説明

インクジェットインキ

【課題】市場に流通する卵として赤玉卵が急増しているため、従来のインクジェットプリンタで赤玉卵に印字する場合でも、白玉卵の場合と同様に十分な視認性を有するインクジェットインキが要求されている。
【解決手段】このインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、ヒドロキシプロピルセルロースと、水とを含んでなるものである。さらに、プロピレングリコールやシリコン化合物を含んでいてよい。あるいは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいても構わない。このインクジェットインキを用いて赤玉卵に印字すると、図1(b)に示すように視認性の良い印字が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻をはじめとするカルシウム塩含有材料に対して好適に印刷するインクジェットプリンタ用のインキに係り、更に詳しくは、卵殻表面が赤みを帯びた、いわゆる赤玉卵でも鮮明な印刷が得られるインクジェットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面が曲面になっているもの、表面が柔らかいもの、あるいは、不定形なものに印刷を施すために、インクジェットプリンタが使用されている。かかるインクジェットプリンタは非接触にて印刷が可能なため、また、高速にて可変情報の印刷が可能であるため、生産ロットの管理、賞味期限の表示等、種々の用途に利用されている。
また、食品類のトレーサビリティーへの関心の強まりから、近年、卵や果物等への印字が注目されており、特に個々の卵殻表面に賞味期限や生産者関連情報等を直に印字して消費者への安全衛生に関わる情報を提供するシステムも具現化されている。
【0003】
このようなシステムに使用されるインクジェットプリンタとしては、ノズルから連続的にインキを吐出し、印字に必要なインキ滴の飛行方向を帯電偏向させて被印刷物に当て、印字に用いないインキ滴は直進させガターで回収して循環再使用する連続方式のプリンタが知られている。この連続式のインクジェットプリンタにおいては、以下のような特性のインキが要求される。すなわち、インキの乾燥性が良好であること。印字を構成する印刷ドットに滲みを生じないこと、印字部分の耐水性、密着性、および耐擦過性がよいこと、プリンタのノズルに目詰まりを生じず吐出安定性がよいこと、インキ物性の保存安定性がよいこと等である。
【0004】
そこで、上記した卵殻に印字を行なうためのインクジェットインキについては数多くの提案がなされている。
例えば、下記の特許文献1には、水、アルコール系溶剤、モルホリン、セラック樹脂、鉄クロロフィリンナトリウム等を含むインキが開示されている。しかしながら、このインキには、食品添加物として認可されていないモルホリン等が含まれているので、食品衛生法上、食品への直接使用は認められないと考えられる。
また、下記の特許文献2には、水、アルギン酸ナトリウム、鉄クロロフィリンナトリウム等を含む卵殻用のグリーンインキが開示されている。このインキは、卵殻が白い、いわゆる白玉卵への印字用として開発されたものであり、白色卵殻の表面に茶緑色のくっきりとしたドットとして印刷される。しかしながら、卵殻が赤みを帯びている、いわゆる赤玉卵の卵殻上に、このインキを印字した場合、下地となる赤み部分が印字部分から透けて見える。これによって、印字部分で表される文字を識別できない、すなわち視認性が低い場合が多かった。そのために、白い卵に対して専ら使用されていたのである(後述する図2(a),(b)および比較例2参照)。
【0005】
そして、このように低い視認性を補うものとして下記の特許文献3に、コーリャンやシタン等の顔料を用いたブラウン色のインキが開示されている。しかしながら、このインキは、アルコールを主体とするインキ媒体を含んでいるため、印字部分であるドットに滲みが生じやすく、水を主体とする媒体を用いたインキのようにドットのくっきりした印字部分が得られにくいという問題がある(後述する図3(a),(b)および比較例4参照)。すなわち、そのような滲みを少なくするためには、ドライヤー等の併用を必要とする。
また、下記の特許文献4には、木炭等の顔料を使用したインキが開示されている。ところで、卵については冷蔵庫等で出し入れの機会が多いので、出し入れの際の温度変化により生じる水滴や、濡れた手による取り扱いによって、印字部分の顔料成分が手に付着して手を汚すことが懸念される。また、インキ中の顔料粒子を安定に分散させるためにプリンタ内部に攪拌機構が必要になるという懸念もある。
【0006】
さらに、下記の特許文献5には、コチニール、ウコン、コウリャン等の天然色素とカルボキシメチルセルロースを用いたインキが示されている。しかしながら、このようなインキも、色素の着色力が比較的弱いことから、赤玉卵上に印刷されたフォントが視認性のよいものであるとは言いがたい。また、印字後に水に接するとフォントを構成している色素が流れやすかった。
また、下記の特許文献6,7には、鉄または銅クロロフィリンアルカリ金属塩、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、カラギーナンを用いるインキが開示されているが、色素濃度の濃いインキは開示されていない。また、これらのインキにおいては、鉄または銅クロロフィリンアルカリ金属塩を水に溶解させたときに泡が大量に発生する問題や、経時により安定性の低下が懸念される。
【0007】
【特許文献1】特公昭60−31871号公報
【特許文献2】特許3155732号公報
【特許文献3】特開2006−291061号公報
【特許文献4】特開2007−126583号公報
【特許文献5】特開平11−172167号公報
【特許文献6】特開2001−031897号公報
【特許文献7】特許3235981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムは、カルシウム塩含有材料の表面に対して強固な親和性を示す水溶性色素であり、防黴性および抗菌性も認められる。したがって、これらの色素を含むインキが卵殻表面に印字されて乾燥すると、印字後の卵が水に浸漬されたり熱水にて煮沸されても、前記の色素が溶出することがなく耐水性、耐摩擦性は非常に良好である。また、連続式のインクジェットプリンタで連続運転する場合でも、インキにて黴の発生が抑制されるため、黴に起因するノズルの目詰まり等を起こしにくい。
【0009】
従来、鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムは、それぞれ単独でまたは併用で、インキ全体の約1.0〜2.5重量%の範囲で使用されることが好ましいとされてきた。そして、インキ全体の1.5重量%での使用が特許文献2の実施例等で採用されている。すなわち、これらの色素をインキ全体の2.5重量%も含有しているインキであれば、白玉卵に関しては卵殻表面の印字が十分な視認性をもたらすものであった。
しかしながら、近年、市場に流通する卵として赤玉卵が急増しているため、従来のインクジェットプリンタで赤玉卵に印字するにあたり、白玉卵の場合と同様の視認性や印字品位が要求されている。
【0010】
