説明

イミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法

【課題】 抗酸化作用や抗糖化作用等を有し、抗疲労効果や抗老化効果等が期待できる機能性成分であるイミダゾールジペプチドを含有する天然由来の食品素材から得られるエキスについて、後を引く旨味を低減させ、さらに、原料由来の畜肉臭、魚介臭も抑え、かつ、イミダゾールジペプチドを持続的に含有し、保存安定性を有する素材を、効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼにより酵素処理する工程、さらに、酵母又は乳酸菌を用いて発酵処理する工程又はグルコースオキシダーゼにより酵素処理する工程を導入することで、後を引く旨味を低減させ、さらに、イミダゾールジペプチド成分の減少や色調変化等の経時的な変化を抑制し保存安定性の向上した、イミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜肉類又は魚介類の抽出物を酵素処理することにより品質を改善し、保存安定性を向上させた、イミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏肉や豚肉、牛肉等の畜肉類や、カツオ、マグロ等の魚介類には、成分としてアンセリン、カルノシン等のイミダゾールジペプチドが豊富に含有されていることが知られている。イミダゾールジペプチドは、タウリンや糖類等との複合作用により旨味・コク味を呈することが知られており、抗酸化作用や抗糖化作用等を有することが報告されており、抗疲労効果や抗老化効果等が期待できる機能性成分としても注目されている。
【0003】
イミダゾールジペプチドを積極的に摂取することを目的として、畜肉類や魚介類から得られる種々のエキスが検討されている。しかしながら、畜肉類や魚介類から得られるエキスは、アミノ酸やペプチド等が経時的に変化し、イミダゾールジペプチド成分の残存量が低下する、褐変等に代表される外観の劣化が起こる等の問題があり、これらエキスの保存安定性を確保することが求められている。
【0004】
機能性成分としてイミダゾールジペプチドを含有する素材やその製造方法に関しては、例えば、鶏肉から抽出したエキスを限外濾過膜やナノ濾過膜で処理することにより、アンセリン、カルノシン及びタウリンを含有するチキンエキス由来機能性食品を製造する方法(特許文献1)や、動物性エキスに含まれるアンセリンやカルノシンを陽イオン交換体を用いて吸着、回収した後、ナノろ過膜を用いて脱塩することによりアンセリンやカルノシンを精製する方法(特許文献2)、魚介類から抽出したエキスを脱塩した後、陽イオン交換樹脂を用いてイミダゾールジペプチドを吸着、回収し、次いで逆浸透膜を用いて脱塩することにより、ヒ素含有量が低減されたイミダゾールジペプチド類高含有魚介抽出物を製造する方法(特許文献3)等が開示されている。これらの製造方法では、イオン交換樹脂や限外濾過膜、ナノ濾過膜といった特殊な精製装置が必要となる上に、精製工程において多大な製造工数が発生することから、製造効率の面で問題がある。また、陽イオン交換樹脂や限外濾過膜、ナノ濾過膜等を用いることにより、イミダゾールジペプチドの一部が該樹脂や濾過膜に吸着、残留することにより損失し、その回収率が低下するという問題がある。
【0005】
また、鶏肉を酸性又はアルカリ性条件下で熱水抽出することでイミダゾールジペプチドを含有させ、プロテアーゼで処理することにより得られるスポーツ用食品(特許文献4)や、鶏肉抽出物を含有することを特徴とする学習機能向上効果及び抗不安効果を有する機能性食品(特許文献5)が開示されている。これらは、熱水抽出することで鶏肉抽出物を得るものであり、いわゆる一般的なチキンエキスを得る方法と同一であり、旨味を得ることを目的とした方法と同一であることから、これらのエキスは旨味を有する。しかしながら、エキス中に旨味を有するとイミダゾールジペプチドを多く摂取することが困難となるので、エキス中の旨味を低減させることが求められる。さらに、これらのエキスは従来のチキンエキスと何ら変わることなく、イミダゾールジペプチドの保存安定性については考慮されていないため、その成分量の減少等の経時的な変化が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−102435号公報
【特許文献2】特開2009−46451号公報
【特許文献3】特開2007−181421号公報
【特許文献4】特開2002−51730号公報
【特許文献5】国際公開第2007/116987号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、従来の方法で畜肉類又は魚介類を原料としてイミダゾールジペプチド含有エキスを製造する場合、得られるエキスは、旨味を有しており、特に呈味性ヌクレオチドのような旨味成分は、呈味を増強させ、さらに後を引く旨味をもたらすことから、旨味を必要としない製品に用いることが困難であり、また、添加量も制限されていた。さらに、得られるエキスは、イミダゾールジペプチド成分の減少や褐変等の経時的な変化を起こしやすいことから、保存安定性を有し、商品価値を維持できるものを得ることは困難であった。したがって、天然由来の食品素材から得られるエキスについて、味が改善され、保存安定性を有する、汎用性に優れたイミダゾールジペプチド含有エキスが望まれている。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、畜肉類又は魚介類を原料としてイミダゾールジペプチド含有エキスを製造する方法において、旨味を低減させ、イミダゾールジペプチド成分の減少や褐変等の経時変化が抑制され、保存安定性に優れたイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、畜肉類又は魚介類の抽出物について、酵素処理をすること、さらに、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いて発酵処理することにより、旨味を低減させ、イミダゾールジペプチド成分の減少や褐変等の経時変化が抑制され、保存安定性に優れたイミダゾールジペプチド含有エキスが得られることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼにより酵素処理する工程、さらに、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いて発酵処理する工程又はグルコースオキシダーゼにより酵素処理する工程を含むことを特徴とするイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明には、下記の態様が含まれる。
項(1)
畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼによる酵素処理により、旨味を低減させ、保存安定性に優れたものとすることを特徴とするイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法。
項(2)
