説明

イネ由来成分を含有する感染防御用組成物

【課題】抗菌活性や炎症抑制活性等の感染防御作用を有するイネ由来成分を見出し、新規な感染防御用組成物およびその用途を提供すること。
【解決手段】以下の(A)〜(C)のいずれかを有効成分として含有することを特徴とする感染防御用組成物。(A)特定の配列で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(B)特定の配列で表されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するタンパク質(C)前記(A)または(B)の一部からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメント

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ由来成分を含有する感染防御用組成物に関するものであり、詳細には、イネ由来のタンパク質またはそのフラグメントを有効成分とする感染防御用組成物およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人は、加齢とともに発音、咀嚼、嚥下、唾液分泌などの口腔機能が低下する。なかでも唾液分泌が低下すると、歯周病や口内炎、齲蝕(虫歯)、口臭といった口腔疾患が増大する。これは、一個人のみならず高齢化社会を迎える日本全体にとっても大きな問題である。
【0003】
これまで、口腔ケア用品などに添加される抗菌成分や殺菌成分としてはエタノールなどの有機溶剤や抗生物質が使われてきた。しかしながら、抗生物質には、長期間の使用によって耐性菌が出現するという問題がある。また、エタノールなどの有機溶剤は、体質的に受け付けられない場合や乳幼児に使用できないという問題がある。
【0004】
動物、植物、昆虫、酵母、乳酸菌などのさまざまな生物には、外界からの病原微生物の侵入に対して自己防御するための自己生体防御機構が本来備っており、アミノ酸が約10〜50個程度からなる抗菌ペプチドを生物自らが産生している。このような抗菌ペプチドは、抗生物質と比較して広範囲な抗菌活性を有し、耐性菌を生じにくいという特性を持つことから、抗菌剤としての利用が期待されている。
【0005】
イネ由来抗菌タンパク質として、オリザシスタチンが知られている。しかしながら、オリザシスタチンは、歯周病菌Porphyromonas gingivalisのジンジパインを阻害することが知られているものの、P.gingivalisの菌体に対して抗菌活性を示さない。また、ディフェンシンなど既知の抗菌タンパク質のホモログがイネに存在することが知られているが、これらのイネの感染症防御に対する寄与については、未だ不明な点が多い。本発明者らは、イネ種子に由来し、歯周病の治療や予防に有効なジンジパインインヒビターおよび抗菌活性を有するタンパク質およびペプチドを報告している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−84161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗菌活性や炎症抑制活性等の感染防御作用を有するイネ由来成分を見出し、新規な感染防御用組成物およびその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]以下の(A)〜(C)のいずれかを有効成分として含有することを特徴とする感染防御用組成物。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するタンパク質
(C)前記(A)または(B)の一部からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメント
[2]前記(C)が、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第158位〜第170位、第241位〜第258位および第309位〜第318位から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列を含むフラグメント、または該フラグメントにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメントであることを特徴とする前記[1]に記載の感染防御用組成物。
[3]感染防御作用が、有効成分の抗菌活性に基づくことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の感染防御用組成物。
[4]感染防御作用が、有効成分の炎症抑制活性に基づくことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の感染防御用組成物。
[5]炎症抑制活性が、エンドトキシン中和活性または炎症性サイトカイン産生抑制活性に基づくことを特徴とする前記[4]に記載の感染防御用組成物。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物を含有してなる飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品または飼料。
[7]以下の(a)または(b)のペプチド。
(a)配列番号2〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)前記(a)のペプチドにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するペプチド
