説明

イヌパルボウイルス遺伝子変異株を含むワクチン

イヌパルボウイルスワクチンおよび診断法ならびにそれらの使用方法が提供される。これらのワクチンは新生の優性イヌパルボウイルス変異株に対して有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列リスト
本出願は、配列リストとして、2008年6月12日に作成した3,780バイトを収容した添付のテキストファイル“Sequence.txt”の内容全体を含み、これを本明細書に援用する。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、改良されたイヌパルボウイルス(CPV)ワクチン製剤および診断試験に関する。特に本発明は、イヌ類の集団で現在広まっている新たに出現した優性CPV変異株を含む改良されたCPVワクチン製剤および診断試験を提供する。
【背景技術】
【0003】
イヌパルボウイルス(CPV)は主にイヌ、特に若いイヌに感染する腸病原体である。パルボウイルス感染症は、イヌおよび4〜5週齢以上の子犬における急性の下痢、発熱および白血球減少症、ならびにより若い子犬における心筋疾患を特徴とする。ワクチンを接種していないイヌではこの疾患による致死率がきわめて高い。CPVに対するワクチンはあるが、CPVは一本鎖DNAウイルスであり、極端な変異能をもつので、このウイルスは著しい抗原性変動能を示し、このためワクチンがもたらす免疫防御を逃れる。したがって、原因物質の抗原型および遺伝子型を絶えずモニターする必要がある。
【0004】
CPVは1978年に初めて分離され、それをパルボウイルスイヌ微小ウイルス(parvovirus canine Minute virus)(CMVまたはCPV−1)と区別するために”CPV−2”と命名された。CPV−2は一般に、ネコ汎白血球減少症ウイルス(FPV)またはミンク腸内ウイルス(MEV)の遺伝子変異株であると考えられており、ミンク、キツネ、アライグマその他の肉食動物に感染するパルボウイルスに遺伝的および抗原的にきわめて近縁である。CPVのキャプシドは約5200塩基の一本鎖DNAゲノムを含み、2つのオープンリーディングフレームをもつにすぎないが、オルタナティブmRNAスプライシングのため少なくとも4種類のタンパク質をコードする。パルボウイルスのキャプシドは2種類のウイルスタンパク質(VP)、VPlおよびVP2から構成され、VP2が主な免疫原パルボウイルスキャプシドタンパク質である。起源CPV分離株の遺伝子変異株が1979〜1980年に同定され、CPV 2a型と命名された。1980年代半ばにさらに他の変異株2b型が同定され、それ以来、2a型および2b型は起原CPV−2を完全に排除したと思われる。現在のワクチンは2aおよび2b変異株のみに対するものであるが、2a変異株は米国ではもはや検出されない。CPVの発見および進化の概説については、Parrish and Kawaoka, 2005を参照されたい。
【0005】
CPV−2bは2つのアミノ酸位置においてCPV−2aと異なるにすぎない:2aのAsn−426(AATによりコードされる)が2bではAsp(GATによりコードされる)であり、2aのIle−555が2bではValである。Ile−555からValへの変化は、実際には起源型2の配列への復帰である。CPV−2aおよび2b抗原型は長年、比較的安定であると思われていた。しかし2000年に、位置426がGAAによりコードされるGluである変異株”2c”が記載された(位置555はValのままである)。2c変異株は、イタリア(Buonavoglia et al., 2001)、ベトナム(Nakamura et al., 2001)、およびスペインを含む他の国(Nakamura et al., 2004; Decaro et al., 2006)で報告されているが、現在までに米国では2c変異株の確認の報告はなく、CPVワクチンはそのような変異株を含むように更新されてはいない。主に子犬に感染するこれまでに記載された変異株と異なり、CPV2cは成犬に対する感染能をもつので、これは特に重大である。さらに、位置494および572にコドン変異をもつ2b変異株の配列が2003年にGenBankに提出され(gi:54646340)、Shackelton et al. 2005 (Proceedings National Academy Sciences 102:379-384)に報告されたが、そのような配列に基づくCPVワクチンまたは診断用組成物の変更は提唱されなかった。
【0006】
ワクチンを更新しない場合には幾つかの問題が生じる。第1に、ワクチン接種してもイヌはそのワクチンに含まれないCPV変異株による感染に対して感受性である可能性がある。第2に、ワクチン接種したイヌが罹患すると、それらの飼主はそのワクチン中のウイルス株がその疾患を引き起こしたと主張することが頻繁にある。ワクチン企業がそれに反論する証拠を提示するための実際的な方法はないので、その結果飼主に賠償を支払うことが頻繁に起きた。
【0007】
幾つかのCPVワクチン製剤が提唱されている:
米国特許第4,193,990号および第4,193,991号(Appelら)には、それぞれヘテロタイプおよび不活化(”死滅させた”)ウイルスワクチンが報告されており、例示されたワクチンは起源CPVに対する防御をもたらした。
【0008】
米国特許第4,303,645号(Carmichaelら)には、非発癌性細胞系においてウイルスを長期間の連続継代により作製した弱毒CPVを含むワクチンが記載されている。例示されたワクチンは同様に起源CPV分離株に対して防御する。
【0009】
米国特許第4,971,793号(Woodら)および米国特許第5,882,652号(Valdesら)の両方に、組換えバキュロウイルスにおいて産生されたCPV VP−2タンパク質を含む組換えサブユニットワクチンが記載されている。このVP−2タンパク質は特定されたタイプまたはサブタイプのものではない。
【0010】
米国特許第5,885,585号(Parrishら)には、弱毒型の2b変異株を含むCPVワクチンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,193,990号
【特許文献2】米国特許第4,193,991号
【特許文献3】米国特許第4,303,645号
【特許文献4】米国特許第4,971,793号
【特許文献5】米国特許第5,882,652号
【特許文献6】米国特許第5,885,585号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Parrish, Colin R. And and Yoshihiro Kawaoka, Anna. Rev. Microbiol. (2005) 59, 553-86
【非特許文献2】Buonavoglia, Canio, V. Martella, A. Pratelli, M. Tempesta, A. Cavalli, D. Buonavoglia, G. Bozzo, G. EHa, N. Decaro and L. Carmichael, J. Gen. Virol. (2001) 82, 3021-3025
【非特許文献3】Nakamura, Kazuya, M. Sakamoto, Y. Ikeda, E., Sato, K. Kawakami, T. Miyazawa, Y. Tohya, E. Takahashi, E. Mikami, T. Mikami and M. Mochizuki. Clin. Diag. Lab. Immuno. (2001) 663-668
【非特許文献4】Nakamura M., Tohya, Y., Miyazawa, T., Mochizuki, M., Phung, H. T., Nguyen, N. H., Huynh, L. M., Nguyen, L. T., P. N. Nguyen, P. N., Nguyen, P. V., Akashi, H. (2004) Arch. Virol. 149, 2261-2269
【非特許文献5】Decaro, Nicola, V. Martella, G. Elia, C. Desario, M. Compolo, E. Lorusso, M. L. Colaianni, A. Lorusso, and C. Buonavoglia, Vet. Micro. 121 (2007) 39-44
【非特許文献6】Shackelton et al. 2005 (Proceedings National Academy Sciences 102:379-384)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
