説明

インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】画像の発色性及び耐光性に優れ、かつ、高いレベルの画像の光沢性が得られるインク、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】複数の顔料、複数の水溶性樹脂、界面活性剤、及び水溶性有機溶剤を含有するインクであって、前記界面活性剤が、グリフィン法によるHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、前記複数の顔料に、C.I.ピグメントイエロー74、及び、C.I.ピグメントイエロー128が含まれ、前記複数の水溶性樹脂に、アクリル樹脂、及び、ウレタン樹脂が含まれ、前記水溶性有機溶剤が、下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするインク。HO−(CHCHO)−H式(1)(式(1)中、nは1以上4以下である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用のイエローインクとしても好適な、顔料を含有するインク、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法により得られる画像の耐光性をより一層高めることが要求されている。この耐光性を向上することができるインクとして、顔料を含有する顔料インクが用いられるようになってきている。しかし、顔料インクは一般に、染料を含有する染料インクと比較して、画像の発色性が低いため、耐光性と発色性とを両立することが必要とされている。特に、イエローインクは、形成した画像の耐光性と発色性とを両立しづらい、つまりこれらの特性は相反する関係にある。
【0003】
例えば、C.I.ピグメントイエロー74とC.I.ピグメントイエロー128を併用することで、画像の発色性と耐光性を両立したインクに関する提案がある(特許文献1参照)。また、C.I.ピグメントイエロー74を含有するインクで高濃度領域、C.I.ピグメントイエロー128を含有するインクで低濃度領域、をそれぞれ記録することにより、画像の発色性と耐光性を両立できる記録方法に関する提案がある(特許文献2参照)。
【0004】
また、顔料インクには、顔料が粒子の形態であることに起因して、色材が分子の状態で水性媒体中に溶解している染料インクで形成した画像と比べて、得られる画像の光沢性が低いという課題もある。顔料インクにより形成される画像の光沢性を向上するために、顔料を分散させるためのアクリル樹脂とは別にウレタン樹脂を添加したインクについての提案がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第03455764号公報
【特許文献2】特開2000−345080号公報
【特許文献3】特開2006−070123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、色材が顔料であるイエローインクには、得られる画像の発色性及び耐光性を高い両立し、かつ、光沢性をも向上ることが要求されている。
【0007】
しかし、上記で挙げた特許文献1及び2に記載されたインクでは、得られる画像の発色性及び耐光性を共に高めることはできているものの、光沢性のレベルは低く、不十分である。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載されているように、C.I.ピグメントイエロー74及び128を共に含有するインクに、さらに特許文献3に記載されているウレタン樹脂を添加する技術を適用する検討を行った。しかし、得られる画像の光沢性は、近年要求されるレベルを満たしていないことがわかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、画像の発色性及び耐光性に優れ、かつ、高いレベルの画像の光沢性が得られるインク、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクは、複数の顔料、複数の水溶性樹脂、界面活性剤、及び水溶性有機溶剤を含有するインクであって、前記界面活性剤が、グリフィン法によるHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、前記複数の顔料に、C.I.ピグメントイエロー74、及び、C.I.ピグメントイエロー128が含まれ、前記複数の水溶性樹脂に、アクリル樹脂、及び、ウレタン樹脂が含まれ、前記水溶性有機溶剤が、下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。
HO−(CHCHO)−H 式(1)
(式(1)中、nは1以上4以下である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像の発色性及び耐光性に優れ、かつ、高いレベルの画像の光沢性が得られるインク、前記インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本明細書の記載において、C.I.とは、カラーインデックスの略語である。また、本発明において、界面活性剤のHLB値はグリフィン法(詳細は後述する)によるものである。
【0012】
先ず、本発明に至った経緯を説明する。本発明者らは、水溶性アクリル樹脂により分散されたC.I.ピグメントイエロー74及びC.I.ピグメントイエロー128を含有するインクに、水溶性ウレタン樹脂をさらに添加し、該インクを用いて画像を形成した。しかし、予想に反し、画像の光沢性は向上しなかった。そこで、本発明者らはこの理由について検討を行った結果、以下のような原因によるものであるとの結論に至った。
【0013】