このような赤玉卵用のインキについて、色素の含有量を増加させることにより視認性の向上化を図ろうとする試みは当然になされる。ところが、前記した色素は水中での発泡性がもともと高い。そのために、前記色素の含有量を増加させようとしても、さらに大量の泡を発生するおそれがあり、連続式のインクジェットプリンタでガターから吸引されるインキ回収系において、インキ回収不能のトラブルを生じることが考えられる。また、インキ循環系の配管内での管閉塞を起こすおそれもある。
このような観点から、この色素の含有量は上限が2.5重量%程度に留まらざるを得ず、このため、赤玉卵表面に印刷されたフォントの視認性を十分に有するインキとはならなかったのである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記した従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、色素として用いる鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムを、支障を生じさせることなく、従来の約2倍量程度含有させることに成功し、これによって、いわゆる赤玉卵においても十分な視認性を有するインクジェットインキを実現できたのである。
【0012】
すなわち、本発明に係るインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、ヒドロキシプロピルセルロースと、水とを含んでなることを特徴とするインクジェットインキである。
【0013】
また、分子量が10万以上40万以下のヒドロキシプロピルセルロースを用いることを特徴とするものである。
【0014】
そして、プロピレングリコールを含むことを特徴とするものである。
【0015】
さらに、シリコン化合物を含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、3〜6重量%の鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、0.01〜0.5重量%のヒドロキシプロピルセルロースと、0〜20重量%のプロピレングリコールと、0.0001〜0.1重量%のシリコン化合物と、残量の水とを含んでなることを特徴とするものである。
【0017】
そして、シリコン化合物が、ポリジメチルシロキサン、または、ポリジメチルシロキサンとシリカ微粒子とを含んでなるシリコンコンパウンドであることを特徴とするものである。
【0018】
さらに、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とするものである。
【0019】
また、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルの全てを含むとともに、シリコン化合物:ソルビタン脂肪酸エステル:グリセリン脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸エステルの含有重量比が100:7〜15:2〜5:1〜2.5であることを特徴とするものである。
【0020】
そして、3〜6重量%の鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、0〜20重量%のプロピレングリコールと、残量の水とを含んでなり、前記成分以外の成分である、ヒドロキシプロピルセルロース、シリコン化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルの含有率合計が0.05重量%以上0.5重量%以下であるインクジェットインキである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインクジェットインキはセラックのような樹脂を含有せず、ごく微量のヒドロキシプロピルセルロースを含むものであるため、インキ粘度を所定レベルまで増加し得るのは無論のこと、色素濃度増加に伴う溶解性の低下を招くことがない。また、色素濃度増加にともなうインキ流動性の低下や、インキの発泡の増加を抑えることが可能となり、プリンタでのインキ循環回収によるトラブルを解消することができる。これにより、支障を生じることなく印字濃度を高くすることができ、赤玉卵においても視認性のすぐれた印字が可能となる。尚、ヒドロキシプロピルセルロースとして分子量の高いものを使用すると、少量の添加でインキの粘度を大きく高めることができる。これにより、インキの発泡も抑えられる。
【0022】
また、本発明のインクジェットインキは防黴性を有しているため、プリンタのノズルの目詰まりを起こすことがなく長期間連続して印字できる。本発明のインクジェットインキは卵殻に印字してもドットの滲みがなく速乾性を有する。また、本発明のインクジェットインキは卵殻表面に強固に染着するので、水または熱湯中に浸しても殆ど溶出しない印字部分が得られる。本発明のインクジェットインキは、食品に用いることのできる食品添加物のみで全てが構成されているため、食品への印字に全く問題を生じない。また、インクジェットインキは水溶性のインキでありながら乾燥後は耐水性を有しており、赤玉卵に対しても視認性にすぐれた印字を形成することができ、この印字は光学的に読み取ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係るインクジェットインキは、食品である例えば卵の卵殻表面に直に付されるため、その構成成分は全て食品衛生法に基づく食品添加物として認可されたものが使用されている。
そのうち、色素として用いる鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムはインキ全体の3.0〜6.0重量%の範囲、すなわち、従来の約2倍量程度含有して使用される。この場合、視認性を確実なものとする観点から色素の含有量はインキ全体の4.0〜6.0重量%とするのが好ましい。色素の含有量が3重量%よりも少ないと、赤玉卵の卵殻表面での印字濃度が不十分になって視認性が不足する。一方、色素の含有量が6重量%を越えても視認性はそれ以上向上しないうえ、インキの安定性が低下する傾向にあり、色素コストに関する経済性も低下する。これらの鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムは1種単独で使用してよく、あるいは双方を併用しても印字性能は変わらない。
【0024】
本発明に用いるヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと略称することがある)は、一般には、天然に広く存在するパルプなどのセルロースを原料とし、これを水酸化ナトリウムで処理した後、プロピレンオキサイド等のエーテル化剤と反応して得られる非イオン性の水溶性ポリマー(セルロースエーテル)として知られており、欧米では食品添加物として、糊料、乳化剤、フィルム形成剤、安定剤などに使用されている。近年、我が国でも製造用剤として食品衛生法第10条の規定に基づく食品添加物として認可されている。かかるヒドロキシプロピルセルロースは、セルロース誘導体のなかでも、臭いがなく、生理的に無害であり、化学的に不活性である。また、水および有機溶剤の両者に可溶である。さらに、フィルム形成性、結合性、増粘性、分散性、エマルション安定性等の種々の特性を有し、水に対する発泡性が小さい。