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イネ由来のタンパク質またはそのフラグメントを有効成分とする感染防御用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】米(イネ種子)由来抗菌タンパク質のSuperdex 75pgカラムを用いた4段階目の精製におけるタンパク質溶出画分1〜39に対して抗菌活性試験を行った結果を示す図である。
【図2】米(イネ種子)由来抗菌タンパク質のSuperdex 75pgカラムを用いた4段階目の精製におけるタンパク質溶出画分5〜16をSDS−PAGEに供し、銀染色を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の(A)〜(C)のいずれかを有効成分として含有することを特徴とする感染防御用組成物を提供する。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するタンパク質
(C)前記(A)または(B)の一部からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメント
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、イネ(Oryza sativa)種子に存在し、抗菌活性を有するタンパク質として本発明者らが見出したタンパク質であり、ID:Os03g0277300としてRice Annotation Project Database(RAP−DB、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)に登録されている。
【0012】
本発明の感染防御用組成物の有効成分は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、感染防御作用を有する限り配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質でもよい。また、感染防御作用を有する限りこれらのタンパク質の一部からなるフラグメントでもよい。
【0013】
「1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的変異法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下、特に好ましくは2個以下、最も好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質から単離精製したものであってもよい。タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、当該タンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、本技術分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。より好ましくは、保存性置換、欠失、または付加であり、特に好ましくは、保存性置換である。
【0014】
本発明の感染防御用組成物の有効成分が上記(A)または(B)のフラグメントである場合、フラグメントのサイズは特に限定されないが、総アミノ酸残基数が約100以下であることが好ましい。より好ましくは約80残基以下、さらに好ましくは約50残基以下、特に好ましくは約30残基以下、最も好ましくは約20残基以下である。フラグメントのサイズが小さいほど取り扱いが簡便であり、製造効率が向上し、抗原性等の副作用が軽減される点で有利である。
【0015】
本発明の感染防御用組成物の有効成分として好適なフラグメントとしては、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第158位〜第170位、第241位〜第258位、第309位〜第318位から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列を含むフラグメントが挙げられる。また、感染防御作用を有する限り、当該フラグメントにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されていてもよい。具体的には、例えば以下の配列番号2〜6のアミノ酸配列からなるフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
[配列番号2]Ser−Gln−Arg−Gln−Ala−Thr−Lys−Asp−Ala−Gly−Val−Ile−Ser
[配列番号3]Asp−Asn−Arg−Met−Val−Asn−His−Phe−Val−Gln−Glu−Phe−Lys−Arg−Lys−His−Lys−Lys
[配列番号4]Arg−Ala−Arg−Phe−Glu−Glu−Leu−Asn−Met−Asp−Leu−Phe−Arg−Arg
[配列番号5]Asn−Asp−Ser−Gln−Arg−Gln−Ala−Thr−Lys−Asp−Ala−Gly−Val−Ile−Ser−Gly
[配列番号6]Phe−Glu−Glu−Leu−Asn−Met−Asp−Leu−Phe−Arg
【0016】
配列番号2は配列番号1の第158位〜第170位、配列番号3は配列番号1の第241位〜第258位、配列番号4は配列番号1の第306位〜第319位、配列番号5は配列番号1の第156位〜第171位、配列番号6は配列番号1の第309位〜第318位のアミノ酸配列からなるペプチドである。
本発明には、以下の(a)または(b)のペプチドが含まれる。
(a)配列番号2〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)前記(a)のペプチドにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するペプチド
