説明

イネ科植物砕粉混合物、およびその製造方法

【課題】 本発明は、これまで継続的に使用・摂取することが困難であった液状エキス等に対して、イネ科植物砕粉を賦形剤として用いることにより、液状エキスに適度な粘度を付与するもしくは固形化することを可能にし、液状エキス等の摂取を容易にすることを目的とする。さらに、植物から熱分解によって得られる有効成分を同時に使用・摂取可能な混合物およびその製造方法を提供し、もって、広汎な薬理作用に優れたイネ科植物砕粉混合物を提供することを目的とする。
【解決手段】イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉からなる混合物。イネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とからなる混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ科植物砕粉を賦形剤とする混合物に関する。当該混合物は、例えば、健康維持食品、癌をはじめとする生活習慣病の予防を目的とした食品、その他の免疫力低下防止剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、抗腫瘍剤、抗変異原性剤、抗炎症剤などに用いることができる。
【背景技術】
【0002】
イネ科植物、例えばササ属は古くから薬理活性や防腐効果があると言われ、特に葉は火傷、乏尿などの民間薬として、また餅、寿司などの保存食の包装にも広く利用されている。近年では柴田らが笹葉熱水抽出物に抗炎症・抗潰瘍、鎮静、利尿、解毒、血圧下降、高血糖症、高脂血症の改善など種々の薬理作用があることを認め、笹葉中に含まれる多量のカリウムが循環器に対する作用に大きく影響していると報告している(日薬理誌、71,481,1975、日薬理誌、72,531,1976、薬誌、98,143,1978等)。また、ササ抽出物にも抗炎症・抗潰瘍、血圧降下作用、抗腫瘍等の薬理作用が数多く報告されている(J.Hokkaido For.Prod.Res.Inst.Vol.9,No.6,1995、昭和医学会雑誌第48巻、第5号、595-600、1988等)。
【0003】
ササ抽出物中の有効成分としては可溶性ヘミセルロースの抗腫瘍性が注目されており、中でもキシロオリゴ糖を中心とした多糖類が抗腫瘍効果発現に重要な役割を演じていると考えられている。特開平06−197800号公報、特開平11−199502号公報等にはササ類の葉および/または稈を高温、高圧の飽和水蒸気処理することで糖類を効率よく抽出する方法が開示されている。また、特開2002−322079号公報には高温、高圧の飽和水蒸気処理で得られたササ抽出物をピロリ菌に対する抗菌、除菌剤に用いている。
【0004】
笹葉・茎・稈の砕粉にその抽出物を混合することにより、植物が従来保有している熱分解性有効成分に加え、植物の熱分解により取り出される抽出成分をも同時に使用・摂取可能となり倍旧の効果が期待できる。ところが、糖成分を多く含んだ植物エキスはその効果が認められていても通常液状であるがため携帯性、飲用時の味覚等の問題で継続的に使用・摂取することが困難であることがあった。さらにその吸湿性のため単独で乾燥、機能保持させることは工業的に難しかった。仮に一般の賦形剤等を用いて乾燥しても植物が連想させる色のイメージとかけ離れたものとなることが多かった。また抽出時に高温あるいは高圧化にさらされる為、植物が従来保有している熱分解性有効成分を同時に摂取することは困難であることがあった。
【特許文献1】特開平06−197800号公報
【特許文献2】特開平11−199502号公報
【特許文献3】特開2002−322079号公報
【非特許文献1】日薬理誌、71,481,1975
【非特許文献2】日薬理誌、72,531,1976
【非特許文献3】薬誌、98,143,1978
【非特許文献4】J.Hokkaido For.Prod.Res.Inst.Vol.9,No.6,1995
【非特許文献5】昭和医学会雑誌第48巻、第5号、595-600、1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これまで継続的に使用・摂取することが困難であった液状エキス等に対して、イネ科植物砕粉を賦形剤として用いることにより、液状エキスに適度な粘度を付与するもしくは固形化することを可能にし、液状エキス等の摂取を容易にすることを目的とする。さらに、植物から熱分解によって得られる有効成分を同時に使用・摂取可能な混合物およびその製造方法を提供し、もって、広汎な薬理作用に優れたイネ科植物砕粉混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉からなる混合物に関する。
【0007】
