説明

イムノクロマトグラフィ装置

【課題】 大勢の患者に対してイムノクロマトグラフィ法を用いた検査を行う場合に、検査結果の照合を容易に行うことが可能なイムノクロマトグラフィ装置を提供すること。
【解決手段】 試薬固定部と、ケース6と、を備え、ケース6には、患者情報記入欄64が設けられている1以上の試験片Bが装填された状態で、上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段2と、検査処理を行うコントローラ3と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置Aであって、読取手段2は、患者情報記入欄64を読取可能に構成されており、コントローラ3は、読取手段2の読取処理によって得られた患者情報記入欄64の画像データを用いて検査結果出力データを生成するとともに、試験片Bが装填されてから試薬に応じた反応完了時間が経過した後に、上記試薬固定部の呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィ法に用いられる試験片の試薬呈色状態を読み取ることにより検査を行うイムノクロマトグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医院や診療所、あるいは在宅医療の現場において、臨床検査の専門家によらず検査を行うPOCT(Point of Care Testing)向けの検査装置として、イムノクロマトグラフィ装置が使用されている。図12は、従来のイムノクロマトグラフィ装置の一例を示している(たとえば、特許文献1)。同図に示されたイムノクロマトグラフィ装置Xには、試験片Yが装填される。試験片Yは、試薬が固定された複数の試薬固定部92を有する多孔質キャリア91を備えている。この試験片Yに検体である血液または尿などを点着させると、検体が多孔質キャリア91内に浸透する。検体が試薬固定部92に達すると、検体と試薬とが反応する。試薬固定部92は、検体に含まれる特定成分の濃度に応じて呈色反応を示す。試験片Yは、通常多孔質キャリア91を収容するケースを備えている。このケースは、多くの場合樹脂製であり、試薬固定部92を露出させる計測窓が形成されている。
【0003】
イムノクロマトグラフィ装置Xには、発光手段93および受光手段94が備えられている。イムノクロマトグラフィ装置Xに試験片Yが装填されると、たとえば使用者の操作によって、コントローラ95に対して検査開始命令が送られる。コントローラ95は、発光手段93を発光させる発光処理と、試薬固定部92を含む多孔質キャリア91によって反射された光を受光手段94によって受光する受光処理とを行う。受光手段94からの信号がコントローラ95に転送されると、コントローラ95に多孔質キャリア91のうち試薬固定部92を含む部分の画像データが蓄積される。この画像データを画像解析することにより、試薬固定部92の呈色状態に応じてたとえば検体に含まれる特定成分の有無が分かる。この検査結果は、プリンタなどの出力手段96によって出力される。使用者は、出力結果から検体の特定成分の有無を手軽に認識できる。
【0004】
しかしながら、たとえばインフルエンザ検査の場合、1つの医院において短時間の間に大勢の患者に対して検査が行われる。そして、これらの検査から得られた結果がいずれの患者のものであるかを正確に対応付ける必要がある。検査項目が同じであれば、試験片Yは同一であり、上記プリンタからの印刷内容には、せいぜい検査時間や連番が付される程度であるのが一般的である。このため、大勢の患者に対して検査を行うには、検査結果の照合という煩雑な作業が強いられていた。さらに、インフルエンザ検査とアレルギー検査が混在するなど、多項目検査を行う場合、それぞれの試験片Yの検査に要する時間が異なりうる。このような場合、印刷された検査結果と検査項目あるいは患者とを照合することはますます煩雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−250787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、大勢の患者に対してイムノクロマトグラフィ法を用いた検査を行う場合に、検査結果の照合を容易に行うことが可能なイムノクロマトグラフィ装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるイムノクロマトグラフィ装置は、検体を展開させるための多孔質キャリアと、上記多孔質キャリアに固定された試薬からなる1以上の試薬固定部と、上記多孔質キャリアを収容するケースと、を備え、上記ケースには、患者特定情報を記入するための患者特定情報領域が設けられている1以上の試験片が装填された状態で、上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