説明

イミダゾリウム化合物及びピリジニウム化合物

【課題】光電池の電解質組成物として用いることが有用な新規なイミダゾリウム化合物及びピリジニウム化合物を提供する
【解決手段】下記一般式(4)により表されるイミダゾリウム化合物、又は下記一般式(5)により表されるピリジニウム化合物。一般式(4):


一般式(5):

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性及び電荷輸送能に優れた電解質組成物、かかる電解質組成物を用いた光電変換素子、並びにそれからなる光電気化学電池に関する。更に本発明は該電解質組成物に用いることができる新規なイミダゾリウム化合物及びピリジニウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電池、キャパシター、センサー、表示素子、記録素子等の電気化学的素子の電解質として、電解質塩を溶媒に溶解した液状電解質が用いられてきた。しかしながら、このような液状電解質を用いた電気化学的素子においては長期間の使用又は保存の間に液漏れが発生することがあり、信頼性に欠ける。
【0003】
Nature,第353巻,第737〜740頁(1991年)、米国特許4927721号等は色素により増感された微粒子半導体を用いた光電変換素子及びそれを用いた光電気化学電池を開示しているが、これらにおいても電荷移動層に液状電解質を用いているため、長期間の使用又は保存の間に電解液が漏洩又は枯渇し、光電変換効率が著しく低下したり、素子として機能しなくなったりすることが懸念される。
【0004】
このような状況下、国際公開第93/20565号は固体電解質を用いた光電変換素子を開示した。また日本化学会誌,7,484頁(1997年)、特開平7-2881142号、Solid State Ionics,89,263(1986年)及び特開平9-27352号は、架橋ポリエチレンオキサイド系高分子化合物を用いた固体電解質を含む光電変換素子を提案した。しかしながら、これらの固体電解質を用いた光電変換素子は光電変換特性、特に短絡電流密度が不十分であり、加えて耐久性も十分ではない。
【0005】
また、電解液の漏洩及び枯渇を防止し光電変換素子の耐久性を向上させるために、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等を電解質とする方法が開示されている(国際公開第95/18456号、特開平8-259543号、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等)。これらの塩は室温において溶融状態にあり、室温溶融塩と呼ばれる。この方法では水や有機溶媒等の電解質を溶解させる溶媒が不要或いは少量で済むため、電池の耐久性が向上する。しかしながら、これらの室温溶融塩を用いた光電変換素子は光電変換効率が良くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】国際公開第93/20565号パンフレット
【特許文献3】特開平7-2881142号公報
【特許文献4】特開平9-27352号公報
【特許文献5】国際公開第95/18456号パンフレット
【特許文献6】特開平8-259543号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,第353巻,第737〜740頁(1991年)
【非特許文献2】日本化学会誌,7,484頁(1997年)
【非特許文献3】Solid State Ionics,89,263(1986年)
【非特許文献4】電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、耐久性及び電荷輸送能に優れた電解質組成物、この電解質組成物を用いたために優れた耐久性及び光電変換特性を示す光電変換素子、並びにかかる光電変換素子からなる光電気化学電池を提供することである。本発明のもう1つの目的は、電解質組成物に用いることができる新規なイミダゾリウム化合物及びピリジニウム化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、置換又は無置換のエチレンオキシ基の繰り返しを含む置換基を特定の位置に有する化合物を用いた電解質組成物は、優れた耐久性及び電荷輸送能を示すことを発見し本発明に想到した。
【0010】
本発明のイミダゾリウム化合物は下記一般式(4):
【化3】


(ただし、R401は-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基を表し、R402〜R405はそれぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ホスホニル基、複素環基、アシル基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基又はアルキル基を表し、R402〜R405のうち少なくとも1つは-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基であり、X4-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表し、R401〜R405のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよく、R401〜R405にはカチオンを含まない。)により表される。
【0011】
本発明のピリジニウム化合物は下記一般式(5):
【化4】


(ただし、R501は-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基を表し、R502〜R506はそれぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ホスホニル基、複素環基、アシル基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基又はアルキル基を表し、R502〜R506のうち少なくとも1つは-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基であり、X5-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表し、R501〜R506のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよく、R501〜R506にはカチオンを含まない。)により表される。
【0012】
前記-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基は-(CH2-CH2-O)n-CH3、-(CH2-CH2-O)n-CH2CH3、又は-(CH2-CH2-O)n-CH2CH2CN(それぞれの置換基においてnは独立に2〜20の整数を表す。)であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように、本発明の電解質組成物は耐久性及び電荷輸送能に優れており、この電解質組成物を用いた本発明の光電変換素子は優れた光電変換特性を有し、経時での特性劣化が少ない。かかる光電変換素子からなる光電気化学電池は太陽電池として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図2】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図3】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図4】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図5】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図6】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図7】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図8】本発明の好ましい光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図9】本発明の光電変換素子を用いた基板一体型太陽電池モジュールの構造の一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1]電解質組成物
本発明の電解質組成物は化学反応、金属メッキ等の反応溶媒、CCD(電荷結合素子)カメラ、種々の光電変換素子、電池等に用いることができ、リチウム二次電池又は光電気化学電池に用いるのが好ましく、半導体を用いた光電気化学電池に用いるのがより好ましい。以下、本発明の電解質組成物の各構成成分について詳述する。
【0016】
(A)溶融塩
本発明の電解質組成物は下記一般式(1):
【化5】


により表される化合物を含有する。一般式(1)により表される化合物は低融点の塩、いわゆる溶融塩である。一般式(1)により表される化合物の融点は100℃以下であるのが好ましく、80℃以下であるのがより好ましく、60℃以下であるのが特に好ましい。この化合物には常温(25℃付近)で液体である化合物、いわゆる室温溶融塩が含まれる。
【0017】
一般式(1)により表される化合物は溶媒をほとんど用いずに電解質として使用できることが多く、単独で電解質として使用できる場合も多い。常温で固体であっても少量の溶媒や添加剤等を加えることで液状とし、電解質として使用できる。また何も添加しなくても、加熱溶解して電極上に浸透させる方法、低沸点溶媒(メタノール、アセトニトリル、塩化メチレン等)等を用いて電極上に浸透させ、その後溶媒を加熱により除去する方法等により光電変換素子に組み込むことが可能である。
【0018】
一般式(1)中、Rは-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合を含む置換基を表す。ここで、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、このアルキル基の炭素原子数は1〜4個であるのが好ましい。R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であるのが好ましく、水素原子であるのがより好ましい。また、nは2〜20の整数を表し、2〜6の整数であるのが好ましく、2〜4の整数であるのが特に好ましい。nが1であると光電変換素子に用いたときの開放電圧が低く、21以上であるとイオン輸送能(電流密度)が大きく低下するため好ましくない。なお、Rは直鎖状であっても分岐状であっても、また環状であってもよい。
【0019】
前述のように、本発明の電解質組成物が含有する一般式(1)により表される化合物は、置換又は無置換のエチレンオキシ基の繰り返しを含む置換基を、特定の位置に有する。メチレンオキシ基の繰り返しは合成が困難である。また、一般式(1)により表される化合物に、トリメチレンオキシ基又はそれ以上のメチレン基を有するアルキレンオキシ基の繰り返しを含む置換基を導入すると、電解質組成物のイオン輸送能が大きく低下し、光電変換素子に用いた際に光電変換効率が悪化してしまうため好ましくない。
【0020】
一般式(1)中、Qは窒素原子と共に5又は6員環の芳香族カチオンを形成しうる原子団を表す。Qは置換基を有していてもよく、この置換基は-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合を含むのが好ましい。ここで、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す。R1〜R4及びnの好ましい態様は上記Rが含む-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合の場合と同様である。なお、一般式(1)により表される化合物が複数の-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合を含む場合、それらのR1〜R4及びnは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0021】
Qは炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1種以上の原子により構成されるのが好ましい。
【0022】
Qが形成する5員環はオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環又はトリアゾール環であるのが好ましく、オキサゾール環、チアゾール環又はイミダゾール環であるのがより好ましく、イミダゾール環であるのが特に好ましい。Qが形成する6員環はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環又はトリアジン環であるのが好ましく、ピリジン環であるのが特に好ましい。
【0023】
前述のようにQ上の置換基は-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合を含むのが好ましい。加えて、好ましいQ上の置換基の例としてアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(エトキシカルボニル基、メトキシエトキシカルボニル基等)、炭酸エステル基(エトキシカルボニルオキシ基等)、アミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N-ジメチルカルバモイル基、N-フェニルカルバモイル基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基、オキサゾリジノニル基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等)、アリール基(フェニル基、トルイル基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-カルボキシエチル基、ベンジル基等)等が挙げられる。これらの中ではアルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ホスホニル基、複素環基、アシル基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基及びアルキル基がより好ましく、アルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、ホスホニル基、複素環基及びアルキル基が特に好ましい。
【0024】
一般式(1)中、X-はアニオンを表す。X-の例としてはハロゲン化物イオン(I-、Cl-、Br-等)、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-、Rb-SO3-、SCN-等が挙げられる。X-はI-、N-(CF3SO2)2、BF4-、Ra-COO-、Rb-SO3-又はSCN-であるのが好ましく、I-であるのがより好ましい。即ち、一般式(1)により表される化合物はヨウ素塩であるのがより好ましい。
【0025】
上記Raは水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜10、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また環状であってもよく、例えばメチル基、エチルプロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、パーフルオロアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜10、例えばトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等)又は置換若しくは無置換のアリール基(好ましくは炭素原子数6〜12、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等)を表す。Raはより好ましくは炭素原子数1〜10のアルキル基又はパーフルオロアルキル基であり、特に好ましくは炭素原子数1〜10のパーフルオロアルキル基である。
【0026】
Raが置換基を有するアルキル基又はアリール基の場合、この置換基の好ましい例としては上記Q上の置換基の例と同様のものが挙げられる。加えて、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)も好ましい。より好ましくはアルコキシ基又はハロゲン原子である。
【0027】
上記Rbは置換若しくは無置換のアルキル基、パーフルオロアルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基(以上、好ましい例は上記Raと同様)を表す。Rbはより好ましくは炭素原子数1〜7のアルキル基であり、特に好ましくは炭素原子数1〜5のアルキル基である。
【0028】
Rbが置換基を有するアルキル基又はアリール基の場合、この置換基の好ましい例としては上記Q上の置換基の例と同様のものが挙げられる。中でもアルコキシ基がより好ましい。
【0029】
Ra-COO-及びRb-SO3-は、Ra又はRbを介して多量体を形成してもよい。多量体を形成する場合には2〜4量体が好ましく、2量体がより好ましい。
【0030】
一般式(1)により表される化合物は、更に一般式(2)又は(3):
【化6】


