イムノクロマトグラフィー用試験キット
【課題】検出時の偽陽性の要因となる非特異性因子による非特異的反応を抑えると共に被検物質の検出感度を向上させて、検体中の被検物質を正確にかつ迅速に検出することができるイムノクロマトグラフィー用試験キットを提供する。
【解決手段】被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、前記展開液に混合するか、又は、前記試験片の試料添加部若しくは標識物質保持部に保持させたものである。
【解決手段】被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、前記展開液に混合するか、又は、前記試験片の試料添加部若しくは標識物質保持部に保持させたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー分析に供するイムノクロマトグラフィー用試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応の特異性を利用して試料中の被検物質を免疫学的に検出又は定量する免疫学的分析方法として、放射線免疫測定方法、酵素免疫測定法、凝集法など種々の測定法が用いられている。イムノクロマトグラフィー法は、毛細管現象によって各固相支持体上を被検物質が移動して、判定部にて捕捉されることを利用した検査方法であり、検出感度が高く、操作も簡単であるため、検査の迅速性を要するインフルエンザウィルス抗原特定検査や集団検診など1度に多くの試料を取り扱う大腸癌スクリーニング、外来検査等での迅速な判定が求められる前立腺癌等の判定に用いられている。こうした医家向け以外にも、妊娠診断試薬等、一般ユーザー向けの診断試薬キットとしても使用されている。
【0003】
イムノクロマトグラフィー法は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部が、クロマトグラフィー媒体上に形成されてなる試験片と、添加された検体試料を前記試験片上に展開させるための展開液とからなるものを基本構成とする。この構成において、前記特異的結合物が標識された標識物質としては、被検物質に対応する抗体、抗原等が金コロイド等(金属コロイド、着色樹脂粒子、染料コロイド及び着色リポソーム等)の不溶性粒子状物質により標識されたものが用いられ、また、判定部の捕捉物質としては、被検物質に対応する抗体、抗原等が固定化されたものが用いられる。かかるイムノクロマトグラフィー法においては、試料添加部に滴下された検体が、展開液を移動相として標識物質保持部から判定部へ毛細管現象により移動できるようになっており、短時間で被検物質の検出が可能な免疫学的測定方法の一つである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イムノクロマトグラフィー法には、検体中に混在するタンパク質などの夾雑物のため、被検物質が存在しない場合にも検出部位判定部の発色が発生するという問題が従来から指摘されている。この非特異的反応は、検出時のS/N比を下げるばかりでなく、偽陽性の原因にもなりうる。
【0005】
非特異的反応による発色を防ぎ、抗原検出の感度の低下を防ぐ方法として、特許文献1は、試料中に存在する非特異性因子に対する抗体、具体的にはヒト由来の自然抗体を、免疫測定系に添加することにより、非特異性因子による非特異的反応を抑制するものを提示する。また、特許文献2は、被測定物質(抗原又は抗体)に対応した抗体又は抗原が担持されている不溶性担体とγ−グロブリンとから構成されることを特徴とする免疫測定試薬を開示する。この試薬は、非特異的反応の抑制物質としてのγ−グロブリンとを追加することにより非特異的反応を防止し、感度を高めるものである。
【特許文献1】特開平11−287801号公報
【特許文献2】特開2002−181822号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、ヒト由来の自然免疫抗体を利用するものであるが、ヒト由来の自然免疫抗体は、人が接触しうる種々の抗原から得られるものであり、それらを目的別に精製する等適当な処理をせずに使用した場合、抗体適合性や配合量によっては、目的とする非特異性因子と適当な反応性を得られず、非特異的反応の抑制効果はあまり期待できない。一方、特許文献2に開示された試薬においても、ある程度の非特異的反応防止が期待できるが、その配合量によっては、逆に非特異的反応を引き起こす要因となりうる場合も考えられる。従って、従来の免疫測定法の感度は満足の得られるものではなく、より感度に優れるものが求められる。
【0007】
本発明は、上記に鑑み、検出時の偽陽性の要因となる非特異性因子による非特異的反応を抑えると共に被検物質の検出感度を向上させて、検体中の被検物質を正確にかつ迅速に検出することができるイムノクロマトグラフィー用試験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を行い、非特異的反応の要因となるタンパク質等に対して、前記特異的結合物が標識された標識物質よりも優先的に結合する物質を検出系内に導入し、非特異的反応の抑制を試みた。そして、このような物質として、判定部に固定された捕捉物質(抗体、抗原)と同じ産生動物種由来の同じサブクラスを有する免疫グロブリン(以下、免疫グロブリンと略して記載することがある)を適用することとした。また、検出系内への免疫グロブリンの導入の具体的形態として、試料と共に添加される展開液中に免疫グロブリンを混合するものと、予め試験片に免疫グロブリンを保持するものの、2つの形態のイムノクロマトグラフィー用試験キットとした。
【0009】
本願に係る第1の発明は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記展開液が、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、展開液1mLに対し5〜2000μg含むことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キットである。
【0010】
また、本願に係る第2の発明は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記試験片の試料添加部及び/又は標識物質保持部に、前記判定部に固定された捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンが、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μg保持されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キットである。
【0011】