段と、検査処理を行う制御手段と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置であって、上記読取手段は、上記患者特定情報領域を読取可能に構成されており、上記制御手段は、上記読取手段の読取処理によって得られた上記患者特定情報領域の画像データを用いて検査結果出力データを生成するとともに、上記試験片が装填されてから上記試薬に応じた反応完了時間が経過した後に、上記試薬固定部の呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行うことを特徴としている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態によれば、上記患者特定情報領域は、これを囲う部分よりも膨出している。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態によれば、上記患者特定情報領域は、これを囲う部分よりも粗い面とされている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態によれば、出力手段としてのプリンタをさらに備えており、上記プリンタは、上記制御手段から送られた上記検査結果出力データに基づいた印刷を行う。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態によれば、出力手段としての外部コネクタをさらに備えており、上記制御手段は、上記外部コネクタから上記検査結果出力データを送信可能に構成されている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態によれば、複数の上記試験片を装填可能とされている。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態によれば、上記読取手段は、上記試験片が装填されてから上記反応完了時間が経過するまでの間に、上記試薬の呈色状態を少なくとも1回以上読み取り、かつ上記制御手段は、この読み取りによって得られたデータを用いた予備検査処理の結果、検体と上記試薬との反応が完了していると判断した場合、この予備検査結果を上記試験片の検査結果とする。
【0014】
このような構成によれば、上記試験片に検体を点着する作業の前後に患者の氏名などの患者特定情報を上記患者特定情報領域に記入することにより、ある試験片がいずれの患者の検体を点着したものであるかを照合することができる。また、このような構成によれば、使用者は、検体を点着した後に、検査を行うのに適した状態となるまでの時間を管理する必要がない。したがって、使用者の負担を軽減するとともに、時間管理の不備による誤検査を防止することができる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る試験片の一例を示す全体斜視図である。
【図2】図1に示す試験片を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図2のV−V線に沿う断面図である。
【図6】本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置の一例を示す全体斜視図である。
【図7】図6に示すイムノクロマトグラフィ装置を示すシステム構成図である。
【図8】図6に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査の一実施例を示すチャートである。
【図9】図8に示す検査の結果を示すシートの平面図である。
【図10】図6に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査の他の実施例を示すチャートである。
【図11】図10に示す検査の結果を示すシートの平面図である。
【図12】従来のイムノクロマトグラフィ装置および試験片の一例を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1〜図5は、本発明に係る試験片の一例を示している。本実施形態の試験片Bは、ケース6、多孔質キャリア7、および試薬固定部8A,8B,8Cを備えており、後述するようにイムノクロマトグラフィ装置に装填されることにより、イムノクロマトグラフィ法による検査に供されるものである。試験片Bは、インフルエンザ検査などに用いられるものである。
【0019】
ケース6は、たとえば白色の樹脂からなる細長状とされたカバー6Aおよびベース6Bによって構成されており、多孔質キャリア7を収容している。ケース6は、点着部61、計測窓62、検査項目コード63、および患者情報記入欄64を有しており、陥没部6aおよび傾斜面6bが形成されている。
【0020】
