説明

インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】 インク組成の自由度を確保しながら、珪素類で形成される部材を有する記録ヘッドとインクを組み合わせる場合に生じる珪素類の溶解を抑制することができるインクの提供。
【解決手段】 インクと接触する部材の少なくとも一部が、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料で形成されている記録ヘッドから吐出されるインクジェット用のインクであって、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方のアニオン性基を有する色材、及び、ガリウム塩を含有することを特徴とするインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法に用いるインクの色材としては染料や顔料が使用される。例えば、ブラックインクの色材としては、光学濃度が高く、堅牢性に優れた画像を与えることができる顔料についての検討が広くなされている。一例として、自己分散顔料と塩を含有するインクにより、光学濃度及び文字品位を向上可能であることが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、インクジェット方式の記録ヘッドは、微細な加工を精度よく、かつ、少ない工程数で行うため、インクと接触する部材として、珪素やその酸化物、窒化物、炭化物などの材料(以下、珪素類とする)で形成された層を設けることが一般的である。
【0004】
このような記録ヘッドとインクを組み合わせて用いる場合、珪素類で形成され、インクと接触する記録ヘッドの部材が溶解するという課題が知られている。かかる課題を解決するために、インクに尿素や、ビスヒドロキシエチルスルホンなどの含硫黄化合物を含有させることについての提案がある(特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−198955号公報
【特許文献2】特開平9−123437号公報
【特許文献3】特開2008−173965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが検討を行ったところ、上記で挙げたような従来技術のいずれを利用しても、上記記録ヘッドとインクを組み合わせて用いる場合に生じる珪素類の溶解を高いレベルで抑制することは十分にできていないことがわかった。
【0007】
先ず、特許文献2に記載されているようにインクに尿素を含有させた場合、珪素類が溶解しても、その溶解状態を安定に保つことにより、珪素類の析出を抑制することは可能である。しかし、溶解そのものを抑制しているわけではないため、その一部が溶解した珪素類で形成される部材は、形状が変化してしまい、高い精度が求められる部材に使用するのは困難である。
【0008】
また、特許文献3に記載されているようにインクに含硫黄化合物を含有させた場合、珪素類の溶解を抑制させることは可能であるが、珪素類を溶解させる物質と含硫黄化合物との比率が所定の範囲内であることを要する。このため、前者の物質が多い場合には、後者の化合物もそれに伴い多くする必要があり、後者の化合物が極端に多い場合には、インク組成によっては、長期間保存を行った場合の保存安定性が不十分となることがある。例えば、特許文献1に記載されているような、自己分散顔料と塩を含有するインクに、含硫黄化合物を30質量%程度含有させると、インクの保存安定性が低下する。
【0009】
つまり、従来の技術を利用する場合には、インク組成の自由度がある程度限られたものとなってしまうため、汎用性が低く、十分な効果があるとは言い切れない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、インク組成の自由度を確保しながら、珪素類で形成される部材を有する記録ヘッドとインクを組み合わせる場合に生じる珪素類の溶解を抑制することができるインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクは、インクと接触する部材の少なくとも一部が、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料で形成されている記録ヘッドから吐出されるインクジェット用のインクであって、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方のアニオン性基を有する色材、及び、ガリウム塩を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インク組成の自由度を確保しながら、珪素類で形成される部材を有する記録ヘッドとインクを組み合わせる場合に生じる珪素類の溶解を抑制することができるインクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】記録ヘッドのノズル構造の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、以下の記載で、インクジェット用のインクのことを、単に「インク」と省略して記載することがある。
【0015】
先ず、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料で形成され、インクと接触する記録ヘッドの部材が溶解するという課題が生じる理由を、該材料としての代表例として窒化珪素を挙げて説明する。本発明者らは、各種インクを用いて、窒化珪素の溶解抑制検討を行った。その結果、先に挙げた特許文献2や3に記載されているような染料インクだけでなく、特定のアニオン性基を有する自己分散顔料を含有するインクを用いた場合においても、窒化珪素の溶解が確認された。例えば、顔料の代表例であるカーボンブラック粒子の表面には、該カーボンブラックを自己分散せしめるために意図的に導入したアニオン性基などの官能基以外にも、ケトン基、エノール基、ヒドロキシ基、カルボン酸基などの官能基を有する。そして、カーボンブラックがそもそも有している後者の官能基は、上記アニオン性基と電気陰性度が異なるために分極した状態にある。この分極したδ部が窒化珪素の窒素原子の非共有電子対と反応することにより、窒化珪素が溶解したと考えられる。
