説明

イムノクロマトグラフィー用検出装置及びその検出方法

【課題】イムノクロマトグラフィーにおいて検出精度の十分な確保とデバイス構造の簡素化という通常相容れがたい項目について、これらを同時に満足して実現するイムノクロマトグラフィー用検出装置及びその検出方法を提供する。
【解決手段】筐体中に、少なくとも1つずつの参照領域と試験領域とをラテラルフロー方向に順次配置した平面試験片を格納する空間と、該格納された平面試験片の試験領域及び参照領域に光を照射するための光照射源と、前記試験領域及び参照領域からの光を集光する集光部と、前記集光された光を検出するための検出部を有し、前記平面試験片におけるラテラルフロー方向に実質的に沿って、前記平面試験片の参照領域もしくは前記試験領域のいずれかの方向に偏倚して前記光照射源を配置したイムノクロマトグラフィー用検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー用の検出装置及びその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の抗原物質などの微量物質を検出する手法としてラテラルフロー型のイムノクロマトグラフィーによる検査法がある。この方法では、検体液に含まれる被検物質を標識粒子に捕捉させ、多孔質支持体を毛細管現象により移動させる。そして、多孔質支持体に例えばライン状に固定化された捕捉物質と接触させることによって、前記被検物質を濃縮し、捕捉物質が固定化されたラインを発色させる。この発色によって被検物質の有無を判定することができる。かかるイムノクロマトグラフィー法の特徴として下記の3点が挙げられる。
(1)判定までに要する時間が短く迅速な検査が可能である。
(2)検体を滴下するだけで測定でき操作が簡便である。
(3)特別な検出装置を必要とせず判定が容易である。
これらの特徴を利用して、イムノクロマト法は妊娠検査薬やインフルエンザ検査薬に用いられており、新たなPOCT(Point Of Care Testing)の手法として利用されている。また、食品検査においても、例えば食物アレルゲンの検査試薬等として広く利用され益々注目を集めている。
【0003】
ここで、POCTとは、患者にできる限り近い場所で診断するための検査をいう。従来は採取した血液、尿、患部組織などの検体は、病院の中央検査室や専門の検査センターに送られデータを出すので、診断の確定までに時間がかかっていた。POCTによれば、瞬時に提供される検査情報をもとに迅速かつ的確な治療が可能となることから、病院での緊急検査や手術中の検査が可能になるので、とりわけ医療現場でのニーズが高い。
【0004】
本出願人は、上記のような要求に鑑み、メンブレンに適用する試薬について研究開発を行い、蛍光シリカ微粒子を用いる技術を開発した(特許文献1等参照)。これにより、従来の生体物質や生体細胞、あるいは金コロイド粒子を試薬に用いたものと比べ、安価かつ格段に安定した測定及び検出を可能とした。また、検出感度の向上や定量化といった要望にもより的確に応えることができ、イムノクロマトグラフィーの利用領域の拡大に大いに資するものである。
【0005】
一方、イムノクロマトグラフィーにおいて、上記検体の検出装置については、いまだ十分な開発が進められているとは言いがたい。通常、標的物質の有無の確認は、参照領域の色等の変化に対し、色材等と複合化した被検物質を補足した試験領域の色等の変化を対比して行われる。この検出測定には、これまで金コロイドなどの検出材料を用いて目視により行うことや(特許文献2)、かなり複雑な走査機構とPDアレイを組み合わせたデバイスを採用して自動検出を行うことが提案されてきた(特許文献3)。
【0006】
これに対し、本出願人は、参照領域と試験領域と背景領域とにそれぞれ対応して3つの蛍光検出レンズを適用したイムノクロマトグラフィー定量検出装置を発明した。その結果、シンプルな構造であるため比較的安価で取り扱いやすい装置を提供し、しかも精度の高い定量測定を可能にした(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/018566号パンフレット
【特許文献2】特開2007−526443号公報
【特許文献3】特開2006−208386号公報
【特許文献4】特開2010−197248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上記特許文献4に係る定量検出装置に対し、さらにシンプルな構造で取り扱いやすく、安価な装置を実現すべく研究開発を行った。とくにデバイスの取り扱い性と価格は重要であり、広く医療現場において普及し、さまざまな治療や診断に適用が拡大されるには、その大幅な改善が望まれる。一方、イムノクロマトグラフィーにおける検出精度を徒に低減することはできない。例えば、各種の治療や診断において行われた検査において「偽陰性」とされると、その患者や周囲への影響が小さくない。標的とされた抗原等の見落としのない検出・測定が不可欠である。
【0009】
そこで本発明は、イムノクロマトグラフィーにおいて検出精度の十分な確保とデバイス構造の簡素化という通常相容れがたい項目について、これらを同時に満足して実現するイムノクロマトグラフィー用検出装置及びその検出方法の提供を目的とする。さらに本発明は、取り扱い性に優れ、医療現場や研究分野において広く普及するのに十分に安価に提供することができるイムノクロマトグラフィー用検出装置及びその検出方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下の手段によって解決された。
(1)ラテラルフロー型イムノクロマトグラフィーに用いられる検出装置であって、
筐体中に、少なくとも1つずつの参照領域と試験領域とをラテラルフロー方向に順次配置した平面試験片を格納する空間と、該格納された平面試験片の試験領域及び参照領域に光を照射するための光照射源と、前記試験領域及び参照領域からの光を集光する集光部と、前記集光された光を検出するための検出部を有し、
前記平面試験片におけるラテラルフロー方向に実質的に沿って、前記平面試験片の参照領域もしくは前記試験領域の前後いずれかの方向に偏倚して前記光照射源を配置したことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(2)前記拡散光が入射する光の経路と平面試験片とが前記参照領域でなす参照領域入射角θrと、前記光の経路と前記試験領域とでなす試験領域入射角θtとについて、θt>θrが成り立ち、
