説明

イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測方法及び予測用プライマーセット

【課題】イヌが錐体−杆体ジストロフィを発症するか否かを簡便に予測し得る手段を提供すること。
【解決手段】イヌから得たゲノムDNAを鋳型として、特定の領域にハイブリダイズするプライマーを含むプライマーセットを用いた核酸増幅法を行ない、増幅が起きるか否かを指標として又は得られる増幅断片のサイズを指標として、前記イヌが錐体−杆体ジストロフィを発症するか否かを予測することを含む、イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測方法を提供した。
【効果】本発明により、錐体−杆体ジストロフィを発症しないイヌ、発症する可能性のあるイヌ、発症する可能性の高いイヌを的確に識別することができる方法が初めて提供された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌが錐体−杆体ジストロフィを発症するか否かを予測する方法及び予測用プライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の社会の高齢化や少子化に伴い、生活を充実させるためにイヌ、ネコなどの小動物を飼育する人が増加している。それに伴い、市場でのイヌ、ネコなどの小動物の需要が増加し、市場への供給を増やすための無秩序な繁殖の結果、特定の犬種に特定の遺伝病が蔓延するようになった。このような例として、ミニチュア・ダックスフントにおける進行性網膜萎縮症などの遺伝性眼疾患がある。
【0003】
ミニチュア・ダックスフントは体重5kg以下の大きさで、活発に活動し、飼主に従順であるため、日本で最も人気のある犬種である。2005年にジャパン・ケンネル・クラブに登録されたイヌの総数は554,141頭にのぼり、その中138,163頭(24.9%)がミニチュア・ダックスフントである。このように人気のある犬種であるが、椎間板疾患と並び眼に関わる病気が多いことでも知られている。
【0004】
2006年、ミニチュア・ダックスフント(ロングヘアー)における遺伝性眼疾患の1つである錐体−杆体ジストロフィ1(Cone-rod dystrophy 1; cord 1)の原因遺伝子として、網膜色素変性GTP分解酵素調節因子結合タンパク質1(retinitis pigmentosa GTPase regulator-interacting protein 1; RPGRIP1)の遺伝子変異が報告された(非特許文献1)。該変異は、RPGRIP1のエキソン2に44bpのフラグメントが挿入されることにより、フレームシフトが起きてエキソン3において停止コドンが形成され、通常よりも短いタンパク質が生成されるものである。本遺伝子から作られるタンパク質の機能は十分に明らかとなっていないが、ノックアウトマウスによる解析から、網膜の光受容細胞(杆状体視細胞/錐状体視細胞)で発現しており、光受容細胞の外節を構成する膜性円板の形成を司っていると推定されている(非特許文献2)。
【0005】
遺伝性のcord 1は成長と共に症状を現すため、取引される幼少期には無症状であっても、取引後に視覚異常を来たすこととなるので、イヌの売り手と買い手との間でトラブルの原因になっている。このようなトラブルをなくすために、また、健康な犬種の血統を維持するためにも、cord 1を発症するおそれのある変異遺伝子を有するイヌは繁殖に用いるべきではない。しかしながら、現在までのところ、イヌがcord 1を発症するおそれがあるか否かを簡便に識別する方法は確立していない。
【0006】
【非特許文献1】Genomics 2006; 88(3): 293-301 "Canine RPGRIP1 mutation establishes cone-rod dystrophy in miniature longhaired dachshunds as a homologue of human Leber congenital amaurosis."