【0017】
本発明の感染防御用組成物の有効成分となるタンパク質またはそのフラグメントは、例えば、公知の遺伝子工学的手法により当該タンパク質またはそのフラグメントをコードする遺伝子を単離または合成して組み換え発現ベクターを構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより製造することができる。または、in vitro転写・翻訳系によって製造することができる。または、公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)もしくは液相合成法により製造することができる。
得られたタンパク質またはそのフラグメントが感染防御作用を有することは、例えば、抗菌試験、抗炎症試験、エンドトキシン中和試験等の公知試験方法を用いて確認することができる。少なくとも、抗菌活性および抗炎症活性のいずれかを有していれば、感染防御作用を有すると判断できる。
【0018】
本発明の感染防御用組成物の有効成分となるタンパク質またはそのフラグメントを構成するアミノ酸は、側鎖が任意の置換基で修飾されたものでもよい。置換基は特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基などが挙げられる。
本発明の感染防御用組成物の有効成分となるタンパク質またはそのフラグメントは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。エステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基などが挙げられる。本発明のペプチドがC末端以外にカルボキシル基またはカルボキシレートを有している場合、それらの基がアミド化またはエステル化されているものも本発明のペプチドに含まれる。
【0019】
さらに、本発明の感染防御用組成物の有効成分となるタンパク質またはそのフラグメントは、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているものもでもよい。
【0020】
本発明の感染防御用組成物の有効成分となるタンパク質またはそのフラグメントは、薬学的に許容される塩を形成していてもよく、その塩としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属との塩、またはアルミニウムの水酸化物または炭酸塩との塩;トリエチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、t−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アルギニンなどとの塩などが挙げられる。
【0021】
本発明の感染防御用組成物における感染防御作用は、抗菌活性および炎症抑制活性の少なくとも1つの活性に基づくものであることが好ましい。抗菌活性の対象は特に限定されず、各種の細菌、真菌等が挙げられる。本発明の感染防御用組成物は、歯周病菌のPorphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Eikenella corrodens等に対する抗菌活性が確認されているので、歯周病の治療または予防用医薬、口腔ケア製品、口腔ケア用食品等の有効成分として有用である。また、本発明の感染防御用組成物は、ニキビ菌のPropionibacteium acnesや真菌のCandida albicansに対する抗菌活性が確認されているので、ニキビの治療または予防用医薬、ニキビケア用化粧品、カンジダ症の(例えば、口内炎、口角炎、外陰部膣炎、皮膚炎、爪(周囲)炎など)治療または予防用医薬等の有効成分として有用である。また、本発明の感染防御用組成物は、炎症抑制活性の1種であるエンドトキシン中和活性を有することが確認されていることから、本発明の感染防御用組成物が炎症性サイトカイン産生抑制活性を有することは自明である。したがって、本発明の感染防御用組成物は、抗菌用組成物、抗菌剤、抗炎症用組成物、抗炎症剤、エンドトキシン中和剤または炎症性サイトカイン産生抑制剤などと換言することができる。
【0022】
本発明の感染防御用組成物における有効成分の配合割合は、所望の感染防御効果が得られるのに十分な量であれば特に限定されない。通常全組成物の約0.0001〜20質量%であり、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.001〜5質量%である。本発明の感染防御用組成物は有効成分の感染防御作用を妨げない範囲で有効成分以外の成分を含有してもよい。有効成分以外の成分はとくに限定されず、後述する用途に応じて適宜選択することができる。
【0023】
本発明の感染防御用組成物は、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等として用いることができる。なかでも、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品または飼料に用いることが好ましい。
【0024】
