説明

インキ及び印刷物

【課題】 鏡面光沢感の低下がなく、ポリカーボネート基材に好適なインキを提供する。
【解決手段】 厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくともいずれか1種を含む結合剤3〜200重量部、及び溶剤600〜4000重量部を含んでなり、該溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であって、ポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷するインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ、該インキを使用して印刷を施した印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インキ中にアルミニウム箔を添加していわゆるメタリック調のインキを調整することはよく知られている。しかし、メタリック調インキによって印刷した印刷物は細かいきらめきを有し、鏡面光沢を与えるものではなかった。
【0003】
しかし、その後、特定のアルミニウム粉末を用い、さらに結合剤の量と稀釈溶剤の量と特定するインキを使用することによって、金属光沢を有する光輝印刷物が得られるとする技術も出現するに至っている(特許文献1参照)。しかし、実際には特許文献1に記載されているインキを使用して印刷を行っても、高度の鏡面光沢を備えた印刷物が得られないということが判明した。
【0004】
そこで、厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、バインダーポリマー15〜200重量部及び溶剤600〜3000重量部を含んでなるインキが提案された(特許文献2参照)。確かに、この特許文献2の記載に従えば、特許文献1記載の印刷物よりも高度の鏡面光沢を有する印刷物が得られる。
【0005】
しかし、印刷物に金属光沢又は鏡面光沢を与えるインキに使用する溶剤の種類については、特許文献2の段落[0012]に、「また使用する溶剤は前記バインダーポリマーを溶解するもの、またその溶液を希釈するものが使用され、一般的な例としてはエステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類などがある。」と記載されているに過ぎない。また、実施例においても、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤が例示されているのみで、具体的な溶剤の化合物名が記載されていない。
【0006】
また、特許文献1においては、その段落[0024]において、「さらに、本発明において用いる稀釈溶剤としては、使用する結合剤を溶解、稀釈するものであれば任意に利用でき、印刷手段により選択し得るものであるが、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、イソホロン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルルケトン等のケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等通常利用されているものから任意に選択され、又、印刷助剤、乾燥調整剤として、これらの溶媒と相溶し結合剤を溶解しない通常稀釈剤として利用される脂肪族炭化水素類、エーテル類等も利用できる。」と記載されている。さらに、溶剤選択の基準は示されていないが、特許文献1の段落[0039]には、「なお、各種基材に対する光輝インキ2の各種溶剤の適合度合いを検討した結果は表5の通りである。」と記載され、表5にはイソプロピルアルコールとセロソルブ類がポリ塩化ビニル、PET(ポリエステル)、アクリル、ポリカーボネートの各種に適合することが記載されている。しかし、どのように適合するかは全く記載されていない。
【特許文献1】特許第2784566号公報
【特許文献2】特許第3151606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような特許文献1あるいは特許文献2の記載に従って印刷を行えば、光輝印刷物あるいは鏡面印刷物を作製することはできるが、これを工業的に大量生産する場合、特にスクリーン印刷によって大量印刷する場合には、重大な欠陥の発生が認められた。
【0008】
第1には、特許文献1及び特許文献2記載のインキは溶剤を大量に含有するので、溶剤としてマウス経口毒性を示すLD50値が2000mg/kg以下、特に1600mg/kg以下の高毒性の溶剤を使用したり、溶剤の蒸気圧の大きい溶剤を使用すると、通常の設備では作業環境が著しく悪化して大量印刷が好ましくないこと(欠陥1)。第2には、大量印刷を行った場合、印刷枚数が多くなると、印刷枚数の増加とともに次第に鏡面光沢感が低下し、また印刷むらが発生すること(欠陥2)。第3には透明のポリカーボネート基材の裏側に印刷して、基材表面から観賞した場合に著しく鏡面光沢感が低下する場合があること(欠陥3)である。
【0009】
したがって本発明の目的は、前記欠陥1、欠陥2、欠陥3を同時に解消するためのインキ、及び該インキを使用して印刷を施した印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくともいずれか1種を含む結合剤3〜200重量部、及び溶剤600〜4000重量部を含んでなり、該溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であって、ポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷するインキである。
また、前記アルミニウム箔片の厚みが0.3μm以下である前記のインキである。
また、前記のインキを使用してポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷を施した印刷物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記課題を解決するために本発明にあっては、厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくともいずれか1種を含む結合剤3〜200重量部、及び溶剤600〜4000重量部を含んでなる、ポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷する印刷インキにおいて、該溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であるインキである。また、前記溶剤が40重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であれば本発明の課題は一層良好に解決される。
【0012】
本発明において溶剤に含有されている3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールは、下記の化学構造式で示され、マウス経口毒性を示すLD50値が5830mg/kgであり、極めて毒性が低く、また常温における蒸気圧の大きいものでもない。
【0013】
【化1】

