説明

イミド樹脂組成物およびその製造方法、プリプレグ、金属張積層板並びにプリント配線板

【課題】高Tg、高耐熱性、低誘電率および高密着性を有するイミド樹脂組成物、この組成物から得られるプリプレグ、この組成物で樹脂層が形成された金属張積層板およびプリント配線板を提供すること。
【解決手段】(A)ビスアリルナジイミド化合物と、(B)ビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で含有するイミド樹脂組成物、ならびに前記組成物から得られるプリプレグ、前記組成物によって樹脂層が形成された金属張積層板およびプリント配線板の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いガラス転移温度と低誘電率を有し、かつ実質的にハロゲンを含有しないイミド樹脂組成物に関し、特に、プリント配線板等の材料として好適に用いられるイミド樹脂組成物に関する。さらに本発明は、このようなイミド樹脂組成物の製造方法並びにこのイミド樹脂組成物を用いたプリプレグ、金属張積層板およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は信号の大容量化が進展しており、それに対応した電子機器用材料が求められている。また、環境対応の側面からは、ハロゲンフリー化が進んでいる。
【0003】
そのため電子機器に用いられる材料には、高速信号に対応するために低誘電率および低誘電正接を有すること、配線増加による高多層化のために高いガラス転移温度(高Tg)、高耐熱性、および強い密着性を有すること、そして、環境対応のためにハロゲンフリーであることが求められている。
【0004】
一方、イミド樹脂組成物は、その優れた耐熱性、および高いガラス転移温度等から、プリント配線板材料として広く用いられている。
【0005】
これまでに、ポリイミドとマレイミド化合物とアリル基又はビニルベンジル基を有する化合物とを含有するイミド樹脂組成物が、特に高い耐熱性を示すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−229274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記イミド樹脂組成物は、イミド化合物とその他の化合物をラジカル反応もしくはマイケル付加反応させることによって得られたものであり、誘電率が高い、密着力が低い、吸湿率が高いという問題があるため、電子部品用接着剤として用いられることは報告されているものの、積層板などの用途には適していないとされていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記欠点を改善し、高Tg、高耐熱性、低誘電率および高密着性を有する基材として用いられ得るイミド樹脂組成物、この組成物から得られるプリプレグ、この組成物で樹脂層が形成された金属張積層板およびプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の手段により前記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する:
(A)ビスアリルナジイミド化合物と、(B)ビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で含有するイミド樹脂組成物。
【0011】
さらに(A)のビスアリルナジイミド化合物が、下記化学式(I)で表される化合物である、上記記載のイミド樹脂組成物。
【0012】
【化1】

(I)
(式中、Rは下記化学式(II)または(III)で表される官能基である)
【0013】
【化2】


(II)
【0014】
【化3】


(III)
(B)のビニル化合物の数平均分子量が600〜3000である、上記記載のイミド樹脂組成物。
【0015】
(B)のビニル化合物の主骨格がフェニレンエーテルである、上記記載のイミド樹脂組成物。
【0016】
さらにマレイミド化合物を含む、上記記載のイミド樹脂組成物。
【0017】
さらに無機充填材含む、上記記載のイミド樹脂組成物。
【0018】
上記記載のイミド樹脂組成物を繊維質基材に含浸させて得られるプリプレグ。
【0019】
上記記載のプリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られる金属張積層板。
【0020】
上記記載の金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより回路形成して得られるプリント配線板。
【0021】
ビスアリルナジイミド化合物とビニル化合物とを、ディールス・アルダー反応により反応させることを特徴とする、イミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高Tg、高耐熱性、低誘電率および高密着性を有し、かつハロゲンフリーの基材として用いられ得るイミド樹脂組成物を得ることができる。また、前記組成物から得られるプリプレグ、ならびに前記組成物によって樹脂層が形成された金属張積層板およびプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(イミド樹脂組成物)
以下に本発明を実施するための一実施形態を具体的に説明する。
【0024】
本実施形態に係るイミド樹脂組成物は、(A)ビスアリルナジイミド化合物と、(B)ビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で含有することを特徴とする。
【0025】
まず、(A)「ビスアリルナジイミド化合物」とは、例えば、下記化学式(I)で表される化合物である。
【0026】
【化4】