【0025】
本発明に用いるヒドロキシプロピルセルロースは、ヒドロキシプロポキシ基の含有率が80.5重量%以下で、且つ、プロピレンクロルヒドリンの含有量が1.0μg/g以下であるものが望ましい。特に、水に極少量溶解させるだけでもインキの粘度を上昇させる作用をし、印字後に定着させる作用を呈するものであることから、ヒドロキシプロピルセルロースを、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと併用することにより、濃度の濃い印字が可能となる。ヒドロキシプロピルセルロースは、セルロース誘導体の中でも、水および溶剤の双方に溶解する特長を有するものであり、極微量の使用であっても効果をもたらすので、他の水溶性樹脂と異なり、インクジェットプリンタのノズル周辺に堆積や析出を生じにくく、連続式のインクジェットプリンタで連続運転する場合にも、ノズル目詰まりの発生を抑止する。
また、ヒドロキシプロピルセルロースは、上記のような優れた特性以外に、他のセルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などと比べて、少量使用においても所望の粘度調整を十分に果たすことができ、また少量使用においても定着性に関する効果が十分に得られる。そして、前記したような粘度調整のための使用量の低減化ができることにより、他のセルロース誘導体と比べると、水溶液自体の発泡の程度を低く抑えることができる。すなわち、かかるヒドロキシプロピルセルロースは、インキ全体の0.05〜1重量%の範囲で含まれることが好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.1重量%である。ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が0.05重量%より少ないと、適度な粘度のインキが得られないためにプリンタでの印字レンジの調整が不充分となり、更には印字のドット表面の滑らかさに欠けることとなる。一方、ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が1重量%を越えると、インキの粘度が高くなりすぎるため、ノズルからの吐出性能が悪くなって印字品位が低下する。
【0026】
かかるヒドロキシプロピルセルロースとしては、色素である、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムの配合量を増量し印字濃度の増加を図るために、分子量として10万〜40万のものが、少量の配合にて大きな効果を発揮できるので好ましい。因みに、かかる分子量分布のヒドロキシプロピルセルロースは、2重量%濃度にしたヒドロキシプロピルセルロース水溶液の粘度が2000〜4000mPa・s(20℃)となるものに相当する。
尚、本発明でいう分子量は、下記するMark-Houwink-桜田(マーク・フウィンク・桜田)の式(1)を用いて、極限粘度(測定値)から算出したものである。
[η]=KMα ・・・(1)
式中、[η]:極限粘度、M:分子量、K:被測定物質固有の定数、α:被測定物質固有の定数である。定数Kおよび定数αは被測定物質ごとに予め知られている。極限粘度[η]は、溶媒の粘度と、被測定物質の濃度の異なる複数の溶液の粘度を測定し、複数の粘度測定値から外挿して得られる。
前記の分子量が10万を下回るヒドロキシプロピルセルロースを用いると、インキ全体粘度の調整においてヒドロキシプロピルセルロースの配合割合を増加させなければならないので、色素分の溶解度の低下を余儀なくさせることとなり、ひいてはインキの安定性を不足させるおそれがある。一方、分子量が40万を超えるヒドロキシプロピルセルロースを用いると、ヒドロキシプロピルセルロース自体の粘性が高すぎるために、水で希釈して水溶液を調整する作業が困難になる場合があり、作業効率の低下を生じることが懸念される。
尚、ヒドロキシプロピルセルロース自体は発泡させやすいものでない。因みに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとカルボキシメチルセルロースはもともと粘度が低いので、多量に添加しなければならないために、色素分の増量化を図ることが困難であり、調製したインキも発泡しやすくなる。また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースのうち比較的分子量の大きいものは、粘度増加への期待があるものの、分子量が大きくなると色素との相溶性が一部低下し、色素の溶解性がヒドロキシプロピルセルロースに比べると悪くなる。
【0027】
そして、本発明のインクジェットインキには、ノズルでのインキの乾燥を防止するために、プロピレングリコールを、インキ全体の0〜20重量%の範囲で含有させることができる。プロピレングリコールを使用しないインキも本発明に含まれるが、プロピレングリコールを使用すると、より好ましい。その場合、プロピレングリコールの含有量が1重量%より少ないと、乾燥防止効果が不十分でノズル部でのインキの乾燥による目詰りの原因となる。一方、含有量が20重量%を越えると印字部分の乾燥が遅くなり、卵収納用の容器等を汚染する原因となる。このプロピレングリコールも、水性のインキ中においては防腐効果が認められる材料であり、このような防腐効果も考慮すると、インキ中の含有量はインキ全体の10〜15重量%程度とすることが望ましい。
【0028】
本発明のインキの媒体である水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水または蒸留水を用いる。水は他のインキ構成成分を除く残りの一成分となるが、インキ全体の80〜99.85重量%の範囲で使用される。因みに、水道水は含有するカルシウムイオンなどがインキの成分と化合して沈降分離するので、インキの貯蔵安定性が悪くなりインキ媒体としては使用できない。
【0029】
上記したように、本発明のインクジェットインキにおいては、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムを、視認性向上の目的で従来の約2倍程度の濃度範囲で使用できるようにヒドロキシプロピルセルロースを使用してあり、これらの色素の高濃度使用によるプリンタ内でのトラブルを一応防止できることを確認した(後述の実施例13)。そこで、さらにプリンタ内でのトラブルを確実に防ぐため、シリコン化合物を用いることが望ましい。
かかるシリコン化合物としては、例えばポリジメチルシロキサン単独、このポリジメチルシロキサンとシリカ微粒子との混合により得られるペースト状のシリコンコンパウンドなどが挙げられる。前記のポリジメチルシロキサンとしては、動粘度が100〜1100mm2/s(20℃)であるものが使用される。
【0030】
前記のシリコンコンパウンドに用いるシリカ微粒子としては、BET法により測定される比表面積が50m2/g以上、好ましくは300〜700m2/gであり、粒子径が5〜6000nmである微粒子のものが好ましい。前記の粒子径が6000nmよりも大きいと、分散安定性が悪くなって沈降分離したり、更にはプリンタ内部のフィルタで詰まりを生じやすくなる。
