説明

イノシトール1,4,5−三リン酸受容体サブタイプ3の阻害用の組成物

本発明は、カフェインおよび/またはその類似体、および/またはこれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、イノシトール1,4,5−三リン酸受容体(IPR)サブタイプ3(IPR3)を阻害するための薬剤が提供される。受容体を通じたCa2+放出と関連する疾病の予防用および/または治療用の組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年1月31日付で出願された韓国特許出願第10−2008−0010156号の優先権利益を主張し、前記韓国特許出願の明細書は、本明細書に参照として含まれる。
【0002】
本発明は、カフェインおよび/またはその類似体、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有するイノシトール1,4,5−三リン酸受容体(IPR)のサブタイプ3(IPR3)の活性を阻害する薬剤が提供される。IPR3受容体を通じたCa2+放出と関連した疾病の予防および/または治療用の、IPR3阻害剤を含む組成物も提供される。
【背景技術】
【0003】
イノシトール1,4,5−三リン酸受容体サブタイプ3は、生細胞の多様な機能に広範囲に関連している細胞内Ca2+チャンネルのうちの一つである。したがって、IPR3受容体を調節することによってCa2+放出を調節することができ、これによって、多様な細胞機能の調節、及び細胞の機能亢進または機能不全により誘発される各種疾病の予防および/または治療にも非常に有用な利益を提供することが可能であると期待される。しかし、現在までIPR3の効果的な調節機序および調節物質は知られてないため、これに対するさらなる研究と開発が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、IPR3(イノシトール1,4,5−三リン酸受容体サブタイプ3)の調節機序および調節物質の所見に基づき、IPR3を通じたカルシウムイオン放出と関連した疾病を効果的に予防および/または治療する技術を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1a〜1eは、多様なGPCR(G−protein coupled receptors)およびRTK(receptor tyrosine kinases)アゴニストによるCa2+応答を示すものであって、 図1aは、代表的な疑似カラー蛍光強度イメージ(pseudo color fluorescence intensity images)(380nmまたは340nm励起、510nm発光)(上段)、下段は、Fura−2 AM(5μM)を添加した膠芽腫細胞でのEGF刺激前後の比率イメージ(ratio image)を示し、 図1bは、4個の膠芽細胞腫細胞株で行われたCa2+イメージ記録から得られたトレース(trace)であり、 図1cは、Fura−2が添加されたU178MG細胞上での多様なアゴニストによるFura−2 AM 強度比率の変化を示し、 図1dは、ヒト膠芽腫細胞の低倍率での写真(Low power view)であって、左上段は200倍率写真であり、 図1eは、多様なGPCRおよびRTKアゴニストが、ヒト膠芽腫細胞において細胞内Ca2+増加を誘導することを示す、カルシウムイオン放出の減衰動態(decay kinetics)を示す。
【図2】図2a〜図2fは、Ca2+シグナル伝達と関連した結果を示すものであって、 図2aは、Fura−2が添加されたU178MG細胞でのカルシウムイオン放出の減衰動態であって、Fura−2が添加されたU178MG細胞は2mM Ca2+ HEPESバッファー、Ca2+−無添加HEPESバッファー、およびSKF 96365の存在下でブラジキニンによって刺激されたものをそれぞれ示し、 図2bおよび図2cは、各サンプルの減衰動態の代表的な平均トレースおよび半幅値(half width)を示し、 図2dは、U73343の前処理によりレスキューされた、U73122前処理によりあらかじめ遮断された、ブラジキニンまたはEGF誘導性Ca2+放出の減衰動態の変化を示し、 図2eは、タプシガルギンによる小胞体でのCa2+枯渇後のGPCRアゴニストの適用の結果を示し、 図2fは、リアノジン受容体拮抗剤の存在下における、ブラジキニンによるU178MG上でのIPR介在性Ca2+放出の減衰動態を示す。
【図3】図3a〜3cは、カフェインの膠芽腫細胞の転移および浸潤に対する阻害活性を示すものであって、 図3aは、損傷部位および創傷閉鎖(wound closure)率を示し、 図3bは、カフェイン濃度の変化によってマトリゲル(Matrigel)を通じて浸潤する細胞の代表的な写真(上段)、及び浸潤細胞の比率(下段)を示し、 図3cは、カフェイン濃度の変化によるコロニーの代表的な写真(上段)、及びコロニー数の比率(下段)を示す。
【図4】図4a〜4hは、カフェインのCa2+放出阻害活性を示すものであって、 図4aおよび図4bは、それぞれEGFまたはブラジキニンで刺激されたU178MGでの、カフェインによる細胞内Ca2+放出の遮断を示し、 図4cは、U178MGでカフェイン存在下での、多様なアゴニストにより誘導されたCa2+放出に対する%遮断を示し、 図4dは、多様な濃度のカフェイン存在下での、TFLLR誘導性Ca2+応答の阻害レベルを示し、 図4eは、TFLLRにより誘発されるCa2+放出の用量応答曲線であり、 図4fおよび図4gは、GPCRアゴニストで刺激されたHEK293およびヒト膠芽細胞腫の、カフェインによる細胞内Ca2+放出に対する遮断をそれぞれ示し、 図4hは、それぞれの細胞でのカフェイン存在下でのGPCR誘導Ca2+放出の%遮断を示す。
【図5】図5a〜5dはIPRsサブタイプのmRNA発現率を示すものであって、 図5aは、ヒト神経膠腫細胞株(U87MG、U178MG、U373MG、T98G、M059K)、ヒト神経芽細胞腫細胞株(SH−SY5Y)、およびHEK293T細胞株でのIPRsおよびGAPDHのmRNA発現を示す電気泳動の画像であり、 図5bは、それぞれの細胞でのIPRサブタイプ3の発現とカフェイン遮断間の相関関係を示し、 図5cは、正常ヒト脳細胞とヒト膠芽細胞腫でのIPRサブタイプmRNA発現を確認した電気泳動画像であり、 図5dは、ヒト試料中でのIPR mRNAの濃度測定ヒストグラム(Densitomeric histogram)の結果を示す。
【図6】図6a〜6gは、カフェインがIPR3に特異的に作用することを示すものであって、 図6aおよび図6bは、IPR1(ウシ)およびIPR3(ウシ)でそれぞれ形質転換されたHEK293T細胞でのカフェインによるTFLLR誘導Ca2+放出の遮断をそれぞれ示し、 図6cは、IPR1(ウシ)、IPR3(ウシ)、およびIPR3(マウス)でそれぞれ形質転換されたHEK293Tでのカフェインによる%遮断を示し、 図6dは、U178MG細胞でGFPのみが発現した場合と、IPR3−shRNA+GFPが発現した場合とのカフェイン処理後のカルシウムイメージング結果を示し、 図6eは、対照群とshRNA発現群での、カフェイン添加によるCa2+応答を示すグラフであり、 図6fおよび図6gは、カフェインを処理していないU178MG細胞と、カフェインを処理したU178MG細胞との細胞遊走を、ライブイメージングした結果を示す。
【図7】図7a〜図7dは、カフェインの浸潤阻害および生存率改善の活性を示すものであって、 図7aは、カフェインの存在下または非存在下で、6日目(6day aged)の器官型海馬切片培養物(Organotypic hippocampal slice cultures;OHSCs)上に乗せたU178MG細胞を示す写真であり、 図7bは、カフェインにより、腫瘍細胞のOHSCsへの浸潤および遊走が阻害されることを示すグラフであり、 図7cは、カフェイン処理による腫瘍の大きさの相対的な減少を示すグラフであり、 図7dは、脳腫瘍動物モデルにおける、カフェイン摂取による生存率の増加を示すグラフである。
【図8】各細胞株での様々なカフェイン濃度による細胞生存率を示すMTTアッセイの結果である。
【図9】図9a〜9dは、カフェイン作用がストア感受性チャンネル(store operated channels)またはストア枯渇に依存的であることを示すものであって、 図9aは、Ca2+無添加HEPESバッファーでタプシガルギンを2分間添加した後のカルシウムイオン濃度の変化の挙動を示し、ここで無添加群(上)、カフェイン(中央)またはSKF96365(下)であり、 図9bおよび図9cは、カフェイン処理なしでFura−2が添加されたU178MG細胞(対照群)、およびカフェイン処理されたFura−2が添加されたU178MG細胞での、細胞内Ca2+濃度のシクロピアゾン酸(Cyclopiazonic acid)−誘導性またはタプシガルジン−誘導性増加をそれぞれ示し、 図9dは、カフェイン存在下でシクロピアゾン酸およびタプシガルジンによる調節率(%)を示す。
【図10】図10a〜図10cは、カフェイン類似体の脳腫瘍細胞内のカルシウムイオンの放出の阻害活性を示すものであって、 図10aおよび図10bは、TFLLR誘導Ca2+放出のカフェイン(a)およびテオフィリン(b)に対する遮断の代表的なトレースをそれぞれ示し、 図10cは、カフェイン類似体による%遮断を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明のより完全な評価、及びこれらの多様な利点は、以下の詳細な説明により十分に理解されるだろう。
【0007】
本発明者らは、カフェインおよびその類似体が、イノシトール1,4,5−三リン酸受容体(IPR)、特にイノシトール1,4,5−三リン酸受容体サブタイプ3(IPR3)の作用を選択的に遮断することで、前記受容体を通じて放出されるCa2+の放出を阻害するため、Ca2+放出と関連した疾病を予防、治療および/または改善させることができることを発見して、本発明を完成した。
【0008】
したがって、本発明の一態様は、カフェインおよび/またはその類似体、および/またはこれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、IPR、特にIPR3の阻害剤、並びにこれを含むCa2+放出と関連した疾病の予防および/または治療用の組成物を提供する。また、本発明の他の態様は、カフェインおよび/またはその類似体、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、Ca2+放出と関連した疾病の予防および/または改善用の機能性食品組成物を提供する。
【0009】
カフェインは高等植物で発見されるプリン塩基の一種であって、下記の化学式I(C10)として表される、3個のメチル基を有するキサンチン構造である。
【化1】