CPVウイルスは変異して新たな抗原性変異株を発現する能力をもつため、遺伝子構成をモニターして現在のCPV変異株を反映するワクチンおよび診断試験を開発することが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、CPV感染症を予防するための更新されたワクチン、および新たに出現したCPV変異株を検出するための診断法を提供する。これらのワクチンおよび診断法は、これまで知られていなかったCPV変異株およびこれまで認識されていなかったCPV変異株の知見に基づき、従来のワクチン製剤および診断法が不適切であるウイルス変異型の出現を考慮している。本発明のワクチンは新生のCPV型に対する防御をもたらし、診断法は新たに進化した型のウイルスを検出する能力を備えており、これらの能力は共にこれまで得られていなかった。特に、新たな希有変異株のひとつはワクチン中の”マーカー”変異株として有用である。マーカー変異株の使用により、そのマーカー変異株を含むワクチンを接種した動物における病状がCPVのワクチン株により起きたのか他の株により起きたのか否かを法医学的に調べることが可能になる。
【0015】
新規ワクチン製剤には、下記の特性のうち1以上をもつ一本鎖DNAを含む弱毒全CPVが含有される:
2b△494△572は2b CPV変異株であり、少なくとも下記の変化を含む:VP2タンパク質の位置494をコードするコドンがTGTではなくTGCであり、VP2タンパク質の位置572をコードするコドンがGTAではなくGTCである。これらの変化はアミノ酸の変化を生じない(TGCおよびTGTは両方ともシステインをコードし、GTCおよびGTAは両方ともバリンをコードする)。それにもかかわらず、この変異株は一般的な現在得られるワクチンを予め接種した動物に疾患を引き起こすので、新規ワクチン製剤に組み込むべきである。位置494および572におけるこれらの変化はこれまでに記載されてはいたが、それらは認識されていなかった。さらに、このアメリカ分離株は他の変異を含む可能性がある。
【0016】
2b△431は新たに見いだされた希有2b CPV変異株であり(たとえば2b△494△572の変異株)、この場合はVP2タンパク質の位置431をコードするコドンがCTAではなくCTGである。この変化もアミノ酸の変化を生じないが、それにもかかわらずこの変異株はワクチン接種した動物に同様に疾患を引き起こすので、新規ワクチン製剤に組み込むことができる。重要なことに、2b△431はその希少性のため理想的なワクチン”マーカー”配列となる。
【0017】
アメリカ(または米国)2cは米国で分離された最初の2c変異株であり、主要な(81%)2c変異株である。この変異株は”主2c変異株”とも表記される。
2c△440は新たに見いだされた2c CPV変異株であり、この場合はVP2タンパク質の位置440をコードするコドンがACAではなくGCAであり、その結果、アミノ酸配列がこの位置においてトレオニン(ACA)からアラニン(GCA)に変化する。この変異株はワクチン接種した動物に疾患を引き起こすので、新規ワクチン製剤に組み込むべきである。この変異株は現在は少数(19%)変異株であり、”副2c変異株”とも表記される。
【0018】
2c△440のさらに変異株である2c△430△440は、位置440に対するコドンにGCAを含むほか、位置430に通常のTTGではなくTTAがコードするロイシンをもつことによっても既知の2c配列と異なる。
【0019】
これらのCPV変異株はすべてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検出され、既に一般的な市販ワクチンを用いてCPVに対しワクチン接種されていたCPV感染イヌおよび/またはそれらの子犬から細胞培養で分離された。したがって、これらの新たに出現した変異株は、その変異がVP2タンパク質の指示した位置においてアミノ酸配列を変化させる(2c△440および2c△430△440の一部)か、または変化させない(2b△494△572および2b△431)かにかかわらず、現行のプロトコルに従ってワクチン接種したイヌの免疫監視を逃れることができる。さらに、現場用として現在得られる診断技術はこれらの新たなCPV変異株を検出できず、または反応性に乏しく、このため感度が低い。本発明は、新たな変異株を考慮したワクチンおよび診断法を提供することによりこれらの問題を解決する。
【0020】
本発明はさらに、イヌパルボウイルス、特に本明細書に記載する変異株を増殖させる方法であって、CRFK細胞のみで培養した場合に生じる細胞障害作用(CPE)を生じることがなく、または緩和なCPEを生じるにすぎない方法を提供する。この方法は、イヌパルボウイルスをクランダル・リーゼネコ腎(Crandall Reese feline kidney)(CRFK)細胞およびベロ細胞の混合物中において適切な培地で培養する工程を含む。この培養工程は、CPVをCRFK細胞単独中において培養した際に達成されるより高い力価までイヌパルボウイルスを増殖させうる条件下で実施される。
【0021】
本発明はさらに、1種類以上のCPV変異株を含むパルボウイルスワクチンを提供する。その1種類以上のCPV変異株の中和レベルは、CPV変異株であるCPV−2、CPV−2a、CPV−2bおよびCPV−2cのうち1種類以上を含むワクチンを接種した動物からの血清を用いて測定して、CPV−2、CPV−2a、CPV−2bおよびCPV−2cからなる群より選択される1種類以上のCPV変異株の中和レベルより少なくとも4倍低い。ある態様において、中和レベルは血清中和アッセイにより決定され、中和力価として表わされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、2b△494△572配列(SEQ ID NO:1により表わされる核酸配列)を例示し、この場合、位置494に対するコドンがTGCであり、位置572に対するコドンがGTCである。このVP2タンパク質のアミノ酸426〜572をコードする核酸配列を示す。
【図2】図2は、2b△431配列(SEQ ID NO:2により表わされる核酸配列)を例示し、この場合、位置431に対するコドンがCTGである。このVP2タンパク質のアミノ酸426〜572をコードする核酸配列を示す。
【図3】図3は、主アメリカ2c VP2タンパク質のアミノ酸426〜572をコードする核酸配列(SEQ ID NO:3により表わされる核酸配列)を示す。
【図4】図4は、2c△440(副アメリカ2c)配列(SEQ ID NO:4により表わされる核酸配列)を例示し、この場合、位置440に対するコドンがACAではなくGCAであり、トレオニンではなくアラニンをコードする。このVP2タンパク質のアミノ酸426〜572をコードする核酸配列を示す。
【図5】図5は、2c△430△440配列(SEQ ID NO:5により表わされる核酸配列)を例示する。
【図6】図6は、2c変異株に関連する推定フォールド構造を示す。
【図7】図7は、2b△431変異株に関連する推定フォールド構造を示す。
【図8】図8は、2c△430△440変異株に関連する推定フォールド構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、CPVワクチンおよび診断法を提供し、その組成物はCPVの進化動向を反映する新たに見いだされた変異株を含有する。変異株はそれぞれ、既にCPVに対してワクチン接種されたにもかかわらずCPVに罹患して疾病状態になったイヌから分離された。したがって、CPVの拡散を阻止または縮小するために、これらの新たな変異株をワクチンプロトコルに組み込むことができる。さらに、以下に詳述するように、これらの変異株の同定によりCPVゲノムの超可変部が見いだされた。
【0024】
本明細書に記載する変異株が見いだされたことにより、CPVゲノムの決定的な超可変(HPV)部が同定された。従来は位置1276〜1277のヌクレオチドのみが重要であると考えられていた。しかし、本明細書に記載する疫学的知見により、決定的なHPV部は実際にはCPVゲノムのほぼ中央の、完全VP2遺伝子の位置1275〜1326に位置することが示された。このHPV部には、VP2遺伝子の少なくとも2つの決定的な超可変コドン、すなわちコドン426および440が含まれる。好ましくは、超可変部はコドン426の1つ前のヌクレオチドから始まり440までの領域を含む。理論により拘束されるわけではないが、後記にさらに詳細に述べるように、このHPV部の生物学的重要性はこの配列により形成される構造の熱力学的安定性に関係すると思われる。
