説明

イブプロフェンの昇華抑制方法

【課題】固形製剤中のイブプロフェンの昇華を簡易に抑制する方法の提供。
【解決手段】イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合するイブプロフェンの昇華抑制方法、および、イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合した後、これを打錠するイブプロフェンの昇華抑制方法。該酸の添加量は、イブプロフェンの1質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形製剤中に配合したイブプロフェンの昇華を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェンは化学名を(±)−2−(p−イソブチルフェニル)プロピオン酸と称し、抗炎症剤として汎用されている薬物である。しかし、イブプロフェンには昇華性があることから、イブプロフェンを配合した固形製剤を瓶などの密閉容器に保存した場合、昇華したイブプロフェンが保存容器の内壁に付着して、瓶に曇りが生じたり、埃のような外観を呈したり、著しく商品価値を低下させるという問題があった。このような問題は、固形製剤にフィルムコーティングや糖衣などを施すことにより軽減される傾向にあるが、問題解決のための簡便かつ有効な手段ではなかった。
【0003】
そこで、イブプロフェン配合固形製剤と乾燥剤を密閉系で保存し、イブプロフェンの昇華を抑制する方法が開発された(特許文献1参照)。この方法によれば極めて簡便に固形製剤中のイブプロフェンの昇華を抑制することが可能である。
【0004】
しかしながら、この方法では、乾燥剤を配合する分だけ容器の内容量が減少し、例えば、瓶等に充填しうるイブプロフェン配合錠剤の数が制限されたり、乾燥剤を使用することによるコストアップは避けられない。
【0005】
そこで、製造原価の低減等のため、乾燥剤がなくても固形製剤中のイブプロフェンの昇華を抑制できるより簡便な方法の提供が求められている。
【0006】
なお、イブプロフェンと酸が配合された固形製剤については多くの報告があるが、イブプロフェンを含有する固形製剤に酸を配合すると、イブプロフェンの昇華が抑制されるという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−333247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、固形製剤中のイブプロフェンの昇華を簡易に抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、イブプロフェンとともにクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸といった酸を固形製剤中に配合することにより、イブプロフェンに基因する昇華が簡易に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様は、イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合することを特徴とするイブプロフェンの昇華抑制方法である。
【0011】
本発明の他の態様は、イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合した後、これを打錠することを特徴とするイブプロフェンの昇華抑制方法である。
【0012】
本発明の他の態様は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸の添加量が、イブプロフェンの1質量部に対し、0.05質量部以上である前記イブプロフェンの昇華抑制方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、乾燥剤の配合を要せず、イブプロフェン配合固形製剤におけるイブプロフェンの昇華を簡易に抑制することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜4及び比較例1〜3について、ガラス瓶中で50℃4日間保存した後の瓶の曇りの状態を示す。
【図2】実施例5〜10及び比較例4で調製した錠剤について、ガラス瓶に充填し、密栓した後、50℃で14日間保存した後の瓶の曇りの状態を示す。なお、瓶の曇りの状態が識別し易いように、錠剤は取り除いた。
【図3】実施例10及び比較例5で調製した錠剤について、密栓した後、50℃で14日間及び65℃で7日間保存した後の瓶の曇りの状態を示す。なお、瓶の曇りの状態が識別し易いように、錠剤は取り除いた。
【図4】実施例11及び比較例6で調製したサンプルについて、50℃で6日間保存した後の瓶の曇りの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固形製剤に含まれるイブプロフェンは、イブプロフェンのみならず、イブプロフェンの製薬上許容される塩をも使用することができ、特に限定されるものではない。これらは公知の方法により製造することができ、また、市販のものを使用することができる。
【0016】
「イブプロフェン含有粉体」は、単にイブププロフェンを他の賦形剤等と混合したものでも、この混合粉体を造粒したものであってもよい。
【0017】
他の賦形剤としては、固形製剤の製造に通常用いられる成分(例えば結晶セルロース、乳糖、バレイショデンプン、コーンスターチ、軽質無水ケイ酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、タルク、ステアリン酸マグネシウムなど)を用いることができる。
【0018】
造粒としては、湿式でも乾式でもよく、造粒法としては、攪拌造粒、流動層造粒、練合造粒等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるクエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸は粉末状で、その添加量は、イブプロフェンの1質量部に対して0.05質量部以上が好ましい。0.05質量部未満であるとイブプロフェンの昇華を抑制する効果が見られないためである。
【0020】
また,クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸は湿式造粒しないことが好ましい。湿式造粒してしまうと、イブプロフェンの昇華抑制効果が減殺されるためである。
【0021】
したがって、イブプロフェン含有粉体が単にイブプロフェンと他の賦形剤等との混合粉体である場合には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合した後に、必要に応じて、さらに滑沢剤等を添加・混合して乾式造粒するか、乾式造粒はせずに、そのままの状態で顆粒剤や散剤として提供するか、これをカプセルに充填してカプセル剤として提供するか、圧縮成形(打錠)して錠剤として提供することができる。
【0022】
イブプロフェン含有粉体がイブプロフェンと他の賦形剤等との造粒後の粉体である場合には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合した後に、必要に応じて、さらに滑沢剤等を添加・混合して、そのままの状態で顆粒剤や散剤として提供するか、これをカプセルに充填してカプセル剤として提供するか、圧縮成形(打錠)して錠剤として提供することができる。
【0023】
このようにして調製した散剤、顆粒剤、錠剤には、イブププロフェンの刺激味抑制のためにフィルムコーティングや糖衣を施してもよい。
【0024】
本発明は、イブプロフェンを配合した固形製剤をガラス瓶等の容器に充填した際に、乾燥剤の配合を要せずイブプロフェンの昇華を抑制できる方法であるから、イブプロフェンを配合した散剤や顆粒剤を、乾燥剤を配合することが難しい分包剤に充填した場合やイブプロフェンを配合した顆粒等を充填したカプセル剤をガラス瓶等の容器に充填する場合にも有効であるが、商品性という点では、イブプロフェンを配合した錠剤を透明ガラス瓶容器に充填した場合に、乾燥剤の配合を要せず、瓶の曇り等を防止できるという点に意義があり、最終的な固形製剤の形態としては、コーティング等を施しているか否かに関わらず、イブプロフェン配合錠剤に適用する場合に最も有効である。
【0025】
本発明を利用して固形製剤を提供する場合、例えば、イブプロフェン並びにクエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸の少なくとも1種を混合し、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して常法により、顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤等として提供することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例、比較例及び試験例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1〜4]
表1に示した処方を混合し、ガラス瓶に入れ密閉した(表中の単位はg)。
【0027】
【表1】

