webster、1998年)。インフルエンザウイルスの種間伝播に関する2つの基本的メカニズムが可能である(Websterら、1992年;Lipatovら、2004年)。一つは、一つの動物種からもう一つの動物種への本質的に未変化のウイルスの直接的伝播である。このメカニズムの例には、最近のヒトにおけるトリインフルエンザウイルスのH5N1亜型の感染が含まれ(Subbaraoら、1998; Peiris ら、2004; Guanら、2004)、またことによるとスペイン風邪として知られる1918年の感染爆発も含まれる(Reidら、2004年)。第2のメカニズムはインフルエンザゲノムのセグメント化性状の結果である。異なる動物種からウイルスが宿主に同時感染すると、セグメント化されたウイルス遺伝子が再集合して、別の動物種への感染能力を持つ組換えが起こり得る。例えば、1957年および1968年には、トリおよびヒトインフルエンザウイルス間の遺伝子再集合により形成された新しいウイルスがヒトインフルエンザの感染爆発を起こした(Websterら、1992年;Lipatovら、2004年;Kawaokaら、1989年)。
【0008】
自然宿主動物種から別の動物種への未変化インフルエンザウイルスの大半の直接的伝播は、新しい動物種の個体間での持続性の伝播が起こり得ないために終末的事象である。複製および水平伝播には多くのウイルス−宿主相互作用が必要であり、新しい宿主体内でのインフルエンザウイルスの永続化に対して強力なバリアとなる(Webbyら、2004年)。従って、インフルエンザウイルスの新しい宿主特異的系統の確立は稀であり、家禽、ブタ、ウマおよびヒトにおいてのみ起こっている(Websterら、1992年;Lipatovら、2004年)。
【0009】
インフルエンザ感染は深刻であるため、インフルエンザウイルスによる感染を診断、予防および治療するための方法に対するニーズがある。
【発明の開示】
【0010】
発明の簡単な概要
本発明は、イヌ科に感染してイヌ科に呼吸器疾患を引き起こすことのできる分離されたインフルエンザウイルスに関する。本発明は、本発明のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するための組成物および帆法にも関する。本発明は、さらに、本発明のウイルスを同定して、本発明のウイルスの動物への感染を診断するための組成物および方法にも関する。
【0011】
発明の詳細な開示
本発明は、イヌ科に感染して呼吸器疾患を引き起こすことのできる分離されたインフルエンザウイルスに関する。一つの態様において、本発明のインフルエンザウイルスは配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性/免疫原性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列を持つタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。具体的な態様において、ポリヌクレオチドは配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77、またはその断片もしくは変異型のいずれかに示されるヌクレオチド配列を含む。具体的な態様において、本発明のインフルエンザウイルスはH3亜型である。ウイルスは、本明細書に開示される方法に従って、感染したイヌから分離して細胞または卵で培養することができる。一つの例示的態様において、インフルエンザウイルスはインフルエンザAウイルスである。
【0012】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスの遺伝子の全体または一部、またはゲノムセグメントを含むポリヌクレオチドにも関する。一つの態様において、本発明のポリヌクレオチドはヘマグルチニン(HA)遺伝子、ノイラミニダーゼ(NA)遺伝子、核タンパク質(NP)遺伝子、マトリックスタンパク質(MAまたはM)遺伝子、ポリメラーゼ塩基性(PB)タンパク質遺伝子、ポリメラーゼ酸性(PA)タンパク質遺伝子、非構造(NS)タンパク質遺伝子、またはこれらの任意の遺伝子の機能性断片もしくは変異型を含む。一つの具体的態様において、本発明のポリヌクレオチドはヘマグルチニン(HA)遺伝子またはその機能性断片もしくは変異型を含む。さらなる態様において、HA遺伝子は次の一つまたは複数を持つヘマグルチニンタンパク質をコードする:ウマH3共通配列のアミノ酸配列に対して、83位のセリン;222位のロイシン;328位のスレオニン;および/または483位のスレオニン。一つの態様において、HA遺伝子は配列番号:16、32、62、もしくは78に示されるアミノ酸配列、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片または変異型を持つポリペプチドをコードする。具体的態様において、HA遺伝子は配列番号:15、31、61または77に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0013】
一つの態様において、本発明のポリヌクレオチドは配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードする。具体的態様において、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76または78に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75または77に示されるヌクレオチド配列、または配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、もしくは78のいずれかの機能性および/または免疫原性断片もしくは変異型をコードする配列を含む。従って、本発明は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列、または配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかの断片もしくは縮重変異型を含む変異型を含むポリヌクレオチド配列に関する。さらなる具体的態様において、本発明のポリヌクレオチドは次を含むことができる:配列番号:3の1〜2271のヌクレオチド;配列番号:5の1〜2148のヌクレオチド;配列番号:7の1〜657のヌクレオチド;配列番号:9の1〜1494のヌクレオチド;配列番号:11の1〜1410のヌクレオチド;配列番号:13の1〜756のヌクレオチド;配列番号:15の1〜1695のヌクレオチド;配列番号:19の1〜の2271ヌクレオチド;配列番号:21の1〜2148のヌクレオチド;配列番号:23の1〜657のヌクレオチド;配列番号:25の1〜1494のヌクレオチド;配列番号:29の1〜756のヌクレオチド;配列番号:31の1〜1695のヌクレオチド;配列番号:47の1〜2277のヌクレオチド;配列番号:49の1〜2271のヌクレオチド;配列番号:51の1〜2148のヌクレオチド;配列番号:53の1〜690のヌクレオチド;配列番号:55の1〜1494のヌクレオチド;配列番号:57の1〜1410のヌクレオチド;配列番号:59の1〜756のヌクレオチド;配列番号:61の1〜1695のヌクレオチド;配列番号:63の1〜2277のヌクレオチド;配列番号:65の1〜2271のヌクレオチド;配列番号:67の1〜2148のヌクレオチド;配列番号:69の1〜690のヌクレオチド;配列番号:71の1〜1494のヌクレオチド;配列番号:73の1〜1410のヌクレオチド;配列番号:75の1〜756のヌクレオチド;および配列番号:77の1〜1695のヌクレオチド。さらに、本発明の範囲内と考えられるウイルス性ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、その開示が参照により本明細書に組み入れられるアクセッション番号DQ124147〜DQ 124161およびDQ 124190にてGenBankに寄託されている。
【0014】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドにも関する。本発明は、このポリペプチドの機能性および/または免疫原性断片および変異型にも関する。意図されるポリペプチドには、本発明のインフルエンザウイルスのHAタンパク質、NAタンパク質、NSタンパク質、核タンパク質、ポリメラーゼ塩基性タンパク質、ポリメラーゼ酸性タンパク質およびマトリックスタンパク質が含まれる。一つの例示的態様において、本発明のポリペプチドは配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列を持つ。
【0015】
本発明は、本発明のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド発現構築物にも関する。一つの態様において、本発明の発現構築物は配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む。具体的態様において、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76または78に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77に示されるヌクレオチド配列、または配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかの機能性および/もしくは免疫原性断片もしくは変異型をコードする配列を含む。従って、本発明は配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列、または配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかの断片もしくは縮重変異型を含む変異型を含むポリヌクレオチド配列を含む。好ましい態様において、本発明の発現構築物は、本発明の機能的に結合されたポリヌクレオチドの過剰発現に対応する。
【0016】
本発明の発現構築物は、一般に、その発現構築物を発現させようとする対象宿主細胞において機能性である調節エレメントを含む。従って、当業者は、例えば、ヒト宿主細胞、哺乳動物宿主細胞、昆虫宿主細胞、酵母宿主細胞、細菌宿主細胞および植物宿主細胞内での使用のための調節エレメントを選択することができる。一つの態様において、調節エレメントはイヌ細胞において機能性であるエレメントである。調節エレメントには、プロモーター、転写終結配列は、翻訳終結配列、エンハンサーおよびポリアデニル化エレメントが含まれる。本明細書で用いられる通り、「発現構築物」という用語は、機能的に結合された核酸配列の転写に対応する核酸配列の組み合わせを示す。本明細書で用いられるように、「機能的に結合する」という用語は、それらの意図する方法で機能することを可能とする関係にある、記載されるコンポーネントの近位を示す。一般に、機能的に結合するコンポーネントは近接する関係にある。
【0017】
本発明の発現構築物は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に機能的に結合するプロモーター配列を含むことができる。プロモーターは、当技術分野において公知である標準的手法を用いてポリヌクレオチドに組み込むことができる。プロモーターの多くの複製または多くのプロモーターが本発明の発現構築物において使用できる。好ましい態様において、プロモーターはその本来の遺伝子環境において転写開始点からの距離とほぼ同一の発現構築物における転写開始点からの距離に位置することができる。この距離における若干の変動は、プロモーター活性を実質的に低下させることなく可能である。転写開始点は、典型的には発現構築物に含まれる。好ましくは、本発明の発現構築物に関連するプロモーターは本発明の機能的に結合するポリヌクレオチドの過剰発現に対応する。
【0018】
真核細胞において本発明の発現構築物と共に使用するためのプロモーターは、ウイルスまたは細胞起源であり得る。ウイルス性プロモーターには、サイトメガロウイルス(CMV)遺伝子プロモーター、SV40初期もしくは後期プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)遺伝子プロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。細胞起源のプロモーターには、デスミン遺伝子プロモーターおよびアクチン遺伝子プロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。酵母細胞において本発明の発現構築物との使用に適しているプロモーターには、3-ホスホグリセレートキナーゼプロモーター、グリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼプロモーター、メタロチオネインプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ-2プロモーターおよびヘキソキナーゼプロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
発現構築物が植物細胞に提供または導入されなければならない場合、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S(エンハンスト(enhanced)CaMV 35Sプロモーターを含む(例えば、米国特許第5,106,739号およびAn, 1997を参照されたい))またはCaMV 19Sプロモーターなどの植物ウイルス性プロモーターが使用可能である。植物において発現構築物として使用できるその他のプロモーターには、例えば、プロリフェラ(prolifera)プロモーター、Ap3プロモーター、熱ショックプロモーター、A.ツメファシエンス(A. tumefaciens)のT-DNA 1'-または2'-プロモーター、ポリガラクツロナーゼプロモーター、ペチュニア由来カルコンシンターゼA(CHS-A)プロモーター、タバコPR-1aプロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、alcA遺伝子プロモーター、pin2プロモーター(Xuら、1993年)、トウモロコシWipIプロモーター、トウモロコシtrpAプロモーター(米国特許第5,625,136号)、トウモロコシCDPK遺伝子プロモーター、およびRUBISCO SSUプロモーター(米国特許第5,034,322号)も使用可能である。米国特許第6,455,760号もしくは米国特許第6,696,623号に開示、または公開された米国特許出願第20040078841号;米国特許出願第20040067506号;米国特許出願第20040019934号;米国特許出願第20030177536号;米国特許出願第20030084486号;もしくは米国特許出願第20040123349号に開示される任意のプロモーター配列などの根特異的プロモーターは、本発明の発現構築物と共に使用することができる。構成的プロモーター(CaMV、ユビキチン、アクチンまたはNOSプロモーターなど)、発現調節プロモーター、および誘導性プロモーター(熱、光、ホルモンまたは化学物質によって誘導可能なもの意外のプロモーターなど)も本発明のポリヌクレオチド発現構築物との使用のために考えられる。例えば、トマトのE8プロモーター(アクセッション番号:AF515784;Goodら、(1994年)のような果実特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターも使用可能である。(例えば、インゲンマメの)β-ファゼオリン遺伝子または(例えば、ダイズの)グリシニン遺伝子およびその他由来のプロモーターなどの種子特異的プロモーターも使用することができる。
【0020】
原核生物の系での発現のため、本発明の発現構築物は、例えば、アルカリホスファターゼプロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター、ラムダPLプロモーター、β-ラクタマーゼプロモーター、ラクトースプロモーター、phoAプロモーター、T3プロモーター、T7プロモーター、またはtacプロモーター(de Boerら、1983年)などのプロモーターを含むことができる。
【0021】
本発明の発現構築物は、任意で、転写終結配列、翻訳終結配列、シグナルペプチドをコードする配列および/またはエンハンサーエレメントを含んでもよい。転写終結領域は、典型的には真核生物またはウイルスの遺伝子配列の3'未翻訳領域から得ることができる。転写終結配列は、効果的な終結に備えるためのコード配列の下流に位置し得る。シグナルペプチド配列は、典型的にはタンパク質のアミノ末端に位置する短いアミノ酸配列であり、特異的細胞小器官コンパートメントからタンパク質作用部位および細胞外環境までの幅広い翻訳後の細胞内目的点への機能的に結合された成熟ポリペプチドの再配置を司る。機能的に結合したシグナルペプチド配列の使用を介した対象となる細胞および/または細胞外目的点への遺伝子産物のターゲティングは、本発明のポリペプチドを用いた使用に関して考えられる。古典的なエンハンサーは、遺伝子転写を亢進させて、さらに発現構築物に含まれることもできるシス作用エレメントである。古典的エンハンサーエレメントは当技術分野において公知であり、CaMV 35Sエンハンサーエレメント、サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーターエンハンサーエレメントおよびSV40エンハンサーエレメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。遺伝子発現を亢進させるイントロン介在エンハンサーエレメントも当技術分野において公知である。これらのエレメントは転写領域内に存在しなければならず、配向依存性である。
【0022】
発現構築物から転写されるmRNAのポリアデニル化を誘導するDNA配列も発現構築物に含められ得て、これらにはオクトピンシンターゼまたはノパリンシンターゼシグナルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
発現構築物は、例えば、形質転換した細胞を選択するための抗生物質耐性および/または除草剤耐性をコードする遺伝子を含む一つまたは複数の優性選択可能マーカー遺伝子も含むことができる。抗生物質耐性遺伝子は、次の抗生物質の一つまたは複数に対する耐性を提供し得る:ハイグロマイシン、カナマイシン、ブレオマイシン、G418、ストレプトマイシン、パロモマイシン、ネオマイシンおよびスペクチノマイシン。カナマイシン耐性はネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(NPT II)によって提供され得る。除草剤耐性遺伝子は、ホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼまたはグリフォセートに対する耐性を提供し得る。細胞形質転換のスクリーニングに用いられるその他のマーカーには、β-グルクロニダーゼ(GUS)、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ノパリンシンターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、またはエンハンストGFPが含まれるが、これらに限定されるものではない(Yangら、1996年)。
【0024】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドベクターにも関する。固有の制限酵素部位は、ポリヌクレオチドベクターへの挿入を可能とする本発明の発現構築物またはポリヌクレオチドの5'および3'末端に含まれ得る。本明細書で用いられるように、「ベクター」という用語は、例えば、適切な調節領域と結合した場合に複製可能であり、細胞間でポリヌクレオチド配列を移動させることができるプラスミド、コスミド、クロモゾーム、ファージ、ウイルスなどを含む任意の遺伝子エレメントを指す。ベクターは、特定の宿主細胞内でのベクターの複製を可能とするヌクレオチド配列を含む。発現および/またはクローニングには多くのベクターが使用可能であり、pBR322、pUCシリーズ、M13シリーズ、pGEMシリーズ、およびpBLUESCRIPTベクターが含まれるがこれらに限定されるものではない(Stratagene, La Jolla, CA and Promega, Madison, WI)。
【0025】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドのコードまたは非コード配列にハイブリダイズすることができるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーなどのオリゴヌクレオチドプローブおよびプライマーにも関する。本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、インフルエンザウイルス核酸配列を検出するための方法で用いることができる。本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、PCR法および核酸増幅を伴うその他の方法で用いることができる。好ましい態様において、本発明のプローブまたはプライマーはストリンジェントな条件下において本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、任意で蛍光分子、酵素、放射性分子などのような検出可能な標識またはレポーター分子を含むことができる。本発明のプローブおよびプライマーは、用いられている方法またはアッセイ法における任意の適切な長さであり得る。典型的には、本発明のプローブおよびプライマーは10〜500個またはそれよりも多いヌクレオチドの長さである。10〜20、21〜30、31〜40、41〜50、51〜60、61〜70、71〜80、81〜90、91〜100、または101もしくはそれよりも多いヌクレオチドの長さであるプローブおよびプライマーは本発明の範囲内と考えられる。一つの態様において、プローブおよびプライマーは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30個の任意のヌクレオチドの長さである。本発明のプローブおよびプライマーは、ポリヌクレオチド配列と完全な(100%)ヌクレオチド配列同一性を持ち得て、そうでない場合は、配列同一性は100%未満であり得る。例えば、プローブまたはプライマーと配列の間の配列同一性は99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、またはプローブもしくはプライマーが本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列に対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし得る限り、その他の任意のパーセントの配列同一性であり得る。本発明の例示的プローブおよびプライマーは、配列番号:35、配列番号:36、配列番号:37、配列番号:38、配列番号:39、配列番号:40、配列番号:41、配列番号:42、配列番号:43、配列番号:44、配列番号:45および配列番号:46のいずれか、または配列番号:35〜46の任意の機能性断片もしくは変異型に示されるヌクレオチド配列を持つものを含む。
【0026】
本明細書で用いられるように、「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの混合ポリマーを指し、別途限定されない限り、天然のヌクレオチドと同様の方法で機能を発揮することができる天然型ヌクレオチドの公知の類似体を含む。ポリヌクレオチド配列は、タンパク質に翻訳され得るRNAおよびRNA鎖に転写され得るDNA鎖配列を含む。本発明の任意の核酸、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの相補的配列も本発明の範囲内と考えられる。ポリヌクレオチド配列は、さらに、完全長の配列および完全長配列から派生するより短い配列を含む。本発明は、本明細書で開示されるポリヌクレオチドに対して配列において相補的であるポリヌクレオチドも内包する。本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは精製または単離された型として提供され得る。
