説明

インクカートリッジ、インクカートリッジの作製方法、及びインクジェット記録方法

【課題】インク収容部と熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドとを備えたインクカートリッジとして、連続して記録を行う際の記録ヘッドの記録耐久性に優れたインクカートリッジを提供すること。
【解決手段】インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジであって、前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、前記インクが少なくとも色材を含有し、前記色材が、特定の一般式で表される化合物、並びに、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするインクカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクカートリッジ、インクカートリッジの作製方法、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマル方式のインクジェット記録方法(以下、サーマルインクジェット記録方法、とする)は、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して、記録媒体にインクを付与することにより記録を行う方法である。サーマルインクジェット記録方法によれば、高速、高密度、高精度で記録を行うことができ、優れた画質を有する画像が得られ、更に、サーマル方式を利用したインクジェット記録装置は、フルカラー化、コンパクト化に特に最適である。このサーマル方式を利用したインクジェット記録装置の基本的な原理や構成は非常に簡単である。しかし、サーマルインクジェット記録方法において、高速の記録、優れた画質という性能を、常に信頼性良く得るためには、インクや記録ヘッドに関する数多くの技術が必要である。
【0003】
サーマルインクジェット記録方法において、記録媒体として普通紙等を用いる場合にも用いることができるインクとして必要な性能は、(1)記録性能及び信頼性、並びに(2)記録耐久性(吐出性)に大別される。
【0004】
(1)の記録性能及び信頼性に関しては、インクジェット記録方法の普及が進むにつれて、インクに要求される性能が多様化している。例えば、画質の観点では、デジタルカメラの高解像度化や高感度化に伴い、出力方法としてのインクジェット記録方法にも、出力元の画像を忠実に再現することができる高い発色性や広い色再現性が要求されるようになっている。
【0005】
一方で、銀塩写真と比較した場合のインクジェット記録方法の問題点には、得られた記録物の画像保存性が挙げられる。一般に、インクジェット記録方法により得られた記録物は銀塩写真と比較して、その画像保存性が低く、記録物が光、湿度、熱、空気中に存在する環境ガス等に長時間さらされた際に、色材が劣化し、画像の色調変化や褪色が発生しやすいという問題があった。特に、耐環境ガス性を銀塩写真のレベルまで向上することは、インクジェット記録方法における従来からの課題であった。
【0006】
インクジェット記録方法に用いられる、イエロー、マゼンタ、シアンの各インクの中でも、シアンインクは最も堅牢性(特に、耐環境ガス性)が劣る傾向がある。このため、シアンインクの耐環境ガス性をイエローインクやマゼンタインクと同等のレベルまで向上することは、重要な課題のひとつである。
【0007】
シアンの色相を有するインクジェット用インクの色材の基本骨格は、フタロシアニン骨格とトリフェニルメタン骨格の2つに大別される。前者の代表的な色材には、C.I.ダイレクトブルー86、87、199等があり、又、後者の代表的な色材には、C.I.アシッドブルー9等がある。
【0008】
一般に、フタロシアニン系色材は、トリフェニルメタン系色材と比較して、耐光性に優れるという特徴がある。更に、フタロシアニン系色材は、湿度や熱に対する堅牢性が高く、発色性が良好なことから、インクジェット用インクの色材として広く用いられている。
【0009】
しかし、フタロシアニン系色材は、空気中の環境ガス(オゾン、NO、SO)、特にオゾンガスに対する堅牢度が劣る傾向がある。特に、アルミナ、シリカ等の無機物を含有するインク受容層を持つ記録媒体に記録した記録物における堅牢性の低さは顕著であり、記録物を長時間室内に放置すると著しく褪色してしまう。この耐環境ガス性を向上するために、特定の構造を有する染料に関する提案がある(特許文献1参照)。
【0010】
又、(2)の吐出性に関しては、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドとして、以下の構成を有する記録ヘッドを用いることが一般的である。具体的には、インクに熱エネルギーを作用させるための発熱抵抗体とこれに電気的接続を行う配線とをひとつの基板上に形成したインクジェット記録ヘッド用基板に、更にインクを吐出するための流路を形成した構成を有する記録ヘッドが一般に用いられる。
【0011】
記録ヘッド用基板は、投入する電気エネルギーの省力化や、熱エネルギーが付与されたインクの発泡に伴う発熱部の損傷に起因する基板の寿命の低下を抑制するために、様々な工夫がなされている。とりわけ、一対の配線パターンの間に位置する発熱抵抗体を保護する保護層に関して、多くの工夫がなされている。この保護層は、発熱部がインクと接する面(以下、発熱部接液面と呼ぶことがある)を形成するものである。
【0012】
保護層は、熱エネルギーの効率、即ち、エネルギー効率の観点からは、熱伝導率が高いものや、保護層の厚さが小さいものが有利である。しかし、発熱抵抗体に電気的に接続する配線をインクから保護するという観点からは、保護層の厚さが大きいものが有利である。このため、保護層の厚さは、エネルギー効率と信頼性の観点とから決定されることが多い。
【0013】
又、保護層は、インクの発泡によるキャビテーションダメージ、つまり、機械的なダメージと、高温下におけるインクを構成する成分との化学反応によるダメージ、つまり、化学的なダメージとの、両方の影響を受けるものである。このため、インクジェット記録ヘッド用基板の保護層の構成は、上層に機械的なダメージ及び化学的なダメージに対して安定性が高い層、下層に配線を保護するための絶縁性の層が形成されたものが一般的である。具体的には、上層は機械的又化学的な安定性が極めて高い、例えばTa層、下層は汎用の半導体製造装置で容易に安定な層を形成することができる、例えば、SiN層、SiO層、SiC層、をそれぞれ形成することが一般的である。
【0014】
熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドに関する技術には、記録ヘッドの記録耐久性の向上や、発熱部に堆積するコゲを抑制する観点から、下記のような提案がある。例えば、特定濃度のキレート試薬を含有するインクや、メチル基又はメチレン基とカルボキシル基とを有する酸のアンモニウム塩を含有するインクに関する提案がある(特許文献2及び3参照)。これらの技術では、発熱部の保護層としてTa層が形成された記録ヘッドを用いて記録耐久性試験を行う場合における、前記Ta層の損傷や、前記Ta層上に堆積するコゲを抑制することに着目している。そして、上記の化合物を特定濃度で含有するインクという構成により、記録耐久性試験によるコゲの堆積とTa層の損傷のバランスを適正化して、記録ヘッドの長寿命化を図る試みがなされている。
【特許文献1】特開2004−323605号公報
【特許文献2】特開平6−93218号公報
【特許文献3】特開2002−12803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドから吐出するために用いられるインクとして、多種多様な製品が市販されている。その結果、ユーザーの選択肢は広がり、多種多様なインクから所望のインクを選択できるという自由度が増している。その一方で、インクに要求される性能が、ユーザーが要求する水準を必ずしも満足していない。上記で挙げたインクとして必要な性能である(1)及び(2)は、ユーザーの観点から考えると、(1)の記録性能及び信頼性は形成した画像の発色性や堅牢性、(2)の吐出性は連続して記録を行う際の記録ヘッドの記録耐久性、にそれぞれ当てはまる。特に、2種以上のインクを組み合わせて用いる場合、(1)の変動は小さいが、(2)の吐出性に関しては、その性能の低下による影響が顕著に表れ、記録ヘッドの寿命が短くなることが多い。
【0016】
従って、本発明の目的は、インク収容部と熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドとを備えたインクカートリッジとして、連続して記録を行う際の記録ヘッドの記録耐久性に優れたインクカートリッジを提供することにある。又、本発明の別の目的は、前記インクカートリッジの作製方法、及び前記インクカートリッジを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジであって、前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、前記インクが少なくとも色材を含有し、前記色材が、下記一般式(I)で表される化合物、並びに、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
一般式(I)
【0019】
【化1】