酸性ホスファターゼによる酵素処理と並行して又は酸性ホスファターゼによる酵素処理後に、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いて発酵処理すること又はグルコースオキシダーゼにより酵素処理することを特徴とする項(1)記載のイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法。
項(3)
発酵処理に用いる酵母が、サッカロマイセス属、カンジダ属、チゴサッカロマイセス属に属する菌のうち少なくとも1種である項(2)に記載の製造方法。
項(4)
発酵処理に用いる乳酸菌が、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属に属する菌のうち少なくとも1種である項(2)に記載の製造方法。
項(5)
項(1)〜項(4)のいずれか1項に記載の製造方法により得られるイミダゾールジペプチド含有エキス。
項(6)
項(5)記載のイミダゾールジペプチド含有エキスを含む食品、飲料、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飼料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原料に由来する旨味の中でも特に呈味性ヌクレオチドがもたらす後を引く旨味を低減し、イミダゾールジペプチド成分の減少や褐変等の経時変化を抑制し、保存安定性の向上した、畜肉類又は魚介類を原料とするイミダゾールジペプチド含有エキスを提供することができる。したがって、本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、あらゆる用途に適した汎用性のある機能性素材として利用することができる。さらに、本発明によれば、イミダゾールジペプチドの損失がなく、効率良く、イミダゾールジペプチド含有エキスを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼによる酵素処理により、旨味を低減させ、保存安定性に優れたものとすることを特徴とするイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法を提供するものである。
【0014】
本発明において、原料として用いる畜肉類又は魚介類としては、イミダゾールジペプチドを含有する畜肉類又は魚介類のうちいずれか1種以上であればよいが、中でも、イミダゾールジペプチドを多く含むことが知られている畜肉類又は魚介類が好ましく、例えば、畜肉類であれば、鶏肉、牛肉、豚肉、馬肉、ウサギ肉、鯨肉等が挙げられ、魚介類であれば、カツオ、マグロ、サケ、サメ等が挙げられる。より好ましくは、鶏肉、豚肉、マグロ、カツオである。さらに、原料として用いる魚介類においては、それら魚介類から得られる節類(荒節、裸節、枯節等)であってもよい。
また、原料として用いる畜肉類又は魚介類は、未加熱のものでも、加熱処理したものでもよい。中でも、未加熱の原料を用いた場合は、原料に含有される成分がそのままの形で多く残留しているので、好ましい。
原料として用いる畜肉類又は魚介類は、そのままの形状で用いてもよく、細切処理又は粉砕処理して用いてもよい。原料として用いる畜肉類又は魚介類を細切処理又は粉砕処理する方法は、特に限定されず、食材の加工に一般に用いられる方法とすることができる。例えば、切断、粉砕、摩擦、空気圧、水圧等を利用して加工する各種の裁断機、粉砕機等が挙げられ、具体的には、カッター、スライサー、ダイサー、チョッパー、グラインダー、ミキサー、ミル等を用いることができる。
【0015】
本発明において、畜肉類又は魚介類の抽出物は、常温抽出、加熱抽出、加圧抽出、撹拌抽出、超音波抽出等の公知の手段を単独又は組み合わせることにより得ることができ、好ましくは加熱抽出により得ることができる。
畜肉類又は魚介類の抽出温度及び抽出時間は、被抽出物の物性やその抽出方法により適宜設定されるが、抽出温度については、通常20〜150℃、好ましくは35〜130℃、より好ましくは50〜110℃であり、抽出時間については、通常1分間〜24時間、好ましくは5分間〜12時間、より好ましくは10分間〜6時間である。
また、畜肉類又は魚介類の抽出は、通常は食品加工に用いることのできる水等の溶媒抽出であり、好ましくは水、アルコール又は水−アルコール混合溶液による抽出であり、より好ましくは、水による抽出である。
さらに、畜肉類又は魚介類の抽出物は、抽出後そのまま又は固液分離して得られた液部を用いるが、好ましくは抽出後固液分離して得られた液部を用いる。また、いずれにおいてもその濃縮物を用いることができ、適宜pH調整剤等の添加物を配合することもできる。
【0016】
本発明において、畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼによる酵素処理を行うことにより後を引く旨味を低減させる。
酸性ホスファターゼによる酵素処理は、前記抽出と並行して又は前記抽出後に行う。酸性ホスファターゼによる酵素処理により、原料由来のイノシン酸等の呈味性ヌクレオチドを減少させることができ、好ましくは、イノシン酸をほとんど含有しない状態とすることができる。
さらに、酸性ホスファターゼによる酵素処理により、イミダゾールジペプチド成分の減少や褐変等の経時変化を抑制し、保存安定性を向上させることができる。
本発明により得られる保存安定性に優れたイミダゾールジペプチド含有エキスは、旨味が低減していて、イノシン酸等の呈味性ヌクレオチドが減少しており、好ましくは、イノシン酸をほとんど含有しない。
したがって、本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、イミダゾールジペプチドを添加するにあたり旨味を必要としない製品、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飼料等あらゆる用途に適した汎用性のある機能性素材として利用することが可能となる。
【0017】
本発明において用いる酸性ホスファターゼは、中性から酸性領域においてホスファターゼ活性を有するものであればいずれでもよく、特に限定されないが、例えば、具体的には、スミチーム(登録商標)PM(新日本化学工業株式会社製)、ジャガイモ由来酸性ホスファターゼ(和光純薬工業株式会社製)等が挙げられる。
さらに、本発明において、酸性ホスファターゼによる酵素処理は、酸性ホスファターゼ産生能を有する微生物菌体を用いた酵素処理を行ってもよく、この場合、当該微生物は休止菌体であってもよい。
【0018】
本発明において、酸性ホスファターゼによる酵素処理の温度及び時間については、酸性ホスファターゼによる酵素処理が適切に行われる条件であればよく、温度は、通常10〜75℃、好ましくは20〜70℃、より好ましくは30〜65℃であり、時間は、通常20分間〜24時間、好ましくは30分間〜18時間、より好ましくは1〜12時間である。原料に添加する酸性ホスファターゼの添加量は、酸性ホスファターゼによる酵素処理の温度及び時間により適宜変更することができるが、通常0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%、より好ましくは0.02〜0.5重量%である。
【0019】
