説明

イバブラジンおよび薬学的に許容され得る酸とのその付加塩の新規な合成法

【課題】式(I)で示されるイバブラジン及び薬学的に許容される酸との塩の合成方法。


【解決手段】式(VI)で示される化合物を出発物質として三工程でイバブラジンを合成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化1】


で示されるイバブラジンまたは3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、およびその水和物の合成方法に関するものである。
【0003】
イバブラジン、および薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、より特別にはその塩酸塩には、非常に価値ある薬理学的な、かつ治療上の特性、特に徐脈特性があり、そのために、これらの化合物は、狭心症、心筋梗塞、および付随する律動障害のような、心筋虚血の様々な臨床的状況の治療または予防はもとより、律動障害、特に上室性律動障害が関与する様々な病態や心不全にも役立つことになる。
【0004】
イバブラジン、および薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、より特別にはその塩酸塩の製造、および治療用途は、欧州特許出願公開第0 534 859号公報(EP 0 534 859)に記載されている。
【0005】
その特許明細書は、式(II):
【0006】
【化2】


で示される化合物から出発して、これを分割して、式(III):
【0007】
【化3】


で示される化合物を得て、これを、式(IV):
【0008】
【化4】

【0009】
で示される化合物と反応させて、式(V):
【0010】
【化5】


で示される化合物を得て、これの接触水素化によってイバブラジンを得て、次いで、これをその塩酸塩へと変換する、塩酸イバブラジンの合成を記載している。
【0011】
この合成経路の短所は、僅か1%にすぎない収量でイバブラジンをもたらすことである。
【0012】
この化合物の薬学的価値からして、優れた収量でイバブラジンをもたらす効果的な合成法によって、それを得ることが重要になっている。
【0013】
本発明は、式(I):
【0014】
【化6】


で示されるイバブラジンの合成方法であって、式(VI):
【0015】
【化7】


で示される化合物を、有機溶媒中でチオールの作用に付して、式(VII):
【0016】
【化8】


[式中、Rは、置換または非置換の、場合によりペルフッ素化された、直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のベンジル基、あるいは基CH2CO2Etを表す]
で示されるヘミチオアセタールを形成して、これを環化反応に付して、式(VIII):
【0017】
【化9】


