説明

イムノクロマトグラフィ装置

【課題】イムノクロマトグラフィ法を用いた検査を効率よく行うことが可能なイムノクロマトグラフィ装置を提供すること。
【解決手段】試薬が固定された試薬固定部を有する多孔質キャリアを備えており、かつこの多孔質キャリアに検体が点着された試験片が装填された状態で、上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段と、検査処理を行う制御手段と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置であって、上記制御手段は、上記試験片が装填されてから上記試薬に応じた反応完了時間Tr1〜Tr6が経過した後に、上記試薬固定部の呈色状態を読取処理Pによって読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィ法を用いて、試験片の試薬呈色状態を読み取ることにより検査を行うイムノクロマトグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医院や診療所、あるいは在宅医療の現場において、臨床検査の専門家によらず検査を行うPOCT(Point of Care Testing)向けの検査装置として、イムノクロマトグラフィ装置が使用されている。図10は、従来のイムノクロマトグラフィ装置の一例を示している(たとえば、特許文献1)。同図に示されたイムノクロマトグラフィ装置Xには、試験片Yが装填される。試験片Yは、試薬が固定された複数の試薬固定部92を有する多孔質キャリア91を備えている。この試験片Yに検体である血液または尿などを点着させると、検体が多孔質キャリア91内に浸透する。検体が試薬固定部92に達すると、検体と試薬とが反応する。試薬固定部92は、検体に含まれる特定成分の濃度に応じて呈色反応を示す。
【0003】
イムノクロマトグラフィ装置Xには、発光手段93および受光手段94が備えられている。イムノクロマトグラフィ装置Xに試験片Yが装填されると、たとえば使用者の操作によって、コントローラ95に対して検査開始命令が送られる。コントローラ95は、発光手段93を発光させる発光処理と、試薬固定部92を含む多孔質キャリア91によって反射された光を受光手段94によって受光する受光処理とを行う。受光手段94からの信号がコントローラ95に転送されると、コントローラ95に多孔質キャリア91のうち試薬固定部92を含む部分の画像データが蓄積される。この画像データを画像解析することにより、試薬固定部92の呈色状態に応じてたとえば検体に含まれる特定成分の有無が分かる。この検査結果は、プリンタなどの出力手段96によって出力される。使用者は、出力結果から検体の特定成分の有無を手軽に認識できる。
【0004】
しかしながら、試験片Yに検体が点着されてから適切に検査が行えるように反応が完了するまでには、試薬に応じた反応完了時間を経過させる必要がある。このため、使用者は、試験片Yに検体を点着させた後、イムノクロマトグラフィ装置Xによって検査を行うまでの間、時間を計測しておくことが強いられる。
【0005】
たとえばインフルエンザ検査の場合、1つの医院において短時間の間に大勢の患者に対して検査を行う必要がある。この場合、大勢の患者から採取した検体を、異なるタイミングで点着した多数の試験片Yのそれぞれについて、反応完了時間の管理を行うことが強いられる。しかも、これらの試験片Yを滞りなく検査するには、検体を試験片Yに点着させるタイミングを意図的にずらしておくなどの工夫が必要となる。
【0006】
また、たとえばアレルギー検査の場合、一人の患者に対して多数の項目を検査する必要がある。このため、検体を1回採取すると、この検体を多数の試験片Yに点着する。これらの試験片Yは、それぞれに検査項目が異なるため、適切な検査が可能となる反応完了時間がそれぞれに異なる場合もあり得る。多数の試験片Yについて異なる反応完了時間の管理を行いつつ、イムノクロマトグラフィ装置Xへの装填および検査を繰り返すことは、非常に煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−250787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、イムノクロマトグラフィ法を用いた検査を効率よく行うことが可能なイムノクロマトグラフィ装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって提供されるイムノクロマトグラフィ装置は、試薬が固定された1以上の試薬固定部を有する多孔質キャリアを備えており、かつこの多孔質キャリアに検体が点着された1以上の試験片が装填された状態で、上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段と、検査処理を行う制御手段と、を備えるイムノクロマトグラフィ装置であって、上記制御手段は、上記試験片が装填されてから上記試薬に応じた反応完了時間が経過した後に、上記試薬の呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行うとともに、複数の上記試験片を装填可能とされており、上記読取手段は、上記試験片が装填されてから上記反応完了時間が経過するまでの間に、上記試薬固定部の呈色状態を少なくとも1回以上読み取り、かつ上記制御手段は、この読み取りによって得られたデータを用いた予備検査処理の結果、検体と上記試薬との反応が完了していると判断した場合、この予備検査結果を上記試験片の検査結果とすることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、検体を上記試験片に点着した後に検査が行える状態になるまで、使用者が時間を計測しておく必要がない。このため、使用者は、その他の試験片に検体を点着する作業などを引き続き行うことができる。また、上記イムノクロマトグラフィ装置に装填された上記試験片に対しては、適切な時間が経過した後に確実に検査が行われる。したがって、上記イムノクロマトグラフィ装置を用いた検査を効率よく行うことができる。また、このような構成によれば、たとえば複数の患者に対してインフルエンザ検査を行う場合や、一人の患者に対して複数項目のアレルギー検査を行う場合に、上記試験片に検体を点着する作業と上記イムノクロマトグラフィ装置による検査処理を効率よく行うことができる。また、このような構成によれば、上記試験片の検査時間を合理的に短縮することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記試験片に記録された検査項目情報を読み取り、この検査項目情報に基づいて上記反応完了時間を設定する。このような構成によれば、使用者が検査項目に応じた上記反応完了時間を手作業で入力することなどが不要である。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記試験片が装填されたことを検出するセンサをさらに備えている。このような構成によれば、上記反応完了時間の計測を自動的に開始することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記複数の試験片を一方向に並べた状態で装填可能とされており、上記読取手段は、上記複数の試験片に対してこれらの配列方向に走査する。このような構成によれば、上記読取手段によって上記複数の試験片の全てに対して読取処理を満遍なく行うことができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記読取手段は、上記試験片が装填された後、上記反応完了時間経過前において走査している。このような構成によれば、上記反応完了時間が経過した後に遅滞無く検査処理を行うことができる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置の一例を示す全体斜視図である。
【図2】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置を示すシステム構成図である。
【図3】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置に装填される試験片の一例を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査の一実施例を示すチャートである。
【図6】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査の結果を示すシートの平面図である。
【図7】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査の他の実施例を示すチャートである。
【図8】図1に示すイムノクロマトグラフィ装置による検査のさらに他の実施例を示すチャートである。
【図9】検体ごとの反射率の例を示すグラフである。
【図10】従来のイムノクロマトグラフィ装置の一例を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置の一例を示している。本実施形態のイムノクロマトグラフィ装置Aは、ケース1、読取手段2、コントローラ3、およびプリンタ4を備えており、装填された試験片Bを読み取ることによりイムノクロマトグラフィ法を用いた検査を行うことが可能に構成されている。なお、図2においては、理解の便宜上ケース1を省略している。
