説明

イモ焼酎粕又はそれに由来する物質を含む抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤

【課題】安全性が高くかつ容易に製造することが可能な抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤を提供すること。
【解決手段】イモ焼酎粕又はそれに由来する抗アレルギー活性を有する画分若しくは物質を有効成分として含むことを特徴とする抗アレルギー剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤に関する。より具体的には、本発明は、イモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を含む抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤に関する。また本発明は、イモ焼酎粕から抗アレルギー活性物質又は抗アトピー活性物質を製造する方法に関する。さらに本発明は、イモ焼酎粕由来の抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性物質に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の免疫機能は、外部からの異質物を排除し、恒常性を保つために機能するが、過度の免疫機能によってアレルギーと呼ばれる障害反応が引き起こされることがある。アレルギー反応においては、免疫担当細胞がアレルゲンに対してIgE抗体を産生し、分泌されたIgE抗体が肥満細胞(マスト細胞、粘膜に覆われた組織の表面付近に存在)表面に吸着される。これで肥満細胞は感作された状態となる。ここに同じアレルゲンが侵入してくると、肥満細胞上に存在する2個以上のIgE抗体と結合し、これがシグナルとして肥満細胞内に伝わり、細胞内の顆粒中に蓄えられている各種炎症メディエーター(ケミカルメディエーター、ヒスタミン、β-ヘキソサミニダーゼなど)が放出される。この事象を脱顆粒という。この結果、放出された化学物質が周辺組織に働きかけ、鼻汁・涙分泌促進、組織の腫れなど、アレルギー性疾患に特有の多くの症状を引き起こす。
【0003】
これに対し、アトピーにはアレルギー要因と非アレルギー要因があり、非アレルギー要因として、遺伝的要因、乾燥、発汗、接触刺激、ストレスなどがある。アレルギー性疾患とアトピー性疾患とは同一ではなく、アトピー性疾患の中にはアレルギーが関与するものがあるが、上述したような非アレルギー要因が原因となるものもある。
【0004】
抗アレルギー剤としては、肥満細胞からの脱顆粒や炎症メディエーターの放出を抑制する薬剤、ヒスタミンとその受容体との結合を抑制する薬剤、ロイコトリエンを抑制する薬剤などが開発されているが、副作用も報告されている。抗アトピー剤としては、ステロイド剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤などが用いられているが、いずれも副作用が伴う。従って、安全かつ有効な医薬品に使用することができ、さらには日常的に摂取及び使用される食品に配合することができる、アレルギー又はアトピー性炎症の症状の改善に有効な物質の開発が望まれていた。
【0005】
一方、焼酎は、蒸煮した米、麦などに麹菌を加えて培養(製麹)したものに、アルコール発酵のための酵母を加えて発酵させた醪(もろみ)を蒸留することによって製造される。イモ焼酎粕は、イモを原料として発酵させた醪(もろみ)の蒸留後の副産物である。焼酎生産量に対する焼酎粕発生量は原料によって異なるが、イモ焼酎粕では約2.11倍発生する。米焼酎では約1.09倍、麦焼酎では約1.29倍であることに比べればイモ焼酎の焼酎粕発生量は多い。また、鹿児島県の年間焼酎生産量は約25万キロリットル(平成17酒造年度)であるため、単純計算しても約50万トンもの焼酎粕が発生していることになる。この大量の焼酎粕の処理法として家畜の飼料や農地還元といった利用法が存在するが、このように利用されているのは全体のほんのわずかであり、ほとんどが海洋投棄や陸上投棄されているのが実情である。また、ロンドン条約の1996年議定書により焼酎粕は「天然に由来する有機物質」として位置付けられ、廃棄物処理法では「廃酸」として位置付けられることとなった。したがって、海洋投棄処理は平成19年4月から許可制になり、これを機に鹿児島県では焼酎粕をより有効的に利用するべく検討が始まった。
【0006】
イモ焼酎粕は粕という呼び名と廃棄されていることからマイナスイメージを持たれることが多いが、実は非常に栄養価の高い物質である。例えばイモ焼酎粕は、その1ml中に数億もの酵母菌体と麹菌の生産するクエン酸や菌体タンパク質、ポリフェノールなどを含んでおり、飼料価値が高く食品素材として優れている。例えば、焼酎蒸留粕を用いて製造された、発酵食品(特許文献1)、湿疹・皮膚炎群の予防又は治療剤(特許文献2)、癌細胞増殖抑制剤(特許文献3)、抗酸化剤(特許文献4)などが報告されている。
【0007】
本発明者らもイモ焼酎粕の生理機能に着目し、ラジカルスカベンジャー活性(非特許文献1)などについて研究を進めてきた。
【0008】
さらに、食品に関連する有効成分として、大麦発酵エキスのオバルミン感作鼻炎に対する効果が報告されている(特許文献5)が、芋焼酎粕ではまだ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−259742号公報
【特許文献2】特開2005−15456号公報
【特許文献3】特開2004−352681号公報
【特許文献4】特開2009−13279号公報
