説明

イムノクロマトシステムおよびイムノクロマトシステムを用いた濃度測定方法

【課題】 イムノクロマトグラフィーによる被測定物質の定量測定において、被測定物質の濃度をより高精度に測定可能なイムノクロマトシステムおよびイムノクロマトシステムを用いた濃度測定方法を提供すること。
【解決手段】 抗原抗体反応によって被測定物質の濃度を測定するためのイムノクロマトシステム1であって、前記被測定物質の濃度を示す呈色物質が発色する呈色部32bを有するメンブレン部32と前記メンブレン部を保持する基部31とを備える試料ケース2と、前記基部31または前記メンブレン部32の温度を一定に保持する温度制御部5と、を備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応によって被測定物質の濃度を測定するためのイムノクロマトシステムおよびイムノクロマトシステムを用いた濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イムノクロマトグラフィーにより被測定物質の濃度測定を行う装置として、メンブレン部と、メンブレン部を保持する基部と、基部又はメンブレン部に設置され、試料が添加されてから呈色物質が発色するまでにおこる反応に影響を与える因子の物理量を計測する計測要素とを有する濃度測定用イムノクロマトデバイスが開示されている。反応に影響を与える因子の物理量は温度であり、具体的には、温度感知部と温度記録部と温度送信部と温度表示部とを有する温度計測要素がメンブレン部又は基部に設置される。さらに、試料が添加されてから呈色物質が発色するまでにおこる反応に影響を与える因子である温度を測定して、被測定物質の濃度を算出する際に温度に基づいて補正する旨が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−47590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、試料が添加されてから呈色物質が発色するまでにおこる反応に影響を与える因子である温度を測定して、被測定物質の濃度を算出する際に温度に基づいて補正する旨が記載されているが、イムノクロマトグラフィーに使用される抗体がタンパク質からできているため抗原抗体反応は、微量の温度変化にも大きな影響を受ける。そのため、十分な測定精度が得られない問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、イムノクロマトグラフィーによる被測定物質の定量測定において、被測定物質の濃度をより高精度に測定可能なイムノクロマトシステムおよびイムノクロマトシステムを用いた濃度測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために講じた第1の課題解決手段は、抗原抗体反応によって被測定物質の濃度を測定するためのイムノクロマトシステムであって、前記被測定物質の濃度により呈色物質が発色する呈色部を有するメンブレン部と前記メンブレン部を保持する基部とを備える試料ケースと、前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に調節する温度制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、第2の課題解決手段は、複数の前記試料ケースを載置可能な基板を備え、前記度制御部は前記基板に載置される前記試料ケースの前記基部または前記メンブレン部の温度をペルチェ素子により制御することを特徴とする。
【0008】
また、第3の課題解決手段は、前記呈色物質に応じた反応温度情報を記録する情報記憶部と、該記情報記憶部の情報を読み取る情報読取部と、を備え、前記温度制御部は、該情報記憶部の反応温度情報に基づいて前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に保つことを特徴とする。
【0009】
また、第4の課題解決手段は、前記試料ケースを挿入する挿入部を備えた濃度測定装置の中に前記温度制御装置を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第5の課題解決手段は、イムノクロマトシステムを用いて被測定物質の濃度を測定する濃度測定方法であって、前記被測定物質を含む試料を前記試料ケースの試料添加部に添加する試料添加工程と、前記試料が前記試料添加部から前記メンブレン部内を移動し、移動に伴い免疫反応及び/又は酵素反応によって前記呈色物質が前記呈色部で発色反応する反応工程と、前記反応中に前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に保持する温度制御工程と、前記反応後に前記呈色部に表われた呈色度を光学的に測定する呈色度測定工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度制御部が試料ケースの基部またはメンブレン部の温度を一定に保持するため、複数の被測定物質の濃度を測定する際に測定条件が一定になるように制御できる。従って、温度のばらつきを抑制でき、イムノクロマトグラフィーによる被測定物質の定量測定において、従来より高精度に被測定物質の濃度を測定可能となる。温度制御部は基板に載置される試料ケースの基部またはメンブレン部の温度を制御するペルチェ素子を備えるため、コンパクトな構成で加熱および冷却できる。そのため、温度を制御したい部分に対し局部的に温度制御でき、基板に複数の試料ケースを載置した場合に、同じ温度に制御することも試料毎に適切な温度に制御することもできる。
