説明

イマチニブ塩基を調製する新規な方法

【課題】イマチニブ塩基(4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−[(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ]フェニル]ベンズアミド)を調製する新規な方法の提供。
【解決手段】4−(4−メチル−ピペラジノメチル)−安息香酸を、ホスフィン誘導体の存在下で、2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて新規なチオエステル化合物を調製する工程、及び該チオエステル化合物を反応中間体として使用してイマチニブ塩基を調製する工程を含む、イマチニブ塩基を調製する方法。該方法によれば、経済的に、高収率及び高純度で、かつ大量にイマチニブ塩基を調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、イマチニブ塩基を調製する新規な方法に関し、より詳細には反応中間体として新規なチオエステル化合物を使用してイマチニブ塩基を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術の説明)
メシル酸イマチニブ(化学名:4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−[(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ]フェニル]ベンズアミドメシル酸塩)は、Novartisの商標名グリベックとして周知である抗腫瘍剤である。
【0003】
【化1】

【0004】
イマチニブ塩基である式(1)の化合物を調製する方法に関して、種々の技術が開発されており、具体的な調製方法は以下のとおりである。
【0005】
韓国特許出願公開第10−1993−0005628号公報は、イマチニブの調製及び抗腫瘍剤としてのその使用を最初に開示している。前記広報に開示されている調製方法は、以下の反応スキーム(1)に示されているとおりである。
【0006】
【化2】

【0007】
反応スキーム(1)に示されている方法において、式(3)の化合物の調製における水素化の還元剤として、パラジウム触媒が使用されている。式(3)の化合物を調製するプロセスは、プロセス収率が40〜50%ほどと低くパラジウム触媒が高価なので、改良を要する。
【0008】
次いで、式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンと式(7)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]ベンゾイルクロリドとの間のカップリング反応が行われて、式(1)の化合物が調製される。
【0009】
前記カップリング反応は、過剰量のピリジンの存在下で実施され、式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリミジンアミンに対するピリジンの比は約138当量であり、約40部V/Wに等しい。次いで、得られた生成物はクロマトグラフィーにより精製されるが、ピリジンは毒性があり除去が容易でなく、クロマトグラフィーのプロセスは費用も時間もかかり、そのため工業的規模のプロセスでは好ましくない。
【0010】
類似の方法において、韓国特許出願公開第10−1993−0005628号公報は、類似のピリジン/出発アミン比の利用を開示している(約140当量であり、約41部V/Wに等しい)。
【0011】
他の類似の合成手法を開示している韓国特許出願公開第10−2005−018358号公報において、式(8)の化合物から式(3)の化合物を調製するために、パラジウム触媒による水素化は実施されず、塩化第一スズを使用する化学的還元プロセスが実施され、収率も65〜75%に上昇した。さらに、式(3)の化合物と式(7)の化合物との間のカップリング反応は、ピリジンの代わりに不活性な有機溶媒を利用して実施され、そのように式(1)の化合物が調製された。しかし、式(3)の化合物の調製に還元剤として使用された塩化第一スズは高価である。さらに、式(1)の化合物の調製において高価なピリジンの代わりに不活性な溶媒が使用されると記載されているが、式(1)の化合物の収率及び純度は開示されていない。
【0012】
他の類似の方法として、韓国特許出願公開第10−2009−0061068号公報において改良された調製方法が開示されており、以下の反応スキーム(2)に示されるとおりである。
【0013】
【化3】