また、本発明においては、酸性ホスファターゼを用いて酵素処理する前に、畜肉類又は魚介類の抽出物のpHを、酸性ホスファターゼの至適pH付近に調整することが好ましい。調整するpHは、通常pH2.0〜7.0であり、好ましくはpH3.0〜6.0、より好ましくはpH3.5〜5.5である。なお、前記pH調整を行った場合、該酵素処理した後に中和処理を行ってもよい。pHの調整及び中和処理は、pH調整剤として一般に食品に利用されているものを用いることができる。pH調整剤は、食品添加物として指定されたものであれば特に限定されない。pH調整剤としては、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
本発明において、畜肉類又は魚介類の抽出物について、酸性ホスファターゼによる酵素処理と並行して又は酸性ホスファターゼによる酵素処理後に、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いた発酵処理又はグルコースオキシダーゼによる酵素処理を行う。
【0021】
本発明において、発酵処理に用いる酵母は、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)、サッカロマイセス・バイヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)等のサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する菌、カンジダ・ユーティリス(Candida utilis)、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)、カンジダ・エチェルシ(Candida etchellsii)、カンジダ・ステラータ(Candida stellata)、カンジダ・バーサティリス(Candida versatilis)等のカンジダ(Candida)属に属する菌、チゴサッカロマイセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、チゴサッカロマイセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、チゴサッカロマイセス・ビスポラス(Zygosaccharomyces bisporus)等のチゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属に属する菌、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、シゾサッカロマイセス・ジャポニカス(Schizosaccharomyces japonicus)、シゾサッカロマイセス・オクトスポラス(Schizosaccharomyces octosporus)等のシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属に属する菌、ハンセニアスポラ・オスモフィラ(Hanseniaspora osmophila)、ハンセニアスポラ・タイランディカ(Hanseniaspora thailandica)、ハンセニアスポラ・ウバラム(Hanseniaspora uvarum)等のハンセニアスポラ(Hanseniaspora)属に属する菌、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ハンセヌラ・サブペリクロサ(Hansenula subpelliculosa)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)等のハンセヌラ(Hansenula)属に属する菌、デバリオマイセス・ハンセニイ(Debaryomyces hansenii)、デバリオマイセス・オクシデンタリス(Debaryomyces occidentalis)、デバリオマイセス・ポリモルファス(Debaryomyces polymorphus)等のデバリオマイセス(Debaryomyces)属に属する菌、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)、ピキア・メンブラナエファキエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア(Pichia)属に属する菌、クルイべロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・ドプザンスキイ(Kluyveromyces dobzhanskii)等のクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属に属する菌、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等のヤロウィア(Yarrowia)属に属する菌等が挙げられる。
発酵処理に用いる酵母は、好ましくはサッカロマイセス属、カンジダ属、チゴサッカロマイセス属に属する菌のうち少なくとも1種であり、より好ましくはサッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・パストリアヌス、カンジダ・ユーティリス、カンジダ・ケフィル、チゴサッカロマイセス・ロウキシイのうち少なくとも1種である。
【0022】
本発明において、発酵処理に用いる乳酸菌は、例えば、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobatillus plantarum)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ケフィリ(Lactobacillus kefiri)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)等のラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ラフィノサス(Enterococcus raffinosus)等のエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する菌、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis)等のラクトコッカス(Lactococcus)属に属する菌、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック・ラクチス(Leuconostoc lactis)、ロイコノストック・デキストラニカム(Leuconostoc dextranicum)等のロイコノストック(Leuconostoc)属に属する菌、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・パルブルス(Pediococcus parvulus)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)等のペディオコッカス(Pediococcus)属に属する菌等が挙げられる。
発酵処理に用いる乳酸菌は、好ましくはラクトバチルス属、エンテロコッカス属に属する菌のうち少なくとも1種であり、より好ましくはラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・プランタラム、エンテロコッカス・フェシウムのうち少なくとも1種である。
