説明

イベント検出装置

【課題】狭帯域信号を用いても、高精度にイベントを検出できるイベント検出装置を提供すること。
【解決手段】送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナ21と、該複数のアンテナ21によって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段22と、該相関行列演算手段22によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算手段23と、該固有ベクトル演算手段23によって演算された固有ベクトルの経時変化を検出してイベントを検出するイベント検出手段24と有するイベント検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内など所定のエリアにおいて、電波を送信する送信機と、その送信機から送信される電波を受信する受信機を配置して、電波の受信特性に基づいて、人が移動したことやドアが開閉したことなどのイベントを検出するイベント検出装置に関し、特に、細かなイベントを簡易に安定的に検出することができるイベント検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のイベント検出装置としては、赤外線ビームセンサなどのセンサを設置して、人の侵入を検知するものがよく知られている。
【0003】
しかし、センサから得られる情報は局所的である。よって、これらの方式で広範囲を観測するためには、センサやカメラを警戒すべき場所もしくは死角をなくすように多数設置する必要がある。更にその検知能力は、センサの機能、設置場所、個数などに左右され、性能向上にはコスト増加を伴う。
【0004】
また、UWB−IR(Ultra-wideband Impulse-radio)を用いた屋内侵入者検知が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。この手法は、マイクロ波を用いているので探知範囲が広い。また、UWB−IRは広帯域であるため、パス分解能や壁などの障害物に対する透過性が優れている。したがって、UWB−IRによる電力遅延プロファイルの変動を見ることで侵入者の検知が可能となる。
【非特許文献1】寺阪圭司、外3名、「UWB−IRによる屋内侵入者検知に関する検討」、電子情報通信学会論文誌B、2007年1月1日、第J90−B巻、第1号、p.97−100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、UWB−IRの手法で用いられるUWBとは名前の通り使用する周波数帯域が超広帯域であるため、他の無線サービスとの干渉問題を解決しなければならないなど技術課題が残されている。また、瞬間遅延プロファイルでは、スモールスケールフェージングによる瞬間的な変動のために起こる誤警報は避けられない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、狭帯域信号を用いても、高精度にイベントを検出できるイベント検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイベント検出装置は、送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナと、該複数のアンテナによって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段と、該相関行列演算手段によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算手段と、該固有ベクトル演算手段によって演算された固有ベクトルの経時変化を検出してイベントを検出するイベント検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記複数のアンテナは、アレイアンテナであることで、汎用のアレイアンテナを用いることができる。
【0009】
また、前記固有ベクトル演算手段は、前記相関行列の最大固有値に対応する固有ベクトルを演算することで、信頼度を高くすることができる。
【0010】
前記イベント検出手段は、平時の前記固有ベクトルと観測時の前記固有ベクトルとの内積を所定の閾値と比較することで、演算を簡易にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、狭帯域信号を用いても、高精度に人が移動したことやドアが開閉したことなどのイベントを検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例によるイベント検出装置の構成を示す図である。本実施例のイベント検出装置は、送信機10及び受信機20を備える。これらの送信機10及び受信機20は、人が移動したことやドアが開閉したことなどのイベントを検出するために所定のエリアに設置する。部屋などの閉じた空間が望ましいが、開放されたエリアであっても構わない。送信機10は電波を送信する。受信機20は、アレイアンテナ21、相関行列演算手段22、固有ベクトル演算手段23、及びイベント検出手段24を備える。アレイアンテナ21は、複数のアンテナ素子からなり、それぞれのアンテナ素子は送信機10が送信する電波を受信する。ここでは各アンテナ素子が直線上に配列されている例で説明する。アレイアンテナ21の受信信号は、各アレイアンテナ21の受信信号を要素とする受信ベクトルx→(t)で表される。ここで「→」は文章中において、その左の文字がベクトルであることを表す。
x→(t)=a→(θ)s(t)+n→(t) (1)
ただし、a→(θ):アンテナ素子数をL個とするときのL次元ベクトル
s(t):基準点での受信信号
n→(t):雑音
【数1】

(2)
ただし、θ:アンテナアレイ21の並びの方向に対する電波到来方向
d:アレイアンテナ21の各素子の間隔
λ:電波の波長
【0014】
ここで、M個の到来波が平面波として到来するとき、
x→(t)=A→s→(t)+n→(t) (3)
ただし、A→:M個のベクトル(ステアリングベクトルという)を列としたL×M行列
s→(t):各到来波の複素振幅を要素としたM次元ベクトル
【数2】

(4)
【数3】

(5)
ただし、Tは転置を表す。
と表せる。
【0015】
相関行列演算手段22は、受信ベクトルx→(t)から相関行列R→xxを演算する。
【数4】

(6)
ただし、E→[・]:集合平均
H:複素共役転置
【0016】
ここで、雑音は到来波と無関係であり、素子に独立であるので、
【数5】

(7)
ただし、σ:雑音の分散
S→:波源相関行列=E→[s→(t)s→(t)
【0017】
また、
【数6】

(8)
から得られる固有値λi、それに対応する固有ベクトルv→iを用いて、
【数7】

(9)
と固有値展開できる。ここで、
【数8】

(10)
である。ここでdiagは行列の対角要素を並べたものである。
【0018】
ここで、受信データ相関行列R→xxの固有値は、コヒーレント波群とインコヒーレント波の数の和に対応するK個の信号固有値、および、大きさが雑音電力に等しいL−K個の雑音固有値に分割できる。すなわち、
【数9】