【0012】
また、呈色物質に応じて情報記憶部に記録された反応温度情報に基づいて基部またはメンブレン部の温度を一定に保つため、呈色物質が発色する最適な温度に制御することができる。
【0013】
また、濃度測定装置と温度制御装置とを一体に構成したため、挿入部に試料ケースを挿入した状態で温度制御できる。これにより、温度を一定に保持したまま抗原抗体反応による呈色部の発色を経時的に測定できる。また、温度を一定に保持したまま呈色反応に必要な時間が経過したらすぐに測定できる。試料ケースが温度の異なる雰囲気に曝されることがないため、被測定物質の濃度をより高精度に測定可能となる。
【0014】
また、このようなイムノクロマトシステムを用いて被測定物質の濃度を測定することにより、反応工程において濃度測定に影響を与える因子である温度を一定に保持し、複数の被測定物質の濃度を測定する際に測定条件が一定になるように制御できる。従って、温度のばらつきを抑制でき、従来より高精度に被測定物質の濃度を測定可能な濃度測定方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施例にかかるイムノクロマトシステムを示す概略図である。
【図2】第二実施例にかかるイムノクロマトシステムを示す概略図である。
【図3】第三実施例にかかるイムノクロマトシステムを示す概略図である。
【図4】第四実施例にかかる濃度測定装置に温度制御部を備えた場合のイムノクロマトシステムを示すを示す概略図である。
【図5】第四実施例にかかる濃度測定装置で測定された被検体物質の濃度値の測定温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
(第一実施例)
図1は、本発明の第一実施例であるイムノクロマトシステム1を横から見た概略図である。イムノクロマトシステム1は、試料ケース2と、試料ケース2に収容される試験片3と、試料ケース2を載置可能な基板4と、温度制御部5と、を備える。
【0018】
試料ケース2は、試料溶液を添加するために開口された滴下部21と、抗原抗体反応により発色した被測定物質の濃度を光学的に測定するための測定窓部22と、を備える。測定窓部22は開口させてもよいし、透明ガラスまたは透明樹脂によりカバー構造にしてもよい。測定窓部22を透明ガラスまたは透明樹脂によりカバーした場合、抗原抗体反応を比較的高温下で行っても試料溶液の蒸発を抑制できる。
【0019】
試料ケース2の基板4に当接する面は平坦に形成され、基板4に載置した際に隙間を生じないように構成される。また、試料ケース2は、熱伝導性の良好な材質が用いられ、例えばカーボン粉末やカーボン繊維を含有した樹脂が使用される。
【0020】
試験片3は、樹脂シート状の基部31と、基部31に保持され試料添加部32aおよび呈色部32bを備えたメンブレン部32と、により構成される。試料添加部32aは、滴下部21の位置に対応させて設けられる。また、試料添加部32aには呈色物質が含浸されており、添加された被測定物質溶液に溶出した呈色物質は、メンブレン部32の毛細管作用により呈色部32b方向に移動する。呈色部32bは、例えばニトロセルロースからなるメンブレン部32に被測定物質に含まれる抗原と反応する抗体を含浸させた部分である。呈色部32bは、観察窓部22の位置に対応させて設けられる。
【0021】
尚、被測定物質、呈色物質、および抗体としては、イムノクロマトグラフィーにおいて一般的なものが使用され、特に限定されない。そのため詳細については説明を省略するが、例えば、呈色物質として金コロイドや発色色素が使用可能である。本実施形態は、いわゆるサンドイッチ抗体反応によるイムノクロマトグラフィーでも、競合反応によるイムノクロマトグラフィーでも適用可能である。
【0022】
基板4は、上側面を平坦面に形成して試料ケース2を載置可能にした部材であり、例えば鉄およびアルミニウムなどに代表される金属のような熱伝導性および比熱の高い材料が使用される。
【0023】
温度制御部5は、試料ケース2に備えられる温度測定部51と、基板4に備えられる温度調整部52と、温度測定部51により測定された温度に基づいて温度調整部52を制御する温度管理部53と、から構成される。
【0024】