【0025】
変異株は下記のものである:
2b△494△572は2b CPV変異株であり、この場合、VP2タンパク質の位置494に対するコドンがTGTではなくTGCであり、VP2タンパク質の位置572に対するコドンがGTAではなくGTCである。これらの変異はいずれもコードされるアミノ酸を変化させず(Cysが位置494に、Valが位置572にある)、これらの配列はこれまでに記載されている。それにもかかわらず、本明細書に記載するようにこれらの変化によりこのウイルスが現在得られるワクチンを接種した宿主の免疫クリアランスを逃れうることは、これまで認識されていなかった。この変異株を図1に表わす;ここには、2b(すなわち、426=GAT)VP2遺伝子のアミノ酸426〜572をコードする部分を示す。2つの変異コドン(494および572)を太字で示し、下線を施す。
【0026】
2)2b△431は希有2b CPV変異株であり、位置431をコードするコドンにCTAからCTGへの変化を含む。起源2b△431分離株は2b△494△572変異も含んでいたので、2b△4312b△494△572である。しかし本発明には、VP2タンパク質の位置431をコードするコドンにCTGを含むCPV配列(2a、2bまたは2c)がいずれも含まれる。この変異によりアミノ酸の変化は生じない(CTAおよびCTGは両方ともLeuをコードする)が、2b△431はその希少性のため法医学的目的にとって理想的なワクチン”マーカー”配列となる。本発明のこの観点については後記に詳細に述べる。この変異株を図2に表わす;ここには、2b(すなわち、426=GAT)VP2遺伝子のアミノ酸426〜572をコードする部分を示す。3つの変異コドン(431、494および572)を太字で示し、下線を施す。
【0027】
3)アメリカ2cは米国で分離された最初の2c変異株である。この変異株の著しい出現はこれまで認められていなかった(図3を参照)。
4)2c△440は2c CPV変異株であり、この場合はVP2タンパク質の位置440をコードするコドンがACAではなくGCAである。この変異の結果、アミノ酸が位置440においてThrからAlaに変化する。さらに、この変異株は予めワクチン接種したにもかかわらずCPVに罹患したイヌからも分離された。したがって、この変異配列を新規なCPVワクチンおよび診断用製剤に組み込むべきである。この変異を図4に表わす;ここには、2c VP2遺伝子(すなわち、426=GAA)のアミノ酸426〜572をコードする部分を示す。変異コドン(440)を太字で示し、下線を施す。参考のためコドン494および572に下線を施す。
【0028】
2c△440のさらに他の変異株である2c△430△440は、位置440に対するコドンにGCAを含むほか、位置430に通常のTTGではなくTTAがコードするロイシンをもつことにより既知の2c配列と異なる。この変異を図5に表わす。
【0029】
表1にこれらの変異株における配列変化のまとめを示す:
表1.現在の米国CPV変異株におけるVP2タンパク質の決定的アミノ酸に関連するコドン
【0030】
【表1】

【0031】
変異コドンを示す。
位置494および572における変化はこれまでに記載されていたが、この変異株に現われた優位性および特性はこれまで認識されていなかった。本明細書に記載する変異株はすべて、既にCPVに対するワクチンを接種されていたけれどもCPVに罹患して死亡したイヌ(またはその子孫)から分離された。これらの変異株は最初に米国中南部で確認されたが、米国の他の地域でも散発的に報告されているイヌのワクチン耐性パルボウイルス病に関与していると考えられる。これまでにオーストラリアおよびアフリカ以外のすべての国で検出された変異株2cは、現在では14州(アラバマ、アリゾナ、アーカンサス、カリフォルニア、デラウェア、フロリダ、イリノイ、カンサス、ニュージュージー、ミズーリ、オレゴン、オクラホマ、サウスカロライナ、およびテキサス)で検出されている。これまでに知られているCPV変異株の急激な播種の歴史からみて、これら最新型のウイルスの拡散を止めるために、これらの変異株のうち1以上を速やかに世界中のワクチンに組み込むべきである。さらに、これらの出現した変異株を考慮に入れてCPVの診断試験および診断法を再構成すべきである。
【0032】
実施例のセクションに記載するように、本発明のCPV変異株をそれから分離したワクチン接種イヌにおける病状の発現および死亡はきわめて急激であり、現在のワクチンに含まれるCPV型に対する免疫系応答によって阻止されない強健な逸出変異株の存在が指摘される。これは、VPタンパク質の一次配列に変化を生じる2c△440についてだけでなく、調べた領域のアミノ酸の変化を含まない2c△431、2b△494△572についても同様であった。2b△494△572のコドン変化の重大性はこれまで認識されておらず、本発明者らの知る限り、本明細書の記載に従ってこれらの出現した変異株を組み込むかまたは考慮するようにCPVワクチンの組成および診断法を調整するという提案は現在まで無い。さらに、2c△440および2b△431はこれまでに記載されていない新たな変異株である。
【0033】
これらの変異はウイルスに生存上の利点をもたらすと思われる。理論により拘束されるわけではないが、変異配列はウイルスのライフサイクルのある段階でウイルス粒子またはDNA自体に利点をもたらすという可能性がある(たとえば、宿主のヌクレアーゼに対する防御;より速やかまたはより効率的な転写および/または翻訳、その結果、たとえば異なるパターンのタンパク質フォールディングが生じる可能性がある;より速やかまたはより効率的なウイルス粒子中へのパッケージング、など)。たとえば、DNAポリメラーゼがCPVのDNAを複製する際に、変異配列はアンフォールディングの熱力学に関して利点をもたらす可能性がある。図6〜8は、それぞれCPV2c、CPV2b△431、およびCPV2c△430△440の超可変部のフォールド構造を表わす;これらについてはさらに実施例3に記載する。
【0034】
本発明の1態様において、繁栄している出現CPV変異株、たとえばCPV2c△430△440は、実験条件下で市販のワクチン製剤の価値を検査するための攻撃ウイルスとして使用できる。CPV2aおよびCPV2bの最も古い型の変異株はイヌに対して病原性が高くはなく、より新しいCPV2cは研究されていない。病毒性の高い攻撃モデルが無かったため、現在までワクチン企業はワクチン製剤が接種動物に防御をもたらす能力を適正に評価することができなかった。したがって本発明は、ワクチン接種した動物を病毒性の高い変異株CPV2c△430△440に曝露し、そのワクチンが疾患に対して防御するか否かを評価することにより、それを行なう方法をも提供する。
【0035】
本明細書に記載するそれぞれの変異株について、本発明には、1種類以上の変異株を含有するワクチン製剤および診断薬、ならびにそれらを使用する方法が含まれる。好ましくは、そのような製剤および診断薬は2c△440もしくは2b△431、または両方を含有する。そのような製剤および診断薬は、さらに2b△494△572および/またはアメリカ2c、および/または他の既知のCPV配列、たとえば現在のワクチンに既に含まれるものを含有することができる。さらに、新規配列をもつ他の新たに分離されたウイルス、特に新規アミノ酸配列をもつウイルスは、新規ワクチンに組み込むのに適切な場合または適切ではない場合がある。一般に、新たな現場分離株を組み込むという判断は、既存のワクチンがワクチン接種動物においてその現場分離株に対する中和反応を誘発する能力、および一部はその変異株の優勢度に基づく。新たな変異株が汎存性である場合、抗原としてのそれの重要性を判定すべきである。これの尺度のひとつは抗原距離(antigenic distance)である。特定のCPV分離株の総抗原距離は機能アッセイ法、たとえば血清中和力価および/または血球凝集反応アッセイ法および/または間接蛍光抗体検査法を用いて分離株を試験することにより決定できる。1以上のアッセイ法によって分離株が既にワクチン中にあるウイルス変異株と比較して低い中和度を示す場合(すなわち、新たなヘテロロガス分離株の中和レベルが既にワクチン中にある変異株の中和レベルより4倍以上低い場合)、その新たな分離株を含む新規ワクチンの開発は保証できる。たとえば、新たなCPV変異株が分離された場合、その総抗原距離を血清中和アッセイ法により計算し、結果を中和力価として表わすことができる。中和力価は、ワクチン接種した動物からの血清の中和が完全である(細胞障害作用(CPE)またはウイルスの存在が無いことによって証明される)最高希釈度の逆数である。