分散剤として使用した水溶性アクリル樹脂は、C.I.ピグメントイエロー128の粒子に対する吸着力が、C.I.ピグメントイエロー74の粒子に比べて弱い。このため、インク中の色材が、C.I.ピグメントイエロー74のみ、又は、C.I.ピグメントイエロー128のみ、であるインクであれば、水溶性ウレタン樹脂を使用することで、得られる画像の光沢性を向上することはできる。しかし、両顔料を含有するインク中では、C.I.ピグメントイエロー74の粒子が、C.I.ピグメントイエロー128の粒子に吸着していた水溶性アクリル樹脂を引き寄せる、つまり、所謂競争吸着が起こることがわかった。すると、インク中のC.I.ピグメントイエロー128の粒子の分散状態は不安定化する。このインクが記録媒体に付与されると、分散状態が不安定となった粒子が急激に凝集し、平滑な顔料層を形成することができない。また、C.I.ピグメントイエロー128の粒子が不安定化したインク中では、画像の光沢性を向上するために添加したはずの水溶性ウレタン樹脂がC.I.ピグメントイエロー128の粒子に吸着するようになる。すると、インクが記録媒体に付与された後に、本来は顔料の粒子間を埋めるためにインクに添加していた水溶性ウレタン樹脂の量が足りなくなり、顔料の粒子間が埋まらなくなる。このような理由により、C.I.ピグメントイエロー74及びC.I.ピグメントイエロー128を含有するインクでは、画像の光沢性を向上することができるとされている水溶性ウレタン樹脂を用いても、得られる画像の光沢性が向上しなかったのである。
【0014】
そこで、本発明者らは、C.I.ピグメントイエロー74がインク中で共存することで分散状態が不安定化したC.I.ピグメントイエロー128の粒子を安定に分散させるために、インクに添加する界面活性剤の種類についての検討を行った。これは、C.I.ピグメントイエロー128の粒子を安定に分散するために必要となる水溶性アクリル樹脂が不足している状態を、界面活性剤の吸着により補うことを狙ったものである。これにより、光沢性を向上するために使用する水溶性ウレタン樹脂がC.I.ピグメントイエロー128に吸着することなく、その作用を十分に発揮することができると考えた。検討の結果、界面活性剤としてHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることで、コート層を有する記録媒体(光沢紙)に形成した画像の発色性及び耐光性を損なうことなく、高いレベルの光沢性が得られることがわかった。
【0015】
一方、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであってもHLB値が13.0未満であるものや、インクに広く使用されている界面活性剤であるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物を用いても、画像の光沢性を向上することはできなかった。これは、HLB値が低く、疎水性が高い界面活性剤はインクを構成する水性媒体に溶解しづらく、顔料粒子の分散状態を安定にするために十分な量の界面活性剤を顔料粒子に吸着させることができないためである。また、顔料粒子に界面活性剤を吸着させるためにはある程度の長さの炭素数を有する必要があるが、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物の炭素鎖はそれに対して不十分であるためである。
【0016】
上述の通り、本発明者らは、水溶性アクリル樹脂により分散されたC.I.ピグメントイエロー74及び128を含有するインクに、さらに水溶性ウレタン樹脂及びHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加するという構成に至った。かかる構成のインクにより、記録媒体として光沢紙を用いた場合の画像の発色性及び耐光性に優れ、かつ、高いレベルの光沢性が得られることがわかった。
【0017】
しかし、上記構成のインクを用いて、記録媒体として普通紙を用いて画像を形成したところ、C.I.ピグメントイエロー74及びC.I.ピグメントイエロー128を併用することにより想定されるレベルの発色性が得られないことがわかった。本発明者らはこの理由を以下のように推測している。
【0018】
これらの顔料がインク中に共存すると、C.I.ピグメントイエロー74がC.I.ピグメントイエロー128に吸着していた水溶性アクリル樹脂を引き寄せる、競争吸着という現象が生じている。そして、競争吸着により分散剤である水溶性アクリル樹脂の一部を失ったC.I.ピグメントイエロー128の粒子表面には、該水溶性アクリル樹脂が吸着していない部分、つまり、顔料粒子が露出している部分が存在する。この部分に、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルが吸着することで、C.I.ピグメントイエロー128の分散状態は安定となる。しかし、この吸着量が多くなっていくと、それに比例して、インク中の水などが蒸発した際の顔料の凝集は起こりにくくなる。このような傾向は、インクの信頼性などの観点では好ましいものの、形成される画像の観点では好ましくない。
【0019】
例えば、コート層を有する記録媒体(光沢紙)に画像を形成する場合、一般的にコート層の細孔径は顔料の粒子径よりも小さいため、インク中の顔料は記録媒体の表面上に定着する。しかし、普通紙はコート層を有さないため、普通紙に画像を形成する場合、顔料は普通紙の厚さの方向に入り込み、その存在位置によって画像の発色性が異なる。より具体的には、顔料が普通紙の浅い位置に留まれば画像の発色性は相対的に高く、また、顔料が普通紙の深い位置に存在すれば画像の発色性は相対的に低くなる。そして、顔料の存在位置は、インク中の水などが蒸発した際の顔料の凝集のし易さなどの因子の影響を受ける。つまり、インクが普通紙に付与された後、インク中の水などは蒸発していくが、その際に凝集し易い顔料であるほど、普通紙の厚さの方向に入り込まず、画像の発色性が良好となる。
【0020】
