説明

インク、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジ

【課題】形成した画像の光沢性及び耐水性が共に優れ、インクの保存安定性をも十分に満足したインクを提供すること。
【解決手段】複数の樹脂及びカーボンブラックを含有するインクであって、前記複数の樹脂は、酸価が200mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である樹脂Aと、酸価が80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である樹脂Bとを含み、かつ、前記樹脂Aの重量平均分子量が前記樹脂Bの重量平均分子量よりも大きく、前記カーボンブラックは、そのDBP吸油量が75mL/100g以下で、比表面積が200m2/g以上であり、かつ、その粒子の表面に、−Ph−(CH2)n−NH2及び−Ph−(CH2)n−NH−R(これらの式中のPhはフェニレン基であり、nは0乃至2の整数であり、Rは、前記樹脂Aである)が官能基としてそれぞれ結合してなるインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用に好適に使用可能な、インク、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を含有するインクジェット用インクで記録媒体に記録を行った場合、用いる記録媒体によっては、顔料や、分散剤として使用する樹脂が記録媒体の表面上に多く存在した状態になるため、画像の光沢性の低下が生じやすいという課題がある。例えば、インクジェット記録方法に多用されている記録媒体の一種である膨潤型の記録媒体では、インク受容層に孔が存在せず、また、空隙型の記録媒体では、インク受容層に孔が存在するものの、その孔径よりも顔料粒子の平均粒径の方が大きい。このため、付与された顔料粒子の多くは記録媒体のインク受容層に浸透することなく、記録媒体の表面上に堆積して存在することになる。この結果、インクによって形成された画像は、記録媒体の表面上に堆積した顔料によって新たな表面が形成された状態となる。さらに、樹脂を含有するインクが記録媒体に付与された後、水などの蒸発によって樹脂の濃度が相対的に高くなると、樹脂の凝集が進行するため、記録媒体の表面上により多くの樹脂が残留するようになる。このようにして生じた、顔料や樹脂が記録媒体の表面上に堆積して存在する状態によっては、画像表面の平滑性が低くなり、画像の光沢性が低下することが起こる。
【0003】
上記課題に対し、低ストラクチャーのカーボンブラック粒子をブラックインクの色材として用いることで、カーボンブラックを記録媒体の表面上に比較的平滑に堆積させ、これにより画像の光沢性を向上させることに関する提案がある(特許文献1参照)。しかし、低ストラクチャー、すなわちDBP吸油量が低いカーボンブラック粒子は、その粒径が非常に小さいため、水性媒体中に安定に分散させることが難しく、インクの保存安定性が不十分であるという別の課題がある。この課題に対しては、低酸価のウレタン樹脂をさらにインクに含有させることで、インクの保存安定性を向上させ、かつ、得られる画像の耐水性も向上させることについての提案がある(特許文献2参照)。また、カーボンブラック粒子の表面に樹脂及び水可溶化官能基の少なくともいずれかを結合させることについての提案もある(特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−097390号公報
【特許文献2】特開2004−285344号公報
【特許文献3】特表2010−516860号公報
【特許文献4】特開2000−095987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討の結果、特許文献1や2に記載された発明によっても下記に挙げるような種々の課題がある。先ず、DBP吸油量が低いカーボンブラック粒子を用いた場合は、インクの保存安定性が不十分となるという問題がある。また、得られる画像の耐水性に関しては、ウレタン樹脂の有無に関わらず同等の性能であることが開示されており、特許文献1及び2に記載された発明では、インク中のウレタン樹脂は画像の耐水性向上には影響を及ぼさないことを示唆している。また、特許文献3及び4には、得られる画像の耐水性に関する着目がない。つまり、上記で挙げたような従来技術のいずれによっても、得られる画像は、近年要求されている高いレベルの光沢性と耐水性とを両立して有するものとはなっておらず、また、インクの保存安定性を十分満足するには至っていない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、画像の光沢性と耐水性とが共に優れ、インクの保存安定性をも十分に満足したインクを提供することにある。本発明の目的は、上記の優れたインクを用いることで、光沢性と耐水性とが共に優れる画像を形成できるインクジェット記録方法、及びインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、複数の樹脂及びカーボンブラックを含有するインクであって、前記複数の樹脂は、酸価が200mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である樹脂Aと、酸価が80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である樹脂Bとを含み、かつ、前記樹脂Aの重量平均分子量が前記樹脂Bの重量平均分子量よりも大きく、前記カーボンブラックは、そのDBP吸油量が75mL/100g以下で、比表面積が200m2/g以上であり、かつ、その粒子の表面に、−Ph−(CH2)n−NH2及び−Ph−(CH2)n−NH−R(これらの式中のPhはフェニレン基であり、nは0乃至2の整数であり、Rは、前記樹脂Aである)が官能基としてそれぞれ結合してなることを特徴とするインクを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像の光沢性と耐水性とが共に優れ、インクの保存安定性をも十分に満足したインクが提供できる。本発明によれば、この優れたインクを用いることで、光沢性と耐水性とが共に優れる画像を形成できるインクジェット記録方法、及びインクカートリッジが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の最大のポイントは、インクの構成を、後述する表面を改質した特定のカーボンブラックと、重量平均分子量の関係と酸価を規定した複数の樹脂を含有してなるものとすることで、下記の効果を得たことにある。かかる構成のインクとすることで、画像形成の際に、イオン性相互作用を利用して、記録媒体の表面上においてカーボンブラック粒子間を樹脂で結着させる。これによって、従来のインクを用いて形成した画像と比較し、画像の耐水性を格段に向上させることを可能とする。すなわち、本発明は、従来の技術のように、樹脂の造膜性を利用して画像の耐水性を向上させるという思想とは異なるものであり、カーボンブラック粒子の表面と樹脂とのイオン性相互作用にも着目するという新しい発想に基づいてなされたものである。
【0010】
ここで、本発明に至った経緯を説明する。先ず、本発明者らは、画像の光沢性を向上させるためには、記録媒体の表面にカーボンブラック粒子を平滑に堆積させることが重要であると考え、粒子間の融着の程度と粒径に着目し、検討を行った。その結果、多くのカーボンブラックの中で、DBP吸油量が75mL/100g以下で、かつ、比表面積が200m2/g以上であるカーボンブラックが、粒子間の融着の程度と粒径が小さいため、画像の光沢性の向上に有効であるという結論に至った。
【0011】