点着部61は、検体を点着する部分であり、カバー6Aに形成された多孔質キャリア7の一端寄り部分を露出させる貫通孔とこの貫通孔を囲うクレータ状部とからなる。計測窓62は、カバー6Aの中央付近に設けられた細長状の貫通孔であり、多孔質キャリア7に形成された試薬固定部8A,8B,8Cを露出させている。検査項目コード63は、試験片Bによって検査可能な検査項目データを記録している部分であり、たとえば2次元コードとして印刷されている。
【0021】
患者情報記入欄64は、検査を受ける患者の情報、たとえば氏名などを手書きするための領域であり、本発明で言う患者特定情報領域の一例である。図2および図4に示すように、本実施形態においては、患者情報記入欄64は、これを囲う部分に対して矩形の台地状に膨出した部分とされている。また、図5に示すように、患者情報記入欄64の表面は、いわゆるシボ面とされており患者情報記入欄64以外の部分よりも粗い面となっている。図中の「京都太郎」の文字は、この試験片Bを用いた検査に検体を供した患者の氏名を、患者本人、あるいは使用者である看護師または検査技師が、たとえばフェルトペンなどの筆記具を用いて手書きしたものである。なお、患者情報記入欄64に記入される内容は、患者の氏名が想定されるが、これ以外に患者が所属する組織における識別番号やあだ名など、患者を特定しうる内容であればよい。
【0022】
陥没部6aは、計測窓62が形成された部分であり、図3に示すように、この陥没部6aをケース6の長手方向において挟む部分よりも、多孔質キャリア7寄りに位置している。本実施形態においては、検査項目コード63が、陥没部6aに付されており、ケース6の幅方向において計測窓62と隣接している。傾斜面6bは、ケース6の幅方向において計測窓62に繋がるように形成されている。本実施形態においては、傾斜面6bは、ケース6の幅方向に対して45度程度傾斜している。
【0023】
多孔質キャリア7は、点着部61から点着された検体を試薬固定部8A,8B,8Cを超えるように展開させるための部材であり、たとえばニトロセルロースからなる帯状部材である。試薬固定部8A,8B,8Cは、多孔質キャリア7に試薬が固定された部分である。本実施形態においては、試薬固定部8A,8Bは、たとえばインフルエンザ検査において陽性か陰性かを判断するための試薬が多孔質キャリア7の幅方向に延びる線状に固定されたものであり、一般的にテストラインと呼ばれる。試薬固定部8Cは、検体がテストラインである試薬固定部8A,8Bを適切に通過したことを判断するためのものであり、一般的にコントロールラインと呼ばれる。試薬固定部8Cは、検体と反応することにより呈色する試薬が多孔質キャリア7の幅方向に延びる線状に固定されたものである。
【0024】
図6および図7は、本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置の一例を示している。本実施形態のイムノクロマトグラフィ装置Aは、ケース1、読取手段2、コントローラ3、プリンタ4、および外部コネクタ5を備えており、装填された試験片Bの呈色状態を読み取ることによりイムノクロマトグラフィ法を用いた検査を行うことが可能に構成されている。なお、図7においては、理解の便宜上ケース1を省略している。
【0025】
図6に示すように、イムノクロマトグラフィ装置Aのケース1は、たとえば樹脂からなり、イムノクロマトグラフィ装置Aの他の構成要素である読取手段2、コントローラ3、プリンタ4、および外部コネクタ5を収容している。ケース1には、装填部11が形成されている。装填部11は、検体が点着された試験片Bを装填する部分である。本実施形態においては、装填部11は、CH1〜CH6に区切られており、6つの試験片Bを任意のタイミングと本数で装填可能とされている。装填部11の直上には、複数のLEDランプが設けられている。これらのLEDランプは、装填部11のうちそれぞれの直下の位置に試験片Bが装填されると、装填状態を示す色で点灯する。また、試験片Bの検査が完了したときには、検査完了を示す色で点灯する。図7に示すように、装填部11には6つのセンサ12が設けられている。これらのセンサ12は、CH1〜CH6のいずれに試験片Bが装填されているかを検出するために用いられる。
【0026】