【0020】
(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジであって、前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、前記インクが、色材として下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを収容してなるインク収容部に、色材としてC.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するインクを充填することにより得られたインクであることを特徴とする。
【0021】
一般式(I)
【0022】
【化2】

【0023】
(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジの作製方法は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジを作製するインクカートリッジの作製方法であって、前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、色材として下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを収容してなる前記インク収容部に、色材として、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するインクを充填することを特徴とする。
【0024】
一般式(I)
【0025】
【化3】

【0026】
(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、上記構成のインク又は上記構成の得られたインクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、インク収容部と熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドとを備えたインクカートリッジとして、連続して記録を行う際の記録ヘッドの記録耐久性に優れたインクカートリッジを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、前記インクカートリッジの作製方法、及び前記インクカートリッジを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0029】
尚、本発明においては、色材が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。
【0030】
<インクカートリッジ>
本発明のひとつの実施態様にかかるインクカートリッジは、インク収容部と熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドとを備え、前記インク収容部に収容されるインクが、特定の色材(詳細は後述する)を含有することを主たる特徴とする。又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、特定の色材を含有するインクを収容するインク収容部に、別の特定の色材を含有するインクを充填することにより得られたインクカートリッジであることを主たる特徴とする。以下に、本発明のインクカートリッジの形態について図面を参照して説明する。
【0031】
図1から図6は、インクカートリッジを説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
【0032】
本発明のインクカートリッジは、図1及び図2に示すように記録ヘッドとインクカートリッジが一体の構成となっており、インクカートリッジは、その内部に、インクを収容するインク収容部を有する。インクカートリッジH1001は、3種のカラーインク(ここでは、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクの3種のインクが収容されたインクカートリッジを例に挙げて説明する)をそれぞれ搭載している。インクカートリッジH1001は、インクジェット記録装置に載置されているキャリッジの位置決め手段及び電気的接点によって支持固定されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっており、搭載したインクが消費されるとそれぞれ交換される。
【0033】
インクカートリッジH1001に一体となって構成された記録ヘッドは、電気信号に応じてインクに膜沸騰を生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いた記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」と呼ぶことがある)である。この記録ヘッドは、電気熱変換体と吐出口とが対向するように配置された、所謂サイドシュータ型の記録ヘッドである。本発明においては、普通紙への高画質出力と高速記録の観点から、150個以上のノズルが300dpi以上のピッチ間隔で配置され、各ノズルからの吐出量が30pL以下のノズル列を有するヘッドであることが好ましい。更に、写真画質と高速記録との両立の観点から、吐出量が6pL以下のノズルが100個以上、600dpi以上のピッチ間隔で配置されたノズル列を有するヘッドであることが好ましい。
【0034】
(記録ヘッド)
インクカートリッジH1001に一体となって構成された記録ヘッドは、シアン、マゼンタ、イエローの3種のインクを吐出するものである。記録ヘッドは、記録素子基板H1101、電気配線テープH1301、インク供給保持部材H1501、フィルタH1701、H1702、H1703、インク吸収体H1601、H1602、H1603、蓋部材H1901、及びシール部材H1801を有する。
【0035】
(記録素子基板)
図3は、記録素子基板H1101の構成を説明するための斜視図である。記録素子基板H1101には、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク用の吐出口H1108が複数並んで3列の吐出口列H1102が並列に形成されている。各吐出口列H1102を挟んだ両側に電気熱変換素子H1103と吐出口H1107とが一列に並んで千鳥状に配置されて形成されている。シリコン基板H1110上には電気配線、ヒューズ、電極部H1104等が形成されている。その上に、フォトリソグラフィ技術によって、インク流路壁H1106や吐出口H1107が樹脂材料で形成されており、電気配線に電力を供給するための電極部H1104には、Au等のバンプH1105が形成されている。
【0036】
(ノズル構造)
図4は、記録ヘッドに設けられたノズルの構造の概略を示す模式図である。図4(a)は、ノズルを吐出口側から見た場合のノズル形状を示した図である。図4(b)は図4(a)の破線X−Yに沿って切断した断面を示した図である。H2101はシリコン基板、H2102は熱酸化膜で形成される蓄熱層である。又、H2103は蓄熱する珪素の酸化物層又は窒化物層等で形成される層間層であり、H2104は発熱抵抗層、H2105はAl、Al−Si、又はAl−Cu等の金属材料で形成される配線としての金属配線層である。そして、H2106は、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含んで形成される、絶縁層としても機能する保護層である。この保護層は、発熱部がインクと接する面、即ち、発熱部接液面を形成するものである。保護層H2106はインクと直接接触するため、アルカリ等に対して化学的に安定で、且つ、物理的衝撃に対しても十分な耐性が求められると共に、電気的な絶縁性も兼ね備えることが好ましい。このため、保護層H2106を形成する材料は、珪素の窒化物層又は炭化物層を用いることが好ましい。又、H2107は、発熱抵抗層H2104の発熱抵抗体で発生した熱がインクに作用する発熱部である。発熱部H2107は、発熱抵抗体で発生した熱により高温に曝されると共に、インクの発泡、発泡後の泡の収縮に伴い、キャビテーションの衝撃やインクによる化学的な作用を主に受ける。そのため、発熱部H2107には、キャビテーションの衝撃やインクによる化学的な作用から電気熱変換素子を保護する保護層H2106が設けられる。保護層H2106の上には、流路形成部材H2108により、吐出口H2109を備えた吐出エレメントが形成される。
【0037】
保護層H2106の厚さは、発熱抵抗体にかかる電気パルスを効率的に変換するうえで重要な熱変換効率と、発泡に伴うインクの物理的な衝撃、化学的な腐食からの保護の観点から、50nm以上500nm以下であることが好ましい。保護層H2106の厚さが50nm未満であると、発熱部の記録耐久性が十分に得られない場合や、保護層の溶解による厚さが変化して、投入されるエネルギーの変動の影響に対して敏感になる場合がある。一方、保護層H2106の厚さが500nmを超えると、発泡に要するエネルギーが大きくなるため、高密度にノズルを配置する場合や、吐出周波数を高くする場合等に、ノズルの温度が上昇しやすくなる場合がある。本発明においては、より一層の多ノズル化、高密度化、又、記録耐久性を向上するため、保護層H2106の厚さを100nm以上450nm以下とすることが特に好ましい。
【0038】
図4(a)及び(b)の斜線部H2110は、インクが満たされるノズル部H2112の液室である。インクは、ノズル部の右側に配置された共通液室H2111から供給され、発熱部H2107において発泡して泡を形成した後、吐出口H2109から押し出され、インク滴として吐出される。
【0039】
又、10kHz以上の高周波数で駆動するためにはノズルの構造に制約が生じ、吐出特性の観点から、液室の容積が5μm/μm以上40μm/μm以下であることが好ましい。尚、ここで定義されるノズル部の液室の容積とは、図4(a)及び(b)のH2110に相当する部分のことであり、共通液室H2111から分岐して吐出口H2109までのインク流路部分における容積を表す。
【0040】
(電気配線テープ)
図5は、記録ヘッドの一部を示す断面図である。電気配線テープH1301は、インクを吐出するための電気信号を記録素子基板H1101に印加する電気信号経路を形成するものであり、記録素子基板を組み込むための開口部が形成されている。この開口部の縁付近には、記録素子基板の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。又、電気配線テープH1301には、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。電気配線テープH1301と記録素子基板1101との電気的な接続は、バンプH1105と電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされている。バンプH1105は記録素子基板H1101の電極部H1104に形成されており、電極端子H1304は記録素子基板H1101の電極部H1104に対応する電気配線テープH1301に形成されている。
【0041】
(インク供給保持部材)
インクカートリッジは、その内部に、インクを収容するインク収容部がインク供給保持部材H1501として形成されている。インク供給保持部材H1501は、樹脂により形成されており、例えば、射出成形、圧縮成形、又は熱成形等により成型することができる、熱可塑性樹脂を構成材料として用いることが好ましい。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、改質ポリフェニレンオキシド(PPO)、及びこれらの混合物等が挙げられる。樹脂には、剛性の向上やガスの透過を抑制する観点から、充填材を5乃至40質量%混入した熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。充填剤は、例えば、ガラス、シリカ、及びグラファイト(黒鉛)等が挙げられる。耐インク性や溶着性、又、インク供給保持部材と記録ヘッドとを一体に形成するような構成の場合、接着剤との接着性や熱による線膨張性等が高いレベルで要求される。このような性能のバランスをとる観点から、改質ポリフェニレンオキシド(PPO)に、充填剤を混入した樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