既存のCPVワクチンを接種したイヌからの血清がたとえばホモロガスウイルスについて1:4000のSN力価、および新たなヘテロロガスCPV分離株について1:200の力価を与えた場合、この新たな分離株はCPVワクチンに組み込むべきであると思われる。言い換えると、現在のワクチンが現在のワクチン中に無い一般的な汎存変異株に対して防御しない場合、その変異株を新規ワクチン製剤に慎重に組み込むことができる。その分離株が狭い地域に局在する場合、広範に使用するために設計する市販ワクチンより注文生産または自家ワクチンの方が適切な可能性がある。結果を攻撃防御実験で同様に確認すべきである。攻撃防御実験では、動物にワクチンを接種し、次いで適量(たとえば10,000 TCID 50、すなわち組織培養感染量中央値(median tissue culture infective dose))の攻撃ウイルスとして用いる変異株に曝露する。ワクチンがその変異株に対する防御をもたらす場合、その変異株をワクチン組成物に組み込む必要はない。しかし、ワクチン接種した動物がその変異株から防御されない場合、その変異株をワクチン製剤に組み込むことができる。さらに、ワクチン接種の過程で必ずしもすべての株または変異株を同一注射に含める必要はない。たとえば、子犬に1種類の変異株を含有する一回分を3週齢時に投与し、異なる変異株を含有する一回分を7週齢時に投与し、さらに他の変異株を含有する一回分を10週齢時に投与することが好ましい場合がある。これは、同一変異株を子犬に対する3回分すべてについて投与する現行方法とは対照的である。この現行方法は、以前のワクチン接種に応答して発生した既存免疫が、後続ワクチン接種に際して送達される進入CPVウイルスを中和し、これにより後続ワクチンをほとんどまたは全く無益なものにする可能性があるという欠点をもつ。注意すべきことであるが、あるウイルス病原体が複数の種に感染する可能性があることは周知である。CPVの場合、ネコウイルスおよびミンクウイルスがイヌにも感染することが知られている。そのようなウイルスをイヌのCPVワクチンに組み込むことは推奨できないが、ワクチン接種する動物の攻撃実験にはこれらのネコウイルスおよびミンクウイルスを含めるべきである。
【0036】
特に、変異株2b△431は法医学的トラッキングおよび検出に適切なワクチンの調製に有用である。前記のように、現在のワクチンは接種した動物を出現CPVに対して次第に防御できなくなっている。ワクチン接種後に罹患した動物の飼主はワクチン自体が疾患の原因であると非難する傾向がある。現行の診断法はワクチン株と出現株を識別するのには不適切なので、ワクチン製造業者は実際的なそのような非難に対抗する防衛策をもたず、しばしば動物の飼主に賠償することによりそのような告発を鎮静する。この処理はワクチン製造業者にとって著しい経費がかかる。また、コドン431がコドン426に近接し、それがCPVゲノムの超可変部内にあることも、罹患イヌにおける原因CPV物質を立証するためになしうる配列決定がごく限定される。これは、ワクチンを調製するために用いる1種類以上のワクチン株に2b△431変異を組み込むことにより避けられる。2b△431はきわめて希有である;例えば、この変異株は現在までに調べられた変異株の約1.2%である。したがって、2b△431変異株をワクチン接種して罹患した動物からの組織をCPVについて検査した場合に、2b△431以外のCPV株が検査されれば、そのワクチンはその疾患の原因ではなかったと確実に結論できる。むしろ、この検出された他の株が犯人であった可能性がある。さらに、△431変異は多大な配列決定を行なうことなく検出できる。このタイプの法医学的調査はワクチン企業に著しい経費節減をもたらすであろう。
【0037】
本発明は、SEQ ID NO:1、2、3、4および5により表わされる単離した核酸配列、ならびに/あるいはそれらの配列によりコードされるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含むワクチン製剤、ならびにそれらの使用方法を提供する。さらに、これらの配列の特定の変異を含むワクチンも含まれる。これらの配列は一本鎖(ss)DNAであるが、本発明には、これらの配列に基づく、由来する、または相補的である、対応する二本鎖(ds)DNA、相補的DNA、およびいずれかの形のRNA(たとえばmRNA、RNA/DNAハイブリッドなど)も含まれる。そのような配列はセンス配列またはアンチセンス配列のいずれであってもよい。さらに、SEQ ID NO:1、2、3、4および5に対して少なくとも約50%の相同性、好ましくは約60%、より好ましくは約70、80もしくは90%の相同性、またはさらに約95、96、97、98もしくは99%またはそれ以上の相同性を示す配列も、ワクチン中に使用することが考慮される。そのような配列は、たとえば1以上の位置に同一アミノ酸をコードする代替コドンを含むことにより異なってもよい。さらに、これらの配列のCPV VP2タンパク質の抗原性領域をコードする部分、およびそのようなアミノ酸配列に対して70%、またはさらに好ましくは約80、90もしくは95%、またはさらにそれ以上の同一性(たとえば96、97、98または99%の同一性)を示す配列も考慮される。そのような配列は、生成するタンパク質/ペプチドが本明細書に記載するように抗原性である限り、たとえば保存的もしくは非保存的なアミノ酸置換、または欠失(特にアミノ末端またはカルボキシ末端の欠失)、または種々の挿入などを含むことにより異なってもよい。そのような抗原性領域は好ましくは少なくとも約10のアミノ酸の長さであり、VPタンパク質の位置426、431、440、494、555および572のうち1以上を含む。しかし、抗原性領域はVP2遺伝子全体を含むことができる。
【0038】
さらに、本明細書に記載する配列(またはそれらの配列の一部)にストリンジェントな条件(特に高ストリンジェンシーの条件)下でハイブリダイズする核酸配列も考慮される。ストリンジェントな条件とは、核酸配列を特定の配列にハイブリダイズさせるハイブリダイゼーション条件を表わす。一般に高ストリンジェンシーの条件とは、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200ヌクレオチド以上の核酸配列を特定の配列に、約65℃で、約1Mの塩類を含有する溶液、好ましくは6xSSC、または匹敵するイオン強度をもつ他のいずれかの溶液中においてハイブリダイズさせ、そして約65℃で、約0.1M以下の塩類を含有する溶液、好ましくは0.2xSSC、または匹敵するイオン強度をもつ他のいずれかの溶液中において洗浄するハイブリダイゼーション条件を表わす。これらの条件により、約90%以上の配列同一性をもつ配列を検出できる。一般に、より低いストリンジェンシーの条件とは、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200ヌクレオチド以上の核酸配列を特定の配列に、約45℃で、約1Mの塩類を含有する溶液、好ましくは6xSSC、または匹敵するイオン強度をもつ他のいずれかの溶液中においてハイブリダイズさせ、そして室温で、約1Mの塩類を含有する溶液、好ましくは6xSSC、または匹敵するイオン強度をもつ他のいずれかの溶液中において洗浄するハイブリダイゼーション条件を表わす。これらの条件により、最高50%の配列同一性をもつ配列を検出できる。当業者は、50%〜90%の異なる同一性をもつ配列を同定するためにこれらのハイブリダイゼーション条件を改変することができるであろう。
【0039】
本発明は、本明細書に開示する核酸配列(またはその抗原性ペプチドおよび/またはポリペプチドをコードする部分)を含有および発現する種々のタイプの組換えベクターおよび/または発現をも提供する。そのような組換えベクターおよび/または発現系の例には下記のものが含まれるが、これらに限定されない;種々の細菌(たとえば大腸菌(Escherichia coli))またはプロバイオティック(probiotic)ベースの(たとえば乳酸菌(Lactobacillus))発現ベクター;アデノウイルスベクター、バキュロウイルス、ピチア属(Pichia)および酵母発現系など。そのような組換えベクターおよび/または発現系を、たとえばワクチン製剤中に、あるいは他の目的、たとえば前記配列の実験室操作、または研究もしくは診断の目的で、利用できる。
【0040】
本発明は、イヌパルボウイルスに対する免疫原性および/またはワクチン組成物を提供する。これらの組成物は、SEQ ID NO:1、2、3、4および5のうち1以上の核酸配列、またはこれらの配列の抗原性ペプチドまたはポリペプチド(抗原性領域)をコードする部分、たとえばこれらの配列の位置426、430、431、440、494、555および572に対するコドンのうち1以上を含む部分を含有する。好ましくは、少なくともSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4もしくはSEQ ID NO:5を含む配列、またはその抗原性領域をコードする部分を含有するであろう。