また、本発明は、イネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とからなる混合物に関する。
【0008】
また、本発明は、イネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とが同一属に分類されるイネ科植物由来である上記混合物に関する。
【0009】
また、本発明は、イネ科植物エキスが、タケ亜科に分類される植物から抽出されたエキスである上記混合物に関する。
【0010】
また、本発明は、イネ科植物エキスが、タケ亜科ササ属に分類される植物から抽出されたエキスである上記混合物に関する。
【0011】
また、本発明は、イネ科植物エキスが、イネ科植物の葉・茎・稈を蒸煮した後、水および/または水性溶媒で抽出されたエキスであることを特徴とする上記混合物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記混合物を打錠してなる打錠成形物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記混合物からなる顆粒であって、30〜150メッシュを通過させてなる顆粒に関する。
【0014】
また、本発明は、イネ科植物の葉・茎・稈を蒸煮した後、水および/または水性溶媒で抽出されたイネ科植物エキスと、イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とを混煉することを特徴とする混合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、広汎な薬理作用に優れた、植物が従来保有している熱分解性有効成分を摂取でき、さらに、エキスを併用することにより、植物の熱分解により取り出される抽出成分を同時に使用・摂取可能なエキス混合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉を賦形剤を用いることにより、イネ科植物エキスの使用・摂取する利便性を向上させることを特徴とする。
【0017】
本発明で用いるイネ科植物は特に限定しないが、タケ亜科に分類される植物が好ましい。タケ亜科植物には、例えばササ属、メダケ属、ホウライチク属、マダケ属などが含まれるが中でもササ属が好ましい。さらには、クマザサ属に分類されるものが好ましく、例えばゴテンバザサ、カツラギザサ、スズダケ、ミヤマクマザサ、ネマガリダケ、ミヤコザサ、ホソバザサ、クマイザサ、クマザサ、チュウゴクザサ等があり中でもクマイザサが最も好ましい。また笹の葉および稈中に蓄積される成分が季節により変動することは良く知られており、本発明に用いる場合は7〜11月に収穫される笹が最適である。
【0018】
本発明に用いるイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉は、水分を多く含むものであってもよいが、イネ科植物の葉および/または茎および/または稈を十分に乾燥し、粉砕したものであってもよい。好ましい水分はイネ科植物の葉・茎・稈全体に対して10重量%以下であり、それより多い場合であると腐敗、発酵により成分が変質する恐れがある。好ましい粉砕粒度は300μm以下であり、300μmよりも大きいと吸湿性が悪くなり乾燥が難しく、食感も損なうことがある。
【0019】
本発明で用いられるイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉は、植物エキスや薬効成分などを含んで混合物として用いられる。
【0020】
本発明で用いられるイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉と共に用いることのできる植物エキスや薬効成分としては、植物エキス、動物エキス、酵素や合成による薬効成分などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの成分は、液状であることが多く、携帯する場合、秤量する場合、調合する場合などにおいて、利便性を著しく欠いていることがある。本発明では、イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉を用いることにより、これらの液状成分に適度な粘度あるいは粉末化することより、利便性を著しく向上することができる。
【0021】
イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉を用いることにより、イネ科植物に含まれる有効成分を享受できることになるが、より効率よくイネ科植物の有効成分するためには、共に用いる植物エキスが、イネ科植物由来のイネ科植物エキスであることが好ましい。
【0022】