図2に示すように、インク供給保持部材H1501は、その内部に、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを保持するための負圧を発生するインク吸収体H1601、H1602、H1603をそれぞれ独立に保持するための空間を有する。インク供給保持部材H1501は更に、記録素子基板H1100の各吐出口列H1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を形成するインク供給機能とを備えている。インク吸収体H1601、H1602、H1603は、PP(ポリプロピレン)繊維を圧縮したものが好ましいが、ウレタン繊維を圧縮したものでもよい。各インク流路の上流部のインク吸収体H1601、H1602、H1603との境界部には、記録素子基板H1101の内部にゴミ等の進入を防ぐためのフィルタH1701、H1702、H1703が、それぞれ溶着により接合されている。フィルタH1701、H1702、H1703は、SUS金属メッシュタイプでもよいが、SUS金属繊維焼結タイプが特に好ましい。
【0043】
インク流路の下流部には、記録素子基板H1101に、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。記録素子基板H1101の各インク供給口1102がインク供給保持部材H1501の各インク供給口H1201に連通するよう、記録素子基板H1101がインク供給保持部材H1501に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後に比較的高い硬度を有し、且つ、耐インク性があるものが好ましい。例えば、第1の接着剤は、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤を用いることが好ましく、接着層の厚さは50μm程度であることが好ましい。
【0044】
インク供給口H1201近傍の平面には、電気配線テープH1301の一部の裏面が第2の接着剤により接着固定される。記録素子基板H1101と電気配線テープH1301との電気接続部分は、第1の封止剤H1307及び第2の封止剤H1308により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から電気接続部分を保護する。第1の封止剤H1307は主に、電気配線テープH1300の外部信号入力端子H1302と記録素子基板のバンプH1105との接続部の裏面側と記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤H1308は、上記の接続部の表側を封止する。そして、電気配線テープH1301の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材H1501のインク供給口H1201を有する面にほぼ直交した側面に熱カシメ又は接着等で固定される。
【0045】
(蓋部材)
蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材H1501内部の独立した空間をそれぞれ閉塞する。蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501内部の各部屋の圧力変動を逃がすための圧力変動調整口H1911、H1912、H1913と、それぞれに連通した微細溝H1921、H1922、H1923を有する。微細溝H1921及びH1922の他端は微細溝H1923の途中に合流する。更に、圧力変動調整口H1911、H1912、H1913と微細溝H1921、H1922、H1923のほとんどはシール部材H1801で覆われ、微細溝H1923の他端部を開口することで大気連通口が形成される。このような迷路構造の大気連通口は、大気連通口からのインク中の揮発成分の蒸発を効果的に抑制することができるため特に好ましい。又、蓋部材H1901は記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部H1930を有する。
【0046】
蓋部材を形成する樹脂も、インク供給保持部材と同様に改質ポリフェニレンオキシド(PPO)に充填剤を混入した樹脂を用いることが好ましい。尚、インク供給保持部材及び蓋部材に上記の樹脂を用いた場合でも、樹脂自体からの水分の透過は避けられないため、上記の迷路構造の大気連通口を設けた場合でも、ある程度のインク蒸発は生じる。
【0047】
(インクカートリッジのインクジェット記録装置への装着)
図1に示すように、インクカートリッジH1001は、インクジェット記録装置のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイドH1560及びヘッドセットレバーによりキャリッジに装着固定するための蓋係合部H1930を具備する。更に、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのキャリッジスキャン方向のX突き当て部H1570、記録媒体の搬送方向のY突き当て部H1580、インクを吐出する方向のZ突き当て部H1590を具備する。これらの突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープH1300及びH1301上の外部信号入力端子H1302が、キャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的接触を行う。
【0048】
(記録ヘッドの駆動方法)
図4(b)の記録ヘッドの金属配線層H2105にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板H2104の発熱部H2107が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生する。この気泡の圧力でメニスカスが突出し、インクが記録ヘッドの吐出口H2109を通して吐出され、インク滴となって記録媒体に付与される。
【0049】
ここで、γ値について説明する。γ値とは、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドがぎりぎり吐出可能な臨界エネルギーに対する、実際に投入するエネルギーの比を表わす因子である。即ち、記録ヘッドに印加するパルスの幅P(複数のパルスを分割して印加する場合はその合計)、印加する電圧V、ヒータ(発熱部)の抵抗R、とするとき、投入エネルギーEは下記式(A)で求められる。
E=P×V/R (A)
【0050】
このとき、記録ヘッドがぎりぎり吐出できる最低限必要なヒータへのエネルギーEth、実際に駆動を行うときの投入エネルギーEop、とするとき、γ値は下記式(B)で求められる。
γ=Eop/Eth (B)
【0051】
記録ヘッドの駆動条件からγ値を求める方法は、以下の方法がある。先ず、与えられた電圧で、記録ヘッドが吐出する適当なパルス幅を見つけて駆動する。次に、徐々にパルス幅を短くしてゆき、吐出が止まるパルス幅を見つける。このパルス幅の直前の吐出可能な最小パルス幅をPthとする。実際に駆動で用いるパルス幅をPopとするとき、γ値は下記式(C)で求められる。
γ=Pop/Pth (C)
【0052】
インクを安定して吐出するためには、上記のように定義されるγ値が1.10乃至1.50となるような条件で駆動するのが好ましい。このような駆動条件によって、ヒータ(発熱部)へのコゲの付着がより効果的に防止され、更には記録ヘッドのより一層の長寿命化を図ることができる。
【0053】
又、インクカートリッジのPth0と長期保存後でのPth1をそれぞれ測定して、その変化率を下記式(D)に従って求めることにより、保存前後による発熱部の発熱抵抗変化を調べることができる。
α(%)=100×(Pth1−Pth0)/Pth0R (D)
【0054】
安定な吐出を得るため、特に、発泡状態の安定性に関わる吐出量の変動を抑え、インクをノズルに供給するリフィル特性、発熱部にかかるエネルギーの変動に関わる連続吐出時の蓄熱特性、記録耐久性等を向上するためには、αを以下のようにすることが好ましい。即ち、Pthの変化率αが30%未満であることが好ましい。特には、写真画質の画像を形成する場合、1ノズルあたりの吐出量を6pL以下とすることが好ましく、そのためにはインクの吐出をより精度良く制御する必要があるため、Pthの変化率αを20%未満とすることが好ましい。
【0055】
<インクカートリッジの作製方法>
本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジの作製方法は、以下の構成を有することを主たる特徴とする。即ち、インク収容部と発熱部が設けられた記録ヘッドとを備えたインクカートリッジであって、特定の色材を含有するインクを収容する前記インク収容部に、別の特定の色材を含有するインクを充填することを主たる特徴とする。
【0056】
本発明においては、一般式(I)で表される化合物を含有するインクを収容するインク収容部に、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するインクを充填することが特に好ましい。このようなインクカートリッジの作製方法とすることで、以下に挙げるような効果を得ることができるためである。先ず、一回インクを収容したインクカートリッジは、インクの再充填が容易となるという効果を得ることができる。又、インクがインク収容部と接触すると、インク供給保持部材である樹脂に由来する、記録のヨレやカスレを誘引する金属イオンが発生する原因となる場合がある。しかし、一回インクを収容したインク収容部には金属イオンが殆んど残存しなくなるため、インクを再充填した後は、記録のヨレやカスレの発生が抑制されたインクカートリッジとすることができる。更に、一般式(I)で表される化合物を含有するインク及び前記インクを収容するインクカートリッジを再利用することにより、環境の面で優れていることや、コストの削減が可能となる。
【0057】
<インク>
インクを構成する各成分等について、以下に述べる。
【0058】
(色材)
本発明のインクカートリッジに収容されるインクは、色材として、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが必須である。又は、上記で説明したインクカートリッジの作製方法により得られたインクが、色材として、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが必須である。これらの色材は発色性等の特性が優れる色材であり、前記色材を含有するインクを用いることで、銀塩写真の発色性に匹敵する画像を形成することができる。本発明においては、良好な発色性を得るために、銅フタロシアニン構造を有する化合物としてC.I.ダイレクトブルー86又はC.I.ダイレクトブルー199を用いることが特に好ましい。尚、本発明では、「銅フタロシアニン構造を有する化合物」として記載する化合物は、後述の一般式(I)で表される化合物を除くものとする。
【0059】
インクは、上記色材に加えて、更に、下記一般式(I)で表される化合物を含有することが必須である。一般式(I)で表される化合物は、堅牢性が非常に優れているため、インクにおける含有量が微量であっても、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である色材の堅牢性を向上することができる。更に、下記一般式(I)で表される化合物は、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である色材が本来有する特性である、優れた発色性を損なうこともない。
【0060】
一般式(I)
【0061】
【化4】