[式中、Rは、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、これを還元反応に付して、式(I)のイバブラジンを得て、これを場合により、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびショウノウ酸から選ばれる薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、ならびにその水和物に変換してもよいことを特徴とする方法に関するものである。
【0018】
式(VII)のヘミチオアセタールを形成する反応に用いられる溶媒は、ジクロロメタンであるのが好ましい。
【0019】
式(VI)の化合物と反応させるのに選ばれるチオールは、チオフェノールであるのが好ましい。
【0020】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応に用いられる溶媒は、ジクロロメタンであるのが好ましい。
【0021】
本発明の好適実施態様では、式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸およびトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルから選ばれる試薬の存在下で実施する。
【0022】
より好ましいのは、式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸の存在下で実施することである。
【0023】
はるかに好ましいのは、式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸、ならびにBF3・OEt2、Sc(OTf)3およびYb(OTf)3から選ばれるルイス酸の存在下で実施することである。
【0024】
はるかに好ましいのは、式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸およびBF3・OEt2の存在下で実施することである。
【0025】
式(VIII)の化合物を還元する反応は、エタノール中のラネーニッケルの存在下、またはテトラヒドロフラン中のヨウ化サマリウム(II)の存在下で実施するのが好ましい。
【0026】
式(VI)、(VII)および(VIII)の化合物は、化学工業または製薬工業、特にイバブラジン、薬学的に許容され得る酸とのその付加塩およびその水和物の合成における合成中間体として役立つ新規生成物であり、それ自体が本発明の不可欠の部分を形成する。
【0027】
用いられる略語のリスト:
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
THF:テトラヒドロフラン
IR:赤外線
【0028】
下記の実施例は、本発明を例示する。
【0029】
融点(MP)は、コフラーブロック(Kofler block)(KB)を用いて測定した。赤外線スペクトルは、Golden Gate ATRアクセサリーを備えたBruker Tensor27なる赤外線装置にて記録した。物質は、純粋な形態でプレート上に取り付けた。
【0030】
実施例1:[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]カルバミン酸t−ブチル
二炭酸ジ−t−ブチル(12g;55.2mmol)を、ジクロロメタン(200ml)中の2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチルアミン(10g;55.2mmol)の溶液に加えた。環境温度で1時間接触させた後、反応混合物を減圧下で濃縮した。残渣をペンタン(100ml)に溶解し、環境温度で1時間接触させた後、懸濁液をフリット越しにろ過した。標記生成物13.2gを固体の形態で得た。
収量=85%
融点=65±2℃
【0031】
実施例2:3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]カルバミン酸t−ブチル
DMF40ml中の上記工程で得た化合物(7.6g;27mmol)の溶液に、NaH(油中60%)(1.14g;28.5mmol)を環境温度で小分けして加えた。環境温度で1時間接触させた後、DMF16ml中の3−クロロ−N−{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}−N−メチル−1−プロパンアミン(7.68g;27mmol)の溶液を加え、次いで、反応混合物を80℃に3時間加熱した。環境温度に冷却した後、反応混合物を蒸留水および氷の混合物に注ぎ込んだ。水相を酢酸エチルで抽出した。併せた有機相を、MgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮した。残渣をシリカでのクロマトグラフィー(CH2Cl2/EtOH:95/5)によって精製し、標記生成物9.1gを油状物の形態で得た。
収量=64%
IR:ν=3340、1678、1519、1167cm−1
【0032】
実施例3:N−{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}−N’−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]−N−メチル−1,3−プロパンジアミン
上記工程で得た化合物9g(17mmol)を2.8NHClエタノール溶液に溶解した。環境温度で2時間接触させた後、反応混合物を減圧下で濃縮した。残渣を1N水酸化ナトリウム溶液に溶解し、次いで、水相を酢酸エチルで抽出した。有機相をMgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮した後、標記生成物6.8gを油状物の形態で得た。
収量=93%
IR:ν=3304、2793、1261、1236、1205、1153cm−1
【0033】
実施例4:N−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−N−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]−2−ヒドロキシアセトアミド
工程1:酢酸2−{{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]アミノ}−2−オキソエチル
ジクロロメタン200ml中の上記工程で得た化合物(6.8g;15.8mmol)の溶液に、0℃でトリエチルアミン(3.1g;22mmol)を加え、次いで、塩化アセトキシアセチル(2.1ml;19mmol)を滴加した。環境温度で0.5時間接触させた後、反応混合物を蒸留水で洗浄し、次いで、有機相をMgSO4で乾燥した。有機相を減圧下で濃縮した後、標記生成物8gを油状物の形態で得て、精製せずに次工程で用いた。
【0034】
工程2:N−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−N−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]−2−ヒドロキシアセトアミド
水/メタノール混合物(2/1)80ml中の上記工程で得た化合物(8g)の溶液に、K2CO3(8.3g;60.4mmol)を加えた。環境温度で1時間接触させた後、反応混合物を減圧下で濃縮し、次いで、残渣を蒸留水に溶解した。酢酸エチルで抽出した後、併せた有機相を、MgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮した。標記生成物6.2gを油状物の形態で得た。
収量=81%(2工程で)
IR:ν=3406、2794、1641、1261、1236、1205、1153cm−1
【0035】
実施例5:N−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−N−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル]−2−オキソアセトアミド
ジクロロメタン25ml中の塩化オキサリル(0.6ml;6.77mmol)の溶液に、ジクロロメタン5ml中のDMSO(0.9ml;12.32mmol)の溶液を−78℃で加えた。−78℃で1時間接触させた後、ジクロロメタン25ml中の上記工程で得た化合物(3g;6.16mmol)の溶液を0.5時間にわたって加えた。−78℃で1時間接触させた後、トリエチルアミン(4.3ml;30.8mmol)を加え、次いで、反応混合物を、環境温度で3時間攪拌し、次いで飽和NaHCO3水溶液に注ぎ込んだ。有機相を、MgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮した。標記生成物2.7gを油状物の形態で得た。
収量=89%
IR:ν=2788、1645、1589、1261、1236、1207、1151cm−1
【0036】
実施例6:3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1−(フェニルスルファニル)−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン
ジクロロメタン60ml中の上記工程で得た化合物(2.6g;5.17mmol)の溶液に、チオフェノール(0.53ml;5.17mmol)を加えた。環境温度で一晩接触させた後、無水トリフルオロ酢酸(6.5ml;47mmol)、次いでBF3・OEt2(6.5ml;26mmol)を逐次加えた。反応混合物を、環境温度で3時間攪拌し、次いで飽和NaHCO3水溶液に注ぎ込んだ。有機相をMgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮した後に得られた残渣を、シリカでのクロマトグラフィー(CH2Cl2/EtOH/28%NH4OH:97/3/0.3)によって精製した。標記生成物1.15gを油状物の形態で得た。
収量=38%
IR:ν=2790、1641、1245、1205、1174cm−1
【0037】
実施例7:3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン
エタノール中の上記工程で得た化合物(0.8g;1.39mmol)の溶液に、ラネーニッケル(2.5g)(H2O中50%)を加えた。還流にて1時間接触させた後、懸濁液を冷却し、次いでセライト越しにろ過した。標記生成物600mgを油状物の形態で得た。
収量=94%
IR:ν=2788、1646、1519、1461、1245、1105cm−1
【0038】
実施例8:3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン塩酸塩
上記工程で得た生成物から出発し、欧州特許出願公開第0 534 859号公報(EP 0 534 859)に記載された手順(実施例2、工程E)に従って、標記生成物を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化10】