【0014】
反応スキーム(2)に示されている方法において、式(2)のカルボン酸は塩化チオニルなどのハロゲン化剤を使用して活性化され、その後式(7)の化合物が中間体として生成し、次いで、式(3)の化合物とのカップリング反応に供され、そのようにして式(1)の化合物が調製される。
【0015】
この反応も、式(3)の化合物のグラムあたり約2〜10体積(7〜35当量)の量のピリジン溶媒を使用して実施され、そのため得られる生成物は毒性のあるピリジンを含む。さらに、調製プロセスにおいて活性化剤として使用される塩化チオニルは、塩化水素ガスなどを発生させるので、調製プロセスに問題を起こす。そのため、この方法は改良される必要がある。
【0016】
さらに、上記の調製プロセスにおいて、除去が困難なデスメチル不純物などが反応の間に生じる。そのため、高純度のイマチニブ塩基のために、これらの不純物は除去される必要がある(韓国特許出願公開第10−2009−0061055号公報参照)。
【0017】
さらに、他の類似の方法を開示している韓国特許出願公開第10−2009−0128396号公報において、ジシクロヘキシルカルボジイミド、2−クロロ−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン(CDMT)、エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド、及び2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド(DMC)が、式(2)の化合物とともにカップリング剤として使用された。例えば、イソブチルクロロホルマートを使用して式(9)の中間体を生成した後にイマチニブを調製する方法は、以下の反応スキーム(3)により表される。
【0018】
【化4】

【0019】
反応スキーム(3)の方法は、20%以下の低い収率でイマチニブを生み出し、大量のイマチニブの調製には不利である。そのため、これは改良される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】韓国特許出願公開第10−1993−0005628号公報
【特許文献2】韓国特許出願公開第10−1993−0005628号公報
【特許文献3】韓国特許出願公開第10−2005−018358号公報
【特許文献4】韓国特許出願公開第10−2009−0061068号公報
【特許文献5】韓国特許出願公開第10−2009−0061055号公報
【特許文献6】韓国特許出願公開第10−2009−0128396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、式(1)のイマチニブ及びイマチニブの薬剤的に許容可能な塩を高純度及び高効率で調製するプロセスの検討の間に、本発明者らは、下記式(4)のカルボン酸中間体を活性化及びアミド化する工程がイマチニブの純度を決める非常に重要な工程であることを見いだし、下記式(2)の化合物からカルボン酸を選択的に活性化する種々の活性化剤を検討した。その結果、本発明者らは、下記式(5)の化合物を下記式(6)の化合物の存在下で反応させることにより、下記式(4)の中間体を高純度に調製でき、それにより所望の下記式(1)の化合物が、経済的に大量に、かつ高収率及び高純度で商業生産できることを見いだし、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、様々な種類のガンの治療のための抗腫瘍剤として使用されるイマチニブ及びその塩を大量に商業製造するプロセスにおいて起こる技術的問題を克服する、イマチニブ塩基を調製する方法であって、より費用がかからず、費やす時間が短く、そのため経済的であり、高純度及び高収率でイマチニブを製造する方法を提供するものである。
【0023】
本発明の目的は、チオエステルを調製する方法であって、下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて、下記式(4)により表される新規なチオエステル化合物を調製する工程を含む方法及びそれにより調製されたチオエステル化合物を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、下記式(4)により表される新規中間体であるチオエステル化合物を、式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンによってアミド化することにより、高効率及び高純度で、かつ経済的に、式(1)により表されるイマチニブ塩基を調製する方法を与えるものである。
【0025】
しかし、本発明により達成されるべき目的は上述の目的に限定されず、本発明の他の目的は、以下の説明から当業者には明らかに理解されるだろう。
【0026】
本発明は、下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させ、下記式(4)により表されるチオエステル化合物を調製する工程を含む、チオエステル化合物の調製方法を提供する。
【0027】
【化5】

【0028】
式中、HAは酸を表し;
nは0、1、又は2であり;
、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基、ハロゲン基、及びニトロ基からなる群から選択され;かつ
X、Y、及びZは、それぞれ独立に、C−Cアルキル基及び置換又は非置換のアリール基のうちいずれか1つである。
【0029】
本発明の一実施形態において、R、R、R、及びRは水素を表し、X、Y、及びZはフェニル基を表す。
【0030】
本発明の一実施形態において、上記工程における反応は、脂肪族又は芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数の溶媒を使用して実施できる。好ましくは、反応溶媒は、テトラヒドロフラン、ハロゲン化炭化水素、又は芳香族炭化水素であり得る。より好ましくは、それはトルエンであり得る。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記工程の反応の時間は、2〜4時間、好ましくは3時間であり得る。
【0032】
本発明の一実施形態において、式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体は、0.1〜4.0当量の量で使用される。
【0033】
本発明の一実施形態において、前記工程の反応の温度は、0〜70℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは室温であり得る。
【0034】
本発明は、前記方法により調製されるチオエステル化合物も提供する。
【0035】
また、本発明は、
(a)下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて、下記式(4)により表されるチオエステル化合物を生成する工程;及び
(b)工程(a)で生成した下記式(4)で表されるチオエステル化合物を、下記式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンと反応させて、下記式(1)により表されるイマチニブ塩基を調製する工程
を含む、イマチニブ塩基を調製する方法も提供する。
【0036】
【化6】