【0062】
(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4である。銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
尚、一般式(I)におけるMがアルカリ金属である場合の具体例は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0063】
インクが色材としてC.I.アシッドブルー9や銅フタロシアニン構造を有する化合物のみを含有する場合、連続して記録を行うと発熱部接液面に堆積物が発生し、記録のヨレやカスレが発生して、記録耐久性が低下する場合がある。
【0064】
インク中の色材の含有量の合計(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。含有量の合計が0.1質量%未満であると、堅牢性や画像濃度が十分に得られない場合があり、又、10.0質量%を越えると、信頼性、例えば耐固着性等が十分に得られない場合がある。
【0065】
インク中の一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.15質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。一般式(I)で表される化合物の含有量が0.15質量%未満であると、堅牢性が得られない場合があり、2.0質量%を越えると、発色性が十分に得られない場合がある。
【0066】
インク中の一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)の比率が、色材の含有量の合計(質量%)に対して、9.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。前記比率が9.0質量%未満であると、堅牢性や画像濃度が十分に得られない場合があり、20.0質量%を越えると、発色性が十分に得られない場合がある。又、前記比率が20.0質量%を超えると、発熱部接液面の膜侵食や堆積物発生がより起こりやすくなるため、好ましくない。
【0067】
インク中の一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)と、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)との比率が、0.40以上1.00未満であることが好ましい。即ち、{(一般式(I)で表される化合物の含有量)/(C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量)}=0.40以上1.00未満であることが好ましい。前記比率が0.40未満であると、記録耐久性(記録のヨレやカスレ)が低下する場合があり、前記比率が1.00以上であると、連続して記録を行う場合に断線が発生するまでの期間が短くなり、記録ヘッドの寿命が短くなる場合がある。
【0068】
〔色材の検証方法〕
本発明において用いられる色材である一般式(I)で表される化合物の検証には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)〜(3)の検証方法が適用できる。
(1) ピークの保持時間
(2) (1)のピークにおける極大吸収波長
(3) (1)のピークにおけるマススペクトルのM/Z(posi)
【0069】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下に示す通りである。純水で約50倍(質量倍)に希釈したインクについて、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、メインピークの保持時間(retention time)、及び、ピークの極大吸収波長を測定する。
・カラム:Symmetry C18 2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2ml/min
・PDA:210nm〜700nm
・移動相及びグラジエント条件:表1
【0070】
【表1】