により表されるのが好ましい。
【0031】
一般式(2)及び(3)中、R5は上記一般式(1)中のRと同義であり、好ましい態様もRと同様である。R6〜R10はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R6〜R10が置換基である場合の好ましい例としては、上記Q上の置換基の例と同様のもの等が挙げられる。一般式(2)中のR6〜R9のうち少なくとも1つ、及び一般式(3)中のR6〜R10のうち少なくとも1つは、それぞれ-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合を含むのが好ましい。R5〜R10のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。この環は5〜7員環であるのが好ましく、5又は6員環であるのがより好ましい。X-はアニオンを表し、好ましい例は一般式(1)中のX-のそれと同様である。
【0032】
一般式(1)により表される化合物中の-CR1R2-CR3R4-O-結合(R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表す。)の総数は、4〜6であるのが好ましい。
【0033】
一般式(1)により表される化合物はR又はQを介して多量体を形成してもよい。形成する多量体は2〜4量体であるのが好ましく、2量体であるのがより好ましい。
【0034】
また、本発明の電解質組成物においては、下記一般式(4):
【化7】


により表される新規なイミダゾリウム化合物、或いは下記一般式(5):
【化8】


により表される新規なピリジニウム化合物を好ましく用いることができる。
【0035】
一般式(4)中、R401は置換基を表し、R402〜R405はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R401及びR402〜R405のうち少なくとも1つはそれぞれ-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合(R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す。)を含む。X4-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表す。R401〜R405のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。
【0036】
一般式(5)中、R501は置換基を表し、R502〜R506はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R501及びR502〜R506のうち少なくとも1つはそれぞれ-(CR1R2-CR3R4-O)n-結合(R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す。)を含む。X5-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表す。R501〜R506のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。
【0037】
一般式(4)又は(5)により表される化合物を電解質組成物に用いる場合、R401及びR501の好ましい態様は一般式(1)中のRと同様であり、R402〜R405及びR502〜R506が置換基である場合の好ましい例としては、上記Q上の置換基の例と同様のもの等が挙げられる。また、R401〜R405のうち2つ以上、或いはR501〜R506のうち2つ以上が互いに連結して形成する環構造は5〜7員環構造であるのが好ましく、5又は6員環構造であるのがより好ましい。
【0038】
本発明の電解質組成物が含有する一般式(1)により表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
【化9】


【0040】
【化10】


【0041】
【化11】


【0042】
【化12】


【0043】
【化13】


【0044】
【化14】


【0045】
【化15】


【0046】
本発明の電解質組成物を光電変換素子に用いる場合、電解質組成物は一般式(1)により表される化合物以外にヨウ素塩を含有するのが好ましい。このヨウ素塩のカチオンは5又は6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましい。特に、一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩でない場合は、WO 95/18456号、特開平8-259543号、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知ヨウ素塩を併用するのが好ましい。
【0047】
一般式(1)により表される化合物に併用して用いる好ましいヨウ素塩としては、下記一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c):
【化16】



のいずれかにより表されるものが挙げられる。
【0048】
一般式(Y-a)中、Qy1は窒素原子と共に5又は6員環の芳香族カチオンを形成しうる原子団を表す。Qy1は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1種以上の原子により構成されるのが好ましい。
【0049】
Qy1が形成する5員環はオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環又はトリアゾール環であるのが好ましく、オキサゾール環、チアゾール環又はイミダゾール環であるのがより好ましく、オキサゾール環又はイミダゾール環であるのが特に好ましい。Qが形成する6員環はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環又はトリアジン環であるのが好ましく、ピリジン環であるのがより好ましい。
【0050】
一般式(Y-b)中、Ay1は窒素原子又はリン原子を表す。
【0051】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のRy1〜Ry6はそれぞれ独立に置換又は無置換のアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜24、直鎖状であっても分岐状であっても、また環式であってもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、t-オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2-ヘキシルデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、或いは置換又は無置換のアルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜24、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばビニル基、アリル基等)を表し、より好ましくは炭素原子数2〜18のアルキル基又は炭素原子数2〜18のアルケニル基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜6のアルキル基である。ただし、一般式(Y-b)中のRy1〜Ry4のうち3つ以上が同時にアルケニル基であることはない。
【0052】
一般式(Y-b)中のRy1〜Ry4のうち2つ以上が互いに連結してAy1を含む非芳香族環を形成してもよい。また、一般式(Y-c)中のRy1〜Ry6のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよい。
【0053】
一般式(Y-a)、(Y-b)及び(Y-c)中のQy1及びRy1〜Ry6は置換基を有していてもよく、好ましい置換基の例としてはハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(エトキシカルボニル基等)、炭酸エステル基(エトキシカルボニルオキシ基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)、アミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N-ジメチルカルバモイル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-カルボキシエチル基、ベンジル基等)、アリール基(フェニル基、トルイル基等)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基等)、アルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基等)等が挙げられる。
【0054】
一般式(Y-a)、(Y-b)又は(Y-c)により表されるヨウ素塩は、Qy1又はRy1〜Ry6を介して多量体を形成してもよい。
【0055】
一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩である場合、電解質組成物は更にヨウ素塩以外の塩を含有していてもよい。この塩はN-(CF3SO2)2、BF4-、上記Ra-COO-及びRb-SO3-、並びにSCN-からなる群から選ばれるアニオンを含む塩であるのが好ましい。中でも、Ra-COO-、Rb-SO3-又はSCN-をアニオンとする塩がより好ましい。この塩のカチオンは5又は6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましく、その好ましい態様は上記一般式(Y-a)により表される塩のカチオン部と同様である。この場合、芳香族カチオンがエチレンオキシ基を有するのが非常に好ましい。もちろん、この塩は一般式(1)により表される化合物に含まれてもよい。即ち、ヨウ化物イオンを含む一般式(1)により表される化合物と、他のアニオンを含む一般式(1)により表される化合物を併用することも好ましい。
【0056】
一般式(1)により表される化合物と他の塩とを併用する場合、一般式(1)により表される化合物の含有量は電解質組成物全体に対して10質量%以上であるのが好ましく、20〜95質量%であるのがより好ましい。また、ヨウ素塩の含有量は電解質組成物全体に対して10質量%以上であるのが好ましく、50〜95質量%であるのがより好ましい。
【0057】
一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩である場合に併用する、ヨウ素塩以外の塩の好ましい具体例を以下に示す。
【0058】
【化17】