温度測定部51は、測定対象の温度に応じて信号を出力するセンサまたは状態変化する素材であり、試料ケース2の内部側に設置されてもよいし外部側に設置されてもよい。そのため、温度測定部51は試料ケース2に設置できる大きさであることが好ましい。尚、温度測定部51は、メンブレン部32又は基部31に設置されてもよい。メンブレン部32に設置されているときは、試料の移動を妨げない場所に設置される必要がある。また基部31に設置される場合は、試料の添加や試料の移動及び呈色部32bを測定する際に邪魔にならない場所に設置される必要がある。また、温度測定部51として測定対象物から放射される赤外線を検知する焦電センサを使用し、温度測定部51を測定対象物となるメンブレン部32又は基部31から離間設置してもよい。
【0025】
温度調整部52は、基板4の温度を加熱または冷却して所定温度になるよう調整し得る加熱素子と冷却素子との組合せが使用され、例えば、抵抗式ヒータ、赤外線放射式ヒータ、などの加熱手段とペルチェ素子、ファン式冷却装置、などの冷却手段が使用される。特に、温度調整部52にペルチェ素子を使用した場合、装置の小型化が容易となる。第一実施例では、ペルチェ素子を基板4に設けた構成としているが、試料ケース2に設けても同様の効果が得られる。
【0026】
温度管理部53は、電線51a,52aにより温度測定部51および温度調整部52と電気的に接続される。温度管理部53は、温度測定部51から現在の温度に応じた信号を受けるか、現在の温度に応じた状態変化を検知して、使用者により設定された温度となるように温度調整部52の作動を制御する。尚、温度管理部53と温度測定部51および温度調整部52との間の信号伝送は、電線を介した有線伝送でもよいし電磁波または音波を介した無線伝送でもよい。また、第一実施例では温度測定部51、温度調整部52および温度管理部53を独立になるよう図示してあるが、このうち任意の2つを一体に構成しても3つを一体に構成しても同様の効果が得られる。
【0027】
次に、第一実施例のイムノクロマシステム1を使用した測定方法について説明する。試料調製および濃度測定などの手順については、一般的なイムノクロマトグラフィーにおける測定方法と同様であるため説明を省略する。
【0028】
試料ケース2の滴下部21から試料溶液を滴下した後、試料ケース21を基板4の上にセットする。温度測定部51は、試料ケース2に収容されたメンブレン部32又は基部31の現在の温度を検知し、現在の温度に応じた信号を温度管理部53に伝送する。温度管理部53は、現在の温度および使用者により設定された温度に基づいて、メンブレン部32又は基部31が使用者により設定された温度となるように温度調整部52を加熱制御または冷却制御する。
【0029】
従って、温度制御部5が試料ケース2の基部31またはメンブレン部32の温度を一定に保持するため、複数の被測定物質の濃度を測定する際に測定条件が一定になるように制御できる。従って、温度のばらつきを抑制でき、イムノクロマトグラフィーによる被測定物質の定量測定において、従来より高精度に被測定物質の濃度を測定可能となる。 尚、第一実施例では基板4に1つの試料ケース2を載置するように図示したが、複数の試料ケース2を載置し得るように構成してもよい。この場合、同時に複数の試料を同じ温度になるように調整できる。
【0030】
(第二実施例)
図2は、本発明の第二実施例であるイムノクロマトシステム1を横から見た概略図である。第一実施例と同様の構成要素については同様の符番を付与し、説明を省略する。
【0031】
第二実施例にかかるイムノクロマトシステム1は、試料ケース2と別体であって複数の試料ケース2を載置可能な基板4を備え、温度制御部5は基板4に載置される試料ケース2毎に基部31またはメンブレン部32の温度を制御する複数の温度計測部51と温度調整部52とを備える。また、基板4の上部には試料ケース2を閉塞空間に載置し得るようカバー6が備えられる。
【0032】
従って第二実施例にかかるイムノクロマトシステム1は、複数の試料ケース2を用いた測定の際に温度のばらつきを抑制できる。温度制御部5は基板4に載置される試料ケース2の基部31またはメンブレン部32の温度を制御するペルチェ素子を備えるため、コンパクトな構成で加熱および冷却できる。そのため、温度を制御したい部分に対し局部的に温度制御でき、基板4に複数の試料ケース2を載置した場合に、同じ温度に制御することも試料毎に適切な温度に制御することもできる。
【0033】
また、基板4の上部にカバー6を備えたため、外気との熱の出入りを抑制でき、基板4とカバー6とにより区画された閉塞空間内の温度調整が容易となる。また、抗原抗体反応を比較的高温下で行っても試料溶液の蒸発を抑制できる。
【0034】
(第三実施例)
図3は、本発明の第三実施例であるイムノクロマトシステム1を上方から見た概略図である。第一実施例と同様の構成要素については同様の符番を付与し、説明を省略する。
【0035】
第三実施例にかかるイムノクロマトシステム1は、試料ケース2にメンブレン部に固定化された呈色物質に応じた情報を記録する情報記憶部7を備え、基板4に情報記憶部7の情報を読み取る情報読取部8を備え、温度制御部5は、情報読取部8と情報記憶部7の情報に基づいて試料ケース2に収容された基部31またはメンブレン部32の温度を一定に保つ。
【0036】