本発明の感染防御用組成物を含有してなる飲食品は、食品衛生上許容される添加剤を混合して、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、栄養補助食品、経腸栄養食品、飲料等に加工することができる。飲食品の形態は特に限定されず、固形食品、半固形食品、飲料を含む液状食品、その他の各種の形態の飲食品として提供することができる。飲料としては、具体的には、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等が挙げられる。また、摂取時に水等を用いて希釈して摂取される形態であってもよい。固形食品としては、例えば、飴、トローチ等を含む錠剤(タブレット)や糖衣錠の形態、顆粒の形態、粉末飲料、粉末スープ等の粉末の形態、ビスケット等のブロック菓子類の形態、カプセル、ゼリー等の形態等、種々の形態の食品が挙げられる。半固形食品としては、例えば、ジャム等のペーストの形態、チューイングガム等のガムの形態が挙げられる。
【0025】
これらの飲食品には本発明の感染防御用組成物の他に、目的の効果が損なわれない範囲で、食品素材、食品添加物を配合することができる。食品素材とは、一般に食品の原材料として使用される素材のことであり、薬事法で規定される医薬品および医薬部外品と、食品衛生法で規定される食品添加物を除き、飲食に供される全てのものが含まれる。食品添加物とは、食品の加工または保存の目的で添加される物質のことである。
【0026】
食品添加物の例としては、厚生労働省の「指定添加物リスト」、「既存添加物名簿収載品目リスト」、「天然香料基原物質リスト」、「一般に食品として飲食に供させている物であって添加物として使用される品目リスト」等に収載される食品添加物、JECFA等の国際機関で安全性が確認されたもの、米国・欧州等の諸外国で使用が認可されている食品添加物等が挙げられ、保存料・日持向上剤、酸化防止剤、甘味料、着色料・色素、乳化剤、増粘ゲル化剤、品質改良剤、調味料、酸味料、強化剤、香料、酵素等に分類される。
【0027】
本発明の感染防御用組成物を含有してなる医薬品、医薬部外品は、当該感染防御用組成物以外に、薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0028】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射剤用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。注射剤用の油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0029】
本発明の感染防御用組成物を含有してなる化粧品は、当該感染防御用組成物以外に、化粧品として一般に使用されている成分、例えば、界面活性剤、保湿剤、動植物由来油脂、シリコーン類、高級アルコール、低級アルコール、動植物由来抽出エキス、紫外線吸収剤、消炎剤、金属封鎖剤、ビタミン類、酸化防止剤、増粘剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、着色剤、各種香料などを目的に応じて適宜配合することができる。さらに、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;着色料等を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【0030】
本発明の感染防御用組成物を含有してなる化粧品の形態は特に限定されない。例えば、適当な基材中に当該感染防御用組成物を溶解または混合分散させて、クリーム状、ペースト状、ジェリー状、ゲル状、乳液状、液状の形状になされたもの(軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、スプレー剤など)、基材中に当該感染防御用組成物を溶解または混合分散させたものを支持体上に展延したもの(パップ剤など)、粘着剤中に当該感染防御用組成物を溶解または混合分散させたものを支持体に展延したもの(プラスター剤、テープ剤など)、不敷布に含ませたもの(マスクなど)などが挙げられる。最終形態としては、特には限定されないが、クリーム、ローション、ジェル、ミスト、マスク、パック、シャンプー、リンス等が挙げられる。
【0031】
本発明の感染防御用組成物を含有してなる飼料としては、例えば、ウシ、ウマ、ブタ等の家畜用飼料、ニワトリ等の家禽用飼料、イヌ、ネコ等のペット用飼料などが挙げられる。本発明の飼料は、飼料中に本発明の感染防御用組成物を添加する以外、一般的な飼料の製造方法を用いて加工製造することができる。
【0032】
本発明の感染防御用組成物の有効成分は、食経験の長い米(イネ種子)に存在する成分であり、細胞毒性が無いことが溶血性試験により確認されているため安全性が高く、作用がマイルドであり、長期間の摂取または使用が可能である。また、本発明の感染防御用組成物の有効成分は、感染防御に関する複数の作用を兼ね備えた多機能成分であり、他の抗菌剤や抗炎症剤と併用することにより、相加的または相乗的な効果の向上が期待できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いて、実験を実施することができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明がない場合、それらに添付のプロトコールを用いることができる。また、当業者であれば本明細書の記載および前記した標準的なプロトコール集などの記載から容易に本発明を再現することができる。
【0034】
〔実施例1:米(イネ種子)由来抗菌タンパク質の精製・同定〕
最初に砕米200gを2Lの超純水に加え、30分間攪拌した。次に砕米を取り出し、新たに200gの砕米を加えて再度30分間攪拌した。この操作を砕米2kg分繰り返した後に、溶液を遠心分離(6,000×g、4℃、10分間)して得られた上澄を米タンパク質抽出液として使用した。
【0035】