【0071】
又、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークに対して、下記の条件でマススペクトルを測定し、M/Z(posi)を測定する。
・イオン化法
・ESI キャピラリ電圧 3.1kV
脱溶媒ガス 300℃
イオン源温度 120℃
・検出器 posi 40V 500−2000amu/0.9sec
一般式(I)で表される化合物に対しての保持時間、極大吸収波長、M/Z(Posi)の値を表2に示す。未知のインクについて上記の分析を行った結果が表2に示す値に該当する場合、一般式(I)で表される化合物に該当すると判断できる。尚、一般式(I)で表される化合物における、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のピークから得られるマススペクトルのピーク比は、銅フタロシアニン骨格の置換基の数、種類、及び置換位置が異なる異性体の混合比率によって異なる。しかし、一般式(I)で表される化合物は、下記表2に示すM/Zのピークが常に検出されるという特徴を有する。従って、上記色材の検証方法は、未知のインクが色材として一般式(I)で表される化合物を含有するか否かを検証する方法として有効である。
【0072】
【表2】

【0073】
(その他の色材)
本発明においては、C.I.アシッドブルー9又は銅フタロシアニン構造を有する色材、及び、一般式(I)で表される化合物に、その他の色材を組み合わせて用いることができる。
【0074】
又、フルカラーの画像等を形成するために、本発明のインクとは別の色調を有するインクを併用することができる。例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク等である。又、これらのインクと同一の色調を有する淡インクを組み合わせて用いることもできる。これらの別の色調を有するインク、又は淡インクの色材は、公知の色材であっても、新規に合成された色材であっても用いることができる。
【0075】
以下に、調色用色材、及び本発明のインクと共に用いる他のインクに用いる色材の具体例を色調別に示す。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
【0076】
[マゼンタ色材]
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等。C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等。C.I.フードレッド:87、92、94等。C.I.ダイレクトバイオレット:107等。C.I.ピグメントレッド:2、5、7、12、48:2、48:4、57:1、112、122、123、168、184、202等。
【0077】
[シアン色材]
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、80、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226等。C.I.アシッドブルー:1、7、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161、203、204、244等。C.I.ピグメントブルー:1、2、3、15、15:2、15:3、15:4、16、22、60等。
【0078】
[イエロー色材]
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等。C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等。C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、12、13、14、15、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、114、128、138、180等。
【0079】
[オレンジ色材]
C.I.アシッドオレンジ:7、8、10、12、24、33、56、67、74、88、94、116、142等。C.I.アシッドレッド:111、114、266、374等。C.I.ダイレクトオレンジ:26、29、34、39、57、102、118等。C.I.フードオレンジ:3等。C.I.リアクティブオレンジ:1、4、5、7、12、13、14、15、16、20、29、30、84、107等。C.I.ディスパースオレンジ:1、3、11、13、20、25、29、30、31、32、47、55、56等。C.I.ピグメントオレンジ:43等。C.I.ピグメントレッド:122、170、177、194、209、224等。
【0080】
[グリーン色材]
C.I.アシッドグリーン:1、3、5、6、9、12、15、16、19、21、25、28、81、84等。C.I.ダイレクトグリーン:26、59、67等。C.I.フードグリーン:3等。C.I.リアクティブグリーン:5、6、12、19、21等。C.I.ディスパースグリーン:6、9等。
C.I.ピグメントグリーン:7、36等。
【0081】
[ブルー色材]
C.I.アシッドブルー:62、80、83、90、104、112、113、142、203、204、221、244等。C.I.リアクティブブルー:49等。C.I.アシッドバイオレット:17、19、48、49、54、129等。C.I.ダイレクトバイオレット:9、35、47、51、66、93、95、99等。C.I.リアクティブバイオレット:1、2、4、5、6、8、9、22、34、36等。C.I.ディスパースバイオレット:1、4、8、23、26、28、31、33、35、38、48、56等。C.I.ピグメントブルー:15:6等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、37等。
【0082】
[ブラック色材]
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等。C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等。C.I.フードブラック:1、2等。カーボンブラック等。
【0083】
(多価カルボン酸又はその塩)
本発明のインクカートリッジの発熱部は、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有する。この保護層がインクと長期間接触した状態になると、保護層の溶解が起こる場合がある。本発明者らの検討の結果、珪素とキレート化合物を形成する物質が保護層に含まれる珪素をイオン化してインク中に溶解させることで、保護層が損傷する場合があることを見出した。本発明者らが、珪素とキレートを形成しやすい化合物について検討を行った結果、インクが多価カルボン酸又はその塩を含有する場合に特に顕著に珪素が溶解する場合があることがわかった。
【0084】
その一方で、多価カルボン酸又はその塩は、インクがインク収容部に収容された状態で保存された際に、インク供給保持部材である樹脂から溶出した金属イオン等を捕捉することで、金属イオンをインク中に溶解させた状態を安定に保つ働きがある。インクがインク収容部と接触すると、インク供給保持部材である樹脂等から金属イオンが溶出する場合がある。この金属イオンは、樹脂を合成する際に用いる触媒や触媒残渣の中和剤に主として由来するものである。金属イオンが不溶化すると、金属の水酸化物や酸化物等が発熱部接液面に発生するコゲの原因となり、記録のヨレやカスレが発生する場合がある。しかし、上記で述べたように、インクが多価カルボン酸又はその塩を含有することで、金属イオンを捕捉して溶解した状態を保つため、記録のヨレやカスレを顕著に抑制することができる。
【0085】
これらのことから、保護層の溶解を抑制することと、金属イオンに起因する記録のヨレやカスレを抑制することとを両立するためには、インク中の価カルボン酸又はその塩の濃度を特定の範囲とすることが特に好ましい。本発明においては、多価カルボン酸又はその塩の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.001質量%以上0.012%質量%であることが好ましい。多価カルボン酸又はその塩の含有量を上記した範囲とすることで、上記の相反する課題を共に解決することができる。
【0086】
多価カルボン酸又はその塩は、2価乃至4価の多価カルボン酸又はその塩を用いることが好ましい。多価カルボン酸は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、グルコン酸、EDTA等が挙げられる。又、前記多価カルボン酸の塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、第1級、第2級、第3級のアミン塩等が挙げられる。前記アルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、アルカリ土類金属塩は、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも特に、本発明の効果をより顕著に得ることができるため、クエン酸又はその塩を用いることが好ましい。尚、本発明においては、多価カルボン酸の一部や塩はインク中ではイオンの状態で存在しているが、便宜上「酸を含有する」及び「塩を含有する」と表現する。
【0087】
(水性媒体)
インクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、更には10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。含有量が5.0質量%未満であると、耐固着性等の信頼性が十分に得られない場合があり、含有量が90.0質量%を越えると、インクの粘度が上昇することによってインクの供給不良が起きる場合がある。
【0088】
水溶性有機溶剤は、例えば、以下のものを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール等のグリコール類。グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリン等の複素環類。ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物。
【0089】
水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0090】
(その他の添加剤)
インクには、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素等の尿素誘導体等の、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、インクには必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、及び、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有しても良い。
【0091】
〔界面活性剤〕
界面活性剤は、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を用いることができる。
【0092】
アニオン界面活性剤は、具体的には、以下のものを用いることができる。
アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩等。又、ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル等。又、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸ジオクチルスルホ琥珀酸塩等。
カチオン性界面活性剤は、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等を用いることができる。
【0093】
両性活性剤は、具体的には、以下のものを用いることができる。
ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等。
【0094】
ノニオン性界面活性剤は、具体的には、以下のものを用いることができる。
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系化合物。又、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物。又、ポリオキシアラルキルアルキルエーテル系化合物。又、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル等のエステル系化合物。又、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系化合物。2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール系化合物。アセチレングリコール系化合物は、例えば、アセチレノール:EH、E100(川研ファインケミカル製)、サーフィノール:104、82、465、オルフィンSTG等(日信化学製)等が挙げられる。
【0095】
〔pH調整剤〕
pH調整剤は、インクのpHを所定の範囲にすることができれば、何れのものも用いることができる。具体的には、以下のものを用いることができる。
ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等のアルコールアミン化合物。水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物。水酸化アンモニウム等。炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等。
【0096】
〔防腐剤、防黴剤〕
防腐剤、防黴剤は、具体的には、以下のものを用いることができる。
有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系等。又、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等。
【0097】
有機ハロゲン系化合物は、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。ピリジンオキシド系化合物は、例えば、2−ピリジンチオール−1オキサイドナトリウム等が挙げられる。無機塩系化合物は、例えば、無水酢酸ソーダ等が挙げられる。イソチアゾリン化合物は、例えば、以下のものが挙げられる。1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等。又、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等。その他に、防腐剤、防黴剤として、ソルビン酸ソーダ安息香酸ナトリウム等を用いることができ、具体的には、プロキセル:GXL(S)、XL−2(S)(アビシア製)等を用いることができる。
【0098】
〔キレート剤〕
キレート剤は、例えば、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、二ニトロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0099】
〔防錆剤〕
防錆剤は、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0100】
〔紫外線吸収剤〕
紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物等が挙げられる。又は、ベンズオキサゾール系化合物等の紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、所謂蛍光増白剤を用いることもできる。
【0101】
〔粘度調整剤〕
粘度調整剤は、上記で挙げた水溶性有機溶剤の他に、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等の水溶性高分子化合物等が挙げられる。
【0102】
〔消泡剤〕
消泡剤は、例えば、フッ素系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。
【0103】
<インクジェット記録方法>
インクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うものである。本発明では、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法に用いるインクとして、上記で述べたインクカートリッジに収容されたインクや、インクカートリッジの作製方法により得られたインクを用いる。
【0104】
<インクジェット記録装置>
上記で述べたようなインクカートリッジを搭載することができるインクジェット記録装置について、図6を用いて以下に説明する。インクジェット記録装置のキャリッジ102には、図1のインクカートリッジH1001が位置決めされ、且つ交換可能に搭載される。キャリッジ102には、インクカートリッジH1001上の外部信号入力端子H1302を介して駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。キャリッジ102は、主走査方向に延在してインクジェット記録装置に設置されたガイドシャフト103に沿って往復移動可能に案内支持される。そして、キャリッジ102は主走査モータ104により、モータプーリ105、従動プーリ106、及びタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動されると共に、その位置及び移動が制御される。又、キャリッジ102には、ホームポジションセンサ130が設けられ、キャリッジ102上のホームポジションセンサ130が通過することで、遮蔽板136の位置を検知できる。
【0105】
記録媒体108は給紙モータ135からギアを介してピックアップローラ131を回転させることによりオートシートフィーダ132から一枚ずつ分離して給紙される。更に、記録媒体108は、搬送ローラ109の回転により、インクカートリッジH1001の吐出口を有する面と対向する位置を通って副走査方向に搬送される。搬送ローラ109は、LFモータ134の回転によりギアを介して回転する。その際、給紙の有無の判定と給紙時の頭出し位置の検知は、ペーパーエンドセンサ133を記録媒体108が通過した時点で行われる。更に、記録媒体108の後端の検知と、その後端から現在の記録位置を最終的に割り出す際にも、ペーパーエンドセンサ133が用いられる。
【0106】
尚、記録媒体108は、記録部において平坦な記録面を形成するように、その裏面をプラテン(不図示)により支持される。この場合、キャリッジ102に搭載されたインクカートリッジH1001の吐出口を有する面がキャリッジ102から下方へ突出して、搬送ローラ109対の間で記録媒体108と平行になるように保持される。インクカートリッジH1001は、各吐出口列の方向が前記キャリッジ102の走査方向に対して交差する方向になるようにキャリッジ102に搭載され、これらの吐出口列からインクを吐出して記録を行う。
【実施例】
【0107】
以下、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特に指定のない限り、インクを構成する各成分は「質量部」を意味する。
【0108】
<インクの調製>
下記表3及び表4に示す各成分を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターにて加圧濾過を行い、インクA〜Lをそれぞれ調製した。これらのインクA〜Lは何れも色材を1種類のみ含有するものである。
【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
<インクカートリッジの作製1及び評価>
図1の構成を有するインクカートリッジに、インクA〜Lをそれぞれ7.5g充填したインクカートリッジA〜Lを作製した。これらのインクカートリッジA〜Lは何れも色材を1種類のみ含有するインクを収容するものであり、本発明に該当しないものである。尚、インクカートリッジに付した記号は、インクの記号にそれぞれ対応する。
【0112】
上記で得られたインクカートリッジをそれぞれ、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP2200;キヤノン製)にセットして記録を行った。記録条件は、温度23℃、湿度55%、記録密度1200dpi×1200dpi、1ノズルあたりの吐出量5.0pLとした。そして、A4サイズの記録媒体(オフィスプランナー;キヤノン製)に、記録デューティを7.5%としたA4サイズの画像を20,000枚連続して記録して、記録耐久性試験を行った。尚、記録耐久性試験中にインクが不足した場合には、インクカートリッジの蓋を開けて対応するインクを充填して、記録耐久性試験を続けて行った。又、記録耐久性試験の途中で断線が発生した場合には、その時点で記録耐久性試験を停止した。
【0113】
(記録耐久性:記録のヨレやカスレ)
上記で得られた記録物を目視で確認して、記録のヨレやカスレの評価を行った。記録のヨレやカスレの評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:20,000枚の記録を行っても、記録のヨレやカスレが生じない
A:15,000枚以上19,999枚以下の記録を行うと、微少な記録のヨレやカスレが生じる
B:10,000枚以上14,999枚以下の記録を行うと、微少な記録のヨレやカスレが生じる
C:10,000枚の記録が終わる前に、記録のヨレやカスレが生じる。
【0114】
(記録耐久性:断線)
上記で得られた記録物における不吐出の状態を目視で確認して、断線の評価を行った。断線の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:20,000枚の記録を行っても、断線による不吐出が生じない
A:15,000枚以上19,999枚以下の記録を行うと、断線による不吐出が生じる
B:10,000枚以上14,999枚以下の記録を行うと、断線による不吐出が生じる
C:10,000枚の記録が終わる前に、断線による不吐出が生じる。
【0115】
(発熱部接液面の状態)
20,000枚の記録を行った後、光学顕微鏡で記録ヘッドの発熱部接液面を観察して、発熱部接液面の状態の評価を行った。尚、記録耐久性試験の途中で断線が発生した場合には、その時点で記録ヘッドの発熱部接液面を観察して、発熱部接液面の状態の評価を行った。発熱部接液面の状態の評価基準は以下の通りである。評価結果を表5に示す。
AA:堆積物や表面の異常が全く観察されない
A:堆積物や表面の異常が発熱部接液面の0%を越えて20%以下の領域で観察される
B:堆積物や表面の異常が発熱部接液面の20%を越えて80%以下の領域で観察される
C:堆積物や表面の異常が発熱部接液面の80%を越えて100%の領域で観察される。
【0116】
【表5】