(I)
(式中、Rは下記化学式(II)または(III)で表される官能基である)
【0027】
【化5】

(II)
【0028】
【化6】

(III)
これらは公知の化合物であり、通常知られている製造方法によって製造することができる。あるいは、市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、丸善石油化学株式会社製のBANI−M、BANI−Xなどを用いることができる。
【0029】
イミド樹脂組成物中の前記(A)成分の含有割合としては、イミド樹脂組成物全量中に通常5〜50質量%であり、さらには10〜40質量%であることがより好ましい。前記(A)成分の含有割合が5質量%以上であれば、高Tgや高耐熱性が確実に得られ、50質量%未満であれば、吸水率が高くなったり、密着力が低下したりという誘電特性の悪化が起こりにくい。
【0030】
次に、本実施形態において(B)成分として用いることができるビニル化合物としては、ビニル基を有するビニル化合物であれば特に限定はされないが、例えば、末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0031】
また、本実施形態においては、さらに数平均分子量(Mn)が600〜3000の範囲にあるビニル化合物を用いることが好ましい。このような範囲の数平均分子量を有するビニル化合物を含むイミド樹脂化合物を用いることにより、金属張積層板形成時に必要とされる溶剤溶解性および多層成形時に必要とされる樹脂流動性を確実に確保することができ、さらに密着性もより向上させることができる。
【0032】
特に好ましくは、上述したようなビニル化合物として、ポリフェニレンエーテルを主骨格とするビニル化合物を用いることが望ましい。ポリフェニレンエーテルを主骨格とするビニル化合物を用いることにより、より低い誘電率、高い難燃性および高耐熱性を達成することができる。
【0033】
さらに、本実施形態において好ましく用いられるポリフェニレンエーテル骨格とは下記化学式(IV)で表されるような構造である。
【0034】
【化7】