【0016】
窒化珪素の溶解メカニズムをふまえて、本発明者らはさらなる検討を行った。その結果、インクにガリウム塩を含有させることによって、窒化珪素の溶解が顕著に抑制されることを見出した。一方、このような作用は、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、インジウム、イットリウムなどのその他の金属塩を使用しても生じないこともわかった。つまり、窒化珪素の抑制作用は金属塩の中でもガリウム塩においてのみ特異的に発現するのである。これに加えて、本発明者らは以下に述べる知見も得た。すなわち、ガリウム塩による窒化珪素の抑制作用は、インク中の含有量がごく微量であっても十分に発揮され、色材とガリウム塩の含有量に相関関係がないことが確認された。つまり、窒化珪素を溶解させる色材の含有量に関係なく、ガリウム塩をごく微量であっても含有すれば、窒化珪素の溶解を抑制するという効果を得ることができるのである。このことこそが、先に挙げた特許文献3のように、珪素類を溶解させる物質と含硫黄化合物との比率がある範囲内であることを要する従来の技術と決定的に異なる点である。
【0017】
このように、インク中のガリウム塩の含有量がごく微量であっても窒化珪素の溶解抑制作用が発揮される。したがって、本発明のインクは、他の溶解抑制物質のようにそれを多量に含有させることによってインクを長期間保存した場合の保存安定性が低下することもない。さらに、ごく微量のガリウム塩さえ含有させればよいので、その他にインクに含有させる水溶性有機化合物などの成分の制約もなく、本発明のインクは、インク組成の自由度が非常に高く、汎用性が極めて高いと言える。
【0018】
ガリウム塩によって窒化珪素の溶解が抑制されるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料は、ガリウムをその分子骨格内に取り込みやすい構造を形成している。これは、逆に言えば、ガリウムは、これらの材料の構造中に取り込まれすい形態として存在していることになる。さらに、ガリウムがイオン状態であることにより、上記構造中に特に取り込まれやすいと言える。そして、その取り込まれる速度は、これらの材料の溶解速度よりも大きい。したがって、これらの材料で形成される部材にインクが接触すると、該部材の表面近傍にガリウムイオンが急速に取り込まれて新たな表面を形成し、窒化珪素などの材料の溶解が抑制されると考えられる。このメカニズムから、インク中においてガリウムはイオンの形態として存在することを要するため、本発明のインクにはガリウム塩を含有させ、インク中においてイオンに解離させる。
【0019】
これらの検討の過程において、本発明者らは、色材が有するアニオン性基が、スルホン酸及びカルボン酸の少なくとも一方であることを要するという知見を得た。これら以外のアニオン性基、例えば、ホスホン酸基を有する色材を用いた場合、インク中にガリウム塩が含まれていても、窒化珪素などの材料の溶解を抑制することができない。この理由は、ガリウムイオンとホスホン酸との反応が、ガリウムイオンが窒化珪素などの材料の構造中に取り込まれる反応よりも早く生じるためであると考えられる。
【0020】
<インク>
以下、本発明のインクを構成する各成分について詳細に説明する。
【0021】
(ガリウム塩)
本発明のインクはガリウム塩を含有する必要がある。ガリウムを塩の形態でインクに含有させることで、インク中においてガリウム塩の少なくとも一部が解離し、インク中にガリウムイオンを存在させることができる。なお、インク中におけるガリウム塩の形態は、その一部が解離した状態、又は、すべてが解離した状態のいずれであってもよいが、これらのような場合を含め、本発明においてはインクがガリウム塩を含有する、と記載する。ガリウム塩としては、例えば、硝酸ガリウム、臭化ガリウム、塩化ガリウムなどが挙げられる。
【0022】
インク中のガリウム濃度(ppm)は、0.5ppm以上10ppm以下であることが好ましい。濃度が0.5ppm未満であると、十分な溶解抑制効果が得られない場合があり、10ppm超であると、溶解抑制効果は十分に得られるものの、色材の溶解状態や分散状態が不安定となりやすく、保存安定性がやや低下する場合がある。なお、あるインクがガリウム塩を含有するか否か、また、インク中のガリウム濃度は、イオンクロマト法により知ることができる。イオンクロマト法によれば、解離した状態のガリウムイオンを検出、定量することができる。
【0023】
(色材)
本発明のインクには、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方のアニオン性基を有する色材を含有させる。このような色材としては、例えば、スルホン酸及びカルボン酸基の少なくとも一方を構造中に有する染料や、スルホン酸及びカルボン酸基の少なくとも一方が粒子表面に直接又は他の原子団を介して化学的に結合している顔料(自己分散顔料)が挙げられる。前記染料としては、C.I.ナンバーが付されているものなどの公知の染料や、本発明のために新たに合成された染料など、いずれのものも使用することができる。また、前記顔料としては、有機顔料や、カーボンブラックなどの無機顔料の粒子表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散顔料のいずれも使用することができる。本発明においては、色材として自己分散顔料を用いることが特に好ましい。
【0024】
(水性媒体)
本発明のインクには、水と水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
(その他の添加剤)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、必要に応じて、界面活性剤、樹脂、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、キレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0026】
<記録ヘッド>
以下、本発明のインクを吐出させるためのインクジェット方式の記録ヘッドの構成の一例を説明する。なお、ここでは、インクに熱エネルギーを付与することによりインクを吐出する方式の記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0027】
図1は記録ヘッドのノズル111の構造の一例を示す概略図であり、(a)は吐出口側から見たノズルの形状、(b)は(a)の破線X−Yに沿って切断した断面を示す。101はシリコン基板、102は蓄熱層、103は層間層、104は発熱抵抗層、105は金属材料で構成される配線としての金属配線層、106は保護層である。発熱部107は発熱抵抗体が発生させる熱により高温に曝されると共に、インクの発泡やその後の泡の収縮に伴い、キャビテーション衝撃やインクによる化学的作用を主に受ける部分であるため、発熱部107を保護するべく保護層106が設けられる。保護層106上には流路形成部材108により、インクを吐出するための吐出口109を有する層が形成される。
【0028】
保護層106はインクと接触する部材であるため、酸やアルカリなどに対して化学的に安定であり、かつ、キャビテーション衝撃に対しても耐性が求められると共に、絶縁性も兼ね備えることを要する。このため、保護層106を形成する材料としては、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料を用い、中でも窒化珪素を用いることが特に好ましい。また、熱変換効率と保護層としての強度の観点から、保護層106の厚さは50〜600nmであることが好ましい。
【0029】
ノズルの液室110にインクが満たされた状態が続くと、このインクは保護層106と接触し続けることになるため、保護層106を形成する珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料が徐々にインクに溶解していく。本発明は、特定の色材を含有するインクが保護層106を形成する材料を溶解させるという現象を、インクにさらにガリウム塩を含有させることにより抑制する。
【0030】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室と、負圧発生部材に含浸されない状態でインクを収容するインク収容室とで構成されるものが挙げられる。または、このようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材に含浸させた状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材に含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0031】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0033】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
5.5gの水に5gの濃硫酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.5g(8.28mmol)の4−アミノフタル酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに2.2g(26mmol)の亜硝酸カリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分撹拌後、6gのカーボンブラック(比表面積220m/g、DBP吸油量105mL/100g)を撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーについてスペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行った。さらに、イオン交換法によりカリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、その後、顔料の含有量が10.0%となるように純水を加えて分散させ分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に、−C−(COONH基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液1を得た。
【0034】
(顔料分散液2)
市販の自己分散顔料の分散液であるキャボジェット200(キャボット製)に、顔料の含有量が10.0%となるように純水を加えて分散させ分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に−C−SONa基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液2を得た。
【0035】
(顔料分散液3)
500mLのビーカーに、アレンドロン酸ナトリウム34g(104mmol)、及び純水150mLを入れた。アレンドロン酸ナトリウムとしては、(4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩(Zentiva製)を用いた。濃水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを11に調整し、アレンドロン酸ナトリウムを溶解させた。次いで、テトラヒドロフラン100mLに溶解させたニトロフェニルスルホニルクロライド25g(110mmol)を滴下した。なお、ニトロフェニルスルホニルクロライドを滴下する際には、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを10〜11に保った。4℃にて一晩冷却した後、析出した固体をろ過し、純水で洗浄及び乾燥することで、(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウムを得た。
【0036】