標識物質として蛍光物質を適用し、前記拡散光の照射を受け、少なくとも試験領域において前記蛍光物質から発せられる蛍光を集光して検出することを特徴とする(1)に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(3)前記試験領域側から光を照射するように前記光源を配置したことを特徴とする(1)又は(2)に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(4)参照領域に存在する蛍光物質の量をQrとしたときに、参照領域から発せられる蛍光の強度に比例する成分であるQr×sinθr、試験領域に存在する蛍光物質の量をQtとしたときに、試験領域から発せられる蛍光の強度に比例する成分であるQt×sinθtにおいて、(Qr×sinθr)/(Qt×sinθt)<200が成立することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(5)前記平面試験片と集光レンズとの間に迷光をカットするカットフィルタを配置したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(6)前記ラテラルフロー型イムノクロマト法用の平面試験片を挿入するための挿入開口部があることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(7)前記集光された光を反射させ検出部に向け光の経路を変える反射鏡を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(8)前記筐体の内側が暗色にされたことを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(9)前記試験片において試験領域ないし参照領域について実質的に垂線をなす位置に前記集光レンズを配置したことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(10)前記集光レンズにより集光した光を補足する検出器を配設したことを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(11)前記試験領域及び参照領域が複数ある場合に、いずれの参照領域入射角θrと試験領域入射角θtとにおいても、θt>θrの関係が成り立つことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(12)前記参照領域入射角θrと前記試験領域入射角θtとについて、θt<θrが成り立つことを特徴とする(1)及び(2)〜(10)のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
(13)ラテラルフロー型イムノクロマトグラフィーに用いる平面試験片中の試験領域及び参照領域に拡散光を照射する過程と、前記試験領域及び参照領域から発せられる光を集光する過程とを有する検出方法であって、前記平面試験片のラテラルフロー方向に実質的に沿って、前記試験領域及び参照領域の前後いずれかの方向に偏倚した位置から前記拡散光を照射することを特徴とする検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のイムノクロマトグラフィー用検出装置及びその検出方法によれば、検出精度の十分な確保とデバイス構造の簡素化という通常相容れがたい項目について、これらを同時に満足して実現することができる。さらに、本発明のイムノクロマトグラフィー用検出装置は、高度な知識や技量を必要とせずに取り扱うことができ、十分に安価に設定して提供することができるため、医療現場や研究分野において検出精度の良いイムノクロマトグラフィーの本格的な普及に大いに貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態におけるイムノクロマトグラフィー用検出装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に適用することができるイムノクロマトグラフィー用長尺試験体の一実施形態を模式的に示す分解斜視図である。
【図3】図1に示したイムノクロマトグラフィー用検出装置の内部構造を模式的に示す側面図(a)及び平面図(b)である。
【図3−1】平面視における光源から発せられる拡散光及びその中心の軸を説明するための平面図である。
【図3−2】側面視における光源から発せられる拡散光及び各入射角を説明するための側面図である。
【図4】本発明の一実施形態における拡散光の試験片への入射状態を説明するための図面である。
【図5】本発明の別の実施形態におけるイムノクロマトグラフィー用検出装置を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のイムノクロマトグラフィー用検出装置は、筐体中に、イムノクロマトグラフィー用平面試験片を格納する空間と、該試験片の試験領域及び参照領域に光を照射する光照射源と、前記平面試験片中の試験領域から発せられる光を集光するための集光部と、該集光された光を検出する検出部とを有し、その光照射源が特定の位置に配置されている。以下、本発明の好ましい実施形態を示した添付の図面に基づき詳細に説明する。
【0014】
(検出装置)
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)におけるイムノクロマトグラフィー用検出装置を模式的に示す斜視図である。本装置の全体的な形状は、筐体1で構成されており、図示したものは直方体とされている。そして、その上面に観察者eが目視観察するための検出部となる目視開口部11と後述する長尺試験体2を挿入する挿入開口部12とを有する。ただし、この形状や寸法は特に限定されず、通常のイムノクロマトグラフィー用の試験片の寸法との関係では、手掌で握れるあるいは両手で持ち運べる程度のサイズのものが取り扱い性の点で好ましい。形状もそれに合わせて適宜デザインすることができ、緩やかな曲線で全体を構成してもよい。また、長尺試験体2の突出する部分が装置の輪郭内に収まるよう、この部分の筐体輪郭を内側に切欠した形状のものとしてもよい。