【0059】
【化18】


【0060】
【化19】


【0061】
【化20】


【0062】
【化21】


【0063】
(B)ヨウ素
本発明の電解質組成物を光電変換素子に用いる場合、電解質組成物はヨウ素を含有するのが好ましい。このような場合、ヨウ素の含有量は電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0064】
(C)溶媒
本発明の電解質組成物は溶媒を含んでいてもよい。電解質組成物の溶媒含有量は組成物全体の50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのが特に好ましい。
【0065】
溶媒としては低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、或いはその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。このような溶媒としてカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3-メチル-2-オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル類(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルフォラン等)、水等が挙げられる。これらの溶媒は二種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
(D)その他
本発明の電解質組成物は、ポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類の重合、ポリマーの架橋反応等の手法によりゲル化(固体化)させて使用してもよい。
【0067】
ポリマー添加によりゲル化させる場合、Polymer Electrolyte Reviews-1及び2(J. R. MacCallumとC. A. Vincentの共編、ELSEVIER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物等を添加してよく、ポリアクリロニトリル又はポリフッ化ビニリデンを用いるのが好ましい。
【0068】
オイルゲル化剤添加によりゲル化させる場合は、オイルゲル化剤としてJ. Chem. Soc. Japan, Ind. Chem. Soc., 46779 (1943)、J. Am. Chem. Soc., 111, 5542 (1989)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 390 (1993)、Angew. Chem. Int.Ed. Engl., 35, 1949 (1996)、Chem. Lett., 885, (1996)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 545, (1997)等に記載された化合物を使用することができ、アミド構造を有する化合物を用いるのが好ましい。
【0069】
多官能モノマー類の重合によって電解質組成物をゲル化する場合は、多官能モノマー類、重合開始剤、電解質及び溶媒から溶液を調製し、キャスト法、塗布法、浸漬法、含浸法等の方法により色素を担持した電極上にゾル状の電解質層を形成し、その後多官能モノマーのラジカル重合によってゲル化させる方法が好ましい。多官能モノマー類はエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物であることが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が好ましい。
【0070】
ゲル電解質は上記多官能モノマー類の他に単官能モノマーを含む混合物の重合によって形成してもよい。単官能モノマーとしては、アクリル酸又はα-アルキルアクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等)或いはそれらのエステル又はアミド(メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、3-ペンチルアクリレート、t-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2,2-ジメチルブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチルアクリレート、セチルアクリレート、n-オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、ベンジルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-メトキシエトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2-メチル-2-ニトロプロピルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、t-ペンチルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエトキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、ヘキサフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、エチレングリコールエチルカーボネートメタクリレート、2-イソボルニルメタクリレート、2-ノルボルニルメチルメタクリレート、5-ノルボルネン-2-イルメチルメタクリレート、3-メチル-2-ノルボニルメチルメタクリレート、アクリルアミド、N-i-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル等)、マレイン酸又はフマル酸或いはそれらから誘導されるエステル類(マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル等)、p-スチレンスルホン酸のナトリウム塩、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジエン類(ブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン等)、芳香族ビニル化合物(スチレン、p-クロロスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等)、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸ナトリウム、ビニリデンフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニルアルキルエーテル類(メチルビニルエーテル等)、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、N-フェニルマレイミド等が使用可能である。
【0071】
モノマー総量に占める多官能モノマーの重量組成は0.5〜70質量%であるのが好ましく、1.0〜50質量%であるのがより好ましい。
【0072】
上述のモノマーは、大津隆行・木下雅悦共著「高分子合成の実験法」(化学同人)や大津隆行「講座重合反応論1ラジカル重合(I)」(化学同人)に記載された一般的な高分子合成法であるラジカル重合によって重合することができる。本発明で使用するゲル電解質用モノマーは加熱、光又は電子線によって、或いは電気化学的にラジカル重合させることができるが、特に加熱によってラジカル重合させるのが好ましい。この場合、好ましく使用できる重合開始剤は2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル2,2'-アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオクトエート等の過酸化物系開始剤等である。重合開始剤の好ましい添加量はモノマー総量に対し0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0073】
ゲル電解質に占めるモノマーの重量組成範囲は0.5〜70質量%であるのが好ましい。より好ましくは1.0〜50質量%である。
【0074】
ポリマーの架橋反応により電解質組成物をゲル化させる場合は、組成物に架橋可能な反応性基を有するポリマー及び架橋剤を添加するのが好ましい。好ましい反応性基はピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の含窒素複素環であり、好ましい架橋剤は窒素原子が求核攻撃できる官能基を2つ以上有する化合物(求電子剤)であり、例えば2官能以上のハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネート等である。
【0075】
本発明の電解質組成物には、金属ヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等)、金属臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等)、4級アンモニウム臭素塩(テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等)、金属錯体(フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩、フェロセン−フェリシニウムイオン等)、イオウ化合物(ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等)、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等を添加してよい。これらは混合して用いてもよい。
【0076】
また、本発明ではJ. Am. Ceram. Soc., 80, (12), 3157-3171 (1997)に記載のt-ブチルピリジンや、2-ピコリン、2,6-ルチジン等の塩基性化合物を添加してもよい。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05〜2Mである。
【0077】
[2]光電変換素子
本発明の光電変換素子は導電層、感光層、電荷移動層及び対極を有し、電荷移動層に上記本発明の電解質組成物を含有する。好ましくは図1に示すように、導電層10、感光層20、電荷移動層30、対極導電層40の順に積層し、感光層20を色素22によって増感された半導体微粒子21と当該半導体微粒子21の間の空隙に充填された電解質23とから構成してなる。電解質23は電荷移動層30に用いる材料と同じ成分からなる。また光電変換素子に強度を付与するために、導電層10側及び/又は対極導電層40側に基板50を設けてもよい。以下本発明では、導電層10及び任意で設ける基板50からなる層を「導電性支持体」、対極導電層40及び任意で設ける基板50からなる層を「対極」と呼ぶ。この光電変換素子を外部回路に接続して仕事をさせるようにしたものが光電気化学電池である。なお、図1中の導電層10、対極導電層40、基板50は、それぞれ透明導電層10a、透明対極導電層40a、透明基板50aであってもよい。
【0078】
図1に示す本発明の光電変換素子において、色素22により増感された半導体微粒子21を含む感光層20に入射した光は色素22等を励起し、励起された色素22等中の高エネルギーの電子が半導体微粒子21の伝導帯に渡され、更に拡散により導電層10に到達する。このとき色素22等の分子は酸化体となっている。光電気化学電池においては、導電層10中の電子が外部回路で仕事をしながら対極導電層40及び電荷移動層30を経て色素22等の酸化体に戻り、色素22が再生する。感光層20は負極として働く。それぞれの層の境界(例えば導電層10と感光層20との境界、感光層20と電荷移動層30との境界、電荷移動層30と対極導電層40との境界等)では、各層の構成成分同士が相互に拡散混合していてもよい。以下各層について詳細に説明する。
【0079】
(A)導電性支持体
導電性支持体は、(1)導電層の単層又は(2)導電層及び基板の2層からなる。強度や密封性が十分に保たれるような導電層を使用すれば、基板は必ずしも必要でない。
【0080】
(1)の場合、導電層として金属のように十分な強度が得られ、且つ導電性があるものを用いる。
【0081】
(2)の場合、導電剤を含有する導電層を感光層側に有する基板を使用することができる。好ましい導電剤としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)等が挙げられる。導電層の厚さは0.02〜10μm程度が好ましい。
【0082】
導電性支持体は表面抵抗が低い程よい。表面抵抗は好ましくは100Ω/□以下であり、より好ましくは40Ω/□以下である。表面抵抗の下限には特に制限はないが、通常0.1Ω/□程度である。
【0083】
導電性支持体側から光を照射する場合には、導電性支持体は実質的に透明であるのが好ましい。実質的に透明であるとは光透過率が10%以上であることを意味する。光透過率は50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。
【0084】
透明導電性支持体としては、ガラス又はプラスチック等の透明基板の表面に導電性金属酸化物からなる透明導電層を塗布又は蒸着等により形成したものが好ましい。中でもフッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を低コストのソーダ石灰フロートガラスでできた透明基板上に堆積した導電性ガラスが好ましい。また低コストでフレキシブルな光電変換素子又は太陽電池とするには、透明ポリマーフィルムに導電層を設けたものを用いるのがよい。透明ポリマーフィルムの材料としては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオクタチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等が使用可能である。十分な透明性を確保するために、導電性金属酸化物の塗布量はガラス又はプラスチックの支持体1m2当たり0.01〜100gとするのが好ましい。
【0085】
透明導電性支持体の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。金属リードはアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属材料からなるのが好ましい。中でもアルミニウム及び銀が特に好ましい。金属リードを透明基板上に蒸着、スパッタリング等により設置し、その上にフッ素をドープした酸化スズ、ITO膜等からなる透明導電層を設けるのが好ましい。また透明導電層を透明基板に設けた後、透明導電層上に金属リードを設置するのも好ましい。金属リード設置による入射光量の低下は10%以内に抑えるのが好ましく、1〜5%とするのがより好ましい。
【0086】
(B)感光層
本発明の光電変換素子において、感光層は色素によって増感された微粒子半導体を含有するのが好ましい。半導体はいわゆる感光体として作用し、光を吸収して電荷分離を行い電子と正孔を生ずる。色素増感された半導体微粒子においては、光吸収及びこれによる電子及び正孔の発生は主として色素で起こり、半導体微粒子はこの電子を受け取り伝達する役割を担う。
【0087】
(1)半導体微粒子
半導体微粒子としてはシリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、III-V系化合物半導体、金属カルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、ペロブスカイト構造を有する化合物(例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)等が使用できる。本発明で使用する微粒子半導体は金属カルコゲニド微粒子からなるのが好ましい。
【0088】
好ましい金属カルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ又はタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン又はビスマスの硫化物、カドミウム又は鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素又は銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物等が挙げられる。
【0089】
本発明に用いる半導体は、好ましくはSi、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2又はCuInSe2であり、より好ましくはTiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2又はCuInSe2であり、特に好ましくはTiO2又はNb2O5であり、最も好ましくはTiO2である。
【0090】
本発明で用いる半導体は単結晶でも多結晶でもよい。変換効率の観点からは単結晶が好ましいが、製造コスト、原材料確保及びエネルギーペイバックタイムの観点からは多結晶が好ましい。
【0091】
半導体微粒子の粒径は一般にnm〜μmのオーダーである。本発明において、微粒子の投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子平均粒径は5〜200nmであるのが好ましく、8〜100nmであるのがより好ましい。また、導電性支持体上に塗布するために作製する分散液中の半導体微粒子(二次粒子)の平均粒径は0.01〜100μmであるのが好ましい。
【0092】
粒径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよい。この場合、小さい粒子の平均サイズは5nm以下であるのが好ましい。入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒径の大きな、例えば300nm程度の半導体粒子を混合してもよい。
【0093】
半導体微粒子の作製法としては、作花済夫の「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)、技術情報協会の「ゾル−ゲル法による薄膜コーティング技術」(1995年)等に記載のゾル−ゲル法、杉本忠夫の「新合成法ゲル−ゾル法による単分散粒子の合成とサイズ形態制御」、まてりあ,第35巻,第9号,1012〜1018頁(1996年)等に記載のゲル−ゾル法が好ましい。また、Degussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましく適用できる。
【0094】
半導体微粒子が酸化チタンの場合、上記ゾル-ゲル法、ゲル−ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましく利用でき、更に清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法及び塩素法を用いてもよい。加えて、バーブらのジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻,第12号,3157〜3171頁(1997年)、バーンサイドらのケミカル・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁等に記載の方法も好ましい。
【0095】
(2)半導体微粒子層
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布する際には、半導体微粒子の分散液又はコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法に加え、前述のゾル-ゲル法等を使用することができる。光電変換素子の量産化、半導体微粒子分散液又はコロイド溶液の物性、導電性支持体の融通性等を考慮すると、湿式製膜方法が比較的好ましい。湿式製膜方法としては塗布法及び印刷法が代表的である。
【0096】
半導体微粒子の分散液を作製する方法としては、前述のゾル-ゲル法、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。
【0097】
分散媒としては、水又は各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が使用可能である。分散する際には、分散助剤としてポリマー、界面活性剤、酸、キレート剤等を必要に応じて用いてよい。
【0098】
好ましい塗布方法としては、ローラ法、ディップ法等のアプリケーション系、エアーナイフ法、ブレード法等のメータリング系、また、特公昭58-4589号に記載のワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等のアプリケーションとメータリングを同一部分にできる方法等が挙げられる。また汎用機としてスピン法やスプレー法も好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセット及びグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましく利用できる。以上の方法の中から、液粘度やウェット厚さに応じて好ましい製膜方法を選択すればよい。
【0099】
半導体微粒子分散液の粘度は半導体微粒子の種類や分散性、使用溶媒種、界面活性剤やバインダー等の添加剤により大きく左右される。高粘度液(例えば0.01〜500Poise)の場合はエクストルージョン法、キャスト法、スクリーン印刷法等を用いるのが好ましい。また低粘度液(例えば0.1Poise以下)では、膜の均一性の観点から、スライドホッパー法、ワイヤーバー法又はスピン法を用いるのが好ましい。なお、ある程度の塗布量があれば低粘度液の場合でもエクストルージョン法による塗布が可能である。このように塗布液の粘度、塗布量、支持体、塗布速度等に応じて、適宜湿式製膜方法を選択すればよい。
【0100】
半導体微粒子層は単層に限らず、粒径の異なる半導体微粒子分散液を多層塗布したり、異なる種類の半導体微粒子(或いは異なるバインダー、添加剤等)を含有する層を多層塗布したりすることもできる。一度の塗布では膜厚が不足する場合にも、多層塗布は有効である。多層塗布にはエクストルージョン法又はスライドホッパー法が適している。また、多層塗布する場合は、同時に多数の層を塗布してもよく、数回から十数回順次重ね塗りしてもよい。順次重ね塗りする場合には、スクリーン印刷法も好ましく使用できる。
【0101】
一般に、半導体微粒子層の厚さ(感光層の厚さと同じ)が厚くなるほど、単位投影面積当たりの色素担持量が増えるため光の捕獲率が高くなるが、生成した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。従って、半導体微粒子層の好ましい厚さは0.1〜100μmである。特に、光電気化学電池に用いる場合、半導体微粒子層の厚さは1〜30μmであるのが好ましく、2〜25μmであるのがより好ましい。支持体1m2当たりの半導体微粒子塗布量は0.5〜400gとするのが好ましく、5〜100gとするのがより好ましい。
【0102】
半導体微粒子を導電性支持体に塗布した後、半導体微粒子同士を電子的に接触させると共に塗膜強度や支持体との密着性を向上させるために、加熱処理を施すのが好ましい。加熱温度は40℃以上700℃未満とするのが好ましく、100℃以上600℃以下とするのがより好ましい。また、加熱時間は10分〜10時間程度とすればよい。ポリマーフィルムのように融点や軟化点の低い支持体を用いる場合は、高温での加熱処理は支持体の劣化を招くため好ましくない。また、コスト削減の観点からも、加熱処理はできる限り低温で行なうのが好ましい。上述した粒径5nm以下の半導体微粒子を併用したり、加熱処理を鉱酸の存在下で行なうことにより、加熱処理温度の低温化が可能となる。
【0103】
加熱処理後、半導体微粒子の表面積を増大させるため、或いは半導体微粒子近傍の純度を高め色素から半導体微粒子への電子注入効率を高めるために、例えば四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキ処理や三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を施してもよい。
【0104】
半導体微粒子は多くの色素を吸着することができるように大きな表面積を有するのが好ましい。半導体微粒子を支持体上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であるのが好ましく、100倍以上であるのがより好ましい。上限は特に制限はないが、通常1000倍程度である。
【0105】
(3)色素
感光層に使用する色素は金属錯体色素、フタロシアニン系の色素及び/又はメチン色素であるのが好ましく、金属錯体色素及び/又はメチン色素であるのがより好ましい。光電変換の波長域をできるだけ広くし、且つ変換効率を上げるために、二種類以上の色素を混合して用いてもよい。また、光源の波長域と強度分布に合わせて、混合する色素とその混合割合を選択すればよい。
【0106】
本発明で用いる色素は、好ましくは半導体微粒子表面に対する適当な結合基(interlocking group)を有する。好ましい結合基としては−COOH基、−SO3H基、シアノ基、−P(O)(OH)2基、−OP(O)(OH)2基、並びにオキシム、ジオキシム、ヒドロキシキノリン、サリチレート及びα-ケトエノレートのようなπ伝導性を有するキレート化基が挙げられる。中でも−COOH基、−P(O)(OH)2基及び−OP(O)(OH)2基が特に好ましい。これらの結合基はアルカリ金属等と塩を形成していてもよく、分子内塩を形成していてもよい。またメチン色素においては、メチン鎖がスクアリリウム環やクロコニウム環を形成する場合のように酸性基を含有するなら、この部分を結合基としてもよい。
【0107】
以下、感光層に用いる好ましい色素を具体的に説明する。
【0108】
(a)金属錯体色素
本発明で使用する金属錯体色素の金属原子はルテニウムRuが好ましい。ルテニウム錯体色素としては、例えば米国特許4927721号、同4684537号、同5084365号、同5350644号、同5463057号、同5525440号、特開平7-249790号等に記載のものが使用可能である。
【0109】
本発明で用いるルテニウム錯体色素は下記一般式(I):
(A1)pRu(B-a)(B-b)(B-c) ・・・(I)
により表されるのが好ましい。一般式(I)中、A1はCl、SCN、H2O、Br、I、CN、NCO及びSeCNからなる群から選ばれた配位子を表す。pは0〜2の整数であり、好ましくは2である。B-a、B-b及びB-cはそれぞれ独立に下記式B-1〜B-8により表される化合物から選ばれた有機配位子を表す。
【化22】