情報記憶部7は、試料ケース2の下面に備えられており、第三実施例では試料および呈色物質に応じてコード化された反応温度情報を記憶する。第三実施例では試料ケース2の下面にバーコードを表示しているが、これに限らず、二次元バーコード、文字情報、色情報、試料ケース2表面に設けられた凹凸または切欠、磁気ストライプ、ICチップ、RFID等を備えてもよい。
【0037】
情報読取部8は、試料ケース2を基板4上に載置した際に情報記憶部7の位置に対面する位置に備えられる。第三実施例では、バーコードを読み取るスキャナが使用されるが、この他にも、情報記憶部7の種類に対応した読取装置を使用可能である。
【0038】
温度制御部5の温度管理部53は、電線8aを介して情報読取部8と電気的に接続される。尚、温度管理部53と情報読取部8との間の信号伝送は、電線を介した有線伝送でもよいし電磁波または音波を介した無線伝送でもよい。温度管理部53は、情報読取部8から入力された呈色物質に応じた情報に基づいて適した温度となるように温度調整部52を制御する。
【0039】
尚、第三実施例において、温度測定部51は、上方から見た際に試料ケース2の測定窓部22の横(すなわち、上方から見て試験片3の呈色部32bの横)に配設される。これにより、温度測定部51が試験片3と温度調整部52との間に介在せず、試料ケース2の下側面のみが介在することになるため、温度調整部52の温度を均一に試験片3に伝えることができる。
【0040】
また、基板4上には試料ケース2を位置決めする係止部9が備えられる。具体的には、試料ケース2の長手方向について、滴下部21を設けた側の反対側(すなわち、試料溶液が流動する下流側)に備えられる。情報記憶部7および情報読取部8も係止部9が備えられた側に配設される。これにより、試料ケース2の位置決めが容易となり、情報記憶部7と情報読取部8との相対位置のずれを抑制でき、情報記憶部7の情報を読み取る際のエラーを抑制できる。
【0041】
(第四実施例)
図4は、本発明の第四実施例である濃度測定装置11に温度制御部5を備えた場合のイムノクロマトシステム10を横から見た概略図である。第一実施例と同様の構成要素については同様の符番を付与し、説明を省略する。
【0042】
第四実施例にかかるイムノクロマトシステムは、濃度測定装置11と、濃度測定装置11の筐体に備えられた試料ケース2を挿入する挿入部12と、挿入部12の下側内壁に備えられた基板4と、温度制御装置5と、試料ケース2の観察窓部22を介して呈色部32bに測定光を照射する発光部13と、呈色部32bの呈色度を濃淡情報(測定光の反射強度)として受光する受光部14と、濃度計算部15と、表示部16と、を備える。
【0043】
基板4は、濃度測定装置11に試料ケース2を挿入する挿入部12に備えられる。温度制御装置5の温度測定部51および温度調整部52は、基板4に備えられ、温度管理部53と通信可能に接続される。
【0044】
温度管理部53は、温度測定部51により測定された温度情報に基づいて温度調整部52を所定の温度に制御する。また、温度管理部53は、温度情報を濃度計算部15に送信可能に接続される。
【0045】
濃度計算部15は、温度管理部53および受光部14と通信可能に接続される。温度管理部53から受信した温度情報と、受光部14から受信した濃淡情報と、濃度計算部15に記憶された検量線情報と、に基づいて、被検体物質の濃度を計算する。
【0046】
表示部16は、濃度計算部15と通信可能に接続され、濃度計算部15から被検体物質の濃度情報を受信して表示する。
【0047】
第四実施例の濃度測定装置11により、濃度測定装置11と温度制御装置5とを一体に構成したため、挿入部12に試料ケース2を挿入した状態で温度制御できる。そのため、温度を一定に保持したまま抗原抗体反応による呈色部32bの発色を経時的に測定できる。また、温度を一定に保持したまま発色反応に必要な時間が経過したらすぐに測定できる。試料ケース2が温度の異なる雰囲気に曝されることがないため、被測定物質の濃度をより高精度に測定可能となる。
【0048】
(測定例)
第四実施例の構成において、被測定物質を尿中ストレスマーカ(ヘキサノイルリジン:Hexanoyl−lysine)とした場合の測定例について以下に説明する。尚、本測定例では、メンブレン部32としてニトロセルロースメンブレンを、呈色物質として金コロイド粒子を、抗体として抗ヘキサノイルリジン抗体を、それぞれ使用し、各条件についてサンプル数を3として平均値を比較した。
【0049】
・温度制御あり(本発明)の場合
ステップ1)りん酸緩衝液が入ったポリプロピレン製マイクロチューブおよびイムノクロマトシステムの試料ケース2を、6通りの所定温度(4℃、15℃、25℃、35℃、45℃、55℃)に調整した恒温室に載置し、10分以上静置した。
【0050】
ステップ2)試料となる尿0.1mLをとり、マイクロチューブに入れて、充分撹拌して試料溶液とし、また恒温室に戻した。
【0051】
ステップ3)15分以上経過後、恒温室からマイクロチューブを取り出し、試料溶液0.1mLを採取し、試料ケース2の滴下部21に滴下した。
【0052】