【0019】
図3および図4は、イムノクロマトグラフィ装置Aに装填される試験片Bを示している。試験片Bは、点着された検体が試薬と反応する場であり、イムノクロマトグラフィ装置Aによって検査するのに適した形状およびサイズとされている。試験片Bは、ケース6、多孔質キャリア7、および試薬固定部8A,8B、8Cを有している。同図に示された試験片Bは、インフルエンザ検査などに用いられるものである。
【0020】
ケース6は、たとえば白色の樹脂からなる細長状とされており、多孔質キャリア7を収容している。ケース6は、点着部61、計測窓62、検査項目コード63、および患者情報記入欄64を有している。点着部61は、検体を点着する部分であり、多孔質キャリア7の一端寄り部分を露出させる貫通孔とこの貫通孔を囲うクレータ状部とからなる。計測窓62は、ケース6の中央付近に設けられた細長状の貫通孔であり、多孔質キャリア7に形成された試薬固定部8A,8B,8Cを露出させている。検査項目コード63は、試験片Bによって検査可能な検査項目データを記録している部分であり、たとえば2次元コードとして印刷されている。患者情報記入欄64は、検査を受ける患者の情報、たとえば氏名などを手書きするための領域である。
【0021】
多孔質キャリア7は、点着部61から点着された検体を試薬固定部8A,8B,8Cを超えるように展開させるための部材であり、たとえばニトロセルロースからなる帯状部材である。試薬固定部8A,8B,8Cは、多孔質キャリア7に試薬が固定された部分である。本実施形態においては、試薬固定部8A,8Bは、たとえばインフルエンザ検査において陽性か陰性かを判断するための試薬が多孔質キャリア7の幅方向に延びる線状に固定されたものであり、一般的にテストラインと呼ばれる。試薬固定部8Cは、検体がテストラインである試薬固定部8A,8Bを適切に通過したことを判断するためのものであり、一般的にコントロールラインと呼ばれる。試薬固定部8Cは、検体と反応することにより呈色する試薬が多孔質キャリア7の幅方向に延びる線状に固定されたものである。
【0022】
図1に示すように、イムノクロマトグラフィ装置Aのケース1は、たとえば樹脂からなり、イムノクロマトグラフィ装置Aの他の構成要素である読取手段2、コントローラ3、およびプリンタ4を収容している。ケース1には、装填部11が形成されている。装填部11は、検体が点着された試験片Bを装填する部分である。本実施形態においては、装填部11は、CH1〜CH6に区切られており、6つの試験片Bを任意のタイミングと本数で装填可能とされている。装填部11の直上には、複数のLEDランプが設けられている。これらのLEDランプは、装填部11のうちそれぞれの直下の位置に試験片Bが装填されると、装填状態を示す色で点灯する。また、試験片Bの検査が完了したときには、検査完了を示す色で点灯する。図2に示すように、装填部11には6つのセンサ12が設けられている。これらのセンサ12は、CH1〜CH6のいずれに試験片Bが装填されているかを検出するために用いられる。
【0023】
図2に示すように、読取手段2は、発光モジュール21A,21B,21Cと、受光センサモジュール22A,22Bとを備えている。発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aは、試験片Bの計測窓62を通して試薬固定部8A,8B,8Cを読み取る機能と、検査項目コード63を読み取る機能とを果たす。発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bは、患者情報記入欄64を読み取る機能を果たす。読取手段2としては、発光モジュール21A,21B,21Cと、受光センサモジュール22A,22Bとが一体的に支持および駆動される構成のほかに、たとえば発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aと、発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bとが別々に支持および駆動される構成であってもよい。
【0024】