【0027】
遺伝暗号の縮重のため、様々な異なるポリヌクレオチド配列が本発明のポリペプチドをコードし得る。想定されるすべてのトリプレットコドンを示す表(UはTも表す)および各コドンによってコードされるアミノ酸についてはLewin(1985年)に述べられている。さらに、同一または本質的に同一の本発明のポリペプチドをコードする代替のポリヌクレオチド配列を作出することは十分に当業者の技術の範囲内である。これらの縮重変異型および代替ポリヌクレオチド配列は本発明の範囲内である。本明細書で用いられるように、「本質的に同一な」配列への言及は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの機能性および/または免疫原性活性を物質的には変化させずに、アミノ酸の置換、欠失、付加または挿入をコードする配列を指す。
【0028】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドの変異型にも関する。変異型の配列は、配列の一つまたは複数のヌクレオチドが置換、欠失および/または挿入されている配列を含む。DNAの天然のヌクレオチドに関して置換され得るヌクレオチドは、イノシン、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、ヒポキサンチン、1-メチルグアニン、5-メチルシトシンおよびトリチル化塩基を含み得るがこれらに限定されない塩基分子を持つ。配列におけるヌクレオチドの糖分子はさらに修飾され得て、アラビノース、キシルロースおよびヘキソースを含むが、これらに限定されるものではない。さらに、ヌクレオチドのアデニン、シトシン、グアニン、チミンおよびウラシル塩基はアセチル基、メチル基および/またはチオ基で修飾され得る。ヌクレオチドの置換、欠失および/または挿入を含む配列は、当技術分野において公知の標準的手法を用いて作成および検査することができる。
【0029】
具体的に例示されている、または本発明のポリペプチドに自然の状態で含まれる以外のアミノ酸の置換も本発明の範囲内と考えられる。例えば、非天然型アミノ酸は、置換アミノ酸を持つポリペプチドが、アミノ酸が置換されていないポリペプチドと実質的に同一の機能活性を維持する限り、ポリペプチドのアミノ酸に置換することができる。非天然型アミノ酸の例には、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシプロリン、ホモセリン、フェニルグリシン、タウリン、ヨードチロシン、2,4-ジアミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、2-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、ε-アミノヘキサン酸、6-アミノヘキサン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、ノルロイシン、ノルバリン、サルコシン、ホモシトルリン、システイン酸、τ-ブチルグリシン、τ-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、β-メチルアミノ酸、C-メチルアミノ酸、N-メチルアミノ酸などのデザイナーアミノ酸(designer amino acids)、および一般のアミノ酸類似体が含まれるが、これらに限定されるものではない。非天然型アミノ酸には、誘導体形成された側鎖を持つアミノ酸も含まれる。さらに、タンパク質内の任意のアミノ酸がD型(右旋性)またはL型(左旋性)であってよい。本発明のポリペプチドのタンパク質配列の対立遺伝子変異型も本発明の範囲内に含まれる。
【0030】
アミノ酸は、一般に、次のクラスに分類することができる:非極性、非荷電極性、塩基性および酸性。一つのクラスのアミノ酸を持つ本発明のポリペプチドが同一クラスのもう一つのアミノ酸で置換される保存的置換は、置換が生じたポリペプチドが置換が起こっていないポリペプチドと引き続き実質的に同一の機能性活性を保持する限り、本発明の範囲内である。配列内に一つまたは複数のアミノ酸置換を持つポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは本発明の範囲内と考えられる。次の表11は、各クラスに属するアミノ酸例のリストを示す。一文字表記のアミノ酸の略号を表12に示す。
【0031】
本発明のインフルエンザウイルスのポリペプチドの断片および変異型は当技術分野において公知の標準的方法を用いて作成して、当技術分野において公知の標準的手法を用いて機能または免疫原性の存在について調べることができる。例えば、本発明のノイラミニダーゼポリペプチドの断片および/または変異型の試験では、酵素活性が測定され得る。このように、当業者は本発明のポリペプチドの断片および変異型を容易に作成および試験して、その断片または変異型が完全長または非変異型ポリペプチドに比して活性を保持しているかどうかを調べることができる。
【0032】
本発明の範囲内と考えられるポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、本明細書において具体的に例示される本発明の配列とより高い特定の同一性および/または類似性の範囲の観点で規定することもできる。配列同一性は、典型的には60%よりも高く、好ましくは75%よりも高く、より好ましくは80%よりも高く、さらに一層好ましくは90%よりも高く、95%よりも高い値であり得る。配列の同一性および/または類似性は、本明細書に例示される配列に比して、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%であり得る。特記する場合を除いて、本明細書で用いられるように2つの配列の配列同一性および/または類似性パーセントは、KarlinおよびAltschul(1993年)に修正されたKarlinおよびAltschulのアルゴリズム(1990年)を用いて求めることができる。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990年)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み入れられる。所望の配列同一性パーセントを持つ配列を得るために、NBLASTを用いてスコア=100、語長=12にてBLAST検索を実施することができる。比較のためのギャップの整列を得るために、Altschulら(1997年)に記載されるようにGapped BLASTを使用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを用いる場合、それぞれのプログラム(NBLASTおよびXBLAST)のデフォルトのパラメータを用いてもよい。NCBI/NIHのウェブサイトを参照されたい。
【0033】
本発明は、標準的なストリンジェントな条件および標準的方法(Maniatisら、1982年)においてその配列とハイブリダイズさせるために、本明細書に例示されるポリヌクレオチド配列と十分に相同である配列を持つポリヌクレオチド分子も意図される。本明細書で用いられるように、ハイブリダイゼーションにおける「ストリンジェント」な条件とは、典型的にはハイブリダイゼーションが6×SSPE、5×Denhardt溶液、0.1%SDS、0.1mg/ml変性DNA内においてDNAハイブリッドの融点(Tm)を下回る20〜25Cで一晩実施される条件を指す。融点Tmは次式により示される(Beltzら、1983年):
Tm=81.5 C+16.6 Log[Na+]+0.41(%G+C)-0.61(%ホルムアミド)-600/塩基対の二本鎖の長さ。
【0034】
洗浄は典型的には次のように行われる:
(1)1×SSPE、0.1%SDSにおいて室温で15分ずつ2回(低ストリンジェントな洗浄)
(2)0.2×SSPE、0.1%SDSにおいてTm-20Cで15分間1回(中ストリンジェントな洗浄)。
【0035】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスの遺伝子によってコードされるウイルス性タンパク質およびペプチドにも関する。一つの態様において、ウイルスタンパク質は成熟HAタンパク質である。具体的態様において、成熟HAタンパク質は次の一つまたは複数を含む:82位のセリン;221位のロイシン;327位のスレオニン;および/または482位のスレオニン。一つの例示的態様において、成熟HAタンパク質は配列番号:33もしくは配列番号:34に示すアミノ酸配列、または配列番号:33もしくは配列番号:34の機能性および/または免疫原性の断片もしくは変異型を持つ。もう一つの態様において、ウイルスタンパク質は、NAタンパク質、NSタンパク質、PBタンパク質、PAタンパク質またはMAタンパク質である。本発明のウイルスタンパク質およびペプチドは、そのタンパク質またはペプチドに特異的に結合する抗体を作出するために使用され得る。本発明のウイルスタンパク質およびペプチドは、免疫原として、またワクチン組成物として使用することもできる。
【0036】
本発明は、感受性宿主動物に感染して呼吸器疾患を引き起こすことのできるインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するための組成物および方法にも関する。本発明は、感受性宿主動物において任意の亜型のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するために用いられ得る。例えば、インフルエンザウイルスは、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16のHA亜型、およびN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9のNA亜型であり得る。一つの態様においてHA亜型はH3またはH5である。さらなる態様において、NA亜型はN7またはN8である。具体的態様において、免疫応答は亜型H3N8のインフルエンザウイルスに対して誘発される。一つの態様において、宿主動物はイヌ科である。イヌ科には、オオカミ、コヨーテおよびキツネなど、野生、動物園および家庭のイヌが含まれる。イヌには、さらに、例えば、純系および/または雑種の伴侶犬などの家庭内のイヌ、ショードッグ、作業犬、牧羊犬、狩猟犬、番犬、警察犬、レース犬、および/または実験犬も含まれる。一つの具体的態様において、宿主動物はグレイハウンドのような飼い慣らされたイヌである。一つの態様において、動物は本発明のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するために十分な本発明の免疫原性組成物の有効量を投与される。免疫応答は液性および/または細胞性免疫応答であり得る。一つの具体的態様において、免疫応答は、免疫化後のある期間、免疫された宿主動物体内においてウイルス感染を予防または最小限に抑えることのできる防御的免疫応答である。従って、本発明は、ワクチン接種された動物に本発明のウイルスに対する防御免疫応答を提供することができるワクチン組成物および方法にも関する。
【0037】
本明細書に記載される通り、本発明のワクチンまたは免疫原性組成物は、弱毒化もしくは不活化ウイルスを含む無細胞の完全ウイルス、またはサブビリオン粒子(ビリオンが処理されてウイルス脂質の一部またはすべての除去された「スプリットワクチン」を含む)、ウイルスタンパク質(個々のタンパク質および多くのタンパク質の高分子複合体を含む)、ポリペプチド、およびペプチドを含むそのウイルスの一部、ならびにウイルス感染細胞株、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。ウイルス感染細胞株を含むワクチンまたは免疫原性組成物は、それぞれが異なるウイルス株に感染した多くの細胞株を含んでもよい。
【0038】
本発明のワクチンまたは免疫原性組成物は、例えば、本発明のインフルエンザウイルスのHAタンパク質、NAタンパク質、核タンパク質、ポリメラーゼ塩基性タンパク質、ポリメラーゼ酸性タンパク質および/またはマトリックスタンパク質をコードする遺伝子を含み得る組換え型ウイルスベクターをベースとする構築物も含む。組換え型ベクター/ウイルス構築物を作成するために用いることができる任意の適切なウイルスベクターが本発明に従って用いられることが意図される。例えば、アデノウイルス、アビボックス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、カナリアポックス、エントモポックス、ブタポックス、ウェストナイルウイルス、および当技術分野において公知であるその他から派生するウイルスベクターは本発明の組成物および方法と共に使用することができる。コンポーネントをコードおよび発現する組換え型ポリヌクレオチドベクターは当技術分野において標準的な遺伝子工学の手法を用いて構築することができる。さらに、本明細書に記載される様々なワクチン組成物は別々に、また互いに組み合わせて使用してもよい。例えば、動物の一次免疫化は単一または多くの系統のコンポーネントを持つ組換え型ベクターをベースとする構築物を使用し得て、続いて、不活化ウイルスまたは不活化ウイルス感染細胞株を含むワクチン組成物を用いて二次的追加免疫を行ってもよい。本発明のワクチン組成物を用いたその他の免疫化プロトコールは当業者には明白であり、本発明の範囲内と考えられる。
【0039】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスの少なくとも一つの遺伝子またはゲノムセグメント、および本発明の異なるインフルエンザウイルスまたは本発明のウイルス以外のインフルエンザウイルス由来のウイルス遺伝子またはゲノムセグメントの残りを含むリアソータントウイルスにも関する。リアソータントウイルスは、ドナーである本発明のインフルエンザウイルスの核酸とレシピエントであるインフルエンザウイルスの核酸の遺伝的リアソータント、およびその後のドナーウイルスの核酸を含むリアソータントウイルスの選択によって作出することができる。リアソータントウイルスを作出および分離するための方法は当技術分野において周知である(Fieldsら、1996年)。一つの態様において、本発明のリアソータントウイルスはヒト、トリ、ブタまたはウマインフルエンザウイルスの遺伝子またはゲノムセグメントを含む。本発明のリアソータントウイルスは、リアソータントウイルスが本発明のドナーインフルエンザウイルス由来の少なくとも1つの遺伝子またはゲノムセグメントを含む限り、ドナーおよびレシピエントインフルエンザウイルス由来の核酸の任意の組み合わせを含んでよい。一つの態様において、レシピエントインフルエンザウイルスはウマインフルエンザウイルスであり得る。
【0040】
ウイルスタンパク質の天然、組換え型または合成ポリペプチド、およびそのペプチド断片も、本発明の方法に従ってワクチン組成物として使用することができる。一つの態様において、多くの系統から由来するウイルスポリペプチドはワクチン組成物中で混合され得て、宿主動物にワクチン接種するために使用することができる。例えば、本発明のインフルエンザウイルスの少なくとも2つの異なる系統に由来するウイルス性HAタンパク質をベースとするポリペプチドがワクチンにおいて混合され得る。ポリペプチドは一つの系統に対して相同であり得て、またはアミノ酸配列が少なくとも2つの異なる系統に由来するポリペプチドの連結または結合によって派生する「ハイブリッド」または「キメラ」ポリペプチドを含んでもよい。ウイルス性ポリペプチドを調製するための手順は当技術分野において周知である。例えば、ウイルス性のポリペプチドおよびペプチドは固相合成法(Merrifield、1963年)を用いて合成することができる。ウイルスのポリペプチドおよびペプチドは、ウイルスのタンパク質またはペプチドをコードするポリヌクレオチド分子を細菌、酵母または哺乳動物細胞株などの宿主細胞内で発現させて、その発現したタンパク質を当技術分野の標準的な技術を用いて精製する組換えDNA技術を用いて作成することもできる。
【0041】
本発明のワクチン組成物は裸の核酸組成物も含む。一つの態様において、核酸は本発明のインフルエンザウイルスのHAおよび/またはNAタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み得る。核酸ワクチン接種のための方法は当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第6,063,385号および米国特許第6,472,375号において開示されている。核酸はプラスミドまたは遺伝子発現カセットの剤形であり得る。一つの態様において、核酸は動物に投与されるリポソームに被包されて提供される。
【0042】
本発明に従って用いることができるワクチン組成物ならびにポリペプチドおよび核酸などの免疫原は、薬学的に許容される担体または希釈剤と共に提供され得る。本発明において有用な化合物および組成物は、薬学的に有用な組成物を調製するための公知の方法に従って製剤化してよい。製剤化については、当業者に周知であって容易に入手可能な多くの情報源に詳細に記載されている。例えば、E.W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Science, Easton Pennsylvania, Mack Publishing Company、第19版、1995年は本発明と関連付けて用いることができる製剤化について述べている。一般に、本発明の組成物は、組成物の有効な投与を促進するために有効量の免疫原を適切な担体と組み合わせるように製剤化される。また、この方法で用いられる組成物は様々な剤形であり得る。これらには、例えば、錠剤、丸剤、粉剤、液剤または懸濁剤、坐剤、注射可能および不溶性の液剤、およびスプレーなど、固体、半固体および液体の投与剤形が含まれる。好ましい剤形は、意図する投与モードおよび治療適用に依存する。組成物は、好ましくは、当業者に公知である通常の薬学的に許容される担体および希釈剤も含む。このペプチド模倣物と共に使用するための担体または希釈剤の例には、水、生理食塩液、鉱油を含む油、エタノール、ジメチルスルホキシド、ゼラチン、シクロデキストラン、ステアリン酸マグネシウム、デキストロース、セルロース、糖、炭酸カルシウム、グリセロール、アルミナ、デンプン、ならびに相当する担体および希釈剤、またはこれらの任意の混合物が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の免疫原の製剤は、懸濁物質、保護剤、潤滑剤、緩衝剤、保存剤および安定剤を含んでもよい。所望の治療的投与のためのこのような用量の投与に備えるため、本発明の薬学的組成物は、好都合に、担体または希釈剤を含む組成物全体の重量に基づく免疫原の重量に基づいて約0.1%〜45%、特に1〜15%を含む。
【0043】
本発明のワクチンおよび免疫原性組成物は当技術分野において周知の手順によって調製することができる。例えば、ワクチンまたは免疫原は、典型的には、例えば液体の溶液または懸濁液などの注射可能剤として調製される。ワクチンまたは免疫原は、投与製剤と適合する方法およびレシピエントにおいて治療上有効かつ免疫原性であるような量で投与される。特定のワクチンまたは免疫原製剤において最適な投与量および投与パターンについて、当業者は容易に判断することができる。
【0044】
本発明のペプチドおよび/またはポリペプチドは多抗原性ペプチド(MAP)構築物の形でも提供することができる。MAP構築物の調製はTam(1988年)に述べられている。MAP構築物は、免疫原の多数の複製が合成されるリジン残基のコアマトリックスを使用する(Posnettら、1988年)。それぞれが同一または異なる免疫原を含有する多くのMAP構築物が本発明の方法に従ってワクチン組成物として調製されて投与され得る。一つの態様において、MAP構築物は一つまたは複数のアジュバントと共に提供および/または投与される。本発明のインフルエンザポリペプチドは、一つまたは複数のポリペプチドを含む高分子タンパク質構造物としても作成および投与され得る。公開された米国特許出願であるUS2005/0009008には、インフルエンザウイルスのためのワクチンとしてウイルス様粒子を産生するための方法が開示されている。
【0045】
本発明の方法に従って、本明細書に記載されるワクチンおよび免疫原性組成物は、その後のウイルスによる宿主の刺激または感染に対して防御免疫を誘発するための有効な量および方法で、感受性の宿主、典型的にはイヌ科、より典型的には飼い慣らされたイヌに投与される。一つの態様において、宿主動物はイヌ科である。イヌには、オオカミ、コヨーテおよびキツネなど、野生、動物園および家庭のイヌが含まれる。イヌには、さらに、例えば、純系および/または雑種の伴侶犬などの家庭内のイヌ、ショードッグ、作業犬、牧羊犬、狩猟犬、番犬、警察犬、レース犬、および/または実験犬も含まれる。一つの具体的態様において、宿主動物はグレイハウンドのような飼い慣らされたイヌである。ワクチンまたは免疫原は、典型的には、例えば皮下、腹腔内または筋肉内のいずれかの注射により非経口的に投与される。その他の適切な投与モードは経口または鼻腔投与を含む。通常はワクチンまたは免疫原は動物に対して少なくとも2回、各投与間に1週またはそれよりも多い週の間隔を空けて投与される。しかし、ワクチンまたは免疫原の初回および追加免疫投与のためのその他の投与計画が意図され、医師の判断および治療しようとする特定の宿主動物に依存し得る。
【0046】
ワクチン製剤中のウイルスおよびウイルス感染細胞は、当技術分野において公知の方法を用いて不活化または弱毒化してよい。例えば、完全ウイルスおよび感染細胞は、パラホルムアルデヒド、ホルマリン、フェノール、UV光、高温などに曝露することによって不活化または弱毒化することができる。ワクチン用量中の無細胞の完全ウイルスの量は、通常は、約0.1mgから約5mgの範囲であり、より通常は約0.2mgから約2mgである。ウイルス感染細胞株を含むワクチン製剤の投与量は、通常は、用量当たり約106個から約108個の細胞、より通常は用量当たり約5×106個から約7.5×107個の細胞を含む。動物のための用量中のタンパク質またはペプチド免疫原の量は、用量を投与される動物の大きさ、齢期などに依存して、約0.1μgから10000μg、または約1μgから5000μg、または約10μgから1000μg、または約25μgから750μg、または約50μgから500μg、または100μgから250μgまで変動し得る。
【0047】
ウイルスもしくはウイルス感染細胞またはウイルス性タンパク質もしくはペプチドなどの本発明の免疫原性またはワクチン組成物は、典型的には投与直前にアジュバントと混合してよい。ワクチン製剤での使用について意図されるアジュバントには、スレオニルムラミルジペプチド(MDP)(Byarsら、1987年)、サポニン、コリネバクテリウムパルバム(Cornebacterium parvum)、フロイント完全およびフロイント不完全アジュバント、アルミニウム、またはこれらの任意の混合物が含まれる。ミョウバンなど、本発明の方法およびワクチンとの使用に適切なその他の様々なアジュバントが当技術分野において公知であり、本発明との使用に関して意図される。
【0048】
本発明はさらに本発明のタンパク質またはペプチドと特異的に結合する抗体にも関する。本発明の抗体はモノクローナルおよびポリクローナル抗体組成物を含む。好ましくは、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。抗体全体およびその抗原結合断片が本発明において意図される。従って、例えば、適切な抗体に結合した断片にはFab2、FabおよびFv抗体断片が含まれる。本発明の抗体は、蛍光分子(例えば、フルオレセインまたは酵素)などの検出可能分子で標識してよい。
【0049】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスの検出および同定、ならびに本発明のインフルエンザウイルスの動物への感染の診断のための方法および組成物にも関する。本発明の方法は、動物由来の生物学的試料におけるイヌインフルエンザの存在の検出を含む。試料中のイヌインフルエンザの検出は、動物におけるイヌインフルエンザを診断するために有用である。さらに、この情報は、ある期間にわたって存在するイヌインフルエンザの特徴的な量に基づいて動物の予後を判断するための能力を提供し得て、動物における治療のための物質および処置の選択を支援し、治療のモニタリングを支援することができる。この方法は、試験対象である動物のイヌインフルエンザの不在を証明する能力も提供する。