【0023】
本発明において、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いた発酵処理の温度及び時間について、温度は、通常10〜50℃、好ましくは15〜45℃、より好ましくは20〜40℃であり、時間は、通常30分間〜24時間、好ましくは1〜18時間、より好ましくは2〜12時間である。また、接種する酵母又は乳酸菌の添加量は、発酵処理する温度及び時間により適宜変更することができるが、通常、10〜1010cfu/g、好ましくは10〜10cfu/g、より好ましくは10〜10cfu/gである。
【0024】
本発明において、グルコースオキシダーゼによる酵素処理は、グルコース酸化活性能を有する酵素であればいずれでもよく、特に限定されないが、例えば、具体的には、スミチームGOP、スミチームPGO(いずれも、新日本化学工業株式会社製)、ハイデラーゼ(登録商標)15(天野エンザイム株式会社製)等が挙げられる。
さらに、本発明において、グルコースオキシダーゼによる酵素処理は、グルコースオキシダーゼ産生能を有する微生物菌体を用いた酵素処理を行ってもよく、この場合、当該微生物は休止菌体であってもよい。
【0025】
本発明において、グルコースオキシダーゼによる酵素処理の温度及び時間については、グルコースオキシダーゼによる酵素処理が適切に行われる条件であればよく、温度は、通常10〜70℃、好ましくは15〜65℃、より好ましくは20〜60℃であり、時間は、通常20分間〜24時間、好ましくは30分間〜18時間、より好ましくは1〜12時間である。原料に添加するグルコースオキシダーゼの添加量は、グルコースオキシダーゼによる酵素処理の温度及び時間により適宜変更することができるが、通常0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%、より好ましくは0.02〜0.5重量%である。
【0026】
また、本発明においては、グルコースオキシダーゼを用いて酵素処理する前に、畜肉類又は魚介類の抽出物のpHを、グルコースオキシダーゼの至適pH付近に調整することが好ましい。調整するpHは、通常pH3.5〜8.0であり、好ましくはpH4.0〜7.5、より好ましくはpH4.5〜7.0である。なお、前記pH調整を行った場合、該酵素処理した後に中和処理を行ってもよい。pHの調整及び中和処理は、pH調整剤として一般に食品に利用されているものを用いることができる。pH調整剤は、食品添加物として指定されたものであれば特に限定されない。pH調整剤としては、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
本発明において、得られるイミダゾールジペプチド含有エキスには、アンセリン、カルノシン等のイミダゾールジペプチドを含有していればよく、その含有量は、固形物換算で、通常0.1〜40%であり、好ましくは1〜30%であり、より好ましくは5〜25%である。
【0028】
本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、そのままの形態でも利用可能であるが、該イミダゾールジペプチド含有エキスを固液分離した液部を用いることができる。固液分離の方法は特に限定されず、濾過、遠心分離等の公知の方法で行うことができる。また、本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、そのまま又は固液分離した液部を常法により濃縮機等で処理して濃縮物として用いてもよく、乾燥して用いてもよい。乾燥は、いずれの方法を用いてもよいが、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等の公知の手段を用いることができる。また、デキストリン等の賦形剤を添加して乾燥してもよい。さらに、乾燥により得られたものを粉砕後、粉末等として用いてもよく、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0029】
本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、食品、飲料に用いることができる。本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、そのまま又は水等で希釈して喫食することができるものであるが、種々の加工食品、例えば、穀物加工品、大豆加工品、油脂加工品、食肉加工品、水産加工品、野菜又は果実加工品、乳製品、菓子類、冷菓類、調味料、嗜好飲料、乳飲料、アルコール飲料等の各種食品や飲料に適宜添加、配合して用いることもできる。また、必要に応じて、糖類、アミノ酸類、油脂類、塩類、甘味料、有機酸、乳化剤、増粘剤、栄養強化剤、色素、香料、保存料等通常の食品及び飲料の原料や添加物として使用されているものと併用することもできる。
【0030】
本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飼料等に用いることができる。形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、エアロゾル等とすることができるほか、各種製品中に配合することができる。これら製品の調製に当たっては、賦形剤、結合剤、潤沢剤等を適宜配合することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。なお、本実施例において、各原料及び素材の配合比率、含有比率、濃度は断りのない限り全て重量部基準である。また、イミダゾールジペプチド含量及び含有率は、アンセリンとカルノシンの総和として示す。
【0032】
[調製1(チキンエキスの調製)]
チキン(鶏ムネ肉)1000gを水2000gに投入し、90℃で10分間加熱した後、濾過(NO.2ろ紙)し、濾液(Brix2.0°)2100gを得た。得られた濾液をロータリーエバポレーターにより減圧濃縮して、チキンエキス(Brix14.9°、固形分13.41%)265gを得た。
得られたチキンエキスについて、イミダゾールジペプチド含量及びイノシン酸含量を高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」とする)にて以下に示す測定条件で測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.99%(アンセリン14.35%、カルノシン5.64%)、イノシン酸含量は、固形物換算で2.76%であった。
【0033】
<HPLCの測定条件(イミダゾールジペプチド)>
検出器:UV検出器(紫外波長220nm)
カラム:Inertsil ODS−2(内径4.6mm、長さ250mm)
移動相:0.2Mリン酸一アンモニウム、0.1Mペンタンスルホン酸ナトリウム、4容量%アセトニトリル(リン酸にてpH2.3に調整)
流速:0.8ml/分
カラム温度:30℃
標品:L−アンセリン硝酸塩標準品及びL−カルノシン標準品(いずれも和光純薬工業株式会社製)をそれぞれ移動相に溶解して、検量線を作成した。
検体:試料を移動相で適宜希釈して分析した。
【0034】
<HPLCの測定条件(イノシン酸)>
検出器:UV検出器(紫外波長260nm)
カラム:Inertsil NH2(内径4.6mm、長さ250mm)
