説明

イメージング装置及びイメージング方法

【課題】近傍界イメージングにおいて、イメージング像の高分解能化を可能とする。
【解決手段】送信回路12からミリ波を出力させて送受信アンテナ14から放射し、受信回路13により、観測対象物3の表面で反射したミリ波を送受信アンテナ14を介して測定信号として受信し、測定信号のIQ値から反射信号のIQ値を算出するオフセット補正関数の未知数を求めてオフセット補正関数を導出し、測定信号のIQ値からオフセット補正関数で算出した反射信号のIQ値を引いて散乱信号のIQ値を求める。これにより、イメージング像の高分解能化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いたイメージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
観測対象物の表面の微小凹凸により生じる散乱波の微小変化を捉え、観測対象物の表面状態を可視化する近傍界イメージングが存在する(非特許文献1,2)。そのイメージングシステムは、送信回路、受信回路、信号処理回路、アンテナ、モニタを備え、観測対象物の表面に近接させたアンテナを2次元的に走査させながらミリ波を放射して観測対象物からの散乱波を受信し、データ補正、画像処理などの信号処理を施して2次元イメージ像をモニタに表示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S. Oka, H. Togo, and N. Kukutsu, "Latest trends in millimeter-wave imaging technology", Progress in Electromagnetics Research Letters, 2008, vol. 1, p.197-204
【非特許文献2】Manoja D. Weiss, "Near field millimeter wave microscopy with conical Teflon probes", Journal of Applied Physics, 2009, vol.106, p.044912-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観測対象物の表面の微小凹凸を撮像する近傍界イメージングにおける受信信号は、観測対象物の表面からの反射波と微小凹凸によって生じる散乱波が重畳した信号である。観測対象物の表面からの反射波の信号強度は表面形状に依存しており、一般に表面の微小凹凸によって生じる散乱波に比べ非常に大きく、その変動量も大きい。すなわち、観測対象物の表面からの反射信号が大きなオフセット量として観測され、観測対象となる微小凹凸からの散乱信号の微小変動のみを観測することができないという問題があった。
【0005】
特に、受信信号の強度と位相情報を取得し、レーダ信号処理によりイメージング像を高解像度化する手法を取り入れる場合において、反射信号に比べて散乱信号の変化量が小さい場合は、得られる位相はほとんど変化しないため、信号処理に利用できる情報は強度のみとなり信号処理を適用することができないという問題があった。
【0006】
また、近傍界イメージングでは、アンテナと観測対象物の表面との撮像距離が放射する電磁波の数波長以下と非常に短いので、距離変化に伴う電磁波の距離減衰量の変化は大きく、また、位相の変化も大きい。このため撮像距離の変化に対する感度が非常に高く、コントラストの高いイメージ像を得ることができるということが特徴である。しかしながら、撮像距離が一定とならない場合、観測対象物の表面の微小凹凸の変化に加えてオフセット量となる反射信号も変化してしまい、観測対象物の表面の微小凹凸の変化を捉えることが極めて困難となるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、近傍界イメージングにおいて、イメージング像の高分解能化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明に係るイメージング装置は、ミリ波帯の電磁波を送受信する送受信アンテナと、ミリ波帯の電磁波を前記送受信アンテナから観測対象物に対して放射する送信手段と、前記観測対象物の表面で反射した電磁波を前記送受信アンテナを介して測定信号として受信する受信手段と、前記測定信号に含まれる反射信号のIQ成分を求める補正関数の未知数を前記送受信アンテナを走査して得られた前記測定信号のIQ成分を用いて求めて当該補正関数を導出する導出手段と、前記測定信号のIQ成分から前記補正関数で求めた前記反射信号のIQ成分を引いて前記測定信号に含まれる前記観測対象物の表面の微小凹凸によって生じる散乱信号のIQ成分を算出する算出手段と、前記散乱信号のIQ成分を用いて前記観測対象物の表面のイメージング像を生成する画像生成手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記イメージング装置において、前記観測対象物の表面形状の情報を入力する入力手段を有し、前記導出手段は、前記観測対象物の表面形状に最適な関数を補正関数として選択することを特徴とする。