【0050】
動物におけるイヌインフルエンザ検出能は、異なる地理的位置におけるイヌインフルエンザの大流行の評価を可能とする。この情報はさらに早期の検出を可能とするので、感染した動物は疾患の蔓延を制限するために隔離することが可能であり、治療オプションの早期介入が可能となる。さらに、この有効な情報を持っていることは、医療担当者に対して、医療供給品および有効であればワクチンの組み立てを含めて、多くの疾病動物を治療するための準備の方向を提供することができる。
【0051】
一つの態様において、本発明の方法は、イヌなどの試験動物からの生物学的試料の採取を伴う。生物学的試料は、細胞、組織、被毛、全血、血清、血漿、乳頭吸引液、肺洗浄液、脳脊髄液、唾液、汗および涙を含む任意の生物材料であり得る。
【0052】
動物試験試料は、動物がインフルエンザの症状を発症しているか否かにかかわらず、イヌインフルエンザウイルスを持っていることが疑われる動物から採取され得る。また、対照試料は、イヌインフルエンザを持っていないことが公知である動物から提供または採取することができる。さらなる対照は、例えば、偽陽性および偽陰性の結果を抑制するため、アッセイ法の試薬がA型イヌインフルエンザウイルスを積極的に検出することを確認するために提供されてもよい。
【0053】
生物学的試料中のイヌインフルエンザの有無の検出に加えて、本発明で用いられる検出方法は核酸配列の変化など、環境、薬剤投与、遺伝子操作または突然変異、損傷、飼料の変化、加齢、または動物のその他の任意の特徴に起因し得るイヌインフルエンザウイルスにおける突然変異も検出することができる。突然変異は、また、イヌインフルエンザAを以前には有効であった薬剤に対して耐性とする、または異なる動物種、つまりヒトにおけるウイルスの感染および伝播を可能とする場合がある。例えば、トリインフルエンザAウイルスはその他の動物およびヒトに感染することが示されている。
【0054】
動物におけるインフルエンザウイルスを検出するための一つの態様において、診断は高品質の試料の採取、検査施設への迅速な輸送、および検査室での検査前の適切な保管によって促進される。ウイルスは、感染細胞および分泌物を含む試料中で最もよく検出される。一つの態様において、ウイルス抗原の直接検出のための、ならびに/または細胞培養中の核酸および/もしくはウイルス分離のための標本は、臨床症状発症直後の3日間に採取する。上気道のウイルス感染症の診断には、鼻腔スワブ、鼻咽頭スワブ、鼻咽頭吸引液、鼻腔洗浄液および咽頭スワブを含むがこれらに限定されない多くのタイプの標本が適切である。スワブに加えて、組織または血清の試料を採取してもよく、観血的手順も実施可能である。
【0055】
一つの態様において、呼吸器の標本を採取して1〜5mlのウイルス輸送培地に入れて輸送する。様々なウイルスの回収に十分な多くの培地が市販されている。臨床標本は輸送培地に加えられる。鼻腔または鼻咽頭スワブもウイルス輸送培地に入れて輸送してよい。輸送培地の一つの例は、子ウシ抽出液 10gmおよびウシアルブミン画分V 2gmであり、無菌蒸留水に400mまで加える。硫酸ゲンタマイシン液(50mg/ml)0.8mlおよびアンホテリンB(250μg/ml)3.2mlなどの抗生物質も加えることができる。培地は、好ましくは、濾過処理によって滅菌する。無菌生理食塩液(0.85%NaCl)などの鼻腔洗浄液も呼吸器ウイルスの標本の採取に使用することができる。
【0056】
一つの態様において、血清は臨床症状発症後すぐに、好ましくは7日以内に急性期の動物から採取した全血1〜5mlから血清を採取する。例えば、症状発症後約14日など、回復期血清試料を採取してもよい。血清標本は、中和試験において呼吸器ウイルスに対する抗体の検出に有用であり得る。
【0057】
いくつかの場合において、試料は一定期間を通して個々の動物から採取され得る(例えば、1日1回、週1回、月1回、半年に1回、または年1回)。一定期間を通して個々の動物から多くの試料を採取することは、早期検出からの結果を確認し、さらに/または具体的な治療、例えば選択された治療薬剤に対する反応性または耐性を明らかにするために使用することができる。
【0058】
本発明の方法は、動物に由来する試験試料中の1つまたは複数の病理学的物質の存在、および各病理学的物質の量を検出するために使用することができる。酵素捕捉免疫吸着法(ELISA)、間接蛍光抗体(IFA)試験、血球凝集および血球凝集阻害(HI)アッセイ法、ならびにウェスタンブロットを含む抗体アッセイ法を含むがこれらに限定されない病理学的物質を検出するための任意の方法を使用してよい。公知の細胞培養法も使用することができる。陽性培養は、細胞培養の免疫蛍光法または細胞培養用培地(上清)のHIアッセイ法を用いてさらに同定してもよい。
【0059】
さらに、核酸(DNAもしくはRNA)またはタンパク質を検出するための方法が使用できる。このような方法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および逆転写酵素(RT)PCR試験およびリアルタイム試験、ならびに定量的なヌクレアーゼプロテクションアッセイ法が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらのアッセイ法を実施するための検査キットが市販されている。例えば、QIAGEN(Valencia, CA)より一段階RT-PCRキットおよびウイルスRNA抽出キットが販売されている。
【0060】
一つの態様において、方法は本発明のウイルスまたはウイルスタンパク質に特異的な抗体を使用する。一つの具体的態様において、本発明のウイルスのHAタンパク質に特異的な抗体が使用される。もう一つの態様において、本発明のウイルスのNPタンパク質に特異的な抗体が使用される。鼻腔または鼻咽頭域に由来するような適切な試料が動物から得られて、それからウイルスまたはウイルスタンパク質が単離される。続いて、本発明のウイルスのHAまたはNPなどのタンパク質に特異的な抗体の結合に関して、ウイルスコンポーネントがスクリーニングされる。もう一つの態様において、動物から血清試料(またはその他の抗体を含む試料)が得られて、この血清について本発明のウイルスのタンパク質に結合する抗体の存在をスクリーニングする。例えば、プレート壁が壁に結合するHAおよび/もしくはNPタンパク質、またはそのペプチド断片を持つ場合は、ELISA法が実施できる。続いて、プレート壁を試験動物由来の血清または抗体と接触させる。動物体内にHAおよび/またはNPタンパク質に特異的に結合する抗体が存在することは、その試験動物が本発明のインフルエンザウイルスに感染しているまたは感染したことがあることを示す。
【0061】
一つの態様において、病理学的物質の存在は生物学的試料におけるその物質に対する抗体の有無を調べることによって検出される。それは、動物の感染後、血液検査で抗体が検出できる前に一定期間(例えば、数カ月)を要することもある。一旦形成されると、抗体は、たとえ疾患の治療が成功した後であっても、通常は何年も持続する。イヌインフルエンザAに対する抗体の検出は、感染が最近または過去のいつであったかは示すことはできない。
【0062】
抗体検査は液体に対しても実施することができる。抗体アッセイ法には、酵素捕捉免疫吸着法(ELISA)、間接蛍光抗体(IFA)法、およびウェスタンブロットが含まれる。好ましくは、抗体検査は、例えばELISAまたはIFA、続くウェスタンブロットなど、多くのアッセイ法を用いて実施される。抗体アッセイ法は、ELISA法またはIFA法のいずれか、続いてウェスタンブロットアッセイ法を用いて2段階の過程で実施してよい。ELISAはIFAよりも信頼性の高い正確なアッセイ法と考えられるが、IFAはELISAが有効でない場合に使用できる可能性がある。(より特異的な試験である)ウェスタンブロット試験は、すべての動物、特に、ELISA法またはIFA法において陽性または境界域の陽性(不確か)とされている動物において実施することもできる。
【0063】
インフルエンザウイルスの検出に使用することができるその他の抗体をベースとする試験には血球凝集阻害試験が含まれる。血球凝集活性は、(Burlesonら、1992)およびKendalら、1982年が記載したように、ニワトリまたはシチメンチョウの赤血球を用いて動物由来の生物学的試料において検出可能である。一つの態様において、本発明のインフルエンザまたはHAタンパク質もしくはペプチドを血清または抗体を含む試験試料と接触させる。続いて、トリなどの動物由来の赤血球(RBC)を加える。HAに対する抗体が存在すれば、RBCは凝集しない。HAに対する抗体が存在しない場合は、RBCはHAの存在下にて凝集する。標準的な血球凝集阻害アッセイ法に対する変更および修正は当技術分野において公知であり、本発明の範囲内と考えられる。
【0064】
動物の感染は、鼻腔または鼻咽頭スワブなどの試料からのウイルスの分離によっても調べることができる。ウイルス分離は、細胞培養および鶏卵接種法を含む標準的な方法を用いて実施してよい。
【0065】
さらなる態様において、核酸をベースとするアッセイ法を本発明のウイルスの検出のために使用することができる。一つの態様において、核酸試料は動物から得られて、その核酸が本発明のインフルエンザウイルスに特異的な配列を含む場合、その核酸は増幅産物を産生するプライマーを用いたPCRに供される。具体的態様において、RT-PCRが対象ウイルスのアッセイ法に用いられる。一つの例示的態様において、リアルタイムRT-PCRが本発明のインフルエンザウイルスについてアッセイするために用いられる。PCR、RT-PCRおよびリアルタイムPCR法は当技術分野において公知であり、米国特許第4,683,202号;米国特許第4,683,195;米国特許第4,800,159号;米国特許第4,965,188号;米国特許第5,994,056号;米国特許第6,814,934号、ならびにSaikiら(1985年);Sambrookら(1989年);Leeら(1993年);およびLivakら(1995年)において開示されている。一つの態様において、PCRアッセイ法はインフルエンザマトリックス(MA)遺伝子および/またはHA遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドを使用する。増幅産物が本発明のインフルエンザウイルスの配列を持つか否かを調べるために、増幅産物をシーケンシングしてもよい。その他の核酸をベースとするアッセイ法は本発明のウイルスによるウイルス感染を検出および診断するために使用され得て、このようなアッセイ法は本発明の範囲内と考えられる。一つの態様において、核酸を含む試料について、ウイルスのポリヌクレオチドまたは遺伝子配列に特異的であるフォワードおよびリバースプライマーを用いて、PCRをベースとする増幅を行う。試料中の核酸がRNAである場合は、RT-PCRを実施してもよい。リアルタイムPCRについては、プライマーと共に検出可能プローブを使用する。
【0066】
多くの循環インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子に特異的なプライマーセットが公知であり、引き続き開発中である。インフルエンザウイルスゲノムは一本鎖RNAであり、DNAコピー(cDNA)は逆転写酵素(RT)ポリメラーゼを用いて作成しなければならない。例えば、RT-PCRを用いたRNAゲノムの増幅は、典型的にはインフルエンザA亜型および公知のHA配列およびノイラミニダーゼ(NM)-1に基づいて設計されるオリゴヌクレオチドプライマーのペアを必要とする。このプライマーは、一つのウイルスの亜型のみのRNAを特異的に増幅するように選択することができる。亜型特異的なプライマーを用いて作成されるDNAは、シーケンシングなどの分子遺伝学的技術によってさらに分析され得る。この試験は好ましくは陽性対照を用いて実施され、または産物はシーケンシングおよび公知の配列との比較により確認される。ターゲットPCR産物がないこと(即ち、「陰性」の結果)は、ウイルスの存在を排除しない可能性がある。続いて、結果は、臨床スワブまたは感染細胞培養から2・3時間以内に得られる。インフルエンザウイルスAのPCRおよびRT-PCRについては、Fouchierら、2000年およびMaertzdorfら、2004年によって報告されている。
【0067】
本発明は、本発明のウイルスに対する抗ウイルス活性を持つ化合物または薬剤のスクリーニングのための方法にも関する。一つの態様において、本発明のウイルスに感染した細胞を試験化合物または薬剤と接触させる。続いて、接触後のウイルス量またはウイルス活性を測定する。抗ウイルス活性を示す化合物または薬剤をさらなる評価のために選択され得る。
【0068】
本発明は、本発明のインフルエンザウイルスに感染した単離細胞にも関する。一つの態様において、細胞は、イヌ腎上皮細胞などイヌの細胞である。
【0069】
本発明は、本発明のポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドで形質転換した細胞にも関する。好ましくはポリヌクレオチド配列は本発明の発現構築物において提供される。より好ましくは、発現構築物は本発明の機能的に結合したポリヌクレオチドの細胞内での過剰発現に備える。一つの態様において、細胞は配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列をコードする配列を含むポリヌクレオチド配列で形質転換される。具体的態様において、細胞は、それぞれ、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75または77に示されるヌクレオチド配列を含む配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78の任意の機能性断片もしくは変異型をコードする配列で形質転換される。従って、本発明は配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列、または配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかの断片または縮重変異型を含む変異型を含むポリヌクレオチド配列で形質転換された細胞に関する。
【0070】
形質転換した細胞は、例えば、プロトプラストを含む植物細胞の真核細胞であり得て、または形質転換した細胞は例えば大腸菌または枯草菌(B. subtilis)などの細菌細胞の原核細胞であり得る。動物細胞には、ヒトの細胞、哺乳動物細胞、特にイヌの細胞、トリの細胞および昆虫細胞が含まれる。植物細胞には、双子葉、単子葉および針葉樹の細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
本発明は、本発明のウイルスタンパク質またはポリペプチドを発現および産生するトランスジェニック植物を含む植物にも関する。本発明のポリヌクレオチドで形質転換された、または本発明のポリヌクレオチドを含むように交配された植物、植物組織および植物細胞は本発明によって意図される。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは植物、植物組織または植物細胞において過剰発現する。本発明のインフルエンザワクチン組成物を産生するために植物が使用され得て、この植物の摂取を介してワクチンを投与することができる(例えば、米国特許第5,484,719号および米国特許第6,136,320号を参照されたい)。
【0072】
本発明は、本発明のウイルスによるウイルスの検出または感染の診断のためのキットにも関する。一つの態様において、キットは本発明のインフルエンザウイルスに特異的に結合する本発明の抗体、またはその抗原性部分を含む。もう一つの態様において、キットは本発明の一つまたは複数のポリペプチドまたはペプチドを含む。具体的態様において、ポリペプチドは配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78、またはその機能性/免疫原性断片もしくは変異型のいずれかに示されるアミノ酸配列を持つ。さらなる態様において、キットは本発明の一つまたは複数のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む。具体的態様において、ポリヌクレオチドは、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77、またはその断片もしくは変異型のいずれかに示されるヌクレオチド配列を持つ。キットは、任意で、一つまたは複数の抗体、調節ポリペプチドもしくはペプチド、および/または調節ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドを含む。キットの抗体、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、および/またはオリゴヌクレオチドは適切な容器またはパッケージに入れて提供され得る。
【0073】
本出願は、インフルエンザウイルスの感染および病原のためのモデルとしての雑種犬の使用にも関する。一つの態様において、雑種犬に、本発明のイヌインフルエンザウイルスのようなインフルエンザウイルスを接種する。任意で、接種後、イヌに治療用物質を投与してもよい。イヌは、ウイルスの接種前にインフルエンザウイルスに対する免疫応答を生じさせるための組成物を投与されていてもよい。組織、血液、血清およびその他の生物学的試料は接種の前および/または後に入手され得て、PCR、RT-PCR、核酸シーケンシング、および免疫組織化学を含むがこれらに限定されない当技術分野において公知の方法を用いてウイルスの存在および組織の病原について調べられ得る。
【0074】
本明細書に開示される任意の態様の任意の要素は本明細書に開示される任意のその他の要素または態様と組み合わせることが可能であり、このような組み合わせは特に本発明の範囲内と考えられる。
【0075】
本明細書において言及または引用されるすべての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、それらが本明細書の明確な開示と相反しない限り、すべての図および表を含めて、参照により全体が組み入れられる。
【0076】
実施例1〜6の材料および方法
グレイハウンドからの血液および鼻腔スワブの採取
呼吸器疾患の大流行が発生しているレース用犬舎の臨床的に疾患または正常なグレイハウンドから、頚静脈穿刺により急性期および回復期の血液試料を採取した。回復期試料は急性試料の4〜12週後に採取した。血清を分離にして-80℃で保存した。鼻腔スワブを採取して、細菌分離のための提出まで活性炭を加えたAmies輸送培地(Becton Dickinson Biosciences)に収容した。
【0077】
グレイハウンドの死亡後検査
2004年1月のフロリダトラックでの大流行において死亡した8頭中5頭のグレイハウンドについて、University of Florida College of Veterinary Medicine(UF CVM)のAnatomic Pathology Serviceにて徹底した死亡後検査を実施した。もう1頭のイヌの死亡後検査は個人の動物病院で実施されて、組織を病理組織学的診断のためにUF CVMに提出した。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、5μmの切片を病理組織学的診断のためのヘマトキシリン・エオジンで染色するか、または以下に記載する通り免疫組織化学的検査に備えて加工した。未固定の組織は細菌培養に提出して、同じく-80℃で保存した。
【0078】
イヌウイルス性呼吸器病原体に関する血清学的検査
急性期および回復期の対の血清試料は、イヌジステンパーウイルス、2型アデノウイルスおよびパラインフルエンザウイルスに対する血清中和試験のため、Cornell University College of Veterinary MedicineのAnimal Health Diagnostic Laboratory(AHDL)に送付した。抗体価は、細胞培養物のウイルス感染を阻害する血清の最終希釈として現される。急性期および回復期試料間の抗体価の≧4倍の増加として定義されるセロコンバージョンはウイルス感染を示した。これらのウイルス性病原体に対するセロコンバージョンは検出されなかった。
【0079】
イヌ細菌性呼吸器病原体に関する微生物検査
対の鼻腔スワブおよび死亡後組織は、細菌の分離および同定のためにUF CVMのDiagnostic Clinical Microbiology/Parasitology/Serology Serviceに送付した。試料は、非選択培地ならびにボルデテラ属(Regan-Lowe; Remel)およびマイコプラズマ属(Remel)の選択培地で培養した。すべての培養物は、増殖なしと報告する前に21日間維持した。数頭のグレイハウンドから得られた鼻腔スワブは、細菌培養のためにKansas State University College of Veterinary MedicineのDepartment of Diagnostic Medicine/Pathobiologyにも送付した。臨床的に疾患が認められて試験が行われた70頭のイヌの内、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が1頭ノイヌの鼻腔から分離されて、マイコプラズマ属は33頭のイヌの鼻腔から回収された。パスツレラムルトシダは、膿性鼻分泌物の見られるイヌの鼻腔から広く回収された。2004年1月の大流行で死亡したイヌの内の2頭では死亡後に肺に若干の大腸菌の増殖が認められ、1頭では大腸菌およびストレプトコッカスカニス(Streptococcus canis)の若干の増殖が見られ、またもう1頭では緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および酵母の若干の増殖が認められた。死亡したイヌの気管または肺からは、気管支敗血症菌およびマイコプラズマは分離されなかった。
【0080】
死亡後組織からのウイルスの分離
凍結組織を融解して、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質を強化した10倍量の最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を培養細胞または10日齢の孵化鶏卵に接種した。死亡したグレイハウンド由来の組織ホモジネートを、広範囲のウイルス性病原体の複製を支持する種々の細胞培養物に接種した。細胞培養物には、Vero(アフリカミドリザル腎上皮細胞、ATCC No. CCL-81)、A-72(イヌ腫瘍線維芽細胞、CRL-1542)、HRT-18(ヒト直腸上皮細胞、CRL-11663)、MDCK(イヌ腎上皮細胞、CCL-34)、イヌ一次腎上皮細胞(AHDL, Cornell University)、イヌ一次肺上皮細胞(AHDL)、およびウシ一次精巣細胞(AHDL)が含まれた。MDCKおよびHRT細胞は2.5μg/mL TPCK処理トリプシン(Sigma)を強化したMEMで培養し、残りの細胞株は10%ウシ胎児血清および抗生物質を強化したMEMで培養した。細胞は、25cm2のフラスコを用いて5%CO2含有加湿大気中、37℃で培養した。対照培養には強化MEMを接種した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した液体および細胞は遠心分離により清澄化して、最初の接種において記載した通り、新鮮な細胞に接種し;2回の盲目継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、記載される通り(Burlesonら、1992年;Kendalら、1982年)、ニワトリまたはシチメンチョウの赤血球を用いて測定した。鶏胚を用いたウイルス分離では、組織ホモジネートの0.1mLを尿膜嚢に接種して、35℃にて48時間、インキュベートした。2回の盲目継代後、尿膜腔液の血球凝集活性を、記載される通り(Burlesonら、1992年;Kendalら、1982年)、測定した。