本発明に用いるイネ科植物エキスは、上記イネ科植物の葉および/または茎および/または稈から、水および/または水性溶媒で抽出されたものが好ましく、さらには蒸煮、抽出操作により抽出されたエキスが最も好ましい。蒸煮温度については特に限定しないが、150℃以上の高温で蒸煮することが最も好ましい。150℃以上の高温で効率的にヘミセルロースの分解が起こり、抽出効率が向上する。抽出温度については特に限定しないが、80℃以上の熱水で抽出することが最も好ましい。低温では抽出効率が低下する。
【0023】
本発明に用いられる水性溶媒は水が好ましく、用途によって許される場合はアルカリ水溶液を用いることで抽出効率を上げることができる。本発明に用いられるアルカリ水溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が好ましい。また、用途によって可能な範囲でメタノール、エタノール、アセトン等の水溶性溶媒、またはそれらの混合液あるいは水との混合溶液を用いることもできる。
【0024】
本発明中のイネ科植物エキスは濾過、カラム精製、溶剤洗浄などの選別工程を経たものであってもよい。
【0025】
本発明中のイネ科植物エキスは、Brix換算濃度40%以上であることが好ましい。Brix換算濃度40%に満たないと腐敗、発酵により成分が変質する恐れがある。
【0026】
本発明のイネ科植物エキス混合物は、乾燥重量で30重量%以上のイネ科植物エキス成分を含むことが好ましい。イネ科植物エキスの標準最適摂取量は1日あたり800mgであり、乾燥重量で30重量%未満ではイネ科植物エキス混合物を多量に摂取する必要が生じ、継続的に摂取することが困難となる場合がある。
【0027】
イネ科植物エキスの、熱分解性成分と熱分解生成成分とを同時に摂取可能とするために、用いるイネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とは、同一植物由来であることが好ましい。
【0028】
本発明の使用形態は特に限定はなく、エキス混合物をそのままあるいは加工して、再溶解、分散して使用しても良く、経口、非経口の何れも可能であるが、例えば、経口的に摂取する場合には、食品添加剤として食品に添加して摂取することができる。食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品の種類に応じ適宜決めればよい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料などの液体食品や菓子類やその他の各種食品等の固形食品に添加して用いることができる。また、その他に、本発明の抽出物を人体に投与する場合の投与方法の一例を示すと次の通りである。投与は、種々の方法で行うことができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等による経口投与とすることができる。経口投与剤は、本発明の植物エキス混合物そのままでも直接打錠成形物とすることが可能であるが、通常の製造方法に従って打錠成形物とすることもできる。例えば、デンプン、乳糖、マンニット等の賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤等を適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等として製造することができる。
【0029】
顆粒とする場合は、本発明の植物エキス混合物を押出し造粒し温風乾燥機等で乾燥後、振動振るい機等で150〜10メッシュを通過させてなる顆粒に破砕・整粒することが好ましい。150メッシュパスより細かい、あるいは10メッシュパスよりも大きいと食感を損なう恐れが生じ、経口することが難しいことがある。また、顆粒を連続打錠、成形する場合に150メッシュパスより細かいとホッパー内で詰まる等機械的不都合が生じる可能性があり、10メッシュパスよりも大きいと所望とされる錠剤硬度が得られない可能性がある。
【0030】
また、化粧品等に添加して皮膚等に塗布することによっても有効に使用できる。化粧品に添加する場合には、化粧品の本来の機能を阻害しない範囲において、添加量を適宜決めればよい。
【0031】
本発明の植物エキス混合物のその他の用途としては、噴霧剤、座剤、防腐剤、はみがき剤、石鹸、シャンプー、化粧水、軟膏、皮膚貼り付けフィルム、消毒液、浴用剤、化粧品などの、医療品もしくは医療補助品、耳栓、手袋、帽子、白衣、眼帯などの医療用品、空気清浄機、クーラー、掃除機、換気扇、マスクなどのフィルタ、カーペット、床板、壁板、壁紙などの室内建装材、機器、家具や雑貨などの保護シート、保護カバー、保護板、マスターバッチ、塗料、インキ、衣服、肌あて、寝具、包帯、ガーゼ、ハンカチ、ペナント、クロスなどの日用布製品、包装紙、ノート、メモ書き、ウエットティッシュなどの日用紙製品などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、%は重量%を示す。