発光モジュール21A,21Bは、たとえばLEDが内蔵されたモジュールであり、互いに異なる波長の光を発する。発光モジュール21A,21Bから照射される光は、試験片Bの長手方向に延びる線状光とされている。受光センサモジュール22Aは、たとえば複数のフォトダイオードが配列された構成、あるいはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。受光センサモジュール22Aの受光範囲は、試験片Bの長手方向に延びた細い帯状とされている。本実施形態においては、読取手段2がある試験片Bの直上に位置したときに、受光センサモジュール22Aが計測窓62に正対し、発光モジュール21A,21Bが受光センサモジュール22Aを挟んで計測窓62に対して45度程度の角度で光を照射する配置とされている。発光モジュール21A,21Bから互いに異なる波長の光を選択的に照射することにより、試薬固定部8A,8B,8Cを少なくとも2種類の色相の画像データとして読み取ることができる。
【0025】
発光モジュール21Cは、たとえばLEDが内蔵されたモジュールであり、所定の波長の光を照射する。発光モジュール21Cから照射される光は、試験片Bの長手方向に延びる線状光とされている。受光センサモジュール22Bは、たとえば複数のフォトダイオードが配列された構成、あるいはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。受光センサモジュール22Bの受光範囲は、試験片Bの長手方向に延びた細い帯状とされている。本実施形態においては、読取手段2がある試験片Bの直上に位置したときに、受光センサモジュール22Bが患者情報記入欄64に正対し、発光モジュール21Cが患者情報記入欄64に対して45度程度の角度で光を照射する配置とされている。
【0026】
読取手段2は、装填部11に装填された6つの試験片Bの直上を往復動自在とされている。具体的には、6つの試験片Bが配列された方向に延びるガイドバー(図示略)に対して摺動可能に支持されており、モータ、プーリ、ベルト(いずれも図示略)などの駆動手段によって駆動される。読取手段2が6つの試験片Bの直上を往復動すると、発光モジュール21A,21Bおよび受光センサモジュール22Aは、6つの試験片Bの計測窓62と検査項目コード63とを交互に読み取ることができる。また、これと同時に、発光モジュール21Cおよび受光センサモジュール22Bは、6つの試験片Bの患者情報記入欄64を順次読み取ることができる。装填部11に6つの試験片B全てが装填されていない場合であっても、読取手段2は、装填されている試験片Bに対して読取処理を行うことができる。なお、計測窓62に対する検査項目コード63および患者情報記入欄64の配置は任意である。たとえば検査項目コード63と患者情報記入欄64との配置が入れ替わった試験片Bを用いる場合、受光センサモジュール22Aによって試薬固定部8A,8B,8Cおよび患者情報記入欄64を読取り、受光センサモジュール22Bによって検査項目コード63を読取ればよい。
【0027】
コントローラ3は、たとえばCPU、ROM、RAM、およびインターフェースを備えている。上記CPUは、イムノクロマトグラフィ装置A全体を制御する。上記ROMは、上記CPUで行われる処理のための様々なプログラムやパラメータを格納している。上記RAMは、プログラムや計測結果などを一時的に格納する。上記インターフェースは、コントローラ3の入出力機能を果たす。
【0028】
プリンタ4は、試験片Bを対象とした検査結果を出力するデバイスであり、たとえばサーマルプリントヘッドを内蔵している。イムノクロマドグラフィ装置Aにおいて試験片Bの検査が終了すると、図6に示すように、検査項目に応じた検査結果が印刷される。
【0029】
次に、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査について、以下に説明する。
【0030】
〔実施例1〕
図5は、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査の一実施例を示している。本図は、横軸が時間を表し、反応進行曲線CvがCH1〜CH6に装填された試験片Bごとの反応の進行度合いを示している。点線で描かれた基準レベルLvは、検査可能となる反応の進行度合いを示している。また、本図における一点鎖線は、CH1〜CH6を往復動する読取手段2の軌跡を示している。本実施例では、6人の患者に対してインフルエンザ検査を行った。これらの患者から採取した検体を試験片Bに点着し、この試験片Bを装填部11に装填する作業を順に行った。6つの試験片Bには、各患者の氏名が患者情報記入欄64に記入されている。
【0031】