そこで、上記のような特性を有するカーボンブラックを含有するインクを用いて、画像の光沢性と耐水性、また、インクの保存安定性の評価を行った。しかし、このインクで記録した画像は高い光沢性を示すものの、画像の耐水性とインクの保存安定性は十分なレベルとは言えなかった。本発明者らは、このような結果となった原因を追求するために、さらに詳細な検討を行った結果、以下のことが判明した。上記インクを用いて記録した画像を観察すると、カーボンブラック粒子は記録媒体の表面上で平滑に堆積しており、当初の予想通り、画像表面が平滑となったことで、画像の光沢性が向上したものと考えられる。しかし、さらに詳細に画像を観察した結果、堆積しているカーボンブラック粒子間に樹脂がそれほど存在していないことがわかった。このことは、前記した粒子間の融着の程度と粒径が小さいカーボンブラックをインクに含有させると、画像の光沢性を向上させることができるものの、粒径が小さいため、カーボンブラック粒子に樹脂分散剤が吸着しにくいことを示している。そして、このことが原因して、上記のような特性を有するカーボンブラック粒子を含むインクでは、画像の耐水性とインクの保存安定性が十分なレベルに達しなかったものと考えられる。すなわち、インク中において、カーボンブラック粒子に吸着した樹脂分散剤の量が十分でなく、カーボンブラックの分散安定性が低く、インクの保存安定性が得られなかったものと考えられる。また、カーボンブラック粒子に吸着している樹脂分散剤が少ないため、記録媒体の表面上においても、カーボンブラック粒子間に存在する樹脂が少なくなり、画像の耐水性が低かったものと考えられる。
【0012】
そこで、インクの色材として上記のような特性を有する、高い光沢性を示す画像を提供し得るカーボンブラックを使用した場合に生じる、画像の耐水性と、インクの保存安定性の低下という2つの課題を解決すべく、本発明者らは、さらなる検討を行った。先ず、分散安定性を向上させるため、カーボンブラックの分散方式についての検討を行った。その結果、樹脂分散剤を物理吸着させるのではなく、樹脂の一部をカーボンブラック粒子の表面へ結合させた分散形態にすることで、カーボンブラック粒子に十分な量の樹脂が吸着し、分散安定性が向上し、インクの保存安定性に優れたものとなることがわかった。しかし、上記カーボンブラックを含有するインクを用いて画像の耐水性及びインクの保存安定性の評価を行ったところ、インクの保存安定性は向上したものの、画像の耐水性は殆ど向上しなかった。本発明者らは、この理由を以下のように推測している。先ず上記インクを用いて記録した画像を観察したところ、記録媒体の表面上に堆積しているカーボンブラック粒子間には、カーボンブラックに樹脂を結合させたため、ある程度の樹脂が存在していることが確認された。しかし、カーボンブラック粒子に結合させるためには、200mgKOH/g以上の比較的高い酸価の樹脂を用いる必要がある。このため、上記構成では、カーボンブラック粒子間を樹脂で埋めることはできたものの、樹脂の酸価が高いので画像に水が接触すると樹脂が再溶解しやすく、このことが原因して、画像の耐水性の向上には寄与できなかったものと考えられる。
【0013】
本発明者らは、インクの保存安定性と画像の耐水性を高いレベルで両立することを目指し、樹脂の種類や、樹脂とカーボンブラックとの関係など、様々な視点で検討を進めた。その結果、前述した特定のカーボンブラックと、複数のアニオン性の樹脂(後述する官能基の構造中に含まれる樹脂を樹脂A、及び、添加する樹脂を樹脂Bとする)とを含有する本発明のインクの構成によれば、上記性能を両立できるとの結論に至った。先ず、本発明に用いるカーボンブラックは、特定構造のアミノ基と、樹脂Aを構造中に含む官能基との、2種類の官能基をその粒子の表面に結合させた形態である。具体的には、カーボンブラック粒子の表面に、−Ph−(CH2)n−NH2と−Ph−(CH2)n−NH−R(これらの式中のPhはフェニレン基であり、nは0乃至2の整数であり、Rは樹脂Aである)とが官能基としてそれぞれ結合してなるものを用いる。さらに、本発明のインクは、樹脂Aの酸価と重量平均分子量が、樹脂Bの酸価と重量平均分子量よりも大きいという関係を満足するという構成を有する。これらの構成を満足することで、初めて、インクの保存安定性を満たしつつ、画像の耐水性が向上する。画像の耐水性が向上する理由を、本発明者らは以下のように推測している。
【0014】
インクジェット用の記録媒体は、サイズ剤などの添加剤の影響で、記録媒体表面のpHが低いものがある。このような記録媒体に、上記した特定構造のアミノ基(−Ph−(CH2)n−NH2)を結合させたカーボンブラック粒子を含有してなるインクが付与されると、該アミノ基中の−NH2の部分がカチオンに帯電しやすくなる。一方、樹脂Aを含む官能基(−Ph−(CH2)n−NH−R)における−NHと、樹脂Aとの共有結合の部分においては、記録媒体にインクが付与されると、記録媒体表面のpHが低いため、窒素原子に結合している水素原子がδ+に分極しやすい。すなわち、記録媒体表面では、上記カーボンブラック粒子の表面はプラスに帯電していると言える。一方、インクに添加される樹脂Bはアニオン性基を有するため、上述のようにカーボンブラック粒子の表面がプラスに帯電した状態となることで、イオン性相互作用を起こし、樹脂Bは、カーボンブラック粒子の表面へ接近し、カーボンブラック粒子間を結着する。さらに、樹脂Aの酸価を樹脂Bの酸価よりも大きくしておくことで、カーボンブラック粒子間を結着する樹脂Bが再溶解しにくくなる。また、樹脂Aの重量平均分子量を樹脂Bの重量平均分子量よりも大きくしておくことで、樹脂Aより重量平均分子量の小さい樹脂Bが、カーボンブラック粒子の表面へ接近しやすくなる。これらの結果として、画像の耐水性が特に向上したものと考えている。
【0015】
[インク]
以下、本発明のインクを構成する各成分について詳細に説明する。
<カーボンブラック>
本発明のインクには、DBP吸油量が75mL/100g以下で、比表面積が200m2/g以上であるカーボンブラックを用いる。本発明者らの検討によれば、DBP吸油量が75mL/100g以下であることで、カーボンブラック粒子間の融着の程度が小さくなり、カーボンブラック粒子がより密に堆積し、この結果、画像の光沢性が向上する。このため、カーボンブラックのDBP吸油量が75mL/100gを超えると、画像の光沢性が得られない。好ましくは、DBP吸油量は40mL/100g以上である。カーボンブラックのDBP吸油量が40mL/100g未満であると、カーボンブラックの分散がやや難しい場合があり、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0016】
また、本発明者らの検討によれば、カーボンブラックの比表面積が200m2/g以上であることで、その一次粒径が十分に小さくなり、カーボンブラック粒子が密に堆積し、その結果、画像の光沢性が向上する。このため、カーボンブラックの比表面積が200m2/g未満であると、画像の高い光沢性が得られない。一方、その比表面積は、300m2/g以下であることが好ましい。カーボンブラックの比表面積が300m2/gを超えると、その一次粒径が小さくなり過ぎるため、カーボンブラックの分散がやや難しい場合があり、インクの保存安定性が十分に得られないことがある。上記した特性を有するカーボンブラックのインク中における含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に用いるDBP吸油量が75mL/100g以下で、比表面積が200m2/g以上である特性をもつカーボンブラックの好ましいものとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。具体的には、下記に挙げるような市販のカーボンブラックを用いることができる。例えば、レイヴァン1500(コロンビア製)、モナク:800、900、1100(以上、キャボット製)、プリンテックス:85、95(以上、デグッサ製)、No.+900、No.1000、No.2200B、No.2300、No.2350、No.2400R、MCF−88(以上、三菱化学製)などである。勿論、本発明のために新たに調製したカーボンブラックを用いることもできる。
【0018】
(カーボンブラックの比表面積及びDBP吸油量の確認)