移動相:25mMリン酸一カリウム(リン酸にてpH2.0に調整)
流速:1.0ml/分
カラム温度:40℃
標品:イノシン酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を移動相に溶解して、検量線を作成した。
検体:試料を移動相で適宜希釈して分析した。
【0035】
[実施例1]
調製1で得られたチキンエキス40gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.08gを添加し、35℃で5時間酵素処理を行った。酵素処理後、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱失活処理し、さらに50℃になるまで冷却して、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス35g(Brix15.1°、固形分13.28%)を得た。
得られたイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.52%(アンセリン14.14%、カルノシン5.38%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0036】
[実施例2]
調製1で得られたチキンエキス40gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.08gを添加し、さらに酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC555)を1×10cfu/g程度となるよう接種して35℃で5時間処理した。次に、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱処理し、さらに50℃になるまで冷却して0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス35g(Brix14.8°、固形分12.98%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で18.30%(アンセリン13.25%、カルノシン5.05%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0037】
[実施例3]
発酵処理に用いる酵母としてCandida utilis NBRC619を用いること以外は実施例2と同様の方法により、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス35g(Brix14.3°、固形分12.83%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.29%(アンセリン13.92%、カルノシン5.37%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0038】
[実施例4]
調製1で得られたチキンエキス35gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.07gを添加し、さらに乳酸菌(Lactobacillus plantarum NBRC15891)を1×10cfu/g程度となるよう接種して35℃で3時間処理した。次に、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱処理し、さらに50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行うことで、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス30g(Brix15.1°、固形分13.51%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.87%(アンセリン14.31%、カルノシン5.56%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0039】
[実施例5]
発酵処理に用いる乳酸菌としてEnterococcus sp. NBRC12546を用いること以外は実施例4と同様の方法により、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス30g(Brix14.8°、固形分13.49%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.71%(アンセリン14.22%、カルノシン5.49%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0040】
[実施例6]
発酵処理に用いる乳酸菌としてLactobacillus brevis NBRC3345を用いること以外は実施例4と同様の方法により、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス30g(Brix15.0°、固形分13.55%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で20.16%(アンセリン14.54%、カルノシン5.62%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0041】
[実施例7]
調製1で得られたチキンエキス50gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.10gを添加し、さらにグルコースオキシダーゼ製剤(スミチームPGO:新日本化学工業株式会社製)0.05gを添加して、50℃で3時間酵素処理を行った。酵素処理後、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱失活処理し、さらに50℃になるまで冷却して、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス45g(Brix14.2°、固形分12.58%)を得た。
得られたイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で21.31%(アンセリン14.65%、カルノシン6.66%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0042】
[保存加速試験1]
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6及び実施例7で得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス並びに調製1のチキンエキスを、それぞれ10gずつネジ口試験管に入れて密封し、90℃の恒温槽に6時間静置した後、イミダゾールジペプチド含量を測定した。イミダゾールジペプチドの測定は、調製1のHPLCの測定条件にて測定した。また、各エキスの色度として、イミダゾールジペプチド濃度が1重量%のときの水溶液の吸光度(OD430)を、分光光度計(UV−1200:株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長430nmの条件で測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すとおり、酸性ホスファターゼによる酵素処理を行うことで、呈味性ヌクレオチドの1つであるイノシン酸が検出されなかった。