【0081】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってRNeasyキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて、組織培養上清または尿膜腔液から全RNAを抽出した。全RNA(10ng)は、一段階RT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセットを用いて既報(Klimovら、1992a)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(ABI)を用いたApplied Biosystems 3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列は、GCG Package(著作権)、バージョン10.0(Accelyrs)(Womble, 2000)を用いて解析した。ヌクレオチド配列からの系統発生の推定およびブーツストラップの算出にはPhylogeny Inference Package(著作権)バージョン3.5を用いた(Felsenstein、1989年)。系統樹は、MEGA(著作権)プログラム(Kumarら、2004年)において実行されたTamura-Neiガンマモデルを用いて近隣結合法により得られた系統樹と比較して、PAUP(著作権)4.0ベータプログラム(Sinauer Associates)により確認した。
【0082】
イヌの実験的接種
6カ月齢の4頭の特定病原体除去ビーグル犬[(雌雄各2頭(Liberty Research)]を使用した。理学的検査、ならびに詳細な血球計測/型別計測を含むベースラインの血液検査、血清化学的検査パネル、および尿検査より、動物が健常であることが明らかとなった。動物は、実験動物管理認定協会より認定されたBSL 2-強化施設内で群飼いした。ベースラインの直腸温度は1日2回、7日間、記録した。イヌは、気管内チューブの挿管に備えて、プロポフォール(ディプリバン(登録商標)、Zeneca Pharmaceuticals、0.4mg/kg体重〜効果)の静脈内注入により麻酔した。各イヌにA/イヌ/フロリダ/43/2004(イヌ/FL/04)(H3N8)ウイルスを106.6の半数組織培養物感染用量(TCID50)の総用量で接種して、半量は気管内チューブを介して気管末端に投与して、残りの半量はカテーテルを介して深部鼻気道に投与した。理学的検査および直腸温の記録は、1日2回、接種後(p.i.)14日間実施した。p.i.0、3、5、7、10および14日に頚静脈穿刺により血液試料(4mL)を採取した。鼻腔および口咽頭の標本は、各イヌからp.i.0〜5、7、10および14日にポリエステルスワブ(Fisher Scientific)を用いて採取した。スワブはウイルス輸送培地(Remel)に回収して、-80℃で保存した。2頭のイヌ(雌雄各1頭)はp.i.5日にBeuthanasia-D(登録商標)液(1mL/5kg体重;Schering-Plough Animal Health Corp)の静脈内接種により安楽死させて、残りの2頭は14日目に死亡後検査のために安楽死させた。組織学的検査のための組織は既述の通り加工した。ウイルス培養用の組織は-80℃で保存した。この試験は、University of Florida Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0083】
実験的に接種されたイヌからのウイルス排出
肺ホモジネート、および遠心分離によるスワブ輸送培地の清澄化により調製したスワブ抽出液の段階希釈は、0.5%BSAおよび抗生物質を強化したMEMで調製した。プラークアッセイ法は、6穴組織培養プレート中の単層のMDCK細胞を用いて既報(Burlesonら、1992年)の通り実施した。接種した単層細胞層に0.8%アガロースおよびTPCK-トリプシン 1.5μg/mLを含む強化MEMを重層した。細胞は、固定およびクリスタルバイオレットでの染色前に、5%CO2を含む加湿大気中で37℃にて72時間、培養した。ウイルス濃度は、組織1グラム当たりまたはスワブ当たりのプラーク形成単位(PFU)として表した。
【0084】
免疫組織化学
グレイハウンドおよびビーグル犬由来の脱パラフィンおよび再水和した5μm肺組織切片をBond-Rite(商標)スライドガラス(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)にセットして、プロテイナーゼK(DakoCytomation, Carpenteria, CA)、ペルオキシダーゼ遮断試薬(Dako(登録商標)En Vision(商標)Peroxidase Kit, Dako Corp.)で順次処理した。切片を、イヌジステンパーウイルス(VMRD, Inc.)、2型イヌアデノウイルス(VMRD, Inc.)、イヌパラインフルエンザウイルス(VMRD, Inc.)、またはインフルエンザA H3(Chemicon International, Inc.)に対するモノクローナル抗体の1:500希釈と共に室温で2時間インキュベートした。対照には、同一の切片とマウスIgG(1mg/mL、Serotec, Inc.)のインキュベート、およびモノクローナル抗体と通常のイヌ肺切片のインキュベートが含まれた。一次抗体で処理した後、切片は製造業者の説明書に従って二次イムノペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼ基質試薬(Dako(登録商標)EnVision(商標)Peroxidase Kit, Dako Corp.)と共にインキュベートした。切片をヘマトキシリンで対比染色して、清澄化剤#2およびBluing試薬(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)で処理して脱水し、Permount(ProSciTech)を用いてカバーガラスをかけた。
【0085】
血球凝集阻害(HI)試験
血清試料は、56℃での60分間の熱非働化前に、レセプター破壊酵素(RDE, Denka)(血清1容積:RDE 3容積)と共にインキュベートした。インフルエンザA/イヌ/FL/04(H3N8)ウイルスはMDCK細胞を用いて37℃にて36〜48時間、増殖させた。ウイルス培養の上清を回収して、遠心分離により清澄化して-80℃で保存した。HIアッセイ法は既報(Kendalら、1982年)の通り実施した。つまり、25μl中4血球凝集単位のウイルスをマイクロタイターウェルの段階希釈した等量の血清に加えて、室温で30分間、インキュベートした。等量の0.5% v/vシチメンチョウ赤血球を加えて、30分後に血球凝集力価を目視により求めた。エンドポイントのHI力価は、血球凝集を完全に阻害する血清の最終希釈として定義された。セロコンバージョンは、急性期および回復期の対の試料間におけるHI力価の≧4倍の増大として定義された。単一試料の血清陽性は≧1:32のHI抗体価として定義された。
【0086】
マイクロ中和(MN)試験
A/イヌ/FL/04(H3N8)に対する血清抗体反応の中和は、既報のMNアッセイ法(Roweら、1999年)により検出された。但し、イヌ血清はアッセイ前に上記のようにRDE処理した。エンドポイントの力価は、100 TCID50のウイルスを50%中和する血清の最高希釈として定義された。セロコンバージョンは、急性期および回復期の対の試料間におけるMN力価の≧4倍の増大として定義された。単一試料の血清陽性は≧1:80のMN力価として定義された。
【0087】
以下は、本発明を実践するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は限定的として見なされるべきではない。特記する場合を除いて、すべてのパーセントは重量に基づき、すべての溶媒混合物割合は体積に基づく。
【0088】
実施例1
2004年1月に、フロリダのトラックの2箇所の犬舎およびこれらの犬舎にイヌを供給する地元飼育場で飼育されている22頭のレース用グレイハウンドにおいて呼吸器疾患の大流行が発生した。各犬舎建物には約60頭、飼育場には約300頭のイヌがいた。大流行は6日間起こって、その後、新しい症例は特定されなかった。22頭中14頭のイヌが39.5〜41.5℃の発熱を示し、10〜14日間にわたって咳をして、最終的に回復した。残りの8頭の内、見かけ上健康であった6頭のイヌは予想に反して死亡して、口および鼻から出血が見られた。その他の2頭のイヌは、急激な悪化のために、口および鼻からの出血発生の24時間以内に安楽死させた。これらの双方のイヌが41℃の熱を呈した。8頭中4頭の死亡例は犬舎施設で発生して、4頭は飼育場で発生した。死亡例の50%が大流行の3日目に発生した。22頭のイヌは17カ月齢から4歳であったが、73%は17〜33カ月齢であった。
【0089】
2つの臨床的症候群が認められた:初期の発熱およびその後の10〜14日間の咳、その後の回復を特徴とする比較的軽度の疾病(14頭のイヌ)、または呼吸器の出血を伴う極めて急激な死亡(8頭、死亡率 36%)。致命的な症例の8頭中6頭について、死亡後検査を実施した。すべてのイヌが、肺、縦隔および胸膜腔に過度の出血を示した。呼吸器の組織学的検査の結果、肺出血に加えて、すべてのイヌが気管炎、気管支炎、細気管支炎、および化膿性気管支肺炎を示した(図3)。これらの組織の上皮裏打ちおよび気道腔に好中球およびマクロファージの浸潤が見られた。これらのイヌから調製した肺ホモジネートをウイルス培養のためにサル、ヒト、ウシおよびイヌの様々な細胞株に接種した。1頭のイヌの肺ホモジネートがトリプシンの存在下で培養したMadin-Darbyイヌ腎上皮細胞(MDCK)において細胞変性作用を引き起こし、細胞培養の上清はニワトリ赤血球を凝集した。A型インフルエンザウイルスの予備的証拠は、インフルエンザAおよびBウイルスの核タンパク質の検出に関する市販のELISA、ならびにインフルエンザAウイルスのマトリックス遺伝子に特的なプライマーを用いたPCR解析により得られた。さらに、血球凝集活性はウマインフルエンザA H3亜型に対する参照抗血清により阻害されたが、ヒトインフルエンザAのH1-H11およびH13亜型に特異的な抗血清では阻害されなかった(表3)。ウイルスの分子特性を解明するため、本発明者らはウイルスゲノムの8つのRNAセグメントのヌクレオチド配列を調べた。公知のインフルエンザウイルス遺伝子との配列の比較および系統学的解析により、イヌ分離物の8つの遺伝子は現代のウマインフルエンザA(H3N8)ウイルス由来のそれに極めて類似し、≧96〜97%の配列同一性を持つ(図1A、表4)。これに対して、トリ、ブタおよびヒトのインフルエンザA分離物由来の代表的遺伝子はイヌ分離物と≦94%の同一性を示した(表4)。これらのデータは、イヌ分離物であるA/イヌ/フロリダ/43/04(イヌ/FL/04)をウマインフルエンザウイルスの現代の系統に密接に関連するインフルエンザA H3N8と同定した。イヌ分離物のすべての遺伝子がウマインフルエンザウイルス由来であったことから、本発明者らはウマインフルエンザウイルスの全ゲノムがイヌに伝播されたと結論づけた。
【0090】
実施例2
グレイハウンドの臨床的および病理学的観察所見におけるイヌ/FL/04ウイルスの役割について検討するため、本発明者らはインフルエンザA H3に対するモノクローナル抗体を用いて肺組織の免疫組織化学的染色(IHC)を実施した。ウイルス性H3抗原は気管支および細気管支の上皮細胞、気管支腺上皮細胞の細胞質に一貫して検出され、またマクロファージは気道腔および肺胞腔に検出された(図2A)。これらのデータは、多くのイヌにおけるH3亜型のインフルエンザウイルスの肺感染の診断を支持する。
【0091】
実施例3
呼吸器疾患大流行の病因論におけるイヌ/FL/04様ウイルスの関与について調べるため、本発明者らは血球凝集阻害(HI)およびマイクロ中和(MN)により病気のイヌ11頭および無症状の接触犬16頭から採取した急性期および回復期の対の血清を分析した。急性期から回復期までのイヌ/FL/04に対する抗体価の≧4倍の増加として定義されるセロコンバージョンが、両アッセイ法において、11頭中8頭(73%)の病犬で発生した(表1)。セロコンバージョンはHIアッセイ法では16頭中6頭(38%)の無症状接触犬で発生し、MNアッセイ法では16頭中8頭(50%)がセロコンバージョンを示した(表1)。セロコンバージョンのデータは、イヌのイヌ/FL/04様ウイルスの感染が大半の動物において呼吸器疾患の発症と時間的に一致することを実証した。
【0092】
大流行の3カ月後に、病犬と共に飼育されていたさらに46頭の無症状のイヌから単一の血清試料を採取した。これらの内、43検体(93%)が両アッセイ法において血清陽性であった。検査した73頭の集団全体については、病犬の82%(11頭中9頭)および健常接触犬の95%(62頭中59頭)を含む93%が両アッセイ法において血清陽性であった。呼吸器疾患歴のないイヌにおける高い血清疫学は、イヌインフルエンザウイルスの大半の感染は不顕性であることを示しており、イヌにおけるウイルスの効率的伝播が示唆される。不顕性感染がウイルスの伝播に寄与するか否かは不明である。
【0093】
実施例4
イヌ/FL/04ウイルスのイヌへの感染能力についてより理解するために、4頭の6カ月齢の純系ビーグル犬に106.6半数組織培養物感染用量(TCID50)を気管内または鼻腔内経路によりそれぞれ接種した。すべてのイヌが接種後(p.i.)最初の2日間に発熱(直腸温 ≧39℃)を発症したが、14日間の観察期間を通して咳または鼻分泌物などの呼吸器症状を示したものはいなかった。ウイルス排出は、鼻および口咽頭のスワブにおけるウイルスの定量によって調べた。4頭中2頭のイヌのみが検出可能量のウイルスを排出した。1頭のイヌはp.i.1日および2日にウイルスを排出し(スワブ当たり1.0〜2.5 log10 PFU)、その他のイヌは接種後連続4日間にわたってウイルスを排出した(スワブ当たり1.4〜4.5 log10 PFU)。p.i. 5日における2頭のイヌの死亡後検査より、グレイハウンドにおける自然発生性疾患に見られる所見とほぼ等しい壊死性増殖性気管炎、気管支炎および細気管支炎が認められたが、肺出血または気管支肺炎は認められなかった。IHCにより、ウイルスH3抗原が気管支、細気管支および気管支腺の上皮細胞の細胞質に検出された(図2B)。感染性ウイルスが1頭のイヌの肺組織から回収された。p.i.14日における残りの2頭の死亡後検査より、呼吸組織における最小限の組織学的変化、IHCによるウイルスH3抗原の不在、および肺ホモジネートからのウイルスの無回収が確認された。これらの後者の2頭のイヌにおけるセロコンバージョンは、MNアッセイ法においてp.i.7日に検出され、14日までに抗体価はさらに2〜3倍に増加した。これらの結果より、熱性反応、肺実質におけるウイルス抗原および感染性ウイルスの存在、インフルエンザに典型的な病理組織学的所見、ならびにセロコンバージョンに示されるように、イヌ/FL/04感染に対するイヌの感受性が確立された。実験的に接種したビーグル犬において重度の疾患および死亡を再現できなかったことは、自然感染したグレイハウンドの大集団が無症候性であったことを考えると、驚くべきことではない。
【0094】
実施例5
2004年1月の大流行以前にイヌ/FL/04様インフルエンザウイルスがフロリダのグレイハウンド集団で広まっていたかどうかを調べるため、65頭のレース用グレイハウンドに由来する保存血清についてHIおよびMNアッセイ法を用いてイヌ/FL/04に対する抗体の存在を調べた。1996年〜1999年に試料採取した33頭のイヌでは、検出可能な抗体はなかった。2000年〜2003年に試料採取した32頭の内、9頭は双方のアッセイ法において血清陽性であった−2000年に1頭、2002年に2頭、および2003年に6頭(表5)。血清陽性のイヌは1999年から2003年まで病因不明の呼吸器疾患の大流行に関与したフロリダのトラックで飼育されており、イヌ/FL/04様ウイルスがこれらの大流行の原因物質であった可能性があることを示唆する。この可能性をさらに調べるために、本発明者らは2003年3月に出血性気管支肺炎のために死亡したグレイハウンドから採取された保存組織を調べた。1頭のイヌに由来する肺ホモジネートをMDCK細胞および鶏胚に接種したところ、H3N8インフルエンザウイルスが回収されて、A/イヌ/フロリダ/242/2003(イヌ/FL/03)と命名された。イヌ/FL/03の完全ゲノムの配列解析はイヌ/FL/04に対して>99%同一性を示し(表4)、イヌ/FL/04様ウイルスが2004年以前にグレイハウンドに感染していたことを示す。
【0095】
実施例6
2004年6月から8月にフロリダ、テキサス、アラバマ、アーカンソー、ウェストバージニアおよびカンザスの14箇所のトラックで何千頭ものレース用グレイハウンドに呼吸器疾患の大流行が発生した。
【0096】
これらのいくつかのトラックの担当者は、それらのイヌ集団の少なくとも80%が臨床疾患を有すると推定した。大半のイヌは2004年1月の大流行時のイヌと同様の発熱(≧39℃)および咳の臨床徴候を示したが、多くのイヌは粘液膿性の鼻分泌物も呈した。多くの死亡が報告されたが、正確な死亡率は求められなかった。
【0097】
本発明者らは、フロリダの4箇所のトラックに収容されている94頭のイヌから急性期および回復期の対の血清を採取し:これらのイヌの56%はイヌ/FL/04に対する抗体価が≧4倍に上昇しており、100%が血清陽性であった(表6)。ウェストバージニアおよびカンザスの29頭のイヌから得られた回復期血清もイヌ/FL/04に対する抗体を有した。本発明者らは、テキサスのトラックで出血性気管支肺炎のために死亡した1頭のグレイハウンドの肺からインフルエンザA(H3N8)ウイルスを分離した。A/イヌ/Texas/1/2004(イヌ/TX/04)と命名されたこの分離物の全ゲノムをシーケンシングした結果、イヌ/FL/04と≧99%の同一性を示した(表4)。13カ月の期間中の致命的なイヌの症例および地理的に異なる位置から得られた密接に関連する3つのインフルエンザウイルスの分離、ならびにレース用グレイハウンドにおける広範な感染を示す実質的な血清学的証拠は、イヌ集団においてイヌ/FL/04様ウイルスが持続的に広がっていることを示唆する。
【0098】
イヌ/FL/03、イヌ/FL/04およびイヌ/TX/04のHA遺伝子を系統学的に解析した結果、それらは単系統性のグループを構成し、頑健なブーツストラップはその系統が2002年および2003年に分離されたウマウイルスの現代のH3遺伝子とは明らかに異なったことを裏付けている(図1B)。その他の7つのゲノムセグメントの系統学的解析およびヌクレオチド配列の対比較より、イヌ遺伝子がウマウイルスの系統に最も密接に関連する異なる亜系統として分離したことを裏付けている(データは示さず、表4)。ウマインフルエンザから分離した単系統性のグループとしてのイヌインフルエンザウイルスのクラスター形成は、HAにおける4つのサインアミノ酸変化の存在によっても裏付けられる(表2)。2003年および2004年の血清学的結果と共に、これらのデータはウマからイヌへの単一のウイルス伝播およびその後のグレイハウンド集団内でのウイルスの水平伝染と一致する。しかし、未同定の保有動物種からの固有系統のインフルエンザウイルスの度重なる導入は、可能性はなさそうであるが、正式には除外することはできない。
【0099】
ウイルスHAはインフルエンザウイルスの宿主動物特異性に関する重要な決定要因である(Suzukiら、2000年)。イヌ宿主への適応に関連し得るHA内の残基を特定するため、本発明者らは、イヌHAの推定したアミノ酸配列を現代のウマウイルスのそれと比較した。ウマおよびイヌの成熟HA共通アミノ酸配列は、4つのアミノ酸変化によって区別される:N83S、W222L、I328TおよびN483T(表2 参照)。イヌウイルスには、共通ウマ配列に比してアミノ酸の欠失が見られる。従って、HAウマ配列の7位のアミノ酸はHAイヌ配列では6位であり、HAウマ配列の29位のアミノ酸はHAイヌ配列では28位であり、HAウマ配列の83位のアミノ酸はHAイヌ配列では82位などである。このように、4つの置換アミノ酸は配列番号:33および配列番号:34に示されるアミノ酸配列の82、221、327および482位である。その他の動物種に由来するH3分子では様々な極性残基が見られることから、共通配列83位のアスパラギンのセリンへの置換は機能的重要性の不明な変化である。H3 HA開裂部位近くの共通配列328位における厳密に保存されたイソロイシンはスレオニンによって置換されている。病原における宿主プロテアーゼによるHA開裂の中枢的役割は、この変化がさらなる試験に値することを示唆している。共通配列222位のトリプトファンからロイシンへの置換は、レセプター機能を調節することができるシアル酸結合ポケットに隣接する非保存的変化であることから(Weisら、1988年)、非常に際立っている。面白いことに、222位のロイシンは、典型的にH4、H8、H9およびH12 HA亜型に見られることから(Nobusawaら、1991年;Kovacovaら、2002年)、イヌH3 HAに固有ではない。ブタのH4亜型の感染(Karasinら、2000年)ならびにヒトおよびブタのH9亜型ウイルスの感染(Peirisら、1999年)が報告されていることから、ロイシンの置換は哺乳動物宿主におけるウイルス特異性とさらに適合性であり得る。共通配列483位におけるスレオニンによるアスパラギンの置換の結果、すべてのHA亜型で保存されるHA2サブユニットにおける糖鎖付加部位の消失が起こった(Wagnerら、2002年)。ウマウイルスのイヌへの適応に際してのHAにおけるこれらのアミノ酸の変化の重要性は依然明らかにされていないが、これまでに同様のアミノ酸変化が種間伝播に関連して観察されている(Vinesら、1998年;Matrosovichら、2000年)。本発明のその他のインフルエンザウイルスタンパク質およびウマ共通配列のアミノ酸の相違点を表19〜25に示す。
【0100】
レース用グレイハウンドに最初に感染したウマインフルエンザウイルスのソースは依然推論的である。グレイハウンド競技場の犬舎はウマまたは競馬場の近くには位置しておらず、グレイハウンドおよびウイルスを排出しているウマの接触は2004年の異なる州での多くの大流行を説明するには不十分であることが示唆される。想定されるウマウイルスへの曝露源はグレイハウンドへの馬肉の給餌であり、その飼料にはインフルエンザを保有することができるウマを含めて、屠体を加工する缶詰工場より提供される生肉が添加される。この感染機序の前例には、感染したニワトリの屠体を給餌されたブタおよび動物園のネコ科動物へのH5N1トリインフルエンザウイルスの種間伝播の報告が含まれる(Webster、1998年;Keawcharoenら、2004年;Kuikenら、2004年)。これはウマインフルエンザのイヌへの初期導入における現実味のある経路ではあるが、異なる州における何千頭というイヌでの最近の多くのインフルエンザ大流行を説明するものではない。本発明者らの実験的接種試験は、たとえ力価は中程度であっても、イヌの鼻道および口咽頭にウイルスが存在することを実証した。それにも関わらず、これらの結果はウイルス排出が可能であり、大粒のエアロゾル、媒介物または直接の粘膜接触によるイヌ-イヌ間のウイルス伝達がこの疾患の家畜流行疫学に関与し得ることを示している。
【0101】
無関係の哺乳動物種への完全哺乳動物インフルエンザウイルスの種間伝達は稀な事象である。これまでの試験では、ヒトインフルエンザA(H3N2)ウイルスのイヌへの一過性の感染に関する限定的な血清学的またはウイルス学的証拠−但し双方ではない−を提供している(Nikitinら、1972年;Kilbourneら、1975年;Changら、1976年;Houserら、1980年)。しかし、イヌ宿主における持続的循環を示す証拠はなかった。ブタからヒトへのブタインフルエンザウイルスの直接伝達は十分に実証されているが(Dacsoら、1984年;Kimuraら、1998年;Patriarcaら、1984年;Topら、1977年)、ブタウイルスのヒト宿主への適応に関する証拠はない。本報告書において、本発明者らは完全なウマインフルエンザA(H3N8)ウイルスのもう一つの哺乳動物種であるイヌへの種間伝播に関するウイルス学的、血清学的および分子的証拠を提供する。イヌウイルスHAにおける固有のアミノ酸置換、ならびに米国の多くの州でのイヌの感染に関する血清学的確認は、ウイルスのイヌ宿主への適応を示唆する。イヌはヒトにとって重要な伴侶動物であることから、これらの所見は公衆衛生にとって意味があり;イヌはヒトへの新しいインフルエンザAウイルスの新規伝達源を提供し得る。
【0102】
(表1)A/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)に対する抗体反応