【0010】
カフェインは、白色の軟らかい結晶性物質であり、興奮性成分としての特性を有し、そしてブラジルのコーヒー豆に1乃至5%、熱帯アフリカのコーラの実に約3%、パラグアイのマテ茶に1乃至2%、ブラジルのガラナ種子に3乃至5%存在する。
【0011】
カフェインは、緑茶などを熱い水で滲出させた後、タンニンなどの物質を除去して単離することができる。または、カフェインはジメチル尿素及びマロン酸を出発物質として化学的に合成することもできる。植物において、カフェインの合成は、その他のプリン塩基と同様に、グリシン、ギ酸、二酸化炭素などの物質を材料として合成される。また、カフェイン中に存在する3個のメチル基は、メチオニンに由来する。カフェインの重要性はその薬理作用にある。カフェインは主に、CNS(中枢神経)興奮剤、呼吸興奮剤、強心剤、利尿剤としての活性を有する。少量を投与した場合、カフェインは疲労回復の効力があり、偏頭痛や心臓病も軽減する。しかし、カフェインの脳腫瘍、特に神経膠腫に対する治療活性は、本発明で最初に明らかにされた。
【0012】
つまり、本発明によれば、カフェインは、IPR3の作用を選択的に遮断することによって、IPR介在性のCa2+増加を阻害する。本発明の一態様では、ヒト膠芽細胞腫(GBM)細胞をヌードマウスの脳に注入した動物GBMモデルでは、飲用水を通じてカフェインを摂取した場合、生存率が増加し、注入された細胞の浸潤程度が減少することを示した。この結果は、カフェインはIPR3を選択的に標的化するため、GBM浸潤および転移を阻害する治療用物質として有用であることを示唆している。
【0013】
本発明でIPR3に対する選択的な阻害効果を有するカフェイン類似体としては、7−イソプロピルテオフィリン、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンなどが挙げられる。前記カフェイン誘導体のIPR3阻害活性は、図10に示したとおりである。
【0014】
本発明の一態様による組成物により治療することができる疾患は、カルシウムイオンの過剰放出によって引き起こされるすべての疾患を含み、例えば、脳卒中、不安症、過敏性膀胱炎、炎症性腸疾患、過敏性大腸症候群、てんかん性大膓炎、頭部外傷、偏頭痛、慢性痛、神経因性通または急性痛、薬品またはアルコール中毒、神経病性障害、精神病、睡眠障害、恐怖症、強迫観念、外傷後ストレス障害(PTSD)、鬱病、てんかん、糖尿病、癌、男性不妊、高血圧、肺高血圧、心不整脈、鬱血性心不全、狭心症、多発性嚢胞腎疾患(autosomal dominant polycystic kidney);デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy、DMD)などであっても良い。また、本発明の組成物は、カルシウムイオンの放出を抑制することによって神経弛緩剤としても使用することができる。また、本発明の組成物は哺乳動物、好ましくはヒトに適用することができる。
【0015】
本発明の組成物に有効成分として含有されるカフェイン、その類似体またはその薬学的に許容可能な塩の量に関して、望ましい量は、0.3乃至30mM、好ましくは0.5乃至20mM、より好ましくは2.5乃至12mMである。有効成分の含量を前記範囲内に設定することにより、前記組成物は高濃度による細胞毒性を引き起こすことなく、十分な効果を発揮することができる。また、前記組成物の1日投与量は、適用しようとする疾病の症状、程度、患者の状態などに応じて適切に調節される。1日投与量は、好ましくは1乃至5mg/kg(体重)に設定することが好ましく、前記量を1回または数回に分量して服用することができる。
【0016】
本発明の組成物において、カフェイン、その類似体またはその薬学的に許容可能な塩は、組成物内に単独で、または他の薬理学的に許容可能な薬剤、担体または賦形剤と共に含むことができる。組成物に含有されたカフェイン、その類似体またはその薬学的に許容可能な塩の含有量の範囲は、組成物の使用目的に応じて、当業者が適切に設定することができる。本発明の組成物に使用可能な担体または賦形剤は、剤形に応じて適切な物質を使用することができ、通常の希釈剤、充填剤、増量剤、湿潤剤、崩壊剤および/または界面活性剤を使用することができる。代表的な希釈剤または賦形剤としては、水、デキストリン、炭酸カルシウム、ラクトース、プロピレングリコール、流動パラフィン、タルク、異性化糖、メタ重亜硫酸ナトリウム、メチルパラフィン、プロピルパラベン、ステアリン酸マグネシウム、乳糖、生理食塩水、色素および香料がある。
【0017】
本発明の組成物は、所望の使用方法に応じた多様な剤形で、経口または非経口で投与される。剤形の例としては、硬膏剤、顆粒剤、ローション剤、散剤、シロップ剤、液剤、エアロゾル剤、軟膏剤、流エキス剤、乳剤、懸濁剤、浸剤、錠剤、注射剤、カプセル剤または丸剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0018】
また、本発明の一態様は、カフェイン、その類似体またはその薬学的に許容可能な塩を含む、脳腫瘍予防および/または改善用の機能性食品を提供する。本発明の機能性食品に含まれるカフェイン、その類似体またはその薬学的に許容可能な塩の含量は、特に制限はなく、最終製品の目的および特性に応じて適切に調節可能であり、例えば、食品組成物全体に対して0.00001乃至99.9重量%、好ましくは0.001乃至50重量%の範囲で設定することができる。本発明において、このような機能性食品は、各種食品、健康補助食品および食品添加剤を総称する。上記食品、健康補助食品または食品添加剤は、特に制限はない。例えば、前記食品は、特殊栄養食品(調製乳類、乳幼児食など)、食肉加工品、魚肉製品、豆腐類、カード、麺類(ラーメン類、そば類など)、パン類、機能性食品、調味食品(醤油、味噌、コチュジャン(唐辛子みそ)、混合醤など)、ソース類、クッキー類及びスナック類、乳加工品(醗酵乳、チーズなど)、その他加工食品、キムチ、漬物(醤油に漬けた薄切り大根またはキュウリ)、並びに飲料(果物ジュース、野菜ジュース、豆乳類、発酵飲料類など)を含むことができ、かつこれらは通常の製造方法で製造されたものであっても良い。
【0019】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0020】
細胞内ストアからのCa2+の放出を担当するチャンネルとして、IPRsおよびRyRsの2つのチャンネルが知られている。カフェインは、特に筋肉細胞および心筋細胞で、RyRs開放により細胞内ストアからのCa2+放出を誘導することが知られている。したがって、本発明者等は、GBMの運動性、浸潤性および増殖性に対する様々なアッセイにおいて、Ca2+放出機序を強化または阻害する他の薬剤と共に、カフェインをテストした。驚くべきことに、10mMのカフェインが様々なGBM細胞株(U178MG、U87MG、U373MG、およびT98G細胞)の運動性、浸潤性および増殖性を顕著に阻害する反面(図3a、図3bおよび図3c)、細胞生存性にはほとんど影響を与えないことが示された(図8)。このようなカフェインの矛盾的効果は、1Mのタプシガルジン、10Mの2−APB、20MのCPA、50MのBAPTA−AMなどのような細胞内ストアからのCa2+放出を阻害することが知られている多様な製剤を使用することで類似の効果を得ることができるが、この濃度でのRyRsに対するアゴニストである10Mのリアノジンでは得られなかった(図3a)。これは、カフェインの作用機序は細胞内ストアからのCa2+放出の阻害に起因し、おそらくRyRsでなくIPRsを標的化していることを示唆する。
【0021】