【0041】
計画した用途に従ってワクチン組成を変更しうることも当業者には認識されるであろう。言い換えると、特別に設計したワクチン製剤を作製するために、ワクチン中に含有される特定の成分(変異株)を幾つかのパラメーターに従って変更することができる。たとえば、特定の地域に検出された変異株のみを含有するようにワクチンを設計することができる。たとえば、2a変異株は米国ではもはや検出されないので、ワクチン製造業者はこの変異株を米国で用いるためのワクチン製剤には含有させないように選択できる。米国のワクチンには、たとえばCPV 2cおよびCPV 2b変異株のみを含有させることができる。これに対し、現在、オーストラリアでは2aが唯一のCPV変異株である。したがって、オーストラリアで用いる予定のワクチン組成物は、2a変異株のみを含有することができる。欧州用に推奨されるワクチンはたとえば2cおよび2b変異株を含有しうるが、アジア用のワクチン組成物は2aおよび2bを含有することができる。地域に合わせたそのようなワクチンはすべて本発明に含まれ、変異株分布のパターンが変化するのに伴って経時的に変更することができる。そのような地域特異的ワクチンについてさらに考慮すべきことは、改変した生ウイルスワクチンが多量のワクチンウイルス抗原を含有することである。したがって、ある変異株をワクチン接種したイヌをその変異株が存在しない地域へ移す場合、その動物を新しい環境に放す前に少なくとも約1カ月間は隔離しておくことが好ましい。さもなければその変異株が新しい場所へ放出される可能性がある。たとえば、2c変異株をワクチン接種したイヌは、たとえばオーストラリアで放す前に隔離しておくべきである。1カ月後にはウイルスの放出は止むはずである。放出されたウイルスが弱毒化されていたとしても、それの存在がウイルス疫学をモニターする試みを混乱させる可能性があり、また原住ウイルスが放出されたウイルスと組換えられる機会をもたらし、その結果、より病毒性の高い変異が地域集団に導入される可能性がある。
【0042】
さらに、ワクチン組成物を特定の宿主用に合わせることができる。たとえば、ある品種のイヌはある変異株に対して他より感受性である可能性があり;あるいは、動物のライフステージ(たとえば子犬−対−成犬)がその動物を1種類以上の変異株に対して感受性素因にする可能性があり;あるいは、イヌ以外の宿主(たとえば野生動物、動物園または禁漁区の動物など)にワクチン接種する場合には、ワクチンを投与する特定の宿主動物の感受性を考慮に入れてワクチン組成を調整することができる。たとえば、攻撃モデルを開発する際、チワワおよびラブラドル・レトリーバー品種はCPVに対してより感受性の傾向がある。よって、対照付き設定で高病毒性CPV−2c変異株は約4logで下痢および嘔吐を誘発するのに十分なはずである。そのような宿主特異的または宿主選択的ワクチンがすべて本発明に含まれる。
【0043】
他の態様においては、ワクチンレシピエントの居所環境に従ってワクチン組成を調整することができる。たとえば、100匹以上のイヌを収容した接触感染リスクの高い商業的犬舎では、変異株2b△431△494△572を主および副両方のアメリカCPV 2c変異株と合わせて含有する比較的高価な製剤のワクチン接種が好ましいであろう。しかし、被曝のリスクがより低い、より小さな犬舎(たとえば25匹未満のイヌを収容したもの)または1匹もしくは数匹のみのイヌをもつ家庭では、2b△431△494△572または2b△494△572を主アメリカ2c変異株のみと一緒に含有する、より安価なワクチンで十分な可能性がある。どのワクチン組成物を使用するかを決定する際には、動物がその疾患に罹患するリスクを、経費、ならびにCPV変異株の存在を将来において分子的にモニターおよび評価する能力と対比すべきである。
【0044】
さらに他の面で本発明は、子犬におけるワクチン免疫誘導に伴う母体抗体干渉を避けるためのワクチン接種方式を提供する。成体と子犬に単一のワクチン製剤を用いるのではなく、子犬には抗原性の異なる一連のワクチンを接種することができる。言い換えると、子犬の初回ワクチンは母親に投与したものと異なると思われる変異株を含有し、子犬の後続の追加免疫分はさらに他の型のワクチンを含む。この方法で、広範囲の抗体を漸増構築することができる。非経口免疫化後のウイルス放出など、あるワクチン接種の制限を克服するためには、ワクチン接種経路を改変することができる。たとえば、無針法を用いる舌上ワクチン接種経路によれば、免疫を誘導することができるが糞便中への放出は阻止できる。
【0045】
CPVに対するワクチン接種に適切なワクチンを作製する幾つかの方法が当技術分野で知られている。たとえば米国特許第4,193,990号および第4,193,991号(Appelら)、米国特許第4,303,645号(Carmichaelら)、米国特許第4,971,793号(Woodら)、米国特許第5,882,652号(Valdesら)および米国特許第5,885,585号(Parrishら)を参照;これらはそれぞれ適切なワクチン配合方式の変法を提供する。これらの特許それぞれの内容全体を本明細書に援用する。一般に、ワクチンを製造するためには、前記の核酸配列を含むウイルスベクター(たとえば、ウイルス内にある天然のssDNA、または非天然ウイルスベクター内へ遺伝子工学的に導入したssDNAもしくはこれと均等な形態(たとえばdsDNA、ssまたはdsRNA、RNA−DNAハイブリッドなど)が用いられるであろう。その例は、それを投与した動物において重篤な病状を生じないように”死滅させた”、不活性化した、または他の方法で弱毒化したCPV(または他の)ウイルスを、適切な生理的キャリヤーと共に含有する。投与の結果として病状が起きないことが好ましいであろう。しかし、多くの有効なワクチン組成物が投与時または投与後に若干の不快感または比較的軽症の窮迫を生じることは当業者には認識されるであろう。しかし、本格的な疾患に対して防御されることの有益性はこの可能性よりはるかに勝る。別法としては、ワクチン接種される動物に自然界では感染しないかまたは普通は疾患を生じないヘテロタイプのウイルスを使用できる。
【0046】
弱毒ウイルスは自然に前記の核酸配列(1以上)を含むCPVであってもよく、あるいはウイルス(CPVまたは他のウイルス)は前記の核酸配列を遺伝子工学によりウイルスに挿入したという点で組換え体であってもよい。組換えワクチンの場合、核酸配列をCPV以外のウイルスに取り込ませてヘテロタイプの組換えワクチンを形成することができる。そのようなウイルスの例には、FPV、種々のヘルペスウイルス、非病原性”オーファンウイルス”、腸内ウイルス、たとえばエンテロウイルスなどが含まれるが、これらに限定されない。好ましい態様において、ウイルスは生きた、弱毒化した(改変した)高力価CPVであり、核酸はssDNAである。
【0047】
好ましくは、そのような製剤は他のCPV変異株、たとえば2、2a、2bおよび/または2c変異株、ならびに今後同定されて有用とみなされる可能性のある他のいずれかのCPV変異株の抗原性領域をコードする核酸配列をも含有するであろう。しかし、2aおよび2b変異株のみを含有するワクチン組成物が広く販売されているので、これら既知の2a−2bワクチンと組み合わせてその効果を補足するのに用いるために、本明細書に開示する変異株のうち1以上のみを含有するワクチン組成物を製造するのも有益な可能性がある。さらに、そのようなワクチンは、他の病原体に対するワクチンと共に、別個の組成物として、または一緒に単一組成物中で投与することができる。
【0048】
ワクチンの厳密な形態は多様であってよい。1態様において、ワクチンは本明細書に開示する核酸配列を含む弱毒CPVウイルスからなる。好ましくは、ワクチンは多価であり、弱毒化したCPV 2、2a、2bおよび/または2c型のウイルスをも含有する。あるいは、単一ウイルスを遺伝子工学的に処理して、2以上の型の変異株に由来するタンパク質(たとえばVP2タンパク質、またはその抗原性部分)をコードする核酸を含有させることができる;すなわち、当業者に既知のとおり、組換え技術で2種類以上のCPVに由来するDNA領域を入れ換えることにより、VP2の2以上の領域に由来するゲノム領域をもつ組換えキメラCPVを構築することができる。
【0049】