また、シリカ微粒子はシリコンコンパウンド全体の10〜15重量%の含有量で使用することが好ましい。シリカ微粒子の含有量が10重量%よりも少なければ、消泡効果を高めるポリジメチルシロキサンとの相乗作用が効きにくくなる。一方、シリカ微粒子の含有量が15重量%を超えると、コンパウンド調製時の加熱作業や混合作業に係る作業性が低下する。これらのシリコン化合物は、元来泡を発生しやすい鉄クロロフィリンナトリウムと銅クロロフィリンナトリウムの高濃度の溶液においても、泡の発生を抑えてプリンタ内でのインキ回収に伴うトラブルを防ぐ。また、配管系内でのインキの流動性を高め、配管系の特に口径が狭くなる部分でのインキの流動性も向上させる。これらのポリジメチルシロキサンとシリカ微粒子は食品に対して使用できる材料として食品衛生法で認定されている。
【0031】
そして、上記のように添加したシリコン化合物に対する分散性を向上させるため、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、シリコン化合物の分散性の向上と、インキの配管系での流動性の改善を図り、表面張力調整、シリコン分散安定性、および消泡効果の永続性を維持する。これにより、色素の高濃度化を図ることができ、本来、色素高濃度化によりさらに発泡性が増加するはずであったインキでありながら、インクジェットプリンタ内での安定したインキ回収、循環、インキ配管内流動性を維持することができる。
【0032】
前記したソルビタン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素原子数12〜18であるものがシリコン化合物に対する乳化特性を向上する上で好ましい。また、ソルビタン脂肪酸エステルのHLBは3〜10が好ましい。このようなソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えばソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタンジラウレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタントリラウレート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等が挙げられる。
【0033】
また、前記のグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素原子数12〜18であるものがシリコン化合物に対する乳化特性を向上する上で好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えばモノステアリン酸グリセリンエステル、モノオレイン酸グリセリンエステル、モノラウリン酸グリセリンエステル等が挙げられる。なお、グリセリン脂肪酸エステルのHLBは5〜20であることが好ましく、特に10〜20であることが分散安定性の観点からいっそう好ましい。
【0034】
一方で、ソルビタン脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルは親油性であるため、水を主体とするインキ媒体中で分離する可能性がある。そこで、このような分離を親水性コロイドとして安定化させるショ糖脂肪酸エステルを使用することにより、シリコン化合物の消泡性の向上と、消泡性向上効果の永続性が高められる。このショ糖脂肪酸エステルはショ糖が有する1個以上の水酸基を脂肪酸でエステル化して得られるが、このショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては炭素原子数8〜20であるものが優れた可溶性、乳化性、分散性をもたらすことから好ましい。本発明ではインキの特性を損なわない限り、公知の全てのショ糖脂肪酸エステルを使用可能であり、1種単独に限らず、異なる2種以上を組み合わせて配合することも可能である。
【0035】
上記した、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルは、これらの組み合わせにおいて格別な安定性、長期の効果永続性を担保するため、それぞれの配合量を、インキ全体の0.00001〜0.05重量%という、少量に限定して用いることが肝要である。
また、上記のシリコン化合物:ソルビタン脂肪酸エステル:グリセリン脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸エステルは、それぞれの重量比を100:7〜15:2〜5:1〜2.5とする混合系にして用いると、流動性、消泡性の効果が十分発揮される。また、シリコン化合物の安定した分散と、長期にわたり良好な流動性、消泡性が維持されて、プリンタでの安定した良好な印字特性が保持される。
【0036】
尚、印字濃度を増加させるためにインキ中の色素固形分を増量させたが、この色素固形分の増量に伴い、他の成分のインキ中での溶解分を減量させなければならないため、他の溶解性成分の配合量を極力少なくする必要がある。このため、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム、プロピレングリコールおよび水以外の成分である、ヒドロキシプロピルセルロース、シリコン化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルの含有率合計を、インキ全体の0.05〜0.5重量%、さらに好ましくは、0.05〜0.2重量%とすることが望ましい。
前記した成分のように、インキ中での含有量を微量に限定することにより、インキからの水分の揮散によるインキ粘度の上昇が非常に起こりにくい組成となる。従って、連続式インクジェットプリンタ内での希釈液による希釈調整の回数が少なくて済むという効果を奏する。
【0037】
また、本発明のインクジェットインキは、色素濃度を増加させたものであり、本質的に十分な色と濃度を有しているが、さらに色の調整を行うために、卵殻表面に対して強固な親和性を示す他の食用色素を加えても構わない。かかる食用色素としては、例えばノルビルキシンカリウム、ノルビルキシンナトリウム、水溶性アナトー、クロロフィル、コウリャン、ベニコウジ、コチニール、クチナシ色素等が挙げられる。前記の食用色素は、1種単独でまたは複数種を組み合わせて使用できるが、これらはインキ全体の0.01〜1重量%の範囲で含有させることが望ましい。
【0038】
本発明のインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、水、およびシリコン化合物を混合攪拌して製造される。原料の混合攪拌は、通常の羽根を具備した攪拌機のほか、高速の分散機、乳化機により行うことが可能である。全原料の混合攪拌後は、開目0.2〜3.0μmのフィルタで濾過することにより、本発明のインクジェットインキが出来上がる。
【0039】
このインキの製造において、ヒドロキシプロピルセルロースについては、予め0.1重量%〜1重量%程度の水溶液を調製しておいて、この水溶液をインキの調製時に用いる方法が定量管理を行なううえで好ましい。また、シリコン化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルについても、好ましくは、予め水とともに混合乳化分散させてエマルション化し、さらに水で希釈して用いることが好ましい。