最も悪性でかつ浸潤する脳腫瘍である、多形性膠芽細胞腫(GBM)は、診断後の平均生存期間が約1年以下であり、予後が非常に良くない。また、脳細胞と腫瘍細胞間の境界が不明確であるため、GBMを外科的に完全除去することはほとんど不可能である。この困難性は、これらの細胞が脳の隣接した部位に転移および浸潤する潜在的な傾向を有することに基本的に起因する。高度に浸潤するGBM細胞は、能動的なニューロンの死滅を通じて、正常の脳に散在的に浸潤して、空間を確保する。様々なシグナリング分子がこれらのGBM細胞を活性化し、これらの増殖、運動性および浸潤性に影響を与える。これらのシグナリング分子には、表皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)などの様々な成長因子、並びにATP、ブラジキニン(bradykinin)、リソフォスファチジン酸 (lysophosphatic acid、LPA)、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)、トロンビン、及びプラスミンなどのG−蛋白質結合受容体(GPCR)アゴニストなどが含まれる。このようなシグナリング分子は次にこれらの対応部(counter part)上の表面受容体を活性化する。これらの表面受容体は、EGFR、PAR1、B2、P2Y、LPA受容体、S1P受容体などと多様であり、これらの活性化は下流のエフェクターの活性を誘発し、より重要なことには、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の増加を誘発する(図1)。
【0022】
図1は、様々なGタンパク質共役受容体(GPCR)および受容体チロシンキナーゼ(RTK)アゴニストによるCa2+応答を示す。図1aは、代表的な疑似カラー蛍光強度イメージ(380nmまたは340nm励起、510nm発光)(上段)、及びFura−2 AM(5μM)が添加された膠芽細胞腫細胞でのEGF刺激前後の比率イメージ(下段)を示す。右側のカラースケール(bar)は、蛍光強度による疑似カラーの程度を示すものであって、黒色になるほど蛍光強度が低く、黄色になるほど蛍光強度が高い。図1bは、4種の膠芽細胞腫細胞株で行われたCa2+イメージ記録から得られたトレースである。それぞれのトレースは、それぞれの細胞でのFura−2 AMの強度比率の変化を示す(各細胞株当りn=36乃至83)。赤色線は平均応答を示す。灰色の棒グラフは、EGFの適用時間を示す。
【0023】
図1cは、Fura−2が添加されたU178MG細胞上での多様なアゴニストによるFura−2 AM強度比率変化を示す。図1dは、ヒトGBM細胞の低倍率画像(Low power view)であって、左上段は200倍率写真であり、細胞水準のグリア細胞腫瘍は2地点で偽柵状構造(pseudopalisading)壊死(矢印、H&E、×200)を示し、右上段は400倍率写真であり、頻繁に有糸分裂する細胞(矢印)を示し(H&E、×400)、左下段は多核多形態性核を示し(H&E、×200)、右下段は大部分の腫瘍細胞がグリア繊維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein)に対して免疫反応性があることを示す(×200)(GFAP免疫染色)。図1eは、GPCRおよびRTKアゴニストが、ヒト膠芽腫細胞内において細胞内Ca2+増加を誘導することを示す。
【0024】
癌細胞遊走(migration)は、主にアクチン重合反応および細胞内組織化に依存し、前記重合反応および細胞内組織化は多様なアクチン結合蛋白質により影響を受ける。アクチン結合蛋白質の活性の調節はホスホイノシチド(phosphoinositides)およびカルシウムのような二次情報伝達物質(second messenger)により媒介される。したがって、GBM細胞内でのCa2+増加の正確なメカニズムが、前記細胞の増殖、運動性および浸潤性を調節するのに非常に重要な要因であると言える。しかし、今まで前記GBM細胞でのCa2+シグナル伝達と関連して行なわれた研究は、ごくわずか行われているのみである。
【0025】
Fura2−AMが添加された培養GBM細胞株、および外科的に除去された組織から急性的に分離して得られたGBM細胞に対してCa2+イメージ化を行うことによって、これら細胞内での[Ca2+増加が部分的には細胞内放出プール(pools)からのCa2+放出によるものであり、部分的にはストア感受性チャンネル(store operated channels)を通じたCa2+流入によるものであることを発見した(図2a、図2bおよび図2c参照)。このような細胞内ストアからのCa2+放出は、G−蛋白質結合受容体(GPCRs)および受容体チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinases、RTKs)の活性化に応答してホスホイノシトール−4,5−ビスホスフェート(phosphoinositol−4,5−bisphosphate、PIP2)の代謝によりIPを生産する、ホスホリパーゼC(PLC)に対する特異的な抑制剤であるU73122によって完璧に抑制された(図1c参照)。
【0026】
図2は、Ca2+シグナル伝達と関連した結果を示すものであって、図2aは、Fura−2が添加されたU178MG細胞が、2mM Ca2+ HEPESバッファー、Ca2+−無添加HEPESバッファー、およびSKF 96365の存在下においてブラジキニンで刺激されることをそれぞれ示す。図2bおよび図2cは、前記各サンプルの代表的な平均挙動および半幅(half width)の挙動(Decay kinetics)を示す。エラーバーはSEMを表す。図2dは、U73122の前処理により抑制されたブラジキニンまたはEGF誘導性Ca2+放出がU73343前処理によりレスキューされた(rescued)ことを示す。図2eは、タプシガルギンによる小胞体でのCa2+枯渇後のGPCRアゴニストの適用結果を示す。図2fは、リアノジン受容体拮抗剤の存在下での、U178MG上でブラジキニンによるIPR介在性Ca2+減衰動態を示す。
【0027】
タプシガルギンによるストアの欠乏によって、後続のブラジキニンによる[Ca2+の増加誘導が完璧に抑制されるという事実に照らし合わせて(図2e参照)、ストア感受性チャンネルを通じたCa2+流入は放出と密接に関連していると見られる。このような結果から、GBM細胞が、細胞内ストアからのCa2+放出を導く共通のホスホイノシチド経路と、それに続くストア感受性チャンネルを通じたCa2+流入とに共役される、様々な表面受容体を発現していると結論付けた。Ca2+放出経路にあるこれらの分子が、GBMの遊走および浸潤を調節する潜在的な分子標的としての役割を果たすと仮定される。
【0028】
細胞内ストアからのCa2+放出に関与するチャンネルとして、IPRs(イノシトール1,4,5−三リン酸受容体 )およびRyRs(リアノジン受容体)の2つのチャンネルが知られている。カフェインは、特に筋肉細胞および心筋細胞で、RyRsの開放により、細胞内ストアからCa2+放出を誘導することが古典的に知られている。したがって本発明者等は、GBM運動性、浸潤および増殖に対する多様なアッセイにおいてCa2+放出機構を強化または阻害する製剤と共に、カフェインを試験した。
【0029】
しかし、本発明者等の予想とは異なり、10mMカフェインが多様なGBM細胞株(U178MG、U87MG、U373MG、およびT98G細胞)の運動性、浸潤性および増殖性を顕著に抑制する反面(図3a、図3bおよび図3c)、細胞生存性にはほとんど影響を与えないことが見出された(図8参照)。このカフェインの矛盾した効果は、1μMタプシガルギン、10μM 2−APB、20μM CPA、50μM BAPTA−AMなどのような、細胞内ストアからのCa2+放出を阻害することが知られている多様な製剤により模倣されるが、この濃度でRyRsに対するアゴニストである10μM リアノジンによっては模倣されなかった(図3a参照)。
【0030】
上記の事実は、カフェインの作用機序は細胞内ストアからのCa2+放出の阻害に関与し、阻害作用はRyRsではなく、IPRsを選択的に標的化していることを示唆している。本発明での実験結果は、カフェイン及びその類似体によって示される阻害作用は、IPR3に特異的であり、かつIPR3介在性Ca2+増加を阻害することによって、Ca2+により引き起こされる各種症状の緩和を示すことを明らかにした。
【0031】
また、IP3結合に影響を与えずに、IPRsを阻害するというカフェインの作用については、ほとんど知られていない。したがって、本発明者等は、培養したU178MG細胞(神経膠腫細胞)において、カフェインがGPCRおよびRTKの活性化による[Ca2+増加を阻害する能力があるかどうかを試験した。カフェインがブラジキニン−誘導性、表皮成長因子(Epidermal Growth Factor、EGF)−誘導性、およびPAR1アゴニストTFLLR−誘導性の[Ca2+増加を最大濃度半値(half maximal concentration)2.45mMで、容量依存的に確実に阻害することが示された(図4a、図4b、図4c、図4dおよび図4e参照)。この結果は、カフェインの阻害作用は、Ca2+ ストアの欠乏(図9b、図9cおよび図9d参照)、ストア感受性チャンネル(図9a参照)の阻害、またはRyRs(図2f参照)の活性化に関連していないことを示唆する。むしろこの結果は、このような阻害作用はおそらくIPRsのみの阻害に関連していることを示す。