(11)
【0019】
以上により、受信ベクトルから生成される相関行列R→xxを固有値展開することにより、信号部分空間と雑音部分空間に分けることができることを示した。信号部分空間を張る固有ベクトルv→とステアリングベクトルa→(θ)は同じ空間を張っていて、互いが他方の線形結合として表せる。つまり、信号部分空間を張る固有ベクトルは到来方向情報を含んだステアリングベクトルの線形結合によって表すことができ、電波伝搬構造を表しているといえる。
【0020】
ここで、第1固有ベクトルv→1は固有値が最も高い値を示すλ1に対応する固有ベクトルであり、受信機に信号が届いている限り、必ず信号部分空間の基底となり、
【数10】

(12)
と表せる。ここで、spanはベクトルの線形結合からなるベクトルの集合である。お互いがコヒーレントである波が到来した場合はそのステアリングベクトルの線形結合が新しい1つのステアリングベクトルとなるので、上式の本質には影響しない。したがって、第一固有ベクトルはマルチパス環境の信号空間を表し、伝搬環境によって一意に決まる。そこで、固有ベクトル演算手段23は、相関行列R→xxから第1固有ベクトルv→1を算出する。
【0021】
ここで、イベント検出のための評価関数P(t)を、イベントが何も起こっていないときにあらかじめ取得しておいた第1固有ベクトルv→noneとイベント検出の観測時に取得した第1固有ベクトルv→obとの内積
【数11】

(13)
とする。ただし固有ベクトルの大きさはどちらも1に正規化しておく。
【0022】
イベントが何も起こっていない観測時間では、伝搬環境が変化していないので、v→ob(tnone)は、v→noneと非常に近い値を示すので、1に近い値となる。一方、イベントが起きている観測時間t=teventでは、伝搬環境は変化し、v→ob(tevent)は、v→noneとは異なる値を示すので、1より小さい値となる。したがって、
【数12】

(14)
となる閾値Pthを適切に設定することによりイベント検出が可能となる。そこで、イベント検出手段24は、この式(14)の判断を行ってイベントを検出する。
【0023】
図2は、本実施例の実験を行った環境を示す図である。部屋の中に、送信機Tx及び受信機Rxを設置し、吸収体1〜6を順に配置し、ドアA及びドアBを開放した。
【表1】

表1はその実験諸元である。この実験では送信信号に中心周波数2.335GHz、π/4シフトQPSKの変調を利用している。また、受信側では、受信した信号を低い中心周波数(450kHz)に変換をし、量子化を行い記録器に記録した。このとき1回のサンプル数は20000である。記録したデータはPC上で処理され、相関行列が計算される。
【0024】
図3は、静的なイベントの評価として、吸収体を順次配置していきP(t)の値を複数回取得した。その結果として、各配置におけるP(t)の最大値を示す。ただし、None(min)だけは何も置かない状態のP(t)の最小値を示す。今回配置したどの場合も、伝搬環境の変化を捉え、P(t)の値は変化し、何も置かない状態と判別可能であることが分かる。
【0025】
図4は、動的イベントの評価として、ドアを開放したときを時系列で観測したものを示す。ドア開放は、図2で示すように、ドアA、ドアBの2箇所で行った。その結果である図4を見ると、ドアを開ける前の何も起きていない状態で、P(t)の値はほとんど変化していない。一方、ドアを開けた場合は伝搬環境によってP(t)の値は変化している。したがって、ドア開放を検出可能であることが分かる。
【0026】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0027】
送信機は、電波を発生しアレイアンテナで受信できるものであれば、他のシステムで利用しているものを併用することができる。例えば無線LANの基地局が相当する。また、信号は広帯域でも狭帯域でもかまわない。
【0028】
アンテナは複数の素子からなるアンテナであればよく、必ずしもアレイアンテナでなくてもよい。
【0029】
固有ベクトル演算手段は、複数の固有ベクトルを演算してもよいし、必ずしも相関行列の最大固有値に対応する固有ベクトルだけを演算するものに限られない。
【0030】
イベント検出手段は、固有ベクトルの内積をとるものに限られず、経時変化を検出するものであれば、例えば差をとったり、比をとったりするものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例によるイベント検出装置の構成を示す図である。
【図2】本実施例の実験を行った環境を示す図である。
【図3】静的イベントの評価結果を示す図である。
【図4】動的イベントの評価として、ドアを開放したときを時系列で観測したものを示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 送信機
20 受信機
21 アレイアンテナ
22 相関行列演算手段
23 固有ベクトル演算手段
24 イベント検出手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナと、
該複数のアンテナによって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段と、
該相関行列演算手段によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算手段と、
該固有ベクトル演算手段によって演算された固有ベクトルの経時変化を検出してイベントを検出するイベント検出手段と
を備えることを特徴とするイベント検出装置。
【請求項2】
前記複数のアンテナは、アレイアンテナであることを特徴とする請求項1記載のイベント検出装置。
【請求項3】
前記固有ベクトル演算手段は、前記相関行列の最大固有値に対応する固有ベクトルを演算することを特徴とする請求項1又は2記載のイベント検出装置。
【請求項4】
前記イベント検出手段は、平時の前記固有ベクトルと観測時の前記固有ベクトルとの内積を所定の閾値と比較することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のイベント検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216152(P2008−216152A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56462(P2007−56462)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】