なお、上記では目視で確認をするための目視開口部11としたが、目視開口部11の代わりにカメラなどで観察するための画像の検出器であってもよい。また、目視開口部11は、当該部分において目視で確認をすることもあるし、カメラなどで観察してもよい。すなわち、本発明において「検出部」とは目視開口部、検出器、カメラ等による観察開口部等の意味を包含する。
【0015】
図1に示した装置では、長尺試験体2を下方に配置し、光源3及び集光部としての集光レンズ5を上方に位置する形態としたが、これに限定されない。例えば、試験体2を上方に挿入するようにして、下方から光を照射し、下方で集光するようにしてもよい。この場合には、目視開口部11が底面側に来てしまうため、後述する第2実施形態(図5)のように、ミラーを用いて側面から観察することができる構造とすることが好ましい。なお、イムノクロマトグラフィー用の平面試験片(テストストリップ)80を内包した長尺試験体2は、装置の一部を構成しておらず、必要により都度挿抜することができ、検査試験ごとに交換して用いてもよい。
【0016】
(光照射源)
本実施形態において重要なことは、光源3が、長尺試験体2に内包される平面試験片80(図2参照)のラテラルフロー方向に実質的に沿って、つまり実質的にその延長線上であり、かつ、蛍光物質のある参照領域n及び試験領域nの後方に偏倚して配置され、前記平面試験片とその垂線との間で傾斜角(θc)をもつ位置に設置されていることである。ここで、所定の方向に「偏倚」するとは、所定の領域を超えてその外側に位置することを言う。本実施形態でいうと、参照領域n及び試験領域nで区画された領域(図3の矢印dで指示された領域)以外の領域にあることを指す。本実施形態においては、上記矢印dで指示された領域よりも偏倚して、後方に光源が配置されている。
なお、光源3が、蛍光物質のある参照領域n及び試験領域nの後方に偏倚して配置されていなくても、光源3からの拡散光が試験片上での照射位置において、当該拡散光の照射源が前記平面試験片の参照領域もしくは前記試験領域の前後いずれかの方向に偏倚している態様でもよい。例えば、参照領域n及び試験領域nに対し偏倚させずに配置して、鏡などの光学系で拡散光が試験片に斜めに照射されるような実施形態としてもよい。この場合、本実施形態に対応させていうと、光源からの光を受けた前記鏡(反射板)が光の照射源となり、参照領域n及び試験領域nに対し後方に偏倚して配置されることとなる。すなわち、本発明において「光照射源」とは、光を所定方向に照射する供給源であればよく、LEDライト等の光源のみならず、光源からの光を受けたり導いたりする反射板、光ファイバー、プリズム、鏡およびこれらを組み合わせたもの等の意味を包含する。なお、光照射源は光を照射すればよく、拡散光を照射するものに限定されない。なお、上記偏倚位置の特定は、典型的には、平面視における拡散の中心の軸(ILc)をもって定義することができる(図3−1参照)。この場合、平面視における拡散の中心の軸(ILc)と、図3における垂直方向の軸hとなす角度が0°よりも大きければ、上記の『偏倚』の関係が成立する。
【0017】
さらに、平面方向(x−y方向)の関係についていうと、ラテラルフロー方向とは、通常、長尺試験体ないし平面試験片の前後方向(x方向)と一致しており、サンプルないし試薬がメンブレンを試験領域に向け移行していく方向である。そして、実質的にその線上とは、ラテラルフロー方向の平面視において検体が移行する中央線c(図3参照)ないしその延長線上、あるいはその左右(y方向)における特定の許容幅内であることを言う。この許容幅は、本発明の効果を奏する範囲内で設定されればよく、典型的には、検体が移行しうるメンブレンの平面視における幅程度である。このとき光源の発光部の一部が上記位置関係にあればよく、光源部品全体としては、上記位置からずれる部分に延出していてもよい。
次に高さ方向(z方向)についてみると、上述のように、光源3は、前記平面試験片とその垂線との間で傾斜角(θc)をもつ位置に設置されている。換言して平面試験片の構成との関係でいうと、前記平面試験片には試験領域nと参照領域nとがあり、その試験領域n側から光を照射するように前記光源が配置されていると言える。この光源は光照射源であればよく、光源に代え、光源からの光を導く反射板、光ファイバー、プリズム、およびこれらを組み合わせたものを適用してもよいことは先に述べたとおりである。なお、図1では上記試験片の試験領域nと参照領域nとを試験体2の表面に丸印を付して示しているが、参照の便宜であり、前記両領域は平面試験片において定義されるものである。イムノクロマトグラフィー用の平面試験片(テストストリップ)については、後で詳細に説明する。
【0018】
上述のような光源の設置位置を採用したことにより、本実施形態によれば、試験領域から発せられる蛍光を見落とさずに、単一光源系で、十分な精度の蛍光検出を可能としている。すなわち、光源から発せられ発散レンズ4を通過した光(拡散光)fは、先にも述べたように、試験領域n側から斜めに傾斜角(θ)をもって照射される。したがって、通常蛍光強度としては相対的に低く不安定になりがちな試験領域n側により強い光が照射される。逆に、蛍光強度が得られやすい参照領域n側には比較的弱い光が照射されることとなる。それにより、試験領域からの蛍光の強度と参照領域からの蛍光の強度とがムラなくバランスよく組み合わされ、観察者にとって見落としの出にくい状態で検出することが可能である。
【0019】
前記励起光源としては、水銀ランプ、ハロゲンランプ又はキセノンランプといった白色ランプのほか、用いる蛍光標識試薬の波長に合わせた波長のLED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)等が挙げられる。励起光源3に用いる機器は特に限定されないが、十分な蛍光強度を得るために、レーザーダイオードを用いることが好ましい。
【0020】
(発散レンズ)