【0117】
<インクカートリッジの作製2及びその評価>
図1の構成を有するインクカートリッジに、インクDを7.5g充填した。その後、前記インクカートリッジから5.0gのインクを排出した。その後更に、インクA〜Cをそれぞれ、前記インクカートリッジに5.0g充填して、実施例1〜3のインクカートリッジを作製した。実施例1〜3のインクカートリッジからインクを抜き取り、インク組成を分析した結果、下記表6に示す組成であることがわかった。又、実施例1〜3のインクカートリッジを用いて、上記と同様にして、記録耐久性:記録のヨレやカスレ、記録耐久性:断線、発熱部接液面の状態、の評価を行った。尚、記録耐久性試験中にインクが不足した場合には、インクカートリッジの筺体は変更せずに、上記の手順と同様にしてインクを充填したインクカートリッジを作製し、記録耐久性試験を続けて行った。評価結果を表7に示す。
【0118】
<インクカートリッジの作製3及びその評価>
図1の構成を有する各インクカートリッジに、インクA〜Cをそれぞれ7.5g充填した。その後、前記各インクカートリッジから5.0gのインクを排出した。その後更に、インクDを、前記インクカートリッジに5.0g充填して、実施例4〜6のインクカートリッジを作製した。実施例4〜6のインクカートリッジからインクを抜き取り、インク組成を分析した結果、下記表6に示す組成であることがわかった。又、実施例4〜6のインクカートリッジを用いて、上記と同様にして、記録耐久性:記録のヨレやカスレ、記録耐久性:断線、発熱部接液面の状態、の評価を行った。尚、記録耐久性試験中にインクが不足した場合には、インクカートリッジの筺体は変更せずに、上記の手順と同様にしてインクを充填したインクカートリッジを作製し、記録耐久性試験を続けて行った。評価結果を表7に示す。
【0119】
【表6】

【0120】
【表7】

【0121】
<インクカートリッジの作製4及びその評価>
図1の構成を有するインクカートリッジに、インクHを7.5g充填した。その後、前記インクカートリッジから5.0gのインクを排出した。その後更に、インクE〜Gをそれぞれ、前記インクカートリッジに5.0g充填して、実施例7〜9のインクカートリッジを作製した。実施例7〜9のインクカートリッジからインクを抜き取り、インク組成を分析した結果、下記表8に示す組成であることがわかった。又、実施例7〜9のインクカートリッジを用いて、上記と同様にして、記録耐久性:記録のヨレやカスレ、記録耐久性:断線、発熱部接液面の状態、の評価を行った。尚、記録耐久性試験中にインクが不足した場合には、インクカートリッジの筺体は変更せずに、上記の手順と同様にしてインクを充填したインクカートリッジを作製し、記録耐久性試験を続けて行った。評価結果を表9に示す。
【0122】
<インクカートリッジの作製5及びその評価>
図1の構成を有するインクカートリッジに、インクLを7.5g充填した。その後、前記インクカートリッジから5.0gのインクを排出した。その後更に、インクI〜Kをそれぞれ、前記インクカートリッジに5.0g充填して、実施例10〜12のインクカートリッジを作製した。実施例10〜12のインクカートリッジからインクを抜き取り、インク組成を分析した結果、下記表8に示す組成であることがわかった。又、実施例10〜12のインクカートリッジを用いて、上記と同様にして、記録耐久性:記録のヨレやカスレ、記録耐久性:断線、発熱部接液面の状態、の評価を行った。尚、記録耐久性試験中にインクが不足した場合には、インクカートリッジの筺体は変更せずに、上記の手順と同様にしてインクを充填したインクカートリッジを作製し、記録耐久性試験を続けて行った。評価結果を表9に示す。
【0123】
【表8】