【非特許文献2】PNAS 2003; 100(7): 3965-3970 "The retinitis pigmentosa GTPase regulator (RPGR)-interacting protein: Subserving RPGR function and participating in disk morphogenesis"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イヌがcord 1を発症するか否かを簡便に予測し得る手段を提供することである。
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、RPGRIP1遺伝子の挿入変異が生じている部位を含む領域のイヌゲノム配列を決定し、このゲノム領域にハイブリダイズするプライマーを構築することにより、RPGRIP1遺伝子に44bpのフラグメントの挿入変異が生じているか否かを核酸増幅法により簡便に調べることができること、それによりイヌがcord 1を発症する可能性を簡便に予測可能であることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、イヌから得たゲノムDNAを鋳型として、配列表の配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの少なくともいずれか一方をプライマーセットの一つとして用いた核酸増幅法を行ない、増幅が起きるか否かを指標として又は得られる増幅断片のサイズを指標として、前記イヌが錐体−杆体ジストロフィを発症するか否かを予測することを含む、イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測方法を提供する。また、本発明は、配列表の配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの少なくともいずれか一方を含む、イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測用プライマーセットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、イヌが将来cord 1を発症する可能性を簡便かつ的確に予測することができる方法が初めて提供された。本発明によれば、cord 1を発症しないイヌ、発症する可能性のあるイヌ、発症する可能性の高いイヌを的確に識別することができる。従って、イヌの売り手が販売前のイヌについてcord 1の発症の可能性を調べ、買い手側に事前にその情報を提供することが可能になるため、販売後のトラブルを回避することができる。また、繁殖に用いるイヌについて、事前にcord 1発症に関わるRPGRIP1遺伝子の変異を調べることにより、該変異を有さないイヌを選択することが可能になるため、cord 1を発症するおそれのあるイヌを減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本願発明者らが決定した、RPGRIP1遺伝子における挿入変異部位の周辺領域のイヌゲノム配列を配列番号1及び配列番号2に示す。配列番号1は挿入変異を有する変異型の配列、配列番号2は野生型の対応する領域の配列である。非特許文献1で報告されている44bpの挿入断片(以下、単に「挿入断片」、「44bpの断片」ということがある)とは、配列番号1中の330nt〜373ntの領域であり、野生型にはこの領域は存在しない(配列番号2)。下記実施例にもある通り、挿入変異を有さないイヌではcord 1の発症例が認められず、cord 1を発症したイヌは全て変異遺伝子をホモ又はヘテロで有していた。特に、cord 1発症イヌの大部分が変異遺伝子をホモで有していた。従って、後述するとおり、挿入変異の有無を調べることにより、イヌがcord 1を発症する可能性を予測することができる。
【0012】
本発明のcord 1発症の可能性の予測方法では、挿入断片の上流領域(すなわち、配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域)内のいずれかの部分領域にハイブリダイズするプライマーと、挿入断片の下流領域(すなわち、配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域)内のいずれかの部分領域にハイブリダイズするプライマーとの、少なくともいずれか一方をプライマーとして用いて、イヌから得たゲノムDNAを鋳型とした核酸増幅法を行なうことにより、上記挿入変異の有無を調べる。前記上流領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー(以下、便宜的に「上流側プライマー」と呼ぶことがある)と、前記下流領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー(以下、便宜的に「下流側プライマー」と呼ぶことがある)との両方を用いた場合には、増幅断片には44bpの断片の挿入変異が生じる部位が含まれることになる。従って、核酸増幅法により得られる増幅断片のサイズを電気泳動等によって調べることにより、挿入変異が生じているか否かを調べることができる。例えば、下記実施例に記載されるように、配列番号10に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号13に示す塩基配列を有するプライマーとを用いてPCRを行うと、変異型/変異型のゲノムでは203bpの断片を生じ、野生型/野生型のゲノムでは159bpの断片を生じ、変異型/野生型のゲノムでは203bpと159bpの両方の断片を生じる(図3参照)。アクリルアミドゲルやアガロースゲル等を用いた電気泳動により、増幅断片のサイズは容易に調べることができる。なお、ここで、「ハイブリダイズする」とは、塩基配列の相補性に基づき、通常のPCRのアニーリング工程における条件下でハイブリダイズするという意味である。