本願発明は、上記の通り、試験片の判定部に固定された捕捉物質(抗体等)と同一の産生動種物由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを検出系に導入することを特徴とする。ここで、留意すべきは、導入する免疫グロブリンの産生動物種及びサブクラスは、判定部の捕捉物質のみを考慮するものであり、標識物質保持部等の他の部位に保持及び固定された抗体、抗原のサブクラス等を基準とするものではない。これは、その理由は定かではないが、判定部以外、例えば、標識物質保持部に保持された標識物質上に保持された抗体のサブクラス等と同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを適用した場合、本発明よりも検出感度が劣ることが確認されていることによる。本発明の判定部の捕捉物質を基準とした免疫グロブリンを選択することで、非特異的反応による偽陽性が抑制されると共に、検出感度の向上を図ることができる。
【0012】
免疫グロブリンは、その産生動物種としてヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等があり、それぞれに所定範囲の免疫グロブリンがある。ヒトの場合、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のクラスの免疫グロブリンがあり、IgGにはIgG1〜IgG4の4つのサブクラスが、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。また、マウスの場合もIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のクラスの免疫グロブリンがあるが、サブクラスを有するのはIgGのみであり、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3の4つのサブクラスがある。但し、検出部の捕捉物質の産生動物種とサブクラスは、イムノクロマトグラフィー試験片の検出対象によって異なることから、本発明は上記何れかの産生動物種、サブクラスのうちいずれか一つのみに限定されるものではない。
【0013】
本願に係る第1、第2の発明は、免疫グロブリンを混合、保持する部位のみが相違するものであり、それ以外の構成において相違するものではない。以下、本発明に係るイムノクロマトグラフィー用試験キットの展開液、試験片の内容について説明するが、重複記載を避けるために相違する点を明記しつつ述べる。
【0014】
展開液は、検体試料中の被検物質を試験片上に展開するための移動相となる液体であり、溶媒と適宜の緩衝剤とからなる。溶媒は水が一般に用いられ、緩衝剤の好ましい例としては、従来のものと同様、リン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、グッドの緩衝剤等を挙げることができる。また、これら以外の添加剤を含むことができ、従来のものと同様、ウシ血清アルブミン(以下BSAと言う)等のタンパク質成分、変性剤(例えば、尿素、グアニジン塩酸、チオシアン酸塩等、高分子ポリマー(例えば、カルボキシメチルセルロースなどの可溶性セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等))、塩基性化合物(例えば、スペルミン、スペルミジン、硫酸プロタミン等)を任意的に含んでいても良い。
【0015】
そして、展開液中に免疫グロブリンを添加する場合(本願第1の形態)、その添加量は、上記の通り、展開液1mLに対し5〜2000μgとする。添加量については、10〜1000μgが好ましく、50〜500μgがより好ましい。
【0016】
展開液と共にキットを構成する試験片は、クロマトグラフィー媒体上に試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、捕捉物質が固定される判定部によって形成されたものが基本的構成となる。クロマトグラフィー媒体は毛細管現象により検体試料を吸収し流動されることができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース等、これらのポリマーから選択される。
【0017】
試料添加部は、検体試料及び展開液を吸収し、連通する標識物質保持部にこれらを送液する部位である。試料添加部としては、上記したクロマトグラフィー媒体と同様の材質のパッドをクロマトグラフィー媒体上に貼りつければ良い。
【0018】
標識物質保持部に保持される特異的結合物が標識された標識物質は、被検物質と特異的に反応し得る抗体、抗原等の特異的結合物と、これを標識するための標識物質とからなる標識複合体である。特異的結合物となる抗原としては、Prostate Specific Antigen(前立腺特異抗原、PSA)、ヘリコバクター・ピロリ菌等の各種抗原などが挙げられる。抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれでもよい。具体的には、抗大腸菌抗体、抗ヒトアルブミン抗体、抗ヒト免疫グロブリン抗体、抗マイクログロブリン抗体、抗インフルエンザ抗体などが挙げられる。これら抗体、抗原は1種類であってもよく、数種類を混合して用いることもできる。
【0019】
また、標識物質としては、金コロイド等の金属コロイド、セレニウムコロイド等の非金属コロイド、着色樹脂粒子、染料コロイド及び着色リポソーム等の不溶性粒状物質等が挙げられるが、金属コロイド、特に金コロイドが好ましい。標識物質は、特異的結合物やBSA等の固定性、標識物質の分散性、イムノクロマトグラフィー試験片とした時の試薬感度等の観点から、好ましくは100nm以下であり、特異的結合物やBSAを標識物質に保持する時の精製の容易性の観点から、好ましくは10nm以上である。標識複合体は、標識物質に抗体、抗原等を固定(保持)させて形成されるものであり、免疫複合体の懸濁液を固相支持体に滴下・乾燥させることで固定できる。また、免疫複合体の懸濁液にパッドを浸漬させて固定したものをクロマトグラフィー媒体上に貼り着けても良い。
【0020】
判定部に固定される捕捉物質は、標識物質保持部において被検物質と特異的結合物が標識された標識物質とが反応することにより形成される被検物質−標識物質複合体を、被検物質と捕捉物質との結合を介した反応により捕捉するものである。この捕捉物質の反応に基づく呈色の度合いを肉眼で観察することにより、試料中の被検物質の有無を判定できる。捕捉物質は、被検物質と特異的に反応し得る抗体、抗原であり、この抗体、抗原を含む溶液をクロマト膜媒体上に塗布・乾燥することで固定される。
【0021】
尚、試験片の構成においては、上記試料添加部、標識物質保持部、判定部の他に、判定部を通過した未反応の標識物質を捕捉する吸収部等から成る。また、試験片基材であるイムノクロマトグラフィー媒体には、通常、水溶液を吸収しないバッキングシートが用いられる。
【0022】