で示されるイバブラジンの合成方法であって、式(VI):
【化11】


で示される化合物を、有機溶媒中でチオールの作用に付して、式(VII):
【化12】


[式中、Rは、置換または非置換の、場合によりペルフッ素化された、直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のベンジル基、あるいは基CH2CO2Etを表す]
で示されるヘミチオアセタールを形成して、これを環化反応に付して、式(VIII):
【化13】


[式中、Rは、上記に定義されたとおりである]
で示される化合物を得て、これを、還元反応に付して、式(I)のイバブラジンを得て、これを、場合により、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびショウノウ酸から選ばれる薬学的に許容され得る酸とのその付加塩、ならびにその水和物に変換してもよいことを特徴とする方法。
【請求項2】
式(VII)のヘミチオアセタールを形成する反応に用いられる有機溶媒がジクロロメタンであることを特徴とする、請求項1記載の合成方法。
【請求項3】
式(VI)の化合物と反応させるチオールがチオフェノールであることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の合成方法。
【請求項4】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応に用いられる溶媒がジクロロメタンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項5】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸およびトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルから選ばれる試薬の存在下で実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項6】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸の存在下で実施することを特徴とする、請求項5記載の合成方法。
【請求項7】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸、ならびにBF3・OEt2、Sc(OTf)3およびYb(OTf)3から選ばれるルイス酸の存在下で実施することを特徴とする、請求項6記載の合成方法。
【請求項8】
式(VII)の化合物を環化して式(VIII)の化合物を形成する反応を、無水トリフルオロ酢酸およびBF3・OEt2の存在下で実施することを特徴とする、請求項7記載の合成方法。
【請求項9】
式(VIII)の化合物を還元する反応を、エタノール中のラネーニッケルの存在下、またはテトラヒドロフラン中のヨウ化サマリウム(II)の存在下で実施することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項10】
式(VI):
【化14】


で示される化合物。
【請求項11】
式(VII):
【化15】


[式中、Rは、置換または非置換の、場合によりペルフッ素化された、直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のベンジル基、あるいは基CH2CO2Etを表す]
で示される化合物。
【請求項12】
式(VIII):
【化16】


[式中、Rは、請求項11に定義されたとおりである]
で示される化合物。

【公開番号】特開2011−168590(P2011−168590A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−30786(P2011−30786)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】