(IV)
(式中、mおよびnは0〜100の整数を表す)
このようなポリフェニレンエーテル構造は、例えば、米国特許7541421号に記載されているような方法で製造することができる。
【0035】
本実施形態において用いられ得るポリフェニレンエーテルを主骨格とするビニル化合物の例示としては、例えば、前記化学式(IV)で表されるようなポリフェニレンエーテル構造の両末端をビニル変性したビニル化合物等が挙げられる。ビニル変性する手段としては、例えば、ビニルベンジル化させること等が挙げられる。このようなビニル変性ポリフェニレンエーテルは、例えば、特開2004−339328号に記載されているような方法で製造することができる。
【0036】
イミド樹脂組成物中の前記(B)成分の含有割合としては、イミド樹脂組成物中のビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基の配合比率が1:0.3〜0.7となるような含有量であれば特に限定されないが、通常、イミド樹脂組成物全量中に50〜95質量%であり、さらには60〜90質量%であることがより好ましい。前記(B)成分の含有割合が50質量%以上であれば、吸水率が高くなったり、密着力が低下したり、誘電特性が悪化するという問題は起こりにくくなり、95質量%以下であれば高Tgや高耐熱性が確実に得られる。
【0037】
上述したように、本実施形態におけるイミド樹脂組成物中のビニル基とビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基との配合比率は1:0.3〜0.7である。さらには、前記配合比率は、1:0.4〜0.6であることが好ましく、特に、1:0.45〜0.55であることがより好ましい。
【0038】
ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基の配合比率が、ビニル基に対して、0.3〜0.7の範囲であれば、イミド樹脂組成物の硬化速度が最適となるため、金属張積層板の外観が優れたものとなる。
【0039】
さらに、前記(A)成分および前記(B)成分に加えて、本実施形態に係るイミド樹脂組成物は、マレイミド化合物を含んでいてもよい。マレイミド化合物を含むことにより、樹脂組成物はより高いTgを有するようになる。
【0040】
マレイミド化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、N,N′−m−トルイレンビスマレイミド、N,N′−4,4′−ビフェニレンビスマレイミド、N,N′−(3,3−ジメチルフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N′−4,4′−ジメチルフェニルプロパンビスマレイミド、N,N′−4,4′−ジメチルフェニルエーテルビスマレイミド、N,N′−3,3′−ジメチルフェニルスルホンビスマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(4−アセチルフェニル)マレイミド、N−(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−[p−(2−ベンズイミダゾリル)フェニル]マレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−(1,2−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(1,4−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビスマレイミド等などを用いることができる。
【0041】
本実施形態に係るイミド樹脂化合物がマレイミド化合物を含む場合、その含有割合としては、イミド樹脂組成物全量中に通常5〜50質量%であり、さらには10〜30質量%であることがより好ましい。前記(A)成分の含有割合が5質量%以上であれば、Tgアップの効果が確実に得られ、50質量%以下であれば吸水率が高くなったり、密着力が低下したり、誘電特性が悪化するという問題も起こりにくい。
【0042】
本実施形態に係るイミド樹脂組成物は、さらに、無機充填剤を含んでいてもよい。用いることができる無機充填材としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、アルミナ、タルク、酸化チタン、マイ力、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ベーマイト等などが挙げられる。なかでも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカなどを無機充填材として含むことが好ましく、このような無機充填材を含有することにより、イミド樹脂組成物の難燃性がさらに高くなる。
【0043】
イミド樹脂化合物が上述したような無機充填材を含む場合、その含有割合としては、イミド樹脂組成物全量中に通常5〜80質量%であり、さらには10〜50質量%であることがより好ましい。前記(A)成分の含有割合が5質量%以上であれば、フィラーを添加した効果が確実に得られ、80質量%以下であれば樹脂の流動性が小さくなったり、密着力が低くなるといった問題も起こりにくい。
【0044】
さらに、本実施形態に係るイミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の添加剤、例えば、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、難燃助剤、レベリング剤、着色剤等を必要に応じて含有してもよい。
【0045】
(イミド樹脂組成物の製造方法)
本発明のイミド樹脂組成物は、通常、ワニス状に調製されて用いられる。このようなワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0046】
まず、上述したイミド樹脂組成物の(A)ビスアリルナジイミド化合物と、(B)ビニル化合物とを溶剤に溶かして均一溶液を作製する。上述したようにビニル基:アリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で配合することで、ディールス・アルダー反応が起こり、本発明のイミド樹脂組成物がワニス状で得られる。配合がこの最適な配合比率から外れ、前記(A)成分および前記(B)成分のいずれかが不足したり、過剰になったりすると、ディールス・アルダー反応が完全に起こらず、未反応で残る成分がでてしまうため、最終的に得られる樹脂組成物において本発明に係る優れた特性を得ることができない可能性がある。なお、溶解する際は、加温して溶解しても良いが、高温で長時間混合した場合、(A)ビスアリルナジイミド化合物と(B)ビニル化合物が反応することで増粘やゲル化が起こるため注意が必要である。
【0047】
次いで、上述の内容で混合したワニスに無機充填剤などを添加して、ボールミル、ビーズミル、ミキサー、ブレンダー等を用いて均一に分散・混合し、ワニス状に調製することができる。