本発明において、カーボンブラックの比表面積とDBP吸油量は、下記に述べるような、インク中のカーボンブラックに対して簡易的な分離を伴う手法によって確認することができる。なお、比表面積とは、カーボンブラック粒子の単位質量当たりの表面積を示す値である。また、DBP吸油量とは、カーボンブラック粒子の嵩高さやストラクチャーを示す値であり、この数値が大きいほど粒子が嵩高いことになる。
【0019】
以下、樹脂Aを含む官能基が結合しているカーボンブラックと樹脂Bとを含むインクを分析する方法を例に挙げて説明する。先ず、第1段階で、確認する対象のカーボンブラックと、インク中に含まれる水溶性の成分とを分離する。次に、第2段階で、第1段階で得た沈殿物中に含まれるカーボンブラックの分散方式を確認する。さらに、第3段階で、カーボンブラック粒子の表面に結合している樹脂成分を分離し、沈殿物であるカーボンブラックについて、比表面積とDBP吸油量を測定する。なお、樹脂A及び樹脂Bの他に例えば樹脂エマルションなどの別の樹脂が含まれているような場合には、適切な段階においてそれを分離するような方法を適宜組み込んで分析を行えばよい。
【0020】
より具体的には、例えば、次のような条件及び方法を用いることができる。先ず、カーボンブラックを含むインクを20gとり、全固形分の含有量が10質量%程度となるように調整し、遠心分離装置にて、12,000rpm、60分の条件で遠心分離を行う(第1段階)。そして、水溶性有機溶剤や水溶性樹脂などの水溶性の成分を含む液層と、下層(沈殿物)を分離する。そして、前記沈殿物について、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いて、ソックスレー抽出を行う(第2段階)。なお、ソックスレー抽出の際には、必要に応じて酸析を行うことが好ましく、また、有機溶剤の種類も適宜変更してもよい。ここで、ソックスレー抽出により得られた固層について熱重量分析(TGA)を行う。そして、800℃付近のカーボンブラックの分解温度よりも低温度側(100〜200℃)に重量の減少が見られれば、樹脂の分解が生じたと考えられ、樹脂を含む官能基が結合しているカーボンブラックが含まれているものとする。一方、低温度側に重量の減少が見られなければ、カーボンブラックには樹脂を含む官能基が結合していなかったものとする。さらに、樹脂を含む官能基が結合しているカーボンブラックが含まれていると判断された場合には、以下の第3段階の処理を行う。ソックスレー抽出を行った後の固層について、10%水酸化カリウム水溶液などのアルカリにより、カーボンブラック粒子の表面と樹脂との結合部を加水分解する。その後、トルエンやアセトンなどの、樹脂を溶解することができる溶剤中に投入する。すると、カーボンブラック粒子の表面に結合していた樹脂は液層に溶解した状態となり、カーボンブラックは沈殿した状態となる。このような方法によって分離されたカーボンブラックを取り出し、乾燥した後、比表面積及びDBP吸油量の測定用の試料とする。
【0021】
このような3段階の処理によって得られるカーボンブラックは、単にカーボンブラックに吸着・結合していた樹脂を取り除いたものであるため、遠心分離前にインク中に存在するカーボンブラックの特性と同等である。また、比表面積は、窒素吸着比表面積(N2SA)(m2/g):ASTM D−3037(30733)方法Cに準拠して測定することで求めることができる。また、DBP吸油量は、DBP(ジブチルフタレート)吸油量(mL/100g):ASTM D−2414方法に準拠して測定することで求めることができる。なお、上記の第1段階及び第3段階によって分取した液層には、それぞれ樹脂B及び樹脂Aが含まれている。この樹脂を分析することで、その物性や、カーボンブラック粒子の表面に結合している樹脂の種類を知ることができる。その方法については後述する。
【0022】
<官能基>
本発明のインクを構成するカーボンブラックは、その粒子の表面に、−Ph−(CH2n−NH2及び−Ph−(CH2n−NH−Rを官能基として、それぞれ結合してなるものである。これらの式中のPhはフェニレン基であり、nは0乃至2の整数、Rは樹脂Aである。なお、nが0である場合、−NH2又は−NH−Rが、フェニレン基と直接結合していることを意味する。また、−Ph−(CH2n−NH−R基は、後述する樹脂Aが−Ph−(CH2n−NH−の構造の末端に結合して構成される官能基である。本発明においては、カーボンブラック粒子の表面に結合している位置を1位としたとき、フェニレン基のメタ位やパラ位に−(CH2n−NH2又は−(CH2n−NH−Rが結合してなることが好ましい。また、上記2種類の官能基における−Ph−(CH2n−が同じ構造を有することが好ましい。
【0023】
また、カーボンブラック粒子の表面に結合している−Ph−(CH2n−NH2基及び−Ph−(CH2n−NH−R基の合計の密度(官能基密度)は、0.5μmol/m2以上3.0μmol/m2以下であることが好ましい。なお、官能基密度の単位は、カーボンブラックの単位面積当たりの、官能基のモル数を示す。本発明においては、−Ph−(CH2n−NH−R基の密度が−Ph−(CH2n−NH2基の密度よりも高いことが好ましい。さらには、−Ph−(CH2n−NH2が、前記官能基密度に対して、モル比率で、0.20倍以上0.45倍以下であることが好ましい。
【0024】
これらの官能基は、−NH2がカチオンに帯電しやすく、また、−NH−Rにおける窒素原子に結合している水素原子が分極しやすいため、インク中の樹脂B(該樹脂Bについては後述する。)が、カーボンブラック粒子の表面へ接近しやすい。このために、複数のカーボンブラック粒子間を樹脂Bによって結着させることができ、その結果、画像の耐水性を向上させることができる。しかし、本発明者らの検討によれば、−Ph−(CH2n−NH−R基のフェニレン基と−NHとの間に、炭素原子数が3以上であるアルキレン基が介在すると、−NH−R(Rは後述する樹脂A)がカーボンブラック粒子の表面から離れてしまう。このため、この場合は、カーボンブラック粒子間を樹脂Bで効率よく結着させにくくなり、画像の耐水性が得られない。
【0025】
カーボンブラック粒子の表面に、本発明で規定する上述の官能基を導入する方法としては、例えば、2つのアミノ基を有する芳香族化合物からジアゾニウム塩を発生させ、これをカーボンブラック粒子の表面に反応させる方法などが挙げられる。なお、上記「2つのアミノ基」は、一方がアルキルアミノ基でもよい。上記の方法により、直接又はメチレン基若しくはエチレン基を介して、アミノ基とフェニレン基とが結合した官能基が粒子の表面に結合されたカーボンブラックを得ることができる。また、このようにして結合させた−Ph−(CH2n−NH2基に、さらに後述する樹脂Aを付加する反応を行うことで、−Ph−(CH2n−NH−R基(Rは樹脂A)が粒子表面に結合されたカーボンブラックを得ることができる。詳細には、−Ph−(CH2n−NH2基の末端と、樹脂Aの末端のカルボキシ基を脱水縮合させて形成したアミド結合により、該基と樹脂Aとを結合させることができる。勿論、本発明の要件を満足するものであれば、この製造方法に限定されるわけではない。
【0026】
<樹脂>
樹脂Aは、上記したように、カーボンブラック粒子の表面に結合した官能基に含まれるものであるが(−Ph−(CH2n−NH−R基におけるR)、さらに、下記の要件を満たすことを要する。すなわち、樹脂Aは、酸価が200mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であり、後述する樹脂Bよりも重量平均分子量が大きいことを要する。樹脂Aの酸価が200mgKOH/g未満であると、樹脂Aと官能基とが結合することによって樹脂A中のアニオン性基の一部が失われる。すると、前記アニオン性基に起因して生じる静電反発力が低下することにより、カーボンブラックの分散安定性が低下し、この結果、インクの保存安定性が得られない。一方、樹脂Aの酸価が300mgKOH/gを超えると、樹脂A中のアニオン性基が多くなり、形成した画像の耐水性が得られない。また、樹脂Aの重量平均分子量は、15,500以上20,000以下であることが好ましい。樹脂Aの重量平均分子量が15,500未満であるときに上記酸価を満たそうとすると、樹脂中のアニオン性基が相対的に少なくなるため、カーボンブラックの分散安定性が低下し、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。一方、樹脂Aの重量平均分子量が20,000を超えると、インクが増粘しやすく、また、カーボンブラックの分散状態も不安定になりやすく、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0027】