まず、最初に検体を点着した試験片Bを装填部11のCH1に装填した。この装填を検出したセンサ12からコントローラ3に装填信号が送られる。また、読取手段2は、CH1の試験片Bの直上を初めて通過するときの読取処理Pfにおいて検査項目コード63を読み取る。コントローラ3は、検査項目コード63に記載された検査項目に応じた反応完了時間Tr1をCH1に対して設定する。センサ12の検出によって定められるCH1の装填時刻から反応完了時間Tr1が経過するまでの間、読取手段2がCH1を横断するたびに複数の読取処理Ptが行われる。この読取処理Ptにおいては、試薬固定部8A,8B,8Cの読み取りが繰り返される。本実施例においては、反応完了時間Tr1内に読み取られた結果は、検査には用いられない。そして、反応完了時間Tr1が経過した後に、最初に行われる読取処理Pによって得られる試薬固定部8A,8B,8Cの読取結果がインフルエンザ検査に用いられる。試験片BがCH1に装填されてから反応完了時間Tr1が経過しているため、読取処理Pの時点においては、反応進行曲線Cvが基準レベルLvを上回っている。
【0032】
以上に述べたCH1における検査処理と平行して、CH2〜CH6に対する検査処理が行われる。本実施例においては、CH1〜CH6に装填された試験片Bの検査項目は同一であり、反応完了時間Tr1〜Tr6が同じである。このため、CH1〜CH6に対して装填した順に検査に用いられる読取処理がなされる。この6人の患者から採取した検体に対する検査の結果は、プリンタ4によって図6に示すように順次印刷される。印字される内容には、日時、識別番号、装填位置(CH1〜CH6のいずれか)、検査項目、検査結果、さらに患者情報記入欄64に記載された氏名が含まれている。この印刷された氏名は、読取手段2の受光センサモジュール22Bによって読み取られた患者情報記入欄64の画像データをそのまま印刷したものである。なお、コントローラ3においては、明瞭に印刷することを目的として、患者情報記入欄64の画像データに対して二値化処理などの画像処理が適宜行われる。
【0033】
〔実施例2〕
図7は、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査の他の例を示している。本実施例では、一人の患者から採取した検体について、アレルギー検査を含めた6つの多項目検査を行っている。まず、装填部11のCH1〜CH3に3つの試験片Bを装填した。次いで、CH4〜CH6に3つの試験片Bを装填した。CH1〜CH6においては、それぞれの読取処理Pfにおいて検査項目コード63が読み取られる。これにより、反応完了時間Tr1〜Tr6が設定される。本実施例においては、CH1〜CH6に装填された6つの試験片Bの検査項目がそれぞれ異なるため、反応完了時間Tr1〜Tr6は様々な長さに設定されている。
【0034】
CH1〜CH6においては、それぞれのセンサ12によって試験片Bの装填を検出した時刻から、反応完了時間Tr1〜Tr6を経過させた後に、読取処理Pが行われる。たとえば、CH1〜CH3の試験片Bは、ほぼ同時に装填されたものであるが、反応完了時間Tr1〜Tr3が異なるため、読取処理Pがなされるタイミングが異なっている。また、CH4に装填された試験片Bは、CH2に装填された試験片Bよりも装填された時刻は後であるが、反応完了時間Tr4が反応完了時間Tr2よりも顕著に短いため、CH4に装填された試験片Bよりも先に読取処理Pが行われる。CH1〜CH6における検査結果は、読取処理Pが完了した順でプリンタ4によって印刷される。
【0035】
〔実施例3〕
図8は、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査のさらに他の例を示している。本実施例においては、コントローラ3によって実行されるプログラムが上述した実施例の場合と異なっている。このプログラムは、試験片Bが装填されてから反応完了時間Tr1〜Tr6が経過するまでの読取処理Ptによる結果を用いて予備検査を行うように構成されている。CH2を例にとると、読取処理Pfが行われた後の読取処理Ptの結果に対して、予備検査が行われる。CH2の反応進行曲線Cvは、一般的な反応進行曲線Cv(図中二点鎖線の曲線)よりも反応が急峻に進行している。これは、CH2に装填された試験片Bに点着された検体が通常よりも速い反応速度で試薬と反応する傾向を示すものであることによる。このため、2回目の読取処理Ptの結果を用いた予備検査により、反応が基準レベルLvを超えていることが認識される。すると、コントローラ3は、その試験片Bにおける反応が想定された反応完了時間Tr2よりも早期に完了したとの判定を下し、その旨をプリンタ4によって出力する。言い換えると、2回目の読取処理Ptが、上述した読取処理Pに置き換えられるのである。そして、コントローラ3は、その試験片Bに対する検査処理を終了する。
【0036】
次に、イムノクロマトグラフィ装置Aの作用について説明する。
【0037】