【0013】
また、上記44bpの断片の挿入により、変異型RPGRIP1遺伝子のエキソン2のゲノム配列上には、変異型に特有の配列を有する部分領域、すなわち、配列番号1に示す塩基配列中の329ntと330ntの間の部位(以下「部位A」という)を含む部分領域、配列番号1に示す塩基配列中の358ntと359ntの間の部位(以下「部位B」という)を含む部分領域、及び配列番号1に示す塩基配列中の330nt〜358ntの領域(以下「ポリA領域」という)内の部分領域という、変異型に特有の部分領域が生じる。そのような変異型に特有の部分領域にハイブリダイズするプライマーを、前記上流側プライマー又は前記下流側プライマーと組み合わせて用いた場合には、変異型では配列番号1の塩基配列から予想されるサイズの断片が増幅する一方、野生型ゲノムにはハイブリダイズする部分領域が存在しないために増幅が起きない。従って、この場合、増幅が起きるか否かを指標として、上記挿入変異の有無を調べることができる。ポリA領域内に設定したプライマーを用いる場合、そのようなプライマーがハイブリダイズする部位はポリA領域内の任意の部位になるため、増幅する断片は数bp〜十数bp程度の鎖長の違いがある断片の混合物となりうるが、野生型では増幅が起きないため、この場合でも増幅の有無を指標として挿入変異の有無を調べることができる。本発明の予測方法は、部位A若しくは部位Bを含む部分領域又はポリA領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーと、前記上流側プライマー又は前記下流側プライマーとを組み合わせて用いて、増幅が起きるか否かを指標として行うこともでき、このような方法も本発明の範囲に包含される。なお、44bp挿入断片の下流末端の15bp(配列番号1中の359nt〜373nt)は、該挿入断片の上流末端が接するゲノム配列(配列番号1中の315nt〜329nt)と同一であるため、373ntと374ntを跨ぐ領域であって、かつポリA領域を含まない領域に設定したプライマーでは、野生型ゲノムにもハイブリダイズしてしまう。従って、このようなプライマーでは、増幅の有無を指標として挿入変異の有無を調べることはできない。しかし、このようなプライマーを下流側プライマーとして用いた場合には、変異型ゲノムから増幅する断片には39bpの鎖長のポリA領域が含まれることになるので、増幅断片のサイズの違いを指標として挿入変異の有無を調べることができる。このような方法も、本発明の範囲に包含される。
【0014】
プライマーは、配列番号1内の連続する18塩基以上の領域から成る核酸であることが好ましいが、通常、10%以下の塩基が置換した配列を有するプライマーを用いても増幅が起きる場合が多く、そのような置換した配列のプライマーも本発明の方法に用いることができる。プライマーのサイズは、特に限定されないが、通常、18塩基〜50塩基程度、好ましくは20塩基〜40塩基程度である。増幅断片を電気泳動等で容易に検出することができるために、増幅領域は、好ましくは50bp以上のサイズを有する。なお、PCR等の核酸増幅法自体は周知であり、そのためのキット及び装置も市販されているので、それらを用いて容易に実施することができる。また、増幅が起きたか否かや増幅断片のサイズは、定法により、増幅反応の生成物を電気泳動にかけ、バンドが検出されるか否か又は検出されるバンドのサイズ等により容易に調べることができる。さらに、所望により、念のために増幅産物(好ましくは数十bpの短いもの)の塩基配列を確認してもよい。
【0015】
核酸増幅法の鋳型とするイヌゲノムDNAは、定法により、イヌの細胞から得ることができる。イヌの細胞としては特に限定されず、いずれの組織から得たものであってもよいが、例えば、cord 1発症の可能性を予測すべきイヌから血液を採取し、該血液中の血球細胞等から定法によりゲノムDNAを採取する方法が簡便である。
【0016】
下記実施例にある通り、上記挿入変異を有さない野生型/野生型の遺伝子型のイヌではcord 1の発症例は認められなかった。また、cord 1を発症したイヌは挿入変異をホモ又はヘテロで有しており、特に、cord 1発症イヌの大部分が挿入遺伝子をホモで有していた。従って、本発明の予測方法により、野生型/野生型のイヌはcord 1を発症せず、野生型/変異型及び変異型/変異型のイヌはcord 1を発症する可能性があり、特に変異型/変異型のイヌは発症する可能性が高いと判定することができる。非特許文献1では、臨床所見でcord 1を発症しているイヌ個体として、遺伝子型が野生型/変異型である個体は報告されておらず、本発明により野生型/変異型の個体もcord 1を発症するおそれがあることが初めて明らかとなった。従って、本発明の予測方法によれば、簡便かつ的確にcord 1発症の可能性を予測することができる。
【0017】
なお、本発明において、「部分領域」とは、配列番号1に示される塩基配列中の一部の領域を言い、好ましくは連続する18塩基以上の領域である。なお、規則により配列表には2本鎖DNAの場合でも1本鎖のみを記載することになっているから、配列表中の配列番号1としては1本鎖のみが記載されているが、現実の領域は、二本鎖であり、従って、その検出には配列番号1又は配列番号2に示される1本鎖の相補鎖も用いることができる。すなわち、「配列番号1」は、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、具体的に記載されている1本鎖及びその相補鎖並びに二本鎖を包含する意味で用いている。配列番号2についても同様である。本発明で用いられるプライマーを調製する場合には、実際に示されている配列かその相補配列かのいずれかを適宜選択することとなるが、当業者であれば容易にその選択をすることができる。