【0014】
したがって、このように毒性が低い3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを20重量%以上含有する溶剤を含むインキを使用して、スクリーン印刷で大量印刷を行った場合、通常の設備であっても作業環境が著しく改善される(欠陥1の解消)。
【0015】
また、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールにあっては、沸点が174℃と適当な値を有しているために、前記インキを使用してスクリーン印刷で大量印刷を行った場合であっても、印刷作業時間の経過に伴って溶剤が版上で揮発してスクリーンが目詰まりしてしまうことが少ない。よって、スクリーン印刷で大量印刷を行った場合、印刷枚数が多くなっても、次第に印刷むらが発生したり、この印刷むらに起因して次第に鏡面光沢感が低下することもない(欠陥2の解消)。
【0016】
また、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などのインキ用の結合剤を良好に溶解する一方、ポリカーボネートとの親和性は小さく、その沸点も適当であるから、これがポリカーボネート基材に塗布されても、ポリカーボネート基材の表面を侵すことはなく乾燥することができる。印刷物の乾燥温度は40〜60℃程度が特に好ましい。したがって、前記インキを透明のポリカーボネート基材の裏側に印刷しても、該透明のポリカーボネート基材の裏側が侵されて白化などを生ずることが抑制される。よって、透明のポリカーボネート基材の裏側に印刷して、基材表面から観賞した場合に鏡面光沢感が低下することがない(欠陥3の解消)。
【0017】
また、本発明は厚みが0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下で、箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔と、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを20重量%以上含有する溶剤とを含む混合物を提供する。かかる混合物を用いてインキを製造することにより、前記アルミニウム箔片単独を取り扱う危険な工程を伴うことなく、欠陥1〜3を解消し得るインキが容易に得られる。
【0018】
また、本発明は前記インキを使用して透明基材に印刷を施した印刷物を提供する。透明基材としては、ポリカーボネート樹脂を使用できるが、この印刷物においては、溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有するインキを用いることから、前記透明基材が、ポリカーボネート樹脂であっても、インキが印刷された裏面が溶剤により侵されることが抑制される。したがって、この印刷物は、透明基材の印刷面とは反対面を表面として観賞することが鏡面光沢感を得る上で好ましい。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例と比較例とを下記に示す。
実施例A
厚みが0.15μmで箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を90%含有するアルミニウム箔100重量部と、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール(以下、MMBという。)100重量%より成る溶剤900重量部との混合物を作製した。
実施例B
実施例Aで使用したアルミニウム箔と同一のアルミニウム箔100重量部と、MMB40重量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMという。)60重量%より成る溶剤900重量部との混合物を作成した。
実施例C
溶剤組成がMMB20重量%、PGM80重量%である以外は実施例Bと同様の混合物を作製した。
実施例D
溶剤組成がMMB80重量%、メチルセロソルブ(以下、MCという。)20重量%である以外は実施例Bと同様の混合物を作製した。
【0020】
比較例A;溶剤組成がMMB15重量%、PGM85重量%である以外は実施例Bと同様の混合物を作製した。
比較例B;溶剤組成をPGM100重量%とした以外は、実施例Aと同様の混合物を作製した。
比較例C;溶剤組成をMC100重量%とした以外は、実施例Aと同様の混合物を作製した。
【0021】
参考例A
結合剤としてポリビニルブチラール樹脂を100重量部と、実施例Aで使用した溶剤900重量部とからなる樹脂溶液を作製した。
参考例B
実施例Bで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
参考例C
実施例Cで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
参考例D
実施例Dで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
参考例E
比較例Aで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
参考例F
比較例Bで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
参考例G
比較例Cで使用した組成の溶剤を使用する以外は参考例Aと同様の樹脂溶液を作製した。
【0022】
実施例1〜4
実施例Aの混合物と参考例Aの樹脂溶液とを混合し(実施例1)、実施例Bの混合物と参考例Bの樹脂溶液とを混合し(実施例2)、実施例Cの混合物と参考例Cの樹脂溶液とを混合し(実施例3)、実施例Dの混合物と参考例Dの樹脂溶液とを混合し(実施例4)、下記表1に示したようなインキ(実施例1〜4)を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
これら実施例1〜4のインキを使用して、厚さ0.2mmの透明なポリカーボネートフィルムの片面にT−250メッシュの刷版を使用してスクリーン印刷を行った。印刷物は60℃で30分乾燥した。また、印刷枚数を500枚とした。得られた印刷物を印刷面の反対面より目視してその鏡面光沢感を観察した。また、印刷状況及び作業環境の観察も行い、その結果を下記表2に示した。
【0025】
【表2】