このように、C.I.ピグメントイエロー128の粒子への、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの吸着量が多すぎると、インク中の水などが蒸発した際の顔料の凝集が生じにくく、顔料が普通紙の厚さの方向に入り込み易くなる。このため、普通紙に形成した画像の発色性が想定したレベルに達しなかったものと考えられる。したがって、普通紙に形成した画像の発色性を向上するためには、C.I.ピグメントイエロー128の粒子の分散安定性を満足し、かつ、インク中の水などが蒸発した際の顔料の凝集は阻害しないように、上記の吸着量を絶妙にコントロールする必要がある。
【0021】
本発明者らは、C.I.ピグメントイエロー128の粒子への、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの吸着量をコントロールするために、インクに添加する各種の成分についての検討を行った。その結果、後述する式(1)で表される化合物を用いればよいという結論に至った。ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び式(1)で表される化合物は共にエチレンオキサイド基をその構造中に有しているため、互いに親和性を持つ。これらの化合物は相互に作用しながらC.I.ピグメントイエロー128の粒子に吸着するため、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの吸着量が絶妙にコントロールされ、普通紙における発色性を向上することができると考えられる。
【0022】
<インク>
以下、イエローの色相を有し、インクジェット用にも好適な、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0023】
(顔料)
本発明のインクは複数の顔料を含有し、該複数の顔料には、C.I.ピグメントイエロー74及びC.I.ピグメントイエロー128が含まれる。また、本発明の効果が得られる限り、これら以外の公知の顔料を併用することもできる。
【0024】
インク中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中のC.I.ピグメントイエロー128の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の顔料の合計含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.2質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。さらに、インク中の、C.I.ピグメントイエロー74の含有量(質量%)が、C.I.ピグメントイエロー128の含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.5倍以上2.0倍以下であることが好ましい。すなわち、C.I.ピグメントイエロー74の含有量/C.I.ピグメントイエロー128の含有量=0.5倍以上2.0倍以下であることが好ましい。質量比率が上記範囲である場合、画像の耐光性及び発色性を特に高いレベルで両立することができるため、特に好適である。なお、質量比率を算出する場合の各顔料の含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各顔料の含有量のことである。
【0025】
本発明においては、顔料の一次平均粒子径が10nm以上300nm以下であることが好ましい。一次平均粒子径が10nm未満であると、複数の一次粒子間での相互作用が強くなりすぎるため、顔料の凝集が生じやすく、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。また、一次平均粒子径が300nmを超えると、顔料の平均粒子径も大きくなり、画像の発色性や光沢性が十分に得られない場合がある。
【0026】
本発明においては、顔料の分散方式としては、樹脂分散剤を顔料粒子の表面に物理的に吸着させることにより顔料を水性媒体中に分散させる方式が好ましい。分散剤として使用する樹脂は、インクジェット用のインクに使用可能なものであればよいが、後述する水溶性アクリル樹脂を用いることが特に好ましい。C.I.ピグメントイエロー74及びC.I.ピグメントイエロー128の各顔料を分散するために使用する樹脂は、同一の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよいが、本発明においては同一の樹脂を使用することが好ましい。
【0027】
(界面活性剤:HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテル)
本発明のインクには、界面活性剤としてHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有させる。インク中のHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.2質量%未満であると、C.I.ピグメントイエロー128の分散安定性を向上する作用が弱く、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。また、含有量が1.0質量%を超えると、C.I.ピグメントイエロー128の分散安定性を十分に向上することはできるものの、インクの浸透性が高くなるため、普通紙に形成した画像の発色性が十分に得られない場合がある。
【0028】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルはR−O−(CHCHO)Hで表される構造を有し、Rはアルキル基、mは整数である。本発明のインクに使用するポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その疎水基である上記式中のR(アルキル基)の炭素数が界面活性能を有するような範囲、例えば、炭素数が12乃至22であればよい。具体的には、例えば、ラウリル基(12)、セチル基(16)、ステアリル基(18)、オレイル基(18)、ベヘニル基(22)などが挙げられる(括弧内の数値はアルキル基の炭素数である)。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの親水基である上記式中のm、すなわちエチレンオキサイド基の数はRの構造及びHLB値から決定することができ、10以上50以下、さらには10以上40以下であることが好ましい。