また、酵素処理及び発酵処理を行っていない調製1のチキンエキスに比べ、本発明により得られた実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキスは、90℃、6時間後のイミダゾールジペプチド含量の減少が抑制されており、調製1を基準として算出したイミダゾールジペプチドの減少抑制率がいずれも40%以上と高く、イミダゾールジペプチドの保存安定性において顕著な改善がなされていた。
さらに、90℃、6時間後の色度を比較したところ、調製1を基準として算出した色度の増加抑制率が、実施例2は69.8%、実施例3は71.3%、実施例4は81.5%、実施例5は75.5%、実施例6は83.2%、実施例7は76.2%であり、本発明により得られたイミダゾールジペプチド含有エキスは、褐変が顕著に抑制されており、エキスの保存安定性においても優れた効果が示された。
【0045】
[調製2(ポークエキスの調製)]
ポーク(豚モモ肉)500gを水1000gに投入し、90℃で10分加熱した後、濾過(NO.2ろ紙)し、濾液(Brix1.4°)1080gを得た。得られた濾液をロータリーエバポレーターにより減圧濃縮して、ポークエキス(Brix9.5°、固形分8.40%)160gを得た。
得られたポークエキスについて、イミダゾールジペプチド含量及びイノシン酸含量を調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で13.01%(アンセリン不検出、カルノシン13.01%)、イノシン酸含量は、固形物換算で3.20%であった。
【0046】
[実施例8]
調製2で得られたポークエキス30gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.06gを添加して35℃で5時間酵素処理を行った。次に、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱失活処理し、さらに50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス25g(Brix10.0°、固形分8.75%)を得た。
得られたイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で11.84%(アンセリン不検出、カルノシン11.84%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0047】
[実施例9]
調製2で得られたポークエキス30gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.06gを添加し、さらに酵母(Zygosaccharomyces rouxii NBRC487)を1×10cfu/g程度となるよう接種して35℃で5時間処理した。次に、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱処理し、さらに50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス25g(Brix9.8°、固形分8.50%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で11.18%(アンセリン不検出、カルノシン11.18%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0048】
[実施例10]
発酵処理に用いる酵母としてCandida kefyr NBRC882を用いること以外は実施例9と同様の方法により、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス25g(Brix9.7°、固形分8.63%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で11.80%(アンセリン不検出、カルノシン11.80%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0049】
[実施例11]
発酵処理に用いる酵母としてSaccharomyces pastrianus NBRC1962を用いること以外は実施例9と同様の方法により、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス25g(Brix9.8°、固形分8.42%)を得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で10.92%(アンセリン不検出、カルノシン10.92%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0050】
[実施例12]
調製2で得られたポークエキス50gに5Nの塩酸を添加してpH5.2に調整した後、酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.10gを添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。その後、5Nの水酸化ナトリウムを添加してpH6.0に調整した後、90℃で10分間加熱失活処理を行い、さらに、グルコースオキシダーゼ製剤(スミチームGOP:新日本化学工業株式会社製)0.05gを添加して、40℃で3時間酵素処理を行った。次に、90℃で10分間加熱失活処理し、さらに50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス45g(Brix10.7°、固形分9.21%)を得た。
得られたイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で14.09%(アンセリン不検出、カルノシン14.09%)であった。イノシン酸は、検出されなかった。
【0051】
[保存加速試験2]
実施例8、実施例9、実施例10、実施例11及び実施例12で得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス並びに調製2のポークエキスを、それぞれ10gずつネジ口試験管に入れて密封し、90℃の恒温槽に7時間静置した後、イミダゾールジペプチド含量を測定した。イミダゾールジペプチドの測定は、調製1のHPLCの測定条件にて測定した。また、各エキスの色度として、イミダゾールジペプチド濃度が1重量%のときの水溶液の吸光度(OD430)を、分光光度計(UV−1200:株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長430nmの条件で測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すとおり、酸性ホスファターゼによる酵素処理を行うことで、呈味性ヌクレオチドの1つであるイノシン酸が検出されなかった。