本実施形態においては、上記光源から発せられるレーザー光を発散レンズ4により拡散光とする。これは、図3に示したようにラテラルフロー方向Lに特定の幅をもって配置された参照領域nと試験領域nとを同時により均一に照射するために適用され、その拡散光のラテラルフロー方向の照射幅dは模式的に図示したもののように表される。この拡散光の照射幅dが、試験領域と参照領域との幅dより大きいことが好ましい。発散レンズとしては、典型的には凹レンズ(両凹レンズ)が用いられるが、同様の効果が得られれば、平凹レンズや凹メニスカスレンズ、フレネルレンズ、回折レンズのようなものを用いてもよい。レンズの平面形状も円形のものに限らず、例えば、シリンドリカル凹レンズを適用してもよい。
【0021】
(照射角・照射幅等)
ここで、本実施形態における、照射される拡散光の好ましい光学的特性について説明する。
本実施形態において試験片に入射する光は、図4(a)に示すように、θt>θr(変形例としては、θt<θr)の要件を満たしている。すなわち、試験片に入射される光が、θt≠θrであるために、拡散性を有する光が適用されている。光源から照射される光が元々拡散性を有しているならば、そのまま使用しても良い。また、レーザーのように、コーヒーレントな光で拡散性がない場合でもよいが、その場合は、レーザーとしての光源から放射される光に拡散性を持たせるために、前記のレンズを用い、試験片に入射する光に拡散性を持たせることで実現することができる。本実施形態では両凹レンズを適用した例を示している(図3等参照)。なお、本発明において入射角θt、θc、θrは、常に試験領域ntにおける入射角において鋭角になる方向にみた角度として定義する(図3−2参照)。したがって、図3に示したものでは、いずれの入射角(θt、θc、θr)も図面右側の角度となり、結果として本実施形態ではすべてが鋭角となる。逆に、図面左から光が入射されて、試験領域ntにおける入射角が左側で鋭角となれば、その他の入射角θr,θcも左側の角度で評価する。換言すると、試験領域ntの入射角θtを図示されたもののように右側の鋭角のものとして評価し、一方で、参照領域nrの入射角を左側の対角θr’として評価することはない。
【0022】
本実施形態においては、レンズを介して、光源からの光が試験片に照射されるときに、d>d(図3)を満たしていればレンズの特性は問わないが、θt>θr(若しくはθt<θr)の要件を満たすようにされている。なお、光源からの光がレンズを介して試験片に入射されるとき、必ずしも、焦点が試験片上に存在する必要はない。もっとも、試験片上に焦点が存在する場合は、照射幅は点になるので、照射幅dを所定の大きさにすることはできない(焦点が試験片よりも上側の場合でも下側の場合のいずれの場合も、照射幅dを所定の大きさにすることができる。図4(b)参照)。拡散倍率において、θtとθrの差を大きくしたい場合には、大きく拡散すれば良いし、θtとθrの差を小さくしたい場合には、小さく拡散するようにすれば良い。
【0023】
拡散光の中心入射角θc、試験領域入射角θt、参照領域入射角θrの関係については、図4(a)の関係の通り、本実施形態においては、θt>θc>θrの関係を満たすようにされている。このとき、照射幅dと、θc、θt、θrの関係は正弦定理と余弦定理を使うことにより(Rは、光源から試験片までの距離)、以下のように整理することができる。
【0024】
sinθt=R/(D+R−2DRcosθc)×sinθc・・・式1
sinθr=R/(D+R+2DRcosθc)×sinθc・・・式2
【0025】
上記数式から、照射幅2Dが大きければ大きいほどθt、θrの差を大きくすることができることが分かる。ここで、光源(LS)から、試験領域、参照領域に照射される光強度P(パワー)について、
Pt∝sinθt,Pr∝sinθrが成立している。ここで、蛍光gの強度は、上記照射される光強度に比例すると考えられるから、
gt∝sinθt,gr∝sinθr
となる。このように本発明において拡散光は、先に説明したように、θt≠θrの関係を成立させ、所望の効果を得るために必要となる。なお、図中のNは試験片に対して垂直な方向を示している。
ただし、試験領域に存在する蛍光物質の量と、参照領域に存在する蛍光物質の量が異なる場合 参照領域から発せられる蛍光の強度は、当該強度に比例する成分のQr×sinθr(Qrは参照領域に存在する蛍光物質の量)に対応した蛍光強度となる。
また、試験領域から発せられる蛍光の強度は、当該強度に比例する成分のQt×sinθt(Qtは試験領域に存在する蛍光物質の量)に対応した蛍光強度となる。
この場合、(Qr×sinθr)/(Qt×sinθt)<200が成立する場合には、試験領域における蛍光の強度と、参照領域における蛍光の強度の相違を識別することができる。200以上で、参照領域の蛍光強度が高すぎて、試験領域の蛍光強度が識別することができないためである。
【0026】
上記のように、評価することで、Rは、光源から試験片までの距離Rや、照射幅2Dなどとの関係を直接問題にすることなく、(Qr×sinθr)/(Qt×sinθt)の値のみにて、識別性を評価することができる。
【0027】
(集光部)
本実施形態においては、光源からの光を照射され平面試験片中の蛍光物質から発せられた蛍光を集光するための集光部として集光レンズ5が適用されている。集光レンズは遮蔽枠13の内方に納められており、励起光源3からの迷光から隔離されている。この集光レンズ5は平面試験片2に設置された試験領域(テストライン)nないし参照領域(コントロールライン)nの位置に対応して、平面試験片80の側面視において垂線の位置に設置されている。換言すると、ラテラルフロー方向Lに対して試験領域n及び参照領域n、ないしその中間点を基点とした垂線上にある。
【0028】
なお、本実施形態においては、蛍光物質を用いる例を中心に説明したが、蛍光を集光する形態のみならず、着色イムノクロマトにも利用できる。例えば、黒抜けにより判定してもよく、このような吸光あるいは周辺との相対的な反射光の相違により検出する形態であってもよい。なお、本明細書において「光を集光する」という語は、上記のように蛍光を集光するのみでなく、その他の形態も含む意味に広義に用いる。
【0029】