ただし、R11は水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12の置換又は無置換のアルキル基、炭素原子数7〜12の置換又は無置換のアラルキル基、或いは炭素原子数6〜12の置換又は無置換のアリール基を表す。アルキル基及びアラルキル基のアルキル部分は直鎖状でも分岐状でもよく、またアリール基及びアラルキル基のアリール部分は単環でも多環(縮合環、環集合)でもよい。B-a、B-b及びB-cは同じでも異なっていてもよい。
【0110】
本発明で使用する好ましい金属錯体色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
【化23】


【0112】
【化24】


【0113】
【化25】


【0114】
(b)メチン色素
本発明で感光層に使用する好ましいメチン色素としては、下記一般式(II)、(III)、(IV)又は(V)により表される色素が挙げられる。
【0115】
1.一般式(II)により表される色素
【化26】


一般式(II)中、R21及びR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表し、R22〜R24はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R21〜R25は互いに結合して環を形成してもよく、L11及びL12はそれぞれ独立に窒素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子又はテルル原子を表し、n1及びn3はそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、n2は1〜6の整数を表す。この色素は分子全体の電荷に応じて対イオンを有してもよい。
【0116】
上記アルキル基、アリール基及び複素環基は置換基を有していてもよい。アルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、またアリール基及び複素環基は単環でも多環(縮合環、環集合)でもよい。またR21〜R25が互いに結合して形成する環は置換基を有していてもよく、また単環でも縮合環でもよい。
【0117】
2.一般式(III)により表される色素
【化27】


一般式(III)中、Zaは含窒素複素環を形成するために必要な非金属原子群を表し、R31はアルキル基又はアリール基を表す。Qaは一般式(III)で表される化合物がメチン色素として機能するために必要なメチン基又はポリメチン基を表す。この色素はQaを介して多量体を形成していてもよい。X3は対イオンを表し、X3の数を表すn4は0〜10の整数である。
【0118】
上記Zaにより形成される含窒素複素環は置換基を有していてもよく、単環であっても縮合環であってもよい。またR31が表すアルキル基及びアリール基は置換基を有していてもよく、該アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、また該アリール基は単環でも多環(縮合環、環集合)でもよい。
【0119】
一般式(III)により表される色素の中でも、下記一般式(III-a)〜(III-d):
【化28】


(ただし、R41〜R45、R51〜R54、R61〜R63及びR71〜R73はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表し、L21、L22、L31、L32、L41〜L45及びL51〜L56はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、-CR'R''-又は-NR'-(R'及びR''は水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)を表し、L33はO-、S-、Se-、Te-又はN-R'(R'は水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。)を表す。Y11、Y12、Y21、Y22、Y31及びY41はそれぞれ独立に置換基を表し、n5、n6及びn7はそれぞれ独立に1〜6の整数を表す。)のいずれかにより表される色素がより好ましい。
【0120】
一般式(III-a)〜(III-d)のいずれかにより表される色素は、分子全体の電荷に応じて対イオンを有していてもよい。この色素が有するアルキル基、アリール基及び複素環基は置換基を有していてもよく、またアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、アリール基及び複素環基は単環でも多環(縮合環、環集合)でもよい。
【0121】
一般式(III)により表されるポリメチン色素の具体例は、M. Okawara, T. Kitao, T. Hirashima, M. Matsuoka著のOrganic Colorants(Elsevier)等に詳しく記載されている。
【0122】
3.一般式(IV)により表される色素
【化29】