図7に示すように、読取手段2は、発光モジュール21A,21B,21Cと、受光センサモジュール22A,22Bとを備えている。発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aは、試験片Bの計測窓62を通して試薬固定部8A,8B,8Cを読み取る機能と、検査項目コード63を読み取る機能とを果たす。発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bは、患者情報記入欄64を読み取る機能を果たす。読取手段2としては、発光モジュール21A,21B,21Cと、受光センサモジュール22A,22Bとが一体的に支持および駆動される構成のほかに、たとえば発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aと、発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bとが別々に支持および駆動される構成であってもよい。また、本実施形態とは異なり、1つの受光センサモジュール22Aによって、試薬固定部8A,8B,8C、検査項目コード63、および患者情報記入欄64を読み取る構成であってもよい。この場合、受光センサモジュール22Aとして、受光範囲が拡大されたものを用いればよい。
【0027】
発光モジュール21A,21Bは、たとえばLEDが内蔵されたモジュールであり、互いに異なる波長の光を発する。発光モジュール21A,21Bから照射される光は、試験片Bの長手方向に延びる線状光とされている。受光センサモジュール22Aは、たとえば複数のフォトダイオードが配列された構成、あるいはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。受光センサモジュール22Aの受光範囲は、試験片Bの長手方向に延びた細い帯状とされている。本実施形態においては、読取手段2がある試験片Bの直上に位置したときに、受光センサモジュール22Aが計測窓62に正対し、発光モジュール21A,21Bが受光センサモジュール22Aを挟んで計測窓62に対して45度程度の角度で光を照射する配置とされている。発光モジュール21A,21Bから互いに異なる波長の光を選択的に照射することにより、試薬固定部8A,8B,8Cを少なくとも2種類の色相の画像データとして読み取ることができる。
【0028】
発光モジュール21Cは、たとえばLEDが内蔵されたモジュールであり、所定の波長の光を照射する。発光モジュール21Cから照射される光は、試験片Bの長手方向に延びる線状光とされている。受光センサモジュール22Bは、たとえば複数のフォトダイオードが配列された構成、あるいはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。受光センサモジュール22Bの受光範囲は、試験片Bの長手方向に延びた細い帯状とされている。本実施形態においては、読取手段2がある試験片Bの直上に位置したときに、受光センサモジュール22Bが患者情報記入欄64に正対し、発光モジュール21Cが患者情報記入欄64に対して45度程度の角度で光を照射する配置とされている。
【0029】
読取手段2は、装填部11に装填された6つの試験片Bの直上を往復動自在とされている。具体的には、6つの試験片Bが配列された方向に延びるガイドバー(図示略)に対して摺動可能に支持されており、モータ、プーリ、ベルト(いずれも図示略)などの駆動手段によって駆動される。読取手段2が6つの試験片Bの直上を往復動すると、発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aは、6つの試験片Bの試薬固定部8A,8B,8Cと検査項目コード63とを交互に読み取ることができる。また、これと同時に、発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bは、6つの試験片Bの患者情報記入欄64を順次読み取ることができる。装填部11に6つの試験片B全てが装填されていない場合であっても、読取手段2は、装填されている試験片Bに対して読取処理を行うことができる。なお、計測窓62に対する検査項目コード63および患者情報記入欄64の配置は任意である。たとえば検査項目コード63と患者情報記入欄64との配置が入れ替わった試験片Bを用いる場合、受光センサモジュール22Aによって試薬固定部8A,8B,8Cおよび患者情報記入欄64を読取り、受光センサモジュール22Bによって検査項目コード63を読取ればよい。
【0030】
コントローラ3は、たとえばCPU、ROM、RAM、およびインターフェースを備えている。上記CPUは、イムノクロマトグラフィ装置A全体を制御する。上記ROMは、上記CPUで行われる処理のための様々なプログラムやパラメータを格納している。上記RAMは、プログラムや計測結果などを一時的に格納する。上記インターフェースは、コントローラ3の入出力機能を果たす。本実施形態においては、コントローラ3は、受光センサモジュール22Aによって得られた画像データを解析した結果である検査結果と、受光センサモジュール22Bから得られた画像データとを用いて、検査結果出力データを生成する。この検査結果出力データは、プリンタ4に送られる。
【0031】
プリンタ4は、コントローラ3から送られた検査結果出力データに基づいて試験片Bを対象とした検査結果を出力するデバイスであり、たとえばサーマルプリントヘッドを内蔵している。イムノクロマトグラフィ装置Aにおいて試験片Bの検査が終了すると、図9に示すように、検査項目に応じた検査結果が印刷される。