【0032】
また、本発明者等は、カフェインのCa2+応答に対する阻害活性が他の細胞型でも現れるかどうかを試験した。本発明者等は、多様な細胞型が、10mMカフェイン処理によるCa2+応答の阻害程度の変化を示し、その中でもU178MGで最も高い遮断効果と、HEK293T細胞で最も低い遮断効果が示された(図4f、図4gおよび図4h参照)。カフェインによるCa2+遮断の程度がIPR発現と関連があるかを確認するために、本発明者等はそれぞれの細胞型当り3つの亜型のIPR mRNAに対して、半定量(semi−quantitative)RT−PCRを行った(図5b参照)。IPRの3つの亜型中、IPR亜型3(IPR3)がCa2+応答の遮断率と最も高い相関関係を示した(相関関係の係数、r2=0.884、図2g)。また、本発明者等は、GBM組織サンプル上の3つの亜型のIPRの半定量RT−PCRを行い、正常組織サンプルと比較した。GBM組織は正常組織に比べて平均2倍以上のIPR3 mRNAの発現増加を見せた反面、IPR2 mRNAはほとんど変化がなく、IPR1 mRNAは若干減少することが見出された(図2lおよび図2m)。このような結果は急性調製された(acutely prepared)GBM細胞における高いCa2+応答遮断率と一致する(図2fおよび図2h)。これらの結果は、IPR3の発現が、Ca2+応答に対するカフェインの阻害活性と高い相関関係があることを示唆する。
【0033】
Ca2+応答に対するカフェインの阻害活性がIPR3に対して特異的であることが本当であれば、通常IPR3を欠損するHEK293T細胞でのIPR3の過発現が、前記細胞がカフェインにより、Ca2+応答に対して高い遮断度示すと考えられる。IPR3が過発現される場合、IPR3発現HEK293T細胞はカフェインにより約90%の遮断が起こったが、IPR1またはIPR2が過発現される場合には、このような遮断は起こらないことが分かった(図6a、図6bおよび図6c)。IPR3を発現するU178MG細胞を用いた補足実験で、本発明者らは、U178MG細胞でのIPR3に対するshRNAの発現による遺伝子発現抑制(gene silencing)によって、これら細胞らがカフェインによるCa2+応答に対する遮断が喪失するかどうかを試験した。IPR3発現U178MG細胞に対するshRNAの場合、たった20%のカフェインによるCa2+応答の遮断が観察された(図6d参照)。これらの結果は、カフェインの阻害作用が、IPR3に対して選択的であることを示す。
【0034】
また、カフェインの化学的構造を試験し、一連のカフェイン類似体のIPR3介在性Ca2+応答に対する遮断効果を試験することにより、IPR3に対して優れた阻害活性を有する化合物を選別した(図10c参照)。本発明者等により、7−イソプロピルテオフィリン、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンを含むがこれらに限定されないカフェイン類似体が、優れたIPR3選択的遮断効果を示すことが観測された。
【0035】
本発明は、IPR3を選択的に阻害することによって、カCa2+放出を調節する技術を提供するものである。このようなものとして、本願発明は、Ca2+放出により引き起こされる多様な病的症状の治療および改善に有益である。
【0036】
以下、本発明の多様な実施例について詳細に説明する。これらの実施例は、しかしながら、いかなる場合も本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例1】
【0037】
膠芽細胞腫細胞の準備
膠芽細胞腫細胞株は、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%L−グルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン(50単位/mL)およびストレプトマイシン(50単位/mL)が補充されたDulbecco's変形Eagle's培地(DMEM;Gibco、Invitrogen、USA)に保持した。ヒト膠芽細胞腫は、20%FBS、1%L−グルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン(50単位/mL)、およびストレプトマイシン(50単位/mL)が補充されたDMEMに保持し、使用時まで保管した。
【実施例2】
【0038】
カフェインのGBM細胞に対する運動性、浸潤性および増殖性の阻害試験
カフェインの多様なGBM細胞株に対する運動性、浸潤性および増殖性の阻害活性を試験した。
【0039】
2.1.掻爬遊走試験(Scrape Motility Assay)
まず、運動性に対する効果を試験するために、神経膠腫細胞株としてU178MG、U87MG、wtEGFR、およびΔEGRF細胞を使用した。前記細胞株は、それぞれEmory Uni(U178MG)、及びATCC(U87MG、T98G、およびM59K)から入手した。すべての細胞株を、12−ウェル培養プレート内の血清含有培地(Emory Uni製)で単層増殖させた。10μLピペットチップで掻爬(scrape)を作り、10mMカフェイン、1μMタプシガルギン、または10μMリアノジンをそれぞれ添加後、プレートをインキュベータに戻して培養した(各細胞株当りn=3乃至4、37℃)。増殖を防止するために、フルオロデオキシウリジン (FdU/U;Sigma社製)を添加した。24時間培養後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。損傷領域内の3個の10×フィールドの再増殖の広さを測定し、損傷領域の傷の縫合の平均パーセントを測定した。カフェイン処理していない細胞株を対照群として使用した。
【0040】
得られた結果を図3aに示す。図3aの左側写真のボックスで表示された部分は大略の傷部位の境界を示す。右側のグラフに示されたデータは、細胞遊走による傷の縫合(wound closure)比率を示す。上記の結果から分かるように、カフェインは、細胞内Ca2+濃度を減少させるタプシガルギン処理と同様に、細胞内Ca2+ストアの枯渇を誘導して、傷部位への細胞遊走を非常に効果的に阻害することが明らかになった。しかしながら、細胞内Ca2+濃度に関与する受容体の一つであるRyRs(リアノジン受容体)に対するアゴニストであるリアノジンで処理した場合、このような細胞遊走はほとんど観察されなかった。エラーバー:±SEMを示す。
**p<0.01、事後のニューマン−クールズ分散分析(ANOVA with Newman−Keuls post hoc.)
【0041】
2.2.マトリゲル浸潤試験(Matrigel Invasion Assay)
浸潤の阻害効果を試験するために、膠芽腫細胞として、U178MG、U87MG、U373MG、およびT98Gを使用した。前記細胞株らはそれぞれATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関)から得た。前記細胞らにカフェインをそれぞれ1、2、5、および10mMを添加した(n=4)。24−ウェルプレートで、8μm孔径(Corning社、NY、米国)を含むトランスウェルインサートを使用して細胞浸潤を検定した。浸潤試験用に、インサートを2mg/ml基底膜マトリゲル(BD Bioscience社、Bedford、MA、米国)でコーティングした。無血清培地(FBS、DMEM、GIBCO社より、Invitrogen社、米国)内の1×10細胞をインサート上段面にプレーティングし、完全培地をチャンバー下部に入れて化学誘引物質として作用するようにした。37℃で24時間培養後、インサート上段面上の細胞を綿棒で拭いて除去し、メンブレンの下段面へ遊走した細胞をDAPI(Molecular Probes、Invitrogen社、米国)で染色し、倍率40倍で、顕微鏡で無作為撮影した。カフェイン未処理細胞(対照群)の平均数を100%浸潤と見なした。
【0042】