【0026】
比較例1〜3;
比較例Aの混合物と参考例Eの樹脂溶液とを混合し(比較例1)、比較例Bの混合物と参考例Fの樹脂溶液とを混合し(比較例2)、比較例Cの混合物と参考例Gの樹脂溶液とを混合し(比較例3)、下記表3に示したようなインキ(比較例1〜3)を得た。
【0027】
【表3】

【0028】
これら比較例1〜3のインキを使用して、実施例1〜4と同じ条件で印刷を行い同様の観察を行った。その結果を下記表4に示した。
【0029】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、大量印刷を行った場合通常の設備であっても作業環境が著しく悪化することはなく(欠陥1の解消)、スクリーン印刷で大量印刷を行った場合、印刷枚数が多くなっても、次第に鏡面光沢感が低下したり、また印刷むらが発生することはなく(欠陥2を解消)、透明のポリカーボネート基材の裏側に印刷して、基材表面から観賞した場合に鏡面光沢感が低下することがない(欠陥3の解消)。よって、欠陥1、欠陥2、欠陥3を同時に解消することができるインキ、該インキの製造方法、該インキを製造するための材料及び該インキを使用して印刷を施した印刷物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくともいずれか1種を含む結合剤3〜200重量部、及び溶剤600〜4000重量部を含んでなり、該溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であって、ポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷するインキ。
【請求項2】
前記アルミニウム箔片の厚みが0.3μm以下であることを特徴とする請求項1記載のインキ。
【請求項3】
厚みが0.5μm以下で箔面積が20μm2〜2000μm2であるアルミニウム箔片を75%以上含有するアルミニウム箔100重量部に対し、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルローズ誘導体樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくともいずれか1種を含む結合剤3〜200重量部、及び溶剤600〜4000重量部を含んでなり、該溶剤が20重量%以上の3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを含有する溶剤であるインキを、ポリカーボネート樹脂からなる透明基材の観賞面の裏側に印刷を施したことを特徴とする印刷物。
【請求項4】
前記アルミニウム箔片の厚みが0.3μm以下であることを特徴とする請求項3記載の印刷物。

【公開番号】特開2008−56938(P2008−56938A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266295(P2007−266295)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【分割の表示】特願2002−345247(P2002−345247)の分割
【原出願日】平成14年11月28日(2002.11.28)
【出願人】(591017250)帝国インキ製造株式会社 (15)
【復代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
【Fターム(参考)】