【0029】
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法により求められるHLB値は13.0以上であることを要し、好ましくは15.0以上である。HLB値が13.0未満であると、画像の光沢性が得られない。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、本発明で使用できるポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB値の上限も20.0以下である。
【0030】
ここで、本発明において、界面活性剤のHLB値を規定するために利用しているグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基の式量と分子量から下記式(2)により求められ、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示すものである。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高いことを示し、逆に、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高いことを示す。
【0031】
【数1】

【0032】
(式(1)で表される化合物)
本発明のインクには、水溶性有機溶剤として、下記式(1)で表される化合物を含有させる。下記式(1)で表される化合物を上記特定の界面活性剤と併用することで、光沢紙に形成した画像の光沢性と普通紙に形成した画像の発色性とを高いレベルで満足することができる。
HO−(CHCHO)−H 式(1)
(式(1)中、nは1以上4以下である。)
【0033】
式(1)には、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及び、テトラエチレングリコールが該当する。式(1)におけるnは構造中のエチレンオキサイド基の数を示し、nが4を超えると、光沢紙に形成した画像の光沢性が得られない。本発明においては、光沢紙に形成した画像の光沢性と普通紙に形成した画像の発色性をバランスよく向上することができるため、式(1)で表される化合物としてトリエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明においては、インク中の式(1)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%未満であると、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルと相互に作用する式(1)で表される化合物が少ないため、普通紙における発色性が十分に得られない場合がある。また、含有量が20.0質量%を超えると、式(1)で表される化合物が相互に作用する対象であるHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルに対して、式(1)で表される化合物が多くなりすぎる。その結果、C.I.ピグメントイエロー128の粒子へのHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの吸着が抑制される場合があり、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。また、インク中の、式(1)で表される化合物の含有量(質量%)が、HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)に対して、質量比率で、10.0倍以上20.0倍以下であることが好ましい。すなわち、式(1)で表される化合物の含有量/HLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量=10.0倍以上20.0倍以下であることが好ましい。なお、この場合の式(1)で表される化合物及びHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各成分の含有量のことである。前記質量比率の範囲外であると、式(1)で表される化合物及びHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの相互作用が小さく、普通紙に形成した画像の発色性が十分に得られない場合がある。
【0035】
(樹脂)
本発明のインクは複数の樹脂を含有し、該複数の樹脂には、水溶性アクリル樹脂及び水溶性ウレタン樹脂が含まれる。本発明において樹脂が水溶性であることとは、該樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に粒径を有さないものであることとする。このような条件を満たす樹脂を、本明細書においては水溶性の樹脂として記載する。なお、本明細書における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0036】
本発明においては、インク中の水溶性樹脂の合計含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.2質量%以上15.0質量%以下、さらには0.5質量%以上10.0質量%以下、特には1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の、水溶性アクリル樹脂の含有量(質量%)が、水溶性ウレタン樹脂の含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.1倍以上2.0倍以下、さらには0.5倍以上1.0倍以下であることが好ましい。すなわち、水溶性アクリル樹脂の含有量/水溶性ウレタン樹脂の含有量=0.1以上2.0以下、さらには0.5以上1.0以下であることが好ましい。なお、この場合の水溶性アクリル樹脂及び水溶性ウレタン樹脂の含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各成分の含有量のことである。