【0048】
前記有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、セロソルブ類等を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
また溶剤に溶解させる時の温度は、20〜100℃程度である。
【0050】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、上述のワニス状イミド樹脂組成物を繊維質基材に含浸して得られる。
【0051】
具体的には、例えば、まず、前記ワニス状樹脂中に繊維質基材を浸漬するなどして、ワニス状樹脂を繊維質基材に含浸させる。含浸は浸漬(ディッピング)、塗布等によって行われる。含浸は必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。またこの際に組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成および樹脂量に調整することも可能である。
【0052】
前記繊維質基材としては、特に限定されるものではないが、好ましくはシート状繊維基材が用いられ、例えば、ガラス等の無機質繊維の織布(クロス)または不織布や、アラミドクロス、ポリエステルクロス、および紙等を用いることができる。また、基材の厚みとしては、0.01〜0.2mmのものを一般的に使用できる。
【0053】
ワニス状イミド樹脂組成物が含浸された基材を、その後、所望の加熱条件(例えば、100〜180℃で3〜10分間)で加熱乾燥し、溶剤を除去するとともに樹脂成分を半硬化(Bステージ化)させて、プリプレグを得る。このときプリプレグ中の樹脂量は、プリプレグ全量に対して30〜80質量%であることが好ましい。
【0054】
(金属張積層板)
上述のようにして得られたプリプレグを用いて金属張積層板を作成する方法としては、前記プリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面または片面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張りまたは片面金属箔張りの積層体を作製する方法が挙げられる。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みやプリプレグの樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を150〜250℃、圧力を5〜50kg/cm、時間を30〜240分間とすることができる。今回評価した積層板の厚みは0.4mmであった。
【0055】
(多層プリント配線板)
上述のようにして作製された積層体の表面の金属箔をエッチング加工等して回路形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を得ることができる。
【0056】
このようにして得られるプリント配線板は、低誘電率であり、高Tgで耐熱性に優れており、さらにハロゲンフリーである。
【0057】
以下に、本発明について、実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
はじめに、本実施例で用いた原材料をまとめて示す。
〈ビスアリルジイミド化合物〉
・成分(A):丸善石油化学(株)製、「BANI−M」(当量:285)
・成分(A):丸善石油化学(株)製、「BANI−X」(当量:254)
〈ビニル化合物〉
・成分(B)(末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル1):(数平均分子量:600、当量:300)、後述の方法で製造したもの
・成分(B)(末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル2):(数平均分子量:1500、当量:750)、後述の方法で製造したもの
・成分(B)(末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル3):(数平均分子量:2800、当量:1400)、後述の方法で製造したもの
・成分(B)(末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル4):(数平均分子量:4500、当量:2250)、後述の方法で製造したもの
・成分(B)(ポリブタジエン):出光石油化学(株)製、「R−45HT」(数平均分子量:2800、当量:560)
〈マレイミド化合物〉
・ビスマレイミド(4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド):大和化学工業(株)製、「BMI−1000」(当量:179)
・ビスマレイミド(フェニルメタンマレイミド):大和化学工業(株)製、「BMI−2300」(当量:180)
〈無機充填材〉
・水酸化アルミニウム:昭和工業(株)製「CL303」
(ビニル化合物の調製)
上記成分(B)の末端ビニル変性ポリフェニレンエーテル1〜3については、米国特許7541421号および特開2004−339328号公報記載の方法に準じて製造した。
【0059】
具体的には、まずモノマー溶液を作製する。モノマー溶液は、所定量のトルエンおよび2,6−キシレノールを反応容器へ加えて60℃に加熱し、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以降、TMBPAと呼ぶ)を加え、そして全てのTMBPAが溶解するまで攪拌することによって作製した。モノマー溶液を作製した後、反応容器を窒素でパージした。次に、触媒成分ジブチルアミン(以降、DBAと呼ぶ)、ジメチルブチルアミン(以降、DMBAと呼ぶ)、N,N´−ジブチルエチレンジアミン(以降、DBEDAと呼ぶ)とジデシルジメチルアンモニウムクロリド(以降、PTAと呼ぶ)のトジアミン混合トルエン溶液、および酸化銅(以降、CuOと呼ぶ)と臭化水素の48%水溶液(以降、HBrと呼ぶ)の混合物を加えた。反応時間ゼロで、酸素の流入を開始し、ヘッドスペース酸素濃度が確実に13%を越えないようにした。65分後、反応混合物を80分で49℃となるように加熱した。反応終了後、酸素流を減少させて、ヘッドスペース酸素濃度を20%未満に維持した。酸素流が減少して約20〜30分後、反応混合物の試料を取り出した。反応温度を60℃に上げ、反応混合物は銅の除去と熱平衡を行うための別の容器へ送った。ニトリロトリ酢酸三ナトリウム塩(以降、Na3NTAと呼ぶ)を有する40%水溶液を攪拌しながら反応混合物へ加えた。反応混合物の温度は74℃に上昇した。2時間後、試料は分離した。分離したポリフェニレンエーテル化合物含有相をドラムへ移した。その後、ポリフェニレンエーテル化合物は、溶媒蒸発およびオーブン乾燥によって単離した。別表(表1)に配合量を示す。
【0060】
【表1】