【0124】
【表9】

【0125】
上記の評価結果から、発熱部を有する記録ヘッドを備えたインクカートリッジや、前記インクカートリッジのインク収容部に収容されるインク、更にはインクカートリッジの作製方法について、以下のことがわかる。
【0126】
先ず、インクカートリッジA〜Cの評価結果から、以下のことがわかる。即ち、インクがC.I.アシッドブルー9や銅フタロシアニン構造を有する化合物を色材として含有する場合、連続して記録を行うと発熱部接液面に堆積物が発生し、その結果、記録のヨレやカスレが発生して、記録耐久性が低下する。
【0127】
一方、実施例1〜6のインクカートリッジ及びその作製方法の評価結果から、インク収容部に収容されたインクや、インクカートリッジの作製方法により得られたインクについて、以下のことがわかる。即ち、前記インクや前記得られたインクが、一般式(I)で表される化合物並びにC.I.アシッドブルー9や銅フタロシアニン構造を有する化合物を含有する場合、発熱部接液面の損傷や断線、堆積物の発生を抑制することができ、記録耐久性が向上する。特に、インクが一般式(I)で表される化合物並びにC.I.アシッドブルー9や銅フタロシアニン構造を有する化合物を0.4以上1.0未満の比率で含有する実施例1〜3は、発熱部接液面が殆んど損傷せず、記録ヘッドの長寿命化が達成される。
【0128】
又、インクカートリッジE〜H、並びに実施例7〜9のインクカートリッジ及びその作製方法の評価結果から、インクが含有する多価カルボン酸の影響について、以下のことがわかる。即ち、前記インクや前記得られたインクが多価カルボン酸を含有しない場合、記録耐久性試験を行うと、記録のヨレやカスレが発生する。一方、前記インクや前記得られたインクが多価カルボン酸を含有する場合、記録耐久性試験を行っても、記録のヨレやカスレの発生を顕著に抑制することができる。
【0129】
更に、インクカートリッジI〜L、並びに実施例10〜12のインクカートリッジ及びその作製方法の評価結果から、インクが含有する多価カルボン酸の含有量の影響について、以下のことがわかる。即ち、前記インクや前記得られたインクがある一定量以上の多価カルボン酸を含有すると、発熱部接液面が損傷し、断線が起こる場合がある。このため、インク中の多価カルボン酸の含有量は所定の範囲にすることが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】インクカートリッジの斜視図である。
【図2】インクカートリッジの分解図である。
【図3】記録素子基板の斜視図である。
【図4】記録ヘッドのノズル構造の概略を示す模式図である。
【図5】記録ヘッドの一部を示す断面図である。
【図6】インクジェット記録装置を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
H1001 インクカートリッジ
H1101 記録素子基板
H1102 吐出口列
H1103 電気熱変換素子
H1104 電極部
H1105 バンプ
H1106 インク流路壁
H1107 吐出口
H1108 吐出口
H1110 シリコン基板
H1201 インク供給口
H1301 電気配線テープ
H1302 外部信号入力端子
H1303 開口部
H1304 電極端子
H1307 第1の封止剤
H1308 第2の封止剤
H1501 インク供給保持部材
H1560 装着ガイド
H1570 X突き当て部
H1580 Y突き当て部
H1590 Z突き当て部
H1601 インク吸収体
H1602 インク吸収体
H1603 インク吸収体
H1701 フィルタ
H1702 フィルタ
H1703 フィルタ
H1801 シール部材
H1901 蓋部材
H1911 圧力変動調整口
H1912 圧力変動調整口
H1913 圧力変動調整口
H1921 微細溝
H1922 微細溝
H1923 微細溝
H1930 蓋係合部
H2101 シリコン基板
H2102 蓄熱層
H2103 層間層
H2104 発熱抵抗層
H2105 金属配線層
H2106 保護層
H2107 発熱部
H2108 流路形成部材
H2109 吐出口
H2110 液室
H2111 共通液室
H2112 ノズル部
102 キャリッジ
103 ガイドシャフト
104 主走査モータ
105 モータプーリ
106 従動プーリ
107 タイミングベルト
108 記録媒体
109 搬送ローラ
130 ホームポジションセンサ
131 ピックアップローラ
132 オートシートフィーダ
133 ペーパーエンドセンサ
134 LFモーター
135 給紙モータ
136 遮蔽版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジであって、
前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、
前記インクが少なくとも色材を含有し、前記色材が、下記一般式(I)で表される化合物、並びに、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするインクカートリッジ。
一般式(I)
【化1】

(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
【請求項2】
前記インク中の、前記一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)と、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)の比率が、0.40以上1.00未満である請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記インクが多価カルボン酸又はその塩を含有してなり、且つ、前記インク中の多価カルボン酸又はその塩の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.001質量%以上0.012%質量%である請求項1又は2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記多価カルボン酸又はその塩が、クエン酸又はその塩である請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
前記銅フタロシアニン構造を有する化合物が、C.I.ダイレクトブルー86又はC.I.ダイレクトブルー199である請求項1乃至4の何れか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジであって、
前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、
前記インクが、色材として下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを収容してなるインク収容部に、色材としてC.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するインクを充填することにより得られたインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
一般式(I)
【化2】

(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
【請求項7】
前記得られたインク中の、前記一般式(I)で表される化合物の含有量(質量%)と、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含有量(質量%)の比率が、0.40以上1.00未満である請求項6に記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
前記得られたインクが、多価カルボン酸又はその塩を含有してなり、且つ、前記得られたインク中の多価カルボン酸又はその塩の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.001質量%以上0.012%質量%である請求項6又は7に記載のインクカートリッジ。
【請求項9】
前記多価カルボン酸又はその塩が、クエン酸又はその塩である請求項6乃至8の何れか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項10】
前記銅フタロシアニン構造を有する化合物が、C.I.ダイレクトブルー86又はC.I.ダイレクトブルー199である請求項6乃至9の何れか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項11】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱部が設けられた記録ヘッドを備えたインクカートリッジを作製するインクカートリッジの作製方法であって、
前記発熱部が、前記インクと接する面に、珪素酸化物、珪素窒化物、及び珪素炭化物のいずれかひとつを少なくとも含む保護層を有してなり、
色材として下記一般式(I)で表される化合物を含有するインクを収容してなる前記インク収容部に、色材として、C.I.アシッドブルー9及び銅フタロシアニン構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するインクを充填することを特徴とするインクカートリッジの作製方法。
一般式(I)
【化3】

(一般式(I)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、l、m、nはそれぞれ、l=0乃至2、m=1乃至3、n=1乃至3、但し、l+m+n=2乃至4であり、銅フタロシアニンが少なくとも1つのベンゼン環の3位及び3’位の少なくとも一方に置換基を有する。)
【請求項12】
インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項13】
インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項6乃至10の何れか1項に記載の得られたインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−284810(P2008−284810A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133033(P2007−133033)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】