【0037】
〔水溶性アクリル樹脂〕
本発明のインクに使用する水溶性アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来するユニットやアクリルエステルに由来するユニットなどのアクリル成分を少なくとも有すればよい。より具体的には、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを少なくとも構成ユニットとして有するものが好ましい。
【0038】
重合により親水性ユニットとなる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などのカルボキシ基を有する単量体、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する単量体、これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性単量体、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基を有する単量体が挙げられる。本発明においては、水溶性アクリル樹脂が、アニオン性単量体に由来する親水性ユニットを少なくとも有するアニオン性共重合体であることが好ましい。なお、アニオン性単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0039】
また、重合により疎水性ユニットとなる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、t−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族基を有する単量体が挙げられる。
【0040】
本発明においては、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体に由来する疎水性ユニットとを少なくとも有する共重合体を用いることが特に好適である。
【0041】
本発明においては、上記でも述べた通り、水溶性アクリル樹脂を、顔料を分散するための樹脂分散剤として使用することが好ましい。この場合、インク中の水溶性アクリル樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下であることが好ましい。水溶性アクリル樹脂の酸価は、50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下、さらには120mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0042】
また、インク中の顔料の合計含有量が、インク中の水溶性アクリル樹脂の含有量に対して、質量比率で、0.30倍以上10.0倍以下であること、すなわち、顔料の含有量/水溶性アクリル樹脂の含有量=0.30以上10.0以下であることが好ましい。なお、この場合の顔料及び水溶性アクリル樹脂の含有量の値は、インク全質量を基準とした場合における各成分の含有量のことである。前記質量比率が0.30倍以上10.0倍以下の範囲内であれば、顔料の分散状態を特に安定に保つことができる。前記質量比率が0.30倍未満であると、インク中の水溶性アクリル樹脂が過剰となり、画像の発色性や光沢性が十分に得られない場合がある。また、顔料に対して水溶性アクリル樹脂が少なすぎると、各顔料の分散状態が不安定となり、インクの保存安定性が十分に得られなくなる場合があるため、前記質量比率を10.0倍以下とすることが好ましい。
【0043】
〔水溶性ウレタン樹脂〕
本発明のインクに使用する水溶性ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるものであり、さらに、鎖延長剤を反応させたものでもよい。また、ウレタン樹脂及びその他の樹脂を結合させたハイブリッド型の樹脂などであってもよい。インク中のウレタン樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性ウレタン樹脂の重量平均分子量は、5,000以上100,000以下、さらには5,000以上15,000以下であることが好ましい。水溶性ウレタン樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上110mgKOH/g以下であることが好ましい。さらに、水溶性アクリル樹脂の酸価よりも、水溶性ウレタン樹脂の酸価が低いことが好ましい。
【0044】
ポリイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族などのポリイソシアネートが挙げられる。具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0045】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、酸基を有するポリオールなどが挙げられる。本発明においては、水溶性ウレタン樹脂の加水分解が抑制され、インクを長期間保存した後であっても画像の光沢性を向上することができるため、ポリエーテルポリオールを用いて合成された水溶性ウレタン樹脂を使用することが好ましい。また、本発明のインクに使用するウレタン樹脂は水溶性であることを要するため、その構造中にカルボキシ基、スルホン酸基、ホスホン酸基などの酸基や、カルボニル基、ヒドロキシ基などの親水性基が含まれることが好ましい。特には、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などの酸基を有するポリオールを用いて合成された水溶性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。なお、酸基は塩の形態であってもよく、塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0046】