樹脂Bは、インクに添加する樹脂分散剤として使用するものであり、酸価が80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であり、前述した樹脂Aよりも重量平均分子量が小さいことを要する。樹脂Bの酸価が80mgKOH/g未満であると、親水性が低く、インクを長期間保存する際に樹脂Bが析出しやすくなり、顔料の粒径が増大しやすく、インクの保存安定性が得られない。一方、樹脂Bの酸価が180mgKOH/gを超えると、親水性が高く、インク中の水性媒体と共に樹脂が記録媒体へ浸透しやすくなるため、複数のカーボンブラック粒子間を樹脂Bで結着させにくくなり、画像の耐水性が得られなくなる。また、樹脂Bの重量平均分子量は5,000以上14,500以下のものが好適である。樹脂Bの重量平均分子量が5,000未満であると、樹脂Bの造膜性が低下し、形成した画像の耐水性が十分に得られない場合がある。一方、樹脂Bの重量平均分子量が14,500を超えると、記録媒体の表面上で樹脂Bの凝集が進み過ぎ、画像表面が十分に平滑とならず、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。
【0028】
本発明では、樹脂Aの重量平均分子量は、樹脂Bの重量平均分子量よりも大きいものであることが必要である。樹脂Aと樹脂Bの重量平均分子量を上記関係とすることで、樹脂Aの立体障害の影響が軽減されて樹脂Bがカーボンブラック粒子の表面へ接近しやすくなり、複数の粒子間が樹脂Bにより結着されるため、形成した画像の耐水性を向上することができる。これに対し、本発明者らの検討によれば、樹脂Aと樹脂Bの重量平均分子量が同じである場合や、樹脂Aが樹脂Bよりも小さい重量平均分子量を有する場合には、画像の耐水性が得られない。また、樹脂A及び樹脂Bとしては、その多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)が、3以下であるものを、それぞれ使用することが好ましい。
【0029】
本発明においては、樹脂A及び樹脂Bのインク中における含有量は、以下の範囲内とすることが好ましい。すなわち、インク中の樹脂A及び樹脂Bの含有量(質量%)がそれぞれ、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。なお、樹脂Aはカーボンブラックに結合しているが、本発明においては、樹脂そのものの含有量を「樹脂Aの含有量」とする。また、樹脂Aのインク全質量を基準とした含有量(質量%)と、樹脂Bのインク全質量を基準とした含有量(質量%)の合計が、0.8質量%以上4.7質量%以下であることが好ましい。インク全質量を基準としたときに、樹脂Aの含有量(質量%)と樹脂Bの含有量(質量%)との合計(以下、樹脂の含有量の合計ともいう)が0.8質量%未満であると、カーボンブラック粒子間を結着する樹脂量が不足し、耐水性が十分に得られない場合がある。一方、樹脂の含有量の合計が4.7質量%を超えると、記録媒体の表面上に樹脂が多く存在し過ぎて、画像表面の平滑性が損なわれ、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。
【0030】
また、樹脂の含有量(質量%)の合計が、カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.7倍以上11.0倍以下であることが好ましい。すなわち、樹脂の含有量の合計/カーボンブラックの含有量=0.7以上11.0以下であることが好ましい。上記質量比率が0.7倍未満であると、カーボンブラックの分散状態が不安定になりやすく、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。一方、上記質量比率が11.0倍を超えると、インクが増粘しやすく、カーボンブラックの分散状態も不安定になりやすく、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。また、カーボンブラックの分散安定性をより向上し、インクの保存安定性を高いレベルで満足する観点から、カーボンブラックと樹脂Aの比率を以下のようにすることが好ましい。カーボンブラックに結合している樹脂Aが、カーボンブラックに対する質量比率が0.3倍以上、すなわち、樹脂Aの含有量/カーボンブラックの含有量=0.3以上であることが好ましい。なお、前記質量比率は、後述する第3段階の加水分解で分離した樹脂量とカーボンブラック量から求められる。
【0031】
本発明のインクを構成する樹脂A又は樹脂Bとしては、酸価や重量平均分子量が上述の範囲を満たすものであれば、それぞれ複数種の樹脂を使用してもよい。また、本発明における樹脂A及び樹脂Bを使用していれば、本発明の効果を損なわない限りそれ以外の樹脂を併用することもできる。しかし、本発明の効果を効率よく得るためには、インク中の全ての樹脂の含有量に占める、樹脂A及び樹脂Bの合計の含有量の割合が90.0質量%以上、さらには95.0質量%以上であることが好ましい。特には、インクに含有させる全ての樹脂が上述の樹脂A又は樹脂Bの要件を満足するものであることが好ましい。また、本発明においては、樹脂A及び樹脂Bが、酸価と当量のアルカリで中和した際に粒径を有さないような、水溶性を有する樹脂であることが好ましい。
【0032】
本発明のインクに含有させる樹脂A及び樹脂Bを構成するユニットは、樹脂の酸価及び重量平均分子量が、それぞれ上述した範囲内にある樹脂であり、酸価を調節するためのアニオン性ユニットを必要数有すれば、いずれのものも用いることができる。具体的には、以下に挙げるような群からそれぞれ選ばれる、疎水性ユニットと親水性ユニットとを有する共重合体であることが好ましい。なお、以下の(メタ)アクリルはアクリル及びメタクリルを、また、(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートを示す。
【0033】
重合により樹脂を構成する疎水性ユニットとなるモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族基を有するモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーなどの疎水性モノマーが挙げられる。
【0034】
重合により樹脂を構成する親水性ユニットとなるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、(イソ)プロピル(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマール酸などのカルボキシ基を有するアニオン性モノマー;スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸などのスルホン酸基を有するアニオン性モノマー;(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有するアニオン性モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するノニオン性モノマー;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノ(メタ)アクリレートなどのノニオン性モノマー;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;下記式(1)で示されるモノマーなどのポリシロキサン構造を有するモノマーなどが挙げられる。
【0035】