このようなシリコン化合物のエマルション化においては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルの併用に加え、ショ糖脂肪酸エステルを添加することが、乳化の安定化、親油性の脂肪酸エステルの分離防止に著しい効果を発揮し、長期的な消泡効果の持続をもたらす。これらの脂肪酸エステルとシリコン化合物は、必要量を少量とするため、希釈品にして用いるほうが精密な量管理が可能であり、添加量の過剰や不足を避けることができる。
【0040】
本発明のインクジェットインキの20℃における粘度は、プリンタでの適切な印字可能領域を広げるため、1.3〜4.5mPa・sの範囲に調整することが好ましい。インキ粘度が1.3mPa・sよりも低いと、卵殻表面でのインクのドットの形成が不良となるうえ、印字濃度が薄くなる。一方、インキ粘度が4.5mPa・sよりも高いと、インキ滴の吐出不良や印字後の乾燥不良の問題が生じる。また、本発明のインクジェットインキの20℃における表面張力は、プリンタとの適性もあるが、30〜50mN/cmの範囲に調整することが好ましい。
【0041】
本発明に係るインクジェットインキを用いて卵殻表面に印刷を行なう場合は、食品衛生上の観点から卵殻に非接触で印字する方式のプリンタ装置が使用される。かかる方式のプリンタ装置としては、ノズルからインキを噴出して印字するインクジェットプリンタが挙げられる。かかるインクジェットプリンタとしては、連続インク噴射方式(多値偏向、2値偏向)、ドロップオンデマンドインク噴射方式(ピエゾ方式、バブルジェット(登録商標)方式、電磁弁方式など)などのものが挙げられるが、高速での印字および卵殻のような曲面および柔軟な表面への印字は、連続インク噴射方式が適している。
【0042】
そして、本発明のインクジェットインキが使用されるインクジェットプリンタのノズル孔径は、インキの印字濃度を高くする観点から50μmφ以上とすることが好ましいが、印字文字数が卵の大きさにて制限されるため、40〜80μmφであることが望ましい。
【0043】
このように、本発明に係るインクジェットインキは、白玉卵に対しては更なる印刷濃度の向上が認められて使用になんら支障が生じるものでないうえ、赤玉卵に対しては、いままで考えられなかったような黒味の良好な視認性のある印字が実現できる。また、耐水、耐熱水性の特性は色素濃度が薄いときにも得られていたが、色素濃度の増加があっても維持される。そして、このような本発明のインキにて、いわゆる下地の赤茶(肌色様)と、インキの深い緑色とにより、ほぼ黒色に視認させるドットでくっきりとした印字が形成された赤玉卵が得られたのである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
[実施例1]
本実施例のインクジェットインキを調製するにあたり、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液の調製、シリコンコンパウンドの調製、並びに、シリコンコンパウンドおよび分散剤の乳化処理を行なった。
まず、「ヒドロキシプロピルセルロース水溶液の調製」として、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製、製品名:セルニーH、分子量(極限粘度の測定値から算出した):25万〜40万、2重量%水溶液の粘度:3270mPa・s(20℃))1重量部と、精製水199重量部とを攪拌機付き容器中で3時間混合し溶解させて0.5重量%濃度のヒドロキシプロピルセルロース水溶液(以下、0.5%HPC水溶液と略称する)を得た。極限粘度(固有粘度)は毛細管粘度計にて測定した。その他の水溶液およびインキの粘度は、TOKI SANGYO CO,LTD.の回転式粘度計(型式RE-80L)にて測定した。
【0045】
次に、「シリコンコンパウンドの調製」として、動粘度500 mm2/sのポリジメチルシロキサン85重量部と、BET法比表面積600m2/gのシリカ微粒子15重量部とを混合し、150℃で1時間加熱撹拌し分散させてペースト状のシリコンコンパウンドを得た。
【0046】
続いて、「シリコンコンパウンドおよび分散剤の乳化処理」として、上記シリコンコンパウンド240重量部に、ソルビタン脂肪酸エステルとしてのソルビタンモノオレート24重量部、グリセリン脂肪酸エステルとしてのモノオレイン酸グリセリンエステル8重量部、並びに、モノステアリン酸エステル、ジステアリン酸エステルおよびトリステアリン酸エステルの混合系であるショ糖脂肪酸エステル4重量部を、精製水724重量部とともに混合した後、ホモミキサーにより3000rpmで30分乳化させて乳濁色の分散物とした。さらに、この分散物を水で10倍希釈して乳化液を得た。
【0047】
そして、「インキの調製」は、ステンレス容器に、精製水72重量部、プロピレングリコール13.9重量部、および鉄クロロフィリンナトリウム5.1重量部を仕込み、プロペラ攪拌機にて混合溶解させた後、0.5%HPC水溶液11.4重量部を加えて混合した。さらに、上記のシリコンコンパウンドなどを含む乳化液1重量部を添加して攪拌し黒緑色の液を得た。この黒緑色の液を開目1.0μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。
尚、後述する実施例2,3,4,8,10,11,12,13の濾過処理についても開目1.0μmのフィルタを使用し、実施例5,6,7,9については開目3.0μmのフィルタを使用した。
【0048】
[実施例2]
シリコンコンパウンドとして、動粘度700mm2/sのポリジメチルシロキサン88重量部と、BET法による比表面積700m2/gのシリカ微粒子12重量部とを加熱処理して得たものをインキ全体の0.003重量%用い、更にそれぞれインキ全体量のうち、14重量%のポリプロピレングリコール、0.0003重量%のソルビタンモノラウレート、0.00008重量%のモノパルミチン酸グリセリンエステル、および0.00006重量%のショ糖脂肪酸エステルを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0049】
[実施例3]
シリコンコンパウンドとして、動粘度700mm2/sのポリジメチルシロキサン87重量部と、BET法による比表面積700m2/gのシリカ微粒子13重量部とを加熱処理して得たものをインキ全体の0.04重量%用い、更にそれぞれインキ全体量のうち、5.2重量%の鉄クロロフィリンナトリウム、13.5重量%のプロピレングリコール、0.004重量%のソルビタンモノラウレート、0.001重量%のモノステアリン酸グリセリンエステル、および、ショ糖脂肪酸エステルとして0.0006重量%のモノステアリン酸エステルを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0050】
[実施例4]
色素として、鉄クロロフィリンナトリウムに替えて、銅クロロフィリンナトリウムをインキ全体の5.5重量%用い、更にそれぞれインキ全体量のうち、10.9重量%の0.5%HPC水溶液、0.004重量%のシリコンコンパウンド、0.0004重量%のソルビタンモノラウレート、0.0001重量%のモノステアリン酸グリセリンエステル、および0.00006重量%のモノステアリン酸エステルを用いたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0051】