上記で得られた浸潤の結果を図3bに示す。上段は様々なカフェイン濃度におけるマトリゲルを通じて浸潤する細胞の代表的な写真であり、下段は対照群に対する浸潤細胞の比率を示すグラフである。浸潤細胞数は、×200倍率顕微鏡下でカウンティングした。試験は2回行い、5つ箇所の場を無作為に選択し、アッセイ毎にカウンティングした。結果から分かるように、カフェインは、24時間の処理後、用量依存的に(処理したカフェイン量に比例して減少が増加する)神経膠腫細胞の浸潤率を減少させた。
【0043】
2.3.コロニー形成についてのカフェイン阻害効果の軟寒天試験(Soft Agar Assay)
カフェインの増殖能における阻害効果を試験するために、軟寒天試験を行った。1×10個の細胞を、6−ウェルプレート中の、0.6%ベース寒天を覆った軟寒天(0.3%、Difco社)に接種した。凝固した細胞層を、0.5、1、2、5、および10mMのカフェインを含有する培地で覆い、前記培地は4日毎に交換した。コロニーが発生するように、前記細胞を37℃で14乃至17日間培養した。その後、コロニーを0.05%クレシルバイオレットで染色して撮影した。対照群として、カフェイン処理していないものを使用した。各試験はn=3で行った。
【0044】
図3cは前記で得られた結果を示す。上段は様々なカフェイン濃度において形成されたコロニーを示す写真であり、下段は対照群に対するカフェイン処理群のコロニー数比率を示すグラフである。図3で示すように、カフェインは試験管内で神経膠腫の接着非依存性増殖(anchorage−independent growth)を濃度依存的に減少させた。
【実施例3】
【0045】
カフェインのカルシウムイオン放出遮断活性試験
U178MG細胞を10mMカフェインで処理した。100秒の処理後、細胞を2つの群に分けた後、GPCR(G−protein coupled receptors)アゴニスト、すなわち100ng/ml EGFまたは10μMブラジキニンでそれぞれ処理した。細胞内電流を測定して、EGFまたはブラジキニンで刺激されたU178MGでのカフェインによる細胞内Ca2+放出の遮断を試験した。細胞内電流測定を通じたカルシウムイオン濃度測定は「C.Justin Lee,et al.,The Journal of Physiology,Astrocytic control of synaptic NMDA receptor,2007」(前記文献は参照として本明細書に含まれる)の記載通りに行った。カフェインを処理していない群を対照として使用した。前記で得られた結果を図4a(EGF)および図4b(ブラジキニン)にそれぞれ示した。前記図4aおよび図4bに示したように、カフェインを処理した群では、アゴニストを処理しても、[Ca2+が大きく増加していないことが分かる。
【0046】
U178MG細胞を10mMカフェインで100秒処理後、U178MGは多様なアゴニスト(10μMブラジキニン(BK)、100ng/ml EGF、30μM TFLLR)で刺激した。図4cは、U178MGにおけるアゴニスト誘導性Ca2+放出に対するカフェインによる%遮断率を示す。エラーバーは、平均±SEMである。 図4cに示したように、カフェインは多様なCa2+放出アゴニストに対して、細胞内Ca2+放出の遮断効果を示す。
【0047】
U178MG細胞を0.3mM、3mM、10mM、および30mMカフェインでそれぞれ処理した。100秒後、細胞を30μM TFLLRで処理した。図4dは、U178MGにおけるTFLLR誘導性Ca2+放出に対する遮断効果を示す。図4dに示したように、カフェインは、TFLLRによるCa2+濃度の増加を、カフェイン濃度依存的に抑制することが分かる。
【0048】
図4eは、カフェイン濃度によるTFLLR(30μM)およびEGF(100ng/ml)により誘発されるCa2+放出の用量応答曲線を示す。測定されたIC50値は、TFLLRに対しては2.45mMであり、EGFに対しては1.87mMであった。
【0049】
図4fおよび図4gは、ヒト膠芽細胞腫細胞株(SH−SY5Y、ATCC)およびHEK293細胞株(ATCC)の細胞内Ca2+放出の挙動を示し、細胞は10mMカフェインで処理後、10μMブラジキニン(ヒト膠芽細胞腫)または30μM TFLLR(HEK293)で刺激した。図4fおよび図4gから分かるように、両方の細胞株において、カフェインにより細胞内Ca2+放出が遮断されることを示す。
【0050】
図4hは、GBM、U178MG、T98G、U87MGおよびHEK293細胞でのカフェイン(10mM)によるGPCR誘導性細胞内Ca2+放出の%遮断を示す。細胞株は、:ソウル大学校病院神経外科(GBM)、Emory Uni(U178MG)、ATCC(T98G、U87MGおよびHEK293)より入手した。大部分の細胞で、細胞内Ca2+放出がカフェインにより阻害されることが見出された。エラーバーは±SEMを示す。
【実施例4】
【0051】
IPR亜型3(IPR3)に対する選択的遮断の評価試験
4.1.mRNA発現の測定
ヒト神経膠腫細胞株(U87MG、U178MG、U373MG、T98G、M059K)、ヒト膠芽細胞腫細胞株(SH−SY5Y)、およびHEK293T細胞株での、IPRsおよびグリセルアルデヒド‐3‐ホスファターゼ(GAPDH)のmRNA発現を測定した。mRNAの発現はRT−PCR(逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応)で測定した。Trizol試薬(Invitrogen社、Carlsbad、CA)と共に上記の調製サンプルから全RNAを分離し、1μgの分離されたRNAを増幅させた。各サイクルは、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、および72℃で60秒間の伸張で構成された。使用されたプライマー配列は次の通りである:
IPR1センス:5'−CTCTGATCGTTTACCTG−3'(配列番号1)、
ITPR1アンチセンス:5'−TCTTCTGCTTCTCACTCCTC−3'(配列番号2);
IPR2センス:5'−AGAAGGAGTTTGGAGAGGAC−3'(配列番号3)、
IPR2アンチセンス:5'−TCACCACCTTTCACTTGACT−3'(配列番号4);
IPR3センス:5'−CTGTTCAACGTCATCAAGAG−3'(配列番号5)、
IPR3アンチセンス:5'−CATCAACAGAGTGTCACAGG−3'(配列番号6);
GAPDHセンス:5'−AGCTGAACGGGAAGCTCACT−3'(配列番号7)、
GAPDHアンチセンス:5'−TGCTGTAGCCAAATTCGTTG−3'(配列番号8)。
【0052】
図5aは、上記で得られたPCR産物を電気泳動して得られたmRNA発現の結果である。3種の亜型のIPR mRNAの発現率は、それぞれの細胞株で相異していた。
【0053】
図5bは、それぞれの細胞でのIPR3の発現度と、カフェインによるCa2+遮断の相関関係を示す。Ca2+レベルは、実施例2および3の記載に従って測定した。図5bに示すように、IPR3の発現レベルとCa2+遮断との間に、統計的に有意味な相関関係が見出された。これは、カフェインの阻害活性がIPR3と関連することを示唆する。
【0054】
図5cは、正常ヒト脳細胞(n=8、ソウル大学校病院神経外科)とヒト膠芽細胞腫(n=10)との間のIPRサブタイプのmRNA発現を、電気泳動上での比較を示す。図5dは、上記のヒトサンプルにおける、IPRサブタイプmRNA発現の濃度測定ヒストグラム(Densitomeric histograms)を示す。図5cおよび図5dで確認できるように、IPRの他の亜型と比較してIPR3が膠芽細胞腫細胞で顕著に多く発現することが示された。
【0055】
4.2.IPR3に特異的なカフェインの活性
HEK293T細胞をIPR1(ウシ)およびIPR3(ウシ)でそれぞれ形質転換した(GFPとIPR遺伝子を同時に形質転換させたHEK293T細胞はATCCから入手し、かつGFPが入った細胞らのみをCa2+イメージングし、Ca2+イメージングは形質転換させてから2日後に行った)。細胞はその後10mMカフェインで処理した。カフェイン処理した細胞に対して、TFLLR誘導性Ca2+放出(30μM TFLLRで処理)に対する遮断度を評価した。結果を図6aおよび図6bに示す。図6aにおいて、IPR1が発現する場合には、TFLLR誘導性Ca2+放出に対するカフェインによる遮断は顕著でなかった。しかしながら、図6bに示されているように、IPR3を発現する場合には、TFLLR誘導性Ca2+放出に対するカフェインによる遮断が観測された。