前記集光部としての集光レンズは典型的には凸レンズ(両凸レンズ)である。しかしながら、上述した凹レンズと同様に、平凸レンズ、メニスカス凸レンズ、フレネルレンズ、回折レンズ、シリンドリカル凸レンズなども適用することが可能である。面形状も円形のものに限らず、例えば、シリンドリカル凹レンズを適用してもよい。さらに蛍光を集光するための集光部には、レンズのみだけでなく、鏡、及び、レンズ、プリズム等の組み合わせといった光学部品を利用したもので、上記の「光を集光する」意味も含め、蛍光を集光する機能を果たすものならばいかなるものでも適用可能である。
蛍光物質から発せられる蛍光は、蛍光物質が存在する箇所を蛍光点とすると、その蛍光点から所定の立体角を持って発散されると考えることができる。すなわち、蛍光物質から発せられる蛍光は、蛍光点から所定の広がりを持って拡散していく。そのため、集光するためのレンズは、レンズに入射した光を焦点に集める特性を有するものが好ましい。このようなレンズとしては、代表的には凸レンズがある。なお、レンズに入射した光を焦点に集める特性を有するレンズを使用した場合は、蛍光の強度を拡大してヒトの目で見ることができるので、感度が向上する。
一方で、集光レンズに凹レンズを使用した場合には、上記の通り、蛍光点から拡散してきた光を一層拡散させ、蛍光の強度を弱める。そのため凹レンズは、蛍光点からの蛍光の強度が強すぎて蛍光点からの蛍光をヒトの目で区別できない場合に、有用になる。
【0030】
(カットフィルタ)
本実施形態の装置10においては、長尺試験体2ないし平面試験片80と集光レンズ5との間に迷光をカットするカットフィルタが介在配置されている。このカットフィルタは誘電体多層膜であることが好ましい。
上述した通り、蛍光gの強度は、上記照射される光強度に比例すると考えられ、
gt∝sinθt,gr∝sinθrとなっている。
ここで、試験領域、参照領域での蛍光体は、蛍光の強度gにおいて入射される光の波長依存性を有しているので、蛍光の強度は、波長λの関数でもある。
光源には、特にレーザー以外の光源では、様々な波長帯の光を含む場合もあるので、蛍光の強度の波長依存性をなくすため、カットフィルタを使用して、蛍光強度の入射波長の依存性を消滅させる必要がある。そのためには、カットフィルタにおいて、様々な波長帯の光を含む光源からの光の中から、所定の波長の光のみを試験片に照射できるようにすればよい。カットフィルタの材料としては、通常この種のフィルタに適用されるものを利用すればよい。
【0031】
(長尺試験体)
本実施形態の装置には、挿入開口部12(図1)が設けられており、そこを介してポジション(α)から(β)に移行するように長尺試験体2を挿入して装着することができる。このとき、ポジション(α)で検体sを滴下し、装置外部で検出準備をしておくことができる。このとき、図示していないが筐体の内部にはレール及びストッパーが設けられており、前記長尺試験体2を所定の位置で止め固定することができる。この長尺試験体2には平面試験片80が内装されており(図2)、これによりラテラルフロー法によるイムノクロマトグラフィーを行うことができる。この方法では、検体液中の標的物質(被検物質)を簡易・迅速に検出できるため、臨床分野、食品分野、環境検査分野等において広く用いることができる。本実施形態の平面試験片(テストストリップ)80は、図2右から、まず、被検物質(標的物質)81を含有する試料(検体)sを添加する部材であるサンプルパッド8aを具備する。次いで、標的物質と特異的に結合する結合性生体分子83が標識体82で標識された標識材料8pが存在するコンジュゲートパッド8bを有する。この標識材料の標識体82には蛍光物質が導入されており、光の照射を受けて蛍光を発するようにされている。さらに、標的物質81と標識材料8pとを含む複合体8qを捕捉するための捕捉性生体分子84が局所的に固定化された試験領域をもつ多孔質支持体からなるメンブレン8cを配する。メンブレン8cにはさらに、試験領域nのさらにフロー方向Lの前方に参照領域nがある。ここに固定された参照用捕捉性生体分子85に標識材料8pが捕捉された結合体によりコントロールラインが形成される。このとき本実施形態においては、参照領域と試験領域からは、同種の蛍光が発せられるようにしている。その後に、検体液をラテラルフロー方向に流すために、メンブレンから検体液を吸い上げる吸収パッド8dが配され、上記の順に連結されて構成されている。再度まとめていうと、平面試験片80は、サンプルパッド8aとコンジュゲートパッド8b、コンジュゲートパッド8bとメンブレン8c、メンブレン8cと吸収パッド8dがそれぞれ部分的に重ね合うように連結された構造となっている。サンプルパッド8aに検体液を滴下すると、順にコンジュゲートパッド8b、メンブレン8c、吸収パッド8dへと検体液が毛細管現象(毛管力)により移動していく。
【0032】
本実施形態においては、上述した平面試験片80が筐体上部2aと筐体下部2bとで挟持内包され、長尺試験体2をなしている。筐体上部2aには、検出開口部21と検体導入開口部22とが設けられている。この検出開口部21を介して、照射光を内部の試験片80に送り、そこで発せられる蛍光を集光し検出・観測することができる。一方、検体導入開口部22を介して検体液sを試験片80に供給し測定試験を行うことができる。
【0033】
・用語の定義
まず用語の定義を確認すると、「標的物質(81)」(かぎ括弧内の丸括弧は図中の符号を意味する。)はラテラルフロー法による検出対象となる分子であり、検体中の被検物質と同義である。「結合性生体分子(83)」は前記標的物質に対する結合能を有する生体分子である。標識物質そのものもしくはこれを有するもので、蛍光を発する等の識別機能を担うものを、ここでは「標識(82)」といい、代表的には後記蛍光シリカ微粒子が挙げられる。この「標識(82)」と前記「結合性生体分子(83)」とが一体化され、「標識材料(8p)」をなしている。一方、試験領域でメンブレンに固定され、「標的物質(81)」を介して標識材料を捕捉するものが「捕捉性生体分子(84)」である。他方、参照領域でメンブレンに固定されたものが「参照用捕捉性生体分子(85)」であり、これに標識材料8pが標的物質81を介さずに捕捉される。以下それぞれの部材について説明する。
【0034】
・検体