鎖延長剤は、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるウレタンプレポリマー中のポリイソシアネートユニットのうち、ウレタン結合を形成しなかった残存イソシアネート基と反応する化合物である。鎖延長剤としては、ジメチロールエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどの多価アミン、ポリエチレンポリイミンなどの多価イミン、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオールなどの多価アルコールが挙げられる。本発明においては、画像の光沢性を特に効果的に向上することができるため、鎖延長剤として多価アルコール、その中でもネオペンチルグリコールを用いて合成された水溶性ウレタン樹脂を用いることが特に好ましい。鎖延長剤としては多価アミンや多価イミンも使用することができるが、これらを使用して合成されたウレタン樹脂はその構造中にカチオン性の部分を有するため凝集し易く、画像表面の平滑性が低くなりやすく、光沢性を十分に向上することができない場合がある。これに対して、鎖延長剤としてネオペンチルグリコールなどの多価アルコールを用いて合成された水溶性ウレタン樹脂はその構造中にカチオン性の部分を有さないので、画像の光沢性を特に効果的に向上することができる。
【0047】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、上述の式(1)で表される化合物や、必要に応じて使用する1,2−アルカンジオール及びグリコールエーテルの少なくとも一方を含む値である。
【0048】
本発明においては、水溶性有機溶剤の中でも特に、1,2−アルカンジオール及びグリコールエーテルの少なくとも一方を使用することが好ましい。この場合、インク中の1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。1,2−アルカンジオールとしては、アルキル基の炭素数が3乃至8であるものが好ましい。また、グリコールエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルは液体の表面張力を下げる作用が高いため、記録媒体へのインクの濡れ性を向上することができ、形成されるドットの高さを低く抑えることができる。すると、画像表面の平滑性が特に高まり、光沢紙に形成した画像の光沢性を顕著に向上することができる。これに加えて、C.I.ピグメントイエロー128に特有の作用も生じる。C.I.ピグメントイエロー128はその分子構造中にフッ素原子を有するため、顔料粒子の表面エネルギーが低い。該顔料を含有するインクが記録媒体に付与され、ドットを形成する際には、先に形成されたドットと後に形成されたドットに含まれる顔料の表面エネルギーの低さに起因して、顔料が平滑に積層しづらい。しかし、インク中で前記顔料が1,2−アルカンジオールやグリコールエーテルと共存すると、これらの水溶性有機溶剤は該顔料の表面エネルギーの低さに打ち勝ち、顔料粒子を平滑に積層させることができる。その結果、特に優れたレベルの画像の光沢性を得ることができる。
【0050】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて、その他の界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0051】
(インクの調製方法)
上記で説明した本発明のインクは常法にしたがって調製することができるが、例えば、以下のような方法により調製することが特に好ましい。先ず、水溶性アクリル樹脂を含む水溶液と顔料との混合物について分散処理を行い、水溶性アクリル樹脂により分散されてなる顔料を含む顔料分散液を得る。次に、得られた顔料分散液と、水溶性ウレタン樹脂などのその他の成分を混合し、インクを調製する。本発明では2種類の顔料を用いるが、各顔料を混合してから顔料分散液を調製し、その他の成分を混合してインクを調製してもよく、又は、各顔料を別々に分散処理し、インクの調製の際に各顔料分散液とその他の成分を混合してもよい。いずれにしても、予め水溶性アクリル樹脂によって各顔料を分散し、その後水溶性ウレタン樹脂と混合することで、各顔料が水溶性アクリル樹脂によって分散されてなるインクを容易に得ることができる。このような方法によれば、画像の光沢性を向上するためにインクに添加する水溶性ウレタン樹脂の作用を効率よく発揮させることができるため、本発明においては特に好適である。
【0052】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。または、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0053】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式やインクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。なお、本発明においては、記録媒体としては、普通紙やコート層を有する記録媒体(光沢紙)などの、インク吸収能を有する紙などを用いることが好ましい。
【0054】
本発明のインクは、別のインクと組み合わせて、インクセットとしても用いることができる。別インクの色相は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、及びブルーなどのインクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成するインクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。このような複数のインクの組み合わせとしては、濃シアン、中シアン、及び淡シアンなどのシアンの色相を有するインク、さらには、濃マゼンタ、中マゼンタ、及び淡マゼンタなどのマゼンタの色相を有するインクが挙げられる。また、インクセットを構成するインクとして、色材を含有しないクリアインクを用いてもよい。勿論、本発明のインクと組み合わせてインクセットを構成するインクとして用いることができるインクはこれらに限られるものではなく、また、濃、中、淡、クリアなどのインクの名称もこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、成分の使用量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0056】