(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数1乃至6のアルキレン基であり、R3はそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、R4はフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基であり、nは0乃至150の整数である。)
【0036】
本発明においては、樹脂Aや樹脂Bがそれぞれ、親水性ユニットとして(メタ)アクリル酸に由来するユニットを少なくとも有することが好ましい。また、画像の耐水性をより高いレベルで得ることができるため、樹脂Aや樹脂Bがそれぞれ、疎水性ユニットとしてスチレンに由来するユニットを少なくとも有することが好ましい。また、樹脂同士の親和性に優れ、画像の光沢性や耐水性、インクの保存安定性を高いレベルで達成することができるため、樹脂A及び樹脂Bが共通するユニットを少なくとも有することが好ましい。
【0037】
(樹脂の酸価及び重量平均分子量の確認、樹脂Aがカーボンブラックに結合しているかの判定)
本発明において、樹脂の酸価及び重量平均分子量の確認と、樹脂Aがカーボンブラックに結合しているかの判定は、先に述べたインク中のカーボンブラックについての分析手法を利用した下記の方法によって確認することができる。なお、3段階の処理の具体的な手法は上記した通りに行えばよい。
【0038】
先ず、第1段階で、確認する対象のカーボンブラック(沈殿物)と、インク中に含まれる水溶性の成分(液層)とを分離する。この液層中には樹脂Bが含まれるので、液層中の樹脂を分析することで、インク中に含まれる樹脂Bの酸価及び重量平均分子量を測定することができる。また、樹脂Aがカーボンブラックに結合しているかどうかの判定を第2段階で行い、結合している場合には、第3段階の処理を行う。第3段階の加水分解によりカーボンブラック粒子の表面に結合している樹脂Aは分離され、溶剤中に樹脂Aが溶解した状態となるので、この溶剤中の樹脂を分析することで、インク中に含まれる樹脂Aの酸価及び重量平均分子量を測定することができる。なお、各樹脂の酸価はJIS K0070によって測定することができ、重量平均分子量は以下に述べるようにして測定することができる。
【0039】
樹脂の重量平均分子量は、テトラヒドロフランを移動相としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。後述する実施例で使用した測定方法は、以下の通りである。なお、本発明における、フィルター、カラム、標準ポリスチレン試料及びその分子量などの測定条件は、下記に限られるものではない。
【0040】
先ず、測定対象の試料をテトラヒドロフランに入れて数時間静置して溶解し、溶液を調製する。その後、ポアサイズ0.45μmの耐溶剤性メンブランフィルター(例えば、商品名:TITAN2 Syringe Filter、PTFE、0.45μm;SUN−SRi製)で前記溶液をろ過して試料溶液とする。なお、試料溶液は、樹脂の含有量が0.1質量%以上0.5質量%以下になるように調製する。GPCには、RI(Refractive Index)検出器を用いる。また、103乃至2×106の分子量の範囲を正確に測定するために、市販のポリスチレンジェルカラムを複数本組み合わせることが好ましい。例えば、Shodex KF−806M(昭和電工製)を4本組み合わせて用いることや、これに相当するものを用いることができる。40.0℃のヒートチャンバー中で安定化したカラムに移動相としてテトラヒドロフランを流速1mL/分で流し、上記の試料溶液を約0.1mL注入する。試料の重量平均分子量は、標準ポリスチレン試料で作成した分子量検量線を用いて決定する。標準ポリスチレン試料は、分子量が102乃至107程度のもの(例えば、Polymer Laboratories製)を用い、また、少なくとも10種程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適切である。
【0041】
<ポリエチレングリコール>
本発明のインクに、さらに、平均分子量が600以上2,000以下のポリエチレングリコールを含有させることで、画像の耐水性をより向上させることができる。このような効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推測している。上記ポリエチレングリコールは、記録媒体にインクが付与され、水などの蒸発によってその濃度が相対的に高くなると、本発明のインクを構成する特定のカーボンブラックの分散状態を不安定化させ、凝集を促進する作用がある。そのため、記録媒体の表面上において、樹脂Bによる複数のカーボンブラック粒子間の結着を補助する作用が生じ、その結果、画像の耐水性をより向上することができたものと推測している。一方、含有させるポリエチレングリコールの平均分子量が600未満であると、カーボンブラックの凝集を促進する作用が低下し、画像の耐水性をより向上する効果が得られない場合がある。また、含有させるポリエチレングリコールの平均分子量が2,000を超えると、画像の耐水性をより向上する効果は得られるものの、インク中におけるポリエチレングリコールの溶解性が低くなり、インクの保存安定性が十分に得られない場合がある。
【0042】
本発明において、インクに平均分子量が600以上2,000以下のポリエチレングリコールを含有させる場合は、インク中のその含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
本発明におけるポリエチレングリコールの平均分子量とは、その値の上下30の範囲を包含するものである。例えば、平均分子量1,000のポリエチレングリコールの場合、平均分子量が970乃至1,030のものを平均分子量が1,000であるとする。より詳細には、後述する測定方法により決定した平均分子量が970乃至1,030のものを、平均分子量1,000のポリエチレングリコールとする。
【0044】
本発明に用いるポリエチレングリコールの平均分子量は、下記に述べるようにして測定した値である。測定対象のポリエチレングリコール試料1g(0.1mgの桁まで秤量)を、共栓付きフラスコで正確に秤量した無水フタル酸のピリジン溶液25mL中に入れ、共栓をして沸騰水浴中で2時間加熱した後、室温になるまで放置する。その後、このフラスコに0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液50mL(正確に秤量する)及び滴定用フェノールフタレイン溶液10滴を入れる。このフラスコ中の液体を、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定を行い、液体が15秒間紅色を保つ点を終点とする。このようにして得られた本試験の滴定量M(mL)と、ポリエチレングリコール試料を用いない以外は上記と同様にして行った空試験により得られた滴定量R(mL)から、下記式に基づいて平均分子量を算出する。
【0045】