米タンパク質抽出液から、抗菌タンパク質を以下の手順で精製した。全ての操作は0〜4℃で行った。透析の際に使用する透析膜として、Spectra/Por Dialysis Membrane MWCO1000(SPECTRUM)を使用した。20mM Tris−HCl(pH7.5)で平衡化したDEAE−Toyopearl 650Mカラム(5×10cm)(TOSOH)に米タンパク質抽出液を供し、同バッファーで洗浄した後、0〜500mM NaCl[20mM Tris−HCl(pH7.5)]の溶出液の濃度勾配により、吸着タンパク質を溶出した。流速は1mL/min、溶出量は500mLに設定し、フラクションコレクターSF−2120(ADVANTEC)を用いて10mLずつワッセルマン試験管に分取した。
【0036】
P.gingivalisに対する抗菌活性を示す画分を回収し、脱塩のため20mM Tris−HCl(pH7.5)で透析した。以降に示す全てのクロマトグラフィー操作は、タンパク質精製システムAKTA Purifier(GE Healthcare)を使用して行い、ろ過フィルターDISMIC−25cs Cellulose Acetate 0.20μm(ADVANTEC)を用いてサンプルの前処理を行った。20mM Tris−HCl(pH7.5)で平衡化したQ−Sepharose HPカラム(1.6×10cm)(GE Healthcare)に透析内液を供し、同バッファーで洗浄した後、0〜500mM NaCl[20mM Tris−HCl(pH7.5)]の溶出液の濃度勾配により吸着タンパク質を溶出した。流速は4mL/min、溶出量は200mLに設定し、3mLずつ分取した。
【0037】
抗菌活性を示したQ−Sepharose HP分画画分には、30%飽和、50%飽和、70%飽和となるように硫酸アンモニウムを段階的に加え、ステップごとに遠心操作(12,000×g、4℃、10分間)を行って沈殿物を回収した。各沈殿物は少量の20mM Tris−HCl(pH7.5)に再溶解させた。抗菌活性を含む30〜50%飽和硫酸アンモニウム画分を回収し、20mM Tris−HCl(pH7.5)で透析を行った。0.15M NaClを含む20mM Tris−HCl(pH7.5)で平衡化したSuperdex 75pgカラム(1.6×60cm)(GE Healthcare)に透析内液を供し、同バッファーで溶出した。流速は1mL/min、溶出量は120mLに設定し、2mLずつ分取した。抗菌活性を含む画分をOsAmpII(仮称:Oryza Sativa Antimicrobial protein II)の粗精製物とした。
【0038】
MALDI−TOF MS(Auto Flex-IIITM;BRUKER DALTONICS)を用いてOsAmpIIの質量分析を行った。分析には、マトリックスとしてSinapinic acid(SA)(BRUKER DALTONICS)を選択した。アセトニトリルとトリフルオロ酢酸の混合液(100%Acetonitrile : 0.1%Trifluoroacetic acid(TFA)= 1 : 2)にSAを溶解してSA飽和溶液を調製した。サンプルチューブ内でサンプル溶液とSA飽和溶液を1:1で混合して、混合溶液をMTP 384 target plate ground steel TF(BRUKER DALTONICS)にスポットした後、完全に乾燥するまで静置した。キャリブレーションには、Protein Calibration Standard II(BRUKER DALTONICS)を用いてサンプルと同様に調製とスポットを行った。Auto Flex・IIITMの操作には、制御ソフトflexControlTM(BRUKER DALTONICS)を使用し、得られたMSスペクトルからOsAmpIIの分子量を決定した。
【0039】
各精製段階で得られた画分の抗菌活性試験は、以下の手順で行った。変法GAM培地(実施例2参照)に80μLのP.gingivalis細胞懸濁液を播種した後、37℃のインキュベーターに入れて24時間培養した。その後新たな培地に植え継いで、さらに12時間培養した。得られた前培養液を段階希釈することでOD650=5.0×10−5の菌液を調製した。次に、リザーバーを用意して、各レーンに300μLの1.33倍濃度の培地、100μLのサンプル溶液、100μLの希釈した菌液を添加してよく混合した。BlankとControlにはサンプルの代わりに同量の滅菌水を添加し、Blankには培養液の代わりに1倍濃度の培地を同量添加した。混合液は96穴培養プレート(Corning)に各ウェル100μLずつ分注した。その後嫌気ジャー(三菱ガス化学)を用いて37℃で嫌気培養した。
【0040】
抗菌活性は、生菌に由来するATPを定量することで評価した。生菌に由来するATPの定量は、BacTiter・GloTM Microbial Cell Viability Assay Kit(Promega)を用いたルシフェリン−ルシフェラーゼ発光法により行った。まず、培養プレートの各ウェルに分注した100μL菌懸濁液に対して10μLのルシフェールATP消去試薬(Kikkoman)を添加し、10分間攪拌することで生菌体外に存在するATPを分解消去させた。次に、あらかじめOptiPlate−96(Perkin Elmer)の各ウェルに分注した50μLのATP発光試薬に、各細胞懸濁液を50μL添加した。各ウェルの生菌に由来するATP発光強度(発光波長560nm)は、マイクロプレートリーダー1420 Multilabel Counter ARVOTMMX(PerkinElmer)を用いてRelative Light Unit(RLU)として測定した。抗菌活性は、抗菌成分を含まないControlのRLUを指標とした相対値(%)で表した。1サンプルにつき2回測定を行い、測定はP.gingivalisの対数増殖期初期にあたる、培養後48〜60hに行った。
【0041】