a 疾病の臨床徴候を伴うイヌの頭数。
b 臨床的疾病犬と接触して飼育されている無症候性のイヌの頭数。
c A/イヌ/フロリダ/43/04ウイルスを用いた血球凝集阻害(HI)アッセイ法。
d A/イヌ/フロリダ/43/04ウイルスを用いたマイクロ中和(MN)アッセイ法
e 急性期および回復期の対の血清の抗体価が少なくとも4倍に増加したイヌのパーセント。
f 回復期血清において陽性抗体価(HI抗体価 ≧32:MN抗体価 ≧80)を伴うイヌのパーセント。
g 回復期血清の抗体価幾何学平均。
【0103】
(表2)イヌおよびウマのH3ヘマグルチニン間のアミノ酸の違い

* 成熟H3 HAのアミノ酸残基(一文字表記)および位置。アミノ酸コードは、A=アラニン、D=アスパラギン酸、G=グリシン、I=イソロイシン、K=リジン、L=ロイシン、M=メチオニン、N=アスパラギン、R=アルギニン、S=セリン、T=スレオニン、V=バリン、W=トリプトファンである。
† 共通のウマH3 HAからの変化なしを示す。
【0104】
(表3)異なるHA亜型に対する参照抗血清によるウイルス分離物の血球凝集阻害