【0032】
外部コネクタ5は、検査結果出力データをイムノクロマトグラフィ装置A外に送信するための端子であり、たとえばRS−232C規格に準拠したシリアル通信が可能である。外部コネクタ5には、たとえばパーソナルコンピュータPcなどの情報処理装置が接続される。パーソナルコンピュータPcは、外部コネクタ5から送信された検査結果出力データを、ディスプレイに表示し、または内部記憶装置あるいは記録媒体に記録するといった処理を行う。
【0033】
次に、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査について、以下に説明する。
【0034】
〔実施例1〕
図8は、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査の一実施例を示している。本図は、横軸が時間を表し、反応進行曲線CvがCH1〜CH6に装填された試験片Bごとの反応の進行度合いを示している。点線で描かれた基準レベルLvは、検査可能となる反応の進行度合いを示している。また、本図における一点鎖線は、CH1〜CH6を往復動する読取手段2の軌跡を示している。本実施例では、6人の患者に対してインフルエンザ検査を行った。これらの患者から採取した検体を試験片Bに点着し、この試験片Bを装填部11に装填する作業を順に行った。6つの試験片Bには、各患者の氏名が患者情報記入欄64に記入されている。
【0035】
まず、最初に検体を点着した試験片Bを装填部11のCH1に装填した。この装填を検出したセンサ12からコントローラ3に装填信号が送られる。また、読取手段2は、CH1の試験片Bの直上を初めて通過するときの読取処理Pfにおいて検査項目コード63を読み取る。コントローラ3は、検査項目コード63に記載された検査項目に応じた反応完了時間Tr1をCH1に対して設定する。センサ12の検出によって定められるCH1の装填時刻から反応完了時間Tr1が経過するまでの間、読取手段2がCH1を横断するたびに複数の読取処理Ptが行われる。この読取処理Ptにおいては、試薬固定部8A,8B,8Cの読み取りが繰り返される。本実施例においては、反応完了時間Tr1内に読み取られた結果は、検査には用いられない。そして、反応完了時間Tr1が経過した後に、最初に行われる読取処理Pによって得られる試薬固定部8A,8B,8Cの読取結果がインフルエンザ検査に用いられる。試験片BがCH1に装填されてから反応完了時間Tr1が経過しているため、読取処理Pの時点においては、反応進行曲線Cvが基準レベルLvを上回っている。
【0036】
以上に述べたCH1における検査処理と並行して、CH2〜CH6に対する検査処理が行われる。本実施例においては、CH1〜CH6に装填された試験片Bの検査項目は同一であり、反応完了時間Tr1〜Tr6が同じである。このため、CH1〜CH6に対して装填した順に検査に用いられる読取処理がなされる。コントローラ3は、各試験片Bの検査項目および検査結果と、患者情報記入欄64を読取った画像データとを用いて、CH1〜CH6ごとに検査結果出力データを生成する。そして、これらの検査結果出力データがプリンタ4によって図9に示すように順次印刷される。印刷される内容には、日時、識別番号、装填位置(CH1〜CH6のいずれか)、検査項目、検査結果、さらに患者情報記入欄64に記載された氏名が含まれている。この印刷された氏名は、読取手段2の受光センサモジュール22Bによって読み取られた患者情報記入欄64の画像データをそのまま印刷したものである。なお、コントローラ3においては、明瞭に印刷することを目的として、患者情報記入欄64の画像データに対して二値化処理などの画像処理が適宜行われる。
【0037】
〔実施例2〕
図10は、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査の他の例を示している。本実施例においては、コントローラ3によって実行されるプログラムが上述した実施例の場合と異なっている。このプログラムは、試験片Bが装填されてから反応完了時間Tr1〜Tr6が経過するまでの読取処理Ptによる結果を用いて予備検査を行うように構成されている。
【0038】
CH2を例にとると、読取処理Pfが行われた後の読取処理Ptの結果に対して、予備検査が行われる。CH2の反応進行曲線Cvは、一般的な反応進行曲線Cv(図中二点鎖線の曲線)よりも反応が急峻に進行している。これは、CH2に装填された試験片Bに点着された検体が通常よりも速い反応速度で試薬と反応する傾向を示すものであることによる。このため、2回目の読取処理Ptの結果を用いた予備検査により、反応が基準レベルLvを超えていることが認識される。すると、コントローラ3は、その試験片Bにおける反応が想定された反応完了時間Tr2よりも早期に完了したとの判定を下し、その旨をプリンタ4によって出力する。言い換えると、2回目の読取処理Ptが、上述した読取処理Pに置き換えられるのである。そして、コントローラ3は、その試験片Bに対する検査処理を終了する。