また、酵素処理及び発酵処理を行っていない調製2のポークエキスに比べ、本発明により得られた実施例8、実施例9、実施例10、実施例11及び実施例12のイミダゾールジペプチド含有エキスは、90℃、7時間後のイミダゾールジペプチド含量の減少が抑制されており、調製2を基準として算出した減少抑制率がいずれも58%以上と高く、イミダゾールジペプチドの保存安定性において顕著な改善がなされていた。
さらに、90℃、7時間後の色度を比較したところ、調製2を基準として算出した色度の増加抑制率が、実施例9は65.7%、実施例10は66.3%、実施例11は81.8%、実施例12は57.3%であり、本発明により得られたイミダゾールジペプチド含有エキスでは、褐変が顕著に抑制されており、エキスの保存安定性においても優れた効果が示された。
【0054】
[調製3(チキンエキスの調製)]
チキン(鶏ムネ肉)1000gを水2000gに投入し、90℃で30分加熱した後、濾過(NO.2ろ紙)し、濾液(Brix1.7°)2180gを得た。得られた濾液をロータリーエバポレーターにより減圧濃縮して、チキンエキス(Brix10.2°、固形分9.5%)390gを得た。
得られたチキンエキスについて、イミダゾールジペプチド含量及びイノシン酸含量を調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で18.85%(アンセリン12.74%、カルノシン6.11%)、イノシン酸含量は、固形物換算で1.91%であった。
【0055】
[実施例13]
調製3で得られたチキンエキス35gに酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.04gを添加し、60℃で2時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で10分間酵素失活処理をした後、50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス31gを得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で18.85%(アンセリン12.74%、カルノシン6.11%)であった。イノシン酸は検出されなかった。
次いで、得られた酵素処理チキンエキスに対し、デキストリン(サンデック(登録商標)#30:三和澱粉工業株式会社製)2.1gを添加して溶解させ、フリーズドライにて乾燥させた後、乳鉢で磨砕して、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス粉末(水分8.0%)4.8gを得た。
【0056】
[実施例14]
調製3で得られたチキンエキス50gに酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.05gを添加し、60℃で2時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で10分間酵素失活処理をした後、酵母(CS−2(Saccharomyces cerevisiae):セティ株式会社製)を1×10cfu/g程度となるよう接種して、35℃で3時間発酵処理を行った。発酵処理後、90℃で10分間殺菌処理をした後、50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス48gを得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.06%(アンセリン12.89%、カルノシン6.17%)であった。イノシン酸は検出されなかった。
次いで、得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス33gに対し、デキストリン(サンデック#30:三和澱粉工業株式会社製)2.4gを添加して溶解させ、フリーズドライにて乾燥させた後、乳鉢で磨砕して、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス粉末(水分8.1%)5.0gを得た。
【0057】
[実施例15]
調製3で得られたチキンエキス50gに酸性ホスファターゼ製剤(スミチームPM:新日本化学工業株式会社製)0.05gを添加し、60℃で2時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で10分間酵素失活処理をした後、乳酸菌(Lactobacillus brevis NBRC12005株)を1×10cfu/g程度となるよう接種して、35℃で5時間発酵処理を行った。発酵処理後、90℃で10分間殺菌処理をした後、50℃になるまで冷却し、0.45μmのフィルターを用いて濾過を行い、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス45gを得た。
得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスについて、調製1と同様にしてHPLCにて測定したところ、イミダゾールジペプチド含量は、固形物換算で19.07%(アンセリン12.52%、カルノシン6.55%)であった。イノシン酸は検出されなかった。
次いで、得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス27gに対し、デキストリン(サンデック#30:三和澱粉工業株式会社製)2.0gを添加して溶解させ、フリーズドライにて乾燥させた後、乳鉢で磨砕して、本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス粉末(水分7.8%)4.5gを得た。
【0058】
[保存加速試験3]
実施例13、実施例14及び実施例15で得られた本発明のイミダゾールジペプチド含有エキス粉末を、それぞれ3.0gずつラミネートパウチ(ラミジップ(登録商標)LZ−NY/PE:株式会社生産日本社製)に入れて密封し、50℃の恒温槽に20日間静置した後、イミダゾールジペプチド含量を測定した。イミダゾールジペプチドの測定は、調製1のHPLCの測定条件にて測定した。また、各エキス粉末の色度として、イミダゾールジペプチド濃度が0.1%のときの水溶液の吸光度(OD430)を、分光光度計(UV−1200:株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長430nmの条件で測定した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すとおり、酸性ホスファターゼによる酵素処理を行うことで、呈味性ヌクレオチドの1つであるイノシン酸が検出されなかった。
本発明により得られた実施例13、実施例14及び実施例15のイミダゾールジペプチド含有エキス粉末は、50℃、20日間後のイミダゾールジペプチド減少率が抑制されており、イミダゾールジペプチドの保存安定性において顕著な改善がなされていた。
さらに、50℃、20日後の色度を検討したところ、実施例13、実施例14及び実施例15のいずれも吸光度0.2以下であり、なかでも実施例14は0.090、実施例15は0.101であり、本発明により得られたイミダゾールジペプチド含有エキス粉末は、褐変が顕著に抑制されており、エキス粉末の保存安定性においても優れた効果が示された。
【0061】