<実施例1>
ニーダー中に水分量7%、最大粒径100μmに乾燥粉砕した笹葉粉末50gを仕込み攪拌しながらインチンコウ抽出液W(丸善製薬社製)50gを添加しよく混煉する。1mmφのメッシュで押出し造粒し棚式温風乾燥機で50℃、12時間乾燥し、振動篩機で粉砕整粒し100メッシュパスの顆粒状エキス混合物を得た。
【0033】
<実施例2>
180℃、10分間高圧蒸煮した笹葉400gに純水4kgを加えて110℃、30分抽出後、抽出液をろ過、減圧濃縮してBrix換算濃度50%のササエキス50gを得た。ニーダー中に水分量7%、最大粒径100ミクロンに乾燥粉砕した笹葉粉末50gを仕込み攪拌しながら上記ササエキス50gを添加しよく混煉する。1mmφのメッシュで押出し造粒し棚式温風乾燥機で50℃、12時間乾燥し、振動篩機で粉砕整粒し100メッシュパス、エキス含有量が約35%の顆粒状エキス混合物を得た。
【0034】
<実施例3>
実施例2で得られた顆粒状エキス混合物の直接打錠を行い250mg/Tの打錠成形物を得た。
【0035】
(比較例1)
実施例2と同様の方法で抽出後、抽出液をろ過、減圧濃縮、乾燥して乾燥エキス25gを得た。
【0036】
(比較例2)
実施例2の乾燥粉砕した笹葉粉末をセルロースパウダー(KCフロックW―400)に変更した以外は同様の方法で行い、エキス含有量が約33%の顆粒状エキス混合物を得た。
【0037】
(比較例3)
比較例2で得られた顆粒状エキス混合物の直接打錠を行い250mg/Tの打錠成形物を得た。
【0038】
<エキス混合物の評価>
(保存安定性)
25℃・RH50%環境下に1週間放置し、含水率を測定した。
(食用時の味、植物から連想されるイメージ)
実施例1、2、3、比較例1、2、3のエキス混合物を食用した被験者30人を対象にアンケート調査を行った。味覚については、最も食べやすいもの、経口しやすいもの(○)、最も食べにくいもの、経口しにくいもの(×)を選択してもらった。植物から連想されるイメージについては、最も笹を連想させたもの(○)、最も笹のイメージから離れたもの(×)を選択してもらった。
【0039】
(評価結果)
以上の評価方法により実施例1、2、3、比較例1、2、3により得られたエキス混合物の評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1により、明らかなように、比較例1の乾燥エキスは経時での吸湿が激しく乾燥品としての品質保持、使用が困難であった。また、実施例1、2、3、即ち笹葉砕粉を賦形剤として用いたエキス混合物は比較例2、3との比較から被験者の味覚、ササからイメージされる色調に合致したエキスとなっており継続的な摂取に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉からなる混合物。
【請求項2】
イネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とからなる混合物。
【請求項3】
イネ科植物エキスとイネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とが同一属に分類されるイネ科植物由来である請求項2記載の混合物。
【請求項4】
イネ科植物エキスが、タケ亜科に分類される植物から抽出されたエキスである請求項2または3記載の混合物。
【請求項5】
イネ科植物エキスが、タケ亜科ササ属に分類される植物から抽出されたエキスである請求項4記載の混合物。
【請求項6】
イネ科植物エキスが、イネ科植物の葉・茎・稈を蒸煮した後、水および/または水性溶媒で抽出されたエキスであることを特徴とする請求項2〜5いずれか記載の混合物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の混合物を打錠してなる打錠成形物。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか記載の混合物からなる顆粒であって、30〜150メッシュを通過させてなる顆粒。
【請求項9】
イネ科植物の葉・茎・稈を蒸煮した後、水および/または水性溶媒で抽出されたイネ科植物エキスと、イネ科植物の葉・茎・稈の砕粉とを混煉することを特徴とする混合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−169151(P2006−169151A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362468(P2004−362468)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】