Superdex 75pgカラムで分画した際の、タンパク質溶出画分1〜39に対して抗菌活性試験を行った結果を図1に示した。また、画分5〜16をSDS−PAGEに供し、銀染色を行った結果を図2に示した。図1から明らかなように、画分9〜11に強い抗菌活性が検出された。図2から、40kDa付近に検出されたタンパク質バンドがOsAmpIIであると推定された。
【0042】
Superdex 75pg分画画分10のSDS−PAGEゲル(CBB染色)からバンドを切り取って、トリプシン消化断片を調製し、MALDI−TOF MSによるPMF解析に供した。その結果、OsAmpIIは、分子量71,932Da、653アミノ酸残基(配列番号1)を有する機能不明タンパク質Os03g0277300の部分配列であると同定した。BLAST検索(http://blast.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)の結果、OsAmpIIはヒト由来の熱ショックタンパク質(Hsp70)のN末端領域と高い相同性(72% Identity)を示すことが分かった。
【0043】
〔実施例2:OsAmpII由来ペプチドによる抗菌スペクトルの検討(1)〕
(1)ペプチド
実施例1で同定したタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)に基づいて、タンパク質表面にあり、α−へリックス構造を取り、疎水性残基と塩基性残基をともに含んでいる部分を検索した結果、表1に記載の5種類のペプチドを合成して、抗菌スペクトルを検討した。各ペプチドは、ペプチド合成装置(Thuramed社製Tetras 106)を用いて合成し、カラム(Akzonobel社製Kromasil C18)を装着したHPLC(SHIMADZU社製10A system)にて以下の精製条件で精製した。
<精製条件>
・溶媒A:0.1質量%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル
・溶媒B:0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む水
・流速:1.0mL/min
・波長:220nm
・インジェクション容量:20μL
・グラジエント条件:0.01min(溶媒A10%、溶媒B90%)→25.0min(溶媒A35%、溶媒B65%)→25.1min(溶媒A100%、溶媒B0%)→30min(STOP)
【0044】
【表1】

【0045】
(2)使用菌株
被験菌として、グラム陰性菌であるPorphyromonas gingivalis JCM 8525、W50、ATCC 33277、Escherichia coli K-12、Pseudomonas aeruginosa NBRC 13275、グラム陽性菌であるStreptococcus mutans JCM 5705、Staphylococcus aureus NBRC 12732、NBRC 100910、Propionibacteium acnes JCM 6473、および真菌類であるCandida albicans NBRC 1385を用いた。
【0046】
(3)抗菌試験
各ペプチドを最終濃度0.145mMとなるように培地に添加し、被験菌を培養した。
P. gingivalis JCM8525、W50、ATCC 33277は、変法GAM培地(1L中、ペプトン5.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン5.0g、消化血清末10.0g、酵母エキス末2.5g、肉エキス末2.2g、肝臓エキス末1.2g、ブドウ糖0.5g、溶性デンプン5.0g、L−トリプトファン0.2g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、L−アルギニン1.0g、ビタミンK0.005g、ヘミン0.01g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3.0g、pH7.3)を用いて絶対嫌気条件下、37℃で48時間静置培養した。
E. coli K-12は、LB培地(1L中、トリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0g、pH7.0)またはTSB培地(1L中、カゼイン製ペプトン17.0g、ダイズ製ペプトン3.0g、塩化ナトリウム5.0g、ブドウ糖2.5g、リン酸水素二カリウム2.5g、pH7.3)を用いて通性嫌気条件下、37℃で4時間静置培養した。
P. aeruginosa NBRC 13275、S. aureus NBRC 12732、S. aureus NBRC 100910の培地には、上記のTSB培地を用いた。P. aeruginosa NBRC 13275は通性嫌気条件下、30℃で10時間静置培養した。S. aureus NBRC 12732は通性嫌気条件下、37℃で10時間静置培養した。S. aureus NBRC 100910は通性嫌気条件下、37℃で6時間静置培養した。
S. mutans JCM 5705は、BHI培地(1L中、豚脳エキス末4.0g、豚ハートエキス末4.0g、ペプトン17.5g、ブドウ糖2.0g、塩化ナトリウム5.0g、リン酸水素二ナトリウム2.5g、pH7.2)を用いて通性嫌気条件下、37℃で6時間静置培養した。