次に、ポリフェニレンエーテル化合物のビニルベンジル化変性について説明する。温度調節器、撹拌装置、冷却設備及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコにポリフェニレンエーテル化合物、クロロメチルスチレン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トルエンを所定量(表2参照)仕込み、撹拌溶解し、液温を75℃にし、水酸化ナトリウム水溶液を20分間で滴下し、さらに75℃で4時間撹拌を続けた。次に、10%塩酸水溶液でフラスコ内容物を中和した後、多量のメタノールを追加し、ビニルベンジル化した変性ポリフェニレンエーテル化合物を再沈殿後、ろ過した。ろ過物をメタノール80と水20の比率の混合液で3回洗浄した後、減圧下80℃/3時間処理することで、溶剤や水分を除去したビニルベンジル化した変性ポリフェニレンエーテル化合物を取り出した。
【0061】
【表2】

(実施例1〜11)
表3に示した配合組成(質量部)をトルエンに溶解させディールス・アルダー反応により反応させて60%トルエン溶液を作製した。
【0062】
そして、上記の樹脂ワニス中にガラスクロス(日東紡社製の2116タイプ)を浸漬して、樹脂ワニスをガラスクロスに含浸させた後、120℃で3〜8分間加熱乾燥し、溶剤を除去するとともに樹脂成分を半硬化(Bステージ化)させることによってプリプレグを作製した。このときプリプレグ中の樹脂量は、プリプレグ全量に対して40〜45質量%とした。なお、表中のアリル基/ビニル基の値は、樹脂中全体における配合比率を示す(以下の表においても同じ)。
【0063】
さらに、製造したプリプレグを4枚重ね合わせ、その両側に厚さ18μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製の3EC−III)を配置して被圧体とし、温度1200℃、圧力30kg/cmの条件で240分プレス成形して両面に銅箔が接着された、厚み0.4mmの銅張り積層板(評価基板)を得た。
【0064】
【表3】

(比較例1〜4)
表4に示した、配合組成(重量部)に加え、さらにトルエンを加え、固形分が50質量%のイミド樹脂ワニスを調整した。
【0065】
得られた樹脂ワニスを用いて、実施例1と同様の方法でプリプレグおよび銅張積層板(評価基板)を得た。
【0066】
【表4】

(評価)
上記のようにして得られた銅張積層板を評価用サンプルとして用いて、以下に示す方法により、誘電率、誘電正接、Tg、T288、PCTはんだ耐熱性、難燃性、銅箔ピール強度および層間ピール強度の評価を行った。これらの結果を表5および表6に示す。
【0067】
[誘電率および誘電正接]
IPC TM650の規格に準じて、1GHzにおける銅張積層板の誘電率及び誘電正接を求めた。
【0068】
[Tg]
DMA測定方法により、セイコー電子工業製粘弾性スペクトロメータ「DMA100」を用いてtanδピーク温度のTg(ガラス転移温度)を測定した。
【0069】
[耐熱性(T288)]
IPC TM650に準拠して、銅張積層板の耐熱性(T288)を評価した。
【0070】
[PCTはんだ耐熱]
銅張り積層板の表面の銅箔を除去した後、長さ50mm、幅50mmのテストピースを切り出した。このテストピースを121℃、2気圧、湿度100%のプレッシャークッカーテスト(PCT)機に4時間および6時間投入した。投入後のテストピースを260℃のはんだ槽中に20秒間浸漬し、ミーズリングやフクレがなければOK(異常無)とした。
【0071】
[難燃性(UL規格)]
銅張積層板の表面の銅箔を除去した後、長さ125mm、幅12.5mmのテストピースを切り出した。そして、このテストピースについてUnderwriters Laboratoriesの”Test for Flammability of Plastic Materials−UL 94”に準じて行い、評価した。
【0072】
[銅箔ピール強度]
銅張積層板の表面の銅箔の引きはがし強さ(銅箔ピール強度)を、JIS C 6481に準拠して測定した。このとき、幅20mm、長さ100mmの試験片上に幅10mm、長さ100mmのパターンを形成し、銅箔を引っ張り試験器により50mm/分の速度で引きはがし、その時の引きはがし強さを測定した。
【0073】
[層間ピール強度]
銅張り積層板の1枚目と2枚目のガラスクロス間の引き剥がし強さをJIS C 6481に準拠して測定した。幅10mm、長さ100mmのパターンを形成し、引っ張り試験機により50mm/分の速度で引き剥がし、その時の引き剥がし強さを測定した。
【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

(結果)
表5の結果より、本発明に係る実施例1〜11の積層体は、何れも誘電率が低く、優れたPCTはんだ耐熱性、層間密着性を示したことがわかる。
【0076】
さらに、実施例7および10とその他の実施例との結果を比較すると、特に主骨格がフェニレンエーテルであるビニル化合物を用いることにより、主骨格がフェニレンエーテルでないビニル化合物よりも耐熱性および難燃性がさらに優れていること、並びに前者の方がより高いTgを有していることがわかる。
【0077】
また、マレイミド化合物をさらに含有させた実施例8および9では、非常に高いTgが得られていることがわかる。
【0078】
一方、表6に示すように、ビニル化合物を含有しない比較例1では、誘電率が高くなり、またPCTはんだ耐熱性でフクレが生じていた。また、層間密着性も劣っていた。
【0079】
また、分子量が3000を超えるビニル化合物を用いた比較例2では、Tg、耐熱性および密着性が著しく低下し、PCTはんだ耐熱性でフクレが生じていた。
【0080】
さらに、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となっていないために、ディールス・アルダー反応が完全には起こっていない比較例3および4では、実施例に係る樹脂組成物のような特性は得られず、耐熱性、難燃性、密着性が著しく劣っていた。
【0081】
これらの結果により、本発明に係るイミド樹脂組成物を用いることにより、低誘電率、高Tg、高耐熱性、高難燃性、高密着性のプリプレグ、金属張積層板を得ることができることが示された。
【0082】
以上、説明したように、本発明のイミド樹脂組成物は、(A)ビスアリルナジイミド化合物と、(B)ビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で含有することを特徴とし、前記イミド樹脂組成物を使用することにより、低誘電率、高Tg、高耐熱性、高難燃性及び高密着性を有するハロゲンフリーの基材を得ることができる。
【0083】
また、(A)のビスアリルナジイミド化合物としては、下記化学式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0084】
【化8】