ステップ4)滴下後直ちに試料ケース2を濃度測定装置11の挿入部12に挿入した。ここで、濃度測定装置11に配設された温度制御部5は、前記6通りの所定温度になるようフィードバック制御した。
【0053】
ステップ5)濃度測定装置11のタイマーにより濃度測定装置11の挿入部12に挿入してから15分後、呈色部32bに発色した2本のバンド(ラインAおよびラインB)の濃淡情報を受光部14により測定した。
【0054】
ステップ6)受光部14により測定された濃淡情報、濃度計算部15に予め記憶されている検量線情報、および設定温度に基づいて被検体物質の濃度を計算し、表示部16に表示された値を記録した。
【0055】
・温度制御なし(比較例1)の場合
前述のステップ4において、濃度測定装置11に配設された温度制御部5を、室温を想定して25℃に制御した(温度制御なし:比較例1)。その他は、温度制御あり(本発明)の場合と同様の手順である。
【0056】
・温度毎に検量線(比較例2)を作成した場合
6通りの測定温度毎に、試料溶液および被測定物質の濃度を予め調整した検量線用試料(濃度:25,50,75,100,125,150,175,200μg/mL)を準備した。ステップ6において、試料濃度の計算に濃度計算部15に予め記憶されている検量線情報を使用せず、試料溶液の測定値と、試料溶液の測定前に測定された検量線用試料の測定値との比較により、試料溶液の濃度を算出した。その他は、温度制御あり(本発明)の場合と同様の手順である。
【0057】
・測定結果
測定結果を表1および図5に示す。
【表1】

【0058】
温度制御あり(本発明)の場合と温度制御なし(比較例1)の場合とを比較すると、温度制御ありの場合では温度による測定値の変動が少なく、高精度に被測定物質の濃度を測定可能であった。温度変化に対応するため、測定試料の測定前または後に検量線試料を測定すれば(比較例2)、精度が向上する。しかしながら、測定試料に加え検量線用試料の測定も必要となり、測定の手間もコストが増大する。
【0059】
従って、第四実施例の構成により測定試料の測定の際に検量線用試料の測定を行うことなく、高精度に被測定物質の濃度を測定可能となり、測定の手間とコストを低減できる。
【符号の説明】
【0060】
1,10 イムノクロマトシステム
2 試料ケース
3 試験片
4 基板
5 温度制御部
7 情報記憶部
8 情報読取部
11 濃度測定装置
12 挿入部
31 基部
32 メンブレン部
32b 呈色部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原抗体反応によって被測定物質の濃度を測定するためのイムノクロマトシステムであって、
前記被測定物質の濃度により呈色物質が発色する呈色部を有するメンブレン部と前記メンブレン部を保持する基部とを備える試料ケースと、
前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に調節する温度制御部と、
を備えたことを特徴とするイムノクロマトシステム。
【請求項2】
複数の前記試料ケースを載置可能な基板を備え、前記温度制御部は前記基板に載置される前記試料ケースの前記基部または前記メンブレン部の温度をペルチェ素子により制御することを特徴とする請求項1に記載のイムノクロマトシステム。
【請求項3】
前記呈色物質に応じた反応温度情報を記録する情報記憶部と、
該記情報記憶部の情報を読み取る情報読取部と、を備え、
前記温度制御部は、該情報記憶部の反応温度情報に基づいて前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に保つことを特徴とする請求項1または2に記載のイムノクロマトシステム。
【請求項4】
前記試料ケースを挿入する挿入部を備えた濃度測定装置の中に前記温度制御装置を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイムノクロマトシステム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のイムノクロマトシステムを用いて被測定物質の濃度を測定する濃度測定方法であって、
前記被測定物質を含む試料を前記試料ケースの試料添加部に添加する試料添加工程と、
前記試料が前記試料添加部から前記メンブレン部内を移動し、移動に伴い免疫反応及び/又は酵素反応によって前記呈色物質が前記呈色部で発色反応する反応工程と、
前記反応中に前記基部または前記メンブレン部の温度を一定に保持する温度制御工程と、
前記反応後に前記呈色部に表われた呈色度を光学的に測定する呈色度測定工程と、
を有するイムノクロマトシステムを用いた濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−128038(P2011−128038A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287367(P2009−287367)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】