【0037】
式中、HAは酸を表し;
nは0、1、又は2であり;
、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基、ハロゲン基、及びニトロ基からなる群から選択され;かつ
X、Y、及びZは、それぞれ独立に、C−Cアルキル基及び置換又は非置換のアリール基のうちいずれか1つである。
【0038】
本発明の一実施形態において、R、R、R、及びRは水素を表し、X、Y、及びZはフェニル基を表す。
【0039】
本発明の一実施形態において、工程(a)又は(b)における反応は、脂肪族又は芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数の溶媒を使用して実施できる。
【0040】
本発明の他の実施形態において、溶媒は、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数であり得る。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記工程(a)における反応の時間は、2〜4時間、好ましくは3時間であり得る。
【0042】
本発明の他の実施形態において、工程(a)における式(5)の化合物は、0.1〜4.0当量、好ましくは0.9〜2.0当量の量で使用でき、工程(a)における反応の温度は、0〜70℃、好ましくは10〜60℃であり得る。
【0043】
本発明の他の実施形態において、工程(b)の式(3)の化合物は、0.1〜3.0当量、好ましくは0.5〜2.0当量の量で使用でき、工程(b)における反応の温度は、10〜120℃、好ましくは20〜60℃であり得る。
【0044】
さらに、本発明によるイマチニブ塩基を調製する方法は、
(i)工程(b)の反応の完了後、反応溶媒を除去して、濃縮物を形成する工程;(ii)前記濃縮物を水に溶かし、前記溶液のPHを1〜6に調整する工程;(iii)工程(ii)のpH調整後、有機溶媒を使用して有機層から不純物を除去する工程;(iv)工程(iii)の不純物除去の後、前記溶液のpHを8〜14に調整する工程;及び(v)工程(iv)のPH調整後、固体を生成するか、又は有機溶媒を使用して水層を除去する工程
を、さらに含み得る。
【0045】
式(4)により表されるチオエステル化合物は、イマニチブ塩基の調製に使用される新規な中間体であるが、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(2)及び(5)の化合物を出発物質として使用して簡単に調製できる。
【0046】
【化7】

【0047】
式中、HAは酸を表し;
nは、0、1、又は2であり;
【0048】
【化8】

【0049】
式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基、ハロゲン基、及びニトロ基を表し;
【0050】
【化9】

【0051】
式中、R、R、R、及びRは、式(4)における定義と同義であり:
【0052】
【化10】

【0053】
式中、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、C−Cアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を表す。
【発明の効果】
【0054】
(有利な効果)
本発明は、大量のイマチニブ及びその種々の塩を製造するために非常に穏やかな条件下で実施できる、イマチニブ塩基を、特に医薬として使用されるイマチニブメシル酸塩を調製する、新規な方法に関する。さらに、本発明の方法は、各工程の後の単純な精製プロセスにより高収率で実施可能である。
【0055】
さらに、イマチニブ塩基を調製する本発明の方法において、中間体として使用されるチオエステル化合物は、従来の調製技術に使用される中間体とは異なり、非常に安定である。したがって、副生成物の生成は、単純な精製プロセスにより抑制でき、そのため、99.5%以上という高純度を有する高純度イマチニブ及びその種々の塩を得ることが可能である。
【0056】
さらに、本発明に使用されるアミド化剤は、商業的に非常に安定であり、4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物のカルボン酸への選択性は非常に高い。そのため、反応完了後に生成するアミド化剤副生成物は、単純な濾過プロセスにより除去可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下で、本発明による式(1)の化合物を調製する方法の各工程をさらに詳細に説明する。
【0058】
式(1)の化合物を調製する方法は、以下の工程を含む。
式(2)の化合物を、式(6)の化合物の存在下で、式(5)の化合物と反応させて、式(4)のチオエステル化合物を調製する工程;及び
式(4)の化合物を式(3)の化合物によりアミド化して、式(1)の化合物を調製する工程:
【0059】
【化11】