本実施形態によれば、検体を試験片Bに点着した後に検査が行える状態になるまで、使用者が時間を計測しておく必要がない。このため、使用者は、その他の試験片Bに検体を点着する作業などを引き続き行うことができる。また、イムノクロマトグラフィ装置Aに装填された試験片Bに対しては、適切な時間が経過した後に確実に検査が行われる。したがって、イムノクロマトグラフィ装置Aを用いた検査を効率よく行うことができる。
【0038】
検査項目コード63を読み取ることにより、反応完了時間Tr1〜Tr6は自動的に設定される。これにより、使用者が検査項目に応じた反応完了時間Tr1〜Tr6を手作業で入力することなどが不要である。また、コントローラ3は、センサ12によって試験片Bの装填時刻を正確に把握可能である。これにより、反応完了時間Tr1〜Tr6の計測を自動的に開始することができる。
【0039】
このように、イムノクロマトグラフィ装置Aによれば、使用者は試験片Bをイムノクロマトグラフィ装置Aに装填するだけで適切な検査結果を得ることができる。このため、最大6つの試験片Bを装填可能な構成でありながら、使用者の作業が不当に煩雑となることを防止することができる。すなわち、実施例1で示したように、大勢のインフルエンザ検査を順序よく効率的に行うことができる。また、実施例2で示したように、それぞれの反応完了時間が異なる複数の異なる項目の検査を行う場合であっても、検査作業が煩雑となることを回避することができる。イムノクロマトグラフィ装置Aは、装填から結果出力までを全自動で行うことが可能であるため、使用者が操作するための操作手段としては、電源ボタンを備える程度ですむ。
【0040】
読取手段2がCH1〜CH6を逐次走査する構成とすることにより、装填部11に装填された全ての試験片Bに対して満遍なく読取処理Pf,Pt,Pを行うことができる。読取手段2が試験片Bの長手方向すなわち走査方向と直角である方向に延びる帯状領域を一括して読み取る構成であることにより、CH1〜CH6までを読取手段2が走査するだけで、全ての読取処理を行うことができる。このため、読取手段2を上述した走査方向に加えて試験片Bの長手方向にさらに走査させる必要がない。これにより、読取に要する時間を短縮することができる。
【0041】
実施例3で述べた検査アルゴリズムによれば、たとえば試薬との反応速度が想定されたよりも速い検体が点着された試験片Bに対しては反応完了時間Tr2の全てを経過させる前に検査処理を完了することができる。これにより、試験片Bの検査時間を合理的に短縮することができる。
【0042】
〔実施例4〕
血液を対象とした検査を行う場合、一般的に全血、血漿、血清などの態様で検体が供される。これらのうち、全血は、血漿や血清と比べて、同じ検体量であれば血球成分を含むため、試薬に対する反応が弱い傾向を示す。このため、本実施例においては、検体が全血である場合と血漿または血清である場合とで、検査結果に対して補正を行う。
【0043】
図9は、全血と血清とを試験片Bに点着させたときの多孔質キャリア7の反射率を測定した結果を示している。G1が血清の測定結果であり、G2〜G4が全血の測定結果である。G2,G3,G4は、Ht(ヘマトクリット)値が、30%、45%、60%である。グラフの横軸は時間tであり、縦軸は反射率Rである。反射率Rは、たとえば白色プレートなどの基準材の反射率をあらかじめ測定し、これを100%とした場合の相対的な値である。同図に示すように、検体が血清の場合、反射率Rは、試験片Bに点着した直後から100%に近い値をであった。一方、検体が全血である場合、G2〜G4から理解されるように、点着直後から3分程度の間は、Ht値によらず反射率Rが30%以下であった。そして、点着後5分が経過すると、G2〜G4は、いずれも反射率Rが100%に近い値となった。
【0044】
以上より、本実施例においては、試験片Bがイムノクロマトグラフィ装置Aに装填されてから、発光モジュール21A,21Bによる照射を開始し、受光センサモジュール22Aの受光状態から反射率Rを算出する。反射率Rの算出結果が装填後5分以内に1回でも90%以下となったものは、検体が全血であるとコントローラ3によって判断される。そして、この試験片Bの検査処理には、たとえば血清あるいは血漿を対象とした検査よりも基準レベルLvを低く設定する。
【0045】
このような実施例によれば、検体が全血であるのか、血漿または血清であるのかによらず、正確な検査を行うことができる。反射率Rによって全血か血漿または血清であるかを判別することにより、基準レベルLvの再設定などの補正を自動的に行うことができる。
【0046】
