説明

イミダフェナシン含有口腔内崩壊錠

【課題】光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠の提供。
【解決手段】イミダフェナシンを三二酸化鉄及び帯電防止剤により乾式コーティングした粒子を直接打錠することを特徴とする口腔内崩壊錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダフェナシンを有効成分として含有する口腔内速崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダフェナシンはムスカリン受容体M3及びM1拮抗作用を有する化合物であり(特許文献1)、過活動膀胱治療薬として提供される(非特許文献1)。イミダフェナシンを主成分とする製剤処方としては、イミダフェナシンを含有する経口固形製剤、経皮吸収剤などが知られている(特許文献2、3)。
特許文献2は、イミダフェナシン製剤が光に不安定なため、酸化チタン及び三二酸化鉄を含むコーティング液で錠剤を被覆することで光安定化を図ることが記載されている。
【0003】
一方、患者のQOL(Quality
of Life)の改善を目的に、製剤学的工夫を凝らした製剤開発が盛んであり、口腔内速崩壊錠は最も多く開発されている製剤である。口腔内速崩壊錠は、口腔内の少量の唾液でも瞬時に崩壊することから、服用が容易であり、通常の錠剤では嚥下が困難な高齢者や小児に最適な製剤である。また水なしで服用できるため服用の場所や時間が制限されない利点も有する。
【0004】
しかし、口腔内速崩壊錠は、崩壊性を保持したまま錠剤をチタン・三二酸化鉄コーティングすることは難しく、光安定なイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠についてはこれまで報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−215943号公報
【特許文献2】WO01/34147 A1パンフレット
【特許文献3】WO2006/082888 A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、含量均一性が確保された、光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、イミダフェナシンを三二酸化鉄及び帯電防止剤でコーティングすることにより光安定性及び崩壊性に優れた口腔内速崩壊錠が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、イミダフェナシンを三二酸化鉄及び帯電防止剤により乾式コーティングした粒子を直接打錠することを特徴とする口腔内崩壊錠、に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、含量均一性が確保され、光安定性に優れたイミダフェナシン含有口腔内速崩壊錠の提供が可能となり、嚥下が困難な高齢及び小児患者への投与が容易となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本願発明について詳細に説明するが、本願明細書において口腔内速崩壊錠とは、口腔内で唾液の存在下、咀嚼無しに約90秒、好ましくは約60秒、更に好ましくは40秒より短い時間で崩壊する固形医薬製剤をいう。
【0011】
本発明の口腔内速崩壊錠における有効成分であるイミダフェナシンとは、膀胱に選択的な抗コリン作用を有する頻尿・尿失禁治療薬である4−(2−メチル−1−イミダゾリル)−2,2−ジフェニルブチルアミドである。
【0012】
イミダフェナシン粒子は、光安定化のため三二酸化鉄で被覆する。本発明で使用される三二酸化鉄は、黄色三二酸化鉄又は赤色三二酸化鉄であり、これらは単独若しくは混合して用いることができる。
三二酸化鉄の含有量は、錠剤中、0.001質量%以上が好ましく、さらに好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。
【0013】
また、三二酸化鉄による乾式コーティングには、帯電防止剤を使用する。帯電防止剤を使用することにより薬物の含量均一性が確保された製剤の提供が容易となる。帯電防止剤としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、タルクなどが挙げられる。乾式コーティングの際の装置への付着を防止や薬物の含量均一性の観点から帯電防止剤は、イミダフェナシン1質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、好ましくは0.8質量部以上、さらに好ましくは1.8質量部以上である。
【0014】
本発明で用いる乾式コーティングとは、微粒子を機械的せん断力の大きい装置を使用することによるメカノケミカルな被覆方法である。
【0015】
本発明の口腔内速崩壊錠は、イミダフェナシン粒子とは別に賦形剤及び崩壊剤を配合する。ここで配合される賦形剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用できる。例えば、乳糖、ブドウ糖などの糖類、D−ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどの澱粉類などを挙げることができる。好ましくは糖アルコールである。
【0016】
本発明で使用される崩壊剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用できる。例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム,メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどを使用することができ、飲用のし易さ(口当たりのよさ)の点からクロスポビドンを使用することが好ましい。崩壊剤の配合量は、錠剤中1〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは2〜6質量%である。
【0017】
口腔内速崩壊錠は、必要により医薬品製剤の製造に使用可能な添加物を配合することができる。具体的には、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用でき、例えば、滑沢剤としてステアリン酸及びその金属塩類、並びにタルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル等、甘味剤として糖類、糖アルコール類、アスパルテーム、サッカリン及びその塩類、グリチルリチン酸及びその塩類、ステビア、並びにアセスルファムカリウム等、嬌味剤としてクエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸及びフマル酸等、着色剤として三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カラメル、リボフラビン及びアルミニウムレーキ等、香料としてメントール及びオレンジ油等が挙げられる。