【0010】
第2の本発明に係るイメージング方法は、ミリ波帯の電磁波を送受信アンテナから観測対象物に対して放射するステップと、前記観測対象物の表面で反射した電磁波を前記送受信アンテナを介して測定信号として受信するステップと、前記測定信号に含まれる反射信号のIQ成分を求める補正関数の未知数を前記送受信アンテナを走査して得られた前記測定信号のIQ成分を用いて求めて当該補正関数を導出するステップと、前記測定信号のIQ成分から前記補正関数で求めた前記反射信号のIQ成分を引いて前記測定信号に含まれる前記観測対象物の表面の微小凹凸によって生じる散乱信号のIQ成分を算出するステップと、前記散乱信号のIQ成分を用いて前記観測対象物の表面のイメージング像を生成するステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
上記イメージング方法において、前記観測対象物の表面形状の情報を入力するステップを有し、前記補正関数を導出するステップは、前記観測対象物の表面形状に最適な関数を補正関数として選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、近傍界イメージングにおいて、イメージング像の高分解能化を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態におけるイメージング装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】観測対象物の表面で反射するミリ波の様子を示す模式図である。
【図3】(a)は、観測対象物の表面形状が送受信アンテナの走査方向と平行の場合の例を示す図であり、(b)はこのときの測定信号、反射信号、散乱信号と散乱信号の軌跡をIQ平面上に表した図である。
【図4】(a)は、観測対象物の表面形状が送受信アンテナの走査方向と平行でない場合の例を示す図であり、(b)はこのときの測定信号、反射信号、散乱信号と反射信号、散乱信号の軌跡をIQ平面上に表した図である。
【図5】(a)は、観測対象物の表面形状が凸型の場合の例を示す図であり、(b)はこのときの測定信号、反射信号、散乱信号と反射信号、散乱信号の軌跡をIQ平面上に表した図である。
【図6】(a)は、観測対象物の表面形状が凹型の場合の例を示す図であり、(b)はこのときの測定信号、反射信号、散乱信号と反射信号、散乱信号の軌跡をIQ平面上に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態におけるイメージング装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すイメージング装置は、制御回路11、送信回路12、受信回路13、送受信アンテナ14、信号処理部20、およびモニタ部15を備える。送受信アンテナ14を含むイメージング装置をエンコーダの組み込まれた車輪を有する筐体に搭載し、測定開始点からの距離をエンコーダで検出し、観測対象物3の表面上における位置情報を得ている。
【0016】
制御回路11は、送信回路12を制御して、ミリ波帯の電磁波(以下「ミリ波」という)を出力させて送受信アンテナ14から放射する。送受信アンテナ14から放射されたミリ波は、観測対象物3の表面へ照射され、観測対象物3の表面で反射する。受信回路13は、観測対象物3の表面で反射したミリ波を送受信アンテナ14を介して測定信号として受信する。そして、受信回路13は、直交検波器を備え、測定信号のIQ値(同相成分と直交成分の値)と観測対象物3の表面上における位置情報(送受信アンテナ14の移動距離)を信号処理部20に送信する。信号処理部20は、測定信号のIQ値それぞれを補正して観測対象物3の表面の微小凹凸による散乱信号を抽出する。送受信アンテナ14を観測対象物3の表面を走査させて、観測対象物3の表面の各地点における散乱信号を取得し、観測対象物3の表面の微小凹凸の2次元イメージング像を生成してモニタ部15により出力する。
【0017】
図2に、観測対象物3の表面で反射するミリ波の様子を示す。同図に示すように、受信回路13が受信する測定信号Vには、観測対象物3の表面で反射する反射信号Aに微小凹凸による散乱信号Bが重畳されている。そこで、本実施の形態の信号処理部20は、測定信号Vから反射信号Aを差し引き、微小凹凸による散乱信号Bのみを捉えて2次元イメージング像を生成する。反射信号A(I成分:AI、Q成分:AQ)、散乱信号B(I成分:BI、Q成分:BQ)、および測定信号Vは、以下のように表される。
【0018】
反射信号A=AI+jAQ
散乱信号B=BI+jBQ