P. acnes JCM 6473は、GAM培地(1L中、ペプトン10.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン10.0g、消化血清末13.5g、酵母エキス5.0g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖3.0g、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3.0g、溶性デンプン5.0g、L−システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、pH7.1)を用いて通性嫌気条件下、37℃で24時間静置培養した。
C. albicans NBRC 1385は、YM培地(1L中、グルコース10.0g、ペプトン5.0g、酵母エキス3.0g、麦芽エキス1.0g、pH6.2)を用いて通性嫌気条件下、25℃で24時間静置培養した。
抗菌活性の評価は、実施例1と同様の方法で行った。すなわち、100μLの菌懸濁液を用いて生菌に由来するATPを定量することで評価した。
【0047】
結果を表2に示した。表2において、抗菌活性の有無は%の値とNDで表示し、%の値が高いほど抗菌活性が強く、NDは抗菌活性を示さないことを表す。また、表2中「−」は抗菌試験を実施していないことを表す。表2から明らかなように、Hsp70(158−170)、Hsp70(241−258)、Hsp70(306−319)、Hsp70(156−171)およびHsp70(309−318)は、いずれもP. gingivalis JCM 8525、W 50、ATCC 33277に対して抗菌活性を示した。一方、これらのペプチドは、グラム陰性菌のE. coli K-12、P. aeruginosa NBRC 13275、グラム陽性菌のS. mutans JCM 5705、S. aureus NBRC 12732、S. aureus NBRC 100910に対して抗菌活性を示さなかった。Hsp70(241−258)はニキビ菌であるP. acnes JCM 6473に対して弱い抗菌活性を示し、日和見感染菌(真菌)のCandida albicans NBRC 1385に対して抗菌活性を示した。他のペプチドは、P. acnes JCM 6473およびCandida albicans NBRC 1385に対して抗菌活性を示さなかった。
【0048】
【表2】

【0049】
〔実施例3:OsAmpII由来ペプチドによるエンドトキシン中和活性の検討〕
「エンドスペシーES−50Mセット」(生化学バイオビジネス株式会社)および「エンドトキシン標準品CSE−Lセット」(生化学バイオビジネス株式会社)を用いてエンドトキシン中和活性を評価した。
ペプチドには、表1に記載のHsp70(241−258)を用いた。96穴プレートの各ウェルにエンドトキシン標準品(0.10EU/mL)25μLおよびペプチド溶液(最終濃度1μMおよび10μM)を加えて、37℃で20、25、30または35分間浸透しながらインキュベーションした。続いて、LAL試薬50μLを各ウェに添加し、37℃で10分間浸透しながらインキュベーションした。その後、マイクロプレートリーダー2030 ARVO X(Perkin Elmer)を用いて、波長405nmの吸光度を測定した。ペプチド溶液の代わりに蒸留水(エンドトキシンフリー)を添加したものをコントロールとし、コントロール(0μM)の吸光度を100%とした時の相対値をエンドトキシン中和活性とした。
【0050】
結果を表3に示した。表3から明らかなように、Hsp70(241−258)は濃度依存的にエンドトキシンを中和することが示された。
【0051】
【表3】

【0052】
〔実施例4:OsAmpII由来ペプチドによる抗菌スペクトルの検討(2)〕
(1)ペプチド
Hsp70(241−258)、Hsp70(156−171)およびHsp70(309−318)の3種類のペプチドを用いた(表1参照)。
(2)使用菌株
被験菌として、グラム陰性菌であるPorphyromonas gingivalis W 83、Aggregatibacter actinomycetemcomitans 310a、Fusobacterium nucleatum ATCC 25586、およびEikenella corrodens ATCC 23834を用いた。
(3)抗菌試験
各ペプチドを最終濃度0.145mMとなるように培地に添加し、被験菌を培養した。
P. gingivalis W 83は、変法GAM培地(実施例2参照)を用いて絶対嫌気条件下、37℃で48時間静置培養した。A. actinomycetemcomitans 310a、F. nucleatum ATCC 25586、およびE. corrodens ATCC 23834は、TSB培地(実施例2参照)を用いて絶対嫌気条件下、37℃で静置培養した。培養時間は、A. actinomycetemcomitans 310aが14時間、F. nucleatum ATCC 25586が5時間、E. corrodens ATCC 23834が20時間とした。
抗菌活性の評価は、実施例1と同様の方法で行った。すなわち、100μLの菌懸濁液を用いて生菌に由来するATPを定量することで評価した。
【0053】
結果を表4に示した。表4において、抗菌活性の有無は%の値とNDで表示し、%の値が高いほど抗菌活性が強く、NDは抗菌活性を示さないことを表す。また、表4中「−」は抗菌試験を実施していないことを表す。表4から明らかなように、Hsp70(241−258)、Hsp70(156−171)およびHsp70(309−318)は、いずれもP. gingivalis W 83に対して抗菌活性を示した。一方、これらのペプチドは、A. actinomycetemcomitans 310aに対して抗菌活性を示さなかった。Hsp70(241−258)は、E. corrodens ATCC 23834に抗菌活性を示したが、F. nucleatum ATCC 25586にはほとんど抗菌活性を示さなかった。Hsp70(156−171)はF. nucleatum ATCC 25586およびE. corrodens ATCC 23834に弱い抗菌活性を示した。Hsp70(309−318)はF. nucleatum ATCC 25586およびE. corrodens ATCC 23834のいずれにも抗菌活性を示さなかった。