【0060】
式中、HA、n、R、R、R、R、X、Y、及びZは、先の定義と同義である。
【0061】
工程(a):イマチニブ塩基の調製における中間体として使用される式(4)の化合物を調製する工程
下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて、式(4)に表されるチオエステル化合物を調製する。
【0062】
【化12】

【0063】
式中、HAは酸を表し;nは0、1、又は2であり;R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素、C−Cアルキル基、ハロゲン基、及びニトロ基を表し;かつ、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、C−Cアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を表す。
【0064】
本発明の一実施形態において、R、R、R、及びRは水素を表し、X、Y、及びZはフェニル基を表す。
【0065】
上記のチオエステル化反応に使用される溶媒の例としては、一般的な脂肪族又は芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらは単独でも混合物でも使用できる。好ましくは、チオエステル反応に使用される溶媒は、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数であり得る。より好ましくは、溶媒は、トルエン又はテトラヒドロフランであり得る。
【0066】
上記の反応において、式(5)の化合物は、0.1〜4.0当量、好ましくは0.9〜2.0当量、より好ましくは1.0〜1.2当量の量で使用される。
【0067】
上記の反応において、式(6)の化合物は、0.9〜3.0当量、好ましくは1.1〜1.3当量の量で使用できる。
【0068】
反応の温度は、0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。
【0069】
式(4)により表される調製された中間体化合物は、さらに精製することなく次のプロセスに使用できる。
【0070】
工程(b):アミド化反応により式(1)の化合物を調製する工程。
工程(a)で得られた式(4)のチオエステル化合物を、下記式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンと反応させて、下記式(1)により表されるイマチニブ塩基を調製する。
【0071】
【化13】