【0039】
図11は、本実施例による検査結果の印刷例を示している。本実施例においては、6つの試験片がCH1〜CH6の順で装填されている。しかし、CH2に装填された試験片Bの検査処理が上述した予備検査によって完了したため、CH2の結果(図中「京都花子 CH2」)がCH1の結果(図中「京都太郎 CH1」)よりも先に印刷されている。
【0040】
次に、イムノクロマトグラフィ装置Aおよび試験片Bの作用について説明する。
【0041】
本実施形態によれば、プリンタ4から印刷された検査結果ごとにその患者の氏名が記される。このため、数人の患者に対して連続して行われた検査の結果がいずれの患者の結果であるのかを容易に照合することができる。
【0042】
イムノクロマトグラフィ装置Aは、複数の試験片Bを装填可能である。各試験片Bが装填されると、試験項目に応じた反応完了時間Tr1〜Tr6を経過させた後に自動的に検査がなされる。このため、イムノクロマトグラフィ装置Aの使用者は、各試験片Bに検体を点着させてから検査が可能となるまでの時間管理を行う必要が無い。これは、たとえばインフルエンザ検査のように大勢の患者に対して短時間に行われる検査に適している。それぞれの検査結果には患者の氏名が記されているため、ある患者の検査結果が他の患者のものとして照合されることを防止することができる。
【0043】
実施例2で述べた検査アルゴリズムによれば、たとえば試薬との反応速度が想定されたよりも速い検体が点着された試験片Bに対しては反応完了時間Tr2の全てを経過させる前に検査処理を完了することができる。これにより、試験片Bの検査時間を合理的に短縮することができる。また、予備検査によって検査を通常よりも短い時間で完了させた場合、複数の試験片Bの検査結果が印刷される順番は、これらの試験片Bを装填した順番から想定されるものとは異なることがある。しかしながら、本実施形態によれば、各試験結果とともに、患者情報記入欄64に記入されたたとえば氏名がそのまま印刷される。したがって、想定された順番とは異なる順番で検査結果が印刷される場合であっても、検査結果と患者との照合を適切に行うことができる。さらに、インフルエンザ検査とアレルギー検査とが混在する場合など、CH1〜CH6の反応完了時間Tr1〜Tr6がそれぞれ異なる場合においても、CH1〜CH6に装填された順番と、検査が完了する順番すなわち検査結果が印刷される順番とは大きく異なりうる。このような場合においても、患者情報記入欄64に記入された氏名などが検査結果とともにそのまま印刷されていることにより、検査結果と患者との照合を容易に行えるという効果を奏する。
【0044】
試験片Bの患者情報記入欄64は、台地状に膨出している。このため、使用者や患者が氏名を記入するときに患者情報記入欄64以外の領域に誤って記入してしまうことを防止することができる。また、患者情報記入欄64の表面を比較的粗いシボ面とすることにより、たとえばフェルトペンによる記入を容易とすることができる。
【0045】
本発明に係る試験片およびイムノクロマトグラフィ装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る試験片およびイムノクロマトグラフィ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0046】
患者情報記入欄64の形状は矩形状に限定されず、氏名などの患者特定情報を記入しやすい形状であればよい。患者情報記入欄64の表面をシボ面とすることに代えて、たとえばインクを吸収するのに適した白色塗料を塗布してもよい。患者情報記入欄64を膨出させることは、患者情報記入欄64からはみ出さないように記入するために適しているが、本発明に係る試験片はこれに限定されず、たとえば平坦な面に境界線によって縁取られた領域を患者情報記入欄64としてもよい。
【0047】
読取手段2としては、発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aと発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bとが一体的に走査される構成に限定されない。たとえば、患者情報記入欄64を読取るための発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bが、発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aとは独立して走査される構成であってもよい。