[実施例5]
シリコンコンパウンドとして、動粘度500mm2/sのポリジメチルシロキサン85重量部と、比較的粒子径が大きな、平均粒子径5μmのシリカ微粒子15重量部とを加熱処理して得たものを用い、シリコンコンパウンド、ソルビタン脂肪酸エステル、およびグリセリン脂肪酸エステルの配合量を実施例1の1/10とし、ショ糖脂肪酸エステルを使用しないこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。尚、シリカ微粒子の粒径分布および平均粒径は、粒度分布測定装置(日機装製のマイクロトラックMT3200II)を用いて測定した。
【0052】
[実施例6]
シリコンコンパウンドとして、動粘度500mm2/sのポリジメチルシロキサン85重量部と、平均粒子径5μmのシリカ微粒子15重量部とを加熱処理して得たものを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0053】
[実施例7]
シリコンコンパウンドとして、動粘度500mm2/sのポリジメチルシロキサン85重量部と、平均粒子径5μmのシリカ微粒子15重量部とを加熱処理して得たものをインキ全体の0.004重量%用い、更にそれぞれインキ全体量のうち、0.0004重量%のソルビタンモノラウレート、0.0001重量%のモノステアリン酸グリセリンエステル、および0.00006重量%のモノステアリン酸エステルを用いたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0054】
[実施例8]
銅クロロフィリンナトリウムに替えて、鉄クロロフィリンナトリウムをインキ全体の5.5重量%用い、ショ糖脂肪酸エステルを使用しなかったこと以外は、実施例4と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0055】
[実施例9]
グリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルを使用しなかったこと以外は、実施例7と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0056】
[実施例10]
0.5%HPC水溶液の配合量をインキ全体の11.4重量%にしたことと、ソルビタン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルを使用しなかったこと、すなわち分散剤を全く使用しなかったこと以外は、実施例8と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0057】
[実施例11]
シリコンコンパウンドに替えて、ポリジメチルシリキサンのみをインキ全体の0.004重量%用い、0.5%HPC水溶液の配合量をインキ全体の11.0重量%にしたこと以外は、実施例10と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0058】
[実施例12]
プロピレングリコールを使用せず、0.5%HPC水溶液の配合量をインキ全体の18.7重量%にしたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0059】
[実施例13]
シリコン化合物および分散剤を全く使用しなかったことと、0.5%HPC水溶液の配合量をインキ全体の18重量%にしたこと以外は、実施例12と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0060】
[比較例1]
ステンレス容器に、残量の精製水、プロピレングリコール14重量部、および鉄クロロフィリンナトリウム1.5重量部を仕込み、プロペラ攪拌機にて混合溶解させた後、1重量%アルギン酸ナトリウム水溶液8重量部を加えて撹拌し混合液を得た。この混合液を、開目1.0μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。
【0061】
[比較例2]
鉄クロロフィリンナトリウムの配合量を2.5重量部に増量し、この増量に対応して精製水の配合量を残分調整したこと以外は、比較例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0062】
[比較例3]
鉄クロロフィリンナトリウムの配合量を5.2重量部に増量し、この増量を成し得るために、プロピレングリコールおよびアルギン酸ナトリウムを若干減量して溶解性を担保し、精製水を残分調整したこと以外は、比較例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0063】
[比較例4]
ステンレス容器に、それぞれインキ全体量のうち、77重量%のエタノール、1重量%のプロピレングリコール、10重量%のコウリャン色素、6重量%のセラック樹脂、2重量%の乳酸ナトリウム、および残量(4重量%)の精製水を仕込み、プロペラ攪拌機で撹拌して混合液を得た。この混合液を開目1.0μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。
【0064】
[比較例5]
それぞれインキ全体量のうち、1.5重量%の鉄クロロフィリンナトリウム、0.14重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム、3重量%の乳酸ナトリウム、14重量%のプロピレングリコール、および残量(81.3重量%)の精製水を混合して溶解させたのち、この混合液を開目0.8μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。この比較例5は既述した特許文献7中の実施例に準拠して行なったものである。
【0065】
[比較例6]
それぞれインキ全体量のうち、2重量%のコウリャン色素、20重量%のグリセリン、0.1重量%のアルギン酸ナトリウム、3重量%の乳酸ナトリウム、1重量%のソルビン酸カリウム、および残量の精製水を混合して溶解させたのち、この混合液を開目0.8μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。この比較例6は既述した特許文献5中の実施例に準拠して行なったものである。
【0066】
[比較例7]
それぞれインキ全体量のうち、1.5重量%の鉄クロロフィリンナトリウム、10重量%のプロピレングリコール、2.5重量%のガラクトマンナン、0.2重量%のソルビン酸カリウム、および残量の精製水を混合し撹拌して均一に溶解させた後、この混合液を開目1μmのフィルタで濾過してインクジェットインキを得た。この比較例7は既述した特許文献6中の実施例に準拠して行なったものである。
【0067】
[比較例8]
ガラクトマンナンに替えて、インキ全体の0.3重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いたこと以外は、比較例7と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0068】
[比較例9]