一般式(IV)中、Qbは5又は6員の含窒素ヘテロ環を形成するために必要な原子団を表し、Zbは3〜9員環を形成するために必要な原子団を表し、L61〜L65はそれぞれ独立に置換又は無置換のメチン基を表す。n8は0〜4の整数であり、好ましくは0〜3の整数である。n9は0又は1である。また、R81は置換基を表し、X4は電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【0123】
Qbにより形成される含窒素ヘテロ環は縮環していてもよく、また置換基を有していてもよい。この環は好ましくはベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾセレナゾール環、ベンゾテルラゾール環、2-キノリン環、4-キノリン環、ベンゾイミダゾール環、チアゾリン環、インドレニン環、オキサジアゾール環、チアゾール環又はイミダゾール環であり、より好ましくはベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾセレナゾール環、2-キノリン環、4-キノリン環、ベンゾイミダゾール環又はインドレニン環であり、特に好ましくはベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、2-キノリン環、4-キノリン環又はインドレニン環である。
【0124】
Qbにより形成される含窒素ヘテロ環が有する置換基の例としては、カルボキシル基、ホスホニル基、スルホニル基、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、シクロプロピル基、シクロへキシル基、トリフルオロメチル基、メトキシエチル基、アリル基、ベンジル等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等)、アルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基等)、アリール基、複素環基(フェニル基、チエニル基、トルイル基、クロロフェニル基等)等が挙げられる。
【0125】
Zbは炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び/又は水素原子により構成されるのが好ましい。Zbにより形成される環は好ましくは4〜6個の炭素により骨格が形成される環であり、より好ましくは下記(ア)〜(オ):
【化30】


のいずれかであり、最も好ましくは(ア)である。
【0126】
L61〜L65が置換基を有する場合、この置換基としては、置換又は無置換のアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜12、より好ましくは炭素原子数1〜7であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-カルボキシエチル基、ベンジル基等)、置換又は無置換のアリール基(好ましくは炭素原子数6、8又は10、より好ましくは炭素原子数6又は8であり、例えばフェニル基、トルイル基、クロロフェニル基、o-カルボキシフェニル基等)、複素環基(ピリジル基、チエニル基、フラニル基、バルビツール酸等)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数1〜12、より好ましくは炭素原子数6〜12であり、例えばジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、4-アセチルピペラジン-1-イル基等)、オキソ基等が挙げられる。これらの置換基は互いに連結してシクロペンテン環、シクロヘキセン環、スクアリリウム環等を形成してもよく、助色団と環を形成してもよい。
【0127】
置換基R81は好ましくは脂肪族基(置換基を有してもよい)又は芳香族基(置換基を有してもよい)である。脂肪族基である場合、R81の炭素原子数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6である。芳香族基である場合、R81の炭素原子数は好ましくは1〜16、より好ましくは5〜6である。無置換の脂肪族基及び芳香族基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0128】
色素が陽イオン又は陰イオンであるか、或いは正味のイオン電荷を持つかどうかは、その助色団及び置換基に依存し、分子全体の電荷は対イオンX4により中和される。対イオンX4として典型的な陽イオンは無機又は有機のアンモニウムイオン(テトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)及びアルカリ金属イオンである。一方、対イオンとして用いる陰イオンは無機陰イオン又は有機陰イオンのいずれであってもよく、ハロゲン化物イオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(p-トルエンスルホン酸イオン、p-クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(1,3-ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5-ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6-ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(メチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が使用できる。
【0129】
更に、電荷均衡対イオンとしてイオン性ポリマー、或いは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよいし、ビスベンゼン-1,2-ジチオラトニッケル(III)のような金属錯イオンを使用してもよい。
【0130】
4.一般式(V)により表される色素
【化31】


一般式(V)中、Qcは4価の芳香族基を表し、L71及びL72はそれぞれ独立に硫黄原子、セレン原子又は-CR'R''-(R'及びR''はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、同じでも異なっていてもよい。)を表し、同一でも異なっていもよく、好ましくは硫黄原子又は-CR'R''-であり、より好ましくは-CR'R''-である。また、R91及びR92はそれぞれ独立にアルキル基又は芳香族基を表し、Y51及びY52はそれぞれ独立にメチン色素を形成するのに必要な非金属原子群を表す。X5は対イオンを表す。
【0131】
Qcの例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素や、アントラキノン、カルバゾール、ピリジン、キノリン、チオフェン、フラン、キサンテン、チアントレン等の芳香族へテロ環から誘導される4価芳香族基が挙げられる。この芳香族基は置換基を有していてもよい。Qcは好ましくは芳香族炭化水素から誘導される基であり、より好ましくはベンゼン又はナフタレンから誘導される基である。
【0132】
Y51及びY52によりいかなるメチン色素を形成することも可能であるが、シアニン色素、メロシアニン色素、ロダシアニン色素、3核メロシアニン色素、アロポーラー色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素等を形成するのが好ましい。シアニン色素には色素を形成するメチン鎖上の置換基がスクアリウム環やクロコニウム環を形成したものも含まれる。これらの色素の詳細については、F. M. Harmer著「Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds」,John Wiley & Sons社,ニューヨーク,ロンドン,1964年刊、D. M. Sturmer著「Heterocyclic Compounds−Special Topics in Heterocyclic Chemistry」,第18章,第14節,482〜515頁等に記載されている。また本発明で用いるシアニン色素、メロシアニン色素及びロダシアニン色素としては、米国特許第5,340,694号,第21〜22頁の(XI)、(XII)及び(XIII)に記載のものが好ましい。一般式(V)により表される色素は、そのメチン鎖部分のいずれか一方にスクアリリウム環を有するのが好ましく、両方のメチン鎖部分にスクアリリウム環を有するのがより好ましい。
【0133】
R91及びR92は芳香族基又は脂肪族基であり、置換基を有していてもよい。芳香族基である場合の炭素原子数は好ましくは5〜16、より好ましくは5〜6である。脂肪族基である場合の炭素原子数は好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6である。R91及びR92が無置換の脂肪族基又は芳香族基である場合の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0134】
R91、R92、Y51及びY52のうち少なくとも1つは酸性基を有するのが好ましい。ここで酸性基とは解離性のプロトンを有する置換基、例えばカルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ホウ酸基等である。中でも、カルボン酸基が好ましい。酸性基上のプロトンは解離していてもよい。
【0135】
上記一般式(II)〜(V)により表されるメチン色素の具体例(1)〜(43)及びS-1〜S-42を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0136】
【化32】