【0018】
本発明において、成形される錠剤の形状は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定はされない。例えば、中抜き、多角形及び凹型などの特殊な形状にすることができる。また、錠剤の舌の上での接触面積を増やし、口腔内水分を迅速に錠剤内部へ浸透させ、口腔内速崩壊性を高めるために、錠厚を薄く、錠径を大きくした扁平状の錠剤に成形することもできる。
【0019】
添加成分の混合は、通常の混合法を用いることができ、例えば、V字型混合機などを用いることができる。圧縮成形
については、通常の打錠法を用いることができ、例えば、ロータリー打錠機などを用いることができる。
【0020】
以下に、本発明の実施例、比較例、試験例を挙げて、さらに具体的に本発明を説明する。
【0021】
口腔内速崩壊錠の評価方法
[硬度試験]錠剤硬度計(岡田精工社製)を用いて測定した。試験は5錠で行い、その平均値を示す。
[崩壊試験]崩壊試験機(富山産業社製)を用いて測定した。試験は6錠で行い、その平均値を示す。試験液は水を用い、錠剤が完全に崩壊し溶解するまでの時間を測定した。
【0022】
なお、以下の実施例及び比較例に用いた商品名で示される化合物は、下記の通りである。
1.商品名カープレックス#100(DSLジャパン):含水二酸化ケイ素
2.商品名ペアリトール(ROQUETTE JAPAN):D−マンニトール
3.商品名ポリプラスドンXL−10(ISP):クロスポビドン
4.商品名カープレックス#67(DSLジャパン):含水二酸化ケイ素
5.商品名PH-102(旭化成ケミカルズ):結晶セルロース
【0023】
実施例1
イミダフェナシン10.0g、カープレックス#100(DSLジャパン)10g及び三二酸化鉄(癸巳化成)20gを高速撹拌混合機(大阪ケミカル製、ワンダーブレンダー)にて混合し、イミダフェナシン含有コーティング粒子を得た。さらに、このイミダフェナシン含有コーティング粒子4g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)1595g、ポリプラスドンXL−10(ISP)180g及びカープレックス#67(DSLジャパン)3gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)18gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧1000kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度6.2kg(n=5)を示した。
【0024】
実施例2
イミダフェナシン5.0g、カープレックス#100(DSLジャパン)15g及び三二酸化鉄(癸巳化成)5gを高速撹拌混合機(大阪ケミカル製、ワンダーブレンダー)にて混合し、イミダフェナシン含有コーティング粒子を得た。さらに、このイミダフェナシン含有コーティング粒子5g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)1596g、ポリプラスドンXL−10(ISP)180g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)18gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧800kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.6kg(n=5)、崩壊時間16秒(n=6)を示した。
【0025】
比較例1
イミダフェナシン5.0g及びカープレックス#100(DSLジャパン)20gを高速撹拌混合機(大阪ケミカル製、ワンダーブレンダー)にて混合し、イミダフェナシン含有粒子を得た。さらに、このイミダフェナシン含有粒子5g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)1597g及びポリプラスドンXL−10(ISP)180gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)18gを加え混合後、単発打錠機を用いて打錠圧800kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.2kg、崩壊時間15秒(n=6)を示した。
【0026】
比較例2
イミダフェナシン5.0g、ポリプラスドンXL−10(ISP)85g及び三二酸化鉄(癸巳化成)10gを高速撹拌混合機(大阪ケミカル製、ワンダーブレンダー)にて混合し、イミダフェナシン含有粒子を得た。さらに、このイミダフェナシン含有粒子20g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)1595g及びポリプラスドンXL−10(ISP)163g及びカープレックス#67(DSLジャパン)4gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)18gを加え混合後、単発打錠機を用いて打錠圧800kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.3kgを示した。
【0027】
比較例3
イミダフェナシン5.0g、PH-102(旭化成ケミカルズ)85g及び三二酸化鉄(癸巳化成)10gを高速撹拌混合機(大阪ケミカル製、ワンダーブレンダー)にて混合し、イミダフェナシン含有粒子を得た。さらに、このイミダフェナシン含有粒子20g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)1578g及びポリプラスドンXL−10(ISP)180g及びカープレックス#67(DSLジャパン)4gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)18gを加え混合後、単発打錠機を用いて打錠圧800kgfにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.4kg、崩壊時間13秒(n=6)を示した。
【0028】