なお、全血であるか、血漿または血清であるかの判別は、反射率Rを用いた手法に限定されない。たとえば、検体の血球分離を行う構成の場合、血球分離処理前後における血球分離膜の色の変化を検出することにより、検体が全血であるか血漿または血清であるのかを判別することができる。
【0047】
本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るイムノクロマトグラフィ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0048】
イムノクロマトグラフィ装置Aに装填可能な試験片Bの数は、上述した実施形態に限定されず、6つよりも多くても少なくてもよい。試験片Bの装填可能数が多いほど、効率よく検査を行うのに有利である。また、装填可能数が1つであっても、使用者が反応完了時間を測定する必要がないという利益が得られるのはもちろんである。読取手段2によって検査項目コード63や患者情報記入欄64を読み取る構成は、自動的な検査に好適であるが、本発明はこれに限定されない。使用者の若干の負担が許される場合、たとえば検査項目や反応完了時間を手作業で入力する構成としてもよい。読取手段2は、試薬固定部8A,8B,8Cを適切に読取可能な構成であればよく、照射光および受光範囲が試験片Bの長手方向に延びている構成に限定されない。本発明のイムノクロマトグラフィ装置は、イムノクロマトグラフィ法を用いた様々な検査に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
A イムノクロマトグラフィ装置
B 試験片
Cv 反応進行曲線
Lv 基準レベル
P,Pf,Pt 読取処理
Tr1〜Tr6 反応完了時間
1 ケース
2 読取手段
3 コントローラ(制御手段)
4 プリンタ
6 ケース
7 多孔質キャリア8A,8B,8C 試薬固定部
11 装填部
12 センサ
発光モジュール 21A,21B,21C
受光センサモジュール 22A,22B
61 点着部
62 計測窓
63 検査項目コード
64 患者情報記入欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬が固定された1以上の試薬固定部を有する多孔質キャリアを備えており、かつこの多孔質キャリアに検体が点着された1以上の試験片が装填された状態で、
上記試薬固定部の呈色状態を読み取る読取手段と、
検査処理を行う制御手段と、
を備えるイムノクロマトグラフィ装置であって、
上記制御手段は、上記試験片が装填されてから上記試薬に応じた反応完了時間が経過した後に、上記試薬の呈色状態を読み取ることにより得られたデータを用いて検査処理を行うとともに、
複数の上記試験片を装填可能とされており、
上記読取手段は、上記試験片が装填されてから上記反応完了時間が経過するまでの間に、上記試薬固定部の呈色状態を少なくとも1回以上読み取り、かつ上記制御手段は、この読み取りによって得られたデータを用いた予備検査処理の結果、検体と上記試薬との反応が完了していると判断した場合、この予備検査結果を上記試験片の検査結果とすることを特徴とする、イムノクロマトグラフィ装置。
【請求項2】
上記試験片に記録された検査項目情報を読み取り、この検査項目情報に基づいて上記反応完了時間を設定する、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項3】
上記試験片が装填されたことを検出するセンサをさらに備えている、請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項4】
上記複数の試験片を一方向に並べた状態で装填可能とされており、
上記読取手段は、上記複数の試験片に対してこれらの配列方向に走査する、請求項1ないし3のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィ装置。
【請求項5】
上記読取手段は、上記試験片が装填された後、上記反応完了時間経過前において走査している、請求項4に記載のイムノクロマトグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−76711(P2013−76711A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6187(P2013−6187)
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2008−127149(P2008−127149)の分割
【原出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】