【0137】
【化33】


【0138】
【化34】


【0139】
【化35】


【0140】
【化36】


【0141】
【化37】


【0142】
【化38】


【0143】
【化39】


【0144】
【化40】


【0145】
【化41】


【0146】
【化42】


【0147】
【化43】


【0148】
【化44】


【0149】
【化45】


【0150】
【化46】


【0151】
【化47】


【0152】
【化48】


【0153】
【化49】


【0154】
【化50】


【0155】
【化51】


【0156】
【化52】


【0157】
上記一般式(II)又は(III)により表される色素は、F. M. Harmer著「Heterocyclic Compounds−Cyanine Dyes and Related Compounds」,John Wiley & Sons社,ニューヨーク,ロンドン,1964年刊、D. M. Sturmer著「Heterocyclic Compounds−Special Topics in Heterocyclic Chemistry」,第18章,第14節,第482〜515頁,John Wiley & Sons社,ニューヨーク,ロンドン,1977年刊、「Rodd's Chemistry of Carbon Compounds」, 2nd. Ed., vol.IV, part B,第15章,第369〜422頁,Elsevier Science Publishing Company Inc.社,ニューヨーク,1977年刊、英国特許第1,077,611号等に記載の方法により合成することができる。
【0158】
上記一般式(IV)により表される色素は、Dyes and Pigments,第21巻,227〜234頁等の記載を参考に合成することができる。また上記一般式(V)により表される色素は、Ukrainskii Khimicheskii Zhurnal,第40巻,第3号,第253〜258頁、Dyes and Pigments,第21巻,第227〜234頁及びこれらの引用文献を参考に合成することができる。
【0159】
(4)半導体微粒子への色素の吸着
半導体微粒子に色素を吸着させるためは、色素の溶液中によく乾燥した半導体微粒子層を有する導電性支持体を浸漬する方法、或いは色素の溶液を半導体微粒子層に塗布する方法を用いることができる。前者の方法では、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。なお、浸漬法の場合、色素の吸着は室温で行ってもよいし、特開平7-249790号に記載されているように加熱還流して行ってもよい。また、後者の方法では、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等の塗布方法や、凸版、オフセット、グラビア、スクリーン印刷等の印刷方法が利用できる。
【0160】
色素の溶液に用いる溶媒は色素の溶解性に応じて適宜選択でき、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド等)、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、3-メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)、これらの混合溶媒等が使用できる。
【0161】
半導体微粒子層の形成時と同様に、均一な膜を形成するためには、色素の溶液が高粘度液(例えば0.01〜500Poise)の場合はエクストルージョン法、各種印刷法等を使用するのが適当であり、また低粘度液(例えば0.1Poise以下)の場合はスライドホッパー法、ワイヤーバー法又はスピン法を用いるのが適当である。
【0162】
このように、色素の吸着方法は色素の溶液の粘度、塗布量、導電性支持体の材質、塗布速度等に応じて適宜選択すればよい。量産化の観点からは、塗布後の色素吸着に要する時間をなるべく短くするのが好ましい。
【0163】
未吸着の色素の存在は素子性能の外乱になるため、吸着後速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中で、アセトニトリル等の極性溶剤やアルコール系溶剤等の有機溶媒を用いて行うのが好ましい。また、色素の吸着量を増大させるために吸着前に加熱処理を施すのが好ましい。加熱処理の後に半導体微粒子表面に水が吸着するのを抑制するために、常温に戻さず40〜80℃で素早く色素を吸着させるのが好ましい。
【0164】
色素の全使用量は、導電性支持体の単位表面積(1m2)当たり0.01〜100mmolとするのが好ましい。また、色素の半導体微粒子に対する吸着量は、十分な増感効果を得るためには半導体微粒子1g当たり0.01〜1mmolであるのが好ましい。色素の吸着量が少なすぎると増感効果が不十分となり、また多すぎると色素が浮遊しやすく、増感効果を低減させる原因となる。
【0165】
光電変換の波長域をできるだけ広くするとともに変換効率を上げるために、2種類以上の色素を混合して使用してもよい。この場合、光源の波長域と強度分布に応じて、適宜混合する色素及びその混合割合を選ぶのが好ましい。
【0166】
会合のような色素同士の相互作用を低減する目的で、無色の疎水性化合物を半導体微粒子に共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)等が挙げられる。また、紫外線吸収剤を併用してもよい。
【0167】
余分な色素の除去を促進する目的で、色素を吸着した後にアミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としてはピリジン、4-t-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよく、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0168】
(C)電荷移動層
電荷移動層は色素の酸化体に電子を補充する機能を有する層である。電荷移動層に上記本発明の電解質組成物を用いるが、更に固体電解質や正孔(ホール)輸送材料を併用することもできる。
【0169】
本発明の電解質組成物からなる電荷移動層を形成するには、キャスト法、塗布法、浸漬法、含浸法等により感光層上に電解質組成物の溶液を塗布し、次いで必要に応じて加熱反応により架橋するのが好ましい。
【0170】
塗布法によって電荷移動層を形成する場合、溶融塩等を含む電解質組成物の溶液に塗布性改良剤(レベリング剤等)等の添加剤を添加して、これをスピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、米国特許第2681294号記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法、米国特許第2761418号、同3508947号及び同2761791号記載の多層同時塗布方法等の方法により塗布し、その後必要に応じて加熱すればよい。加熱する場合の加熱温度は色素の耐熱温度等により適当に選択すればよいが、通常10〜150℃であるのが好ましく、10〜100℃であるのがより好ましい。加熱時間は加熱温度等にもよるが、5分〜72時間程度である。
【0171】
好ましい態様によれば、感光層20中の空隙を完全に埋める量より多い電解質組成物の溶液を塗布するので、図1に示すように得られる電解質の層は実質的に導電性支持体の導電層10との境界から対極導電層40との境界までの間に存在する。ここで、色素増感半導体を含む感光層20との境界から対極40との境界までの間に存在する電解質の層を電荷移動層30とすると、その厚さは0.001〜200μmであるのが好ましく、0.1〜100μmであるのがより好ましく、0.1〜50μmであるのが特に好ましい。電荷移動層30が0.001μmより薄いと感光層中の半導体微粒子21が対極導電層40に接触するおそれがあり、また200μmより厚いと電荷の移動距離が大きくなりすぎ、素子の抵抗が大きくなる。なお、感光層20+電荷移動層30の厚さ(実質的に電解質組成物からなる層の厚さに等しい)は0.1〜300μmであるのが好ましく、1〜130μmであるのがより好ましく、2〜75μmであるのが特に好ましい。
【0172】
酸化還元対を生成させるために電解質組成物にヨウ素等を導入する場合、前述の電解質の溶液に添加する方法や、電荷移動層を形成した支持体をヨウ素等と共に密閉容器内に置き、電解質中に拡散させる手法等が使用できる。また、対極にヨウ素等を塗布又は蒸着し、光電変換素子を組み立てたときに電荷移動層中に導入することも可能である。
【0173】
なお、電荷移動層中の水分は10,000ppm以下であるのが好ましく、更に好ましくは2,000ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。
【0174】
(D)対極
対極は光電変換素子を光電気化学電池としたときに正極として作用するものである。対極は上記導電性支持体と同様に、導電性材料からなる対極導電層のみから構成されていてもよいし、対極導電層と支持基板から構成されていてもよい。対極導電層に用いる導電性材料としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素及び導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が使用できる。対極に用いる支持基板は、好ましくはガラス基板又はプラスチック基板であり、これに上記導電性材料を塗布又は蒸着して用いる。対極導電層の厚さは特に制限されないが3nm〜10μmであるのが好ましい。特に、対極導電層が金属製である場合は、その厚さは5μm以下であるのが好ましく、5nm〜3μmであるのがより好ましい。
【0175】
導電性支持体と対極のいずれか一方又は両方から光を照射してよいので、感光層に光が到達するためには、導電性支持体と対極のうち少なくとも一方が実質的に透明であればよい。発電効率向上の観点からは、導電性支持体を透明にし、光を導電性支持体側から入射させるのが好ましい。この場合、対極は光を反射する性質を有するのが好ましい。このような対極の材料としては、金属や導電性の酸化物を蒸着したガラス又はプラスチック、金属薄膜等が使用できる。
【0176】
対極を設ける手順としては、(イ)電荷移動層を形成した後でその上に設ける場合と(ロ)半導体微粒子層の上にスペーサーを介して対極を配置し、その空隙に電解質溶液を充填する場合の2通りある。(イ)の場合、電荷移動層上に直接導電材を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)するか、導電層を設けた基板の導電層側を貼り付ける。また(ロ)の場合、半導体微粒子層の上にスペーサーを介して対極を組み立てて固定し、得られた組立体の開放端を電解質溶液に浸漬し、毛細管現象又は減圧を利用して半導体微粒子層と対極との空隙に電解質を浸透させる。また、導電性支持体の場合と同様に、特に対極が実質的に透明な場合には抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。なお、好ましい金属リードの材質及び設置方法、金属リード設置による入射光量の低下等は上記導電性支持体の場合と同じである。
【0177】
(E)その他の層
電極として作用する導電性支持体及び対極の一方又は両方に、保護層、反射防止層等の機能性層を設けてもよい。このような機能性層を多層に形成する場合、同時多層塗布法や逐次塗布法が利用できる。生産性の観点からは同時多層塗布法が好ましい。同時多層塗布法では、生産性及び塗膜の均一性の観点からスライドホッパー法やエクストルージョン法が好ましい。機能性層の形成には、導電性支持体又は対極の材質に応じて蒸着法や貼り付け法等を用いることができる。
【0178】
また、対極と導電性支持体の短絡を防止するため、予め導電性支持体と感光層の間に緻密な半導体の薄膜層を下塗り層として塗設してもよい。下塗り層の材料は好ましくはTiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO及び/又はNb2O5であり、さらに好ましくはTiO2である。下塗り層はElectrochimi. Acta, 40, 643-652 (1995)に記載されているスプレーパイロリシス法により塗設することができる。下塗り層の膜厚は5〜1000nmであるのが好ましく、10〜500nmであるのがより好ましい。
【0179】
(F)光電変換素子の内部構造の具体例
光電変換素子の内部構造は目的に合わせ様々な形態が可能である。大きく2つに分ければ、両面から光の入射が可能な構造と片面からのみ可能な構造が可能である。図2〜図8に本発明に好ましく適用できる光電変換素子の内部構造を例示する。
【0180】
図2に示す構造は、透明導電層10aと透明対極導電層40aとの間に、感光層20と電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造である。図3に示す構造は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、その上に透明導電層10aを設け、下塗り層60、感光層20、電荷移動層30及び対極導電層40をこの順で設け、更に支持基板50を配置したものであり、導電層側から光が入射する構造である。図4に示す構造は、支持基板50上に更に導電層10を設置し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷移動層30と透明対極導電層40aとを設け、一部に金属リード11を設けた透明基板50aを金属リード11側を内側にして配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図5に示す構造は、一部金属リード11を設けた2つの透明基板50a上に、それぞれ透明導電層10a、透明対極導電層40aを設け、それらの間に下塗り層60と感光層20と電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造である。図6に示す構造は、透明基板50a上に透明導電層10aを設置し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷移動層30及び対極導電層40を設け、この上に支持基板50を配置したものであり、導電層側から光が入射する構造である。図7に示す構造は、支持基板50上に導電層10を設置し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷移動層30及び透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図8に示す構造は、透明基板50a上に透明導電層10aを設置し、下塗り層60を介して感光層20を設け、更に電荷移動層30及び透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、両面から光が入射する構造である。
【0181】
[3]光電気化学電池
本発明の光電気化学電池は、上記光電変換素子に外部回路で仕事をさせるようにしたものである。光電気化学電池は構成物の劣化や内容物の揮散を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封するのが好ましい。導電性支持体及び対極にリードを介して接続される外部回路自体は公知のものでよい。
【0182】
[4]色素増感型太陽電池
本発明の光電変換素子をいわゆる太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に上述した光電変換素子の構造と同じである。以下、本発明の光電変換素子を用いた太陽電池のモジュール構造について説明する。
【0183】
本発明の色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。太陽電池モジュールは一般的には金属、セラミック等の支持基板上にセルを形成し、それを充填樹脂や保護ガラス等で覆って構成される、支持基板の反対側から光を取り込む構造を有する。支持基板の材料として強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを形成してその透明支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ或いはポッティングタイプのモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池等で用いられる基板一体型モジュール構造等が知られている。本発明の光電変換素子を用いた色素増感型太陽電池においても、使用目的や使用場所及び環境により、適宜モジュール構造を選択できる。
【0184】
代表的なスーパーストレートタイプ又はサブストレートタイプのモジュールにおいては、一方若しくは両方が透明な一対の支持基板の間に一定間隔にセルが配置され、隣り合うセル同士が金属リード又はフレキシブル配線等によって接続されている。その外縁部には集電電極が配置されており、そこから電力を外部に取り出す。基板とセルの間には、セルの保護や集電効率向上の目的でエチレンビニルアセテート(EVA)等の様々なプラスチック材料をフィルム又は充填樹脂の形で介在させてもよい。また、外部からの衝撃が少ないところなど、表面を硬い素材で覆う必要のない場所において使用する場合には、片側の支持基板を設置しなくてもよい。この場合、表面保護層を透明プラスチックフィルムで構成するか、或いは上記充填樹脂を硬化させることによって保護機能を付与するのが好ましい。内部の密封性及びモジュールの剛性を確保するために、支持基板の周囲を金属製のフレームでサンドイッチ状に固定し、支持基板とフレームの間は封止材料で密封シールするのが好ましい。また、支持基板の材料、充填材料及び封止材料として可撓性の材料を用いれば、曲面の上に太陽電池を構成することもできる。
【0185】
スーパーストレートタイプの太陽電池モジュールは、例えば基板供給装置から送り出されたフロント基板をベルトコンベヤ等で搬送しながら、その上にセルを封止材料−セル間接続用リード線、背面封止材料等と共に順次積層した後、背面基板又は背面カバーを乗せ、外縁部にフレームをセットして作製することができる。
【0186】
一方、サブストレートタイプの太陽電池モジュールは、基板供給装置から送り出された支持基板をベルトコンベヤ等で搬送しながら、その上にセルをセル間接続用リード線、封止材料等と共に順次積層した後、フロントカバーを乗せ、周縁部にフレームをセットして作製することができる。
【0187】
本発明の光電変換素子を用いた基板一体型モジュールの一例を図9に示す。図9に示す構造においては、透明基板50aの一方の面上に透明導電層10aを設置し、この上に色素吸着TiO2を含有した感光層20、電荷移動層30及び対極導電層40を設けてなるセルがモジュール化されている。また、基板50aの他方の面には反射防止層70が設けられている。図9に示す構造においては、入射光の利用効率を高めるために感光層20の面積比率(光の入射面である基板50a側から見たときの面積比率)を大きくするのが好ましい。
【0188】
図9に示す構造のモジュールは、基板上に透明導電層、感光層、電荷移動層、対極等が立体的かつ一定間隔で配列されるように、選択メッキ、選択エッチング、CVD、PVD等の半導体プロセス技術や、パターン塗布又は広幅塗布後のレーザースクライビング、或いはプラズマCVM(Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p373-381等に記載)や研削等の機械的手法等によりパターニングすることで得ることができる。以下、その他の部材や工程について詳述する。
【0189】
封止材料としては、耐候性付与、電気絶縁性付与、集光効率向上、セル保護性(耐衝撃性)向上等の目的に応じて液状EVA(エチレンビニルアセテート)、フィルム状EVA、フッ化ビニリデン共重合体とアクリル樹脂の混合物等、様々な材料が使用可能である。モジュール外縁と周縁を囲むフレームとの間には、耐候性及び防湿性が高い封止材料を用いるのが好ましい。また、透明フィラーを封止材料に混入して強度や光透過率を上げてもよい。
【0190】
封止材料をセル上に固定する際には、材料の物性に合った方法を用いる。フィルム状の材料の場合はロール加圧後加熱密着、真空加圧後加熱密着等により固定すればよい。液状又はペースト状の材料の場合はロールコート、バーコート、スプレーコート、スクリーン印刷等の様々な方法が利用できる。
【0191】
支持基板としてPET、PEN等の可撓性素材を用いる場合は、ロール状の支持体を繰り出してその上にセルを構成した後、上記の方法で連続して封止層を積層することができ、高い生産性が得られる。
【0192】
発電効率を上げるために、モジュールの光取り込み側の基板(一般的には強化ガラス)の表面には反射防止処理が施される。反射防止処理方法としては、反射防止膜をラミネートする方法及び反射防止層をコーティングする方法が挙げられる。
【0193】
また、セルの表面をグルービング、テクスチャリング等の方法で処理することによって、入射した光の利用効率を高めることが可能である。
【0194】
発電効率を上げるためには、光を損失なくモジュール内に取り込むことが最重要であるが、感光層を透過してその内側まで到達した光を反射させて感光層側に効率良く戻すことも重要である。光の反射率を高める方法としては、支持基板面を鏡面研磨した後、AgやAl等を蒸着又はメッキする方法、セルの最下層にAl−Mg又はAl−Ti等の合金層を反射層として設ける方法、アニール処理によって最下層にテクスチャー構造を作る方法等がある。
【0195】
また、発電効率を上げるためにはセル間接続抵抗を小さくすることが、内部電圧降下を抑える意味で重要である。セル同士を接続する方法としてはワイヤーボンディング又は導電性フレキシブルシートによる接続が一般的であるが、導電性粘着テープや導電性接着剤を用いてセルを固定すると同時に電気的に接続する方法、導電性ホットメルトを所望の位置にパターン塗布する方法等も使用可能である。
【0196】
ポリマーフィルム等のフレキシブル支持体を用いた太陽電池の場合、ロール状の支持体を送り出しながら前述の方法によって順次セルを形成し、所望のサイズに切断した後、周縁部をフレキシブルで防湿性のある素材でシールすることにより電池本体を作製できる。また、Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p383-391に記載の「SCAF」とよばれるモジュール構造とすることもできる。更に、フレキシブル支持体を用いた太陽電池は曲面ガラス等に接着固定して使用することもできる。
【0197】
以上詳述したように、使用目的や使用環境に合わせて様々な形状・機能を持つ太陽電池を製作することができる。
【実施例】
【0198】
以下、具体例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0199】
1.一般式(1)により表される化合物の合成例
下記化合物a〜hを用いて、本発明の一般式(1)により表される化合物を合成した。合成した化合物の構造は1H-NMRにより確認した。また、合成した化合物の含水率はカールフィッシャー法により測定し、粘度はB型粘度計(トキメック(株)製)を用いて測定した。
【0200】
【化53】