他の形態のワクチンも考慮される。たとえば、”空の”ウイルス粒子ワクチン(核酸を含まない)も考慮され、抗原性ウイルス粒子または他のCPVタンパク質であってキャプシドに組み立てられていないものを含むワクチンも考慮される。これらの場合、ワクチン製剤中のタンパク質はSEQ ID NO:2および/またはSEQ ID NO:4、または両方によってコードされ、あるいはより短い抗原性領域がSEQ ID NO:2および/またはSEQ ID NO:4および/またはSEQ ID NO:5の一部によってコードされる。SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:3によりコードされるタンパク質、ならびに/あるいはSEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:3の一部によりコードされる抗原性領域を含有することもできる。
【0050】
他の適切なワクチン成分、たとえば薬理学的に許容できるキャリヤーは当業者に周知であり、ワクチンとして使用するためのそのような組成物の調製法も周知である。一般に、そのような組成物は液剤または懸濁液剤として調製されるが、固体剤形、たとえば錠剤、丸剤、散剤なども考慮される。投与前に液体に溶解または懸濁するのに適切な固体剤形も調製される。その製剤を乳化することもできる。有効成分を、医薬的に許容できかつ有効成分と適合性である賦形剤と混合することができる。適切な賦形剤は、たとえば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、またはその組合わせである。さらに、組成物は少量の補助物質、たとえば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などを含有することができる。経口剤形の組成物を投与することが望ましい場合、種々の増粘剤、着香剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤または結合剤などを添加することができる。本発明の組成物は、投与に適切な形態の組成物が得られるように、そのような追加成分のいずれかを含有することができる。製剤中の翻訳可能な核酸の最終量は多様であってよい。しかし、一般にその量は約1〜99%であろう。組成物はさらに佐剤を含有することができ、その適切な例にはSeppic、Quil A、Alhydrogelなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
本発明の免疫原性/ワクチン製剤は、当業者に周知である多数の適切な手段のいずれかで投与でき、これには注射、経口、鼻内、抗原を含有する食品の摂取などが含まれるが、これらに限定されない。しかし、好ましい態様において、投与様式は注射によるものである。さらに、本発明組成物を単独で投与するか、あるいは他の医薬または免疫原組成物と組み合わせて、たとえば多成分ワクチンの一部として投与することができる。さらに、投与は一回投与であってもよく、あるいは免疫応答を増強するために複数の追加免疫量を種々の時間間隔で投与することができる。さらに投与は、予防的なもの、すなわちウイルス被曝が起きる前もしくは起きると推測される前、またはその事実の後、すなわち被曝が分かった後もしくは疑われた後であってもよく、あるいは治療的なもの、たとえばウイルス感染に関連する病状が起きた後であってもよい。
【0052】
本発明の製剤を投与すると、ワクチンを投与した宿主動物内で本発明の核酸配列が発現し、宿主動物はその核酸配列がコードする抗原性タンパク質(またはその一部)に対する免疫応答を装備する。好ましくは、誘発された免疫応答は防御免疫応答である。ある態様において弱毒ウイルスは宿主内で複製する能力を保持しているが、厳密にはこれは必要ない。
【0053】
本発明は、その必要がある哺乳動物においてCPV感染症の症状を予防する方法を提供する。一般に、CPVワクチンは子犬および/または成犬に有効免疫を付与するために投与される。この方法は、下記のものを含む免疫原性および/またはワクチン組成物を哺乳動物に投与することを伴う:SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:4もしくはSEQ ID NO:5のうち少なくとも1つにより表わされる配列またはそのVP2の抗原性領域をコードする部分を含む核酸、好ましくはSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:5のうち1以上により表わされる配列またはそのVP2の抗原性領域をコードする部分。好ましい態様において、製剤は他の臨床関連CPV変異株、好ましくは2aおよび2b変異株、ならびに場合により起源CPV2をコードする核酸をも含有する。本発明組成物を投与すると、レシピエントによる免疫応答が誘発される。好ましくは、免疫応答は将来のCPV被曝に対する予防的なものであり、病状を完全に排除するか、あるいはワクチン接種しない場合に経験するより軽度なレベルにまで病状を改善する。
【0054】
本発明の好ましい態様において、本発明のワクチンを用いてワクチン接種した動物は、成犬および子犬の両方を含む家畜化されたイヌである。しかし、可能性のある他のCPV宿主も考慮される。可能性のある他の宿主には、他のイヌ科動物、たとえば野生のイヌ科動物(たとえばオオカミ、野生種のイヌなど)、ネコ(家畜化されたネコおよび子猫、ならびに大型種のネコであって家畜化されたものまたは野生のものを含む)、ミンク、レッドパンダ、キツネ、ライオンおよびトラなどが含まれる。本発明のワクチンはもちろん家畜に用いられるであろうが、野生動物または部分的に家畜化された動物、たとえば動物園または保護区、公園、研究施設などの動物もそのようなワクチン接種により恩恵を受けることができる。CPVおよびCPV変異株の宿主となる可能性のある動物はいずれも、そのウイルスが宿主に病状を引き起こすか否かに関係なく、本明細書に提示するワクチン製剤の接種により恩恵を受けることができる。ウイルスが感染した際に無症候性である動物(すなわち無症状キャリア)のワクチン接種は、そのウイルスがより感受性の集団に拡散するのを縮小するために有益であろう。
【0055】
本発明は、2b△494△572、2b△431、2c△440および/またはアメリカ2c型の変異株CPVのタンパク質の抗原決定基または抗原性領域に特異的または選択的に結合する抗体をも提供する。そのようなディファレンシャル抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってよいが、モノクローナル抗体が一般に好ましい。モノクローナル抗体は、変異株を(タンパク質、またはそれらのタンパク質をコードする核酸の形で)マウスに注射することにより産生される。3回の追加免疫後、脾臓を採集し、骨髄腫細胞と融合させる。モノクローナル抗体を産生するクローンを、ELISA、HA−HI、および間接蛍光抗体検査法によりスクリーニングする。2b△494△572、2b△431、2c△440および/またはアメリカ2c遺伝子型と反応するクローンを、CPV診断アッセイ法の開発のために保存する。ポリクローナル抗体は、2b△494△572、2b△431、2c△440および/またはアメリカ2c変異株の好ましい抗原性標的であるアミノ酸コドンを含む1種類以上のペプチドを、たとえばウサギに注射することにより産生させることができる。
【0056】
本発明は、本明細書に記載するCPV変異株および場合により他のCPV変異株(たとえばCPV 2、2aおよび2b)を検出するための診断キットをも提供する。そのようなキットは、本明細書に開示する核酸配列の増幅(たとえばポリメラーゼ連鎖反応による)に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを含む。あるいは、そのようなキットは、前記の変異株および場合により他のCPV変異株(たとえばCPV 2、2aおよび2b)が提示するユニーク抗原決定基に選択的または特異的に結合する抗体(たとえばモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)を含むこともできる。
【0057】
本発明の他の観点においては、CPVをインビトロで培養するための新規方法を提供する。この方法は、1)CPVによる感染に感受性であることが知られている細胞と2)ベロ細胞との混合細胞培養において、適切な培地でウイルスを培養することを伴う。好ましい態様において、CPV感染に感受性である細胞はCRFK細胞である。しかし、他のタイプのそのような細胞も使用でき、これには下記のものが含まれるが、これらに限定されない:A72イヌ線維腫由来の細胞;CRFK細胞に由来する細胞、たとえばNordisk Laboratoryネコ腎(NLFK)細胞;ネコの舌細胞、たとえばFe3Tg細胞;ネコの肺細胞、たとえばAK−D細胞;ネコのリンパ腫細胞系、たとえば3201;イヌのT−細胞系、たとえばCT 45−S;イヌの胸腺上皮細胞系、たとえばCf2Thなど。さらに、ネコおよびイヌの多様な細胞系、ならびにそれらの培養に関する指示を、バージニア州マナッサスのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手できる。