【0018】
また、本発明において、「塩基配列を有する」とは、塩基がそのような順序で配列しているという意味である。従って、例えば、「配列番号10に示す塩基配列を有するプライマー」とは、gtaagaatat gaaagctcaa ccaccの塩基配列を持つ25塩基のサイズのプライマーを意味する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
【0020】
1.RPGRIP1遺伝子変異部位周辺のゲノムDNA配列の決定
エキソン2の変異部位を含むゲノムDNAの配列は、公開されている変異部位周辺領域のエキソン2の配列をもとに、以下に記したゲノムウォーキング法により同定した。なお、Mellershらの論文(非特許文献1)で公開されている変異部位周辺のcDNA配列は、図1に示すとおりであり、図1中のエキソン2の配列は、配列番号1中の306nt〜384nt(変異型)及び配列番号2中の306nt〜340nt(野生型)に相当する。
【0021】
(1) BD GenomeWalker Librariesの構築
去勢手術により摘出されたダルメシアンの睾丸組織の一部をプロテイナーゼK処理(55℃/12時間)により溶解した。組織溶解液に等量のトリス飽和フェノール、さらに等量のフェノール/クロロホルムを用いて定法に従ってタンパク質を取り除き、続いて2等量の99.5%エタノールを加えてエタノール沈殿を行ない、ゲノムDNAを得た。このゲノムDNAはRNAを含んでいるので、RNase AによりRNAを分解し、再度上記のDNA精製を繰り返すことにより精製されたイヌゲノムDNAを得た。
【0022】
得られたイヌゲノムDNAはBD GenomeWalker Universal Kit (BD Bioscience社)を用いてBD GenomeWalker Librariesに加工した。詳細は以下の通り。イヌより精製したゲノムDNAを0.1μg/μlの濃度に調製し、25μlを1.5mlチューブに分注した。この1.5mlチューブに制限酵素DraI(10units/μl)を8μl、10X制限酵素反応緩衝液を10μl、脱イオン水57μlを加え、反応液を調製した。制限酵素EcoRV、PvuII、StuI(10units/μl)についてもDraI同様に反応液を調製した。4種類の反応液を37℃/18時間反応させ、ゲノムDNAをそれぞれの制限酵素にて消化した。消化が終了した反応液から等量のフェノール、さらに等量のクロロホルムを用いて定法に従ってタンパク質を取り除き、エタノール沈殿により精製した。精製された4種類の制限酵素処理済ゲノムDNAはそれぞれ20μlのTE(10mM Tris, 0.1mM EDTA, pH7.5)に溶解した。4種類の制限酵素処理済ゲノムDNAそれぞれについて、4μlの溶解した制限酵素処理済ゲノムDNA、1.9μlのBD GenoeWalker Adaptor(25μM)、1.6μlの10X ligation 緩衝液、0.5μlのT4 DNA ligase(6units/μl)を混合し、16℃/18時間反応させてゲノムDNAとBD GenoeWalker Adaptorを結合させ、4種類のBD GenomeWalker Librariesを完成させた。完成したBD GenomeWalker LibrariesはTE(10mM Tris, 1mM EDTA, pH7.5)により10倍希釈してPCRに用いた。
【0023】
(2) エキソン2の下流未公開領域の配列決定
4種類のBD GenomeWalker Librariesをそれぞれテンプレートにし、nested PCRを行なった。1st PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-1/AP-1; 5'-agctttcttggaagcaacaggatg-3'(配列番号3)/5'-gtaatacgactcactatagggc-3'(配列番号4))をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/3分)32サイクル→67℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は脱イオン水にてそれぞれ50倍希釈し、続く2nd PCRのテンプレートに使用した。2nd PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-2/AP-2; 5'-cttggaagcaacaggatgagatcaaaa-3'(配列番号5)/5'-actatagggcacgcgtggt-3'(配列番号6))をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)5サイクル→(94℃/25秒→65℃/3分)20サイクル→65℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物はTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングベクター:pCR2.1-TOPOへクローニングした。クローニングしたPCR生成物はM13 Reverse PrimerおよびT7 Promoter primerを用いてシークエンスを行ない、ゲノム配列を含むエキソン2の下流未公開領域の配列(配列番号1中では385nt〜584nt、配列番号2中では341nt〜540ntの領域)を決定した。
【0024】
(3) エキソン2の上流未公開領域の配列決定