<顔料分散液の調製>
顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10.0部、樹脂分散剤の水溶液20.0部、イオン交換水70.0部を混合し、バッチ式縦型サンドミルで3時間分散した。樹脂分散剤の水溶液としては、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性アクリル樹脂)を水酸化ナトリウム水溶液で中和したものを含む、樹脂固形分の含有量が10.0%の水溶液を用いた。その後、遠心分離を行い、粗大粒子を除去し、ポアサイズが3.0μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が2.0%である顔料分散液A1を得た。また、顔料の種類をC.I.ピグメントイエロー128に代えた以外は同様にして、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が2.0%である顔料分散液B1を得た。
【0057】
水溶性樹脂の種類を、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量8,000のベンジルアクリレート−アクリル酸共重合体(水溶性アクリル樹脂)に変更した以外は同様にして、C.I.ピグメントイエロー74を含む顔料分散液A2及びC.I.ピグメントイエロー128を含む顔料分散液B2を得た。顔料分散液A2及びB2はいずれも、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が2.0%であった。
【0058】
<水溶性ウレタン樹脂の調製>
(ウレタン樹脂A)
数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール50.3部をメチルエチルケトン中に添加し、十分に撹拌して溶解した。次いで、これに、イソホロンジイソシアネート33.5部、ジメチロールプロピオン酸14.3部を加え、75℃で1時間反応させ、プレポリマーを含む溶液を得た。得られた溶液を60℃に冷却して、水酸化カリウム水溶液を加えることでプレポリマーのカルボキシ基を中和した。次いで、溶液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を加え、ホモミキサーで溶液を高速撹拌することで乳化を行った。その後、ネオペンチルグリコール(鎖延長剤)1.9部を加え、プレポリマーの鎖延長反応を30℃で12時間かけて行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、加熱減圧下で溶液からメチルエチルケトンを留去した。このようにして、樹脂(固形分)が20.0%である水溶性のウレタン樹脂A(酸価60mgKOH/g、重量平均分子量10,000)を得た。
【0059】
(ウレタン樹脂B)
数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール50.7部をメチルエチルケトン中に添加し、十分に撹拌して溶解した。次いで、これに、イソホロンジイソシアネート33.8部、ジメチロールプロピオン酸14.3部を加え、75℃で1時間反応させ、プレポリマーを含む溶液を得た。得られた溶液を60℃に冷却して、水酸化カリウム水溶液を加えることでプレポリマーのカルボキシ基を中和した。次いで、溶液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を加え、ホモミキサーで溶液を高速撹拌することで乳化を行った。その後、エチレンジアミン(鎖延長剤)1.2部を加え、プレポリマーの鎖延長反応を30℃で12時間かけて行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、加熱減圧下で溶液からメチルエチルケトンを留去した。このようにして、樹脂(固形分)が20.0%である水溶性のウレタン樹脂B(酸価60mgKOH/g、重量平均分子量15,000)を得た。
【0060】
<ポリオキシエチレンアルキルエーテル>
インクの調製に用いた、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(界面活性剤)の構造、HLB値、アルキル基(疎水基)の炭素数及びエチレンオキサイド基(親水基)の付加モル数を表1に示す。表1中、NIKKOL BC−7、BO−15V、BC−20、BO−50は日光ケミカルズ製、EMALEX 512、712、112は日本エマルジョン製のものである。
【0061】
【表1】

【0062】
<インクの調製>
下記表2〜4の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズが0.8μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行って各インクを調製した。なお、インクの調製に用いた、ポリエチレングリコールの数平均分子量は600であり、アセチレノールE100はアセチレングリコールのエチレンオキサイド(10)付加物(川研ファインケミカル製)である。表2〜4の下段に示した、含有量A[%]はインク中の式(1)で表される化合物の含有量、含有量B[%]はHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量、A/Bの値[倍]はこれらの質量比率である。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