【0058】
これらの細胞系をベロ細胞と一緒に、当業者に既知の多様な培地中で増殖させることができる。たとえば、CT 45−S細胞はRPMI 1640培地で培養できる;AK−D、Fe21uおよびCf2Ths細胞は、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むダルベッコの最少必須培地(MEM)で培養できる;3201、NLFK、CRFL、A72およびFc3 Tg細胞には、McCoyの5AおよびLeibowitz Ll 5(5%のFCSを含む)を使用できる。一般に、これらの細胞系を一緒に37℃で4〜5日間インキュベートする。
【実施例】
【0059】
概説
イヌパルボウイルス(CPV)感染症はイヌの最も重篤かつ優勢な疾患であり、子犬の下痢の最も一般的な原因である。CPVに対するワクチンがあり、広く用いられているが、ワクチン接種したイヌにCPVの大発生が最近幾つか起きた。たとえば米国中南部の犬舎所有者らは、ワクチン接種したにもかかわらずCPV感染症による子犬の死亡率が高いことを観察で認めている。
【0060】
CPVは一本鎖DNAウイルスであり、高い変異率をもち、その宿主範囲および指向性を変化させる能力をもつ。現在入手できる市販ワクチンは一般にCPV2、CPV2aおよびCPV2b変異株のみを含有する。CPVワクチン接種したパルボウイルス感染症の顕性症状を伴うイヌからの試料を本発明者らが分析していた際に、現在のCPV診断試験によるCPV検出に機能変化がみられ、現在のキットは現場ウイルスを検出できないことが認められた;これは、CPVが2aおよび2bサブタイプからさらに進化している可能性を指摘する。その後の調査でCPVの2つの変異株、すなわち、2b△494△572およびアメリカ2cが同定された。これらの分離株は、これまでに培養されたCPV分離株より増強した病毒性および広い組織指向性を伴う。さらに、これらの新たなCPV分離株は従来のCPV−2遺伝子型により起きる出血性下痢ではなく黄色粘性下痢を引き起こすと思われる。他の報文と一致して、2b△494△572変異株は2つのコドン変化をもつ。アメリカ2c変異株はこれまでにイタリア、スペインおよびベトナムで検出されているが、米国ではこれまで検出されていない。
【0061】
材料および方法
糞便試料はオクラホマ動物診断研究所(Oklahoma Animal Disease Diagnostic Laboratory)がFederal Expressによりアイスパック(約4〜5℃)で受け取った。最低2〜5gの糞便または2〜5mlの液状下痢便を受け取った。糞便試料を一般に同日に、市販のCPV酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)により検査した。本発明者らは、腸管の異なる領域からの腸ループ(約2〜3片)を蛍光抗体検査(FAT)または免疫組織化学的検査(IHC)用に受け取っている。時には、本発明者らはCPV検査のためのFATもしくはIHCまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)用として数片の舌を受け取った。これらの検体はFedExによるアイスパック冷却状態で受け取られる。多くのCPV症例が現場診断キット(Assure,Synbiotics,カリフォルニア州;またはIDEXX,メイン州バーハーバー)によりCPVについて陰性という検査歴をもつ。
【0062】
CPV適合病歴をもつ子犬および成犬の腸について組織病理学的検査を実施した。この病歴には、血性もしくは粘性の下痢、および死亡が含まれていた。新鮮な腸組織およびホルマリン固定した腸組織をCPVに適合する病変について検査した:陰窩の拡張および壊死、ならびに腸絨毛喪失。
【0063】
蛍光抗体検査(FAT)を用いて腸をCPV抗原についてスクリーニングした。厚さ6〜8マイクロメートルの腸切片をアセトンで固定し、風乾した。FITCで標識した抗CPVコンジュゲートを添加し、切片を37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、切片をトリパンブルーで対比染色した。切片を蛍光顕微鏡検査により調べた:FAT検査で、CPV陽性細胞は青りんご色に着色し、CPV陰性細胞は赤れんが色に着色する。
【0064】
組織病理学的検査用に提供されたホルマリン固定切片を、免疫組織化学的検査によりCPV抗原について調べた。
糞便試料、およびCPV陽性またはその疑いのある腸試料の擦過標本につき、Desario et al., 2005の記載に従ってPCR、続いて配列決定を実施した。ウイルスタンパク質遺伝子の一部をPCRにより増幅させた。増幅したPCR生成物をアガロースゲル電気泳動により検出し、配列決定のためにゲルから溶離した。
【0065】
結果をGenBankに寄託された大量の配列コレクションと比較するBLASTプログラムにより、配列を分析した。配列はすべてイヌパルボウイルスと類似すると同定された。
【0066】
実施例1.現在のCPV診断試験の欠点
前記に従って糞便試料を分析して、すべての試料が標準的な基準によれば陽性であった:組織病理学的検査により判定した特徴的な病変、蛍光抗体検査の結果、および免疫組織化学的検査の結果。ところが、同一試料を市販の診断試験により検査したところ、その結果はそれらの検査法がこれらの試料のCPV現場診断について信頼性がなく、CPV陽性症例の33〜50%を検出できないことを示した。
【0067】
これらのCPV分離株の大部分は、市販のCPVワクチンをそのワクチンのラベルに従って現在用いているけれどもなおCPVの大発生および死亡を経験している犬舎から入手された。この防御欠如は、新たに出現したCPV分離株における抗原性の変異に帰因すると思われる。多数のCPV症例(nは約500)にわたるこの疫学的な現場所見は、これらの新たなCPV変異株を市販のCPVワクチンに組み込む必要性を示している。
【0068】
実施例2.CPV分離株の配列決定:2b△494△572変異株およびアメリカCPV2c分離株の同定
ワクチンおよび診断キットの欠陥は、一般にウイルス進化の疫学的証拠であるとみなされる。したがって、被験試料中に新たなCPV変異株が存在することが疑われた。これを確認するために、糞便試料から分離したウイルスについてウイルスタンパク質VP2の一部のPCR配列決定を実施し、コンピューターソフトウェアプログラムおよび/または手動アラインメントを用いて結果を既知のVP2配列と比較した。
【0069】
それらの結果により、2種類の新たに出現したCPV型が試料中に存在することが確認された:1)2bの変異株、これを2b△494△572と命名した;および2)アメリカ2c、これはこれまで米国では報告されていなかった。これら2変異株のVP2タンパク質の一部をコードするDNA配列を図1(2b△494△572,SEQ ID NO:1)および図3(アメリカ2c,SEQ ID NO:3)に示す。これらの配列を既知のCPV 2基準配列と比較することにより、2b△494△572ではコドン494および572の変化が起きたことが明らかになった。通常のCPV2の494におけるコドンはTGTであるが、2b△494△572ではコドン494はTGCである。同様に、CPV2分離株の位置572における通常のコドンはGTAであるが、2b△494△572ではこのコドンがGTCである。これらの変化によりVP2タンパク質のアミノ酸配列の変化は生じない。しかし、これらの変化は、そのライフサイクルの1以上の段階で、たとえば複製、転写または翻訳効率において、2b△494△572変異株に利点をもたらすと思われる。重要なことに、これらの試料中にアメリカ2c変異株が存在したことが米国でのこのCPV変異株の最初の報告であり、それが優性変異株として出現する前兆であると思われる。ワクチン欠陥の症例のうち約50%がCPV2b△494△572の存在に帰因し、50%はCPV2cまたはCPV2c△430△440が原因であった。
【0070】
これらの所見は、優性CPV変異株としての2b△494△572およびアメリカ2cの出現を証明し、これらの変異株をCPVワクチン製剤に組み込むことの必要性を示している。
【0071】
同様な方法で他の変異株を同定した。