【0046】
<水性媒体>
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、1価ないしは多価のアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、複素環化合物類などのインクジェット用のインクに従来から用いられているものをいずれも使用することができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この場合の水溶性有機溶剤の含有量は、上述した平均分子量600以上2,000以下のポリエチレングリコールの含有量を含む値である。また、インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0047】
<その他の成分>
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、本発明のインクには上記成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0048】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドから、上記で説明した本発明のインクを吐出させて、記録媒体にインクを付与する工程を有する。インクジェット方式としては、熱エネルギーや力学的エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出するものがあるが、本発明においては、熱エネルギーを利用する記録方法においてより顕著な効果を得ることができるため特に好ましい。また、記録媒体としては、表面のpHが4〜10程度のものを用いることが特に好ましい。なお、本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0049】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備え、前記インク収容部に、上記で説明した構成を有する本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、その内部の空間にインクを収容するインク収容室や、吸収体などにより生じる負圧でその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。また、その内部の空間にインクを収容するインク収容室を持たず、収容するインクの全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、ばね部材などによりその内容積を拡大する方向の力を持たせることでインクを収容する、袋状のインク収容部としてもよい。これらの構成のインクカートリッジに、さらに記録ヘッドを一体に構成した形態としてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載で、「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0051】
<カーボンブラック粒子の表面への官能基の導入>
水30gに下記表1に示した各アミン化合物7.5mmolを溶解させた溶液に、撹拌下で硝酸銀1.2gを加えた。発生した沈殿物をろ過により除去し、ろ液を得た。水70g中に下記表1に示す特性を有するカーボンブラック10gを分散させた懸濁液に、上記で得られたろ液を撹拌下で加えた。これに、濃塩酸1.6gを加え、さらに、水10gに亜硝酸ナトリウム0.60gを溶解させた溶液を加えた。ベンゼン環に直接結合しているアミノ基がジアゾニウム塩となったものがカーボンブラックと反応することに伴う窒素ガスの泡の発生が止まった後、温度120℃のオーブンで乾燥させた。このようにして、カーボンブラック粒子の表面にアミノ基を含む官能基が結合した顔料1〜9を得た。下記表1にはカウンターイオン量の測定により求めた顔料1〜9の粒子表面の官能基密度の値も示した。なお、カウンターイオン量は、イオンクロマトグラフ(イオンクロマトグラフDX320;DIONEX製)を用いて測定した。
【0052】