【0072】
式中、R、R、R、及びRは、水素、C−Cアルキル基、ハロゲン基、及びニトロ基からなる群から選択される。
【0073】
本発明の一実施形態において、R、R、R、及びRは水素を表す。
【0074】
上記のアミド化反応に使用される溶媒の例としては、一般的な脂肪族又は芳香族の炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、アルコール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、単独でも混合物でも使用できる。好ましくは、アミド化反応に使用される溶媒は、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数であり得る。最も好ましくは、溶媒は、トルエン又はテトラヒドロフランであり得る。
【0075】
アミド化反応において、式(3)の化合物は、0.1〜3.0当量、好ましくは0.5〜2.0当量、より好ましくは0.7〜1.0当量の量で使用され、反応の温度は、10〜120℃、より好ましくは20〜60℃である。
【0076】
一方で、式(1)の調製された化合物はさらに精製せずに次のプロセスで使用され得るが、必要な場合、精製の後で次のプロセスに使用できる。
【0077】
精製プロセスに使用される溶媒の例には、一般的な脂肪族又は芳香族の炭化水素、ケトン、アルコール、テトラヒドロフランなどがあり、単独でも混合物でも利用できる。
【0078】
本発明の一実施形態において、前記調製方法は、以下の工程をさらに含み得る。
(i)工程(b)の反応の完了後、反応溶媒を除去して、濃縮物を形成する工程;
(ii)前記濃縮物を水に溶かし、前記溶液のpHを8〜14に調整する工程;
(iii)工程(ii)のpH調整後、有機溶媒を使用して有機層から不純物を除去する工程;
(iv)有機層に水を加え、前記溶液のpHを1〜6に調整する工程;
(v)工程(iv)のpH調整後、有機溶媒を使用して、水層から不純物を除去する工程;及び
(vi)前記水層のpHを8〜14に調整して、固体を生成し、前記固体を濾過する工程。
【0079】
本発明の他の実施形態において、前記調製方法は以下の工程をさらに含み得る。
(i)工程(b)の反応の完了後、反応溶媒を除去して、濃縮物を形成する工程;
(ii)前記濃縮物を水に溶かし、前記溶液のPHを1〜6に調整する工程;
(iii)工程(ii)のpH調整後、有機溶媒を使用して有機層から不純物を除去する工程;
(iv)工程(iii)の不純物除去の後、前記溶液のpHを8〜14に調整する工程;及び
(v)工程(iv)のPH調整後、固体を生成するか、又は有機溶媒を使用して水層を除去する工程。
【0080】
本発明の他の実施形態において、固体が生成しない場合、前記調製方法は、有機層を濃縮し、水、テトラヒドロフラン、アルコール、ハロゲン化炭化水素、C−C−アルコキシカルボニル、C−C−アルカン、C−C−シクロアルカン、及びこれらの混合物からなる群から選択される一つまたは複数の溶媒を使用して濃縮物から結晶を生成する工程を含み得る。
【0081】
さらに、高純度イマチニブは、以下の工程を含む精製プロセスにより式(1)の化合物又はその塩から得ることができる。
(i)反応生成物を濾過して、非精製固体生成物を得る工程;
(ii)前記固体生成物を塩化水素により溶解させ、有機物質を使用して前記溶液から不純物を除去し、水酸化ナトリウム溶液を使用して不純物が除去された溶液から固体生成物を作り、次いで、有機物質を使用して固体生成物を分離し、それにより純度が99.5%であるイマチニブを得る工程;
(iii)イマチニブをメタンスルホン酸により処理して、イマチニブ塩を得る工程;及び
(iv)イマチニブメシル酸塩を中和して、中和されたイマチニブ塩を水素酸及び水酸化ナトリウムにより精製して、それにより純度が99.5%以上の高純度イマチニブを得る工程。
【実施例】
【0082】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
以下で、本発明を説明する。しかし、以下の実施例及び参考実施例は、本発明のよりよい理解のために与えられるものであり、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0083】
参考実施例1:HPLC分析条件
参考実施例1−1:実施例1で調製された式(2)の化合物を分析する方法
本発明のプロセス分析は、以下の表1に示されるHPLC分析条件下で実施した。
【0084】
【表1】