【0056】
HEK293T細胞を、IPR1(ウシ)、IPR3(ウシ)、およびIPR3(ウシ)でそれぞれ形質転換した(GFPとIPR遺伝子を同時に形質転換させたHEK293T細胞はATCCから入手し、かつGFPが入った細胞らのみをカルシウムイメージングし、Ca2+イメージングは形質転換させてから2日後に行った。)。細胞はその後10mMカフェインで処理した。カフェイン処理した細胞に対して、TFLLR誘導性Ca2+放出(30μM TFLLRで処理)に対する%遮断を評価した。結果を図6cに示す。図6cに示すように、ウシ由来のみならず、マウス由来の遺伝子の場合にも、TFLLR誘導性Ca2+放出に対するカフェインによる遮断がIPR3に対して特異的であった。エラーバーは平均±SEMである。
【0057】
図6dおよび図6eは、IPR3に対するGFPを付けたshRNAを、電気穿孔を通じて形質させたU178MG細胞のCa2+イメージングの結果である。shRNAが発現している細胞ではCa2+放出がほとんどない反面、GFPのみを形質転換させた細胞では正常なCa2+放出が観測された。これは、カフェイン添加が有意にカルシウム放出を遮断することを示す。したがって、この実験から、IPR3が神経膠腫細胞でのCa2+放出に非常に重要な役割を果たすことと、カフェインがIPR3に特異的なCa2+放出の阻害活性を示すことが証明される。
【0058】
また、図6fおよび図6gは、カフェイン処理していないU178MG細胞と、カフェイン処理したU178MG細胞との細胞遊走をライブイメージングした結果を示し、9時間の間、10分間隔で顕微鏡観察(200倍率)して得られた細胞遊走経路を赤線で表示した。図6fおよび図6gで明らかなように、カフェインで処理した場合、U178MG細胞の動きが顕著に鈍化することが分かる。
【実施例5】
【0059】
カフェインによる腫瘍増殖の阻害
海馬の器官型切片培養(Organotypic hippocampal slice cultures、OHSCs)において、カフェインがU178MG神経膠腫細胞の浸潤を減少させるかどうかについて試験した。前記OHSCsは「Simoni AD and YuLM,Preparation of organotypic hippocampal slice cultures:interface method.Nat Protoc.2006;1(3):1439〜45」の記載に従って調製した。器官型神経膠腫浸潤を若干変更した(Eyupoglu IY、Hahnen E、Buslei R、Siebzehnrubl FA、Savaskan NE、Luders M、Trankle C、Wick W、Weller M、Fahlbusch R、Blumcke I.Suberoylanilide hydroxamic acid(SAHA)has potent anti−glioma properties in vitro、ex vivo and in vivo.J Neurochem.2005 May;93(4):992〜9)。簡略に説明すれば、0、1、2、5、および10mMのカフェインの存在下で、DiI株化(DiI−strained)U178MG細胞(5000細胞/20nl)を6日目の海馬器官型切片上に乗せた。1時間および120時間経過後、前記神経膠腫細胞の挙動を、倒立型共焦点レーザー走査顕微鏡(inverted confocal laser scanning microscope)(Zeiss LSM5、Carl Zeiss社、ドイツ)を使用して観察した。得られた結果を図7aに示す。図7aは、6日目の切片表面に乗せたU178MG細胞を示す写真で、Adobe Photoshop 7 softwareを利用して1時間後のイメージ(緑色)と120時間後のイメージ(赤色)を重ねておいた併合イメージである。スケールバー:500μm。
【0060】
また、Image J software(NIH、MD)を用いて、DiI株化細胞の浸潤領域を計算した。
【0061】
浸潤領域(%)=(120時間後のDiI株化細胞領域/1時間後のDiI株化細胞領域)×100。
【0062】
このように得られた浸潤領域の計算結果を図7bに示した。データは平均±SEMとして表示している(***p<0.001 対照に対するStudents t−検定;による;+++p<0.001 未処理に対するStudent's t−検定による)。図7bで示されているように、カフェイン処理していない場合よりは、カフェイン処理した場合に浸潤領域が減少し、カフェイン処理濃度に比例して浸潤領域が減少することが見出された。
【0063】
また、カフェインによる腫瘍増殖抑制効果を確認するため、異種移植(xenograft)モデルを用いた試験を行い、U78MG細胞(ATCC)を皮膚に注入して腫瘍の進行を検討した。
【0064】
5週齢の無胸腺マウス(Balb/c nu/nu)をCentral Lab.Animal Inc.(日本)から得た。異種移植腫瘍増殖アッセイのために、U87MG細胞(3×10細胞/150μl PBS)をマウスの左側横腹に皮下注入し(n=5乃至10マウス/グループ)、実験は3回行った。注入後7日目に、カフェイン(Sigma社、St.Louis、MO)を飲用水に1mg/mlの濃度で与えた。対照群には蒸溜水を与えた。腫瘍の大きさは一週間に2回ずつ4週間測定し、腫瘍体積は次の式で計算した:
体積=(長さ×幅)/2
【0065】
カフェインの効果は、移植された腫瘍細胞の増殖遅延によって測定した。
【0066】
図7aに示すように、カフェイン処理した場合、カフェイン処理していない対照群と比較して、顕著に腫瘍体積の増加が阻害された。図7bは、カフェイン処理し始めた日を0日とし、この時の腫瘍体積を100%として腫瘍の大きさの成長を%値で示す。
【0067】
試験管内試験の結果をより全身的水準で適用するために、局所的な微小環境がカフェインの効果を損なうことができる急性切片及び生体内動物モデルに対するカフェインの効果を試験した。マウスの脳の急性切片に対して1μl DiIが添加されたU178MG細胞(Emory Uni.)を線条体部位に乗せた後、これらの細胞の隣接部位に対する放射状進行を試験した。図7cで示されるように、10mMカフェインで処理された脳切片において、DiIが添加されたU178MG細胞は、10mM 7−エチルテオフィリン及びカフェインなし(0mM)で処理した対照群切片と比較して、顕著に低い浸潤を示したことが見出された。
【0068】
生存率に対するカフェインの効果を試験するために、ヒトU87MGが移植された箇所において同所移植モデルを構築した。同所移植モデルを調製するため、最初にカフェイン溶液(0.1% wt/vol)で1週間前処理した。その後、U87MG細胞(2×10細胞/5μl PBS)をブレグマ(bregma)の側面2mm、前方0.5mmおよび脳実質(intraparenchymal)の3.5mmの座標で、左側前頭葉に頭蓋内注入して移植した。U87MG細胞をヌードマウス(5週齢、Balb/c nu/nu)の脳に注入したGBM動物モデルにおいて、1mg/mlカフェイン含有飲用水を通じてカフェインを摂取したモデル群とカフェインを摂取していないモデル群での生存率を測定した。結果を図7dに示す。生存率は図7dのグラフに示すように、腫瘍細胞注入日(0日)からマウスが死ぬまでの時間である。対照群(CTL)は、カフェイン処理していない群である。図7dで示すように、カフェインを摂取したマウスは、カフェインを摂取していない対照マウスと比較して、生存率が顕著に増加した。これはマウスモデルにおけるカフェイン処理は、GBM細胞の浸潤および増殖を顕著に減少させることを示す。
【実施例6】
【0069】
細胞毒性試験
各細胞株(U178MG、U87MG、U373MG、およびT98MG)でのカフェイン濃度に依存する細胞生存率を、比色MTT還元アッセイ(colorimetric MTT reduction assay)によって評価した。カフェイン処理前に、細胞を96−ウェルプレートで増殖させた。処理24時間後、MTT溶液(2.5mg/ml)10μlをそれぞれのウェルに入れ、細胞を37℃で4時間培養した。細胞をDMSOで可溶化させ、570nmにおいて分光光度的に定量化した。データは、対照値に対する生存率で表示した。