<評価>
上記で得られた各インクを充填したインクカートリッジを、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(PIXUS Pro 9500;キヤノン製)にセットした。そして、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド GL−101;キヤノン製)、及び、普通紙(PB PAPER GF−500;キヤノン製)に、記録デューティが50%と100%の2種のベタ画像を含むパターンをそれぞれ記録した。なお、上記のインクジェット記録装置では、解像度が600dpi×600dpiで、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ngのインク滴を8滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であると定義するものである。
【0067】
本発明においては、下記の各評価項目における評価基準で、Cが許容できないレベル、Bが許容できるレベル、Aが優れているレベルとした。評価結果を下記表5に示す。
【0068】
(発色性の評価)
普通紙を用いて作製した記録物を24時間自然乾燥させた後、記録デューティが100%であるベタ画像について、分光感度特性;ISOステータスAにより規定されるイエロー成分の光学濃度を測定し、発色性の評価を行った。なお、測定には、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いた。発色性の評価基準は以下の通りである。
A:光学濃度が1.2以上であった
B:光学濃度が1.0以上1.2未満であった
C:光学濃度が1.0未満であった。
【0069】
(耐光性の評価)
光沢紙を用いて作製した記録物を24時間自然乾燥させた後、該記録物をキセノンウエザオーメーターCi4000(アトラス製)に入れ、キセノン光を、照射強度0.39W/m、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件で300時間照射した。照射前後の記録物における記録デューティが50%であるベタ画像について、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、CIELab表色系におけるL、a、bの値を測定した。そして、E={(L+(a+(b1/2の値を求め、照射前後のEの値から算出したΔEの値により、耐光性の評価を行った。耐光性の評価基準は以下の通りである。
A:ΔEが5以下であった
B:ΔEが5を超えて15以下であった
C:ΔEが15を超えていた。
【0070】
(光沢性の評価)
光沢紙を用いて作製した記録物を24時間自然乾燥させた後、記録デューティが100%であるベタ画像について以下の評価を行った。観察光源として10cm間隔で配置した2本の蛍光灯を用い、照明角度45度、観察角度45度、2m離れた距離から画像に対して蛍光灯を投影し、画像に投影された蛍光灯の形状を目視で確認することにより光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は以下の通りである。
A:2本の蛍光灯が画像にはっきり投影されていた
B:投影された2本の蛍光灯のエッジが若干ぼやけていた
C:投影された2本の蛍光灯の境目がわからなかった。
【0071】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の顔料、複数の水溶性樹脂、界面活性剤、及び水溶性有機溶剤を含有するインクであって、
前記界面活性剤が、グリフィン法によるHLB値が13.0以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
前記複数の顔料に、C.I.ピグメントイエロー74、及び、C.I.ピグメントイエロー128が含まれ、
前記複数の水溶性樹脂に、アクリル樹脂、及び、ウレタン樹脂が含まれ、
前記水溶性有機溶剤が、下記式(1)で表される化合物を含むことを特徴とするインク。
HO−(CHCHO)−H 式(1)
(式(1)中、nは1以上4以下である。)
【請求項2】
前記インク中の、前記式(1)で表される化合物の含有量(質量%)が、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)に対して、質量比率で、10.0倍以上20.0倍以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記インク中の前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.2質量%以上1.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、トリエチレングリコールである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法によるHLB値が、15.0以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤がさらに、1,2−アルカンジオール及びグリコールエーテルの少なくとも一方を含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂の鎖延長剤が、ネオペンチルグリコールである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項9】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−72359(P2012−72359A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171104(P2011−171104)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】