そして、免疫グロブリンを試験片に保持させる場合(本願の第2の形態)、免疫グロブリンは、試料添加部、又は、標識物質保持部に含有させる。試料中のタンパク質等に対する、免疫グロブリン及び特異的結合物が標識された標識物質の反応は競合的なものであるため、免疫グロブリンを優先的に反応させるためには、試料添加と同時又は直後に免疫グロブリンを接触させる必要がある。免疫グロブリンの保持は、その溶液を保持部位に塗布・乾燥させる。
【0023】
また、このようにイムノクロマトグラフィー試験片の試料添加部又は標識物質保持部に免疫グロブリンを保持させる場合の保持量は、上記の通り、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μgとする。この保持量については、1.3〜125μgが好ましく、6.3〜62.5μgがより好ましい。尚、このように試験片の方に免疫グロブリンを添加する場合、試料添加部又は標識物質保持部のいずれかに添加すれば良いが、双方に添加しても良い。
【0024】
本発明のイムノクロマトグラフィー用試験キットの使用方法は、従来のイムノクロマトグラフィー用試験キットの使用方法と基本的に異なるものではない。検出に当たっては、検体試料を適宜に希釈した試料希釈液(試料懸濁液)をイムノクロマトグラフィー試験片の試料添加部に滴下する。この際、キットの展開液を同時に滴下する。但し、展開液を(予め)試料希釈液に混合して検体液としこれを滴下しても良い。展開液及び試料希釈液を滴下後、反応を開始させて適当な時間が経過した後に、判定部位を目視で観察するか又は発色度測定装置で測定することにより、被検物質を検出又は定量する。
【0025】
尚、本発明のキットを用いる被検物質は、免疫化学的反応により被検物質−標識物質複合体を形成し得るものであれば特に制限されない。例えば、細菌、インフルエンザウィルスなどのウイルス、あるいは腫瘍マーカー抗原等が挙げられる。検体も限定されず、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、汗、粘膜擦過物等である。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明は、判定部に固定された捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを検出系に導入するものである。本発明によれば、免疫反応中に起こる非特異的反応を抑えて、偽陽性反応を防止できると共に、判定部での検出感度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の好適な実施例を比較例と共に説明する。本実施形態では、判定部の捕捉物質と産生動物種及びサブクラスを同一にする免疫グロブリンを、展開液及び試験片にそれぞれ添加した2種のイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、それらの検討を行った。
【0028】
第1実施形態:本実施形態は、免疫グロブリンを展開液に混合する形態(第1の形態)のイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、その検出感度の検討を行うものである。
【0029】
〔実施例1〕
試験片の作製:以下の手順で、クロマトグラフィー媒体としてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120)を用いイムノクロマトグラフィー試験片を作製した。
【0030】
A.クロマトグラフィー媒体上への判定部の作製
5重量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように抗マウスPSAモノクローナル抗体(サブクラス IgG1)を希釈した。この溶液をクロマトグラフィー媒体上に塗布し、50℃で30分間乾燥させた。乾燥後、0.5重量%のカゼイン(和光純薬工業社製)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)200mlに30℃で30分間浸漬し、ブロッキングを行った。ブロッキング後、0.05重量%のTween20を含有する洗浄液で洗浄し、室温で一晩乾燥させた。以上の手順で、クロマトグラフィー媒体上に抗マウスPSAモノクローナル抗体を捕捉物質とする判定部を作製した。
【0031】
B.標識物質保持部の作製
金コロイド分散液(田中貴金属工業社製 AUコロイド溶液−LC(粒径60nm))0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.1mg/mlの濃度になるように希釈した抗PSAモノクローナル抗体を0.1ml加え、室温で10分間静置した。次いで、10重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、十分撹拌した後、8000rpm×15分間遠心分離を行った。上清を除去した後、1重量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1mL加えた。以上の手順で抗PSAモノクローナル抗体を金コロイド不溶性担体粒子に担持した標識物質溶液を作製した。次に、この標識物質溶液をグラスファイバー製パッドに均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0032】
C.試験片の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、上記で作成した判定部を有するクロマトグラフィー媒体上に標識物質保持部(パッド)、試料添加部である汎用性のサンプルパッド、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収パッドを貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、イムノクロマトグラフィー用試験片とした。
【0033】
展開液の調製
上記の判定部の捕捉物質と同じサブクラスを有するマウスIgG1を、展開液1mLに対して250μg、1重量%BSA、50mM塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を混合して展開液を作成した。そして、この展開液に被検物質(PSA)濃度の異なる複数の検体試料100μLを混合し複数の検体液を調製した。
【0034】
〔比較例1〕
実施例1における判定部の捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを展開液中に添加することに代えて、判定部と異なるサブクラスを有する免疫グロブリン(サブクラス、IgG2a)を展開液に添加したことを除いては、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。なお、試験片は、実施例1と同じ物とした。