【0085】
参考実施例1−2:実施例1の化合物以外の化合物を分析する方法
本発明のプロセス分析は、以下の表2に示されるHPLC分析条件下で実施した。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例1:4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸(式(2))の調製
350mlのエタノールを、155g(1.547mol)のN−メチルピペラジンに加えた。室温で(25±3℃)、60g(0.351mol)の4−クロロメチル安息香酸を加え、6〜7時間攪拌した。反応をHPLCにより分析し、次いで反応溶液を減圧蒸留してエタノールを除去し、60mlの1−ブタノールをそれに加えた。混合物を、70±2℃で共沸蒸留して濃縮すると、固体が生成された。600mlの2−プロパノールをそれに加え、混合物を室温で(25±3℃)30分間攪拌し、還流下で15分間撹拌し、次いで、ゆっくりと冷却しながら室温で(25±3℃)12時間攪拌した。生成した沈殿物を19±3℃に冷却し、1時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を50mlの冷2−プロパノールで洗浄し、60℃のオーブン中で乾燥させ、それにより式(2)の白色化合物を得た(60g、収率:72%、純度:95%以上)。
HPLC純度:99.123%(デスメチル不純物:0.042%、出発物質0.42%)。
薄層クロマトグラフィー:メタノール−ジクロロメタン(7:5)、Rf:0.2。
【0088】
実施例2:S−ベンゾトリゾル−2−イル−4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)メチル]安息香酸(式(4)の調製)
100ml丸底フラスコ中で、トリフェニルホスフィン(2.39g、9.113mmol)をトルエン(32ml)に溶かした。室温で(25±3℃)、2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド(2.92g、8.792mmol)をそれに加え、室温(25±3℃)で20分間攪拌した。反応溶液に、4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸(2.0g、8.536mmol)をゆっくりと加えた(約3℃の熱の発生)。次いで、反応溶液を室温で(25±3℃)3時間攪拌し、HPLCにより分析した。反応完了後、反応温度を0℃に下げ、生成した沈殿物を濾過し、次いで2mlの冷トルエンで洗浄し、それにより2.66gの式(6)の白色結晶化合物(2.66g、収率:85%)を得た。
HPLC純度:99.93%
薄層クロマトグラフィー:メタノール−ジクロロメタン(7:5)、Rf:0.3。
【0089】
実施例3:(3−{4−[4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル]ベンゾイル]−ピペラジン−1−イルメチル}−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−ベンズアミド)(式(1))の調製
実施例2で得た式4の化合物を、30mlのトルエンに溶かしてスラリーを形成し、室温で(25±3℃)、N−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミン(1.79g、6.487mmol)をそれに滴加した。混合物を50±5℃で3〜4時間攪拌した。反応をHPLCにより分析し、次いで反応溶液を10〜15℃に冷却し、30分間攪拌した。生成した固体を濾過し、3mlの冷トルエンで2回洗浄した。濾過された固体に28mlの水を加え、25℃で攪拌しながら、約9mlの3N−塩化水素溶液をゆっくりとそれに滴加して、固体溶液のpHを3〜4に調整した。次いで、固体溶液を36mlのクロロホルムで3回洗浄した。約24mlの1N水酸化ナトリウム水溶液により、水層をpH9〜12に調整し、36mlのクロロホルムを加えて層に分離した。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。濃縮物を10mlの酢酸エチルに溶かし、室温で15分間攪拌し、濾過した。得られた固体を60℃で乾燥させ、それにより2.89gのイマチニブを得た(2.89g、収率:80.15%、純度:99.56%)。
HPLC純度:99.75%。
薄層クロマトグラフィー:メタノール−ジクロロメタン(1:9)。Rf:0.2。
【0090】
実施例4:(3−{4−[4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル]ベンゾイル]−ピペラジン−1−イルメチル}−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−ベンズアミド)(式(1))の調製
100ml丸底フラスコ中で、式(6)のトリフェニルホスフィン(4.98g)をトルエン(74.0ml)に溶かした。室温で(25±5℃)、式(5)の2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド(6.08g)をそれに加え、20分間攪拌した。反応溶液に、式(2)の4−[4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸(4.16g)をゆっくりと加えた。同じ温度で、混合物を2〜3時間攪拌した。反応完了後、式(3)の化合物(3.74g)を反応溶液にゆっくりと加え、次いで、混合物を50±5℃に加熱し、その温度で3〜5時間攪拌し、次いで25℃に下がるまで攪拌した。次いで、攪拌された溶液を12.5±2.5℃に冷却し、生成した固体を濾過し、トルエン(7.2g)で洗浄し、それにより薄黄色の固体を得た。
【0091】
濾過された固体に、水(83.2g)/ジクロロメタン(110.3g)の混合溶媒を加えるとスラリーを形成した。3N塩化水素酸を使用してスラリーをpH3.5に調整し、10分間攪拌し、次いで放置した。分離した有機層を除去し、中間層の不溶性物質を水層と共に紙で濾過した。水層を2−ブタノール(67.1g)で洗浄した。水層を準備し、ジクロロメタン(110.3g)をそれに加え、1NのNaOH溶液により混合物をpH12に調整した。次いで、溶液を層に分け、有機層をNaSO(4.16g)で乾燥させた。残渣を濾過し、濃縮すると、薄黄色の固体を得た。
【0092】
得られた固体をアセトン(65.7g)に加え、30分間還流した。還流した物質を25±5℃に冷却し、濾過し、アセトン(6.57g)で洗浄し、40℃の熱風で3時間乾燥させると、薄黄色の固体を得た。
【0093】
得られた固体をジクロロメタン(27.6g)/メタノール(32.9g)の混合溶媒に溶かし、次いで濾過して不純物を除いた。濾液を濃縮し、アセトン(6.57g)により再濃縮した。濃縮物をアセトン(65.7g)中で2時間還流した。還流した物質を25±5℃に冷却し、アセトン(6.57g)とともに濾過し、40℃の熱風で12時間乾燥させると、イマチニブ塩基(4.01g、62.5%収率、HPLC純度:99.91%)を薄黄色の固体として得た。
薄層クロマトグラフィー:メタノール−ジクロロメタン(1:9)。Rf:0.2。
【0094】
図4に見られるように、式(1)の化合物は、99.91%の高いHPLC純度を有した(図4参照)。
【0095】
本発明を特定の説明的な実施形態に関連して説明してきたが、本発明が関係する当業者には、本発明が、本発明の技術的趣旨又は基本的な特徴から逸脱せずに他の具体的形態において具体化されうることが理解されるだろう。したがって、上述の実施形態は、全ての点で説明的であり、限定的でないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1で調製された4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸(式2)のHPLC分析の結果を示す。
【図2】実施例2で調製されたS−ベンゾトリゾル−2−イル−4−[(4−メチルピペラジニル−1−イル)メチル]安息香酸塩(式4)のHPLC分析の結果を示す。
【図3】実施例3で調製された(3−{4−[4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル]ベンゾイル]−ピペラジン−1−イルメチル}−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]ベンズアミド)(式1)のHPLC分析の結果を示す。
【図4】実施例4で調製された(3−{4−[4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル]ベンゾイル]−ピペラジン−1−イルメチル}−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]ベンズアミド)(式1)のHPLC分析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、テトラヒドロフラン、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及びこれらの混合物からなる群から選択される反応溶媒中で、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて、下記式(4)により表されるチオエステル化合物を調製する工程を含む、チオエステル化合物を調製する方法。
【化1】