本実施形態に適用される検体sとしては、特に制限はないが、ヒトや動物の血液、血漿、血清、リンパ液、尿、唾液、膵液、胃液、喀痰、鼻や咽等の粘膜から採取したぬぐい液等の体液や便等に代表される臨床検体、液体飲料、半固形食品、固形食品等に代表される食品検体、土壌、河川、海水等の自然界からのサンプリング検体、工場内の生産ラインやクリーンルームのふき取り検体、エアーサンプラーによるサンプリング検体等に代表される環境サンプリング検体等が挙げられる。検体は液体であればそのまま用いることもできるし、半固形又は固形物等の場合には、希釈や抽出等の処理を施した後に用いることもできる。
【0035】
・標識体(標識物質)
本実施形態に用いられる標識体82としては、酵素、放射線同位元素、蛍光色素、発光分子、蛍光色素を含むナノ粒子、金コロイド等の金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、着色シリカナノ粒子等が挙げられるが、中でも蛍光色素を含むナノ粒子、金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、着色シリカナノ粒子であることが好ましい。上記の蛍光色素を含むナノ粒子の例としては、蛍光色素を含むシリカナノ粒子(蛍光性シリカナノ粒子)等が挙げられる。上記標識体は通常の方法で調製することができ、例えば、蛍光性シリカナノ粒子は、特開2009−221059号公報に記載の方法を参照して作製することもできる。また、上記標識体として市販品を用いることもできる。
本発明において「ナノ粒子」とはナノスケールの粒子を意味する。ナノスケールの粒子とは、好ましくは粒径10〜500nmの粒子である。この粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した50個の標識粒子の合計の投影面積から複合粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した複合粒子の個数(50個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)として算出することができる。
【0036】
標識体として機能性分子含有シリカナノ粒子を用いる実施形態について説明する。これは、機能性分子とシランカップリング剤とを共存させ、共有結合、イオン結合その他の化学結合又は物理的吸着により機能性分子とシランカップリング剤とが結合した生成物(オルガノシロキサン成分)を得、この生成物と1種又は2種以上のシラン化合物(シロキサン成分)とを縮重合させてシロキサン結合を形成させることにより調製することができる。
前記シラン化合物(シロキサン成分)に特に制限はなく、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、TEOSを好適に用いることができる。
なお、縮重合に用いるシラン化合物としてMPS等のチオール基を有するものを使用することもでき、この場合には、得られる機能性分子含有シリカナノ粒子の表面にはチオール基が存在することになる。したがって、この場合には、後述する機能性分子含有シリカナノ粒子表面へのチオール基の導入操作は必ずしも行う必要はない。
【0037】
機能性分子とシランカップリング剤とを共有結合させる場合には、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する機能性分子と、これらの活性基と反応しうる官能基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基等)を有するシランカップリング剤を用いることができる。
【0038】
NHSエステル基を有する機能性分子の具体例として、例えば5−(及び−6)−カルボキシテトラメチルローダミン−NHSエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)、下記式で表されるDY550−NHSエステル、下記式で表されるDY630−NHSエステル(いずれも商品名、Dyomics GmbH社製)等のNHSエステル基を有する蛍光色素化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
機能性分子がスクシンイミド基を有する場合には、アミノ基を有するシランカップリング剤と結合させることができる。アミノ基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、中でも、APSを好適に用いることができる。
【0042】
上述のように調製される機能性分子含有シリカナノ粒子の形状は、長軸と短軸の比が2以下の球状である。また、平均粒径は1〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましい。
所望の平均粒径のシリカナノ粒子は、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行うことで得ることができる。また、適切な重力加速度で遠心分離を行い、上清又は沈殿を回収することで得ることもできる。
【0043】
・結合性生体分子
本実施形態において結合性生体分子83は上記標識体と一体化して用いる。結合性生体分子の具体的な例は特に限定されないが、上記標的体と結合能を有する抗体が挙げられる。結合性生体分子は標識体に直接結合して一体化されていてもよいし、他の物質を介して間接的に結合していてもよい。標識体と結合性生体分子との結合は、疎水的相互作用等により物理的に吸着させる方法、スクシンイミド基とアミノ基との結合やマレイミド基とチオール基との結合のように、官能基を介して化学的に結合させる方法等の常法により行うことができる。標識体がナノ粒子である場合には、一つの標識体の表面に複数の結合性生体分子が結合しうる。なお、標識体として蛍光シリカ微粒子を用い結合性生体分子と一体化する実施形態については、例えば、国際公開第2008/018566号パンフレットを参照することができる。
【0044】
・捕捉性生体分子