鉄クロロフィリンナトリウムの配合量をインキ全体の5.1重量%とし、プロピレングリコールの配合量をインキ全体の13重量%としたこと以外は、比較例8と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0069】
上記実施例と比較例で調製したインクジェットインキの処方と各種物性を下記の各表に示す。表1は実施例1〜4に関するものであり、表2は実施例5〜8に関するものであり、表3は実施例9〜11に関するものであり、表4は実施例12〜13に関するものであり、表5は比較例1〜4に関するものであり、表6は比較例5〜9に関するものである。
【0070】
尚、表中に示した物性項目のうち、「耐水性」は、印字した卵殻を水に浸漬したときのインクジェットインキの流れ出しの有無、水の着色および印字部分を拭ったティッシュペーパへの着色により確認した。
「密着性」は、卵殻の印字部分に粘着テープを貼りつけて剥がしたときの印字部分の剥離(テープ側への転移)の有無により確認した。
「耐熱水性」は、印字した卵殻を熱水中に浸してゆで卵にしたときのインクジェットインキの流れ出しの有無を、熱水の着色および印字部分の着色の低下を目視により確認した。
「印字濃度」は、PPC用紙へインキを印字し、この印字部分の反射濃度をマクベス反射濃度計(GretagMacbeth社製の型式RD918)で測定した。
「プリンタ内安定性」は、インクジェットプリンタで連続して印字テストを行なったときのトラブル(ノズルの詰り、印字不良(異常フォント)、噴出圧力異常など)の有無で判定した。
「乾燥性」は、卵殻への印字後10秒経過したときに印字部分を指で蝕れてインキが指に転移していなければ乾燥性良好と判定した。
「保存安定性」は、インクジェットインキを常温下で3ケ月保存したときの粘度上昇の有無と沈降物の有無により判定した。
「印字文字の視認性」は、印字された卵を観察者が30cm離れた位置から観察したときに文字を判別できるか否かで判定した。判定結果は「視認性良好」のほうが「良好」よりも良い評価であることを示している。
【0071】
インクジェットインキの粘度(mPa・s)はYamaichi社製の粘度計を用いて測定し、表面張力(mN/cm)はKyowa Interface社製の表面張力計を用いて測定し、電導度(mS/cm)はHoriba社製の電導度計を用いて測定した。
また、各表中で、処方を示す数値はインキ全体中の重量%を表し、部数は重量部を表している。また、処方中の0.5%HPC水溶液の欄で()内に示した数値は、インキ全体量におけるヒドロキシプロピルセルロースそのものの重量%を表している。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
上記の表1〜4に示したように、鉄クロロフィリンナトリウムまたは銅クロロフィリンナトリウムの配合量を従来(2.5重量%程度)の約2倍量とし、かつ、ヒドロキシプロピルセルロースを用いたインクジェットインキ(実施例1〜13)は、赤玉卵に印字された文字の視認性が良好であり、乾燥性も良好であった。無論、白玉卵に印字された文字の視認性も良かった。それらのうちの一例として、図1(a)の写真に示すように、実施例1のインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで白玉卵の卵殻に印字すると、明瞭な文字が視認された。また、同図(b)の写真に示すように、実施例1のインキで赤玉卵の卵殻に印字した場合も、黒緑色の文字を明瞭に読み取ることができた。
【0079】
また、3種の分散剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステル)のうち少なくとも1種を含み、かつ、600m2/g以上のBET法比表面積を持つ、ごく微細なシリカ微粒子を含有するシリコンコンパウンドを用いたインクジェットインキ(実施例1〜4,8)は、平均粒子径5μmのシリカ微粒子を含有するシリコンコンパウンドを用いたインクジェットインキ(実施例5,6,7,9)と比べてプリンタ内安定性が良好で、長期の連続運転後もノズルフィルタ部に残渣が溜まっていなかった。これに対し、比較的粒子径の大きな平均粒子径5μmのシリカ微粒子を含有するシリコンコンパウンドを用いたインクジェットインキ(実施例5,6,7,9)では、長期の連続運転後にノズルフィルタ部に残渣が溜まっていた。
【0080】
そして、3種の分散剤を全て含み、かつ、600m2/g以上のBET法比表面積を持つシリカ微粒子を含有するシリコンコンパウンドを用いたインクジェットインキ(実施例1〜4)は、プリンタ内安定性が良好で、長期の連続運転後もノズルフィルタ部に残渣が溜まらず、3ヶ月後も初期の良好な保存安定性を保持していた。
また、上記3種の分散剤のうちの1〜2種または全てを用いなかったインクジェットインキ(実施例5,8,9,10,11)では、時間経過によりプリンタ内安定性が低下していく傾向があり、保存安定性も初期は良好であったが3ヶ月経つといくぶん低減した。
【0081】
実施例12のインクジェットインキは、実施例1と比べてプロピレングリコールを使用していないが、シリコンコンパウンドと上記3種の分散剤を全て使用し、0.5%HPC水溶液も実施例1より増量したことから、印字の視認性に関しては実施例1〜4と同等の良好な結果が得られている。
実施例13のインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムと、増量した0.5%HPC水溶液と、水とから調製したものであって、シリコン化合物および3種の分散剤を全く使用しなかったが、白玉卵および赤玉卵のいずれの卵殻に印字されたフォントも視認性良く確認することができた。但し、プリンタ内で多少泡の発生が見られ、経時によりプリンタ内安定性が低下していく傾向があった。また、間欠運転を行なう場合、運転に先立ってプリンタのウォーミングアップを行なう必要がある。
【0082】
一方で、比較例1のインクジェットインキでは、鉄クロロフィリンナトリウムの配合量が従来技術(2.5重量%程度)よりも低い1.5重量%なので、白玉卵の卵殻に印字された文字の濃度がやや薄く、いくぶん視認性が低くなっている。無論、赤玉卵の卵殻に印字された文字は視認性不良でその内容を読み取れなかった。
比較例2のインクジェットインキは、従来と同等の鉄クロロフィリンナトリウムの配合量であるので、白玉卵の卵殻に印字された文字は、図2(a)に示すように視認できた。しかしながら、赤玉卵の卵殻に印字された文字は、図2(b)に示すように内容の読み取りが困難であった。また、プリンタのインクタンクに収容されたインキ量が多いときに、泡がノズルに向けて引き込まれることがあった。
比較例3のインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムの配合量が従来の約2倍であるにも拘わらず、これに対処する成分が配合されていないために発泡が甚だしく、ノズルの導入管路に泡が流入して印字することができなかった。
比較例4のインクジェットインキは、アルコールを主体とするインキ媒体を含んでいるため、図3(a)に示すように、白玉卵であっても印字部分のドットに滲みが生じやすかった。一方で、赤玉卵の場合も、図3(b)に示すように、印字の内容を判別することが困難であった。
【0083】