【0028】
[比較例1〜3]
表2に示した処方を混合し、ガラス瓶に入れ密閉した(表中の単位はg)。
【0029】
【表2】

【0030】
[試験例1]
実施例1〜4及び比較例1〜3について、50℃で4日間保存後の瓶の曇りの状態を比較した。その結果を表3及び図1に示す。
なお、判定基準は次のとおりである。
【0031】
−:曇りを認めない
±:若干の曇りが認められる
+:曇りが認められる
++:著しい曇りが認められる
【0032】
【表3】

【0033】
[実施例5〜10]
表4に示した処方を乳鉢にて混合し、単発打錠機(HAND TAB200,市橋精機製)を用い、1錠質量300mgの錠剤を調製した。
【0034】
【表4】

【0035】
[比較例4]
イブプロフェンのみを単発打錠機(HAND TAB200,市橋精機製)を用い、1錠質量300mgの錠剤を調製した。
【0036】
[試験例2]
実施例5〜10及び比較例4で調製した錠剤をイブプロフェンとして約2gとなるようにガラス瓶に充填し(2K規格)、密栓した後、50℃で14日間保存後の瓶の曇りの状態を比較した。その結果を表5及び図2に示す。判定基準は試験例1の場合と同様である。
【0037】
【表5】

【0038】
[比較例5]
実施例10と同様の処方にて乳鉢にて混合し、水を加え練合造粒した後、乾燥させ、単発打錠機(HAND TAB200,市橋精機製)を用い、1錠質量300mgの錠剤を調製した。
【0039】
[試験例3]
実施例10及び比較例5で調製した錠剤をイブプロフェンとして約2gとなるようにガラス瓶に充填し(2K規格)、密栓した後、50℃で14日間及び65℃で7日間保存後の瓶の曇りの状態を比較した。その結果を表6及び図3に示す。判定基準は試験例1の場合と同様である。
【0040】
【表6】

【0041】
表6及び図3より、クエン酸を湿式造粒すると、イブプロフェンの昇華抑制効果がなくなることがわかった。
よって、クエン酸等の酸は粉末状で固形製剤中に添加する必要があることが判明した。
【0042】
[実施例11]
イブプロフェン55質量%、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース8質量%、軽質無水ケイ酸5質量%、結晶セルロース5質量%及びヒプロメロース1.5質量%を混合した。この混合物を流動層造粒乾燥機(FD−S3、パウレック製)に移し、ヒプロメロース4.5質量%及び軽質無水ケイ酸3質量%をエタノール及び精製水の混液に溶解させた結合液を噴霧して流動層造粒を行い、乾燥後整粒した。整粒後の顆粒1.4773g(イブプロフェン量として1g)とクエン酸1gを混合し、ガラス瓶(2K規格)に入れ密栓した。
【0043】
[比較例6]
実施例11で調製した顆粒1.4773g(イブプロフェン量として1g)をガラス瓶(2K規格)に入れ密栓した。
【0044】
[試験例4]
実施例11及び比較例6で調製したサンプルを50℃で6日間保存後、瓶の曇りの状態を比較した。その結果を表7及び図4に示す。判定基準は試験例1の場合と同様である。
【0045】
【表7】

【0046】
粉末状でクエン酸等の酸を添加すれば、湿式造粒したイブプロフェン配合製剤中のイブプロフェンでも昇華を抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によって、乾燥剤を配合しなくても、イブプロフェン配合錠剤のガラス瓶の曇りを防止でき、商品価値の高い医薬品として供給することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合することを特徴とするイブプロフェンの昇華抑制方法。
【請求項2】
イブプロフェン含有粉体に、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸を粉末状で添加し、混合した後、これを打錠することを特徴とするイブプロフェンの昇華抑制方法。
【請求項3】
クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びコハク酸からなる群より選択される1種以上の酸の添加量が、イブプロフェンの1質量部に対し、0.05質量部以上である請求項1又は2に記載のイブプロフェンの昇華抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231105(P2011−231105A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82342(P2011−82342)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】