本実施形態に用いられるメンブレンは、上記のメンブレンの材料に捕捉性生体分子が固定化されてなる。この捕捉性生体分子は、前記標識材料と前記標的物質とを含む複合体に対する結合能を有する。捕捉性生体分子が上記のような結合能を有することで、メンブレンの捕捉性生体分子が固定化された判定部において、標識材料と標的物質とからなる複合体を標的物質を介して捕捉することが可能になる。「標識材料」−「標的物質」−「捕捉性生体分子」の組合わせの例として、抗体(B)−抗体(B)の抗原(C)−抗原(C)の抗体(D)、抗原(E)−抗原(E)の抗体(F)−抗体(F)の抗体(G)、核酸(H)−核酸(H)に相補的な配列を有する核酸(I)−核酸(I)に相補的な配列であって核酸(H)の配列とは異なる配列を有する核酸(J)、受容体(K)−受容体(K)のリガンド(L)−リガンド(L)に対する抗体(M)、アプタマー(N)−アプタマー(N)が特異的に結合するタンパク質(O)−タンパク質(O)とアプタマー(N)とは異なる部位で特異的に結合するアプタマー(P)、アプタマー(Q)−アプタマー(Q)と特異的に結合するタンパク質(R)−タンパク質(R)に対する抗体(S)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
・参照領域(参照用捕捉性生体分子)
本実施形態においては、メンブレンの参照領域nに参照用捕捉性生体分子85が固定されている。これは、標的物質81を介さずに直接結合性生体分子83と結合するものである。したがって、移行してくる検体液sに混合されて標的物質81と結合していない標的材料8pが移行してくると、これを直接捕捉する。その結果、標識体82による蛍光を発生するラインが参照領域に形成される。参照用捕捉性生体分子85は特に限定されないが、結合性生体分子と結合能を有する抗体等が挙げられる。
【0046】
・素材
本実施形態の平面試験片80に採用しうる各構成部材の材料としては特に制限は無く、イムノクロマト法用テストストリップに用いられる通常の部材が使用できる。サンプルパッドおよびコンジュゲートパッドとしては、例えば、Glass Fiber Conjugate Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のガラスファイバーのパッドが好ましい。メンブレンとしてはHi−Flow Plus120メンブレン(商品名、MILLIPORE社製)等のニトロセルロースメンブレンが好ましい。吸収パッドとしてはCellulose Fiber Sample Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のセルロースメンブレンが好ましい。前記粘着剤付きバッキングシートを用いる場合には、AR9020(商品名、Adhesives Research社製)等が挙げられる。
【0047】
(変形例1)
・コントロールラインがテストラインよりも薄くなるケース
イムノクロマトのフロー特性は、コンジュゲートパッドに固定化する粒子の量にも依存する。そのため、検出種類によって、粒子自体の絶対量が少なくなる場合がある。その様な場合(予め固定化されている標識粒子が少ない場合)において検出物質(病原体など)が多く含まれていると、多くの粒子がテストラインにおいて捕捉され、コントロールラインにたどり着く粒子の量が少なくなってしまう。このため、例外的に、テストラインの方がコントロールラインよりも明るくなる。
また、一般的に、テストストリップに塗布する抗体の濃度によって、粒子を結合できる量の上限値が決定される。このため、コントロールラインに塗布する濃度が低い場合には、テストラインよりもコントロールラインの蛍光強度が低くなる可能性が考えられる。このような場合には前記光源3を参照領域側に偏倚して配置し参照領域からの光の視認性を高めてもよい。
【0048】
(変形例2)
・テストラインが2本以上あるケース
イムノクロマトは、必ずしも2本のライン(テストライン1本、コントロールライン1本)から成るものではない。多項目診断イムノクロマトでは、複数本のテストラインが存在する。現在、デンカ生研にて製造されているインフルエンザ検出キット(クイックナビTM−Flu[商品名])は、1度のフロー試験でA型インフルエンザとB型インフルエンザの判定が可能となる。この様なケースにおいて陽性である場合、どちらかのライン+コントロールラインが発色(発光)することとなる。
ただ、今後、インフルエンザのみならず様々な項目を同時に検出するキットが作製されてくると予測される。例えば、アデノウィルスやインフルエンザ、RSウィルス等を同時に検出する複数のラインが1本のテストストリップに存在する場合、複数の感染症にかかっていれば複数本のテストライン+コントロールラインが発色(発光)する可能性がある。この場合、コントロールラインの高い発光強度による(テストラインの)視認性の低下のみならず、テストラインの高い発光強度による他のテストラインの視認性の低下が考えられる。このような変形例にも本発明によれば、適宜に対応することができ、拡散光の照射強度が必要な側から照射するように、試験片の前後位置との関係を設定すればよい。この設定を可変な装置として、試験片に応じて変更するようにしてもよい。たとえば、前記試験領域及び参照領域が複数ある場合に、いずれの参照領域入射角θrと試験領域入射角θtとにおいても、θt>θrの関係が成り立つようにしてもよい。
【0049】
(変形例3)
次に、図5に基づき、本発明の別の好ましい実施形態(第2実施形態)について説明する。本実施形態において、筐体1、光源3、発散レンズ4、カットフィルタ(図示せず)、遮蔽枠(図示せず)、集光レンズ5、挿入開口部12を有することは、上述した第1実施形態と同様である。ただし、本第2実施形態においては、目視開口部11が上面に設けられておらず、側面に配されている。一方筐体の内部では、集光レンズの先に集光された蛍光を反射する反射鏡17が配設されており、上記筐体側面の目視開口部11に光を送る機構とされている。これにより、観察者は筐体の側面から試験領域nと参照領域nの蛍光発光の状態を確認することができ、手掌に乗せた場合など、より視認性を向上させることができる。
【0050】
さらに図示していない別の実施形態として、集光レンズの先に受光器を設置し集光された蛍光を信号化する例が挙げられる。そして、その先に接続した液晶表示装置により画像表示するようにしてもよい。これにより、信号を記憶装置に取り込み検査記録を保存するようにしてもよい。あるいは、所定の画像処理をほどこし、蛍光発光の状態をより視認しやすくしたり、自動判定を行う機構としたりしてもよい。さらには、得られた検出信号の強度を算定し、被検物質の定量測定を自動計測する構成としてもよい。
【0051】