【0070】
得られた結果を図8に示した。図8のデータは対照群(カフェイン処理なし)に対する生存率で表示した。図8から分かるように、T98MG細胞株における10mMカフェイン処理では生存率が減少することが見出され、他の細胞株では生存率が高かった(70%以上)。これはカフェインが比較的高濃度でも低い細胞毒性レベルを示すことを示唆する。
【実施例7】
【0071】
カフェイン作用とCa2+濃度との関係
カフェイン作用はストア感受性チャンネルまたはストア枯渇に依存的であることを示すために、Ca2+添加およびCa2+無添加浴槽(bath)でのカフェイン作用を試験した。
【0072】
まず、Ca2+無添加HEPESバッファーで1μMタプシガルギンを2分間適用した。小胞体でのCa2+枯渇後、追加溶液を2mM Ca2+ HEPESバッファーに交換した。前記カルシウムイオン含有追加溶液に交換する100秒前に、10mMカフェインまたは20μM SKF96365を適用した(U178MG細胞株、Emory Uni.)。得られたカルシウムイオン濃度変化を図9aに示した。上段は無添加群、中段はカフェイン添加群、下段はSKF96365添加群である。
【0073】
図9bおよび図9cは、カフェイン未処理のFura−2が添加されたU178MG細胞(対照群)および10mMカフェイン処理のFura−2が添加されたU178MG細胞での、シクロピアゾン酸(Cyclopiazonic acid、20μM)誘導性またはタプシガルギン(1μM)誘導性の[Ca2+]i増加を示す。図9dは、10mMカフェイン存在下でのシクロピアゾン酸(20μM)およびタプシガルギン(1μM)による%対照を示す。エラーバーは、平均±SEMである。
【0074】
図9a乃至図9dは、カフェインによるCa2+遮断が、IPRを通じたCa2+放出の遮断によって起こることを示す。つまり、カフェインによるCa2+遮断は、Ca2+枯渇または、TRPC(transient receptor potential ion channels)を通じたカルシウム流入の遮断によらない。むしろ、Ca2+遮断はIPRを遮断することによって起こる。
[実施例7]
【0075】
カフェイン誘導体の作用試験
カフェインのみならず、カフェイン類似体もカフェインと同等程度の活性、つまり、脳腫瘍細胞でのCa2+放出に対する阻害、およびCa2+シグナル伝達による細胞増殖、移動および浸潤阻害活性を有するかどうかを確認するために、いくつかのカフェイン類似体のCa2+放出に対する阻害活性を測定した。
【0076】
まず、U178MG細胞(Emory Uni.)を10mMカフェインまたは10mM 7−エチルテオフィリンでそれぞれ処理した後、30μM TFLLRで処理した。細胞内Ca2+放出の挙動動態を測定して、図10a(カフェイン)および図10b(7−エチルテオフィリン)にそれぞれ示した。図10aおよび図10bで示すように、カフェイン処理によりTFLLR誘導性Ca2+放出が阻害されるが、その類似体である7−エチルテオフィリン処理によっては、このような阻害が見出されなかった。したがって、すべてのカフェイン類似体がカフェインと類似するCa2+遮断効果を示すのではないことが見出された。
【0077】
カフェイン類似体中の有意な遮断効果を有する物質を探索するために、カフェインおよび10種類の代表的なカフェイン類似体について、Ca2+放出(%遮断)に対する遮断効果を測定した。結果を図10cに示す。エラーバーはSEMを示す。図10cから観測されるように、カフェイン以外の物質にも、ある程度のCa2+放出に対する遮断効果が見出された。このような物質には、7−イソプロピルテオフィリン、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、および1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンが含まれる。これらの物質の中でも、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、および1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンは、20%以上の優れた阻害効果を示し、特に1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンは、50%以上の非常に優れた阻害効果を示した。
【実施例8】
【0078】
Ca2+シグナル経路に対する遺伝子のマイクロアレイ解析
本実施例で使用されたマイクロアレイ解析は次のような方法で行った。
【0079】
8.1:全RNA抽出
全RNAは、10個の正常ヒト脳組織および27個の神経膠腫から、使用説明書に従ってTRIZOL(登録商標)試薬(Invitrogen社、英国)を用いて単離し、その後RNeasy mini kit(Qiagen社、Valencia、CA)で精製した。
【0080】
8.2.RNA量、完全性(Integrity)および純度の評価
NanoDrop分光光度計(NanoDrop Technologies社、Wilmington、Delaware、米国)を用いて、OD260/280を測定し、全RNA量および純度を測定した。A260/280比率が>1.8であるものを、マイクロアレイ実験に使用可能なものと見なした。RNAの長さ分布および完全性は、Agilent Total RNA Nano chip assay(Agilent Technologies社、Palo Alto、CA)を用いる蛍光検出(Agilent Bioanalyzer 2100)によるキャピラリー電気泳動で、28Sおよび18S rRNAバンドの存在に対して評価した。理論上、28Sバンドの強度は、18Sバンドの強度の2倍にならなければならない。
【0081】
8.3.マイクロアレイプラットフォーム
遺伝子発現解析は、Agilent Human 1A(V2)oligo microarry Kit(Agilent Technologies社、PaloAlto、CA)を用いて行った。マイクロアレイは各プローブ当り4個の複製配列(replicate)がアレイを横切って分布するように、つまり、4×20K Multiplexスライドフォーマットで設計した。4個の複製配列は、対照スポット(control spot)を含む、それぞれ20,000個以上の60塩基長のヒト遺伝子及び転写配列を含む。
【0082】
8.4.RNA標識およびハイブリダイゼーション
オリゴマイクロアレイ解析に使用するための蛍光ラベル化cDNAは、アミノアルキル−UTP存在下でAmino allyl MessageAmpTM aRNA kit(Ambion Inc.,Texas)を使用して全RNAを増幅させた後、Cy3またはCy5染料(1色使用の場合はCy3染料)(AmershamPharmacia社、Uppsala、スウェーデン)を結合させて調製した。Agilent 60merオリゴマイクロアレイプロセシングプロトコルを使用して、回転ハイブリダイゼーション化オーブンで、65℃で17時間ハイブリダイゼーションを行った。プロトコルに従ってスライドを洗浄した後、GenePix 4000B アレイスキャナ(Axon Instruments社、Union City、CA)でスキャンした。
【0083】
8.4.マイクロアレイデータ解析
スキャンされたイメージは、GenePix Pro 6.0 software(Axon Instruments社、Union City、CA)を用いて解析して、遺伝子発現比率を得た。変換されたデータはLOWESS回帰式[Cell Mol Life Sci.2007 Feb;64(4):458〜78]を用いて正常化し、その後GeneSpring GX 7.3ソフトウェアプログラム(Agilent Technologies Inc.米国)を用いて解析した。1色デフォルト正常化(チップあたり:平均または百分位数に正常化させる;遺伝子当たり:平均に正常化させる)と共に、GeneSpring GXは先ずそれぞれの実測強度値をチップの平均値で割った。その後、各値を、サンプルにわたる各遺伝子の平均値でさらに割って、最終正常化値を得た。
【0084】
カルシウムイオンのシグナル経路に対する遺伝子のマイクロアレイ解析結果を、次の表1に示した。
【表1】