測定信号V=A+B
したがって、反射信号Aが分かれば、散乱信号BはB=V−Aとして求めることができる。
【0019】
送受信アンテナ14を走査する時に、送受信アンテナ14と観測対象物3の表面との距離が変化する場合、反射信号Aの変化は距離の関数として表現することができ、また、その関数を表面形状に合わせて選択することにより最適なオフセット量を設定することができる。そこで、信号処理部20は、観測対象物3の表面形状に合わせて最適な関数を選択し、送受信アンテナ14を走査して得られた測定信号Vをもとに、選択した関数の未知数を最小二乗法などのフィッティングにより求めてオフセット補正関数FI,FQを導出し、オフセット補正関数FI,FQを用いてオフセット量(反射信号AのIQ値)を算出する。そして、測定信号VのIQ値それぞれから求めたオフセット補正関数FI,FQ(反射信号AのIQ値)を差し引くことで散乱信号BのIQ値を求める。
【0020】
BI(x)=VI(x)−FI(x)
BQ(x)=VQ(x)−FQ(x)
ここで、xは、例えば送受信アンテナの走査距離などの観測対象物3の表面上における位置を示す。以下、信号処理部20について説明する。
【0021】
図1に示したように、信号処理部20は、オフセット補正関数導出部21、表面形状選択部22、オフセット量算出部23、およびオフセット補正部24を備える。
【0022】
オフセット補正関数導出部21は、表面形状選択部22で選択された観測対象物3の表面形状の種類に応じてオフセット補正関数FI,FQを導出する。本実施の形態では、表面形状を、(1)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離が変化しない場合、(2)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離が増加あるいは減少する場合、(3)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離の増減が増加から減少、減少から増加へと変化する場合、の3種類に分類し、表面形状選択部22で利用者がいずれかの種類を選択し入力する。各場合におけるオフセット補正関数FI,FQの導出については後述する。
【0023】
オフセット量算出部23は、オフセット補正関数導出部21が導出したオフセット補正関数FI,FQによりIQ値それぞれのオフセット量を求める。
【0024】
オフセット補正部24は、測定信号VのIQ値それぞれからオフセット量算出部23が求めたオフセット量を差し引いて散乱信号BのIQ値を求める。そして、求めた散乱信号BのIQ値を用いて、例えば、Bの振幅値を位置xに対してマッピングし、観測対象物3の表面のイメージング像を生成する。
【0025】
次に、オフセット補正関数について説明する。オフセット補正関数の導出においては、表面形状を3種類に分類し、その分類に合わせて最適な関数を選択し、その関数の未知数を測定信号VのIQ値を用いて求めてオフセット補正関数を導出する。
【0026】
まず、(1)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離が変化しない場合について説明する。表面形状が(1)の場合は、図3(a)に示すように、送受信アンテナ14の走査方向と観測対象物3の表面が平行であり、送受信アンテナ14と観測対象物3の表面との距離が変化せず、反射信号AのIQ値が大きく変化しない。図3(b)に、測定信号V、反射信号A、散乱信号BをIQ平面上に表す。図3(b)中の一点鎖線で描いた円は散乱信号Bの軌跡を示す。表面形状が(1)の場合は、送受信アンテナ14を走査して得られた測定信号Vの各成分VI,VQの平均値をオフセット補正関数FI,FQとする。
【0027】
FI=<VI(x)> (平均値)
FQ=<VQ(x)> (平均値)
続いて、(2)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離が増加あるいは減少する場合について説明する。表面形状が(2)の場合は、図4(a)に示すように、送受信アンテナ14の走査方向と観測対象物3の表面が平行ではなく、走査位置によって反射信号AのIQ値が変化する。図4(b)に、測定信号V、反射信号A、散乱信号BをIQ平面上に表す。図4(b)中の一点鎖線で描いた円は散乱信号Bの軌跡を示し、点線で描いた円は反射信号Aの軌跡を示す。表面形状が(2)の場合は、次式に示すように、三角関数フィッティングを用いてオフセット補正関数を導出する。
【0028】
M(x)=sqrt(VI(x)^2+VQ(x)^2)で得られる軌跡がaxとなり、θ(x)=Arctan(VQ(x)/VI(x))で得られる軌跡がbxとなると仮定し、未知数a,bを送受信アンテナ14を走査して得られた測定信号Vの各成分VI,VQから最小二乗法などによりオフセット補正関数FI,FQを求める。