【0035】
〔比較例2〕
実施例1における判定部の捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを展開液中に添加することに代えて、展開液中に免疫グロブリンを添加しなかったことを除いては、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。なお、試験片は、実施例1と同じ物とした。
【0036】
検出感度の測定試験
上記のように作成したイムノクロマトグラフィー用試験キットに関し、その検出感度を比較検討した。被検物質の検出は、上記したPSA濃度の異なる展開液を試験片の試料添加部に滴下して展開させ、15分後に目視判定をした。テストラインの赤い線を確認できるものを「+」、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを「±」、赤い線を確認できないものを「−」とした。表1に結果を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から、展開液に免疫グロブリンを導入しない比較例2においては、PSAを含まない試料に対しても陽性(+)を示す偽陽性が生じていることがわかる。また、免疫グロブリンを導入しても、判定部とサブクラスを共通にしない比較例1では検出感度に劣る面がある。これに対し、実施例1の判定部に固定した捕捉物質と同じサブクラスを有する免疫グロブリンを配合した展開液を使用した場合は、非特異的反応による偽陽性も見られず、検出感度もサブクラスを考慮しない場合の約4倍に向上したことがわかる。
【0039】
〔実施例2〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し50μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0040】
〔実施例3〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し500μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例3〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し1μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0042】
〔比較例4〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し4000μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
展開液に配合する免疫グロブリンの濃度は、これが低い(展開液1mLあたり1μg)と非特異的反応の防止効果が期待できない。一方、高すぎる(展開液1mLあたり4000μg)と検出感度が不足するおそれがある。そこで、展開液中の免疫グロブリン濃度を、展開液1mLあたり5〜2000μgの範囲、特に、本実施例のように50〜500μg添加したことで、被検物の正確な検出が可能となる。
【0045】
〔実施例4〕
実施例1において、試験片の判定部に固定する抗マウスPSAモノクローナル抗体のサブクラスをIgG2aとすると共に、展開液に添加する免疫グロブリンをマウスIgG2aとしたこと、の2点を除いて、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。判定は実施例1と同様に行った。その結果を表4に示す。
【0046】
〔実施例5〕
実施例1において、試験片の判定部の抗マウスPSAモノクローナル抗体のサブクラスをIgG2bとし、展開液に添加する免疫グロブリンをマウスIgG2bとしたこと、の2点を除いて実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。判定は実施例1と同様に行った。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3から、何れのサブクラスの組み合わせにおいても良好な検出感度が得られている。従って、試験片の判定部の捕捉物質と産生動物由来及びサブクラスを同一にする免疫グロブリンを展開液中に配合することで、良好な検出感度を有するイムノクロマトグラフィー用試験キットを得られることが確認された。
【0049】
第2実施形態:ここでは、本願第2の形態である、試験片の標識物質保持部に免疫グロブリンを保持したものを作製してイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、検出感度を検討した。
【0050】
〔実施例6〕
実施例1において、展開液中に免疫グロブリンを添加しなかったこと、及び、試験片へ標識物質溶液を添加・乾燥した後に標識物質保持部へ免疫グロブリンを添加したこと、の2点を除いて、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。このときの免疫グロブリンの保持量は、標識物質保持部1cm2に対して31μgとした。次に、実施例1と同様に、PSA濃度の異なる展開液(但し、免疫グロブリンは含まない)を滴下して、検出感度の検討を行った。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から明らかなように、試験片上の標識物質保持部に、判定部に固定した捕捉物質と同じサブクラスを有する免疫グロブリンを予め保持しても、即ち、被検物質と特異的に反応する特異結合物質が標識された標識物質が判定部の捕捉物質に捕捉されるよりも前に、免疫グロブリンが検出系に存在する形態をとってやれば、どのような形態であっても、展開液に免疫グロブリンを配合した構成と同じ効果が得られることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー分析に供するイムノクロマトグラフィー用試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原抗体反応の特異性を利用して試料中の被検物質を免疫学的に検出又は定量する免疫学的分析方法として、放射線免疫測定方法、酵素免疫測定法、凝集法など種々の測定法が用いられている。イムノクロマトグラフィー法は、毛細管現象によって各固相支持体上を被検物質が移動して、判定部にて捕捉されることを利用した検査方法であり、検出感度が高く、操作も簡単であるため、検査の迅速性を要するインフルエンザウィルス抗原特定検査や集団検診など1度に多くの試料を取り扱う大腸癌スクリーニング、外来検査等での迅速な判定が求められる前立腺癌等の判定に用いられている。こうした医家向け以外にも、妊娠診断試薬等、一般ユーザー向けの診断試薬キットとしても使用されている。
【0003】
イムノクロマトグラフィー法は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部が、クロマトグラフィー媒体上に形成されてなる試験片と、添加された検体試料を前記試験片上に展開させるための展開液とからなるものを基本構成とする。この構成において、前記特異的結合物が標識された標識物質としては、被検物質に対応する抗体、抗原等が金コロイド等(金属コロイド、着色樹脂粒子、染料コロイド及び着色リポソーム等)の不溶性粒子状物質により標識されたものが用いられ、また、判定部の捕捉物質としては、被検物質に対応する抗体、抗原等が固定化されたものが用いられる。かかるイムノクロマトグラフィー法においては、試料添加部に滴下された検体が、展開液を移動相として標識物質保持部から判定部へ毛細管現象により移動できるようになっており、短時間で被検物質の検出が可能な免疫学的測定方法の一つである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イムノクロマトグラフィー法には、検体中に混在するタンパク質などの夾雑物のため、被検物質が存在しない場合にも検出部位判定部の発色が発生するという問題が従来から指摘されている。この非特異的反応は、検出時のS/N比を下げるばかりでなく、偽陽性の原因にもなりうる。
【0005】
非特異的反応による発色を防ぎ、抗原検出の感度の低下を防ぐ方法として、特許文献1は、試料中に存在する非特異性因子に対する抗体、具体的にはヒト由来の自然抗体を、免疫測定系に添加することにより、非特異性因子による非特異的反応を抑制するものを提示する。また、特許文献2は、被測定物質(抗原又は抗体)に対応した抗体又は抗原が担持されている不溶性担体とγ−グロブリンとから構成されることを特徴とする免疫測定試薬を開示する。この試薬は、非特異的反応の抑制物質としてのγ−グロブリンとを追加することにより非特異的反応を防止し、感度を高めるものである。
【特許文献1】特開平11−287801号公報
【特許文献2】特開2002−181822号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、ヒト由来の自然免疫抗体を利用するものであるが、ヒト由来の自然免疫抗体は、人が接触しうる種々の抗原から得られるものであり、それらを目的別に精製する等適当な処理をせずに使用した場合、抗体適合性や配合量によっては、目的とする非特異性因子と適当な反応性を得られず、非特異的反応の抑制効果はあまり期待できない。一方、特許文献2に開示された試薬においても、ある程度の非特異的反応防止が期待できるが、その配合量によっては、逆に非特異的反応を引き起こす要因となりうる場合も考えられる。従って、従来の免疫測定法の感度は満足の得られるものではなく、より感度に優れるものが求められる。
【0007】
本発明は、上記に鑑み、検出時の偽陽性の要因となる非特異性因子による非特異的反応を抑えると共に被検物質の検出感度を向上させて、検体中の被検物質を正確にかつ迅速に検出することができるイムノクロマトグラフィー用試験キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を行い、非特異的反応の要因となるタンパク質等に対して、前記特異的結合物が標識された標識物質よりも優先的に結合する物質を検出系内に導入し、非特異的反応の抑制を試みた。そして、このような物質として、判定部に固定された捕捉物質(抗体、抗原)と同じ産生動物種由来の同じサブクラスを有する免疫グロブリン(以下、免疫グロブリンと略して記載することがある)を適用することとした。また、検出系内への免疫グロブリンの導入の具体的形態として、試料と共に添加される展開液中に免疫グロブリンを混合するものと、予め試験片に免疫グロブリンを保持するものの、2つの形態のイムノクロマトグラフィー用試験キットとした。
【0009】
本願に係る第1の発明は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記展開液が、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、展開液1mLに対し5〜2000μg含むことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キットである。
【0010】
また、本願に係る第2の発明は、被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、前記試験片の試料添加部及び/又は標識物質保持部に、前記判定部に固定された捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンが、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μg保持されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キットである。
【0011】
本願発明は、上記の通り、試験片の判定部に固定された捕捉物質(抗体等)と同一の産生動種物由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを検出系に導入することを特徴とする。ここで、留意すべきは、導入する免疫グロブリンの産生動物種及びサブクラスは、判定部の捕捉物質のみを考慮するものであり、標識物質保持部等の他の部位に保持及び固定された抗体、抗原のサブクラス等を基準とするものではない。これは、その理由は定かではないが、判定部以外、例えば、標識物質保持部に保持された標識物質上に保持された抗体のサブクラス等と同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを適用した場合、本発明よりも検出感度が劣ることが確認されていることによる。本発明の判定部の捕捉物質を基準とした免疫グロブリンを選択することで、非特異的反応による偽陽性が抑制されると共に、検出感度の向上を図ることができる。
【0012】
免疫グロブリンは、その産生動物種としてヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等があり、それぞれに所定範囲の免疫グロブリンがある。ヒトの場合、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のクラスの免疫グロブリンがあり、IgGにはIgG1〜IgG4の4つのサブクラスが、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。また、マウスの場合もIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のクラスの免疫グロブリンがあるが、サブクラスを有するのはIgGのみであり、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3の4つのサブクラスがある。但し、検出部の捕捉物質の産生動物種とサブクラスは、イムノクロマトグラフィー試験片の検出対象によって異なることから、本発明は上記何れかの産生動物種、サブクラスのうちいずれか一つのみに限定されるものではない。