【特許文献5】特開2008−22794号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yoshimoto, M. et al., Bioscience. Biotechnology, Biochemistry, 第68巻第2477-2483頁, 2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、安全性が高くかつ容易に製造することが可能な抗アレルギー剤及び抗炎症剤を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、イモ焼酎粕の有効な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、イモ焼酎粕及びその特定の画分が脱顆粒を抑制し、かつIgE抗体の産生を抑制することを見出し、それによりイモ焼酎粕及びその画分を抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤として用いることができるという知見を得た。また本発明者は、イモ焼酎粕に含まれる抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する画分を特定し、それらの活性を有する物質が糖を含むことも見出した。以上の知見から、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(6)である。
【0014】
(1)イモ焼酎粕又はそれに由来する抗アレルギー活性を有する画分若しくは物質を有効成分として含むことを特徴とする抗アレルギー剤。
【0015】
上記抗アレルギー剤において、抗アレルギー活性を有する画分は、例えばイモ焼酎粕の親水性画分である。また、抗アレルギー活性を有する物質は糖を含むことが好ましい。
【0016】
上記抗アレルギー剤において、抗アレルギー活性としては、限定されるものではないが、肥満細胞の脱顆粒の抑制、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制、IgE抗体産生の抑制、アレルギー性症状の軽減、ヘルパーT細胞のTh1/Th2比の増大、及びヒスタミン分泌の抑制からなる群より選択される少なくとも1つの活性が挙げられる。
【0017】
(2)イモ焼酎粕又はそれに由来する抗アトピー活性を有する画分若しくは物質を有効成分として含むことを特徴とする抗アトピー性炎症剤。
【0018】
上記抗アトピー性炎症剤において、抗アトピー活性としては、限定されるものではないが、肥満細胞の脱顆粒の抑制、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制、IgE抗体産生の抑制、アトピー性症状の軽減、ヘルパーT細胞のTh1/Th2比の増大、及びヒスタミン分泌の抑制からなる群より選択される少なくとも1つの活性が挙げられる。
【0019】
(3)上記(1)の抗アレルギー剤、又は上記(2)の抗アトピー性炎症剤を配合することを特徴とする食品又は飼料。
【0020】
(4)イモ焼酎粕を1以上の分画操作に供し、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する物質を採取することを特徴とするイモ焼酎粕の抗アレルギー活性物質及び/又は抗アトピー活性物質の製造方法。
【0021】
上記方法において、分画操作としては、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、膜分離法などが挙げられる。
【0022】
(5)抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有することを特徴とするイモ焼酎粕由来の親水性画分。
【0023】
(6)イモ焼酎粕の親水性画分からタンパク質を除去して得られ、糖を主成分として含む、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性物質。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤が提供される。かかる抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤は、イモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を有効成分として含むため、安全性が高く、簡便に製造することができる。また、廃棄されていたイモ焼酎粕の有効な用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ダイヤイオンHP-20を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによるイモ焼酎粕の分画の結果を示す。
【図2】ダイヤイオンHP-20による分画によって得られた画分の、in vitroにおけるβ-ヘキソサミニダーゼ放出抑制率を示す。
【図3】Sephadex G25を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによるイモ焼酎粕の分画の結果を示す。
【図4】Sephadex G25による分画によって得られた画分の、in vitroにおけるβ-ヘキソサミニダーゼ放出抑制率を示す。
【図5】Bio-Gel P-2を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによるイモ焼酎粕の分画の結果を示す。
【図6】Bio-Gel P-2による分画によって得られた画分の、in vitroにおけるβ-ヘキソサミニダーゼ放出抑制率を示す。
【図7】イモ焼酎粕原液、及びSephadex G25による分画(参考例)によって得られた画分の、in vivoにおけるIgE抗体産生の抑制を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、イモ焼酎粕が抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する物質を含有するという知見に基づいている。従って、本発明に係る抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤は、イモ焼酎粕又はイモ焼酎粕由来の抗アレルギー活性及び抗アトピー活性を有する画分若しくは物質から調製することができる。
【0027】
「イモ焼酎粕」とは、サツマイモを主原料にして製造される焼酎の蒸留粕をいい、蒸留残渣、焼酎廃液とも呼ばれる。イモ焼酎粕には、米麹又は麦麹で仕込んだイモ焼酎の焼酎粕、及びイモのみを用いた芋麹で仕込んだイモ焼酎の焼酎粕が含まれる。イモ焼酎粕は、例えば次の工程に従って製造することができる。
【0028】
1次仕込みに米麹を用いる場合、米を浸漬し吸水させた後、蒸しを行い、冷却後、原料の1000分の1量の種麹を接種し、十分に攪拌混合し、35〜40℃の範囲で送風、攪拌、静置を繰り返して麹を得る(製麹)。麹菌としては、白麹菌、黒麹菌、黄麹菌のいずれでもよく、例えばアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・サティバ(Aspergillus sativa)などを用いることができる。次に、製麹した米麹に米原料重量のおよそ120%量の水及び焼酎酵母を加える(1次仕込み)。焼酎酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、キャンディダ・ロブスタ(Candida robusta)などが挙げられる。5日間の発酵を行い、1次醪を得る。次いで、米麹原料の米重量に対して5倍量のサツマイモを使用し、蒸しを行い、冷却後、粉砕機により粉砕したものを、上記1次仕込みにより得られた1次醪に、サツマイモ重量のおよそ54%の水を加えた後、粉砕したサツマイモを加える(2次仕込み)。8日間の発酵を行い、2次醪を得る。上記2段の発酵を終えた2次醪を常法により単式蒸留(常圧又は減圧蒸留)に付し、イモ焼酎とイモ蒸留粕残液(イモ焼酎粕)を得る。
【0029】
本発明において使用するイモ焼酎粕は、当技術分野で公知のイモ焼酎の製造過程で産出される焼酎粕であれば特に限定されるものではない。例えば、1品種のサツマイモを用いて製造されるイモ焼酎の焼酎粕だけではなく、2品種以上のサツマイモを用いて製造されるイモ焼酎の焼酎粕の混合物であってもよい。そのようなサツマイモの品種としては、コガネセンガン、ミナミユタカ、ヤマガワムラサキ、サツマヒカリ、ベニアズマなどが挙げられる。また、異なる製造過程や異なる製造ロットで産出される焼酎粕の混合物を用いることも可能である。
【0030】
イモ焼酎粕は、焼酎原酒を得た後に残存する焼酎粕をそのまま使用してもよいし、あるいは焼酎粕をろ過した後のろ液を使用してもよい。また、必要に応じて希釈又は濃縮してもよい。その他、当技術分野で公知の殺菌処理、セルラーゼなどを用いた酵素処理などを行ってもよい。
【0031】
イモ焼酎粕から抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する画分を得るには、イモ焼酎粕を当技術分野で公知の分離操作に供し、得られる画分に抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性が存在するか否かを確認する。例えば、任意の担体を用いるクロマトグラフィーを利用して、イモ焼酎粕を分画ことができる。そのようなクロマトグラフィーとしては、ゲルろ過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが挙げられる。ゲルろ過クロマトグラフィーでは、分子量に基づいてイモ焼酎粕を分画することができ、使用する担体を適宜選択することによって、分画される分子量の範囲を調整することができる。また吸着クロマトグラフィーでは、親水性若しくは疎水性などの特性に基づいてイモ焼酎粕を分画することができる。クロマトグラフィーの条件は、採用するクロマトグラフィーの種類、使用する担体の種類、分画の目的などに応じて当業者により適宜設定される。また、複数のクロマトグラフィーの操作を組み合わせて実施してイモ焼酎粕を分画してもよい。
【0032】
後述する実施例では、イモ焼酎粕の親水性画分に抗アレルギー活性及び抗アトピー活性が存在することが確認されたため、例えば水性溶媒(水など)を溶出液として用いる吸着クロマトクラフィー又はゲルろ過クロマトグラフィーによってイモ焼酎粕から親水性画分を単離し、それを抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する画分として使用することができる。
【0033】
また、後述する実施例では、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する物質が、低分子量のオリゴ糖を含むことが示唆されている。従って、高分子の多糖類などを除去するために、ゲルろ過クロマトグラフィー又は分画分子量1000程度の膜分離法を行うことにより、低分子量の物質からなる画分を得、それを抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する画分として使用することができる。
【0034】
具体的には、まず疎水性成分(ポリフェノール類)などを除くため、例えば、ダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社)などを担体として用い、水性溶媒を溶出液として用いて吸着クロマトグラフィーを行う。これによって得られる素通り画分に抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性が存在する。次にその素通り画分を、必要であれば濃縮し、例えばSephadex G25(BIO-RAD)を担体として用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行う。これにより糖を含む画分が2つ得られるが、このうち分子量の小さい画分に抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性が存在する。得られる画分を、必要であれば濃縮し、次にBio-Gel(登録商標)P-2(BIO-RAD)を担体として用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行う。これによりいくつかの画分に分離されるが、そのうち糖成分(オリゴ糖)を含む2つの画分に抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性が存在する。上述のようにして抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する画分を得ることができるが、本発明においてはそのいずれの画分も用いることができ、また複数の画分を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
分離された画分が抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有するか否かは、当技術分野で公知の方法により行うことができ、例えば、肥満細胞の脱顆粒の抑制、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制、ヒスタミン分泌の抑制、IgE抗体産生の抑制、アレルギー性及び/又はアトピー性の症状の軽減効果(例えば皮膚の炎症、鼻水の分泌抑制、鼻若しくは眼のかゆみ減少、咳の減少など)からなる群より選択される少なくとも1つの活性を測定することによって行うことができる。
【0036】
肥満細胞又は好塩基球からの脱顆粒の抑制は、脱顆粒により放出されるβ-ヘキソサミニダーゼ、ヒスタミンなどを測定することによって評価することができる。例えばβ-ヘキソサミニダーゼの測定は、後述の実施例3に示すように、肥満細胞又は好塩基球細胞を用いて、抗DNP-IgE抗体で細胞を感作した後、抗原であるDNP-BSAを用いて放出されたβ-ヘキソサミニダーゼを測定することによって行うことができる。またIgE抗体の産生の抑制は、後述の参考例に示すように、アレルギーを誘導したマウスにおけるIgE抗体の産生を測定することによって評価することができる。
【0037】
慣用の方法によりヒスタミン分泌の抑制を測定し、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を判定することも一般的に行われている。例えば、肥満細胞又は好塩基球細胞を用いて、脱顆粒後のヒスタミン分泌を、慣用のヒスタミン放出アッセイや、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定する方法(Saito, K. et al., Journal of Chromatography, 595(1992) 162-168)により測定し、ヒスタミン分泌の抑制を判定することができる。
【0038】
上述のようにして得られるイモ焼酎粕及びその画分は、公知の分離・精製技術、例えばろ過膜、活性炭、吸着樹脂などを用いる方法によって、不活性な不純物を除去し、さらに精製することができる。これにより、最終的には、低分子量のオリゴ糖を主成分として含む抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性物質が得られる。また、得られるイモ焼酎粕及びそれに由来する画分若しくは物質は、必要に応じて希釈又は濃縮してもよく、あるいは乾燥物などの形態としてもよい。例えば、イモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質に水などの溶媒を添加することによって希釈液を調製したり、ロータリエバポレータを用いてイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を濃縮したり、あるいはイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を凍結乾燥又は噴霧乾燥することで固形物として調製することができる。
【0039】
上述のように得られるイモ焼酎粕並びにそれに由来する画分及び物質は、細胞実験及び動物実験の両方において、抗アレルギー活性及び抗アトピー活性として知られるβ-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制活性及び抗IgG抗体産生抑制活性を有することが確認されたため、抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤において用いることができる。
【0040】
本発明に係る抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、有効成分として、1種のイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を含有するものであってもよいし、あるいは2種以上のイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0041】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、有効成分の他、薬学的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0042】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤の剤形は、その投与方法によって異なる。投与方法は特に限定されるものではなく、経口投与、又は非経口投与、例えば皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、直腸投与、経鼻投与などにより行うことができる。
【0043】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセルなど)、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などのいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤を非経口投与する場合は、例えば静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射及び皮下注射用の注射剤(例えば溶液、乳剤、懸濁剤)、軟膏剤、クリーム剤、座剤、パップ剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、エアゾル剤などの外用剤などの製剤形態を選択することができ、注射剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0044】
これらの各種製剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、pH調整剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、吸収促進剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0045】
抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤に配合するイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質は、その用途、剤形、投与経路などにより異なるが、例えば総重量を基準として0.1〜99重量%、好ましくは1〜90重量%とすることができる。
【0046】
また、本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤の有効量(投与量又は摂取量)は、含まれるイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質の種類、被験体の年齢及び体重、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変更することができる。例えば、成人に対して、1日1回若しくは数回に分けて、又は2日〜約10日に1回で、約1週間〜約1年間にわたり投与することができる。
【0047】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、使用する対象(被験体)を特に限定するものではない。例えば、哺乳動物、例えばヒト、家畜(ウシ、ブタなど)、愛玩動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラット、サルなど)に投与する又は摂取させることができる。
【0048】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、医薬組成物としての用途に限定されず、その他、例えば医薬部外品、化粧品、食品又は飼料などに配合されてもよい。「食品」及び「飼料」とは、栄養素を1種以上含む天然物及びその加工品をいい、あらゆる飲食物を含む。本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤(イモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質)が配合された食品又は飼料は、アレルギー性疾患及び/又は抗アトピー性炎症の症状を改善するための健康補助製品として有用である。
【0049】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤を食品に配合する場合、固体状食品、ゼリー状食品、液状食品、カプセル状食品など様々な形態の食品に添加することができる。ここで、固体状食品としては、パン生地;せんべい、ビスケット、クッキーなどの焼き菓子用生地;そば、うどんなどの麺類;かまぼこ、ちくわなどの魚肉製品;ハム、ソーセージなどの畜肉製品;粉ミルクなどが挙げられる。また、ゼリー状食品としては、フルーツゼリー;コーヒーゼリーなどが挙げられる。さらに、液状食品としては、清涼飲料・果実飲料などの飲料類(茶、コーヒー、紅茶、発酵乳、乳酸菌飲料など)、調味料など(マヨネーズ、ドレッシング、味付け調味液など)が挙げられる。カプセル状食品としては、ハードカプセル、ソフトカプセルなどがあげられる。
【0050】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤を食品に添加する場合、添加量としては、食品全体に対してイモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質の含有量が0.1〜99重量%となるように配合することができる。効果が期待できる摂取量は年齢、体重、性別、症状の程度などを考慮して、個々の場合に応じて適宜決定される。摂取回数は一日に何回かに分けて摂取できるが、その場合は、回数に応じて量を分割することも可能である。また、長期にわたり連続して摂取することが可能である。
【0051】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、アレルギー性疾患又はアトピー性炎症の症状を効果的に予防又は治療することができる。特にイモ焼酎粕とそれに由来する画分及び物質は肥満細胞からの炎症メディエーター放出を抑制し、IgE抗体産生を抑制することから、I型アレルギーに対して特に有効である。そのような疾患又は症状としては、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、喘息又は慢性気管支炎、鼻水の分泌、鼻若しくは眼のかゆみ、咳の減少などが挙げられる。本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤により治療又は予防の対象となる疾患又は症状は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよい。
【0052】
本発明の抗アレルギー剤又は抗アトピー性炎症剤は、ヒトの飲料であるイモ焼酎の製造過程で副産物として生じるイモ焼酎又はその画分若しくは物質を有効成分としているため、毒性が低く、安全性が高いものである。従って、副作用を回避して長期にわたってアレルギー性疾患又はアトピー性炎症の症状を治療又は予防するのに有効である。
【0053】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
本実施例においては、サツマイモ焼酎粕サンプルの前処理を行った。簡単に説明すると、サツマイモ焼酎粕(株式会社薩摩酒造より提供)をろ紙を通してろ過し、得られたろ液を10000rpm、4℃で15分間遠心した。上清(イモ焼酎粕原液)又はエバポレーターによる3倍濃縮液を−20℃にて保存した。
【0055】
[実施例2]
実施例1で調製したイモ焼酎粕サンプルを用いて、ダイヤイオンHP20を担体として用いたゲルろ過クロマトグラフィーを実施した。
【0056】
簡単に説明すると、担体としてダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社)を使用し、カラムサイズ:直径1.2cm、ゲル長:13cm、アプライ:6ml、フラクション体積:6ml、流速:6ml/1分22秒の条件で、バッファーとして最初に水、続いて50%エタノールを使用して、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。水により親水性画分を、エタノールにより疎水性画分を分画することができる。得られた画分の280nm及び490nmにおける吸光度を測定した。簡単に説明すると、280nmでの吸光度は、画分をそのまま280nmで吸光度を測定した。これによりタンパク質の存在を検出することができる。また490nmでの吸光度は、フェノール硫酸法に従って行い、具体的には、画分50μlを蒸留水で希釈し、400μlの希釈画分サンプルを試験管に加え、80%フェノール水溶液20μlを加えて振とうした。続いて硫酸1mlを加えて振とうし、冷水中に約10分おいた後、490nmで吸光度を測定した。これにより糖の存在を検出することができる。
【0057】
結果を図1に示す。図1に示されるように、HP-20を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、親水性画分H-1と疎水性画分H-2に分離された。
【0058】
[実施例3]
本実施例においては、イモ焼酎粕サンプルのアレルギー抑制機能を調べるために、細胞実験においてラットRBL-2H3細胞(ラット肥満細胞株)を用いて脱顆粒反応の抑制効果を検討した。脱顆粒反応として、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制法を用いた。
【0059】
(1)in vitroにおける脱顆粒誘発試験
サンプルとして、実施例2で得られた画分H-1及びH-2の5μl、10μl及び20μlを準備した。RBL-2H3細胞(東北大学加齢医学研究所より供与)は、10%FBS(牛胎児血清)を添加したEMEM培地(日水製薬製)で培養した。48ウエルプレートに2.0×105個/ウエル/200μlでRBL-2H3細胞をまき、37℃で24時間インキュベートした。続いて、終濃度0.5μg/mlとなるようにマウスモノクローナル抗DNP-IgE抗体(Sigma社製)を添加したEMEMで培地交換し、37℃で12時間インキュベートした後、300μlのSiraganian buffer(-)(500ml中、3.477gのNaCl、0.186gのKCl、0.0406gのMgCl2、3.779gのPIPES、0.7998gのNaOH、pH7.2)で3回洗浄し、100μlのSiraganian buffer(+)(500ml中、100mlのSiraganian buffer(-)、0.1008gのグルコース、0.01109gのCaCl2、0.1gのBSA、pH7.2)を加えて37℃で10分間予備加温した。その後、サンプル(5〜20μl)を加えて37℃で30分間インキュベートした。Siragnian buffer(-)で希釈したDNP-BSA(Calbiochem 社製)10μlを各ウエルに加え、37℃で30分間インキュベートした後、10分間氷冷して反応を止めた。
【0060】
(2)β-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制法
抗アレルギー測定法として、β-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制法を開発した。簡単に説明すると、細胞として、肥満細胞(マスト細胞)株細胞であるRBL-2H3細胞(東北大学加齢医学研究所より供与)を用いて、放出及び細胞内残存β-ヘキソサミニダーゼの測定量に基づき、β-ヘキソサミニダーゼの分泌の抑制を調べた。
【0061】
まず、放出β-ヘキソサミニダーゼを測定した。上記(1)で脱顆粒誘発試験を行った各ウエルの上清(細胞液)50μlを96ウエルプレートに移した。p-ニトロフェニル-アセチル-β-D-グルコサミニド(PNAG、Sigma社製)溶液(0.1Mクエン酸バッファー, pH4.5中1.3mg/ml)を50μl加えて混和し、37℃で60分間インキュベートした。続いて0.2Mグリシンバッファー(pH10)200μlを各ウエルに加えて反応を止めた後、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。
【0062】
細胞内残存β-ヘキソサミニダーゼの測定では、上記(1)の脱顆粒誘発試験を行ったウエルから細胞液をすべて除去し、0.1%tritonX-100を各ウエルに1mlずつ加えた後、50μlを96ウエルに移した。PNAG溶液50μlを加えて混和し、37℃で60分間インキュベートした。続いて0.2Mグリシンバッファー(pH10)200μlを各ウエルに加えて反応を止めた後、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。
【0063】
下記式により、β-ヘキソサミニダーゼの放出抑制率を求めた:
【数1】

【0064】
その結果を図2に示す。図2に示されるように、ダイヤイオンHP20を用いて分画された画分H-1(親水性画分)が有意にβ-ヘキソサミニダーゼの分泌抑制活性を有していることが確認された。またその活性は用量依存的であった。この結果から、イモ焼酎粕に含まれる抗アレルギー及び抗アトピー活性物質は親水性物質であることが示唆される。以上から、イモ焼酎粕からポリフェノール類などの疎水性物質を除去することが、抗アレルギー及び抗アトピー活性を有する画分又は物質を得る上で有効であることがわかった。
【0065】
続いて、大型HP20カラムへイモ焼酎粕原液800mlをアプライし、さらに水で洗浄し、その溶出液(H-1画分)1.5リットルを集めた。これをロータリーエバポレーターを用いて85℃で200mlとなるよう濃縮し、それを次の工程へ供した。
【0066】
[実施例4]
実施例3で調製した溶出液(H-1画分)を用いて、Sephadex G25を担体として用いたゲルろ過クロマトグラフィーを実施した。
【0067】
簡単に説明すると、担体としてSephadex G25(BIO-RAD)を使用し、カラムサイズ:直径11cm、ゲル長:35cm、アプライ:150ml、フラクション体積:20ml、流速:20ml/38秒の条件で、バッファーとして0.02M HCOONH4又は蒸留水を使用して、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。得られた画分の280nm及び490nmでの吸光度を、実施例2と同様に測定した。
【0068】
結果を図3に示す。図3に示されるように、2つの画分(S-1画分及びS-2画分)に分離される。なお、はじめに溶出する画分(S-1)は分子量の大きな成分を含み、この画分はガン移植マウスに経口投与すると、移植ガン細胞の増殖抑制効果、すなわち抗腫瘍能を示すことが本発明者の研究グループにより確認されている(データ非掲載)。
【0069】
[実施例5]
実施例3のβ-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制法を、実施例4で得られた画分S-1及びS-2をサンプルとして用いて同様に実施した。
【0070】
その結果を図4に示す。図4から、β-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制活性は糖を含むS-2画分に存在することが示された。
【0071】
続いて、アレルギー抑制効果が確認されたS-2画分を集め、ロータリーエバポレータを用いて80℃にて減圧濃縮し、次の工程に供した。
【0072】
[実施例6]
実施例5で調製したS-2画分を用いて、Bio-Gel P-2を担体として用いたゲルろ過クロマトグラフィーを実施した。
【0073】
簡単に説明すると、担体としてBio-Gel(登録商標)P-2(BIO-RAD)を使用し、カラムサイズ:直径3cm、ゲル長:85cm、アプライ:10ml、フラクション体積:3ml、流速:3ml/2分35秒(9.86ml/cm2)の条件で、バッファーとして蒸留水を使用して、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。得られた画分の280nm及び490nmでの吸光度を、実施例2と同様に測定した。
【0074】
結果を図5に示す。図5に示されるように、P-1、P-2、P-3及びP-4の4つの画分に分離された。
【0075】
[実施例7]
実施例3のβ-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制法を、実施例6で得られた画分P-1、P-2、P-3及びP-4をサンプルとして用いて同様に実施した。
【0076】
その結果を図6に示す。図6に示されるように、Bio-Gel P-2を用いて分画された画分P-2、P-3及びP-4に抗アレルギー活性が認められた。また、その活性は用量依存的であった。一方、P-1画分には抗アレルギー活性が存在しなかった。
【0077】
〔参考例〕
抗アレルギー活性又は抗アトピー活性の測定に関して、イモ焼酎粕サンプル及びSephadex G25により分画した画分I〜Vを用いて、in vitroにおけるβ-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制と、in vivoにおけるIgE抗体の生合成抑制について検討した。
【0078】
(1)Sephadex G25によるイモ焼酎粕サンプルの分画
担体としてSephadex G25(BIO-RAD)を使用し、カラムサイズ:直径約7.3cm、ゲル長:48cm、ゲル体積:約2000cm3、フラクション体積:20ml、流速:20ml/32秒の条件で、バッファーとして0.02M HCOONH4又は蒸留水を使用して、実施例1で調製したイモ焼酎粕原液サンプルのゲルろ過クロマトグラフィーを行った。実施例2に記載の方法と同様にして、得られた画分の280nm及び490nmにおける吸光度を測定した。
【0079】
その結果、Sephadex G25を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、イモ焼酎粕サンプルは画分I〜Vの5つに分画された。
【0080】
(2)in vitroにおけるβ-ヘキソサミニダーゼの分泌抑制試験
実施例3のβ-ヘキソサミニダーゼ分泌抑制法を、実施例1で調製したイモ焼酎粕原液と、上記(1)で得られた画分I〜Vを10μlのサンプルとして用いて同様に実施した。なお、画分IIIについては1μl、5μl、10μl及び20μlを準備した。
【0081】
その結果、イモ焼酎粕原液、及びSephadex G25を用いて分画した画分IIIが、in vitroにおいてβ-ヘキソサミニダーゼ放出を特に効果的に抑制することがわかった。
【0082】
(3)in vivoにおけるIgE抗体の生合成抑制試験
イモ焼酎粕サンプルのアレルギー抑制機能を調べるために、動物実験としてマウスを用いてIgE抗体の生合成抑制効果を検討した。
【0083】
試験対象として、5週齢Balb/c雄マウス(日本SLC株式会社)計35匹を用いた。試験群は、イモ焼酎粕原液20%群、上記(1)で得られたイモ焼酎粕画分I〜V群(原液20%に含まれる量)の合計6群(n=5)とし、またサンプルの代わりに水を投与する対照群を準備した。サンプルは、表1に示すように飼料に配合して与えるものとした。なお、サンプルを配合した飼料は3gの団子としてマウスに1日1個与えた。この団子状飼料以外にも、標準食としてマウス用固形飼料(ラボMRストック、日本農産工業(株))を与えた。飼料条件は、12時間明暗サイクル、室温23±2℃で、飼料及び水は自由摂取とした。
【0084】
【表1】

【0085】
なお、表1におけるイモ焼酎粕の重量は以下の表2に示される乾固重量によって算出した。
【0086】
【表2】

【0087】
試験では、まずアジュバントとして水酸化アルミニウム(PIECE社、Imject(登録商標)Alum)2.3mg(0.1mlの生理食塩水中)とオボアルブミン20μgを混合し、OVA溶液を調製した。このOVA溶液を、一次感作として実験開始時(0日)と二次感作として2週間後(14日)の計2回、各マウスに腹腔内注射して、アレルギーを誘導した。表1に示される配合の飼料を作製し、0日から投与した。1週間毎に尾より採血し、血清を得、使用時まで凍結保存した。28日目に解剖し、心臓から採血した。
【0088】
0〜28日目の血清中のIgE抗体量をマウスIgE ELISA定量キット(BETHYL)を用いてELISA法で定量した。簡単に説明すると、コーティングバッファー(0.05M 炭酸-重炭酸ナトリウム、pH9.6)500μl及びA90-115A抗体(ヤギ抗マウスIgEアフィニティ精製抗体)1μlを混合し、100μlをELISAプレート(住友ベークライト、ELISA用プレートH,Hタイプ、MS-8896F)の各ウエルに入れ、60分間インキュベートした。液を除いて、洗浄溶液(50mM Tris, 0.14M NaCl, 0.05%Tween20, pH8.0)400μlで3回洗浄した。
【0089】
各ウエルにブロッキング溶液(50mM Tris, 0.14M NaCl, 1%BSA, 0.05%Tween20, pH8.0)を200μl入れ、30分間インキュベートした。液を除き、洗浄溶液で3回洗浄した。
【0090】
標準としてマウスIgE Calibrator RC90-115を、サンプル希釈液(50mM Tris, 0.14M NaCl, 1%BSA, 0.05%Tween20, pH8.0)を用いて250ng/ml、125ng/ml、62.5ng/ml、31.25ng/ml、15.625ng/ml、7.8ng/ml及び3.9ng/mlの希釈系列で準備した。またサンプルは、300倍に希釈して準備した。調製した標準及びサンプルを各ウエルに100μl添加し、60分間インキュベートした。その後、液を除き、5回洗浄した。
【0091】
A90-115P抗体(ヤギ抗マウスIgE抗体-HRPコンジュゲート)をサンプル希釈液(50mM Tris, 0.14M NaCl, 1%BSA, 0.05%Tween20, pH8.0)で1:5000から1:50000の範囲で希釈して各ウエルに添加し、60分間インキュベートした。その後、液を除き、5回洗浄した。
【0092】
続いて、各ウエルにTMB溶液(TMBペルオキシダーゼ基質(BETHYL)、ペルオキシダーゼ溶液B(H2O2))100μlを入れ、5〜30分間インキュベートした。各ウエルに2M H2SO4を100μl入れてTMB反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用いて450nmで吸光度を測定した。
【0093】
結果を図7に示す。この結果から、Sephadex G25を用いて分画したイモ焼酎粕原液とその画分II及び画分IIIが、in vivoにおいてIgE抗体産生を有意に抑制することがわかった。
【0094】
以上の(2)及び(3)の結果から、in vitroの実験結果とin vivoの実験結果がほぼ一致することが示された。従って、他の画分サンプルについては、in vitroの実験で抗アレルギー活性を検討した。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により、抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤が提供される。かかる抗アレルギー剤及び抗アトピー性炎症剤は、イモ焼酎粕又はそれに由来する画分若しくは物質を有効成分として含むため、安全性が高く、簡便に製造することができ、医薬品、食品及び化粧品分野における用途がある。また、本発明により、イモ焼酎粕の有効な用途が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イモ焼酎粕又はそれに由来する抗アレルギー活性を有する画分若しくは物質を有効成分として含むことを特徴とする抗アレルギー剤。
【請求項2】
抗アレルギー活性を有する画分がイモ焼酎粕の親水性画分である、請求項1記載の抗アレルギー剤。
【請求項3】
抗アレルギー活性を有する物質が糖を含む、請求項1又は2記載の抗アレルギー剤。
【請求項4】
抗アレルギー活性が、肥満細胞の脱顆粒の抑制、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制、IgE抗体産生の抑制、アレルギー性症状の軽減、ヘルパーT細胞のTh1/Th2比の増大、及びヒスタミン分泌の抑制からなる群より選択される少なくとも1つの活性である、請求項1又は2記載の抗アレルギー剤。
【請求項5】
イモ焼酎粕又はそれに由来する抗アトピー活性を有する画分若しくは物質を有効成分として含むことを特徴とする抗アトピー性炎症剤。
【請求項6】
抗アトピー活性が、肥満細胞の脱顆粒の抑制、β-ヘキソサミニダーゼ分泌の抑制、IgE抗体産生の抑制、アトピー性症状の軽減、ヘルパーT細胞のTh1/Th2比の増大、及びヒスタミン分泌の抑制からなる群より選択される少なくとも1つの活性である、請求項5記載の抗アトピー性炎症剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗アレルギー剤、又は請求項5若しくは6記載の抗アトピー性炎症剤を配合することを特徴とする食品又は飼料。
【請求項8】
イモ焼酎粕を1以上の分画操作に供し、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有する物質を採取することを特徴とするイモ焼酎粕の抗アレルギー活性物質及び/又は抗アトピー活性物質の製造方法。
【請求項9】
分画操作が、ゲルろ過クロマトグラフィー及び/又は吸着クロマトグラフィーである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性を有することを特徴とするイモ焼酎粕由来の親水性画分。
【請求項11】
イモ焼酎粕の親水性画分からタンパク質を除去して得られ、糖を主成分として含む、抗アレルギー活性及び/又は抗アトピー活性物質。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−93815(P2011−93815A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246922(P2009−246922)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(593144105)薩摩酒造株式会社 (8)
【Fターム(参考)】