[官能評価試験1]
本発明により得られた実施例2及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキス並びに調製1で得られたチキンエキスを、それぞれイミダゾールジペプチドが700mg/100mlとなるように水を加えて調製し、試料A、試料B、試料Cとし、旨味及び畜肉臭について、パネラー8人による官能評価試験を実施した。
評価指標及び評価結果を表4及び表5に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
表4及び表5に示すとおり、調製1で得られたチキンエキスを配合した試料Cは、鶏肉に由来する旨味が強く感じられたが、本発明により得られた実施例2のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料A及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料Bでは、鶏肉に由来する旨味、特に後を引く旨味が低減されていた。さらに、畜肉臭についても、本発明により得られた実施例2のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料A及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料Bは、調製1で得られたチキンエキスを配合した試料Cよりも低減されていた。このように、本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、原料由来の旨味、特に後を引く旨味や、畜肉臭が抑えられているため、汎用性のある機能性素材として利用することができる。
【0065】
[官能評価試験2]
本発明により得られた実施例2及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキス並びに調製1で得られたチキンエキスを、それぞれイミダゾールジペプチドが700mg/100mlとなるように配合し、ハチミツ5%、5倍濃縮りんご果汁5%、クエン酸1.5%、香料(アップルフレーバー)0.03%を加え、水で100mlとして、試料D、試料E、試料Fを調製し、その風味及び旨味について、パネラー8人による官能評価試験を実施した。
評価指標及び評価結果を表6及び表7に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
表6及び表7に示すとおり、調製1で得られたチキンエキスを配合した試料Fは、鶏肉に由来する旨味が強く、そのため全体的に風味を低下させ、嗜好品としての価値が下がったが、本発明により得られた実施例2のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料D及び実施例7のイミダゾールジペプチド含有エキスを配合した試料Eでは、鶏肉に由来する旨味、特に、後を引く旨味が低減されており、飲料としてイミダゾールジペプチドを配合していないものと比較しても遜色ない風味を保持していた。このように、本発明により得られるイミダゾールジペプチド含有エキスは、添加する食品、飲料の風味がエキスの原料由来の旨味に影響されることがないため、汎用性のある機能性素材として利用することができる。
【0069】
本発明のイミダゾールジペプチド含有エキスを食品、飲料、化粧品、医薬部外品、医薬品、飼料に用いた配合例を示す。
【0070】
[配合例1]
次の処方で、常法により、クッキーを得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例14) 5.0
クッキーミックス 77.0
バター 10.0
卵 8.0
【0071】
[配合例2]
次の処方で、常法により、アイスクリームを得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例2又は実施例7) 2.0
クリーム 40.0
牛乳 39.0
卵黄 12.0
砂糖 7.0
【0072】
[配合例3]
次の処方で、常法により、乳飲料を得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例4又は実施例7) 10.0
牛乳 35.0
ミックスフルーツピューレ 30.0
果糖ブドウ糖液糖 8.0
ビタミンC 0.1
水 16.9
【0073】
[配合例4]
次の処方で、常法により、クリームを得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例7又は実施例9) 5.0
ステアリン酸 8.0
ステアリルアルコール 4.0
ステアリン酸ブチル 6.0
プロピレングリコール 5.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
水酸化カリウム 0.4
防腐剤 適 量
酸化防止剤 適 量
香料 適 量
精製水 約70.0
【0074】
[配合例5]
次の処方で、常法により、錠剤(サプリメント)を得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例14) 37.0
乳糖 45.0
結晶セルロース 14.0
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0
ステアリン酸マグネシウム 0.1
タルク 0.9
【0075】
[配合例6]
ゼラチンカプセルに、本発明品(実施例13)を0.5g充填し、カプセル剤(サプリメント)を得た。
【0076】
[配合例7]
次の処方で、常法により、飼料(ドッグフード)を得た。
(成分) (重量%)
本発明品(実施例10) 2.0
とうもろこし 40.0
小麦粉 20.0
大豆粉 15.0
肉粉 15.0
ビタミンミックス 2.0
ミネラルミックス 1.0
牛脂 5.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉類又は魚介類の抽出物を、酸性ホスファターゼによる酵素処理により、旨味を低減させ、保存安定性に優れたものとすることを特徴とするイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法。
【請求項2】
酸性ホスファターゼによる酵素処理と並行して又は酸性ホスファターゼによる酵素処理後に、酵母又は乳酸菌のいずれかを用いて発酵処理すること又はグルコースオキシダーゼにより酵素処理することを特徴とする請求項1記載のイミダゾールジペプチド含有エキスの製造方法。
【請求項3】
発酵処理に用いる酵母が、サッカロマイセス属、カンジダ属、チゴサッカロマイセス属に属する菌のうち少なくとも1種である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
発酵処理に用いる乳酸菌が、ラクトバチルス属、エンテロコッカス属に属する菌のうち少なくとも1種である請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法により得られるイミダゾールジペプチド含有エキス。
【請求項6】
請求項5記載のイミダゾールジペプチド含有エキスを含む食品、飲料、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飼料。