4種類のBD GenomeWalker Librariesをそれぞれテンプレートにし、nested PCRを行なった。1st PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-5/AP-1; 5'-ttttgatctcatcctgttgcttccaa-3'(配列番号7)/5'-gtaatacgactcactatagggc-3'(配列番号4))をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/3分)32サイクル→67℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は脱イオン水にてそれぞれ50倍希釈し、続く2nd PCRのテンプレートに使用した。2nd PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-6/AP-2; 5'-catcctgttgcttccaagaaagct-3'(配列番号8)/5'-actatagggcacgcgtggt-3'(配列番号6))をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)5サイクル→(94℃/25秒→65℃/3分)20サイクル→65℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物はTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングベクター:pCR2.1-TOPOへクローニングした。クローニングしたPCR生成物はM13 Reverse PrimerおよびT7 Promoter primerを用いてシークエンスを行ない、ゲノム配列を含むエキソン2の上流未公開領域の配列(配列番号1及び配列番号2中の1nt〜305ntの領域)を決定した。
【0025】
(4) エキソン2の上流未公開領域と下流未公開領域の連続性の確認
先に決定したエキソン2の上流未公開領域の配列からnested PCR用のプライマーを2種類設定した(RPGRIP1-9;5'-tctgaaatgataaagagatccatta-3'(配列番号9)、RPGRIP1-10;5'-gtaagaatatgaaagctcaaccacc-3'(配列番号10))。本プライマーを使用し、4種類のBD GenomeWalker Librariesをそれぞれテンプレートにしてnested PCRを行なった。1st PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-9/AP-1)をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/3分)32サイクル→67℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は脱イオン水にてそれぞれ50倍希釈し、続く2nd PCRのテンプレートに使用した。2nd PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-10/AP-2)をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)5サイクル→(94℃/25秒→65℃/3分)20サイクル→65℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物はTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングベクター:pCR2.1-TOPOへクローニングした。クローニングしたPCR生成物はM13 Reverse PrimerおよびT7 Promoter primerを用いてシークエンスを行なった。本シークエンスから「エキソン2の上流未公開領域の配列」、「公知のエキソン2の配列」そして「エキソン2の下流未公開領域の配列」が確認され、エキソン2の上流未公開領域と下流未公開領域の連続性が示唆された。なお、この工程において、上流ではなく下流の未公開部位の配列からnested PCR用のプライマーを設計し、AP-1及びAP-2と組み合わせたnested PCRにより配列の連続性を確認しようとしても、配列の解析が上手くいかず、連続性の確認が困難であった。
【0026】
最後に、エキソン2の下流未公開領域の配列からnested PCR用のプライマーを2種類設定し(RPGRIP1-3; 5'-aattaaggaggggatgcctgggtgg-3'(配列番号11)、RPGRIP1-4; 5'-tcagtggttgagctttgtttgcctt-3'(配列番号12))、制限酵素処理していないゲノムDNAをテンプレートに用いてnested PCRを行なった。1st PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-3/ RPGRIP1-9)をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/3分)32サイクル→67℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は脱イオン水にてそれぞれ50倍希釈し、続く2nd PCRのテンプレートに使用した。2nd PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-4/RPGRIP1-10)をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→72℃/3分)5サイクル→(94℃/25秒→65℃/3分)20サイクル→65℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物はTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングベクター:pCR2.1-TOPOへクローニングした。クローニングしたPCR生成物はM13 Reverse PrimerおよびT7 Promoter primerを用いてシークエンスを行なった。本シークエンスから、本研究で決定したエキソン2の上流未公開領域と下流未公開領域の連続性が確認された。
【0027】
2.プライマーを用いた挿入変異の検出及び変異と臨床症状との関連性
cord 1を発病しているミニチュアダックスフント20匹及び発病していないミニチュアダックスフント31匹について、上記のとおり決定したゲノムDNA配列から設計したPCRプライマーを用いて、44bpフラグメントの挿入変異の有無を確認した。各群のイヌの年齢は、病態発症群が0.5〜6.9歳(発症時)、健常群が0.2〜12.6歳(血液検体採取時)であった。病態発症犬については対光反射、瞳孔径、眼底所見として視神経乳頭萎縮、タペタム反射亢進、網膜血管の狭細化、ノンタペパム領域の脱色素を調べてあり、網膜電位図において電位が確認出来ない、すなわち失明している事を確認済みであった。なお、病態発症群では、発症年齢に特にピークはなく、発症例は1歳未満の時期から6.9歳まで平均的に分布していた。各群のイヌより血液を採取し、「Genとるくん(血液用)」(タカラバイオ株式会社)を用いてゲノムDNAを抽出して、PCRの鋳型とした。
【0028】
上記の通り決定した配列から設計したnested PCRプライマーとミニチュアダックスフントより抽出したゲノムDNAを用いてnested PCRを行なった。1st PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-3/ RPGRIP1-9)をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→68℃/3分)7サイクル→(94℃/25秒→63℃/3分)32サイクル→63℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は脱イオン水にてそれぞれ50倍希釈し、続く2nd PCRのテンプレートに使用した。2nd PCRは脱イオン水13.4μl、10X ExTaq buffer(タカラバイオ株式会社) 2.0μl、dNTPmix(2.5mM) 1.6μl、Ex Taq(タカラバイオ株式会社)、テンプレート 1.0μlそしてプライマー(RPGRIP1-10/RPGRIP1-11;5'-aaagacttaaggagaacacaaggta-3'(配列番号13))をそれぞれ0.5μl混合し、94℃/3分→(94℃/25秒→68℃/3分)5サイクル→(94℃/25秒→63℃/3分)20サイクル→63℃/7分→4℃/∞の条件で反応させた。得られたPCR生成物は10%のアクリルアミドゲルにて電気泳動し、増幅したフラグメントの大きさにより44bpフラグメントの挿入の有無を確認した。さらに、得られたPCR生成物はTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングベクター:pCR2.1-TOPOへクローニングした。クローニングしたPCR生成物はM13 Reverse PrimerおよびT7 Promoter primerを用いてシークエンスを行ない、目的の生成物であることを確認した。
【0029】
その結果、眼疾患を発病していないミニチュアダックスフント31匹中、変異型/変異型の遺伝子型を持つイヌは7匹(22.6%)、野生型/変異型の遺伝子型を持つイヌは15匹(48.4%)、野生型/野生型の遺伝子型を持つイヌは9匹(29.0%)であるのに対し、cord 1を発病していると診断されたミニチュアダックスフント20匹中、変異型/変異型の遺伝子型を持つイヌは16匹(80%)、野生型/変異型の遺伝子型を持つイヌは4匹(20%)であった。
【0030】
本発明のプライマーセットを用いたPCRによると、野生型/野生型の遺伝子型はcord 1発症イヌでは全く認められず、野生型/野生型のイヌの臨床症状は全て非発症であった。一方、cord 1発症イヌは変異型遺伝子をホモ又はヘテロで有しており、特に発症イヌの大部分が変異型/変異型であった。従って、RPGRIP1遺伝子に44bpの挿入変異が存在しないイヌではcord 1を発症せず、挿入変異を有するイヌでは発症する可能性があり、特に挿入変異をホモで有するイヌでは発症する可能性が高いと考えられる。
【0031】
なお、非発症群においても、多くの個体が変異遺伝子をホモ又はヘテロで有していたが、これは、日本国内のミニチュアダックスフントの大部分が変異遺伝子をホモ又はヘテロで有していることを示唆しており、おそらく、ミニチュアダックスフントが犬種として確立されたときの個体又は日本で繁殖が始まった初期の個体に変異遺伝子を有する個体がいて、近親交配により数を増やしていったためにこのような状態になったものと推察される。また、野生型/変異型の個体もcord 1を発症し得ることから、cord 1発症にはRPGRIP1の上記挿入変異以外の因子も関与することが示唆された。
【0032】
以上のように、RPGRIP1遺伝子における44bpフラグメントの挿入の有無を簡便に確認できることでcord 1発症の可能性が判るので、親イヌに変異遺伝子が無い事を確認してから繁殖させることができ、子孫に変異遺伝子を受け継がせるリスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】網膜色素変性GTP分解酵素調節因子結合タンパク質1(retinitis pigmentosa GTPase regulator-interacting protein 1; RPGRIP1)遺伝子に認められる挿入変異を表す図である。