また、読取手段2は、患者情報記入欄64の読取専用の発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bを備える構成に限定されず、発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aの少なくともいずれか、あるいはすべてを患者情報記入欄64の読取に兼用する構成であってもよい。出力手段としてのプリンタ4および外部コネクタ5は、いずれかを択一的に備えてもよい。また、イムノクロマトグラフィ装置Aに検査結果出力データを表示するための液晶ディスプレイを備えてもよい。本発明に係る試験片およびイムノクロマトグラフィ装置は、インフルエンザ検査に限定されず、イムノクロマトグラフィ法を用いた様々な検査に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
A イムノクロマトグラフィ装置
B 試験片
Cv 反応進行曲線
Lv 基準レベル
P,Pf,Pt 読取処理
Tr1〜Tr6 反応完了時間
1 ケース
2 読取手段
3 コントローラ(制御手段)
4 プリンタ(出力手段)
5 外部コネクタ(出力手段)
6 ケース
6A カバー
6B ベース
6a 陥没部
6b 傾斜面
7 多孔質キャリア
8A,8B,8C 試薬固定部
11 装填部
12 センサ
21A,21B,21C 発光モジュール
22A,22B 受光センサモジュール
61 点着部
62 計測窓
63 検査項目コード
64 患者情報記入欄(患者特定情報領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を展開させるための多孔質キャリアと、上記多孔質キャリアに固定された試薬からなる1以上の試薬固定部と、上記多孔質キャリアを収容するケースと、を備え、上記ケースには、患者特定情報を記入するための患者特定情報領域が設けられている1以上の試験片が装填された状態で、
上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段と、
検査処理を行う制御手段と、
を備えるイムノクロマトグラフィ装置であって、
上記読取手段は、上記患者特定情報領域を読取可能に構成されており、
上記制御手段は、上記読取手段の読取処理によって得られた上記患者特定情報領域の画像データを用いて検査結果出力データを生成するとともに、上記試験片が装填されてから上記試薬に応じた反応完了時間が経過した後に、上記試薬固定部の呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行うことを特徴とする、イムノクロマトグラフィ装置。
【請求項2】
上記患者特定情報領域は、これを囲う部分よりも膨出している、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項3】
上記患者特定情報領域は、これを囲う部分よりも粗い面とされている、請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項4】
出力手段としてのプリンタをさらに備えており、
上記プリンタは、上記制御手段から送られた上記検査結果出力データに基づいた印刷を行う、請求項1ないし3のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項5】
出力手段としての外部コネクタをさらに備えており、
上記制御手段は、上記外部コネクタから上記検査結果出力データを送信可能に構成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項6】
複数の上記試験片を装填可能とされている、請求項1ないし5のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項7】
上記読取手段は、上記試験片が装填されてから上記反応完了時間が経過するまでの間に、上記試薬の呈色状態を少なくとも1回以上読み取り、かつ上記制御手段は、この読み取りによって得られたデータを用いた予備検査処理の結果、検体と上記試薬との反応が完了していると判断した場合、この予備検査結果を上記試験片の検査結果とする、請求項6に記載のイムノクロマトグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−150129(P2012−150129A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110236(P2012−110236)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−283021(P2007−283021)の分割
【原出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】