(I)
(式中、Rは下記化学式(II)または(III)で表される官能基である)
【0085】
【化9】


(II)
【0086】
【化10】


(III)
このような構造を有するビスアリルナジイミド化合物(A)を用いる場合には、低誘電率、高Tg、高耐熱性、高難燃性及び高密着性を有するハロゲンフリーの基材となるイミド樹脂組成物をより確実に得ることができる。
【0087】
また、(B)のビニル化合物の数平均分子量は600〜3000であることが好ましい。このような範囲の数平均分子量を有するビニル化合物を用いることにより、金属張積層板形成時に必要とされる溶剤溶解性および多層成形時に必要とされる樹脂流動性を確実に確保することができ、さらに密着性をもより向上させることができる。
【0088】
さらには、(B)のビニル化合物の主骨格がフェニレンエーテルであることがより好ましい。それにより、低誘電率、高Tg、高耐熱性、高難燃性及び高密着性を有するハロゲンフリーの基材となるイミド樹脂組成物をより確実に得ることができる。
【0089】
さらに本発明のイミド樹脂組成物は、マレイミド化合物を含むことが好ましい。これにより、より高いTgを有する基材を得ることができる。
【0090】
また、本発明のイミド樹脂組成物は、さらに無機充填材含むことが好ましい。これにより、より高い難燃性を有する基材を得ることができる。
【0091】
また、本発明のプリプレグは前記イミド樹脂組成物を繊維質基材に含浸および乾燥させて得られることを特徴とするものである。このようなプリプレグを用いることにより、低誘電率、高Tg、高耐熱性、高難燃性及び高密着性を有するハロゲンフリーの金属張積層板およびプリント配線板を得ることができる。
【0092】
本発明の金属張積層板は前記プリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られることを特徴とする。
【0093】
また、本発明のプリント配線板は、前記金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより回路形成して得られたことを特徴とする。
【0094】
また、本発明のイミド樹脂組成物の製造方法は、ビスアリルナジイミド化合物とビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で配合し、ディールス・アルダー反応により反応させることを特徴とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスアリルナジイミド化合物と、
(B)ビニル化合物とを、
ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で含有するイミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)のビスアリルナジイミド化合物が、下記化学式(I)で表される化合物である、請求項1に記載のイミド樹脂組成物。
【化1】

(I)
(式中、Rは下記化学式(II)または(III)で表される官能基である)
【化2】


(II)
【化3】

(III)
【請求項3】
(B)のビニル化合物の数平均分子量が600〜3000である、請求項1又は2に記載のイミド樹脂組成物。
【請求項4】
(B)のビニル化合物の主骨格がフェニレンエーテルである、請求項1〜3のいずれかに記載のイミド樹脂組成物。
【請求項5】
さらにマレイミド化合物を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のイミド樹脂組成物。
【請求項6】
さらに無機充填材含む、請求項1〜5のいずれかに記載のイミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のイミド樹脂組成物を繊維質基材に含浸させて得られるプリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグに金属箔を積層して、加熱加圧成形して得られる金属張積層板。
【請求項9】
請求項8に記載された金属張積層板の表面の金属箔を部分的に除去することにより回路形成して得られるプリント配線板。
【請求項10】
ビスアリルナジイミド化合物とビニル化合物とを、ビニル基:ビスアリルナジイミド化合物由来のアリル基=1:0.3〜0.7となる配合比率で配合し、ディールス・アルダー反応により反応させることを特徴とする、イミド樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2012−197336(P2012−197336A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61068(P2011−61068)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】