【図2】実施例で構築されたプライマーの位置関係を表す図である。
【図3】プライマーRPGRIP1-10/RPGRIP1-11による増幅断片の泳動像を表す図である。1;サイズマーカー(200bp)、2;野生型/野生型、3;野生型/変異型、4;変異型/変異型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌから得たゲノムDNAを鋳型として、配列表の配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの少なくともいずれか一方をプライマーセットの一つとして用いた核酸増幅法を行ない、増幅が起きるか否かを指標として又は得られる増幅断片のサイズを指標として、前記イヌが錐体−杆体ジストロフィを発症するか否かを予測することを含む、イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測方法。
【請求項2】
前記核酸増幅法において、前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの両方を用い、得られる増幅断片のサイズを指標として行なう請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記得られる増幅断片のサイズにより、イヌの遺伝子型を野生型/野生型、野生型/変異型及び変異型/変異型のいずれかに分類し、野生型/野生型のイヌについて、錐体−杆体ジストロフィを発症しないと判断する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列又はこれらのうち10%以下の塩基が置換した塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列又はこれらのうち10%以下の塩基が置換した塩基配列を有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号9又は配列番号10に示す塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のいずれか1つに示す塩基配列を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
配列番号9に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示す塩基配列を有するプライマーとを用いて第1回目の核酸増幅法を行ない、次いで、配列番号10に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号13に示す塩基配列を有するプライマーとを用いて第2回目の核酸増幅法を行なう、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記イヌがミニチュア・ダックスフントである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
配列表の配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの少なくともいずれか一方を含む、イヌにおける錐体−杆体ジストロフィ発症の可能性の予測用プライマーセット。
【請求項10】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマー及び前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーの両方を含む請求項9記載のプライマーセット。
【請求項11】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列又はこれらのうち10%以下の塩基が置換した塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列又はこれらのうち10%以下の塩基が置換した塩基配列を有する、請求項9又は10記載のプライマーセット。
【請求項12】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の1nt〜329ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号1に示す塩基配列中の374nt〜584ntの領域内の連続する18塩基以上の塩基配列を有する、請求項11記載のプライマーセット。
【請求項13】
前記1nt〜329ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号9又は配列番号10に示す塩基配列を有し、前記374nt〜584ntの領域内の部分領域にハイブリダイズするプライマーが、配列番号11、配列番号12及び配列番号13のいずれか1つに示す塩基配列を有する、請求項12記載のプライマーセット。
【請求項14】
前記イヌがミニチュア・ダックスフントである請求項9ないし13のいずれか1項に記載のプライマーセット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−182916(P2008−182916A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17565(P2007−17565)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(301000505)株式会社バイオス医科学研究所 (10)
【Fターム(参考)】