【0029】
FI(x)=M(x)cos(θ(x))=ax cos(bx)
FQ(x)=M(x)sin(θ(x))=ax sin(bx)
続いて、(3)観測対象物3の表面と送受信アンテナ14との距離の増減が増加から減少、減少から増加へと変化する場合について説明する。表面形状が(3)の場合は、図5(a)に示すように、送受信アンテナ14と観測対象物3の表面との距離の変化が減少から増加に転じたり、あるいは図6(a)に示すように、増加から減少に転じたりする。図5(b)、図6(b)にそれぞれの場合の測定信号V、反射信号A、散乱信号BをIQ平面上に表す。点線で示す反射信号Aの軌跡はある地点で反転する。そこで、表面形状が(3)の場合は、反射信号Aの軌跡の反転箇所を位置xに関する微分によって算出し、反転前の部分と反転後の部分とを個別に、上記(2)の場合と同様にそれぞれオフセット補正関数FI,FQを求める。
【0030】
なお、本実施の形態では、観測対象物3の表面形状を3つの種類に分類して表面形状に合った最適な関数を選択したが、光学距離センサなどで表面形状データを取得し、最適な関数を求め、オフセット補正関数FI,FQを導出するものでもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態によれば、送信回路12からミリ波を出力させて送受信アンテナ14から放射し、受信回路13により、観測対象物3の表面で反射したミリ波を送受信アンテナ14を介して測定信号Vとして受信し、測定信号VのIQ値から反射信号AのIQ値を算出するオフセット補正関数FI,FQの未知数を求めてオフセット補正関数FI,FQを導出し、測定信号VのIQ値からオフセット補正関数FI,FQで算出した反射信号AのIQ値を引いて散乱信号BのIQ値を求めることにより、イメージング像の高分解能化が可能となる。
【0032】
本実施の形態によれば、観測対象物3の表面形状に合わせて最適な関数を選択し、送受信アンテナ14を走査して得られた測定信号Vをもとに、選択した関数の未知数を最小二乗法などのフィッティングにより求めてオフセット補正関数FI,FQを導出することにより、観測対象物3の表面形状の変化によって変動するオフセット量を求めることが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
11…制御回路
12…送信回路
13…受信回路
14…送受信アンテナ
15…モニタ部
20…信号処理部
21…オフセット補正関数導出部
22…表面形状選択部
23…オフセット量算出部
24…オフセット補正部
3…観測対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の電磁波を送受信する送受信アンテナと、
ミリ波帯の電磁波を前記送受信アンテナから観測対象物に対して放射する送信手段と、
前記観測対象物の表面で反射した電磁波を前記送受信アンテナを介して測定信号として受信する受信手段と、
前記測定信号に含まれる反射信号のIQ成分を求める補正関数の未知数を前記送受信アンテナを走査して得られた前記測定信号のIQ成分を用いて求めて当該補正関数を導出する導出手段と、
前記測定信号のIQ成分から前記補正関数で求めた前記反射信号のIQ成分を引いて前記測定信号に含まれる前記観測対象物の表面の微小凹凸によって生じる散乱信号のIQ成分を算出する算出手段と、
前記散乱信号のIQ成分を用いて前記観測対象物の表面のイメージング像を生成する画像生成手段と、
を有することを特徴とするイメージング装置。
【請求項2】
前記観測対象物の表面形状の情報を入力する入力手段を有し、
前記導出手段は、前記観測対象物の表面形状に最適な関数を補正関数として選択することを特徴とする請求項1記載のイメージング装置。
【請求項3】
ミリ波帯の電磁波を送受信アンテナから観測対象物に対して放射するステップと、
前記観測対象物の表面で反射した電磁波を前記送受信アンテナを介して測定信号として受信するステップと、
前記測定信号に含まれる反射信号のIQ成分を求める補正関数の未知数を前記送受信アンテナを走査して得られた前記測定信号のIQ成分を用いて求めて当該補正関数を導出するステップと、
前記測定信号のIQ成分から前記補正関数で求めた前記反射信号のIQ成分を引いて前記測定信号に含まれる前記観測対象物の表面の微小凹凸によって生じる散乱信号のIQ成分を算出するステップと、
前記散乱信号のIQ成分を用いて前記観測対象物の表面のイメージング像を生成するステップと、
を有することを特徴とするイメージング方法。
【請求項4】
前記観測対象物の表面形状の情報を入力するステップを有し、
前記補正関数を導出するステップは、前記観測対象物の表面形状に最適な関数を補正関数として選択することを特徴とする請求項3記載のイメージング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate