説明

インキ、反転印刷法、液晶カラーフィルタ、およびその製造方法

【課題】シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備え、安全性の問題や縦スジ、ムラ等を生じにくい反転印刷法用のインキとそれを用いた反転印刷法、ムラやピンホール等のない厚みが均一なカラーフィルタ層、ブラックマトリクス層を備えた液晶カラーフィルタ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】インキは、バインダ樹脂、着色剤、溶剤を含み、前記溶剤が、沸点50〜150℃、25℃における表面張力12〜18mN/mのフッ素系溶剤を5〜50質量%の割合で含有する。反転印刷法は、前記インキを用いる。液晶カラーフィルタ22は、カラーフィルタ層25、および/またはブラックマトリクス層24が前記反転印刷法によって形成される。製造方法は、前記カラーフィルタ層25、および/またはブラックマトリクス層24を前記反転印刷法によって形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる反転印刷法に用いるインキと、前記インキを用いた反転印刷法、液晶ディスプレイ(LCD)を構成する液晶カラーフィルタ、および前記液晶カラーフィルタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記LCDを構成する液晶カラーフィルタのカラーフィルタ層やブラックマトリクス層等の、基板の面積と比較してごく微細なインキパターンを、前記基板のほぼ全面に形成して前記液晶カラーフィルタ等を製造するために、従来はいわゆるフォトリソグラフ法を利用した形成方法が採用されてきた。
しかし近時、前記フォトリソグラフ法に代えてできるだけ工程数を少なく、消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして短時間で生産性良くパターン形成をするために印刷法、特に凹版オフセット印刷法を利用することが普及しつつある。
【0003】
前記凹版オフセット印刷法では、印刷するインキパターンに対応した凹部を有する版(凹版)の前記凹部に充填したインキを、前記版から印刷用ブランケットの表面に転写させ、次いで前記印刷用ブランケットの表面から被印刷体としての基板の表面に再転写させることで、前記基板の表面にインキパターンが形成される。
しかし凹版オフセット印刷法によって基板の表面に形成されるインキパターンは厚みのばらつきが大きくなる傾向がある。すなわち凹版オフセット印刷法では、前記工程から明らかなようにインキの転写が2度行われ、それぞれの転写の度に、インキが転写先に転写される分と転写元に残る分とに引き裂かれるいわゆるインキの分離を生じるため、最終的に基板の表面に転写されるインキパターンに、前記分離の痕跡として高低差の大きい凹凸が残留して厚みのばらつきが大きくなる傾向があるのである。
【0004】
そこで特に各画素内、および各画素間で色濃度を均一化するために厚みができるだけ均一であることが求められる液晶カラーフィルタ等を形成するために、凹版オフセット印刷法に代わる新たな印刷法として反転印刷法が開発された(特許文献1〜3等参照)。
前記反転印刷法では、印刷用ブランケットの表面の略全面にインキを供給してベタのインキ層を形成し、前記インキ層を、表面に所定のインキパターンに対応した凹部を有する版の前記表面に接触させて、前記凹部以外のインキ層を前記版の表面に転写させることで、前記印刷用ブランケットの表面から選択的に除去して、前記印刷用ブランケットの表面に前記凹部に対応したインキパターンを形成したのち、前記インキパターンを基板の表面に転写させることで、前記基板の表面にインキパターンが形成される。
【0005】
かかる反転印刷法によれば、インキパターンを形成するインキの転写回数を、印刷用ブランケットの表面から基板の表面への転写時の1回に減らすことができるため、従来の凹版オフセット印刷法に比べてインキパターンの表面に残留する凹凸の高低差を小さく、そして厚みのばらつきを小さくすることができる。
印刷用ブランケットとしては、少なくともその表面がシリコーンゴムによって形成されたシリコーンブランケットが広く用いられる。シリコーンブランケットはインキの離型性に優れるため、その表面から基板の表面へのインキパターンの転写性を向上できる。
【0006】
しかしシリコーンブランケットの表面はインキの濡れ性が低いため、工程の最初に前記シリコーンブランケットの表面の略全面にインキを塗布してインキ層を形成する際にはじき等を生じやすく、前記はじき等が原因で生じるムラやピンホール等のない厚みが均一なインキ層を形成できないという問題がある。
そこで反転印刷法用のインキとして、シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備えたインキを得るべく、インキの表面張力、インキに含まれる溶剤の沸点、インキの、シリコーンゴムに対する膨潤率等を調整することが検討されている(特許文献4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−58921号公報
【特許文献2】特開平11−198337号公報
【特許文献3】特開2000−289320号公報
【特許文献4】特開2006−111725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インキの表面張力等を調整するために、溶剤として表面張力の低い溶剤(以下「低張力溶剤」と記載することがある)を単独で用いたり、あるいは他の溶剤と併用したりすることが行われる。
しかし一般的な低張力溶剤は極性が低く、インキに用いられる高極性のバインダ樹脂に対する溶解性が低いため、特に前記低張力溶剤を単独で用いたり、他の溶剤との併用系中に高濃度で含有させたりした場合に、バインダ樹脂を良好に溶解させることができず、インキ中に前記バインダ樹脂等の固形分が異物として析出しやすい。
【0009】
そして析出した異物が原因となって、シリコーンブランケットの表面に形成するベタのインキ層に縦スジを生じたり、前記縦スジが原因となってインキパターンの形状に乱れを生じたりしやすいという問題がある。
すなわち反転印刷法では、シリコーンブランケットの表面の略全面にインキを供給してベタのインキ層を形成するために、例えば形成するインキ層の幅に対応した幅と厚みに対応した間隔とを有するスリットを備えたスリットダイコータ等を用いるのが一般的である。
【0010】
シリコーンブランケットを一定の速度で回転させながら、その表面に、前記スリットダイコータのスリットを通して所定量のインキを連続的に供給することで、前記スリットの幅と間隔に対応した幅と厚みとを有するベタのインキ層が前記シリコーンブランケットの表面に形成される。
ところが、前記のようにインキ中に異物が析出していると、前記異物がスリットを部分的に塞ぐ等して、インキの供給を前記スリットの幅方向の一部で妨げる結果、シリコーンブランケットの表面に形成されるインキ層の幅方向の、前記異物によって塞がれた部分に対応する位置に縦スジが生じる。また縦スジによるインキ層の厚みのばらつき等に基づいて、インキパターンの形状に乱れを生じる。
【0011】
また前記低張力溶剤の多くは、例えば特許文献4に例示されているように沸点が低かったり、あるいは引火点が低かったりするため、インキ中に含有させた際に安全性の面で問題を生じるおそれもある。
また沸点の低い低張力溶剤はインキ中から揮発しやすいため、例えば前記スリットダイコータ等を用いたインキ層の形成時に縦スジやムラを生じたり、前記縦スジやムラによるインキパターンの形状の乱れを生じたりしやすいという問題もある。
【0012】
すなわち沸点が低く揮発しやすい低張力溶剤を含むインキを用いた場合、たとえインキの調製時には先に説明した異物が析出していなくても、前記スリットダイコータ等を用いたインキ層の形成を繰り返し行っていくうちに、前記低張力溶剤の揮発によるインキの乾燥、および凝集に伴ってインキ中にバインダ樹脂等の固形分が異物として析出しやすく、析出した異物がスリットを部分的に塞ぐ等してインキの供給を前記スリットの幅方向の一部で妨げる結果、シリコーンブランケットの表面に形成されるインキ層の幅方向の、前記異物によって塞がれた部分に対応する位置に縦スジが生じる。
【0013】
また前記異物の析出とそれに伴う縦スジを生じないまでも、インキの粘度上昇によってインキ層のムラを生じたり、前記縦スジやムラによるインキ層の厚みのばらつき等に基づいて、インキパターンの形状に乱れを生じたりする。
本発明の目的は、シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備え、しかも安全性の問題や縦スジ、ムラ等の問題を生じにくい反転印刷法用のインキと、それを用いた反転印刷法とを提供することにある。また本発明の目的は、ムラやピンホール等のない厚みが均一なカラーフィルタ層、ブラックマトリクス層等を備えた液晶カラーフィルタと、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、シリコーンブランケットの表面の略全面に形成したインキ層を、表面に所定のインキパターンに対応した凹部を有する版の前記表面に接触させて、前記凹部以外のインキ層を前記版の表面に転写させることで、前記シリコーンブランケットの表面から選択的に除去して、前記シリコーンブランケットの表面に前記凹部に対応したインキパターンを形成したのち、前記インキパターンを被印刷体の表面に印刷する反転印刷法に用いるインキであって、バインダ樹脂、着色剤、および溶剤を含み、前記溶剤が、沸点50℃以上、150℃以下、25℃における表面張力12mN/m以上、18mN/m以下のフッ素系溶剤を5質量%以上、50質量%以下の割合で含有していることを特徴とするインキである。
【0015】
本発明において低張力溶剤として用いているフッ素系溶剤は基本的に引火点を有さず不燃性であるため、インキに不燃性を付与して安全性を向上することができる。
また前記フッ素系溶剤として、25℃における表面張力が12mN/m以上、18mN/m以下であるものを選択的に用いるとともに、前記フッ素系溶剤を、溶剤の総量中の5質量%以上、50質量%以下の範囲で含有させることでインキ全体での表面張力を調整して、前記インキに、シリコーンブランケットの表面に対する適度な濡れ性と離型性とを付与することができる。
【0016】
またフッ素系溶剤以外の溶剤として、バインダ樹脂に対する溶解性に優れたものを用いるとともに、フッ素系溶剤として沸点50℃以上、150℃以下であるものを選択的に用いることで、前記縦スジやムラの発生とそれに伴うインキパターンの形状の乱れとを防止することができる。
したがって本発明によれば、シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備え、しかも安全性の問題や縦スジ、ムラ等の問題を生じにくい反転印刷法用のインキを提供することが可能となる。
【0017】
フッ素系溶剤としては、前記各種の効果に優れるとともに塩素を含まないハイドロフルオロエーテル類、およびハイドロフルオロカーボン類からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
また本発明のインキは、さらにフッ素系界面活性剤を、インキの総量中の0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。フッ素系界面活性剤を前記の範囲で含有させることにより、インキの、シリコーンブランケットの表面に対する濡れ性をさらに向上できる。
【0018】
本発明は、前記本発明のインキを用いて、シリコーンブランケットの表面の略全面に形成したインキ層を、表面に所定のインキパターンに対応した凹部を有する版の前記表面に接触させて、前記凹部以外のインキ層を前記版の表面に転写させることで、前記シリコーンブランケットの表面から選択的に除去して、前記シリコーンブランケットの表面に前記凹部に対応したインキパターンを形成したのち、前記インキパターンを被印刷体の表面に印刷することを特徴とする反転印刷法である。
【0019】
本発明によれば、前記本発明のインキを用いることにより、反転印刷法によって、ムラやピンホール等のない厚みが均一なインキ層を形成することができる。
したがって前記反転印刷法を採用することにより、ムラやピンホール等のない厚みが均一なカラーフィルタ層、ブラックマトリクス層等を備えた液晶カラーフィルタを得ることができる。
【0020】
すなわち本発明は、透明基板と、前記透明基板上に形成されたカラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層とを備え、前記カラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層のうちの少なくとも一方が、前記本発明の反転印刷法によって形成されていることを特徴とする液晶カラーフィルタである。
また本発明は、透明基板上に、前記本発明の反転印刷法によってカラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層のうちの少なくとも一方を形成する工程を含むことを特徴とする液晶カラーフィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備え、しかも安全性の問題や縦スジ、ムラ等の問題を生じにくい反転印刷法用のインキと、それを用いた反転印刷法とを提供することができる。また本発明によれば、ムラやピンホール等のない厚みが均一なカラーフィルタ層、ブラックマトリクス層等を備えた液晶カラーフィルタと、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の反転印刷法の一例における、各工程を示す概略図である。
【図2】本発明の液晶カラーフィルタの、実施の形態の一例の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〈インキ〉
本発明のインキは、印刷用ブランケットとしてシリコーンブランケットを用いた反転印刷法に用いるものであって、バインダ樹脂、着色剤、および溶剤を含み、前記溶剤が、沸点50℃以上、150℃以下、25℃における表面張力12mN/m以上、18mN/m以下のフッ素系溶剤を5質量%以上、50質量%以下の割合で含有することを特徴している。
【0024】
前記本発明のインキにおいて用いるフッ素系溶剤の、常圧(1013.25hPa)での沸点が50℃以上、150℃以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち沸点が50℃未満であるフッ素系溶剤はインキ中から揮発しやすく、前記揮発によるインキの乾燥、および凝集によってインキ中に異物が析出してインキ層に縦スジを生じる原因となる。また前記異物の析出による縦スジを生じないまでも、インキの粘度上昇によるインキ層のムラを生じたり、前記縦スジやムラによるインキパターンの形状の乱れを生じたりする。
【0025】
一方、沸点が150℃を超える場合にはインキが乾燥しにくくなり、基板の表面にインキパターンを転写した後の乾燥に長時間を要するため、液晶カラーフィルタ等の生産性が低下する。また沸点が150℃を超えるフッ素系溶剤はその化学構造上、必然的に表面張力が高いためインキの表面張力を下げる効果が不十分になり、その結果としてインキ層のムラを生じたり、前記ムラによるインキパターンの形状の乱れを生じたりする。
【0026】
なお縦スジやムラ等のない良好なインキ層をシリコーンブランケットの表面に形成し、かつ形状の乱れ等のない良好なインキパターンを基板の表面に形成するとともに、前記インキパターンをできるだけ短時間で乾燥させて液晶カラーフィルタ等の生産性を向上することを考慮すると、フッ素系溶剤の沸点は、前記範囲内でも60℃以上であるのが好ましい。
【0027】
前記フッ素系溶剤の、25℃における表面張力12mN/m以上、18mN/m以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち表面張力が12mN/m未満では、フッ素系溶剤の含有割合や、あるいは組み合わせる他の溶剤の種類等にもよるが、シリコーンブランケットの表面に対するインキの濡れ性が高くなりすぎて、インキパターンを、前記シリコーンブランケットの表面から基板の表面に良好に転写させることができず、転写されたインキパターンの形状に乱れを生じてしまう。
【0028】
またインキの、スリットダイコータ等に対する濡れ性も高くなって特にスリットの付近に付着しやすくなり、付着したインキが乾燥してバインダ樹脂等が異物として析出してスリットを部分的に塞ぐと、インキ層に縦スジを生じたり、前記縦スジによるインキパターンの形状の乱れを生じたりする。
一方、表面張力が18mN/mを超える場合には、インキの表面張力を低下させてシリコーンブランケットの表面に対するインキの濡れ性を向上する効果が得られない。そのため、シリコーンブランケットの表面の略全面にインキを塗布してインキ層を形成する際にはじき等を生じやすく、前記はじき等が原因となってインキ層にムラやピンホール等を生じやすくなる。
【0029】
なおムラやピンホール等のない良好なインキ層をシリコーンブランケットの表面に形成し、かつ形状の乱れ等のない良好なインキパターンを基板の表面に形成することを考慮すると、フッ素系溶剤の表面張力は、前記範囲内でも16mN/m以下であるのが好ましい。
なおフッ素系溶剤の表面張力を、本発明では温度25℃の環境下、英弘精機(株)製の動的表面張力計シータt60を用いて、最大泡圧法によって測定した値でもって表すこととする。
【0030】
フッ素系溶剤としては、分子中にフッ素原子を含み、不燃性で、かつ前記沸点および表面張力の範囲を満足する種々のフッ素系溶剤が使用可能であるが、特に前記各種の効果に優れるとともに塩素を含まないハイドロフルオロエーテル類、およびハイドロフルオロカーボン類からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
前記のうちハイドロフルオロエーテル類としては、式(1):
X−O−Y (1)
〔式中、XはCで表されるフルオロアルキル基、YはCで表されるフルオロアルキル基を示す。両式中のa、b、c、d、e、fはa≧1、b≧0、c≧1、d≧1、e≧1、f≧0であるとともに、b+c=2a+1、e+f=2d+1で、かつb=0のときa+d>3、かつc+e+f>8、b≧1のときa+d≧3、かつb+c+e+f≧8を満足する整数を示す。〕
で表される含フッ素化合物が挙げられる。
【0031】
また前記a、b、c、d、e、fは、b=0のとき9≧a+b>3、かつ20≧c+e+f>8、b≧1のとき8≧a+b≧3、かつ18≧b+c+e+f≧8であるのが好ましく、特にb=0のとき7≧a+b≧5、かつ16≧c+e+f≧12、b≧1のとき8≧a+b≧4、かつ18≧b+c+e+f≧10であるのが好ましい。
前記ハイドロフルオロエーテル類のうち沸点50℃以上、150℃以下、25℃における表面張力12mN/m以上、18mN/m以下の条件を満たすものとしては、例えばエチルノナフルオロブチルエーテル〔沸点76℃、表面張力13.6mN/m〕、メチルノナフルオロブチルエーテル〔沸点76℃、表面張力13.6mN/m〕、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−トリフルオロメチル−3−メトキシペンタン〔沸点55℃、表面張力14.1mN/m〕、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル[1−メチル−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル]エーテル〔沸点79℃、表面張力13.3mN/m〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
またハイドロフルオロエーテル類としては、例えば住友スリーエム(株)製のNOVEC(登録商標)HFE−7200〔沸点76℃、表面張力13.6mN/m〕等も挙げられる。前記HFE−7200は、ともにハイドロフルオロエーテル類であるエチルノナフルオロイソブチルエーテルとエチルノナフルオロブチルエーテルとの混合物である。
また前記条件を満たすハイドロフルオロカーボン類としては、例えばトリデカフルオロペンタン〔沸点58℃、表面張力14.1mN/m〕、トリデカフルオロヘキサン〔沸点59℃、表面張力12.5mN/m〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0033】
フッ素系溶剤の沸点および表面張力を前記範囲内で調整するためには、該当する沸点と表面張力とを有するフッ素系溶剤を選択したり、2種以上のフッ素系溶剤を配合して沸点と表面張力が所定の範囲内となるように調整したりすればよい。
前記フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合が5質量%以上、50質量%以下に限定されるのは、下記の理由による。
【0034】
すなわち含有割合が5質量%未満では、フッ素系溶剤を含有させることによる、インキの表面張力を低下させてシリコーンブランケットの表面に対するインキの濡れ性を向上する効果が得られない。そのため、シリコーンブランケットの表面の略全面にインキを塗布してインキ層を形成する際にはじき等を生じやすく、前記はじき等が原因となってインキ層にムラやピンホール等を生じやすくなる。またインキに不燃性を付与する効果も得られない。
【0035】
一方、含有割合が50質量%を超える場合には、フッ素系溶剤に溶けないバインダ樹脂等が異物として析出しやすくなり、前記異物がスリットを部分的に塞ぐと、インキ層に縦スジを生じたり、前記縦スジによるインキパターンの形状の乱れを生じたりする。
なおムラやピンホール、あるいは形状の乱れ等のない良好なインキパターンを基板の表面に形成することを考慮すると、フッ素系溶剤の含有割合は、前記範囲内でも30質量%以下であるのが好ましい。
【0036】
前記含有割合は、フッ素系溶剤を1種単独で用いる場合は、前記1種類のフッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合であり、2種以上のフッ素系溶剤を併用する場合は、その合計量の、溶剤の総量中に占める含有割合である。
なお縦スジやムラ、ピンホール等のない良好なインキ層をシリコーンブランケットの表面に形成し、かつ形状の乱れ等のない良好なインキパターンを基板の表面に形成することを考慮すると、フッ素系溶剤の含有割合は、前記範囲内でも40質量%以下であるのが好ましい。
【0037】
バインダ樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリエステルメラミン樹脂、メラミン樹脂、エポキシメラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
特にLCD用の液晶カラーフィルタ等の耐久性を向上することを考慮すると、バインダ樹脂としては熱硬化性、紫外線硬化性、光硬化性等を有するバインダ樹脂が好ましい。
【0038】
中でもポリエステルメラミン樹脂、エポキシメラミン樹脂、アクリル樹脂が好ましく、特にポリエステルメラミン樹脂が好ましい。
バインダ樹脂の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法による、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwで表して1000以上、特に5000以上であるのが好ましく、40000以下、特に20000以下であるのが好ましい。前記範囲内において、粘度やチキソトロピック粘性等の、インキに要求される物性に合わせて適宜設定できる。
【0039】
バインダ樹脂の量も同様であり、粘度やチキソトロピック粘性等の、インキに要求される物性に合わせて適宜設定できる
が、特にインキの総量の3質量%以上、特に5質量%以上であるのが好ましく、25質量%以下、特に20質量%以下であるのが好ましい。
着色剤としては、種々の顔料、染料が挙げられる。特にLCD用の液晶カラーフィルタの場合は、耐薬品性、耐熱性、耐候性、耐光性等に優れたインキパターンを形成することを考慮すると有機、無機の各種顔料が好ましい。
【0040】
インキが前記液晶カラーフィルタのフィルタ層を形成するためのものである場合、顔料としてはレッド(R)、グリーン(G)およびブルー(B)の各フィルタ層の色味にあった顔料が挙げられる。
例えばレッドのフィルタ層形成用の顔料としては、例えばジケトピロロピロール系顔料、キナクリドン系顔料(例えばジメチルキナクリドン、ジクロロキナクリドン等)、アンスラキノン系顔料などが挙げられる。またグリーンのフィルタ層形成用の顔料としては、例えば臭素化銅フタロシアニン(C.I.ピグメントグリーン36)、塩素化銅フタロシアニン(C.I.ピグメントグリーン7)等のハロゲン化フタロシアニン顔料などが挙げられる。さらにブルーのフィルタ層形成用の顔料としては、例えばフタロシアニン系顔料などが挙げられる。これら顔料は、各色のフィルタ層の色味に合わせて1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
またインキが液晶カラーフィルタのブラックマトリクス層を形成するためのものである場合、顔料としては、例えばカーボンブラック、チタンブラック、酸化鉄、硫酸鉄、酸化クロム、酸化銅、複合酸化物(Cr−Co−Fe系、Cr−Co−Mn−Fe系、Cr−Cu系、Cr−Cu−Mn系等)などが挙げられる。
顔料の粒径は、インキのチキソトロピック粘性や印刷後のパターン表面の平滑性等を考慮して任意に設定できるが、平均粒径が1nm以上、100nm以下であるのが好ましい。
【0042】
平均粒径が1nm以下である顔料は入手が困難であり、また凝集性が極めて高くなるため、インキ中での分散性が低下するおそれがある。また100μmを超える顔料はパターン表面の平滑性を低下させるおそれがあるだけでなく、反転印刷法に使用した際にスリットダイコータ等において目詰まりを生じさせるおそれもある。
顔料等の着色剤の量は、インキの用途等、具体的にはインキに要求される色濃度や印刷適性等に応じて適宜設定できる。
【0043】
フッ素系溶剤と併用される他の溶剤としては、前記バインダ樹脂を良好に溶解させて析出を防止しうる種々の溶剤が挙げられる。
前記他の溶剤としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル(別名「メチルセロソルブ」「2−メトキシエタノール」)、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名「セロソルブ」「2−エトキシエタノール」)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(別名「1−メトキシ−2−プロピルアセテート」、以下「PGMEA」と略記する場合がある。)、エチレングリコールモノブチルエーテル(別名「ブチルセロソルブ」、2−ブトキシエタノール)等の1種または2種以上が挙げられる。特にPGAMEAが好ましい。
【0044】
前記他の溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合は、フッ素系溶剤の残部、すなわち50質量%以上、95質量%以下とされる。
前記含有割合は、他の溶剤を1種単独で用いる場合は、前記1種類の他の溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合であり、2種以上の他の溶剤を併用する場合は、その合計量の、溶剤の総量中に占める含有割合である。
【0045】
また前記他の溶剤とフッ素系溶剤とを合わせた全ての溶剤の、インキの総量中に占める含有割合は、例えばバインダ樹脂の種類や分子量、含有割合、着色剤の種類や含有割合等に応じて、前記インキが反転印刷法に適した粘度となるように任意に設定できる。
インキは、インキの、シリコーンブランケットの表面に対する濡れ性をさらに向上することを考慮すると、前記各成分に加えて、さらにフッ素系界面活性剤を含有しているのが好ましい。
【0046】
前記フッ素系界面活性剤の含有割合は、インキの総量中の0.1質量%以上、1質量%以下であるのが好ましい。
含有割合が前記範囲未満では、フッ素系界面活性剤を含有させることによる前記効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないおそれがある。
【0047】
前記インキは、さらに顔料分散剤、レベリング剤、チキソトロピック粘性付与剤、消泡剤等の各種添加剤を任意の割合で含有してもよい。
インキは、前記各成分を所定の割合で配合し、3本ロール、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、サンドミル等を用いて混練して調製することができる。
本発明のインキは、先に説明したようにシリコーンブランケットを用いた反転印刷法に用いて、例えばLCD用の液晶カラーフィルタ等を、先に説明した様々な問題を生じることなく、効率よく製造するのに適している。
【0048】
その際、印刷の精度を向上することを考慮すると、インキによるシリコーンブランケットの膨潤率ΔV(%)が5%以上、特に10%以上であるのが好ましく、100%以下、中でも50%以下、特に30%以下であるのが好ましい。
膨潤率ΔV(%)は、23±1℃に設定したインキ中に、シリコーンブランケットを形成するシリコーンゴムの試料を24時間浸漬して膨潤させた後、浸漬前の体積Vと、浸漬後の体積Vとから式(i):
ΔV(%)=[(V−V)/V]×100 (i)
によって求めることができる。
【0049】
前記膨潤率ΔV(%)が前記範囲未満では、シリコーンブランケットの表面でインキがはじかれやすくなって均一なインキ膜を形成できないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、インキ中の溶剤がシリコーンブランケットによって急速に吸収されるため、インキの乾燥が速くなりすぎるおそれがある。
膨潤率ΔV(%)は、溶剤の種類、組み合わせおよび量比を変更することにより適宜調節できる。
【0050】
〈反転印刷法〉
図1(a)〜(c)は、本発明の反転印刷法の工程の一例を説明する図である。
まず図1(a)に示すように塗布工程において、シリコーンブランケット10の表面の略全面にインキ11を塗布してインキ層12を形成する。
シリコーンブランケット10としては、少なくともその表面がシリコーンゴムからなるブランケットが挙げられる。
【0051】
前記シリコーンブランケット10としては、その全体が単層のシリコーンゴムからなるものや、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、金属箔等からなる基材の片面にシリコーンゴムの層を積層した積層構造を有するもの等が挙げられる。
このうち全体が単層のシリコーンゴムからなるシリコーンブランケット10は、例えば平盤上に液状のシリコーンゴムをコーティングし、架橋反応させたのち前記平盤から剥離する等して形成できる。
【0052】
また積層構造を有するシリコーンブランケット10は、例えば金型内に基材を装着した状態で、前記金型内に液状のシリコーンゴムを注入して架橋反応させたり、基材の表面に液状のシリコーンゴムをコーティングしたのち架橋反応させたりして形成できる。
図の例ではシリコーンブランケット10を円筒形状の胴13に、前記胴13と共に回転可能な円筒形状となるように捲回している。
【0053】
前記シリコーンブランケット10の表面にインキ11を塗布するために、例ではスリットダイコータ14を用いている。前記スリットダイコータ14は、インキ11が供給されるインキ供給部15と、前記インキ供給部15に連通させたスリットノズル16とを備えている。
スリットノズル16は、塗布工程においてシリコーンブランケット10の表面と間隔を隔てて対向配置される。
【0054】
前記スリットノズル16は、円筒状に捲回されたシリコーンブランケット10の軸線方向に沿って細長矩形状に開口されている。スリットノズル16の、前記軸線方向に沿う開口幅(横開口幅)は、シリコーンブランケット10の同方向の長さと略同幅に設定されている。またスリットノズル16の、前記軸線方向と直交方向(シリコーンブランケットの周方向)に沿う開口幅(縦開口幅)は、例えば3〜1000μm程度、好ましくは30〜50μm程度に設定されている。
【0055】
また対向するシリコーンブランケット10の表面とスリットノズル16の先端との間隔は、例えば10〜150μm程度、特に30〜100μm程度に設定される。
インキ供給部15に本発明のインキ11を供給し、シリコーンブランケット10を図中に矢印で示すように一方向に一定速度で回転させながら、前記インキ11をスリットノズル16の先端から連続的に供給すると、前記シリコーンブランケット10の表面の略全面にインキ層12が形成される。
【0056】
インキ層12の厚みは、シリコーンブランケット10の回転速度、インキ11の粘度、スリットノズル16の縦開口幅、およびシリコーンブランケット10の表面とスリットノズル16の先端との間隔等を変更することで適宜調節できる。
次に図1(b)に示すように除去工程において、前記シリコーンブランケット10を版17上で転動させて、インキ層12を版17の凸部18と選択的に接触させることで、前記インキ層12のうち凸部18に接触された部分のインキ11を凸部18に転写させてシリコーンブランケット10の表面から除去する。これにより、前記シリコーンブランケット10の表面には、凸部18間の凹部19の形状に対応したインキパターン20が形成される。
【0057】
前記版17としては、鉄−ニッケル合金(42アロイ等)、ステンレス鋼等の金属や、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラスからなり、片面に、先に説明したようにフォトリソグラフ法等によって、印刷するインキパターン20の形状に対応した凹部19を形成したものを用いることができる。
また版17の耐久性を向上するため、前記凸部18の表面等には、例えば硬質クロムめっき等を施してもよい。
【0058】
次に図1(c)に示すように印刷工程において、前記シリコーンブランケット10を基板21上で転動させて、前記シリコーンブランケット10の表面から基板21の表面にインキパターン20を転写させると、前記基板21の表面に、版17の凹部19の形状に対応したインキパターン20が形成されて一連の印刷作業が終了する。
このあとインキパターン20を乾燥させ、さらに必要に応じてバインダ樹脂を硬化反応させることにより、先に説明したLCDの液晶カラーフィルタを構成するカラーフィルタ層、ブラックマトリクス層等を形成できる。
【0059】
〈液晶カラーフィルタ、およびその製造方法〉
図2は、本発明の液晶カラーフィルタの、実施の形態の一例の一部を拡大して示す断面図である。
図2を参照して、この例の液晶カラーフィルタ22は、透明基板23と、前記透明基板23の一方側の表面上に互いに間隔を隔てて平行に配置されたブラックマトリクス層24と、前記透明基板23およびブラックマトリクス層24を覆うカラーフィルタ層25とを備えている。
【0060】
前記カラーフィルタ層25は、前記表面上に、ブラックマトリクス層24の長手方向に沿って平行に配置された、レッドのカラーフィルタ層23Rと、グリーンのカラーフィルタ層23Gと、ブルーのカラーフィルタ層23Bとをこの順に繰り返し配列して構成されている。
前記透明基板23としては、例えば波長400〜700nmの光に対する透過率の高い基板が挙げられる。前記透明基板23としては、例えばノンアルカリガラス、ソーダライムガラス、低アルカリガラス等のガラス板や、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアクリレート等のプラスチック板が挙げられる。
【0061】
ブラックマトリクス層24は、互いに色味の異なる各色のカラーフィルタ層25R、25G、25Bの間の混色を防止し、液晶カラーフィルタ22のコントラストを向上させるために機能する。
なおブラックマトリクス層24はストライプ状には限られず、格子状に形成してもよい。またカラーフィルタ層25はストライプ状には限られず、前記格子内を埋めるドット状であってもよい。
【0062】
前記液晶カラーフィルタ22を本発明の製造方法によって製造する場合には、まず透明基板23の一方側の表面上に、先に説明した本発明の反転印刷法によってブラックマトリクス層24を形成し、次いで前記透明基板23およびブラックマトリクス層24を覆うように、本発明の反転印刷法によって各色のカラーフィルタ層25R、25G、25Bを順次(順不同であるが)形成すればよい。
【0063】
印刷後のインキの乾燥、および加熱による硬化反応は、各層を形成するごとに個別に実施してもよいし、加熱による硬化反応は最後に一度だけ実施してもよい。
また本発明の製造方法では、ブラックマトリクス層24のみ、あるいはカラーフィルタ層25のみを本発明の反転印刷法によって形成し、他の層は他の形成方法で形成してもよい。前記他の形成方法としては、先に説明したフォトリソグラフ法や凹版オフセット印刷法等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下の実施例、比較例におけるインキの調製、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
バインダ樹脂としてのポリエステルメラミン樹脂〔重量平均分子量Mw=10000〕100質量部、着色剤20質量部、フッ素系溶剤100質量部、他の溶剤としてのPGMEA300質量部、フッ素系界面活性剤5質量部、および顔料分散剤5質量部を、プラネタリミキサを用いて混合し、次いでビーズミルを用いて混練してインキを調製した。
【0065】
なお着色剤としては、それぞれ一次粒子径が1〜100nmである赤色顔料〔アントラキノン系顔料〕、緑色顔料〔臭素化フタロシアニン〕、または青色顔料〔銅フタロシアニン〕を用いて赤、緑および青の各色のインキを調製した。
フッ素系溶剤としては、ともにハイドロフルオロエーテル類であるエチルノナフルオロイソブチルエーテルとエチルノナフルオロブチルエーテルとの混合物〔住友スリーエム(株)製のNOVEC(登録商標)HFE−7200、沸点76℃、25℃における表面張力13.6mN/m〕を用いた。
【0066】
またフッ素系界面活性剤としては、AGCセイミケミカル(株)製のサーフロン(登録商標)S−611を用いた。
さらに顔料分散剤としては、リューブリゾル社製のソルスパース(登録商標)5000(顔料誘導体タイプ)と、同社製のソルスパース24000GR(SC)とを質量比1:1で配合した混合物を用いた。
【0067】
前記インキにおける、フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合は25質量%であった。またフッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
〈実施例2〜5、比較例1、2〉
フッ素系溶剤と他の溶剤の量を調整して、前記フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合を4質量%(比較例1)、5質量%(実施例2)、10質量%(実施例3)、30質量%(実施例4)、50質量%(実施例5)、および52質量%(比較例2)としたこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。なおフッ素系溶剤と他の溶剤の総量は実施例1と同じ400質量部とした。フッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
【0068】
〈実施例6〜8、比較例3、4〉
フッ素系溶剤としてエチルノナフルオロブチルエーテル〔沸点76℃、表面張力13.6mN/m〕を使用し、前記フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合を0.5質量%(比較例3)、5質量%(実施例6)、30質量%(実施例7)、50質量%(実施例8)、および80質量%(比較例4)としたこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。なおフッ素系溶剤と他の溶剤の総量は実施例1と同じ400質量部とした。フッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
【0069】
〈実施例9〉
フッ素系溶剤としてメチルノナフルオロブチルエーテル〔沸点76℃、表面張力13.6mN/m〕を使用し、前記フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合を30質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。なおフッ素系溶剤と他の溶剤の総量は実施例1と同じ400質量部とした。フッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
【0070】
〈実施例10〉
フッ素系溶剤として1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−トリフルオロメチル−3−メトキシペンタン〔沸点55℃、表面張力14.1mN/m〕を使用し、前記フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合を30質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。なおフッ素系溶剤と他の溶剤の総量は実施例1と同じ400質量部とした。フッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
【0071】
〈実施例11、比較例5、6〉
フッ素系溶剤として、前記HFE−7200に代えて、2種以上のハイドロフルオロエーテル類を混合して沸点を70℃、25℃における表面張力を10mN/mとしたもの(比較例5)、沸点を70℃、25℃における表面張力を18mN/mとしたもの(実施例11)、および沸点を70℃、25℃における表面張力を25mN/mとしたもの(比較例6)を、それぞれ100質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。
【0072】
前記各インキにおける、フッ素系溶剤の、溶剤の総量中に占める含有割合は25質量%であった。またフッ素系界面活性剤の、インキの総量中に占める含有割合は0.94質量%であった。
〈実施例12、13、比較例7、8〉
フッ素系溶剤として、前記HFE−7200に代えて、2種以上のハイドロフルオロエーテル類を混合して沸点を45℃、25℃における表面張力を14mN/mとしたもの(比較例7)、沸点を55℃、25℃における表面張力を14mN/mとしたもの(実施例12)、沸点を90℃、25℃における表面張力を14mN/mとしたもの(実施例13)、および沸点を160℃、25℃における表面張力を14mN/mとしたもの(比較例8)を、それぞれ100質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。
【0073】
〈実施例14〉
フッ素系溶剤として、前記HFE−7200に代えて、2種以上のハイドロフルオロカーボン類を混合して沸点を70℃、25℃における表面張力を14mN/mとしたものを100質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。
〈従来例1〉
溶剤として、前記HFE−7200およびPGMEAに代えて、従来の低張力溶剤であるノルマルヘキサンを400質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。
【0074】
〈従来例2〉
溶剤として、前記HFE−7200を配合せず、PGMEAのみを400質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてインキを調製した。
〈印刷試験〉
実施例、比較例で調製した各色のインキを用いて、シリコーンブランケットを用いた反転印刷法によって、ガラス基板上に赤、緑および青の各色のストライプ状のインキパターン(線幅100μm、ピッチ300μm)を順に印刷してLCD用のカラーフィルタを製造した。
【0075】
前記シリコーンブランケットとしては、厚み0.35mmのPETフィルムの片面に厚み0.6mmのシリコーンゴムの層を積層した積層構造を有するものを用いた。
また、シリコーンブランケットの表面の略全面にインキ層を形成するためにはスリットダイコータを用いた。
そして反転印刷法による先に説明したカラーフィルタの製造工程を通して、下記の各項目を評価した。
【0076】
(インキ層の状態)
前記スリットダイコータを用いてシリコーンブランケットの表面の略全面に形成されたインキ層を目視、および光学顕微鏡を用いて観察してピンホールの有無、縦スジの有無、およびムラの有無を、それぞれ下記の基準で評価した。
*ピンホール
○:インキ層にピンホールは見られなかった。
【0077】
×:インキ層にピンホールが見られた。
*縦スジ
◎:インキ層に縦スジは全く見られなかった。
○:インキ層にわずかながら縦スジが見られたが、実用上差し支えのない程度であった。
【0078】
×:インキ層に多くの縦スジが見られた。
*ムラ
◎:インキ層にムラはなく均一であった。
○:インキ層に光学顕微鏡でわかる程度のわずかなムラが見られたが、実用上差し支えのない程度であった。
【0079】
×:インキ層に目視でもわかる程度のムラが見られた。
(印刷形状)
ガラス基板上に印刷されたインキパターンを目視、および光学顕微鏡を用いて観察して、形状の乱れを下記の基準で評価した。
◎:インキパターンに形状の乱れは全く見られなかった。
【0080】
○:インキパターンに光学顕微鏡でわかる程度のわずかな乱れが見られたが、実用上差し支えのない程度であった。
×:インキ層に目視でもわかる程度の乱れが見られた。
以上の結果を表1〜表5に示す。なお表3〜5には、それぞれ比較のため実施例1の結果を併記している。各表中の略号は下記の通り。
【0081】
HFE:ハイドロフルオロエーテル類
HFC:ハイドロフルオロカーボン類
n−Hex:ノルマルヘキサン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
表1〜表5の実施例1〜14と、表5の従来例1、2の結果より、溶剤としてフッ素系溶剤と他の溶剤とを併用することで、シリコーンブランケットの表面に対して適度の濡れ性と離型性とを兼ね備え、しかも安全性の問題や縦スジ、ムラ等の問題を生じにくいインキが得られることが判った。
また表1の実施例1〜5と比較例1、2、表2の実施例6〜8と比較例3、4の結果より、前記効果を得るためにはフッ素系溶剤の含有割合が5質量%以上、50質量%以下である必要があること、中でも30質量%以下であるのが好ましいことが判った。
【0088】
また表3の実施例1、11と比較例5、6の結果より、前記効果を得るためにはフッ素系溶剤として25℃における表面張力が12mN/m以上、18mN/m以下であるものを用いる必要があること、中でも16mN/m以下であるのが好ましいことが判った。
また表4の実施例1、12、13と比較例7、8の結果より、前記効果を得るためにはフッ素系溶剤として沸点が50℃以上、150℃以下であるものを用いる必要があること、中でも60℃以上であるのが好ましいことが判った。
【0089】
さらに表2の実施例7、9、10、表5の実施例1、14の結果より、前記効果を得るためにはフッ素系溶剤としてハイドロフルオロエーテル類、またはハイドロフルオロカーボン類を用いるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0090】
10 シリコーンブランケット
11 インキ
12 インキ層
13 胴
14 スリットダイコータ
15 インキ供給部
16 スリットノズル
17 版
18 凸部
19 凹部
20 インキパターン
20 着色剤
21 基板
22 液晶カラーフィルタ
23 透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンブランケットの表面の略全面に形成したインキ層を、表面に所定のインキパターンに対応した凹部を有する版の前記表面に接触させて、前記凹部以外のインキ層を前記版の表面に転写させることで、前記シリコーンブランケットの表面から選択的に除去して、前記シリコーンブランケットの表面に前記凹部に対応したインキパターンを形成したのち、前記インキパターンを被印刷体の表面に印刷する反転印刷法に用いるインキであって、バインダ樹脂、着色剤、および溶剤を含み、前記溶剤が、沸点50℃以上、150℃以下、25℃における表面張力12mN/m以上、18mN/m以下のフッ素系溶剤を5質量%以上、50質量%以下の割合で含有していることを特徴とするインキ。
【請求項2】
前記フッ素系溶剤がハイドロフルオロエーテル類、およびハイドロフルオロカーボン類からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のインキ。
【請求項3】
フッ素系界面活性剤を、インキの総量中の0.1質量%以上、1質量%以下の割合で含有している請求項1または2に記載のインキ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインキを用いて、シリコーンブランケットの表面の略全面に形成したインキ層を、表面に所定のインキパターンに対応した凹部を有する版の前記表面に接触させて、前記凹部以外のインキ層を前記版の表面に転写させることで、前記シリコーンブランケットの表面から選択的に除去して、前記シリコーンブランケットの表面に前記凹部に対応したインキパターンを形成したのち、前記インキパターンを被印刷体の表面に印刷することを特徴とする反転印刷法。
【請求項5】
透明基板と、前記透明基板上に形成されたカラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層とを備え、前記カラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層のうちの少なくとも一方が、請求項4記載の反転印刷法によって形成されていることを特徴とする液晶カラーフィルタ。
【請求項6】
透明基板上に、請求項4記載の反転印刷法によってカラーフィルタ層、およびブラックマトリクス層のうちの少なくとも一方を形成する工程を含むことを特徴とする液晶カラーフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−118346(P2011−118346A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127006(P2010−127006)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】