【0053】
<樹脂水溶液の調製>
常法により、下記表2に示した構成ユニットの組成(質量)比、重量平均分子量、酸価を有する各樹脂を合成した。そして、各樹脂の酸価と当量の水酸化ナトリウムと水を加えて温度80℃で撹拌し、樹脂固形分の含有量が20.0%である樹脂水溶液1〜21を得た。表2中のモノマーユニットの略記号はそれぞれ、St:スチレン、α−MSt:α−メチルスチレン、BzMA:ベンジルメタクリレート、AA:アクリル酸、を示す。
【0054】

【0055】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体1〜16、18、20、21)
下記表3に示す組成の各顔料分散体を、以下の方法で調製した。上記で得られた各樹脂水溶液(樹脂固形分の含有量20.0%)1,000gに、表3に示した各カーボンブラック50gをイオン交換水1,450gに分散させた分散液を撹拌下で加えた。この混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、温度150℃で15時間加熱することで液体成分を蒸発させた後、室温に冷却して、蒸発乾燥物を得た。次いで、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した蒸留水にこの蒸発乾燥物を加えて分散させ、さらに、撹拌下で1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、液体のpHを10〜11に調整した。これにより、カーボンブラック粒子の表面に結合している官能基に含まれるアミノ基の一部と樹脂のカルボキシ基とを脱水縮合させた。その後、脱塩、不純物を除去するための精製、及び粗大粒子の除去を行って、カーボンブラックの含有量が10.0%、樹脂の含有量が4.0%である各顔料分散体を調製した。得られた各顔料分散体について熱分析を行い、カーボンブラック粒子の表面に、本発明で規定する構造のアミノ基を含む官能基、及び、樹脂Aを含む官能基が結合されていることを確認した。
【0056】
(顔料分散体17)
特開2000−095987号公報の記載を参考に、カーボンブラック粒子の表面に、−Ph−(CH2n−NH2、及び、−Rが官能基としてそれぞれ結合されたカーボンブラックを含む顔料分散体17を調製した。上記式中のPhはフェニレン基、nは1、Rは後述する樹脂であり、顔料分散体17のカーボンブラックの含有量は10.0%、樹脂の含有量は4.0%である。カーボンブラックの比表面積は240m2/g、DBP吸油量は65mL/100gであり、結合した樹脂Rの構成ユニットの組成(質量)比はSt/α−MSt/AA=60/9/31、重量平均分子量は14,500、酸価は240mgKOH/gであった。
【0057】
(顔料分散体19)
比表面積が240m2/gで、DBP吸油量が65mL/100gのカーボンブラック10部、樹脂水溶液2を20部、イオン交換水70部を混合し、バッチ式縦型サンドミルで3時間分散した。その後、ポアサイズが3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、水を加えて、カーボンブラックの含有量が10.0%、樹脂の含有量が4.0%である顔料分散体19を調製した。
【0058】