前記蛍光測定器における前記受光器としては、フォトダイオード(PD)、アバランシェフォトダイオード(APD)、光電子倍増管(PMT)又はCCDが挙げられ、製造コストの観点からPDであることが好ましく、煩雑な製造工程を要しないCAN実装型PDであることがより好ましい。前記CAN実装型PDの受光面のレンズとしては、前記集光レンズからの光がPDに集光される限り特に制限はない。例えば、口径1.5mm、前記集光レンズ側開口数(NA)が0.2、PD側NAが0.4の回転対称型両凸レンズのCAN実装型PDが市販されている。なお、検出器を備えた装置構成ないしこれを用いた定量方法については特開2010−197248号公報を参照することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 筐体
2 長尺試験体
21 検出開口部
22 検体導入開口部
2a 筐体上部
2b 筐体下部
3 励起光源(光照射源)
4 発散レンズ(凹レンズ)
5 集光レンズ(凸レンズ)
6 カットフィルタ
11 目視開口部(検出部)
12 挿入開口部
13 遮蔽枠
17 反射鏡
80 平面試験片(テストストリップ)
81 標的物質(被検物質)
82 標識体(蛍光シリカ微粒子)
83 結合性生体分子
84 捕捉性生体分子
85 参照用捕捉性生体分子
8a サンプルパッド
8b コンジュゲートパッド
8c メンブレン
8d 吸収パッド
8p 標識材料(標識シリカ微粒子)
nr 参照領域(コントロールライン)
nt 試験領域(テストライン)
L ラテラルフロー方向
f 照射光(拡散光)
g 蛍光
h 集光後の蛍光
i 反射後の集光された蛍光
x 前後
y 左右
z 上下
θt 試験領域入射角
θr 参照領域入射角
θc 中心入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテラルフロー型イムノクロマトグラフィーに用いられる検出装置であって、
筐体中に、少なくとも1つずつの参照領域と試験領域とをラテラルフロー方向に順次配置した平面試験片を格納する空間と、該格納された平面試験片の試験領域及び参照領域に光を照射するための光照射源と、前記試験領域及び参照領域からの光を集光する集光部と、前記集光された光を検出するための検出部を有し、
前記平面試験片におけるラテラルフロー方向に実質的に沿って、前記平面試験片の参照領域もしくは前記試験領域の前後いずれかの方向に偏倚して前記光照射源を配置したことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項2】
前記拡散光が入射する光の経路と平面試験片とが前記参照領域でなす参照領域入射角θrと、前記光の経路と前記試験領域とでなす試験領域入射角θtとについて、θt>θrが成り立ち、
標識物質として蛍光物質を適用し、前記拡散光の照射を受け、少なくとも試験領域において前記蛍光物質から発せられる蛍光を集光して検出することを特徴とする請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項3】
前記試験領域側から光を照射するように前記光源を配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項4】
参照領域に存在する蛍光物質の量をQrとしたときに、参照領域から発せられる蛍光の強度に比例する成分であるQr×sinθr、試験領域に存在する蛍光物質の量をQtとしたときに、試験領域から発せられる蛍光の強度に比例する成分であるQt×sinθtにおいて、(Qr×sinθr)/(Qt×sinθt)<200が成立することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項5】
前記平面試験片と集光レンズとの間に迷光をカットするカットフィルタを配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項6】
前記ラテラルフロー型イムノクロマト法用の平面試験片を挿入するための挿入開口部があることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項7】
前記集光された光を反射させ検出部に向け光の経路を変える反射鏡を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項8】
前記筐体の内側が暗色にされたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項9】
前記試験片において試験領域ないし参照領域について実質的に垂線をなす位置に前記集光レンズを配置したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項10】
前記集光レンズにより集光した光を補足する検出器を配設したことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項11】
前記試験領域及び参照領域が複数ある場合に、いずれの参照領域入射角θrと試験領域入射角θtとにおいても、θt>θrの関係が成り立つことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項12】
前記参照領域入射角θrと前記試験領域入射角θtとについて、θt<θrが成り立つことを特徴とする請求項1及び2〜10のいずれか1項に記載のイムノクロマトグラフィー用検出装置。
【請求項13】
ラテラルフロー型イムノクロマトグラフィーに用いる平面試験片中の試験領域及び参照領域に拡散光を照射する過程と、前記試験領域及び参照領域から発せられる光を集光する過程とを有する検出方法であって、前記平面試験片のラテラルフロー方向に実質的に沿って、前記試験領域及び参照領域の前後いずれかの方向に偏倚した位置から前記拡散光を照射することを特徴とする検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2851(P2013−2851A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131701(P2011−131701)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】