【0201】
(A)2-aの合成
5.3g(0.028mol)の化合物aと7.32g(0.03mol)の化合物bを12mlの酢酸エチルに溶解し、加熱還流下24時間反応させた。次に減圧加熱下、酢酸エチル及び過剰の化合物bを留去し、12gの2-aを得た。得られた2-aの含水率は0.1%であり、25℃での粘度はη=832cpであった。
【0202】
(B)2-bの合成
10.0g(0.023mol)の2-aと6.60g(0.023mol)のN-リチオトリフルオロメタンスルホンイミドを50mlの水に加え、室温で30分間撹拌した。次に反応液を塩化メチレンで抽出し、これを濃縮し、80℃、1mmHgの条件下で5時間乾燥して8gの2-bを油状物として得た。得られた2-bの含水率は0.1%であり、25℃での粘度はη=219cpであった。
【0203】
(C)2-cの合成
4.28g(0.01mol)の2-aと1.95g(0.01mol)のテトラフルオロほう酸銀を25mlの水中で混合した。次に沈殿物をセライトろ過して除き、水を濃縮し、80℃、1mmHgの条件下で5時間乾燥して2.8gの2-cを油状物として得た。得られた2-cの含水率は0.1%であり、25℃での粘度はη=507cpであった。
【0204】
(D)16-aの合成
7.9g(0.1mol)のピリジンと24.4g(0.1mol)の化合物bを50mlの酢酸エチルに溶解し、加熱還流下12時間反応させた。次に減圧加熱下、揮発成分を留去し、30gの16-aを得た。得られた16-aの含水率は0.8%であり、25℃での粘度はη=1070cpであった。
【0205】
(E)16-bの合成
3.23g(0.01mol)の16-aと2.87g(0.01mol)のN-リチオトリフルオロメタンスルホンイミドを20mlの水に加え、室温で30分間撹拌した。次に反応液を塩化メチレンで抽出し、これを濃縮、乾燥して3.4gの16-bを油状物として得た。得られた16-bの含水率は0.8%であり、25℃での粘度はη=366cpであった。
【0206】
(F)16-cの合成
3.23g(0.01mol)の16-aと1.95g(0.01mol)のテトラフルオロほう酸銀を25mlの水中で混合した。次にろ紙を用いてろ過して沈殿物を除き、水を濃縮し、80℃、1mmHgの条件下で5時間乾燥して2.5gの16-cを得た。得られた化合物の含水率は1.5%であり、25℃での粘度はη=852cpであった。
【0207】
(G)35-aの合成
7.8gの化合物cと3.0gのパラホルムアルデヒドを混合し、160℃で2時間加熱した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、5.3gの化合物dを得た。次に、0.96gの65%油性水素化ナトリウムを10mlのトルエンに懸濁させ、この懸濁液に5.3gの化合物dを20mlのTHFに溶解した溶液を0℃にて滴下した。滴下後、反応液を室温に戻し、4.75gの化合物eを20mlのTHFに溶解した溶液を加え、3時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、3.25gの化合物fを得た。続いて、3.25gの化合物fと2.44gの化合物bを10mlの酢酸エチルに溶解し、加熱還流下8時間反応させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、100℃、1mmHgの条件下で5時間乾燥して5.0gの35-aを得た。得られた35-aの含水率は0.5%であり、25℃での粘度はη=446cpであった。
【0208】
(H)35-bの合成
1.46gの35-aと0.66gのN-リチオトリフルオロメタンスルホンイミドを50mlの水に加え、室温下で30分間撹拌した。次に反応液を塩化メチレンで抽出し、これを濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、80℃、1mmHgの条件下で6時間乾燥して1gの35-bを油状物として得た。得られた35-bの含水率は0.4%であり、25℃での粘度はη=240cpであった。
【0209】
(I)35-cの合成
3.17gの35-aと0.98gのテトラフルオロほう酸銀を25mlの水中で混合した。次にセライトを用いて沈殿物をろ過し、水を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、80℃、1mmHgの条件下で6時間乾燥して1.5gの35-cを油状物として得た。得られた35-cの含水率は1.2%であり、25℃での粘度はη=365cpであった。
【0210】
(J)34-aの合成
7gの65%油性水素化ナトリウムを10mlのDMFに懸濁させ、この溶液に20gの3-ピリジンメタノールを20mlのDMFに溶解した溶液を0℃にて滴下した。滴下後、反応液を室温に戻し、36gの化合物eを20mlのDMFに溶解した溶液を加え、3時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラム(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)を用いて精製し、16.8gの化合物hを得た。次に、2.44gの化合物gと3.25gの化合物hを10mlの酢酸エチルに溶解し、加熱還流下、8時間反応させた。溶媒を減圧留去後、シリカゲルカラム(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)を用いて精製し、100℃、1mmHgの条件下で5時間乾燥して、5.0gの34-aを得た。得られた34-aの含水率は1.3%であり、25℃での粘度はη=1400cpであった。
【0211】
(K)34-bの合成
1.22gの34-aと0.66gのN-リチオトリフルオロメタンスルホンイミドを50mlの水に加え、室温で30分間撹拌した。反応液を塩化メチレンで抽出し、これを濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、80℃、1mmHgの条件下で6時間乾燥して1gの34-bを油状物として得た。得られた34-bの含水率は0.5%であり、25℃での粘度はη=222cpであった。
【0212】
(L)34-cの合成
2.66gの34-aと0.98gのテトラフルオロほう酸銀を25mlの水中で混合した。次にセライトを用いて沈殿物をろ過し、水を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:塩化メチレン/メタノール=9/1)により精製し、80℃、1mmHgの条件下で6時間乾燥して2.2gの34-cを油状物として得た。得られた34-cの含水率は0.8%であり、25℃での粘度はη=735cpであった。
【0213】
(M)その他の一般式(1)により表される化合物
上記以外の、一般式(1)により表される化合物も上記化合物と同様に容易に合成できる。
【0214】
2.光電気化学電池の作製
(A)二酸化チタン分散液の調製
内側をテフロン(登録商標)コーティングした内容積200mlのステンレス製容器に二酸化チタン微粒子(日本アエロジル(株)製、Degussa P-25)15g、水45g、分散剤(アルドリッチ社製、Triton X-100)1g、直径0.5mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製)30gを入れ、サンドグラインダーミル(アイメックス社製)を用いて1500rpmで2時間分散処理した。得られた分散液からジルコニアビーズをろ過により除去した。得られた分散液中の二酸化チタン微粒子の平均粒径は2.5μmであった。なお粒径はMALVERN社製のマスターサイザーにて測定した。
【0215】
(B)色素を吸着したTiO2電極の作製
フッ素をドープした酸化スズ層を有する導電性ガラス(旭硝子(株)製TCOガラス-Uを20mm×20mmの大きさに切断加工したもの、表面抵抗約30Ω/□)の導電面側にガラス棒を用いて上記分散液を塗布した。半導体微粒子の塗布量は20g/m2とした。その際、導電面側の一部(端から3mm)に粘着テープを張ってスペーサーとし、粘着テープが両端に来るようにガラスを並べて一度に8枚ずつ塗布した。塗布後、粘着テープを剥離し、室温で1日間風乾した。次にこのガラスを電気炉(ヤマト科学(株)製マッフル炉FP-32型)に入れ、450℃にて30分間焼成し、TiO2電極を得た。この電極を取り出し冷却した後、表1及び2に示す色素のエタノール溶液(3×10-4mol/l)に3時間浸漬した。色素の染着したTiO2電極を4-t-ブチルピリジンに15分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥した。得られた感光層の厚さは表1及び2に示すとおりであった。色素の塗布量は、色素の種類に応じ、適宜0.1〜10mmol/m2の範囲から選択した。
【0216】
(C)光電気化学電池の作成
上述のように作製した色素増感TiO2電極基板(20mm×20mm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解質組成物を染み込ませ、電解質をTiO2電極中に導入し、図1に示す、導電性ガラスからなる導電性支持体層(ガラスの透明基板50a上に導電層10aが設層されたもの)、色素増感TiO2の感光層20、電荷移動層30、白金からなる対極導電層40及びガラスの透明基板50aを順に積層しエポキシ系封止剤で封止した光電気化学電池を作製した。ただし、電解質組成物の粘度が高く毛細管現象を利用して電解質組成物を染み込ませることが困難な場合は、電解質組成物を50℃に加温し、これをTiO2電極に塗布した後、この電極を減圧下に置き電解質組成物が十分浸透し電極中の空気が抜けた後、白金蒸着ガラス(対極)を重ね合わせて同様に光電気化学電池を作製した。
【0217】
電解質組成物と色素を変更して上述の工程を行い、実施例1〜49及び比較例1〜11の光電気化学電池を作製した。各光電気化学電池に用いた電解質組成物の組成、感光層の厚さ、及び用いた色素を併せて表1及び2に示す。なお表1及び2中のBCEはビスシアノエチルエーテルを表す。また実施例及び比較例に用いた化合物Y-1〜Y-6の構造を以下に示す。
【0218】
【表1】