a イヌ#43由来のウイルス分離物に対する血球凝集阻害力価
b ポリクローナル抗血清はフェレットにおいて作出されたが、その他のすべての抗血清はヒツジまたはヤギにおいて作出された。
【0105】
(表4)ウマ、トリ、ブタおよびヒトのインフルエンザA株に対するA/イヌ/フロリダ/43/04 (H3N8)遺伝子の配列相同性

a 動物種からのインフルエンザウイルス分離物の大半の相同遺伝子に対するA/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)遺伝子のヌクレオチドおよびアミノ酸(括弧内)配列同一性パーセント、続いてそれらのGenbank配列データベースアクセッション番号。
b 該当なし:N8ノイラミニダーゼはヒトまたはブタのウイルスではこれまで報告されなかった。
【0106】
(表5)1996年から2003年に採取されたグレイハウンド血清のA/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)に対する抗体価

a フロリダのレース用グレイハウンドからの血清試料採取年。
b 6頭の2003年血清陽性犬の範囲を含む、血清陽性犬におけるマイクロ中和試験抗体価。
【0107】
(表6)2004年6月のフロリダの4箇所のトラックにおけるレース用グレイハウンドのA/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)に対する抗体反応

a A/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)を用いたHIにより試験した臨床的に疾病の見られるイヌの頭数。
b 急性期および回復期血清の抗体価における≧4倍の増加を示すイヌのパーセント。
c 回復期血清において陽性の抗体価(HI抗体価>16)を示したイヌのパーセント。
d 回復期血清における抗体価幾何学平均
【0108】
実施例7〜11の材料および方法
イヌの組織
フロリダ北東部の保護施設におけるインフルエンザ大流行で2005年4月/5月に死亡した6頭の雑種犬およびフロリダ南東部の動物病院でのインフルエンザ大流行において2005年5月に死亡した1頭のペットのヨークシャーテリアについて、University of Florida College of Veterinary MedicineのAnatomic Pathology Serviceにて死亡後検査を実施した。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、病理組織学的診断のための5μmの切片をヘマトキシリン・エオジンで染色した。未固定の組織は、ウイルス学的分析まで-80℃で保存した。
【0109】
イヌ組織試料からのRNAの抽出
7頭の各イヌに由来する凍結肺組織を融解して、使い捨ての組織グラインダー(Kendall, Lifeline Medical Inc., Danbury, CT)を用いて、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。市販のキット(RNeasy(登録商標)Mini Kit, QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って用いて全RNAを抽出し、最終液量 60μLの緩衝液で溶出した。呼吸器疾患を伴わないイヌから採取した肺組織からも、全RNAを抽出した。
【0110】
リアルタイムRT-PCR
ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantiTect(登録商標)プローブRT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、イヌ組織試料から抽出された全RNAに対して一段階定量的リアルタイムRT-PCRを実施した。つまり、2つのプライマー-プローブセットを各試料中のインフルエンザA配列の検出に用いた(表7)。1つのプライマー-プローブセットはイヌヘマグルチニン(H3)遺伝子配列に選択的であった。他方のプライマー-プローブセットはA型インフルエンザウイルスのマトリックス(M)遺伝子の高度に保存的領域をターゲットとした。各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 25μL中、2X QuantiTech(登録商標) Probe RT-PCR Master Mix 12.5μL、QuantiTech(登録商標)RT Mix 0.25μL、フォワードおよびリバースプライマー(それぞれ、0.4μMの最終濃度)、プローブ(0.1μMの最終濃度)、ならびにRNaseフリーの水を含む反応混合液に抽出した全RNA 5μLを加えた。イヌ組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性の内部対照である18S rRNAの検出には、TaqMan(登録商標)リボソームRNA対照試薬(Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0111】
Mx3000P(登録商標)QPCR System(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて、反応混合物に対して定量的一段階リアルタイムRT-PCRを実施した。サイクリング条件は、50℃での30分間の逆転写段階、HotStarTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを活性化させるための95℃での15分間の初期変性段階、および40サイクルの増幅を含んだ。各増幅サイクルには、94℃での15秒間の変性およびその後の60℃での1分間のアニーリング/伸展が含まれた。FAM(発光波長 518nm)およびVIC(発光波長 554nm)蛍光シグナルは各サイクルの終了時に記録した。閾値サイクル(Ct)は、それぞれの各実験において閾値蛍光(dR)を1000に設定することによって求めた。データの収集および解析には、Mx3000P(登録商標)バージョン2.0ソフトウェアプログラム(Stratagene, La Jolla, CA)を用いた。H3またはM遺伝子の閾値サイクル(Ct)が呼吸器疾患を伴わないイヌから得られた肺組織のCtよりも3単位少ない場合、試料はインフルエンザAウイルスに関して陽性と判断した。陽性対照は、A/イヌ/FL/242/03(H3N8)ウイルスから抽出されたRNAの増幅物から構成された。
【0112】
MDCK細胞におけるウイルスの分離
7頭の各イヌに由来する凍結肺組織を融解して、0.5%(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した10倍量のDulbecco修正イーグル培地(DMEM)を加えてホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を1μg/mL TPCK処理したトリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を加えたDMEMで培養したMadin-Darbyイヌ腎(MDCK)細胞に接種した。細胞は、25cm2のフラスコを用いて5%CO2含有加湿大気中、37℃にて培養した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物を遠心分離により清澄化して、上清を初回接種において記載した通り新鮮なMDCK細胞に接種し;血球凝集またはRT-PCRによりインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料についてはさらに2回の継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、既報の通り(Burleson, F.ら、1992年;Kendal, P.ら、1982年)、0.5%シチメンチョウ赤血球を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。
【0113】
孵化鶏卵におけるウイルス分離
ホモジネートは、MDCK細胞の接種に関して上記の通り、凍結肺組織から調製した。ホモジネート(0.2mL)を10日齢の孵化鶏卵の尿嚢に接種した。35℃にて48時間インキュベート後、尿膜腔液の回収前に一晩、卵を4℃で冷却した。清澄化した上清の血球凝集活性は、既報の通り(Burleson, F.ら、1992年;Kendal, P.ら、1982年)、0.5%シチメンチョウ赤血球を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。初回接種後にインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料については、孵化鶏卵を用いたさらに2回の継代を行った。
【0114】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってQIAamp(登録商標)ウイルスRNAミニキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、MDCK上清または尿膜腔液からウイルスRNAを抽出した。ウイルスRNAは、QIAGEN(登録商標)一段階RT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセット(プライマー配列は要求に応じて与えられる)を用いて既報(Klimov, A.ら、1992b)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたABI PRISM(登録商標)3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列はLasergene 6 Package(登録商標)(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて解析した。ヌクレオチド配列からの系統発生の推定およびブーツストラップの算出にはPHYLIPバージョン3.5(著作権)ソフトウェアプログラムを用いた(Felsenstein, J.、1989年)。系統樹は、MEGA(著作権)プログラム(Kumar, S.ら、2004年)において実行されたTamura-Neiモデルを用いて近隣結合法により得られた系統樹と比較して、PAUP(著作権)4.0ベータプログラム(Sinauer Associates, Inc., Sunderland, MA)により確認した。
【0115】
血球凝集阻害(HI)試験
血清試料は、56℃での30分間の熱非働化前に、レセプター破壊酵素(RDE、デンカ生検株式会社、東京、日本)(血清1容積:RDE 3容積)と共にインキュベートした。インフルエンザA/イヌ/ジャクソンビル/05(H3N8)ウイルスはMDCK細胞を用いて5%CO2中、37℃にて72時間、増殖させた。ウイルス培養の上清を回収して、遠心分離により清澄化して-80℃で保存した。HIアッセイ法で用いられるその他のウイルスはすべて、10日齢の孵化鶏卵で培養し、尿膜腔液を回収して-80℃で保存した。HIアッセイ法は既報(Kendal, P.ら、1982年)の通り実施した。つまり、25μl中4血球凝集単位のウイルスを96穴プラスチックプレートにて段階希釈した等量の血清に加えて、室温で30分間、インキュベートした。等量の0.5%シチメンチョウ赤血球を加えて、30分後に血球凝集力価を目視により求めた。エンドポイントのHI力価は、血球凝集を完全に阻害する血清の最終希釈として定義された。
【0116】
実施例7−臨床症例
2005年4月および5月に、既報(Crawford, P.C.ら、2005年)の呼吸器疾患大流行がフロリダ北東部の保護施設に収容されていたイヌで発生した。この大流行には3カ月齢から9歳までの齢期範囲の少なくとも58頭が関与し、純系のイヌおよび雑種犬が含まれた。最も一般的な臨床徴候は、7〜21日間にわたる膿性鼻分泌物および咳であった。≧7日にわたって臨床疾患が認められた43頭の内、41頭はイヌ/FL/04(H3N8)に対して32から>1024のHI抗体価を示した。少なくとも10頭の犬が肺炎に進行し、この内、6頭は安楽死させた。これらの6頭の雑種犬は、4カ月齢から3歳までの雌雄各3頭であった。臨床徴候の期間は、安楽死の時点で2〜10日であった。死亡後検査において、これらのイヌは肺のうっ血および浮腫を示した。呼吸器の組織学的検査では、鼻炎、気管炎、気管支炎、細気管支炎および化膿性気管支肺炎が認められた。気管、気管支、細気管支および気管支腺に、上皮細胞の壊死およびびらんが認められた。呼吸組織に好中球およびマクロファージの浸潤が見られた。
【0117】
2005年5月にフロリダ南東部の動物病院において40頭のペットのイヌにおいて呼吸器疾患の大流行が発生した。最も一般的な臨床徴候は、10〜30日間にわたる膿性鼻分泌物および咳であった。40頭の内、17頭はイヌ/FL/04(H3N8)に関して血清陽性であり、HI抗体価は32から>1024であった。急性期および回復期の対の血清が得られた10頭のイヌでは、セロコンバージョンが生じた。3頭のイヌは肺炎に進行した。これらの内の1頭である9歳の雄のヨークシャーテリアは臨床徴候の発症後3日に死亡した。このイヌは、気管気管支炎、肺の浮腫およびうっ血、ならびに重度気管支肺炎であった。6頭の保護施設のイヌと同様に、気道の上皮細胞の壊死およびびらん、ならびに組織における好中球浸潤が認められた。
【0118】
実施例8−リアルタイムRT-PCRおよびウイルスの分離
7頭のイヌから得られた肺組織を、A型インフルエンザのM遺伝子およびイヌH3N8インフルエンザAウイルスのH3遺伝子を検出する定量的リアルタイムRT-PCRアッセイ法で解析した。7頭すべてのイヌの肺がインフルエンザAのM遺伝子およびイヌインフルエンザH3遺伝子の双方に関して陽性であった(表8)。MDCK細胞で3回継代後、3日間の肺炎の後に死亡した保護施設のイヌの肺からインフルエンザAのH3N8亜型のウイルスが分離された。このウイルスはA/イヌ/ジャクソンビル/05(H3N8)(イヌ/Jax/05)と命名された。孵化鶏卵で2回継代後、同じく3日間の肺炎の後に死亡したペットのイヌの肺からインフルエンザAのH3N8亜型のウイルスが分離された。このウイルスはA/イヌ/マイアミ/05(H3N8)(イヌ/マイアミ/05)と命名された。
【0119】
実施例9−イヌインフルエンザA H3N8分離物の遺伝子解析
イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05の配列解析の結果、それらのヘマグルチニン(HA)遺伝子は2004年および2005年のトラックでのインフルエンザ大流行時に肺炎で死亡したレース用グレイハウンドの肺から回収されたイヌ/FL/04、イヌ/TX/04およびイヌ/アイオワ/05分離物と98%一致することが明らかとなった(Crawford, P.C, ら、2005年;Yoon K-Yら、2005年)。さらに、イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05のHA遺伝子は、2000年以降に分離された現代のウマインフルエンザウイルスと98%一致した。HA遺伝子の系統学的比較では、イヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05ウイルスはイヌ/FL/04、イヌ/TX/04、およびイヌ/アイオワ/05のグレイハウンド分離物、ならびに現代のウマ分離物とクラスターを形成し、1990年代初期に分離された古いウマウイルスとは異なる群を形成することが示された(図4)。さらに、イヌ/Jax/05、イヌ/マイアミ/05およびイヌ/アイオワ/05分離物はイヌ/FL/04またはイヌ/FL/03よりもイヌ/Tx/04により密接に関連した。2005年の分離物は先の2003年および2004年イヌウイルスから枝分れしたと思われる亜型を形成し、約10箇所の最節約法的に情報価値のある部位が異なる。これらの相違は、外部の感染源から定期的に再導入されるのとは対照的に、イヌからイヌへと水平伝播するという仮説を支持する。2003年から2005年までの突然変異の蓄積は、イヌインフルエンザウイルスに生じたと予想されるように、ウイルスが新しい宿主に伝達された後に受けなければならない適応の進行中の過程を例示するものである。
【0120】
実施例10−イヌインフルエンザA H3N8分離物のアミノ酸解析
6検体のすべてのイヌ分離物には、それらを現代のウマインフルエンザと区別する保存的アミノ酸置換があった(表9)。これらの保存的置換はI15M、N83S、W222L、I328TおよびN483Tであった。成熟HAタンパク質を系統学的に比較した結果、イヌ/Jax/05、イヌ/マイアミ/05およびイヌ/アイオワ/05ウイルスはイヌ/TX/04分離物と共に亜型を形成することが示された(図4)。この亜型とその他のイヌウイルスを区別する3つのアミノ酸変化(L118V、K261NおよびG479E)があった(表9)。2005年の分離物をそれらのルーツであるイヌ/TX/04と区別する2つのアミノ酸変化(F79LおよびG218E)があった。さらに、グレイハウンド以外のイヌからの2005年分離物であるイヌ/Jax/05およびイヌ/マイアミ/05は1個のアミノ酸変化であるR492Kがイヌ/アイオワ/05グレイハウンド分離物と異なった。最後に、イヌ/Jax/05は一つのアミノ酸S107Pにおいてイヌ/マイアミ/05とは異なった。その他のすべてのH3N8ウマおよびイヌウイルスにおいて、Tを持つA/ウマ/チーリン/1/89(Guo Y.ら、1992年)を除いてSは107の位置に保存される。
【0121】
実施例11−イヌインフルエンザA H3N8分離物の抗原分析
血球凝集阻害(HI)試験は、以前および現代のウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルス、ならびにインフルエンザウイルスに感染したウマおよびイヌから2005年に採取された血清を用いて実施された(表10)。イヌ/FL/04に対して免疫したフェレットの血清も分析に含めた。ウマ血清のHI抗体価は現代のウマウイルスを以前の分離物と比較して調べた結果、8〜16倍高かったが、イヌウイルスを用いて調べると少なくとも1/4低下した。イヌ血清は以前のウマウイルスとは非反応性であったが、現代のウマ分離物およびイヌ分離物を用いて調べると抗体価は4倍に増加した。これは、イヌインフルエンザウイルスに対して免疫されたフェレットの血清についても観察された。これらの血清反応パターンは、イヌインフルエンザウイルスおよび現代のウマインフルエンザウイルスの間の抗原類似性を実証するものであり、系統学的解析と一致した。イヌ/マイアミ/05分離物に対するウマ、イヌおよびフェレット血清の抗体価は、2003年および2004年のイヌ分離物における抗体価とほぼ等しかった。しかし、イヌ/Jax/05分離物の抗体価は1/2〜1/4であった。このことは、イヌ/Jax/05が抗原的にはその他のイヌ分離物とは異なり、成熟HAの107位における単一のアミノ酸の変化に一部関連し得ることを示唆する。
【0122】
(表7)インフルエンザAウイルスのマトリックス遺伝子およびイヌインフルエンザA(H3N8)のH3遺伝子の定量的リアルタイムRT-PCR解析のためのプライマーおよびプローブ

a 下線を引いた文字rはaまたはgのヌクレオチドを示し、下線を引いた文字kはgまたはtのヌクレオチドを示す。
b 大文字は固定された核酸残基を示す。
【0123】
(表8)フロリダの保護施設および動物病院において呼吸器疾患大流行時に肺炎で死亡したイヌの肺組織に対して実施した定量的リアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離

【0124】
(表9)イヌインフルエンザウイルスおよび現代のウマインフルエンザウイルスにおける成熟HAのアミノ酸の比較

【0125】
(表10)以前および現代のウマインフルエンザウイルスおよびイヌインフルエンザウイルスに対するウマ、イヌおよびフェレット血清の抗体価

a 抗体価は、ウマ、イヌまたはフェレットの血清の段階希釈、ならびに抗原のカラムに列記されるウイルスを用いて実施した血球凝集阻害試験で求められた。
b イヌ/FL/04ウイルスで免疫したフェレットの血清
【0126】
実施例12〜15の材料および方法例
イヌインフルエンザウイルス接種物
ウイルス接種物は、Madin-Darbyイヌ腎(MDCK)上皮細胞に既報(Crawfordら、2005年)のオリジナル分離物の3回継代物であるA/イヌ/FL/43/04(H3N8)のストックを接種して調製した。1μg/mL TPCK処理トリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化したDulbecco最小必須培地(DMEM)中の接種されたMDCK細胞は、250cm2のフラスコに入れて5%CO2を含む加湿大気中、37℃にて生育させた。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物は遠心分離によって清澄化して、上清をイヌの接種まで-80℃で保存した。ReedおよびMuench法によるウイルス力価の測定には、上清の画分を使用した。力価は、1mL当たり107半数組織培養物感染用量(TCID50)のA/イヌ/フロリダ/43/04(イヌ/FL/04)であった。
【0127】
実験的接種
コロニーで繁殖した4カ月齢の8頭の雑種犬(Marshall BioResources, North Rose, NY)(雌雄各4頭)をUniversity of Florida Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された実験的接種試験に使用した。イヌの体重は13〜17kgであった。イヌは、理学的検査、ベースラインの血液検査、および接種前2週間の体温記録に基づいて、健常であった。すべてのイヌは、施設への到着時および2週間後に採取した対の血清試料について実施した血清学的検査に基づいて、イヌインフルエンザウイルスへの曝露歴はなかった。イヌは、気管内チューブの挿管に備えて、プロポフォール(ディプリバン(登録商標)、Zeneca Pharmaceuticals、行うために0.4mg/kg体重)の静脈内注入により麻酔した。6頭(雌雄各3頭)のイヌに、気管内チューブに挿入した直径の小さなゴム製カテーテルを介して5mL無菌生理食塩液中107 TCID50のイヌ/FL/04ウイルスを遠位気管に投与して、それぞれ接種した。2頭のイヌ(雌雄各1頭)には等量の無菌生理食塩液を偽接種した。偽接種した対照のイヌは、ウイルス接種したイヌとは別の部屋に収容して、別の担当者がケアした。理学的検査および直腸温の記録は、1日2回、接種後(p.i.)6日間実施した。
【0128】
咽頭および直腸スワブの採取
ウイルス排出をモニターするために、p.i.0〜6日にポリエステルスワブ(Fisher Scientific International Inc., Pittsburgh, PA)を用いて口咽頭標本を各イヌから1日2回、採取した。スワブは、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む無菌リン酸緩衝生理食塩液(PBS)1mLに収容した。直腸スワブは0日から6日まで1日1回、各イヌから採取した。スワブ抽出液は、スワブ輸送培地を遠心分離によって清澄化して調製した。スワブ抽出液の画分は、Directigen(商標)の市販の免疫アッセイキット(BD, Franklin Lakes, NJ)を製造業者の説明書に従って用いて、インフルエンザAウイルス核タンパク質について直ちに検査した。残りの抽出液は、その他のウイルス学的アッセイ法まで-80℃にて保存した。
【0129】
死亡後検査
p.i. 1日に、偽接種した1頭およびウイルス接種した1頭のイヌをBeuthanasia-D(登録商標)液(1mL/5kg体重;Schering-Plough Animal Health Corp)の静脈内注入により安楽死させた。p.i. 2日から5日まで毎日、ウイルス接種した1頭のイヌを同様に安楽死させた。p.i. 6日に偽接種およびウイルス接種した残りのイヌを安楽死させた。詳細な死亡後検査は1名の試験担当者(WLC)により実施された。組織は10%中性緩衝ホルマリン中で固定して、パラフィンに包埋し、5μmの切片を病理組織学的診断のためにヘマトキシリン・エオジンで染色するか、または以下に記載する通り免疫組織化学的検査に備えて加工した。未固定の肺組織は、細菌の分離および同定のため、University of Florida College of Veterinary MedicineのDiagnostic Clinical Microbiology/Parasitology/Serology Serviceに送付した。試料は、非選択培地およびボルデテラ属(Regan-Lowe; Remel, Lenexa, KS)およびマイコプラズマ属(Remel)の選択培地で培養した。すべての培養物は、増殖なしと報告する前に21日間維持した。未固定の組織は、同じくウイルス学的分析まで-80℃で保存した。
【0130】
免疫組織化学
脱パラフィンおよび再水和した5μmの気管および肺組織切片をBond-Rite(商標)スライドガラス(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)にセットして、プロテイナーゼK(DAKOCytomation, Carpenteria, CA)ペルオキシダーゼ遮断試薬(DAKO(登録商標)EnVision(商標)ペルオキシダーゼキット、DAKO Corp., Carpenteria, CA)で順次処理した。切片は、インフルエンザA H3に対するモノクローナル抗体の1:500希釈(Chemicon International, Inc., Ternecula, CA)と共に室温で2時間、インキュベートした。対照には、同一の切片とマウスIgG(1mg/mL、Serotec, Inc. Raleigh, NC)のインキュベート、およびモノクローナル抗体と正常なイヌ肺切片のインキュベートが含まれた。一次抗体で処理した後、切片は製造業者の説明書に従って二次イムノペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼ基質試薬(Dako(登録商標)EnVision(商標)ペルオキシダーゼキット、Dako Corp.)と共にインキュベートした。ヘマトキシリンで切片を対比染色して、清澄化剤#2およびBluing試薬(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)で処理して脱水し、Permount(ProSciTech, Queensland, Australia)を用いてカバーガラスをかけた。
【0131】
スワブおよび組織からのRNAの抽出
各イヌに由来する肺および気管の組織を融解して、使い捨ての組織グラインダー(Kendall, Lifeline Medical Inc., Danbury, CT)を用いて、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および抗生物質(ゲンタマイシンおよびシプロフロキサシン)を強化した最小必須培地(MEM)を加えてホモジナイズした。市販のキット(RNeasy(登録商標)ミニキット、QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って用いて、組織ホモジネートならびに口咽頭および直腸スワブ抽出液から全RNAを抽出して、最終液量 60μLの緩衝液で溶出した。
【0132】
リアルタイムRT-PCR
ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantiTect(登録商標)プローブRT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)およびA型インフルエンザウイルスのマトリックス(M)遺伝子の高度保存領域をターゲットとするプライマー-プローブセット(Payungporn S.ら、2006年a;Payungporn S.ら、2006年b)を用いて、全RNAに対して一段階定量的リアルタイムRT-PCRを実施した。各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 25μL中、2X QuantiTech(登録商標) Probe RT-PCR Master Mix 12.5μL、QuantiTech(登録商標)RT Mix 0.25μL、フォワードおよびリバースプライマー(それぞれ、0.4μMの最終濃度)、プローブ(0.1μMの最終濃度)、ならびにRNaseフリーの水を含む反応混合液に抽出した全RNA 5μLを加えた。スワブおよび組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性の内部対照として、また標準化対照としてのGAPDHの検出には、TaqMan(登録商標)GAPDH対照試薬(Applied Biosystems, Foster City, CA)を製造業者の説明書に従って使用した。
【0133】
Mx3000P(登録商標)QPCR System(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて、反応混合物に対して定量的一段階リアルタイムRT-PCRを実施した。サイクリング条件は、50℃での30分間の逆転写段階、HotStarTaq(登録商標)DNAポリメラーゼを活性化させるための95℃での15分間の初期変性段階、および40サイクルの増幅を含んだ。各増幅サイクルには、94℃での15秒間の変性およびその後の60℃での1分間のアニーリング/伸展が含まれた。FAM(発光波長 518nm)およびVIC(発光波長 554nm)蛍光シグナルは各サイクルの終了時に記録した。閾値サイクル(Ct)は、それぞれの各実験において閾値蛍光(dR)を1000に設定することによって求めた。データの収集および解析には、Mx3000P(登録商標)バージョン2.0ソフトウェアプログラム(Stratagene, La Jolla, CA)を用いた。陽性対照は、A/イヌ/FL/242/03(H3N8)ウイルスから抽出されたRNAの増幅物から構成された。結果は、各試料についてM Ct値を対応するGAPDHのCt値で割って標準化した。
【0134】
組織からのウイルスの再分離
ウイルス接種したイヌから得られた肺および気管の凍結組織を融解して、0.5%BSAおよび抗生物質を強化した10倍量のDMEM中でホモジナイズした。遠心分離により固体の細片を除去して、上清を上記の通り1μg/mLのTPCK処理したトリプシン(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)および抗生物質を強化したDMEMで培養したMDCK細胞に接種した。細胞は、25cm2のフラスコを用いて5%CO2含有加湿大気中、37℃にて培養した。培養物は形態学的変化を1日1回観察して、接種後5日に回収した。回収した培養物を遠心分離により清澄化して、上清を初回接種において記載した通り新鮮なMDCK細胞に接種し;血球凝集またはRT-PCRによりインフルエンザウイルスの証拠を示さなかった試料についてはさらに2回の継代を行った。清澄化した上清の血球凝集活性は、上記の通り0.5%シチメンチョウ赤血球(Crawfordら、2005年)を用いて測定した。RT-PCRは、下記の通り、実施した。
【0135】
RT-PCR、ヌクレオチドシーケンシング、および系統学的解析
製造業者の説明書に従ってQIAamp(登録商標)ウイルスRNAミニキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を用いて、MDCK上清からウイルスRNAを抽出した。ウイルスRNAは、QIAGEN(登録商標)一段階RT-PCRキット(QIAGEN Inc., Valencia, CA)を製造業者の説明書に従って使用して、cDNAに逆転写した。cDNA内の8つのインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域のPCR増幅は、汎用遺伝子特異的プライマーセット(プライマー配列は要求に応じて与えられる)を用いて既報(Crawfordら、2005年)の通り実施した。得られたDNA単位複製配列は、サイクルシーケンシングダイターミネーターケミストリー(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いたABI PRISM(登録商標)3100自動DNAシーケンサーでの自動シーケンシングのための鋳型として用いられた。ヌクレオチド配列はLasergene 6 Package(登録商標)(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて解析した。呼吸器での複製中に何らかの変化が生じたか否かを調べるために、感染犬から回収されたウイルスのヌクレオチド配列を接種物中のウイルスの配列と比較した。
【0136】
実施例12−臨床疾患
ウイルス接種された6頭のすべてのイヌが最初のp.i. 2日間に発熱(直腸温 ≧39℃)を発症したが、6日間の観察期間を通して咳または鼻分泌物などの呼吸器症状を示したものはいなかった。偽接種したイヌは臨床的に健常な状態を維持した。
【0137】
実施例13−ウイルス排出
インフルエンザAの核タンパク質がp.i. 24時間にウイルス接種したイヌの1頭から採取された口咽頭スワブで検出された。p.i. 72、84および120時間に1頭のイヌから、またp.i. 108、120および132時間にはもう1頭のイヌから採取された口咽頭スワブが定量的リアルタイムRT-PCRによりウイルスに関して陽性であった(表11)。スワブ抽出液1μL当たりのインフルエンザM遺伝子コピーの絶対数は、p.i.3日から6日まで経時的に増加した。直腸スワブには、ウイルスは検出されなかった。
【0138】
実施例14−死亡後検査
特定病原体除去ビーグルを用いた過去の実験的感染(Crawfordら、2005年)とは対照的に、ウイルス接種した雑種犬は、p.i.1日から6日までの肺の肉眼的および組織学的分析により示される通り、肺炎を発症した。肺炎に加えて、イヌは、自然感染したイヌにおける報告(Crawfordら、2005年)と同様に鼻炎、気管炎、気管支炎および細気管支炎を呈した。気道の裏打ち細胞および気管支腺に上皮の壊死およびびらんが認められ、粘膜下組織には好中球およびマクロファージの浸潤が見られた(図5、上段)。免疫組織化学的検査により、気管支、細気管支および気管支腺の上皮細胞にウイルス性H3抗原が検出された(図5、下段)。細菌の重複感染はなかった。2頭の偽接種犬の呼吸組織は正常であった。
【0139】
実施例15−気管および肺におけるウイルスの複製
気管および肺は、p.i. 1日から6日まですべてのイヌにおいて定量的リアルタイムRT-PCRによりウイルスに関して陽性であった(表12)。気管ホモジネート1μL当たりのインフルエンザM遺伝子コピーの絶対数はp.i. 1日から5日まで増加して、その後、6日には減少した。肺ホモジネート1μL当たりのM遺伝子コピーの絶対数はp.i. 1日から6日まで減少した。一般に、気管には6日間の各p.i.日に肺よりも≧1log10多いウイルスが含まれた。
【0140】
(表11)定量的リアルタイムRT-PCRによる、イヌインフルエンザウイルスを接種された雑種犬の中咽頭におけるウイルス排出(shedding)の検出