【0013】
本願に係る第1、第2の発明は、免疫グロブリンを混合、保持する部位のみが相違するものであり、それ以外の構成において相違するものではない。以下、本発明に係るイムノクロマトグラフィー用試験キットの展開液、試験片の内容について説明するが、重複記載を避けるために相違する点を明記しつつ述べる。
【0014】
展開液は、検体試料中の被検物質を試験片上に展開するための移動相となる液体であり、溶媒と適宜の緩衝剤とからなる。溶媒は水が一般に用いられ、緩衝剤の好ましい例としては、従来のものと同様、リン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、グッドの緩衝剤等を挙げることができる。また、これら以外の添加剤を含むことができ、従来のものと同様、ウシ血清アルブミン(以下BSAと言う)等のタンパク質成分、変性剤(例えば、尿素、グアニジン塩酸、チオシアン酸塩等、高分子ポリマー(例えば、カルボキシメチルセルロースなどの可溶性セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等))、塩基性化合物(例えば、スペルミン、スペルミジン、硫酸プロタミン等)を任意的に含んでいても良い。
【0015】
そして、展開液中に免疫グロブリンを添加する場合(本願第1の形態)、その添加量は、上記の通り、展開液1mLに対し5〜2000μgとする。添加量については、10〜1000μgが好ましく、50〜500μgがより好ましい。
【0016】
展開液と共にキットを構成する試験片は、クロマトグラフィー媒体上に試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、捕捉物質が固定される判定部によって形成されたものが基本的構成となる。クロマトグラフィー媒体は毛細管現象により検体試料を吸収し流動されることができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース等、これらのポリマーから選択される。
【0017】
試料添加部は、検体試料及び展開液を吸収し、連通する標識物質保持部にこれらを送液する部位である。試料添加部としては、上記したクロマトグラフィー媒体と同様の材質のパッドをクロマトグラフィー媒体上に貼りつければ良い。
【0018】
標識物質保持部に保持される特異的結合物が標識された標識物質は、被検物質と特異的に反応し得る抗体、抗原等の特異的結合物と、これを標識するための標識物質とからなる標識複合体である。特異的結合物となる抗原としては、Prostate Specific Antigen(前立腺特異抗原、PSA)、ヘリコバクター・ピロリ菌等の各種抗原などが挙げられる。抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれでもよい。具体的には、抗大腸菌抗体、抗ヒトアルブミン抗体、抗ヒト免疫グロブリン抗体、抗マイクログロブリン抗体、抗インフルエンザ抗体などが挙げられる。これら抗体、抗原は1種類であってもよく、数種類を混合して用いることもできる。
【0019】
また、標識物質としては、金コロイド等の金属コロイド、セレニウムコロイド等の非金属コロイド、着色樹脂粒子、染料コロイド及び着色リポソーム等の不溶性粒状物質等が挙げられるが、金属コロイド、特に金コロイドが好ましい。標識物質は、特異的結合物やBSA等の固定性、標識物質の分散性、イムノクロマトグラフィー試験片とした時の試薬感度等の観点から、好ましくは100nm以下であり、特異的結合物やBSAを標識物質に保持する時の精製の容易性の観点から、好ましくは10nm以上である。標識複合体は、標識物質に抗体、抗原等を固定(保持)させて形成されるものであり、免疫複合体の懸濁液を固相支持体に滴下・乾燥させることで固定できる。また、免疫複合体の懸濁液にパッドを浸漬させて固定したものをクロマトグラフィー媒体上に貼り着けても良い。
【0020】
判定部に固定される捕捉物質は、標識物質保持部において被検物質と特異的結合物が標識された標識物質とが反応することにより形成される被検物質−標識物質複合体を、被検物質と捕捉物質との結合を介した反応により捕捉するものである。この捕捉物質の反応に基づく呈色の度合いを肉眼で観察することにより、試料中の被検物質の有無を判定できる。捕捉物質は、被検物質と特異的に反応し得る抗体、抗原であり、この抗体、抗原を含む溶液をクロマト膜媒体上に塗布・乾燥することで固定される。
【0021】
尚、試験片の構成においては、上記試料添加部、標識物質保持部、判定部の他に、判定部を通過した未反応の標識物質を捕捉する吸収部等から成る。また、試験片基材であるイムノクロマトグラフィー媒体には、通常、水溶液を吸収しないバッキングシートが用いられる。
【0022】
そして、免疫グロブリンを試験片に保持させる場合(本願の第2の形態)、免疫グロブリンは、試料添加部、又は、標識物質保持部に含有させる。試料中のタンパク質等に対する、免疫グロブリン及び特異的結合物が標識された標識物質の反応は競合的なものであるため、免疫グロブリンを優先的に反応させるためには、試料添加と同時又は直後に免疫グロブリンを接触させる必要がある。免疫グロブリンの保持は、その溶液を保持部位に塗布・乾燥させる。
【0023】
また、このようにイムノクロマトグラフィー試験片の試料添加部又は標識物質保持部に免疫グロブリンを保持させる場合の保持量は、上記の通り、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μgとする。この保持量については、1.3〜125μgが好ましく、6.3〜62.5μgがより好ましい。尚、このように試験片の方に免疫グロブリンを添加する場合、試料添加部又は標識物質保持部のいずれかに添加すれば良いが、双方に添加しても良い。
【0024】
本発明のイムノクロマトグラフィー用試験キットの使用方法は、従来のイムノクロマトグラフィー用試験キットの使用方法と基本的に異なるものではない。検出に当たっては、検体試料を適宜に希釈した試料希釈液(試料懸濁液)をイムノクロマトグラフィー試験片の試料添加部に滴下する。この際、キットの展開液を同時に滴下する。但し、展開液を(予め)試料希釈液に混合して検体液としこれを滴下しても良い。展開液及び試料希釈液を滴下後、反応を開始させて適当な時間が経過した後に、判定部位を目視で観察するか又は発色度測定装置で測定することにより、被検物質を検出又は定量する。
【0025】