【0219】
【表2】


【0220】
【化54】


【0221】
3.光電変換効率の測定
実施例1〜23及び比較例1〜5
500Wのキセノンランプ(ウシオ電気(株)製)の光をAM1.5フィルター(Oriel社製)及びシャープカットフィルター(Kenko L-42)を通すことにより紫外線を含まない模擬太陽光を発生させた。この光の強度は70mW/cm2であった。この模擬太陽光を、50℃にて実施例1〜23及び比較例1〜5の光電気化学電池に照射し、発生した電気を電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型)にて測定した。これにより求められた各光電気化学電池の開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、形状因子(FF)、変換効率(η)及び72時間暗所保存後の短絡電流密度の低下率を表3に示す。
【0222】
【表3】


【0223】
表3より、電解質に有機溶媒を多く含む光電気化学電池(比較例1〜3並びに実施例1及び2)では暗所保存後の劣化が著しいが、実施例1及び2の本発明の光電気化学電池においては、従来のイミダゾリウム塩のみを用いた比較例1及び3の光電気化学電池と比較して変換効率及び耐久性が改善されていることがわかる。また、短絡電流密度の低下率を10%以内に抑えるためには、電解質組成物の溶媒含有量は10質量%以下とするのが好ましく、溶媒を使用しないことがより好ましいことがわかる。また、既存のイミダゾリウム塩のみを用いた比較例4及び5の光電気化学電池では開放電圧が低く、これが低い光電変換効率の原因となっているのに対し、実施例3〜19の本発明の光電気化学電池では開放電圧が高く、それに伴い変換効率が向上していることがわかる。更に、感光層を薄くするとそれに伴い短絡電流密度の低下が見られる(実施例9:6.5μm、実施例20:4.8μm、実施例21:3.3μm)が、光吸収率の高い色素を組み合わせることにより光電変換効率が向上することが実施例22及び23の結果からわかる。
【0224】
実施例24〜49及び比較例6〜11
模擬太陽光の強度を85mW/cm2とし、これを70℃にて光電気化学電池に照射したこと以外は上記実施例1〜23及び比較例1〜5の光電気化学電池の場合と同様に、実施例24〜49及び比較例6〜11の光電気化学電池の開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、形状因子(FF)、変換効率(η)及び72時間暗所保存後の短絡電流密度の低下率を求めた。結果を表4に示す。
【0225】
【表4】


【0226】
表4より、電解質に有機溶媒を含む光電気化学電池では暗所保存後の劣化が著しいが、実施例24〜29の本発明の光電気化学電池においては、従来のイミダゾリウム塩のみを用いた比較例6〜9の光電気化学電池と比較して変換効率及び耐久性が改善されていることがわかる。また、短絡電流密度の低下率を10%以内に抑えるためには、電解質組成物の溶媒含有量は10質量%以下とするのが好ましく、溶媒を使用しないことがより好ましいことがわかる。溶媒を含まない光電気化学電池においては、既存のイミダゾリウム塩のみを用いた比較例10及び11の光電気化学電池では開放電圧が低く、これが低い光電変換効率の原因となっているのに対し、実施例30〜46の本発明の光電気化学電池では開放電圧が高く、それに伴い変換効率が向上していることがわかる。更に、感光層を薄くするとそれに伴い短絡電流密度の低下が見られる(実施例30:6.5μm、実施例47:4.8μm、実施例48:3.3μm)が、光吸収率の高い色素を組み合わせることにより光電変換効率が向上することが実施例49の結果からわかる。
【符号の説明】
【0227】
10・・・導電層
10a・・・透明導電層
11・・・金属リード
20・・・感光層
21・・・半導体微粒子
22・・・色素
23・・・電解質
30・・・電荷移動層
40・・・対極導電層
40a・・・透明対極導電層
50・・・基板
50a・・・透明基板
60・・・下塗り層
70・・・反射防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(4):
【化1】



(ただし、R401は-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基を表し、R402〜R405はそれぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ホスホニル基、複素環基、アシル基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基又はアルキル基を表し、R402〜R405のうち少なくとも1つは-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基であり、X4-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表し、R401〜R405のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよく、R401〜R405にはカチオンを含まない。)により表されることを特徴とするイミダゾリウム化合物。
【請求項2】
下記一般式(5):
【化2】



(ただし、R501は-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基を表し、R502〜R506はそれぞれ独立に水素原子、アルコキシ基、シアノ基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ホスホニル基、複素環基、アシル基、スルホニル基、アシルオキシ基、スルホニルオキシ基又はアルキル基を表し、R502〜R506のうち少なくとも1つは-(CH2-CH2-O)n-結合(nは2〜20の整数を表す。)を含む置換基であり、X5-はI-、Cl-、Br-、N-(CF3SO2)2、N-(CF3CF2SO2)2、C-(CF3SO2)3、BF4-、BPh4-、PF6-、ClO4-、Ra-COO-(Raは水素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)、Rb-SO3-(Rbはアルキル基、パーフルオロアルキル基又はアリール基を表す。)又はSCN-を表し、R501〜R506のうち2つ以上が互いに連結して環構造を形成してもよく、R501〜R506にはカチオンを含まない。)により表されることを特徴とするピリジニウム化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイミダゾリウム化合物又はピリジニウム化合物において、前記-(CH2-CH2-O)n-結合を含む置換基が-(CH2-CH2-O)n-CH3、-(CH2-CH2-O)n-CH2CH3、又は-(CH2-CH2-O)n-CH2CH2CN(それぞれの置換基においてnは独立に2〜20の整数を表す。)であることを特徴とする化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−15994(P2010−15994A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181067(P2009−181067)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【分割の表示】特願2000−207440(P2000−207440)の分割
【原出願日】平成12年7月7日(2000.7.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】