a A/イヌ/FL/43/04(H3N8)ウイルスの接種後の、イヌから口咽頭スワブが採取された時期。
b 標準化比は、各スワブ抽出液についてM(Ct)をGAPDH(Ct)で割って算出した。
c スワブ抽出液1μL当たりのマトリックス遺伝子コピーの絶対数。
【0141】
(表12)定量的リアルタイムRT-PCRによる、イヌインフルエンザウイルスを接種された雑種犬の気管および肺におけるウイルス複製の検出

a A/イヌ/FL/43/04(H3N8)ウイルスの接種後の、イヌから組織が採取された時期。
b 標準化比は、各組織ホモジネートについてM(Ct)をGAPDH(Ct)で割って算出した。
c 組織ホモジネート1μL当たりのマトリックス遺伝子コピーの絶対数。
【0142】
実施例16の材料および方法例
ウイルス株
イヌインフルエンザウイルス株ならびにトリ、ウマおよびヒト由来のウイルス株(表15に列記)を孵化鶏卵またはMDCK細胞で増殖させて、それらの感染性をニワトリ胚におけるエンドポイント希釈またはプラーク法により定量した。シチメンチョウ赤血球(red blood cell)の赤血球(erythrocytes)を用いた血球凝集試験により、迅速なウイルスの定量が実施された。
【0143】
診断のための標本
2005年にウイルス性呼吸器疾患が疑われる症例から採取された合計60頭のイヌの肺組織について、イヌインフルエンザウイルスの存在を調べた。
【0144】
イヌ組織試料からのRNAの抽出
20〜30mgの重量の肺組織のブロックを使い捨ての組織グラインダー(Kendal)に入れてホモジナイズした。製造業者の説明書に従って市販のキット(RNeasyミニキット、Qiagen, Valencia, CA)を用いて全RNAを抽出し、最終液量 60μLの液量で溶出した。
【0145】
プライマーおよびプローブの設計
CLUSTAL Xプログラム(バージョン1.8)を用いて、様々な亜型および多様な動物種に由来するH3およびM遺伝子のマルチプル配列アラインメントを実施した。マトリックス(M)プライマーおよびプローブはインフルエンザAウイルスの異なる亜型に対応する公知の配列を通じての保存領域から選択され、H3ヘマグルチニン遺伝子特異的なプライマーおよびプローブはウマおよびイヌインフルエンザAウイルス遺伝子に特異的にマッチして、相同のトリおよびヒト遺伝子にはミスマッチするように選択した(表13)。プライマー設計ソフトウェア(OLIGOS バージョン9.1)およびEXIQON(http://lnatools.com)より提供されるウェブ上の解析ツールをTmの算出ならびに二次構造および自己ハイブリダイゼーションの予測に使用した。18S rRNAの保存領域を、イヌ組織試料から抽出されたRNAの存在に関する内因性内部対照として使用した。Pre-Developed TaqMan(登録商標)Assay Reagents for Eukaryotic 18S rRNA(VIC/TAMRA) (Applied Biosystems)を組織試料における18S rRNAのリアルタイム検出に使用した。
【0146】
リアルタイムRT-PCRの条件
一段階定量的リアルタイムRT-PCRは、ROXをパッシブレファレンス色素として含むQuantitectプローブRT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて実施した 各リアルタイムRT-PCR反応において、最終液量 20μL中、2X QuantiTechプローブRT-PCRマスターミックス 10μL、QuantiTech RT Mix 0.2μL、プライマー(H3遺伝子については最終濃度0.4μM、M遺伝子については最終濃度0.6μM)、プローブ(H3遺伝子については最終濃度0.1μM、M遺伝子については最終濃度0.2μM)、RNaseフリーの水を含む反応混合液と化合するための鋳型としてRNA試料の5μLを使用した。一段階リアルタイムRT-PCRはMx3005PリアルタイムQPCRシステム(Stratagene)を用いて実施した。サイクリング条件は、50℃、30分間の逆転写過程を含んだ。HotStarTaq DNAポリメラーゼを活性化するための95℃、15分間の1回目変性段階の後、増幅は変性(94℃、15秒間)およびアニーリング/伸展(60℃、30秒間)を含む40サイクルの期間中に実施された。FAM(H3およびM検出のため発光波長516nm)およびVIC(18S rRNA検出のため発光波長555nm)の蛍光シグナルはサイクル当たり1回ずつ、伸展段階の終了時に得た。リアルタイムPCRアッセイ法のデータの取得および解析はMx3005Pソフトウェア バージョン2.02(Stratagene)を用いて実施した。
【0147】
イヌインフルエンザ(H3N8)のためのH3プライマー/プローブの特異性、およびA型インフルエンザウイルスのためのMプライマー/プローブセットの汎用性
各プライマー/プローブセットの特異性について試験するために、インフルエンザAウイルスの複数の公知の亜型から抽出されたRNAをリアルタイムRT-PCRアッセイ法における鋳型として用いた(表15)。
【0148】
リアルタイムRT-PCRの性能の測定のためのRNA標準
イヌインフルエンザAウイルス(A/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8))の遺伝子は、T7プロモーターと結合したプライマーを用いることによってH3(nt 1〜487)およびM(nt 1〜276)のPCR単位複製配列を作出するために使用した(表13)。続いて、リボプローブインビトロ転写システム-T7(Promega)を製造業者の説明書に従って用いることによって、H3およびM遺伝子の精製PCR単位複製配列をインビトロにおける転写のための鋳型として用いた。転写されたRNAの濃度は、260nmでの吸光度を測定して算出した。次に、感受性試験を実施するためにRNAを108〜10コピー/μLの範囲で10倍段階希釈した。さらに、リアルタイムRT-PCRの全体の性能を調べるために、初期RNA鋳型濃度(コピー/μL)の対数を各希釈より得られた閾値サイクル(Ct)に対してプロットして標準曲線を作成した。
【0149】
リアルタイムRT-PCRおよびDirectigen Flu A検査キットの比較感受性試験
106.67EID50/mL(HA=64)のA/ワイオミング/3/2003 (H3N2)および107.17EID50/mL(HA=16)のA/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8)を含む2つのウイルス株のストックウイルスを検出閾値アッセイ法に使用した。高速インフルエンザA抗原検出キットであるDirectigen Flu A(Becton, Dickinson and Company)を製造業者の説明書に従って使用して、標本のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)(125μL)の対数希釈を用いた。それぞれのDirectigen Flu A検査装置には膜の中央部に紫色のドットとして現れるH1N1インフルエンザ抗原スポットがあり、核タンパク質(NP)に対するモノクローナル抗体に基づいて検査の完全性が示される。ドットを取り巻く紫色の三角形の出現は、試験標本におけるインフルエンザNPの存在を示す。三角形からの紫色のシグナルの強度は、+(三角形の輪郭)、++(明るく着色した三角形)、+++(暗紫色の三角形)および++++(極めて暗紫色の三角形)としてスコア化される。ウイルスRNAはQIAampウイルスRNAミニキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて各ウイルス希釈液の125μL画分からウイルスRNAを抽出し、最終液量50μLに溶出した。抽出したウイルスRNAの5μL容量を、Directigen Flu Aキットを用いた比較感受性試験においてリアルタイムRT-PCRにより試験した。
【0150】
実施例16
イヌインフルエンザに関するリアルタイムRT-PCRアッセイ法は、宿主細胞由来の18S rRNAならびにインフルエンザAウイルスゲノム由来のMおよびH3をターゲットとする3つの分子プローブからの情報に依拠する(表14)。宿主遺伝子の増幅は標本の品質および完全性に関するレポーターである。イヌインフルエンザ(H3N8)ウイルスを含む臨床的、剖検または実験的試料は3つのプローブを用いて増幅シグナルが得られることが期待された。Mおよび18S rRNAプローブを用いた場合は増幅シグナルを与えるがH3については陰性である標本は、ヒト、ブタもしくはトリ由来、またはH3以外の亜型に由来するインフルエンザウイルスH3亜型の指標である。これらの稀なケースは、シーケンシングによって分析することができる単位複製配列cDNAを作出するためのHA汎用プライマーを用いたRT-PCRにより解決することができる。適切に採取および取り扱われたインフルエンザAウイルスを含まない標本は、18S rRNA単位複製配列シグナルのみを与える。18S rRNAプローブおよびH3プローブのみが増幅シグナルを与える状況は、そうでないことが証明されない限り、技術が不完全であることの指標であり;Mプローブでの偽陰性またはH3での偽陽性のいずれかが実証されなければならない。最後に、3つのプローブを用いて増幅シグナルを与えられない標本は、不完全な試料の採取、変性、RNA抽出の不備、またはPCRで用いられたポリメラーゼの阻害物質の存在が示唆される。
【0151】
イヌインフルエンザAウイルス(H3N8)のH3プライマー/プローブセットの特異性、およびA型インフルエンザのMプライマー/プローブセットの汎用性について調べるため、インフルエンザAウイルスの複数の亜型をリアルタイムRT-PCRにより試験した。結果は、H3プライマー/プローブセットがイヌインフルエンザ(H3N8)を用いた場合にのみ陽性の増幅シグナルを与えることを示している。その他の亜型またはヒトH3株では、顕著な偽陽性または非特異的な増幅シグナルは認められなかった。Mプライマー/プローブセットは、試験したすべての株において明確な増幅シグナルを与えた(表15)。これらの結果は、H3プライマー/プローブはイヌインフルエンザAウイルス(H3N8)を特異的に検出し、Mプライマー/プローブはA型インフルエンザウイルスの多くの亜型を検出することを示した。
【0152】
リアルタイムRT-PCRアッセイ法の性能は、MおよびH3のインビトロにおける転写RNAのエンドポイント希釈により評価した。予想通り、閾値サイクル(Ct)は、RNA標準の希釈に直接相関して増加した。蛍光シグナルは、MおよびH3のRNA標準の希釈において、それぞれ、103および102コピー/μLの低い値で検出可能である(図6Aおよび6B)。MおよびH3遺伝子の標準曲線は、各希釈から得られた閾値サイクル(Ct)に対して開始時のRNA濃度の対数をプロットして作成した(図6Cおよび6D)。標準曲線の勾配を用いて、理論上は指数関数的であるPCR反応効率を求め;100%増幅効率は各サイクルの単位複製配列濃度の倍化を意味する。約-3.1〜-3.6の勾配の標準曲線は、典型的には正確な定量(90〜110%の反応効率)を必要とする大半のアプリケーションにおいて受け入れ可能である。Rsq値は、標準曲線のプロットに対する全データの適合である。すべてのデータが完全に曲線上に位置する場合は、Rsqは1.00となる。データが曲線からさらに離れるに伴って、Rsqは減少する。≧0.985のRsq値は大半のアッセイ法において受け入れ可能である。M標準曲線の勾配は-3.576(効率=90.4%)、Rsq=1.00であり、H3標準曲線では勾配 -3.423(効率=95.9%)およびRsq=0.999であった。これらの値は、リアルタイムRT-PCRアッセイ法の増幅効率および全体の性能が申し分ないことを示している。本発明者らは、H3プライマー/プローブセットに比してMプライマー/プローブセットの低い効率および感度は多くの亜型、宿主および系統のウイルスを通じてのM遺伝子配列の変異性を幅広く網羅することを確保するために必要なMプライマー配列のN倍縮重が原因としている。
【0153】
リアルタイムRT-PCRアッセイ法の感度を市販の高速抗原検出アッセイ法(Directigen Flu A)とも比較した。A/ワイオミング/3/2003(H3N2)およびA/イヌ/フロリダ/242/2003(H3N8)の対数希釈をDirectigen Flu AおよびリアルタイムRT-PCRで分析した。Directigen Flu Aの結果より、双方のウイルス株に対する感受性がこれらの実験で用いられたウイルスストック株からの約100倍希釈であることが示された(図7)。イヌウイルス(A/イヌ/フロリダ/242/2003:106.xPFU/ml)の試料より生じるシグナル(紫色)は、これらの試料中の低いウイルス濃度に一致して、ヒトウイルス(A/ワイオミング/3/2003:107.xPFU/ml)に見られるシグナルよりも極めて弱いものであった。または、イヌインフルエンザの低いシグナルはNPに対するモノクローナル抗体の分子特異性、即ち、イヌインフルエンザAウイルスのNPエピトープ内でのアミノ酸の保存が低いことによるものである可能性がある。
【0154】
M遺伝子のリアルタイムRT-PCRは、A/イヌ/フロリダ/242/2003およびA/ワイオミング/3/2003の反応当たり、それぞれ、10および30PFU当量のウイルスで閾値を上回るCt値を与えた(表16)。2つのウイルス株の感受性の値の差異は元々のウイルス力価の差異である。本発明者らのリアルタイムRT-PCRアッセイ法におけるH3プライマー/プローブは専らイヌインフルエンザAウイルスを増幅することから、イヌおよびヒトインフルエンザウイルス間のH3遺伝子検出の比較は実施されなかった。RT-PCRの感受性は、高速抗原検出キットよりも105倍高い値であった。
【0155】
急性呼吸器疾患のイヌから得られた剖検標本におけるRT-PCR検査の性能について評価するため、2005年に提出された60検体のイヌ肺組織試料についてリアルタイムRT-PCRによりイヌインフルエンザAウイルスの存在を調べた。60検体中合計12検体の試料(20%)がMおよびH3の双方の遺伝子について陽性であり、残りの48検体の試料はMおよびH3の双方の遺伝子について陰性の結果を示した。リアルタイムアッセイ法の特異性について調べるため、鶏卵およびMDCK細胞接種によりウイルス分離の試みを実施し;RT-PCRによりイヌインフルエンザに関して陽性であった12検体中2検体の試料からイヌインフルエンザウイルスが得られた(データは示さず、原稿準備中)。すべての組織が重度呼吸器疾患の既往を有するイヌから採取されたが、大半の試料ではリアルタイムRT-PCRまたは従来の分離のいずれによってもイヌインフルエンザウイルスは得られず、気管支敗血症菌、イヌジステンパーまたはパラインフルエンザウイルスなどのその他の呼吸器病原体の高い出現率が示唆された。本明細書における一段階リアルタイムRT-PCRアッセイ法は、イヌインフルエンザAウイルス(H3N8)検出のための高速かつ高感度の経済的なアプローチを提供する。疾患の早期段階におけるイヌインフルエンザAウイルス(H3N8)感染の迅速な検査による診断は、臨床上の患者および施設の運営管理に関連する情報を与え得る。
【0156】
(表13)リアルタイムRT-PCR検出およびインビトロ転写において用いられたプライマーおよびプローブ