【0059】

【0060】
<インクの調製>
下記表4に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmであるポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。下記表4中、アセチレノールE100は界面活性剤(川研ファインケミカル製)であり、ポリエチレングリコールの後に付した数値はその平均分子量を示す。また、表4の下段には、インク中における、樹脂の含有量の合計(%)〔樹脂合計量(%)〕と、樹脂の含有量の合計/カーボンブラックの含有量の質量比率(倍)〔樹脂合計量/CB量(倍)〕の値も示した。
【0061】

【0062】

【0063】

【0064】

【0065】

【0066】
<評価>
(記録物の作製)
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填した。そして、インクジェット記録装置(商品名:BJF900;キヤノン製)を用いて、記録媒体(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド;キヤノン製)に、8パス双方向記録で、記録デューティが200%であるベタ画像を記録した。本発明では、解像度が1,200dpi×1,200dpiで、1/1,200インチ×1/1,200インチの単位領域に、インク1滴当たりの質量が4.5ngであるインク滴を4滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であると定義した。
【0067】
(光沢性の評価)
上記で得られた記録物を室温で1日放置した後、各記録物の画像領域における光沢性(20°グロス値)を、マイクロヘイズメーター(ビック−ガートナー製)を用いて測定し、光沢性の評価を行った。光沢性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の光沢性の評価基準で評価し、C以上を許容できるレベル、Dを許容できないレベルとした。
A:20°グロス値が45以上であった。
B:20°グロス値が40以上45未満であった。
C:20°グロス値が35以上40未満であった。
D:20°グロス値が35未満であった。
【0068】
(耐水性の評価)
上記で得られた各記録物の画像領域に、純水をスポイトで1滴たらした。その1分後に、純水をたらした領域にキムワイプ S−200(商品名;クレシア製)を上から押し当てて1分間放置し、その後、キムワイプを画像の垂直方向に静かに離した。記録物の純水をたらした画像領域とキムワイプとの状態を目視で確認し、耐水性の評価を行った。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の耐水性の評価基準で評価し、E以上を許容できるレベル、Fを許容できないレベルとした。
A:画像に色の変化が認められず、かつ、キムワイプへのインクの付着もなかった。
B:画像に色の変化が認められなかったが、キムワイプへのインクの付着はわずかにあった。
C:画像に色の変化が若干認められ、かつ、キムワイプへのインクの付着が若干あった。
D:画像に色の変化が認められ、かつ、キムワイプへのインクの付着があった。
E:画像のカーボンブラックが若干剥離した。
F:画像のカーボンブラックがほとんど剥離した。
【0069】
(保存安定性の評価)
上記で得られた各インクについて、インク中のカーボンブラック粒子の粒径をNanotrac UPA−EX150(日機装製)で測定し、これを保存前の粒径とした。また、上記で得られた各インクをポリテトラフロオロエチレン製の容器に入れて密閉したものを、温度60℃のオーブン中で1ヶ月間保存し、常温に戻した後に、インク中のカーボンブラック粒子の粒径を測定し、これを保存後の粒径とした。このようにして得られた保存前及び保存後の各粒径から、粒径の変化率=(保存後の粒径)/(保存前の粒径)の式に基づいて粒径の変化率を求め、得られた結果からインクの保存安定性の評価を行った。評価結果を表5に示した。本発明においては、下記の保存安定性の評価基準で評価し、C以上を許容できるレベル、Dを許容できないレベルとした。
A:粒径の変化率が1.1未満であった。
B:粒径の変化率が1.1以上1.2未満であった。
C:粒径の変化率が1.2以上1.3未満であった。
D:粒径の変化率が1.3以上であった。
【0070】

【0071】

【0072】
なお、実施例27及び28の耐水性は、実施例30の耐水性と比べてやや劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂及びカーボンブラックを含有するインクであって、
前記複数の樹脂は、酸価が200mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である樹脂Aと、酸価が80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である樹脂Bとを含み、かつ、前記樹脂Aの重量平均分子量が前記樹脂Bの重量平均分子量よりも大きく、
前記カーボンブラックは、そのDBP吸油量が75mL/100g以下で、比表面積が200m2/g以上であり、かつ、その粒子の表面に、−Ph−(CH2)n−NH2及び−Ph−(CH2)n−NH−R(これらの式中のPhはフェニレン基であり、nは0乃至2の整数であり、Rは、前記樹脂Aである)が官能基としてそれぞれ結合してなることを特徴とするインク。
【請求項2】
前記樹脂Aの重量平均分子量が、15,500以上20,000以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記樹脂Bの重量平均分子量が、5,000以上14,500以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インク全質量を基準としたときに、前記樹脂Aの含有量(質量%)と前記樹脂Bの含有量(質量%)との合計が、0.8質量%以上4.7質量%以下の範囲内にある請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
インク全質量を基準としたときに、前記樹脂Aの含有量(質量%)と前記樹脂Bの含有量(質量%)との合計が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.7倍以上11.0倍以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
さらに、平均分子量が600以上2,000以下であるポリエチレングリコールを含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて、記録媒体にインクを付与して記録を行う工程を有するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項8】
インクを収容してなるインク収容部を備えたインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されてなるインクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。

【公開番号】特開2011−168766(P2011−168766A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284920(P2010−284920)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】