【0085】
表1は、カフェインの標的として見出された、Ca2+に関与するシグナル伝達系に関連した遺伝子の発現程度(数字で表される)を反映する数値を示したものである。ITPR3、TRPC6、EGFR、F2R、PLCE1などの遺伝子発現レベルが、顕著に増加していることが観測された。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図1e】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図2d】

【図2e】

【図2f】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図4a】

【図4b】

【図4c】

【図4d】

【図4e】

【図4f】

【図4g】

【図4h】

【図5a】

【図5b】

【図5c】

【図5d】

【図6a】

【図6b】

【図6c】

【図6d】

【図6e】

【図6f】

【図6g】

【図7a】

【図7b】

【図7c】

【図7d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェイン、7−イソプロピルテオフィリン、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンおよびこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、イノシトール1,4,5−三リン酸受容体サブタイプ3(IPR3)の阻害用の組成物。
【請求項2】
カフェイン、7−イソプロピルテオフィリン、7−(β−ヒドロキシエチル)テオフィリン、キサンチン、テオフィリン、1,7−ジメチル−3−イソブチルキサンチンおよびこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群より選択される1種以上を有効成分として含む、Ca2+過剰放出と関連する疾病の予防用または治療用の組成物。
【請求項3】
前記Ca2+過剰放出と関連する疾病は、脳卒中、不安症、過敏性膀胱炎、炎症性腸疾患、過敏性大腸症候群、てんかん性大膓炎、頭部外傷、偏頭痛、慢性、神経病症性または急性痛症、薬品またはアルコール中毒、神経病性障害、精神病、睡眠障害、恐怖症、強迫観念、外傷後ストレス障害、憂鬱症、てんかん、糖尿病、癌、男性不妊、高血圧、肺高血圧、心臓性不整脈、鬱血性心不全症、狭心症、多嚢胞性腎疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィーからなる群より選択される1種以上の疾病である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちのいずれか1項に記載の組成物を含む、Ca2+過剰放出と関連する疾病の改善用の食品組成物。

【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【公表番号】特表2011−510976(P2011−510976A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544875(P2010−544875)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/KR2008/000603
【国際公開番号】WO2009/096616
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(591074116)韓国科学技術研究院 (17)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF SCIENCE AND TECNOLOGY
【住所又は居所原語表記】39−1 Hawolgok−dong,Seongbuk−gu,Seoul 136−791KOREA
【Fターム(参考)】