*注:大文字=LNA(固定された核酸)残基、r=aまたはg、k=gまたはt、下線=T7プロモーター配列
【0157】
(表14)リアルタイムRT-PCRアッセイ法の評価

【0158】
(表15)インフルエンザAウイルスの複数の亜型を用いたイヌH3プライマー/プローブセットの特異性試験およびMプライマー/プローブセットの汎用性試験

* 臨床試料の亜型はヌクレオチドシーケンシングによって確認された点に留意されたい。
【0159】
(表16)リアルタイムRT-PCRおよびDirectigen Flu A間のインフルエンザAウイルス検出に関する比較感受性試験

【0160】
(表17)

【0161】
(表18)

【0162】
(表19)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPB2タンパク質間のアミノ酸の相違

【0163】
(表20)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPB1タンパク質間のアミノ酸の相違

【0164】
(表21)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのPAタンパク質間のアミノ酸の相違

* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0165】
(表22)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNPタンパク質間のアミノ酸の相違

【0166】
(表23)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNAタンパク質間のアミノ酸の相違

【0167】
(表24)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのM1タンパク質間のアミノ酸の相違

* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0168】
(表25)H3N8ウマおよびイヌインフルエンザウイルスのNS1タンパク質間のアミノ酸の相違

* 1963年から1998年に分離されたウイルスの有効な遺伝子に基づく。
【0169】
本明細書に記載される実施例および態様は専ら例示目的であり、その観点において様々な修正または変更が当業者に示唆されて本出願の精神および範囲内に含められるべきであることが理解されなければならない。
【0170】
参考文献





【図面の簡単な説明】
【0171】
本特許または本出願ファイルは、カラー印刷された少なくとも一つの図を含む。カラーの図のコピーを伴う本特許または特許出願刊行物は、請求および必要な手数料の支払いにより特許局より提供されると思われる。
【図1】ヘマグルチニン遺伝子の系統学的関連性を示す。図1Aは、A/セキセイインコ/ホッカイドウ/1/77(H4)を外群として含む、代表的なイヌ、ヒト、トリ、ブタおよびウマ分離物から得られたHA遺伝子の系統樹を示す。図1Bは、A/アヒル/ウクライナ/63(H3)を外群として用いた、現代および以前のウマHA遺伝子と共にイヌインフルエンザウイルスHA遺伝子の系統樹を示す。系統樹は近隣結合法によるヌクレオチド配列から推定され、≧90%のブーツストラップ解析値を示す。バーは、水平方向の分枝の単位長さ当たりのヌクレオチド変化数を示す。
【図2】肺におけるインフルエンザH3抗原の免疫組織化学的検出を示す。H3ヘマグルチニンに対するマウスモノクローナル抗体を用いて肺組織切片を精査し、イムノペルオキシダーゼ反応(褐色の沈殿)により結合を検出した。図2Aは、自然発生疾患を伴うグレイハウンドから得られた気管支上皮を示す。ウイルスH3抗原は、気管支上皮細胞の細胞質ならびに気道腔および肺胞腔内のマクロファージに検出された。図2Bは、A/イヌ/フロリダ/43/04(H3N8)の接種5日後のイヌに由来する気管支上皮を示す。ウイルスH3抗原は、気管支上皮細胞の細胞質に検出された。メモリのバーは66μm。
【図3】インフルエンザ感染に関連する出血性肺炎のために死亡したグレイハウンドの気管支における特徴的な組織学的変化を示す。組織はH&Eで染色されている。上段:繊毛上皮細胞、粘液細胞および基底細胞を持つ正常な気管支。下段:自然発生性のインフルエンザに罹患したグレイハウンドの気管支。気管支繊毛上皮細胞に壊死およびびらんが見られる。メモリのバーは100μm。
【図4】H3ヘマグルチニン遺伝子の系統学的関連性を示す。図4Aは、イヌインフルエンザウイルスHA遺伝子ならびに現代および以前のウマHA遺伝子の系統樹を示す。図4Bは、イヌインフルエンザウイルスHAタンパク質ならびに現代および以前のウマHAの系統樹を示す。系統樹は近隣結合法による遺伝子またはアミノ酸配列から推定され、≧80%のブーツストラップ解析値を示す。バーは、水平方向の分枝の単位長さ当たりのアミノ酸変化数を示す。
【図5】インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎で死亡したイヌの肺における気管支および気管支腺の上皮細胞のインフルエンザウイルスH3タンパク質を示す。上段:気管支における気管支繊毛上皮細胞のびらん。組織はH&Eで染色された。下段:気管支(左)および気管支腺(右)の上皮細胞の細胞質におけるインフルエンザウイルスH3タンパク質。組織は、イムノペルオキシダーゼ反応(褐色の沈殿)により検出されるインフルエンザH3に対するモノクローナル抗体で染色し、ヘマトキシリンで対比染色した。
【図6】10倍段階希釈したインビトロにおいて転写させたRNA標準の増幅から得られたH3およびマトリックス遺伝子の増幅プロット(図6Aおよび6B)を示す。各希釈から得られた閾値サイクル(Ct)に対して開始時のRNA濃度の対数をプロットして作成したH3およびマトリックス遺伝子の標準曲線(図6Cおよび6D)。
【図7】Directigen Flu Aの感受性がA/ワイオミング/3/2003およびA/イヌ/FL/242/2003を含む10倍段階希釈したウイルスストックを用いて試験されたことを示す。紫色の三角は陽性の結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0172】
配列の簡単な説明
配列番号:1は、本発明に従って使用することができるPB2タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:2は、配列番号:1によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:3は、本発明に従って使用することができるPB1タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:4は、配列番号:3によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:5は、本発明に従って使用することができるPAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:6は、配列番号:5によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:7は、本発明に従って使用することができるNSタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:8は、配列番号:7によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:9は、本発明に従って使用することができるNPタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:10は、配列番号:9によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:11は、本発明に従って使用することができるNAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:12は、配列番号:11によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:13は、本発明に従って使用することができるMAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:14は、配列番号:13によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:15は、本発明に従って使用することができるHAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(フロリダ/43/04)のヌクレオチド配列である。
配列番号:16は、配列番号:15によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:17は、本発明に従って使用することができるPB2タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:18は、配列番号:17によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:19は、本発明に従って使用することができるPB1タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:20は、配列番号:19によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:21は、本発明に従って使用することができるPAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:22は、配列番号:21によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:23は、本発明に従って使用することができるNSタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:24は、配列番号:23によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:25は、本発明に従って使用することができるNPタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:26は、配列番号:25によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:27は、本発明に従って使用することができるNAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:28は、配列番号:27によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:29は、本発明に従って使用することができるMAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:30は、配列番号:29によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:31は、本発明に従って使用することができるHAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(FL/242/03)のヌクレオチド配列である。
配列番号:32は、配列番号:31によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:33は、N末端の16のアミノ酸シグナル配列が除去されている配列番号:16に示すHAタンパク質の成熟型である。
配列番号:34は、N末端の16のアミノ酸シグナル配列が除去されている配列番号:32に示すHAタンパク質の成熟型である。
配列番号:35は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:36は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:37は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:38は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:39は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:41は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:42は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:43は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:44は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:45は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:46は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:47は、本発明に従って使用することができるPB2タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:48は、配列番号:47によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:49は、本発明に従って使用することができるPB1タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:50は、配列番号:49によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:51は、本発明に従って使用することができるPAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:52は、配列番号:51によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:53は、本発明に従って使用することができるNSタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:54は、配列番号:53によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:55は、本発明に従って使用することができるNPタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:56は、配列番号:55によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:57は、本発明に従って使用することができるNAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:58は、配列番号:57によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:59は、本発明に従って使用することができるMAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:60は、配列番号:59によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:61は、本発明に従って使用することができるHAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(マイアミ/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:62は、配列番号:61によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:63は、本発明に従って使用することができるPB2タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:64は、配列番号:63によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:65は、本発明に従って使用することができるPB1タンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:66は、配列番号:65によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:67は、本発明に従って使用することができるPAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:68は、配列番号:67によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:69は、本発明に従って使用することができるNSタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:70は、配列番号:69によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:71は、本発明に従って使用することができるNPタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:72は、配列番号:71によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:73は、本発明に従って使用することができるNAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:74は、配列番号:73によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:75は、本発明に従って使用することができるMAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:76は、配列番号:75によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:77は、本発明に従って使用することができるHAタンパク質をコードするイヌインフルエンザウイルス(ジャクソンビル/2005)のヌクレオチド配列である。
配列番号:78は、配列番号:77によってコードされるアミノ酸配列である。
配列番号:79は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:80は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:81は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:82は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:83は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:84は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:85は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:86は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:87は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
配列番号:88は、本発明に従って用いることができるオリゴヌクレオチドである。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌ科動物に感染することができる分離されたインフルエンザウイルス。
【請求項2】
H3またはH5のHA血清型を持つ、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項3】
H3N8の血清型を持つ、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項4】
配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列またはその機能性および/もしくは免疫原性断片を持つポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、または該ポリヌクレオチドが配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列と99%またはそれよりも高い配列同一性を持つポリペプチドをコードする、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項5】
配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチドを含み、または該ポリヌクレオチドが配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列と98%もしくはそれよりも高い配列同一性を持つ、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項6】
A/イヌ/フロリダ/43/04と命名されるウイルス分離物またはA/イヌ/フロリダ/242/2003と命名されるウイルス分離物である、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項7】
イヌ/Jax/05と命名されるウイルス分離物またはイヌ/マイアミ/05と命名されるウイルス分離物である、請求項1記載のインフルエンザウイルス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載のインフルエンザウイルスのゲノムセグメントまたは遺伝子の全体または一部を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
ノイラミニダーゼ遺伝子、核タンパク質遺伝子、マトリックスタンパク質遺伝子、ポリメラーゼ塩基性タンパク質遺伝子、ポリメラーゼ酸性タンパク質遺伝子、非構造タンパク質遺伝子およびヘマグルチニン遺伝子からなる群より選択されるインフルエンザ遺伝子のすべてまたは一部を含む、請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
インフルエンザウイルスが配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列またはその機能性および/もしくは免疫原性断片を持つポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、または該ポリヌクレオチドが配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列と99%もしくはそれよりも高い配列同一性を持つポリペプチドをコードする、請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
インフルエンザウイルスが配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチドを含み、または該ポリヌクレオチドが配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75もしくは77のいずれかに示されるヌクレオチド配列と98%もしくはそれよりも高い配列同一性を持つ、請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項記載のポリヌクレオチドを含む、ポリヌクレオチド発現構築物。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれか一項記載のポリヌクレオチドのコードまたは非コード配列にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
高ストリンジェントな条件下において配列にハイブリダイズする、請求項13記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
10〜500個のヌクレオチド、10〜20個のヌクレオチド、21〜30個のヌクレオチド、31〜40個のヌクレオチド、41〜50個のヌクレオチド、51〜60個のヌクレオチド、61〜70個のヌクレオチド、71〜80個のヌクレオチド、81〜90個のヌクレオチド、または91〜100個のヌクレオチドの長さである、請求項13記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
検出可能な標識またはレポーター分子を含む、請求項13記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
請求項8記載のポリヌクレオチドと約90%から100%のヌクレオチド配列同一性を持つ、請求項13記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
配列番号:35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、79、80、81、82、83、84、85、86、87または88のいずれかに示されるヌクレオチド配列を含む、請求項13記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
請求項8〜11のいずれか一項記載のポリヌクレオチドによってコードされる単離されたポリペプチド。
【請求項20】
ヘマグルチニンタンパク質、ノイラミニダーゼタンパク質、核タンパク質、マトリックスタンパク質、ポリメラーゼ塩基性タンパク質、ポリメラーゼ酸性タンパク質および非構造タンパク質からなる群より選択される、請求項19記載のポリペプチド。
【請求項21】
免疫原がイヌ科動物に感染することができるインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発することができる、請求項1〜7のいずれか一項記載のインフルエンザウイルスの免疫原を含む組成物。
【請求項22】
免疫原が無細胞のウイルス全体もしくはその一部;ウイルス性ポリヌクレオチド;ウイルス性タンパク質;ウイルス性ポリペプチドもしくはペプチド;ウイルスが感染した細胞;組換え型ウイルスベクターをベースとする構築物;リアソータントウイルス;または該ウイルスの裸の核酸を含む、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
ウイルスタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが、配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片を含み、またはポリヌクレオチドが配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列と99%もしくはそれよりも高い配列同一性を持つポリペプチドをコードする、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
ウイルス性ポリヌクレオチドが配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片を含むポリペプチドをコードする、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
動物に請求項1〜7のいずれか一項記載のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘発するための方法であって、請求項21、22、23または24のいずれか一項記載の組成物の有効量を該動物に投与する段階を含む方法。
【請求項26】
組成物が配列番号:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、33、34、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76もしくは78のいずれかに示されるアミノ酸配列、またはその機能性および/もしくは免疫原性断片を含むウイルス性タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
免疫応答が動物のインフルエンザウイルスによる感染を予防または阻害する防御免疫応答である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
インフルエンザウイルスがH3およびH5から選択されるHA血清型を持つ、請求項25記載の方法。
【請求項29】
インフルエンザウイルスがH3N8の血清型を持つ、請求項25記載の方法。
【請求項30】
組成物がアジュバントをさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項31】
動物がイヌ科である、請求項25記載の方法。
【請求項32】
イヌ科動物が飼い慣らされたイヌである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
組成物が非経口的に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項34】
組成物が経皮的、腹腔内または筋肉内に投与される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
組成物が鼻腔または経口的に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項36】
請求項19または20のいずれか一項記載のポリペプチドのエピトープに特異的に結合する単離された抗体。
【請求項37】
モノクローナル抗体である、請求項36記載の抗体。
【請求項38】
ヘマグルチニンタンパク質に結合する、請求項36記載の抗体。
【請求項39】
ヘマグルチニンタンパク質がH3またはH5ヘマグルチニンタンパク質である、請求項38記載の抗体。
【請求項40】
ヘマグルチニンタンパク質が配列番号:16、配列番号:32、配列番号:62または配列番号:78に示されるアミノ酸配列を含む、請求項38記載の抗体。
【請求項41】
請求項1〜7のいずれか一項記載のインフルエンザウイルスまたは請求項8記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項42】
イヌ科動物の細胞である、請求項41記載の細胞。
【請求項43】
イヌ科動物に感染することができるインフルエンザウイルスを検出するための方法であって、動物から生物学的試料を得る段階、および請求項1〜7のいずれか一項記載のインフルエンザウイルスのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに結合する抗体またはリガンドの存在に関して該試料をスクリーニングする段階を含む方法。
【請求項44】
イヌ科動物に感染することのできるインフルエンザウイルスを検出するための方法であって、動物から核酸試料を得る段階、および該核酸試料を請求項13〜18のいずれか一項記載のオリゴヌクレオチドと接触させる段階、および該オリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下において該核酸にハイブリダイズするか否かを調べる段階を含む方法。
【請求項45】
イヌ科動物に感染することのできるインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を持つ化合物をスクリーニングするための方法であって、請求項1〜7のいずれか一項記載のウイルスに感染したまたは含む細胞を試験化合物と接触させる段階、および該試験化合物が該細胞における該ウイルスの活性を阻害するかどうかを調べる段階を含む方法。
【請求項46】
請求項1記載のインフルエンザウイルスの少なくとも1つの遺伝子、ゲノムセグメントまたはポリヌクレオチドを含むリアソータントなウイルス。
【請求項47】
HA、NA、NP、MA、PB1、PB2、PAおよびNS、またはその機能性もしくは免疫原性断片からなる群より選択されるイヌインフルエンザウイルスタンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む分離されたウイルス。
【請求項48】
1つまたは複数のポリヌクレオチドが、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75および77からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項47記載のウイルス。
【請求項49】
HAタンパク質が配列番号:16、32、62および78からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項50】
NAタンパク質が配列番号:12、28、58および74からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項51】
NPタンパク質が配列番号:10、26、56および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項52】
MAタンパク質が配列番号:14、30、60および76からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項53】
PB1タンパク質が配列番号:4、20、50および66からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項54】
PB2タンパク質が配列番号:2、18、48および64からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項55】
PAタンパク質が配列番号:6、22、52および68からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項56】
NSタンパク質が配列番号:8、24、54および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、請求項47記載のウイルス。
【請求項57】
イヌ科動物に感染することができるインフルエンザウイルスを検出するための方法であって、動物から核酸を含む試料を得る段階、および核酸がプライマーが結合する配列を含む場合に、増幅産物の生成に十分な条件下において該ウイルスのポリヌクレオチドまたは遺伝子配列に対して特異的に結合するフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーに該核酸試料を接触させる段階;ならびに該増幅産物を検出する段階を含む方法。
【請求項58】
オリゴヌクレオチドプライマーが請求項13〜18のいずれか一項記載のオリゴヌクレオチドである、請求項57記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−536526(P2008−536526A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507916(P2008−507916)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/015090
【国際公開番号】WO2006/116082
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(304006056)ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファウンデイション インコーポレイテッド (7)
【出願人】(507347783)アメリカ合衆国 (2)
【出願人】(504311394)コーネル リサーチ ファンデーション, インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】