【0054】
実施例2および4の結果から、実験に供したペプチドは、歯周病菌のP. gingivalis、F. nucleatumおよびE. corrodens、ならびに日和見感染菌(真菌)のCandida albicansに抗菌活性を示し、ニキビ菌のPropionibacteium acnesに弱い抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0055】
【表4】

【0056】
〔実施例5:OsAmpII由来ペプチドの細胞毒性(溶血性試験)〕
0〜1mMのHsp70(158−170)、Hsp70(241−258)およびHsp70(306−319)について溶血性試験を行い、OsAmpII由来ペプチドの細胞毒性を試験した。
(1)溶血性試験
(a) 2ml用マイクロテストチューブに40μLの緬羊脱繊維無菌血液(コスモバイオ)を分注した。
(b) さらに960μLの0.8%塩化ナトリウム入りリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)をマイクロテストチューブに加え、血液濃度を4%(v/v)にした。
(c) 上記(b)の血液懸濁液を遠心分離した(5000rpm、5分間)。
(d) ピペットマンを用いて、上清液を廃棄した。
(e) (b)〜(d)を3回繰り返すことにより、遠心分離後の上清液が透明になったことを確認し、これを血液サンプルとした。
(f) 96穴マイクロプレートに血液サンプルを各ウェルに50μLずつ分注した。
(g) 任意の濃度に希釈したペプチドとPBSの合計が50μLになるように各ウェルに分注した。
(h) 37℃にて1時間インンキュベートした。
(i) マイクロプレートごと遠心分離した(4000rpm、10分間)。
(j) 新しい96穴マイクロプレートを用意し、PBSを各ウェルに150μLずつ分注した。
(k) 各サンプルの上清液を50μLずつ(j)のプレートに移した。
(l) 十分に混合した後、405nmにおける吸光度を測定した。
【0057】
0.1%TritonX−100(非イオン性界面活性剤)を用いて赤血球を破壊したときの溶血活性を100%とし、PBSを添加したときの溶血活性を0%とした。ハチ毒に含まれるペプチドMelittinを陽性対照として用いた。
結果を表5に示した。表5から明らかなように、各ペプチドには溶血活性がなく、細胞毒性がないことが示された。
【0058】
【表5】

【0059】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(C)のいずれかを有効成分として含有することを特徴とする感染防御用組成物。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するタンパク質
(C)前記(A)または(B)の一部からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメント
【請求項2】
前記(C)が、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第158位〜第170位、第241位〜第258位および第309位〜第318位から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸配列を含むフラグメント、または該フラグメントにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するフラグメントであることを特徴とする請求項1に記載の感染防御用組成物。
【請求項3】
感染防御作用が、有効成分の抗菌活性に基づくことを特徴とする請求項1または2に記載の感染防御用組成物。
【請求項4】
感染防御作用が、有効成分の炎症抑制活性に基づくことを特徴とする請求項1または2に記載の感染防御用組成物。
【請求項5】
炎症抑制活性が、エンドトキシン中和活性または炎症性サイトカイン産生抑制活性に基づくことを特徴とする請求項4に記載の感染防御用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を含有してなる飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品または飼料。
【請求項7】
以下の(a)または(b)のペプチド。
(a)配列番号2〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)前記(a)のペプチドにおいて1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ感染防御作用を有するペプチド

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60416(P2013−60416A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157202(P2012−157202)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(591066362)築野食品工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】