(式中、HAは酸を表し;
nは0、1、又は2であり;
、R、R、及びRは、水素を表し;かつ
X、Y、及びZは、フェニル基を表す。)
【請求項2】
前記反応溶媒が、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程における反応が2〜4時間実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程における反応が3時間実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体が0.1〜4.0当量の量で使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程における反応が10℃〜60℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により調製された、下記式(4)により表されるチオエステル化合物。
【化2】


(式中、R、R、R、及びRは水素を表す。)
【請求項8】
(a)下記式(2)により表される4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル]安息香酸化合物を、テトラヒドロフラン、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及びこれらの混合物からなる群から選択される反応溶媒中で、下記式(6)により表されるホスフィン誘導体の存在下で、下記式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体と反応させて、下記式(4)により表されるチオエステル化合物を調製する工程;及び
(b)工程(a)で調製した下記式(4)で表されるチオエステル化合物を、テトラヒドロフラン、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及びこれらの混合物からなる群から選択される反応溶媒中で、下記式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンと反応させて、下記式(1)により表されるイマチニブ塩基を調製する工程
を含む、イマチニブ塩基を調製する方法。
【化3】


(式中、HAは酸を表し;
nは0、1、又は2であり;
、R、R、及びRは水素を表し;かつ
X、Y、及びZはフェニル基を表す。)
【請求項9】
前記反応溶媒が、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)における反応が2〜4時間実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(a)における反応が3時間実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)中の式(5)により表される2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド誘導体が0.1〜4.0当量の量で使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(a)における反応が10℃〜60℃の温度で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)中の式(3)により表されるN−(5−アミノ−2−メチルフェニル)−4−(3−ピリジル)−2−ピリジンアミンが0.1〜3.0当量の量で使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(b)における反応が20℃〜60℃の温度で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
(i)工程(b)の反応の完了後、反応溶媒を除去して、濃縮物を形成する工程;
(ii)前記濃縮物を水に溶かし、前記溶液のPHを1〜6に調整する工程;
(iii)工程(ii)のpH調整後、有機溶媒を使用して有機層から不純物を除去する工程;
(iv)工程(iii)の不純物除去の後、前記溶液のpHを8〜14に調整する工程;及び
(v)工程(iv)のPH調整後、固体を生成するか、又は有機溶媒を使用して水層を除去する工程
をさらに含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246291(P2012−246291A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−122748(P2012−122748)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(512141596)ビーシーワールド ファーム. カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】