尚、本発明のキットを用いる被検物質は、免疫化学的反応により被検物質−標識物質複合体を形成し得るものであれば特に制限されない。例えば、細菌、インフルエンザウィルスなどのウイルス、あるいは腫瘍マーカー抗原等が挙げられる。検体も限定されず、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、汗、粘膜擦過物等である。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明は、判定部に固定された捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを検出系に導入するものである。本発明によれば、免疫反応中に起こる非特異的反応を抑えて、偽陽性反応を防止できると共に、判定部での検出感度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の好適な実施例を比較例と共に説明する。本実施形態では、判定部の捕捉物質と産生動物種及びサブクラスを同一にする免疫グロブリンを、展開液及び試験片にそれぞれ添加した2種のイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、それらの検討を行った。
【0028】
第1実施形態:本実施形態は、免疫グロブリンを展開液に混合する形態(第1の形態)のイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、その検出感度の検討を行うものである。
【0029】
〔実施例1〕
試験片の作製:以下の手順で、クロマトグラフィー媒体としてニトロセルロースからなるシート(ミリポア社製、商品名:HF120)を用いイムノクロマトグラフィー試験片を作製した。
【0030】
A.クロマトグラフィー媒体上への判定部の作製
5重量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.0mg/mlの濃度になるように抗マウスPSAモノクローナル抗体(サブクラス IgG1)を希釈した。この溶液をクロマトグラフィー媒体上に塗布し、50℃で30分間乾燥させた。乾燥後、0.5重量%のカゼイン(和光純薬工業社製)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)200mlに30℃で30分間浸漬し、ブロッキングを行った。ブロッキング後、0.05重量%のTween20を含有する洗浄液で洗浄し、室温で一晩乾燥させた。以上の手順で、クロマトグラフィー媒体上に抗マウスPSAモノクローナル抗体を捕捉物質とする判定部を作製した。
【0031】
B.標識物質保持部の作製
金コロイド分散液(田中貴金属工業社製 AUコロイド溶液−LC(粒径60nm))0.5mlに、リン酸緩衝液(pH7.4)で0.1mg/mlの濃度になるように希釈した抗PSAモノクローナル抗体を0.1ml加え、室温で10分間静置した。次いで、10重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1ml加え、十分撹拌した後、8000rpm×15分間遠心分離を行った。上清を除去した後、1重量%のBSAを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1mL加えた。以上の手順で抗PSAモノクローナル抗体を金コロイド不溶性担体粒子に担持した標識物質溶液を作製した。次に、この標識物質溶液をグラスファイバー製パッドに均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識物質保持部を作製した。
【0032】
C.試験片の作製
次に、バッキングシートから成る基材に、上記で作成した判定部を有するクロマトグラフィー媒体上に標識物質保持部(パッド)、試料添加部である汎用性のサンプルパッド、展開した試料や標識物質を吸収するための吸収パッドを貼り合わせた。そして、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、イムノクロマトグラフィー用試験片とした。
【0033】
展開液の調製
上記の判定部の捕捉物質と同じサブクラスを有するマウスIgG1を、展開液1mLに対して250μg、1重量%BSA、50mM塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を混合して展開液を作成した。そして、この展開液に被検物質(PSA)濃度の異なる複数の検体試料100μLを混合し複数の検体液を調製した。
【0034】
〔比較例1〕
実施例1における判定部の捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを展開液中に添加することに代えて、判定部と異なるサブクラスを有する免疫グロブリン(サブクラス、IgG2a)を展開液に添加したことを除いては、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。なお、試験片は、実施例1と同じ物とした。
【0035】
〔比較例2〕
実施例1における判定部の捕捉物質と同じ産生動物種及びサブクラスを有する免疫グロブリンを展開液中に添加することに代えて、展開液中に免疫グロブリンを添加しなかったことを除いては、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。なお、試験片は、実施例1と同じ物とした。
【0036】
検出感度の測定試験
上記のように作成したイムノクロマトグラフィー用試験キットに関し、その検出感度を比較検討した。被検物質の検出は、上記したPSA濃度の異なる展開液を試験片の試料添加部に滴下して展開させ、15分後に目視判定をした。テストラインの赤い線を確認できるものを「+」、赤い線は確認できるが、非常に色が薄いものを「±」、赤い線を確認できないものを「−」とした。表1に結果を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から、展開液に免疫グロブリンを導入しない比較例2においては、PSAを含まない試料に対しても陽性(+)を示す偽陽性が生じていることがわかる。また、免疫グロブリンを導入しても、判定部とサブクラスを共通にしない比較例1では検出感度に劣る面がある。これに対し、実施例1の判定部に固定した捕捉物質と同じサブクラスを有する免疫グロブリンを配合した展開液を使用した場合は、非特異的反応による偽陽性も見られず、検出感度もサブクラスを考慮しない場合の約4倍に向上したことがわかる。
【0039】
〔実施例2〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し50μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0040】