試験例1
実施例1、2及び比較例1〜3の製剤について純度試験を実施した。光線照射前後の分解物の生成量の結果を表1に示す。なお,分解物の定量は液体クロマトグラフ法(HPLC法)により評価した。
【0029】
HPLC法
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径5 μm,内径4.6 mm×長さ250mm) (ジーエルサイエンス株式会社 商品名Inertsil ODS-3)
A液:薄めたリン酸(1→200)にジエチルアミンを加え,pHを6.0に調整する。
B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
C液:液体クロマトグラフィー用メタノール
送液:A液,B液及びC液の混合比を変えて濃度勾配制御する。
検出器:UV
測定波長:220 nm
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、実施例1、2の三二酸化鉄を配合した製剤は、比較例1の三二酸化鉄を配合しない製剤に比べ光線照射による分解物の生成量は小さかった。
【0032】
試験例3
実施例1、2及び比較例1〜3の製剤について含量均一性試験を実施した。
含量均一性試験
試験製剤10錠を採取し、イミダフェナシンの含有量を高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)により評価した。主薬の含量(表示量(100%)に対する割合(%))とその平均値を算出し、日本薬局方に記載の計算法に従って標準偏差(下式(1)参照)及び含量均一性の判定値(下式(2)参照)を求めた。
【0033】
【数1】

【0034】
(式中、Sは標準偏差である。nは試験した試料の全個数(10)を示し、Xiは、試験した個々の試料に含まれる主薬の含量(表示量に対する割合(%))を示す。Aは、X1からXnまでの各含量の平均値である)
(数2)
判定値=|100−A|+S×2.2
…(2)
(式中、A及びSは、前記式(1)と同じである)
【0035】
HPLC法
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径3μm、内径4.6 mm×長さ50mm) (ジーエルサイエンス株式会社 商品名Inertsil ODS-3)
移動相:1-オクタンスルホン酸ナトリウム1.08 gを薄めたリン酸(1→1000)に溶かし,1000 mLとする。この液700 mLに液体クロマトグラフィー用アセトニトリル300 mLを加える。
検出器:UV
測定波長:220 nm
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、実施例1、2の帯電防止剤を配合した製剤は、比較例1、2の帯電防止剤を配合しない製剤に比べ判定値が小さく、薬物の含量均一性に優れることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダフェナシンを三二酸化鉄及び帯電防止剤により乾式コーティングした粒子を直接打錠することを特徴とする口腔内崩壊錠。


【公開番号】特開2010−229076(P2010−229076A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78201(P2009−78201)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】