実施例3.変異株の二次構造および関連エネルギーの決定
ウイルス病原体の病毒性はウイルスゲノムの二次構造要素に関連することが知られている(Pellerin et al., 1994. Virology 203: 260-268)。変異株2c、2b△431および2c△430△440の超可変部のフォールディングパターンを、World Wide Web上のmfold.burnet.edu.auにあるウェブサイトの”mfold”DNAフォールディングプログラムにより評価した。結果を図6〜8に示す;これらは変異株それぞれのフォールディングパターンおよび関連のエネルギーレベルを表わす。これから分かるように、その領域の二次構造は維持されており、アンフォールディングのためのエネルギーレベルが変化している可能性がある。
【0072】
実施例4.CPVに対する新規な多価ワクチンの開発および試験
新たに出現したCPV変異株に対して防御性のある新規な多価ワクチンを開発する。このワクチンは、CPV2a、2b△494△572、2b△431、アメリカ2c、2c△440、および場合によりCPV2型のうち1種類以上の弱毒CPVウイルスを含有する。言い換えると、この新規ワクチンでは、CPV2bが、2b△494△572、すなわち優性遺伝子型として出現しつつあることが新たに見いだされた変異株で置き換えられている。もはや脅威ではないと思われるCPV2の存在は任意である。
【0073】
この多価ワクチンを接種した動物は、ワクチンの製造に用いた変異株によるパルボウイルス感染症の発症に対して防御される。
実施例5.CPV増殖のための新規な混合細胞培養法
CPVは一般に、単一タイプの細胞、たとえばクランダルネコ腎(CRFK)細胞系のみを含む細胞培養において増殖されている。
【0074】
改良されたCPV培養法を開発した。この新規方法によれば、CPVをCRFK細胞とベロ細胞の等量混合物中において最少必須培地(MEM)で培養する。両細胞系を平板培養し、平板培養の1時間後に試料を播種する。この段階で細胞は定着しているが、なお細胞分裂の初期にある。この新規な細胞培養法により、CPVをCRFK細胞のみと共に培養した場合より急速に、検出可能な細胞障害作用が生じた。さらに、混合細胞培養では高力価のCPV産生が3継代の間維持された。
【0075】
本発明をその好ましい態様に関して記載したが、本発明を特許請求の範囲の精神および範囲内で改変して実施しうることは当業者に認識されるであろう。したがって、本発明は前記の態様に限定されるべきではなく、本明細書に提示する記載の精神および範囲内のそのすべての改変および均等物をさらに含むべきである。本明細書に引用したすべての米国特許、特許出願、および他の参考文献を本明細書に援用する。
【0076】
参考文献
【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:2の抗原性領域をコードする部分;および
SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4の抗原性領域をコードする部分
のうち1以上を含むパルボウイルスワクチン。
【請求項2】
さらに、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:1の抗原性領域をコードする部分、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:3の抗原性領域をコードする部分、およびVP−2b型タンパク質をコードする配列からなる群より選択される核酸配列を含む、請求項1に記載のパルボウイルスワクチン。
【請求項3】
SEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:2の前記部分、およびSEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4の前記部分が弱毒パルボウイルス中に存在する、請求項1に記載のパルボウイルスワクチン。
【請求項4】
動物にパルボウイルス感染に対してワクチン接種する方法であって、
SEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:2の抗原性領域をコードする部分;および
SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4の抗原性領域をコードする部分;
を含むパルボウイルスワクチンを該動物に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項5】
パルボウイルスワクチンがさらに、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:1の抗原性領域をコードする部分、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:3の抗原性領域をコードする部分、およびVP−2b型タンパク質をコードする配列からなる群より選択される核酸配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
SEQ ID NO:2、またはSEQ ID NO:2の前記部分、およびSEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4の前記部分が、弱毒パルボウイルス中に存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
生物試料中のCPVの存在を検出する方法であって、以下:
a)核酸配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のうち1以上;または
b)核酸配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のうち1以上によりコードされるアミノ酸配列;
に特異的または選択的に結合する分子に該試料を曝露し;そして、
前記の分子と1以上の前記核酸配列または1以上の前記アミノ酸配列との結合事象を検出する;
ことを含む前記方法。
【請求項8】
前記の分子がオリゴヌクレオチドプライマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記の分子が抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
診断用キットであって、
a)核酸配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のうち1以上;または
b)核酸配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4のうち1以上によりコードされるアミノ酸配列;
の検出に対して特異的な分子を含む、前記診断用キット。
【請求項11】
前記の分子がオリゴヌクレオチドプライマーである、請求項10に記載の診断用キット。
【請求項12】
前記の分子が抗体である、請求項10に記載の診断用キット。
【請求項13】
イヌパルボウイルスを増殖させる方法であって、イヌパルボウイルスをクランダルネコ腎(CRFK)細胞およびベロ細胞の混合物中において適切な培地で培養する工程を含み、この培養工程が、CPVをCRFK細胞単独中において培養した際に達成される力価までイヌパルボウイルスを増殖させうる条件下で実施される前記方法。
【請求項14】
1種類以上のCPV変異株を含むパルボウイルスワクチンであって、その1種類以上のCPV変異株の中和レベルがCPV−2、CPV−2a、CPV−2bおよびCPV−2cからなる群より選択される1種類以上のCPV変異株の中和レベルより少なくとも4倍低いパルボウイルスワクチン。
【請求項15】
中和レベルが血清中和アッセイにより決定され、中和力価として表わされる、請求項14に記載のパルボウイルス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−530853(P2010−530853A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512351(P2010−512351)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/066720
【国際公開番号】WO2008/157236
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(502352276)ザ・ボード・オブ・リージェンツ・フォー・オクラホマ・ステート・ユニバーシティ (6)
【Fターム(参考)】