〔実施例3〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し500μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例3〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し1μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0042】
〔比較例4〕
実施例1と同様の構成において、混合する免疫グロブリンの濃度を展開液1mlに対し4000μgとした展開液を作成した。これ以外は実施例1と同様の検出を行った。尚、試験片については実施例1と同様のものを適用した。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
展開液に配合する免疫グロブリンの濃度は、これが低い(展開液1mLあたり1μg)と非特異的反応の防止効果が期待できない。一方、高すぎる(展開液1mLあたり4000μg)と検出感度が不足するおそれがある。そこで、展開液中の免疫グロブリン濃度を、展開液1mLあたり5〜2000μgの範囲、特に、本実施例のように50〜500μg添加したことで、被検物の正確な検出が可能となる。
【0045】
〔実施例4〕
実施例1において、試験片の判定部に固定する抗マウスPSAモノクローナル抗体のサブクラスをIgG2aとすると共に、展開液に添加する免疫グロブリンをマウスIgG2aとしたこと、の2点を除いて、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。判定は実施例1と同様に行った。その結果を表4に示す。
【0046】
〔実施例5〕
実施例1において、試験片の判定部の抗マウスPSAモノクローナル抗体のサブクラスをIgG2bとし、展開液に添加する免疫グロブリンをマウスIgG2bとしたこと、の2点を除いて実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。判定は実施例1と同様に行った。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3から、何れのサブクラスの組み合わせにおいても良好な検出感度が得られている。従って、試験片の判定部の捕捉物質と産生動物由来及びサブクラスを同一にする免疫グロブリンを展開液中に配合することで、良好な検出感度を有するイムノクロマトグラフィー用試験キットを得られることが確認された。
【0049】
第2実施形態:ここでは、本願第2の形態である、試験片の標識物質保持部に免疫グロブリンを保持したものを作製してイムノクロマトグラフィー用試験キットを製造し、検出感度を検討した。
【0050】
〔実施例6〕
実施例1において、展開液中に免疫グロブリンを添加しなかったこと、及び、試験片へ標識物質溶液を添加・乾燥した後に標識物質保持部へ免疫グロブリンを添加したこと、の2点を除いて、実施例1と同様にイムノクロマトグラフィー用試験キットを作製した。このときの免疫グロブリンの保持量は、標識物質保持部1cm2に対して31μgとした。次に、実施例1と同様に、PSA濃度の異なる展開液(但し、免疫グロブリンは含まない)を滴下して、検出感度の検討を行った。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から明らかなように、試験片上の標識物質保持部に、判定部に固定した捕捉物質と同じサブクラスを有する免疫グロブリンを予め保持しても、即ち、被検物質と特異的に反応する特異結合物質が標識された標識物質が判定部の捕捉物質に捕捉されるよりも前に、免疫グロブリンが検出系に存在する形態をとってやれば、どのような形態であっても、展開液に免疫グロブリンを配合した構成と同じ効果が得られることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、
前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、
前記展開液が、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、展開液1mLに対し5〜2000μg含むことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項2】
被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、
前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、
前記試験片の試料添加部及び/又は標識物質保持部に、前記判定部に固定された捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンが、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μg保持されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項1】
被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、
前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、
前記展開液が、前記判定部の捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンを、展開液1mLに対し5〜2000μg含むことを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【請求項2】
被検物質を添加する試料添加部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を保持する標識物質保持部、被検物質に特異的に反応する特異的結合物が標識された標識物質を捕捉する捕捉物質が固定された判定部、がクロマトグラフィー媒体上に形成された試験片と、
前記被検物質を前記試験片上に展開させるための展開液と、を備えるイムノクロマトグラフィー用試験キットにおいて、
前記試験片の試料添加部及び/又は標識物質保持部に、前記判定部に固定された捕捉物質と同一の産生動物種由来でありかつ同一のサブクラスを有する免疫グロブリンが、試料添加部及び/又は標識物質保持部の表面積1cm2に対し、0.6〜250μg保持されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験キット。
【公開番号】特開2009−133739(P2009−133739A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310518(P2007−310518)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
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