比較例5により得たインクジェットインキ(特許文献7準拠)は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの替わりにカルボキシメチルセルロースを用いたが、鉄クロロフィリンナトリウムの配合量が1.5重量%と低くせざるを得なかったことから、白玉卵の卵殻に印字した場合は印字濃度がやや薄く、赤玉卵の卵殻に印字した場合は印字の内容を認識できなかった。これは、乳酸ナトリウムを溶解させたことにより固形分が多くなり、鉄クロロフィリンナトリウム濃度を増量できない組成となるためである。因みに、この比較例5に準じた処方で、色素濃度の増量を図ったもの(鉄クロロフィリンナトリウムを2.5重量%使用)は、試作時の発泡が激しくインキの調製自体が困難であった。また、インキのろ過時においても発泡が激しく、実施例1のインキと比較して、ろ過操作が著しく困難であった。
比較例6により得たインクジェットインキ(特許文献5準拠)は、グリセリンが比較的多く配合されているため、卵殻の表面に印刷された印字部分が所要の短時間内に乾燥せず実用的なものとならなかった。
【0084】
比較例7により得たインクジェットインキ(特許文献6準拠)は、ガラクトマンナンの配合量が多いため、鉄クロロフィリンナトリウムの溶解量を大きくすることができず、その配合量を1.5重量%に留めざるを得なかった。そのために、白玉卵に印字した場合は印字濃度がやや薄く、赤玉卵に印字した場合は印字の内容を認識できなかった。また、発泡も生じやすいものであった。
比較例8により得たインクジェットインキは、カルボキシメチルセルロースの替わりにヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いているが、比較例7と同様、白玉卵に印字した場合は印字濃度がやや薄く、赤玉卵に印字した場合は印字の内容を認識できず、発泡も生じやすかった。
比較例9により得たインクジェットインキは、比較例8の処方と比べて、鉄クロロフィリンナトリウムの配合量を5.1重量%まで増量し、ポリプロピレングリコールもいくぶん増やしたものであるが、プリンタでの発泡が非常に多いことから、印字動作自体が満足にできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】(a)は本発明の実施例1により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで白玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図、(b)は同じく実施例1により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで赤玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図である。
【図2】(a)は比較例2により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで白玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図、(b)は同じく比較例2により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで赤玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図である。
【図3】(a)は比較例4により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで白玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図、(b)は同じく比較例4により調製したインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで赤玉卵の卵殻に印字した状態を写真で示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、ヒドロキシプロピルセルロースと、水とを含んでなることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項2】
分子量が10万以上40万以下のヒドロキシプロピルセルロースを用いることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインキ。
【請求項3】
さらに、プロピレングリコールを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットインキ。
【請求項4】
さらに、シリコン化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
【請求項5】
3〜6重量%の鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、0.01〜0.5重量%のヒドロキシプロピルセルロースと、0〜20重量%のプロピレングリコールと、0.0001〜0.1重量%のシリコン化合物と、残量の水とを含んでなることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項6】
シリコン化合物が、ポリジメチルシロキサン、または、ポリジメチルシロキサンとシリカ微粒子とを含んでなるシリコンコンパウンドであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のインクジェットインキ。
【請求項7】
さらに、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
【請求項8】
さらに、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルの全てを含むとともに、シリコン化合物:ソルビタン脂肪酸エステル:グリセリン脂肪酸エステル:ショ糖脂肪酸エステルの含有重量比が100:7〜15:2〜5:1〜2.5であることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
【請求項9】
3〜6重量%の鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと、0〜20重量%のプロピレングリコールと、残量の水とを含んでなり、前記成分以外の成分である、ヒドロキシプロピルセルロース、シリコン化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルの含有率合計が0.05重量%以上0.5重量%以下であることを特徴とするインクジェットインキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−65149(P2010−65149A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233099(P2008−233099)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(391040870)紀州技研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】