20gのカーボンブラック、10mmolの(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウム、20mmolの硝酸、及び200mLの純水を混合した。この際、カーボンブラックには、比表面積220m/g、DBP吸油量105mL/100gのものを用い、混合は、シルヴァーソン混合機を用いて、室温で6,000rpmにて混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。この混合によって混合物の温度は60℃に達し、この状態で1時間反応させた。1時間反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して混合物のpHを10に調整した。30分後に純水20mLを添加し、次いで、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行った。さらに、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、その後、顔料の含有量が10.0%となるように純水を加えて分散させ分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に、−C−SO−NH−C−(OH)(PO(OH)(OK))(PO(OH))基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液3を得た。
【0037】
<インクの調製>
表1に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.0μmであるメンブレンフィルターにて加圧ろ過を行って、各インクを調製した。なお、ガリウム水溶液としては、硝酸ガリウムをガリウム濃度が所定の値(100ppm又は1ppm)となるように溶解させた水溶液を用いた。また、表1中のアセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)である。NIKKOL BL−9EXは、日光ケミカルズ製の界面活性剤(グリフィン法により求められるHLB値13.6、エチレンオキサイド基の付加モル数9のポリオキシエチレンラウリルエーテル)である。
【0038】
【表1】

【0039】
<評価>
上記で得られたインク1〜9を用いて、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0040】
(珪素類で形成される接液部材の溶解抑制)
図1に示すノズル111構成における、珪素類で構成される保護層106の溶解抑制を以下のモデル実験により評価した。ここでは、珪素類の代表例として窒化珪素膜を用い、該窒化珪素膜を所定の条件下でインクに浸漬し、その前後の膜厚の変化率を測定した。先ず、公知のプラズマプロセスにより、シリコンウエハ上に膜厚約560nmの窒化珪素膜を形成し、このウエハを2cm×2cmのサイズに切断した。このウエハを3cm×3cmの石英ガラス上に載せ、ウエハの裏面及び切断面をエポキシ系の接着剤により封止し、窒化珪素膜で形成される面のみがインクと接触する形態のサンプルを準備した。
【0041】
上記で得られた各インク60g中にサンプルを浸漬し、温度70℃で5日間保存した。この間、インクの蒸発をできるだけ抑え、サンプルが常にインクに浸かっている状態を保った。その後、サンプルを取り出して水洗し、乾燥した後、サンプルの窒化珪素膜の厚さを測定し、浸漬試験前の膜厚との差分から膜厚変化量を算出した。なお、膜厚の測定は、光干渉式膜厚測定装置(ナノスペック M5100;ナノメトリクス製)を用いて行った。
【0042】
次いで、インク1〜7の組成から、ガリウム塩を純水に置き換えたインク(純水置換インク)をそれぞれ調製し、上記と同様にして膜厚変化量を測定した。そして、得られた膜厚変化量に対する、インク1〜7の膜厚変化量の割合を算出し、溶解抑制率を算出した。この際の計算方法は以下の通りである。
溶解抑制率(%)=(1−(ガリウム塩を含むインクの膜厚変化量/純水置換インクの膜厚変化量))×100
上記のようにして得られた溶解抑制率の値から、珪素類で形成される接液部材の溶解抑制の評価を行った。評価基準は以下の通りである。
A:溶解抑制率が70%以上であった
B:溶解抑制率が70%未満であった
なお、上記の評価基準でBランクとなった場合でも、ガリウム塩を含まない比較例1や2よりは明らかな溶解抑制効果が見られた。
【0043】
(保存安定性)
上記で得られた各インク100gをそれぞれポリテトラフルオロエチレン製の密閉容器に入れ、温度60℃で3ヶ月間保存した。保存前後のインクの粘度を測定し、粘度の変化率を算出した。なお、E型粘度計(RE80L;東洋精機製)を用い、25℃、回転数50rpmにて測定した。上記のようにして得られた粘度の変化率の値から、インクの保存安定性の評価を行った。保存安定性の評価基準は以下の通りである。
A:粘度の変化率が5%未満であり、保存安定性に優れていた。
B:粘度の変化率が5%以上であり、Aランクよりは劣っていたが、許容できる保存安定性のレベルであった。
【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクと接触する部材の少なくとも一部が、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料で形成されている記録ヘッドから吐出されるインクジェット用のインクであって、
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方のアニオン性基を有する色材、及び、ガリウム塩を含有することを特徴とするインク。
【請求項2】
前記色材が自己分散顔料である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記インク中のガリウム濃度が0.5ppm以上10ppm以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドのインクと接触する部材の少なくとも一部が、珪素、酸化珪素、窒化珪素、及び、炭化珪素からなる群より選ばれる材料で形成されてなり、
前記インクが、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方のアニオン性基を有する色材、及び、ガリウム塩を含有することを特徴とするインクジェット記録方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−112785(P2013−112785A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262132(P2011−262132)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】